IPEの果樹園2010

今週のReview

5/31-6/5

 

*****************************

IPEの想像力 5/31/10

普天間基地の移転に関する不十分な説明を理由に、鳩山首相の辞任を求めます。

鳩山政権が望んだ普天間基地の沖縄からの移転に、結局、進展は見られませんでした。なぜ政権交代後の政治的興奮、あるいは、ポリティカル・パワーを、この問題にもっぱら費やしたのでしょうか?

しかも、安全保障と日米関係、アジア諸国の平和と安定に関する指導者の発言が重要であることを思えば、移転の成否よりも、この間の表現力の不足こそ、政治家として致命的なマイナスであったと考えます。

沖縄の米軍基地問題は、安全保障の設計に不安を抱える日本にとっての「ギリシャ危機」でした。ヨーロッパでは、資本市場のパニックを恐れて、週末、巨額の融資と財政赤字削減が取引されました。他方、ギリシャ国民の反対意見は聞いてもらえません。沖縄県民が抗議する声もそうです。

もちろん、政治は変化する現実に対応し続けなければなりません。アメリカは軍事力で世界を征服し、ヨーロッパは理想的な統合のモデルを示して世界を導く、と比較されたこともありました。しかし、オバマが登場し、世界金融危機やユーロの危機に直面して、今では米中協力が最も重視されています。

ユーロ危機をめぐる政治の動揺を背景として、ドイツがナチスのヨーロッパ征服に関する贖罪のために外交や経済政策を抑制し、特別な選択を示す時期は終わった、と言われます。日本でも、安全保障や憲法改正を、好戦的ナショナリスト・保守派や右翼のテーマとしてではなく、国民が広く、積極的に議論するべきです。

ギリシャやドイツがユーロ圏を離脱するとしたら、慎重な政策選択というより、金融パニックとナショナリズムによる政策協調の失敗がその理由である、と予感させます。他方、アメリカが日本との安全保障を解消することは、当分ないでしょうし、沖縄が日本という政治連合を離脱する計画もない、と思います。しかし、安全保障上のパニックは必ずあるでしょう。

社民党は安全保障政策で民主党と根本的に異なっていることを承知していたはずです。そうであれば、連立政権に参加したことが失敗でした。その違いを認めたうえで連立を組んだのであれば、普天間基地の問題をもっと違う形で議論し、同時に、ほかのテーマで共通の政策を実現できたはずです。

私は、社民党との連立を前提とした鳩山内閣であるからこそ、安全保障や憲法改正にも新しいアイデアを示すことができる、と期待しました。

鳩山首相の政治資金処理は杜撰であり、郵政民営化を逆転する過程は不透明です。日米交渉に関する説明は不十分であり、どのような選択肢を示して議論したのか、伝わってきませんでした。郵政民営化を議論しないために、普天間基地で騒いだのでしょうか? 元に戻るだけなら、自民党の時代と何が違うのですか?

民主党による政治改革の進展を、私はまだ期待しています。そのためにも、新しい首相を決めてほしいです。そして、鳩山氏には非常に重要な使命があります。辞任後、ただちに、安全保障に関する国民的な合意形成に向けた、検討会議を主催することです。民主党は、外部の委員を招いて、代替案と今回の交渉過程を検証する報告書を、必ず1年以内に、発表してください。

日本やアジアはどうなるのか? 米中経済戦略会議が開催され、中国の指導者や世銀総裁が積極的な発言を示しています。日本からも提案があったのでしょうか? そして、タイのバンコクで市民たちが何十人も(たとえ何百人もではなかったとしても)、軍政府の治安部隊によって暗黙の銃殺に処されました。日本政府からは和解の仲裁を申し出る(そして、軍の政治介入を非難する)機会がなかったのでしょうか?

ギリシャの財政危機が、数年後に日本で起きることは確実だ、という論説に、日本政府は積極的に応えているのでしょうか?

******************************

1.金融危機後の景気回復をどう描くか?

2.ユーロ危機後のヨーロッパ政治

3.中国の内面と外面

4.タイ社会の分裂と弾圧

5.朝鮮半島の危険水準

・・・金融制度改革 ・・・アイスランド ・・・スウェーデン ・・・ロシアの汚職追放

******************************

主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


1.金融危機後の景気回復をどう描くか?

(コメント) 1980年代のラテンアメリカ、1990年代の日本は、「失われた10年」という長期の経済停滞を経験しました。前者がヨーロッパの恐れる未来であり、後者がアメリカの恐れる未来です。

NYT May 20, 2010

Lost Decade Looming?

