IPEの果樹園2008

今週のReview

7/28-8/2

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

サミットの失敗、 中国の中産階級と政治改革、 オバマのヨーロッパ訪問、 繰り返される金融危機、 EUの新しいイメージ、 効率的金融市場の幻想、 地中海の成長、 イランの若者

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


YaleGlobal, 17 July 2008

What Should the White House Do About Globalization

William Holstein

(コメント) アメリカの新しい大統領は、再び、スムート=ホーリー関税法案を提出するのでしょうか? アメリカのビジネス界は、真っ先にグローバリゼーションの利益を見出し、新興市場に進出して機会を利用しました。しかし、アメリカの政界や教育界、労働界、環境保護運動など、市民社会は、グローバリゼーションを受け入れていません。たとえば中国は、世界が不況を回避する切り札なのか、あるいは、新しい悪の帝国なのか?

Holsteinは新大統領に4つの要求をします。1.約30年前にレーガン大統領がソ連について行ったことを、新大統領はグローバリゼーションについて行います。ただし、前者は悪、後者は善として、訴えるのです。2.国民に人気のある大企業と連携して、大統領顧問を一人迎える。3.中小・零細企業も、世界市場向けの輸出を伸ばせるように、積極的に支援する。4.国の内外において、労働・環境問題の改善を図る。

グローバリゼーションは豊かな者の利益を実現するだけではありません。貧しい者が豊かになれることを示すことです。中国、ベトナム、カンボジアにも検査官を派遣し、たとえ法的な規制ができなくても、国際的な世論に訴える。たとえば、ノース・カロライナで工場が閉鎖され、失業した労働者を、再教育して研究室で雇用する例をあげていますが、私は難しいと思います。むしろ、検査官として海外の工場に派遣する、と書いてほしいですね。

いずれも、グローバリゼーションの全体を変える力はなく、シンボリックな行動であると思います。しかし、そのメリットを拡大し、コストを抑えるのは、その社会の法律や制度を変える仕事でしょう。大統領が、それを促す社会運動を明確に支持することは重要なのです。


The Japan Times: Thursday, July 17, 2008

New world order is long overdue

By FRANK CHING

The Guardian, Thursday July 24 2008

G8 leaders are able but unwilling to act

Jeffrey Sachs

(コメント) 1991年、ソ連が消滅して、ブッシュ大統領の父、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が「新しい世界秩序」を主張しました。しかしその後、19年たっても、それはまだ現れていません。国連安保理も、世界銀行も、G8サミットも、その名前がますます空虚に響くだけです。G8と新興G5が協力して、気候変動を管理する枠組みを作ることができれば、大きな前進であったはずです。

国際金融市場の危機にも、石油価格上昇にも、食糧価格上昇にも、スーダン、ジンバブエ、ミャンマー、・・・G8は具体的な解決策を示せなかったわけです。

なぜ彼らには解決できないのか? G8は世界の軍事力も市場支配力もかつてほどありません。政府の意思はますます市場の反応次第であり、市場はますます情報ネットワークの上で予想外なショックの波にもまれ続けています。・・・しかし、Jeffrey Sachsの指摘する理由はもっとも明快です。主要諸国の政治指導者たちが世界的問題に有効な解決策を示せないのは、彼らが国内政治において十分な支持を得ていないからだ、と。

弱い政治家たちが集まっても、実質的な負担を求める行動に人々を動かすことはできません。そして、アメリカの指導力が発揮されず、世界的な解決策があってもそれに資金を提供できないこと、が問題です。ブッシュ大統領は、その歴史的なほど低い支持率と、国際機関を軽視したことによって、国民が戦争と経済危機の代償を支払っている、と。


July 17 (Bloomberg)

Reagan's the Wrong Scapegoat for Market Crisis

Amity Shlaes

The Guardian, Friday July 18, 2008

This hate figure doesn't merit a state funeral. All she did was rescue Britain

Simon Jenkins

(コメント) 1970年代の不況とインフレが(ある意味で)再現したせいで、レーガンやサッチャーの時代が回想されています。時代を回想すると、レーガンやサッチャーの様々な矛盾した主張も、そのシンボリックな意味だけが強調されて、重要な歴史的転換の解釈に利用されます。

実際はカーター大統領が指名したボルカー連銀議長のインフレ退治、サプライサイダーやラッファー・カーブ、そして、管制官たちのストライキを打破し、富裕層への税率をカットしたこと、などがアメリカ政治を変えました。大規模減税と軍備拡張は、財政赤字と成長をもたらしました。社会保障制度は改革できず、大きな政府を非難しただけです。クリントンがしたことも、基本的に同じことだった、とAmity Shlaesは考えます。

労働組合をたたき潰したサッチャー元首相も82歳。元気なうちから、早くも、「国葬」の計画が進んでいるとか。王室以外では初めて。サッチャー主義を継承した労働党政権は、こんなことまで引き受けるのでしょうか。


July 18 (Bloomberg)

China's Economic Fortunes Swing Toward Recession

William Pesek

FT July 20 2008

Stirrings in the suburbs

By Geoff Dyer

(コメント) アメリカの住宅価格は下がり続け、中国でも世界不況、人民元高、賃金・コストの上昇が懸念されています。中国の輸出競争力は低下し、それと一緒に成長率も下がりそうです。仕事を求めて都市に流入する労働者たちの条件は悪化し、失業や賃金不払いが増えて、争議が頻発するでしょう。オリンピックを取材する世界中のメディアが目撃するのは、こうした中国の社会変動かもしれません。

