IPEの果樹園2008

今週のReview

3/3-3/8

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

超富裕層へのリンチ?  金融グローバリゼーションの逆転, 中国の英雄, EUの怯え, ニューヨーク・フィルのピョンヤン公演, 日本を悲観する, 米軍は撤退しない, 世界経済とミッタル

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Feb. 22 (Bloomberg)

Faber Sees a Holiday in Cambodia for Investors

William Pesek

(コメント) カンボジアには,アンコールワットなどの寺院群と,ポル・ポト派による虐殺現場くらいしか,観光資源もありませんでした.しかし,カンボジアの未来を次の新興市場にするのは,その国の賢明な政府だけでなく,海外の投資家や観光客,輸出市場や資源,そして,教育システムや警察官・官僚たちです.

たとえば,新しい自然保護区ができた,ということです.The Angkor Centre for Conservation of Biodiversityを訪れる観光客が増えています.また政府は,株式市場を創設して,海外投資家にカンボジアへの投資を呼びかけます.

1400万人の人口の3分の1が,一日50セント以下で生活する極貧層です.主要な産業と言えば,輸出向けの衣服の加工ですが,最近は観光ビジネスが急速に拡大しています.アジア開発銀行の黒田総裁も,鉄道を再建する計画に融資する,ということです.しかし,まだ取引の95%はドルで行われ,債券市場も存在しません.

アメリカ市場が不況になれば輸出が減るでしょう.他方,カンボジアの石油資源を求めて海外からもすでに調査や投資が始まっています.それは「石油の呪い」をもたらします.あるいは,その投資を国内の教育システムやインフラ改善に用い,警察や官僚の腐敗を一掃する,広く国民に支持された強固な政治指導力をカンボジアに形成できるでしょうか?


NYT February 22, 2008

Don’t Rerun That ’70s Show

By PAUL KRUGMAN

(コメント) これは1970年代の再現か? とKRUGMANは問います.次の大統領は,カーター政権の苦悩を味わうのでしょうか? そうでもない,と考えます.

カーター政権の実績は言われているほど悪くないのです.全体としてはレーガン政権期より少し良かった.しかし,末期に問題が連続しました.インフレと失業,石油価格,人質問題.レーガンはカーター政権の失敗を強調して,保守強硬派に支持を得ました.

むしろ経済状態は1990年代の初め,前ブッシュ政権に似ています.スタグフレーションを一気に解消する政策はありませんが,不況に対処する方法は大規模な財政刺激策だ,とKRUGMANは考えます.それが政治的に阻止されてしまうと,カーター政権の再現になるかもしれません.

WP Monday, February 25, 2008

Who Will Tell Hillary?

By Robert D. Novak

WP Monday, February 25, 2008

Obama's Missing Ideas

By Sebastian Mallaby

FT February 25 2008

Obama and the art of empty rhetoric

By Gideon Rachman

(コメント) ヒラリーとオバマ.誰が猫に鈴をつけるのか? とRobert D. Novakは問います.ニクソンが辞任するときを得たのは,彼が党内の支持失ったことをゴールドウォーターが告げたからです.ヒラリーは,誰がその敗北を認めさせるのか? 誰にもできなければ,党大会まで紛糾し,互いに個人攻撃をエスカレートさせて,結局,共和党のマッケインにオバマが敗北するかもしれない,と.

Sebastian Mallabyは,たとえオバマが大統領になっても,実現するべき良いアイデアはそれほどない,と心配します.地球温暖化を防止する,そして中東からの石油に依存する(その安全保障や戦争に関与する)程度を減らす,良いアイデア,効果的な政策があるでしょうか?

トウモロコシからエタノールを作る? 温暖化ガスの排出権市場を創設する? それらは結局,穀物の世界価格を引き上げ,あるいは,中国などの発展途上諸国に温暖化ガスの排出を促進する仕組みになってしまったようです.

「キャップ・アンド・トレード」も「炭素税」も,貿易などを介して抜け穴があり,それが約束するほど効果的とは思えません.国内政策に関心がないマッケインに政策論争で負けるでしょう.・・・しかし,もし運転した距離に課税すれば,もっと有効だ,と具体的な政策のアイデアを求めています.

Gideon Rachmanは,オバマのレトリックに注目しています.曖昧かつ大胆ですが,アメリカ政治の常套句を繰り返しているようです.それでも政党の対立を超えて,アメリカ国民の統一と未来への希望を信じさせた力に,大統領としての条件を認めます.