By PAUL KRUGMAN

「われわれはギリシャではない。しかし、われわれはますます日本に似てきた。」

財政赤字を減らせ、という声が高まる中でも、PAUL KRUGMANは財政刺激策を主張します。なぜなら失業率が高く、しかも長期化しつつあり、同時に、インフレ率も1%を切っているからです。デフレと長期の停滞、累積債務に苦しんできた日本の状態に、アメリカはますます似てきたわけです。

ところが、インフレを心配して金融緩和を止めるべきだという主張、財政赤字を非難する声に押されて、需要を刺激する追加の政策は実現しそうにありません。

FT May 24 2010

Look to the developing world

By Robert Zoellick

「しかし、われわれが直面しているのは『金融危機の第二派』ではなく、『持続的成長に向けた第一歩』である。・・・診断を間違えば、治療も間違う。」

財政刺激策がなくても、利益があれば民間投資は復活する。そのための改革に何ができるか、発展途上諸国の経験が教えてくれる、とRobert Zoellickは主張します。

ユーロ圏は財政赤字を削減する政策だけで危機を脱することはできません。返済するためには成長を回復しなければならないのです。ラテンアメリカが1980年代にそうであったように、債務の切り捨てが必要でしょう。しかし、ユーロ圏にはほかにも多くの弱点があります。

Robert Zoellickは、ヨーロッパもアメリカも、成長を回復して財政赤字を解消するには、新しい多極化した世界経済の成長に頼ることが必要だ、と考えます。「2000年以降、世界の輸入に対する需要は、その半分以上を発展途上諸国がもたらしている。」

発展途上諸国が成長し、資本財を輸入することは、それを生産する高所得国で、高賃金の雇用をもたらしています。中国が1990年代後半に示したように、発展途上諸国はインフラに投資することで生産性を高め、成長を加速することができます。輸送やエネルギーのシステム、都市の整備などに、アジア、ラテンアメリカ、アフリカは多くの投資機会をもっています。

しかも、それは政府の資金を必要としません。利潤を上げられる条件さえあれば、民間投資が集まるからです。インフラの建設にも、公的部門でも、民間の経営手法が取り込まれ、民営化が行えます。成長をもたらすのは、そのような政策転換です。

「金融危機は改革を勢いづける。開発の進んだ諸国では、昨年、ケインズ主義的な需要管理が重視されたが、アジア・太平洋経済では、特にサービス分野の改革が進み、高い成長をもたらした。開発の進んだ諸国で金融規制やより広い再規制が重視されたが、アジア諸国は革新と雇用をもたらす規制緩和の方法が検討されている。」

EUやアメリカ(そして、日本)は、単に財政再建を求められるのではなく、発展途上諸国の成長から生じる機会をつかむことで、「失われた10年」を免れるのです。

FT May 24, 2010

How likely is financial repression?

Martin Wolf

Carmen Reinhartと話し合って、Martin Wolfは「金融危機は政府の財政危機になり、それは金融抑圧に至る」という問題を考えます。・・・金融抑圧は起きるだろうか? 金融のグローバル化は終わるのか?

「政府は金融部門を通じて信用の拡大を奨励する。その結果、不良債務(貸手から見れば資産)の累積となる。それはある段階でパニックを生じる。この段階で、政府は金融機関の負債を国有化してやるしかないが、もっと重要なのは、景気が悪化し、歳入が急激に減少するということだ。膨大な財政赤字が現れ、公的債務が膨張し始める。・・・持続不可能な財政状態が、遅かれ早かれ、政府債務危機に至る。それは、政府が外貨建で、短期の債務を売っているほど起きやすい。」

なるほど。

借りることが難しくなれば、政府はどうするだろうか? 生活を改めて借りるのを止める? 「もう手遅れだ。誰もその約束を信じない。そこで中央銀行に国債を購入させるが、通貨危機(投げ売り)が起きる。固定レートは崩壊し、変動レートは急落する。インフレが即座に脅威となるだろう。」

「この段階になれば、絶望した政府は金融機関に国債の購入を強制する。つまり、金融抑圧の始まりだ。銀行は<流動性>のために、年金基金は<安全性>を理由に、国債を購入させられる。民間の貸し付けは金利の上限を課される。<高利貸し>を禁止する。そして、すべてが失敗すれば、為替管理が導入され、こうした規制を誰も免れることはできなくする。」

先進諸国でもこうした手段が取られるだろうか? どうなるか?

