IPEの果樹園2007
今週のReview
5/7-5/12
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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北京オリンピックを応援する, スコットランド独立, 安倍政権下の日本, 猿の惑星, 大富豪とプーチン人気, 大統領や戦争ではなくアメリカ兵への支持, 移民政策, ヨーロッパ政治家サルコジ, ADBの黒田総裁とアジア統合の夢, ノルウェー政府年金基金の投資基準
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
April 26 (Bloomberg)
China's Protein Gap Will Stoke Global Inflation
Andy Mukherjee
The Guardian Thursday April 26, 2007
A great leap forward
Daniel A Bell
WP Thursday, April 26, 2007
By George F. Will
NYT April 27, 2007
China Needs an Einstein. So Do We
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) メキシコの「トルティーヤ危機」も,アメリカや日本でステーキの値段が上がるのも,中国がその「犯人」です.中国の経済ブームが何もかも世界中で値上げするからです.1997年から2020年いかけて,世界の食肉消費量は倍増します.新しい需要のほとんどは中国から起きるのです.それが穀物需要に及ぼす影響は深刻です.さらにエタノールへの利用が加わって,すでにこの1年でシカゴ商品市場におけるトウモロコシの価格は60%上昇しています.メキシコの消費者物価を決める主要品目であるトルティーヤ価格が3倍になれば,インフレ抑制のための緊急措置が必要になります.
同じく,10億人の経済を擁するインドでは,宗教的理由から,牛肉や豚肉より,鶏肉の需要が伸びています.しかし,家禽は牛や豚よりも穀物消費の効率が良いため,インドは将来も飼料を国内で生産できる,と予想されています.また,将来,エタノールもトウモロコシの茎や葉だけから加工できるようになるでしょう.しかし,中国人の胃袋は不滅です.
他方,2008年の北京オリピックは中国社会革命の試金石です.個人を犠牲にして国家の威信を高めるのか? オリンピックの光で,開発の影の貧困層を隠し,共産党の権威主義的支配を正当化するのか?
政府はオリンピックを機会に,市民意識を改善しようとしています.たとえば,選手たちがラジオ番組などに登場して,観客たちは負けたチームや,相手チームのすばらしい選手にも拍手してほしい,と強調します.中国人選手は,アメリカの選手がしたような,優越さや国家の威信を誇示する傲慢さを控えるよう求められます.勝ったときでも謙虚で,寛容でなければならず,負けたときも冷静であるべきだ,と.
中国を嫌う人々は,こうした選手への要請を権威主義国家の個人統制である,と非難するでしょう.しかし,それは公平な判断ではない.政府は強制するのではなく,説得しているのだから.中国では「プチブル的」と批判されたスポーツ大会が開催されることなど無かったから,どうしてよいか分からないのだ,とタクシー運転手も言います.
「観客が相手チームにも声援を送り,勝利した選手が道を譲って尊敬と誇りをもって敗者に接し,北京市民たちは訪れた外国人に親切かつ丁寧に接する.もしそうなれば,本当にすばらしいオリンピックだ,と中国は世界に誇ることができるだろう.それこそ,中国の台頭を世界は恐れる必要が無い,というメッセージにもなる.それどころか,自己中心的な大国が多い中で,中国は世界に模範を示すことができる.」
「レジーム・チェインジ(体制転換)」という同じ言葉も,ブッシュ大統領,安倍首相,中国指導部が使えば,その意味はまったく異なります.George F. WillはJames Mannの新著("The China Fantasy: How Our Leaders Explain Away Chinese Repression")に拠り,中国のエンゲイジメント・ポリシーは大失敗である,と主張します.しかしこうした主張は,「封じ込め」だ,「冷戦」時代の発想だ,と相手にされない.そうではない.「抱擁」して愛し合った結果,誰が変わったのか? マクドナルドも,マイクロソフトも,グーグルも,スターバックスも,皆中国の政治体制を支持する側に回った.
コーヒーの種類を選べるようになれば,とかつてフリードマンは豪語しました,人々は政府も選びたくなるものだ,と.それはブレア首相が言ったように,民主化への一本道か? むしろ逆だ.裕福になって,スターバックスでコーヒーをすすり,マンションを買って,自動車をぶっ飛ばす大都市の共産党員たちが,3億人の都市下層や,さらに貧しい地方の10億人に特権的な豊かさを分け与えるために,民主化を歓迎すると思うのは愚か者だけだ,と.
フリードマンは,アイザクソンの『アインシュタイン伝』を読んで,アメリカが中国にどう対処するべきかを学んだ,と書きます.まず,アインシュタインの発想は自由によって得られました.彼は権威主義的なドイツを逃れてイタリアやスイスで育ち,ヒトラーを逃れてアメリカに渡りました.彼の主要な発見は当時の権威ある理解を覆すものばかりです.
次に,アインシュタインは科学を楽しく学び,ビジュアルな想像力によって新しい分野を拓きました.どれほど因習的な知識を詰め込んでも,こうした能力は育ちません.だから,フリードマンは,中国に自由を求め,アメリカに教育改革を求めます.その改革の相対的なスピードが,彼らの正しい位置を決めるわけです.
The Japan Times: Friday, April 27, 2007
United Kingdom divorce in the pipeline?
By IAIN ROBERTSON
FT April 29 2007
Union blues
By Andrew Bolger
FT April 30 2007
Scotland's election and the Union
The Guardian Thursday May 3, 2007
Independence for Scotland would not be good for England
Timothy Garton Ash
The Guardian Thursday May 3, 2007
The break-up of Britain
Norman Tebbit
(コメント) イングランドとスコットランドの議会が合併したのは300年前の1707年でした.スコッティッシュ国民党(SNP)は,イラク派兵を認めたブレア首相に反対し,スコットランド兵の帰還を求めてきました.主要政策の決定はロンドンに奪われたまま,1999年にエジンバラに戻った議会には外交や防衛など,重要政策を決めることができません.