強気の見方によれば、中国経済は北京オリンピックや上海万博とともに、外需から内需に転換し、成長を持続すると展望できます。アメリカのように、幹線道路で結ばれた公害都市が開発され、次々の住宅とインフラ整備に投資がなされています。そして、社会運動の中心も、都市の労働争議から、郊外都市開発の住民運動や地方の環境保護(ともに成長・開発反対)、などに広まっています。Geoff Dyerの論説が興味深いです。

それは一種の、直接参加型民主主義、です。彼らの一部は四川大地震の救援にも集まりました。特に、都市に増える、教育ある中産階級の動向が、共産党支配の盛衰を決めるとも言われます。彼らは外国市場向けに輸出することで利益を追求するだけであった過去の抑圧的な中産階級や警察など、地方エリートとは違います。

北京の共産党指導部は、そのことを予想し、激しく論争しているようです。報道の自由や法手続きの明確化、説明責任、それらをどのようなスピードで取り入れていくべきでしょうか? それを決めるのは郊外都市における社会的圧力、社会・政治紛争の激しさなのです。たとえば、上海にできた二つの地下鉄路線は、個人所有のアパートを中心としたような郊外都市を生み出しています。住民たちは、その住環境の静穏さや美化に積極的にかかわり、発言しようとします。

たとえば上海市が計画した、居住区を分断するリニアモーターカーの建設計画は、こうした住民たちの激しい反対に直面しました。大衆抗議集会が催されて、数週間後、市長はこの計画を延期し、市民たちとの対話を重視する、と発表しました。各地の運動は、ビデオ投稿サイトやインターネットの掲示板、携帯電話などで情報を交換し、大衆抗議の組織化を学んでいます。

四川省の地震災害を知って、何かしなければならないと救援に駆け付けた中産階級の政治意識・公共心は高潔なものであり、感動します。“I have a happy family and a good job with a decent salary,” he explains. “But I also had this feeling that I would like to do something for others in our society. So when a friend in Chengdu asked me to help out after the earthquake, I did not hesitate.”

こうして、中国の成長と中産階級の増大は、西側諸国が期待したように、中国にも資本主義と民主主義をもたらすのでしょうか? 専門家の意見は分かれます。たとえ実現するとしても、期待するようなスピードや形ではないかもしれません。なぜなら、都市の中産階級はその規模がまだあまりにも小さく、しかも社会・政治秩序についてはむしろ保守的だからです。彼らは国家や共産党にも依存しており、「民主主義」が実現すれば、資源を豊かな都市から貧しい地方に奪ってしまう、と理解しています。

民営化された部門は、政府の管理から延長された部分にすぎません。その過程で富を得た者たちは、支配の正当性が維持されることを強く支持するでしょう。中国では、最も裕福なビジネス階級こそ、最新・最強の共産党員たちなのです。最も優秀な学生の一部は思想に従いますが、多くの学生は共産党と良い雇用、昇進を求めます。彼らはチベットの独立運動を激しく非難し、フランス大統領の発言に憤慨し、カルフールのボイコットを呼びかけます。

政府はいつも、大衆運動の組織を破壊するために、その首謀者を監視しています。

FT July 22 2008

China’s currency needs to rise further

By Morris Goldstein and Nicholas Lardy

FT July 24 2008

It is time to embrace freer trade with China

By Jack Machairman of Alibaba Group and founder of Alibaba.com

YaleGlobal, 24 July 2008

China’s Rumble With Globalization – Part II

Jonathan Fenby

(コメント) だから私は、政治的な抗議活動だけで政府が正当性を失う、とは思えないのです。むしろ、経済成長を維持できなくなって、さらに、経済混乱を収拾できなくなって、正当性を失い、分裂した政府だけが、大衆抗議によって倒されるのでしょう。

すでに中国通貨秩序の崩壊、輸出型成長メカニズムの終焉は、確実です。外貨準備が急激に増加し、資本規制を強めても、インフレ率が上昇しています。人民元の緩やかな増価は投機的な資本流入を招くのです。高率のインフレを抑えるために激しい不況と政治混乱を迎えるか、あるいは、早期に大幅な切り上げと管理された変動レート制に移行できるか、難しい局面が始まっています。

Morris Goldstein and Nicholas Lardyは、人民元レートの増価は輸出部門の生産性上昇の一部しか吸収しておらず、常に過小評価の水準であった、と指摘します。その結果、輸出超過分を為替市場の介入によって吸収し、外貨(ドル)準備の累積と国内通貨供給を続けたわけです。それは国内の労働力や資源が豊富で、供給能力に余剰が存在する限り、成長を加速する戦略でした。その限界を超えた結果、むしろ今は、人民元の大幅切り上げと国内の医療や教育、社会保障に支出することで、成長戦略を転換するべきだ、と主張しています。

人民元の増価と実質金利引き上げ、新しい成長メカニズムを得ることで、投機的な資本流入は止められるし、石油や食糧の価格高騰は抑制できるのです。

中国のインターネット・リテール大企業アリババの創業者も、中国がWTOによる貿易自由化交渉を支持して、不況における保護主義の試みを阻止し、輸出市場を奪う、という中国への偏見を打破して、中国企業が世界中から購入している側面を強調しています。

Jonathan Fenbyは、最近の変化を、中国経済の改革開放は後戻りできないが、このまま続けることもできない、難しい第二世代の改革が始まった、と主張します。環境破壊・汚染の国際的な影響、社会・労働コストの上昇、中産階級の形成、ベトナムなどの追い上げ、人民元の摩擦、インフレの再燃、・・・


LAT July 18, 2008

The greatest Russian of all

BG July 23, 2008

The greatest Russian?