WSJ MAY 24, 2010

Don't Rule Out a Double Dip Recession

By CHRISTOPHER WOOD

FT May 26 2010

A blame game at globalisation’s unravelling

By Harold James

皮肉なことに、ドイツはギリシャ危機によるユーロ安でますます黒字を増やすでしょう。Harold Jamesは、グローバリゼーションに対する称賛から非難へと変化する同じ時期に、国際収支不均衡の黒字国が称賛されるより非難されるようになったことを指摘します。世界金融危機は、アメリカの金融政策より、中国の人民元と巨大な外貨準備が犯人であるかのように語られます。あるいは、ヨーロッパでもドイツの黒字が避難されます。

何が正当な調整政策か? 誰に責任があるのか? Harold Jamesは、それがパワーとモラルで決まる、と考えます。同じ赤字国でも、アメリカは責められず、ギリシャを責めます。しかし、黒字国は勤勉や節約を重視し、赤字国の放蕩やむ計画を非難します。

IMFは最新のWorld Economic Outlook (April 2010)で、黒字国として日本が1988年に行った金融緩和を中国にも求めたと言います。しかし、それが結果的に、バブルと「失われた10年」をもたらしたことは無視します。ドイツのシュミット首相は「ドイツ・モデル」を他国に「教授」して、それを非難されました。アメリカは攻撃できなくても、ドイツは容易に攻撃されます。

NYT May 26, 2010

Germany vs. Europe

アメリカが世界に対して果たした役割を、ドイツはヨーロッパに対して果たしてきました。ドイツがナショナリストの幻想に向かうことは、ヨーロッパや世界の繁栄を脅かすでしょう。ギリシャ救済に対するドイツ国内の反対は強まっています。

ギリシャ救済やユーロ圏の安定化と不均衡解消は、ドイツ自身の利益です。また、赤字諸国が増税や支出削減に向かうとき、ドイツがそれを補う刺激策を取らなければ、ヨーロッパは不況に落ち込みます。それを注意するのが、ガイトナーの役割だ、と。


2.ユーロ危機後のヨーロッパ政治

FT May 20 2010

A big step towards fiscal federalism in Europe

By Romano Prodi

イタリアの元首相で、欧州委員会の委員長も務めたRomano Prodiは、安定化基金の創設をEUの前進と解釈します。ドイツはいくら改革に取り組み、インフレや賃金を抑制しても、それによって得た競争力と黒字を、周辺諸国の切下げによって失う危険を冒していました。また、イタリアもインフレによる競争力の低下を切下げで回復するような傾向がありました。こうしたことを終わらせて、安定と繁栄の単一市場を形成することにヨーロッパの政治家たちは合意してきたわけです。

その計画の斬新さゆえに、彼らは危機を覚悟していたわけです。危機が起きたら崩壊する、というのは間違いです。

WSJ MAY 21, 2010

Privatization Can Help Greece

By ALLAN H. MELTZER

自国通貨を捨てたギリシャには、切下げに代わって、賃金を引き下げるしかない。ギリシャは債務の負担をIMFとEUからの融資で免れる代わりに、公務員の給与を20%引き下げ、政府支出をGDPの10%に相当するだけ減らす、と約束させられた。それが実行できるとは思えないし、不確実さが長引いただけだ。

ギリシャの主要産業である観光部門は、多くが国有である。それゆえ、債務を減らすには、それらを売却すればよい。債務を持続可能にし、労働者たちを競争にさらして生産性を高めるには、民営化が有効だ。

また、ギリシャの民間経済は「地下(闇経済)」である。そこで、これまでの脱税を免責して、経済活動を合法化しなければならない。それによって、賃金水準や競争力は改善される。それでも債務が持続可能でなければ、デフォルトするのが良い。IMFやEUからさらに債務を累積させる提案は拒むべきだ。

「不況の時期に政府支出を削るのは致命的な失敗だ、と言うケインジアンたちは、彼らが1981年にサッチャー首相に同じ助言を行ったことを思い出すべきだ。イギリスは深い不況にあり、財政政策と金融政策を引き締めたままだとイギリスは回復しない、と言った。しかしサッチャーはその助言を拒んだ。イギリスの将来に対する期待は好転し、長期の、生産的な景気回復がすぐに始まったのだ。」

WSJ MAY 21, 2010

Estonia's Lessons for Greece

FP Friday, May 21, 2010

Athens goes on a Spartan diet

Posted By Stephen M. Walt

NYT May 21, 2010

It Takes a Crisis to Make a Continent

By GABOR STEINGART

危機を経てEUは前進する。「抽象物としてのユーロが終わり、ヨーロッパ合衆国が誕生する。」

理想主義がこの運動を進めた時代は過ぎて、今や統合はすべての者の必要不可欠な条件である。通貨統合は経済的な合理性を問題にしてきたが、最初から、大きく異なる国が共通の利益に従う、政治的な行為であった。

ユーロを支配するルールは毎日のように破られ、市場をパニックが襲った。しかし、これは運動を前進させたのであり、解体へ向かうのではない。決定的な瞬間に、ヨーロッパは通貨統合が十分な状態になく、政治統合を必要としていることを認めた。今後、ヨーロッパの南北で、各国の予算は統合されていくだろう。

