今週のReview
5/10-/15
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IPEの想像力 5/10/10
アイスランドの火山Eyjafjallajökullが噴火して、その噴煙がヨーロッパで多くの空港を閉鎖し、国際輸送に9・11を超える影響を及ぼした、と知ったとき、私は率直に驚きました。The Economist誌は、フランス革命のころの保守派思想家、エドマンド・バークに言及し、「サブライムsublime」を再発見します。
・・・圧倒的な自然の力に心情を揺さぶられて、美的・精神的な崇拝の念を抱くこと。しかし、それは政策のガイドにならない、と。火山の噴火で亡くなった犠牲者はゼロであり、空港閉鎖の影響が大きかったのは、それほど私たちの生活がグローバル化し、高度な航空ネットワークのシステムに依存していたからです。
アイスランドの本を読んでいると、疫病が人口の半数を死滅させたこともあれば、特に1783年、Laki火山の噴火は、エジプトの干ばつ、日本の飢饉、そしてフランスの不作をもたらし、民衆の不満はやがてフランス革命にまで至った、と紹介されています。
今や、アイスランドと言えば、タラ漁と地熱の利用(アルミニウム精錬と世界最大の温泉)ですが、それ以上に、世界金融危機で最初の革命(政権交代)を実現した国として有名です。海であれ、火山であれ、国際資本市場であれ、小国はその環境に人工的なシステムを築いて共通の利益をもたらし、コストを抑制するように努めるわけです。システムの失敗は、瞬時に、致命的な損害を及ぼします。
歴史もまた、誕生する時代や文化を選ぶこと、民族や政治的共同体を選ぶことができない人間にとって、火山や魚群と同じように、宿命的な力を感じさせる大きな社会的枠組みです。
ロバート・D・カプラン著『バルカンの亡霊たち』は、ギリシャを理解するために、そこが都市の民主主義や哲学者たちを生み出した土地である以上に、ビザンチン帝国やオスマン・トルコの支配するバルカン半島の南端であることを強調しなければならない、と書いています。
「ギリシャでは資本主義が存在したことはなかった。20世紀半ばのギリシャは、貧しいバルカンの1国にすぎなかった。少数の強欲な地主と商店主が、他のすべての人々を搾取しており、中産階級はほとんど存在しなかった。アメリカに支援されたギリシャ政府には、腐敗と陰謀が渦巻いていた。」・・・「中世ビザンチン帝国を支配した皇帝たちの強欲、好色、残酷さ、野心が複雑に入り混じった」記録がギリシャ政治を理解するのに非常に役立つ、と。
現在の首相、ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウの、父親も祖父もギリシャ首相を務めました。特に父、アンドレアス・パパンドレウはアメリカに移住して国籍を取り、ハーヴァード大学で博士号を取得しました。彼が、カリフォルニア大学バークレー校の経済学部長にまでなったとき、ギリシャに戻って、ついには首相の地位を得たのだ、と。それだけ読めば、これもアメリカのグローバルなテクノクラート養成の例か、と思いますが、決してそうではない。逆に、アンドレアス・パパンドレウは全ギリシャ社会主義運動のファシスト指導者として、個人崇拝と汚職・収賄にまみれた権力を強化し、さらに、リビアなどと反米主義の国際同盟まで組んで、NATO離脱を示唆した、というのに驚きました。
過剰な消費や輸入を抑えて、生産的な投資や輸出のための貯蓄を促すことは、いずれの社会においても必要です。それはまた、ドイツやギリシャが歴史によって刻印された政治・社会システムに潜む反感、恥辱、民族の情念を、ナショナリズムではない形で克服する政治の在り方を見出すとき、新しい解決策に向かうのかもしれません。
ギリシャ危機の解決はまだ見えません。これは「ヨーロッパの南北戦争」となるのでしょうか? ヨーロッパが集権化した政治システムと社会統合のための諸制度を築き、活発な投資と雇用を大陸規模でもたらす機会をつかむ、と期待します。地球の反対側、世界秩序の移行に向けた内外の調整を平和的に進めたい新興諸国・地域でも、新しいリヴァイアサンの誕生が予感されます。「国家の覚醒」は競争して加速し、たとえそれが戦争を回避できたとしても、滅亡する国々も増えるでしょう。
東アジアの地理的条件や歴史の宿命的な力から決して逃れられない私たちが、ギリシャの救済計画を躊躇し続けたドイツ政府のように、普天間基地の移設問題を根本的に議論しないまま、アメリカ政府とも疎遠となる政権しか持てないとしたら、韓国と北朝鮮、中国、ロシアとの間にある困難な問題について、どのように解決すると信じられるでしょうか?
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1.ギリシャ、ギリシャ、ギリシャ?
2.アリゾナ州の非合法移民規制
3.朝鮮半島の再統一
4.イギリスの選挙
5.中国をめぐる論争点
6.日本政府の決断は?
7.国際金融システム改革
・・・海底油田の惨事を受けて ・・・タイ ・・・核のない世界 ・・・ネパール
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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
1.ギリシャ、ギリシャ、ギリシャ?
SPIEGEL ONLINE 04/29/2010
A Greek Test
Euro Fears Force Merkel To Act
By Philipp Wittrock and Severin Weiland
「ギリシャ政府を救済することは支持されないとわかっていたから、重要な州(North Rhine-Westphalia)の選挙がある5月9日まで、メルケル首相は危機救済の行動を延期したかったのだ。しかし、金融市場はドイツの国内政治など気にしない。彼女の行動の遅れはドイツに何十億ドルもの費用をもたらしただけだ。」
「マダム・ノン」と呼ばれ、ギリシャ救済を拒むことで人気のあった「鉄の首相」メルケルが、突如として、首脳会議のスピードアップを要請しました。すでにオバマ大統領からも電話があったことを公表しています。否定的な発言を繰り返したSchäuble財務大臣も、ECBのトリシェ総裁やストラスカーンIMF専務理事と話し合い、迅速な行動を支持するようになっています。
EUやドイツの行動の遅さ、逡巡を非難する声が強まります。救済融資の条件を厳しくしようとしたドイツの行動に、他のEU諸国は不満を述べています。
この記事は、今後3年に渡ってギリシャは1200億ユーロを必要とし、3分の2をEUが負担しなければならない。ドイツはその20%を負担するとして、160億ドルを支払わされる、という推定を紹介しています。
FP Friday, April 30, 2010
It's Greek to me
Posted By Stephen M. Walt
guardian.co.uk, Friday 30 April 2010
Angela Merkel is pushing Greece beyond the pain threshold
Kevin Featherstone
アテネでできた危機だけれど、ベルリンの強硬姿勢がそれを膨張させました。メルケルの態度は、もっと小さなユーロ圏を求め、ドイツ自身が離脱してもよい、という印象を与えました。ギリシャが今後数年間、厳しい不況を経験するという予測が出されたことは、昨年2月にユーロ圏内で最も高い成長率を期待できる国であったことからすると、余りにも離れた現実です。不況はギリシャの政治エリートへの不満を爆発させるでしょう。
ユーロ圏を守るためにも、ギリシャ政府が行動できるように、もっと支援を与えるほうが良い、と記事は主張します。メルケルはユーロを自己実現的なカオスに突き落としました。
SPIEGEL ONLINE 04/30/2010
Fears of Euro Zone Domino Effect
Will Greek Contagion Bring Portugal Down?