By Cathy Young

(コメント) 歴史上、最も偉大なロシア人はだれか? それは歴史というよりも、現在の国民意識を反映します。たとえばピーター大帝には、ロシア革命につながるツァーリズムの創設者として、抑圧の影が差します。テレビ局が調査した結果、そのトップを競ったのは皇帝ニコラス2世と、ヨシフ・スターリンでした。プーチン政権が醸成したナショナリズムは、一方で皇帝時代、他方で社会主義時代に、栄光の過去を認めるのです。

何と愚かなことか? しかし2005年、アメリカで行われた同様のコンテストでは、ロナルド・レーガンが優勝しています。国家の求める歴史教育とは何か、と思ってしまいます。

Cathy Youngも、インターネットで投票したロシア人たちは、スターリンが命令した大量虐殺や強制収容所を知っているのか? と戸惑います。おそらく、ナチス・ドイツを退け、ヨーロッパの強国として、諸国から恐れられる時代を築いたことが、多くのロシア人に(今の時代と似た)プラスのイメージを抱かせるのです。

そしてこれは、ポスト・プーチン時代の不安が始まったことを示している、と。


David Ignatius Paulson's View WP Friday, July 18

Bad debts mean more bank bids FT July 20 2008

The Way Through NYT July 20, 2008

STEPHEN LABATON New Regulator in Rescue Plan Spurs Debate NYT July 21, 2008

Paul J. Davies, Joanna Chung and Gillian Tett Reputations to restore FT July 21 2008

Sebastian Mallaby Throwing Honesty Out the Window WP Monday, July 21, 2008

A Time for Urgency NYT July 23, 2008

Fannie and Freddie FT July 23 2008

(コメント) ポールソン財務長官の会見テーマは長期的な金融改革と安定化でしたが、現時点では金融不安の収まる様子もありません。残念ながら、ポールソンは早くから金融不安について懸念していましたが、ブッシュ大統領はそれを無視し、デリバティブの複雑さ、ファニーメイとフレディーマック、住宅価格の水準、についても警鐘を鳴らして、金融規制の大胆な見直しを提唱しましたが、結局、ベアスターンズ危機を回避できなかったわけです。

金融危機があれば、金融当局はそれから逃げ出すことはできない。危機に向かって救済策を示すことだ、と述べ、バーナンキとともに、救済措置を出し続けています。危機の中で制度の改革を行うのは間違いだ、と。

しかし、こうして何度もアメリカ金融行政の最高責任者が登場すれば、次第に救済策の効果が失われ、むしろ人々の不安を高めるのではないか、と思います。金融システムは至る所に慢性的な危機の病巣が隠れており、システムとして回復することは難しい、と。他方、それと並行して、危機は財政への負担を増し、人々の消費や投資を損なって不況をもたらしつつあります。

あるいは、もっと長期的に見れば、これはレーガン=サッチャーの自由市場革命がもたらした負の側面である、と言えるでしょう。富裕層への減税の後、金融危機への救済策が続くのは、成長に隠れた国民への負担を十分に考えていなかったからだ、と批判されます。安定した金融・経済秩序を失ったことが、8年間のブッシュ政権末期に問われています。

政府の救済策を利用できるのは、十分な規制を受けて、情報を提供している金融機関でなければなりません。それゆえポールソンは、新しい金融監督システムを構想し、強い権限を求めています。しかし、金融行政の権限を奪われる議会は、新しい制度が金融機関の利益に偏っているのではないか、と批判しています。

今回の金融危機では、格付け会社や、金融機関のリスク評価が、大きな損失をもたらす背景になっています。景気変動やインフレ抑制によるリスクの過小評価を、債務による取引・収益の増大、低利融資の拡大に結び付けた人々の責任が問われています。結局、私的な利益を膨らませるだけで、納税者に負担を押し付けたのではないか?

ブッシュ政権は、大統領の不人気にもかかわらず、ともかく住宅市場にかかわる金融危機の救済策については議会の合意を得ることができそうです。大統領の政治的な判断と議会対策が、金融システム危機の回避に結びつきます。いずれの国でもそうでしょうが、市場の反応が速いだけに、ますます困難な金融制度です。そして、IMFやBISは何をしているのか?

FT July 24 2008

Fannie’s and Freddie’s free lunch

By Joseph Stiglitz

(コメント) 金融機関を分割すれば、一つ一つの銀行をつぶせるでしょう。大き過ぎて潰せない場合、救済融資が必要ですが、その原則は、モラル・ハザードがないように、厳しく規制することであり、もう一つは、そのコストを負担させることです。処理の過程で、投資家が損失を被るのは当然です。システム危機によって、個別の銀行や投資家が利益を持ち逃げすることはできません。


NYT July 18, 2008

No Friend of the Workers

FT July 18 2008

Back to the workers’ banner: Labour is again beholden to the unions for cash

By George Parker and Andrew Taylor

(コメント) アメリカのブッシュ政権が労働者に優しいと思う人はいないでしょう。しかし、イギリスの労働党政権も労働者に冷たいとすれば、それはなぜか、と考えます。

アメリカでは、労働省の報告があまりにも労働者の条件改善に無関心だ、とNYTは批判しています。それはブッシュ政権のトップ人事が悪いからであり、環境保護や人権擁護、開発援助、に失敗した理由と同じです。労働長官のElaine Chaoは、州の判断で、個別に最低賃金規制を免除しても良い、という政策を進めました。その結果、賃金はますます切り下げられ、同時に、労働法を守らせる努力を怠ったのです。また、共和党の従来のイデオロギーに従い、労働紛争を法廷に持ち込む弁護士たちを非難しました。

