IPEの果樹園2010

今週のReview

3/29-4/3

IPEの想像力

*****************************

IPEの想像力 3/29/10

普天間基地の移設問題も、郵政民営化問題も、政権交代によって議論を再編し、ガバナンスの革新にあえて挑んだ分野です。安全保障と国内の経済秩序を変える上で、根本的な選択を含んでいるのはもちろんです。私は、新しい連立政権に希望を失っていません。

しかし、新政府が方針を転換するには、もっと国民的な議論を指導する必要があると思います。危機を乗り超えるために、厳しい議論の前面に立つ政治家が必要です。

日本が小国であれば、世界市場や国際政治の変化にもっと敏感であったでしょう。日本が東アジア共同体の加盟国であったら、今も、人民元の為替レートやアジア各国の貿易不均衡について、融資や調整過程をもっと議論していたはずです。

金融政策や金融規制、為替レート、国際収支不均衡、社会保障制度、移民政策、インターネット世界の市民権、新しい安全保障、民主主義と改革、など、日本の政治家やジャーナリストたちが取り上げるべき問題が、たった1週間でも世界に一杯ありました。

・・・リハビリを口実に、古本屋まで歩きます。三浦しをんの小説、『まほろ駅前多田便利軒』を読みながら、特に後半、饒舌さ、鋭い感性、巧妙な展開に感心しつつ、何か妙な気分でした。

・・・幼児虐待や家庭内暴力、進学高校の女子優等生が両親を殺害し、逃亡する。また、赤ん坊は病院で間違えられ、両親は疑いながら育てるとか、浮気した妻の産んだ子にDNA鑑定を拒み、高熱であっけなく死んだことに自分たちが苦しみ続けるとか。202000円という、二人の元気な娼婦が彼らの友達だったり、疎遠な家族に閉じ込められた子供たちを勇気づけたり、10代で麻薬密売の指導者になったバスケ部の元キャプテン・・・

お昼のワイドショーに並ぶような、刺激的で猟奇的な事件が並びます。どれも本当に起きたショッキングな事件でした。そして、余りにも陰惨で、理解できない、絶望しそうな話です。そんな彼らが繋がる中で、この小説は元気の出る、希望の見える話になっています。

良質のスパイ小説やハード・ボイルドが映画にもなるように、漫画・劇画が小説になれば、多分、こんな形かもしれません。同時に、下手をすると言葉は軽くなり、現実も軽くなって、漫画と同じように、単純化され、誇張され、過激で、異常なものに向かいます。これが新しい現実であり、感覚として同調できるかどうか。

・・・平岩弓枝の『西遊記』を読みながら、これも紙芝居や劇のようなものだな、と得心しました。『まほろ駅前多田便利軒』と違うのは、妖怪だけでなく、多くの神や王、仏が登場することです。

おそらく、政治は大きな危機を乗り越える瞬間に試されており、困難を打開するため、結束して指導する力を持つ者に輝きを与えるのです。日本人の想像力にも、政治家にも、そのような輝きがもっと必要です。

******************************

1.ギリシャ危機とユーロ、ドイツ、IMF

2.オバマ医療保険制度改革の議会通過

3.中国人民元と貿易戦争

4.世界景気回復

5.アメリカ金融制度改革

6.グーグル中国本土撤退

7.イラン核保有と中東政策、8.移民政策、9.タイ民主主義、10.開発政策の展開、11.日本の改革幻想は終わった。

******************************

主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


1.ギリシャ危機とユーロ、ドイツ、IMF

(コメント) 何のために為替レートはあるのか? 異なる通貨間の貿易や投資が換算される、という、交換比率であるから、それは財市場や資産市場、労働市場が比較される基準を与えています。

物価を変化させて不均衡を調整するよりも、為替レートを変更する方がよい、と考えるのか、あるいは、緊密に結びついた市場間で、価格や利子が為替レートを介して変化することに耐えられない、と考えるのか。

市場統合で期待されたダイナミックな利益は、金融危機や低成長、財政赤字削減の問題に直面するとき、遠心力に変わります。不均衡の調整や金融危機の回避、不況対策についても、共通通貨のメリットが実感できるような仕組みや、政治家たちの交渉過程と説得が必要なのでしょう。

東アジアで共通通貨を導入するには、どのような準備が必要か? 今の不均衡や次の通貨危機、財政赤字に、どのような共通の考え方や基準を示せるか? 国内の年金や郵貯問題、派遣労働者問題に、国際的な改革の方針と比べて、その模範となるような理念を掲げる政治家が必要です。

