IPEの果樹園2007

今週のReview

6/11-6/16

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

貧困を終わらせる, 中国の株式投資熱, アメリカ移民政策改正案, G8による温暖化防止, 六日間戦争, 福祉国家と累進課税, 投資ファンド

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT May 29 2007

How the rich world can help Africa help itself

By Glenn Denning and Jeffrey Sachs

ドイツ,ハイリゲンダムに集まった世界で最も裕福な諸国の指導者たちは,翌週のG8サミットに出る主要工業諸国であるが,アフリカが自分で何をしているかをまず知ることから,彼らに利益をもたらせる.世界最貧国の一つ,マラウィが,飢餓と貧困に対する戦いで力強い前進を示している.もしG8が2年前にGleneaglesで約束したように貧しい諸国の国内における努力を助けるため多くの力を注ぐなら,この戦いに勝利できる.

2005年,マラウィのトウモロコシの収穫は最悪であった.2月の旱魃で収量が大きく減った.全国の収穫は120万トンに過ぎず,前年比29%の減少,国民の必要より45%も少なかった.国連は2005年の8月に飢餓救済の緊急支援を要請し,次の耕作に向けた肥料と種子を求めた.食糧援助についてはすぐに援助する国があったけれど,肥料と種子の支援は少なかった.11月までに,500万人近いマラウィ人が食糧不足と飢餓に直面し,2006年の収穫も悲惨な状態を予想させた.飢餓や極端な貧困により,死を招く病気,性的な暴力,強奪,が蔓延し,子供たちの学校出席率が急激に下がった.世紀末的な予想は避けがたかった.

マラウィのいくつかの援助国は反対したが,Bingu wa Mutharika大統領とそのチームは,飢餓を予防する農村投入支援計画を実施した.6000万ドルを要したが,それはマラウィ国民一人当たり約5ドルに当たる.政府は種子と肥料を,100万以上の小農家に低コストで種子と肥料を提供した.これはマラウィ政府に多くの財政負担を生じたが,この費用は裕福な諸国にとってわずかな寄付であっただろう.

貧しい農民が世界価格の3分の1の価格で50kgの化学肥料を二袋まで購入できた.高収穫品種の種子も支援された.その結果は目覚しいものだった.小農たちの収穫量は二年目に豊作を迎え,記録的な320万トンに達するだろう.降雨に恵まれ,収穫が膨れ上がった.今年の予想は100万トンの余剰農産物を得て,飢餓の隣国に輸出を計画している.

食糧援助ではなく,食糧輸出が焦点となっている.生存を維持する農業から,長期的な地方の経済転換が目指されている.政府の支援計画は,作物の多様化から,輸出用の食糧生産とあわせて,高価値の現金作物を育てることに向けられる.懐疑や悲観は一掃されて,とうとうアフリカにも緑の革命が実現する.

マラウィが注目すべき転換を果たした.その教訓は,1オンスの予防は1ポンドの救済に値する,ということだ.飢餓予防に投資するなら,年間6000万ドルで,食料の緊急支援であれば何億ドルもかけて救うことになる人々よりも多くが飢餓を免れる.しかもマラウィの農民たちは今や高価値の産出に向けた長期的経済転換に挑んでいる.

マラウィが完全に貧困の罠から抜け出すには,さらに多くのことが必要である.水や灌漑に投資し,農業を多様化し,農村医療を広め,電力を供給し,長期的成長のために道路やインフラを整備することだ.

飢餓が襲ってから食糧援助を船に積み込むのではなく,G8はアフリカの農民たちが重要な農業投入を得られるように,また,貧しい地方の農村が食糧を確保し,持続的な経済発展を達成できるように,助けるべきである.

極端な貧困を終わらせるときが来た.

June 1 (Bloomberg)

Bill Gross, China Have Roles in Brazil's Revival

William Pesek

IHT Friday, June 1, 2007

No more the 'hopeless continent'

By Nicky Oppenheimer

(コメント) 援助の増額を求めるSachsらに対して,Pesekはブラジルの成長をまったく異なる視点で考えます.ブラジルが成長を加速することに強い意欲を示す理由は,中国と中央銀行にある,というのです.

中国の高成長は,これまで発展途上国の工業を安価な輸出品で押しつぶす脅威と見なされていましたが,むしろ,変化の触媒として作用しつつあるからです.特に,中国の成長がもたらす農産物や資源への需要はブラジルの輸出や投資を刺激します.同時に,インフレ抑制に優れた成果を示す中央銀行のHenrique Meirelles総裁をダ・シルバ大統領は支持しています.

中国に比べて,ブラジルは通貨価値の増価が競争力を奪い,労働者の大部分が都市と商品経済に依存しており,インフラの整備も遅れています.資本の調達コストや課税の弱さ,そして腐敗は,成長にとって重大な障害です.

Oppenheimerは,アフリカの成長率が80年代,90年代と改善し,5%に高まったことを考えます.その理由は,Sachsとは逆に,裕福な諸国が援助の増額を果たさず,アフリカ諸国が自立を目指したからだ,と主張します.

アフリカ諸国は多様で複雑なため,成長をもたらす単純な答はないのです.アフリカにはスラムが急増し,世界のHIV感染者の3分の2が居ます.農業の生産水準もアジアの3分の1です.

しかし,成長を高めた5つの理由がある,と言います.1.民主的で自由な経済改革,2.BRICsの登場,3.アパルトヘイトの終焉,4.地域の安全保障,5.グローバリゼーションにおける追い上げ,です.外部の支援に頼るより,中国や南アフリカがアフリカに及ぼす需要や投資の機会を,自分たちの国内改革によって吸収することに成功し始めた,というのです.