イギリスでは、労働党への支持率が急速に低下し、保守党への政権交代も視野に入っています。労働組合は、ブレアやブラウンの下でもストライキの権利が強化されなかったことに不満ですが、しかし、彼らが労働党を支持しなければ、保守党のもっとひどい政策が実現するだけです。

確かに、ヨーロッパでもっとも弾力的な労働市場として、失業率も低く、OECDは称賛します。しかし最近のインフレによっても賃金は引き上げられず、移民労働者への市場開放でも、社会保障でも、労働者たちは不満です。


NYT July 18, 2008

Using Bombs to Stave Off War

By BENNY MORRISa professor of Middle Eastern history at Ben-Gurion University

(コメント) これまでイスラエルは、中東における唯一の核保有国として、安全保障が高められると考えてきました。しかしそれが、イラン、その他、地域内における核軍拡競争を招くとしたら、再考の必要があるでしょう。

しかし論説は、イスラエルは、当然、イランの核施設を空爆するし、それが不完全なものであれば、イランはそれにただちに反撃し、他国から核兵器を入手して(そして世界中のテロ組織を使って)イスラエルを攻撃するかもしれない、と主張します。しかも、数年を経て、イランは必ず核保有国になるのです。

そうであれば、イスラエルは通常の兵器ではなく、先制核攻撃をするに違いありません。そこで、MORRISは、通常兵器によってイランの核施設が完全に破壊されることを望みます。何度でも?


FT July 18 2008

Short-selling reveals corporate realities

By John Gapper

(コメント) 市場が落ち込むと、誰かが責められます。いつでも、先物を売る人々が非難されました。この論説はそれを歴史や最近の事例によって振り返っています。

脆弱化した金融機関について、先物取引に若干のブレーキを組み込むことは正しいかもしれません。しかし、先物売買を禁止することは間違いです。好ましくない現実からも利益を上げる人々の商才は優れた現実感覚であり、刑務所に送るべきではない、と。


FT July 18 2008

Obama takes a tour of the world

(コメント) オバマの世界遊説が始まった!

しかし、これは決して世界選挙や世界民主主義ではなく、ブッシュとマッケインがヨーロッパやアラブ世界で嫌われていることを強調するための、アメリカ国内向け選挙活動です。アメリカの有権者たちは、安全保障や外交問題ではオバマよりもマッケインを信頼しています。だからオバマは、イラクやドイツ、フランス、イギリスを訪れて、アメリカの外交政策をいかに自分がプラスに変えられるかを示したわけです。

オバマはアメリカ3大ネットワークのニュース・キャスターを引き連れて移動し、ヨーロッパの大衆から熱烈な歓迎を受けます。他方、マッケインがラテンアメリカに遊説した際には、マスコミは関心を示さず、ほとんど誰も知りませんでした。

もちろん、オバマが11月に選挙で勝利することは決まったことではなく、ブッシュを嫌う人がすべてオバマに投票するわけでもありません。ヨーロッパの大衆が支持する大統領候補としてのオバマ人気は、現実の政策を実行するときの反応を保証しません。何より、マッケインによるオバマ攻撃が弱まることはないのです。

ROGER COHEN Sobriety, Herr Obama NYT July 21, 2008

WILLIAM KRISTOL No Substitute for Victory NYT July 21, 2008

Gregor Peter Schmitz Debate over Germany Trip Leaves Team Obama Frustrated SPIEGEL ONLINE 07/23/2008

Ruth Marcus From Berlin to Baghdad WP Wednesday, July 23, 2008

(コメント) オバマの勝利は確実です。もし、これらのヨーロッパ諸国が投票するのであれば。しかし、なぜヨーロッパ諸国の有権者たちは、自分たちの議会にも、オバマのようなマイノリティー(黒人やイスラム教徒など)を選出しないのか?

オバマへの歓迎は、同様に、何よりもヨーロッパの国内政治を反映しています。政治家にとって、栄光は栄光を呼び寄せるのです。サルコジはオバマを歓待し、その親しげな振る舞いで、オバマ人気を自分にも向けます。そして、イランであれ、シリアであれ、欧米の共同歩調を準備します。

富と権力は西側から逃げて、イランを孤立させるにも、イスラエルとシリアの和平を画策するにも、ヨーロッパはアメリカの動揺を利用しなければなりません。そのことを最もよく理解しているのはドイツだろう、とROGER COHENは考えます。だからオバマは、熱狂に心酔してはいけない、と。

たとえば、オバマがブランデンブルグ門(を拒まれ)近くの、戦勝記念塔でレーガン大統領を称賛したことについて、メルケル首相は不快さを示したようです。アメリカが犯した多くの外交的な失敗、アメリカとヨーロッパが共通の敵をどのように考えるのか、・・・オバマの演説は答えを示していません。

過去の偉大な大統領のスタイルや演説を真似てみせることが目的なのか? ヨーロッパの首都に残された不満はくすぶり続けます。オバマはブッシュが破壊した大西洋関係を改善します。あるいは、「新しい大西洋憲章」を求めている? ヨーロッパ、特にドイツに、応分の負担を求めます。

1948年のベルリンは、まさに2008年のバクダッドでした。経済は破綻し、市民たちは飢餓に苦しみ、暴力が蔓延し、電力は途絶えがちだった、とRuth Marcusは回想します。アメリカの勇敢な飛行士たちが行ったベルリン空輸を称えます。たとえば、何トンものチョコレートを。アメリカは人々に商品だけでなく、思想を届けたのです。

ベルリンを甦らせたアメリカの奮闘は、バクダッドを絶望に追いやったアメリカの失敗と対照的です。バクダッドは荒廃し、アブグレイブ収容所とグァンタナモ基地が虐待や拷問に使われました。オバマへの教訓は、断固とした大統領の姿勢だけでなく、途中で投げ出さないことだ、と主張します。ベルリン市民たちは、絶望的な状況でも、アメリカと民主主義に希望を見ていました。

Jess Smee Ich bin ein Barack The Guardian, Thursday July 24 2008

Gerhard Spörl The World President To-Be SPIEGEL ONLINE 07/24/2008

Annette Heuser A European Honeymoon WP Thursday, July 24, 2008

Ivo Daalder and Anne-Marie Slaughter America's new global challenge BG July 24, 2008

GWYNNE DYER Barack Obama's overseas tour The Japan Times: Thursday, July 24, 2008

(コメント) 偉大な政治家であることを演出する芝居に懲りすぎたのではないか? 大勢のテレビカメラに応えるため、ヨーロッパの群衆がその背景を提供しただけではないか?