スコットランドやウェールズに議会復活を推進し,国民投票を成功させたのはブレア政権でした.反対派は英連邦解体につながると批判しましたが,政府は自治権の要求に積極的な対応(権限委譲 “devolution”)を示したかったのです.ところが,その議席の重複や権限の分割は,次第にスコットランド・ナショナリズムを刺激する政治的装置に変わりました.
FTにおけるAndrew Bolgerの記事が,この「世界最古の複数国家連邦制度」が陥った危機を考えています.それは産業革命や帝国建設以前にまで遡る合意です.1960年代以来,労働党の重要な支持基盤であったスコットランドが,なぜブレア政権の10年で反対派,そして分離を唱えたSNPの勝利に変わったのか?
議会は,地方の諸問題にもっと積極的な発言権を認め,独立を求めるナショナリストへの支持を殺ぐために導入されたわけです.しかし最近,SNPの戦闘的な党首Alex Salmondは,イラク戦争やトライデント核ミサイルの更新問題で,激しくブレアを非難しました.潜水艦基地がスコットランドにあるため,この機を捉えて,「ブレアはスコットランドを大量破壊兵器のゴミ捨て場にしている」と演説しました.
さらに石油価格上昇と北海油田があります.SNPの戦略では,その収益(2007-8年で81億ポンド)の95%は自分たちのものです.スコットランドは,アイルランド,ノルウェー,フィンランド,アイスランドと一緒に「繁栄の弧」を成すだろう,と主張します.今の価格水準は彼らの計画を増税なしに実現します.もちろん,将来,価格が低下すれば増税もしくは財政引き締めを要します.
ブレアやゴードン・ブラウンは独立後の財政赤字を予想します.しかし,労働党はネガティブ・キャンペーンを行いましたが,ブレアは異なる姿勢を示しました.「それができないとは言わないが,それが望ましいことなのか? スコットランドとイングランド双方にとって,現代世界において協力し,もっと良いことができるはずだ.」 ブレア政権は,スコットランドを世界最高の教育国にするため,追加の教育予算を組むと提案しています.
労働党はもっぱらネガティブ・キャンペーンでSNPに勝てると考えました.有権者には独立後の展望に不安があるからです.しかしSNPは,独立そのものは国民投票で決める,と主張し,この不安をSNP支持から切り離しました.しかも,労働党は政権に就いていることで,SNPの示す有権者の関心を引く困難な争点を避けることができず,政府へのさまざまな不満をSNP支持によって示す結果となりました.ブレア自身,「政権を退く前に私を蹴っ飛ばしてやろう」という有権者の気持ちを知っています.
スコットランドにおける選挙で労働党が敗北することは,英連邦にとってよりも,労働党の将来にとって深刻な問題だ,とFTは指摘します.
Garton Ashは,最初,考えます.すべての民族は独立する権利がある.もちろん,スコットランドがそれを決めれば良い,と.しかし,少し考えて,やはり自分もブリテン(英連邦)よりイングランドが重要だ,と.何処かの国のために戦って死ぬとしたら,それはイングランドのためだ.しかし,彼らが独立を選ぶのは間違っている,と.二つの国は切り離しがたくつながっているから,スコットランドを切り離したイングランドは,同じではありえない.
彼らが狙うのは「スロバキア・シナリオ」です.連邦解体の危機を解決するのは,強力な指導力を持った政治家だけです.それは.イングランドにとっても,スコットランドにとっても良くない話です.・・・誰にもこの結合を奪うことはできない.
国家は,領土と政府,そして人民がいなければなりません.「イギリス人とは何か?」 「イギリスらしさ」とは何か? 何がイギリスを変えたのか? ユーゴやソ連が解体しても,EU連邦に加盟しても,それで国家が失われるわけではない.特に,「人民」が.しかし,他方では「多文化主義」が国家を掘り崩しています.最近に至るまで,さまざまな人々がこの島に来て住み着いたのです.
イギリスが社会的な結束を維持するには何をなすべきか? イギリス人とスコットランド人は同じではないけれど,それでも,両者は統合しないし,完全に分離もしないだろう.さまざまな歴史において,異なった民族が暮らします.腐敗した部分もあれば,エリートたちもいる.アイルランドの分離独立は内戦を引き起こしました.強力な指導者が必要です.
FT April 27 2007
America’s new angst over Japan
By Christopher Caldwell
安倍晋三首相がジョージ・W・ブッシュ大統領と会談するためにワシントンを訪問したのは,まさに,トヨタ自動車が世界最大の自動車メーカーの地位をGMから奪い取った数日後のことだった.今年の第一四半期にトヨタは235万台を売り,226万台のGMを抜きました.GMの屈服が日米貿易における「競争条件の均一化」というポピュリスト要求を強めたときに安倍氏は訪米したことは,これを外交的な試練に変えてしまった.1980年代,90年代には,アメリカのベストセラーが日本企業は自由貿易の精神に違反している,と書き立て(特に半導体),アメリカ資産を乗っ取るつもりだ,と攻撃した(特にロックフェラー・センター).しかし今日,アメリカで日本は,寿司,マンガ,キティーちゃん,そしてボストン・レッド・ソックスで増える日本人ピッチング・スタッフの中に姿を消してしまった.
安倍氏はアメリカ人にとって,長髪スタイルで愛想も良かった,前任者の小泉潤一郎ほど分かりやすい人物ではない.小泉はブッシュ氏がプレスリーの自宅,グレースランドに連れて行くと,エア・ギターを披露して新聞ネタを提供してくれたほどだ.ところが,安倍氏はワシントンに着くと,言い訳するより,お願いし始めた.日本は最新鋭のステルス戦闘機,F22ラプターが購入したい,何せ中国はロシアから最新鋭機,Su-30を得ている,というのだ.国防省の専門家は,とんでもない,受け入れることのできない要求だ,と言う.