The Japan Times: Thursday, May 31, 2007

Latin America learns art of the possible

By BJORN LOMBORG

LAT June 4, 2007

Africa fooled us again

Niall Ferguson

FT June 4 2007

Why Africa needs a Marshall plan

By Glenn Hubbard and William Duggan

(コメント) LOMBORGは,ラテンアメリカの成長を阻んできた貧富の格差,その政治的意志を実現する経済的資源の制約,を強調します.ラテンアメリカの格差は余りにも大きく,上位10%と下位10%の人口が,それぞれ,総所得の約半分と,たった1.6%しか得ていません.4人に1人が12ドル以下で暮らします.

LOMBORGは,もしラテンアメリカが100億ドルを得たら何に使うか? という問いを立てます.それによって教育や行政を改善し,暴力や犯罪を減らせるか? 援助を増やすよりも,こうした問題を考えるグループを育て,明確なリストを持って投資することに,成長の条件を見るわけです.

Fergusonは,トニー・ブレアを奴隷制開放を指導したWilliam Wilberforceにたとえます.道徳的な使命感によって世界を改善しなければならないと考える人々が,積極的な国際的介入を唱えました.しかし,その世代,世代で,アフリカの貧困に心を痛め,支援や救済を唱える理論が示されましたが,それはすべて失望に変わったのです.

融資をしても,援助をしても,アフリカの貧困は減りません.なぜなら,アフリカの問題はその政治にあるからです.腐敗,独裁,内戦,それらが植民地支配の終焉後もアフリカが貧しい理由なのです.

その証拠に,果てしない無政府状態に苦しむ元植民地のシエラレオネに,ブレア首相は軍隊を送り,介入によって治安を回復しました.ブレアはフリータウンを訪れた際,政治的行動が世界を改善できる,われわれは行動しなければならない,と演説しました.その情熱はWilberforceと同じです.

ブッシュ政権の経済諮問委員会委員長であったハバードは,マーシャル・プラン60周年を記念して,アフリカの救済を唱えています.


China’s latest wobble FT May 30 2007

DAVID BARBOZA and KEITH BRADSHER Chinese Shares Plunge 6.5 Percent NYT May 31, 2007

John Ng A warning shot for China's markets Asia Times Online, May 31, 2007

Geoff Dyer and Jamil Anderlini China stocks plunge 8% on policy fears FT June 4 200

China’s correction FT June 4 2007

KEITH BRADSHER Chinese Stocks Rebound After Drop NYT June 5, 2007

William Pesek Karl Marx Is Back, and Punting on Chinese Stocks June 6 (Bloomberg)

(コメント) 中国の株式市場はますますカジノに似てきました.ますます多くの人々が株式によって儲けることに夢中です.NYTはその様子を伝えます.

「大学教授,退職者,商店主,学生,スイカ売りの露天商まで,株を買うために店頭に行列する.中国株の大狂騒に参加したいのだ.毎日30万以上の株式取引口座が開設される.取引業者はには短期売買を繰り返すデイ・トレーダーが押し寄せ,巨大な株価表示板の前で弁当を広げている.」

携帯電話に届く投資家への挨拶も,「今こそ株の買い,買い,買いどきですよ!」 中国国歌をまねて,「奴隷であることを拒むなら,・・・立ち上がれ! 投資口座を開け! あなたの金も銀も熱き市場に注ぎ込め!」

市場には小規模な投資家が多すぎる,という不満も聞かれます.地面に落ちた肉の一切れに群がり集まった蟻のようだ,と.

健全な株式投資文化を学ぶように,と金融当局は取引税引き上げを説明しました.より重要なことは,取引税で株価が下落する前に,中国の金融当局が発表した三つの引き締め策です.金利引き上げ,預金準備率の引き上げ,ドルに対する人民元の変動幅拡大.過熱した経済から過剰流動性を取り除くことが目的でした.

この株価下落が大きな影響を及ぼす,とはまだ誰も考えていません.しかし,この半年足らずで倍増した株価水準が,同じだけ暴落するとしたら,その損失は12000億ドルというが以下水準に匹敵する,とFTは指摘します.

政府が介入することを期待して,投資家たちは買いを止めません.もし本当に長期にわたって株価が暴落すれば,彼らは政府を糾弾するでしょう.市場が崩壊する恐れはないし,中国企業の利潤は潤沢で投資を脅かすこともなく,株価上昇によって消費が過熱した様子もないから逆の効果も恐れていません.国際的な波及も限られています.

Pesekはまた,マルクスやミルトン・フリードマンを持ち出して,中国のねじれた経済発展を揶揄します.中国株式市場のカジノは貧困を減らす効果がある.マルクスは市場を嫌い,産業予備軍が労働者たちの搾取を恒久化すると考えた.フリードマンは,社会主義より資本主義の方が富を作り出すから貧困も減らす,と考えた.

中国には,無数の投資家が予備軍をなしています.労働者たちの投資がカジノに溢れ,ますます多くの人々を豊かにします.それが最終的に崩壊して,貧しい人々の投資熱が資本主義の富を損なうのか,マルクスにもフリードマンにも分からないでしょう.

株価が暴落すれば,北京であれ,香港であれ,東京であれ,政府は躊躇なく介入します.

