IPEの果樹園2007

今週のReview

4/30-5/5

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 共鳴した記事のキー・ワード **********************

安倍首相という日本の政治, 政治的人間, サルコジ大統領, エリツィン死去, 4万キロのマラソン, 世界議会, 移民自由化論, 欧米と米中の世界秩序

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


The Japan Times: Thursday, April 19, 2007

Nuclear basics for the alliance

By BRAD GLOSSERMAN

WP Sunday, April 22, 2007

A Conversation With Shinzo Abe

By Lally Weymouth

(コメント) 安倍首相が世界情勢の変化を理由に憲法改正や戦争する権利を回復しようとするのは,それ自体が,北朝鮮のミサイル発射や核兵器の大きな助けによるものでしょう.そして,そのためには靖国神社に行くのをやめないけれど・・・黙ったり,アメリカで強制連行や従軍慰安婦のことを本当はするはずないのに・・・謝罪したり,幼年期から形成された政治信条と現実=権力政治とのつじつま合わせに忙しい日々を送っている.つまり,日本の首相がこうなってしまっている,ということにより,金正日は世界を変えたわけです.

GLOSSERMANは,アメリカ政府が北朝鮮の核保有を認める気ではないか,という日本政府の疑念を描いています.私は,アメリカも中国も朝鮮半島の非核化という点で完全に一致している,と思っています.むしろ,日本政府が「拉致問題の全面解決」を交渉の優先順位に挙げる点で,6カ国協議においても孤立してしまった,と思うのです.

それはともかく,GLOSSERMANは,日本政府がアメリカの核の傘を信用できなくなっている,という問題を重視します.バンコ・デルタ・アジアの北朝鮮口座解除や,アメリカとインドの核協力合意も,日本の対米不信を強めている,と.「ブッシュ・小泉」の親密な人間関係によって重要な問題を隠蔽してきたことで,むしろ反動となって互いの不信感が噴出している,というわけです.

クリストファー・ヒルの北朝鮮対話姿勢と,安倍首相の強硬姿勢は,本来,十分な打ち合わせを経て役割分担するべきであったのに,むしろ互いの足の引っ張り合いに見えます.自己主張が不信感を増幅するようであれば,日米の同盟関係や核抑止が表面的なものに見え始め,憲法改正や対米協力,集団的自衛権などが,目先の駆け引きの材料に使われてしまう・・・ そんな不安を感じます.冷静な分析と安全保障体制への展望をもたらす議論を鍛えることなく,安倍政権もブッシュ政権も,互いの不安や弱みに付け込んで有利な立場を示す結果,深刻な間違いを冒しつつあるのではないか・・・?

その意味で,Washington Postが載せた安倍首相のインタビュー記事は,訪米前というだけでなく,大いに興味を持ちました.記者は,6カ国協議,温家宝来日,イラク自衛隊派遣,従軍慰安婦発言,ナショナリスト,中国との難しい関係,を指摘しています.

このインタビューで日本の首相が発言していることは,基本ラインについて外務省の作文なのでしょう.なるほど,もしこれがアフリカの小国や中東の軍事国家であれば,アメリカの友情を,自国の誇りを失わずに,つなぎ留めるため苦心しているのだなあ,と悲観しつつも同情したかもしれません.しかし,そうでは無いでしょう.この人が本当に日本の政治的代表なのか・・・? という気持ちを拭えません.

日米関係が何より重要だ,と断言したにもかかわらず,アメリカに占領されて,押し付けられた憲法には従えない,と言っているように記者は理解します.従軍慰安婦についても,証拠は無い・・・けれど,実に同情する事件だ,と支離滅裂な発言を繰り返します.挙げ句,証拠は無いと私が最初に言ったのではない,という話です.

・・・戦後レジームの転換? それで,ええと,・・・経済改革は? ・・・中東和平も? この内閣に何かできると,アメリカ政府は本気で期待するでしょうか?