日本叩きが終わったのには多くの要因がある.日本は10年を超える経済停滞で,脅威と思えなくなった.中国の台頭や核武装した北朝鮮に対して,日本は頑強に忠誠を示すアメリカの同盟国だ.イラクに軍隊を送ることさえした.そこには世代交代もある.1980年代のアメリカの指導者層は第二次世界大戦を経験していた.特に太平洋の戦場における日本兵の残虐さは,彼らに反日感情を残しただろう.それはドイツや韓国,イラクで兵役に服した者と違う(もっと強い).その世代が引退した.
しかし,日本叩きの循環が再生する可能性は,今,非常に高い.その危険は日本人の行動よりも,いつもそうだろうが,アメリカ人の自己意識に関わる.トヨタとGMの話題はその危険な兆候だ.昨年,トヨタが上げた利益は117億ドル.日本的経営の模範だろう.アメリカのビジネス・スクールでは,「リーン・プロダクション」,「カイゼン(改善)」,漸進的改良,などを教えている.GMはその反対,アメリカの硬直性を示している.役員給与と自分たちに甘い組合が何十億ドルもの赤字を垂れ流してきた.
トヨタの重役たちがナンバー・ワンを誇示しないのは,あなたにも分かるだろう.アメリカの自動車産業が十分な品質の車を生産できないことで,憤怒はくすぶったままだ.結局,この憤怒は保護主義に向かう.トヨタの自動車を減らしたい,アメリカ製の部品を使え,マイノリティーの工場からもっと買え,・・・
この数週間,GMとフォードは日本の通貨政策を調査するよう議会に求めている.縁は組織的な安く維持されており,日本は不当な優位を得ている,というわけだ.アメリカの予算赤字と貿易赤字がドルを下げているときに,こうした議論はしにくいが,ミシガンの政治家たちはやる気だ.GMはトヨタが議会でも影響を強めている,と言う.たとえGMの献金の方が多くても.しかし,これは当然だ.GMは莫大な赤字を出し,ますます売れなくなっている.選挙区に数千人の雇用をもたらす工場を建てる可能性など無い(トヨタはある).
トヨタと日本産業の,アメリカにおける真のアキレス腱は,多くの影響力あるアメリカ人がアメリカ産業の衰退を自分たちの失敗とは認めことができない点だ.日本製自動車の成功は通貨や政治によるのではない.何よりも,アメリカ製の自動車より品質において勝っていることだ.
The Japan Times: Sunday, April 29, 2007
Who will defend Japan's Constitution?
By CRAIG MARTIN
April 30 (Bloomberg)
Deflation Is Making an Unwelcome Return to Japan
William Pesek
IHT Tuesday, May 1, 2007
Abe flounders in finding a role
By Philip Bowring
(コメント) 憲法を改正したい,特に,第9条を破棄したい,と首相が公に言う(宣伝する)のは,国民に大きな予断と圧力を加えることではないか? と私は懸念します.
たとえば,ゴールデン・タイムに主要な意見をインタビューの形で流すとか,毎週末に討論会を放映するとか,複数の専門家集団が私案を公表し,諸外国の専門家や近隣諸国の反応もくわしく紹介し,主要な論争を尽くしてから,主要紙は一斉世論調査を行ってください.その動向を踏まえ,冷却期間も置いて,第二次の論争を国民に浸透させる・・・ それほど慎重に,論争そのものを周知してほしいです.そして極端な主張や卑劣な中傷は避け,威嚇的な発言や行為に及ぶ者を厳しく糾弾して,舞台から追放することです.国民が争点を選択して,自分たちの憲法を決めるのであり,特定のカリスマや煽動家の人気投票ではないからです.
それでは憲法を変えることができない? そうでもない,と思います.明確に期限を切って,ある準備段階まではすべての争点を受け入れ,それでも国民を分裂させ続ける争点は保留(あるいは折衷や分割)と決める(そして,十分な時間を空けて,将来の論争再開を決める),といった工夫をすれば,必ず憲法は変わります.
MARTINは,安倍首相が憲法改正を求める理由として,1.憲法改正の手続きを明確にする,すなわち,国民投票法案.2.政府によって憲法の解釈が変更されるのは間違いだ.これを正式な回生手続きによって遮断する.3.憲法の解釈を問う専門家会議があるのは間違いだ.4.集団的自衛権を憲法で認めるべきだ.
Pesekは,ある意味で,今の日本でもっとも重大な問題,デフレの再現を問う日本人がいないのはなぜか,と考えます.それは世界の契機や金利水準にも影響します.安倍・ブッシュ会談でも取り上げるべきだった,と.
Bowringは,安倍首相の訪米は,日本が国際政治において果たす役割を見失っている,と指摘します.安倍自身の発言で訪米の関心はすっかり従軍慰安婦への謝罪に集まり,他方,ブッシュ政権の北朝鮮に対する柔軟な姿勢を批判するのはアメリカの強硬派を喜ばすだけで,アジアの近隣諸国の間では,日本政府の「拉致問題」に偏った交渉姿勢が支持されていません.
日本は,アメリカへの奴隷的な服従と,完全な同盟国との間で,正しい役割を見出せていません.アジア諸国は中国に対するバランスを求め,アメリカ政府は最新鋭機の売却で信頼を示しました.他方,中国はますます警戒感を強めます.イラク南部に非戦闘員を提供する政策も,アメリカに頼った二面的性格です.石油資源や通貨,貿易,環境に関しても,中国とアメリカの間に立つ安倍内閣が何をしたいのか,不明です.