By Stefan Schultz
ポルトガルが、ギリシャ危機で神経質になった金融市場の圧力を受けても、危機を切り抜けることができるか、検討します。ポルトガルはギリシャより債務比率が低く、将来の必要資金も抑えられています。議会の多数を支配しない政権ですが、エネルギーや航空業の国営企業民営化などを含む、José Socrates首相の緊縮政策は、ギリシャ政府より信用されています。
WP Friday, April 30, 2010; A21
Leaving the euro behind?
By Sebastian Mallaby
ギリシャ悲劇? ・・・いや、喜劇だ。財政赤字を減らすために税もちゃんと徴収する、と言いながら、公務員の給与カットで徴税の担当者もストライキに参加しているのです。
ユーロ圏の国である以上、各国は合意されたルールによって財政赤字を削らねばなりません。あるいは、コスト削減の優れたドイツ経済と競争するために、民間企業の賃金を抑制しなければなりません。ギリシャはその失敗例です。もしギリシャを救済するなら、財政赤字や賃金上昇はユーロ圏内での抑制を失うでしょう。・・・危機はユーロに向かうのです。
NYT April 30, 2010
The Euro Trap
By PAUL KRUGMAN
為替レートによる調整を失えば、将来、危機が来たときにどうするのか? ユーロ懐疑論者は崩壊を警告しました。
「最近まで、私も含めて、アナリストたちはユーロ解体を事実上不可能であると考えていた。政府が離脱を示唆すれば、ただちに銀行の取り付けを招いたからだ。しかし、もし危機にある国がデフォルトを強いられたら、おそらく激しい取り付けが起きるだろう。そうなれば、彼らは預金封鎖のような非常手段を取るしかない。それはユーロから抜けるということにもなる。」
ギリシャ救済の決定的な行動を取らないまま、パニックが広がってユーロが崩壊する危険はあるでしょう。PAUL KRUGMANは、この問題をアメリカの財政赤字に結びつける人びとを批判します。
ギリシャ危機やユーロ危機が教えるのは、財政赤字が危機の原因だ、という原理ではなく、財政赤字は必ず悪で、いつでも削減しなければならない、という政策の拘束にしてしまう考え方の危険性である、と。むしろ、必要なら、じゃんじゃん貨幣を印刷しろ!
NYT April 30, 2010
The Cost of Delay
FT April 30 2010
Lessons for the Greek crisis from Philip II of Spain
By Alan Beattie
スペイン国王、フェリペ2世を思い出す・・・? なぜなら、彼は4度(1557,60,75,96年)も国債をデフォルトにしたからです。今や、豊かな諸国が深刻な財政赤字と危機を予想される時代です。
世界の歴史はデフォルトがあふれており、ギリシャ政府は公的部門のリーマンブラザーズになろうとしています。しかし、デフォルトにもいろいろあり、いつでも起きるというより、波のように起きるわけです。その理由も、あるときは戦争と軍備の維持、また、他の時代なら好景気と活発な資本移動が突然止まったという理由で。
危機を回避するいのは、景気が回復するのを待つ意味で正しいでしょうが、ユーロの意地でデフォルトを延期しているのであれば損失を増やすだけです。確かに流動性危機と支払不能危機とを区別することは難しく、債務組み換えや免除を安易に議論することはそれを促進するかもしれません。しかし、デフォルトと債務組み換えはパニックではなく、必要な調整過程の一部なのです。
「政府債務の組み換えは世界の終わりを意味しない。それはフェリペ2世の帝国を終わらせることもなかった。」
WSJ APRIL 30, 2010
Europe's Other Crisis
By MATTHEW KAMINSKI
EUの改革を推進するリスボン条約が成立して、漸くEUが前進したように見えたのですが、ギリシャ危機はその希望を打ち壊しました。ユーロ楽観論者のCharles Grantでさえ、EUの解体を予想しているといいます。ドイツとフランスが互いに公然と非難し合い、ギリシャ救済の合意もIMFを入れてようやくまとめました。
危機を繰り返してしかEUは成長できない、というのが最後の希望です。
WSJ APRIL 30, 2010
The Price of Greece
guardian.co.uk, Saturday 1 May 2010
Repeat with us: Spain is not Greece
Miguel-Anxo Murado
FT April 30 2010
Germans consider private Greek bail-out
By FT reporters and agencies
guardian.co.uk, Sunday 2 May 2010
Greece still has a choice
George Irvin
ドイツやIMFが要求するようなデフレ策を採らずに済む、他の選択肢があります。2001-02年のアルゼンチンです。公的債務をデフォルトにして、ユーロ圏を離脱し、「ニュー・ドラクマ」を導入して、通貨価値を50%以上切り下げます。
「8年前、アルゼンチンは公的債務の大部分をデフォルトにして、うまく生き延びました。多くのエコノミストの予想では、アルゼンチンのデフォルトが通貨の崩壊をもたらし、ハイパーインフレーションや1999-2002年の不況を超える生産の縮小をもたらすはずでした。しかし、2001-2002年のデフォルトとドルに対する切り下げ(ドルに対して1対1から3対1)の後、2003-07年の成長率は8%であり、インフレ率も2002年前半は月10%を超えていたが、年10%以下に下がった。2005年までに、キルチネル大統領は残された98億ドルのIMF融資を返済するほどの外貨準備を得ていた。・・・ヨーロッパの指導者たちは、1997-2002年のアジア、ロシア、ラテンアメリカの金融危機について調べてみた方が良いだろう。ノーベル賞受賞者のジョセフ・スティグリッツは、世界銀行の主任エコノミストを辞任する理由となった批判的な文書を公表したのは有名なことだ。世銀やIMFを批判した中で、もっぱら西側民間銀行のバランスシートを守るために、1997年、タイと韓国に、98年、ロシアに、過激なデフレ政策を押し付けた、と彼は述べた。そのコンディショナリティーのせいで、経済的・社会的な支出が削られ、一般市民が酷い打撃をこうむったのだ。」
つまり、国家は金融市場に支配されてしまった、ということです。市場参加者たちは、すでにギリシャ債券の減額や長期への転換を予想し、それは非常に危険で破滅につながる、という警告を自己実現的に進めています。しかし、さらに厳しい財政赤字の削減を強制しても、それが不況を悪化させれば税収は落ち込み、財政の均衡化に成功しません。
「考えられないことを考える時ではないか? 金融市場がわれわれの召使であって、われわれの主人ではない。」
guardian.co.uk, Sunday 2 May 2010
The divisive politics of the eurozone
Ilana Bet-El
