IPEの果樹園2007

今週のReview

5/28-6/2

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

投資ファンド, バーチャル・ウォー, 移民法改正案, 米中戦略会談, 北朝鮮非核化は失敗する, アジア諸国の改革, サラダを食べた! 「愛国心」を法律にするな

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Blackstone’s critics FT May 17 2007

Japan’s new M&A rules FT May 17 2007

Private Equity Goes Prime Time NYT May 18, 2007

Martin Arnold in London, Richard McGregor in Beijing, Francesco Guerrera in New York and Joanna Chung in London Beijing to take $3bn gamble on Blackstone FT May 18 2007

Francesco Guerrera Beijing to buy stake in Blackstone FT May 20 2007

ANDREW ROSS SORKIN and DAVID BARBOZA China to Buy $3 Billion Stake in Blackstone NYT May 20, 2007

China and Blackstone FT May 21 2007

Private equity and unions FT May 23 2007

Tony Tassell and Joanna Chung The $2,500bn question FT May 24 2007

(コメント) クライスラーを74億ドル(約8900億円)で買収したのはサーベラスCerberus Capital Managementです.アメリカやヨーロッパの投資ファンド(private equity funds)による企業買収はますます活発になり,他方,日本企業はその防戦に知恵を絞っています.

買収といっても,尋常ではない金額です.たとえば,ブラックストーンthe Blackstone GroupAlliance Data Systemsを買った額は,78億ドル(約9400億円)です.公開市場で売買される株式には,その価格に見合った経営内容であることを示す情報を要求されますが,投資ファンドに所有されてしまえば社会に対して情報は閉ざされ,ファンドが何をするのか分からない,という不安があります.

企業を所有した投資ファンドは,労働者を大量に解雇し,大規模に借り入れて経営者に対して高額の報酬を支払い,株主(自分)に対して高額の配当をする,と言われます.それでも会社の持つ資源を効率的に活用し,できるだけ早く株式市場に戻って株式を高く売ることでさらに儲けるわけです.

日本企業が一斉に「ポイズン・ピル」を多用するとしたら,株式市場や企業価値が違う意味で荒れてしまうでしょう.また,防戦のための企業連携や株式持合いが競争を妨げる企業のグループ化を促すとしたら,皮肉な結果です.株式市場や株価が市場によって最適な水準に決まる,などと信じることはできないわけです.

さらに驚くべきニュースとして,中国政府が膨大な外貨準備で運用益を上げる新しい手法として,30億ドルをブラックストーンに投資する,と発表しました.もちろん,米中摩擦に配慮し,アメリカの投資家や政治家をなだめるための新しい方策でもあるでしょう.ポールソン財務長官への親愛の挨拶でしょうか?

各国の労働者が抗議しているときに,中国の資金で投資ファンド買収された企業が大量解雇を通知するとしたら,中国の変貌ぶりには言葉もありません.人民元を切上げれば中国国内で大量解雇が起きるかも知れません.背に腹はかえられない・・・!

世界中の外貨準備や年金基金が投資ファンドで運用を拡大しつつあるとしたら,この経済システムの変容を,安定性から攻撃性へ,とでも呼ぶべきでしょう.

May 22 (Bloomberg)

China's Trojan Horse, Italian Banks, Derivatives Boom

Timshel

May 23 (Bloomberg)

Blackstone + China = Bubble Marriage

William Pesek

FT May 24 2007

Asia explores ‘innovative’ approach to reserves

By Mark Schieritz in Frankfurt

(コメント) アメリカは安全保障を理由に石油関連企業の買収を中国に対して拒んだにもかかわらず,ブラックストーンが中国の資本を受け入れることは拒みませんでした.もちろん,まだ投資ファンドが中国の資本で満たされたわけではありませんが,海外企業の間接的な買収であることは確かです.かつて,アメリカ企業がヨーロッパを買収し,日本企業がアメリカを買収しましたが,いまや中国やインドの企業が世界中の企業を買収し始めたようです.

しばしば聞かれる「トロイの木馬」説です.1兆ドルを超える外貨準備で,世界の優良企業を買収し続けるのか? その意味でも,中国の変貌に世界は驚くわけです.

もちろん,見方を変えれば,これもかつてあったように異常な行動であり,バブルであり,投資した企業や不動産は大幅な損失を記録して売却されるだけなのです.1976年に毛沢東が死ぬとき,今日の中国の姿をわずかでも予想していたとは思えません.同様に,今の中国人は未来を予測していないのです.

アジア開発銀行ではなく,これからは,投資ファンドがアジアの変貌を支配しそうです.それは楽観的に考えれば,アジア諸国が外貨準備を活用して債券市場で運用する手始めであり,アジアの債券市場を育成し,同時に,資本移動が不安定化するのを防ぐためにスワップ網や政策支援を整備しつつある新しい方針が実現してきたわけです.新しい金融・通貨秩序ができるとしたら,投資ファンドも必ずその一部に加わっています.


SPIEGEL ONLINE - May 17, 2007

OLD WARS AND NEW: Estonians Accuse Kremlin of Cyberwarfare

WP Tuesday, May 22, 2007

For Estonia and NATO, A New Kind of War

By Anne Applebaum

(コメント) 日本の天皇・皇后がエストニアを訪問して子供たちの独立の歌声を聴いた,といったニュースを観たように思います.こんなときに? 間違いかもしれません.

ソ連軍の記念像を移設した政府の措置に抗議して,4月,エストニアの首都タリンで,ロシア系住民による暴動が起きました.1945年にナチス・ドイツを撃退したソ連軍に対して,エストニアが感謝を記した銅像でした.