そう言えば,安倍首相が就任後すぐに中国と韓国を訪問したとき,その反目をすっかり解消して北朝鮮の発射したミサイルについての協議に向かったのも,金正日のおかげでした.その後の進展は,安倍氏がエリツィンほど強烈な体制破壊者ではない,ということを示したわけです.

FT April 24 2007

Dialogue among the Pacific powers

April 25 (Bloomberg)

China Humbles U.S., Japan in Asian Charm Game

William Pesek

FT April 25 2007

Japan’s trade patterns

FT April 25 2007

Japan stirs from its postwar detachment

(コメント) 日本とアメリカと中国と韓国とアジアは,調合を間違えて,発酵時間を間違えて,温度を間違えて,それでも焼くしかなかったパンのように,何か訳の分からない複雑な関係になってしまいました.

日本政府が憲法9条改正,自衛隊海外派遣をアメリカに期待させ,中国の国際的な地位上昇を受け入れるように説得し,核保有や北朝鮮ミサイル基地の先制攻撃を議論し始め,アメリカによる核の傘を疑い,ミサイル防衛システムの共同開発や偵察衛星の打ち上げを急ぎ,あるいは米韓FTAを牽制する・・・ ブッシュ政権は安倍首相の姿勢を,本当に,歓迎しているでしょうか?

アメリカ政府は,日本や韓国に牛肉を輸出すること以上に,日本の憲法改正や9条の廃棄,自衛隊によるイラク占領の肩代わり,北朝鮮のミサイル迎撃や報復,中国封じ込め,・・・などを本気で望んでいるでしょうか? 私がアメリカ大統領なら(!),アメリカと中国で核を独占し,日本に頼って発言力を増やし,アジアの貿易や通貨秩序について(中国以上に),また,イラク統治にまで(イギリスでさえ無視したのに)日本の意見を尊重しよう,などと思わないでしょう.アメリカ政府は,日中が過去の怨嗟と不安を捨てて,友好関係を築くように求めています.この3者の友好関係が太平洋圏の平和と繁栄を決めるからです.

国際間の対話,交渉枠組み,信頼,経済協力は可能です. Pesek が指摘するように,ニチベイ経済圏は178000億ドルを生産しています.他方,中国経済の規模は26000億ドルです.安倍首相が注目するとしたら,軍事協力ではなく,経済関係であり,繁栄を共有し地域に拡大することでなければなりません.

それに比べて,中国は国内の条件を何よりも重視し,アメリカや日本との協力を優先しないのです.ポールソン財務長官が努力しても,その成果は期待できません.中国は急速な成長により,以前はアメリカや日本の成長がアジア諸国を協力させた役割を奪いつつあります.アジアはすでに,Topixではなく,中国株式相場を基準に変動し始めている,というわけです.日本の景気が回復するかどうか,などアジアは気にしません.

FTの記事.「世界権力の移行を示すさらなる証拠か? それとも,単なるノイズか? 昨年度の貿易額において,日本の最大取引相手国がアメリカではなく中国になった.・・・日本のアメリカ向け輸出は2%しか増えていないが,中国向けは何と15%も増えた.」

FTの次の記事.「日米同盟は,アメリカが日本に基地を置く代わりに,日本の防衛を引き受ける,という約束であり,戦後,日本が平和と繁栄を築く基礎であった.それが,少なくとも1990年代まで,驚異的な富の増加とアメリカの核の傘による平和を日本に許した.しかし,それは以前のように十分ではなくなっている.」

アメリカの戦後秩序に占める日本の役割が変化し,そのことを受けて,吉田茂元首相がすでに今の安倍首相の姿勢を明確にしていた,という解説が続きます.そして日本の外交・安全保障について,Kenneth B. Pyle の新著‘Japan Rising, The Resurgence of Japanese Power and Purpose’, Public Affairs, New York を紹介しています.日本の安全保障は東京で作られるのではなく,そのエリートたちの機敏な(狡猾な)適応力により,国際的な機会が変化することに応じて,大きく転換したのです.

