IPEの果樹園2007
今週のReview
7/23-28
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
******* 感嘆キー・ワード **********************
アジア金融危機の遺産, 戦後の和解と復興, 現代の知政学・4カ国指導体制, チャイナ・シンドローム, 大富豪と法律・税金, 日本とは? 反右派闘争, いつまでドイツを恐れるのか, 中国の新しい移民
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT July 12 2007
Fresh free trade agenda for Doha
By Grant Aldonas
NYT July 17, 2007
New Effort Seeks to Salvage Trade Talks
By STEVEN R. WEISMAN
WP Thursday, July 19, 2007
Big Labor's Trade Shutdown
By Robert D. Novak
(コメント) ドーハ・ラウンドが停滞して1年になります.ポツダムにおいて再生の模索が試みられましたが,成果はなかったようです.Aldonasは,開発ラウンドとしての最終的な設計を,これまでの議論を受けて示します.
1.多角的自由化の重要性を確認する.参加する国は,財とサービスに関する貿易の自由化,農産物貿易と補助金とを切り離す.2.「ドーハ・ライト」として,即時の自由化ではなく,高関税ほど高率の切り下げを採用する.3.通商政策の調和と優遇策を最低開発諸国に適用する.これにより,貧しい諸国は豊かな諸国の農業補助金を完全に相殺する.4.エネルギー効率向上や二酸化炭素排出抑制を可能にする財・サービスの貿易と投資を完全に自由化し,炭素排出権取引の障害を除去する.これによって市場が生まれ,発展途上諸国に環境にやさしい技術が普及する.
WEISMANは,WTOに対するアメリカ国内の事情を紹介しています.特に,農業への補助金を制限されることは,もし将来農産物価格が下落した場合に,アメリカ農家が必要とする介入手段を奪うかもしれません.そうであれば,安定化のためのルールに合意するべきではないのか?
ヨーロッパや日本の自由化,インドやブラジルの対応を,アメリカ政府は疑っています.自由化を主張しているのは,一体,どの政府なのか? 誰も自由化など支持していないように見えます.しかし,国際機関があるから,自由化の利益は圧倒的に大きい,という主張は支持される可能性があるわけです.他方,中国の輸出は世界中で警戒感を強めています.
Novakは,アメリカの労働組合を批判します.AFL-CIOのJohn Sweeney議長が,外国の労働や環境に関する法律を理由に,自由貿易協定を修正するよう求めているからです.選挙を意識して,民主党員はこれに従います.アメリカ通商代表部のSusan Schwabは労働組合に厳しく抗議しました.通商条約を結ぶ条件として,他の主権国家の法律を変更するように要求することはアメリカの法律や政策にも基本的に反している,と.
FT July 17 2007
Don’t kill Bush deal with S Korea
By David Hale
東アジアの金融危機から10年たって,議会の民主党員たちは韓国との自由貿易協定に関するブッシュ大統領の提案を拒否した.
アメリカ議会の新しい保護主義は,東アジア危機の間接的な遺産である.1997-98年の金融的なショックは,大恐慌以来,この地域が受けた最大の衝撃であった.彼らは不況に急落し,韓国を含む三カ国は信頼を回復するためにIMF融資とそのプログラムに頼った.
2002年以来,アメリカンの財政赤字や住宅市場のブームを融資してきたのは,東アジアの巨額の外貨準備蓄積であった.議会の政治家たちは東アジア危機がアメリカの赤字を容易に金融する上で果たした役割を理解していない.彼らはむしろ,東アジアが輸出による成長を維持するために通貨を不当に安くしている,と断言する.
しかし民主党員は韓国を安すぎる通貨で批判できない.ウォンはこの1年で二ケタの増価を経ており,韓国企業が日本の不当に安い円との競争を気にしている.
民主党員は韓国とのFTAを拒否した.その理由は韓国がアメリカの自動車に実質的な市場開放をしていない,と考えるからだ.彼らは政府が韓国市場のシェアを保証するような管理貿易を求める.しかしGMはFTAに反対していない.なぜなら韓国市場で大きなシェアを持っているから.アジア金融危機のせいで5年前にGMがデウ自動車を買収した.
韓国とのFTAを拒むことはアメリカの外交に重大な結果をもたらす.韓国は1948年以来アメリカの緊密な同盟国である.ノムヒョン大統領は農民や工業労働者に敵対してFTAを推進するために多くの政治的資本を費やした.FTAは,国内の反対勢力に直面しつつ数年を経て達成された貿易自由化の頂点にある.
韓国のFTAが失敗すれば,アメリカはアジアにおけるその他の指導力も失うだろう.中国は今や地域の自由貿易協定を他のアジア諸国と促進することに忙しく,貿易をソフト・パワーの構築に向けた重要な外交とみなしている.韓国が昨年,中国と貿易した額は1343億ドルに達した.それは2012年までに2000億ドルを超える,と韓国のエコノミストは推計する.急速に増大する貿易は,アメリカの影響力を侵食して,中国が東アジアにおける政治的影響力を拡大する.
民主党議員たちは,貿易を国内の所得格差や製造業における失業という問題に関心を向けさせるための道具と考えて,保護主義に向った.その戦略はあまりにも危険である.韓国とのFTAを破棄した代価は,東アジアにおけるアメリカの影響力を大きく失うことであろう.
The Japan Times: Thursday, July 12, 2007
Enabling a war-ravaged state to recover
By EDMUND S. PHELPS and GRACIANA DEL CASTILLO
戦争によって荒廃した国には二重の課題がある.ダイナミックな経済を創り出すことと,同時に,経済的かつ社会的な包摂(inclusion)を促すことである.これらが両方ともなければ,国民の和解も不可能である.
