IPEの果樹園2010

今週のReview

7/19-7/24

最終回

 

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IPEの想像力 7/19/10

祇園祭は梅雨空との別れ目になりました。

各地で豪雨と洪水、土砂崩れの被害や犠牲者の悲しみを伝えていたニュースが、一転して、猛暑と熱中症のニュースに変わりました。豪雨の被災者家族には悔しい青空であり、日差しでしょう。

もしかすると、これが地球温暖化のもたらした激しい気象条件の前兆かもしれません。私たちは、まだ、温暖化ガスの排出を抑制できない現代のガバナンスに対して、真摯な疑問と苦情を寄せることのできる政治機構を樹立していません。

梅雨が農作業にとって恵みの雨であったころ、雨の降り方も、森林や河川の流れも、今とは大いに異なっていたのでしょう。私たちの知識や理解は浅く、さまざまな誤解や偏見に支配されています。私たちのパワーや資源は、特に新しい問題群が現れても、その用途をめぐる激しい奪い合いを合意できる制度に帰属していません。私たちは、そのコストを市場や政治の圧力によって、差別された、無知・無力な、貧しい人びとに押し付けることで、問題を一時的に回避することができます。

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今週で春学期はほぼ終了です。これで、Reviewの更新を終わります。

50歳を記念して、バイクで世界一周旅行する元気はないので、研究を再開しようと思います。このReviewでやりたかったことは精いっぱいやりました。面白いアイデアを集め、既存のイデオロギーや秩序に挑戦する未知の領域、可能性はある、と思いました。さまざまな事件が示しているように、制度や規範、合意されたルールは、現実を変える重要な役割を果たしています。

(秋学期が始まったら、講義材料として、少し再開するつもりです。)

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P. ドラッカーは、自分の研究が日本の漫画に取り上げられてベストセラーになることではなく、日本企業がもうすぐ韓国や中国、インドの企業に買収されるだろう、と予言したそうです。そうすることで日本企業が競争を学び、自分たちに得意な分野は何か、何をしてはいけないか、何が自分たちの本当の価値か、考えるだろう、と。

The Economistの記事は、続けて、日本が女性の能力を無駄にしている、と書いています。すなわち、女性の61%しか働いておらず、その平均所得は働いている男性の半分以下しかありません。女性が企業の重役に占める割合は、わずか1%です。ドラッカーの思想が、女子高生たちの石頭を変えることができるなら、日本の変化に大きな貢献となるだろう、と結んでいます。

このReviewにも、ノルウェーが(議員や大臣はもちろん)企業重役の40%を女性に割り当てるよう強制した、という話が紹介されています。それは日本でも可能なはずです。極論でも何でもなく、日本政府は議論を積み上げて、日本の女性たちを励まし、雇用や賃金、昇進から女性差別をなくすべきです。多分、女性が男性と同じように働き、パートや正規の区別なく、その仕事にふさわしい賃金を得ることは、大きな社会変化の一部であるでしょう。

女性重役が増えることで、企業は残業時間を減らし、酒の付き合いや盛り場での接待を廃止するでしょう。北欧諸国の女性や家族、老後の暮らしなどから、日本はもっと学んで、自律した、幸せな家庭や職場、子育ての楽しみを増やすことができると期待します。

ここにある莫大な社会的資源を取り出すために、政治が動くことです。

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あるいは、こんなふうにも思います。大学生の移動を促すことで、もっと社会が変化し始めるのではないか。

各大学は、学生数の5%を移動枠にします。大学の指定する優秀な5%の学生に、他大学の受講を認めます。移動先で半分以上の単位を取得できたら、その学生の継続履修を認めます。半分以上落したら、翌年から受講を許しません。ある大学からの受講生の半分以上が単位取得できなかった場合、その大学は移動枠を減らされます。必要な単位数を取得したら、どの大学でも卒業を認めます。基本的な科目を共有(互換)すれば、卒業できる大学は多くなり、学生が自由に選ぶでしょう。

他大学からの受講希望者が多すぎる場合は、受け入れ大学が学生を選抜します。くじ引きでも、先着順でも、試験でもよいと思います。

もっと学びたい、と強く願う学生を励まし、学ぶ意欲を高めることが目的です。入試や大学名を偏重する学生や企業は減るでしょう。複数の大学で受講した学生たちの意見を聞いて、大学を変える機会にもなります。大学間や学部間で合意すれば、移動枠を10%20%30%・・・に高めることができます。いろいろな土地の多くの大学で学び、いろいろな講義を受ける学生を奨励し、学資補助や寮も活用するとよいでしょう。

