IPEの果樹園2007

今週のReview

5/21-5/26

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

移民問題, ファシズム, トニー・ブレア, 民主党と自由貿易, グローバリゼーションと調整基金, 国際炭素基金, 世界都市化

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


NYT May 10, 2007

Our Towns: Helping Immigrants, and a Town, Move Ahead

By PETER APPLEBOME

(コメント) 殺し合うのか? ・・・それとも,助け合うのか? ヒスパニックの非合法移民が流入する地方都市や郊外では,今も白人の住民たちと抗争が起き,同時に,貧しい人たちへの社会的な支援組織が活動しています.

グアテマラからの非合法移民でホームレスになった者が意識不明のまま見つかり,数時間後に死亡しました.警察署が捜査を受けました.各地でさまざまな衝突が起きています.

灰色の建物には,Neighbors Linkthe Open Door Medical Centerがあります.そこでヒスパニックの移民たちは朝食を得ます.それは地域の非営利社会団体が運営しています.2000年に5人の住民が始めました.移民労働者と郊外の住民たちを結びつけるモデルとなっています.職業訓練,教育,娯楽,社会的給付を行います.スタッフも募金も地元も住民や企業から集めます.

英語のクラスでは,労働者たちに必要な英語,romaine lettuce, iceberg lettuce, red leaf lettuce を教えています.起業の仕方,コンピューターの使い方を教えます.これで貧しい移民たちが裕福な住民と同じ条件になるか? もちろん,それは無理です.しかし,こうした活動が移民たちに負わされた汚名を晴らし,共通の基盤を用意し,芝刈りや建設現場の底辺から抜け出す道を開くでしょう.

「仕事を求めて駅の外に立つ男たちとコミュニティーとの間に橋を築きたい」と,German Fernandezは言います.彼は8つの国で36の起業を起こしたが,この仕事が最も難しい,と考えます.しかし,彼はNeighbors Linkを国中に広げるでしょう.「統合とは双方向に進むものだ.移民たちがアメリカの生活を見出すことと,住民たちが街角の汚れた労働者たちが,単に仕事を求めるだけの顔の無い男たちではなく,家族があり,考えを持ち,ここで生活する人々であると理解することだ.」

SPIEGEL ONLINE - May 11, 2007

Moroccan Immigrants, Spanish Strawberries and Europe's Future

By Daniela Gerson in Cartaya, Spain

Harvard Magazine, May/June 2007

End of the Melting Pot?

by Ashley Pettus

(コメント) かつて南スペインの住民はドイツへ出稼ぎに行ったものだが,今やモロッコからの移民流入を受け入れるEUのモデルとなっています.

スペイン南東部では,見渡す限りイチゴ畑が広がります.しかしAntonio Martin Gonzalezが生まれた頃は,此処には小さな町と荒れ果てた土地があるだけでした.彼の父は非常に貧しく,家族の生活する糧を求めて外に出るしかなかったのです.1960年代と70年代の11年間を彼は金属工場の外国人労働者としてドイツで働き,年に6週間しか家に帰れませんでした.

40年後に,その役割は逆転します.イチゴ畑の農家は移民労働者たちを雇います.たとえば,モロッコからの婦人たちです.彼女たちは40歳までの,子どもをモロッコに残してきたものです.だから仕事が無ければ必ず帰国するだろう,というわけです.

EUも農業の季節労働者を奨励しています.「循環移民」や「移動を促すパッケージ」など,彼らを政策で支援します.農業でも観光でも,EUは移民を合法的な形で,しかも害をなさぬように,正しく管理する方策を求めています.1970年代の「ゲストワーカー」制度が復活しています.

反移民感情が高まる中で,ドイツの農家もスペインと同じように移民労働者を利用したいと要求しました.それを「倫理的移民」と呼んでいます.非合法移民が増大するより,移民を迎える正しい道だからです.給与も出身国の10倍です.しかし,労働条件や家族の分離は,必ずしも「倫理的に」支持されません.

アメリカの移民史については,Ashley Pettusが紹介しています.


The Guardian Friday May 11, 2007

Is America on the road to fascism?

Naomi Wolf v Alan Wolfe

(コメント) アメリカのファシズムを批判した書物The End of Americaを発行するNaomi Wolfに, Does American Democracy Still Work? の著者であるAlan Wolfeが論争を挑みます.