歓迎の嵐が過ぎれば、人々は考えます。オバマは何を言ったのか? オバマのスローガン、「変革」とは、ヨーロッパにとって何を意味するのか? Spiegelの記事は「世界大統領」と揶揄しています。オバマはその生い立ちだけでなく、アメリカとヨーロッパの歴史さえも、自分の選挙イメージに利用します。

理想主義的で、弁舌に長けた、典型的なアメリカ人。米欧による世界権力を構想し、私が最初の世界大統領だ、という姿勢を示すほど楽天的であることは、世界にとって良いことか? 世界的な規模で変革を求め、人類から境界や差別をなくすことは、アメリカ大統領の職分か? ベトナムの古参兵が大統領になるのも、バスケット選手が大統領になるのも、政治の何を変えるのか? 私たちも、否応なく、オバマが求める世界の一部になるのです。

オバマへのヨーロッパ民衆が示す熱狂は短命です。ハネムーンは終わるでしょう。たとえば、オバマは世界が核兵器や生物兵器によるテロの脅威にさらされている、と考えます。では、ヨーロッパは(そして日本は)その脅威に立ち向かうアメリカの指導者に何を求めることができるでしょうか? オバマの構想は現実の負担をもたらします。ヨーロッパが求める環境保護に、アメリカはどう応えるでしょうか? アフガニスタンへの関与をどう増やすのか?

甘いはハネムーンから、厳しい結婚生活の現実へ!

世界は切り離しがたく結びついており、世界政治が求められています。オバマの支持者たちなら、世界から核兵器を廃絶し、中国を民主化し、インドの工業化を自国の発展にも結び付けよ、というでしょう。反対する支持者も多いでしょうが。

DYERは、オバマのヨーロッパ・中東訪問には三つの目的があった、と考えます。1.イラクとアフガニスタンの問題を解決できると思わせる。2.イスラエルへの支持を明確にして、安心させる。3.アメリカの有権者に、ヨーロッパと中東におけるオバマ人気を意識させる。

パレスチナ難民への同情を、イスラエルとの中立性に転換する発言に注目し、イラクからの撤収とアフガニスタンへの増派を説明不足であり、でたらめである、と批判します。しかも、オバマ自身がその方針転換や発言の意味を十分理解していない、と注意します。


FT July 18 2008

Crashes, bangs and wallops

By Richard Lambert

(コメント) 金融危機はきわめてよく似た現象を繰り返し示してきました。150年前の危機に関する指摘を引いてLambertは考えます。Carmen Reinhart and Ken Rogoffによる、第二次世界大戦後の工業諸国で起きた18の銀行危機に関する考察でも、その類似性が指摘されます。それらは一つの大きなブームと破たんの循環に要約されるのです。

「大きな金融ショックの前には、株価とともに、住宅価格が急速に上昇した。経常収支赤字が膨張し、危機の直前まで資本流入が加速していった。増大する公的債務は、他の戦後危機にもほとんど普遍的に見られる先行現象である。全般的な経済成長が崩壊し始めるとともに、問題は大きくなった。さらに、過去の金融ショックの前には、しばしば金融の規制緩和の時期があった。」

また、Lambert1973-74年の小規模な銀行危機について、イギリスの4大銀行の一つが記者会見の席で、何も問題はなかった、と説明したことを回想します。その前にはいくつかの規制緩和があって、銀行融資が2.5倍に増えていました。

次のようなポール・ボルカーの証言が引用されています。

過去25年において、「商業銀行を中心とした、高度に規制された金融システムから、途方もなく複雑な、高度に人工的なシステムへと、われわれは移行してきた。今日、金融仲介の大部分は、効果的な公的監視や監督の及ばない、市場において行われており、そのすべての取引が何兆というデリバティブに組み込まれている。」

また、Charles Goodhart and Avinash PersaudFTの論説で主張したように、物価の安定した時期の後で、しばしば、資産価格のバブルが生じました。インフレ抑制に成功したことで金利が低下し、さまざまな理由(たとえば1970年代のオイル・ダラーの環流)で流動性が追加されて、それが過剰融資とバブルを育ててしまうのです。今回起きたことも同じであり、ただし、アメリカ国内でバブルが破裂したわけです。

繰り返し、危機の前にリスクは誤解されており、間違った価格評価がなされていました。同時に、本格的な銀行危機は、国際的な波及をともないました。楽観や強欲、多幸症は、国境を超えて広がり、バブルを持続します。市場の崩壊は、裁定取引や資本移動よりも急速に資産価値を大きく破壊し、それは国内投資家の心理的な悲観主義への転換と「感染」を示しています。合理的な判断は一瞬にして失われてしまいます。

