今週のReview
6/7-/12
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IPEの想像力 6/7/10
朝のニュースは伝えています。・・・ユーロ安、NY株価大幅安、BPの原油流出続く、朝鮮半島の軍事的緊張。
鳩山首相が辞任しました。4年で5人目の総理大臣です。IMFの元専務理事(トップ)だった、ドイツのケーラー大統領も辞任しました。経済大国にふさわしい軍事的貢献を語ったからです。
ドイツで憲法問題と言えばユーロやECBであり、日本の憲法問題と言えば自衛隊や集団的安全保障でしょう。数日後、菅直人氏が日本の新しい首相に決まりました。日本政府は財政危機の対策を示せるでしょうか? 歳出削減や増税を議論するだけでは失敗します。
財政赤字にはいろいろな理由があります。不況、金融危機による銀行救済、日本(や中国、ドイツ)のように、輸出に依存する経済が欧米の金融危機で大きな影響を受けたこと、を考慮しなければなりません。
日本は債務の累積が膨大で、同時に、成長率が低い。人口が長期的に減少し、高齢化する。その意味で、低成長も仕方がないでしょう。ところが、さらにデフレを繰り返しました。成長率が高く、人口が増加し、少しはインフレが続く方が望ましいでしょう。社会保障制度を見直し、少子化・高齢化に対応する革新が必要です。
問題なのは、政府・官僚が財政再建をなかなか議論しないことです。赤字削減は官僚にとって仕事を失うことであり、増税は政治家が選挙で負けることです。社会保障制度の不安、財政赤字の悪化が、消費を抑えてしまう。所得格差や、パート、派遣など、不安定な雇用が増えるのも、同じです。
4月5日のIPEの果樹園に、日本の財政破たんに関する論説を紹介しました。
“Japan's Carbon Hara-Kiri,” WSJ APRIL 1, 2010 ・・・自民党の衰退・分裂、イデオロギーの対立軸がない「同意社会」、3兆3000億ドルの資産を持つ郵政民営化の逆転、産業の競争力を無視した温暖化ガスの削減、GDP比200%に向かう国債残高、財政再建を議論できない政治家たち。
ALICIA OGAWA, “Don't Bet Against Japan Yet,” WSJ APRIL 1, 2010 ・・・「銀行危機が予想された通り銀行融資を縮小し、多くの資産と職業が失われた。切迫する危機の分析は正しかった。しかし崩壊を利益とみなした者たちには残念なことに、監督当局は銀行が短期的な問題を回避するのを許し、危機は10年間も噴出しなかった。」
現状維持の選択肢がすべて尽き果て、コストが増大するばかりだと確信するまで、解決は延期されるだろう。日本の債券市場が脆弱であるのは知っているけれど、政府がそれをどれくらい重力に逆らって支えられるか、その最終的なコストがどうなるか、分からない。
William Pesek, “Japan’s $15 Trillion Not Enough to Make It a Buy,” April 1 (Bloomberg) ・・・「中国が台頭し、インドが台頭し、韓国が台頭するとき、日本がそのガタガタのモデルを思案している時間を世界は待てない。日本がすべての関心を向けるべき方針は、競争力の改善、セーフティーネットの強化、生産性の上昇、高齢化対策、出生率引き上げ、移民受け入れ、である。」
なるほど、それぞれ考えるべき点があります。しかし、MICHAEL AUSLIN, “The Politics of Confusion”(「鳩山辞任─日本の政治は戦後最も不安定」WSJ日本版 2010年6月2日)は、辞任の意味や日本政治を誤解していると思いました。自民党が首相を短期で交替させたことを、連続して計算する必要はありません。「小沢と差し違えた」などと解説するのも、間違っていると思います。
彼らは責任を取り、けじめをつけました。新しい内閣が成果を示すなら、有権者からの支持とともに、民主党内部の主要政策や指導体制に一貫性が現れると思います。
大学から帰るとき、地下鉄に乗る外国人観光客を見ました。夫婦や家族で、バス、地下鉄を利用する外国人を見掛けます。私は、日本の街が平和で、人びとは温和、親切であることを誇りに思いました。バブル後の日本を変える様々な論争が、世界金融危機によって、漸く、自分たちの本当に望む生き方を見出す姿勢に戻ってきたように思います。
東京や金融ビジネスではなく、もっと日本各地の小さな町にも成長の機会を見つける工夫はないでしょうか? 若者たちの新興企業を励ます仕組みを作れないでしょうか? 税制や規制、保障を簡素化し、さまざまな政策の目的を明確にしてください。地方の農家も、酪農家も、老人たちも、本当に望む暮らしを、財政負担を抑制しながら、実現する方策を見つけてください。
<社会>を再生し、<国家>が目覚めるときです。
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1.鳩山首相辞任をどう見るか?
2.アリが学ぶ金融危機から教訓
3.ユーロ危機の世界化
4.iPadと中国の工場
5.北朝鮮を中国はどうするか?
・・・タイ ・・・イスラエル ・・・アメリカ ・・・ノルウェー ・・・イギリス
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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
1.鳩山首相辞任をどう見るか?