社会的な排除は経済全体のコストを引き上げるので,効果的で目標を絞った手段を政策担当者が取るべきだ.例えば,職場がないというのは,特に若者を仕事から切り離し,犯罪や麻薬に頼った生活に向かわせる.だから社会は犯罪の予防コストを支払い,司法制度を養う.
弾力的な労働市場は,多くの人が示唆するけれど,それだけでは包摂をもたらさない.戦争によって荒廃した社会で福祉の給付を行うことは,しばしば労働意欲を損ない,依存の文化をもたらして職場の無い状態を悪化させる.最低賃金法や労働協約は,しばしば,最も生産性の劣る労働者を法に従う雇用主から遠ざけてしまう.もっと多くの雇用機会と,こうした労働者たちに民間部門の高い給与を支払うことが必要である.
そこで特に,未熟練労働者をフルタイムで雇用する際のコストを下げる賃金補助計画があれば,企業は彼らを雇用することに魅力を感じるだろう.同時に,職場における訓練制度も,この計画を労働者や社会全体にとって魅力的にする.
政府は,失業が減ることで公共の治安維持コストが減るだけでなく,社会保障のコストも減るから,賃金補助計画のコストを賄える.
戦争やその他の紛争から再建される国では,経済停滞において,社会的包摂に努めることが実りをもたらす.経済のダイナミズムと包摂が無ければ,平和への前進もおぼつかない.そのことを,最近も,コソボ,東チモール,アフガニスタン,イラク,そしてアフリカの多くの国が示している.
経済の回復はできるだけ早く始める必要がある.それは政治的・社会的な安定性を保つのに欠かせないからだけでなく,援助供与諸国が持続可能な環境を自分で作り出せないような国に援助を続けたがらないからだ.政治,社会,制度が不安定化している最中に,しかも,紛争の遺産として人的・物的なインフラが大きく損なわれているときに,この課題はあまりにも重い.
戦争によって破壊された経済において政策決定は独特である.紛争後の諸国では,多くの場合に役に立たないような補助金が財政を圧迫している.しかも,通常は安定している外国からの援助が,戦争から平和に移行する諸国に対しては大きく変動する.紛争が終結すると,一人当たりでも経済規模で見ても,異常に多くの援助が与えられ,典型的に,それが急速に減少する.
正常な発展過程にある低所得国は,たとえば,GNIの3%ほどの援助を安定して受け取る.対照的に,ルワンダでは紛争終結後にGNIの95%に及ぶ援助が届き,それは5年で20%に減った.
もし職場がなく,経済が速やかに安定化せず,低インフレで投資や成長をもたらす経路には入れなければ,暴力的な紛争から和解を促すことは成功の見込みがほとんどない.経済がダイナミズムや社会的包摂を実現しなければ,戦争再発の危険がある.
人命の損失はもちろん,平和を維持する経済的コストは,その国が紛争に後戻りした場合の人道的援助,軍事介入,平和維持活動に必要となるコストに比べれば,ほんの一部でしかない.平和時の効果的な融資は,援助供与国の資源の有効な投資であり,紛争を予防する.
しかし援助供与国は共通の失敗を避けなければならない.多くの場合,経済再建で援助国の国民やその国の企業を利用するように,という条件が付く.こうした政策は,しばしば,その国が望まないものに支出され,外国人スタッフの雇用に使われる.むしろ再建国の国内企業に未熟練労働者を雇用する賃金補助金を供与すれば,国民自身が指導する経済再建と紛争予防に効果的であり,公平な支援を行えるだろう.
労働コストが低下すれば,和平直後の不確実さやハイリスクにもかかわらず,地元のビジネスが投資を決断するかもしれない.雇用創出,兵士たちの生産活動への吸収,セーフティー・ネットのコスト節約,公共の治安維持,という点で優れた効果が多くある.このタイプの援助は雇用をもたらす政策に住民が感謝することで,政府に対する政治的な支持も高まる.
この政策は,政府が財源を用意する補助金ではないし,補助をやめることが難しくて市場を歪めることもない.外国からの援助を基にした補助金は一定期間だけ行われ,援助供与国がそれを徐々に減らせばよい.そのような援助は民間部門の再活性化を助けるだろう.それこそ,紛争終結後の援助の高水準が正常時の低水準に移行する際に必要なのである.
The Guardian Monday July 16, 2007
The new Rwanda
Jennifer Brea
(コメント) 1994年に,男も女も子供も,国民の1割が内戦によって殺されたルワンダの再建について,カガメPaul Kagame大統領の示した意志の強さとプラス思考を称えます.具体的に,その奇跡が何であったのか,ゴミも犯罪も汚職もない社会をどうやって作ったのか? 夕方からバーにたむろしていた人々が夜間クラスに通うようになったのはなぜか?
カガメも,国民の多くも,何よりジェノサイドが再発しないことを強く願っています.彼らはそのために民主主義の多くを犠牲にしたかもしれません.しかし,カガメはルワンダをアフリカ東部のハイテク国家にするために国民を叱咤し,努力し続けます.「私は毎日,できる限り働く.もし私が失敗すれば,われわれは再び殺し合うだろう.私は失敗できない.失敗するつもりもない.」
FT July 12 2007
Awakening that recasts the global landscape
By Philip Stephens
The Guardian Friday July 13, 2007
In the new, anxious world, leaders must learn to think beyond borders
Ulrich Beck
(コメント) 現代の地政学を不安定化している要因は何か? Stephensは,ソビエト帝国の崩壊と,技術・産業の波及によって生じた,パワーと地理的な移転である,と考えます.それはしかも,国家間の20世紀型国際秩序が終わったことを示している,と.
Ulrich Beckはゴードン・ブラウンに世界観と政治的な展望を与えようとします.コスモポリタン(世界市民型)左翼が,21世紀を部族間の暴力によって支配される野蛮な時代に向かう動きを食い止める,と.