BG April 28, 2007
Hedging disaster
By Robert Kuttner
(コメント) 2006年のヘッジ・ファンドのトップ・マネージャー,25人の平均収入は$570 million(約650億円),2005年の$362 millionからさらに増加しました.最高額は,Renaissance Technologies のJames Simons が得た17億ドル(約2000億円)です.・・・年収ですよ.ヘッジ・ファンドもプライヴェート・エクアティ・ファンドも,その違いは消滅し,通貨市場や企業の売買を含めて,労働者や企業家の長期的利益を破壊します.アメリカ(や日本)と違い,ヨーロッパの指導者たちは法による反撃を初めています.
NYT April 28, 2007
By ROBERT WRIGHT
(コメント) 「猿の惑星」は本当にあるのか? ついに,地球と同じような条件で,おそらく水がある惑星を発見したようです.しかも,わずか20光年の距離に.すると,生命が存在し,進化が存在し,高度な文明が存在するかもしれません.
しかし,応答は無い.なぜ宇宙から知的生命体が人類に呼びかけて来ないのか? これはSF小説の古典的なテーマです.実際に生命の条件を満たす星がある以上,考えられる理由は三つだ,と話は続きます.
その生物による文明が高度に進化した末,1.核兵器による最終戦争が起きた.2.環境破壊によって死滅した.3.テロなどによる文明の荒廃が進み,他の破滅的要因が重なった.すなわち,「文明の衝突」説です.
もしそうであれば,私たちは応答の無い,要するに,死滅した文明の墓場である宇宙に直面して,生き残りを真剣に模索するべきなのです.
一つだけ,嬉しいニュースを教えましょう.いつか,もし応答する生命体があるとしたら,きっと彼らの文明は非常に高度で,しかも平和的・友好的であるだろう,ということです.
WP Saturday, April 28, 2007
A Legacy in Peril at the World Bank
By Colbert I. King
IHT Tuesday, May 1, 2007
Why Wolfowitz should stay
By Nuhu Ribadu
The Guardian Thursday May 3, 2007
The bank the world needs
Nancy Birdsall
(コメント) ウォルフォヴィッツに関して,Kingはその内外における協力関係を破壊し,世銀総裁の資格を欠いた点を記します.他方,ナイジェリアのRibaduは,アフリカにおける腐敗防止について,それを続けるべきだ,とウォルフォヴィッツ支持を明確にします.彼が責任を認めて謝罪しているのだから,処分しても辞任することは無い,と.
Birdsallは,この機会に世界銀行のあり方を真剣に考えるよう求めます.すなわち,世銀には優れた専門スタッフと蓄積された知識・技術があります.また,世界には公共財を供給する主体が必要です.すなわち,世銀は温暖化防止や環境保護について,貧しい諸国の政府を支援する仕事に取り組むべきなのです.
公共財は政府が供給し,世界に対しては主要国の政府間強力で供給してきました.しかし,特に貧しい国との信頼関係を築いて,長期的な視点から,環境保護と貧困解消を目指すために,権限と財源を得るために,世界銀行はその存在理由を示すときです.
Asia Times Online, Apr 28, 2007
Seven dollar myths
By Axel Merk
(コメント) Axel Merkは,ドル価値の変動について,七つの神話を批判します.1.アメリカには十分な金融資産がまだあるから,ドルは安全だ.2.アメリカの財政赤字が大きすぎるから,ドル暴落は避けられない.3.ドル安は貿易赤字を減らす.4.貿易赤字を減らせばドル価値を回復できる.5.景気減速がドル不安を招いている.6.中国に問題がある.7.金利を引き上げてドルを防衛するべきだ.
確かに,私もすっかり同意したくなる重要な主張ばかりです.これに対して,1.キャッシュ・フローは生産(GDP)に比較するべきだ.2.公的債務は長期の問題であり,為替レートの短期の変動を説明しない.3.ドル安でも流出した製造業が戻ってくることは無い.4.もし貿易赤字減少の理由が景気減速なら,貯蓄と投資の関係で見て,外国人投資家たちがアメリカに資本を向ける理由も失われる.5.アメリカでは今のドル安水準が景気を支えている.ユーロ圏では構造改革が注目されており,対外赤字は大きくない.だから,もしアメリカの住宅市場がさらに悪化して,景気減速が強まれば資本は流出し,ドル安になり,住宅市場の調整と不況は長引くだろう.6.中国は国内改革に真剣に取り組んでおり,むしろ破滅的な影響をもたらすのはアメリカ国内の保護主義である.7.経済学の教科書は今も間違ったことを教えているが,高金利で為替レートを動かせない.重要なのは将来の実質金利と成長率の予想であり,為替レートに影響する要因は多くある.
NYT April 29, 2007
A Russian Oligarch Goes Shopping
By ANDREW E. KRAMER
The Japan Times: Thursday, May 3, 2007
Unlike Yeltsin, Putin has luck on his side
By ANDERS ASLUND
(コメント) ロシアの自由化や新興富豪・オリガークについて聞いたことがあるでしょうか? その何人かが紹介されています.最初の一人.
Oleg V. Deripaska,39歳.ロシア第二の新興富豪.自動車からアルミニウムにまで広がる彼の企業帝国を,先週,さらに拡大しました.彼の持ち株会社がオーストリアの建設企業の株式30%を取得したからです.費用は16億ドル.
Deripaskaは元原子物理学者で,特に海外における企業買収を活発に行っています.しかしロシア国内の資産は不明.Forbesの評価では168億ドルで,それはRoman A. Abramovichに次ぐ,第二位.彼は,ボリス・エリツィンの孫娘(step-granddaughter)と結婚しています.