つまり,三つの局面しかありません.1.黒船によって開港を強いられ,蛮族の侵攻を防ぐために蛮族の手法を学ぶ維新に賭ける.2.ウィルソンの理想主義が潰えた1930年代,日本も帝国拡大の機会主義に徹する.3.戦争による破滅の危機を味わってから,戦争以外の手段で,すなわち経済的な地位を高める競争に邁進する.

それは大いに成功したにもかかわらず,日本は余りにも多くの誇りを失った,と安倍首相は考えます.屈辱的な内容の日米安保条約や,防衛予算のGNP1%枠を,自民党政権は転換してきました.今や日本政府が第4局面を開始したのであれば,過去の経験はあてはまらない,と世界の読者に警告します.

LAT April 26, 2007

Patching up the U.S.-Japan bond

By Aaron Friedberg and Dan Blumenthal

YaleGlobal, 26 April 2007

China-Japan: Cautious Steps Across the Divide

Wenran Jiang

Asia Times Online, Apr 27, 2007

A dry run for a Japan-US FTA

By Hisane Masaki

(コメント) 従軍慰安婦であれ,硫黄島であれ,あるいは,南京大虐殺であれ,広島・長崎であれ,日本はアメリカや中国の敵として戦いました.それゆえ,日米同盟を強めてきた絆の基礎であった冷戦の終結,中国の貧困・孤立状態解消は,日米関係に変調を来たすのも当然なわけです.

Friedberg and Blumenthalは,日米同盟の健全さを問題にします.安倍首相は「歴史認識」において不満を示しています.北朝鮮との交渉による6カ国協議の結果に,日本政府は不信を強めたようだ,と指摘します.アメリカは日本に応えて,もっと同盟関係の範囲を拡大し,戦略的な価値を共有しなければならない,と.

具体的には安倍政権が唱えた「自由と繁栄の弧」をアジアに拡大し,インド洋大津波の救援に向かった「アメリカ・日本・インド・オーストラリア」というアジアの主要民主主義国による定期的な対話から,緩やかな集団を形成することをアメリカが積極的に支援する,というわけです.これにより,日本はその孤立感を解消し,近隣諸国との信頼と好意を育て,その価値を実現する冷静な手段を探せるでしょう.

戦後の西ドイツがNATOに(あるいは再統一後のドイツがEUに)埋め込まれることで,その平和的な意図と経済的繁栄を分かち合ったように,日本はアジアの制度を求めているわけです.それは反中国包囲網だ,封じ込め戦略だ,と反発する声が上がるでしょう.しかし,日本の軍国主義復活を本当に心配するなら,その安楽死を(日米安保条約や憲法9条に加えて/代わって)新しい地域安全保障に求めることを,中国も歓迎してよいのではないか?

Jiangによれば,温家宝来日でも強調されたように,日本と中国がエネルギー確保や環境問題で共通の関心を持っているのは当然です.しかし,安全保障に関してはジレンマを公然と認め,軍備拡大や同盟国の奪い合いに向かっています.歴史的な和解は前進していないのです.

FTA戦略の持つ複雑さはMasaki伝えています.中国との対抗だけでなく,米韓FTAやNAFTAにおけるメキシコの生産拠点と競争し,オーストラリアのFTA戦略,日韓FTA交渉,日米FTA交渉,ASEAN,など,多面的に錯綜した交渉が続いています.


Rosa Brooks We're not all victims LAT April 20, 2007

Christopher Caldwell Martyrdom and the madman FT April 20 2007

Jim Hoagland From Blacksburg to Algiers WP Sunday, April 22, 2007

James Carroll The two types of violence BG April 23, 2007

Niall Ferguson Predicting random chaos from hindsight LAT April 23, 2007

Eugene Robinson Walled City WP Tuesday, April 24, 2007

(コメント) バージニア工科大学における大量殺人の反響は続いています.