その後,エストニアでは,政府・官庁,銀行,ニュースのサーバーが攻撃を受けて観ることができない,と言います.ロシアがエストニア政府を威嚇するために行ったサイバー・ウォー(仮想世界の戦争)ではないか,と考えられています.しかし今のところ,ロシア政府を刺激しないために,EUもNATOもこの問題でロシアを非難することは控えています.メディアでは,NATOの集団的防衛に触れる問題だ,と指摘されています.

ただし,攻撃は他の地域からも起きているため,ロシアを名指しすることはエストニア政府も止めたようです.もちろん,本当の攻撃の発生地点は隠せるのです.Applebaumは,憤慨した愛国的中国人がコンピューターから日本政府やアメリカ政府にサイバー攻撃をかける可能性にも言及しています.

ロシアはさまざまな威嚇手段を試しているのでしょう.エストニアにはバーチャル・テロ攻撃,リトアニアには意味不明の修理工事を理由としたパイプライン閉鎖,そして,ポーランドの牛肉やドイツのワインに対する輸出禁止命令.次は何か?


WP Thursday, May 17, 2007

The Next Social Contract

By Reid Cramer and Ray Boshara

(コメント) 大統領選挙によって何が問われるのか? この論説は明快に,それが社会契約の再生だ,と主張します.市民,雇用主,政府の間で,基本的な経済の安定性や社会的上昇について取り決め,もしくは手打ちがなされていなければなりません.それは今,どこでも,大きく崩壊しつつあるようです.

なぜなら合意の多くは以前の工業社会の制度や習慣,自立した国民経済と政府の能力を前提しているからです.大統領候補たちは,こうした新しい条件に対して,(被雇用者ではなく)市民として納得できる社会契約を示さなければならない,と訴えます.

Lynda Gratton Steps that can help women make it to the top FT May 22 2007

Anthony Giddens You need greater equality to achieve more social mobility The Guardian Thursday May 24, 2007

(コメント) 女性の社会的進出を阻む障害を取り除くことは,21世紀の競争を左右するでしょう.ヨーロッパの企業で重役に占める女性の割合は15%に過ぎない,とGrattonは指摘します.その改善策や制度を,日本も本気で模索しているでしょうか?

社会的移動性についても,イギリスでは論争になっています.日本は格差解消だけでなく(その成果はあまり期待できません),社会的移動性の改善に取り組んでいるでしょうか?


NYT May 17, 2007

Who’s Worse, Nixon or Bush?

By Jules Witcover

NYT May 18, 2007

Don’t Blame Bush

By PAUL KRUGMAN

May 22 (Bloomberg)

Carter Takes the Prize Among the Worst Presidents

Amity Shlaes

The Guardian Tuesday May 22, 2007

America's reputation is in tatters. But after Bush, recovery could be swift

Max Hastings

BG May 23, 2007

Look in the mirror, Jimmy Carter

By Jeff Jacoby, Globe Columnist

(コメント) 政治学者の暇つぶしは,最も優れた(あるいは最も酷い)大統領は誰か? という話をすることです.ワシントン,ジェファーソン,リンカーン,F.D.ルーズベルトは多くが支持し,トルーマンやレーガンについては意見が別れます.最近では,G.W.ブッシュが最悪だ,という声が強いわけです.しかし,カーター元大統領のブッシュ批判は度を越えていると顰蹙を買いました.

不人気という意味で,Witcoverは,ニクソンと比較しています.ウォーターゲートの前に,すでにニクソンは支持を失っていました.それは余りにも自分の権力維持だけに固執したからです.そのために国政を混乱させることさえ省みなかった,と.

KRUGMANは,ブッシュを責めるな,と論説で主張します.なぜなら共和党とはそういう政治集団なのだから.共和党の次の大統領候補たちは,拷問を支持し,法の支配を軽視します.テロリストに裁判など要らない,と主張し,グァンタナモ監獄をもう一つ作ろう!・・・などと叫べば,支持者たちの大喝采を受けるのです.

カーター氏は地方紙に「史上最悪だ」と語ったようですが,その後のNBCテレビで,誤解された,不注意だった,と訂正しました.これまで最悪の大統領としての汚名を浴びてきたカーター氏がブッシュ政権を嫌っているのは周知のことであり,その発言も当然でした.しかし,・・・政治家は互いをかばうものかも知れません.

多くのアメリカ人はカーターの時代を嫌います.失敗だらけのケインズ主義,野放しのインフレに乱発された経済統制,最後には,イランのアメリカ大使館で人質事件が起き,その救出作戦にも失敗してアメリカの威信を損なった,・・・など.原則もなく右往左往したカーターに比べて,ブッシュの方がましだ,という結びにもなるわけです.

アメリカ大統領が世界中で嫌われても,アメリカはすぐに復活します.たとえ困難でも,次の大統領はイラク問題に新しい視点で取り組み,アメリカ軍を撤退させるでしょう.アメリカは過去に無頓着で,新しい事態に立ち向かうことを政治の使命としています.


Immigration innovation LAT May 18, 2007

A big deal on immigration BG May 19, 2007

Bill Ong Hing Anti-family immigration? LAT May 19, 2007

The Immigration Deal NYT May 20, 2007

A new melting pot FT May 21 2007

Greg Anrig Servitude for guest workers The Guardian Tuesday May 22, 2007

Tamar Jacoby Immigration's Future WP Wednesday, May 23, 2007

John Hughes Merits of the bipartisan immigration reform deal CSM May 23, 2007

Immigrant law held up at the border FT May 23 2007

(コメント) 上院でまとまった移民法改正の合意は,新しいビザ資格(Zビザ)を設け,家族の呼び寄せよりもポイント制を導入し,ゲストワーカーの利用を公認する,というものです.