政治同盟をともなわない通貨同盟は維持できない、と繰り返し批判されてきました。しかし、もちろん、EUは政治同盟です。問題は、それを日常的に実行する機関が確立されていないこと、また、政治指導者が戦後の最も弱い世代に代わったことです。
FT May 2 2010
Europe’s choice is to integrate or disintegrate
By Wolfgang Münchau
財政赤字、格付け低下、資本市場の売りによる高金利、財政赤字。これに、EUやIMFが巻き込まれて、緊急融資と財政赤字の削減、不況・失業と社会不安、資本市場の売りと資金不足、緊急融資と財政赤字の削減、に代わるだけです。そして、銀行部門も巻き込まれます。債券価格の下落、銀行の資産悪化、融資の抑制と資本市場の機能マヒ、債券価格の下落。・・・
ここでも指摘されるのは、アルゼンチンです。ただし、デフォルトに至る前に、固定レートをIMF融資で長引かせて、危機を拡大したことに学ぶべきだ、と。債務削減を避けられません。徐々に行うより一気に、最終的に債務額を累積するより、早期に行うべきです。
ギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランドの資金需要を保証するのに必要な額は、5000億から1兆ユーロだろう、と推定します。このまま放置すれば、金利上昇によって民間部門は破綻し始めます。
中期的に、ユーロ圏は生き残るでしょう。その場合、危機介入システム、財政政策の協調、ユーロ圏内不均衡の調整政策、は制度化されていなければなりません。そして将来は、ユーロ圏が完全に財政統合し、単一のユーロ債を発行しているでしょう。
「それ(財政統合とユーロ債券)は政治的には非現実的であるが、望ましいことだと私は考えていた。今では、それ以外の選択肢はない、と確信している。政治同盟を欠いた通貨同盟の実験は失敗した。EUは歴史的選択に直面している。統合か、解体か?」・・・ ユーロ危機の結末はどうなるか? ギリシャは債務を組み替えて、穏健なデフォルトが認められる。
FT May 2 2010
Merkel’s moment
guardian.co.uk, Monday 3 May 2010
How will Greece's tragedy end?
Matina Stevis
小説仕立てに考えてみれば・・・ 「2011年5月、アテネは初夏の日差しのおかげで暖かい。い年前の同じ5月、EUとIMFは債務危機に苦しむギリシャに1200億ユーロの融資を認めた。危機はユーロ圏のすべてを破滅に押しやっていた。」
この話は、危機後のギリシャとヨーロッパが大きく社会・政治情勢を改善させるか、あるいは、破滅するかが、政治指導者も含めて、自分たちの決断にかかっている、と訴えます。
「ギリシャの奇跡」としてマクロ経済学の教科書に取り上げられるような推移とは、ギリシャ人が新しい現実に適応することを見事に成し遂げた場合です。たとえば、緊縮政策の一環で採用した燃料税の引き上げは、人びとを公共交通手段の利用に向かわせます。社会サービスの公的部門が削減された結果、多くの自営業者が参入して成功し、2012年の景気回復を準備します。
あるいは、全く逆のことが起きるかもしれません。政権は迷走し、失業率は上昇し続け、優秀な人材はすべて海外に向かいます。経済は2年続けて5%も縮小し、人びとは債務を返済できず、銀行も破綻します。不安から人びとの支出は必需品に限られ、不況を長引かせます。ストライキとデモが毎週行われ、闇経済がさらに肥大化します。スキャンダルが次々に暴かれて、政治は混乱します。
「2011年5月にアテネがどうなっているかを決めるのはギリシャ人自身である。首相に始まって、すべての市井の納税者がこれを決めるのだ。ギリシャはポストモダンな外国による占領統治になった、と不満を漏らすものも多い。しかし実際は、この数十年間で初めて、ギリシャの異なる進路を選択する力がギリシャ人自身の手に委ねられたと言えるだろう。」
guardian.co.uk, Monday 3 May 2010
Greece: EU must prevent social domino effect
Janis Emmanouilidis
危機の「伝染contagion」、そして「ドミノ」がすでに始まっています。ギリシャ人の多くが根本的な改革の必要を認めています。しかし、改革には痛みが伴い、景気が回復するまでの時間を耐えることは難しいでしょう。
「政策担当者や評論家たちは、政策の経済的側面だけでなく、社会的・政治的な結果を、また、迅速に断固とした行動を取らない場合の超国家的なコストを、考慮する必要がある。」・・・「最悪の事態を回避する責任は、ヨーロッパ市民と指導者たちにある。」
SPIEGEL ONLINE 05/03/2010
The Mother of All Bubbles
Huge National Debts Could Push Euro Zone into Bankruptcy
ギリシャ危機は、その始まりにすぎません。世界には、返済不能になる公的債務が急速に増加しつつあります。
ギリシャとIMFとの融資交渉は、ギリシャ政府のエコノミストRobolisとIMFの担当者Thomsenの対決でした。しかし、すでに脳死状態にあるギリシャに対して賃金カットなど要求するな、アルゼンチンのようになるぞ、というギリシャの主張を、IMFは無視しました。IMFは、ユーロ圏の救済、金融市場の鎮静化を目指しているのであって、ギリシャ危機の長期的な解消策を描くわけではないのです。
今や、債務が支払われねばなりません。問題は、誰が支払うのか、です。
「リーマンブラザーズとの類似性は驚くほど明確だ。」・・・「世界は今や銀行の債務ではなく、政府の債務によって脅かされている。その債務には、1年前に銀行を救済した際の債務も含まれる。」 銀行の危機や住宅債務の問題は、救済策や不況回避策を経て、政府債務の膨張に代わりつつあります。
救済が成功しなかった場合、どうなるか? ギリシャが改革に失敗し、債務は返済されない。ユーロ圏は解体し、むしろ救済した側が債務危機を輸入してしまいます。・・・アメリカの赤字を中国は支え続けるのか? 慢性的な財政赤字を日本は逆転できるのか? 国際金融市場に不安が高まれば、こうした問題も一斉に悪化し始めます。
アメリカ政府がドイツ政府に迅速な処理を求めたのも、アメリカ自身が債務危機に感染する懸念を持つからです。防衛予算、年金・教育など、社会的支出、そして医療保険、です。もしアメリカの財政赤字が維持できないとすれば、その国際的な関与も低下するでしょう。これまでは、「アジアがアメリカに無制限の信用供与を与えてきた。」 しかし、住宅価格の上昇と同様に、それは無限に続かないのです。
アメリカについても、歴史家のNiall Fergusonのように、過去の帝国崩壊と比較する意見が強まります。日本、イギリスも同様です。増税や公的部門の縮小など、債務の削減が困難であれば、プリンティング・マネーとインフレによる債務の実質削減が促されるでしょう。もちろん、インフレが手段として管理できない、という問題は解決されていません。
債務や財政赤字削減は成長を奪いますが、成長しなければ債務は減らせません。債務の組み換えとインフレ政策が、答えになるか?