ブッシュ政権がやっていることがファシズムにつながらないように,アメリカ市民は10のステップを踏んできた,とAlanNaomiに訴えます.これをもし日本の安倍政権にあてはめれば,社会をファシズムに染めるための10段階,ということになりそうです.

1.危機の深刻さを利用して議席を増やし,多数を占める.

2.過去の問題を蒸し返して反対派を失脚させ,政権への批判は許さない.

3.軍隊や天皇,愛国心,靖国神社を批判する者を国家反逆罪に問う.

4.軍事法廷やテロリストに関する特別措置(盗聴,拘禁,拷問)を拡大する.

5.新聞・メディアは政府が与える情報に追随し,政策を批判することを控える.

6.知識人やタレントで強硬な発言を繰り返すものを指導的地位に就け,重用する.

7.戦争に参加し,ブッシュの戦争を支援することは正しい,と野党からも発言させる.

8.世論が急速に政権寄りに変わり,強硬な政策を実現することと螺旋状に進む.

9.戦争やテロが起きると発言することで,戦争を準備する政策を国民は支持する.

10.政府や保守系知識人への関心の高さが選挙結果に影響し,ファシズムに向かう.

アメリカではブッシュ政権のファシズム(もしくは愛国)・バブルが破裂し,日本ではミニ・バブルが始まったところかも知れません.

Alanはこの逆のことがアメリカで進みつつあるから,Naomiが心配するようなことは起きない,と言います.しかしNaomiは,もしアメリカに健全で強い民主主義があればそうかもしれないが,そんなものは無い,と聞き入れません.アメリカの選挙は政治指導者による介入や腐敗に満ちている,と.


NYT May 11, 2007

The Human Community

DAVID BROOKS

(コメント) BROOKSは,ブレアは労働党の優れた指導者であったがイラク戦争で支持を失った,という常識を批判します.

イラク攻撃はブレア自身の本質から下された決断です.これはハンチントン対ブレアのイデオロギー戦争でした.ハンチントンは人間性には文化によって深い裂け目があり,異なる文化への介入には慎重でなければならない,と主張しました.他方,ブレアはグローバリゼーションがわれわれを否応無く相互依存にするから,もし繁栄したいなら,国際社会が普遍的な価値を実現しなければならない,と主張しました.

ブレアは9・11のテロリストたちを「過激派」と呼んで非難しました.彼らは人類を平和の家族と戦争の家族に分かつものである,と.それは「(キリスト)文明と(イスラム)文明との衝突」(ハンチントン)ではない.「文明についての衝突」なのである.進歩派と拒否派との旧来の戦い,近代的世界に機会を見出すものと,自分たちの存在の否定しか見ない者との戦いである,とブレアは演説しています.

イラク戦争を経て,ますます多くの人々が党派を超えてブレアからハンチントンへと向かった,というわけです.BROOKSは,しかしまだブレアが負けたことを認めたくない,と書きます.ナイーブな共同体主義はいつの時代にも失敗する.しかし,ブレアの理想は長期的な意味を保ち続けるだろう.ただし,彼がその実現を強く望んだ中東地域においてはふさわしくなかった,と.

WP Friday, May 11, 2007

A Legacy Overshadowed

E. J. Dionne Jr.

(コメント) Dionne Jr. は慨嘆します.イラク戦争と不人気を理由にブレアが辞任することは,彼のすばらしい遺産をすべて汚してしまうだろう,と.

1990年代の半ば,旧式の保守主義を捨てて,人々は中道左派を政権に迎え入れました.ブレアとクリントンは魅力的な指導者で,「旧左派」も「新右派」も超えた「第三の道」をすばらしい改革案として示しました.ロンドンとワシントンが,驚いたことに,ストックホルムやパリに変わって,民主的左派の中心地になったのだ,とDionne Jr. は書いています.「社会主義」ではなく「コミュニティー」が,「集産主義」ではなく「連帯」が,彼らによって唱えられました.

イギリスは,環境保護派と理想社会の融合を実現したのか? もちろん,そうではありません.イラク戦争前にブレアが実現したイギリス政府とは,何にでも能力を示した政府,十分に正統的な経済政策によって達成された安定成長,堅実な財政運営,公共サービスの改善,貧困解消への真剣な取り組み,を意味しました.