「ロシアで行われている大規模な再国有化,ラテンアメリカや東欧におけるポピュリスト運動の成功.束縛を解かれた資本主義は,ベルリンの壁崩壊以来,我々が見たことのないほど,深刻な恐怖と反動をもたらしている.抵抗が強まったのは,世界社会の中間層が現在の経済成長からほとんど成果を得ていないことを理解し始めたからだ.普通の中流労働者は,彼らがマンチェスターや,アメリカ中西部,工業を失ったドイツのルール地方,ラテンアメリカ,東欧の,どこに住んでいても,自分が取り残されたことを知る.どこでも同じような現象がみられる.平均的な家族の所得では成長率が生産性の上昇率よりはるかに低い.しかも何年間もずっと.経済的なグローバリゼーションは,新しいタイプの不平等をもたらしており,それに対抗するにはますます超国家的であるしかない.」
「気候変動は政治的なパラダイム・シフトを求めている.「旧いヨーロッパ」,環境に敏感なアメリカ人,低開発諸国,発展途上諸国,市民社会運動が,幅広い連携を形成しなければならない.重要なのは,国民国家を廃棄するとか,それを掘り崩すことではない.国家が有効に活動できるように,互いに協力して,その能力を再建することだ.」
The Guardian Thursday July 19, 2007
America is just starting to wake up to the awesome scale of its Iraq disaster
Timothy Garton Ash in Stanford
The Japan Times: Thursday, July 19, 2007
'Quad Initiative': an inharmonious concert of democracies
By BRAHMA CHELLANEY(a professor of strategic studies at the Center for Policy Research in New Delhi)
BG July 19, 2007
Growing links for US and India
By Xenia Dormandy
(コメント) 「イラクは終わった.」多くのアメリカ人は後悔しています.しかし,「イラクはまだ始まってもいない.」とGarton Ashは書きます.イラクはどうなるのか? 中東はどうなるのか? アメリカの外交政策はどうなるのか? まだわからないからです.
F.ハリデーによれば,イラク戦争の結果は,イラクの国家機構を破壊し,各地の軍閥を復活させ,アル・カイダの名声を高めました.近代史において初めてスンニー派とシーア派とが宗派争いを起こし,他国にも波及しそうです.トルコの政治が大部分西側から切り離され,権威主義的なナショナリズムが拡大しました.核武装を念願するイランと,シリア,ヒズボラ,ハマス,といった同盟者たちが,サウジアラビアやエジプト,ヨルダンと厳しく敵対しています.
「歴史において,最も重大な結果はしばしば意図しなかったものである.われわれはまだイラクの長期的な意図しない結果について何も知らない.もしかすると,この雲間に光の筋が差し込むのかもしれない.しかし,人の目に見えるのは,イラクが悪い結果と破滅との間に向かいそうだ,ということだ.国際情勢について書いたものを4半世紀にわたって振り返っても,私はこれ以上に包括的で,回避可能な,人間が作り出した破壊を思いつかない.」
それゆえ(?)アメリカは,インドと核技術協力を合意し,北朝鮮やイランと違って,インドの独自核武装をアメリカによる国際システムに迎え入れました.イラク戦争によって信頼を失ったアメリカ外交ですが,オーストラリア,インド,日本,に対しては積極的な同盟関係を唱えるのでしょうか.つまり人類の将来は,4カ国指導体制"Quadrilateral Initiative"の時代・・・?
しかし4カ国は中国の台頭に関する懸念を共有しているだけで,その認識や目標がまるで一致していません.この考え方を最初に示したのが「デモクラティック・ピース」を基に考えたらしい安倍首相だ,というのでは,麻生外相の示した「安定の円弧」だったか・・・と同じくらい,疑念を呼ぶ概念でしょう.アメリカと日本とインドが「同じ」民主主義(!?)というだけで,何か似ているでしょうか?
アメリカもインドも,決して中国を敵視すべきだとは考えていません.オーストラリアは中国との貿易で多くの利益を得ています.4カ国指導体制は,「美しい国」と同様,安倍首相だけが唱える情熱過剰の妄想ではないか,と論説も指摘します.・・・いつか,アメリカもインドも中国の政治改革を「中国的民主主義」と称賛し,4カ国の一つが入れ替わっているのではないか?
BG July 13, 2007
NYT July 16, 2007
Killing the Regulator
(コメント) 「チャイナ・シンドローム」というのは昔の反原発映画が広めた標語で,原発の炉心が溶解すれば,その高温の核物質が地球の反対側にまで突き抜ける,という恐怖を表現したものです.しかし,アメリカの原子炉が溶けて中国に至るよりも,中国の汚染商品が「メイド・イン・チャイナ」として世界に拡散する方が先でした.
中国政府は汚職を理由に,汚染食品などを見逃したFDAの所長を告発しました.しかしBGは,これが個人を死刑にして解決できる問題ではなく,システムの問題である,と強調します.しかも,中国政府が(いままでになく)神経質に反省しているのは,北京オリンピックで世界中の選手に汚染食品を食べさせた,という非難を受けたくないからです.
しかし,オリンピックに関連した納入業者にも汚職は蔓延しており,政府が汚染食品を監視できるとは思わない,とBGは否定的です.なぜなら,政府が情報を統制する,という点に,政治腐敗や汚職の根源があるからです.
「共産党のエリートたちはまだ自由な新聞を脅威と考えている.批判の陽光によって消毒することを許さないのだ.たとえ開かれた社会でも,悪人たちが大衆の福祉を害して莫大な富を得る隠れた方法を暴露することはとても難しい.中国では,ほとんど不可能だ.
中国が多くの人々を殺害した製品を輸出できたのは,たった一人の役人が腐敗していたからではなく,中国の一党支配体制が,本当の意味で自由な新聞もない,その規制されていない野蛮な資本主義こそが原因である.」
NYTの批判も同様です.中国は効果的で透明性の高い監視制度を必要としており,それができなければ,中国製品は市場で拒まれ,(かつてSARSで揺らいだことが懐かしくなるほど)成長の基盤を深く失うでしょう.今も中国の労働者や市民が,汚染された川や大気によって命を脅かされています.