BG February 26, 2008

Nader vs. the Democrats

LAT February 26, 2008

Nader's nadir

NYT February 26, 2008

The Real McCain

By DAVID BROOKS

NYT February 27, 2008

The Politics of Trade in Ohio

By DAVID LEONHARDT

NYT February 28, 2008

I’m Not Running for President, but ...

By MICHAEL R. BLOOMBERG

(コメント) ネイダー,マッケイン,ブルームバーグはオバマとどのような戦いを予想しているのでしょうか?

ニューヨーク市長のブルームバーグが,むしろ,最も魅力的な論説を載せています.自由貿易,移民,学校,温暖化,銃規制,・・・こうした問題について,他の候補よりも,ブルームバーグは市長として対応してきたからです.ほかにも,景気,エネルギー,インフラ,犯罪,・・・です.

言葉だけのオバマとは違い,政党政治を超えてアメリカを新しい時代に向けて指導するために,共和党でも,民主党でもなく,独立候補が必要だ,と.


WP Saturday, February 22, 2008

A Milestone on the Road to Democracy

By Pervez Musharraf

YaleGlobal, 22 February 2008

Democracy in Pakistan Might Bring Tension with Washington

Husain Haqqani

The Wall Street Journal, 22 February 2008

New Partners in Pakistan

Matt Phillips

(コメント) パキスタンのムシャラフ将軍を観るとき,私はポーランドのヤルゼルスキ将軍を思い出します.彼らが本当はどのような役割を果たしたのか,分りませんが,もしより大きな悪を抑えるために,軍人が民主主義を一時的に留保するとしたら,それはどのような形で許されるのでしょうか?

ムシャラフの論説は,アメリカ国民に向けて,パキスタン政府の使命は,@テロや過激派を抑える,A安定した民主主義をもたらす,B持続的な成長をもたらす,と明記しています.

しかし,他方で,ムシャラフはイスラム過激派の浸透した軍隊を擁護しており,地方の治安は回復できず,民主化運動を弾圧し続けている,と非難されるでしょう.選挙には多くの妨害と自爆テロがあり,成長はアメリカからの軍事援助によるものだった,と.彼らは権力と富を失いたくないだけではないか?

余りにも多くの犠牲を払いながら,パキスタン国民は選挙によって現体制を拒みました.選挙結果を尊重するなら,パキスタンは二大政党が大連立を組んで再建するべきです.カシミール紛争や核のボタンでインドとアメリカを脅すのではなく,ムシャラフも軍隊も直ちに政治から手を引くべきだ,とHusain Haqqaniは主張します.

しかし,大きな矛盾は,パキスタンの二大政党は互いを激しく嫌っており,パキスタン国民はムシャラフをアメリカに協力した点で嫌っていることです.この状況では,ブッシュでなくても悩むでしょう.・・・民主主義とは何を意味するのか?


FT February 22 2008

The illusion of Cuba’s caudillo

By Christopher Caldwell

(コメント) The Guardianの記事がカストロの成果として称えたことは,独自の調査も証拠もない.カストロはラテンアメリカの封建領主であり,その領土の主権のためにソビエトの軍事拠点となったに過ぎない,と批判します.


FT February 22 2008

How the super-rich can avoid a lynching

By John Thornhill

(コメント) 景気が良いと,誰もが裕福なものを自分たちの理想とする.しかし,景気が悪くなれば,人々は仕事を失い,貯蓄を失い,住宅を失って,他方で,裕福な者が外国の預金口座に税金を逃れて資産を蓄えているのを知ると我慢なりません.社会は冨者に重税を課し,奢侈に重税を課し,あるいは,相続や資産の取引を厳しく監視して犯罪を探します.「富者へのリンチが始まる」と,金融紙は怯えるのです.

彼らが思い出すのは,1889年にアンドリュー・カーネギーが書いた本“Gospel of Wealth”です.カーネギーは資本主義が酷薄な競争を強い,不平等な所得分配をもたらし,多くの貧しい者に富者への憎しみを抱かせると知っていましたし,それが社会を損なうことを心配していました.冨者は貧者と協力して社会を豊かにできるのです.だから,不平等を非難するより,豊かになった者が貧しい者を助けて,彼らも豊かになれることを教えなければなりません.

社会のすべての者が享受できるような慈善活動に自分の資産を費やすことこそ,富者の務めであったわけです.そして,死ぬまで富に執着するものは不名誉を負い,カーネギーの理想では,その資産に重税を課します.

たとえ景気が悪化しても,世界有数の資産家でありながら,バフェットはリンチに遭いません.彼が情報を駆使して優れた投資を行い,その蓄えた資産を惜しみなく社会に奉仕する事業に注ぎ込んでいるからです.


