IPEの果樹園2010

今週のReview

4/12-/17

IPEの想像力

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IPEの想像力 4/12/10

モンタナでマス釣りをしてみたい。私もそう思いました。

ジャレド・ダイヤモンド、『文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの』を読むと、最初にモンタナの紹介があります。著者は50歳になる頃、心が重くなって、かつて魅了されていたフライフィッシングに戻ったそうです。モンタナの自然の中で、川の流れを感じながらマスを釣ってみたいな、と私も思いました。

ダイヤモンドの問題提起は、私が繰り返しIPEの根本問題として学生たちに求める議論とそっくりです。「共通のショックに異なる反応を示す」社会・政治とは何か、または、「類似した条件で全く異なる反応を示した事例を比較する」。すなわち、ダイヤモンドは次のように書いています。

「ひとたび栄華をきわめた社会が、どうやって崩壊の憂き目を見るにいたったのか?」

「今日のわたしたちが鬱蒼たる樹林に覆われたマヤ文明諸都市の古跡を眺めるように、いつか後世の旅人が、ニューヨークの摩天楼の朽ちゆく巨姿に見とれる日が来るのだろうか?」

そして、その答えを求めて、ダイヤモンドは過去の<崩壊>の事例を比較します。「人間社会の栄枯盛衰」が単なる人生の成熟と老衰を意味するのではない・・・「社会によって崩壊の度合はさまざまであり、崩壊の仕方も少しずつ異なっていて、まったく崩壊しなかった社会もたくさんあるのだ。」

それどころか、キンドルバーガーの『経済大国興亡史』は、崩壊に直面した社会が危機をばねにして若返る、<フェニックス>効果、を指摘しています。

私はこの果樹園で、ほぼ毎回のように、通貨・金融危機、不況と保護主義・貿易摩擦、虐殺・暴動・革命、移民・難民、核兵器やテロ・安全保障問題、政治システムの不安定化、国際秩序の調整・再編、国家の内外における<ガバナンスの革新>・・・を取り上げています。

「なぜ一部の社会だけが脆さを露呈したのか、崩壊した社会を他と比べて際立てているものは何か」と、ダイヤモンドは問いかけています。アメリカ、モンタナ州のハルズ農場と、ノルウェー人によってグリーンランドで繁栄し、500年前に完全に廃棄されたガルザル農場とが、どれほど似ているか、という話を始めます。豊かなアメリカに位置する、美しい(フライフィッシングの楽園)モンタナ州の農場で進む環境破壊や経済格差は、すでに<崩壊>の予兆を示しています。

イースター島、南太平洋に広がるポリネシア人の諸島、アメリカ合衆国南西部の先住民社会、マヤ文明、ノルウェー人のグリーンランド、そして、アイスランド、が取り上げられるそうです。・・・首が動かせないので、ゆっくり、少し読んでは休憩して、楽しみたいです。

ダイヤモンドは、環境問題を社会の能力によって再編しています。崩壊の理由としては、たとえば、「指導者の決断」や、「利害の衝突」、「集団としての意思決定」が難しい(無視される)ことを指摘します。

私も、アルゼンチンの通貨・経済危機について考察した際、IPEの基本命題を集約してみました。10の命題と、それらを「全体・合意・統治」の三つの領域に分けています。

通貨危機や移民論争(移民暴動)が、私にとっての崩壊(危機)です。環境であれ、市場であれ、そのシグナルをどのように理解し、解決に向けた合意と行動を選択する<社会として>の反応を組織できることが、個人であれ、文明であれ、崩壊から抜け出すヒントになる、と私は期待しています。

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1.歴史問題と謝罪・和解

2.ギリシャとドイツとユーロ

3.中国問題:通貨・貿易・投資

4.アメリカ金融秩序の再建

5.アメリカとロシアの核軍縮

6.キルギスタンの革命U・・・タイ

・・・移民政策論争・・・トゥキディデス・・・マーシャル・プランと自爆テロ・アメリカ外交・・・日本

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


1.歴史問題と謝罪・和解

(コメント) 殺人を正当化することはできませんが、戦争はいつも正当化されます。戦場においては、兵士たちが殺すことを躊躇しないよう、訓練されます。・・・『冬の兵士:イラク・アフガニスタン帰還米兵が語る戦場の真実』