過疎・周辺地域に、移動枠を50%100%に高めた、小規模の高等大学府を創ってはどうでしょうか。半数以上の学生(や留学生)が寮生活を共にし、少数の、優れた学生たちが集まって議論します。各学部の学生数を100名から200名程度にすれば、全体の受講や集会も容易です。学部を重視し、大学院は創りません。

ここでは優れた教授たちを、学生を含む選考委員会が世界中の大学から招致します。産業界や篤志家から寄付を集め、学費は全額免除、生活費も低利融資を提供し、他方、最高クラスの教授を集めて厚遇します。

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これは、資本移動や自由貿易協定、移民、「チャーター・シティ」、経済特区、などに似ています。最高大学府が活気を帯びるだけでなく、いずれの大学でも学ぶ意欲が高まると思います。もっと学びたい。もっと、もっと知識を広げ、優れた仲間を見つけたい。そんな顔の学生が、今、何人いるでしょうか?

猛烈な日差しを浴びて、前期試験のためにキャンパスにとどまる学生の勉学意欲が持続するものかどうか。・・・学ぶ意欲のない学生が15回も受講するより、集中して10回受講した後、夏休み(や春休み)はバイトしながら日本や近隣諸国を放浪して旅する方が、きっと多くのことを学ぶでしょう。

確かに、女性議員や女性大臣、女性重役は増えないかもしれません。移動枠があっても、誰も利用せず、大学の序列や入試偏重、勉学意欲は変わらないかもしれません。しかし、そのような<文化>を変える力こそ、危機の政治的要素、政治(市民意識)の質を示すと思います。

永遠に続く梅雨はないのです。・・・また、研究会で会いましょう。

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1.アメリカの外交政策に何が必要か?

2.金融危機後の世界をどう見るか?

3.中国の資本主義という虚構

4.イギリスのグローバルな役割

5.柵に囲われた世界

6.温暖化ガスの排出権取引

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


1.アメリカの外交政策に何が必要か?

guardian.co.uk, Wednesday 7 July 2010

The US foreign policy tightrope walk

Nicolas Bouchet

民主主義を支援する、というアメリカの外交は難しい判断をともないます。ヒラリー・クリントン国務長官のロシア周辺部Ukraine, Poland, Azerbaijan, Armenia and Georgiaを訪問する外交は「綱渡り」でした。メドヴェージェフ大統領がアメリカを訪問した直後のことです。

ポーランドのクラクフでは「民主主義共同体(the Community of Democracies: CoD)」の会合に参加しました。CoDは、クリントン政権のオルブライト国務長官とポーランドのBronislaw Geremek外相が10年前に提唱し、その後、ブッシュ政権下では無視されるか、ブッシュの「自由」を拡大するために利用されました。10周年の会合には、クリントン長官が出席し、演説できたわけです。

彼女は、権威主義体制の下にある市民社会を保護し、市民たちを支援することがオバマ政権の民主化支援だ、と述べました。こうして、「体制転換」のようなブッシュの遺産を払しょくし、その違いを明確にしようとしました。「開発のためのガバナンスを改善し、草の根のNGOを支援する。メディアの自由、女性や少女たちの権利を守りたい。」 そして「広く行き渡る繁栄"Broad-based prosperity"」を目標にするのです。

しかし、それはブッシュの行ったハードな民主化と同じ、アメリカ外交のソフト面でしかないだろう、と批判されています。また他方で、ロシアなど、権威主義諸国との関係改善は民主化外交の偽善だ、と非難されます。外交はこうした「綱渡り」です。

SPIEGEL ONLINE 07/07/2010

Afghanistan and the West

The Difficult Relationship between Democracy and War

An essay by Dirk Kurbjuweit

ドイツが外国で軍事行動をとるのは、国民にも、近隣諸国にも、強く反対されます。国民の間では絶対平和主義が支配的です。それでも、アフガニスタンの戦争に参加する理由はありました。政治家たちはそれを国民に説明せず、長い間、戦争であることにも注意しませんでした。

「最初の民主主義者は兵士であった。」 ギリシャの都市国家が優れていたのは、市民たちが自分たちの価値のために戦っている、ということでした。彼らは民主主義のために戦ったのです。しかし、民主的な政府には、その国民を戦争から切り離し、専門的な兵士たちに委ねる理由もありました。戦場においては(市民にふさわしくない)残酷な殺人が求められるからです。

もし「良い戦争」という言い方が認められるとしたら、それはナチス・ドイツと戦った連合諸国の戦争でした。しかし、当時の戦争英雄たち、GIsも、その多くが今の基準でなら戦争犯罪者でしょう。タリバンに対する戦争も、それが始まったときには、正しいものと思えました。

ナポレオンは数100万の死者をも顧みるべきではない、と考えました。ナチス・ドイツは数100万人のドイツ人を現実に死に至らしめ、愛国者と称えました。しかし今や、暴力や戦争はタブーです。メルケルは43人の戦死者を理由にアフガニスタン撤退を決断すべきでしょうか?

