IPEの果樹園2007
今週のReview
6/18-6/23
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
******* 感嘆キー・ワード **********************
イラク1,2, ガソリンと豚, 移民との戦争, 富と貧困, 学校から刑務所へ, 開発の思想, サマーズ, アメリカ vs 中国, 奇妙な世界経済
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT June 7 2007
How state capitalism could change the world
By Gerard Lyons
June 8 (Bloomberg)
A $12 Trillion Monster Threatens Globalization
William Pesek
(コメント) 国家が投資ファンドを所有し,運営することにより,資本市場はどのような影響を受けるのか? 中国政府が30億ドルをブラックストーンに運用させるのは,郵便貯金を民間委託する日本政府にもつながります.クウェート,ノルウェー,シンガポール,・・・
直接の問題は,エネルギーや安全保障(さらに,通信や輸送など)に関わる分野を外国政府の投資ファンドが買収対象にすることです.アメリカ政府はこの問題について議会が反対する方針を強めつつあります.それでも,さまざまな分野,さまざまな経路で,投資は国境と規制を越えるでしょう.
アメリカが投資を拒むとしても,他の国がどうするか,それが分かりません.たとえばロンドンは,いわゆる「ウィンブルドン効果」を歓迎します.ロンドンが国際金融センターとして繁栄するのであれば,それがイギリス資本でなくても,イギリスの規制に従う限り,外国資本の参入や買収を歓迎するのです.しかも,イギリスはロンドンを自由に利用させることで,たとえば中国の金融市場を開放させる圧力になるだろう,と計算します.
アメリカの金融市場は巨大であり,政府系の投資ファンドが市場全体に影響することは内容です.しかし,発展途上諸国の金融市場はまったく異なります.政治的な関係も含めて,投資ファンドが世界資本主義の姿を変えてしまう余地があるのです.もしWTOが貿易自由化交渉に成功していたら,投資に関する国際ルールを交渉し,合意と監視を行うだけの力を備えて,まさに,この問題を解決する中心的な役割を担ったでしょう.
投資のルールがなければ,「メイド・イン・チャイナ(中国製品)」だけでなく,「オウンド・バイ・チャイナ(中国企業)」の衝撃に,世界各地が襲われるはずです.
Pesekも,政府による投資ファンドを懸念するだけでなく,それが喚起する「金融保護主義」に注意します.貿易に比べて,最も開放的で保護することは難しいと思われていた先進国の金融市場にも,保護主義が復活し,グローバリゼーションを掘り崩します.
1997年,アジアを襲った金融危機ではヘッジ・ファンドが責められました.再びアジアにバブルが生じているとき,それを膨らませる投資の一部は政府系の投資ファンドから来ているのです.アジア諸政府が,本来,為替レートの調整を拒まなければ,こうした投資モンスターの一部は生まれなかったはずです.
FT June 7 2007
As stocks falter, Beijing mulls the chances of an investor backlash
By Geoff Dyer
FT June 7 2007
To pop a bubble
(コメント) 株価が暴騰する中で政府・金融当局が心配することは同じです.このまま放置して暴落したらどうなるか? しかし,あまりに強く牽制して上昇相場を挫くと投資家たちに激しく非難されるだけではないか?
しかも,今度のバブルは他でもない,中国・上海で起きています.抗議の焼身自殺や,官庁の爆破予告が,当然,噴出するわけです.「発展途上国,特にポスト共産主義社会で株価暴落が起きれば,これまでの改革派の成果がすべて翻される」と指摘する専門家もいます.ゴールド・ラッシュの気分が社会に蔓延しているとき,それが崩壊する危険は,その社会によって異なります.
数%の下落はありえても,30%の下落はありえない,と言われます.それは北京の共産党に警報ベルを鳴らすからです.共産党大会や北京オリンピックを控えて,社会不安は起こせない,と考えるからです.
また,株価暴落は政府の金融改革を大きく後退させます.政府は金融システムを健全化し,安定化するため,銀行の不良債権を処理して債券市場を発達させ,国民に債券を保有させること,同時に,年金制度を整備することを進めています.こうしたことは株式市場が暴落する中で行えません.
取引税の引き揚げによって株価が下落したことは,インターネットのブログなどにおいても,投資家の強い不信と不満を引き起こしています.株価の行方を決めているのは政府だ,というわけです.政府はまた,さまざまな公共部門を救済しようとします.政府系の投資ファンド,地方政府,警察,軍,などが大きな投資を行っています.
今のところ,下落にもかかわらず多くの投資家は,まだ,利益を得ています.6〜8%下落した頃,政府が行動し始めた,という情報を政府系メディアは伝えました.
他方,FTの論説は,政府によるこうした市場心理への介入は,株式市場の役割を見失わせる,と批判します.それはバブルの心理だけで買いを煽ってしまうのです.
Simon Jenkins In Iraq's four-year looting frenzy, the allies have become the vandals The Guardian Friday June 8, 2007
Patrick Seale Withdrawal won't happen The Guardian Saturday June 9, 2007
John Hughes Indonesia: an Islamic force for peace and progress CSM June 13, 2007
Beverly Darling Spinning the Korean model Asia Times Online, Jun 14, 2007
(コメント) 無政府状態のイラクで古代の遺物を守るのは至難です.かつてフセイン体制下では古代の遺跡を盗むものが拷問され,処刑されました.今や,盗まない者が処刑されます.ナチスでさえ占領下のルーブル美術館を守ったのに,アメリカは占領下のバクダッド美術館を守りませんでした.
誰でも知っているように,アメリカは美術品のために戦争したのではなく,油田を奪うために戦争したのです.バクダッドの大使館や,イラク駐留米軍の永久化というホワイト・ハウスの声明を,今さら驚く者はいません.これは「韓国モデル」であり,「日米安保による駐留米軍」なのです.だから,・・・その成功も間違いない!?