武装しない人々に対する集団的な虐殺でさえ、戦争や民族の名で正当化します。日本の政治家たちも、日本が戦争で何をしたかについて積極的に議論し、個々の事例に即して謝罪や補償を行ってきたように思えません。

LAT April 2, 2010

An apology for Srebrenica

「それは第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪の残虐行為である。約8000人のボスニアのイスラム教徒たちが、その多くは男性や少年であったが、バルカン諸国から非セルビア系住民を抹殺する運動を推進したスロバダン・ミロシェヴィッチ大統領の統治下で、スレブレニカ地域に集められて、組織的に殺害された。しかしとうとう今週の終わりに、セルビア政府は1995年の殺戮に対する謝罪を発表した。それは非常に重要であるが、政治的に非常に難しい、過去と向き合う試みである。」

それは、所詮、EU加盟に必要だから発表したにすぎない、という批判もあります。しかし、「これは和解のプロセスを前進させるものだ」とLATは歓迎します。「政治では、しばしば、間違った理由で正しいことを行う。重要なことは、正しいことを行った、という点だ。過去に犯した罪を悔い改めるのに、遅すぎるということはない。」

NYT April 2, 2010

Serbia’s Honest Apology

By TIM JUDAH

この決議は、セルビア議会の圧倒的多数ではなく、250票の中の127票でようやく承認されました。スレブレニカの虐殺を認めるかどうか、それ自体がセルビアの国内政治を決める重要な問題なのです。この決議に反対した人びとは当時のナショナリズムの主張に戻っていました。

FT April 7 2010

Putin and history

SPIEGEL ONLINE 04/08/2010 05:46 PM

The World from Berlin

'Reconciliation' in Katyn May Not Be Enough

70年前にポーランド人将校たちが殺害されたことを記念し、水曜日にカチンの森を訪ねたことで、ロシアのプーチン首相は、ヨシフ・スターリンへ時代への日頃の表現から、健全な乖離を示した。」

ヒトラーとともにポーランドを分割した際、スターリンは占領した土地で少なくとも2万人のポーランド人将校・指揮官たちを処刑しました。それは軍人だけでなく、非軍事的エリートも含まれたのです。すなわち、医師、弁護士、公務員、学者、など。しかし、その後、半世紀に渡って、この犯罪は共産党支配下で隠ぺいされてきました。

FTは、プーチンが「カチンの森」事件を認めたことは、正しいことであるだけでなく、ロシア自身の利益になる、と主張します。多くのポーランド人にとって、これでロシア人嫌いがなくなるはずもないのですが、その歯止めにはなるでしょう。同時に、ロシア国内のナショナリズムがスターリン時代を懐かしむ主張を広めることも抑えるでしょう。こうした姿勢によって、ポーランド、そしてヨーロッパとの関係を、ロシアは改善できるのです。


2.ギリシャとドイツとユーロ

guardian.co.uk, Friday 2 April 2010

The upside of the Greek debt crisis

Steven Hill

ギリシャ債務危機でユーロは解体する? そんなことはない。むしろEUは強化されるだろう。「1790年にアメリカで最初の政府が形成されてから、地域の寄せ集めが一つの国になり、長く続いた対立を解決するまでには、約90年かかった。」

ドイツは慎重な姿勢にとどまりつつも、EMFの議論を始めました。ギリシャは緊縮財政を強いられ、年金給付の年齢を引き上げるでしょう。それは必要なことです。ギリシャ危機はユーロ圏内の各国にも財政再建や金融秩序強化への圧力をかけています。今後、EUの統計データが整備され、ギリシャがユーロを採用した際に用いたようなデータの誤魔化しは許されなくなるでしょう。

「ヨーロッパは常に、危機に対応することで発展し、適用してきた。それが結局はより統一したヨーロッパをもたらした。」 「『老いたヨーロッパは』、EUの形成という面では、比較的若い。27カ国、5億人が参加する現在の姿を採ったのは、2004年から出しかない。」