たとえば,Hans Magnus Enzensbergerの「ラディカルな敗者」の仮説が紹介されています.システムによって敗者であるという判定を受けても,自分がなぜ敗者でなければならないのか,それが自分の責任であるとはどうしても納得できない人がいるはずです.彼らがその大きなストレスから精神に異常を来たし,一部は自殺に及ぶかも知れません.そして,ときには自分を破壊したシステムを道連れにしなければ死ねない,と確信するわけです.

世界中の死者を想像する論説も目立ちました.そして,自身に及ぶ死の恐怖が,さらに孤立と社会的混沌を強化するわけです.


FT April 20 2007

Lunch with the FT: Lou Dobbs

By Edward Luce

(コメント) アメリカ中産階級の不満や怒りを代表し,企業の重役たち,自由貿易や経済決定論,中国からの輸入品,そして何より,メキシコからの非合法移民を排斥せよ,と訴える・・・アメリカン・ヒーロー? ルー・ドブがFTの記者と話し合います.

ドブを変えたのは9・11よりも90年代の企業スキャンダル,特にエンロンでした.当時の重役たちは,中国に出張した帰りに会うと,安価な労働者を利用してたっぷり儲けられることばかり話していたようです.・・・でも,安いだけならアフリカの方が安い.アメリカは製造業からサービス業に移行している.イギリスの製造業を押しのけてアメリカの成長して来た.という反論には耳を貸さないようです.

経済決定論が嫌いだ,非合法移民も嫌いだ,という意味は,何か? ポピュリズム? 自分たちの意志で未来を決めたい? あなた自身の先祖はどうなのか? 彼らの対話はすれ違います.


NYT April 22, 2007

Iraq’s Desperate Exodus

(コメント) 戦闘が終わる見通しも無く,毎日,平均して100人が自動車爆弾などで死亡します.人口の3分の2が清潔な水を飲むこともできず,子供たちは栄養不良です.医療システムは破綻しています.

その結果,イラク国民の7人に一人,400万人が家を捨てるしかなくなりました.彼らは難民の津波となって,周辺地域に「政治的発作」を波及させています.人口600万人のヨルダンに75万人,1200万人のシリアに190万人も非難キャンプを設置する状態を想像できるでしょうか? それは東京都に難民を100万人以上も受け入れたに等しい混乱です.他方,クウェートは受け入れを拒み,サウジアラビアは70億ドルをかけてイラク国境に壁を建設しています.

ブッシュ政権も,イラク戦争を始めてから,わずか500人しか難民を受け入れていません.アメリカはナン員のためにもっと多くやるべきことがある,とNYTは主張します.


WP Saturday, April 21, 2007

Democracy's Dangerous Impostors

By Moises Naim

(コメント) GONGOsについてNaimは注目します.GONGOsとは「政府に組織されたNGOs」のことです.各国内で,また国際的にも,GONGOsの拡大は静かに進行しているようです.人権擁護や民主化運動,移民たちの互助協会,など.NGOでありながら,政府から資金やスタッフ,情報を得ているのです.

中には無害の,有益な団体もあるでしょう.しかし多くはきわめて危険で,抑圧的な政府の暗殺者を組織するものであったりします.国際機関やマスコミ,市民団体に接近し,あるいは協力する形で入り込みます.・・・これは,かつての謀略政治や秘密警察,諜報機関,テロ組織と同じです.

その例として,日本国内の北朝鮮組織が挙げられます.「市民社会」のさまざまな活動に隠れて,彼らは事実上の北朝鮮を代表する機関である,と.キューバ,ベネズエラ,イラン,サウジアラビア,など,NGOs(や寄付金)を使って,都合の良い情報を広め,支持者を獲得します.

しかし,最も危険なGONGOsは国内に展開しています.たとえば,ロシアや旧ソ連圏の諸国で.民主的な諸国にもあります.たとえば,NED(National Endowment for Democracy:民主主義のための国民財団)です.世界中で民主化を支援するために,さまざまな団体や組織に資金を提供します.他方,ロシアではNEDから資金を受け取ることが犯罪になりました.プーチンや中国の新聞はNEDを批判しています.