The Japan Times: Saturday, Feb. 23, 2008

Vision of ROK-U.S. alliance

By RALPH COSSA

The Japan Times: Tuesday, Feb. 26, 2008

Building a stronger alliance

By LT. GEN. BRUCE WRIGHT

(コメント) ブッシュ政権の強硬姿勢と並んで,キム・テジュンからノ・ムヒョンへの変化は,朝鮮半島の南北統一を混乱させたかもしれません.イ・ミュンバク新大統領は,ある意味ではキム・テジュンの「4+2」に戻って,米韓同盟を再建するでしょう.朝鮮半島の再統一が加速し,米韓FTAも動き始めるなら,イ・ミュンバクの「北朝鮮の生活水準を10年間で6倍にする」という呼び掛けに北側も焦りと希望を感じるでしょう.

BRUCE WRIGHTは,国民は十分に理解しないまま,互いへの不満や不信感を強めているけれど,日米安保が双方にとって(市民の安全を確保する上で)非常に重要な役割を果たしており,米軍再編が在日米軍の在り方を大きく変えていることを指摘します.


LAT February 23, 2008

The ICBM turns 50

(コメント) 一度も使用されなかったことを祝福されるのが,これほどふさわしいハイテク作品も稀です.大陸間弾道弾ICBMは,開発されて50年勝ちますが,未だに実際に使用されていません.しかし,冷戦や相互確証破壊という観念が完全に死滅するときまで,ICBMの葬送は行えないようです.

もっと異なった形で異なる社会・政治システムが競争できる時代が,ICBMを必要としない指導者たちを登場させます.


NYT February 23, 2008

The Double Standard in Crisis Resolution

By EDUARDO PORTER

FT February 24 2008

Fix financial incentives

By William Cohan

FT February 27 2008

Turmoil reveals the inadequacy of Basel II

By Harald Benink and George Kaufman

(コメント) IMFを使って世界中の赤字国に引き締めを強制し,世界中の通貨危機に変動レート(すなわち資本流出と大幅な減価,倒産,失業,不況)を強いてきたアメリカが,繰り返し金融緩和し,財政刺激策を吹聴するのは,世界の指導的な金融国家ではない,と自ら宣言するようなものです.

当時の救済もしくは緊縮政策を指導した元財務長官のローレンスサマーズは,しかし,アメリカ政府がダブル・スタンダードである,という非難を退けます.アメリカのサブプライム・ローン危機は国内の住宅市場が崩壊したのであり,その雄姿は国内で自国通貨によって行われたからです.不況を回避することが政府の絶対的な使命であるから,非難されるいわれはない,というわけでしょう.しかし,それは他国も同様です.その上,アメリカは国内融資がそもそも外国からの資本流入で成り立っていることを無視している,と思います.

その証拠に,金融緩和はドル安やインフレによって効き目を失いつつあります.EDUARDO PORTERは,IMFに緊縮政策を強いられた通貨危機の国は,二度とIMFに頼らぬために外貨準備を増やそうとした,と指摘します.その結果,彼らの外貨準備はアメリカの財務省証券に流れ込み,アメリカの金融緩和を長引かせたのです.そしてアメリカが住宅バブルや金融市場不安が不況になるということこそ,皮肉な報復である,と.

アメリカの住宅市場だけでなく,国際金融市場にまで広まった不安に対して,二つの反省が起きています.1.金融機関や投資家の報酬や動機付けがシステムとしておかしいのではないか? 2.BIS規制による自己資本のリスクを含めた測定は,次のバブルと金融不安を抑えられないのではないか?

FT February 25 2008

We must curb international flows of capital

By Dani Rodrik and Arvind Subramanian

(コメント) ここでもDani Rodrikの主張は興味深いです.金融のグローバリゼーションは新興市場に利益などもたらしていない,と断言します.それは投資を増やしたわけではないし,ましてや変動を抑えたわけではない,と.

ラテンアメリカにもアジアにもアメリカにも,金融危機になる理由はありました.しかし,いずれについても言えることは,国際資本移動が危機を大きくした,ということです.Rodrikの痛烈なたとえでは,それはアメリカの「銃規制」と似ているのです.

銃による大量殺人や学校での乱射事件があると銃規制を求める声が高まります.しかし,銃が悪いのではなく,それを使う人間が悪いのだ,という理由で規制はされていません.問題は,人間の心が帰省できないのだから,社会は銃の量を減らすべきだ,ということです.

同様に,国境を超える資本移動は好ましくないでしょう.世界は政治権力と金融規制が知己的に分割されたままであり,資本が誤って利用される機会は国境を超えると急増します.金融規制や金融監督のハーモニゼーションをいくら叫んでも実現するのは遅く,そうであれば,国境を超える資本の量を減らすべきだ,と考えます.かつてケインズが主張したように.