FT April 2 2010

Germany flexes its muscles

By Christopher Caldwell

ギリシャ救済について反対し、EU内では孤立していたドイツのメルケル首相が、IMF融資を前提に議論するようになったのは当然である。ECBが救済できないという事情は、IMF融資に複雑な反感をもたらしています。「ギリシャの破綻は家族内のもめごとであり、外で話すべきことではない。」

しかし、フランスに代わって、ドイツがEUの政策に発現することは、三つの点で変化をもたらす。1.ドイツ経済モデルの改革、2、アメリカのイラク戦争反対、3.ロシアへのエネルギー依存。

すなわち、東西ドイツ再統一とEU/ユーロ圏の衝撃を吸収するため、「ラインラント資本主義」モデルを改革してきたドイツが、高齢化とグローバリゼーションに対応する輸出経済を実現するため、厳しいデフレ政策を採りました。また、ドイツ国民は、最も明確にイラク戦争に反対し、アメリカの姿勢を批判してきました。そして、ロシアとのガス・パイプラインによるエネルギー依存は、東欧やアメリカとの関係を悪化させるかもしれません。

The Times April 3, 2010

Merkel has saved Greece – but not the euro

Bronwen Maddox

FT April 4 2010

Greece will default, but not this year

By Wolfgang Münchau

Wolfgang Münchauは予想します。ギリシャは今年、破綻しない。しかし、将来は破綻する。

財政赤字の市場における借り入れ不能に陥った国の可能性としては、救済か、切下げか、デフォルト、と考えられます。しかし、ギリシャの場合はユーロ圏内にあることで複雑になります。この論説は5つを指摘します。1.ユーロの大幅な減価、2.EUもしくはIMFからの低利融資、3.民間部門の債務削減、4.ユーロ圏離脱、5.デフォルト。

しかし、デフォルトを除けば、いずれも時間が経つほど難しくなるでしょう。なぜなら、それほどギリシャの赤字は大きく、その削減によるデフレを回避するには、切下げと低金利が必要だからです。(かつて同じような債務危機を克服できた北欧諸国に比べて)ユーロ圏に入ったことで、また、世界がデフレ傾向にあることで、ギリシャにはデフォルトしか残されていない。

FT April 7 2010

Germany: A shifting vision

By Quentin Peel in Berlin

FT April 7 2010

Eastern Europe won’t pay what it can’t pay

By Michael Hudson

ラトビアの危機については忘れられていますが、IMF融資の条件は間違っている、とラトビア改革委員会の主席顧問でもあるミズーリ大学のMichael Hudsonは批判します。債務は支払える水準を超えている、と指摘します。「問題はだれがコストを負うのかである。」

EUとIMFによる融資は激しい不況をもたらしており、政治的に受け入れ可能な水準にするには、債務削減と通貨価値の大幅な調整が必要です。こうした問題こそ、1930年代にF.D.ルーズベルトが解決しなければならなかった問題でした。

すなわち、ドルの価値を切り下げ、それによって生じる債務の返済負担を免除するために金価値による返済を無効にし、また住宅債務者を助けるために、債権者・銀行は債務の担保を差し押さえるだけで、残りの債務を負債者に要求できないようにしました。ヨーロッパが全額返済を厳しく課すことに比べて、アメリカは債務者監獄の発想を離脱していた、と。

ラトビアが同じような政策を採れば、銀行は破たんするかもしれません。しかし、それは外国の銀行です。そもそも旧社会主義圏では、外国銀行や投機家に対して有利な条件があった、と批判する姿勢に同意します。現在の債務処理において、労働者が負担するよりも土地やエネルギー(資産)の保有者がもっと負担するべきだ、というわけです。

・・・アイスランドが顕著に示しているように。


3.中国問題:通貨・貿易・投資

FT April 2 2010

Chinese official hints at currency accord

By Jamil Anderlini in Beijing and Alan Beattie in Washington

「アメリカが中国の中心的な利害・関心("core interests”)を重視するなら、通貨摩擦は容易に解消されるだろう」と、Tsinghua university 教授で金融政策委員会のメンバーでもあるLi Daokuiは語りました。

胡錦濤国家主席がワシントンを訪問する前に、中国指導部としては、米中間で人民元のドル・ペッグをどうするかに関する合意を得ておきたいわけです。他方、中国メディアは、台湾とチベットを米中間の最大の懸案事項と伝えています。あるいは、人民元「操作」の問題を取り上げるかどうかは、イランの原爆開発に対する安保理制裁決議に関する中国の姿勢とリンクして、米中二国間で取引されている、という風にも見えます。

