IPEの果樹園2010

今週のReview

4/26-5/1

 

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IPEの想像力 4/26/10

20において、日本政府は何を主張したのでしょうか? 日本が今も国内秩序を確立できないことが、逆に、ギリシャよりも危険だ、という警報を、国際社会は発したように思います。アイスランドの火山噴火と異なり、ドル暴落や中国の政治危機、ユーロ圏の解体、そして何より、日本経済の崩壊は、長く予想されてきたグローバルなカタストロフ・シナリオです。

日本がバブル崩壊やアジア通貨危機の際に行うべきであったことを、今、世界の主要諸国で政治家たちが実現しているように思います。

アメリカやヨーロッパが金融機関や格付け会社の法的な処罰と取引の標準化・透明化に乗り出し、金融ビジネスの関係者は資本市場と実体経済とのプラスの関係を証明するように求められ、政府は金融サービスを消費者の観点から規制し、監督する、強制権限を持った独立機関を設置しようとしています。いずれも、日本がバブル崩壊の際に、世界に率先して実現しておくべきことでした。

金融機関を救済するには金融ビジネスへの課税や責任者の訴追、厳格な処罰が行われることを前提にします。そして、その費用は、事後的であれ、事前であれ、金融ビジネスの膨張とブーム時の利益から、そして、リスクを軽視した短期志向的なボーナス文化を抑制するために、課税によって補填されます。いずれも、アイスランドで政権が崩壊し、新しい政府が誕生して以来、その成果は乏しくとも、政治的な威信を賭けて取り組んでいるテーマです。

アメリカと中国の論争は、IMFやG20の多角的な交渉と協議によって、SDRを使った外貨準備の共同管理とIMF融資の拡大、為替レートのアジア地域における共通の安定化と調整メカニズムに向かう、新しい合意や制度を生み出しつつあります。アメリカ政府もこれに積極的な支持を表明し、国内金融秩序や規制強化と並行して、国際協調介入や資本市場の整備に関するルールの正当性を高めるでしょう。中国が基軸となって進めるルールの確立を、日本やインドが妨げる理由はありません。むしろ、安全保障や人権重視、緊急援助などに関する相互支援を充実することで、中国の社会・政治システムに安定した改革の条件を提供することができます。

なぜ日本から、そのような発言や行動が示せなかったのか? 私は、自民党が政権を握り続けたからだ、と思います。共和党と民主党、労働党と保守党が政権を奪い合い、積極的に金融改革・財政再建を実行します。また、ドルに代わってユーロ圏や人民元、G7に代わってBRICsやG20が国際通貨秩序の改革を競います。

火山の噴火で航空機が飛ばない世界は、石油価格の上昇で自動車が走らなくなる世界や、大量の隕石か太陽の変調で携帯電話が使えなくなる世界、などと同様に、核の世界的な拡散と戦争が起きた瞬間を想像させます。それは完全なカタストロフですが、文明の転換点でもあるはずです。

オバマとの対談が鳩山政権の死亡宣告となった? 日本の政治家たちは政治意識を確立し、選挙に向けて全力で駆けてください。世界の優れた改革を学び、積極的に受け入れることで、国内の制度改革に新しい基準と刺激をもたらし、再生の機会を得るときです。

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1.政府、対、ゴールドマンサックス・・・新しい戦争

2.どのように中国を理解するか?

3.破綻国家を宣告されるまで、日本に残された時間

4.世界統治の模索:G20、IMF、EU

5.噴火と空港閉鎖、ヨーロッパの解体

6.国際政治におけるアメリカの構想力

7.ギリシャとユーロの不十分な救済策

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


1.政府、対、ゴールドマンサックス・・・新しい戦争

(コメント) アジア通貨危機に対するR.N.クーパーのコメント(地域的な育成が可能かどうか、それは分からないが、効果的な金融市場の発達は経済発展に欠かせない)を読んだとき以来、私は金融市場に関する一つの基本方針を持ちました。

それは、金融ビジネスの全体としての利益が、社会の利益を増やすこと、長期的に見て、貢献しているという関係を示すべきだ、ということです。個々の投資や投機が望ましいかどうかは、それに関係する個々の判断にゆだねるとしても、金融ビジネス全体の利益が大き過ぎる、また、金融部門が肥大化している、という批判に、金融部門は答えなければなりません。ようやく、欧米発の世界金融危機を経て、政治家(やエコノミスト)たちもその意志を表明しています。

それはどういう仕組みを必要とするでしょうか? たとえば、金融ビジネスを、隔離された情報空間で、登録された業者と明確な認証された取引主体だけが、人工通貨単位の電子マネーで処理することです。

WP Friday, April 16, 2010; A24

Partisan schisms aside, financial regulatory reform must get done.