富豪たちだけでなくプーチンも,幸運の井戸を掘り当てたようです.エリツィンの時代,1999年にロシアのGDPは2000億ドルでしたが,今では1兆ドルを超えました.実質所得は年率10%で増えたのです.財政黒字はGDPの7%もあり,公的債務も1999年にはGDP比100%であったのが,わずか8%,経常収支は過去8年の平均で10%の黒字です.しかも,これらはプーチンの政策やエリツィンの進めた改革によるものではありません.
プーチンが大統領になる1年前は,金融危機,補助金削減,石油価格はバレル当り10ドルまで下がっていたからです.確かにプーチンは改革も進めましたが(特に最初の3年は),しかし他方で,エリツィンの残した民主主義を一貫して破壊しました.メディアを破壊し,反対派を破壊し,選挙を破壊して,それをルールにしたのです.そして経済面でも,すべての資源や富を再国有化し始めたのです.
ASLUNDの予想は明確です.・・・プーチンとそのKGB仲間が権力を手放すことはありえない.たとえプーチンが憲法で禁止された3期目について何を言うとしても.しかし,改革ではなく幸運に頼るプーチンの人気はたやすく崩壊するだろう,と.
FT April 29 2007
(Not quite) the return of the monetarists
(コメント) イギリスにおける「マネタリズム再興」の話題です.実際には,完全に弾力的な金融市場,「効率的市場仮説批判」です.いつまで通貨供給の増加を無視して良いのか? このままでは主要国でインフレが珍しい時代は終わる,と心配しています.
The Guardian Monday April 30, 2007
The Iraq war is over. It is the moment for Democrats to show real leadership
Gary Younge
アメリカ人が軍服の男性や女性に対して抱く畏敬の念がどれほど強いか,それを示すことは決して誇張ではない.自国のために戦うことは最高の公務であると考えられている.
飛行機の乗務員は同乗する兵士たちがいると放送し,乗客は彼・彼女たちに励ましの挨拶を送る.反戦デモのプラカードは,「兵士たちを支持する.戦争をやめろ.」である.
そこには強い愛国心以上の理由がある.朝鮮戦争やベトナム戦争によって,多くのアメリカ人には軍務に就いた親戚がいる.帰還兵を利用するためにリベラル派は声高に軍隊を支援する,と言われる.そして海外でどのように評価されていようと,アメリカの軍隊は国内の社会改革を実現する土台であった.それは公式に統合した最初の制度の一つであり,第二次大戦後のGI関連法(復員兵援護法)により住宅や教育の機会を保証され,彼らが戦後の中産階級を形成した.
セーフティー・ネットがない国では,軍隊が数少ない政府の支援する貧者のための上昇機会である.イラクで名誉負傷章を得て除隊した,25歳のDarrell Andersonは,「祖母とトレーラーの中で暮らしていた.」と言う.「私はそこで負傷したが,教育と医療保障を得た.そうする必要があったから戦争に行ったのだ.軍隊に入ることが,私の最後のチャンス,最後の選択肢だった.」
アメリカ人が兵士たちを支持する感覚は複雑である.ブッシュ政権と,民主党が多数を占める議会は,兵士たちや彼らを支持する国民感情を自分たちの側につけようと争っている.議会はブッシュ氏が求めた軍事予算を,むしろ増加して,撤退の期限を決めるよう求めた.大統領は拒否権を行使し,「(撤退に関して)白紙委任」を求めた.民主党は拒否権を覆す票を確保できない.このまま議会が予算案を承認しなければ,いずれ軍隊は支出できなくなる.
ブッシュ氏の支持率が低下しただけでなく,軍隊も彼を支持しなくなっている.イラク戦争の初期に,ナッシリアで待ち伏せに遭い,捕虜となったジェシカ・リンチJessica Lynch 女史は,「テロとの戦争」の英雄でありランボー,西バージニアのアイドルにされた.彼女は議会公聴会で証言した.「私には今も分からない.なぜ彼らは嘘をつくのか.あのときに仲間の兵士たちは真に伝説的な働きをしたのに,なぜ私を伝説にしようとしたか.」 また,900万ドルの契約を断って軍隊に志願したフットボールのスター選手,パット・ティルマンPat Tillmanは, 2004年にアフガニスタンで救出作戦を指揮していたとき,敵の戦闘員に殺された.しかし5週間後,彼らはティルマンが自軍の誤射によって死亡したことを認めた.パットの兄は言う.「このような作り話は,家族を愚弄し,さらに,アメリカ国民を愚弄したものだ.」
だからブッシュが今も執着する世界,すなわち戦争は正しかったし,事態は改善しつつあり,中東に民主主義が繁栄する,という世界はますます縮小している.彼が英雄と指名した人たちさえ,彼といっしょに舞台に上がろうとはしない.
戦争は終わりだ.撤退を遅らせることは,その苦しみを引き伸ばす.
ブッシュが拒否権を行使するのは二度目でしかない.6ヶ月前に拒否したのは,受精卵の研究を合法化する法案だった.その際彼は言った.この法案は「無辜の人命を奪うものだ.・・・われわれの礼儀正しい社会が尊重する道徳の境界線を侵すものだ.」 しかし彼は,細胞の集まりをはるかに超えた,人命に対する配慮をはなはだしく欠いているではないか? 彼の道徳的な境界線はグリーン・ゾーン(アメリカ軍がイラクで死守する安全保障圏)の外には無いのか? 彼に反対する名目があるか?
LAT April 30, 2007
What war?
Niall Ferguson
Asia Times Online, May 1, 2007
All power to US's shadow army in Iraq
By Jeremy Scahill
(コメント) イラクは燃えているが,アメリカ経済の繁栄は続く.『タクシー・ドライバー』や『ディア・ハンター』が描いた以上,今のイラク帰還兵たちはアメリカ社会の繁栄の中で疎外感に苦しんでいるだろう,とFergusonは書きます.多分,彼らは1970年代のベトナム戦争が残した経済混乱を懐かしむわけです.
