IPEの果樹園2007

今週のReview

7/16-21

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

グローバリゼーション1, IMFと国際通貨システム, アメリカアジアの移民, 債務国としてのアメリカ, 中国を制裁すべきか? アメリカの覇権

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


WP Thursday, July 5, 2007

Global Safeguards for a Global Economy

By Harold Meyerson

アメリカはその誕生を祝ったばかりだが,次の100年に向けた我々の課題について提案したい.すなわち,アメリカや西ヨーロッパで20世紀後半に大衆的な豊かさをもたらした,規制された,社会的な資本主義を取り上げ,それを世界的な規模で再建しよう.

現在,私たちの論争はアメリカと世界との関係をどうするべきかに向けられているが,それでは意味がない.リアリストは我々の利益を実現するために大切な価値を捨ててよいと主張し,他方,利益を実現するためにもその価値を前進させる方が良い,と主張するリベラル(同盟諸国とともに)やネオコン(単独で,武力を用いても)がいる.

こうした見解は社会の現実を見ていない.統一された世界経済が誕生したことで,我々は経済的主権を失ったのであり,この「素晴らしい新世界」がアメリカの利益も価値も危険にさらしている.世界経済から離脱することは不可能だ.一国で緩和できる問題もあるが,多くの問題は世界的に解決するしかない.

中国で作られて私たちの棚に並ぶ危険な薬剤,おもちゃ,ねり歯磨き,タイヤ,食品について,この数週間,ニュースがあふれていることを考えてほしい.これは,アメリカの製造業や小売業が特にウォルマートが,消費者を守る規制など事実上ないに等しい発展途上国で安く作ることに決めたことから,当然に予測できた結果である.

101年にわたって食品と薬品の安全性を確保してくれたFDA(食品薬品局)を廃止する提案など,誰も真剣にすることはない.FDAはインドや中国にあるごくわずかな向上を検査したと認めている.我々の薬剤となる原料の半分ほどがそこで作られるからだ.検査室に届くのは輸入される食品の1%にも満たない.

FDAの検査を増やすために予算を拡充できるし,しなければならない.しかし,中国の工場のいくつを検査できるのか? ウォルマートがさらに安い労働力を求めてタイやサハラ以南のアフリカに移転すればどうなるのか? 多分,FDAはいくつかの国を検査し,EUは他の国を,またカナダも,ということになる.もしかすると,より効果的に,WTOや国連が世界的な安全監視機関を設け,WHOと同じように,どの国でも検査する権限を得るだろう.このシステムに従わない国には厳格な制裁が科される.

世界経済を各国が規制する限界を示すために,消費者の安全性確保から始めたが,地球の気象的な危機から始めてもよかった.同じ論理がより厳密に地球環境の保護に当てはまる.労働基準や労働者の権利にも当てはまる.サンホセでも上海でも,ソフトウェアのエンジニアは同じ労働力のプールに属する.同一の企業に働く者さえいる.ロサンゼルスのビルの警備会社は同じ会社のためにヨハルスブルグでも警備員を雇う.こうしてこの2年ほどで最初の世界的規模の労働組合が結成され始めた.今後数十年にわたって,世界的な規模の労働保護が現れるだろう.

リベラルな思想家の間で活発な論争が起きている.我々はアメリカの労働者を世界経済においても国内の改革で守ることができるのか,あるいは,世界経済それ自体の自由放任を変えるべきなのか? 私の考えでは,グローバリゼーションが進むほど,経済の安定性を回復し,アメリカにより多くの経済的機会をもたらすには,世界的な規模で市場を規制し,労働者に力を与える必要がある.

私の穏健な提案に戻れば,それが21世紀のリベラルなプロジェクトの中心である.2008年の大統領選挙で現れるようなテーマではないだろう.もっと時間をかけて,経済の世界化は不完全かつ部分的な形で進歩的な人々をある種の世界政府に向かわせるだろう.それは1865-1935年にアメリカ経済が地域的なものから国民的なものへ転換し,当時の進歩派たちが本来の国民政府を創り出したのと似ている.リベラルたちが結びつく国際主義は,我々の価値と利益とをともに実現し,また,不確実な未来に向けて,我々の経済的成果と民主的な理想を拡大するものである.

YaleGlobal, 5 July 2007

Fast, Freewheeling Globalization for All

Susan Froetschel

The Financial Times, 5 July 2007

EU Globalization Fund Questioned

George Parker (FT May 27 2007)

NYT July 8, 2007

Haves and Have-Nots of Globalization

By WILLIAM J. HOLSTEIN

(コメント) Daniel Altmanの著書“Connected: 24 Hours in the Global Economy”は,私たちの生活がどれほど世界的なネットワークに依拠し,そのリンクによって可能になって知るかを,2005615日,という一日の出来事として描いているそうです.

それは私たちにも容易にできる作業です.ある一日に起きたことを,たとえば,1時間おきにインターネットのニュースで記録すればよいのです.そして,そのすべてのニュースを分類し,関連付け,解説するなら,そこには互いにリンクしたグローバリゼーションの世界像が,あなた自身の分類と観点で,焦点を結ぶでしょう.

しかし,世界とのリンクは機会だけでなく危機をもたらします.不安定な投資家の気分から金融市場にパニックが起き,サウジアラビアでは内戦が起き,アメリカの債務が支払われず,中国では政治革命が起きるかもしれません.