ヨーロッパは大陸規模の政策決定と、その民主的な基礎を示すべき時代に入った。

WP Saturday, May 22, 2010; A14

Angela Merkel's mistake: Battling the financial markets

The Observer, Sunday 23 May 2010

We commend Angela Merkel for her leadership in Europe

The Observer, Sunday 23 May 2010

The European Idea lies dead, killed by the credit crunch

Rafael Behrf

「競争する利害と対立する戦略をもつ異なった諸国を一つの統合された経済・政治システムにするためには、歴史上、二つのモデルがある。すなわち、占領するか、EUである。」

しかし、ギリシャのユーロ圏離脱を検討しなければならないほど、その理想は弱まっています。金融危機や不況に対して、また、ギリシャ救済に対して、EU加盟国は予想していなかった規模の財政負担を強いられました。EUの統合は、そのような負担を必要としない計画だから支持されたのです。ユーロはドイツ連銀が設計し、次にドイツが目指すのは、厳格な財政規律をともなうユーロ圏内部の統合です。イギリスは反対し、その他の国も歓迎しないでしょう。

ドイツはナチスの過去を負って、贖罪に努めた時代を終わりました。EUは解体せず、その理想を捨てて、ビジネス・グループの掲げる目標を採用することになるでしょう。

FT May 23 2010

Bad debt also threatens Europe’s strongest

By Wolfgang Münchau

「ユーロ圏は支払不能なのか?」 債務のGDP比率で見れば、ユーロ圏はアメリカやイギリス、日本よりも良好だ。しかし、ヨーロッパの諸政府は金融機関の債務を保証し、今また、ギリシャの財政危機を保証した。ユーロ圏を全体としてサブプライムCDOs(資産担保証券)と見なすのは理由のあることだ。

ユーロ圏は財政危機に対応した特別目的機関(Special Purpose Vehicle)を設置するべきだ、とWolfgang Münchauは主張します。EUが安定化基金を決めても、その中身が明確でなければ、市場は最悪のシナリオを考えます。ドイツはGDPの3分の1に相当する負担を強いられる、という予測もあります。

そうなれば、他のシナリオが現実味を増します。ECBに南の政府債券を買わせ、インフレと金融機関の高利潤、十分な税収をもたらすように強いることです。しかし、ブームが続かなければ債務の山が崩壊します。そして、改革が進めない中で、市場はインフレの加速を嫌います。

guardian.co.uk, Sunday 23 May 2010

Not quite Byzantium

Hywel Williams

1453年にコンスタンティノーブルが陥落してから、トルコに支配された数世紀に渡って、遠い歴史に対する誇りがギリシャ人にはあった。1967年に軍部が政権を握った後の数年間が同様であった。過去に多くの難民を受け入れ、現実の、あるいは、想像上の、多くの少数民族を抱える。外国の支配や自国の独裁者による支配を耐えるときの恥の意識は、ギリシャに深く根付いている。経済危機からギリシャ政府を救済する見返りにEUの指導者たちが雇用の削減を要求したことで、同じ憤慨がEUの介入主義に対する反感としてよみがえる。」

FP MAY 24, 2010

Frau Germania

BY CAMERON ABADI

SPIEGEL ONLINE 05/24/2010

Dealing with the Euro Crisis

The Monster Is Still Alive

by Armin Mahler

リーマンブラザーズも、ギリシャ危機も、金融市場がリアル・エコノミーとの関係を無視できないことに気づいたときに起こった。たとえドイツを含めてEUの安定化基金が準備されても、問題は解決されていない。

SPIEGEL ONLINE 05/24/2010

Interview With Former Foreign Minister

Merkel 'Botched' Her Duties in Euro Crisis, Says Joschka Fischer

WP Monday, May 24, 2010; A19

Why the U.S. should support Europe's rescue package

By Robert J. Samuelson

「グランド・バーゲン」・・・ギリシャは融資を得る代わりに財政赤字を削減する。

しかし、ギリシャの経済規模に対して債務は大き過ぎる。デフォルトは避けられないだろう。ポルトガルやスペインが自力で再建できるように、融資は時間を稼いだだけだ。しかし、その間にもギリシャの社会対立は激化し、政治不安が生じる。ヨーロッパ統合に対する政治経済モデルがその意味を失った。

WP Monday, May 24, 2010; A19

America is no Greece -- for now

By Fareed Zakaria

FT May 24 2010

How to cure the euro’s ills

The Economist, Debate, May 25th 2010

"This house believes the euro area will fragment over the next ten years"