アメリカ議会やメディアは米軍撤退の期限について論争しているのに,そんなことはお構いなしです.駐留米軍の永久化などアメリカ国内で政治的に受け入れられないし,周辺諸国の敵意を強めるだけだ,という意見も黙殺です.
「世界最大のイスラム人口を持つインドネシアが中東の平和維持に重要な役割を果たし,聖戦・原理主義者に対抗する穏健勢力になる」と期待されています.すでにパレスチナでファタハとハマスが陥った内戦を終わらせる会議に参加する予定です.また,シンガポールの指導者であるリー・クァン・ユーはForeign Affairsの論文で,イスラム諸国が国際機関を設け,原理主義やテロを掃討する戦いに協力するよう,示唆しています.
「インドネシアの歴史はしばしば困難の連続であった.オランダに植民地化され,第二次大戦では日本軍に占領され,その後もスカルノの共産主義,スハルトの専制と腐敗に苦しんだ.資源は略奪され,乱獲されて,大衆は貧困に沈んできた.」 しかし,今や民衆は相対的に平和で調和した時代を享受しています.世界の不安定な地域に模範となるでしょう.
「韓国モデル」といっても,戦後の混乱や国際介入を抑えるため,軍事クーデタや軍事独裁政権を駐留アメリカ軍が支持し続けた,というモデルです.もちろん,ホワイト・ハウスは「韓国モデル」を現在の民主化され,工業化されて成長した韓国をイラク占領の根拠にしたかったはずです.しかし,戦争,クーデタ,漸く民主化された後の米軍撤退を求めるデモ,・・・これをアメリカが「モデル」にする,と主張したのでしょうか?
June 11 (Bloomberg)
Hong Kong Is Ripe for Currency Attack
William Pesek
June 13 (Bloomberg)
Is IMF `Pathetic' or Just Awaiting Next Crisis?
William Pesek
(コメント) アジア通貨危機がさらに拡大するのを回避した転換点は,香港(そして中国)がカレンシー・ボードを維持したことでした.しかし,世界が変動レートを支持し,弾力性を拡大する中で,その後も香港が固定レートを守る姿勢は,市場の不信を強めています.
中国ではインフレやバブルが起きています.すなわち,再び攻撃の対象になれば,香港は固定レートを維持できるのか,というわけです.
人民元の増価が許容されるようになれば,投機的資本はその限界を試したくなります.繰り返し指摘されているように,固定レート制は投機にとってコストが小さく,しかも莫大な利益を期待できる仕掛けなのです.誰かが試して動かせそうなら,世界中から投機が殺到します.
人民元が変動レートに移行すれば,香港ドルは人民元に固定するのが良い,と言われます.しかし,世界で最も純粋の資本主義と賞賛される香港が,なぜ人民元との固定レートを必要とするのか? とPesekは問います.香港が中国市場への資本流出入を管理するセンターを目指しているからです.他方,中国の所得水準や生産性,雇用確保のための輸出や成長率の目標は,香港経済とまったく異なります.
ソウルの国際会議で,IMFスタッフのMeral Karasuluは,アジア通貨危機におけるIMFの責任を問われました.しかし,IMFは不要だ,IMFの融資は間違っていた,という声を聞いても,危機回避のための融資を行う国際機関は必要です.多くの政府は自分たちが不均衡の原因を作っても,資本市場が強気なら,是正する気がないからです.
BG June 8, 2007
A Dickens of a good idea
(コメント) 現代は,チャールズ・ディッケンズが改革したいと願っていた暗い時代とそっくりです.そこで,ディズニーランドではなく,ディッケンズランドを作ってはどうでしょうか? ディッケンズの時代の子どもたちや貧困,汚れて不衛生な町,金持ち,慈善活動,など,テーマパークにして入場料を取ります.
さまざまな文学者が描いた世界を見せるのは,何か不思議な体験であるはずです.
BG June 8, 2007
Bargaining with Russia to contain Iran
By Joseph S. Nye Jr.
(コメント) アメリカはイランとの対立だけでなく,ロシアとの関係悪化にも苦慮しています.しかしNyeは,ロシアとの関係を改善して,イランを封じ込める取引ができる,と悪しき外交の基本を示します.イランに制裁を科す方が,プーチンのロシアに警告するよりも重要なのでしょうか?
ロシアは,アメリカが考えているような,イランに対抗するためのミサイル防衛網を容易に突破できます.しかしロシアが嫌うのは,東欧にアメリカがミサイル防衛システムの基地を配置することで,ロシアの影響力が低下することです.
Nyeの取引とは,「アメリカがミサイル貿易網を遅らせる代わりに,ロシアが拠り強力な制裁をイランに対して行うこと」です.・・・これは市民生活から考えれば身勝手な駆け引きです.自分が問題を起こしておいて,それを処理してやるから金を支払え,という話でしょう.
ロシアはイランの核武装を望んでおらず,核の平和利用のためなら,イランはロシアの処理施設を利用すればよい,とイランを説得しています.それはアメリカの制裁論と一致しない立場です. Nyeの提案をロシアが聞くとは思えないのですが.
FT June 8 2007
Man in the news: Vladimir Putin
By Neil Buckley
FT June 10 2007
Putin’s proposal nears the target
(コメント) G8に参加したプーチンは,早速,強硬な発言を控えて,ブッシュ大統領に対立の和解案を示しました.イランの方針で歩み寄るのではなく,ミサイル防衛システムに東欧を外してロシア側(アゼルバイジャンのレーダー基地)の参加を求め,さらに譲歩がないのであれば,ヨーロッパに向けた核ミサイルを増やす,と脅したのです.悪しき外交の基本に忠実な方針転換です.