豊かな先進諸国は,投資や消費,雇用を通じて世界の秩序を変える力を得ます.一人ひとりの決定が世界的な規模で影響を広げています.賢明な消費者が節約することや貯蓄を学び,家庭は人口爆発を抑制するでしょう.あるいは,拙劣な投資が国を滅ぼします.ブータン政府は,文化や幸福について伝統を敬う心を育てる,という分野に安全保障の関心をシフトさせました.

YaleGlobal Onlineに採録されたFTの記事です.EUがグローバリゼーションの調整基金を設けた,というニュースに,私も興味を持っていました.その規模は,5億ユーロ(約800億円)です.

アジアなどへのオフショアリングによって地域の雇用が失われる,という不安に対して,欧州委員会のリベラル派が要求したものだ,と記事は解説します.たとえばフランスは,自動車メーカーの下請けが倒産したことに対して,この種の基金を要請しました.基金は自由貿易を維持するため昨年末に承認されました.しかし,このフランス政府の申請に対しては,前例となるので,慎重に検討されると言います.

他方,多国籍企業は発展途上国に移転することで,低コストの利益を得るだけでなく,その市場の拡大からも,その通貨価値の増大からも,利益を得るでしょう.


FT July 5 2007

We must act when currencies become misaligned

By Max Baucus, Chuck Grassley, Chuck Schumer and Lindsey Graham

(コメント) もし世界の供給ラインや世界市場の競争がそれほど激化するなら,為替レートが変動することは非常に不都合なわけです.大幅な不整合は許せないはずです.その水準が合意できないなら,むしろ固定レート制を採用するかもしれません.

さて,アメリカの上院議員たちは国際通貨システムに対する不満を公表しました.世界経済の成長は各国の政策を正しく指導しなければ実現できない,という内容です.そのガイドラインを決めるのは,IMFにできないのであるから,アメリカ議会であるべきだ,と.すなわち,

為替レート政策は混乱の源である.通貨価値を過小評価する国の輸出品はあまりにも安く,他方,アメリカがその国に輸出すると極端に高価になってしまう.国際収支の不均衡は持続不可能であり,例えば,中国の人民元は安すぎるためにインフレが起きている.中国に限らず,ルールがなければ,次々にこうした問題が起きるだろう.・・・

為替レートに関するこの政治声明は,もちろん,中国の対米黒字を抑えるために人民元を切り上げるよう求めているのです.しかし,そのような議会の姿勢は十分な支持を得られないために,中国だけを非難せず,また,アメリカが一方的に決めるわけではない,という姿勢を強調しています.すなわち,アメリカ議会はブレトンウッズの合意に従う(1971年にニクソン政権が破棄しましたが)から,IMFやWTOの原則を理由として,為替レートの人為的な「操作」による不当な利益が国際秩序を破壊することに重点を置くわけです.

また,これはもちろんアメリカの貿易摩擦に対する国内の制裁発動を圧力に使う考え方です.ただし,基本的な為替レートの均衡水準を決めるのはIMFであるべきだ,と国際主義・多角主義を尊重します(イラク戦争を安保理決議なしに行ったことは間違っていたから).IMFが判定した通貨に対して,アメリカ財務省が制裁を協議する(そして不満であれば制裁を科す)というわけです.(しかし,為替レートが均衡水準から外れている,という判断は難しい,というのが先週ここに紹介したThe Economistの論説ですし,拙訳で紹介したWilliamsonの主張に対するCooperの反対でした.)

為替レートの安定的な水準が決まらなければ,企業は投資を控え,生産性改善や雇用も減るでしょう.大幅な増価や減価は,マクロ経済管理を自由にするよりも制約し,経済過程に長期的な歪みを生じるわけです.

この点で,IMFはアメリカの要求に積極的に対応するでしょう.しかし,そのためにもIMFの信用を回復する必要があります.専務理事の因習的な指名方法や通貨危機への不適切な対応で,IMFは信用を損なっています.

FT July 5 2007

Fund leadership

The Japan Times: Monday, July 9, 2007

Breaking locks on the pillars of finance

By KENNETH ROGOFF

(コメント) FTは,ラト専務理事が辞任を予告し,@後継者の指名問題,AIMF基金の調達(分担)問題,B投票権問題,そして,C次の危機を防ぐための政策監視機能,D危機が発生した場合の安定化資金供与,について,積極的な対応を模索している,と伝えています.

ラト専務理事の辞任は突然発表されたことです.ROGOFFは,指名手続きの公表と公正さを求めています.また,IMFと世界銀行は,ともに世界金融の現状から取り残された国際機関であり,かつてドイツ賠償金問題で成立したBISが戦後に行ったような,大幅な改革と蘇生手術が必要です.

French Official Chosen to Lead I.M.F. NYT July 10, 2007

Larry Elliott Who is running the IMF? The Guardian Wednesday July 11, 2007

Raghuram Rajan China and India lie low FT July 11 2007

Sarko's stitch-up The Guardian Thursday July 12, 2007

(コメント) EUはIMFのトップを決める特権を失うつまりなどないようです.しかし,国際金融システムが機能するためには,金融センターに支持されないようなトップが長持ちするとは思えません.それに比べて,インドや中国は意見を控えています.それは人事が紛糾し,システムが混迷を回避しようとあがくほど,彼らに指名のチャンスが回ってくるからでしょう.