どうやって,そんなことができるのか? アメリカやIMFが資本規制を嫌ったために,研究は進んでいません.しかし,資本流入に対して一定の準備預金を強制したり,資本取引に課税したりすることが行われています.またRodrikは,国際資本移動の下を断つ,と主張します.すなわち,ガソリン税を導入して石油の消費を減らし,石油輸出国に累積する黒字を減らすこと.アジアの黒字国が為替レートの増価を許すこと,です.

こうして国際収支不均衡を減らすことが,通貨危機の源泉となる国際資本移動を減らすのです.

FT February 26 2008

Why Washington’s rescue cannot end crisis story

By Martin Wolf

(コメント) Martin Wolfは,アメリカの金融緩和とドル安は不均衡の調整を早めるだけで,問題ではない,と考えています.そうでしょうか? 財市場についてはそうかもしれません.しかし,むしろ,資産市場から大規模に資金が逃げ出し,アメリカは急激に不況を世界に撒き散らすのではないでしょうか?

Wolfは,アメリカ政府が金融危機や不況を抑える力を持っているように書きます.問題は,金融市場を救済する後です.どのような金融市場に戻すのがよいのか? これまで信じてきたブラック・ボックスを精査し,好ましい金融市場の性質を見極める作業が難しいのです.


NYT February 24, 2008

A Capitalist Jolt for Charity

By STEVE LOHR

(コメント) カーネギーを回想するのも良いですが,ダヴォスの世界経済フォーラムで注目された本,“The Power of Unreasonable People: How Social Entrepreneurs Create Markets that Change the World” は現代の社会起業家を研究するものです.

私がこの論説を読んで面白いと思ったのは,e-mailを利用した子どもたちの学習ネットワーク,E-Palを拡大する生成たちの無償のコミュニティーが,ビジネスとして資本や技術,データ・ソースを飛躍的に拡張し,組織としても安定した基礎を確立できたこと.しかし,同時にそれが利潤追求に流されぬように,株式の主要部分はエンジェル投資家と呼ばれる社会的な関心で株式を保有してくれる集団を集めたこと.そして何より,インターネットの世界に,セックスや暴力,行き過ぎた商業主義に冒されない,理想的な空間を確保し,それが拡大する可能性を示したこと,です.


FT February 24 2008

Prevent US foreclosures

By Lawrence Summers

(コメント) 住宅の立ち退きや競売を行うことは大きな取引コストを要し,近隣の住宅価格も引き下げます.経済的なコストを回避するには,立ち退き以外の調整が必要です.立ち退きによって最終的に貸し手が回収する額と,持ち主が支払える額との間を,何らかの手段で,調整することは可能なのです.それを工夫することは,住宅に住む家族,近隣地区,金融機関,アメリカ経済にとって,有益です.

発展途上諸国の債務問題や通貨危機でも,同じことが議論されました.そしてサマーズは,同じように提案していたのだと思います.ひとつは,破産法を改善すること.もう一つは,債券市場を利用して資金を得ること,です.その評価はできませんが,可能であれば,住宅の追い出しや発展途上諸国の倒産,不況は,回避してほしいです.


BG February 25, 2008

In China, a beacon of heroism

By Anne Wu

Asia Times Online, Feb 26, 2008

China has poll breather on yuan pressure

By Tim Brown

FT February 27 2008

Chinese monetary policy

(コメント) 民族や国家というものは逆説的にその強さを示すようです.旧暦のお正月,春節を祝うために故郷を目指した出稼ぎ労働者たちの多くが,雪害によって止まった列車を待ちながら,暖房もない駅で夜通し過ごすのを見て,中国政府は必死に鉄道を復旧させました.政府や管理体制,急激な成長の欠点を指摘することもできますが,Anne Wuのように,中国人民の美点を見出すこともできます.

アメリカで住むうちに,スーパーマンのような個人主義的ヒロイズムを受け入れてしまったけれど,そして,急速な経済成長によって中国独自の文化や人民の持つ美点が失われてしまうと信じていたけれど,そうではない,と分った.集団主義的なヒロイズムの素晴らしさを思い出した,と書いています.