ガイトナー財務長官は、中国が変動レート制への移行を自分たちの利益と考えているのは確かであり、アメリカとしてはその機会を最大にしておきたいのだ、と語りました。

FT April 4 2010

America must play safe with China

By Clive Crook

アメリカが中国に政治的な圧力をかけるのではなく、IMFやWTOが人民元の調整に関する中国の姿勢を監視・監督(そして勧告)するべきだ。そして、中国のルール違反を主張するよりも、G20などの形で政策協調の枠組みに参加させ、もっと生産的な、マクロ政策の調整に向けて、政策協議を継続的に利用するべきだ。

The Times April 5, 2010

Why the US and China must close the gap

Bill Emmott

国際情勢に関しては国民の認識・意見は変動しやすい、とBill Emmottは書いています。日本でも、もちろん、そうだと思います。別に自分は詳しく知らないし、かなり無責任であっても許されると思うので、自称・専門家やマス・メディアが何度か否定的な(あるいは肯定的な)評価を繰り返すと、多くの人びとはその意見を信じてしまいます。

2か月前、ダライラマとの会見や台湾への武器売却に関して、中国政府の強硬な姿勢は米中衝突を予感させましたが、今では、アメリカの影響力衰退と中国の巧妙な戦略思考が強調されています。

短い電話会談がワシントンでの「原子力安全保障サミット」に胡錦濤も参加するという合意に達すると、それと交換に、ガイトナーは中国を通貨価値の「操作」に関する犯罪人として裁く時期を先に延ばしました。議会の保護主義圧力を抑えるために、プラザ合意もそうでした。

中国側が電話会談に応じたのはなぜか? オバマの医療保険制度改革や米ロの核軍縮合意ではない、とBill Emmottは考えます。三つの現実の変化が中国指導部の認識を変えたのだ。

1.世界金融危機後の現実においても、(EUや日本ではなく)アメリカ経済がもっとも力があるだろう。2.中国がアメリカに敵対して自分たちの世界戦略を進めるには早すぎる。共産党指導部の最重要課題は国内秩序の安定化であり、そのためには国際的には妥協できる。逆に、WTOのルールが中国の国内安定性を損なうような場合には、強い反発が生じる。3.米中双方が多角的な国際機関やルールの利用を望んでいる。アメリカは、しばしば一方的な解決策を好むが、イラクを爆撃して、その結果からしばらくは学ぶだろう。中国には、2兆5000億ドルも減価するドルの準備をため込んで、国内インフレの脅威に苦悩する共産党の指導を修正するためにも、(アメリカではなく)国際機関の意見を政治的に利用する必要がある。

つまり、Bill Emmottは、ここに米中の政治取引は成立した、と考えます。「中国の人民元増価(それは2008年に停止したままだ)を勧告し、IMFに特別勘定を設けて、25000億ドルの外貨準備をIMFの疑似通貨SDRに交換する仕組みを発表することだ。こうして通貨リスク(ドル暴落、中国の外貨準備の評価損)は抑えられる。アジアやアラビア湾岸の通貨価値をドルに固定している諸国も、これに従うよう促される。すべての関係者が利益を得る取引は、必ず成立するはずだ。」

FT April 5 2010

China’s currency is not worth a battle

guardian.co.uk, Wednesday 7 April 2010

A trade war with China isn't worth it

Joseph Stiglitz

通貨戦争も、貿易戦争も、関係者に利益をもたらしません。・・・しかし、だから戦争は起きない、と言うのは、歴史が示すように、間違いでした。

アメリカ財務省が中国を「通貨操作国」に認定しても、問題は解決しません。そもそも「操作」は間違った概念であり、為替レートに直接・間接に影響する行動をすべての国が取っています。米中2国間の貿易不均衡を非難するのは間違いであり、サウジアラビアやドイツ、日本の黒字も深刻です。また、貿易不均衡に影響するのは為替レートだけではありません。特に、アメリカの貯蓄が増えなければなりません。さもなければ、たとえ人民元が増価しても、アメリカは他の国から輸入するだけです。