「金融規制改革は、必要であり、複雑であるが、しかも、容易に政治的扇動の道具となる。」

その効果が容易に政治家や国民には説明・判断できず、金融ビジネスに関わる莫大な利益から政治資金が流入します。

オバマ政権は銀行自身が「救済基金」を用意するべきだ、と主張します。しかし、あらかじめ救済基金があるということは、ますます激しい投機的なビジネスを促すのではないか? 基金は救済の最少額であり、それ以上は、公的な救済を行うのではないか?

ガイトナーは、公的救済を行って、事後的に金融ビジネスに課税することを考えます。もちろん、まずは金融規制を強化し、自己資本を増やして、救済を不要にしなければなりません。それが大銀行を有利にするのであれば、相殺する措置も必要です。

NYT April 16, 2010

Fighting Foreclosures

住宅債務者にも破産処理(債務の組み換え)を認めるべきです。そして、それは債務者と銀行との自発的な合意によるだけでは進まない、といことが指摘されています。

NYT April 16, 2010

The Fire Next Time

By PAUL KRUGMAN

消防署があるから、ますます火事が増える? 救済融資とモラル・ハザードの問題を、このように主張する共和党議員がいます。たとえ最大のビルでも全焼するまで放置して、自分たちの責任で損失を償わせるべきだ、と。

しかしPAUL KRUGMANは、消防署も、政府による救済融資や銀行の整理も、必要だ、と考えます。なぜなら、都市における火事も、銀行破綻も、放置すればその被害は大幅に増大するからです。

さらに、議員は、国民の税金を守るために主張するように見せながら、実際は、ウォール街の利益を守ろうとしています。株主や重役たちが損失を被らない、厳しい金融規制を行わない、という方針です。

「金融の大量破壊兵器」と呼ばれるデリバティブの規制強化をめぐる攻防が始まりました。

FT April 16 2010

Now is the time to inject some genuine transparency

By Gillian Tett

ベストセラー『愚者の黄金』を書いたGillian Tettが、金融ビジネスの犯罪性に法が介入することを歓迎しています。

1990年代を振り返れば、アメリカはS&L危機の後遺症に苦しんでいたが、多くの銀行家は解雇され、あるいは、バブル時代の悪行によって投獄されていた。」 ところが、それよりはるかに大規模な金融危機があったのに、今も投獄された金融関係者はほとんどいない。・・・どうしてか?

Gillian Tettは、金融ビジネスが法律を免れる複雑さと巧妙さ増していることを認めつつも、SEC(Securities and Exchange Commission)が訴えたように、ゴールドマンサックスがやっていたことは、情報を隠した、中古車の詐欺取引である、と考えます。そして、そもそもCDO(collateralised debt obligations)の市場は、カルテルを結成した強大な業者だけが、秘密の情報を使って、まやかしのゲームをしてきた、という側面があったのです。金融市場のシステムは競争的で、効率的だ、という主張は、CDO市場に当てはまりません。

情報の透明性を高め、取引の記録を残し、公開する、といった改善策が進められています。しかしそれには時間がかかります。むしろ、主要金融機関の幹部たちを含めて、市場の詐欺性を金融犯罪として次々に告発すれば、彼ら自身がビジネスを犯罪と区別するため、その流れを変えるでしょう。

WSJ APRIL 16, 2010

Goldman Is Charged With Subprime Fraud

By JOE BEL BRUNO, FAWN JOHNSON And JOSEPH CHECKLER

The Guardian, Saturday 17 April 2010

Goldman Sachs: At war with Washington

「アメリカ政府がどうやってゴールドマンサックスを告発できるのか? 思うに、アメリカ政府を動かしていたのがゴールドマンサックスだ。」 自動車産業ではなく、金融ビジネスこそアメリカ経済のエンジンです。

オバマの金融改革は、サブプライム・モーゲージやデリバティブ取引の全体に向かうでしょう。

FT April 18 2010

Wall Street beware: the lawyers are coming

By Frank Partnoy

告発を受けてゴールドマンサックスの株価は下落し、金曜日だけで、裁判によって予想される損失の10倍以上、120億ドルの市場価値を失っています。他の主要金融機関も一斉に売られています。金融ビジネスの大きな利益が、法的な介入によって失われると分かったからです。

それはSECが、複雑なデリバティブ取引に関して、買い手がその危険性を十分に説明されていない、という簡潔な告発を示したからです。これまで法律家たちは、こうした取引が訴追不可能だ、と考えていました。ゴールドマンサックスは、投資家が十分に洗練されているなら、高いリターンにはリスクが伴うことを理解していなければならない、と主張するでしょう。何十ページにも及ぶ説明書、訴追できないケイマン諸島における債券発行、など、法律によって守られている、と。