こうして、サウス・シー・バブルで資産を失ったアイザック・ニュートンは、天体の動きを正確に計算できても、人間の狂気は計算できない、と後悔したわけです。

これを解決するには、バジョットが定義し、キンドルバーガーが強調したように、中央銀行が「最後の貸し手」になるしかありません。実際には、その原理を適用することが難しく、中央銀行の不手際や過剰な介入は次の危機をもたらす条件になりました。投機を覚ますことと、危機を誘発することとの差は、事後的にしか分かりません。

そして、いずれの危機も大きな悲観をすぐに忘れ去った、と指摘します。

1866 Overend, Gurney, 2007 Northern Rock, 1720 South Sea Bubble, 1997 Asian Crisis, 1929 Wall Street crash, 1987 Black Mondayについて、特に短く紹介しています。

FT July 21 2008

Measures to avoid the worst recession in 30 years

By Felix Rohatyn and Everett Ehrlich

WP Wednesday, July 23, 2008

A Depression? Hardly

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカ経済を本格的な不況に投げ込むかもしれない二つの困難とは、住宅市場の悪化と、石油など国際商品の価格上昇です。最悪の危機を脱出するために、ファニーメイとフレディーマックとに対して、今後数年間、その住宅債権の価値を財務省証券で保証すること、をFelix Rohatynらは提案します。これは、国有化案、でしょうか?

他方、Robert J. Samuelsonは、アメリカ経済が特別な救済を必要とする危機には至っていない、と主張します。現状は、1929年とまったく似ていないし、戦後最悪の危機であった1981-82年にも至っていない、と考えます。失業率を挙げれば、1933年には25%、また1982年後半に、10.8%でした。現在の失業率はまだ5.5%でしかありません。

異常な危機ではなく、市場の景気循環は死滅しなかった、ということにすぎません。


The New Statesman, 18 July 2008

Fair trade through Doha

Gareth Thomas

(コメント) 左派の雑誌ですが、ドーハ・ラウンドの成立を支持しています。それは市場を拡大し、豊かな国の成長を実現するとともに、貧しい諸国では貧困からの脱出を支援する、と。自由貿易に関する左派の論争は、これまでも分裂してきました。今後も。


LAT July 19, 2008

Bush's U-turn toward common sense

By Graham Allison

BG July 21, 2008

Opening soon in Tehran

(コメント) イランに対する交渉に参加するブッシュ政権の方針転換を、Graham Allisonは賢明なことだと評価します。第一期政権(ジョン・ボルトンが描いた外交)では一切交渉せず、第二期政権(ライスが描いた外交)では先行条件を示したけれど、交渉は進まず、イラクの核処理だけが進みました。このままでは北朝鮮と同様に核実験を行い、核爆弾を保有したと宣言するでしょう。

イラン政府は、アメリカが自分たちを孤立させようとしている、と非難します。そして、これ以上の核処理を行わないし、これ以上の制裁措置を取らない、という「二重の凍結」を出発点として示しました。アメリカ政府は応えるべきです。

BGは、イスラム革命以来、30年間も閉ざされたままのテヘランにあるアメリカ大使館が再開されることを期待します。なぜなら、イラン国民は中東でもっとも親米的だからです。


WP Sunday, July 20, 2008

The Answer's in the Wind -- and Sun

By James Tisch

NYT July 23, 2008

Harvest the Sun — From Space

By O. GLENN SMITH

LAT July 24, 2008

Free-market baby making

By Gregory Pence

(コメント) 環境問題を解決するには、人々が化石燃料や大量消費文化を捨て去るか、あるいは、エネルギーに根本的な転換が起きて、もっと環境にやさしい文明が可能になるか、と議論されてきました。すなわち、風や太陽によってつつましく生活する世界です。

太陽光を電気エネルギーに転換する技術は急速に進み、石油・天然ガスの価格高騰によって、実際に、転換が起きつつあります。そして、もしかしたら、宇宙空間で太陽光を集めてエネルギーを地上に伝える技術が実現し、宇宙の開発や植民地化が進むでしょう。OPECではなく、NASAが世界エネルギー会議を主宰します。

さらに、もしかすると自動車が小型化したように、人間の遺伝子操作や体外受精・出産もデジタル化・機械化されて普及し、エネルギー効率の良い、もっと小型化された人類が誕生するのかもしれません。


NYT July 20, 2008

9/11 and 4/11

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) ブッシュ政権が直面したのは双子の危機でした。ひとつは9・11のテロ攻撃。もう一つは1バレル4.11ドルの石油価格高騰。

9・11の後、アメリカが石油輸入に依存することを阻止する政策と取らなかったのは間違いでした。アメリカは世界の油田を買いあさり、軍隊を送り、採掘を試みました。そして、ロシアやヴェネズエラの石油にも依存するようになりました。

麻薬中毒の患者に必要なことは、コカインの価格が下がることではない、とFRIEDMANは主張します。ブッシュとチェイニーは、安価な石油のために、環境保護も、独裁者への批判も、ドルの安定した価値も、捨ててしまいました。麻薬中毒にたとえて、何が悪いか?