そして,ベストセラーBlackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Armyの著者が伝える最新報告です.公式のアメリカ政府軍が撤退するとしても,傭兵たちによるアメリカの戦争は続くのです.
The Japan Times: Monday, April 30, 2007
America mismanaging missile defense
By F. STEPHEN LARRABEE and ANDRZEJ KARKOSZKA
(コメント) ヨーロッパにおいてミサイル防衛網を提案した仕方は間違いでした.1.政治的・心理的な準備を欠いており,2.政治と切り離して,技術的な問題として提示し,3.ポーランドやチェコ共和国の世論を軽視し,4.東欧諸国が親米的で,アメリカに追随するものと決めてかかった.「アメリカが望むから」という理由だけで,ポーランド議会が承認することは無い.
アメリカとの安全保障や貿易・投資における同盟関係の再編は,FTAやミサイル貿易網がそうであるように,各地域の分断化や対立を強めるものです.それはアメリカにとっての利益かもしれませんが,長い目で見て,それぞれの国に安全や繁栄をもたらすものか,また,世界にとっても望ましい国際秩序であるか,疑問に思います.アメリカはそれを日本に説得し,日本政府は国民に説得しているでしょうか?
WP Monday, April 30, 2007
Lazy, Job-Stealing Immigrants?
By Sebastian Mallaby
移民をめぐる発言の多くは意味が無い.
人々が言うように,ギャングたちの暴力,酔っ払い運転,法律への侮蔑,などが移民の特徴か? しかし,全人口と比べて,移民の収監率(監獄に入っている比率)は5分の1である.
移民たちは無責任で怠惰なくせに,アメリカ人の雇用を奪い,税金を払わずに社会保障を濫用しているのか? しかし,18−64歳について,国民全体よりも就業率は高く,ヘッジ・ファンドのマネージャーに負けないくらい上昇志向である.また,雇用は固定された量を奪い合っているのではなく,移民に溢れるカリフォルニアの失業率は5%でしかない.非合法移民たちは社会保障を利用できないし,彼らも消費税や給与からの天引きを支払っている.移民の3分の1は所得税も支払っている.非合法移民がアメリカ人に及ぼす効果は概ねゼロである.
移民たちはアメリカ人労働者の賃金を引き下げたか? この点では議論が分かれる.確かに高校を中退者の賃金は,1980−2000年に,移民のせいで9%減ったという研究がある.たとえそれが正しいとしても,それが移民排斥の強硬派を支持する理由になるか?
移民たちをすべてアメリカから追放すれば,高校中退者たちの賃金が上がるだろうか? それは成果に見合うようなコストで実行できるのか? 彼らの賃金を2%回復することも難しいし,それによって移民たちが賃金を3倍に増やせる機会を失うだろう.さまざまな対策には莫大な税金が浪費されている.
ルディ・ジュリアーニ,ヒラリー・クリントン,ジョン・マッケイン,政治家たちは誰も移民問題を取り上げない.そしてデマゴーグとネイティビスト(アメリカ生まれのアメリカ人優先)たちが無意味な主張を広まるのを黙認している.
LAT May 1, 2007
Migratory truths
WP Wednesday, May 2, 2007
Seeking Sense on Immigration
By Robert J. Samuelson
(コメント) Samuelsonは考えます.リベラル派とブッシュ政権は手を組んで,ビジネス界の喜ぶ「ゲスト・ワーカー計画」を実現しようとしている.しかし,ゲスト・ワーカーはいつまでも「ゲスト」であり,アメリカ人になれない.彼らはゲスト・ワーカーの必要性を未熟練労働力の不足だと言うが,それは嘘だ.未熟練労働者が足りないなら,彼らの賃金は上がっているはずだ.実際には賃金が下がっている.
保守強硬派の主張する「ノー・アムネスティー(非合法移民に永住権や国籍を与えない)」はどうか? 犯罪者に報いるべきではない,と言うわけだ.しかし,非合法移民を助長してきたのはわれわれだ.1200万人の非合法移民を帰国させる方法も無い.これほど大量の非合法移民がいる制度を続けることに合法性が無い.彼らの子どもたちはアメリカ人であり,その生活を政府が破壊することに正義は無い.
Samuelsonは求めます.国境を厳しく管理すること.非合法な入国は厳しく処罰する.他方,法律やコミュニティーに従う,アメリカ国内の非合法移民を合法化すること.「ゲスト・ワーカー計画」ではなく,定住化を促す移民システムが,未熟練労働者よりも熟練労働者を優先して取る.アメリカ社会は移民を統合する高い能力を示してきたが,無限に吸収することはできない,と.
BG May 1, 2007
Integrating, tolerating immigrants
By H.D.S. Greenway
FT May 1 2007
How the flood of European migrants is receding
By Dhananjayan Sriskandarajah
Project Syndicate, May 1, 2007
The Strange Death of Multiculturalism
Ian Buruma
(コメント) ヨーロッパにおける移民統合の二つのモデル,フランス型とイギリス型が,ともに失敗し,見直しを求められています.Greenwayは,前者を「同化」,後者を「自由放任型の多文化主義」と呼びます.そしてサルコジの提案を紹介します.フランス型を多民族の国民に適用しても,移民に適用するのではなく,「アファーマティブ・アクション」を取り入れます.他方,イギリスでもブレア政権や保守党のキャメロン党首は,多文化主義が社会的な統合を軽視することであってはならない,と合意し,フランス型の「同化」を取り入れようとしています.