FP Wednesday, July 7, 2010

Asian influence in the Middle East -- friend or foe?

Posted By Geoffrey Kemp

中東においてアジア諸国の存在がいたるところで目立つようになっています。アメリカはこの地域の安全保障を担う上で、こうしたアジア諸国の浸透を阻むより、協力関係として組織することが重要です。

アラビア湾周辺で、ホテル、銀行、学校、ショッピング・センターがアジア系の海外居住者によって経営されている。彼らはまた、この地域の肉体労働のほとんどを担っている。アジアの労働力がなかったら、湾岸の石油産出国は崩壊してしまうだろう。ドーハ、アブダビ、ドバイ、その他の都市国家で、多くの巨大建設プロジェクトが韓国企業によって監督されている。ほとんどの自動車、トラックは日本製と韓国製である。タンカーの無限の列が、原油や液化天然ガスを積んで、湾岸の積み出し港からますますアジア市場に向かっている。道路、鉄道、港湾、空港、原油・天然ガスのパイプライン、海底の通信ケーブル、中東や中央アジアで進むインフラ建設工事は、二つの地域をより容易かつ安価に結び付ける。

アジア諸国は国際政治の舞台でも激しく競争する。しかし、いずれの国も将来の関与を深めそうだが、中国政府は特に軍事的な分野で将来に不確実性を加えます。インド洋、中央アジア、中東において、中国までの輸送の安全を確保しなければなりません。それは1990年代にイラクへの制裁で中国派注意を払われず、今のイラン制裁では決定的な重要性を持っていることに示されています。これは、もしアメリカが中東における関与を減らし始めたら、アジアがそれに代わる、ということを意味するでしょうか?

中国の将来の坑道が、もっと野心的なものになれば、アジアにおける勢力均衡の復活が中東にも影響するでしょう。アメリカは彼らのための無料輸送を続けることになります。

FP Monday, July 12, 2010

Five big questions

Posted By Stephen M. Walt

アメリカのグランド・ストラテジーについて。アメリカがグローバルな役割を果たすときに答えなければならない5つの重要問題を考えます。

1.EUは今後どうなるか? 2.中国の台頭と、アジアにおける勢力均衡はどうなるか? 3.アメリカの軍事費と財政赤字、アメリカ経済の債権との関係をどう見るか? 4.アメリカはイスラム圏の重要地域を失うのか? イラク、アフガニスタン、テロ対策はどうなるか? 5.アメリカの時代は終わるのか?


2.金融危機後の世界をどう見るか?

FT July 8 2010

Why we must halt the land cycle

By Martin Wolf

金融部門のバブルと危機とを回避するためには、信用膨張による不動産価格の上昇を抑えるべきです。Martin Wolf1984年に買ったロンドンの家は、土地の価格が10倍になりました。

土地所有は、他の人びとの働きで成長を実現した経済において、何も働かないのに富の一部を得るという意味で、一種の貴族制です。その弊害は明らかです。 1.不動産に課税する政府が歳入を得て財政の健全性を過信する。2.不動産価格の上昇は政治をゆがめる。3.土地バブルによる富は他の分野の投機熱を煽る。

Martin Wolfは、土地の価格上昇による利益を個人に許さず、社会化するように求めます。将来の危機を緩和するため、地代を国有化するときです。

SPIEGEL ONLINE 07/09/2010

Crisis 2.0?

Banks Skeptical Despite Signs of Economic Recovery

移民排斥、保護主義、金融逼迫、輸送の途絶。政府は歳入が不足し、歳出カットを模索し、銀行はストレス・テストを待つ。

WP Friday, July 9, 2010; A17

Obama threatens to follow in FDR's economic missteps

By Amity Shlaes

1930年代のような二番底の景気後退をどうやって防ぐか、というのが最も重要な論争になっています。しかし、財政刺激策の追加か、財政赤字の削減か、を議論するより、ルーズベルトが行った課税、雇用、投資環境の改革失敗を問題にすべきだ、とAmity Shlaesは考えます。

ルーズベルトは、オバマと同様に、財政的・社会的な意味で、大企業や富裕層に課税し、労働組合を強化することで賃金を引き上げ、雇用を促進しとうとし、さまざまな法律を作って、投資家に将来への不安を重視させました。その結果、さらに景気の回復は遅れたのです。