FT May 30 2007

Relax about China’s markets

By Geoff Dyer

(コメント) もし上海の株価が暴落し,それが世界的な暴落の引き金になるとしたらどうか? 中国の不況が,たとえば,世界の鉄鋼需要に影響する.ラテンアメリカの貿易黒字に影響する.アメリカの財務省証券市場に影響する.・・・

それは限られた影響にとどまる,というのが一般的な答です.中国政府が慎重に資本取引を自由化しなかったおかげで,株価が暴落しても引き揚げる外国資本はないし,海外への資本逃避も抑えられるでしょう.株式市場はまだ中国経済の小さな部分です.


Matt Frei Washington diary: Seeking a visa BBC 2007/05/31

Joel Stein My run for the fake border LAT June 1, 2007

JANET NAPOLITANO Don’t Forget the Border NYT June 1, 2007

MICHAEL LIND The Two-Year Solution NYT June 1, 2007

JORGE G. CASTANEDA What Mexico Wants NYT June 1, 2007

DANI RODRIK Be Our Guests NYT June 1, 2007

Charles Krauthammer Get in Line, Einstein WP Friday, June 1, 2007

Skills versus families LAT June 2, 2007

DANIEL ALTMAN Shattering Stereotypes About Immigrant Workers NYT June 3, 2007

STEPHEN KOTKIN A Day in the Life of an Interconnected World NYT June 3, 2007

Jim Hoagland Watching Our Welcome Mat WP Sunday, June 3, 2007

Mickey Kaus Immigration -- Bush's domestic Iraq LAT June 4, 2007

LAWRENCE DOWNES ‘Silent Amnesty’: Where the Hard Right Goes Soft on Immigration NYT June 7, 2007

(コメント) BBCが伝えるように,ブッシュ政権下の移民政策は極端に不合理な,移民たちの権利やアメリカ社会への貢献を無視した,一方的な管理政策を押し付けています.たとえば大使館で三日待たされる! それでもニュー・メキシコやアリゾナへ国境を歩いて越える非合法移民より,まだましな取引である,と移民たちは我慢します.

9・11以後も移民たちはバーガーを焼き,ホテルのベッドを整えるけれど,「アメリカ要塞」は精神病になり,しかも,穴だらけです.議員たちがアメリカ=メキシコ国境を閉ざすために10フィートのフェンスを作るための予算を認めたとすれば,それは非合法移民とコヨーテたちにとって,10フィートの梯子が必要になるだけのことです.

アメリカの境界線に100%の安全保障などない.唯一の答は「政治的なもの」である,とイスラエルの場合と同じ主張を読みます.それが理解できないなら,映画,『メキシコ人が消えた日』を観れば良い.子守も,庭師も,建設作業員も,ホテルの清掃婦やレストランの皿洗いも,もしカリフォルニアから消えてしまえば,そこはまったく違う世界です.

このいびつな移民システムが,イラク占領に劣らず,ブッシュの残す重大な負の遺産となるでしょう.

Steinは,非合法移民になって国境を越え,警備隊に追跡される観光ゲームを体験して報告します.アリゾナ州知事やメキシコの元外相がコメントを寄せます.なぜアメリカの市民権を得るのにこれほど長い居住年数や,高額の罰金支払を要求するのか? それは移民国家アメリカの理想を汚す主張である,と批判する学者がいます.

他方,RODRIKは,アメリカとメキシコの双方で移民や政府のインセンティブを正しく示すように求めています.そうすることで,移民による莫大な利益を双方が得られ,しかも,ドイツが失敗したようなゲスト・ワーカー制度の再現を阻止できる,と考えます.

アメリカはグローバル化する経済システムに鍵をかけるのか? 中国のように,政治的支配者の都合に合わせて,アメリカも外国人を差別するのか? アメリカという雇用の磁石を鈍らせたいのか? 世界市場に結びつくことが,あなたにとってそれほど有益であるなら,なぜ彼らが働く場所を制限するのか?

ワインのブドウ畑から見るアメリカ,テレビやインターネットで誇張された豊かさを振り撒くアメリカに,貧しい,仕事のない,第三世界から追い出された人々が何とかして集まってくることを,絶対に阻止する方法はありません.移民システムの改革は,移民を流出させる地域の経済改革と同時に模索されるしかないのです.

Kausはブッシュ大統領が,イラク戦争と同じ思考パターンで移民システムの抜本的改革を推し進め,同じ大失策をもたらすだろう,と主張します.イラクからはまだ撤退することができる.非合法移民を爆発させるアメリカ社会はどうすれば良いのか? アメリカ人の定義を変える?


Philip Stephens Bush plays for time as the planet begins to burn FT May 31 2007

Playing to the Crowd: Talk About Warming NYT June 1, 2007

Fiona Harvey in London, Hugh Williamson in Berlin?and George Parker in Brussels Europe furious at US climate call FT June 1 2007

Mark Hertsgaard Calling Bush's bluff The Guardian Saturday June 2, 2007

Mr. Bush Warms Up WP Saturday, June 2, 2007

THOMAS L. FRIEDMAN Our Green Bubble NYT June 3, 2007

Global warming FT June 3 2007

John Sauven A cool reception The Guardian Monday June 4, 2007

Ronald Brownstein Don't sugarcoat climate change LAT June 6, 2007

Joseph Stiglitz 'Bush's Policies Are Accelerating Climate Change' SPIEGEL ONLINE - June 6, 2007

(コメント) 安倍首相の2050年排出量半減案や,ローレンス・サマーズのアメリカ効率化計画提案を単純に称賛したのは,別に間違いだったと思いませんが,論争の経過に無知で,政治論争において致命的にナイーブだった,と反省しました.