FP Wednesday, June 2, 2010
Yukio, we hardly knew ye
Posted By Blake Hounshell
安倍、福田、麻生、鳩山、いずれも短命で、世襲の政治家による、指導力のない政府でした。アメリカ政府は日本の首相をすぐに忘れる。しかし、日本はアメリカの植民地のままだ、と思う多くの日本人がいる。
FT June 2 2010
DPJ’s setback may be good for Japan
日本政府は間違いばかり犯したわけではない。世界金融危機による不況を乗り切ったし、事業仕分けなどで官僚層の利権に切り込んだ。普天間で成果を示せず、アメリカとの関係を悪化させたことや、郵政民営化を逆転させたことは失敗だが、新しい指導者によって再出発できる。
政治喜劇を終わらせ、国民のために成果を上げるべきだ。
WSJ JUNE 2, 2010
Japan's Crisis of Competence
日本を慢性的なデフレと輸出依存から抜け出させる計画を何も示していない。鳩山の失敗は、そのまま、財務大臣としての菅の失敗でもある。投資家のアニマル・スピリットを高め、円安に頼らないための過激な構造改革が必要だ。
June 3 (Bloomberg)
‘IPad Shock’ Takes Hold in a Land Out of Ideas
William Pesek
2000年以後、日本の首相が誰だったか、グーグルで見ないと思いだせない。鳩山が辞任し、2006年後半から5人目の首相に道を譲った。日本を動かしているのは、名前も、顔も知らない、官僚たちである。誰が首相になっても関係ない。
鳩山が辞めたのは、政治献金や普天間基地問題ではなく、想像力を欠いていた、発想が貧困だからだ。デフレを繰り返し、世界的な競争的地位を失い続けている日本には、指導力がどうしても必要だ。鳩山にはそうしたものがなかった。
スイスのビジネス・スクールが評価する57カ国の競争力によれば、日本は、マレーシア、中国、韓国、タイにも遅れて、27位である。鳩山と同じように、日本企業はiPod、iPhone、iPadに負けている。かつてアメリカ産業を恐れさせた優れた日本製品はどこに行ったのか?
景気刺激策や日銀の円供給に圧力をかけるより、もっと雇用をもたらす、デフレを吹き飛ばす、新しい政策が必要だ。政治の動脈硬化症が投資家たちを躓かせる。アジアで最も裕福な日本が、はるかに貧しいタイの反政府活動から学ぶ必要があるだろう。すくなくとも、年長者に支配される文化的伝統を振り払って、もっと優れた指導者が選挙で選ばれるべきだ。
「自民党を変えて、日本を変える。」・・・小泉はそう約束した。いつも政党が先で、国民は後回しだ。実際にやったことは、日本を世界最大の債務依存国家にした。「自民党を破壊して、日本を救え。」
WSJ JUNE 3, 2010
The Politics of Confusion
By MICHAEL AUSLIN
「日本で過去5年間に見られたような政治花火ショーは、いかなる民主国家にとっても憂慮すべきものだ。アジアで最も古い民主主義国家で、かつ世界2位の経済大国である日本では一層懸念される。中国が政治的・軍事的影響力を強め、タイで民主主義が包囲され、北朝鮮が韓国を襲い、世界の景気回復が停滞する危険性があるなか、日本が強くあるべきと唱えるのはメロドラマ的であるかもしれない。日本はアジアと世界で主導的な役割を担う人的・物的資本を持つが、政治システムが常に混乱した状態でそうした役回りを演じるのは不可能だ。」(WSJ日本語版より)
2.アリが学ぶ金融危機から教訓
FT May 27 2010
International economy: a slippery slope
By Alan Beattie
ユーロ危機をめぐって、リーマン・ショックと比較する場合、当時から政策対応は変わっているから、それほど大きな危機にならない、と市場は予想していました。しかし、銀行危機を救済する中で債務危機が生じ、債務の肩代わりが進みました。互いの不均衡が赤字国に緊縮財政を強いて、世界の景気回復を遅らせることと重なり、市場の不安感が増しました。
FT May 28 2010
An ABC of financial shocks and fiscal aftershocks
By Martin Wolf
「パパ、危機は終わったの?」 ・・・子供の質問に父親が答えます。
「債務保証や資本注入、紙幣の増刷は、『非伝統的な(思い切った)政策』だから、政府が借り入れで危機を解決する、と言ったよね?」 ・・・「危機を止める、と言っただけだよ。」
「そして、危機後のショックがはじまったの?」 ・・・そう、アメリカでも、ヨーロッパでも、資産価格は下落し、融資が減少した。他方、不況は財政赤字をもたらす。ギリシャの財政危機とドイツの硬直的な対応がユーロ危機を拡大した。
「でも、ユーロ安は彼らを助けてくれるのでしょ?」 ・・・そうなのだ。しかし、アメリカやイギリスには困ったことだろう。他方、市場ではユーロ安をインフレと結びつけて考えている。
ユーロ危機に加えて、市場は、中国のバブル、東アジアの安全保障にも不安を感じている。
NYT May 29, 2010
The Trans-Atlantic Crisis
FT May 31 2010
Solutions for a crisis in its sovereign stage
By Nouriel Roubini and Arnab Das
金融危機はどのように生じたのか? 1970年代の金融緩和と金融革新が始まりだった。政府にとっても、民間部門にとっても、金融的な制約が緩和された。彼らは債務を利用しやすくなったのだ。1990年代には金融緩和が進み、2000年以後は信用と住宅所有の民主化が政治的に支持された。
その結果は、債務増大に依拠した世界的成長であった。人びとの考え方も変化した。冷戦からワシントン・コンセンサスへ。新興市場の世界市場への統合。高成長と低インフレという「ゴルディロック経済」。ヨーロッパの金融統合を先取りしたブーム。さらに急激な金融革新。
赤字国は消費を膨張させ、黒字国は輸出が好調で、そうした赤字国への融資を行っていた。資産価格はどんどん上がり、リスクは無視された。そしてバブルが破裂したとき、スピード・リミット(成長率の上限)が下がったのだ。
危機に応じて、政府はどこでも民間債務を引き受けたが、それも結局は納税者が負担しなければならないものだ。ユーロ圏で政府債務危機が生じた。それがギリシャだけでなく、ポルトガルやアイルランド、さらにフランスやドイツにもおよび、イギリスやアメリカも逃れられないだろう。危機の初期にはG20で国際協力できたが、今では各国政府の政策対応が一致しない。ドイツは空売りを規制し、アメリカは金融制度改革を目指す。
ユーロ圏はシステミック・リスクの教訓を示した。各地域の対応がばらばらになってバルカン化するより、包括的な解決策が必要だ。すなわち、
1.ユーロ圏の改革は南北で協力して進める。南の規制緩和、自由化、経済改革と、北の需要追加、成長政策。デフレを避けて、競争を促すこと。債務の組み換えとモラル・ハザードの防止。
2.債務国の調整政策と債務組み換えを同時に行う。3.金融制度の根本改革。肥大化した金融機関を分割し、専門機関化を図る。グラス・スティーガル法の再生。
4.世界的な均衡回復。赤字国の貯蓄を増やし、黒字国の内需を刺激する。財・サービス・労働市場の規制緩和で、黒字国の所得を増やす。
FT June 1 2010
The grasshoppers and the ants – elucidating the fable
By Martin Wolf
「アリとキリギリス」の寓話は何を示すものか? 世界経済の不均衡成長について、二つの問いに応えることです。これによって誰が利益を得るのか? 共存の望ましい姿は何か?