200711日よりも前に入国したアメリカ居住者に合法的な長期滞在資格を与えることは,非合法移民の解消に必要です.犯罪歴,諮問押捺,英語,雇用状態,そして手数料もしくは罰金を支払うことで,滞在資格が得られます.また,伝統的な家族の呼び寄せに代わって,能力主義的なポイント制は,教育,雇用歴,英語能力,などにポイントを与えます.しかし,南部の農場などが必要とするゲストワーカーは,むしろ新しい非合法移民の抜け道になる,と危惧されています.

言うまでもなく,国境警備の補充やフェンス建設,罰金の支払い,能力主義への転換,その他,すべては政治的な妥協と合意形成の産物です.ブッシュ政権が重視していたゲストワーカー計画は市民と完全に切り離され,また労働組合の反対で厳しい制限が付きました.それでも,ブッシュ政権の下で成立する,とは言えないようです.

家族の呼び寄せを制限してポイント制を重視する方針転換が,最も論争を呼んでいます.それはアメリカ社会の原則,重要な価値観を見失っていないか? とNYTも批判します.移民たちを歓迎し,彼らの同化を促してきたアメリカの理想主義は廃れてしまう.家族をバラバラにして,近代的な奴隷制度を導入するものだ,と.

しかしFTは,この法案により,アメリカが求める熟練労働者を獲得できるし,21世紀の経済に有益でないような拡大家族の際限ない流入を抑制する,と考えます.ただし,その欠陥により,非合法移民の居住は解消されず,むしろ増加するかも知れません.連邦政府が改革に失敗すれば,各州や町がバラバラな統制と介入を始めるでしょう.

アメリカは新しい「人種の坩堝」となるメカニズムを必要としているのです.WPのJacobyも方針転換を歓迎して,アメリカが将来に向けてグローバリゼーションに対応した移民政策を採用する意義を強調します.

NYT May 22, 2007

America’s Admissions System

By DAVID BROOKS

(コメント) ハーヴァード大学に入るのは難しい.つまり,アメリカ市民になるというのは,ハーヴァード大学に入学するようなものだ,とBROOKSは指摘します.志願者たちは優秀な成績を示し,地域社会への貢献をアピールします.それは学生にとっても,社会にとっても良いことです.

ところがアメリカに入る人々は勤勉さや責任感,厳しい競争を求められていません.彼らは犯罪組織を頼り,親族を頼り,あるいは,幸運を頼る,と.この入学システムは間違っているわけです.現在のシステムはアメリカに有用な労働力を供給する視点がありません.

新しいインセンティブ・システムとは,1.すでにアメリカ国内に居住する非合法移民たちは,長期的な視点で法を遵守し,英語を学び,貯蓄に励む(罰金を支払うため)と,下層階級から中産階級への切符が手に入る.2.海外でアメリカ入国を夢見る者たちは,幸運に頼って密入国を繰り返すのではなく(国境警備は厳しくなる),ポイントシステムに応じた技能や英語の修得に努力する.3.短期の労働需給に応じてゲストワーカーを受け入れる.彼らは2年の周期で働き,1年間は母国で待機して再考する.

BROOKSはさらに,このシステムを,受け入れ先から市民権を与えるオーディション方式にすればよい,と考えます.高度な教育や学位より,もっと彼らの重労働や忍耐を評価するべきだから.また,家族を一緒に連れてくることを認め,その責任感を高める方が良い,と.


NYT May 18, 2007

An Export Boom Suddenly Facing a Quality Crisis

By DAVID BARBOZA

NYT May 19, 2007

China Will Allow Its Currency to Fluctuate More

KEITH BRADSHER

WP Sunday, May 20, 2007

A Shining Model of Wealth Without Liberty

By James Mann

FT May 21 2007

China’s unbalanced economy

By Richard McGregor

(コメント) 12000億ドルの外貨準備が企業買収に使われる恐怖よりも,もっと身近な問題の方が政治的には重要かも知れません.中国製のペットフードを食べて,アメリカの犬や猫が何千匹も病気になり,あるいは死んだせいで,その安全性を証明する責任が問われています.

アメリカ史上最大のペットフードのリコールであり,中国産の食品・農産物全体に対して不信感が強まっています.薬品や化粧品など,他の業界にも不安が広がっています.アメリカは中国に対して,業者の登録や検査官の派遣などを要求しています.中国側でも,その監視体制のスタッフは収賄や手抜きを糾弾されています.また,国内の安全基準を厳しくする,とも言います.

かつて,同様の問題が起きた韓国に対して,中国政府が取った態度とは大違いです.

しかし最も影響力があるのは,人民元の為替レートと金融政策をめぐる議論です.中国の人民銀行は為替レートの一日の変動幅を0.3%から0.5%に拡大する,と発表しました.ただし,これはドルに対する切り上げではない,と主張しています.同時に,金利を引き上げ,資産に対する準備率を大きくして,投機的な融資を抑える措置を取りました.

こうして政府は民間の企業や投資家に,バブルのリスクや為替レート変動のリスクを注意するよう促しているわけです.しかし中国もまた,安価な農産物の輸入により,農村の崩壊が起きることを恐れています.

Mannは,イラク戦争によってアメリカが非難される一方,中国は評価を上げた,と指摘します.世界中の権威主義的な独裁政権は,アメリカよりも中国が指導的な役割を果たすことを歓迎するでしょう.そして中国の発展モデルが尊敬を集めます.

経済と政治の自由化が民主化ももたらすというアメリカの主張は,イラクですっかり信用をなくしました.中国の経済発展が人々に自由化や民主化を求めさせるだろう,という前提で,市場を開放してきたアメリカの政治家たちにも深い失望を生んでいます.中国がアメリカと同じように資本主義を受け入れた,という楽観は間違っていたわけです.世界中から資本や雇用を吸収して,中国の共産主義体制は繁栄し続ける?