The moderator's opening remarks

Mr Paul Wallace

ユーロ圏としてカントリー・リスクを無視していたのは景気が良いときだけだった。

The proposer's opening remarks

Mr Martin Feldstein

ギリシャは、緊縮財政を受け入れるよりユーロ圏を離脱し、通貨を切り下げるべきだ。あるいは、EUの権限で財政移転を強いられるなら、ドイツがユーロ圏を離脱するだろう。

The opposition's opening remarks

Mr Charles Wyplosz

ユーロを導入したから危機が起きたのか? ユーロは、ヨーロッパのインフレを抑制し、為替レートの乱高下を除去し、市場統合を深めた。ユーロに守られていなかったら、ギリシャはとっくに債務危機に陥っていたはずだ。

マーストリヒト条約は3つの規制で財政規律を与えるはずだった。1.政府を救済しない。2.ECBによる国債購入をしない。3.安定・成長協定(3%と60%)を守る。・・・最初の二つで十分だが、最後の条件に関心が集まり、それが守れないことに政治の混乱が加わった。

ユーロ圏は崩壊しない。なぜなら、それは誰の利益にもならないから。ギリシャはユーロ圏を離脱すれば、通貨価値が大幅に下がる。それはユーロ建ての債務を抱える政府や企業、銀行を破たんさせる。ドイツも、通貨価値が急増し、輸出に依拠した現在の景気回復を頓挫させる。同時に、ドイツの政治的な重要方針であるEU統合も挫折させる。ユーロを放棄して独自通貨を導入することは、その処理手続きも容易なことではない。

May 25 (Bloomberg)

Germany Should Quit Euro, Leave Markets in Peace

Matthew Lynn

ギリシャは破綻する。ドイツは何をしたか? 空売り規制。投機家批判。しかし、ドイツが共通通貨を受け入れたときに、弱い通貨国を救済しなければならないことは知っていたはずだ。ドイツが財政移転を嫌うなら、ユーロ圏は存在しない。

イギリスは賢明だった。市場はメルケルの指導力を期待したが、メルケルは市場からの伝令を殺してしまった。

guardian.co.uk, Tuesday 25 May 2010

Europe is a dead political project

Étienne Balibar

ギリシャの抗議は完全に正しい。第一に、ギリシャ国民全体が無視された。第二に、民主的な論争は行われないまま、政府が公約を破った。最後に、ヨーロッパは加盟国のための連帯を何も示さなかった。IMFが、国民ではなく銀行を守るために、その条件を課した。

「経済に公衆の『信頼』を取り戻すケインズ主義的な戦略は、相互に関連する三つの支柱をもっている。1.安定した通貨、2.合理的な税制、3.完全雇用のための社会政策、である。しかし、この最後の側面は完全に無視されている。」・・・「国際競争の局面が変わった。(各国の)生産的な資本が競争することはもはやない。領土的な国家が、近隣諸国よりも免税や賃金の引き下げを行って、流動的な資本を引き寄せる競争があるだけだ。」

ヨーロッパも、グローバリゼーションの圧力下で、国家なき国家介入主義、民主主義の解体を推進する。あるいは、ナショナリズムや経済危機に抗して、民主的なヨーロッパ空間を再生できるか?

SPIEGEL ONLINE 05/25/2010

'Naive' Demands

Barroso Attacks Merkel over Calls for EU Reform

FT May 25 2010

The grasshoppers and the ants – a modern fable

By Martin Wolf

「アリとキリギリス」のイソップ寓話を持ちだして、Martin Wolfは財政赤字の結末を考えます。

現代の世界では、ドイツ、中国、日本のような黒字国をアリと見なせます。アメリカ、イギリス、ギリシャ、アイルランド、スペインはキリギリスです。

アリは働き者で、無駄遣いをしない。キリギリスは消費が大好き。アリはキリギリスに生産した物を売るけれど、キリギリスから何も買いたいと思わない。キリギリスの支払を融資してやる。アリは生産物の代わりに、金融資産という富をもつことで満足する。

ドイツがギリシャに融資するとき、同じ通貨であれば一層安心できた。ヨーロッパ通貨で売って、ヨーロッパ通貨で資産をためる。ギリシャの財政も健全だった。しかし、無限に土地の価格が上がるわけではなく、ドイツの銀行が心配し始めたとき、ギリシャは破綻するか、それを止めるために政府が「救済」するしかない、とわかった。ギリシャが求められたのは、強制的に緊縮政策を取り、アリになることだった。

他方、アジアのアリたちには、巨大なキリギリスがいた。アメリカという名前だ。アリたちがアメリカに資産の価値を維持し、返済を行うよう求めたところ、ギリシャと違って、そんなことは気にしなかった。むしろ景気を刺激し、雇用を回復するために財政赤字を増やし続けた。そしてアジアのアリ、特に、中国には、通貨を切り上げて輸入を増やすように求めた。アメリカは債務を切り捨て、弱いアリが死んでも気にしない。