SPIEGEL ONLINE 05/03/2010
110 Billion Euro Package
EU Agrees to Prop Up Greece
By Carsten Volkery in London
WP Monday, May 3, 2010; A15
Is austerity a Greek myth?
By David Ignatius
May 4 (Bloomberg)
How Investors Can Profit From Break-Up of Euro
Matthew Lynn
May 4 (Bloomberg)
Euro Is in Fiscal No Man’s Land
Jonathan Story and Ingo Walter
問題は、ユーロ統一による周辺部のバブル経済と、ドイツの輸出型成長に負けないEU内の需要増加、そして、それを制約する財政の不統一と安定・成長協定です。
解決策は、ユーロ圏をドイツ中心の強いユーロ圏と、地中海沿岸の弱いユーロ圏に分割することです。あるいは、両社がよく話し合って、統一した財政システムを築くことでしょう。
guardian.co.uk, Tuesday 4 May 2010
With Greece, don't believe the fights
Kat Christofer
SPIEGEL ONLINE 05/04/2010
Strikes in Greece
Civil Servants Rebel Against Austerity Measures
By Björn Hengst in Athens
FT May 4 2010
A bail-out for Greece is just the beginning
By Martin Wolf
「二つの点に注目すべきだ。第一に、債務の組み換えはない。第二に、ECBは」その買いオペからギリシャ政府の保証する資産を外した。「脆弱なギリシャの銀行に対する生命線を切った。」
ギリシャが金融市場から締め出された以上、政府間の融資に頼るか、それ以外に残された選択肢はデフォルトです。しかし、それは一挙に債務利払いを停止できますが、同時にGDPの9-10%に達する予算赤字を均衡させなければなりません。それは合意した融資条件よりも厳しいものです。また、デフォルトは銀行の破たんにもなります。
しかし、ギリシャはこの融資を返済できるか? 債務負担は重すぎるし、返済の条件となっている経済成長は回復しないでしょう。債務の組み換えは避けられません。
財政再建に成功した高所得国の三つのケースCanada (1994-98), Sweden (1993-98) and New Zealand (1990-94)について、Willem Buiterの研究があります。しかし、それらは世界の好景気に支えられました。ギリシャの場合、1980年代、ラテンアメリカの債務危機に近い、とMartin Wolfは考えます。すなわち、ギリシャは「失われた10年」を迎え、外国の債権者・銀行が利益を得ます。ギリシャの市場復帰は遅れ、最終的な費用はかさむでしょう。
ユーロ圏の他の赤字諸国は、危機の波及を抑えるものの、救済されたのは銀行だけです。各国の経済は厳しい条件を受け入れられず、自分たちで財政再建するしかありません。彼らの状況は英米と同じですが、利用できる政策手段は限られています。
ユーロ圏にとっては、今後、デフォルトを許容するか、ユーロ圏内の財政統合(厳しい規律と2兆ユーロの基金、デフレを緩和するコア諸国の調整政策)を進めるか、です。ギリシャ危機は予想されたことであり、それでもユーロ圏が存在している以上、改革を進めるしかないのです。これはまだ、その始まりを告げる危機なのです。
FT May 4 2010
The message from Berlin that Europe failed to grasp
By Adam Tooze
危機が示したのは、ドイツの政治的な変化でした。ドイツの大連立政権は組み直され、明確に保守派が政治指導体制を確立しました。そして、圧倒的多数で財政均衡が憲法に明記されたのです。財政安定化を目指して、ドイツが安定成長協定を一方的な再解釈したことがもたらす劇的な効果を、世界は気付きませんでした。タカ派の憲法裁判所もギリシャへの支援をドイツの失業給付と二者択一とみなしています。ユーロ圏の政治的意志決定は独仏の激しい対立に向かいました。
そこには歴史が影響しています。FTのWolfgang Münchauは、そうしたドイツの粗野な経済思想の背景を「近代信用システムに対する隔世遺伝的な嫌悪」と呼んでいます。Adam Toozeは、それとともに、高齢化の不安や、再統一後のドイツがグローバリゼーションに適応しようとした「ドイツ・モデル」への批判を受けて、一層の転換を目指した、と指摘します。
平和の報酬を生かし、完全な脱軍事国家や温暖化防止に指導力を発揮し、経済政策面ではアデナウアーやエアハルトの古典的政策に回帰した、というわけです。英米のネオリベラリズムを拒み、1950s・60sの輸出による成長モデルをユーロ圏内で実現します。それは結局、ユーロ圏内の他国に低金利による消費を刺激しつつ、ドイツでは賃金を抑制して輸出を増やす、という不均衡の蓄積メカニズムでした。
North Rhine-Westphalia州の選挙は重要です。保守政権の成否が問われているからです。また、ドイツの財政赤字は連邦政府ではなく州や大都市の問題です。「ギリシャとカリフォルニアの債務を比較する議論があるけれど、GDP比で見れば、シュワルツェネッガーの州よりも、ドイツのベルリン、ブレーメン、Sachsen-Anhaltの債務の方が、4倍から6倍も重い。」 メルケルの連邦政府が財政再建を争う相手は国内にいるわけです。さらに、財政再建のイデオロギーは、温暖化防止の「持続可能性」から借りたものです。環境政治と重ねて国民の支持を集めます。
「財政再建はもちろん行わねばならない。しかし、協調して。他国が削減するとき、ドイツの役割は成長を牽引する機関車であるべきだ。低インフレの輸出による成長モデルは、1945年の破滅に瀕したドイツにとって適当な政策であった。それはアメリカの赤字を受け入れる政策に助けられて、ブレトン・ウッズ体制にとどまれた。2010年に、ユーロ圏のアンカーであるドイツにとって、そのような政策は適当でない。」
FT May 4 2010
Triple A decision
FT May 4 2010
Italy: Much to play for
By Guy Dinmore
LAT May 5, 2010
Greece's lessons for us
guardian.co.uk, Wednesday 5 May 2010
Reform the euro or bin it
Joseph Stiglitz
ギリシャの財政危機はユーロの生き残りをかけている、と言われるけれど、どういう意味でしょうか? Joseph Stiglitzに言わせれば、それはデフレの悪循環を緩和する仕組みがないことです。
R.マンデルの最適通貨圏論を挙げて、単一通貨が機能するためには労働市場の統合が重要だ、と指摘します。確かにヨーロッパは法的な障害を取り除きましたが、言語的・文化的な違いが大きく、アメリカと同じ労働移動は望めません。
ヨーロッパの諸国が直面する問題は深刻です。たとえばスペインの失業率は20%に達し、若者に限れば40%が失業している、というのです。金融危機の前、財政は黒字でしたが、今ではGDP比11%の赤字です。EUのルールに従えば財政支出を削らねばならず、一層の失業が生じます。それは景気を減速させ、財政を改善するとしてもわずかでしょう。