アメリカ自身が、農産物や自動車に関して、国内の莫大な補助金を無視して「自由貿易」を他国に要求しています。中国の為替レートが安定していることはアジアの景気回復にとって重要であり、人民元の増価は長期的な課題です。同様に、為替レートが中国の成長パターンを変えることが重要であり、その利益は中国政府も主張しています。インフレやバブルを防ぐ方策は、人民元を増価させる以外にもあるのです。

アメリカの対応としては、多角的なルールに基づいて中国と交渉するべきです。また、今回の金融危機はアメリカ発であることを思えば、景気を刺激し、危機の再発を防ぐためにも、アメリカ国内の問題を重視しなければならない。

FT April 7 2010

China is beginning to frustrate foreign business

By Joerg Wuttke

外国資本は市場アクセスや技術導入の橋渡しをします。中国は外資の導入によって成長してきましたが、今、最も外資の支持を必要としているときに、その不満を高めています。


4.アメリカ金融秩序の再建

guardian.co.uk, Thursday 1 April 2010

The IMF's new wisdom

Mark Weisbrot

世界金融危機は国際秩序の転換に向かうチャンスでもあります。IMFが従来の方針を大転換したことにMark Weisbrotは注目します。ただし、それは実行されるだろうか?

「この1年でIMFはその準備通貨であるSDRを2830億ドル追加した。」・・・それは通貨の増発、アメリカ連銀やバンク・オブ。イングランドが採用した「量的緩和」に匹敵する政策です。「いかなる条件もつけずに加盟諸国が追加のSDRを得たことは、IMFがかつてやったことのないもの(政策判断・選択)でした。」

しかし、とさらに考察します。IMFが示した二つの大転換は、必ずしも実行されていない、と。二つとは、「反景気循環的マクロ政策」と「資本規制」を支持することです。IMF融資は、その条件として高金利と緊縮財政を求めました。また、他方で、世界に資本自由化を広める旗振り役でした。IMFの公式の報告書でこの姿勢を転換することが表明されたのです。

Mark Weisbrotは、2009年にIMF融資に合意した41のケースを調べ、31カ国が緊縮的な内容を含んでいる、と批判します。たとえ不況と通貨危機の中にあっても、資本規制を行い、IMF融資を得て、財政刺激策や金融緩和を実施する国は、貧しい、発展途上の国にはないのです。他方、それは裕福な諸国において行われています。

Mark Weisbrotは、その理由を「特集利益」に見出します。国際金融秩序を支配するのは、アメリカなど、裕福な国の金融官僚に限られ、また、その多くはグローバルな金融機関、つまり、ゴールドマンサックスなどからスタッフを得ています。彼らの利益はIMFの新方針と矛盾します。

「こうした金融機関の影響力がアメリカ政府内でどれほど重要か、というのを理解するには、バブルの期間に金融関係者が過剰な利益がその後の不況につながったことを広く知るに及んで、国民の不満があれほど高まっているのに、アメリカ議会が金融改革のために提案するのは『ナッシング・バーガー(中身のないハンバーガー)』でしかないのを見るだけでよい。」

NYT April 2, 2010

Financial Reform 101

By PAUL KRUGMAN

銀行の危機(あるいは、“too big to fail”)を防ぐには何をなすべきか? 金融改革についての意見は対立したままです。PAUL KRUGMANは、自分の立場を支持するために、論争を整理します。

ボルカーなどと違って、PAUL KRUGMANは銀行の規模を問題にしません。むしろ規制を新しくするべきだ、と考えます。シャドー・バンキング・システムを規制するのです。

WP Sunday, April 4, 2010; B03

To battle Wall Street, Obama should channel Teddy Roosevelt

By Simon Johnson and James Kwak

NYT April 5, 2010

Making Financial Reform Fool-Resistant

By PAUL KRUGMAN

guardian.co.uk, Wednesday 7 April 2010

Why we must break up the banks

Dean Baker

Dean Bakerは、PAUL KRUGMANに反対して、銀行の分割を主張します。カナダや大恐慌の例を挙げて、銀行の規模と金融危機は関係ない、という主張は必ずしも正しくない。なぜなら、規制当局は銀行の利益を考えるからです。S&L危機もそうでしたが、業界と規制当局との緊密な関係は明らかにその判断に影響します。いかに優れた規制を作っても、アメリカの大銀行と政界とがその判断を自分たちに有利に変えてしまうでしょう。