つまり、キリギリスに貸してはならない、とアリが学ぶしか、ほかに道はないのです。

FT May 25 2010

Long live the euro – at parity with the dollar

By Ricardo Caballero and Francesco Giavazzi

ユーロは崩壊しない。危機の結果、ユーロ安が進むことで、問題は解消されるだろう。

Times Online May 26, 2010

It’s Lehman the sequel, with Merkel as Bush

Anatole Kaletsky

guardian.co.uk, Wednesday 26 May 2010

Eurozone crisis is self-inflicted

Mark Weisbrot

Times Online May 27, 2010

The Eurosceptic case for saving the euro

John Redwood

ギリシャに対して二つの答えがある。ユーロ圏がギリシャの財政を管理し、その賃金や社会的給付を維持する資金を送る。あるいは、ギリシャが自分で賃金とコストを引き下げ、ユーロの水準を維持したまま競争力を回復する。

「どちらも正しい。」 ギリシャにはより強い財政規律が必要であり、また、ドイツはユーロ圏内で財政を維持する責任を負う。

SPIEGEL ONLINE 05/27/2010

Resurrection of the Euro

European Austerity the First Step to Recovery

By Michael Kröger and Bahador Saberi

WP Thursday, May 27, 2010; A27

The disconnect behind Europe's financial free fall

By David Ignatius

しかし、ヨーロッパ市民たちは国家主権を失うつもりはない。


3.中国の内面と外面

FP MAY 20, 2010

Beijing's Billions

BY EVAN A. FEIGENBAUM

中国は莫大な外貨準備を何に使うのか? これまで、単独で、西側の制裁を無視して、秘密交渉による融資や援助を行ってきた中国が、最近、国際機関とも協力するようになりました。中国企業の海外投資を促すつもりがあるのかもしれません。

たとえば、国際開発戦略について、国際商品の市場価格安定化について、アメリカの方針を意識するようになったわけです。

中国の資本は世界を変えるでしょう。そのことが、中国も変えます。

WP Sunday, May 23, 2010; A17

The U.S. and China -- mutually beneficial economic partners

By Xie Xurenfinance minister of the People's Republic of China

米中経済戦略会談に関する中国側の理解です。「21世紀に向けた包括的な二国間関係を前進させる。」

米中は相互に経済を開放し、貿易や投資を増やす中で相互依存を深めています。それは双方の国民にとって利益であり、企業に利益をもたらしています。中国は輸出し、その黒字をアメリカに投資しています。

世界経済の回復において、双方の経済モデルの改革において、対等で、開放された、公正な国際経済秩序の確立において、米中は協力できる。

FT May 23 2010

The way to increase America’s exports to China

By Huo Jianguo and John Milligan-Whyte

胡錦濤主席は、アメリカによる人民元批判に反論します。その理由は、米中のどちらが世界不況を回避するために貢献しているか、という点で、中国はアメリカに優っている、ということです。また、通貨に関してもアメリカはドルを自国の利益に従って安くしました。

アメリカは今も、自国の景気刺激策、金融救済策によって、ドル安を引き起こしている。中国は2005年から2008年、人民元を徐々に、21%まで増価させた。アメリカが金融危機に向かっていたとき、中国は人民元とドルの為替レートを固定した。その後も、中国はドルの保有を増やしている。その意味で、中国がドルの安定性を支えているのだ。(ドル暴落こそ、世界貿易を混乱させる最悪のケースである。)

アメリカは、金融危機に際して民間の金融機関を救済し、政府が市場を管理して、レッセフェールの政策を捨てた。こうした姿勢は国内だけで、米中間では適用しないことに、矛盾を感じるべきだ。アメリカの政策が中国にとっても利益をもたらすときのみ、実行可能であり、持続可能である。

戦略対話の焦点は、世界の景気回復に欠かせないものとなっている中国の政策を転換することではなく、アメリカのこうした新しい政策であるべきだ。

WSJ MAY 24, 2010

Prick the China Policy Bubble

By KELLEY CURRIE

May 24 (Bloomberg)

China’s Stock Market Has Become a Poor Man’s Casino

Andy Xie

バーテンダーはAndy Xieに聞いた上海市場の株価に驚いて、「そんなはずはない。共産党がそれを許すはずがない。」・・・ と株価の下落に憤慨したとか。そして、今後、3年か5年のうちに、共産党は株価を8000に持っていく、と説明してくれたそうです。

中国の株式市場は、世界一多くの投資家が参加しています。12400万の取引口座があります。資本総額はGDPの53%、貨幣供給の31%に過ぎません。政府が不動産市場の取引を抑制したために、資金が株式市場に流れ込んでいます。

政治と流動性の増大によって株価が上昇するのは憂慮しなければなりません。政府がソフト・ランディングを望んでも、それは無視されます。不動産と株価が連動して膨張していきます。富裕層は不動産市場に移動し、株式市場は大衆のものです。銀行も大きな利益を上げていますが、それは逆転するでしょう。