米中貿易が年間3000億ドルに達することを思えば,アメリカは中国政府が監視制度を整備するのを待っていることなどできません.ウォルマートなど,輸入業者は直接に中国の工場を調査して,アメリカ市場に持ち込む製品の安全性を確保しなければなりません.
NYT July 15, 2007
Catfish With a Side of Scombroid
By TARAS GRESCOE
FT July 15 2007
How to bring good governance to Chinese companies
By Susan Aaronson
The Guardian Monday July 16, 2007
Cheap and nasty
John Hilary
(コメント) 水産物をめぐるFDAの安全規制と,それを口実とした保護主義の問題,つまり,再びナマズ戦争.水産物には国境がなく,各国のFDAは安全性を厳しく監視する必要があります.
「アメリカが世界160カ国から輸入する水産物は年間660万トン.冷凍エビだけでもシアーズ・タワーを使ってシュリンプ・カクテルが作れる.しかし,FDAにはたった85人の検査官しかいない.」それでも毎年,病気や寄生虫,残存薬物,汚染などの理由で,さまざまな水産物が輸入を禁止されています.
しかも,輸入を拒まれた産物が他の国を経由して,もっと検査の甘い港から輸入されてしまう恐れもあります.他方,検査体制を強化することは,事実上の輸入禁止措置になるでしょう.
「もう魚は何も食べない,と考える前に,すばらしい水産食品が国内で生産されていることを思い出してほしい.それはしばしば生態系にも健全な方法で生産され,輸入水産物より少し高いだけで手に入る.アメリカの養殖業者は,砂漠で有機エビを育て,室内水槽でティラピアを育て,チェサピーク湾でカキを育てている.今こそ品質のために金を使う時だ.」
中国はWTOの加盟国として,市場アクセスを妨げられない権利を持っています.各国は,貿易戦争や汚染食品を回避するために鎖国するより,国際協力を組織するグローバルFDAを要求するべきでしょう.
Rosa Brooks Clear-eyed questions about Iraq LAT July 13, 2007
Robert Fox The buck stops there The Guardian, July 15, 2007
Anne Applebaum No Magic Bullets For Iraq WP Tuesday, July 17, 2007
(コメント) イラク占領を拡充する増派計画について,6カ月あれば成果を示せる,とブッシュ政権が約束しました.そして6カ月が過ぎて,その好ましくない状態を認めるようになりました.さらに時間が必要だ,と.
間違った議論がいっぱいです.アメリカ兵の犠牲を無駄にするな! イラクで費やした資源や資金を無駄にするな! 我々が始めた戦争であるから責任がある! イラクの内戦はイラク人のものだ! ・・・
もしイラク危機を真剣に解決したいのであれば,われわれは犠牲やコスト,責任,などのレトリックを捨てて,われわれの能力と関心を冷静に問い直すべきだ.
今持っている資源で実際に何を達成できるのか? イラク政府に対して現実的に期待できることは何か? イラク国民は何を望んでいるのか? この6カ月でアメリカ軍が撤退した場合の最悪のシナリオは何か? また,アメリカ軍が永久にとどまる場合の最悪のシナリオは何か? アメリカ軍の駐留や撤退について,同盟関係,情報,地域協力,安定性などで,そのコストは何か? アメリカがその軍事力や予算をイラクに拘束されることで,他にどのような危機や,機会をわれわれは無視しているのか?
NYT July 13, 2007
The Land of Opportunity?
アメリカの途方もない所得格差について質問されたら,束縛のないアメリカ市場を賛美する人々は,ここではだれもが裕福になれるから,と反論する.所得分配は確かに歪んでいるかもしれないが,アメリカの経済的な移動可能性は何よりも重要だ,と.
そのイメージは間違いだ.近頃,重要な社会政策を含むあまりにも多くの不公平な政策が提唱されている.貧しい者は自力で改善せよ,と言われる.ブッシュ大統領は,国民の多くを占める裕福でないアメリカ人も,誰でも裕福なクラブに入れると信じているから,富裕層のため減税できた.残念ながら,アメリカン・ドリームはそんなに広く開かれていない.
OECDの調査で,アメリカの移動性はその他のOECD諸国より低い,と分った.世代間の移動性,すなわち,自分たちの親よりも裕福化,貧しくなった者は,デンマーク,オーストリア,ノルウェー,フィンランド,カナダ,スウェーデン,ドイツ,スペイン,フランスよりも少なかった.アメリカでは,もし父親の収入が下位5分の1にあれば,その息子も同じ階層にある可能性は40%以上である.デンマークではその確率は25%より低く,イギリスでは30%以下だ.
アメリカで移動性が低下したのは驚くことではない.裕福な親たちはその富を相続させるだけでなく,よい教育,よい栄養状態,よい健康状態を子供に与える.貧しい者は子供のためにこうした投資ができない.そして政府も,十分な支援を行わない.今年の早い時期に行った演説で,FRBのバーナンキ議長は,報酬の不平等が人々を奮起させて経済を動かすが,同時に,機会は「可能な限り広く分配されて」いるべきだ,と述べた.貧しい者たちは多くの機会も持たない.これは問題だ.
FT July 13 2007
Man in the news: Dominique Strauss-Kahn
By George Parker
(コメント) Dominique Strauss-Kahn(DSKと呼ばれています)の紹介文です.
まず彼は,先の大統領選挙で社会党の大統領候補でした.保守的・男性支配の社会党内で,ロワイヤルの支持が強いことに気付きませんでした.DSKはミッテラン政権で産業大臣に任命されました.また大蔵大臣として1997-9年に,マルクに固定する強いフラン政策を採用して,当時のフランス銀行総裁で今はECB総裁となったトリシェとともに,ユーロ誕生に貢献しました.