経済学では、「時間選好」の違う両国は、貿易と融資によってともに利益を受ける、と考えます。しかし、その前提である、完全な情報、市場の弾力性、強制の排除、は現実の姿と違います。「イナゴ(金融機関)」は情報を操作し、アリとバッタをだますだろうし、自分の利益だけを追求する。
金融市場の示す過度の楽観と悲観は酷いものだ。特に不動産市場。それが銀行の融資で増幅される。アジア金融危機について、Jagdish Bhagwatiは、貿易と金融とを同じに扱うな、と主張した。自由貿易は正しいが、金融自由化は危険である。
国際的な融資・投資において、アリとキリギリスはそのタイミングを間違う。融資は土地や住宅のような非貿易財の購入に使用される。それを売ることは難しい。破産した者を国境を越えて処理することもできない。ユーロ圏内の小さな国ならできるからもしれないが、世界最大の債務者はアメリカだ。
予期せぬ資本流入によってキリギリスは利益を得たように思うだろうが、その消費や投資(特に不動産)の水準は彼らの輸出部門の能力(その投資は不足してしまう)と比べて持続可能ではない。資本流入が止まったときの経済崩壊は激しく、固定レートの国には賃金や物価を下げるための長期不況がさらに深刻だ。それは(切下げでも、デフレでも)債務の実質負担を重くする。
要するに、これではアリもキリギリスも利益を得られない。
Martin Wolfによれば、アリとキリギリスが共存して利益を得られるための改革は、金融市場の不安定性を抑えることです。その要点は、1.不動産価格の大幅な変動を抑制する課税、2.融資による売買を助けるような税制を取り除く。しかし、最大の問題は、3.アリが黒字を増やすために行うキリギリスへの融資拡大を止めること、です。
アリはキリギリスに融資・投資するより、もっと老後のために投資し、若い世代を育てるべきです。新興市場への固定的な投資を行うことが望ましいでしょう。
ところが、新興市場向け投資は二つの限界に直面します。一つは、過去30年間、その多くは危機に終わったこと。もう一つは、新興諸国が経常黒字を貯めて、外貨準備を海外に投資していること。投資機会が豊富なアジア、特に中国が、むしろ国際投資に資本を追加し続けています。だからキリギリスは資本を容易に吸収でき、その暮らしを改める必要はない、と考えます。
アリの貯蓄が生産的な若い世代の投資に利用できなければ、それは浪費されるか、あるいは、世界需要を減少させて、各国の輸出戦略による競争(貿易・為替戦争)が激化します。
“Flows of finance from export-driven ant nests to advanced grasshopper colonies end in tears. Flows of finance from old ant nests to young ones have not worked out either.”