「もしシティバンク、ゴールドマンサックス、JPモルガンなど、巨大金融機関を分割すれば、その時何かが変わったと知るであろう。大銀行の分割と金融取引への課税は、失的に異なった金融産業を生むだろう。」

FT April 7 2010

Bubbles lurk in government debt

By Kenneth Rogoff

「次のバブルはどこか? 金か? 中国の不動産か? 新興市場の株式か? あるいは?」 Kenneth Rogoffの答えは、「Np,Yes,No.それは国債(政府債券)だ。」


5.アメリカとロシアの核軍縮

FP APRIL 2, 2010

Four Minutes to Armageddon

BY DAVID E. HOFFMAN

核戦争による人類滅亡まで、残り時間は4分。

1969年にニクソンが示された核戦争の選択肢(大きくわければ3つ、Alpha, Bravo, Charlie)を見ると、その深刻さと追加されていく複雑さに驚くだけでなく、現在のさらに複雑な世界と選択肢の組み合わせに直面する政府の責任に、誰が、どのようにして対応できるのか、と思います。

しかも、選択肢は状況によって狭められる可能性が高く、もし緊急の危機に直面すれば、大統領に残された時間は、・・・「おそらく数分でしかない。」 「こうした非常に短時間に発射される核兵器が準備されているという状態は、冷戦時代に深い影響を与えた。」

LAT April 6, 2010

Setting nuclear limits

「超大国の対立、冷戦の時代から、核拡散、ならず者国家、テロの時代に」対応した核政策をオバマは求めています。

FP April 6, 2010

Setting nuclear limits

FP April 6, 2010

Obama embraces missile defense in nuclear review

Posted By Josh Rogin

guardian.co.uk, Wednesday 7 April 2010

Our giant step towards a world free from nuclear danger

Hillary Clinton

The Guardian, Wednesday 7 April 2010

US nuclear review: Poor posture

非核国に核を使用しない。使用可能な核兵器を開発しない。核兵器の保有を減らす。・・・これは、ノーベル平和賞に対する、一定の答えです。

SPIEGEL ONLINE 04/07/2010 06:13 PM

The World from Berlin

'Obama's Nuclear Strategy Is a Small Revolution'

LAT April 7, 2010

A comprehensive nuclear arms strategy

By Joe Biden

NYT April 7, 2010

Mr. Obama’s Nuclear Policy

FP APRIL 7, 2010

It's Not About the Treaty

BY DAVID E. HOFFMAN

WSJ APRIL 8, 2010

Evaluating the U.S.-Russia Nuclear Deal

By KEITH B. PAYNE


7.キルギスタンの革命U

(コメント) ウクライナ、グルジア、キルギスタン。東欧の民主化革命が波及したこれらの国の政変は、「民主化」と何も関係ない政変に変わり、その後も権力の形は変転し続けています。そして、タイの政変は東南アジアを変えるでしょうか?

guardian.co.uk, Thursday 8 April 2010

Kyrgyzstan: a Russian revolution?

Simon Tisdall

guardian.co.uk, Thursday 8 April 2010

Kyrgyzstan's second tulip revolution

Dilip Hiro

FT April 8 2010

Freshly cut tulips

The Times April 8, 2010

Post-Soviet Tragedy

WSJ APRIL 8, 2010

Thailand's New Normal

WSJ APRIL 8, 2010

The End of the Thai Fairy Tale

By MICHAEL MONTESANO


WP Sunday, April 4, 2010; A15

Soaring Hispanic population will have a political impact

By David S. Broder

FT April 4 2010

Europe’s backlash against immigrants

LAT April 8, 2010

A sea change in attitudes toward illegal immigration?