WILLIAM J. FALLON Surge Protector NYT July 20, 2008

Lawrence J. Korb Contrasting goals in Iraq BG July 20, 2008

V-day in Iraq? IHT July 22, 2008

THOMAS L. FRIEDMAN All Hail ‘McBama’ NYT July 23, 2008

Timing Iraq troop withdrawals FT July 23 2008

(コメント) イラクのマリキ首相は、オバマの訪問を機会に、アメリカ軍の撤退スケジュールを求めています。他方、中東地域の安定化のためには、アメリカ軍のイラク駐留を支持するFALLONのような主張も、当然、あります。

増派によるイラク安定化と、サブプライム危機後の金融不安定化によって、イラクの政治とアメリカの政治は変わりました。


FT July 20 2008

In search of a more dynamic economy

By Edmund Phelps

FT July 22 2008

How to restore European resilience

Holger Schmieding

FT July 24 2008

World must look to Europe as capitalisms clash

By John Thornhill

(コメント) ノーベル経済学賞を2006年に得たEdmund Phelpsは、現在の金融政策について、切り下げるべきではない、という理由を示しています。ケインジアンたちが考えるように、不況や失業は「有効需要」だけの問題であれば、何のコストもかけずに、金融緩和さえすれば問題は解消するはずです。

しかし、スタグフレーションの症状が示すように、問題は有効需要ではなく、構造的なものかもしれません。その場合、総需要管理政策は間違ったシグナルを市場参加者に伝えます。しかし、何が構造的な問題であるか、それを説明する責任があるわけです。

雇用が減少し、投資は海外に流出するとしても、われわれに必要な対策とは、金融緩和ではなく、もっとダイナミックな経済を取り戻すことだ、と主張します。

ヨーロッパの場合、ユーロ圏には特別な事情があります。各国のマクロ状態に相違があっても、金融政策は変えられないことです。それゆえ構造的なショック、例えば石油価格の上昇に際して、金融政策で地域ごとの不況・失業対策を行うことはできません。市場統合を進め、競争を促し、労働市場の改革と弾力化を進める、というのがエコノミストの考え方です。

そして、地域ごとの構造的な改革を支援することも重要です。

Thornhillは、EUが世界最大の単一市場を形成したことで、市場のルールを独自に決定し、ヨーロッパ企業の競争力を高めることができる、と考えます。異なる資本主義の間の競争、という、いささか古臭いテーマです。


The Guardian, Monday July 21, 2008

America's last taboo

Emma Brockes

(コメント) Barbara Ehrenreichは、20年前にアメリカ社会の増大する所得格差をNYTのコラムで批判して、保守的なWashington Postから「マルクス主義者」として非難されました。その新著、This Land Is Their Land: Reports from a Divided Nationを話題にして、筆者の生い立ちや考え方、執筆の背景を紹介しています。

この書名は、Woody Guthrieの歌の歌詞から付けたそうです。この土地はあなたと私のものだ、という歌詞を聞いて、筆者はヘッジファンドの強欲を憎んだわけです。彼女はアメリカ各地で労働者として働き、その経験を綴ってベストセラーNickel and Dimedを書きました。企業の多くの経営者が、最低賃金を無視し、労働者を不当に解雇し、保険を支払いません。アメリカの富が、社会の底辺から頂点までを、どのように満たしているのか、彼女は問題にします。GDPが増えたことは、労働者たちの暮らしが改善されることを意味しません。

アメリカには、極端な不平等があるからです。

オバマ人気についても、Ehrenreichの評価は慎重です。オバマは、今、右にすり寄っている。彼が選んだ経済政策の顧問Jason Furmanは、民主党の中の最右派であり、彼女が最も強く批判していたウォルマートを経済学的に擁護して有名になった人物だからです。


WP July 21, 2008

Obama, Foreign Policy Realist

Fareed Zakaria

LAT July 23, 2008

Looking at Mars

(コメント) オバマの外交政策は現実主義的に修正され、マッケインの外交政策は火星を目指します。オバマは伝統的なリベラルの外交姿勢から離れて、ますますリアリストの主張を示し、他方、マッケインは理想主義的な響きを強めています。Obama seems to be the cool conservative and McCain the exuberant idealist.

オバマはブッシュ大統領を、北京オリンピックの開会式参加について非難せず、ダルフールへの介入を支持しないことで非難しませんでした。キッシンジャーやスコウクロフトらの創案した、ロシアや中国とも協力した世界管理(核管理や世界経済危機の回避)を求めるマッケイン提案について、オバマは称賛しています。

二人の違いはNASAについても、火星を見ているマッケインに対して、オバマは地上での成果と節約を求めます。


FT July 21 2008

A ‘menu Europe’ will prove more palatable

By Vivien Schmidt

(コメント) リスボン条約がアイルランドの国民投票で否決されて以後のEUについて、積極的な議論を見たことがありませんでした。EU内の大国間取引が決めた以上に、小国への財政支援や発言権を譲歩したくない、小国は主権を失いたくない、という話が続いていました。しかし、Vivien Schmidtは率直で面白いです。

加盟諸国間のEUに対する要望やイメージはバラバラです。イギリスやスカンジナビア諸国、東欧諸国は、境界線のない、無限に拡大した自由市場と安全保障圏をイメージします。フランス、ドイツ、オーストリアや大陸諸国は、トルコ、グルジア、ウクライナの加盟を拒み、アイデンティティーを重視した、価値に基づくコミュニティーを目指します。しかも、EUは積極的に、民主主義や人権を世界に向けて拡大するのでしょうか? 