FT June 3 2010
A plan to live with ‘imbalances'
By Samuel Brittan
「国際収支不均衡」をどうするべきか? 二つの対立する考え方がある。1.適当な政策により、しかも協調して、不均衡を減らすべきだ。2.不均衡は国際的な借り入れと融資との結果である。だから気にするな。
さらに、不均衡に関しては政治的な議論がある。中国がIMFに言われて不均衡を減らすために何かするとは思わない。しかし、外貨準備の利回りやドル安には不満である。アメリカの実物資産を購入すればよいが、アメリカやヨーロッパは、自国で多くの企業が中国に買収されるのを喜ばない。中国は新興市場に投資してもよいはずだが、それには時間がかかる。
中国人民銀行総裁は、特定の国家による制約を受けない「超国家貨幣」として、SDRの利用を支持した。また、G20もSDRの追加発行と融資を容易に受け入れた。中国政府は、アメリカのドル建資産が減少し、株式保有を制限するよりも、SDR保有の方が好ましい、と考えるだろう。こうして世界貯蓄が赤字国に融資されるのであれば、それ自体、望ましいことだ。世界の貧しい国への開発投資として歓迎される。
SDRはインフレ的だ、とドイツ政府が批判するだろう。確かに、IMFを世界中央銀行として認めるのは非現実的だ。しかし、長期にわたって「国際収支不均衡」と共存するとしたら、SDRを利用するのもよいだろう。
WSJ JUNE 3, 2010
Entitlement Reform and the Global Budget Crisis
By BURTON G. MALKIEL
3.ユーロ危機の世界化
guardian.co.uk, Friday 28 May 2010
Why Belgium is a microcosm of the European Union
Ilana Bet-El
分割しても困るけれど、統合するのは嫌だ。EUのドイツとギリシャでも、ベルギーの分裂でも、同じような矛盾が政治の焦点となっています。
「ギリシャは当時のECに、まだ準備ができていないのに、政治的理由で加盟した。トルコとの関係は不安定で、悪化しつつあった。双方がキプロスを支配しようとし、その行動を変えそうになかった。・・・ロシアとギリシャとの間には、ギリシャ正教の信仰を共有するような、歴史的な文化的関係があり、ギリシャが孤立してユーロを離脱すれば、ロシアは救済の資金を提供するだろう。・・・EU内に強固な政治的クサビを打ち込むために。」
FT May 28 2010
Outside Edge: Look on my works, ye markets
By Graham Allison
ECBのエコノミストたちは、ケインズだけでなく、パーキンソンも読むべきだ。ECBの高層ビルは、ジュネーブに残る国連の建物、インドに残るニューデリー、などと同様に、完成するときには崩壊することになる。
The Observer, Sunday 30 May 2010
If Germany can't stop the collapse of European hopes, who can?
Will Hutton
「潜在するユーロ解体の可能性は、第一級の経済的政治的な大災害となる。経済的には、ヨーロッパが競争的切り下げ、債務不履行、破綻銀行の救済、信用市場の枯渇、保護貿易、長期の停滞、である。政治的には、旧時代の敵意や猜疑心が水面下にあふれている絶望的な大陸をまとめているものが、すべて失われるということだ。」
イギリスのユーロ懐疑論者は大喜びしているが、それでよいのか? 各国は国益を優先する、と。しかし、それは1930年代のヨーロッパを歓迎することになるでしょう。イギリスに主要な貿易相手であるヨーロッパが、人種差別とナショナリズムのイデオロギーが充満する不況地域になることを好ましいと思うのは、とんでもない間違いです。
スペインが注目されるのは、その財政赤字を短期のユーロ債で賄っているからです。金融市場が安定しているなら問題ないですが、混乱し始めると「投資家はストライキを起こし」、リーマンブラザーズと同様に、資金調達コストが増す中でその対策も悪循環を招きます。一気に市場から排除される可能性もあります。7500億ユーロの安定化基金も、ECBの介入も、時間稼ぎにすぎません。
ECBが、まるでラテンアメリカのように、EU諸国の債券を購入して貨幣を増発することを、ドイツ連銀は黙って見ているわけにいきません。かつてライヒスバンクが、その結果、ハイパーインフレーションを起こし、ナチス台頭を準備したからです。メルケル首相も、これでは「通貨同盟」ではなく「財政移転同盟」だ、と批判します。マーストリヒトで約束された、ドイツ・マルクと同じ価値をもつユーロは、急速に価値を失っています。
ヨーロッパ諸国の政府は解決策を模索します。ユーロを信頼できる通貨にする。政府や銀行を健全に保つ。ヨーロッパの成長率を引き上げる。そのためには、たとえば、ヨーロッパ通貨基金が各国の財政をチェックし、短期の資金移転を保証する。ドイツのような貿易黒字国が経済を拡大する。ヨーロッパ全体を単一の銀行監督ルールで管理する。単一市場を深化させてビジネスにより多くの機会を与える。
しかし、政治家たちはヨーロッパへの統合化、転換を嫌います。たとえば、ドイツの示した9項目の改革方針は、違反した国のEU代表権を奪い、罰金を科して、ユーロ離脱を促す、など、すべての国をドイツに変えることを意味します。ドイツ国内にはユーロを憲法違反と主張する法律家の大群がいます。すべての国がドイツのような輸出国にはなれないし、経済停滞は赤字国の財政危機を悪化させるでしょう。
IMFが提言したように、ECBがインフレ目標を高くすることは解決策になるかもしれません。通貨価値を高くし続けることでヨーロッパを破壊するか、ユーロ安やインフレを受け入れてヨーロッパの統一を守るか? ドイツは正しい選択を示すときです。
FT May 30 2010
The false trail of austerity and a weak euro
By Wolfgang Münchau
FT May 30 2010
Don’t be beastly to the Germans
SPIEGEL ONLINE 05/31/2010
ECB Buying Up Greek Bonds
German Central Bankers Suspect French Intrigue
By Wolfgang Reuter
FT May 31 2010
Eurozone: State of the union
By Ralph Atkins
金融市場では将来に向けた期待や不安が交錯し、その影響が現在の政策の効果に及びます。政府は、何が正しいか、と論争するより、さまざまなシナリオを検討し、対応を準備することになるのです。
大きく4つに分けて、ユーロのシナリオが検討されます。
シナリオ[1] ・・・秩序が回復される。「危機に直面して政府は財政を健全化し、経済はダイナミズムを取り戻す。ユーロ圏は世界経済の成長のエンジンとなる。」
ギリシャが数年でヨーロッパ経済のモデルになります。気候、文化、歴史、そしてダイナミックな景色。ビジネス環境を改善し、ヨーロッパ中から観光客や引退者、新興企業家を集めます。ギリシャ危機に刺激されて、他の赤字国も改革に努力します。輸出だけでなく内需も刺激し、ユーロ圏の成長を高めるでしょう。1990年代にスウェーデンが銀行破綻と経済危機から回復したように。