NYT July 9, 2010

Three Ways to Jump-Start the Economy

Make Social Security Pay, Today

By DONALD B. SUSSWEIN

NYT July 9, 2010

Automatic for the People

By JEFFREY B. WENGER

NYT July 9, 2010

The Write-Off Recovery

By BARNET LIBERMAN

NYT July 9, 2010

America Builds an Aristocracy

By RAY D. MADOFF

景気を一気に回復するにはどうするべきか、というNYTの三つの記事です。

社会保障の積み立てを一時的に免除して支出できるようにし、刺激策とし、雇用を回復させる。

インフレは連銀がいつでも通貨供給を抑えて止められるのに、残念ながら、長期失業を止める手段はない。そうであれば失業手当です。その給付対象となる基準を緩和し、より多くの失業者に所得の保障を与えること。

中小企業に対して、その減価償却や債務処理を短期で終わらせることも、新しい雇用をもたらすでしょう。

NYT July 11, 2010

The Feckless Fed

By PAUL KRUGMAN

アメリカは日本病から免れたのか? バーナンキが指摘していたように、デフレのもたらす弊害は金融政策で解決が難しいことを日本は示しました。それゆえ、デフレに決してならないよう、金融緩和を急いだわけです。しかし、現状は成功と言えません。

なぜ連銀はもっと行動しなかったのか? 経済予測を間違ったからだ、とPAUL KRUGMANは批判します。もっと大胆に行動することは連銀の信頼を損なう危険があった、という説明に憤慨します。現在のような失業者とインフレ目標の達成失敗、日本のように15年もデフレを続けることが信頼に値するはずがない。

FT July 12 2010

Sagging global growth requires us to act

By Ian Bremmer and Nouriel Roubini

アメリカのオバマ政権は刺激策を長期の財政再建と組み合わせて議会を説得する必要があり、ヨーロッパは財政再建を金融緩和によって需要を維持しながら行う必要があり、中国は成長を維持し、人民元の調整を含めて、世界需要の拡大に貢献する必要があります。しかし、そのいずれも組み合わせることが困難で、世界不況への転落や金融危機の連鎖が再発するリスクが高まります。

FT July 13 2010

Three years and new fault lines threaten

By Martin Wolf

Raghuram Rajanの新著に拠りながら、200年間、世界を経済的・知的に支配した西洋の時代が終わったことを考えます。

金融危機は、欧米における債務依存の政治的安定性と消費水準の上昇が、世界各地における市場統合と外国の需要に依拠した輸出による成長を実現してきた関係を、完全に崩壊させました。欧米の支配秩序は再建されず、新興市場の輸出依存成長も将来がありません。

アメリカの完全雇用と個人消費、ヨーロッパの福祉国家は、その政治的な寿命が尽きたのです。「1976年と2007年の間に生じた所得増大の各1ドル当たり、58セントは最上位たった1%の家計によって実現された」と、Rajanは指摘します。この驚くべき、恐るべき現実に対して、政治的な反動は避けられません。

今のところ各国政府は債務を増やして、以前のシステムが機能するような印象を与え続けていますが、高齢化も重なって、政府債務が急増しています。オバマ政権には非難が強まっています。右派では、近代政府を18世紀に引き戻せるかのような主張がありますが、その結果は政府の崩壊でしょう。

他方、それと同時に、日本、ドイツ、中国のような、外国の需要に依拠した経済運営は破綻します。世界は需要(市場)をめぐる「ゼロサム・ゲーム」に突入し、ユーロ圏の崩壊や世界不況に至るリスクを生じています。早すぎる財政再建がその引き金を引くでしょう。金融市場の改革も、それが個人的、政治的な利益に結びつくほど、実現は困難です。


3.中国の資本主義という虚構

WSJ JULY 8, 2010

China's Frustrated 'Old Friends'

GEは最近、中国における成長目標を達成できなくなってきた。先週、ローマの個人的な集まりで、GEのCEO,Jeff Immeltはますます保護主義的になる中国政府を非難した。政府は中国で外国企業が成功するのを制限するつもりだ、というのだ。」

彼の意見は次第に多国籍企業の間で合意になりつつあります。非関税障壁により、中国はゲームのルールを変更しつつあります。それは製品の規格やライセンスの要求にも及びます。

かつて、多国籍企業に対して利潤が得られた時期には、中国の国家資本主義について批判を抑えてきました。しかし、中国は自分たちの資本主義モデルを西側よりも優れていると主張し、日本がやったような、政策によるチャンピオン企業の育成を始めています。もしケ小平が始めた「開放」政策の結果、実現された高成長経済を失うとしたら、大きな悲劇である、とWSJは警告します。

WSJ JULY 11, 2010

The China Capital Surge

By MICHAEL PETTIS

人民元が増価して米中貿易不均衡が減り、アメリカへの資本流入は減少する、という予想は正しいのでしょうか? 中国からのアメリカへの資本流入が、むしろ急増するだろう、とMICHAEL PETTISは予想します。