ミサイル防衛システムをめぐる対立は,テロとの戦いで西側の同盟に加わったはずのプーチンが,その後,ロシアにおける改革の後退を批判され,再び孤立を深めてきた状態を示しています.
プーチンの個性が重要かも知れません.プーチンという男は,個人的関係においては温厚で,気さくな印象を与えます.西側の指導者に好感を与え,信頼関係を築きました.しかし,国民に対して,公的な関係においては非常に冷酷で,自分に刃向かうジャーナリストや富豪を弾圧し,追放するだけでなく,数百人を犠牲にしてもテロを武力で鎮圧し,軍事衝突や戦争も辞さない強硬発言を繰り返します.「ロシアは余りにも弱すぎた.」そして「弱い奴は叩かれる.」 これがプーチンの政治理念です.
プーチンの政治では,長期に忠誠を誓う者だけが仲間です.それ以外はすべて敵です.そして,敵とは取引します.そのような取引はいつも力だけが背景にあり,ときに裏切りが生じます.裏切った奴には話しても無駄です.決して許さないこと.それだけです.
西側はプーチンを単純に分類し過ぎました.彼は単なるリベラル改革派でも,強権的支配者でも,冷戦型KGBの黒幕でもなく,そのすべてを兼ね備えた,複雑な情念で動く政治家です.
NYT June 8, 2007
By DAVID BROOKS
近頃の政治経済思想には4つの流れがある.1.制限された政府を良しとする保守派.税金は少なく,政府は小さければ小さいほど良い.2.ハミルトン主義.自由市場型の資本主義を信じる.政府はそこで人々が競争できるように必要な道具を与えてやる.3.主流派のリベラル.創造的破壊の悪影響を緩和するために,政府は経済過程全般にわたって小さく介入する.4.ポピュリスト.グローバル経済の利益は富裕層に行ってしまう.根本的にルールを書き換えるべきだ.
このコラムはハミルトン主義の仲間として書いている.われわれは制限された政府を良しとする保守派に同意しない.なぜなら,市場だけでは十分な人的資本を供給できないからだ.高校生の30%は中退し,大学進学率は改善していない.アメリカはもっと多くの熟練労働者を必要としているのに,ますます熟練が落ちている.それは生産性を低下させている.
ハミルトン主義者は主流派リベラルにも同意できない.彼らの政策は失敗した.職を失ったものに再訓練することはうまく行かない.アウトソーシングに税制改革は効果がない.連邦の雇用創出計画も無駄だ.そのための税金が経済を弱らせる.増税は労働時間を減らしてしまう.中国やインドと競争するのに,それでは反対だ.
ハミルトン主義者はポピュリストにも同意できない.ポピュリストは貿易が底辺への競争であり,賃金を引き下げて不平等をもたらす,という.しかし詳しく見れば,多くの不平等は教育の優位,家族,長時間労働,業績を重視した給与体系,から生じている.それは世界貿易のルールと関係ない.世界貿易は貧困を劇的に減らし,生活水準を改善するのに役立った.この複雑なシステムを,1950年代の産業ユートピアに引き戻すため引っくり返す,というのは狂気の沙汰だ.
ハミルトン主義は,二つの重要な主張を掲げる.一つは,経済全体をダイナミックに維持することだ.最大の脅威は,既得権の累積だ.われわれは選挙の争点から無視されている問題,退職年齢の引き揚げ,医療費の高騰,を取り上げる.
第二に,人的資本を重視する.一つの政策で解決できるとは思えないが,生涯にわたって政策を整備していくことだ.安定した,両親のいる家庭で育った子どもは成績が良い.だから,若い夫婦の家計を助けるような税制が望ましい.政府の所得支援で,若い働く男性を結婚しやすくする.看護婦が家庭を訪問し,片親の家族にも安定した関係を促し,幼稚園の質を高める.そして,最も重要なことは教師の質だ.最高の教師に賞与を与え,教員資格のルールを見直す.高齢者や兵役を利用して若者のやる気を育て,交流を助ける.
中高齢労働者は保険や年金があるから移動でき,リスクも取れる.移民システムは熟練を重視し,政府は基礎研究に補助金を出す.
競争を歪め,損なう政府は最悪であり,政府は人々を助けて競争を促すべきである.
NYT June 8, 2007
Rise in China’s Pork Prices Signals End to Cheap Output
By KEITH BRADSHER
June 12 (Bloomberg)
Cheap Money Will Bite Asia If Wages Don't Slow
Andy Mukherjee
IHT Tuesday, June 12, 2007
Communist capitalists
By Philip Bowring
FT June 13 2007
Property power brings Nimbyism to China
By Richard McGregor
(コメント) アメリカではガソリン価格が激しい政治的反発をもたらすように,中国では豚の価格が重要です.それは家計を直撃し,所得分配の不平等を強く感じさせるからです.
「新しい工場,道路,鉄道,港湾に投資することで,これまで工業製品のインフレは抑えてきた.生産性の上昇が賃金や食料,石油,鉄の値上がりを相殺していたのだ.エコノミストや経営者たちは,製造業が価格引き上げ圧力を受けている,という.特に,貨幣供給が増えて,株価や地価が上昇しているからだ.」
次第に,株価だけでなく,賃金にも上昇の波が及びつつあります.なぜなら,中国の労働供給が涸渇するというより,インフレ期待が生じつつある,というわけです.ニュージーランドが経験したように,短期資本が流入するなら,投機的なバブルやインフレを短期金利だけで抑制することは難しいでしょう.
しかし,それは通貨を増価させて,その輸出を抑え,漸く鎮静化に至るのです.アジア諸侯では生産性も賃金も,詳しいデータがなく,中央銀行が苦悩します.