FT March 18 2010

Higher German wages are not the solution

By Otmar Issing

他国の赤字とユーロ圏(そして世界)の不況を解決するために、黒字国のドイツが消費を刺激するために高賃金政策を採ってはどうか? という考えをOtmar Issingは「経済的に間違っているだけでなく、政治的に危険である」と強く否定します。その強い表現、「スキャンダル」や「狂気の沙汰」、「ユートピア経済学」に、その憤懣(苦しい困難な改革を経て競争力を高めたドイツが責められている)が、そして、今後のユーロ圏を組織するドイツ金融政策の考え方が示されています。

「そのような変化(ユーロ圏内の多くの国で単位労働コストが上昇して競争力を失う)をEUが許容したことで、当然、現在の危機に至ったのは、スキャンダル(恥ずべきこと)だ。」「個別国の単位労働コストをヨーロッパ当局が『統治(管理)する』というのは、それを何と言うにしても、経済的に愚かで、政治的に危険な考え方だ。」

「ドイツが拡大的な賃金政策を採って、失業水準を高くする、というのは狂気の沙汰だ。」 その結果は、低熟練労働者が解雇され、生産性が上がって、再び賃金を上げろと要求されるだろう、と。・・・「ヨーロッパ」を自分たちの政策失敗の言い訳にするな!

賃金を決めるのは各地・各部門の生産性であり、労働市場である。ドイツが赤字諸国のために、EU全体のために、賃金を引き上げる、というのは現実を無視した考えだ、と批判します。赤字国は、ドイツのように、改革に努力するべきです。そしてドイツはダイナミズムを発揮して、もっとサービス部門を拡大し雇用できる、と考えます。

SPIEGEL ONLINE 03/19/2010 02:13 PM

The Future of the Euro

Moment of Truth for Europe's Common Currency

By Anne Seith

EU諸国、特に独仏間、黒字国と赤字国、の政策論争が整理されています。「EUの共通経済政府はできるか?」 「安定協定をどうやって強化するか?」 「EU金融検証とは何か?」 「EMF(ヨーロッパ共通基金)で危機を回避できるか?」

財政健全化のために、赤字国に対する厳罰処分を自動化すること。それは、悪循環ではないか? あるいは、ヨーロッパのIMFとして、EMFを強化する。その資金はどこから得るのか? どのような返済を強制できるのか?

WSJ MARCH 19, 2010

One Currency Doesn't Require 'One Europe'

By JUDY SHELTON

「ユーロは、20世紀最大の成果か、あるいは、最悪の幻滅であったのか?」

ジョージ・ソロスは、共通の中央銀行ではなく、共通の財務省がないことがユーロの欠陥だ、と主張しました。JUDY SHELTONは、逆だ、と考えます。健全な通貨は、政府・財政政策からもっと切り離すべきだ、と。

FT March 21 2010

A pseudo solution to the euro's failings

By Martin Taylor

ヨーロッパは「野心的過ぎた」、あるいは、自信過剰だった。イギリスやスカンジナビア諸国を除いて。特に、ドイツとその競争力を維持できる少数の近隣諸国だけでなく、南欧の諸国を参加させた点で。

ユーロが成立する前提は、「南の国が財政を少し引き締め、北の国が財政を少し緩和することだった。しかし、現実には反対のことが起きた。」 金融危機はこの矛盾を痛撃した。

ユーロ圏を二つに割ってはどうか? 「北ユーロ」と「南ユーロ」(ギリシャ語の「偽物」と音が近い)に分かれる。ユーロのすべてを半分ずつに交換する。当然、人びとは北ユーロを貯蓄し、南ユーロを使用し、南ユーロの為替レートは減価します。

こうして、通貨同盟のメリットを残しながら、必要な為替レートを取り戻す。

FT March 21 2010

Time to send the IMF to Athens

WSJ MARCH 22, 2010

Greece and the IMF

guardian.co.uk, Sunday 21 March 2010

Germany: a euro laggard

March 23 (Bloomberg)

Going Bust in Greece’s Sunshine May Not Be So Bad

Matthew Lynn

ギリシャは破産するべきだ。国家にはすべてが許されており、国益のためには何でもできる。ユーロの信認を高めることは、今のギリシャの国益ではない。

まず、ドイツ人を怒らせて救済融資を拒否させる。それはギリシャに長期のデフレ政策を強いるだけだから。次にデフォルトする。債務を返さないからと言って、ドバイに債権者は何ができたか? 侵略したか? 大丈夫。