何が問題か? と言えば,ブッシュ氏は京都議定書やヨーロッパ諸国の合意した強制的な削減案を一切受け入れなかったのです.今回も,G8の直前に技術革新を促しながら上限は設けない提案をして,国際合意に参加しない言い訳を用意しました.これは典型的な分断化,焦点のすり替え,交渉ぶち壊しの作戦だ,とヨーロッパの推進派は激怒しました.

新しい技術さえあれば強制的な上限など要らない? 環境国際規制推進派から見ればブッシュ氏の主張は間違っています.自分で勝手に環境を守りたい人たちに任せる限り,環境保護は実現しませんでした.新しい技術や代替エネルギーもあるのに,それは普及しなかったのです.排出量の規制があれば,人々はその他のエネルギーや効率化,新技術の開発に投資するでしょう.できるだけ柔軟に,それぞれの試みを競争させる仕組みとして,推進派も排出権取引を受け入れました.

ブッシュ氏の提案が意味するのは,イラク問題以上に,彼がいかに孤立しているか,ということです.国際政治においても,アメリカ国内でも,すでにブッシュの政治的影響は失われています.彼は,自分が辞めるまでアメリカは方針を転換しないぞ,と主張するだけです.そしてアメリカが動かなければ,中国もインドも参加しないのだ,と脅迫を繰り返します.

地球温暖化の国際的枠組みを作るのは,現在と将来の最悪環境汚染国家(まるでテロ国家),アメリカと中国なのでしょうか? ヨーロッパの推進派は,自分たち裕福な諸国が温暖化の現状を創ってしまったことを認めるからこそ,率先して50%の削減,さらに80-90%の削減を実行し,発展途上諸国を含む国際システムを目指しています.


SPIEGEL ONLINE June 01, 2007

ISRAEL'S PYRRHIC VICTORY

Looking at the Middle East, Four Decades after the Six-Day War

By Christoph Schult in Jerusalem

FT June 1 2007

And on the sixth day the world changed

By Harvey Morris

BG June 7, 2007

Four decades of occupation

Sandy Tolan

(コメント) 六日間戦争(第3次中東戦争)の40周年です.生存を賭けたイスラエルが,わずか6日でエジプト軍をガザ地区とシナイ半島から追い出し,ヨルダンとシリアにも勝って,ヨルダン川西岸地区やゴラン高原,エルサレムの旧市街も占領支配してしまった戦争です.中東におけるイスラエルの軍事的優位が確定し,それ以来,アメリカはイスラエルとの同盟関係を築きました.アラブ諸国の民衆に根深い怨嗟とナショナリズムが広まり,パレスチナ難民の解放戦線が結成され,占領地における抵抗と弾圧,テロの応酬など,中東世界の紛争は続きます.

多くの記事が,1967年の戦争は「幻の大勝利」(Pyrrhic Victory)であった,と振り返ります.戦争や占領だけでは,数百万人の住民を無視して,平和や新しい国境を決める理由になりませんでした.イスラエルは40年もかかって,そのことを認め,占領地を返還し,安全保障を確立することに苦しんでいます.

今もエルサレムでは,超正統派ユダヤ教徒が真っ黒な衣装で「嘆きの壁」に向かい,前後に揺れながら祈りをささげます.若い敬虔なユダヤ教徒がその後ろを取り囲み,さらに後方には観光客がカメラを持ってうろつく,とSpiegelの記事は紹介します.

この戦争をもたらした一つの要因は,内外のユダヤ人を恐怖させた「第二のホロコースト」という暗黒のイメージでした.少数のユダヤ人がイスラエルを建国した後,圧倒的に多数のアラブ諸国はその生存を認めず,各国の指導者たちが威嚇と軍事的な圧力を競って誇示しました.その発言はエスカレートし,イスラエルを認めないし,一人のユダヤ人も残さない,と宣言する世紀末的な政治家が民衆に支持されたのです.

イスラエルの内外で,ユダヤ人たちは「ヒトラーとホロコーストの再現」を恐怖しました.左派の英雄であったジャン・ポール・サルトルがイスラエルの生存権を支持する訴えを発表し,アメリカのマーチン・ルーサー・キング牧師も「聖なる土地」に連帯を示しました.他方,アメリカのペンタゴンはベトナム戦争に苦悩し,イスラエルの紛争に関わることを嫌いました.ジョンソン大統領は,「勝手に戦争を始めるな」と警告しました.

1967年の戦争は,イスラエルが望まない戦争でした.半年前に完成した報告書は,明確に,軍事行動がイスラエルの国益ではない,と主張していました.ソ連はエジプトのナセルを支援し,ケネディーに譲歩したキューバ危機から関心をそらしたがった,とある記事は述べています.避け得たはずの戦争が,始まってしまえば予想もしない占領と大勝利をイスラエルにもたらし,その後の歴史を変えたのです.

国連が認めた分割線を越えて広がった占領地域を得たことで,生存のための戦いはパレスチナ住民の支配へと変わりました.しかし勝利の前夜,「100万人のアラブ人たちをどうやって支配するのか?」とラビンは軍事顧問に問います.イスラエルの軍人たちは自問しますが,今も,その答を見出せないのです.占領の現実はあまりにも冷酷で,自分たちの求めていた民主的秩序を蝕みました.救世主的な「大イスラエル主義」が現実によって支持され,イスラエル政府は超保守派や過激派を呑みこみ,政治全体はさまざまな少数派に分裂します.