アメリカ政府の担当者は、中国が保有する財務省証券をいつ売り始めるか、恐怖で何度も目が覚めたはずです。しかし、ある資産を売れば何かを買わねばなりません。その場合、1.その他のドル建資産、2.ユーロもしくは円建の資産、3.商品を買って輸入、4.中国国内の現金や資産購入、が考えられます。

中国が輸入を嫌い、アメリカではなく、円高やユーロ高による日本やユーロ圏・ドイツへの輸出を増やすなら、それが国内の失業やデフレにつながる日本政府やユーロ圏は激しく反対し、反撃・報復するでしょう。さらに、資本市場において、ギリシャ危機によるユーロ安は、世界第二の資産市場であるユーロ圏を投資対象として避けるようになっています。

こうしてアメリカ政府は、中国がドル債券を売る恐怖ではなく、中国からの資本流入の津波を恐れることになるのです。

WSJ JULY 12, 2010

A Trade War With Zero Currency

By JAMES BACCHUS

WSJ JULY 12, 2010

Cadre Capitalism

By RICK CAREW

中国の資本主義は、共産党組織によって動かされていることを忘れてはならない。上場企業でも、その幹部は共産党の政治支配下にある。企業だけでなく、学長も、市長も、町長も共産党が決める。共産党のエリートは、腐敗し、秘密主義で、法の支配に敵対し、敵を許さない。

FT July 12 2010

American business sours on China

By Gideon Rachman

多国籍企業は、国際関係に平和と繁栄、国際協力をもたらす大きな役割を果たしている。もし多国籍企業がなければ、米中関係はとっくに悪化していただろう。中国のナショナリスト、アメリカの労働組合運動、両国の軍事関係者が、太平洋の両側で対立の条件を高めている。しかし、多国籍企業こそが、より繁栄して、強力な中国こそがアメリカにとって利益である、と主張してきた。

だからこそ、中国に対する多国籍企業の幹部たちの失望・不満が強まっていることは重要な意味を持つ。

FP JULY 13, 2010

Don't Even Think About It

BY CHRISTIAN CARYL

欧米が国際事情を支配した時代は終わって、中国とインドの台頭が国際事情を決定する時代になった。核兵器に関する安全保障の従来の合意も、インドと中国が核軍拡競争を始めれば無意味になる。


4.イギリスのグローバルな役割

guardian.co.uk, Wednesday 7 July 2010

Our universities face a funding crisis. To survive, they must learn from the US

Timothy Garton Ash

イギリスやEUが掲げる「知識に依拠した経済」というスローガンも、単なるバブルに終わる恐れがあります。オックスフォードとスタンフォードを半年ごとに交替して教えているTimothy Garton Ashは、アメリカ的な方法でイギリスの高等教育の目標を実現してはどうか、と提案します。

アメリカの学費(38700ドル、約337万円)に比べてイギリスの学費(3300ポンド、約45万円)が低く、実際の学生一人当たり費用(16000ポンド、約216万円)との差を政府による補助金で埋めています。しかし、金融危機後の不況でイギリス政府は支出に大ナタを振るう覚悟であり、このままではオックスフォード大学と、トライデント・ミサイルと、医療保険とが予算請求で対立しなければなりません。

もし大学を政府の介入から切り離し、自由市場とダーウィン的な生存競争とに委ねるなら、その学費はアメリカ並みになり、世界中から優れた(富裕層の)若者を集めるでしょう。ただし、オックスフォードのような少数の大学だけです。しかし、オックスフォードの教授陣や地域社会は、なんでも市場が一番だ、と信じていません。

では、どうやって、自由と、ヨーロッパ的な価値、(教育を受ける)機会の平等、公平、社会正義、結束、などを実現するのか? 世界一流の研究・教育水準を維持する十分な財源を得るのか?

イギリスとアメリカを比較しても、GDPのより多くをアメリカは教育に支出し(US2.9%UK1.3%)、同時に、より多くを民間部門が所得として得ています(US66%UK35%)。

それは、どういうことでしょうか? ・・・アメリカは政府を介さずに、学生融資や大学への募金として、民間部門が教育への投資を担っているわけです。

しかし、寄付によってジョージ・W・ブッシュがイェール大学に入ったような特権をオックスフォードは許さないでしょう。むしろ恵まれない学生たちへの支援を重視するわけです。オックスフォードは、学生への「学費支払延期オプション」を好みます。学生たちは卒業後の所得から、毎月少額を返済するのです。さらに、スタンフォードのように、低所得の家庭から来た優秀な学生たちには奨学金があり、また、大学でパートタイムの仕事を得て、債務を負わずに卒業できます。

