IPEの果樹園2008

今週のReview

7/21-7/26

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

ファニーメイとフレディマック、 パキスタンに学校を建てる、 石油による開発の失敗、 グルジアとロシアの戦争、 ベルギー消滅、 バベルの塔、 民間の紛争処理機関

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


The Price of Fannie Mae WSJ July 10, 2008

Fannie and Freddie are feeling unwell FT July 11 2008

Caroline Baum U.S. Adopts Capitalism Lite for Housing Bailout July 11 (Bloomberg)

(コメント) GMやフォードならよく聞くけれど、ファニーメイ(Fannie Mae連邦住宅抵当公庫)やフレディマック(Freddie Mac連邦住宅金融抵当金庫)なんて聞いたこともない、というアメリカ人も多いようです。住宅貸付を抵当に証券を発行すること、特に、同種の住宅ローンを集めてリスクを分散し、証券化することで流動性を与えたことで、二つの機関は住宅貸付を容易にし、国民の住宅購入を促進してきました。

こうした機関の株価が急速に下落しているのは、住宅価格の下落やデフォルトが続く中で資産が減少し、資本不足になったのでは、・・・経営が危ない、と思われたからです。このままではベアスターンズと同じように、連銀(そして財務省)が救済しなければなりません。しかし、その規模は最大で5兆ドルにも及ぶのです。

アメリカ連邦政府の債務総額が9.5兆ドル、アメリカのGDPが14兆ドルに比べて、5兆ドルの倒産はあまりにも巨大です。住宅抵当証券は膨張を続け、危険を無視して、価格が上昇した住宅の購入を促し、その資本基盤が不足してしまっていたのです。WSJの論説は、これが議会とウォール街の共謀によるものだ、と批判します。そして、一種の「社会主義」であることを認め、税金で資本を増強し、両機関の膨張に対する責任を政治家に認めさせることだ、と主張します。そうすれば国民は憤慨して、こうした浪費を許さなくなる、というわけです。

「社会主義」!? この表現をFTも使っています。社会主義者の七面鳥が、自由市場資本主義の母国に帰って丸焼きになる姿は、なかなかの見ものである、と。

しかし、総債務額が53000億ドル、アメリカGDPの38%に相当する金融機関は、まさに「大き過ぎて潰せない」のです。モーゲージ発行の4分の3を扱っていますから、彼らが貸し付けをやめれば、住宅市場は完全に崩壊します。市場価格で資産を評価すれば、フレディマックはすでに債務超過である、と言われます。

彼らが活動を続けるには、二つの方法しかありません。資本を増強するか、アメリカ政府が債務の支払いを保証するか、です。住宅価格が下落して資産が減少した分を、損失として処理するためには、より多くの自己資本が必要です。もし投資家が応じなければ(十分に価格が下がれば応じるのでしょうか?)政府が資本注入するしかないでしょう。イギリスで、同様に、ノーザンロックが「国有化」されたように。

FTは、ファニーとフレディの苦悩だけでなく、もっと重要な問題として、現在の金融危機がまだ続いていること、悪化し続けていること、を強調します。住宅価格は下落し続け、経済は不況に向かい、原油価格は上昇している。アメリカは21世紀型大恐慌に向かいつつあるわけです。

あるいは、「資本主義ライト(軽い)」。住宅融資の最後の貸し手として、納税者は両機関を支え続けます。なぜ債務を支払い続ける住宅所有者もいるのに、支払えなくなった者の代わりに納税者が支払うべきなのか? それは、・・・金融危機が起きれば、将来の損失も急増するからです。無責任な住宅購入や融資を処罰せずに、救済してやる、という「資本主義ライト」は維持できるでしょうか? 結局、現在の危機を回避するだけで、将来の一層大きな危機を招き寄せているのではないか?

Richard Adams Freddie and Fannie fall down The Guardian, Saturday July 12, 2008

JULIE CRESWELL Long Protected by Washington, Fannie and Freddie Ballooned NYT July 13, 2008

GRETCHEN MORGENSON The Fannie and Freddie Fallout NYT July 13, 2008

Clive Crook Guarantees for America’s guarantors FT July 13 2008

(コメント) しかし、政府がファニーメイとフレディマックを救済することが分かったとしても、金融市場はなにも大きく改善されない、とRichard Adamsは考えます。それはすでに市場が予想しているからです。両機関は、民間企業として株式市場で資本調達しながら、その活動に比べて資本規模は異常に小さく、政府が目指す国民の住宅保有促進政策を代行する金融機関"government sponsored enterprises"(GSEs)であったわけです。

ところが、住宅市場が下落し続ける中で、株式を保有することへの不安が高まります。もし民間企業であればとっくに倒産しており、持っている株式は紙くずになっている、と思うのに保有し続けようという投資家はいません。株価は急速に下落し、住宅市場と悪循環し始めています。

国有化して、住宅融資の失敗による損失を国民の税金によって支払うのか? もし株式市場に従うなら、増資させるのか? どのような条件であれば、投資家は新しい株式を購入するのか?