Naimは独自に調査し,NEDが犯罪に関わったり,アメリカ政府の道具になったり,という疑いを否定します.しかし,特定のGONGOが信用できるかどうか,独自の調査や情報が必要です.つまりNGOsを調査し,格付ける,調査機関が必要だ,と考えます.


Asia Times Online, Apr 21, 2007

The revenge of the political man

By Leon Hadar

(コメント) 「経済人」の理想や楽観主義が広まった時代から,「政治的人間」の復讐が世界を一変させるまでを,この評論は主要なテキストやイデオローグをちりばめて見事に一覧していると思います.

冒頭の読書クラブ(ワシントンにあり,毎月,話題の本の著者を招いて講演や討論会を催す)に関する記述が面白くて読み始めたのですが,通読しました.

テロや中東に関する話題であれば,聴衆は100人以上が詰めかけ,議論が盛り上がる.ところが,アメリカの通商政策に関する論争では,10人も集まらない.春の夕べ,無料の食べ物と駐車スペースを用意しても,首都のワシントンでこれほど関心が薄いとは・・・?

「もし10年前だったら,と好況に沸いたビル・クリントン(もしくはビル・ゲイツ)の時代を思い出した.アメリカは東アジアの地理経済政策に熱心で,中東の戦略経済政策など無視されていた.ワシントンの皆が環太平洋について話しており,アラビア湾岸など知る者はいなかった.世界的危機,と言えば,それは南東アジアの金融崩壊であって,南西アジアの自爆テロではなかった.当時,アメリカ政府で最も重要な地位を占めたのは財務長官(ロバート・ルービン)であり,ペンタゴン(ロナルド・ラムズフェルド)ではなかったのだ.」

この時代の逆転とは,何なのか?

ジョン・レノンのイマジンが,1930年代のノーマン・エンジェルの1909年の本と同じく,1990年代の<ダヴォス・マン>にとっても理想でした.彼らがそれを「幻想である」と悟ったのは,第一次大戦が勃発し,あるいは,9・11が起きたからです.それでも,二人のフリードマン(ミルトンよりも,その後のトーマス)が人々にイデオロギーを供給しました.

「政治的人間」が復活する様を,有名な研究や事件で振り返っています.


FT April 21 2007

The rebalancing act

BG April 22, 2007

On climate, a lack of leadership

The Guardian, April 22, 2007

Promises, promises

Jeffrey Sachs

(コメント) 国際収支や為替レート,通貨と,環境問題とは,国際協調や世界的なリーダーシップをもっとも直接に問われる問題です.もし進んで協調を模索し,実行するような,優れた制度や規範があれば,また,秀でたリーダーシップや,それを支える共通の危機意識や歴史認識があれば,問題を解決する見込みは大いに高まるからです.

現実の世界は,そうではない,というのが三つの記事の要点です.


FT April 22 2007

Japan eyes active state investment fund

By Michiyo Nakamoto in Tokyo

NYT April 26, 2007

Singapore Makes a Pitch to Draw the Wealthy

By WAYNE ARNOLD

(コメント) 確かに9000億ドルを超える外貨準備,ますます増える高齢者とその財政負担,などを考えれば,日本政府が自ら投資信託を開設して将来の戦略的な産業育成に乗り出す,という話には歓迎する人も多いでしょう.その成果が確かであるとは言えないし,その責任も誰が取るのか,と思います.

あるいは,郵貯の資金が国債による運用から民間部門への委託に変わる過程で,日本にはロンドンやニューヨークをしのぐ国際金融センターが育つのでしょうか?

いまさら,安倍政権がシンガポールのTEMASEKをまねて,タイや韓国,中国みたいに,投資資金を国家の開発戦略の一部に位置づける頃,そのシンガポール政府は世界の富裕層に政治的な楽園を演出し,豊富な資金を集めつつある・・・ という対照的な二つの記事です.