ヨーロッパの政治家たちは将来の危機に備えて監視を強めるでしょう。財政赤字や競争力の低下に、早期の行動を促します。債務危機に陥った場合も、債務の組み替えも含めた秩序ある整理を準備しておくことです。また、ECBはインフレ抑制だけの目標を修正します。
その見込みは、不可能ではないけれど、かなり慎重にみるべきです。もし成功すれば、ユーロはドルの地位を脅かすでしょう。
シナリオ[2] ・・・何とか切り抜ける。「ユーロ圏は安定化するが、危機によって示された根本問題には手をつけない。」
安定化基金はあっても、根本的な改革に向かいません。成長は回復せず、ギリシャがフロリダになるには長い時間を要します。Daniel Grosが指摘するように、ドイツはユーロへの転換レートを高くし過ぎて、競争力を回復するために苦しい賃金抑制などを実施しました。今や、その成果で輸出を伸ばしていますが、他のユーロ圏諸国に同じような調整は実行できないでしょう。
ユーロ圏の政治家たちは、ドイツが他国の財政赤字を非難し、ECBが政府債券の購入を始める、といった具合に、間違った方針を選択しました。今後も、政治対立を繰り返しながら、ヨーロッパの改革は時間をかけて、漸進的にしか進みません。
大いにあり得るシナリオで、ユーロ安が続くでしょう。
シナリオ[3] ・・・傷だらけで歩き続ける。「ユーロ圏は衰退してしまい、その長期的な存続にも疑問が生じる。」
財政再建は難しい。成長がなければ社会不安が高じる。ユーロ圏に投機が向かうでしょう。周辺の経済を立て直すにはドイツがインフレを受け入れるべきだが、国民はECBの債券購入を嫌っています。このままではユーロ圏全体がイタリア南部や東欧のような経済停滞を続けるでしょう。
起きる可能性がかなりあり、ユーロ安が長期に及ぶ。
シナリオ[4] ・・・ユーロ圏解体。「耐えられないと考える国を、他の国も抑えられない。」
ギリシャは経済崩壊し、ユーロ圏に不況と失業が広がるでしょう。債務のデフォルトはユーロ解体につながる危険があります。
起きそうにないが、その可能性は以前ほど小さいと言えません。解体直前、ユーロの価値が暴落するでしょう。
Times Online June 2, 2010
This is the age of war between the generations
Anatole Kaletsky
WSJ JUNE 1, 2010
Europe's Predictable Collapse
By PHILIPPE SIMONNOT
ユーロ圏解体は、20年前のソ連崩壊と同じように、軍事攻撃ではなく経済危機によるものです。市場に逆らった政治制度が生き延びることはできません。
June 2 (Bloomberg)
Euro Exit Is Ludicrous Idea for Any Country
Hannes Androsch
guardian.co.uk, Wednesday 2 June 2010
Germany: too weak, too strong
Martin Kettle
SPIEGEL ONLINE 06/02/2010 04:59 PM
The Failure Club
Our Leaders Are Responsible for Europe's Crisis
Hans-Jürgen Schlamp in Brussels
FT June 2 2010
Not ready for exit
4.iPadと中国の工場
SPIEGEL ONLINE 05/28/2010
iPad Factory in the Firing Line
Worker Suicides Have Electronics Maker Uneasy in China
By Wieland Wagner
「朝、7時を少し過ぎたころ、昼勤務の半時間前である。若い中国人たちが灰色の制服を着たガードマンの前を通る。企業のIDカードを示し、ゲート前で、緑の信号になるのを待っている。それから彼らは灰色の工場の迷路を急いで抜けて、仕事場に向かう。
中国南部、香港の外、Shenzhen市の中に、約30万人が働く、台湾企業Foxconnの巨大工場団地はある。ほかにも12万人が他の工場団地で働く。彼らはグローバルなデジタル・ブランドであるアップル、任天堂、デルのために、iPhoneやiPad、Notebookなどを生産する。そして多くの労働者は健康を害し、中には命を失う者もいる。」
18歳の女子労働者、Ma Xiangqianは、昼夜交代制で12時間働き、月給1940元(285ドル、2万5000円)を得る。9人の仲間と工場団地の寮で眠る。広報のLiu Kunは、「工場」と呼ばずに、「キャンパス」と呼ぶ。病院、サッカー場、フィットネス・センター、インターネット・カフェ、などがある。監視カメラや工場の放送を流すテレビがある。
工場のキッチンにも秩序が完成している。白衣にゴムの靴を履いた料理人の一群が、Foxconn経営者たちのテレビ監視の下で食事を用意する。内容物や調理法についての詳細な規定がある。毎日、3トンの豚肉、3トンの鶏肉、6万個の卵、20トンのコメを消費する。
労働者への暴行を示すビデオが流出してから、事故、精神病、自殺について、Foxconnは批判や告発を受けています。
FT May 28 2010
China: Showing the strain
By Kathrin Hille in Beijing
「単なる地震だ。」
Hon Hai Groupの指導者、Terry Gouは、説明の途中で地震が起きても部下たちが動揺するのを制止した、と言います。世界最大の電気製品製造下請け企業であるFoxconnは、携帯電話から先端的なデジタル製品まで、世界中の企業や流通ネットワークと契約しています。しかし、工場労働者の自殺が続いたことで、中国南部に集積した製造業全体について、その労働条件に疑いの目が向けられています。
チャップリンの映画「モダン・タイムズ」が今も現実にある、と感じる人が多いわけです。「中国はグローバリゼーションから利益を得たが、労働者たちはそうではない。」
Terry Gouは、1950年、台湾の難民の子として生まれ、航海術の学校を卒業しました。1974年、母親から資金を借りて、テレビのプラスチック部品を作るガレージ工場を始めました。パソコン部品にも拡大し、デルのような外国企業の下請けも受注して、1988年、中国南部に移りました。台湾の労働コストが上昇し始めていたからです。
Foreign Affairs, May 7, 2010
Q&A With Robert Kaplan on China
Robert D. Kaplan
中国の示す地理的な特徴から、その安全保障や政治的展望を試みています。・・・面白そうですが、紹介する時間がありません。
The Guardian, Saturday 29 May 2010
China suicides show the terrible toll that stress can take
The Observer, Sunday 30 May 2010
How much do you really want an iPad?