By Dan Schnur


FP APRIL 2, 2010

The Classics Rock

BY JAKUB GRYGIEL

「タキトゥス、ヘロドトス、ジュリアス・シーザー、プルターク? そんな大昔に死んだ人々より、ほとんどの学生は中国の台頭に関する最近の研究を好む。」・・・「古典には、ゴールドマンサックスやペンタゴンに就職する助けとなるようなことは何も書いていない。古代人たちはIS−LM曲線の動きについて心配しなかった。」

人間の行為を、政治学や経済学など、単独のレンズで理解することはできない。われわれはしばしば、理解できない、制御できない力に翻弄されている。事件は、ときに、それが起きて初めて評価できる。


WSJ APRIL 5, 2010

A Marshall Plan for Southeast Asia

By SADANAND DHUME

LAT April 7, 2010

When suicide bombing is simply strategic suicide

By Max Boot

guardian.co.uk, Thursday 8 April 2010

The great US foreign policy flaw

Mark Weisbrot


WSJ APRIL 7, 2010

Is Japan Ready for Two-Party Democracy?

By MICHAEL AUSLIN

与謝野・平沼の自民党離党、「たちあがれ日本」を、日本の政党政治に対する創造的破壊として歓迎する論説です。

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The Economist March 27th 2010

Out of the ruins

American politics after health reform: Now what?

Foreign takeovers in Britain: Small island for sale

Charlemagne: The myth of the periphery

(コメント) 新入生たちに「経済学」を考えてもらう上で、私はThe Economistを取り上げようと思います。いろいろ迷うより、冒頭の記事にしました。

この327日に配本された雑誌には、イギリス経済に関する考察が載っています。本文の最初の特集記事がイギリスの財政赤字増大を扱っています。また他の記事では、直接投資やM&Aに関する開放的な政策、イギリス企業の外国企業による買収(そして逆も)が議論されています。

面白いと思ったのは、イギリス経済が非常に優れた成果を示し、ヨーロッパ諸国に比べてグローバリゼーションの成功例とみなされていたことです。ロンドンに集中するグローバルな金融ビジネスへの依存が大きく、ユーロを採用せずに独自の金利や為替レートを保持していることが評価を難しくしています。

The Economistは、イギリス経済の開放性や弾力性、いわばサッチャーの遺産を評価しています。労働党政権が食い潰したとしても。そして、今後の財政赤字削減に政権政党の責任を問います。

この分析には異論もあるでしょう。むしろ、The Economistも変わったな? という印象です。本文中のもう一つの記事("Class and politics: The misinterpreted middle”)の方が、サッチャーとキャメロンをイギリス<階級>政治の特質と結びつけて面白いでしょう。

同様に、面白い、と感じたのは、アメリカの医療保険制度がヨーロッパ諸国から大きく異なった背景や、ギリシャの財政赤字を単純に削ればよい、というユーロ圏もしくはドイツの要求に慎重でなければならない歴史的な背景を議論した記事です。


The Economist March 27th 2010

University rankings: Leagues apart

Outsourcing to Africa: The world economy calls

Greece’s bail-out maths: Safety not

Economics focus: Tricky Dick and the dollar

(コメント) 大学の世界ランキングが日本の教育(官僚)界・言論界でもときおり話題を集めます。その順位を信用すべきでしょうか? あるいは、学生たちが登録科目やゼミの選択に何か怪しい情報や流言、就職がらみの不安と期待を結びつける様子に、一層、困惑します。

アフリカにも国際空港や、インターネットの飛躍的改善になる大陸間ケーブルが敷設されれば、コールセンターやデータ処理のようなアウトソーシング・ビジネスが繁栄するのでしょうか?

ギリシャの救済融資を、ユーロ圏を維持するためには、IMF融資とは別に、もっと追加しなければならない、と指摘しています。財政赤字とインフレ、対外赤字が連動する場合、緊縮政策と不況は必要ですが、同時に、安定化融資と切り下げも必要でした。IMF融資は制度上(そしてイデオロギーとして)緊縮政策を転換できず、それゆえ、ユーロ圏としては制度的な財政再建の監視と支援策を組み合わせることが求められます。

あるいは、米中間では、逆に、一方的な輸入課徴金と人民元切上げ・ドル切下げが要求されるべきでしょうか? ニクソン政権の恫喝にドイツや日本が従ったように、中国政府が従う保証はない、と誰もが慎重な交渉を求めています。それは、上辺だけでしょうが。