ギリシャの財政危機がユーロ圏の協調をもたらすと期待する者もいますが、ドイツが拒む中では支援策が決まりません。Joseph Stiglitzは、「巨大銀行を救済するために何十億ドルも支出したのに、人口1100万人のギリシャを救済することはタブーである」と憤慨します。また、ギリシャ救済策をこうした支援と呼ぶべきかどうかも疑問を示します。なぜなら、AIGは受け取った資金を返済しないだろうが、ギリシャへの融資は十分な金利によって返済されるからです。
15年前にアメリカがIMFやG7と組んでメキシコに緊急融資を行ったように、EUもIMFとギリシャに融資します。その条件とデフレ的な影響が問題です。
世界的に見れば、アメリカは中国の経常(貿易)黒字を批判しています。しかし、GDP比で見れば、ドイツの方が黒字に依存しているのです。しかも、ユーロ圏は全体として対外均衡を実現しており、ドイツの黒字をもたらしたのはユーロ圏内の赤字諸国です。アメリカは人民元を批判できますが、ユーロ圏内では為替レートがありません。もし為替レートがあれば、ドイツの通貨は増価して輸出を抑え、赤字国では減価して失業を減らせたはずです。
J.M.ケインズが指摘したように、黒字は世界需要を減らします。黒字国は「マイナスの外部性」を輸出するのです。赤字国ではなく黒字国こそ、世界の繁栄にとって脅威である、とケインズは考えました。要するに、Joseph Stiglitzにとって、現在の枠組みは受け入れるべきではないのです。
そこで、三つの対応を考えます。第一に、ギリシャが賃金を一律にカットして、為替レートの代わりに輸出を増やすことです。しかし、これは実現できないし、その社会的な負担も受け入れがたいものです。
第二に、ドイツがユーロを離脱する、もしくは、ユーロ圏を分割する、という提案です。それは興味深い実験ですが、1992年の危機が示したように、為替レートは必要な制度を欠いては機能しません。そこで第三の提案、ヨーロッパが制度改革を実行する、となります。それはユーロが誕生するときに作っておくべきであった財政的な枠組みです。
ヨーロッパは、その理想や連帯感に従って改革を進めるべきでしょう。そうでなければ、デフレの悪循環を強制するのではなく、失敗を認めて離脱を助けることです。
FT May 5 2010
Europe finds the old rules still apply
By Kenneth Rogoff
ユーロ圏が利用できた金利水準は、国によっては低すぎた、と反省しているでしょう。これは、かつてヨーロッパ諸国がアメリカを批判した問題です。準備通貨を発行できる国は低金利で消費を過剰に維持し続ける、と。
ヨーロッパは、為替レートを廃止して、遅れた国を同じ通貨圏に早く入れ過ぎた、とKenneth Rogoffは批判します。新興市場の地位から「卒業」するには、およそ75年かそれ以上かかるものだ、と。「ユーロ圏の実験とは、この卒業過程を、アメと鞭を使って、短縮できる、というものである。」 アメは単一通貨、すなわち、ユーロの低金利であり、鞭は救済融資の禁止、もしくは金融市場の規律です。しかし、ギリシャはGDP比率でも、対外債務比率でも、余りにも赤字を債務で処理していたのです。
歴史的な経験に照らせば、ユーロ圏の周辺諸国は大幅な債務削減を避けられません。
FT May 5 2010
Divided, Greece is bound to fall
FT May 5 2010
Greece: A Heraclean task
Ralph Atkins and Kerin Hope
「世界が期待しているのは、(EUとIMFによる融資と)全く異なるパラダイムだ。ギリシャ政府が財政を立て直し、債務の水準が制御不能になるのを止めるだけでなく、競争力を失い続けた数月を逆転させて、新しい成長モデルを見つけることだ。」
改革の厳しい条件と課題を整理しています。
SPIEGEL ONLINE 05/05/2010
The World from Berlin
German Banks 'Will Emerge Unscathed' from Greek Bailout
SPIEGEL ONLINE 05/05/2010
The Great Depression
Greeks Struggle with Sick-Man Status
By Björn Hengst in Athens
LAT May 5, 2010
When Other People's Money runs out
Daniel Akst
「2008年、アメリカ資本主義が自殺しかけたとすれば、今、ヨーロッパの福祉国家が自己崩壊するのは確かなようだ。しかもスローモーションで。」・・・「どちらも、過剰、に関係がある。一方は資本主義の過剰。他方は社会主義の過剰。」 そして、どちらも他人のカネを使って儲けるプロたちだ。OPM(Other People's Money)の使い過ぎである。
投資銀行ではなく、たとえ政府が有権者のために使ったとしても、福祉国家の自己満足は民主主義の下で緩やかに危機をもたらしました。
背景となったのは、グリーンスパンと中国共産党の進めた“easy money”(金融緩和)政策です。ヨーロッパでもユーロ圏が政治家たちによって拡大され、繁栄だけを約束されていました。しかし、アメリカでもヨーロッパでも各地の政府は財政破綻し、納税者たちが反乱を起こしています。
WSJ MAY 5, 2010
The Greek Bailout Flop
The Times May 6, 2010
Greece’s Trauma, Europe’s Malaise
危機は、ユーロ圏が最適通貨圏ではないことを明確に示した。
guardian.co.uk, Thursday 6 May 2010
The task appears Sisyphean. But don't write Greece off
Alexis Papahelas
「ショック療法に社会は暴力的に反応するであろうか?」と問いつつ、ギリシャ人として、30年に及ぶ政治腐敗を一掃して、国家を再建したい、と述べています。
「ギリシャは今もまだ蛇口を閉めるシステムがない。異なった大臣の下に多くの被雇用者がおり、異なった部局間で国家の資金がどのように分けられるのか、わからない。汚職や政治的な縁故関係を隠ぺいするために、そのような不透明なシステムが何十年も政治家や公務員によって守られてきたのだ。問題は、平均的なギリシャの有権者も、職を世話したり、公務員に永久就職を与えてくれる限り、このシステムに満足していたことだ。政治家たちは、政府省庁でも市町村でも、あらゆるレベルでパーティーを続けた。彼らは新しいポジションを増やし、ますます多くの資金を借り、管理も評価もなしに、財政の制約を無視していた。」
人びとはスキャンダルに飽きて、政治を軽蔑し、無関心でした。しかし、この腐敗に満ちたシステムが機能しないとわかって初めて、人びとは憤慨し、抗議しています。システムを変えるには苦痛が伴い、しかもその負担は不当な形で求められています。ポピュリスト的な怒りが改革を押し流してしまうかもしれません。蓄積された問題があまりにも多く、ユーロにとどまることで改革を進めたい、と願うPapandreou首相は困難な立場にあります。
guardian.co.uk, Thursday 6 May 2010
Greek debt crisis: coalition won't solve anything
Matina Stevis
The Guardian, Thursday 6 May 2010