「どれほど長い,苦しい旅であろうとも,新年を祝うために中国人はいつも故郷へ帰る道を見つけるために奮闘する.彼らの多くは,移民労働者たちがそうだが,新年を迎える前のたった一晩だけ,家族と一緒に過ごすのだ.それは,激しい労働に従事した一年という,トンネルの末に見る一つの明かりである.その強い家族のきずなこそ,嵐がもたらした列車の遅延と不便にもかかわらず,人々が辛抱強く,再開を期待して,駅で待ち続けた理由なのだ.こうした家族が再会することの重要性を知ることによって,他人を助けるために自分の家族と再会することもないまま復旧のために自ら犠牲を担った人々の行為を高く評価できる.」

200万人の兵士や警察官,鉄道労働者が雪や氷を取り除き,非常時の補給に当たって,復旧のために努力したそうです.胡錦涛主席も,温家宝首相も,休暇を返上して労働者たちを励まし,駅で待つ人々の過酷な条件を緩和しようと奔走しました.

他方,対外的には,その貿易不均衡や人民元への切り上げ要求がますます強く待っています.アメリカで不況が強まり,新しい大統領が誕生することを思えば,ブッシュ政権が積極的な動きを採れないまま,次の大きな転換を準備するしかありません.

それは同様に,国内のインフレや株価の動揺,金融引き締めの問題と関係します.雪害や一時的なインフレ,エネルギー不足を超えて,安定した,持続的な成長を実現するもっとも正しい政策を模索しています.


NYT February 25, 2008

Rising Inflation Creates Unease in Middle East

By ROBERT F. WORTH

BBC 2008/02/27

Migrants demand labour rights in Gulf

By Roger Hardy

(コメント) 中東の石油輸出国でも,インフレ,出稼ぎ労働者の不満,ストライキなどが起きています.労働争議を解決するには,むしろ法律を整備し,人権や労働組合を認めて代表と交渉する方がよいでしょう.


FT February 25 2008

Moscow must act to cool its economy

Anders Aslund

(コメント) ロシア政府が,たとえ大統領選挙をどれほど強力に管理できても,インフレを止めることはできません.8.5%の成長と大幅な貿易黒字が,次第に基本的な商品の価格を上げています.しかも,たとえ管理した選挙であっても,政治家たちはポピュリスト的な演説や公約を好みます.それは財政赤字の増やす原因です.

Aslundは,ロシア政府にルーブルの為替レートを調整せよ,と主張します.

The Guardian, Thursday February 28 2008

Russia has run rings round the west. A united Europe must stand up to it

Timothy Garton Ash

(コメント) Ashは,アメリカに無視され,ロシアの言動に振り回されて苦しむヨーロッパ人たちに,それは自分たちをバラバラな国民とみているからだ,と教えます.

プーチンの言う「国家民主主義 “sovereign democracy”」と「民主主義 “democracy”」が違うのは,「ジャケット(上着)」と「ストレイトジャケット(囚人などの拘束衣)」が違うのと同様である,と書きます.ロシアは確かにソビエトの全体主義を葬ったけれど,それは最悪の権威主義体制であり,これを民主主義に見せても,所詮,「羊の皮をかぶったオオカミ」である.

ヨーロッパがばらばらであれば,ロシア,中国,アメリカのような「大国」に囲まれて,怯えて生きるしかないでしょう.しかし,EUがもし統一された政治的意思を示すなら,EUこそロシアをはるかに優越した大国なのです.その経済規模はロシアの15倍,ロシアはベルギーとオランダを合わせた程度です.ロシアの貿易の半分はEUとの間で行われ,ロシアが供給する天然ガスはEUの消費の25%でしかありません.ソフト・パワーで比べるなら,ロシアはEUの足元にも及びません.

EUとロシアは互いを無視して生きて行けません.エネルギーや貿易,投資に限らず,コソボ,イラン,国連,その他,EU政治家がロシア新大統領と話し合う話題は豊富です.


FT February 25 2008

Biofuels will not feed the hungry

LAT February 26, 2008

Food or fuel?

FT February 26 2008

Food and the spectre of Malthus

By Mark Thirlwell

(コメント) 世界の富裕層と中産層が増えて,ますます多くの牛や豚を食べ,自動車を走らせ,産油諸国を守る戦争を続けるために,世界の最も貧しい家庭から子供たちが死滅していくのは,恐ろしい話です.豊かな国には補助金や救済システム,医療機関があっても,貧しい世界には及びません.

国連の世界食糧計画やFAOがまとめた報告書は,アメリカのバイオ・エタノールが及ぼす被害に警告を発しています.他方,それを解決するには,技術革新によって,新しい品種やまったく新しい生産システムを新しい土地に導入する,フロンティアの発見しかない,とFTは考えます.LATは,石油消費の抑制と貧困層の生活改善を訴えます.これもアメリカのユニラテラリズムがもたらした国際秩序の亀裂でしょう.