May 25 (Bloomberg)

China Falls Victim to Greek Deficit Contagion

Michael Pettis

ギリシャ危機は人民元をめぐる論争に影響を及ぼしている。ユーロがドルに対して、それゆえ人民元に対しても、15%安くなったからである。中国からEUへの輸出は阻まれ、それ以上に、EUの赤字諸国は融資ができなくなって輸入を減らすしかなくなった。中国は人民元の切り上げ要求にますます反発するだろう。

他方、アメリカ議会の保護主義も強められるだろう。EUの黒字が増えれば、アメリカと中国や日本との貿易摩擦が激しくなる。調整過程を円滑に促す国際協調がなければ、1930年代のように、対立が過熱する。

FT May 26 2010

The dark side of China’s enduring dream

By David Pilling

中国の工場における労働者たちの自殺について、メディアThe Southern Weeklyが記者を労働者として送り込み、告発記事を載せました。世界の工場として中国が今後も輸出を増やし続けられることを疑わせる問題点です。

台湾企業Foxconnの中国工場で働く30万人の労働者については聞いたことがなくても、その製品であるApple’s iPadは大きく注目されています。ソニー、ノキア、デルの製品も生産されています。彼らは週に60時間、約75ドルで働いています。


4.タイ社会の分裂と弾圧

The Guardian, Sunday 23 May 2010

Thailand's troubles aren't over

Ismail Wolff

映画「ブレード・ランナー」のシーンを観るような高層ビルとネオンの輝く雑然とした街並みに魅了されて住み始め、ロンドンよりも安全だ、と思ったバンコクで、狙撃手によって反政府デモの運動家たち(70人以上?)が殺害される事態に驚いています。

テロリストがいる。王室と国民を守る必要がある。・・・人びとの間に軍が広める議論を、筆者は恐れます。19925月の抗議デモにも、軍は発砲し、数10人を殺害しました。軍事的な制圧は、王室の陰で、言論統制を利用して行われます。

タイの合意は崩れ去りました。分裂した国民には、新しい現実を受け入れる用意がありません。

WSJ MAY 24, 2010

The Spring of Thailand's Ethnic Discontent

By DAVID STRECKFUSS

SPIEGEL ONLINE 05/24/2010

A Deeply Divided Society

What Next for Thailand?

By Thilo Thielke

貧しい農民たちの抗議で始まった赤シャツの運動が、タイの政治エリートに対する不満をもつバンコクのビジネスマンや学生、中産階級を加えて拡大しました。政府を支持する黄シャツは、公務員や都市の上流階層です。

タイの分裂は選挙にとどまらず、国民、軍、王室にも分裂状態が及びました。国王の妻は黄シャツを公然と支援し、娘は赤シャツに共感している、と伝えられます。軍でも、Khattiya Sawasdipol中将は反政府デモを支持しました(その後、狙撃されて死亡)。タイの政党は、政策ではなく、人によって支配されています。

選挙を行えば、赤シャツ派が勝利し、黄シャツは抗議を始めるでしょう。


5.朝鮮半島の危険水準

LAT May 20, 2010

North Korea: No good answers

NYT May 20, 2010

The Sinking of the Cheonan

SPIEGEL ONLINE 05/21/2010

The World from Berlin

'North Korea Seems To Have a Sort of Death Wish'

WP Friday, May 21, 2010; A18

Consequences for North Korea

guardian.co.uk, Monday 24 May 2010

China faces touch choices over Korea

Simon Tisdall

WSJ MAY 24, 2010

The Free World Strikes Back at Pyongyang

By CHUNG MIN LEE

guardian.co.uk, Tuesday 25 May 2010

North Korea: Obama's 'dumb war'?

Olivia Hampton

WSJ MAY 25, 2010

Iran and North Korea March On

By JOHN BOLTON

この事件が示したのは、こういうことです。金正日の間違った判断から、朝鮮半島で深刻な軍事衝突が起き、全面的な戦争がはじまる危険がある(CHUNG MIN LEEは、これが韓国にとっての9・11である、と考えます)。

同時に、アメリカや日本など、周辺諸国は、韓国が強硬姿勢を採って制裁がエスカレートすることを望みません。重要なことは、北朝鮮が2度とこのような軍事行動を起こせないような条件を、特に中国と協力して構築することである、と英米のメディアは主張します。北朝鮮は核兵器を開発したにしても、その食糧やエネルギーを中国からの輸入に頼っているからです。


guardian.co.uk, Friday 21 May 2010

Reforms put Wall Street in its place

Thomas Noyes

NYT May 21, 2010

Financial Reform

FT May 21 2010

US Senate pulls through on reform

LAT May 23, 2010

Economy: The trouble with bubbles

Walter Murch and Lawrence Weschler

FT May 23 2010

The Senate finance bill merits two cheers

By Robert Reich

FT May 23 2010

Small step on long road to safe finance

WSJ MAY 26, 2010

Japanese Lessons for the Fed

アメリカの金融制度改革を具体化するための論争が続いています。金融政策の巧拙を議論する以上に、日本の経験も示すように、制度の改革が重要です。


guardian.co.uk, Friday 21 May 2010

Labour's new motto: immigration, immigration, immigration

John Harris


May 21 (Bloomberg)