イスラエルの拡大と入植地の建設は,一部の過激な主張から政府の政策に変わりました.莫大な予算を投じて,占領下のパレスチナ人を見ることもない裕福な暮らしを,入植者たちに保障しています.水を支配し,エアコンの効いた家に住み,ぶどうを育て,ワインを醸造するような暮らしです.確かにイスラエル国内では物理的な障害物が撤去されました.しかしパレスチナ人は見えない壁に取り囲まれています.ユダヤ人たちはパレスチナ人の人口増加を恐れます.和平を実現するためには,両者を分断する壁を一方的に築くしかない,と主張します.

哲学者のLeibowitzは,戦争直後に,占領が征服者を破壊するだろう,と主張しました.パレスチナ人への抑圧がテロリストを育てるだろう.平和のために土地を返還せよ.無条件に,若いイスラエル兵たちを帰還させるべきだ,と主張したのです.しかしラビン首相は,占領軍を「ユダヤのナチス」と呼んだこの哲学者を終生許しませんでした.

Michael Oren Remaking the world in six days LAT June 3, 2007

A fight that must go back to the land FT June 3 2007

Martin Woollacott1967: The price of victory The Guardian Tuesday June 5, 2007

Seth Freedman1967: The Jewish Mecca The Guardian Tuesday June 5, 2007

Abdel Razzaq Takriti1967: A fragmented existence The Guardian Tuesday June 5, 2007

Meir Shalev Israel's lost 40 years LAT June 5, 2007

TOM SEGEV What if Israel Had Turned Back? NYT June 5, 2007

(コメント) 1967年の勝利はイスラエルの生存を保障するための条件であった,とOrenその意義を強調します.国際政治におけるイスラエルの地位も高めました.国連決議242は占領地とイスラエルの生存を保障する基本的な交換条件を示し,もし双方が合意すれば,和平は実現できました.戦争はその勝利を現実の中に築けたわけです.

それを阻んできたのは,双方の誇大な政治的要求や幻想的イデオロギーであった,とFTも批判します.アラファトは「武装した抵抗」を選択肢からはずすことはなかったし,イスラエルは占領地の合併を推し進めました.アメリカ政府も和平を支持する双方の政治勢力を正しく支援しなかったようです.

アメリカやイスラエルは,自分たちに有利な交渉相手を求めてパレスチナ側を分断し,抵抗を求める強硬派を破壊しようとしました.しかし,その結果は新しい強硬派が台頭し,交渉相手を失い,イスラム原理主義が浸透するのを助けてしまったのです.安全を得るために占領地を拡大し,軍事的攻撃を強めた結果は,平和ではなく紛争だった,とイスラエル国民が嘆くのです.宗教的な遺跡を回復したことがどれほど重要な成果として強調されても,平和を築けなかったことに代わりません.

1948年,イスラエルの「独立戦争」の最中に生まれたShalevは,独立当時から1967年の厳しい状況を回想します.彼は六日間戦争に従軍しますが,その勝利について,将来を憂慮したために父親と反目しました.生地を回復し,イスラエル拡大を目指して入植を繰り返すことは過ちであった,と認めます.イスラエルは領土やパレスチナ人,テロ,聖地,入植地の放棄,などに奔走しています.しかし,独立したときの夢とは,自分たちの子孫に教育,研究,福祉,健康を求めていたのです.

今のパレスチナ人がそうであるように.

SEGEFは,イスラエル政府の記録で,最近,極秘扱いを解除された資料から,当時の政府の考えを示しています.というより,戦争によって他の選択肢が一切考慮されなくなったことを伝えています.その後の占領拡大と入植こそ,現在でも和平を失敗させる最大の要因なのです.決定や作戦は予想外の展開と失敗を積み重ねました.

The Guardian Wednesday June 6, 2007

1967: Israel cannot make peace alone

Israeli prime minister Ehud Olmert

The Guardian Wednesday June 6, 2007

1967: Our rights have to be recognised

Palestinian prime minister Ismail Haniyeh

(コメント) イスラエルとパレスチナの政府を代表して,戦争とその後の40年間を考察しています.イスラエルのオルメルトOlmert首相は,パレスチナ人の暴力が1967年よりはるか前からあった,と主張し,イスラエルは占領を求めたのではなく,独立を求めただけだ,と訴えます.紛争は地域住民が境界を認めれば終息する.二つの民族は二つの国家に分かれて住めばよい.その交渉ができる政治的な相手を捜し求めているが,パレスチナの政治は成熟しなかった,というのです.

ある意味で,北朝鮮のように,周辺諸国との関係正常化が最終目標です.

他方,パレスチナのハニヤHaniyeh首相は,軍事的な優位が紛争を解決する道ではないことをイスラエルは40年経っても理解していない,と主張します.パレスチナ難民たちは戦後の二十年間国際政治においても無視されていました.世界はパレスチナ人が追放され,アパルトヘイト体制が強制され,パレスチナ人の生活が組織的に破壊されているのに,何の抗議もしなかった,と.世界がその現実に漸く気づいたのは, 1987年にインティファーダが起きたからだ.

イスラエルは,パレスチナ人の願いを過小評価する点で致命的な過ちを犯しました.1967年からの占領は65万人のパレスチナ人を抑留しました.今日,パレスチナ人の4分の3は世界に散って,500万人の難民となりました.それにもかかわらず,世界はイスラエルが「生存を脅かされている」という宣伝を尊重するのです.現実には,この植民地戦争の続行により権利を奪われたのはパレスチナ人である.イスラエルこそがパレスチナ人の土地と生存を脅かしている,とハニヤは主張します.21世紀に,鳥かごのように囲われた土地へ人間を押し込める政府を,西側諸国は支持するのか?