豊かな国の人々は,中国人やインド人が急速に豊かになっていることを憂慮する一方で,彼らがうまくインフレを緩和して成長を持続し,世界の景気を支えてくれることを願います.あるいは,もっと深刻に考えれば,エネルギーや食糧の価格上昇は,新興市場の社会的な不平等を強め,政治不安をもたらし,近隣諸国との戦争を誘発する条件が強まるでしょう.また,インフレを心配して工業諸国の金融緩和は十分に行えず,交易条件が悪化して生活水準が低下し,金融不安や不況が起きやすくなるでしょう.

国際的な協調の条件は確実に失われていくのです.マルサスが憂慮したように?


WP Tuesday, February 26, 2008

How Famine Changed N. Korea

By Kay Seokthe North Korea researcher for Human Rights Watch

BG February 27, 2008

In concert with North Korea

NYT February 28, 2008

A Little Nuke Music

FT February 28 2008

Promising applause for an American in Pyongyang

By Philip Stephens

Feb. 29 (Bloomberg)

Clapton Will Play Second Fiddle to Kim Jong Il

William Pesek

(コメント) ニューヨーク交響楽団がピョンヤンで公演(そして市民へのテレビ中継)を行ったことは,北朝鮮の体制転換が進む兆しでしょうか?

「カリオストロの城」ならぬ,「ヤドカリ王国 “a hermit kingdom”」であった北朝鮮の国民が,何の楽しみもなく,2000万人のうち百万人もの国民を餓死の危険にさらして,ようやく社会変化を実感する機会を得たとしたら,これは良いことであったかもしれません.

1990年代,いよいよ物々交換経済は崩壊し,餓死するよりも中国に越境し,国際援助を受けて国境貿易や韓国との交流に頼り,他方で体制維持のための核兵器開発を進めたわけです.それは完全な情報統制を不可能にしたし,虚偽の宣伝によって人々の生活水準悪化を無視することができなくなった,というわけです.

「韓国は絶望的に貧しい国で,首都のソウルには売春婦と乞食が群れている.北朝鮮は「労働者の楽園」であり,アメリカの制裁によって一時的な苦しみを強いられているにすぎない.」彼らはそう信じていました.しかし,国境貿易で市場が広まり,人々は金儲けにまい進し,韓国から音楽やドラマの海賊版が大量に流れ込みました.・・・「韓国は世界で13番目の経済規模を有し,民主主義国だ.他方,北朝鮮は貧しい独裁国家である.」 彼らも今は知っています.

Kay Seokのこうした指摘を読んでいると,いよいよ北朝鮮にも,ポーランドの連帯や,東ドイツの越境,国会を戦車で砲撃したロシア,・・・のような,世界を震撼させる瞬間が近づいている,と感じます.

BGは,レナード・バーンスタインのニューヨーク交響楽団が1959年にモスクワ公演を行ったことに比べています.また他の論説が言及するように,金正日は,次にギタリストのエリック・クラプトンを招待したい,というのです.

FTのPhilip Stephensは,1970年代の米中におけるピンポン外交と比べて,まだその水準ではない,と注意します.他方,公式には反米主義がこれほど世界中に広まっているとしても,同時に,若者たちは今もアメリカの文化を強く支持していることに感嘆します.そして問題は,アメリカの現政権が「敵と交渉することは譲歩である」というイデオロギーに縛られていることだ,と.

国際社会の支持を得て圧倒的に優位な交渉を進めるアメリカが,その和解をいちいち敗北や譲歩として解釈する限り,紛争は容易に軍事力以外の解決策を見出せません.それはキューバでも,イランでも,失敗したのです.

William Pesekは,クラプトンのピョンヤン公演を想像して地面が揺れた,あるいは裂けた,ロンドンのパブを紹介します.議会へのデモ行進や,サッカーよりも,彼らにとっては衝撃的です.金正日が読んだかどうか,疑わしいけれど,クラプトンの曲の歌詞を使って考えます.


FT February 27 2008

Japan’s aid policy: doing less with less

By David Pilling

The Japan Times: Thursday, Feb. 28, 2008

Why's Japan grown so ugly?

By KEVIN RAFFERTY

(コメント) 日本について悲観する理由は多くありますが,外国から見た日本論はそれを冷静に再考する良い材料です.

David Pillingは,日本の外交,特に援助政策を批判します.日本政府が莫大な債務を抑えるために,対外援助を削るのは最も容易でした.その結果,9年連続で減少し,累積では何と40%も援助を減らしてしまったのです.