もちろん、ギリシャ国債を持つ銀行は損失を出す。しかし、その多くは、フランス、ドイツ、イギリスの銀行だ。彼らの政府が救済すればよい。

では、ギリシャ政府はどうやって赤字を賄うか? 輸入を続けるか? 電話を二本かければよい。

一つはモスクワへ。ロシアは伝統的に地中海への出口を望んでいる。プーチンもそうだ。原油価格が80ドルを回復した今、ギリシャが困っていると言えば、それ以上、何も言わなくても、財源を一部回してくれるだろう。

もう一つはワシントンへ。オバマ政権は、ギリシャがロシアの衛星国家になることを好まない。IMFの職員たちはすぐにアテネへ派遣される。ドイツやECBが付けるような難しい条件などなしに、必要な融資をしてくれるだろう。

しかも、ギリシャはユーロ圏にとどまり、依然と同じように赤字で暮らすことができる。・・・

FP MARCH 23, 2010

Could Greece Get Kicked Out of the European Union?

No.

BY ANNIE LOWREY

guardian.co.uk, Tuesday 23 March 2010

Europe needs a single government

Robert Skidelsky

ヨーロッパの対応は不十分だった。「1958年のローマ条約は、ヨーロッパの偉大な前進だった。しかし、共通政府のない共通市場を創設した決定は、単に、将来の問題をため込んだだけだった。それ以来、27の加盟国、16のユーロ圏へ拡大したことは、その表現と現実との乖離を広げてきた。」

ドイツの財務大臣Wolfgang Schäubleは、EMFに言及しながら、それを政治的に受け入れ不可能な形で定義しました。赤字国であれば、ラテンアメリカが債務危機でそうであったように、政府をアウトソーシングしても文句は言えない、と。それがいやならユーロを離脱すればよいし、彼らが出て行かないなら、ドイツの方が出ていく。

しかし、ユーロ圏問題は、むしろ赤字国や銀行を救済できる財務当局や中央銀行がないことです。ドイツがその解決策を拒む姿勢は、かつてJ.M.ケインズが批判した赤字国にデフレ政策を強いる財政均衡主義です。それを緩和させるために、IMFはできました。ところが、Wolfgang Schäuble蔵相はドイツのデフレに偏った財政均衡主義を譲りません。倹約は、それを他で使用されなければ、美徳にならない、とケインズは批判しました。

それは、経済的に問題である以上に、地政学的に問題だ、とRobert Skidelskyは主張します。こうして統一性を書いたヨーロッパを、アメリカや中国、ロシアは重視しません。それこそ、1848年の大ドイツ主義、1871年のビスマルクが目指したしょうドイツ主義を復活させるものであり、EUが目指してきた政治目標を破壊する発言です。

SPIEGEL ONLINE 03/23/2010 07:11 PM

Bringer of Prosperity or Bottomless Pit?

Top German Economists Debate the Euro

Peter Bofinger and Joachim Starbatty

ユーロを使っていることで、われわれはドルや円を使うよりもずっと安定しており、共通通貨は成長と繁栄をもたらした、とPeter Bofingerは主張します。他方、Joachim Starbattyは、ユーロは間違っていた、と考えます。条件の違う国が同じ政策を採用すること、同じように生産的であること、を強制するのは失敗だった、と。

インフレ率、財政赤字、GDP・債務比率、いずれで見てもアメリカやイギリス、日本よりも優れているのに? 共通通貨のおかげで通貨投機に遭うこともない。・・・しかし、それこそが問題だ。為替レートという調整バルブがない。

では、もし、明日から各国通貨が再生したらどうなるか? ・・・それは破滅だ。ドイツ人があれほど苦労して実現した高い競争力を、マルクの急激な増価が消滅させるだろう。・・・共通通貨がそれほど好ましいなら、なぜ誰もが参加しようとしないのか? なぜギリシャはEUの旗よりナショナリズムに向かうのか?