しかし、ウォール街が、(緩和され、また、時代遅れになった)規制の隙間を縫って「合法的」な取引(の解釈)を拡大したことに対して、議会や裁判所が反撃し始めたのです。アングロサクソンの慣習法においては、法律は裁判官が行うことを予告します。格付け会社も、こうした訴追を恐れなければなりません。

議会は、金融契約書が現実を反映しなければならない、と追加し、法律家たちにその要求を共生させることです。「1930年代の金融改革が何十年も機能したのは、それが訴追の恐怖を創り出したからである。」

FT April 18 2010

Goldman versus the regulators

By Patrick Jenkins and Francesco Guerrera

Times Online April 19, 2010

For all the frothing, nothing has been done about banks

Ross Clark

Times Online April 19, 2010

Goldman Sacks

guardian.co.uk, Monday 19 April 2010

Squashing the Goldman vampire squid

Dean Baker

NYT April 19, 2010

Looters in Loafers

By PAUL KRUGMAN

WSJ APRIL 19, 2010

The SEC vs. Goldman

LAT April 19, 2010

Goldman’s too-risky game

NYT April 20, 2010

Gambling With the Economy

By ROGER LOWENSTEIN

「ウォール街の目的は、あなたは思い出すだろうが、産業界に資金をもたらすことだ。製鉄所や技術開発会社、そして、住宅にも。しかし、ゴールドマンサックスの取引したCDOは、他のほとんどすべてのウォール街の企業もやっていることだが、何十億ドルもの取引が、誰にも、何ももたらさない。その本質は、カジノでやるサイド・ベットである。これによって投機家は一軒の住宅も増やさずに賭け金を増やすことができる。」

議会は、「すべての経済成果を博打にしてしまうウォール街の文化を終わらせることだ。」

FT April 20 2010

The challenge of halting the financial doomsday machine

By Martin Wolf

「ひとびとは救済の直接的なコストに注目し過ぎる。イングランド銀行のAndrew Haldaneが示したように、そのコストは英米のGDPの約1%だろう。しかし、本当に重要なコストとは、不況と国債の増大によるコストである。もし不況期の世界生産の低下の4分の1が恒久的なものであるとしても、その損失の現在価値は世界の年間生産額の90%になるだろう。」

どうしてこんなことが起きたのか? 「かなり単純化すれば、金融部門がより大きく、より危険になったからです。イギリスの場合は劇的であり、銀行の資産が過去40年間に、GDPの50%から550%以上に増大しました。自己資本比率は低下し、株主資本利益率はより大きく、浮動的なものになりました。」 その理由は、レバレッジの利用と銀行部門の集中である、とイングランド銀行のHaldaneは考えます。

銀行は国家によって保険を得ており、その株主も有限責任です。その結果、より危険な取引で利益を増やすことが促されています。これは「合理的な無思慮」と呼ぶべき状態です。イギリス金融庁のAdair Turnerは、結果として、金融ビジネスの莫大な利益は社会の富を増やすという形で正当化できない、と考えます。金融部門は外から利益を取り込み、経済全体の浮動性を高めています。極端なレバレッジによる富は、その多くが幻想でした。「証券化」の利点も虚構です。CDS市場が示すように、情報の問題やインセンティブの問題は悪化しています。

金融改革は視点は二つです。1.成長率が低下し、高齢化する高所得国では、金融危機の再発に耐えられません。2.危機への対処と金融システムの改革が経済にどのような影響を及ぼすか?

改革の方針としては三つです。1.(共和党の)救済しない。2.(リベラル派の)巨大銀行の分割。3.金融規制の改善・強化。しかし、Martin Wolfはいずれにも不満です。

April 21 (Bloomberg)

Banks Have Way to Help Themselves

Yakov Amihud and Ingo Walter

guardian.co.uk, Wednesday 21 April 2010

A rare surrender on financial reform

Sahil Kapur

WP Wednesday, April 21, 2010; A19

In SEC vs. Goldman, who's really at fault?