世界第二位の経済規模を持つ日本が,援助額では2001年に第一位になったものの,その後,経済規模が半分のイギリスに抜かれ,もうすぐドイツやフランスにも抜かれる,と言います.その理由は,1.日本経済が縮小したこと,2.日本国民が援助政策を嫌ったこと,です.

すなわち,失われた10年と言われますが,1997年代に四半期に最大となって以後,日本経済は今なお0.4%下回っているのに比べて,ユーロ圏は52%,アメリカは69%,同じ時期に経済を拡大しました.他方,国債の累積は他の先進諸国に例を見ないほどの高水準(GDP比150%)です.また,日本政府は湾岸戦争で130億ドルの支援を感謝されず,中国に対する借款にも十分な貢献が示されないまま利用された,と不満です.国連安保理常任理事国になろうとして挫折したことで,報復?とばかりに国連への貢献も減らしました.

Pillingは,国際貢献や,積極的な外交を展開するという日本の政治家たちが,援助を辞めて何をするのか,といぶかるわけです.自民党や民主党の小沢・前原などが主張するのは,自衛隊の強化や国際貢献です.決してうまくいっているとは言えませんが,イラクや中東,アフリカにも派遣しようとしています.

同じように敗戦と軍の海外展開を抑制してきたドイツとの比較は衝撃的ですし,緒方貞子の証言もその通りです.日本は,援助でも,平和維持や戦後復興でも,もっと真剣に国際貢献を議論し,国民に支持される姿を見出す必要があるでしょう.

KEVIN RAFFERTYが示す憤慨は,私たちと同じものです.むしろ,日常的に感じながら,それを止めようとしない日本の政府や官僚制度,さまざまな規制や法律に縛られた生活に執着する,自分たち日本人に向かって吐いてきた呪詛でしかありません.

なぜ美しい自然のあふれた国土を荒廃させるのか,コンクリートや電線,醜い建築物で埋め尽くすのか,衰退し,荒廃する地方を見殺しにするのか,日本政府は,外交だけでなく,国内の統治において大きな失敗を積み重ねているのです.道路特定財源を議論するのも良いですが,もっと根本的な問題を提起して,国民の暮らしを改善してください.


FT February 27 2008

Expensive euro

(コメント) 円高に騒ぐなら,ユーロ高にはもっと騒ぐはずです.しかし,FTはECBに金融緩和の余地があるはずだ,と述べています.その通りでしょう.日本はどうか? 円高に騒ぐとしたら,日本はもっと国内経済の活力を心配することです.若者の雇用や老人たちの貯蓄,新企業の設立や技術革新,新商品の開発,直接投資,海外需要を取り込む工夫など,「円高対策」以外に取り組むことが一杯です.


The Wall Street Journal, 27 February 2008

Brave New Economy

David Hale

(コメント) 世界の政治経済秩序を築く指導力は,決定的に,旧西側の工業諸国から,新興経済に移行した,とHaleは考えます.金融危機が示したように,経常赤字を資本流入で賄い,バブルを生じて破たんした挙句,救済融資を受けているのは,かつて発展途上諸侯でしたが,今ではアメリカです.

外貨準備でも,世界貿易でも,工業生産やGDP,市場規模,株式や債券など,資本市場でも,欧米日の影響力は後退しつつあります.もし将来を観るなら,彼らが国際秩序を決める力は失った,と言えるでしょう.

しかし,国際的な制度や調整メカニズムには,この大きなパワーの移行が反映されていません.それは機能不全をもたらし,ルールや秩序の正当性・権威を失わせる,非常に危険なことです.たとえばG7について,Haleは,ヨーロッパ諸国はEUだけで代表し,その代わりに,中国,インド,アフリカの一国を入れるべきだ,と主張します.

LAT February 28, 2008

War and peace, the Army way

Rosa Brooks

WP Thursday, February 28, 2008

Staying to Help in Iraq

By Angelina Jolie

(コメント) 米軍は撤退しない.「あと100年でもイラクで戦う」とは,強硬派のマッケインが怒って吐いた有名なセリフです.

Rosa Brooksは,改訂されたアメリカ軍の「作戦行動マニュアル FM3-0」について,それがブッシュの唱えた「国家建設」,あるいは1990年代のクリントンが行った「人道的国際介入」を,軍が制度的に承認したものである,と考えます.

軍事力を行使する以外に,戦争の前にできること,戦争中も戦闘がおこなわれていない地域でできること,戦闘が終わってからできること,それらを通して政治的・社会的な安定化を米軍はイラクで担う必要がありました.インフラを守り,復旧し,改善し,人道的な支援を行い,社会制度や教育,法律を近代化することに,ようやくアメリカは積極的に取り組むようになったのです.もしバクダッドに侵攻した最初から,この行動計画を採用していたら,多くの悲劇や殺戮は避けられただろう,とBrooksは惜しみます.