Nick Stadlen1967: A shared, if distant, goal The Guardian Wednesday June 6, 2007

Jerold S. Auerbach An unfulfilled promise BG June 7, 2007

Ahmad Shaheen 1967: Abandoned and rejected The Guardian Thursday June 7, 2007

(コメント) シモン・ペレスはノーベル平和賞を受賞した際に,中東が5年から10年で核武装するだろう,と予想しました.「領土的な境界は安全を保障しない.弾道ミサイルと核兵器の世界で国家を守ることはできない.生き残るためには,軍事力に劣らず,政治的な知恵,道徳的な説得が必要である.」

Shaheenは難民キャンプで生まれました.彼の妻もそうです.キャンプの暮らしは過密で,耐え難いほど暑く,冬の夜には信じられないほど冷える,と.燃えやすく,火事による犠牲が絶えず,医療や社会サービスはありません.一日おきに国連が水を配ります.・・・

われわれが今も生きていること自体,奇跡のようだ.われわれは時間の中に凍結され,世界の諸政府から孤立し,見捨てられている.私は望んで難民となったわけではない.私は土地に帰る権利を永久に保持するつもりだ.しかしそれがかなう前に,この砂漠と荒廃から出て,安全と尊厳を取り戻したい.私はテントで生まれたが,テントの中で死にたくない.


Asia Times Online, Jun 2, 2007

Rice demand nukes Korean 'peace regime'

By Donald Kirk

NYT June 4, 2007

Escape From North Korea

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 韓国政府がいくら熱心に関係正常化や「平和レジーム」への転換を唱えても,北朝鮮は在韓米軍や在日米軍,アメリカと日本の動向を理由に非核化や和平を進めません.韓国政府が鉄道開通やケソン工業開発区,クムガンサン観光に熱心であるのに比べて,アメリカや日本は北朝鮮の行動促進に消極的です.

また,中国政府は北朝鮮に協力して,中国における脱北者の送還,支援活動の禁止を実行しました.刑罰を重くして,協力者を摘発します.


The Guardian Friday June 1, 2007

Brazil does it better

Lula da Silva

FT June 1 2007

Biofuels need not leave us hungry

The Guardian Tuesday June 5, 2007

The cost of food

(コメント) トウモロコシなどの穀物をエタノールに変えて自動車の燃料にする,という計画が,石油価格上昇とともに,穀物価格の値上げにつながり,貧しい人々が食糧としての穀物やさまざまな耕地を失ってしまうのではないか,という不安は正しいと思います.もちろん,サトウキビの葉や茎,さまざまなクズの植物繊維をエタノールに転換できるなら,環境にとって望ましいでしょう.

それでもブラジルのルーラ・ダ・シルバ大統領の言うエタノール生産と雇用創出,貧困解消を望むより,直接に雇用をもたらし,貧困を減らす方策は多くあると思います.もしエタノールの利用が補助金や間違った価格設定で促進されているなら,エタノールに加工するエネルギーが石油などに頼っているなら,環境を守ることはないわけです.


The Observer Sunday June 3, 2007

The left should heed the upheaval Down Under

Will Hutton in Sydney

(コメント) グローバリゼーションや中国経済からの需要によって輸出財の価格上昇と成長を加速したオーストラリアやニュージーランドの資本主義は,さらに国際資本が流入して企業買収に熱中し,通貨価値の上昇やインフレ抑制と住宅バブルにより,気が付けば生産性上昇は落ち込み,景気は悪化し始めていたようです.

グローバリゼーションは,それが好景気をもたらすうちは誰にも疑われず,確かな基礎のない幻の繁栄を享受します.


LAT June 2, 2007

Making Iran our friend

By Reza Aslan

(コメント) イランの宗教政治を打倒するには,アメリカがイランの政府や体制を非難しなければ良いのです.なぜなら,イランは中東において最も民主的体制の歴史が長く,市民の活動が活発です.市民に聞けば,彼らは経済の困窮に不満を持っていることが分かります.もしアメリカが経済制裁をやめて,ラテンアメリカや東欧で試みたように貿易や投資を通じてイランの景気回復に協力すれば,イランの宗教支配は民主的に解体されるでしょう.もしアメリカがイランを中東における中心的な国と認めるなら,イランとの交渉も,中東全体の非核化も,進展するはずです.


The Japan Times: Sunday, June 3, 2007

Religion: prop or antidote to capitalism?

By HAROLD JAMES

(コメント) 藤原正彦の書いた『国家の品格』がハロルド・ジェイムズの話題に取り上げられるとは,驚きました.

資本主義は価値の体系を必要とする,という主張の系譜をジェイムズは遡り,M.ウェーバーやF.ハイエクなど,資本主義の発展とそれを支える宗教や価値観を議論します.そして,自由主義や民主主義を嫌って,アジア的価値を唱える『国家の品格』が,日本以外のアジア諸国では嫌われるだろう,と述べます.結局,アジア的価値を資本主義の加速機として利用する主張が,中国の共産主義支配と似て,その価値自体を損なってしまうでしょう.


FT June 3 2007

China is shouldering its climate change burden

By Ma Kai

June 4 (Bloomberg)

China Doesn't Steer the U.S. Interest-Rate Ship

Caroline Baum

FT June 5 2007

Market Insight: Gambling culture fuelling China’s market

By Hugh Young

NYT June 7, 2007

Chinese Auto Parts Enter the Global Market

By KEITH BRADSHER

(コメント) 中国に関する4つの論説です.1.中国は環境保護のための政策で協力する用意がある.すでに,中国は人口抑制策によって大幅に世界の温暖化防止に貢献している.2.中国の外貨準備がドルから分散されても,日本の外貨準備が財務省証券の売買で変動しても市場を混乱させなかったように,問題ない.3.アジアの新興経済は,株式市場の高騰と賭博に酔う傾向がある.台湾はバブルを潰して経済の均衡を回復したが,中国も同じようにできるか? 4.自動車部品においても中国製品の安さと品質向上は目覚しく,世界に輸出されるだろう.問題は人民元のレートである.