The Guardian Monday April 23, 2007

Sarkozy - the new Napoleon

Charles Grant

フランス社会党の活動家であった者としては残念であるが,サルコジの勝利こそフランスとヨーロッパにとって最善のものである.サルコジだけが,フランスの「欝病」を根本的に改革し,ヨーロッパの潜在力をも発揮するために必要なだけの野心,知性,エネルギー,決断力を備えている.

フランス経済は病気だ.成長率は最低水準,雇用を生み出す力がなく,企業の躍動感は失われてしまった.フランスがこのまま停滞と国家への依存を深め,グローバリゼーションを敵視するなら,EU全体経済が沈滞し,農業政策や制度の改革も放棄されて,保護主義に向かうだろう.

サルコジが多くのフランス人に恐れられるのは,彼がフランスを変えてしまいたがっているからだ.内務大臣として超人的なエネルギーを示したし,そのフランス経済の問題を分析した本は明快である.ただし,対策に欠けている.エネルギーだけでは改革できない.

サルコジは労働市場を自由化し,労働時間の週35時間という制限を緩和するだろうし,企業に投資の動機を与えるだろう.彼なら,障害となるような特権を奪うことも辞さない.しかし,さらに彼のレトリックを追えば,単なる自由市場の信奉者ではなく,外国資本によるフランス企業の買収を阻止し,フランス(そしてヨーロッパ)の主要企業を育てる政治的な意志を誇示している.

企業の尻を蹴ってでも走らせるという意志を示すサルコジに,ロワイヤルは対抗できない.サルコジが根本的変化を代表すれば,ロワイヤルは継続を意味する.痛みのない改革を約束し,サルコジ同様に,あるいはそれ以上に保護主義に頼りながら,結局,国営部門を改革しないし,起業も雇用は生み出せない.経済的な自由を嫌う点で,ヨーロッパの保守主義を代表する候補である.

ロワイヤルはEU憲章や制度改革を目指すメルケルの障害になるだろう.他方,サルコジは憲章を認めるだろうが,トルコのEU加盟に激しく反対している.つまり,トルコ加盟はサルコジの再選後に延期されるだろう.

サルコジ大統領はフランスに激動をもたらし,幾分かはポピュリズムやナポレオン・コンプレックスに頼るかもしれない.それでも彼のまじめさはEUやグローバリゼーションに責めを負わせることをしない.フランスの過ちはフランスが追うべきだ,と彼は認めている.サルコジに改革を,フランスとEUの将来を委ねるべきだ.


Bill Emmott Now for a referendum on Sarkozy The Guardian Monday April 23, 2007

Jim Hoagland France's Two-Week Referendum WP Monday, April 23, 2007

Caroline Wyatt France left with clear choice BBC 2007/04/23

France deserves a contest of ideas FT April 23 2007

Gideon Rachman France chooses: mother of the nation or paterfamilias FT April 23 2007

Robert J. Shiller Capitalist tools needed for future globalism ills Shanghai Daily, 2007-4-23

Eric Chaney Cures for the French Disease The Wall Street Journal, 25 April 2007

Caroline Baum France's Sarkozy Is No Maggie Thatcher April 26 (Bloomberg)

(コメント) フランス大統領選挙は,サルコジとロワイヤルという,左右の一騎打ちで第二次投票になります.

Bill Emmottもサルコジを支持します.この選挙の争点は,サルコジを大統領として国民が認めるかどうか,です.フランス人の多数は,そのリスクを選択するだろう,と.そして,制度が彼の権力を抑制する.

サルコジは,その反対派が繰り返すように,「フランスのネオコン」であり,アメリカ大好きの「フランス版,ブッシュのプードル」でしかないのか? 要するに,フランス人じゃない?

あるいは,選挙とは「コンテスト・オブ・アイデア」なのだ,ということを実感させてくれるフランス政治家たちの闘志に,日本国民は羨望を覚えるかもしれません.