大学は、アメリカ的な方法で、ヨーロッパ的な価値を実現することができます。

guardian.co.uk, Wednesday 14 July 2010

Britain has spent 50 years hunting in vain for its role. Change the question

Timothy Garton Ash

キツネ狩り(Foxhunting)と同じく、「帝国を失った後の」国際政治における役割を探す(Role-hunting)のも、イギリス人の伝統的な余興・時間つぶしです。

しかし、国民はサッカー、テニス、クリケットのボールを追うのに忙しい。ロール・ハンティングのファンはエリートに限られる。ブレアは勇敢な狩人として高名でしたが、イラクの砂漠で消息を絶ち、今、外交は膨張の限界に達して、財政資源は完全に枯渇しました。保守党政治家たちの模索はここから出発します。

外交、軍事力だけでなく、貿易、投資、援助、ブリティッシュ・カウンシル、BBC、大学に来る留学生、ロンドン・オリンピック、など。しかし、イギリス経済の回復は不確かであり、ユーロ危機はポンドへの不安にもなります。アジアや新興諸国へのパワー・シフトは続き、世界は二極から多極、そして無極へ、向かいつつあります。アメリカのオバマ政権はプラグマティックな外交を選択し、ヨーロッパとの緊密さを保つことに執着せず、アメリカにとって何が利益か、イギリスは何をしてくれるのか、を考えます。「特別な関係」は、イギリスの思いこみに過ぎません。

だからイギリス人は、「国益」についての定義を求められています。国益は一定ではないし、不変でもなく、エリートが決めるのでもないでしょう。われわれがこの島で、安全、自由、繁栄を可能な限り実現すること、そのために何が必要かを常に再定義する必要があります。それはこの世界において、仲間の利益にも正当な敬意を払う、啓蒙されたものでなければなりません。


5.柵に囲われた世界

guardian.co.uk, Thursday 8 July 2010

Gated communities are a social ill

Jonathan Glancey

柵に囲まれた所有地というのは、何も新しいことではない。町全体が壁によって外部と遮断されていたこともあった。ロンドンもそうだ。今では、壁によって町全体を守るより、監視カメラや住宅の隔離、さまざまな保安体制が、世界に遍在する。

将来、そんな障壁のない世界で子供たちは暮らせるようになるだろうか?

NYT July 9, 2010

Waiting for Gandhi

By NICHOLAS D. KRISTOF

ガンジーやキング牧師のように、非暴力の戦略を採るパレスチナ人が現れています。KRISTOFは、彼らに希望を見ます。ヨルダン川西岸のパレスチナ人が、セキュリティー・フェンスに向けて行進します。ときには賛同するユダヤ人や外国人が参加します。

ただし、パレスチナ人の「非暴力」には軍への投石が認められています。イスラエルの占領軍に投石すれば、軍隊は反撃し、拘束・逮捕されます。KRISTOFは、投石を止めて、1000人の婦人たちが完全な非暴力の姿勢で、ユダヤ人入植者や占領軍を取り囲むべきだ、と考えます。もし彼女たちが、パレスチナ人の農地を違法に占拠して住宅を建てたユダヤ人入植者やイスラエルの兵士たちによって殴打され、催涙ガスを浴びせられるとしたら、その現実を世界に伝えるべきだろう。そして、彼女たちが倒れて運ばれた後に、次の1000人の婦人たちが現れることをイスラエルと世界は知るだろう。・・・

このことをイスラエルは最も恐れているのです。パレスチナ人に非暴力主義を唱えるDr. Mustafa Barghouthiは、ガンジーが1930年に指導した「塩の行進」を再現したい、と考えます。


6.温暖化ガスの排出権取引

FT July 8 2010

Climate politics

気候変動の政府間パネルにも重要な役割を果たす科学者たちの内紛と非難のメールが漏出し、コペンハーゲン・サミットで暴露された事件は、その後の温暖化ガス排出削減を国際的な運動としても信頼性を欠くものにしてしまいました。もし温暖化による経済的な損失が信頼できるものであれば、財政再建のために炭素税の導入が現実味を帯びるでしょう。

NYT July 9, 2010

A Climate Change Corrective

FT July 14 2010

Europe needs to reduce emissions by 30%

By Chris Huhne, Norbert Röttgen and Jean-Louis Borloo

不況によって温暖化ガスの排出量が減ったことで、削減目標をもっと高くすることを考える余地ができました。

不況によって排出量が減ったので、2020年までに20%の削減目標は毎年のコストとして700億ユーロから480億ユーロに減少した。目標を30%に引き上げても、そのコストは元の20%削減より110億ユーロ増えるだけである。さらに、坑道を遅らせることはより大きな代償をもたらす。国際エネルギー機構によれば、低炭素エネルギーへの投資を1年遅らせると、そのたびに、世界で3000~4000億ユーロのコストが生じる。