By Sebastian Mallaby

SECの告発は無責任である。

April 22 (Bloomberg)

Goldman Shock Is Good News to Post-Lehman Tigers

William Pesek

リーマン・ショック、トヨタ・ショックに続いて、今度は、ゴールドマン・ショックでしょうか?

guardian.co.uk Thursday 22 April 2010

Financial reform and political reset

Michael Tomasky

SPIEGEL ONLINE 04/22/2010

Wall Street vs. Washington

Goldman Sachs Goes on the Offensive

By Marc Pitzke in New York

WP Thursday, April 22, 2010; A19

Goldman's rendezvous with reality

By Robert J. Samuelson

NYT April 22, 2010

After Goldman

FT April 21 2010

Greed is not good for Goldman

By John Gapper

FT April 22 2010

America must face up to the dangers of derivatives

By George Soros

社会にとって何の利益ももたらさない。手数料のために取引を増やす。隠れた損失が膨張する。金融システムに及ぼす間違った影響が十分に評価されていない。もっと単純で、透明な、デリバティブだけを認めるべきだ。金融ビジネスだけでなく、多国籍企業が規制に反対するのは、それを使って(合法的に)脱税を行うからだ。

FT April 22 2010

Obama moves on financial reform

WSJ APRIL 22, 2010

The Two Issues to Watch on Financial Reform

By ALAN S. BLINDER

金融サービスの消費者を保護する法律と機関Consumer Financial Protection Agency (CFPA)が必要です。それは、独立した、消費者の利益だけを守る、十分な範囲に及ぶ、機関であるべきです。同時に、デリバティブに対する規制を強化しなければなりません。最善の方法は、取引を組織・集中して、清算所を設けることです。その前に、デリバティブ取引が標準化されねばなりません。そして、そのリスクや利潤は大幅に減るでしょう。

銀行や政治家の圧力に従い、多くの例外を設けないように。


2.どのように中国を理解するか?

guardian.co.uk, Friday 16 April 2010

Dim sums for China

Richard Adams

中国経済は11.9%で成長しました。3月だけなら17.9%です。世界不況などどこにもない?

しかし、中国の都市部では、3月、不動産価格が11.7%で上昇しています。不動産バブルについての懸念はますます深刻になっています。フロリダのマンション、アイスランドの銀行、ドバイのホテル。同時に、人民元とドルの関係はどうなるのか?

カリフォルニアで設計したiPodを中国で生産する。

FP Friday, April 16, 2010

The 'China ate my jobs' fallacy

Posted By Phil Levy

「中国がアメリカ労働市場を支配しているのか?」 F.バーグステンやP.クルーグマンの主張に反論しています。人民元を切り上げればアメリカの貿易赤字は減り、雇用が増える、というわけですが、その関連性は極めて弱い、と。

April 19 (Bloomberg)

Stupidity of U.S. Congress Is Keeping Me Awake

William Pesek

A Chinese crash? Japanese debt crisis? Indian inflation? Anarchy in Thailand? North Korea’s nukes? Terrorism? Taiwan and China coming to blows?

しかし、それは予想されたことである、とKishore Mahbubaniは答えます。人民元レートは問題ではない。むしろアメリカ議会にあふれる愚かな議論こそ驚くべきだ、と。

中国の台頭を「ベルリンの壁」にたとえる者がいるけれど、それ以上である。中国はアジアを支配するのではなく、アメリカ資本主義に代わって、中国の開発思想が普及していくのだ。より教育を受けた、豊かになったアジアの労働者がいる限り、成長し続けるしかない。アメリカが、それに合わせて変わるのだ。

FT April 21 2010

Brazil and India add to China pressure

By Geoff Dyer in Beijing

FT April 20 2010

China is the key to unwinding global imbalances

By Arvind Subramanian

「グローバルな不均衡に対する必要な調整が始まっている。中国の経常収支黒字は2009年に、ピークの11%から6%に減った。他方、アメリカの経常収支赤字はピークの6%から大きく減った。」 中心的な問題は為替レートの調整である、と。

なぜなら、金融危機と不況が終わる過程で、新興市場の金融政策はアメリカなど旧工業諸国と大きく異なるからです。一方はインフレ(そしてバブル)の抑制を重視し、他方は景気回復(の持続)を重視するでしょう。新興市場に向かう資本の流れが混乱します。

しかも、新興市場が為替レートの増価を抑えれば抑えるほど、将来の増価は避けられず、資本移動は一方的な賭けに近いものとなります。アジア通貨危機の教訓は、各国に為替レートを固定することの危険性を教えました。しかし、資本流入を緩和し、為替レートが急激に増価して競争力を損なうことを避けたいと考えています。

唯一の方法は、資本規制と為替レートの増価を徐々に認めることです。しかし、不況による「近隣窮乏化政策」の疑念は強く、資本移動の混乱は他国に及びます。中国が為替レートをドルに固定することで、競争的な貿易国は増価を避け、それゆえ、金融緩和や過熱を避けられません。

政策の教訓は明らかだ。資本移動と為替レートに関して新興市場が協力することである。その基軸となるのは中国の為替レート政策だ。」 しかし、資本移動の規模を考慮すれば、中国の行う小さな為替レートの調整ではアジア地域の資本移動が一方的な賭けを抑えるほどの効果は期待できない、とSubramanian警告します。

事実上の国際政策協調が、中国の行動によって誕生するかもしれません。

FT April 21 2010

Bad loans could take their toll on China’s growth

By Michael Pettis

中国の景気刺激策は不良債権の山となって、銀行危機をもたらすのか?