つまりブレア主義とは,クリントン主義と同じく,見事なバランス感覚にあったわけです.ブレアはすべてのありふれた二元論を間違った反対と退けています.第三の道はそのすべてを含んでいます.怒号を撒き散らす保守派を尻目に,間違った選択肢を一掃してしまいました.

それゆえブレアは批判されました.明確な言葉で語り,曖昧な行動を続ける,とか,第三の道は余りにも幅が広く,何処かに向かう高速道路ではなく,政治的な駐車場になってしまった,と.それでも,実に魅力的な駐車場だった,とDionne Jr. は考えます.イラク戦争を強く非難する世論調査が,同時に,ブレアを優れた首相であると61%も支持したのです.

Gautam Malkani Blair’s children: how the bling bling era turned political FT May 11 2007

Richard Sennett An inferior Bill Clinton The Guardian Saturday May 12, 2007

Avi Shlaim It is not only God that will be Blair's judge over Iraq The Guardian Monday May 14, 2007

Ian Kershaw Blair's 'special relationship' LAT May 16, 2007

Ronald Brownstein Same war, different goals LAT May 16, 2007

(コメント) ブレア辞任予告は引き続き論説を生んでいます.

イラク戦争の評価,クリントンとの対比,英米の「特別な関係」,その齟齬,などが語られています.日本政府の関係者たちも注意して読むことでしょう.


WP Friday, May 11, 2007

How the CIA Failed America

By Richard N. Perle

(コメント) ネオコンの幹部,「暗黒のプリンス」として憎まれた(?)リチャード・パールの論説です.元CIA長官,ジョージ・テネットがその回想録において,自分(パール)が「9・11の責任はフセインにある」と主張したと描いてあるが,そんなことはない,というのです.

CIAはイスラム原理主義の危険を正しく評価せず,多くの情報を大統領に伝えませんでした.そしてありもしない大量破壊兵器を探し回り,テロリストのリンクを発見できなかった,とパールは憤慨します.ブッシュとその側近たち,諜報機関,さまざまな政治団体,イデオローグの自己弁護がこれからも続くのです.

WP Sunday, May 13, 2007

What We Got Right in Iraq

By L. Paul Bremer

WP Wednesday, May 16, 2007

What Bremer Got Wrong in Iraq

By Nir Rosen

(コメント) イラク占領の初期の責任者であったBremerは,フセイン政権崩壊後にその支配機構を完全に破壊したことは完全に正しかった,と主張しています.その決定が間違っていたから今のような混乱を招いた,と批判されているのです.その批判の例は,テネット元CIA長官によるものです.

フセインは明確にアドルフ・ヒトラーを真似て国民を支配し,軍と秘密警察を育てました.これらを破壊することが占領の主要目的でした.また,バース党を非合法化する命令は,アメリカ軍中央司令部のTommy R. Franks将軍が発したものでした.ブレマーが離任してイラクを去る前に,国防省のDouglas J. Feithが案を示し,イラク統治機関の顧問たちと相談して決めました.非ナチ化はドイツを再生する条件であったはずだ,とブレマーは主張します.

スンニー派の反抗やイラク軍解体に関する間違った解釈について,ブレマーは詳しく反論を試みています.

他方Rosenは,後悔のかけらも無いブレマーの弁解に失望した,と書きます.「イラクに行ったこともない,何も知らない連中が批判している」とブレマーは反発します.しかし,イラクについて何も知らなかったのはブレマー自身です.彼はアラビア語を理解できず,中東の経験も無く,それを知ろうともしなかった.そのことは彼の声明文から明らかだ,と.

数々の事実誤認と失敗が挙げられます.そして,アメリカの占領こそがイラク人に最も嫌われていることを知るべきだ,と早期撤退を求めます.


WP Friday, May 11, 2007

The Shunning Of a State

By Chen Shui-bian

(コメント) 台湾の陳水扁大統領の論説です.中国政府の圧力でWHOもWHAも排除された台湾政府は,2003年単独でSARSの蔓延を防ぎました.中国政府は,人類への感染という危険を無視して,自国の政治的目的だけを追求します.パレスチナ自治政府が認めている国際機関でも,台湾を排除します.台湾は国際人権宣言に拠り,また,医療のための寄付を単独で他国に対して行い,WHO加盟やオブザーバーとしての参加に努力しました.

主権国家とは,自由で民主的な住民による主権の行使で決めるべきではないのか?