メキシコ湾の原油流出事故で原油の価格が上昇すれば、温暖化ガス削減のコストは低下するでしょう。エネルギー集約的な産業で、重要な問題は炭素価格の上昇ではなく、需要不足です。それゆえ、削減目標を引き揚げて低炭素エネルギーへの転換のためインフラに投資する方が需要をもたらすのです。

WSJ JULY 14, 2010

Europe's Flawed Carbon-Trading System

By EMILE J. L. CHAPPIN, GERARD P.J. DIJKEMA AND LAURENS J. DE VRIES

EUの排出権取引システムgreenhouse-gas Emission Trading Systemは成功例と見なされています。しかし、この論説は批判します。排出量の削減に効果をあげておらず、企業、消費者、環境にとって、炭素税の方が有益である、と考えます。

EUの取引システムは世界最大の多国間・多部門間取引を組織しています。EUのエネルギー・工業部門を含み、それらは二酸化炭素排出量の半分、温暖化ガスの40%を排出しています。基本的なアイデアは、排出に価格を付けて、それによって二酸化炭素の排出を減らすようなエネルギー転換に投資を促す、という者です。ところが、今もEUでは炭素を除去する装置もない火力発電所が建てられているのです。

その理由は、この取引システムに需要の変化と排出権料とを調整するメカニズムがないことです。その結果、電力需要が減ったときや、大規模な排出量削減投資が行われると、排出権価格が暴落してしまい、この価格の不確実さが排出量を減らす長期投資を妨げてしまいます。他方、炭素税は価格の引き上げがより明確です。

論説は、炭素税による削減は効率的でない、あるいは、その水準を決めることが難しい、という批判にも反論しています。

FT July 15 2010

EU must be smart on emission cuts


FFT July 14 2010

South Asia: Bonds to build

By James Lamont

南アジアは世界で最も市場自由化・統合が遅れている地域です。戦争や内戦、国境紛争があり、政治体制が大きく異なるからです。それでも、国際協力による経済発展を考察します。

ネパールでは王制が廃止され、武装闘争を指導した毛派の人物Puspa Kamal Dahalを首相にしたように、地域の安全保障や協力関係は不安定です。かつてはインド大使が王に次ぐ勢力を持っていたけれど、今ではネパール人の多くがインドを嫌い、逆に、中国が高速道路や鉄道の建設を通じて政治的影響力を高めようとしています。東シナ海からインド洋に及ぶ海上輸送の安全を、中国は独自に確保したいと考えます。

インドと中国の台頭で安全保障が失われれば、東アジアの成長も一気に崩壊します。


P JULY 9, 2010

Can Anyone Govern Japan?

BY JEFF KINGSTON

FT July 9 2010

Outside Edge: Say it ain’t so, sumo

By Jurek Martin

WSJ JULY 10, 2010

Judging the Democratic Party of Japan

FT July 12 2010

Kan carries the can for DPJ failures

FT July 14 2010

The real reasons for Kan’s election setback

By Mure Dickie

イギリスでは、保守党と自民党との連立政権が、選挙戦では全く触れなかった付加価値税20%への増税によって財政再建を進めようとしています。それに比べて、菅首相の正直な選挙前の発言は、愚かであったとしか言いようがない。

普天間基地の移設も、日本政府の債務依存が爆発しつつあることも、これほど重要な問題はほかにないけれど、選挙によって選択できる明確な選択肢が示せないテーマのままでした。今は手を付けたくない、というだけで、将来、アメリカや中国、資本市場の変化があれば、短期間に重大問題としてしまうでしょう。

こうした問題について発言するときは、その細部に至るまで自分が理解しており、有権者の多くが問題の解決をゆだねるにふさわしい指導者であるという政治的信頼を得なければならないのです。


SPIEGEL ONLINE 07/08/2010

Women On Board

Norway's Experience Shows Compulsory Quotas Work

By Siobhán Dowling

2004年、ヨーロッパで初めて、ノルウェー政府は、企業重役の一定の割合、40%、を女性が占めるように求めた。ボランタリーな規制から、政府の厳しい制裁を科すことで、ようやく実現できた。しかし、導入時に起きた反対論は、すべて消えてしまった。政治における割り当てが成功していたことも重要だった。

WSJ JULY 10, 2010

Lessons From the Swedish Welfare State

By ANDREAS BERGH AND MAGNUS HENREKSON

スウェーデンの福祉国家が示すのも、政府部門の肥大化は成長を損なう、ということでしょうか。


The Observer, Sunday 11 July 2010

We have abandoned the Haitians

guardian.co.uk, Monday 12 July 2010

The international community's responsibility to Haiti

Michael Deibert

WP Sunday, July 11, 2010; B05

How Africa won the World Cup

By Dayo Olopade

guardian.co.uk, Monday 12 July 2010

Somalia needs good government to turn back the terrorist tide

Nuradin Dirie

WSJ JULY 12, 2010

Thai 'Reconciliation' by Committee

WSJ JULY 12, 2010

Life Under Abhisit's Thumb

By DAVID STRECKFUSS

WP Thursday, July 15, 2010; A18

Can Thailand's state of emergency lead to ‘reconciliation'?