上海の株価は決して下がらない.それは政治とのつながりがあるからだ.もちろん.株価が暴落すれば共産党の支配が嫌われるかもしれない.その通り.しかも,・・・ 自分たちが損をする! 株価上昇は共産党の支配者たちが「合法的」に裕福になる最も効果的な手段である,とBowringは考えます.
そこには損を強いられる者が居ないのか? います.インフレや地価高騰に苦しむ一般大衆,商店主,・・・ たとえ株を売買しても,未公開株を購入することなどなく,高い株価を適正と信じて貯め込んだ資産を手放す一般投資家たち.共産党と企業の幹部たちは,金の卵を産むアヒルを殺さないように,それだけを願っている・・・
中国の伝統的な風景が失われていくのと同じように,あるいは,さらに急速に,伝統的な価値観や心性が失われていくようです.土地の収用や環境破壊に激しく抵抗する貧しい農夫達が,自分の住宅や資産,要するに私有財産を愛するようになれば,他人のことなどどうでも良い,という個人主義,ニンビーイズムNIMBYism(自分の庭ではやめてくれ,どこか他所でやってくれ)に染まってしまいます.
Christopher Caldwell A skirmish over the borders FT June 8 2007
David Frum Enforcement before amnesty LAT June 9, 2007
DAVID BROOKS The Next Culture War NYT June 12, 2007
US immigration FT June 12 2007
Jeff Jacoby The demonizing of illegal immigrants BG June 13, 2007
Jorge G. Castaneda Immigration's lost voices LAT June 13, 2007
Clive Crook How to untie the immigration knot FT June 13 2007
Robert D. Novak Dorgan's Poison Pill WP Thursday, June 14, 2007
(コメント) 非合法移民対策は,ソフトか,ハードか? 民主党と共和党の改正案は紛糾し,妥協や折衷が模索され,・・・怪物か,あるいは,失敗の口実,・・・政治的な誇張が並びました.具体的な結果が改善と改悪のどちらに傾くのか,やってみなければわかりません.
ブッシュ氏は,国境警備を強化し,同時に,1200万の非合法移民に法的な地位を与える,という方針を示しました.政治的な妥協案として,よく考えられた線だと思います.しかし,弱体化し,レイムダックの大統領に,右派や左派のイデオロギーを黙らせることはできません.
「アムネスティー」や「国外追放」,「フェンス」が一人歩きしました.「ゲストワーカー」や「ポイント制」,「家族の呼び寄せ」も,合理的な装いで紛糾しました.所得分配は不平等で,中国の台頭が恐れられ,ブッシュ氏の外交は後退し,めぼしい成果や関心を引く政治的話題を提供できません.国民は国内改革を求めているようです.その槍玉に上がるのは,「雇用不安」,「賃金低下」・・・ 「1200万人の非合法移民」!
移民はアメリカを苦しめているのか,あるいは,助けているのか? アメリカ経済の効率性を改善しているのか? アメリカ社会は公平さや平等な市民権を失ってしまうのか? アメリカに生まれたか,外国で生まれたか,そのことで人間を「犯罪者」のように差別するのか? 立場や条件が変われば主張は異なり,論争が果てしなく続きます.そして,アメリカ国民の利益に従い,「能力」によって移民を選別するさまざまな方法が比較されます.
このグローバリゼーションに網をかけて,IDを付けて,評価を行い,状況に合わせて,短期的に入れ替える? 世界は,移民だけでなく,パートと派遣の労働者,日雇いと出稼ぎの労働者,外国製品と外国人エンジニア,どこの国にあるかも分からない電話応答サービスと,コンピューターの自動制御システムによって再構成されていきます.
移民を嫌う保守派の怒りと景気悪化で移民法改正は失敗する,というのは間違いです.移民排斥は文化的な背景を持っています.60年代の文化的な個人主義,80年代の経済的な個人主義(そしてグローバリゼーション)を吸収した者たちと,そうでない者たちの対立.マニュエル・カステルが言うように,「エリートはコスモポリタンだが,民衆は地域に根ざす.」
移民が引き起こす新しい文化戦争がアメリカを変えるでしょうか?
The Guardian Monday June 11, 2007
The US is clamping down on illegal migrants, but it relies on their labour
Gary Younge
(コメント) ・・・GreeleyにあるSwift社の牛肉処理工場を背にして立つと,青々とした畑の向こうに雪をかぶったロッキー山脈が見える.ここは最も近いメキシコ国境エル・パソから775マイルも離れている.昨年の12月12日,国境がGreeleyを襲った.暴動鎮圧のための地元警察による支援を受けて,武装した移民局が数十人で工場を急襲したのだ.労働者たちを取り囲んでから,彼らを二つのグループに分けた.(入国)記録を持つ者と,記録を持たない者(非合法移民)だ.同時に,アイオワ,ミネソタ,ネブラスカ,テキサス,ユタのSwift工場が捜索され,約1300人の非合法移民を拘束した.
本土安全保障省と移民関税局(ICE: Immigration and Custom Enforcement)は,ID詐欺の捜査だ,という.しかし,4分の1以下の者が虚偽のセキュリティー・カードを問われたが,その他は国外追放された.ICEの係官は,「ワゴン・トレイル(幌馬車街道)作戦は,<非合法移民との戦争>における重要な一撃となった」と述べた.・・・
「国境は単にアメリカとメキシコを分ける物理的空間ではない.それは政治的空間となった.アメリカ国内のどこにでも出現する.」
非合法移民に部屋を貸さない,という条例を可決する地方コミュニティーが増えています.非合法移民の雇用を禁じ,公用語を英語に限る,という条例も,それが憲法に触れるかどうかは別にして,各地で可決されました.すべての都市が移民を排斥しているわけではありませんが,すべての州にそのような条例を持つ町があります.反移民団体は「都市による城壁作戦」Operation City Wallsを提唱しています.