FT May 11 2007

Chinese put stock in Lady Luck

By Richard McGregor

The Guardian Monday May 14, 2007

Taming the dragon

(コメント) 中国政府が懸念するのは,WHOでも台湾でもなく,株式相場です.投機熱は沸騰しており,人々は相場の上昇だけを正しいことだと確信しています.2年足らずで300%の上昇です.その取引額は,日本とオーストラリアをも含めた,全アジアの合計を超えました.

それゆえ,「リスクが大好き(リスク中毒)」の中国人にギャンブルを禁止してきた政府が,株式相場だけは認めた結果,こうした投機熱を生んだ,とも言われるわけです.あるいは,この信頼感の欠けた,社会が広く受け入れるルールの無い中国で,人々は共産党支配に対するギャンブルを始めたのでしょうか?

The Guardian は,株式市場そのものの目新しさが際限ない投機を促している,と考えます.しかも,頭の痛いことに,中国は何でも輸出します.バブルも,その崩壊によるパニックも,中国は世界に輸出するでしょう.

中国の高成長モデルは,国際的な不均衡を問われ,アメリカからの不満を受けて,バブル破綻がなくても修整を迫られるはずです.それが世界中のパニックをともなうまで続けられるなら,中国政府にも致命的な失敗となるのです.


BG May 12, 2007

The Singapore model for biotech

By Derrick Z. Jackson

(コメント) シンガポールのBiomedical Research Councilは産業政策の新しいモデルでしょうか? 人口450万人のシンガポールに世界の最高水準にある生命科学の先端研究所が集積しつつあります.その教育とインフラへの惜しみない長期投資は,生命科学産業における世界のトップ集団を形成し,こうしてシンガポールが東南アジアの核になる力を持続させるでしょう.

アメリカを除けば,世界のハイテク・バイオ産業の中核は,イギリス,アイルランド,中国,シンガポールに育っています.日本の名はありません.


NYT May 12, 2007

The Millions Left Out

By BOB HERBERT

(コメント) アメリカには公的な貧困ラインに満たない水準で生活している貧困層が3700万人もいます.連邦政府が定める現在の貧困ラインは,家族4人で19971ドルです.


BG May 13, 2007

A conspicuous silence on Iraq

By David Bosco

(コメント) David Boscoは,イラクの治安維持や人権擁護がますます難しくなり,ほとんど最悪の状態が続いているのに,西側への報道や関心が減っていることを憂慮します.特に,Human Rights WatchAmnestyは,こうした問題に積極的に取り組んでいたはずですが,アメリカのイラク政策や,特にイラクセン戦争を激しく批判したために,現地の情報源や関心を失いました.彼らはアメリカ軍を批判しますが,今アメリカ軍が行っていることは事実上の人道的介入です.ダルフールの難民を助けるために国連軍を求めるなら,アメリカ軍にも同じように重要な意義を認めるべきでしょう.そして,アメリカ軍の撤退に関する重要な議論にも加わるべきではないか,と.


LAT May 13, 2007

Jihad deja vu

William Dalrymple

(コメント) 150年前の今月,大英帝国はヨーロッパの諸帝国がかつて経験したいかなる植民地叛乱よりも大規模かつ陰惨な叛乱と直面しました.歴史は繰り返します.

インド総督のウェルズリーは,まるでブッシュ政権のように,植民地インド内のイスラム領邦制度を無能で腐敗していると決め付け,先制攻撃によって一元支配をもくろんだ,というわけです.それは帝国間競争が強める中で,東インド会社による緩やかな間接統治に対して,イギリス国内の右派新聞(いわば当時のネオコン)が強硬な言説を振り撒いたからでした.イギリスの法律や技術を移すだけでなく,その文化や価値を移植しようとし始めます.

それはイスラム過激派による抵抗と原理主義の拡大を決定的にしました.それは1957年,セポイの叛乱にいたるのです.軍隊の多くはヒンズー教徒でしたが,聖戦への支持は広まり,叛徒たちはキリスト教徒の男女や子どもを殺し,ムガール帝国の復興を叫びました.イギリス軍の反撃も凄惨を極め,デリーの一地区だけで無防備な市民を1400名も殺戮した,と言います.

西洋の帝国主義とイスラム原理主義の拡大とは,歴史において,分かちがたく結びついた現象なのです.


NYT May 13, 2007

Only Halfway There

By THOMAS L. FRIEDMAN

Newropeans Magazine, 16 May 2007

Middle East Nuclear-Weapon Free Zone: A Serious Start?