こうした不満を受けて,経済戦略会議の性格を変えるべきだ,という気運がアメリカ政治に見られます.中国に政治的な改革も求めること.アメリカの国益を重視すること.

FTのMcGregorによる論説は「不均衡」を考えます.中国経済の輸出と投資(それゆえ工業生産設備)を偏重した姿は,アメリカが批判するだけでなく,中国政府も懸念してきました.抑制策にもかかわらず,中国の経済システムはそれに反応しないのです.地方が競争的に投資し,世界市場に輸出できるシステムには,成長を減速するオフ・スイッチがありません.

人民銀行の金融政策はその目標を一致させることが非常に困難です.インフレやバブルを抑えるために貨幣の供給を調整するだけでなく,為替レートや金融市場の改革,銀行システムの安定化,高騰する株価の暴落リスク,などに配慮しても,これまで二十年間も成長を維持してきた政策姿勢を翻すことは難しいのです.

こうした行き詰まりを打開する革新的な発想が,ブラックストーンへの投資であったわけです.しかし,毎月200億ドルも増える外貨準備を考えれば,30億ドルの投資は小手調べです.海外の買収を済ませてから,多くの投資ファンドを中国本土にも呼び込んで,国内の株式市場に投資家の姿勢と規律を学ばせたい,と願ったのかも知れません.

しかし,中国政府の現状維持的な政策姿勢とアメリカ政府の姿勢とは,ますます食い違う傾向があります.特に,貿易不均衡に注目するなら,今のような為替レートや金利の調整では中国側の急速な生産性上昇によって吸収されてしまうでしょう.輸出と設備投資に偏った成長を修整する政策を見出すことが,今は高成長によって隠されている資本や資源の浪費(将来の困難)を回避するためにも急がれます.

IHT Monday, May 21, 2007

U.S.-China trade talks should search for common ground

By Philip Bowring

FT May 21 2007

US and China can build an agenda for success

By Fred Hu

FT May 21 2007

Win-win option for the US and China

(コメント) 互いを非難するより,アメリカは国内貯蓄を改善するしかなく,中国はその輸出に依存した成長パターンを改めるしかないのです.そこで,通貨や貿易を超えて米中が協力する基盤はどこにあるか?

それは環境と貿易を組み合わせることです.両国とも京都議定書に加わらず,エネルギーを浪費し続けている最悪のケースです.両国ともエネルギー供給を確保する投資を望んでいます.多角的な貿易システムが維持されることや,国際金融システムを改革することにも共通の関心を持っています.

すでに,中国が温暖化ガスの削減を目標として掲げ,中国の姿勢を言い訳に使ってきたアメリカ政府に解決への圧力を生じています.アメリカ政府は中国を封じ込める冷戦思考に戻るより,むしろ自国の保護主義を解消する政策に取り組むべきだ,とFred Huは考えます.

両国の困難を前提に,最も有利なウィン・ウィン取引を考えるなら,それは証券市場に外資を受け入れることだ,とFTは主張します.中国なら,できるかも知れません.

The Guardian Tuesday May 22, 2007

Trading with China

The Guardian Tuesday May 22, 2007

Dealing with the dragon

Jonathan Fenby

FT May 22 2007

Paulson urges action in China trade talks

By Krishna Guha in Washington

NYT May 24, 2007

China Talks Don’t Resolve Major Issues

By STEVEN R. WEISMAN

(コメント) 中国の副主席がワシントンDCを訪ね,ブッシュ大統領だけでなく,中国(への雇用流出)が大嫌いなルー・ドブともCNNで対談しました.人民元は安すぎる,という不満がアメリカに渦まいています.そして,中国は余りにも大きい.このまま貿易を許してよいのか? 自由貿易への信頼が揺らいでいます.

中国はまだ非常に貧しい国ですが,その経済は十分に世界的な影響力を発揮しています.議論には参加するけれど,中国は国際的な基準など認めず,結局,中国がしたいと思うことだけをするでしょう.中国の副主席はアメリカに言います.圧力をかけようとするな.それは問題を複雑にして,解決できなくする,と.経済的に躍進した中国は,世界政治で一つの権力中枢を占めています.

米中の話し合いは友好的でした.しかし,中国へのエンゲイジメント・ポリシーを強く主張してきたポールソン財務長官の願いはかなわず,ますますアメリカの政治において少数派に追い込まれます.「アメリカ人は勤勉で,非常に革新的だが,同時に気が短い」とポールソンは中国側に注意します.このままでは,中国が世界的競争のマイナス・イメージを代表する国になってしまう,と.

アメリカが日本との構造協議に取り組んだときも,こうした雰囲気と政治問題を抱えていました.しかし,当時,日本政府の姿勢は根本的に逃げ腰であったし,アメリカの政治家たちの態度が中国を軽視することはないでしょう.あのキッシンジャーでさえ(?)中国との友好関係を最大限に尊重しています.

中国側は論題をアメリカ政府が決めてしまうことに反発します.もっと厳しく保護主義を非難するべきだ,と.経済問題は経済だけで解決するべきで,政治化することは受け入れない.「国内問題の責任を他国に求めるべきではない」と.そして,もしアメリカが貿易不均衡を解消したいなら,ハイテク製品の規制を撤廃すればよい,と主張します.

対話は,「半分だけ満たされたグラス」なのか,それとも,「アメリカ国民をだますショー」なのか? ポールソンは12月の第3回対話に中国側が具体的な成果を示す,と期待しています.