保守派にとっても,非合法移民を1000人拘束することは良い宣伝ですが,1200万人を国外追放することは考えられません.そして,移民排斥を叫ぶ過激な主張は,それほど多くの支持を得ていないのです.左派にとっても,非合法移民が未熟練労働者の賃金を引き下げている,という主張は重要です.
解決策は街が法律を強制することではない,とYoungeは考えます.むしろ国際的な,特に地域的な開発である,と.
「NAFTAやCAFTAのような地域協定では,資本を自由化する一方で,地元の政治家たちが(移民の)労働を犯罪にし,貧しい者を貧しい地域に閉じ込めるのが移民法の目的である.しかし,もっと成功する企画は他にもある.NAFTAはEUに従うべきだ.労働移動の自由化と,社会的結束を助ける基金を組み合わせて,貧しい地域の開発を促す.それがデトロイトでも,グアダラハラでも.移民たちが絶望的な低賃金に苦しむことで流入に上限を課すより,(各地の)労働法や最低賃金を改善することで,NAFTAは賃金と生活水準に受け入れ可能な下限を設定する.」
The Japan Times: Thursday, June 14, 2007
Europe, open your borders
PHILIPPE LEGRAIN
(コメント) たとえ警察国家になっても,移民は止められない.それは地下にもぐって,二重社会を生むだけだ,とLEGRAINは主張します.それは大変なコストを生じるでしょう.犯罪がはびこり,正規の経済活動が蝕まれる.極端な搾取や非人道的な社会状態が蔓延します.
移民たちは侵略者ではなく,より良い生活を求める勤勉な労働者たちに過ぎません.莫大な所得格差は,単に貿易や国際投資が解消するだけではありません.相互の利益として移民が起こる条件なのです.高齢化するヨーロッパや日本は,こうした若い労働者を渇望しています.移民は雇用を奪うだけでなく,新しい雇用をもたらすのです.
The Japan Times: Friday, June 8, 2007
When getting rich impoverishes society
By TOM PLATE
The Guardian Saturday June 9, 2007
The roots of poverty
Mark Braund
NYT June 10, 2007
Income Inequality, Writ Larger
By DANIEL GROSS
NYT June 12, 2007
Blackstone Founders Prepare to Count Their Billions
By JENNY ANDERSON
FT June 14 2007
Happiness lessons
(コメント) パンジャブ大学とオックスフォード大学で学んだエコノミストであり,インド首相でもあるManmohan Singhの演説をPLATEは紹介します.それは,インドが急速に豊かになりながら,同時に貧しい者との差が拡大していることを警告する内容でした.しかし,Singhはただちに政府介入や国有化,社会主義の実験に向かいません.繁栄がその社会から政治的正統性を奪うことを指摘し,裕福な者が利益を上げるだけでなく,その過程で,もっと貧しい者を助けるように求めています.
「貧困を歴史にしてしまおう!Make Poverty History(現代から追放しよう)」というキャンペーンは,なぜ失敗したのか? 王立アフリカ協会のRichard Dowdenと OxfamのMax Lawsonが話し合いました.何よりも重要なことは,(全員ではないとしても)多くの人が貧困を減らしたいと真剣に願っているのに,それが実現しないのはなぜか,ということです.
そこには長い歴史に及ぶ,世界的な構造が存在しており,その意味で,政治の失敗であった,と彼らは考えました.世界に貧富の差をもたらしているのは経済の仕組みです.過去30年間に起きた「自由化」の政治的プロジェクトは,しばしば,大きな貧富の差をもたらしました.彼らの主張とは逆に,富をもたらすよりも再分配を優先する政治が,貧困を減らすのです.
産業革命前のイギリスはもっと平等でした.その時代を再現することはできませんが,現代にその条件を再生することが重要です.かつて誰にでも土地や資本は利用でき,小規模の経済活動がコミュニティーを支えていましたが,今では,貧しい諸国の有機的発展を破壊してしまうことを「自由化」と呼びます.
GROSSは,裕福な諸国の所得格差が給与体系や税制,さまざまな制度的要因によって拡大した,という説明を紹介しています.特に,出来高賃金が増えて,労働組合が弱まり,高所得者の税負担は軽減された,と.
投資ファンドのブラックストーンは,Mr. Schwarzman(60歳)とMr. Peterson(81歳)が1985年に40万ドルで始めました.株式公開のために資料を発表した結果,その資産や彼らの利益が判明した,と言います.NYTによれば,もし株価が30ドルとすれば,シュワーツマンは株式公開によって6億7720万ドルを得,ブラックストーンの株式の24%を保有するため,その資産は77億ドルになります.彼の昨年の収入は3億9830万ドルでした.
先週紹介したLayardの「新功利主義」に関する追加です.学校で若者に「幸福」を教えるのは愚かなことだ,とFTは非難しています.「幸福」は科目に適さない.それは余りにも多様で,誰にでも適用できる一つのモデルにはならない.他の計算や文学も重要である.・・・ しかし,私は「幸福」を直接に教えるべきだ,と考えたLayardに賛成したい気持ちがあります.
経済政策が「成長」を間違って目指しているように,学校は「成績」や「進学」を間違って目指しています.極端な富裕層も,極端な進学校も,「幸福な」社会を実現するわけではない,と思うからです.また,「成績」を嫌うようになった学生たちが目指す他の目標を,学校が何も示さないのであれば,彼らはTVやインターネットからそれを得るでしょう.
政府も学校も,簡単な,正しい答がないからこそ,「幸福」を直接に目指すべきです.
NYT June 9, 2007
By BOB HERBERT
(コメント) アメリカでは,学校が「幸福」を教えるより,子どもたちに刑務所が「現実」を教えるようです.