Rene Wadlow

(コメント) イラクからの撤退の期限を設けるように民主党がブッシュ大統領に圧力をかけることは重要です.イラクの停戦と和平が必要です.しかし,それは解決のための半分,しかも簡単な方でしかない,とFRIEDMANは考えます.残りの半分は,中東からの石油に依存しなくなるような政策を実行することです.

アメリカは石油価格を安くするという基本政策を持っています.2020年の計画を示す前に,2007年に何をして2008年のイラク撤退と治安悪化(あるいはイラク解体)に備えるべきか,各政党や大統領候補たちは示すべきです.

たとえば,ガソリンに世界課税して環境保護(そして代替燃料の技術開発)に利用する,というChris Dodd提案は正しいでしょう.Barack Obamaは,自動車会社や労働者に,もっと厳しい環境規制を受け入れるよう直言します.すでに世界の競争企業は厳しい環境規制をクリアしているのだから,と.

中東の非核化について.


WP Sunday, May 13, 2007

Must a Yank Lead the Bank?

By Moises Naim

FT May 13 2007

Why Bush should back Blair as World Bank chief

By Edward Mortimer

YaleGlobal, 15 May 2007

Wolfowitz Saga Exposes Structural Flaws in the World Bank

Devesh Kapur

(コメント) ウォルフォヴィッツ辞任が漸く決まりました.で,次は誰か? その様子をNaimは,メキシコの政治的最重大事件,任期末に後継者を指名する様子にたとえています.つまり,世界銀行総裁の人事とはメキシコ政治と同程度に怪しく,危ないのです.

アメリカは世界銀行の大株主とは言え,84%を他の185カ国が占めるのです.総裁の指名には当然決まった選考があります.しかしこうしたことは,以前,メキシコの大統領を決めていたのと同じように,いかさまです.候補はアメリカ大統領の友人に限られ,そのインナー・サークルから出ます.

スキャンダルで辞任したウォルフォヴィッツの後継者が,再び恣意的で,秘密主義の,中世的な過程から決まるなら,それこそ悲劇です.理想的な世界であれば,競争的で,公平な選考が行われるでしょう.世銀総裁は,貧しい国の経済パフォーマンスで評価されます.

その候補として挙げるのは,Kemal Dervish(トルコ),Ernesto Zedillo(メキシコ),Trevor Manuel(南アフリカ),Montek Singh Ahluwalia(インド),Leszek Balcerowicz(ポーランド),Rebeca Grynspan(コスタリカ,女性),あるいは ・・・ブッシュ氏が好む名誉アメリカ人のTony Blairでどうか? しかし,ブレアは(ブッシュのプードルという汚名を嫌って)辞退すると思いますが.

ヨーロッパの関係者がウォルフォヴィッツを余り非難しなかったのは,自分たちもIMF専務理事の特権的ポストを失いたくないからだ,と言われています.ブレトン・ウッズ国際機関はその名目と制度内の縄張り争いによって機能麻痺となっているわけです.国際公共財供給を担う革新的な機関として生まれ変わるべきです.


The Japan Times: Monday, May 14, 2007

Mechanism for currency stabilization

FT May 14 2007

Lessons from Asia

FT May 16 2007

How to curb Asia’s towering energy demand

By Victor Mallet

(コメント) Japan Timesの記事は周知の内容です.アジア通貨危機に対するIMF融資の条件はアジア諸国の反感を買い,AMF要求となり,アメリカの反対によって一旦は頓挫したが,その後,ASEAN+3で急速に通貨・金融協力が進展している(?)と.

FTは,アジア諸国が危機の経験から何を学んだか,吟味しています.高度成長の条件となった固定為替レート,対外債務,銀行融資への依存,などが危機を招いた? しかし,この論説はアジアの成長を楽観します.1997年には景気過熱で貿易赤字が生じ,資本流入が過大であった.それは為替レートを固定していたからだし,中国という強力な競争相手が登場したからであって,成長モデル自体の失敗ではない,と.

為替レートを調整しつつ,過熱と過大な資本流入を回避すれば,中国も加わったアジアの輸出と成長はまだまだ続く,というわけです.