・・・しかし、たとえばL.サマーズが提案したように、住宅市場の価格水準を維持するために、両機関の資本を大幅に増強するべきだ、という主張が先行していました。もしかすると、これは、民主党の住宅金融政策や景気対策に、共和党が反撃しているのかもしれません。

JULIE CRESWELLの記事は詳しい紹介です。以前から共和党の中では、ファニーメイとフレディマックを現実離れした政治的な生き物として批判する声がありましたし、今回の救済方針も「ドンキホーテのような試み」として攻撃しています。

ファニーメイがニューディールの一環として1938年に誕生してから、その後もずっと、ファニーとフレディの拡大が続きました。それは、両機関が選挙の際の重要な政治圧力を形成し、また、住宅建設や金融業界の利益にもなったことを示しています。エンロンなど、スキャンダルの後で、会計基準の厳格化が求められた際も、民主党などが庶民のアメリカン・ドリームを守ることを主張して、そのまま拡大し続けました。

ファニーもフレディも、重要な政治家を重役に据えて、強力なロビー活動を行い、引退した重要な政府職員を雇用してきました。この点では、世界中どこでも、権力と富の集中が同じような防衛行動を引き起こします。世界銀行総裁のロバート・ゼーリックは元重役ですし、ブッシュ大統領やポールソン財務長官の下にも関係者がいます。

・・・金融規制も監督も、ファニーとフレディには効かなかったようです。彼らは政治家を使って勝手に都合のよい法律を強化し、勝手に監督機関を組織します。S&Lや金融自由化がそうであったように、アメリカ国内の住宅モーゲージだけでは儲からない以上、その融資・投資活動を拡張・自由化し、また、海外市場にも目を向けるのではないでしょうか。

MORGENSONは、たとえ政府が公的資金を投入しても、そもそも信頼が失われている以上、すべて、株式売却と価格の下落によって流出してしまうだろう、と危惧します。問題は、なぜ議会や両機関の重役たちはこうした膨張を許したのか? ・・・なぜ何も起きないのか? アメリカの中産階級がその貯蓄を失っているのに、両機関の重役たちが高額の報酬を得続けているのに、何も起きないことが最も不満だ、と金融スキャンダルを扱った“Greenspan’s Bubbles: The Age of Ignorance at the Federal Reserve”の著者の一人William A. Fleckensteinは応えています。

「連銀は失敗を犯しただけでなく、金融緩和を盛大に応援していたのだ。」「なぜこのような混乱に陥ったかを人々が理解しなければ、ここからの出口も分からない。」・・・近視眼的で、強欲に従った金融業者と、権限がありながら規制しなかった規制者たち。

FTが心配するように、もし両機関を国有化した場合、アメリカの公的債務は急増し、財務省証券の価格が急落しなければなりません。ドルは暴落し、金利は上昇し、最悪の場合、アメリカの不況が世界に波及するわけです。しかし、すべては分かっていたことです。

アメリカの経済が拡大を続けていたときには、証券化の成功が大いに賞賛されていました。アメリカ金融市場の優秀さを証明していたはずです。アメリカは何らかの形で損失を国有化し、それを減らすために金融緩和で不況を回避し、インフレによって住宅市場の回復を図りたい、と思うでしょう。輸出を伸ばし、投資を招くドル安なら、大いに望ましいのです。

・・・欧米の金融政策が不透明な形で対立すれば、資本移動が不安定化し、ドル暴落や新興市場の政治的混乱が起きます。

Simon Atkinson The importance of Freddie Mac and Fannie Mae BBC 2008/07/14

Chris Hamnett Fannie Mae, Freddie Mac and a nightmare on Wall Street The Guardian, Monday July 14, 2008

Sebastian Mallaby Nationalization: A Solution for Housing WP Monday, July 14, 2008

PAUL KRUGMAN Fannie, Freddie and You NYT July 14, 2008

A decent burial for Fannie Mae FT July 14 2008

Willem Buiter The rescue of Fannie and Freddie by Hankie and Feddie FT July 14, 2008

Fixing Fannie and Freddie FT July 14 2008

(コメント) ノーザンロックのように預金引き出しのために長い列ができる心配はないのだから、ファニーメイとフレディマックは幸せだ・・・とイギリスの金融関係者は思っているのかもしれません。しかし、株価の急落は避けられません。これまでの処理や支援策は無駄に終わり、金融危機の「氷山」の本体がようやく現れてきたのであって、その衝撃がもたらす社会・政治的な混乱こそ、将来の金融市場の枠組みを形成します。問題は、もはや金融関係者の間だけで処理できなくなり、ウォール街の手を離れました。

さあ、社会主義のスローガンを倉庫から引っ張り出して、ほこりを払っておくことだ。・・・Mallabyはアメリカ金融業界の国有化に備えます。住宅融資に関する限り、その活動の管制高地は国有化しなければならないでしょう。しかしポールソンは、それをアメリカ国家の利益として、人々の危機意識に訴えることに失敗しました。

国有化しただけで、これまでの住宅融資が健全化するわけではありません。しかし、他の選択肢はもっとひどい、と主張します。公的資金を注入しても、株式市場で銀行と同じような「株式の取り付け(現金化)騒ぎ」が起きるでしょう。株式市場において増資しても、株価は急落しており、それは悪循環をもたらす。また、緊急事態として連銀が融資しても、その限度が失われ、納税者の負担増大がますます心配になる。・・・

Mallabyは、連銀がGMに融資し、政府が買収するようなことは起きないだろうが、ファニーメイとフレディマックは特別だ、と考えます。一旦、両機関を政府が吸収して、金融市場の不安が収まってから、これらを徐々に解体・縮小して民間市場の機能を回復させるのがよい、と提案します。株価が急落すれば、それは国有化のチャンスでもある、と。

PAUL KRUGMANは、この問題を平静に扱います。すでにファニーメイとフレディマックは政府保証を得ており、救済は間違いないのだから、これ以上問題が悪化することはない。しかも、金融危機の原因は両機関にはない。ファニーとフレディは、公的な保証を得ながら民間企業のように利益や配当を出してきた。つまり、損失は政府が支払うが、利益は自分たちのものだ。こうした制度を作れば、いつでも過剰な貸付が行われる・・・!