三人目の妻は有名なジャーナリストです.「他人が夫婦の寝室に招かれることはない」と,フランス人の表現力で,イギリスのユーロ加盟を促しました.ユダヤ人の家庭に生まれ,モロッコで子供時代を過ごしました.発展途上国の問題に強い関心を持つ,と言われます.
しかし,DSKがIMF専務理事に指名される機会を与えたのはサルコジ大統領です.これでフランス人が重要な国際機関の四つ(ECB,WTO,EBRD,そしてIMF)で頂点に立つ,とParkerは指摘します.衰退する国にとって,十分すぎる栄光の再現です.
この人事がサルコジの古典的な謀略であるのは当然です.任期を終えずに辞任を発表したラト専務理事はドイツの大統領になりたいのです.この機会をとらえて,サルコジは候補の公平な選定など無視し,ブラッセルを説得に動きました.サルコジ自身の再選をにらんだ人脈拡大です.
David Pilling Lunch with the FT: Akie Abe FT July 13 2007
William Pesek If Only Bank of Japan Governor Fukui Was Dr. Who July 16 (Bloomberg)
Earthquake fallout FT July 19 2007
(コメント) 日本のニュースは英語メディアにほとんど登場しません.今回は,安倍首相の夫人,日銀総裁,そして地震でひび割れた柏崎原発です.
安倍昭恵さんは安倍首相の夫人ですが,かわいらしく,おとなしいけれど,聡明な女性として描かれています.ブッシュ大統領が安倍氏本人よりも気に入ったわけです.食事の前にお腹が鳴ったり,見合い結婚だった話とか,お酒に強くてマオタイ酒を何杯も飲めると話したり,いろいろ書いてあります.しかし夫の政策や,政治については,妻として支えるだけで何も意見を持たない,という姿勢です.・・・リッツ・カールトン桧沢のランチが3万円! 上流社会の「優雅さ」に驚きます.
日本のコメディー映画に “Bubble Fiction” なんてあるのですか? バブルの時代にタイムスリップした酔っ払った20歳の女性が大蔵省に秘密の使命を帯びて潜入する,という話・・・? タイム・トラベルの発想は,それ自体,優れた比較社会・経済・政治学です.今の政策担当者たちが1989年や90年に飛ぶことができたら,何をするだろうか? 三重野やグリーンスパン,タイの蔵相や中央銀行総裁は,タイム・トラベルによって,いつ,どこで,何をしたいか?
中でもPesekが重視するのは1999年前半に速水総裁が金利をゼロに下げたことです.世界中の政策担当者が日本からの資金の洪水に押し流された,と.Gavan McCormackの新刊 “Client State: Japan in the American Embrace” は,日本がアメリカの従属国としてイラクニ派兵し,アメリカのATM(現金自動支払機)にもなった,と指摘したそうです.もちろん,日本でも多くのコメントがそれを指摘しました.
「アメリカの赤字,中国の人民元,日本の円キャリー・トレード,世界的なショックのための完璧な条件がそろっている.」
台風と地震の二重パンチで,外国投資家の間で日本経済への信頼が揺らいでいるかもしれません.新潟県の柏崎原発(そして政府の調査)に不安を覚えた住民たちは,IAEAに査察してほしい,と求めます.
NYT July 14, 2007
Poor Kids Living in a War Zone
By BOB HERBERT
(コメント) アメリカの子どもたちは,戦場で生きている,とHERBERTは主張します.シカゴの黒人とラテンアメリカ系住民が暮らす地区では,毎年,子どもたちが銃撃で殺されます.もしこれが有名な家庭や裕福な地区であれば,大きなニュースになったはずです.しかし,貧しい地区で死んだ子供たちのことなど,誰も知らない.
銃が氾濫し,学校は荒廃し,放課後の補習もクラブ活動もない.子どもたちを世話する大人がいない.虐待し,無視し,特に父親は多くの子供を捨ててきた. ・・・血だまりに沈む社会.
Masha Lipman Putin's Power Vacuum WP Saturday, July 14, 2007
Russia’s bluff FT July 15 2007
Chill in the air The Guardian Tuesday July 17, 2007
Simon Jenkins A new cold war? Nonsense. It's old-fashioned diplomacy The Guardian Wednesday July 18, 2007
To win respect, Moscow must itself respect the rule of law FT July 19 2007
(コメント) イギリスとロシアがただちに戦争することはないのでしょう.しかし,過去の大戦争はいずれも些細な対立から始まっています.たとえロシアを懐柔し,市場開放と民主化を支援することが望ましいと分かっていても,プーチン政権がもたらす混乱と摩擦が限界を超えるときもくるかもしれません.
プーチンの後継者も,その後のプーチンの職場も,誰にも予想出来ません.プーチンは全権力を掌握し,さまざまな勢力の均衡を保っています.プーチンが決めるというだけで,それ以外に重要な要因も,仮説もないのです.しかし,彼の後継者は困難を強いられるでしょう.その後の権力争いと,プーチンが放棄し,あるいは後退させた,改革の問題が残っているからです.
FTは,選挙前にプーチンやロシア議会がナショナリストの刺激を強めることに対して過剰な反応をするべきではない,と主張します.冷戦風の謀略ストーリーを描くのは間違っている.リトヴィネンコ毒殺に関する裁判所の扱いは,イギリスとロシアの法に基づいて進めればよい,と.
ロシアの外国敵視は,確かに冷戦時代の妄想と違います.むしろ資源や国家的威信をめぐる19世紀的な争いです.問題は,ロシアもアメリカも傷つきやすくなって,その行動を予測しにくいことです.信頼や分担はそれぞれの同盟内でも難しいでしょう.プーチンは,自分の権威を損なう亡命者たちを決して許せない.イギリスは,敵をよく知るべきだ,とJenkinsは主張します.そして,ロンドンはますます亡命者の富と主張に満ち溢れます.