FT May 20 2007

China and America need not be energy rivals

By Daniel Yergin

(コメント) エネルギーは貿易や通貨と違って米中の協力を促す,とYerginは考えます.エネルギーの安定供給や価格高騰について,各国の対立や論争が起きています.また環境問題も複雑です.中国の重商主義的な国益追求はさまざまな摩擦の焦点です.

中国はわずか15年でエネルギーの自給体制から50%を輸入する国に変わりました.アメリカと中国が国際エネルギー市場の需要の35%を占め,圧倒的な1位と2位です.中国にはそのような行動を取る理由があります.すなわち,その規模と緊急性です.それゆえ,エネルギーの国際市場で競争が行われることではなく,それがさまざまな国際政治によって乱されることが問題だ,とYerginは考えます.

アメリカは中国に世界市場を信頼できると教え,その制度に参加を促すべきでしょう.安定した市場,開放された貿易や投資によって,両国は利益を得るからです.市場のかく乱に備えて,アメリカは中国が石油備蓄するのを助けても良いでしょう.また,両国が膨大な国内資源として保有する石炭の効率的利用と環境規制に関して,協力することもできるでしょう.


Sebastian Mallaby Finishing What Wolfowitz Started WP Friday, May 18, 2007

William Pesek Wolfowitz Legacy Is Reviving Asian Monetary Fund May 21 (Bloomberg)

(コメント) ウォルフォヴィッツが去っても,世界銀行は発展途上国の腐敗をなくす努力を続けるべきです.援助の効果を上げるために,次々に政策の焦点が変わりました.まず援助が完全に実施されるためには,国際機関が強制するのではなく,受入国の政策「オーナーシップ」が主張されました.さらに,受入国政府の「選別」が強調され,その後,腐敗した政府の下でも貧しい住民を救うために「制度の構築」が主張されたわけです.

アフガニスタンとイランでの失敗を見れば,今後,国際機関は間接的なアプローチに向かうでしょう.しかし腐敗を直接に非難し,その国の制度を指図するより,地元のジャーナリストを育て,政府に情報開示を促し,地域住民が自分たちで政府支出を監視する方が,はるかに政府を律する,ということが分かってきました.

ウォルフォヴィッツの信用失墜とアジアへの無視は,ドルやアメリカ財務省への依存を減らし,金融危機に備えるアジア通貨基金の復活を許しました.これが遺産だ,とPesekは書きます

NYT May 23, 2007

3 Global Financial Institutions’ Roles Questioned

STEVEN R. WEISMAN

ウォルフォヴィッツの辞任によって世界銀行の混乱は収拾された,というより,その存在意義が問い直された.1944年,ニュー・ハンプシャー州ブレトン・ウッズで合意されたIMFと世界銀行は国際経済の安定化を目的として,世界貿易の自由化を目指すGATTとともに,重要な役割を果たしていた.

しかし,これら三つの国際機関が世界経済でその役割を失いつつある.WTOは初めて自由化交渉に失敗し,世銀も基金も莫大な融資を行いながら受入国には外貨準備が余っているケースもある.外貨準備が1兆ドルを越え,月に200億ドルの黒字を出した中国に対して,世銀が274件もの融資案件を通じて400億ドルを提供する理由はどこにあるのか?

ルービン元財務長官は,「ブレトン・ウッズ・システムが時代遅れになっている」と指摘した.それらは時代とともに修正されてこなかったのだ.根本的に再考し,再編するときだ,と.最初の問題は,誰がトップに就くのか? ということだ.

ハーヴァード大学のケネス・S・ロゴフは,ウォルフォヴィッツの辞任問題が旧時代の制度を改革するのをむしろ妨げるかもしれない,と懸念する.世銀の人々は年間230億ドルの融資と,13000人の職場を失いたくないからだ.

アメリカ議会が要請して2000年に提出されたメルツァー委員会報告は,世界銀行に中所得国への融資を止めさせ,最貧国には(融資ではなく)贈与のみとするように求めた.メルツァーはウォルフォヴィッツがこの方針で改革に臨むと期待していた.「貧困が減るのは市場を開放するからであって,世銀からの融資が増えるからではない」と言う.

しかし辞任する前,ウォルフォヴィッツは中所得国への融資を継続すると主張した.中国やインドにはまだサブ・サハラ・アフリカより多くの貧しい人々がいる.とはいえ,最貧国への融資は少なすぎる.ウォルフォヴィッツの問題が起きて,アメリカは世銀を経由する援助を減らし,ヨーロッパも他の援助を増やした.また世銀や基金への出資比率を調整する問題は,単に中国やインドの額が増えるだけでなく,ヨーロッパの小国の分を減らすことになる.

メキシコ,ラテンアメリカ,アジアで救済融資に活躍したIMFも,今は仕事が無くて困っている.1990年代の融資政策も間違っていた,と批判されている.「IMFが明日廃止されても,人々はそれほど悲しまないだろう」と,元財務長官のジョージ・シュルツは言った.アジアではIMFに代わる機関が模索されている.

いずれにせよ改革は難しい.しかし,次の危機が来ればIMFは必要だとわかる,とエコノミストたちは考える.ハーヴァード大学のリチャード・N・クーパーも,今は異常に静かなだけだ,と考える.危機における協調を形成するために,IMFは必要な機関である.

ブッシュ政権は,IMFが中国政府の為替操作を放置している,役立たず,とあからさまに非難する.他方,WTOの自由化交渉が破綻したのはアメリカとEUが農業補助金を削減しようとしなかったからだ.保護主義の壁が築かれ,世界経済の成長は損なわれるだろう.