ただし,安定化には時間がかかります.マッケインの言う100年ではないにしても,ドイツや日本がそうであったように.

Angelina Jolieは,イラク難民が帰国できるように求めています.国内避難民は200万人以上,一部は国外にも逃避して,その多くはレバノンやシリアに逃れています.レバノンは国民の6分の1に匹敵する難民を受け入れました.受入国には,アメリカなど,豊かな国がもっと国際支援をしなければなりません.


FT February 27 2008

Jobless multinationals: welfare-to-work is becoming a globalised business

By Nicholas Timmins

(コメント) 背景には福祉国家の重要な変化があります.社会福祉に対する考え方が転換し,税金によって受動的に生活水準を維持するコストから,労働者を積極的に支援して生産的な雇用に結び付ける仕組み,が重視されています.すなわち,“welfare-to-work programmes in the late 1980s” です.雇用のあっせんは民間が行い,雇用契約に応じて政府は支援を行います.それは単に給付を抑制したいから,という消極的な動機から,雇用を増やしたい,という積極的な目標に変わりました.

オーストラリアはこの点で10年前に転換を遂げた先駆者です.しかし,皮肉なことに,ドイツや日本では成功しません.

イギリスやヨーロッパの街角にある小さな旅行代理店のように,世界中に移民労働者のための出稼ぎ(労働市場)情報を配布する相談所ができる,と私はかつて夢想しました.そして,主要国は移民規制を全面的に撤廃し,むしろ,こぞって優れた労働力を自国に勧誘しようとするのです.


NYT February 28, 2008

1 in 100 U.S. Adults Behind Bars, New Study Says

By ADAM LIPTAK

(コメント) N.チョムスキーの本で読んだとはいえ,アメリカ人の100人に一人が刑務者で暮らす,ということに驚きました.

この論説は,昨年一年間でアメリカの囚人は2万5000人増えて,合計で約10万人に達した,と紹介しています.さらに723000人が地方刑務所に収監されています.その人種構成や犯罪,囚人にかかる費用など,ADAM LIPTAKの示す数字はアメリカ社会の一面を切り取ります.


FT February 28 2008

Europe must fight back in the battle for ideas

By James Harkin

(コメント) 「イデオロギーの時代」(エリック・ホブズボーム)を通じて,アメリカはアイデアの生産と流通にますます支配的な力を示してきました.アメリカの大学やシンク・タンクが得ている資金力,アメリカのジャーナリズムが及ぼしている影響力は,ヨーロッパの大きく劣っている点です.アイデア市場においてもヨーロッパはキャッチ・アップするべきだ,と主張します.

そう言えば,今朝(3月2日)の朝日新聞に,OECDの教育評価で日本に関する国氷河のっています.先進諸国から消えつつある職場にふさわしい能力だけを,日本の学校は子どもたちに教えている,というのです.

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The Economist February 16th 2008

But could he deliver?

The world economy: In search of an insurance policy

The world economy: A stimulating notion

Securitisation: Fear and loathing, and a hint of hope

China’s infrastructure splurge: Rushing on by road, rail and air

Economics focus: From Mao to the mall

China’s farmland: This land is my land

Face value: Mittalic magic

(コメント) オバマ・フィーバーに対する慎重な見方,警戒感は強まっているようです.そして,クリントンズの衰退を惜しむ声もあるでしょう.いっそ,オバマ=ヒラリーでマッケインを倒してはどうか? ・・・と思います.

世界経済の将来を,三つの話題によって考えるようになりました.1.アメリカや,その他の富裕諸国が財政刺激策を有効に採れるか? 2.中国や,その他の新興経済が成長を持続するか? 3.セキュリタイゼーション(証券化)やサブプライム・ローン,ノーザンロック,SWF,・・・国際金融システムは効率性と健全性を回復できるのか?

1について,良くも悪くも,アメリカの今と日本の大失敗が議論されます.2については中国のインフラ投資の猛烈ぶりが印象的です.まさに,中国人民を救い,世界を変えるのは,毛沢東ではなく,中国に広がる鉄道,高速道路,ショッピング・モールなのです.そして,セキュリタイゼーションの欠点は,衰退ではなく,再生のための条件と考えます.

大変面白いのは,カルカッタからジャカルタ,メキシコ,カナダ,ドイツ,アメリカ,中国へと,世界の製鉄業を十数年で再編・統合したラクシュミ・ミッタルの紹介です.