Sriskandarajah は,EUの新規加盟10カ国から流出した移民について述べています.2004年以来,10カ国からイギリスに入国した移民の数は登録しただけで50万人に達します.ただし,これは一時的であり,以前から農業における出稼ぎ労働者がいたわけです.彼らの母国で経済の見通しが改善すれば,アイルランドと同様,彼らの多くも帰国するでしょう.従来,EUは域内の労働力移動が少なすぎることを心配してきました.それが改善されたわけです.
異なるエスニシティーをもつ集団は同じ国でも分離したコミュニティーに住むとか,異なる集団が話し合うことも批判しあうことも必要ない,と言うのは間違いだ,とBurumaは考えます.多文化主義が政治的コミュニティーを不要にする,などと主張する者はいない.多文化主義とは,少なくとも法に従っている限り,単一の価値のヒエラルキーに従うことを誰も強いられない,ということです.
それが誕生したときは,1970年代,80年代の文化的な相対主義のイデオロギーと共鳴し,ヨーロッパの自由民主主義的政治システムが白人にしか適当でない,アフリカは無理だ,という傲慢さもありました.オランダについては,イスラム過激派が論争になる以前から,独自の文化多元主義,すなわち「ピラー」システムがありました.これにイスラム教徒が加えられたわけです.
しかし,オランダにおける宗教は世俗化しており,多文化主義を支持した人々は啓蒙的な価値観を重視し,イスラム教徒の価値を強く否定しました.そしてイスラム教徒を恐れる余り,彼らは自分たちの価値をも破壊するに至るわけです.法の下の平等,信仰の自由,表現の自由,結社の自由・・・ 穏健なイスラム教徒を含めて,ヨーロッパは啓蒙主義の価値を回復できるか?
FT April 30 2007
The global economy through rose-tinted glasses
Robert Wade
(コメント) 2030年に向けた世界経済のばら色予測について,Wadeは世銀の前提を批判します.グローバリゼーションは富を増やし,持続する? その根拠は,ほとんど中国の過去の成長に頼っています.しかし,発展途上諸国は自由化や輸出指向戦略に疑問を持っており,方針転換するでしょう.また,裕福な諸国がこのまま浪費や環境破壊を拡大し続けるとも思えません.
また,中国など,新興経済の成長は,歴史的に,戦争を引き起こしてきました.アメリカと中国が敵対する戦略をとる危険があります.需要が増大すれば世界の供給能力をめぐって,発展途上諸国におけるインフラ投資も拡大します.しかし,たとえばアジア通貨危機の後で西側資本が底値で買いあさった企業について,根深い怨嗟が生じています.世界の金融システムが安定しているとも前提できないわけです.
FT May 1 2007
Risks and rewards of the world economy’s golden era
By Martin Wolf
Asia Times Online, May 2, 2007
Farmers fight back against free trade
By Walden Bello
The American Prospect 05.02.07
Double Decoupling
By Robert B. Reich
(コメント) 多くの日本人には納得行かないでしょうが,世界は資本主義の黄金時代を経験している,というわけです.IMFや世界銀行は評価し,予想しました.この多幸症(ユーフォリア)を支持するのは,アジア・中国と世界の低インフレです.それらは世界貿易の拡大,もしくはグローバリゼーションによって結びついています.世界に貧困はまだ広く存在しており,なるほど,彼らがすべて豊かになるまで成長するとしたら,減速はまだまだ先のことです.
しかし,他方で,未来を予測するのは愚か者だけだ,というわけです.将来を決めるのは現在の決定であり,各国政府がその可能な選択肢を十分に正しく意識しているか? と言えば,たちまち悲観論や人間嫌い,終末論に向かうでしょう.
Belloは考えます.WTOが求める貿易自由化は,もう進まないだろう.「万国の農民よ,団結せよ!」 ・・・です.「エスカレートする農民グループの抗議活動は,過去への退行ではない.単に小農民だけではない.環境の危機が頻発し,都市的・工業的生活の社会的破綻が積み重なって,生産とコミュニティーと生活を組織する時代遅れの近代主義がもたらす破滅に脅かされているすべての人々にとって,農民運動は重要である.」
Reichは,また少し違います.アメリカの株式市場が上昇し続けるのはなぜか? と言うわけです.私はこの話(二重のデカップリング)から思いました.世界がアメリカに頼らず,また,アメリカが大企業に頼らず,成長する可能性を広げるなら,もっと希望はある,と.
Anne Applebaum Sarkozy's New Europeans WP Tuesday, May 1, 2007
Serge Halimi France's Reagan has learned the lessons of American spin The Guardian Wednesday May 2, 2007
Karabekir Akkoyunlu A plea to the next French president IHT Wednesday, May 2, 2007
H. D. S. Greenway Europe's integration problems IHT Thursday, May 3, 2007
(コメント) サルコジのたくましさ,斬新さを示すApplebaumの叙述に,小泉フィーバーや小泉劇場(その魅力)を思い出します.
サルコジは,フランスの歴史的な宿敵であるイギリスの首都ロンドン,その金融街を訪問して,こんな演説をしたそうです.「私がここに来るたびに,ロンドンはますます繁栄し,ダイナミックになっている.」 しかも,「フランスの都市のひとつになっていく.」
それは,・・・どういうことか? なぜなら,「リスクを厭わない多くのフランス人がロンドンに移ってくるから.フランスでは,リスクという言葉が嫌われる.」 ・・・しかし!
「さあ,フランスへ帰って来い! 一緒にフランスを変えるために.フランスを再び偉大な国にしよう.何でも可能な国.父親たちは子どもの将来を心配せず,誰もが計画を実現できる国.自分たちの運命に責任を持つ国に変えよう!」
EU全域で,ますます足による投票が始まっている,と言います.繁栄した国や魅力ある都市は,他の地域から,野心ある優秀な人々を吸収しています.サルコジの呼びかけに応えるロンドンのフランス人,それを支持するフランスのフランス人は多いでしょうか? Applebaumは否定的です.