SPIEGEL ONLINE 06/02/2010 10:23 AM
Shanghaied
The Flip Side of China's Economic Miracle
By Wieland Wagner
WSJ JUNE 2, 2010
Automating the Dragon
By KATSUSHI SAITO AND WENJIE GE
FT June 2 2010
Change is finally afoot for China’s workers
By David Pilling
FT June 3 2010
Chinese workers are now in revolt
WSJ JUNE 3, 2010
China's Fast Track to Development
By WILL FREEMAN AND ARTHUR KROEBER
世界金融危機や国際収支不均衡、世界不況に対する中国の解答が、高速鉄道網建設や新興都市建設のためのインフラ投資です。中国の鉄道敷設距離や輸送量は急速に増加しています。世界銀行の予測では、数年後に、上海・香港間の鉄道が世界で最も多く利用者、年間8000万人以上、を集める高速鉄道になるようです。
5.北朝鮮を中国はどうするか?
NYT May 27, 2010
While China Stands By
中国の関心は、北朝鮮からの難民流出を起こさないことです。しかし、もし現状維持が好ましい、などと思うなら、それは間違いでしょう。
NYT May 27, 2010
South Korea’s Collective Shrug
By B. R. MYERS
WSJ MAY 28, 2010
How to Handle North Korea
By RICHARD N. HAASS
北朝鮮に対するアメリカの姿勢は説得的だと思います。日本は、拉致事件、で混乱を繰り返すのでしょうか?
「北朝鮮によるthe Cheonan沈没は、韓国とアメリカとをジレンマに陥らせた。46名の命を奪ったこの攻撃に対して対応する戦略的・政治的な必要があった。同時に、すでに貧しい、孤立した北朝鮮に対して、奪い取るものは残されていない。さらに、いかなる挑発的(すなわち、軍事的)対応も、この長く分断された半島を戦争に突き落とす危険がある。」
そこで、RICHARD N. HAASSは、アメリカ議会が韓国とのFTAを承認するように求めます。この条約は米韓両国にとって有意義であり、もう3年間も待たされている。これで北朝鮮の行動を変えることにはならないが、韓国に対する連帯のシグナルになる。
3年に及ぶ6カ国協議も含めて、北朝鮮が核兵器を放棄し、ミサイルを外すように促すことは無駄だった。何かできるとしたら、それは金正日の後継問題であり、特に、中国が行動するように促すことだ。北朝鮮にとって重要なことは、ただ一つ、中国の行動である。貿易、エネルギー、対外金融について、中国が北朝鮮のために提供している。
中国は、北朝鮮からの難民流出を嫌い、朝鮮半島が再統一すれば、首都はソウルになって、アメリカの戦略的な同盟関係に取り込まれてしまうことを懸念している。しかし、他方で、ますます多くの中国人が北朝鮮の行動を、資産ではなく、重荷と感じている。たとえ国連安保理の制裁に加わらなくても、ピョンヤンの政変に影響力を行使するだろう。中国は、後継者が中国式の改革開放政策を採用するように、また、韓国とその国民に対して責任ある行動を取るように、求めるだろう。
それは中国自身の成長のために安定を確保し、また、北朝鮮の近隣諸国、特に日本の核武装を刺激するような事態を避けるために重要だ。また、アメリカと韓国は、非核化と朝鮮以外の軍隊について、中国と戦略的問題を話し合うべきだ。
交渉の再開に限定せず、より根本的な問題、北朝鮮の体制転換と半島再統一を目指すべきである。その過程の緊急事態について、米韓両国は話し合うことだ。これこそ、朝鮮戦争の開戦60周年にふさわしい。
LAT May 30, 2010
Shaming North Korea
Paul B. Stares
Times Online May 31, 2010
China’s stance on North Korea could lead to war
Bill Emmott
経済大国となり、可能な限り国連を介して、「平和的」にグローバルな大国の地位に昇ることを目指す中国は、60年間の友好関係をもつ国の潜水艦による隣国への攻撃に、どう対処するべきだろうか?