「より緊密な統合」と言い、「多様性の中の統一」というスローガンは、EU諸国の官僚によって妥協を制度化し、政策に合意されてきたはずです。しかし、その努力はリスボン条約の否決によって終わったようです。新しい方向は、全会一致ではなく、統一性も諦める、という合意です。しかも、それは実際に行われていることです。全会一致は様々な条件付き多数決に変わり、全加盟国で統一した政策は単一市場の合意に限られています。

イギリスとデンマークはユーロを採用せず、アイスランド、ノルウェイ、スイスなどはシェンゲン条約に参加せず、など、共通通貨、移民、安全保障について、統一したEU政策は存在しません。

EU内でも、さまざまな差異を認めた統合化、小グループによる政策協力、などが進むでしょう。しかし、重要政策については、投票の仕方や留保の条件が明確に合意されなければなりません。それによって交渉と合意の正統性は維持されるからです。新規加盟は、どの領域の、何について、参加するのか、その条件を交渉で決めるでしょう。すべての条件で事前に合意することを強いる「ビッグバン方式」ではなく、「漸進主義的な加盟」が可能になります。

EUでは、政策の合意を得るために話し合いに参加することが重要です。会議の席を得るわけです。こうして決定な民主的な権威を高め、自分たちがその一部であるコミュニティーの性格を決定し、その進路に対して発言するのです。


Failing Zimbabwe NYT July 21, 2008

GREGORY CLARK Birth of a massacre myth The Japan Times: Monday, July 21, 2008

Kathyrn Westcott Zimbabweans play the zero game BBC 2008/07/23

Richard Holbrooke The Face of Evil WP Wednesday, July 23, 2008

In Balkans, a blow for justice BG July 23, 2008

Rosa Brooks Radovan Karadzic: Just a moral hypocrite LAT July 24, 2008

ROGER COHEN Karadzic and War’s Lessons NYT July 24, 2008

GWYNNE DYER Omar al-Bashir versus the ICC The Japan Times: Wednesday, July 23, 2008

(コメント) ジンバブエのムガベ大統領、天安門事件と「大虐殺」報道、セルビア政府によるカラジッチの引き渡し、ダルフールの弾圧に対するスーダン大統領への告発。

国家を超えた「法による秩序や支配」は実現する過程にあるのでしょうか? あるいは、それは大国や西側の要求・主張を偽装しているだけでしょうか?


FT July 22 2008

Cherished myths fall victim to economic reality

Paul De Grauwe

(コメント) 異様に効率を重視した経済運営や経済政策の考え方は、エレガントな経済学のモデルを発達させたかもしれませんが、経済危機への対応を誤らせるものでした。「効率的な金融市場」という考え方があまりにも大きな影響力を持ったことは、金融危機に対しても、政府への批判を強めるだけで、中央銀行はインフレ重視の金融政策を変えようとしません。

こうした考え方を広めた英米や国際金融機関が、現在の金融危機の震源地になっていることは、彼らに従って金融市場を自由化し、国際化してきた諸国にも反省を促すでしょう。彼らのマクロ・モデルでは、政府が邪魔さえしなければ、市場は常に正しく貯蓄を最も有望な投資機会に導くはずでした。人々は完全な情報を持って、同じような合理的判断に従うはずでした。だから、危機など起こり得ないのです。中央銀行の目標は実質的な物価水準を安定させることだけです。

しかし、De Grauweは、こうした極端なモデルは放棄されるべきだし、金融政策の目標には危機の回避というものがあるはずだ、と主張します。

市場も個人も、リスクを正しく理解できず、評価できませんでした。完全な市場への信仰は放棄するべきですが、政府の管理に従うことも危険です。De Grauweは、もっと厳しい金融規制とリスクへの制限を設けることで、市場と公的規制との関係を再建しようと考えます。なぜなら、金融危機を回避するためには、モラル・ハザードを起こさない形で、政府が金融機関の支払いを保証してやらなければならないからです。

中央銀行の唱えるインフレ目標は、マジノ・ラインに過ぎません。

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The Economist July 12th 2008

Club Med

Investment in the Mediterranean: The Med’s moment comes

China, Taiwan and Tibet: Fraying at the edges

Tibet: The illusion of calm in Tibet

Iran and The Economist: Silent no more

(コメント) EU政府・企業・銀行が地中海沿岸に投資し始めていることを興味深く読みました。貧しいけれど、成長の可能性を持った若い諸国が、裕福な高齢化する諸国から投資を吸収しつつあります。ヨーロッパは世界貿易の中枢であり、物流の拠点や生産拠点を地中海沿岸に配置し始めたからです。

それはアフリカ北岸や地中海の東部でも、政治的な安定化とインフレ抑制など、経済政策への信頼性が高まってきたことを前提しています。また、トルコのEU加盟問題で打開策を求めるフランスが、財政負担を理由に消極的であったドイツを次第に巻き込んだ形です。

ヨーロッパ(例えば自動車産業)はいよいよ、貧しい辺境地域から労働者を輸入した時代から、生産拠点を移行し、周辺部の積極的な産業育成と富裕化を助けることに、自分たちの利益を見出し始めたわけです。巨大なコンテナ船が集まる地中海の輸送インフラが整備される様子は、まるで中国の急成長を読むようです。

他方、中国に殺到していた直接投資は永久に続くでしょうか? 台湾海峡やチベットの問題は、オリンピック前にひとまず小康状態を保っているように見えます。しかし、その内情は不安定で、北京政府が彼らに譲歩するそぶりはありません。平和的な東西ドイツ再統一から、もっと学ぶべきでしょう。

しかし、最も驚いたのは、The Economistが表紙に採用したイラン人の若者、Ahmad Batebiのイラン脱出です。Batebi21歳の学生であったとき、イラン政府の言論弾圧に抗議していました。そして、仲間の血の付いたシャツを掲げた姿が写真に撮影され、1999717日の表紙を飾ります。その後、彼は連行されて拷問を受け、テレビで謝罪と偽証を求められますが、それを拒んで監禁されたまま、独房で暮らします。

死刑判決を受けますが、世界中から抗議が殺到して15年に減刑され、その後も拷問を受け続けて、ついに右半身の感覚を失います。政府は彼が獄死することを嫌い、医療を受けることを認めた結果、イラクに脱出でき、その後、Batebiはアメリカに亡命します。アメリカに着いたという連絡を受けて、ふたたびThe Economistは彼の写真を掲げたのです。