WP Friday, May 18, 2007

Prelude to the Six Days

By Charles Krauthammer

WP Sunday, May 20, 2007

Iraq Isn't Like Vietnam -- Except When It Is

By Robert Dallek

(コメント) 6日間戦争,ベトナム戦争,イラク戦争.多くの戦争がありましたし,その背景や原因,経過,終結もいろいろであったと思います.平和は,紙の上の合意ではなく,戦略的地点を支配し,軍事力を配置することで確立されます.

中東には機能する和平案が無いまま40年を過ごしました.1967年の六日間戦争によってイスラエルはアラブ諸国に歴史的な大勝利を収め,その後の紛争はこのとき失ったものを取り戻すために起きているのです.そして,なぜイスラエルがそれを拒むのか,も示しています.

同じことをしながらも,ブッシュ大統領は,ジョンソンやニクソンが戦争に敗北したことを受け入れながら撤退に有利な条件を模索したことから学ぼうとせず,いまだに敗北を認めていません.そして敗北の責任を民主党の支配する議会に押し付けます.誰も支持してくれない今となっては,ブッシュは歴史だけが見方だ,と考えます.自分はアメリカのために正しいことをした,と.

The Guardian, May 20, 2007

Natives, not immigrants

Nimer Sultany

(コメント) 移民労働者としてイスラエルで差別されるパレスチナ難民たちは,イスラエルが存在する前からここに住む原住民である,という厳しい訴えです.


BG May 20, 2007

Disarming North Korea

By Graham Allison

ヨンビョンYongbyonの核施設閉鎖の期限は過ぎてしまった.ブッシュ政権がマカオの銀行口座2500万ドルを,合意にしたがって,利用できるようにしなかったという理由がある.それが解決されたら,北朝鮮は核物質や施設の利用に関するリストを提出するか? 

簡潔にそれぞれについての考えを推測する.金正日は,核爆弾10個分のプルトニウムを蓄え,実験もして,核保有国であると主張した.爆弾は手放さないし,老朽化した施設はできるだけ高く売りつけたい.しかも,自分を保護してくれるように,中国の意志に従うという形で行うことだ.ブッシュは邪魔できない.

韓国政府としては,非核化に向けて合意するだけで十分だ.真っ先に連携を破って,民族の同胞に対して,経済援助,食料,原油を送ってやろう.早速,二国間協議を始めたい.

米中関係を裂くことは難しいが,不可能ではない.中国は北朝鮮の核より,ブッシュ政権が北朝鮮の体制転換を謀ることを警戒している.それは中国自身にとっての悪夢であるから.中国に難民が流入するし,さらに韓国が北朝鮮を吸収してしまい,アメリカに対する緩衝地帯を失ってしまう.それは中国が朝鮮戦争に介入した成果を失うものだ.

アメリカのライス国務長官は,チェイニー=ラムズフェルド=ボルトンとの対立に勝利して,北朝鮮との合意をまとめた.IAEAが二十年かかってもイランの核施設を閉鎖できないように,この合意も,北朝鮮を非核化することにはならないだろう.

つまり,金正日は成功するだろう.ヨンビョンの核爆弾生産能力を高く売りつけ,中国はその成果を誇り,北朝鮮は最低限の核抑止力を温存する.

Asia Times Online, May 23, 2007

Iran trumps N Korea in axis of fear

By Donald Kirk

FT May 23 2007

Teaching Pyongyang to sing

By Anna Fifield

(コメント) 北朝鮮は今朝も日本海にミサイルを発射したようですが,日本政府も含めて世界各国の関心は薄いものでした.国際社会が一致して反対している,という姿勢があるからでしょう.

しかし,Allisonの論説を読めば,勝利するのは安倍首相ではなく金正日です.というか,日本や拉致問題にはまったく言及されません.

アメリカ人の意識では,悪の枢軸ならぬ,恐怖の枢軸が形成されています.アメリカの安全保障を脅かすとして,27%がイランを指名し,13%がイラク,12%が北朝鮮,そして10%が中国を指名しました.他方,アフガニスタンやロシアは2%,イスラエルやメキシコは1%でした.韓国との同盟関係が崩れていることも注目されています.韓国はむしろ妨げていると見る者が多いのです.

Fifieldは,北朝鮮を非核化したいなら,もっと多くの交流を実現して北朝鮮国民の意識を変えるべきだ,と主張します.核危機が起きるまで,オーストラリアは北朝鮮からの留学生を受け入れ,経済学を教えていたそうです.彼らが自国を常に楽園だと信じているわけではありません.もっと研究者や専門家をアメリカに招待して,交流を促してはどうか?


The Japan Times: Tuesday, May 22, 2007

ADB's struggle with success

FT May 22 2007

Japanese megabanks

The Japan Times: Wednesday, May 23, 2007

How Japan fuels financial instability

By THOMAS I. PALLEY

(コメント) ADBの新しい目標は,環境保護・持続可能な成長と地域格差・所得格差の是正,つまり,環境と平等,になりました.アジアにおける多様性と格差を考えれば,開発銀行や援助機関というより,地域統合のための情報や制度を共有する機関になるかも知れません.

黒田総裁や私たちにとって問題は,日本が何をするか,です.銀行システムの危機をメガバンクへの統合によって乗り越え,国内からアジアや世界へ,日本の金融市場や金融機関は重要な役割を担うのでしょうか? あるいは,デフレの後遺症から抜け出せず,金融政策の異常な状態を続けて周辺に不安定さや衝撃を撒き散らすのか?

アジアは輸出で儲け,成長が続いています.株や土地の価格が上昇し,ヘッジ・ファンドは通貨の値上がりを,投資ファンドは企業の買収を,日本の低金利資金で企てている,と日本は批判されています.