「何もしない。」 それが、今までのところ中国の答えです。北朝鮮は歴史的にその行動で憤慨を呼ぶことに定評のある国です。ラングーンでは韓国の閣僚たちを複数殺害し、偽札や密輸で利益を求め、4年間で2度の核実験を行い、日本を超えてミサイルを飛ばす実験を行いました。交渉しても何かを得たら「ヤドカリ王国」に戻ってしまいます。
メキシコ湾のBP原油流出事故よりも、朝鮮半島における戦争勃発の心配が深刻です。その関心は、中国の北朝鮮政策に向かいます。その際、中国は北朝鮮に関して、韓国や日本とは異なる利害をもっているというかもしれませんが、それは危険です。朝鮮半島は、米中間の戦争が起きる危険の最も大きい地点だからです。
北朝鮮に対する影響力をもっていない、という中国の弁解は信じられません。むしろ、毛沢東と同じように、中国は北朝鮮を(特に日本に対する)有益な干渉国家、朝鮮統一の回避策、と考えているようです。しかし、北朝鮮がその国民だけでなく、周辺諸国に脅威を与えるようになった今、この姿勢を変更しなければなりません。
もし金正日が突然死んだ場合、その後継争いが悪化し、アメリカは核兵器を抑えるために介入し、韓国は(西ドイツのコール首相と同じく)コストを無視して同胞を受け入れると宣言するかもしれません。中国はどうするか? おそらく半島情勢の安定化のため、といった理由で軍を派遣するでしょう。こうして、21世紀の大国間戦争が始まります。
この事態を避けるためには、中国も北朝鮮の将来に関する話し合いに参加するべきです。体制が崩壊したとき、誤解を避けるよう、各国が何をするかについて情報を交換することです。
May 31 (Bloomberg)
Sugar Daddy China Should Dock Kim’s Allowance
William Pesek
「金正日の核兵器よりギリシャの債務に関心が集まるのは奇妙な感じだ。」とWilliam Pesekは考えます。いずれにせよ、世界には次々に重大な政治問題が現れ、指導者たちを悩ませます。
北朝鮮に関しては、中国政府の行為だけが頼りです。・・・ここで扱うのは、米中をめぐるリアル・ポリティークです。アメリカも中国も、同時に多くの国際政治に関わる課題を抱えており、それぞれの国益を実現しなければなりません。その時間と資源は、互いの交渉によって、うまく行けば節約できるわけです。
中国は、今回の北朝鮮の行動に対する姿勢において、その経済成果に応じた世界市民としての責任を果たす絶好の機会を得たわけです。
WP Monday, May 31, 2010
China's Korea crisis
FT May 31 2010
China’s uneasy ties with North Korea
SPIEGEL ONLINE 06/01/2010
'Our Options Are Limited'
Korean Crisis Puts China in a Quandry
By Andreas Lorenz and Wieland Wagner
WSJ JUNE 3, 2010
Take Kim to Court
By JARED GENSER
NYT May 27, 2010
Drilling for Certainty
By DAVID BROOKS
WP Friday, May 28, 2010; A25
A disaster with many fathers
By Charles Krauthammer
NYT May 28, 2010
Obama’s Katrina? Maybe Worse
By FRANK RICH
LAT May 30, 2010
The BP spill: Obama's Katrina?
Doyle McManus
guardian.co.uk, Monday 31 May 2010
Why should we listen to deficit hawks?
Dean Baker
FT June 1 2010
Prepare for change on Wall Street
By Henry Kaufman
「金融規制が利益をもたらすために、アメリカが必要としているのは、経済学と金融とを統合する新しい経済思想である。・・・経済自由主義の欠陥は明らかだ。マネタリズムは金融革新によって転覆した。ケインズ主義は正しく適用されなかった。拡大主義の教えは余りにも容易に採用され、引き締めの要請は余りにもしばしば無視された。」
FT June 3 2010
Sleepers, awake! The City is depending on you
By Adam Ridley
FT May 30 2010
Thailand: Smiles suspended
By Tim Johnston
「微笑みを止めた国」として、タイは政治改革の季節に入りました。経済発展によって得た富や素晴らしい近代的生活を、タイのエリートたちは貧しい農民や都市下層と分かち合うつもりは(まだ)ない。
・・・投資家たち(そして、トヨタやホンダ)はタイの市場から資本逃避するのか、と思いましたが、そうではなかったようです。アジアの政変を繰り返し経験した投資家から見て、タイのバンコクに商店街を占拠する集団がいても、ビジネスに影響ないなら無視しています。しかし、もし自体が次のアフガニスタンに向かうと感じられたら、資本逃避が避けられません。
「拡大した家父長制、貴族、官僚、軍部、エリートたちの談合」という、タイの発展を初期の段階で支えた政治システムは維持できません。赤シャツを着た農民たち、タクシー運転手、清掃婦、食糧品店員、彼らがバンコク中心部を占拠して、何カ月も働くことなく抗議する豊かさを得ている。それでも経済発展から十分な分け前を得ていないという彼らの不満は強い。
タイの政変は珍しいことではない。「今回の政争に加わった者たちは失うものが少ない。アウトサイダーであり、既存のルールに従う動機がない。グローバリゼーションの利益を得た自信家の商人階層が増えるにつれて、伝統的な支配階層は挑戦を受けるようになった。電気通信大富豪で元首相、今や国外亡命者となったタクシンはその代表だ。無視された大衆が持つ潜在的な民主的パワーを使って、旧支配層を権力の要所から追放できることを発見した。」
Pasuk Phongpaichitは解説します。「自分たちの地位を改善するために政治の潜在的な力を悟った貧しい人びとが現れた。富裕層は長年築いた特権を失うことを恐れている。多くの大衆は官僚制の権力や腐敗を嫌っている。地方の中産階級はバンコクが過度に支配することを恨んでいる。その他、多くの分裂がある。」
抗議の群衆は、議会も、裁判所も、軍・警察も、権力層の手先であると考えている。街頭選挙だけが、彼らの声を支配層に届ける手段なのだ。
若手の政治家・官僚は改革の必要を認めているが、それでも権力を独占する支配層と信念を共有し、武力弾圧を選択した。彼らの改革が、今後、進む保証はない。そして、貧困層はその結果を長く待てないだろう。
WSJ MAY 30, 2010
Thai-Style 'Reconciliation'
WSJ MAY 31, 2010
The Death of Tolerance in Thailand
By MICHAEL MONTESANO
LAT May 31, 2010
America is still the best guarantor of freedom and prosperity
Max Boot
世界で最も危険な地域、中東(アラブ圏)と極東(アジア)にアメリカの軍事基地が点在する事実を、私たちは忘れていないか?