NYT March 23, 2010

European Disunion

FT March 23 2010

Europe: Defiant in Berlin

By Ralph Atkins in Frankfurt

FP MARCH 24, 2010

Fiddling While Greece Burns

BY VINCENT REINHART

FT March 24 2010

Reasons to be cheerful about Europe

By David Marsh

大失敗? ギリシャ危機のせいで注目されていない、ヨーロッパ金融市場のプラス面があります。

1.ユーロ安が進み、2.小国の通貨危機が回避され、3.ドイツの主導権が認められ、4.輸出先である新興市場の回復が進み、5.ECBは低金利を継続し、6.放漫財政の国に警告し、7.ドイツの消費が拡大し、8.独仏の政策分担が進み、9.アジアへの対抗意識が現れ、10.ECB総裁にはドイツ人が就く。

FT March 24 2010

Greece triggers an EU identity crisis

一方では、財政赤字国の債務危機問題。他方では、対外黒字国のデフレ問題。モラル・ハザードが懸念され、ドイツはIMFの関与を求め、フランスは拒む。

March 25 (Bloomberg)

Greek Showdown Puts Merkel in Euro Hot Seat

Celestine Bohlen

guardian.co.uk, Thursday 25 March 2010

Rethink the euro to save economies

Mark Weisbrot

ドイツに頼ろうが、IMFに頼ろうが、問題は同じです。ユーロ(固定レート)は、それを維持する赤字国にデフレ政策を求めます。ギリシャはユーロを維持するために、たとえ融資を受けても、厳しい不況を続けるのです。しかも、緊縮政策(共通通貨内の物価切下げ)が教育やインフラの予算を削り、赤字国の生産性を将来も低下させるでしょう。それは、回復とともに、再びバブルを生じるのです。

SPIEGEL ONLINE 03/25/2010 06:03 PM

'Greece Is a Crucial Test' for Euro

German Bank chief economist Thomas Mayer

政治同盟でも、財政統一でもない、通貨同盟であるから、各国は危機を自国で解決しなければならない。メルケル首相はギリシャへのIMF融資を拒んでいるのではない。

IMF融資を超えて、危機が他のEU諸国に波及すれば、EFMの出番だ。EMFは秩序ある破産を可能にする。国債の投げ売りを止めて、一時的に保有するだろう。これはIMFにはできないことだ。

FT March 25 2010

Merkel and Sarkozy push Greek deal

By By Quentin Peel, Ben Hall and Joshua Chaffin in Brussels

ギリシャにはIMFが融資する。その融資条件を満たして、ギリシャは必要な債券を発行する。それが市場で調達できないときはユーロ圏16国が(ECBの資本比率に応じて)融資する。諸国は全会一致で引き受ける。そのような形で、ドイツに拒否権を与える。

IMF融資はギリシャが得る資金全体の約3分の1に抑える。EUは、成長戦略を協力する「ヨーロッパ経済政府」(あるいは、ゴードン・ブラウンが昨年のG20で唱えた国際協力)を目指す。


2.オバマ医療保険制度改革の議会通過

(コメント) 金融市場・制度=規制の改革と、社会保障制度の改革を、オバマは危機回避の次に目指していました。世界的な規模の市場システムと両立する社会保障制度を築けるかどうか、アメリカ、EU,中国、日本、いずれの国も問われています。

これがグローバル国家の必要条件であり、新しい国際競争力の源泉にもなる、と、さまざまな論説を読む中で感じます。さまざまな内外の課題と、政治文化の形成に向けて、アメリカは苦しみます。

あるいは、これは南北戦争Uなのでしょうか? ユーロに匹敵する、もうひとつの同盟の危機?

NYT March 19, 2010

The Broken Society

By DAVID BROOKS

「アメリカは分裂社会になった。政治家階級は大衆から軽蔑されている。国債が驚異的なペースで増えている。中産階級の賃金は下がり、失業率は高いままだ。金融危機から完全に回復するには数年を要する。」

アメリカ人の間に、「自由主義」、「市場原理主義」、「大きな政府」への批判が高まっています。ここでは、市民の共同体を回復する、イギリス人の作家、Phillip Blondとその政治改革を紹介しています。リバプールの労働者階級の中で育った彼は、製造業が衰退し、政治権力がロンドンに集中してしたことを観てきました。

左右からの革命によって、社会は分散し、政治は集中し、経済は巨大な金融構造に従属するようになりました。「ますます分裂し、無力化され、孤立した市民たちの上に立つ、機能不全の官僚国家。」 「福祉国家も、市場国家も、ともに破綻し、互いにその失敗を支え合っている。」

Blondが求めるのは、「ラディカルな、転換を促す、保守主義」です。人間的な結び付き、社会とその構成員である人民が高揚できる、真に集権的な主権国家。・・・市場を道徳化する。経済を地方化する。貧困に資本を与える。大企業・大ショッピングセンターよりも、地方の零細企業、個人商店、地方貯蓄銀行、協同組合、などを支援する。