しかし,「サルコジは,新しいヨーロッパ人に向けて直接に呼びかけた,最初のヨーロッパ政治家である.たとえ彼が敗北しても,彼に続く者はいる.」
FT May 2 2007
Efficiency smothered by a preferential patchwork
By Alan Beattie
FT May 2 2007
Asia must ensure energy race does not become conflict
May 4 (Bloomberg)
Asia Needs a Euro? It's Still a Laughing Matter
William Pesek
(コメント) 貿易,エネルギー,通貨.成長のための3点セットです.アジアには揃っているでしょうか? 「笑わせるぜ!」・・・というのが真実?
FTAをめぐる交渉が官僚たちの時間を消耗し,世界的な供給システムの効率を損なっています.安倍首相はアブダビの石油会社に10億ドルのソフト・ローンを提供して長期供給を求めました.しかし,石油代金を使うのに困っている国へ,日本政府はソフト・ローンですか? 中国も韓国も,日本を尻目に,もっと派手に世界中でお土産をばら撒いているのだから? そして,東シナ海では,いよいよ軍事的な威嚇を含める?
ADBの黒田東彦総裁が示すアジア統合と貧困撲滅のシナリオについて,タイトルにも関わらず,Pesekは比較的同情していると思います.しかし,ヨーロッパと同様に,アジア統合をめぐる主導権争いは熾烈であり,アジア統合に向かう準備段階はまだまだ多年を要するでしょう.アジアにはヨーロッパの統合化を促した有利な条件が無いからです.その通りでしょう.
アジア共通通貨を夢想するより,次のアジア通貨危機を防ぐための改革に取り組むべきです.覇権争いを抑えるためにも,共通の利益(あるいは善意)を増やすようなインフラ投資,すなわち,地域をつなぐ道路,港,橋,電力,通信,そして,債券市場の統合を進める方が良いだろう,と.
FTは次の文句で論説を閉じました.「アジアで最も貴重な商品とは,この先何年も,優れた外交ということになるだろう.」
FT May 3 2007
Ulster has economic lessons for the Middle East
By David Freud(chief executive of The Portland Trust)
(コメント) アジアに可能なら,中東にも統合化は可能でしょうか? そうだ,とFreudは考えます.どれほど戦乱で傷つき,憎しみ合っているとしても.その証拠なら,アイルランドを見よ.これはすばらしい論説です.
テロリストよりも失業者の増大が問題だ,として,経済対策に重点を移すようになってから,30年を要しました.マイノリティーの不満を軽くする上で,雇用の改善は非常に重要です.
ビジネスが和平交渉も促しました.直接投資を誘致し,コミュニティー間の反目を緩和しました.ビジネスを促す法律や枠組みはすべての差別から職場を開放するように作られたのです.
交渉を国際化して,たとえばクリントン大統領が参加してくれたことは,和平を進めました.しかし,地域への公的な援助はその効果が曖昧です.なぜなら政治的な交渉を継続する力になると同時に,生産性の劣る,援助に依存した経済をもたらすからです.
交渉過程を妨害する事件は起きましたが,それでも双方の住民たちは妨害行為を抑制しました.パレスチナとイスラエルの紛争を解決するために,その教訓を最も簡単に要約すれば,対立の経済的側面にもっと注意を払うべきだ,ということです.それに失敗すれば,過激派による交渉の破壊は容易に成功するでしょう.
パレスチナ経済を復興することは,ビジネスを通じて雇用をもたらすだけでなく,穏健派を育て,その地域に資源を流入させるでしょう.経済が,長期の平和をもたらすのです.
NYT May 4, 2007
Norway Keeps Nest Egg From Some U.S. Companies
By MARK LANDLER
(コメント) 社会的意識の高い500万人からなる国家が3000億ドルを超える石油輸出代金を資産として運用するとしたら,彼らは何を目指すだろうか?
それがノルウェー政府の年金基金(Government Pension Fund)です.ウォルマートやボーイング,ロッキード・マーチンは,彼らの倫理基準を満たせないという理由で,投資を引き揚げる結果になりました.
その基準とは? 「人権を著しく,組織的に侵した.戦場や紛争において,個人の権利を著しく損なった.環境を著しく損なった.おびただしい腐敗・汚職があった.その他,基本的な倫理規範を著しく損なった.」 また,「地雷やクラスター爆弾を製造する企業」には投資を禁止しました.しかし,核兵器を生産する企業を含めることに関しては,NATOの核の傘に守られた国に批判もあった,と言います.その結果として,10億ドルの投資が引き揚げられたのです.・・・
郵便局の保険や年金を民間委託する場合も,日本国民は倫理基準を求めるのではないでしょうか? たとえば,・・・「核兵器の廃絶に貢献した国や企業」,「軍事予算を削減した発展途上諸国」には,積極的に投資する.
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The Economist, April 21st 2007
America’s tragedy
France’s presidential election: The end of the beginning
Moldova and Russia: A thaw in the river
Charlemagne: Scotland’s Eurodreams
(コメント) 連休中は電車に乗らないので,読めませんでした.あしからず.
バージニア工科大学の大量殺人です.最大の犯人は強力な銃器であり,それを規制できないアメリカ民主主義の構造的欠陥です.そして,三つの記事がお奨めです.フランス,モルドバ(とロシア,その飛び地・・・まるで,ルパン3世のカリオストロ),スコットランド(とEU)にも,構造的な欠陥が露出しています.
なるほど,個々の政策やシステム,国家戦略よりも,政策者集団の性格とその指導者を,人として信頼できるかどうか,すべての関係者が集まって,定期的に平等な投票で決める時代が来るかもしれません.