Greece and the single currency: Europe's existential crisis
FT April 30 2010
A rare interview with Jürgen Habermas
By Stuart Jeffries
16カ国に及ぶ4億人の経済を動かすユーロに生存の危機が迫りました。メルケル首相の言葉に勢いが増すのは当然です。左派から右派まで、ユーロを支持した理由は世界資本主義への防波堤でした。しかし、先の金融危機にも、ギリシャの財政危機にも、ユーロの枠組みはその限界をさらしています。
The Guardian の論説は、ユーロ支持派の哲学者ハーバーマスJürgen Habermasのインタビューに言及していました。それはFT April 30 2010にあります。ハーバーマスの偽物がトウィッターTwitter上で発信したからです。“Like Apple co-founder Steve Jobs, Zimbabwean president Robert Mugabe and former US secretary of state Condoleezza Rice before him, Habermas had been ‘twitterjacked’.”
しかし、80歳の高名な哲学者がトウィッターで討論を始めたら、さぞ面白いのではないか? そして、彼の「公共圏」や「民主主義」が、インターネットの情報や国籍を持たない世界市民にあふれる現代で、積極的に再定義されて行きます。電子的に結びついた遊牧民たち。
ハイデッガーやアドルノの後に、ハーバーマスの哲学が、絶望する以外に、積極的に試みる政治的関与として、インタビューはギリシャの危機とヨーロッパ統一に向かいます。国際法から逃れられず、無実を信じられない、20世紀の大量殺戮に対して、ナショナリズムという枠組みを超えるヨーロッパ統一という政治課題を、彼は政治家たちに示したのです。すなわち、より統一したヨーロッパがアメリカと協力して、世界に平和的な秩序を実現する、と。
こうしたハーバーマスにとって、ギリシャ危機は政治的に統一を進める効果を持つ、と見えます。ドイツ政治に復活したナショナルな自己への回帰、そして、ヨーロッパ統一の意志がエリートに限られる現実を警戒しつつも、彼は新しい「公共圏」の創出に挑むのです。
「何度も何度も、市場と政治との間で、政治的コミュニティーの市民相互間に生じる社会関係のネットワークが修復不可能なほど破壊されないように保証するため、十分な均衡が達成された。このリズムに従って、金融市場に導かれた現代のグローバリゼーションも、次には、国際社会の強化に向かうだろう。」
SPIEGEL ONLINE 05/06/2010
Rampant Skepticism
Aid for Greece Hasn't Stopped Euro's Slide
By Michael Kröger
SPIEGEL ONLINE 05/06/2010
Interview with Portugal's Labor Minister
'We Want to Get the Budget Under Control'
Labor Minister Helena André
FT May 6 2010
Markets plunge on Europe’s debt crisis
By Tony Barber in Brussels and Quentin Peel in Berlin
FT May 6 2010
Greek deal lets banks off the hook
By Arvind Subramania
ギリシャ危機の処理には、ドイツだけでなく多くのヨーロッパ主義者が心情を共有していました。「デフォルトも、救済も、離脱もない」“no default, no bail-out, no exit”という解決策です。それが、秩序正しく債務を組み替え・削減するという正しい答えを閉め出したのです。それは、銀行にも、納税者にも、企業にも、損害を与えない、という理想的な解決の条件でした。
今や調整コストはEU諸国と国際社会に分散されました。中国やインド、ブラジル政府が(IMF融資を介して)負担する一方で、最大の債権者である銀行は負担しません。これら最も裕福な金融機関が無思慮にも行った、利益の大きなギリシャ向け融資や投資が何ら負担を求められなかったことは、「インモラル・ハザード」と呼ぶべきです。またもや金融ビジネスは利益を保持し、地球の裏側まで、納税者たちが負担を強いられたのです。
しかも、金融ビジネスに関わる彼らこそがIMF融資の失敗を予想して負担を増しています。債務の削減は、切下げができないユーロ圏においてはますます強く求められるでしょう。
Arvind Subramaniaは、救済計画の内容を検討しています。この融資を受ければ、1.ギリシャは3年間の激しい生活水準悪化を黙認し、2.債務のGDP比率はさらに上昇して、3.銀行が返済条件の見直しを受け入れるようになる、というわけです。
IMFはむしろ、秩序ある債務組み換えのモデルを示すことができたでしょう。おそらく、IMFの裕福な加盟諸国が利益とみなすものを守って、IMFはその機会を失いました。
FT May 6 2010
ECB dashes hopes of swift anti-contagion action
By Ralph Atkins in Lisbon
WSJ MAY 6, 2010
The ECB's Independence Is in Jeopardy
By MARCO ANNUNZIATA
結局、ギリシャ債務は貨幣化されるでしょう。政府は納税者の不満を抑えられず、ECBに圧力をかけて金融緩和や救済支援に資金を供給させるのです。そして、EUでもアメリカでも、インフレや減価が債務返済を促します。犠牲となるのは、中央銀行の独立性です。
2.アリゾナ州の非合法移民規制
LAT April 29, 2010
Legalization must be part of immigration reform
Tomás R. Jiménez
NYT April 30, 2010
Stopping Arizona
FT April 30 2010
Arizona moves the boundaries
By Christopher Caldwell
SPIEGEL ONLINE 04/30/2010
Immigration in the US
'Arizona May only Be the Beginning'
Jens Hainmueller
「アメリカ人は移民の流入を抑えたいのでしょうか?」・・・「歴史的に見て。この動きは当然である。外国生まれの人口はこの数10年で劇的に増加した。1970年には5%であったが、2007年には13%に達した。その数は3900満員で、1930年に国勢調査を行うようになって最高の水準だ。当時も、政策担当者たちは国民の不満をそらすために移民流入の抑制策を取り、その後の数10年は減少した。だから、現在の激しい移民論争は、その始まりにすぎない。」
しかし、技術者などの移民は広く支持されています。今後もアメリカの移民政策の論争は続き、高齢化・少子化の進むドイツでも必要です。
LAT May 1, 2010
Razing Arizona law
Tim Rutten
WP Saturday, May 1, 2010; A14
What's threatening about European attacks on Muslim veils.