中国は銀行の長期的な利益を約束することで不良債権の処理を行えるだろう、と。しかし、それには間接的にコストがかかります。金融政策や会計処理によって、日本において、時間をかけた処理が行われました。預金者・家計から政府や銀行、企業へと所得が移転されたのです。それは、結局、長期に及ぶ低成長を残しました。


3.破綻国家を宣告されるまで、日本に残された時間

LAT April 19, 2010

Can we be too healthy and live too long?

Gregory Rodriguez

アメリカ全体の「フロリダ化」が進む? 医療保険制度が整備され、アメリカ人の高齢化が加速する世界がどうなるかを考えるためには、日本の急速高齢化社会を観ることだ。・・・「多くの人があまりにも長く生きる社会は、身体的に健康であっても、慢性的な孤独と倦怠に苦しめられる。」・・・「日本は『消耗』し、国家の気分も『抑鬱状態』にある。」・・・「自殺を厳しい文化的なタブーとしているが、高齢者の自殺は劇的に上昇してきた。」・・・政府も企業も、高齢者の心に訴えようとしている。・・・刑務所の設備も、急増する高齢者の対応に迫られている。

WSJ APRIL 19, 2010

Now Isn't the Time To Privatize Japan Post

By RICHARD C. KOO

リチャード・クーは郵貯バンクの民営化を一時的に停止することを支持します。

郵便貯金は200兆円(22000億ドル)の預金を持つ政府の銀行です。民営化の支持者は、その資金は民間部門の需要を満たせないから良くない、と言う。しかし、政府が財政赤字を減らし、郵便貯金を減らすことが、経済の再生につながるのか? 小泉元首相はそれを追求し、2005年に民営化を決めました。

しかし、1990年にバブルが崩壊してから、企業も家計もゼロ金利でありながら債務を減らしてきました。銀行は融資を増やせず、苦しんでいます。それはデフレを促し、返済を難しくして銀行の資産を悪化させます。名目GDPは伸びず、日本政府が民間の過剰貯蓄に対応した介入で、何とか景気を維持しています。

「この20年間、日本経済が苦しんでいるのは民間投資のクラウディング・アウトではない。その全く逆、クラウディング・インを経験している。」 そして、石原慎太郎や木村剛、竹中平蔵の名を挙げて、現実を無視した民営化論を批判します。

・・・私は、リチャード・クー氏の明快な議論をいつも重視しています。しかし、民間需要を補う財政赤字や郵便貯金を支持するのは、同時に、民間部門の債務処理を加速する過程でなければ意味がない、と思います。バブルで膨張した銀行や企業の整理・再編を迅速に行わず、特に、不動産価格の下落に20年もかけて、住宅所有者の債務負担や資産の減少を、銀行や政府の責任追及ではなく、国民(納税者や住宅購入者)の負担で処理したことは間違いだった、と思います。

WSJ APRIL 21, 2010

Japan Dissing

By MICHAEL AUSLIN

円ドル相場と同じように、ワシントンにおける日本評価は浮沈を繰り返しているようです。民主党・鳩山政権の成立は、再び、その期待から失望へと大きく転換した、ということです。「日本を無視」するどころか、「日本を軽蔑」することへ。

日米関係の悪化は、日本にとっても、アメリカにとっても、アジアにとっても不利益である、と。しかも、日米双方とも、打開策を示そうとしない。

WSJ APRIL 21, 2010

Corporate Japan Loses the Urge to Merge

By TIM KELLY

FT April 21 2010

Tokyo wobbles on the American alliance

By David Pilling

David Pillingも、日米関係を1945年以来、最悪、と書きます。・・・中国でさえ容認しているアメリカ軍の沖縄基地を、鳩山や小沢も含む、日本のベトナム反戦世代が放棄しようとしている。

「アメリカ軍の完全な保護と核の傘がなければ、日本は独自に核武装するか、中国との新しい友好関係を築くしかない。前者は日本の強い反格感情を思えばありえないし、後者は中国が共産党による単独支配の国家であり、日本人がその軍事的な意図を不安に思う限り、ありえない。」