アジア最高のビルは,上海,香港,クアラルンプール,台北にあるそうです.アジア諸国は高層ビルの建設競争に夢中で,環境規制や汚染防止には関心がありません.しかし高層ビルはエネルギー消費を増やします.アジア諸都市は成長するだけでなく,エネルギーの効率的利用など,環境基準に関してもキャッチ・アップしなければなりません.


NYT May 14, 2007

Divided Over Trade

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 民主党が分裂するのは通商政策に関してだ,とKRUGMANは指摘します.貿易が賃金を引き下げているのか,それとも貿易自由化を進めるのが政府の使命なのか? どちらが正しいのか?

KRUGMAN答は,両方とも,です.安価な輸入品の増大は,アメリカの労働者を貧しくしています.ただし,その程度は年数%でした.それが高まっているでしょう.だからグローバリゼーションのマイナスの側面が論争になるわけです.

しかし,旧式の保護主義に戻るのか? アメリカが保護主義に向かえば,他の裕福な諸国も保護主義を採用し,貧しい国は輸出する市場に困るでしょう.そこで,新しい通商政策は<労働基準>に向かうわけです.自由貿易協定に,労働組合の促進や,児童労働・奴隷労働の禁止,といった項目を求めます.

しかし,これで問題が解決することは無いでしょう.貧しい国の労働者の賃金は余りに安く,アメリカの賃金を引き下げます.通商政策に限定する限り,答えはない,とKRUGMANは考えます.すなわち,アメリカ自身が労働者に有利な政策を実現することです.まずは,グローバリゼーションの勝者に課税して,彼らの富を国民全体をカバーする医療保険制度に使うことから始めてはどうか,と.


MARK LANDLER and MICHELINE MAYNARD Chrysler Group to Be Sold for $7.4 Billion NYT May 15, 2007

NICK BUNKLEY Chrysler Workers Surprised After Union Backs Sale NYT May 15, 2007

Richard Milne in Stuttgart and John Reed in London Private equity group buys Chrysler for $7.4bn FT May 14 2007

Mergers, like marriages, fail without a meeting of minds FT May 14 2007

Chrysler’s sale FT May 14 2007

Susanne Amann Hellhound Snaps Up Chrysler SPIEGEL ONLINE - May 14, 2007

MICHELINE MAYNARD In Deal, a Test for the U.A.W. NYT May 15, 2007

MARK LANDLER A Corporate Divorce on the Cheap NYT May 15, 2007

Michael Kroger Daimler's $27.5 Billion Lesson SPIEGEL ONLINE - May 15, 2007

Creative destruction at Chrysler BG May 16, 2007

End of the Affair NYT May 16, 2007

Michael Tomasky The crisis at Chrysler The Guardian Thursday May 17, 2007

(コメント) 世紀の合併は世紀の破談で終わりました.ダイムラー・クライスラー社は,クライスラー部門の株式の大部分80.1%を,サーベラスに74億ドルで売却します.1998年に買収したときは360億ドルでした.途方もない切捨てです.CEOのDieter Zetscheは「シナジー効果を過大評価した」と認めました.このことはまた,アメリカ・ビッグ・スリーの一つがプライベート・エクアティに所有されることを意味します.労働組合UAWがこの発表に支持を表明したことは驚きです.

通貨統合もよく「結婚」にたとえられますが,もちろん,企業や銀行の合併も「結婚」です.「心を一つにできなければ,すぐにも後悔が始まる.」 そして,その結果は誰にも分からない(!)・・・ということでしょうか.他の企業を「ピーナッツの取り合い」と馬鹿にして,世界最大の未来の自動車帝国を築くはずでした.しかし,高級車メルセデスの生産者たちが,大衆車ドッジのために技術協力するだろうか?

では,サーベラスなら何かうまくできるのか,それも分かりません.利益を得るには,サプライヤーやディーラー,そして労組と話をつけ,多くの自動車を売るしかないのです.ヨーロッパでは「ハゲタカ・ファンド」が大いに嫌われていますから,この売却は困惑をもたらしたようです.あるいは,ヨーロッパ企業,労働組合も,ハゲタカ・ファンドの現実主義と付き合えるようになったのか?

「結婚」とは別に,もう一つの呼び名があります.「創造的破壊」! ・・・なるほど.それは,ハゲタカ・ファンドよりも,日本企業がデトロイトにもたらしたものでした.