FT May 2 2010
A great pretence that crosses borders
By Clive Crook
FT May 2 2010
US immigration: Flagged up
By Anna Fifield and Matthew Garrahan
外見で疑わしい者を、つまり、ヒスパニック系の住民も含めて、非合法移民ではないかとチェックするように求めるアリゾナ州でできた法律が、アメリカの移民論争に論点を追加しました。フェニックス、サンフランシスコから、ニューヨークまで、70の都市で抗議のデモがありました。ロサンゼルスでは約6万人が参加した、と言います。
「移民はアメリカ社会のほとんどあらゆる面に影響する問題である。国防、税制、医療保険、教育まで。ほとんど誰一人現状に満足していない。労働者が足りない農場も、仕事を求めて競争する失業者も。しかし、この問題はアメリカを最も激しく分断し、感情的な論争を招き、包括的な改革を何十年間も大統領は避けてきた。共和党も、民主党もそうだ。」
最大のマイノリティーとなったヒスパニックについて、すべての党派が意識しています。法律の支持者である共和党の上院議員は、「アリゾナは中国からの非合法移民の流入に苦しんできた」と答えています。アリゾナというのは、マーティン・ルーサー・キング牧師の祝日にも反対していた州です。
移民に関する法律や規制はますますパッチワークとなって、人びとの不満を強めます。包括的な連邦の移民法改正が必要ですが、共和党は移民に反対する保守派に対して言い訳を必要としており、民主党は高い失業率に阻まれて、改革を支持できません。非合法移民に対する不満が強い南部では、特にそうです。
支持派から見れば、人権の面だけでなく、経済活動や財政再建の面でも、非合法移民の合法化はアメリカにとってプラスです。費用をかけて国外追放するなど、考えるのも愚かなことです。また、どれほど改革が困難でも、有権者のますます重要な割合を占め、勝敗を決定する「浮動票」であるヒスパニック系住民を無視できる政治家はいません。
NYT May 3, 2010
The Borders We Deserve
By ROSS DOUTHAT
「ナチ」、「ファシスト」、「警察国家」、「アパルトヘイト」、といったアリゾナ州法改正への非難が起きています。アメリカが移民を擁護する道義的な理由は明らかです。しかし、今のシステムは間違っている、とROSS DOUTHATは主張します。
「もっと世界が良い状態であれば、アメリカは毎年何十万人も多くの合法的な移民を、もっと様々な国から、受け入れるだろう。もっと多様な移民が来れば、自分たちだけで集まってしまう隔離は減り、同化を促すだろう。スペイン語を公用語にしろという要求もなくなり、保守派の反発も少なくなる。低熟練移民を集めるのではなく、もっと高熟練労働者の応募が増え、アメリカは競争力を高め、しかも階層的でなくなる。」
国境を正しく管理し、非合法移民を止めるべきだ。連邦政府が行動しないから、住民たちが行動する。ファシストと叫ぶより、アメリカ人にも移民たちにもふさわしいシステムを実現せよ、と。
FT May 4 2010
Immigration mess
LAT May 5, 2010
On immigration, it's up to Washington
Tim Rutten
3.朝鮮半島の再統一
WSJ APRIL 30, 2010
The North Korea Endgame
By NICHOLAS EBERSTADT
最近の韓国哨戒艇沈没を受けて、アメリカと同盟諸国は北朝鮮に対する扱いを検討する中で、金正日の扱いをめぐってだけでなく、もっと長期的な、北東アジア地域の将来の安全保障を考える方向に転換すべきだろう、と考えます。すなわち、朝鮮半島の再統一が究極の目的なのです。もちろん、民主的で、市場に導かれた共和制を持つ、韓国がアメリカの同盟国として残る形で。
近隣諸国がそれを受け入れるのは、それが最善と信じるからではなく、他の選択肢がもっと悪いからです。「アメリカでも、韓国でも、日本でも、西側の政治指導者たちは朝鮮半島再統一の機会が、いつ、どのように生じるか、何も考えていない。一世代前のヨーロッパと同じだ。ドイツ再統一の直前でも、そうだった。」 準備しておくべきだ、と。
FP Tuesday, May 4, 2010
South Korea’s time for doing nothing
Posted By Ian Bremmer
By Abraham Kim
韓国の水夫たちが46人も死んだ、というのは、北朝鮮が、国際社会の人道支援やエネルギーの提供を受けられないことには我慢ならない、という不満を告げるための攻撃であったというシグナルを発したのでしょうか? しかし、韓国や国際社会は、北朝鮮に対する交渉の圧力になる手段を何にも持っていません。安全保障理事会の制裁も機能せず、中国の態度だけが重要です。
モスクワ近郊で墜落したポーランドからの飛行機事故に対するロシア政府の対応と比べて、アジア情勢の不透明さと不安は深刻です。
しかし、韓国も含めて、米中日は世界金融危機からの景気回復に最大の歓心を共有しています。北朝鮮の問題で景気回復が脅かされることは望みません。つまり、当面、重要なのは韓国債の信用格付けや、G20の成功です。
FT May 5 2010
The fantastical dream of a united Korea
By David Pilling
東西ドイツの再統一は韓国を再統一に慎重にさせましたが、ギリシャ危機はさらにその姿勢を固めたかもしれません。
韓国の国民は再統一を受け入れることに慎重です。たとえ北から脱出した同胞が、複数の国を経て南に来ることができても、5000万人の中の1万5000人に対する支援をむしろ減らそうとしています。ドイツの東西格差は3倍程度でしたが、朝鮮半島の南北格差は15倍とも、20倍とも推定されています。
哨戒艇の沈没についても、韓国政府は慎重な調査に時間を費やし、言葉はともかく、軍事的な報復は取れません。統一の夢は捨てないが、その取り組みは進めたくない、と。
中国は金正日を北京で歓待し、北朝鮮の港を近代化する投資を約束したということです。北朝鮮が貿易や投資で中国に依存するようになれば、より強い影響を及ぼせるからです。
中国の影響が次第に強まることに対抗策を取るとしたら、韓国には再統一という夢、もしくは「悪夢」しかないはずです。わずか60年ほどを除けば、3000年におよぶ統一国家を形成した人びとが、攻撃や制裁を議論するより、韓国の李大統領は再統一を掲げてはどうか、と。
WSJ MAY 6, 2010
Korea Takes Up the Mantle of Leadership
By MICHAEL AUSLIN
アメリカは日本の安全保障政策に不満を強めるだけでなく、アジア情勢を安定化させるために韓国や日本と協力関係を強化する必要を外交の前面に据えるときです。韓国の指導者は日米関係の悪化を懸念し、協力の機会をつかむ用意があります。普天間も、ミサイル防衛網も、哨戒艇沈没も、東アジア安全保障の一部なのです。
4.イギリスの選挙
guardian.co.uk, Sunday 2 May 2010
Finance is responsible for this savage new era. But it's off the electoral agenda
Madeleine Bunting
FT May 3 2010
Why British foreign policy will not change
By Chris Patten
The Times May 4, 2010
The Economy and the Election
LAT May 4, 2010
A potential watershed in British elections
WP Thursday, May 6, 2010; A19
Two countries, one looming political test
By David S. Broder
The Times May 7, 2010
The Road Ahead
5.中国をめぐる論争点
FP MAY 3, 2010
Don't Believe the Shanghype
BY CHRISTIAN CARYL
WP Monday, May 3, 2010; A15
A new economic world order?