米軍基地をなくすというのは野党だから主張できるぜいたく品であって、政権を取った民主党はリアル・ポリティークを学ぶしかない。迷走しながら日米同盟は続くが、20年後にも維持されていると予測できる者はいない。

FT April 22 2010

Japan’s leaders must show leadership

By Gerald Curtis

国民は自民党政権が復活するのを嫌っており、民主党政権が新しい政治を始めたことに好んでいます。しかし、政府は財政の危機的状況を無視したまま、高速道路を原則無料化する、郵便貯金の上限を引き上げる、などと主張しています。

「基本的な問題は、国家財政を立て直し、経済をデフレから抜け出させて、成長を促すために何が必要か、国民に向かって主張できる政治指導者が、日本に欠けていることだ。」

もし鳩山がそれを示せたら、民主党は国民の支持を回復できる。鳩山政権がこのまま崩壊すれば、日本は無能な政権が短期に交替し、混乱を深める。


4.世界統治の模索:G20、IMF、EU

WSJ APRIL 19, 2010

The G-20's Next Challenge

By WAYNE SWANTreasurer of Australia

オーストラリアの蔵相はG20を通じた世界の景気回復、対外均衡回復、公的債務削減、IMF改革などを主張しています。

guardian.co.uk, Wednesday 21 April 2010

IMF gets tough on banks with 'FAT' levy

Linda Yueh

IMFは、銀行に対する二種類の課徴金を提案する、ということです。アメリカのオバマ型と、イギリスの労働党型です。前者はすべての銀行に課され、後者はリスクの高い取引や高額のボーナスに(1度きりで)課します。

英米やIMFが金融ビジネスへの課税について新しい方針を示し、世界のコンセンサスを変えようとしています。

FT April 20 2010

IMF fastens the policy tightrope

FT April 20 2010

Europe is getting it wrong on financial reform

By Jacob Rothschild

欧州委員会の提案したヘッジファンドの包括的な規制、Alternative Investment Fund Managersについて、最低でも事務管理費用の増大、最悪の場合、金融サービス部門の衰退を招く、と反対しています。

FT April 21 2010

It is time to press on with bank reform

By Ed Clark, CEO of TD Bank Financial; Bill Downe, CEO of BMO Financial; Gerald McCaughey, CEO of CIBC; Gord Nixon, CEO of Royal Bank of Canada; Louis Vachon, CEO of National Bank of Canada; and Rick Waugh, CEO of Scotiabank

世界金融システムの改革の加速に向けた主要国の中央銀行家による呼びかけです。“We all agree the need to pick up the pace – but also to focus on the real issues.

金融危機に結びついた三つの中心的問題として、1.過剰なレバレッジ、2.資本の質と水準に対する評価基準、3.リスクと流動性に関する弱点、を特定し、改善のための行動を求めています。

BIS規制の改善や自己資本をめぐる各国の異なる基準について、リスク評価に基づく資産管理について、共通化が必要です。

リスクに応じた自己資本の水準、リスクと流動性を厳しく管理すること、という目標を掲げます。

FT April 21 2010

Sovereign bail-outs: A reach regained

By Alan Beattie in Washington

金融危機によってIMFはよみがえりました。危機前には無意味な機関として軽蔑されていたはずです。しかし、債務危機、アジア通貨危機、そして、世界金融危機。IMFの急速な影響力の回復傾向と主要諸国からの支持は、同時に、当面の課題であるギリシャ危機の回避に成功しなければ、何の意味もありません。Dominique Strauss-Kahn専務理事のIMFや、アルゼンチン融資の教訓が議論されます。

FT April 22 2010

Counsel of despair


5.噴火と空港閉鎖、ヨーロッパの解体

NYT April 16, 2010

A Tale of Two Volcanoes

By SIMON WINCHESTER

The Guardian, Saturday 17 April 2010

Unthinkable? A flight-free day

guardian.co.uk, Monday 19 April 2010

What links the banking crisis and the volcano?

George Monbiot

近代航空産業の奇跡によって結び付いた私たちの生活、文化、地理が、火山the Eyjafjallajökull volcanoの噴火で消滅しました。緊密な結合の拡大は、地域のかく乱を安定化することもあれば、波及させることもあります。石油ショックやアメリカの停電、世界金融システム危機がそうであったように。

私たちは複雑さと脆弱性を創り出し、計画や管理を拡大、強化します。そして、ローマ帝国が崩壊したように、政府の効用は次第に低下します。それは意図的な選択によるのか、予想外の大崩壊によるのか。