Donald Kirk Korean relations on a new track Asia Times Online, May 15, 2007

William Pesek Korea Aims to Build a Goldman Sachs of Its Own May 16 (Bloomberg)

Kay Seok Grotesque indifference IHT Tuesday, May 15, 2007

Charles Scanlon South Korea's reconciliation gamble BBC 2007/05/17

Michael Green Pyongyang thrives on America’s constant concessions FT May 17 2007

(コメント) 安倍首相の対北朝鮮「拉致家族解放」専一外交は,朝鮮半島をめぐって進展する事態への日本政府の多方面における姿勢をどのように反映できるのでしょうか?

プサン港からソウル,ピョンヤン,ロシア,ヨーロッパへと,鉄道が通じるなら,周辺の経済は活気付くと期待されます.韓国とロシアはそれを望み,北朝鮮が妨げてきました.ロシアと中国による輸送物資の取り合いという意味もあるようです.Kaeson工業地区にせよ,鉄道開通の試験にせよ,北朝鮮政府はこうした改革を必要としていながら,それが韓国の支配に譲歩する結果になるという現実を受け入れられないのです.

シンガポール政府はバイオテクノロジーに投資しましたが,中国の安さと日本のハイテクに挟撃されて,韓国政府は金融市場やサービスに投資し,東アジアの金融センターを目指しています.特に,日本のビッグバンがなぜ失敗したかを調べています.韓国は,アジアのゴールドマンサックスを自国に作るつもりです.実際,もし朝鮮半島統一と経済復興が始まれば,その資本需要を満たすことは巨大な金融ビジネスです.

中国も北朝鮮が改革を受け入れるように願っているはずです.しかし,多くの北朝鮮国民が中国に逃亡しても,中国は彼らを北朝鮮に送り返し,反逆罪に罰せられるままにしています.これは中国政府も認めている国際的な難民の取り扱いに反しています.

Michael Greenは,北朝鮮に非核化を求めたはずのアメリカが,逆に交渉の主導権を奪われている現状を憂慮します.


FT May 14 2007

Globalisation’s losers need support

By Danny Leipziger and Michael Spence

The Japan Times: Tuesday, May 15, 2007

Helping the free-trade losers

By ETIENNE WASMER and JAKOB VON WEIZSACKER

WP Wednesday, May 16, 2007

What Offshoring Wave?

By Robert J. Samuelson

(コメント) Danny Leipziger and Michael Spenceは,グローバリゼーションに関する基本的合意を要約しています.1.グローバリゼーションには勝者と敗者がある.2.敗者に対する影響を緩和するべきだ.3.全体としての利益は不平等な分配をもたらしている.所得格差が広がり,中間層は没落している.4.このような条件で,民主主義と世界市場統合を両立させるのは難しい.5.しかし,経済のダイナミズムはグローバリゼーションによって持続できる.6.敗者を助け,医療や教育に投資せよ.

ヨーロッパはそのために調整基金European Globalization Adjustment Fund (EGF)を設けました.毎年6億ユーロを,加盟諸国のグローバリゼーションによって職を失った人々に,EUが支出します.EGFは労働市場の活性化策と合わせて利用され,また,域内の統合化のために用意された社会基金を改革することで増額されるかも知れません.

日本ではアメリカほどオフショアリングが問題視されていませんが,中国への工場移転や技術革新の影響はさらに大きかったはずです.政府は弱者を再統合する努力に欠けていたと思います.その上で,Samuelsonが指摘するように,中国や多国籍企業を非難するだけでは解決しません.日本国内で企業や政府に何ができるか,考えることです.


BG May 15, 2007

Fixing US-Russia relationship

By Clifford Kupchan

BG May 16, 2007

Being cool with Putin

Asia Times Online, May 17, 2007

Russia draws Europe into its orbit

By M K Bhadrakumar

FT May 16 2007

It’s high time for a blunt talk with Mr Putin

FT May 17 2007

European appeasement will worsen Russian aggression

By Jonathan Eyal

(コメント) プーチンの下でロシアは扱いにくくなっています.アメリカのミサイル防衛網に関しても対立が深まっています.しかし,ロシアの支配者が誰であれ,ロシアの重要性は変わりません.核兵器・エネルギーだけでなく,石油・天然ガス,イランとの交渉,アルカイダなどイスラム原理主義との戦い,などは,アメリカがロシアと長期的な協力関係を築いておかなければならない理由です.