互いに相手を軍事的・政治的に一掃できないことを認め,現実の姿を受け入れるしかありません.そして,双方が多くの利益を共有していることも.
FT July 14 2007
Dollars and sense
FT July 15 2007
Strong euro could end in tears
By Wolfgang Munchau
July 17 (Bloomberg)
Carry Traders in Asia Look for Alternative Bets
Andy Mukherjee
The Japan Times: Monday, July 16, 2007
Unsettling yen trend
(コメント) ドル,ユーロ,円,人民元.いつの時代でも,主要通貨の為替レートに大きな歪みが蓄積されることは危険です.
ドルはポンドとユーロに対して安値を更新しました.円は,そのドルに対しても減価しています.しかし,心配はいらない,とFTは判断します.為替レートはむしろ調整の役割を担います.短期的には資本移動を促し,長期的には貿易や生産,資源配分を調整します.それが基本的な流れを妨げていないなら,自由に変動させればよいでしょう.なぜならイギリスやユーロ圏は成長を持続し,むしろインフレを懸念しているからです.アメリカの成長率は低いですが,FRBはまだインフレに注意しています.
しかしMunchauはユーロがオーバーシュートする危険を指摘します.@為替市場はアメリカの悪いニュースに過敏である.A住宅市場の悪化がアメリカ消費者や企業の信用全体に影響する.B外貨準備をドルからユーロに移す動きが強まる.
今のところドイツの蔵相はユーロ高を歓迎しています.しかし,ようやく為替レートに応じて輸出できるようになったドイツ経済でも,これ以上のユーロ高は耐え難いでしょう.為替レートに関する介入や政策の責任がユーロ圏ではだれにあるのか,明確に決まっていません.政治家は中央銀行に勝つでしょうが,政治家同士の争いには答えがありません.サルコジとメルケルが対立するはずです.
価値の減少する通貨から価値の増加する通貨に移るのは当然です.円安が続く中で金利がゼロに近いのですから,世界の通貨の中から適当な通貨を探して資金が各国を流出入します.日銀も日本政府もそのことに関心はないのでしょうか? 円安は手ごろな景気刺激策である?
BISが批判しているのは,人民元ではなく,円が安すぎるという問題です.投資家も,預金者も,そして各国政府も,次の円高に備えた為替リスク対策が必要です.そして,日本の景気やデフレは自力で回復できたのでしょうか? それが参議院選挙の後も,日本は低金利や円安を続けるしかない,という投機的な予想に向かえば,市場の不安定化を呼ぶでしょう.
Ezra Klein Land of the overworked and tired LAT July 15, 2007
Ruth Milkman Union blues LAT July 15, 2007
Tristram Hunt Urban Britain is heading for Victorian levels of inequality The Guardian Wednesday July 18, 2007
Clive Crook Hitched to the old bandwagon FT July 18 2007
(コメント) マイケル・ムーアの映画でアメリカ人がもっとも驚嘆したシーンは,社会民主主義のフランスが保障した30日間の長期休暇,無制限の病欠,子どもの完全なケアと,子どもを持つ新しいカップルへのソーシャル・ワーカー派遣です.なぜ自分たちにもできないのか? 時間移動は難しいですが,空間を移動して社会制度を比較することは盛んに行われます.
問題の起源は,アメリカが自由な時間よりも消費(しかも,いわゆる「地位財」の消費)を重視するように人々を動機づけているからだ,とKleinは考えます.アメリカ人はますます自分の地位にふさわしい消費を求めて激しい長時間労働に突き進むのです.その社会的な動機付けは,EUのような政府が集団的に意思決定しなければ変えることは難しい,と.社会保障も,長期休暇も,政治がそれらの可能な社会を目指すべきです.
他方,現実には組合の影響力が失われ,都市の不平等は拡大し,政治は国際競争を理由にして国民の不満に応えようとしません.
NYT July 15, 2007
The Richest of the Rich, Proud of a New Gilded Age
By LOUIS UCHITELLE
(コメント) アメリカを代表する資産家たちと,その富をめぐる話です.中心人物は,シティ・グループのソタンフォード・ワイルSanford I. Weillと,アンドリュー・カーネギーです.
ワイル自身はポーランド移民の息子であり,ブルックリンで育ち,そこそこの大学の学生でした.1950年代にウォール街に入りますが,下級職から,果敢にリスクを取って昇進します.しかしニューディールが課した制約の下では,カーネギーやロックフェラーのように,金融の帝国を築く夢など持てませんでした.
ワイルが富を築いたのは,金融家としての才覚とともに,政治への影響力があったからです.1999年に,クリントン政権はグラス=スティーガル法を廃止しました.これによって商業銀行と投資銀行の垣根はなくなり,1世紀前のモルガン商会のような金融帝国が築けるようになりました.アメリカの第一次大戦前にあった金メッキ時代,大富豪たちの時代が再現します.
ある個人が富を得るとはどういうことなのか? 富豪たちは,当然,自分の富を正当化します.それは大きいように見えるが,彼が株主たちにもたらした富に比べたら,ほんの一部でしかない,と.あるいは,彼は社会にもたらした技術革新を自慢するかもしれません.そして,莫大な富を得る者がいるからこそ,社会は成長への活力や革新を探し求める,と考えることもできます.
しかし,他方で,偏った富の存在は社会を点検する警告ランプです.グラス=スティーガル法を廃止したことが社会を豊かにするとは思えない,と証券監視委員会の前委員長は警告します.また,株価がこれほど上昇し,ストック・オプションが重役やスタッフへの報酬として蔓延しなければ,彼らは富を得られなかった,とヴォルカーは指摘しています.少し前まで,アメリカの経営者たちはこれほど富だけに執着していなかった,と振り返る元経営者もいます.