フランスのサルコジ大統領は,ドイツ,スペインの次はフランスだ,社会党の指導者で元大蔵大臣のStrauss-KahnをIMFのトップにする,と主張しています.


The Guardian Friday July 6, 2007

Immigration and reaction

Garance Franke-Ruta

The Guardian Tuesday July 10, 2007

We should welcome the dawn of the migration age

Ban Ki-moon

LAT July 10, 2007

Microsoft moves north

(コメント) アメリカの南部沿岸都市に集中していたメキシコ系移民たちが,次第に,アメリカの伝統的な小都市に移住しつつあります.アイオワ州の人口増加もこうしたヒスパニックが中心です.彼らがもたらすコミュニティーの文化摩擦は,移民問題を2008年のアメリカ大統領選挙を決定するほどの重要問題に変えつつあります.移民をめぐって論争するとき,人々は,@安全保障,A法と秩序,B社会福祉,C価値,Dポピュリズム,を問いかけているのです.政治家たちはそれにどう答えるべきか,真剣に模索しなければなりません.

Ban Ki-moon国連事務総長は,前任者から引き継いだ国際移民年を記念した声明を出しました.移民の利益をもっとも代表するのは世界政府である,という推論を支持してくれるような移民擁護論です.

グローバリゼーションは,段階を追って深まります.消費者が外国の商品を買うだけでなく,企業が外国で生産するようになり,インターネットで情報や資本,サービスが取引されるようになりました.しかし,労働そのもののグローバリゼーション,すなわち移民は,まだわずか世界人口の3%です.安価な輸送・通信手段が誰にでも利用でき,諸外国の労働事情について知識が普及し,世界中から少額の送金が可能になって,今後も移民は増加するでしょう.海外で働く移民から家族への送金は,貧しい諸国にとって裕福な諸国の援助よりも頼りになるのです.

しかし,受け入れ国の政府は移民への包括的・積極的対応を取らず,さまざまな差別や非合法化,社会対立が起きています.移民は貧困を減らし,受け入れ社会にとってもプラスになるものです.しかし,それがもたらす問題や不安も無視できません.それゆえ国連は双方の政府を招いて国際フォーラムを開催しました.実際,彼らは互いに非難するのではなく,積極的に学び合う姿勢を示したのです.

移民たちのネットワークが,貧困解消のための教育や投資,ビジネスの誕生に向けられています.マイクロ・ファイナンスや故郷への投資を促すファンドが運営されています.彼らの生活を助け,問題を解決する助けになるようなソーシャル・ワーカーが育っています.

それを欠くような社会は,移民の流れがもたらす活力を吸収できないでしょう.マイクロソフト社は移民規制を強めた911後のアメリカ社会を嫌って,その機能をカナダのバンクーバーに移転しました.

FT July 8 2007

Asia learns to cope with a rise in the flow of immigrants

By David Pilling and Kathrin Hille

(コメント) 経済統合や所得格差,特に,高齢化や農村の嫁不足は,アジアの裕福な諸国へ向かう移民を増やす傾向を生んでいます.しかし,ずば抜けて所得が高い日本には,アメリカ(3500万人,12.2%)やカナダ(560万人,18%)に比べて,まだ少し(200万,1.5%)しか移民は流入していません.記事は日本の「文化的価値」すなわち「多文化主義・多文化社会」を受け入れようとしない国民の雰囲気を指摘します.

記事を読むと,韓国や台湾でも,日本と同じような問題が起きていることを理解できます.大企業は中国に生産拠点を移せますが,零細企業には労働力も不足する.そこで,外国人労働者に頼るのです.ロボットについても同じでしょう.もちろん,妻や孫をロボットに頼ることもできません.台湾の人口2300万人の中に388000人も外国人妻がいるのは驚きです.アジア社会は移民の女性を奴隷のように扱い,それによって人口減少を解決する前に,さまざまな社会問題を起こすでしょう.外国人の女性や子供に対する支援や社会政策は,アメリカやカナダに比べて,大きく遅れています.

裕福な社会の女性はますます子供を産まず,田舎に住みたがらない.他方,貧しい社会の女性は奴隷のような人生から抜け出す機会を求めている.こうしたギャップを,何でもインターネットで解決しようとすれば,・・・妻になる女性も外国にメールで注文するわけです.


LAT July 6, 2007

What Bono doesn't say about Africa

By William Easterly

(コメント) アフリカに同情するテレビ番組や音楽祭を作ると同時に,アフリカについて間違ったイメージを流し,援助を行うことはやめた方が良い,と記事は主張しています.確かにアフリカに関する質問を受けたらどうしますか?

「1.戦争で死ぬ人は死者の何%か? 2.10歳から17歳の男子で兵士にされている(なっている)のは何%か? 3.飢餓に苦しんだり,エイズで死んだり,難民になっている人は,アフリカの人口の何%か?」・・・ その答えはいずれも1%の半分以下である,とEasterlyは指摘します.アフリカ救済キャンペーンが映し出すようなイメージ,「戦争,気が,疫病,死」は,アフリカの現状を描く正しいイメージではないのです.

Easterlyは,国際機関が「アフリカの失敗」を誇張することで自分たちの利益を増やすゲームに人々を巻き込んでいる,と批判します.アフリカが成功する道はすでに分かっており,特別なものではなく,正しい政策を取ることで多くの地域が成長を開始している.豊かになるために乞食のまねをしろ,と説くようなキャンペーンなど不要である,と.