市民国家を創り出す。権力を分散し、チャリティーを増やし、地方分散のためにインフラへ投資する。大学よりも地域の学校を重視する。

こうした理想がイギリス国民や政治家を動かし始めています。アメリカはその文化を共有しており、学ぶことが多い、と。

LAT, March 21, 2010

A historic first step

guardian.co.uk, Monday 22 March 2010

Healthcare reform vote: sweet victory for Obama

Richard Adams

guardian.co.uk, Monday 22 March 2010

Healthcare reform: the economic effect

Tim Fernholz

医療保険制度改革が、医療費の負担を減らす。保険会社の競争を促す。高額医療に課税する。労働市場を効率的にする。小企業の起業を促す。

SPIEGEL ONLINE 03/22/2010 11:27 AM

US Health Care -- Good for America, a Burden for the World?

By Gregor Peter Schmitz

WP Monday, March 22, 2010; A17

Yes, they made history

By E.J. Dionne Jr.

NYT March 22, 2010

Health Care Reform, at Last

NYT March 22, 2010

Fear Strikes Out

By PAUL KRUGMAN

FT March 23 2010

Obama secures his place in history

The Times March 23, 2010

Obama has done what LBJ and FDR couldn’t

Robert Dallek

フランクリン・D・ルーズベルトが1935年に高齢者の医療保険を導入し、1965年、リンドン・ジョンソンがメディケアを導入したように、オバマの改革法案通過は時代を画す成果である。ときが経つにつれて、この法律はニュー・ディールや偉大な社会が80年を経てそうなったように、保守派の反動を寄せ付けなくなるだろう。

しかし、今はまだ、共和党と民主党との主導権争いにさらされている。この法律が単なる金食い虫で、「大きな政府」を好む民主党が押し付けた失敗作だ、と共和党は主張し続ける。民主党員は、朝鮮戦争に踏み込んだトルーマン大統領と、ベトナム戦争で58000人の犠牲者と数十億ドルの財源を浪費したジョンソン大統領とを比べて、安全保障においては共和党の判断が優れている、と国民が信じたような、同じ失敗に終わることを非常に恐れている。

長期的な結果は予測できないが、この法案通過がオバマの政治的立場と統治能力を高めるのは当然だ。しかし、オバマが本当に、FDRやトルーマン、ジョンソンと並ぶ、偉大な大統領となるには、景気を回復させて再選されなければならない。

The Times March 23, 2010

A Vote for Progress

LAT March 23, 2010

The reality of Obamacare

Jonah Goldberg

WP Tuesday, March 23, 2010; A19

The health-care vote: One more step on a long, slow journey

By Richard Cohen

共和党の反対は的外れだ。改革法案は社会主義と何の関係もない。しかし、この法案が長い闘いとなったのは、政治システムが分裂して機能しなかったからではなく(それはアメリカのシステムの前提である)、怯えから生じた怒りを鎮められなかったからだ。プロテスタントの白人の国が失われつつある、と。「嘘つき!」 「ベビー・キラー!」 彼らはオバマが象徴する変化を恐れていた。

共和党は過去の政党になった。ニュー・ディールに反対、社会保障制度に反対、市民権運動に反対、ゲイの権利に反対。進歩を避ける政党。

NYT March 25, 2010

Brave New Health Care World

By GAIL COLLINS

WSJ MARCH 25, 2010

ObamaCare and American Power

By MAX BOOT

「オバマの医療保険制度と経済の関係については多くのことが書かれた。しかし、私はグローバル・パワーとしてのアメリカに及ぼす影響を懸念する。」

アメリカの軍事費(6610億ドル)は他の世界をすべて合わせたものとほぼ等しい。しかし、それでさえ、社会保障の費用(1兆3800億ドル)には遠く及ばない。前者は支出の17%、後者は38%である。しかも、社会保障費は急増しつつある。

オバマはその政府の肥大化を止められないだろう。どうなるかは、ヨーロッパを見ればよい。「EU27カ国は、昨年、GDPの52%に相当する財政支出を行った。防衛費はGDPの2%であり、アメリカの4%以上と比べ物にならない。」・・・「アメリカが軍事支出を社会保障費に転換したら、世界に何が起きるのか?」


3.中国人民元と貿易戦争

(コメント) 人民元が不当に低い価値で輸出を伸ばすために政府によって操作されている、という批判が、IMFやWTOを動かし、それが機能しなければ、通貨戦争や貿易戦争(そして世界市場の分割と軍事衝突の危機)が始まる可能性は、どのくらいあるのでしょうか?