「フロリダでは,6歳の少女が手錠をはめられ,郡刑務所に連行された.彼女が幼稚園でかんしゃくを起こしたから.」
「ブルックリンの警察は,最近,13歳から22歳の30人以上の若者を逮捕した.彼らは,殺害された10代の友人の通夜に行くため,地下鉄の駅に向かって歩いていた.深い悲しみに沈む若者たちが乱暴したという証拠はない.麻薬も武器も発見されなかった.しかし彼らは連行した警官たちにより,違法で無秩序な行動によって告発された.」
「バルチモアの警察は7歳の少年に手錠をかけた.道端に汚れたバイクを停めていたという理由で拘留した.」
かつては思春期の振る舞いとして正常に扱われたものが,今では逮捕され,投獄されます.このような扱いを受けた子ども達は法の強制や学校を嫌います.最悪の場合,本物の犯罪者を作ることになります.
NYT June 10, 2007
Should We Globalize Labor Too?
By JASON DePARLE
(コメント) ネパールは,アフリカ以外で最も貧しい国です.その年間平均所得は270ドル.国民の3分の2は電気を利用できないし,学校に行く前の子供たちの半数は栄養不良です.しかも,王政派と毛沢東主義者との内戦が続いています.
世界銀行は貧しい農夫にヤギを購入する資金を与えるマイクロ・ファイナンスを推進しています.しかし,貧しい土地に縛られている限り,彼らが貧困から抜け出すチャンスはほとんどないのです.国境を開放し,大規模移民を富裕諸国が受け入れることこそ,本当の解決策です.
この記事の全体を要約するのは困難です.雑誌に載った長い記事ですから.そして,要約しても面白さは伝わらないでしょう.
主人公はLant Pritchettです.彼は,法律家で,しかもモルモン教の牧師でもあった父親から,その篤い信仰心を受け継ぎました.ただし,彼は家族の反逆児で,友達とビールを飲み,高校でも振る舞いを改めないまま,モルモン教の伝統に従いミッションに出ます.それがきっかけで彼は信仰心を取り戻し,同時に経済学にも出会います.そして,貧しい人々を助けたい,と考えるのです.
世界銀行に入って「自由貿易のヒズボラ」と呼ばれたグループに加わった,というのが面白いです.それほど熱狂的に,市場開放の主張を貧しい国々へ布教したのでしょう.世界銀行ではL.サマーズと仕事をしました.しかし,メキシコ危機,アルゼンチン危機を経て,彼は貧困を直接に減らすには「移民」が必要だ,と確信します.
貧しいものと富を分かち合いなさい,とモルモンの教祖は教えました.豊かな国が高い賃金を支払う職場を多く持っているのに,貧しい国の労働者はそれに応じられない.財やサービス,資本が国境を越えるのに,労働力は土地に縛られている.Pritchettはそれを「グローバル・アパルトヘイト」と呼びます.この壁を崩すべきだ,と彼の信仰心は求め,人類の平等な権利に対する偽りのない声は求めます.
それは,アダム・スミスも言うように,互いの利益になるではないか? 文化的な偏見や社会的な差別は確かにあるかも知れません.しかし,Pritchettは考えます.それは移民から豊かになる機会を奪うことによって,彼らに不幸を押し付けるような形で,すでに存在しているではないか? グローバリゼーションから利益を得るうちは開放を叫び,自分たちの偏見や障壁を守ることには固執する.それが裕福な国の現実の姿勢です.
社会的混乱が裕福な国でも(貧しい国だけでなく!)起きるかもしれない.しかし,かつてアイルランドでも,ドイツでも,貧困から抜け出すために大規模に移民したではないか? そして人種的偏見や社会的差別は,それ自体が急速に変化したから豊かになれたのだ.・・・
あなたがアメリカや日本ではなく,貧しいネパールの村に生まれたとき,その意見を正しいと主張できるでしょうか?
NYT June 10, 2007
Larry Summers’s Evolution
By DAVID LEONHARDT
(コメント) 経済学者が政権の経済政策を転換する力を持つアメリカについて,L.サマーズとR.ライシュの論争を紹介しています.そして,特にサマーズの天才と豪腕,その論争を指導する開放的な態度,周到さや率直さを称えています.キッシンジャーがサマーズの高い政策検討能力について,ホワイト・ハウス内に恒久的なポストを与えてはどうか,と述べたほど.
財務長官,ハーヴァード大学学長を務めても,彼の能力が尽きることはなかったようです.あるいは,民主党のアメリカ大統領候補になるのかも知れません.
The Guardian June 10, 2007
Escape from Moscow
Mart Laar
CSM June 11, 2007
Give Bangladesh duty-free access to US markets
By Muhammad Yunus
(コメント) モルドバも,バングラデシュも,ヨーロッパやアジアの中でも非常に貧しい国です.モルドバやグルジアの貧しさは,共産主義体制の残滓やロシアからの内政干渉に関わるものです.ロシア系住民や国内のロシア自治区における独立運動を支持し,民族紛争を煽ります.EUやNATOの支援はわずかです.
他方,Yunusは,貧しい諸国から輸入される財に対して裕福な諸国が関税を全廃せよ,と主張します.
FT June 10 2007
Do not get too excited by Germany’s recovery
By Wolfgang Munchau
IHT Monday, June 11, 2007
The Old World on a roll
By Michael Heise
(コメント) Munchauは懐疑論者で,ドイツ経済の復活を疑う5つの理由を挙げています.1.ドイツは競争力を回復して輸出を伸ばしたが,それは賃金を抑制したからであり,大国が長期に取る戦略ではない.2.生産性上昇が不十分だ.3.輸出の伸びたロシアや中東は石油の高価格に依存し,将来の成長が不確実だ.4.金融部門は旧システムを残し,金融革新が乏しい.5.教育システムの質が低下している.・・・ 日本ではなく,ドイツですが.