「アメリカ兵は世界中で重要な役割を果たしている。ドイツから日本まで、700カ所以上、アメリカの軍事基地が形成する膨大なネットワークは広がっている。それらはウォルマート型の、PXやファストフード・レストラン、ゴルフコースやスポーツ・ジムからなる、アメリカの帝国を形成する。」
危険な地域にアメリカ軍が安全保障を維持する役割は、しばしば強い反発や抗議を引き起こします。たとえば、アジアの重要な同盟国、韓国と日本の反応にそれを観ることができます。韓国の「太陽政策」や、鳩山政権の米軍基地移転案は、中国の台頭や北朝鮮による韓国哨戒艇の沈没に関心が戻ったとき、撤回されました。
イランでも、コソボでも、アメリカ軍は治安や少数派の権利を守っています。「オバマの時代になっても、世界中に反米感情が広まっている。・・・彼らはアメリカ軍を嫌っているから知れないが、隣人たちをもっと恐れている。」 アメリカは、その史上空前の能力を用いて彼らを守ることを信じる、彼らの善意によって武装されているのです。
FT June 1 2010
Germany wrestles with its world role
FT June 2 2010
US and the world: Mapped out
By Daniel Dombey and Gideon Rachman
クリントン国務長官は、新興諸国がアメリカの指導力と距離を置く態度について、十分に理解できる、と語りました。彼らが世界的な目標をもつことに驚くことは何もない。しかし、彼らの意見をよく聞けば、すべてに同意しないまでも、多くの分野で合意を得られるだろう、と。
guardian.co.uk, Tuesday 1 June 2010
The Gaza flotilla attack shows how far Israel has declined
David Grossman
guardian.co.uk, Tuesday 1 June 2010
Israel had no choice over Gaza flotilla
Seth Freedman
SPIEGEL ONLINE 05/31/2010
An Exaggerated Response
Israel Falls into the Trap
Christoph Schult in Jerusalem
FT May 31 2010
Israel is lost at sea
WP Tuesday, June 1, 2010; A12
The flotilla fiasco
WSJ JUNE 1, 2010
Israel's Gaza Flotilla Fiasco
By MAX BOOT
NYT June 1, 2010
Israeli Force, Adrift on the Sea
By AMOS OZ
NYT June 2, 2010
Saving Israel From Itself
By NICHOLAS D. KRISTOF
WP Wednesday, June 2, 2010; A15
Flotilla raid offers Israel a learning opportunity
By David Ignatius
guardian.co.uk, Wednesday 2 June 2010
In a Viking paradise, Eurosceptic and egalitarian dreams alike seem true
Timothy Garton Ash
世界一幸せな国であるノルウェーから、私たちは何を学ぶべきか? 独立した主権。平等な社会。油田と政府系投資信託。自律、勤勉、共同体、など、ノルウェー民族の伝統。
しかし、重要なことは、正しい教訓を学ぶこと。そして、全く異なった条件で適用すると理解していること。ノルウェーの幸福も、決して世界政治から孤立しては存在していない。
NYT June 1, 2010
Entrepreneur or Unemployed?
By ROBERT B. REICH
FT June 1 2010
Britain is no longer America’s bridge to Europe
By Charles Kupchan
イギリスの連立内閣は、EUと離反して、アメリカとの「特別な関係」を回復する保守党のイデオロギーに頼ることはできない、と主張します。日本とアメリカ、中国の関係に置き換えて考えてはどうでしょうか?
FT June 3 2010
Britain adopts an industrial policy
guardian.co.uk, Thursday 3 June 2010
Nepal on a knife-edge
Jagannath Lamichhane
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The Economist May 22nd 2010
And man made life
The euro-zone crisis: Europe’s three great delusions
Europe’s government-bond markets: That sinking feeling
Central banks under security (1): After the fall
Thailand in flames: The battle of Bangkok
Thailand’s riots: A polity imploding
A guilty verdict for North Korea: Their number is up
Russia, NATO and Europe: Marching through Red Square
For want of a drink: A special report on water
(コメント) 新しい生命をDNAのレベルで設計する分野に人間が踏み込んだことは、神の領域を侵すことです。最も恐れられる適用分野は、戦争とセックスではないでしょうか? 記事は、それを(効果の薄い)規制で抑えるより、自由化し、悪用に備えるための取り組みを求めます。
ユーロ危機が悪化する不安には、三つの理由があります。1.空売り規制のように、市場を批判して根本問題を解決しない。2.巨大な安定化基金に頼って安心している。3.改革を軽視している。各国の政府債券が銀行、貯蓄機関とともに危機を連動させています。その救済に向かうECBは、アメリカよりも、緊急時の通貨供給に責任を問われます。
タイの政治的混乱、都市暴動に関して、保守派は偏った理解を譲りません。政治的和解の道のりは余りにも遠い。他方、ロシアが外交政策を柔軟に転換し、近代化を目指して西側との和解を進めている、と記事は紹介しています。問題は、ロシアの指導者たちが西側との和解を近代化の手段としてしか考えていないことです。その限界は、早晩、現れる。
世界の水利用に関する特集記事です。ところどころ読みました。シンガポールに関する囲み記事が面白いです。