WP Monday, April 19, 2010; A15

Nature hoists Europe back in time

By Anne Applebaum

航空機の輸送網による世界秩序と日常生活の変化は、気付かぬままに、予想もしないほど進んでいました。たとえばヨーロッパ統合は、信頼できる航空網によって実現しています。ヨーロッパ市民は、アメリカ人のように、海外で働き、海外を旅行し、ときには移住します。

「もし英仏海峡や大西洋が突如として拡大したり、ヨーロッパ大陸が膨張したら、私たちの生活は1世紀もさかのぼるだろう。」

ポーランド人は旅客機の墜落という悲劇をさまざまに語りましたが、同様に、火山噴火と空港閉鎖のせいで帰国できない人々の不幸を語り合いました。全く性質の異なる悲劇ですが、サッカーの国際試合から外交にまで影響します。

NYT April 19, 2010

The Icelandic Plume

guardian.co.uk, Tuesday 20 April 2010

How Iceland's volcano sears Kenya's crops

Waithaka Waihenya

災害の影響が波及する過程では、農産物市場や雇用など、経済的な影響が深刻になるでしょう。そして、社会的・政治的な格差や差別化が現れます。

NYT April 20, 2010

Escape From the Jet Age

By SETH STEVENSON

April 21 (Bloomberg)

 ‘Black Swan’ Volcano Offers Us Lessons

Matthew Lynn

アイスランドが金融危機で世界の注目を集めたように、これも金融システムにあらわれた「ブラック・スワン」でしょうか。ヨーロッパ全体が動揺しました。


6.国際政治におけるアメリカの構想力

WSJ APRIL 22, 2010

America Misses Another Asian Opportunity

By BERNARD K. GORDON

オバマ政権の「太平洋同盟"Trans-Pacific Partnership(TPP)"」(Australia, Brunei, Chile, New Zealand, Peru, Singapore, the United States and Vietnam)を批判します。かつてベイカー国務長官が、マレーシアのマハティール首相が提唱した、アメリカを排除した「東アジア共同体」構想に反対し、「太平洋を分断する」と警告した考えを継承しています。

しかし、TPPは有効か? 中国の台頭に直面したアメリカの、効果的な自由貿易と開発戦略でしょうか? オバマ政権は他の有効な選択肢を嫌った結果、この構想を支持したに過ぎません。

WSJ APRIL 22, 2010

A New Initiative to Feed the World

By TIMOTHY GEITHNER AND BILL GATES

ガイトナー財務長官とビル・ゲイツが提唱する、新しい汎アメリカ構想です。

20による国際協調が大恐慌の再現を防いだように、世界経済の均衡と成長を回復するためには、貧困や飢餓を撲滅するための行動が重要である、と主張します。「10億人以上が飢えに苦しむ世界が、安定的であるはずはない。」 それに対して、アメリカ、カナダ、スペイン、韓国、そしてthe Bill & Melinda Gates Foundationが新しい基金を設立し、行動を呼びかけました。Global Agriculture and Food Security Programです。

金融危機や不況で、世界の貧しい農民たちに向けられる支援や農業のための投資が減っています。政府間協力、民間投資、インフレ整備、市場統合、それらをすべて利用します。援助だけでなく、農民たちに水の管理や種子・技術の利用を実現すること、を考えます。

そして、どちらの構想にも日本は登場しません。


7.ギリシャとユーロの不十分な救済策

FT April 18 2010

Greece’s bail-out only delays the inevitable

By Wolfgang Münchau

guardian.co.uk, Monday 19 April 2010

Is IMF bailout for Greece worth it?

Matina Stevis

SPIEGEL ONLINE 04/19/2010

German Finance Minister Wolfgang Schäuble

'We Cannot Allow Greece to Turn into a Second Lehman Brothers'

German Finance Minister Wolfgang Schäuble

WSJ APRIL 19, 2010

How to Save the Euro

By HANS-WERNER SINN

財政赤字を債券の発行で補って、過度の消費に耽っても罰せられない国がユーロ圏内に現れたらどうするか? 債券市場はユーロ圏全体を罰するか、その国のユーロ圏からの退出を促すだろう。それが金融市場の不安を招かないように、赤字国の処罰と退出を手続きとして明確に協定し、監視機関を独立させるべきだ、と主張しています。

April 22 (Bloomberg)

Greek Math Adds Up to Delusion, Disaster, Default

Mark Gilbert

ギリシャ国債で大幅なプレミアを得ながら、債券にはドイツ政府の保証が得られる。投資家のもっとも望むところでしょう。ギリシャ救済は成功したのか?