The Guardian Monday July 9, 2007

Lessons of Porto Alegre

Hilary Wainwright

(コメント) ブラジルで成功した援助・融資計画は,世界銀行の報告によれば,資金を与えるだけでなく,その支出計画や支出された結果について,住民たちが直接に参加する制度により,地方政府や官庁を監視させたことでした.


FT July 6 2007

Chinese cars

July 10 (Bloomberg)

New Import Woe for China? All-Terrain Vehicles

Cindy Skrzycki

(コメント) こんなに早く中国製の自動車が世界水準に達し,ヨーロッパに輸出されるとは.中国にもデトロイトが誕生しつつあるのです.すでに北京にはロンドンよりも多くの自動車が走っています.しかし同時に,交通渋滞と大気汚染も猛烈で,市長は自動車をこれ以上買わないように訴えている,ということです.

雇用と投資と成長を約束する,中国版フォード主義が何を意味するのか,たんにアメリカの1960年代を再現するわけではないでしょう.世界市場を意識して,ヨーロッパの環境規制を先取りしている,ということです.また,アメリカのホンダやその他の自動車会社は,中国製自動車の輸入を阻止するために,ATV車の環境規制を強化しようとしています.事故が多いと批判されていることを逆手にとった戦略です.


Harvard Magazine, 6 July 2007

Debtor Nation

by Jonathan Shaw

これはハーヴァード大学の宣伝雑誌です.そして,すばらしい教授陣が意見を述べています.

「大量消費文明(あるいは消費中毒)は,アメリカでチェリー・パイと同じくらい見飽きている.アメリカ人は借金して買いまくる.金融はアメリカ人の日常だ.ますます驚異的な規模でアメリカは海外から借りている.アメリカが所得と消費との差を外国からの資金で埋める規模はGDPの約7%にも及ぶ.アメリカには8,500億ドル以上の経常収支赤字がある.アメリカ人はブラジルの全生産物に等しいだけの不均衡を生じている.ブラジルは世界で10番目の経済規模があるのに.アメリカ人は,毎年,ブラジルやメキシコを食べてしまう.

こんなことが続けられるのか? いつ終わるのか? 学者たちは議論してきた.この6-7年間,アメリカは一兆ドルかその半分の間を海外から借金してきた.債務国として,アメリカは急速に債務を膨らませていく.

アメリカの借金と海外の貸し付けは,今のところ安定しているようだ.もし急速に融資が減れば,アメリカの中産階級や労働者にとって深刻な問題を生じる.なぜなら金利が急騰して,住宅価格が暴落し,もはや国内で生産されていない商品の価格が急速に上昇するからだ.ハーヴァードのエコノミストや政治学者たちは,グローバリゼーションの脅威,保護主義の台頭,市場があまりにも急速に不均衡を解消する場合,世界不況の可能性,政治的考慮が経済的な共通利益を圧倒して,各国が国際金融を武器として使う可能性,も考える.

最後の例は,外貨準備を武器として使うという,アメリカ自身が歴史的に行ったことだ.アイゼンハワー大統領は,彼が知らぬ間に,イギリスがフランスやイスラエルと共謀してエジプトに侵攻したとき,激怒した.スエズ危機を思い出す人が多いだろう.しかしJeffrey Frankelは,その融資によってイギリスを味方につけた特殊な方法を指摘する.すなわち,アイゼンハワーは連銀に命じて,ポンドの支援を取りまとめさせる一方,IMFによる安定化融資を阻止した.ポンドは破滅の瀬戸際にあった.だからアイゼンハワーは彼らに行ったのだ.「私はあなた方がスエズを引き上げるまで救済融資しないつもりだ.」 破産に直面して,イギリスは撤退した.この例は,イギリスには独立した外交政策を行う能力がないことを示した.

ひとまず国際政治を除くとしても,「資本流入が起きると,(今のアメリカのように)一般に何でも良くなる.」と,Jeffry Friedenは述べる.それは貯蓄した以上に投資し,生産した以上に消費できるからだ.それは何も間違いではない.企業はいつもそうしている.家計もそうだ.彼らは将来の生産性上昇と返済を期待して借りている.例えば,アメリカは100年間も世界最大の債務国であった.そしてお金は鉄道や運河,工場の建設,港の改善,都市の建設に使われた.それは生産的に使用され,機能したのだ.問題は,今,そうではないことだ.身の丈を超えた消費をしているのか? お金は経済の生産能力を増やしているのか? もしだれもがそれでi-Podを買っているなら,i-Podで人々がより生産的にならない限り,債務の返済をするときに問題が生じるだろう.

1995年,メキシコで問題が生じ,1997年,タイやマレーシアで問題が生じ,2001年にはアルゼンチンだった.こうした諸国は市場でたっぷり借り入れていた.アルゼンチンは崩壊の前に,発展途上諸国のモデルとして,またIMFのお気に入りとして,貿易と金融のグローバル・システムに統合するIMFの経済的処方箋に従っていた.しかし,国際資本移動が破壊的な影響を示すと,IMFもアルゼンチンを救えなかった.世界の投資家たちはアルゼンチンが債務を返せないことを理解し,その資産(融資した債権)を売って,そこを抜け出した.一夜にしてアルゼンチン・ペソは売られ,ドルに対して価値が暴落した.ドルで借りていた者たちは家を失った.銀行の取り付け騒ぎ,現金引き出しの禁止.穀物や家畜があふれている国なのに,人々は飢え,隣家の貯えを襲った.