他方,ヨーロッパにとってロシアはさらに油断ならない相手です.それはロシアがEUのエネルギー供給を支配するからだけでなく,EU周辺部で不安定な政治状態を撒き散らすからです.また,中央アジアからカスピ海周辺をめぐって,ロシアがアメリカの浸透戦略に対抗した政策を示し,影響圏を再確立しつつあります.

ドイツ首相でEU議長のメルケルは,プーチンと話し合う必要があります.しかし,それはプーチンが思うように,EUはロシアのエネルギーを買うしかないからではなく,ロシアもEUの市場を必要としているからです.それゆえ,EUはロシアに対する宥和政策を取るべきではないのです.

ポスト共産主義体制の中東欧を平和的にEUに統合したことは大きな成果でした.この地域で起きたことをロシアが無視し,影響力を回復しようと試みていることに対して,EUはもっと政治的地域の和解や経済的利益を強調するべきです.ロシアはポーランドやウクライナ,リトアニアに対する解消や威嚇を止めるべきです.それを拒むなら,EUはロシアとの間で起きる問題を交渉せず,関係の悪化に備えることです.


FT May 15 2007

Why it takes small groups to solve global problems

By Raghuram Rajan

FT May 15 2007

We need an International Carbon Fund

By John Browne and Nick Butler

(コメント) IMFが機能を果たすためにはもっとG7と新興経済諸国との対話を促すべきです.また,温暖化ガスの排出を抑制するために,共通の課税と基金を設けることが望ましいでしょう.ドイツによるフランス占領によって,ライヒス・バンクを中心とした秩序が提案されましたが,ケインズはそれを批判し,通貨統合を提案しました.結局,そこから国際通貨基金などが誕生します.同様の,世界各国の加盟できる温暖化ガス排出量の国際基金International Carbon Fund(ICF)を設立するべきだ,という提案です.

炭素排出制限の目標は世界的に合意されるべきですが,その達成は各地域に委ねられるでしょう.それが可能であるには,一定の合意された国際調整メカニズムが必要です.炭素排出量をモニターし,それを互いに調整し,貧しい国の開発を助け,排出抑制のための技術開発や投資に資金を融通する,といったメカニズムが最も効率的に機能するには,国際炭素排出単位(ICU)を加盟諸国に割り当て,民間取引を促すことです.


IHT Thursday, May 17, 2007

Valued-based foreign policy

By Anne-Marie Slaughter

(コメント) Slaughterは,アメリカの外交政策が方向を見失っていることを憂い,価値を重視した普遍的な外交を求めます.なぜなら,相互依存した世界で生きるわれわれにとって,孤立主義やキッシンジャー的なリアリズムに戻ることはできないからです.

アメリカの価値は普遍的だ,と彼女は考えます.すなわち,自由,民主主義,正義,平等,寛容,謙遜,信仰,です.それらは各地において模索されているのであり,アメリカだけのものではないし,アメリカがそのモデルでもありません.しかし,人類の歴史は進歩を確信しており,アメリカもともに進む,それを助ける,という点で普遍的であると考えます.

新ウィルソン主義,ということでしょうか.しかし,ブッシュ政権による失望や反感をこれで一気に払拭できるとは思えません.

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The Economist May 5th 2007

The battle for Turkey’s soul

Estonia and Russia: The right to be wrong

Japan’s foreign policy: Abe blows Japan’s trumpet, cautiously

Economics focus: Saving grace

The world goes to town: A special report on cities

Publix: The opposite of Wal-Mart

(コメント) トルコのイスラム教政党と軍部との対立も,エストニアのナショナリストとロシア系住民との対立も,現実の世界に起きている深刻な衝突のエネルギーが噴出す裂け目のように思えます.

日本の安倍政権が示す軍事・安全保障に偏った外交政策を,The Economistはどう扱ったらよいのか,困っていると思うのです.それはちょうど,金融の超緩和政策から離脱したがっている日銀が,それに反発するエコノミストや政治家たちに押されて,金利引き上げをためらっているように.どちらのケースも,日本における適切な論調の不在を憂慮しています.

世界人口の半分以上が都市に住む現代に,都市を正しく理解し,運営するための政治や管理システムがますます貴重になるでしょう.死滅する都市と再生する都市を分かつものは「良い政治」であり,都市の魅力や生活の質を改善するために地方政府に何ができるのか,その内容をグレードアップすべきです.

ウォル・マートに勝てるお店があるように.