しかも、ファニーとフレディは法律や規制によって住宅バブルに直接関与せず、サブプライム・ローンの保証は行わなかった。金融規制は正しかった。・・・では、なぜ問題が起きたか? KRUGMANは、住宅バブルがあまりにも巨大であり、また、住宅価格の下落が急激であったからだ、と考えます。また、その自己資本があまりにも小さかったことが問題でした。

ファニーとフレディは決して倒産させてはならず、こうした問題を解決すれば、金融市場の中で再建することが可能です。

他方、KRUGMANとは違う意味で、FTも長期的な見通しを問います。ロンドンやヨーロッパから見れば、アメリカにおけるファニーメイとフレディマックの救済は最悪の金融処理であり、まるで社会主義崩壊後の移行経済や、バナナ共和国の金融行政だ、とWillem Buiterは酷評します。

日本の金融危機においても議論されたはずですが、中央銀行が融資するのに、その銀行の業務が完全に把握できないのでは、不正な行為によって税金による救済を受けようとするでしょう。ポールソンとバーナンキが政府保証や融資を行うと言いながら、同時に国有化して経営陣を辞めさせ、資産を管理しなかったのは間違いだ、というBuiterの主張はもっともです。“The continuing corruption of the Fed’s mission through its growing use as a quasi-fiscal agent of the US government is deeply worrying.

1997年以来ずっと、アメリカ連銀は工業世界で、最も機能的に独立性の低い中央銀行であった。この最新のエピソードは、連銀の現時点の目的が財務省のために無責任な半政府機関になることだ、ということを示している。そうであれば、物価の安定性をもたらす連銀の能力は将来にわたって致命的に損なわれてしまったことだろう。

Andy Mukherjee China Will Get Paid for Loving Freddie, Fannie July 15 (Bloomberg)

The Future of Fannie and Freddie NYT July 15, 2008

GERALD P. O'DRISCOLL JR. End the Mortgage Duopoly WSJ July 15, 2008

William Pesek Fannie, Freddie Troubles Are Ominous for Asia July 16 (Bloomberg)

Franklin D. Raines The Help Fannie and Freddie Need WP Wednesday, July 16, 2008

Sam Natapoff Finance and the Fed: the battle is not over FT July 16 2008

Saving Fannie and Freddie BG July 16, 2008

(コメント) さて、もしアメリカ政府がファニーメイとフレディマックを救済すれば、それは株価やアメリカ財務省証券にとって、どのような影響を及ぼすのでしょうか? そして、それを大量に保有する外国投資家、例えば中国政府は、それをどう思うでしょうか?

中国とロシアに代表される、外国政府が保有するアメリカの公的債務は9250億ドルである、というが、過小評価であって、およそ1兆ドルであるとBrad Setserは推定します。債務総額の5分の1です。両機関の発行する証券も含まれており、その処理方法は中国政府にとっても重要です。中国やロシアがアメリカ政府などの発行する証券を購入し続けることが、金融市場の安定化に欠かせない条件です。

ポールソンがバーナンキと協力して破たんを回避すると宣言し、また、資本強化を示唆して、ドル安が止まったことは、中国政府を喜ばせたでしょう。中国では人民元の増価によって輸出が難しくなったという不満が強まっているからです。しかし、国有化によって財務省証券が価値を失うことは嫌うでしょう。その場合、パニックを起こしてドル建て資産を投げ売りするか?

少なくとも、中国政府の行動は漸進主義であり、大きな転換はないようです。もし中国やロシアのような政府系の投資家がヘッジファンドのように行動するなら、ドル暴落でしょうが。

O'DRISCOLL JR.は、政府が考えているような中央銀行による拡大ではなく、両機関を縮小して、時間をかけて民営化せよ、と主張します。

Pesekは、アジア諸国への影響は、当面、軽微であるが、長期的には重要だ、と考えます。大幅なドル安やアメリカの不況を望まない彼らは、ポールソンの救済策が成功することに協力するでしょう。すでに日本の主要銀行もファニーメイとフレディマックの発行した証券を保有しています。また、この金融危機によってアジアでも同様の証券化は避けられるでしょうし、1997年以後のアジア諸国で、アメリカ型金融市場を目指してきた改革は勢いを失うでしょう。

Sam Natapoffは、NY連銀によるファニーメイとフレディマックの救済は、アメリカ200年の金融史を思い出させる、と書いています。連邦政府は、金融ビジネスのために中央銀行の独立した機能を認めることと、民主主義的な要求の実現を目指して金融の独立性を奪うこととの間で、権力を争ってきました。連銀の役割を変えようとすると、大きな政治的反対が起こり、重大な政策変更をもたらします。

Robert D. Novak Friends of Fannie and Freddie WP Thursday, July 17, 2008

The Fannie-Freddie Dodge WP Thursday, July 17, 2008

John Eatwell and Avinash Persaud Fannie and Freddie, damned by a Faustian bargain FT July 17 2008

(コメント) 政府内部ではもっと根本的な改革を求める意見があったけれど、ポールソン財務長官がそれに反対した、ということです。なぜなら、それはあまりにも重大な政治問題になるから。重要な政治家が利益を得ている、これらの金融機関は「アメリカ型クローニー・キャピタリズム」です。

現在起きている様々な不満を吸収して、制度改革をとなえる動きもあります。特に興味深いのはJohn Eatwell and Avinash Persaudの論説です。金融監督を市場に委ねた結果、効率化や金融規律よりも、金融危機と救済融資が頻発するようになった、と主張しています。まるで、コロンブスの卵、といった逆転です。

なぜこんなことになったのか? BISが大いに推奨した「銀行業の市場化」が、中央銀行の役割を「最後の貸し手」から「最初の買い手」に変えてしまったのです。ファニーメイとフレディマックは金融の市場化・証券化のシンボルです。それは時代遅れの官僚による監督に代えて、最新かつ最良のモデルに依拠した融資と、第三者機関に格付けされ、多くの投資家が取引する市場に広く分散したリスク、を実現するはずでした。