WP Friday, March 19, 2010; A25

Currency spat reveals a nervous Chinese autocracy

By Sebastian Mallaby

議会やオバマが批判して、中国側の官僚や温家宝首相が逆立ちした「保護主義」批判をするまで、中国自身が為替レートの弾力化や、人民元の増価を目標としてきた。

しかし中国の官僚制度も、アメリカの民主主義と同じく、刺激策を与えることは簡単で、市場に応じた改革は難しい。中国もいずれ、輸出より国内市場を成長の源泉にしなければならず、為替レートを固定するより、金利を動かすことに重要性を見出す。

しかし、輸出市場を失っておアニックになった国内生産者に、銀行を通じて刺激策を与えるとき、政府は不動産バブルを煽ったのであり、民間企業より国営企業の非生産的な投資を増やしてしまった。インフレ率が高まって、さまざまな不確実性が政府の不安を膨張させているとき、人民元の安定性は何ものにも代えがたい、という輸出部門の政治圧力から逃れられない。ワシントンの政治圧力に屈したような選択は考えられない。

March 22 (Bloomberg)

Krugman Versus Roach Is Right Fight for Don King

William Pesek

NYT March 22, 2010

Stifling the Economy, One Argument at a Time

By ROBERT E. LIGHTHIZER

豊かな国は低成長に苦しみ、新興諸国は成長の回復が著しい。こんな世界でオバマ政権はドーハ・ラウンドの目標を引き継ぐというのか?

FT March 22 2010

Renminbi reform is just the start for China

By George Magnus

「アメリカは中国からの輸入品に広く関税をかけ、中国は保有するアメリカ国債を売却する。」 それは米中双方の利益にならないが、三つの理由で避けられないだろう。

「1.金融危機はアメリカとヨーロッパに衝撃を与え、その行動を大きく変えた。また、中国の経済モデルを世界システムの脅威とした。」 中国が黒字を減らさなければ、保護主義と世界不況に向かうだろう。

「2.問題は、中国の為替レートそのものではなく、その非弾力性である。・・・過小評価された為替レートが中国の輸出と投資に依拠した発展モデルの中心にある。その通貨体制が消費に課税し、・・・輸出に大幅な補助金を与えている。」・・・為替レート体制だけでなく、広範な政治体制の改革なしに、この発展モデルは止められない。農村戸籍、出稼ぎ労働者、一人っ子政策、すべてが関係する。

「3.中国が現状維持を続ければ、その融資と金融政策の危険性は増していく。」・・・実質金利はマイナスになり、1920年代のアメリカや1980年代の日本に似てくるだろう。

FT March 23 2010

China will pay for its arbitrary rule

WSJ MARCH 25, 2010

Don't Push the WTO Beyond Its Limits

By JAMES BACCHUS

アメリカ議会はオバマ政権に中国を政治的な「為替操作」で断罪し、報復の関税を課すよう求めている。双方が和解できなければ、それはWTOの訴訟になるだろう。

大量失業の責任を外国からの輸入に転嫁し、米中貿易摩擦を安全保障上の危機に拡大するのは、選挙前の民主党員や共和党員の望むところである。しかし、WTOの法的なメカニズムが機能するには望ましくない動機だ。

1980年代・90年代の日米貿易摩擦や円高圧力を思い出すでしょう。JAMES BACCHUSは、ルールに依拠した世界貿易を守るためには、WTOやIMFの亀裂を深めるより、米中双方が交渉で解決するべきだ、と求めます。それ自体、矛盾した主張です。


4.世界景気回復

FT March 18 2010

Headroom for economic recovery

By Samuel Brittan

経済政策の目標をインフレ率(2%)だけにすることは正しくない。短期的にはインフレ率は変動するべきだし、「アウトプット・ギャップ」を測定する正しい指標にならない、とSamuel Brittanは考えます。他方、この政策枠組みを残したまま、2%を4%に引き上げる、というO. Blanchardの提案は、もっと悪い、と批判します。

むしろ、以前の政策目標、James Meadeなどが支持した名目GDPに戻ってはどうか、という考えにも、「金融政策と財政政策は需要や生産を実質タームで『管理』できない」と反対します。それゆえ、微妙な妥協案、すなわち、5%以上の名目GDP成長を目指し、インフレ率がたとえば5%を超えたときは、成長を損なってでもインフレ抑制を優先する、という政策枠組みを支持します。

この政策決定は、経済予測や政治家の心理状態によって損なわれることが少ないでしょう。また、もし金融規制が不十分でバブルが心配されるなら、資産価格を加えてもよい、と考えます。

残された重要な問題は二つです。1.名目GDPの目標値は一国レベルで決められるか? 2.名目GDP、または、インフレ率を引き上げるような、工業諸国の外からのショック、すなわち石油危機のような圧力、が生じるかどうか?