つまり,・・・日本企業や政府は,中国との環境保護政策で協調を進める余地が大きいし,外貨準備のドルからの分散化を進めておく方が良いでしょう.中国のバブル崩壊にも備えなければなりません.それとは別に,人民元レートの調整をアジア諸国間で制度化し,中国の安定した輸出拡大を自国の成長に取り込む方針で,内外の改革を推進してはどうでしょうか?


What the G8 must achieve FT June 3 2007

Laggard at the G-8 BG June 4, 2007

Ban Ki Moon Hear the first victims of climate change IHT Monday, June 4, 2007

George Monbiot Don't listen to what the rich world's leaders say - look at what they do The Guardian Tuesday June 5, 2007

Kumi Naidoo The G8 leaders are committing a passive genocide The Guardian Thursday June 7, 2007

Looking for Leadership NYT June 7, 2007

(コメント) G8は意味を失いました.G8という国際会議が有効な解決策を示せる問題とは何か,他の国際機関や自国で優先的に取り組むべき問題は何か,政治ショーとして意味のある参加者とその演出や発言を吟味する時期です.・・・温暖化,コソボ独立,イランの非核化,ダルフール難民,アフガニスタンのタリバン掃討,アフリカのエイズ,・・・

G8は,そのGDP総額のわずか0.15%でしかない500億ドルを,年々の援助として2010年までに増額する,と約束しました.これは裕福な国にとって小さな額ですが,貧しい人々が成長する機会を得るために重要な条件を用意します.

地球温暖化は,われわれすべてに影響するだけでなく,貧しい者を犠牲にして豊かな者がその苦しみを免れます.アフリカの貧しい農民は旱魃と砂嵐により収穫を失い,家畜を失います.海洋に点在する島々の住民は水没を恐れます.国連事務総長の潘基文は,黄海を越えて降り注ぐゴビ砂漠の砂によって韓国が窒息しつつある,と指摘します.こうした問題を解決するために,国連は設立された,とその使命を訴えます.

われわれは世界的な規模のアパルトヘイト経済に住んでいる,という認識が発展途上諸国に広まるでしょう.毎日,アフリカだけで6000人がエイズで死ぬ.これはある種の受動的なジェノサイド(大量虐殺)ではないのか? 人々は緊急に行動が必要であることを知っている.しかし,この予防できる貧困で死ぬ数百万人を無視して,政治家たちはくだらない調整に時間を費やし,自己満足に耽っている.・・・

IHT Monday, June 4, 2007

The four circles of a changing world

By James Wolfensohn

(コメント) R.ゼーリックが世銀総裁に指名されたことに寄せる論説です.世界を4つのスピードに分けて,東西対立や南北問題に対応した国際機関やG8の見直しを求めています.


The Japan Times: Monday, June 4, 2007

A torrid tale of three 'Swedish models'

By ASSAR LINDBECK

FT June 5 2007

Why progressive taxation is not the route to happiness

By Martin Wolf

(コメント) 「スウェーデン・モデル」について,LINDBECKは,三つの時期を分けています.

まず,1870-1960年代には,政府は市場を支援する法律や教育,健康,インフラに投資しました.この100年間で,スウェーデンは一人当たりGDPで見て西側の最も貧しい国から第3位に上昇しました.しかし,196085年は,寛大な福祉国家の建設,いわゆる「スウェーデン・モデル」に向かいました.公共支出はGDPの30%から60-65%に増え,限界税率は1960年の約40%から6575%に上昇しました.この間,中央集権的な労働組合が強化されて,労働や投資のインセンティブは抑制され,スウェーデンは労働市場や金融市場が規制されたのです.一人当たりGDPはOECD諸国の平均より18%下回り,順位も3位から17位に後退しました.

1990年代初めから,第三期の模索が始まりました.限界税率を下げ,通信,電力,輸送,タクシー,一部の鉄道などで規制緩和が進みました.人的サービス部門でも,託児所,教育,老人介護など,バウチャー・システムによって競争と選択の自由が導入されました.また,資産や遺産相続への課税を撤廃しました.賃金への課税を減らし,寛大な給付を削りました.成長が改善しつつありますが,これらはスウェーデンの伝統的な平等主義と矛盾する面があります.特に短期的に,政権が維持できるかどうか,それは次の選挙しだいです.

Wolfの論説は,LSEのリチャード・レイヤードR. Layardが整理した「幸福の科学」(怪しい新宗教ではありません)について考えています.面白いのは,人が幸福だと感じることを基準に,つまり新しい功利主義によって,経済政策を評価しなおす点です.

端的に言えば,人々は所得が増えるほど幸福を感じる,というわけではないのです.アメリカのグラフが示すように,時代を追って所得は増えているのに,とても幸せだ,と答える人の割合は増加せず,低迷しています.もし成長ではなく,人々の幸せ,を直接に目標にするのであれば,現在の政策は間違っているわけです.

幸せを感じる要因としては,良好な家族関係,堅実な財政状態,仕事,信頼できるコミュニティー,慢性的苦痛や精神疾患からの解放,個人の自由,が指摘できます.こうした要因(その代理変数)で幸せの80%を説明できます.さらに,スウェーデンとアメリカは幸せを感じる割合がそれほど変わらない,アイルランドとイギリスは,フランス,ドイツ,イタリア,スペイン,日本よりも幸せを感じる,ということが示せるそうです.・・・福祉国家も,国家の品格,幸せとは関係が無いわけです.