しかし、これがファウスト的な取引でした。市場が正常に機能する間は、流動性と高度なリスク管理を得られるけれど、ストレスがかかると非常に脆弱な市場を形成してしまったのです。

金融監督も間違いました。彼らは金融を鉄道のように規制しました。すなわち、共通の・透明な基準があれば安全だ、と考えたのです。しかし、金融は鉄道と違って、できるだけ多くの・異なった投資家がいることで制度的に安定するのです。

多くの投資家が参加しても、同じ最新の評価システムで、同じデジタル化された情報を使って、同じベスト・パフォーマンスを競うならば、その市場はより大きいけれど、浅い、と批判します。世界の金融システムが持っていた本来の多様性が失われて、誰もが同じような高収益と低リスクを求め、市場価格に依拠したリスク評価を採用しました。そして異質さが失われ、現行価格水準による一元世界が誕生したのです。価格が下落し始めると一斉に売ることを求め、買い手は公的な機関しかない世界です(「最初の買い手」)。

重要なことは、さまざまな貯蓄や投資の多様性を維持することです。リスクに対して資本を調達できる機関が重要であって、市場における短期の資金調達で投資する機関の能力は限られています。それゆえ後者には、リスクに応じて、また景気循環の局面に応じて、リスクを処理する自己資本が要求されます。

こうした金融規制の転換を行わずに、一元的な金融市場で不安定化した際に個々の救済融資を行うことは、一層の破たんを招くだけです。


July 11 (Bloomberg)

Inflation Targets Don't Kill Jobs, Economies

Michael R. Sesit

(コメント) J.スティグリッツは、石油や食糧の価格が上昇する中で、インフレ目標による金融引き締めを行うことは間違いだ、と主張しました。インフレ目標を破棄せよ、と。

この論説はインフレ目標論の根拠を再論してスティグリッツに反対し、食糧暴動や抗議活動に金融政策が翻弄されることを戒めます。


July 11 (Bloomberg)

Japan's Lost Decade Threatens to Be Global Norm

William Pesek

FEER July 15, 2008

The New and Improved Japan Inc.

by Jesper Koll

(コメント) 日本の「失われた10年」から何を学ぶべきか? 歴史的な事件は、各国の経済が置かれた局面によって、異なった教訓を導きます。そして、ここで述べられているのは、日本の経験は多くの国にとって、これからの共通した経験を示すはずだ、ということです。戦後の急速な成長から低成長への転換が、世界各地で起きつつあります。

香港の不動産投資家Ronnie Chanの意見が紹介されます。アジアの危機以後、欧米が唱えたような、政治的腐敗が危機の原因、民主主義がその答え、ではなかったようです。むしろ、裁判所、報道機関、中央銀行などを欠いて、民主主義が機能しないままに早期の民主化に移行したアジア諸国では成長志向と「政府の失敗」が問題になります。今後、ケインズ的なインフレ的政策より、フリードマン的な物価安定の重視へと変わるでしょう。

他方、Jesper Kollは、日本が次の世界的な景気循環を開始する先進的な経済になる、と主張します。特に、新しい世界市場における商品開発に成功している企業が育つ一方で、デフレの悪循環が、世界のインフレ傾向において、むしろ需要や投資の好循環に変わるだろう、と期待します。


IHT Friday, July 11, 2008

An environmentalist's nightmare

By Paul Kennedy

The Observer, Sunday July 13, 2008

Big business shows politicians how the planet can be saved

David King

The Guardian, Monday July 14, 2008

Higher food prices are here to stay

Lester Brown

The Guardian, Monday July 14, 2008

The green inquisition

Björn Lomborg

Asia Times Online, Jul 17, 2008

G-8 darkens climate hopes

By Walden Bello

Project Syndicate, 17 July 2008

McCain, Obama and Hot Air

Bjorn Lomborg

(コメント) G8の「合意」にもかかわらず、環境問題や国際規制はあいまいな政治目標です。

資源や食糧の制約は強まっても、物質的な拡大を目指した成長競争を終わらせる、という気配などありません。エタノール、原子力、新技術への競争は激化します。そして、これは企業にとってのビジネスチャンスです。

環境保護運動の勢いは、むしろ分散し、既存の政治勢力に取り込まれています。NGOsも豊かな諸国の立場を擁護します。個々のテーマは法規制や新しいビジネス活動に吸収されて行きます。

Björn Lomborgは、Al Goreの海面上昇という大破局予言を批判し、通常の経済活動と並行して対処できる気候変動である、と考えます。ヨーロッパや日本の環境政策を批判し、アメリカの立場を擁護します。すなわち、パニックに陥るよりも、新しいエネルギーの開発に投資するなど、幅広い対応を考えるべきだ、と。

Walden Belloは、Lomborgの批判論を無視し、公共財として環境を重視する、J.サックスの著書“Common Wealth”を引用します。サックスは、豊かな国の生活水準や新興国の成長を犠牲にすることなく環境を保護するために、技術carbon capture and sequestration (CCS)を重視します。

Herman Dalyは、成長と両立する環境保護を求める主張を"growthmania"と呼び、批判します。第二次世界大戦後の国際秩序がそうであったように、今度は環境規制を軸にして、貯蓄や投資を計画し、消費を削減して、世界が公平な分担を受け入れるべきだ、と考えます。


FEER July 3, 2008

China's Next Revolution

by Guy Sorman

FT July 14 2008

China’s war on nature

By Niall Ferguson

(コメント) 中国の次の革命は、経済成長によって高まった期待が裏切られたときに起きるだろう、と、トクヴィルのフランス革命に関する考察を引用して考えます。あるいは、儒教文化という点で、中国の変化はフランスより韓国に似ているのでしょうか?