アルゼンチンとアメリカは違う(特に,アメリカは自国通貨で借りているから為替リスクがない)が,資本流入でアメリカの政治家が財政赤字や貿易赤字を無視して悦に入る状態を批判する.「ここが投資にふさわしい場所であるから,資本は流入し続ける」という説明は,アルゼンチンとそっくりだ.

アメリカン流れこむ資金は購買力をもたらすが,それは経済全体にではなく,住宅など,特定の部門に集まっていた.世界を貿易できる財と貿易できない財に分ければ,輸送できる財貨や衣服など,前者は国際競争にさらされる.他方,散髪や住宅,医療,レストラン,公共交通手段,などは生産されたところで消費される.外国人がドルを買い,ドルが高くなれば,貿易財は安くなり,人々はますます住宅や土地といった輸入できない財に支出する.それは国際競争が無いので価格が上昇する.

それはとても心配だ,とフリーデンは語る.人々は,住宅価格が上昇するのはドル高だから,と考える.それは資本が流入し,金利を低く維持している.中産階級のアメリカ人にとって,主要な資産とは住宅である.彼らは住宅の価値が増えると消費を増やす.それは心理的な理由ではない.住宅の価値が増えると借入を増やせるのだ.Martin Feldstein は,この5年間で住宅の価値は3兆ドルも増えた.2004年だけで1兆ドルだ.モーゲージで得た資金で住宅を買う以外に6000億ドル,可処分所得の7%が加わったのだ.

金融的な富が増えたこととは別に,グローバリゼーションには勝者と敗者がある.それは比較優位によって決まるはずだが,誰もそれを計算しない.むしろ敗者とは,破たんした企業,賃金が下がるか外国に職を奪われた労働者,外国人に購入してもらえないモーゲージ所有者,外国人に買収された企業,などだ.どんな国でも,もしアメリカのような大きな経常赤字を出せば,その国には外国企業が財を供給して,同時に,記念碑的な資産を買いあさるだろう.

人々は消費にふけって,アメリカン・ドリームを食い潰してしまう.その理由は,アメリカで増えた富が労働者のものになっていないことだ.2000年から2005年に,アメリカ経済は実質で14%成長し,労働者の生産性は16.6%も上昇したが,平均の時給は停滞していた.中位の所得の家族は2.9%所得が減った.しかし,我々のパーティーが続いている限り,人々の不満は聞こえない.」 ・・・

話しはまだ続きますが,要するに,借金しても投資に使わないから,物価が上がる(インフレが加速する)わけです.すると連銀が金利を引き上げる.すでに住宅価格は全国で下落しつつあります.こうした引き締めに直面して,国民や政治家は中国の貿易黒字やアメリカ企業の買収を非難します.アメリカの雇用や職場について保護主義を,人民元の引き上げを要求します.比較優位を主張するだけでは,自由貿易は政治的に支持されないわけです.

しかし,保護は国内価格を引き上げ,自国の生産性や生活水準を引き下げます.エコノミストはグローバリゼーションが経済全体に利益をもたらすと考える.多数が利益を得ている.しかし損失を強いられる少数者の不満を政治は無視できないのだ,とフリーデンは述べます.彼らの損失をどうやって補償してやれるか?

Jeffrey Frankelは,不均衡を解消するには保護主義ではなく,アメリカがマクロ政策を変えるしかない,と指摘します.Lawrence H. Summersは,グローバリゼーションの損失をもっと重視し,保護主義の脅威を封じ込めるために政策を工夫するべきだ,と主張しています.いつかドル建ての債務を拒むかもしれない,と心配します.

Kenneth Rogoffは,中国や日本が巨額の外貨準備を持つ理由は,通貨危機を恐れているからだ,と考えます.自由貿易はよいことでも,資本移動は時に市場の不安定化を刺激します.それゆえ,国際金融システムの中に危機を回避するメカニズムが必要です.同時に,アジアの間違った産業政策と政治的腐敗も指摘します.そして,難しい政策や制度の転換を考えるより,アジアはもっと消費を増やすことだ,と主張します.世界成長を犠牲にせずに不均衡を調整するための国際的な協調を求めます.

他方,Richard Cooperの意見はどうか.多くの意見とは逆に,不均衡が長期的に維持される,と考えます.それは世界的に投資が衰え,また,各国投資家にホーム・バイアスがあるから生じた現象だからです.「2005年のアメリカの経常収支赤字は1.1兆ドルだが,外国からの投資が2.3兆ドルあった.国内貯蓄も8兆ドル,アメリカの海外投資は1.2兆ドルだった.これらの差額であって,経常収支不均衡とは国際分散投資の表現である.」

Cooperは,経常収支赤字は絶対的な水準が安定する,と考えます.経済の規模が拡大するなら,赤字の割合は減少するわけです.人口動態(高齢化,人口減少)と年金の貯蓄において国内投資と貯蓄の規模が,また,国際分散投資のパターンが決まるなら,国際収支の不均衡は資本移動の結果なのです.それがアメリカに多く集まった結果,経常収支赤字をもたらしているのであれば,人口動態とともに変化するし,長期的に安定的なのです.