FT March 19 2010

World leaders are choosing recession

中国は、(オバマのように!)社会保障制度を整備して消費を促し、銀行・金融制度を改善して国内投資を促し、資本逃避や為替レートの急激な変化を恐れなくてもよいような国内改革を進めて、過剰貯蓄・対外黒字を減らすべきだ、と主張します。ドイツも国内支出を増やし、ユーロ圏内のデフレ調整を緩和すべきだ。

世界の指導者たちは選択できるのです。

FT March 23 2010

Recovery depends on Main Street

By Robert Reich

「グローバルな大企業、ウォール街、高所得層が回復すれば、中小企業や中低所得層が困窮したままでも、アメリカ経済は回復できるのか?」

「たとえば、アルコアは2009年末に15億ドルの余剰資金を持っていた。それは2008年末の2倍である。アルコアがそれを得た方法はすさまじい。その労働者の32%、28000人を解雇し、43%の投資を削った。」 だから、彼らがいくら好調でも、アメリカ国民は職を失い、困窮する。

彼らは補助金を得ても、余った資金を使って雇用を増やすより、他企業を買収してリストラを強制し、あるいは、株価を上げるために自社株を買い戻す。サプライ・サイダーが熱狂する企業への減税策では、こうした問題を解決できない。

アメリカの財とサービスに対する需要(それは世界経済にとっても重要だ)の70%は消費であった、とRobert Reichは警告します。

FT March 23 2010

Excessive virtue can be a vice for the world economy

By Martin Wolf

ドイツ(そして中国)は競争力を犠牲にするつもりはない、という発言には、同時に、世界経済の不均衡をどうやって調整するか、についての黙殺があります。

ユーロ圏は労働市場を無視して誕生しました。ドイツが単位労働コストを上げなければ、他の加盟諸国がそれを(一時的に)上昇させた挙句、引き下げるしかないのは当然です。また、ユーロ圏がすべてドイツの政策に従えば、ユーロ圏全体の競争力が改善する、という主張も危険である、とMartin Wolfは批判します。このような主張が、需要の水準を無視している限り、全員でゼロサム・ゲームへ参加し、近隣窮乏化を促進するからです。

・・・つまり、逆「機関車論」です。

Martin Wolfは、ドイツの友人たちを説得します。「ドイツが超一流の工業製品を輸出していることを責めているのではない。それは素晴らしい成果だと称えたい。ドイツの労働者が競争力を失うように、あるいは、インフレを高めるように、と言うのではない。」

「私が言いたいのは、ドイツの黒字は他国の赤字によって可能である、ということ、だからドイツの安定性も他国の不安定化をともなうことだ。ドイツの黒字の一部は幻想であるし、(赤字国の)過剰な借り入れによって支払われており、しばしばドイツ人が融資している。もしヨーロッパの周辺が対外感情を改善するなら、ドイツはその一部を負担しなければならないし、さもないとユーロ圏全体の黒字が増大して、よろめく世界景気の回復を破壊する効果があるだろう、と私は言うのだ。」

ドイツは世界需要の回復に役割を果たすべきだ。

guardian.co.uk, Thursday 25 March 2010

A new model to help EU's jobless 23m

Adrian Pabst


5.アメリカ金融制度改革

WSJ MARCH 18, 2010

Market Failure or Government Failure?

By ALLAN H. MELTZER

WP Sunday, March 21, 2010; A17

How to reward taxpayers who bailed out Wall Street

By Jim Webb

FT March 21 2010

US financial reform ignores wider terrain

By Clive Crook

FT March 21 2010

We should not be saved from our stupidity

By Eamonn Butler

SPIEGEL ONLINE 03/24/2010 04:28 PM

Globalization Critic Noreena Hertz

'Even War Is Good for Economic Growth'