マルクスは、トクヴィルと違って、成長の成果や期待よりも分配をめぐる対立を重視しました。所有権を奪われてきた中産階級の反乱を共産党政府がどのように吸収できるのか?

あるいは、中国の政治体制は自然環境を破壊する結果として、崩壊するのでしょうか? 中国で広がるインターネットと携帯電話の利用者は、ナショナルリズムの言説を好み、政府の力も及ばぬ変化の潮流を形成しています。

FT July 13 2008

Hot money poses risks to China’s stability

Michael Pettis and Logan Wright

FT July 16 2008

Fragile China

FT July 17 2008

China and Fannie Mae

Asia Times Online, Jul 18, 2008

Property price slide a China success

By Olivia Chung

(コメント) 以前から中国への資本流入は問題になっていましたが、緩やかに人民元を増価させる政策を続ける中で、さらに、インフレと金融引き締めが必要になる中で、資本移動の変化に注意が必要です。

このまま資本流入を不胎化することは不可能であり、不安定化と景気変動の増幅が起きる、というのです。資本規制をしている中国では、外貨準備の増加は貿易黒字が中心でしたが、ますます直接投資の形で流入するようになっています。その貿易黒字と直接投資の中には、人民元の増価を期待した資本流入が隠されている、というのです。

四川省の地震から復興するために巨額の財政支出がなされています。他方で、金融政策にはインフレ抑制の要請と、人民元増価や資本流入への警戒感があります。国内の社会・政治対立は、株価下落や成長が減速する中で、不安定さを増すでしょう。他方、ファニーメイとフレディマックにとっては、重要な資金供給者です。

さらに、中国でも大都市の住宅バブルが破裂したようです。それはまだ、アメリカ政府のようなパニックではなく、過熱を抑えるために北京政府が採用した政策の成功とみなされています。地方都市の価格上昇は続いているからです。


NYT July 13, 2008

It Takes a School, Not Missiles

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) パキスタンでテロと戦うために100億ドル以上も支出して、ブッシュ大統領はムシャラフ政権に軍事作戦を強行させました。しかし、モンタナ出身のGreg Mortenson氏はその数万分の1の支出でパキスタンやアフガニスタンの辺境に学校を建て、ときには彼らと一緒に祈りました。

Mortenson氏がこの使命・仕事を始めたのは、1993年にヒマラヤの高峰K2に登山して失敗したときです。彼は貧しいイスラム教徒たちの村にたどり着きました。彼は介抱されて健康を取り戻し、そのお礼に学校を建てると約束したのです。

資金集めは悪夢でした。580人の著名な人々に手紙を書いて、たった一人しか小切手は送られてきませんでした。Mortenson氏は自分の大切な登山道具を売り、自動車を売りました。しかし学校が建つと、彼はそれを続けました。彼の援助団体、the Central Asia Institute74の学校を運営し、特に少女たちの教育に力を入れています。

村人たちは土地を提供し、労働を提供して、学校を「買い取り」ました。だからタリバンの兵士たちも学校を襲いません。反米の民兵集団が援助団体を襲った際、Mortenson氏が村人たちと建てた学校には手を触れなかったそうです。これはわれわれの学校だ、と。

Mortenson氏も誘拐されたことがあります。学校を建てただけで彼らに信じてもらえるわけではない、と。今もタリバンは、貧しい、文字を読めない若者を勧誘していきます。しかし、母親たちが教育を受けていたら、息子たちを説得したでしょう。学校で教える教師には5人の元タリバン兵士がいます。彼らを説得したのも母親たちでした。

Mortenson氏は、その地域の伝説になり、彼の絵がお守りのように、人々の家や自動車に飾られているそうです。

もしアメリカがイスラム過激派を減らしたいなら、民間の援助団体を助けて、もっと多くの学校を辺境の村に建てることだ。そしてアメリカ政府はパキスタンとアフガニスタンに対する関税をすべて撤廃して、彼らに産業と雇用を与えるのが良い、とKRISTOFは考えます。

CSM July 17, 2008 edition

Do better schools help the poor?

By Walt Gardner

(コメント) ロサンゼルスの学校教育を改善する計画は、住民たちの支持を得られません。公立学校はすでに崩壊し、信用されていないからです。賢い子供を集めるべきか?


NYT July 13, 2008

Drowning in Riches

By KENNETH M. POLLACK

(コメント) 石油があれば、いつでもその国は繁栄するか? この記事は、中東地域こそ石油価格の高騰に最も苦しんでいる、というのです。面白い論説です。

今こそ、この機会を利用して政治・経済・社会問題を解決して、アルカイダを消滅させたい、と指導者たちは思うでしょう。莫大な富が生じても、その使い方次第では、問題が悪化してしまうのです。

1970年代・80年代には、石油の富を海外に移転してしまいました。それは外国の土地やスイスの銀行口座に変わったのです。1990年代にブームが終わると、経済問題が噴出し、政治的不満が高まってテロが起きました。

その後、産油諸国の支配者たちは国内に投資しました。工場、道路、社会サービスを充実させたのです。経済構造を多様化して、雇用を増やし、アラブの超大国を目指しました。しかし、投資は適切に行われず、無駄が多かったようです。マクロ的には繁栄しているけれど、失業や低雇用は解消されず、激しインフレが起きて中産階級が没落し、社会構造は両極化します。

長期的な政治的・経済的効果を考えるより、短期的な利益を目指して石油関連部門や不動産への投資が増えました。しかも、超近代的な設備による工場は雇用をもたらしません。それでも観光、農業、建設など、ブームによって雇用を増やしたのですが、もっぱら南・東南アジアから出稼ぎ労働者を雇用しました。教育システムは職業に対応せず、若者の失業率は高いままです。