FT July 12 2010

Spain’s World Cup shows that Pigs can fly

By José Ignacio Torreblanca

WSJ JULY 14, 2010

The Soccer-Stimulus Fallacy

ハイチ、タイ、スペインについて、ガバナンスの転換が可能であるか、議論しています。条件がそろえば、地震、社会対立、スポーツの熱狂が、ガバナンスの質を試すことを通じて、その改善(たとえば、外部の基金を設けて和解や補償、支援を行う、新しい諮問委員会や審査制度を設置する)を促す機会になるかもしれません。


FT July 11 2010

Europe’s banks need a recovery fund

By Alessandro Profumo

guardian.co.uk, Monday 12 July 2010

Treat reckless corporate behaviour like drink-driving

Dean Baker

飲酒運転が重大な事故の可能性を高める以上、社会は個人のそのような行為を厳しく罰しています。BPやゴールドマンサックスにも、同じことが言えます。

SPIEGEL ONLINE 07/12/2010

Creating Order in the Euro Zone

Merkel's Rules for Bankruptcy

By Christian Reiermann

ロンドン・クラブは民間銀行の債権を処理するために集まり、パリ・クラブは債権国家が債務組み換えなどを決めるために集まります。そして、ギリシャ債務危機のような救済融資が行われる場合も、債務保証を非政治的に処理するため、ベルリン・クラブが組織されるかもしれません。債務国政府の主権を一部停止します。

FT July 13 2010

A cure that could do more harm than good

By Masayuki Oku


FT July 11 2010

US immigration policy paralysis

SPIEGEL ONLINE 07/15/2010

Integration Through Penury?

Denmark Debates a Lower Minimum Wage for Immigrants

By Anna Reimann

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The Economist July 3rd 2010

Cyberwar

Cyberwar: War in the fifth domain

Financial reform in America: A decent start

Financial regulation: Not all on the same page

(コメント) 陸上、海上、空中、宇宙における戦争に、もう一つ、第5の領域で戦争が始まっています。情報空間、バーチャル世界の戦争です。・・・「甲殻機動隊」。

サイバー・ウォーに関する考察は興味深いです。それはすでに始まっているし、その威力は核戦争(あるいは細菌戦争)を超える、という恐怖が論じられています。主要国はサイバー兵士やサイバー基地を整備するだけでなく、すでにサイバー軍団の総司令官が重要な地位を占めています。その軍縮協定は可能かもしれませんが、産業スパイやサイバー・テロリストは深刻な被害をもたらすでしょう。

他方、金融危機が大きなコストをもたらし、将来の不安もぬぐえません。それでもアメリカは、この期間で金融改革法案を通過させ、少なくとも、果敢に行動する政治力があることを示したわけです。さまざまな新しいアイデアが法的な権限を与えられました。もちろん、今後の行使において、各機関の能力や成果が試されます。


The Economist July 3rd 2010

China and Taiwan: Know your customers

China and Taiwan: Branching in

Banyan: Asia’s alarming cities

(コメント) 中国と台湾の経済協力に関する合意を検討しています。それが軍事的な威嚇よりも好ましいのは当然です。他方、アジア諸都市の環境破壊、地球温暖化に対する姿勢は、将来の人類の姿を変える重大問題です。インド人や中国人が、アメリカ的な消費生活を望むことは、残念ながら、すでに始まっています。


The Economist July 3rd 2010

Global economic policy: Austerity alarm

Brazil presidential campaign: In Lula’s footsteps

The Greek economy: Protesting, wearily

A management cult in Japan: Drucker in the dug-out

(コメント) 世界マクロ経済政策を明確に土俵とした財政緊縮論(もしくは、新しい機関車論やグローバル・サッチャー主義)。中国の需要が覚醒した、ブラジルの成功とその継承をめぐる政治論争。アラビア湾岸諸国や中国に巨大投資プロジェクトを売り込み、パンテオン神殿もリゾート開発しそうな、財政危機を克服するギリシャの努力。そして、亡くなったドラッカーが少女漫画の中に復活する・・・日本という停滞の国。