FT May 22 2007

What Asians learnt from their financial crisis

By Martin Wolf

アジア諸国は通貨危機から何を学んだか? 西側(欧米?)エコノミストの多くが考えたのは,アジア諸国も為替レートを弾力化して,もっと競争的で柔軟な,よく整備された金融市場を持つべきだ,ということだ.為替レートを故意に安くし,輸出に頼って成長を実現し,同時に外貨準備を増やし続ける,といった政策は転換しなければならない.はたして,アジアはそれを実行した.

危機の後には予想できなかったが,新興市場に広がった一連の通貨危機は,アルゼンチンとトルコを除けば,アジア通貨危機によって終わった.今や再び世界中の投資がアジアにも流れ込んでいる.なぜか?

危機の最大の原因は,為替レートが固定されていたというより,競争力を失うほど過大評価された水準にあった,とアジアの政策担当者たちは考えた.また,アメリカ財務省やIMFは間違った政策を押し付けた.それらが再現しないように,アジア諸国は為替レートの増価を嫌い,IMFに頼る必要がない十分な外貨準備を持っている.

問題は,こうした政策を取るアジア諸国があると,他方には,貿易赤字が累積する国も出ることだ.しかも石油価格が高騰し,通貨市場の不安は広まっている.こうして変動レート制の世界では,貿易黒字を増やすことが最も単純な通貨危機対策なのである.国際市場からいくらでも借りることができない以上は.

そんな国はたった一つあって,つまりアメリカが貿易赤字を一手に引き受けるようになる.アメリカが国際通貨システムにおける「最後の借り手」になってしまうのは新興市場の通貨不安と開発戦略の副産物と言える.

しかし,ニューヨーク大学Stern School of BusinessルービニNouriel Roubiniは,アジアのこの政策が持続できないものと考える.結局,外貨準備を不胎化できない水準にまで増やしてしまい,その後は国内の通貨供給を増やし,資産バブルや景気過熱,競争力を損なうインフレが生じるからだ.それは金融システムを損ない,資源を無駄にし,将来,巨額の資産価値を失うかもしれない.貿易赤字に我慢なら無くなれば,アメリカは保護主義に転じる.

しかし,通貨危機を免れた中国が危機の(間違った)教訓を学んで,巨額の外貨準備を積み増している.それが持続しないはずの不均衡を長引かせた.どうなるか? どうするべきか?


LAT May 21, 2007

America -- the world's arms pusher

By Frida Berrigan

(コメント) 世界最悪のテロリスト国家としてアメリカを非難する場合,その政治的立場によって意見は分かれるでしょう.しかし,世界最大の武器輸出国である,というのは議論の余地がありません.その買い手や利用者を考えると,アメリカは非難されると思います.

ミサイル,軍艦,戦闘機,軍事訓練など,アメリカはさまざまな分野で世界1です.世界の非常に貧しい国が,こうした高価な買い物を行っています.アメリカの武器商売を支える地域紛争の火種は絶えません.そして代金や受け渡し,各地の政治家や将軍たちとの人的コネクションにおいて,闇世界が広がります.それは麻薬取引と同じです.

麻薬でも武器でも,それを多く売るためには,その需要を増やすことです.アメリカの武器商人たちが平和を望むでしょうか? バランスを崩し,軍事援助を増やし,テロや軍拡競争を歓迎するでしょう.正気を取り戻すことが必要です.


NYT May 21, 2007

Fear of Eating

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 「昨日,私は危険を冒した.・・・サラダを食べたのだ.」 「エー!!!

落語やジョークではなく,アメリカ人は食べるのが怖いのです.何にでも中国(あるいはメキシコ,ほか)の毒物が入っているかもしれない,と恐怖します.

誰が悪いのか? グローバリゼーションを責める人,食品会社を責める人,ブッシュ政権を責める人,・・・ しかしKRUGMANは,Milton Friedmanを責めます.

誰の主張にも正しいポイントが含まれます.実際,ブッシュ政権は食品安全規制を怠り,政府の介入を拒みました.それはビジネスを絶対視するイデオロギーです.

それこそミルトン・フリードマンの主張でした.食品や薬品についての連邦政府の規制を撤廃せよ,とフリードマンは1999年にインタビューで述べました.制約会社の利益は,効き目の無い薬品を売ることを防ぐはずだ,と.民間部門が自分たちを律することを信じるだけで,すべては解決できる・・・


FT May 21 2007

Free trade’s foes get a foot in the door

By Jagdish Bhagwati

貿易協定に労働基準を含めるべきではない民主党と共和党が合意しても,それで貿易協定が正しくなる保証はない.小国はアメリカが示す協定に反対できない.では,インドやブラジルはどうか? 彼らはそのような貿易協定への追加を認めないだろう.EUが求めた別の追加も認めなかった.

貿易協定について,民主党は労働基準を求めるが,彼らは共和党を,アメリカ企業の利益を追求する,と非難してきた.貧しい国との貿易がアメリカ人の賃金を下げた,という証拠は無い.

政府が一括交渉権を議会に認めてもらうためには妥協する必要があった,というのは間違いだ.もし一括交渉権が無ければ,ドーハ・ラウンドは失敗し,各国は勝手に二国間交渉を進めるだろう.アメリカ政府には交渉権が無いから,一層不利になる.それに比べて,労働基準を含めない,と主張し,アメリカ国民の利益のために一括交渉権を要求すれば,民主党の一部は政府に賛成するだろう.


FT May 22 2007

Beijing flexes its global financial muscle

By David Hale and Lyric Hughes Hale

(コメント) 国際金融界の賢者の一人,David Haleも,中国人民銀行とブラックストーンの合意に注目します.それは,まったく皮肉な合意です.裕福な諸国で株価上昇と企業のM&Aを利用し,巨万の利益を得ている投資ファンドが,貧困の海から抜け出すために貯えた中国の外貨準備分散,沿海部の土地・株バブル沈静化という使命を託されたのです.