インフレによって貧しい人々と中産階級は生活が苦しくなり、食糧暴動やストライキが起きています。裕福な者はますます石油価格の上昇から、合法、非合法に、莫大な富を得ています。貧しい者はあまりにも貧しくなって、結婚することもできません。社会格差が危険なほど広がっているのに、その富は富裕層の奢侈、軍事費、政治的なシンボルの建設に浪費されているのです。

イランのパーレビ国王はこの状態を変えるために大規模な投資を行いました。新産業を興し、失業者を解消し、経済と社会を近代化するはずでした。しかし、その実行は腐敗した取り巻きたちの手に委ねられ、失敗に終わりました。石油景気は失業とインフレを悪化させて、イラン革命をもたらしたのです。

他方、サウジアラビアのアブドラ国王も経済都市を建設し、すぐれた投資と人材を集めようとしています。大学を立てて若者たちに科学や技術を学ばせています。国王が亡くなれば、その前途は困難が待っています。

・・・どうすればよいのか? たとえ石油の富があっても、軽工業から初めて雇用を増やすべきでしょう。また政府が管理する富をもっと国民に分配し、社会計画を用いて格差をなくすことです。こうして、もっとも貴重な社会的結束と政治的安定性を得るべきでした。


NYT July 13, 2008

What if the Candidates Pandered to Economists?

By N. GREGORY MANKIW

(コメント) 世界がエコノミストばかりであれば、あるいは、エコノミストだけの政党があれば、彼らはどんな政策を掲げるのか? 1.自由貿易、2.補助金廃止、3.石油会社や投機に課税しない、4.エネルギーの使用に課税する、5.引退の年齢を引き上げる、6.もっと技能を重視して移民を入れる、7.薬物の利用を自由化、8.経済研究に資金を出す。


NYT July 14, 2008

My Plan for Iraq

By BARACK OBAMA

The Guardian, Tuesday July 15, 2008

US elections: Obama details foreign policy plan ahead of international visits

Ewen MacAskill in Washington

(コメント) イラクのマリキ首相がアメリカ軍の撤退スケジュールを求めたことに応じて、バラク・オバマは彼の対イラク政策を整理しています。イラクからは慎重に撤退して、むしろアフガニスタンに増派する、と。

ヨーロッパに向けては、新しいマーシャル・プランを呼びかけます。イラクとアフガニスタンの再建を助けてほしい。イランの核問題を協力して処理しよう。アフリカの開発はアメリカにとっても利益だ。アメリカは世界中で、多くの利益を共有する政府と相談したい。


FT July 14 2008

Crisis and coherence: finance remains vulnerable

Mohamed El-Erian

FT July 14, 2008

Moral hazard misconception

by Ricardo Caballero

WP Tuesday, July 15, 2008

The Perils of Paulson

By Vincent Reinhart

Asia Times Online, Jul 15, 2008

The G-8 ignores basics

By Hossein Askari and Noureddine Krichene

(コメント) アメリカの金融政策は、住宅市場と関連した金融システムの危機回避、さらに不況回避のための刺激策と、世界的な原油高や食糧価格の高騰、インフレ加速を抑えるための金融引き締め策との間で、矛盾した説明や行動を繰り返しました。中央銀行はこうした矛盾した役割を求められている、ということかもしれません。

株価の下落は、ファニーメイとフレディマックを含む、ますます多くの金融機関を政府の支援なしには資本が調達できないようにしてしまった。こうした状況が長引けば長引くほど危機は強まり、日々の操作に決定的な他の金融活動においてシステムが直面する困難は増すだろう。これが資産の強いられた売却を加速して、市場を非流動的にし、すでに進行している悪循環を深みへと導く、とEl-Erianは書いています。

今後、追加の流動性が求められ、両機関への追加の財政支援策、民間と政府とをつなぐ新しい制度、消費への刺激策、などが要求させるでしょう。しかし、それは長期的に見れば効率的な金融市場を損なうものだ、とEl-Erianは考えます。他方で、事後的な危機管理を行わないことは、一層深刻な危機を招くでしょう。結果的に、こうした危機管理が一貫した新しい金融システムと金融政策の基礎をもたらすことで、初めて問題は解決に向かうのです。

危機の継続は、連銀による救済がモラル・ハザードを強めたことがその原因でしょうか? Ricardo Caballero の論説とCharles Wyploszのコメントがありました。中央銀行による救済融資は物価についての金融政策を誤らせるだけでなく、「モラル・ハザード問題」をともないます。しかし、ポールソンが(国有化を拒み)繰り返し救済融資の条件を厳しくすることは、システム危機の回避と矛盾するのではないか、という批判があるわけです。投資家を処罰することは、市場が回復すれば民間投資によって再び機能するようになる、という見通しを損なう行動です。また、金融市場に広まる不安を投資家の解消するためにも、むしろ矛盾した声明です。

他方、Wyploszは、その反論がアメリカ金融当局の安定化失敗を批判する点で評価しますが、モラル・ハザードを無視して投資家を優遇することには反対します。そして、何が正しい株価か? と問います。既存の投資家はその評価を失敗しており、株価が大きく下落して、ようやく新しい投資が行われるのは当然です。

Vincent Reinhartも、アメリカ金融当局の危機管理が後手に回って、なかなか安定化に向かわないことを重視します。結局、アメリカはすべての住宅価格や株価の水準を、政府と中央銀行が事実上保証し、維持するような方向に少しずつ進んでいます。

Hossein Askari and Noureddine Kricheneの論説は、バーナンキの安定化失敗と過剰なドル供給、それに対してG8が金融引き締めを協調して実施すると合意したことを重視します。