これに続く最後の節,「金融的な恐怖の均衡」,は省略します.Cooperの「国際分散投資」が安定的であるかどうかは,投資家の心理に大きく依存している,と批判されます.もし不均衡が政治的な手段となれば,不安定化の心配があるわけです.


NYT July 8, 2007

Politics and the Yuan

NYT July 8, 2007

Can China Reform Itself?

By JOSEPH KAHN

FT July 10 2007

Regulate China’s exports

Jeffrey Garten

Asia Times Online, Jul 12, 2007

The Chinese dollar hoard thunders forward

By William Hawkins

CSM July 13, 2007

Cost of unleashing China's currency

By William H. Overholt and Pieter Bottelier

(コメント) オバマがヒラリー・クリントンと一緒に,通貨価値の切り下げで不当に輸出を伸ばす諸国(中国など)への制裁を求める法案提出に加わりました.しかしNYTは,これでアメリカの労働者の賃金が上昇するとは考えません.他に解決するべき問題が多くあるのに,中国が国際的なルールに従うのを促す方が重要です.

毒物や偽物の氾濫は,1世紀前のアメリカと同じく,中国にも市場にルールを強制する規制監督を確立する必要を示しています.アメリカでは規制を拒むイデオロギーが問題でした.しかし,中国では共産党の政治支配から独立し,統一した,市場の変化に即応でき,国際的にも通用する規制の導入が問題です.

中国の世界市場統合は,ついに社会的な規範やルールに及ぶわけです.中国にはすでに全国的な規制・監視の体制があります.問題はそれが生産条件や環境汚染を顧みない,成長至上の共産党体制の一部でしかないことです.それは中国だけにゆだねるべきではない,とGartenは考えます.中国が食品や安全基準の検査体制を整備するのを,アメリカのFAOも協力・要請し,進出したアメリカ企業も責任を負わなければなりません.

Hawkinsは,フリードマンの主張を思い出します.すなわち,たとえ1ドルが1000円になって,アメリカは日本に輸出する物がなく,日本はアメリカにいくらでも輸出できる,という状態になっても,何も問題はないのだ,と.日本人はその財をアメリカ人に格安で送り続けて,ドルの紙幣を輸入するのです.アメリカでは唯一,ドルの印刷業だけが好調です.それでも,日本人はドルを食べることも,ドルを着ることも,ドルに住むこともできない.だからこんな状態は続かないのだ,と.

ところが,中国が蓄積するドルは政府の手にあります.中国政府はこのドルに拠って,世界中の資源を買い占め,世界中の戦略的な企業を買い占めます.先端的な技術とそれを持つ企業を買収します.あるいは,アメリカに敵対する政府を支援します.フリードマンが正しいことを当てにするなら,アメリカ政府は中国がその手に握ったドルを利用できないように,もっと厳しく用途を制限しなければならない,とHawkinsは主張します

Overholtらの意見では,2000年にNASDAQ市場が崩壊して,金融緩和で消費が爆発し,アメリカ財政は黒字から赤字へ転換した.こうした政策は不況を短期・マイルドに抑えたが,輸入を吸収してアメリカの大幅な貿易赤字をもたらした.中国の為替レートはこのこととほとんど関係ない.アメリカの住宅価格高騰が消費の拡大を大いに融資し,家計から貯蓄の必要を奪った,その結果としてアメリカの輸入が膨張したのだ.」

「また,日本の巨額の貿易黒字はますます中国に移った.コンピューターも靴も,何でも中国に生産拠点が移った.かつて日本や台湾,香港の貿易黒字であったものが,今では中国の黒字になり,他方,よい職場や利潤は元の国に残っている.」

しかも,中国は非効率な国営企業を閉鎖して効率的な民間企業の成長を促しています.生産性の急速な改善が続いているわけです.これを為替レートの切り上げで調整するのは難しいでしょう.もし為替レートが過小評価であるのを中国政府自身が問題と感じるなら,彼らが改善策を取るだろうし,そのとき,アメリカの失業や貿易赤字は理由にはならないのだ,と.

Asia Times Online, Jul 12, 2007

Let's talk about sex in China

The Guardian Thursday July 12, 2007

China's one-party monopoly of power is coming to an end

Isabel Hilton

(コメント) 上智大学の社会学者James Farrerが中国の経済改革と性解放についてインタビューを受けています.特に興味を引く内容ではありませんが,中国の都市部では,日本の性意識や合意と非常に近い,と思いました.

中国は地方政府の独裁や奴隷制がはびこった歴史を持っている.それはたんに法律や規制で変わるわけではない.市民文化の形成やインターネットを介した政治論議により拡大する公共圏,権利意識などが,中国を変えるでしょう.


WP Saturday, July 7, 2007

When the Game Is the Controller

By David Walsh

(コメント) ゲームやインターネットが若者に及ぼす深刻な影響を理由に,その利用を制限する動きが以前からあります.子どもたちはゲームに熱中し,精神的な中毒症状に至る.ギャンブル中毒,アルコール中毒,・・・アメリカ人に特有の恐怖かもしれません.

しかし,韓国政府もインターネット規制に乗り出します.若者たちは発達した情報環境において1日中オンライン・ゲームや音楽,テレビ,映画,ネット・サーフィンで過ごしています.その出口は,・・・犯罪や自殺サイト?


BG July 8, 2007

A lesson in Iraqi illusion

By Robert Malley and Peter Harling

WP Sunday, July 8, 2007

The Next Battle in Iraq?