Heiseは復活論者です.ヨーロッパ経済は復活した.特に東と南の経済が再編されて,スウェーデンなども生産性を上昇させている,と主張します.その原因は,ヨーロッパもアメリカの長所を学び,取り入れたことです.もう一つは,研究開発分野で投資し,成果を上げてきたことです.むしろ,スウェーデンやオランダのように,社会保障制度を放棄せずに,こうした成果を上げた点で,アメリカ・モデルよりも優れている,と.
LAT June 11, 2007
Reinventing Kyoto
FT June 13 2007
Freedom, not climate, is at risk
By Vaclav Klaus
(コメント) 京都議定書は汚染者が排出量を抑えた国に支払う仕組みを持つが,もし政府が虚偽の報告をすれば,それによって他国から利益を得るのではないか? また,排出量を増やすことが明らかな中国が参加していないような合意に,各国が排出量削減目標を認めて参加することには無理があります.アメリカは,こうした問題を解決する道筋として,自由な市場がより優れた環境技術を採用するように,排出量に課税すればよい,と主張しています.
「地球温暖化は科学ではなく,社会問題である.」 チェコ共和国の大統領は,温暖化をめぐる政治的紛糾を批判し,排出量削減を共産主義に代わる政治的弾圧にしないよう求めます.
l 小さな気温の変化に極端な規制手段を要求してはならない.
l (温暖化を理由にした)自由と民主主義への弾圧に反対する.
l 上から組織するより,望むように生きる権利を守れ.
l 科学を「政治的に利用」して,多数の意見を圧殺するな.
l 環境よりも,個人の行動を重視せよ.
l 社会の自発的な進歩を信頼せよ.理性を信じ,それを歪めるな.
l 破局論を振りかざして,介入主義を正当化するな.
FT June 11, 2007
Will China really overtake Americ?
FT June 11 2007
China aims to end US Navy’s long Pacific dominance
By Mure Dickie and Stephen Fidler
The Guardian Tuesday June 12, 2007
Chill descends on US-China relations
Simon Tisdall
(コメント) ゴールドマンサックスの予想では,2027年に中国経済の規模がアメリカ経済を超えます.しかし,1980年代の日本に対する警戒感や,それ以前にもブラジルの奇跡やソ連への恐れ,があったわけです.
過去の傾向を未来に延長することは,バブルが崩壊する前に株価を予測していた方法でもあり,大失敗につながりました.中国社会の構造的問題は何も扱っていません.ソ連や中国は資本と労働力を追加に供給して成長しただけであり,それに対して,アメリカは自由で創造的な経済が不断に生産性を高めてきた,というわけです.
労働力の追加供給は数年で終わり,中国は急速に高齢化し,環境問題も悪化するでしょう.金融的な破綻や混乱が起きれば,その後の成長が大きく変わります.しかし,中国はアメリカの4倍の人口を持っています.それゆえ,中国がアメリカの一人当たり所得の4分の1を超えれば,経済規模でアメリカを抜きます.成長とともに民主化を実現するのは,日本や韓国,台湾,シンガポールにできて,中国にできないという理由はないでしょう.
そして,もしEUで最も貧しいポルトガルの水準に達するなら,中国の経済規模はアメリカとEUとを合計したよりも大きくなります.
そして,すべての覇権国がそうであるように,中国も急速に貿易や投資の安全を確保するため,海上輸送路やエネルギー供給の安全保障を直接に握るべきだ,と考えるわけです.海軍力の増強はそれを示している,と中国の動向が関心を集めます.それゆえ,中国軍の関与は,朝鮮半島や台湾海峡に限りません.
ニクソンは二つの大国と同時に関係を悪化させることが不利であると計算できました.しかし,ブッシュ大統領にはできません.アメリカはロシアとも,中国とも,軍事力の均衡を破壊していると互いを非難し合っています.中国政府はアメリカ政府の批判を巧妙に,かつ,強く退けています.
そういえば,中国や韓国との領土問題,安保理常任理事国入り,従軍慰安婦や教科書問題は,中国政府の姿勢転換によって鎮静化しています.アメリカが,ロシアに対してだけでなく,むしろ一層熱心に中国に対して,北朝鮮ミサイルに対する共通の貿易網を呼びかけるとき,日本政府は他の問題があるから,と尻込みしている場合ではないと思います.そうなる前に,問題を動かすことです.
STEVEN R. WEISMAN Senators Seek to Penalize China for Trade Policy NYT June 13, 2007
Alan Beattie Avoiding the export crush FT June 13 2007
Gary Schmitt The Power China Is Building WP Thursday, June 14, 2007
Azar Gat The return of Authoritarian Capitalists IHT Thursday, June 14, 2007
(コメント) 貿易不均衡や人民元の為替レートに対して中国を制裁する法案をアメリカ議会は用意しています.他方,アジア諸国は,中国の追い上げに対して,単に産業政策で自国工業の保護を求めるより,同じ産業の中の自国が有利な点を絞って,ピン・ポイントに生き残りを探すようになるでしょう.供給システムが国境を越えて一体化し,国家ごとに「雁行形態」で産業分野を配置する時代は終わったのです.限定された,小規模の企業に革新的な分野で世界市場の獲得を助けるような産業政策が望まれます.
他方,Azar Gatは他の問題を指摘します.世界の自由・民主主義勢力は,非民主的な大国から深刻な挑戦を受けている.特に,中国やロシアなど,権威主義体制が資本家的な投資によって世界に浸透しています.それゆえアメリカがEUと協力して,かつてドイツや日本を転換させたように,北京とモスクワを展望します.