富豪たちは,所得税の引き上げにも,相続税にも反対します.彼らが好むのは慈善活動への寄付行為です.確かに,アンドリュー・カーネギーはそう主張しました.ただし,彼らとカーネギーとは,富に関する考え方が異なります.カーネギーは,富をもたらすのは個人ではなく,コミュニティーである,と考えました.だから,死ぬまでにすべてを社会に還元しなければなりません.富を相続することはできません.従業員や株主に与えるべきでもありません.
ワイルやゲイツ,バフェットは,寄付行為に自分たちの富の正当性を頼ろうとしています.
NYT July 15, 2007
Fair Taxes? Depends What You Mean by Fair・
By N. GREGORY MANKIW
WP Thursday, July 19, 2007
A Backlash Against Billionaires
By David Ignatius
(コメント) 富裕層への重税について主張する民主党の大統領候補たちや,ロバート・ライシュのような知識人を,マンキューは批判します.その理由は三つです.1.現代の富裕層は旧時代の有閑階層ではなく,有能で多忙な人々だ.2.自由主義の原則によれば,国家が裕福であるからという理由だけで富を奪う特権を持つべきではない.3.ブッシュ大統領下示したように,所得の3分の1以上を課税されるべきではない,という上限をアメリカ人の多くが支持している.
一言でいえば,分配の公平さや公正さを決めるのは道徳や政治の問題である.科学的な知識を装うことはできない.黙ってろ,です.
他方,Ignatiusは,アメリカに広がる富裕層への不満を紹介します.「新興の金融家たちがどれほど裕福であるかを示すため,Alphaマガジンのリストからヘッジファンドのマネージャー上位25人を見る.彼らの昨年の収入は平均で5700万ドル.2005年に比べて57%増えた.25人全員で獲得した収入は140億ドル.ヨルダンやウルグアイのGDPに匹敵する.このような文章を読めば,これほどの格差をもたらす世界金融システムを改革しないのはなぜか,と不思議に思うだろう.」
BBC 2007/07/15
Online campaigns bring in the bucks
By Laura Smith-Spark
FT July 15 2007
McCain’s downfall
(コメント) もし政治資金が,ヒラリー・クリントンのように,バフェットのような数人の資産家から主に受け取るのではなく,オバマのようにインターネットを介して多くの支持者から少額を寄付してもらうのであれば,アメリカの政治秩序に優れた意味を与えるでしょう.
しかしまた,もしマッケインのように,支持基盤とならない非合法移民を助ける移民法改正案に尽力する者が疎んじられるようなら,政治秩序は正当性を損なうかもしれません.
WP Wednesday, July 18, 2007
By Perry Link(a professor of East Asian studies at Princeton University)
(コメント) 1957-58年の「反右派闘争」を記念する集会がプリンストン大学とUCアーバイン校で開催されました.筆者のLink教授は,数千万人を追放し,餓死させたと言われる文化大革命や大躍進よりも,反右派闘争は中国国民を長期的に見て深く傷つけた,と主張します.
1957年の「右派」とは,作家,ジャーナリスト,編集者,医者,教授,学生,リベラルな思想の公務員など,理想に燃えた人たちでした.彼らは権力の濫用を責められましたが,むしろ「人民の共和国」を助けるために努力を惜しまなかった人たちでした.そのような批判を強く否定する一方で,毛沢東が言うことを正しいと信じ,自分の間違いを探して農村への追放を受け入れたのです.
ここには毛沢東とその後の共産党指導者たちが犯した二つの間違い,二つの「真実」があります.一つは,これらは全て共産党の支配を正当化するプロパガンダである,ということです.もう一つは,中国の大部分が非常に貧しい農村からなっている,という真実です.毛沢東は国民から真実と理想主義を奪いました.共産党政府は毛沢東の権威を継承し,今も「反右派闘争」に関する発言を厳しく禁止しています.
職場を追われた人々は70歳,80歳を超えるようになりました.彼らは自分たちの証言を政府に邪魔され,出席を阻まれた末に,その経験を生かしてもらうことを望んでいます.「過去をただすために現在を使わない国に,未来はない.」
Getting through on North Korea BG July 16, 2007
John Gittings Nuclear distraction The Guardian Monday July 16, 2007
Mark Leon Goldberg Progress in Pyongyang The Guardian Tuesday July 17, 2007
Five Years Later in North Korea NYT July 17, 2007
(コメント) 北朝鮮の核兵器開発を放棄させる交渉が,ようやく,一つの成果を示しつつあります.楽観的評価と不信・疑惑が考察している状態です.
BG July 16, 2007
The chimera question
By Vivek Ramaswamy
(コメント) キメラ,あるいは,フランケンシュタイン.遺伝子操作に関する論争は,アメリカの場合,宗教と政治的右派にかかわる問題です.中国やイランに劣らず,ここにも「宗教的右派闘争」があります.動物実験や,生体肝移植による貧困層の臓器売買,アルツハイマーやパーキンソン病の治療,など,関連する諸問題が,医療技術の革新から社会関係や信仰のキメラをもたらしそうです.
FT July 16 2007
Europe learns to stop fearing the Germans
By Gideon Rachman
(コメント) 「ヨーロッパはいつまでドイツの復活を恐れなければならないか?」 という問いに,日本人がアジアを思うときの基準を探してしまうのは当然でしょう.ドイツでさえ,EUやユーロでさえ,時には今も厳しい避難や疑念を受けることがあるわけです.日本政府が,中国や韓国との対話や交渉で「歴史認識の違い」が障害になっている,と互いを非難して終わるのは間違った姿勢でしょう.