By Jim Hoagland

CSM July 12, 2007

Korea as a model for Iraq?

(コメント) イラクの現状は,アメリカやイギリスが兵士を増やしても変えることができない.それほどイラクという国家が消滅しつつある,とMalley and Harlingは指摘します.これは内戦である以上に,もはや破たん国家であり,その行き着く先は地域ごとの私兵集団による占拠,宗派的な小領邦国家,勢力の混在した地域に広がる無秩序,です.

他方,Hoaglandは,トルコがクルド人を追い払うためにイラク北部まで攻撃しようとしている,と警戒します.アメリカがイラクの占領政策で失敗した一因は,近隣諸国との合意が欠けていたことです.その目標や最低限守るべき条件を近隣諸国が受け入れていなければ,イラクの安定化は失敗します.

あるいは,アメリカはイラン,トルコ,シリアとも戦争するのか?

50年以上も韓国に駐留して,いまだに平和を確保できない朝鮮半島がモデル? 6カ国協議で中国が北朝鮮の核武装解除に責任を持って最後まで取り組む,と信じてよいのか? 同じことをイランやロシアに頼む?


WP Sunday, July 8, 2007

Declaration of Dependence

By George F. Will

(コメント) 国家を強く・大きくするのは,戦争か,思いやりか? 大恐慌の際のF.D,ルーズベルトについて,大恐慌からの脱出を可能にしたのは戦争だったし,特定の支持グループに恩恵を与えるために彼らを制度化し,政府部門を拡大した,と指摘します.経済の不確実性から政府が守ってやる,という哲学を批判します.


IHT Sunday, July 8, 2007

Using rape as a weapon

By Diane King

(コメント) なぜ女性を強姦するのか? 信仰や権威が父親から由来すると考える社会では,敵の女性を犯すことは,その子孫を自分たちの味方,すなわち敵の宗派の内に敵を生み出すことにつながるからだ,とKingは述べます.そして強姦によって奪われた権威を取り戻すために,生まれてくる子供を殺すだけでなく,敵の男たちを殲滅する,浄化,の発想が生まれる,と.

The Guardian Monday July 9, 2007

Don't pick on the Tour: this is a golden age for corruption in so many sports

Geoffrey Wheatcroft

(コメント) スポーツが社会を健全にし,活性化し,階級を超えて団結させる,といった理想は誰が考えたのか? さまざまな宗教的,政治的行事よりも,人々はスポーツに熱狂します.しかし,スポーツのプロ化,商業化は,買収,やらせ,賭博,薬物中毒,汚職,政治の歪曲・矮小化,などを巻き込み,社会を汚染しているのではないか? 有名選手は世界市場で売買され,ますます富と威信の象徴になります.

貧しい国の優れた子供たちを買い集め,独裁者や富豪はサッカー・チームを買収する.何がナショナル・チームだというのか?


Mark Leon Goldberg Diplomacy? It works! The Guardian Monday July 9, 2007

NICHOLAS D. KRISTOF Spineless on Sudan NYT July 9, 2007

Katharine H.S. Moon On North Korea, Hippocrates Not Hypocrisy WP Tuesday, July 10, 2007

Antoaneta Bezlova Nanking: Inflaming China's 70-year wound Asia Times Online, Jul 11, 2007

(コメント) 北朝鮮が核処理施設を閉鎖し,査察を受け入れました.それはボルトンがけなし続けた外交の勝利です.他方,ブッシュ大統領の声明にも関わらず,ダルフールからは難民が流出し,女性たちは強姦され,混血を理由に処刑されています.中国政府はスーダンに圧力をかけたというけれど,石油の購入契約を破棄する気はないでしょう.

Moonは,たとえ核処理施設の交渉が進展しても,北朝鮮が抱える多くの人権問題はそのまま残っている,と強調します.6カ国協議も,ロシアや中国は自国の人権問題を抱えることで問題を無視し,韓国は体制の安定化を優先します.アメリカが日本と組んで人権問題を主張することもできません.なぜなら日本政府は戦争においてアジアに及ぼした人権侵害を明確に反省する姿勢もなく,拉致家族だけが人権問題だ,という倒錯した主張に執着し続けているからです.

中国国内では南京大虐殺の70周年記録映画が公開されています.中国政府の宣伝映画ではなく,オスカー賞を獲得した監督が製作し,サンダンス映画祭に応募したものです.また,皇族が関わったが告発を免れた.安倍首相は従軍慰安婦による兵士の公娼制度を否定した.と,紹介しています.

LAT July 10, 2007

Ending the Korean War

(コメント) アメリカ政府は,北朝鮮の核施設閉鎖を歓迎して,1953年に休戦したままの朝鮮戦争を終結する条約を研究し始めているようです.金正日が再び瀬戸際外交で脅迫しないように.


LAT July 9, 2007

The United States of Britain?

Niall Ferguson

(コメント) ブラウン新首相は,北アイルランドも含めて,イギリスを「イギリス合衆国」に転換する,と提案しました.反米感情の高まるイギリス人が,このアメリカ化を受け入れるだろうか? この計画が実現するには200年かかるだろう,とFergusonはあきれます.