FT June 12 2007
Japanese welcome for ‘black ships’ of change
By Michiyo Nakamoto and Andrew Hill
(コメント) 投資ファンドによって企業が買収される方が,日本経済の改革は加速する,という論説です.それが外国企業でも,投資ファンドでも,その企業の所有者が自分たちの金で経営の改善を目指すのであれば,政府や国民はそれに慣れるしかない.買収防衛策を積み重ねるより,その方が良い,と.
NYT June 12, 2007
After the Bomb
By WILLIAM J. PERRY, ASHTON B. CARTER and MICHAEL M. MAY
アメリカの都市で核爆弾が使用される危険は,5年前よりも高まっている.世界各地で核兵器の開発が進められており,ソ連崩壊後の核管理も信用できない.同時に,世界中にテロ組織がはびこり,過激な集団が勢力を拡大している.彼らは核物質を使ったテロを計画しているだろう.
政府は,アメリカの都市が核攻撃を受けないように何をなすべきか,という問題に答えるだけでなく,核攻撃を受けた後に何をなすべきか,という問題にも答えなければならない.
その被害を予測し,対策を講じておく.さらに,爆弾の生産者を突き止めることもできる.しかし,9・11のように,テロリストだけでなくそれに関わる政府,たとえば,パキスタンやロシア,に報復することは生産的ではない.核兵器の流出や盗難について,テロリストの保有する核を確かめるために協力を要請するべきだ.それを拒む政府には報復も考慮するだろう.
国民がパニックを回避できるように,政府は憲法に基づく緊急時の行動を協力して取るべきだ.すべての対策は一時的であり,危機が予防もしくは回避されたときに,速やかに再評価し,廃止される.
The Guardian Thursday June 14, 2007
Faced with the tragedy of Iraq, the US must rethink its whole foreign policy
Timothy Garton Ash in Stanford
FT June 14 2007
‘Iraq syndrome’ might not be all bad
By Kurt Campbell and Derek Chollet
(コメント) アメリカ軍は,結局,イラクの内戦に武器を供給している,とAshは批判します.次の大統領はどうするだろうか?
・・・これは軍事力における戦争ではなく,ソフト・パワーにおける闘争として勝利しなければならない.イラクには,アメリカが望むような,軍事的な解決策は存在しない.その地域が受け入れる答を見つけるしかない.アメリカは軍備拡大のための5000億ドルを,もっと他の用途に使うべきだ.・・・
Kurt Campbell and Derek Cholletは,まったく逆です.「イラク症候群」を恐れる意見は多いが,イラク戦争後も,アメリカの外交政策は機能するし,次の大統領を怯えさせることもない,と.たとえば,この戦争によってアメリカの姿勢は国際機関を重視するものに戻った.議会と大統領のバランスも回復した.軍事力以外にも外交手段を開発する努力を強めるだろう.アメリカは権力の限界を熟慮し,より謙虚に振舞うだろう.
特に,軍務に服した兵士たちは,ベトナムと違って,戦線を離脱することなどなかった.軍隊はその訓練や施設を強化している.そして国民から深い尊敬と感謝を得ている,と.
FT June 12 2007
Villains and victims of global capital flows
By Martin Wolf
(コメント) この奇妙な世界経済,とWolfは嫌います.しかし,それはまだ終わりそうにない,と.急速な成長と国際不均衡,異常な低金利,インフレ的な金融の拡大,リスクの蓄積,・・・
「過剰貯蓄」説と,「過剰流動性」説とが対立しています.多分,どちらも正しい.彼らの意見が分かれるのは,異常さの背後にあるのが,過剰貯蓄を強いる中国(アジア)なのか,それとも,過剰流動性を撒き散らすアメリカ(金融市場)なのか,という点です.
もし世界が過剰貯蓄に苦しんで折るなら,アメリカの対外赤字(過剰消費)は世界を不況から遠ざける救世主です.もし世界が過剰流動性に苦しんでいるなら,アメリカこそドル暴落とインフレを準備する放蕩者です.アジア諸国の通貨介入や,アメリカ人のクレジットによる買い物は,どちらもいずれ終わります.
SPIEGEL ONLINE - June 13, 2007
SPIEGEL INTERVIEW WITH UK PRIME MINISTER TONY BLAIR
'Ten Years Is Long Enough'
(コメント) トニー・ブレアが最近の政治問題とともに,その10年を振り返ります.その回答には,彼自身の優れた見識が見えます.
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The Economist June 2nd 2007
The West and Russia: Speak truth to power
Russia and Chechnya: The warlord and the spook
Tony Blair: What I’ve learned
Activist investors: Owner drivers
Natural gas in Wyoming: Boom and doom
Sierra Leone: Justice at last?
Charlemagne: In search of an immigration policy
Economics focus: Guests v gatecrashers
Global warming: Struggling to save the planet
Chinese bankruptcy: Euthanasia for companies
(コメント) 論説は,ロシアへの「宥和政策」を説いています.敵対しても良くないし,孤立させてもいけない.短期的な制裁は効き目がない.率直に意見交換すれば,ロシアの国内政治が時間をかけて変わるだろうから,それを助けるしかない.トニー・ブレアの複雑な政治的遺言は,イギリスという国から世界政治を眺め,国内政治を盛り立ててきた姿勢,相互依存の条件で自分の決断を語る明晰な言葉を展開します.
株主が経営者の権利を脅かしている,という変な論争.経営者たちの地位が奪われ,給与を削られるから? アメリカ,ワイオミング州に現れた「資源の呪い」「オランダ病」を紹介します.シエラ・レオネでテイラーが引き起こした残虐行為の描写,地獄絵の現出には絶句するでしょう.
移民政策をめぐっては,アメリカでもヨーロッパでも,正しい政治的解決策が見出せません.地球温暖化のG8政治交渉を整理・解明し,中国の破産法によって改革が前進することを歓迎しています.