FT March 24 2010

It is time to stop punishing prudence

By John Plender

FT March 25 2010

A change of culture is key to bank reform

Justin Fox

FT March 25 2010

Dubai does better

FT March 25 2010

Not before time for financial reform


6.グーグル中国本土撤退

guardian.co.uk, Wednesday 24 March 2010

Beyond Google's clash with China, we must find rules for a global village

Timothy Garton Ash

「グーグルと中国との対立はわれわれの時代を決する問題だ。ワニと出合ったライオンのように、グローバルなソフトパワーを持つアメリカのインターネット企業が、領土的なハードパワーを持つ中国国家に対峙している。この激突に向かう背景には、15世紀に発明されたグーテンベルグの活版印刷術以来、情報技術における最大の革命があり、また、歴史家によっては15世紀にまでさかのぼる、西洋の地政学的な興隆(地理上の発見)以来、最大のグローバルなパワー・シフトがある。」

中国政府の情報規制によって自分たちの視野を制限されている中国人自身が、そうではない人びとと接触することで、情報の規制を自ら拒むようになる、という楽観論をTimothy Garton Ashは採りません。「21世紀のグレート・ゲームは3者の間で戦われる。すなわち、国家、企業、インターネット市民、である。」

われわれに供給される情報は、1.そこに暮らす国家、2、提供・経由する企業、3.インターネット市民の勝手気まま、4.国際的な規範、によって決まる。「もし今すぐに論争を始めなければ、旧来の国家権力と情報大企業の対決に加えて、革新的情報技術のゲリラ戦、インターネット市民の個人的な狡猾さ、がスクリーンに映る情報を決める。それは最善のものとは言えそうにない。」

guardian.co.uk, Wednesday 24 March 2010

Google, China and the art of war

Isaac Mao

guardian.co.uk, Wednesday 24 March 2010

Gloves are off between US and China

Simon Tisdall

FT March 24 2010

Google’s tough call on China

By David Pilling

FT March 24 2010

Net diplomacy

WSJ MARCH 24, 2010

America Needs an Internet Agenda

By RICHARD FONTAINE

LAT, March 24, 2010

China vs. the Internet

WP Thursday, March 25, 2010; A21

China's instructions on reporting on Google

WSJ MARCH 25, 2010

What the President Can Learn From Google

By JOHN BOLTON


7.イラン核保有と中東政策

LAT March 21, 2010

What if Iran gets the bomb?

Doyle McManus

guardian.co.uk, Tuesday 23 March 2010

Making the Middle East nuclear-free

Dan Plesch


8.移民政策

WP Friday, March 19, 2010; A23

The right way to mend immigration

By Charles E. Schumer and Lindsey O. Graham

FP MARCH 19, 2010

Switzerland Goes Rogue

BY STEVE KETTMAN


9.タイ民主主義

LAT March 21, 2010

Will a king's death kill Thailand's democracy?

By Stanley A. Weiss

FT March 19 2010

Blood flows in Bangkok

By Christopher Caldwell


10.開発政策の展開

FT March 24 2010

Resource wealth need no longer be a curse

By Mats Berdal and Nader Mousavizadeh

guardian.co.uk, Thursday 25 March 2010

Funding a Global Health Fund

Jeffrey Sachs


11.日本の改革幻想は終わった。

WSJ MARCH 24, 2010

Japan's Hope and Change Hangover

By MICHAEL AUSLIN

******************************

The Economist March 13th 2010

Europe’s engine

Older and wiser: A special report on Germany

China, America and the yuan: Yuan to stay cool

Agriculture in India: Crop circles

Koreans in Japan: Taxation without representation

(コメント) ドイツ経済に関する特集記事です。ドイツは、工業製品輸出の黒字累積が、称賛されつつ、国際問題になっています。高齢化と少子化で労働人口が減少し、移民と女性は労働市場に統合されていません。ドイツは東西再統一の非効率的なコースを選択し、国際的に派兵しつつも、ヨーロッパにおける生産性格差やユーロ圏の維持に、どこまで自国の国益が一致しているのか、決心がつきません。教育システムにも、通貨システムんにも、ドイツ人は将来を安心して委ねられるような見通しが持てません。

日本とよく似た面のあるドイツの記事ですが、日本が学ぶ点は不明です。むしろ、在日韓国・朝鮮人の選挙権問題で、鳩山政権が弱腰であることを批判します。この記事を読んでいると、トルコのアルメニア人問題もそうですが、日本は朝鮮半島再統一にもっと積極的に貢献しなければならない、と感じます。東アジア統合に独自の理想や仕組みを提案しなければ、さらに多くのチャンスと時間を失いそうです。

中国は通貨システム、インドは農業投資に、将来の成長可能性が左右されます。