LAT July 16, 2008

What the Fed isn't fixing

By Ted W. Lieu

FT July 17 2008

America braces itself for a second dip

Krishna Guha

The Japan Times: Thursday, July 17, 2008

Let's hope it's over soon

By DAVID HOWELL

(コメント) Krishna Guhaの詳細な論説が興味深いです。金融危機がアメリカ経済の悪化をもたらす過程は、決してまだ、回避されていないのです。終わると思えば、また一層の危機が再発しています。ファニーとフレディは、結局、アメリカ経済が悪くなれば破綻し、回復すれば再建されるのです。その逆ではなく。しかし、アメリカ経済の回復には、さらにドル安や世界経済の成長持続が関わっています。

世界の新興諸国でインフレが顕著であることは、アメリカ経済回復のシナリオを狂わせます。住宅市場の価格調整は続き、金融危機は容易に終わらず、他方、不況を感じても金融緩和はインフレを軽視すると非難されます。一層の財政刺激策を取るのかもしれません。


Julie Flint Ocampo's great gamble The Guardian, Tuesday July 15, 2008

Ian Williams The age of impunity is over The Guardian, Tuesday July 15, 2008

Charged With Genocide NYT July 15, 2008

RICHARD GOLDSTONE Catching a War Criminal in the Act NYT July 15, 2008

Indictment for genocide BG July 15, 2008

NICHOLAS D. KRISTOF Prosecuting Genocide NYT July 17, 2008

(コメント) ダルフールの弾圧を続けるスーダンのOmar al-Bashir大統領を、国連安保理で制裁決議により牽制できませんでしたが、国際刑事裁判所(ICC)では告発できました。

なぜこれが論争となるのでしょうか? 虐殺を定義すること、国境を越えて人道に関する罪を裁くこと、判決に正当性と強制力のあること、・・・国境の向こう側でも、法を無視して良いと思わせてはならない。国際裁判所に出頭するか、国連軍もしくはNATO軍が侵攻してくるか、選ばなければならない。 こうした判断に対して、各国はどう動くのか?

多くの人道援助団体が襲われたことを思えば、スーダンの無政府状態を終わらせるのは良いことです。しかし、NGOsスタッフや外交官はICCの告発に驚き、大統領が威嚇や報復に走るのではないか、と恐れているようです。しかし、人道に関する罪は国家元首も免れない、という姿勢を示したことに声援を送ります。


WP Tuesday, July 15, 2008

A War The West Must Stop

By Ronald D. Asmus

FT July 15 2008

Stand up to Russia over Georgia

(コメント) 黒海の東岸で、グルジアとロシアとの戦争はすでに避けられないもののようです。 ・・・ロシアとの戦争? 遠い辺境の小国が大国に屈するとしても、世界の秩序には何も影響しない、と言えるでしょうか? あるいは、アメリカを含むNATO軍とロシア軍が衝突するのでしょうか? モスクワはコソボの独立に反対していたにも関わらず西側諸国が強行したことを重視して、周辺のウクライナやグルジアでも、親ロシア政権を維持したいのです。たとえ、介入してでも。

しかし、西側諸国はこの対立を異なった視点で理解しています。グルジアの若い大統領はロシアとの対決姿勢を政治的な支持を得る手段として利用してきました。むしろ、ロシアの新しい大統領とは友好関係を結び、その他の重要問題で協力したい、と考えています。それゆえロシアに対して外交的な圧力で抑制を保つように求めています。

Asmusは、こうした姿勢では戦争が起きてしまう、と懸念します。クリミアで行われたヤルタ会談のように、影響圏の要求を受け入れることは当時も今も間違いである、と。望ましい政治体制や指導者はその国民が決めることです。

中央アジアには(わずか)1000人のアメリカ兵が駐留しており、政治体制を議論する際に重要な選択肢を教えてくれます。グルジアは明確に西側に民主主義体制を望んだ国です。しかしまた、カスピ海沿岸の石油・天然ガスを輸送する重要なパイプラインの拠点であることから、ロシアがその政治的帰属(もしくは弱体化)を強く求める理由にもなっています。

ロシアを取り込む外交や市場における緊密化は重要ですが、グルジアに対する威嚇には、明確な支持と対抗姿勢を示すべきです。


FT July 15 2008

Boom time for the global bourgeoisie

By Jim O’Neillchief economist at Goldman Sachs

(コメント) 旧工業諸国・地帯では中産階級が没落し、世界の所得格差も拡大しているかもしれません。しかし、この数10年に起きている構造的な変化(いわゆるグローバリゼーション)の成果とは、世界的な規模での中産階級の増大である、とO’Neillは考えます。

すなわち、Goldman Sachsが描く、BRICsやNext11の登場が、世界中で中産階級の支出する豊かな市場(そして企業や銀行)を形成しつつある、と主張します。


The Guardian, Wednesday July 16, 2008

Is this the end of Belgium?