そこには経済的な合理性と,政治的な要求があります.外貨準備を分散することも,ウォール街が外国からの投資を受け入れることも,歓迎されるはずです.アメリカ政府は中国政府の企業買収に疑惑の目を向けます.また,中国政府はアメリカの投資ファンドが単独で中国市場を優良企業の草刈場にすることを拒みます.

しかし,投資ファンドがアジアの過剰貯蓄を解決することはないでしょう.かつてGDPの68%であった外貨準備が,アジア通貨危機後は30%,中国では50%に達するわけです.その資金が何に使われるのかによって,世界の金融システムは変わります.


The Guardian Wednesday May 23, 2007

Missing migrants

Nikolai Chavdarov

SPIEGEL ONLINE - May 23, 2007

THE GROWING IRAQI REFUGEE CRISIS: Trading Civil War for Small-Town Sweden

By Charles Hawley in Alvesta, Sweden

(コメント) 移民流入を恐れるタブロイド紙は間違っていました.移民規制を撤廃し,労働市場を開放して,彼らを受け入れる方が人々は豊かになる,とChavdarovは考えます.

イラク難民を受け入れるスウェーデンの苦悩です.人口7500人の村Alvestaに,イラクの混乱を逃れた144人の難民が暮らします.

「イラクを逃れてヨーロッパに来る難民はごく一部である.航空機のチケットは多くのイラク人にとって手に入らないほど高価である.パスポートやビザの闇市場では5000ドルから15000ドルも追加に必要だ.しかし,こうしてやって来る者はどこに行くべきかを知っている.スウェーデンの難民政策は西側で最も寛容だ.難民申請者の91%を認めている.これに比べてドイツでは11%,イギリスでは12%しか受け入れていない.UNHCRは,ヨーロッパの多くは難民に関心が無い,という.」

スウェーデンは,難民受け入れを国際的に分担するべきだ,と主張しています.難民の増加は,爆弾テロだけでなく,個人的な暗殺が増えていることにもよります.


The Japan Times: Wednesday, May 23, 2007

Leave 'patriotism' out of Constitution

By HANS BRINCKMANN

(コメント) 「テロ」が安全保障の定義から除かれるように,新憲法案から「愛国心」を除くべきだ,と私も思います.BRINCKMANNはその理由を指摘します.

1.民主主義社会では,国民がその指導者に憲法を与えるのであって,逆ではない.

2.フランス憲法,アメリカ憲法,オランダ憲法のどれも,国民に「愛国心」を要求していない.

3.「愛国心」は情緒的であり,個人的であるから,憲法がそれに触れることは適当でないし,危険である.「愛国心とは,ヤクザの最後のいいわけである.」

4.「愛国心」は差別をもたらす.コミュニティーにおいて,自民族を優先させる.世界市民的な考え方を抑圧する.

5.安倍氏の好む「美しい国」を愛するように求め,強要することは,若者から自由な発想を奪い,豊かな人格形成を損なう.

6.憲法9条の見直しや戦争中の残虐行為を軽視するような主張を繰り返しながら,より強い「愛国心」を求めることは,その意図を疑わせる.

自国を誇りに思うことは健全なことです.その歴史や芸術,成果を国民は知るべきでしょう.「普通,どのような国でも,健全に運営されれば,市民の多くは自国に好感を持ち,外からの脅威には反対する.」

ところが,天皇をシンボルではなく国家の指導者にするべきだ,とジャーナリストの桜井よしこは主張し,元首相の中曽根康弘は若者たちに武士道を求めます.安倍首相が学校で「愛国心」を教えることが若者たちの優れた人格形成を促すだろうか? むしろ逆であろう,とBRINCKMANNは批判します.「愛国心」は日本が直面する問題を解決するものではないし,長期的な利益にもならない.世界は日本の将来を憂い,警戒しているのです.

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The Economist May 12th 2007

How will history judge him?

Venezuela, the World Bank and the IMF: Wolf v Wolf

Business in Russia: After Yukos

Free-trade agreements: The Japan syndrome

Asian Development Bank: What are we for?

Palestine: A capital question

The global merger boom: The beat goes on

(コメント) イギリス,ヴェネズエラ,世界銀行,ロシア.・・・国家であれ,組織であれ,トップに立つ者の能力や個性は重要です.ブレアがイギリスを指導的な国家として立ち直らせたことは誰もが認めます.南南通貨や南南金融というのは面白いアイデアですが,もし石油が無ければ,チャベスはラテンアメリカの指導者としてブラジルのデ・ラ・ルーラと競えたでしょうか.ウォルフォヴィッツもプーチンも,それぞれに世界権力のあり方として深刻な問題を示しています.

FTAにしても,東京の国際金融センターにしても,日本政府の国際戦略は言葉だけで,まだ実効性に欠けるようです.アジア開発銀行の役割や融資についても,きわめて悲観的な記事が載っています.

パレスチナ難民を追い出すイスラエル政府の理不尽さには言葉を失います.

世界資本市場が過去のバブルを繰り返しているだけ,という見方は間違っているようです.しかし,M&Aによって企業収益が改善するのか,信用が供与されず資金が逼迫する局面では何が起きるか,という慎重な配慮が,世界カジノには不足しています.

こうした世界であるから,ユコスでも,パレスチナ難民でもなく,投資ファンドの超富裕なマネージャーになろうとする若者が増えるわけです.この現実を憂慮する,という話がもっと載ってよいのでは?