By Robert J. Samuelson
世界の景気や雇用が回復する過程で、新しい世界経済秩序が登場します。キャタピラー社がそうです。利益を回復したのは、発展途上諸国からの需要が大きかったからです。輸出が伸びて、雇用も増やす。ただし、アメリカでは600人だけ。2008年後半から、すでに1万人をレイオフしました。
これが世界の持ち望む「均衡回復」です。アメリカの消費者はエンジンでなくなりました。ギリシャ危機も、すべての裕福な諸国が用意する財政危機の助走です。均衡回復は新興世界、アジア、そして、中国から起きます。
Arvind Subramanianによれば、これは古典的な「キャッチ・アップ過程」である。しかも二段階の。「第一段階は、各国がホッブスの境界を超える。」 すなわち、強力な政府が現れて、治安と衛生、法律や所有権を守らせる。その安定性が、第二段階を実現する。「市場が機能し、標準的な経済的価値が実践される。」 すなわち、インフレ抑制や財政規律。アフリカやラテンアメリカはまだ部分的にしか第一弾化を超えず、中国やインドは第二段階を迎えている、と。
この世界秩序の移行を平和的に達成するには、人民元の為替レートを調整するべきだ、とRobert J. Samuelsonは考えます。
WSJ MAY 4, 2010
At Sea With China
By PETER DUTTON
WSJ MAY 4, 2010
The Axis of Grudging Cooperation
By G. PARTHASARATHY
FT May 4 2010
Are fears of China’s overheating overdone?
By James Kynge
WSJ MAY 5, 2010
China's Systemic Risk
WSJ MAY 6, 2010
The Irrelevant Yuan?
By JOSEPH STERNBERG
WSJ MAY 7, 2010
China's Social Powder Keg
6.日本政府の決断は?
FT May 5 2010
Hatoyama’s retreat
LAT May 6, 2010
Another battle of Okinawa
By Chalmers Johnson
WSJ MAY 7, 2010
Solving Tokyo's Nuclear Conundrum
By GEORGE PERKOVICH
7.国際金融システム改革
guardian.co.uk, Saturday 1 May 2010
IMF proposals get the big picture right
Kenneth Rogoff
Kenneth Rogoffは、IMFが提案した金融部門への課税を、それがモラル・ハザードを防ぐために必要だ、と支持します。債務国の政府にIMFが求める緊縮政策が融資条件・コンディショナリティーではありません。
「半世紀に1回しかない、GDPの数パーセントという金融危機について自分たちに課税するのか?」という反対が起きています。
しかし、危機に対して納税者の負担は国民所得の4分の1にもおよび、たとえ「救済」が成功しても、不況やその後の低成長で失われる生産と雇用に苦しみます。巨大銀行を一つ分割すればよい、という評論家たちの雰囲気は間違っています。多くの中規模の銀行にリスクが蓄積されれば、政府が救済に向かうしかないという圧力を生じます。
Kenneth Rogoffは、金融不安に応じて株式に転換される債務を制度化することにも、金融ビジネスの利益やボーナスに対して臨時の課税をすることにも、否定的です。さまざまな工夫で危機が自動的に処理できるという楽観を否定しています。むしろ、国際競争を理由にして金融ビジネスの規制や課税を好まない英米が、危機によって税制を改め、規制を強めて、バランスを回復するように求めます。
guardian.co.uk, Monday 3 May 2010
Cliches won't fix the financial crisis
Dean Baker
guardian.co.uk, Tuesday 4 May 2010
Trading away financial stability
Kevin Gallagher
SPIEGEL ONLINE 05/05/2010
Whether Oil Slick or Financial Crisis, Those Who Cause Catastrophes Should Pay
By Christoph Schwennicke
NYT May 5, 2010
The Hard Work on Financial Reform
guardian.co.uk, Friday 30 April 2010
Oil spill is BP's wake-up call
John Sauven
FT May 2 2010
US must learn from oil disaster
Times Online May 2, 2010
Troubled Waters
NYT May 5, 2010
No Fooling Mother Nature
By THOMAS L. FRIEDMAN
FT May 5 2010
BP is drilling itself into deep water
By John Gapper
FT May 2 2010
Thai demands for a voice must be met
FT May 3 2010
Thai PM offers to hold November election
By Tim Johnston in Bangkok
FT May 3 2010
A nuclear-free world? No thanks
By Gideon Rachman
WSJ MAY 7, 2010
Striking at Nepal's Democracy
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The Economist April 24th 2010
The outlook of the world economy: Curb your enthusiasm
Goldman Sachs and the SEC: Greedy until proven guilty
The IMF and taxing the banks: Stick ‘em up
Banyan: Bloody shirts in the city of angels
Germany and Afghanistan: What is this thing called war?
Economics focus: Surplus ca change
(コメント) 世界経済の回復は歓迎されるべきですが、地域によるバラバラな回復過程、公的債務、ギリシャ危機の次、資本移動、為替レートの調整、新興市場のインフレとバブル、が懸念されます。ゴールドマンサックスのSECによる告発や、銀行課税に関するIMFの支持は、批判されています。
タイの政治不安、ドイツのNATO軍参加、についての考察に興味を持ちました。そして、中国人民元の調整に関する先例、が紹介されます。為替レートだけでなく、マクロ政策や、社会制度の改革が調整を実現します。