Sarah Morris

SPIEGEL ONLINE 07/16/2008

'Belgium Is the World's Most Successful Failed State'

FT July 16 2008

Belgium struggles to maintain cohesion

By Tony Barber

FT July 17 2008

Belgium’s identity crisis

(コメント) ベルギー消滅! ・・・ロシア人の飛び地を抱えたグルジアは生き残っているのに? ベルギー内部のオランダ語を話すフランダース地域が独立を宣言した、という国営放送のジョークが2006年末にあり、その後も独立の流れは強まっているようです。

ブラッセルはEUとNATOの中心地として多くの機関が集中しています。ブラッセルの帰属によって大きく財政が潤い、繁栄するだけでなく、他方では、こうした歴史的な言語問題で国家を分割する論争になっています。まるで21世紀の都市に重なって現れた中世の戦争です。彼らが統一国家であるのは、重要な決定はすべて議会に明け渡して生き残っている国王King Albert IIと伝統への忠誠心だけです。国王が辞任し、憲法改正が成功すれば、分割は完成です。

北のオランダ語圏、フランダースと、南のフランス語圏、ワロニア。連邦政府の合意は形成されず、憲法はその限界に達しました。豊かな北は一層の自律性を要求し、南はそれを拒みました。課税や社会保障、地域間での再分配が問題です。さらに選挙区の分割が問題になっています。国際金融業と高級官僚が、農民たちの町と一緒に暮らすことに、限界が来たわけです。

SPIEGELは、さまざまな党派の意見を並べています。妥協によって継続されてきた政治ですが、左派から中道派、保守派まで、政治的な意見を集約するのも難しいようです。ベルギーという国がなくても、誰も困らない、と言います。そもそもヨーロッパには、国家として統一されていなかったり、分割したりした例が、多くあります。しかし、国内で、少数民族が独立運動を行っている国は承認できません。


The Guardian, Thursday July 17, 2008

The American dream invades Iran

Masoud Golsorkhi

(コメント) イスラム教国家体制の正当性は失われつつあります。アメリカが爆撃すれば、イラン国民はアメリカと戦うでしょう。アメリカとイランは、アラブの人々にとって、異なる価値を代表しています。America's "city upon a hill" idea of individualism within the framework of the globalised market economyと、それに対して、the Iranian state's communitarian value system based on nationalism and religion

イランの体制下では国民が政府の情報を信じず、むしろ逆のことを信じる傾向がある、ということです。つまり、世界でも数少ないアメリカを支持する国民の多いイスラム教国家なのです。そうであれば、ブッシュ政権は効果のない核施設の空爆などせずに、外交的な交渉と、国民への影響を通じて、政府の姿勢を変える方が良いでしょう。


NYT July 17, 2008

Obama at the Gate

By CHRISTOPH PETERS

(コメント) オバマがベルリンに来て何を訴えるのしょうか? メルケル首相はブランデンブルグ門を、オバマが自分の宣伝のために使うことを嫌いました。かつてメルケルは、イラク戦争を選択したブッシュ大統領を、政治家の発言として範囲を超えた言葉で強く非難しました。東ドイツで育ったメルケルには、共産主義体制を嫌うブッシュやマッケインと共有するものもあります。

ナチスや共産党の大衆動員を見た世代には、多くの群衆が歓迎することを優れた民主主義だとは思わないそうです。民主主義には優れた議論があれば十分です。オバマのスタイルは、東側の経験を経た人々にとって旧式であったかもしれません。しかし、差異を超え、政治的な進路を転換する、自分のスタイルを持った、新しい大統領制をもたらす人であることを示しました。ベルリンに来たオバマは、多くのベルリン子の仲間に加えられたでしょう。


FT July 17 2008

Progress in emerging markets is at risk

By Erik Berglof and Raghuram Rajan

(コメント) 金融危機は、政治家による金融政策や金融システム改革への干渉を強めました。この論説は、国際金融市場に直面して、新興市場におけるポピュリスト的な介入主義が復活しないように求めています。

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The Economist July 5th 2008

What a way to run the world

Who runs the world? Wrestling for influence

Nordic defence: Pooling resources

Georgia, Abkhazia and Russia: Tales from the Black Sea

Conflict resolution: The discreet charms of the international go-between

(コメント) G8サミットなんて時代遅れだ。石油も、食糧も、金利も、為替レートも、自分たちで決めるほどの力もないのに、集まって何を話し合うのか? 地球のために温暖化ガスの排出量を決める予定があっただろうか?

表紙の風刺漫画は面白いですね。バベルの塔を築いている。国際機関が積み上がっていくけれど、無理な挑戦である、というわけです。しかし、諦めることが答えではない。やることのないIMFに比べて、世銀は有望です。G8は拡大してG12へ。そして国連安保理もIMFも大幅に改革します。排除するより、話し合いを制度化する方が良いのです。

マッケインなどの支持する「民主主義の同盟」はよくない、と考えます。世界の共通管理にとって、民主主義を勝手に定義して主要国を排除する必要はない。要するに、将来も話し合うことは多くあり、国際制度は求められるのです。

しかし、実際に面白いのは、後の三つの記事です。ノルウェイ、アイスランド、スウェーデン、フィンランド、デンマークの軍隊の運営や国際的な貢献、共通化とコスト削減に、日本も学べるように思いました。

グルジアの話は、非常に詳しく、複雑で、恐るべきものです。ロシアとグルジアの民族主義だけでなく、アブカジアのロシア化という過程にも驚き、考えさせられます。

特に、民間の紛争解決処理グループが活躍している、という記事に勇気づけられます。大国が仲介して、軍事的に強制しなければ、国際問題は何一つ解決できない、という思い込みを完全に払拭してくれました。数人の知識と経験あるグループが、時間をかけて、ときには何年も紛争当事者集団に働きかけ、双方に信頼された上で、交渉の進め方や条件の示し方、合意文書の作成、などを助言し、合意をまとめ上げるのです。国連や中立国の情報を利用するだけで、彼らには何の圧力もありません。

しかし、こうしてできた合意の方が、力によって服従させられた合意よりも、長く守られます。


The Economist July 5th 2008

The oil prices: Don’t blame the speculators

Malaysia: South-East Asia’s Gorbachev?

Economics focus: The domino effect

(コメント) 石油でも、農産物でも、投機家を非難するな。説得的な記事です。マレーシアの政治変化を予感させます。そして、為替レートが経常収支の不均衡を調整する方向に動き始めたのはなぜか? キャリー・トレードの時代は終わるのか?