しかし、欧州委員会やIMFのギリシャ融資には返済の優先権が与えられますから、投資家たちは官僚の群れに獲物をさらわれたわけです。ギリシャが返済に疲れ、政治不安が続けば、債務の免除が話題になるでしょう。投資家たちに秩序あるデフォルトが求められます。アメリカの投資家や政府も、ユーロの混乱や崩壊を望みません。


The Observer, Sunday 18 April 2010

Conservative manifesto: What's the big idea about the Big Society?

guardian.co.uk, Wednesday 21 April 2010

9½ vital questions for our would-be leaders on Britain's role in the world

Timothy Garton Ash

国際関係における論争はイギリスの選挙で明確な違いを示していません。そこで質問が重要だ、とAshはいくつか指摘します。イラク戦争、EU改革、ユーロ参加、対米関係、世界における役割。


WP Saturday, April 17, 2010; A13

After plane crash, Poland is at a political crossroads

By Marjorie Castle

Times Online April 19, 2010

Polish tragedy opens door to West for Russia

Roger Boyes


guardian.co.uk, Sunday 18 April 2010

India's international unease

Dominique Moisi

FT April 20 2010

India: States of desire

By Amy Kazmin


guardian.co.uk, Saturday 17 April 2010

Tranquillity and turmoil in Thailand

Matthew Phillips

FT April 18 2010

Thailand’s silence

WSJ APRIL 21, 2010

Breaking a Thai Taboo


FT April 18 2010

America and Europe meet midway

By Clive Crook

FP Monday, April 19, 2010

What's the matter with the world today?

Posted By Stephen M. Walt

グローバルな課題とそれを解決する知識・能力の関係が不均等であることを考察しています。特に、知識や利用可能な資源がありながら、それを適当な時期に、適当な形で使用できない点で、各国内でも国際間でも、政治の力不足が問われる、と。

FT April 22 2010

Korean tensions

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The Economist April 10th 2010

Japan’s debt problem: Sleepwalking towards disaster

Japan’s fractured politics: Splitting headaches

Japan’s debt-ridden economy: Crisis in slow motion

Defining what makes a country: In quite a state

(コメント) ギリシャの債務危機や、世界不況を回避した後の主要国の財政問題について議論される中で、日本の債務危機が再び注目を集めています。すでに周知のことばかりですが。

日本が危険であるのは明らかです。歳入の多くが税収ではなく国債の発行であり、歳出のますます大きな割合が債務返済に向かっています。経済は成長しておらず、しかもデフレを繰り返して、債務負担は減るどころか増えて行きます。ある試算では、2015年に、日本は国債を国内貯蓄で消化できなくなります。外国投資家の購入に頼ることで、金利の上昇や債務の累増、資本逃避の懸念が高まります。

日本経済について新しく指摘されていることは、もはや時間がない、ということです。日本の国債は国民の貯蓄で賄われているから大丈夫だ、という弁解ができなくなっています。高齢化が進めば、貯蓄を取り崩して生活します。年金や医療に関する公的支出は増大し続けます。金融危機による影響も、また、世界経済の景気回復による影響も、次第に日本にも及ぶでしょう。

日本に対して、できることは何でもやれ、と助言します。財政・金融の刺激策、消費税率の引き上げ(を続ける計画を示し、消費を促す)、法人税減税、投資や住宅購入の促進、さまざまな構造改革。・・・農業・サービスの規制緩和、市場開放と競争の促進、移民受け入れ。

しかし、何より問題は政治が動かないことです。政治家にも、国全体にも、問題を解決する意志がありません。再生のための次の危機を待っている、ということか?

何が国家の資格なのか? 現在、アメリカに日本のパスポートは受け入れられています。日本は国連に加盟しています。しかし、だからと言って、国家でしょうか?


The Economist April 10th 2010

China, America and the yuan: Over to you, China

China’s currency: Bending, not bowing

Banyan: New Silk Road

Charlemagne: Europe’s worrying gerontocracy

(コメント) 中国は人民元の為替レート調整を拒んでいます。アメリカは中国の保護主義に対する制裁措置を準備しています。中国はアメリカに反論します。アメリカ国内でも、中国国内でも、意見は分かれています。中国自身が変動レート制を好む条件は、その国内政治とともに、形成されつつあります。

「新しいシルク・ロード」が面白いです。道路・パイプライン建設、高速道路、鉄道、高速鉄道、などによって、アジアの陸上輸送や遠隔地との統合化が進んでいきます。アジアの成長は、次第に、海路から陸路のネットワークへと転換します。しかし、ロンドンやベルリンから、高速道路や高速列車の到達する終点は、東京ではなく、むしろ上海や台北になりそうです。

ヨーロッパ(そして日本)は、老人政治の支配を恐れるより、各国の政治文化こそが重大な相違をもたらしていることを重視するべきです。