Bank Crisis First-In Will Be First-Out

Johanna Sigurdardottir

アイスランド首相が、金融危機の原因に対する報告書の作成、特別検察官の活動、法整備など、金融危機後の政府の対応を説明し、不況を軽微にとどめて回復に向かうための政策を取ったことを強調しています。


FT May 23 2010

The Swedish module

By David Turner

FP MAY 26, 2010

We're All Swedes Now

BY ANDREW BROWN

David Turnerは、イギリスの新政権が導入しようとしているスウェーデン型の教育改革・民営化を紹介しています。

ANDREW BROWNは、かつてはユートピアのように称えられたスウェーデン型の社会が、その後、すっかり色あせて、EU加盟や大量の移民受け入れで親密な性格を変化させ、アメリカ並みの犯罪率を示し、また、南部では反移民感情が高まっている、と伝えます。かつての称賛についても誇張があっただろう、という悲しい解説です。・・・本当にそうでしょうか?

スウェーデンの新しい輸出品とは、良質の犯罪小説です。


WP Tuesday, May 25, 2010; A02

Summers needs to take Explaining Econ 101

By Dana Milbank


FT May 24 2010

Shale gas will change the world

By Gideon Rachman


WP Wednesday, May 26, 2010; A17

The world's biggest threat is corruption, not nuclear weapons

By Mikhail B. Khodorkovsky

世界を滅ぼす、核兵器よりも恐ろしいものは、政治家の汚職である。「汚職は世界的な悪意となって、伝染病のように広まる。貧富の格差を拡大し、人間性に対するシステミックな脅威となる。」

******************************

The Economist May 15th 2010

The euro and the future of Europe: No going back

Charlemagne: Financial fortress Europe

The euro: Emergency repairs

The IMF and the euro-zone rescue: High stakes

(コメント) 記事は、ECBに負担がかかることを懸念し、また、安定化基金の利用についてモラル・ハザードを防ぐ仕組みを求めています。さらに、将来はユーロ圏内の政府でも破産処理して財政再建できる制度を求めています。

ドイツの有権者にも、ギリシャ国民にも、それぞれ言い分はあるでしょう。それを政治家たちは間違った形で利用しているのではないか? 結局できたのは、NATOと同じ、集団的安全保障体制です。どの国に対する攻撃であっても、すべての国が反撃するという形で、ユーロ防衛の抑止力を働かせるのです。

ユーロ圏の財政規律や、ドイツとギリシャの事情よりも、競争力を失った国が回復するための調整を促す政策について、また、黒字国がそれを助ける政策について、国際収支不均衡とその調整政策の原則を再発見する思いがしました。

「これらの国が外国資本に依存していることは、より深い問題の徴候であり、原因である。すなわち、競争力の喪失だ。1999年にユーロが誕生してから数年間、ギリシャ、スペイン、アイルランドには安価な資本が流入し、国内需要を膨張させた。それは他のユーロ圏(特に競争力が断然優位にあるドイツ)に比べて労働コストを引き上げた。そして、コスト競争力は着実に低下した。消費ブームはまた産業構造をゆがめ、輸出企業を減らして、国内消費向け企業を増やし、そうした企業を外国との競争から守った。」

多極化する世界経済の回復を持続させるにはIMFを強化することが重要な課題ですが、融資のために出資するのは新興諸国でありながら、ギリシャ救済のような、代表権で偏った比重をもつヨーロッパに融資するのでは、旧来の欧米支配がそのままではないか? アジア通貨危機で怨念を残すアジア諸国には特にそう見えます。


The Economist May 15th 2010

Lexington: In praise of Boise

Argentina’s ruling couple: Lame ducks no longer

(コメント) アメリカには、何より、広い土地がある。そのアメリカの新しい地理学、新興ハイテク企業や移民の集まる街、そして、アメリカの連邦政府や増税に反対する政治文化についても考察しています。

アルゼンチンの大統領夫妻は、アメリカとは全く異なった政治制度と文化に依拠しています。彼らの理想とする政治的な介入主義と、その結果として、インフレ率の上昇が起きているのに、幸いにも、反対派の分裂と不人気が助けてくれています。通貨・金融危機後の経済運営について、アルゼンチンの教訓は今も多義的です。