その後,WolfLayardの主張を批判しています.Layardは相対的な地位が幸せを妨げる「外部性」を生じるから,公害問題と同じように課税するべきだ(つまり,累進課税),と主張します.平等な社会を望ましいとする新功利主義を,ウルフの自由主義本流が否定する,という話です.


The Japan Times: Tuesday, June 5, 2007

Avoid the security dilemma in Asia

The Japan Times: Thursday, June 7, 2007

Playing the new Great Game in Asia and beyond

By BRAHMA CHELLANEY

(コメント) 北東アジアにおける安全保障のジレンマは避けられないでしょう.それは中国経済の躍進,軍事技術の革新と軍備の更新,政治的な友好関係の見直し,などが避けられないからです.

日本政府は,さまざまな戦略?もしくはイメージを外交に並べ始めました.アメリカ,ASEAN,オーストラリア,インド,中央アジア,EU,アラブ諸国,などに関心を示します.もちろん朝鮮半島も.CHELLANEYの論説は,中国,インド,ロシア,(イラン?)が同盟関係を結ぶことを懸念し,日本が,アメリカ,インド,オーストラリアと新しい同盟関係を結ぶ,という提案の吟味です.

あるいは,貿易や投資のネットワーク,市場変化への迅速な対応,安全保障の性格変化,などを考えれば,大国の組み合わせをあれこれ思案することに,問題がある,と思います.


The Guardian Tuesday June 5, 2007

This wild west capitalism is born of servility to the City

Polly Toynbee

FT June 5 2007

Of hedge funds and regulators

By Ian Morley

The Guardian Thursday June 7, 2007

In defence of private equity

Nicholas Ferguson

(コメント) 莫大な私的利益をもたらす投資ファンドへの批判と,公的な利益とも一致しているという自己正当化が試みられています.

「投資ファンドの重役たちは清掃婦よりも少ない税金しか払っていない.」 税率のことですが,彼らは10%か,もっと少ないのです.もし株式市場が活況であれば,たとえば,投資ファンドは公共事業を買収し,完全に所有して解雇と賃金カットを実施し,再建支援の公的資金や免税措置を活用し,あるいは資産の売却で黒字に転換して,その後,速やかに株式市場でこの企業の株を売却してしまいます.潤沢な役員報酬だけでなく,上昇する株価からも大きな利益を得るのはもちろんです.

さまざまな金融手段を駆使して,投資ファンドの重役たちは清掃婦よりも少ない率でしか税金を支払うことはない,と自慢したそうです.それは起業家精神ではなく,投機的な錬金術ではないか? 企業が社会的責任を認めるなら,資本主義であることが問題ではありません.しかし原始的な,規制されない資本主義に戻るのであれば,それは問題である,とToynbeeは主張します

Ian MorleyNicholas Fergusonも投資ファンドの創設者や会長です.彼らの考えでは,ドイツのように投資ファンドを規制するのは間違いです.それは投資ファンドを含めた株式市場の成長機会を逃し,期待された効果もないでしょう.もし規制するのであれば,政府は投資ファンドなどの業界団体と協力して正しい規制を決めることです.

投資ファンドで働くことは,と息子たちの質問に答えています,社会的に有益な仕事である,と.まず,他の投資家よりも優れた収益を上げている.第二に,それは政府機関や保険会社,年金基金に役立っている.第三に,企業の組織や経営を改善している.資本主義は投資と革新を通じて生産性を改善し,社会的な豊かさを実現する.投資ファンドはその使命を果たしている,と.

たとえ買収した企業で解雇されるものがあっても,社会全体では成長率を高め,投資を増やし,雇用を改善する.金融システム不安をもたらしていないし,社会全体として労使関係を悪化させたとも言えない.

買い手の居ない企業にも投資ファンドは資金をもたらします.アダム・スミスが指摘したように,見えざる手を信じるなら,投資ファンドは問題ではなく,その解決策である,と.


David Kirkham Enduring lessons of the Marshall Plan CSM June 05, 2007

Harold Meyerson The Korean Analogy WP Wednesday, June 6, 2007

Steve Negus Time is running out for political solution in Iraq FT June 6 2007

(コメント) イラクの治安回復,政治的安定化,地域安全保障は,アメリカ軍の手によって確立できないだろう,という認識を英米の論説が示し始めています.中東全域に欧米の協力したマーシャル援助を実施する,という構想が,地域協力や統合を促す枠組みと一緒に育つ可能性は無いのでしょうか?

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The Economist May 26th 2007

Israel’s wasted victory

Israel and the Palestinians: Forty years on

America’s proposed immigration reform: Better than nothing

Immigration: Of fences and visas

British schools: The S-word

Marriage in America: The frayed knot

Lexington: The politics of plenty

Germany’s depressed east: Blossoming landscapes

Sovereign wealth funds: The world’s most expensive club

Economics of focus: The great wall of money

(コメント) 六日間戦争に関する記事が興味深いです.浩瀚な研究書の紹介もあります.アメリカの移民法改正案についてもさまざまな批判が紹介されています.

イギリスの学校,アメリカの結婚,豊かさがもたらした支配的政治思想と政治党派,なども面白いです.

しかし,いずれも時間切れで詳しく読めませんでした.・・・旧東ドイツ,各国政府による投資ファンド,BRICについての論説があります.