Rachmanは,EUの始まりがドイツの戦争遂行能力であるルール地方を奪う,石炭鉄鋼共同体であることは明白です.EUのもう一つの重要な合意は農産物の共通関税ですが,ドイツは賠償金のつもりでフランスの高い農産物を買い続けました.東西統一が議論されたとき,興奮するミッテラン大統領にコール首相が示した条件は,マルクを捨ててユーロを流通させることでした.これも重要な戦争遂行能力です.今もなお,EUの国ごとの投票権や,軍備の分担などで,ドイツ恐怖症が露見します.
「東西再統一から15年以上たって,ヨーロッパ人は新しいドイツを歓迎しているように見える.ドイツ経済が衰弱する方が,強いドイツよりも恐れられている.彼らは昨年のワールドカップの会場としてドイツの素顔に触れ,それを楽しんだ.EUはドイツの封じ込めがその中心的な目標であった時代から,大きく前進したのだ.」
FT July 17 2007
US will learn deficits do matter
By Kenneth Rogoff
(コメント) 世界経済の成長と金融市場の統合は,幸いにも,アメリカの財政赤字を低金利のまま借り続ける条件を用意しました.しかし,社会保障費の負担は増え続けるでしょう.アメリカの重要な弱点は今も,巨額の資本流入に経済運営を依存していることです.外国投資家は,国内投資家よりも,アメリカからの悪いニュースに敏感に反応します.
YaleGlobal, 17 July 2007
Peter Kwong
夢を追いかけて.ルーマニア人たちが西ヨーロッパの良い職場を求めて捨てていった織物工場に,中国人の移民たちが来て働いている.彼らは月に260ドルを得るが,それは彼らの中国における収入の4倍である.しかし,その賃金でルーマニア人は雇えない.
1970年代から始まった改革開放により,約1800万人の中国人が移民となって流出した.その規模は在外華僑3500万人の半分にも及ぶ.改革によって豊かになった都市部へ農村から出稼ぎに来た人々は約2億人.そこでも厳しい競争と過酷な労働条件を強いられた末に,彼らは海外にもっと良い機会を求めた.
貿易や投資がますます世界中を自由に移動する世界で,移民だけは国家に厳しく管理されている.ただし,雇用主は合法か非合法かを問わない.彼らにとっては,移民を雇ってコストを削減し,国内労働者や労働組合を弱めることで十分だから.密入国だけでなく,非合法化と虐待,差別に抗して,中国人の移民ネットワークは地下社会に広がっていく.
彼らはしばしば中国人の商店や工場に雇用される.その結果,現地社会は雇用の機会を失ったという不満を強める.2006年後半にトンガでは中国人の商店が30件以上も略奪され,放火された.イタリアの町,プラトーでは,中国人の経営する織物工場に多くの中国移民が雇用され,「メイド・イン・イタリア」の織物を輸出している.ニューヨークでも,賃金水準をめぐって,レストランや衣服工場で他の労働者との紛争が起きている.彼らは無権利で,保護もなく,組合にも入れない.彼らを締め出すことは有効な対策にならない.
政府は協力して,世界的な移民に対して自国の労働者の生活を守り,また移民労働者たちの権利を認めて彼らが不当な搾取から自由になるのを助けるべきだ.しかし,政治家の多くは移民排斥を叫び,選挙の得票に利用する.ロシアでも東欧でも,共産主義体制の崩壊後,中国人への疑念は強まっている.
なぜ中国政府は沈黙しているのか? 移民流出は国内の失業問題を緩和しているし,年200億ドルの送金をもたらす.また,中国政府が関与すれば,在外華僑との摩擦が生じる.とはいえ,中国は北朝鮮からの移民流入を心配している.大規模な移民流出と流入を抑えるために,中国が他国と協力して重要な役割を果たせるだろう.
FT July 19 2007
Signs betray ‘hidden workers’ of Japan
By Mariko Sanchanta in Tokyo
(コメント) 日本の電機や自動車など,最先端の工場で,多くの移民労働者,特に日系移民が働いています.移民に関しては,「日本モデル」の優秀さなど全くありません.
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The Economist June th 2007
The trouble with private equity
Global poverty: Are we nearly there yet?
Election finance: Of cash and crushes
Illegal immigrants: Nowhere to hide
Eastern Europe’s economies: Worrying about a crash
(コメント) この中でも特におもしろかったのは,アメリカの移民法改正案が否決されたらどうなるか? という問題と,東欧経済の考察でした.
さあこれでアメリカの移民システムは破たんしたまま次の大統領にゆだねられるのか,と思っていたら,そんなことはないようです.アメリカは連邦主義の国であり,各地方政府が勝手に移民の扱いを決めます.ある町では移民労働者を歓迎し("sanctuary cities”),彼らが来てくれるように呼びかけます.他の町では,逆に移民を排斥し,差別してもよい,と言わんばかりの態度です.環境問題も移民問題も,連邦政府が間違った姿勢に偏り,あるいは,合意形成に失敗すれば,各地方政府が自分たちで問題を解決しようと競って動き始めます.
さて,東欧経済の運営ですが,最も危険な状態にあるのはラトビアである,と示されています.何と経常赤字はGDPの21%,家計の消費と債務が膨張し,インフレ率は8%に達します.ところが通貨はユーロに固定され,金融政策を制約します.政府は二ケタの成長に大盤振る舞いを続けています.外国(主にスウェーデン)が所有する銀行はすでに融資を抑制しています.
他方,以前は第一に危険な国として挙げられたハンガリーが改善しました.増税と歳出抑制で財政赤字を削り,その際も輸出と工業生産は増大したのです.外国人労働者を利用したり,賃金を抑制したりしても,まだ経済は過熱状態だ,と注意します.
問題は東欧諸国の政府や政治家が,EU加盟によって,改革意欲を忘れてしまったことです.EUやEBRD,ECBには,改革を要請する政治的なテコがありません.