特に,アメリカの憲法や制度がブッシュ政権の多くの失敗を防げなかったことを知っている今の我々にとって,国家権力を行政府に集中する「イギリス合衆国」案は何の魅力もないのです.ブッシュ大統領の一言で,すべては変わりました.ルイ14世に習って,・・・「朕は国家なり!」


NYT July 9, 2007

Health Care Terror

By PAUL KRUGMAN

(コメント) マイケル・ムーア監督の映画が話題になっています.社会保障システムが崩壊したアメリカ社会を告発する内容です.

医療費が払えない患者は側道に置き去りにするような社会.保険に入っていない親の子供は救急車で運ばれても緊急治療室で治療を拒まれ,死んでしまうような社会.激しい労働を耐えてきた揚句に,医療費が支払えないことで人であることを否定されるような社会.こんな社会に対する激しい憤りがあります.

経済学だけでなく,優れた社会保障制度の構築には社会の道義性が求められます.それを失ったことによりこの社会が示すようになった残酷さ,不正義に対して,人々が憤ることが制度を動かすのです.


FT July 9 2007

How to reduce risk in the financial system

Mohamed El-Erian

FT July 11 2007

The role of the rich in Asia’s financial crisis

By Victor Mallet

(コメント) El-Erianは,国際金融システムに生じている新しいシステム・リスクを指摘します.金融革新によって発生したさまざまなデリバティブを,これまで購入していなかった生命保険会社や年金基金が購入し始めています.彼らの目的は高収益であり,自分たちで複雑なデリバティブのリスク評価はできません.それでも外部の格付け会社によるリスク評価を基に売買を続けています.こうした需要を目標に,銀行などはデリバティブを開発します.政治家たちは規制緩和や新しい金融取引に利益だけを見ています.こうした機関に対応する金融監督機関も,リスク評価の知識が足りません.

アジア開発銀行も,企業部門の余話綾政治家による腐敗がアジア通貨危機の原因であった,と考えています.しかし,これに対して,the China Economic Quarterlyの編集者,Joe Studwellはさらに踏み込んだ見解を示しました.すなわち,危機はタクシンのような東南アジアの大富豪たちが引き起こした,と.彼らはアジアの若い女性労働者たちが生産した財貨を輸出する過程で富を築き,さらに,その後の市場自由化において政府と組んで富を増やし,通貨危機に際しても,それを回復し,あるいは増やしたのです.彼らが支配する限り,危機は繰り返されるでしょう.


FT July 9 2007

The world has two energy crises but no real answers

By Gideon Rachman

(コメント) 石油をめぐる争いは,再び,帝国主義間戦争をもたらすのでしょうか? あるいは,今度こそ化石燃料から脱して,クリーンな新しいエネルギーを開発できるでしょうか? それが可能でないなら,ヨーロッパも,アメリカも,中国も動き始めているように,私たちは深刻な問題に直面します.


July 12 (Bloomberg)

Come Back Koizumi -- All Is Forgiven After Abe

William Pesek

(コメント) 確かに安倍も小沢も魅力がない.だからといって,小泉コールでしょうか? 安倍首相は構造改革を見失い,国民に合意を強いるような憲法改正論や,北朝鮮・中国の脅威をあおる安全保障論に重心を置きました.それは明らかに失敗だった,と支持率低下が示しています.たとえ年金問題が彼の起こした問題でなくても,国民生活を軽視している雄弁さに嫌気がさしているのです.小泉のように,明確な言葉で問題を示す必要があるでしょう.

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The Economist June 30th 2007

Still No.1

America’s power: The hobbled hegemon

(コメント) アメリカの覇権について.将来も,アメリカが覇権を維持する,と予想しています.軍事や経済,人口,技術,工業,貿易,金融,さまざまな指標において,アメリカは世界の最高水準にあり,中国は部分的にそれに匹敵するだけです.しかし,決定的であるのは,アメリカの政策転換が(特に大統領が交代する時)大胆かつ柔軟であることと,また,アメリカ抜きに国際システムは変えられない,事実上の拒否権を持つこと,が重視されています.

アメリカは覇権をあからさまな支配によって維持しているのではなく(それを逆転したブッシュ大統領は最悪の結果を残しました),ソフト・パワーによって,それゆえ,中国をアメリカ的な国際システムに迎え入れ,中国自身がますますアメリカ的に変わることで,将来も維持できるだろう,と予想します.あるいは,アメリカ自身が国内の混乱で国際的役割を放棄する,といった失敗を露呈しなければ.

アメリカと中国が資源や国際システムにおける発言力をめぐって対立し,世界を二分する支持グループを形成して,軍事的な対立を頻発させる,というシナリオがなくなったわけではありません.たとえその場合でも,アメリカの世界的な軍事展開は印象的です.そうであれば,中国の不安と対抗戦略も,中途半端ではないわけです.


The Economist June 30th 2007

Chinese politics: Democracy? Hu needs it

The Middle East quartet’s new envoy: Can Tony Blair help make peace?

Lesotho: Poor little brother

Germany: Merkel’s magic

British politics: Now that he’s gone

Shareholder activism in Japan: In the locust position

East Asian economies: Gold from the storm

Japanese banks: Fishing for a future

(コメント) 政治と金融について.中国はどこまで民主主義を許容するか? 自身の政治力を中東和平に捧げるブレアの勝算.南アフリカの内に独立した黒人国家レソト.ブラウン政権下のイギリス.そして,サルコジとメルケルの政治家魂に学ぶ.日本企業が試される外国投資家の積極的発言.アジア通貨危機10周年.日本の金融危機は終わったけれど,銀行は何をするのか?