「投機的資本主義」を懲らしめ,ユーロ圏の金融に「道徳」を教えてやる,というサルコジの暴言(!)を,市場はどのように受け入れるでしょうか? あるいは,アメリカでアラン・ブラインダーが民主党候補に与えた助言を生かすのでしょうか?

フランス病に対するサルコジの処方箋は,マーガレット・サッチャーとは当然にも異なるわけです.「フランス・モデル」に対する人々の愛着は深く,サッチャーは後戻りしなかったことでも,サルコジには難しい・・・?


David Hearst Do svidanja, Boris The Guardian Monday April 23, 2007

MARILYN BERGER Russia’s First Post-Soviet Leader, Is Dead NYT April 23, 2007

Russian ex-president Yeltsin dies BBC 2007/04/23

Yeltsin era: The highs and lows BBC 2007/04/23

Neil Buckley Putin hails ‘father of Russian democracy’ FT April 23 2007

John Lloyd Boris Yeltsin dies at 76 FT April 23 2007

Boris Yeltsin BG April 24, 2007

A destroyer, not a builder The Guardian Tuesday April 24, 2007

Nina Khrushchev The hero of his time The Guardian Tuesday April 24, 2007

Jorg R. Mettke The Rise and Fall of the Drunken Czar SPIEGEL ONLINE - April 24, 2007

Jack F. Matlock Jr Boris Yeltsin: The early years IHT Tuesday, April 24, 2007

What Russia could have been LAT April 24, 2007

Boris Yeltsin’s Bequest NYT April 24, 2007

Steven Eke Yeltsin's Chechen nightmare BBC 2007/04/24

Yeltsin: A man with a complicated legacy Asia Times Online, Apr 25, 2007

Mark Simpson Toasting Yeltsin The Guardian Wednesday April 25, 2007

Masha Lipman Yeltsin the Revolutionary WP Wednesday, April 25, 2007

Archie Brown The real Yeltsin legacy The Guardian Thursday April 26, 2007

(コメント) ボリス・エリツィンが心臓病で亡くなったことは,これほどのニュースになる事件でしょうか?

共産党を破壊し,戦車で議会を解散し,ソ連を解体した歴史的英雄.市場の導入に失敗し,ロシア国民を破産させ,公的資産の略奪を奨励し,旧ソ連圏にも経済崩壊をもたらした無能な指導者.それでも戦争だけは起こさなかった? 軍や規律が崩壊し,辺境における無秩序が中央にまで及ぶ.KGBのプーチンを後継者に指名し,自ら権力を手放した? ・・・酔っ払いの皇帝.

エリツィンがロシアに自由をもたらしたのか? 民主主義や資本主義を賞賛し,モスクワのマクドナルド開店を祝った.その挙げ句,欧米の顧問に政策を委ねたショック・セラピー.人々は深く絶望する.

こうした社会対立はエルツリンの人間性を損なった.彼は長い間,蒸発した.そしてアル中になり,うつ病に侵された.その警護室長であったAlexander Korzhakovの権力が強まり,大統領に面会を許す権限を握っていた.彼が語ったところ,エリツィンは自殺を企てさえした.大統領の心臓が止まるにつれて,彼は何度か小さく震えた.

民主主義ではなく,エリツィンの取り巻き,彼の娘や親しい新興富豪・オリガークたちによる支配が始まった.当然,多くの人々は西側を嫌い,富豪たちを憎んだ.そして,警察国家プーチンの時代を迎えます.秩序のためには,政府がメディアもエネルギーも完全に支配し,たとえ大富豪でも意に沿わない者は追放し,投獄し,暗殺する.秘密の警察や軍隊が自立を求める地域や市民を厳しく弾圧する.経済危機から復活したロシアの繁栄は,プーチンへの高い支持率となっています.

NYTのBERGERによる長大な記事が描くプーチンも,ほとんど,同じです.その功罪を評価して,エリツィンが決して共産党支配への復帰を許さなかったことを重視している点で,わずかにプラスへ傾く程度でしょう.プーチンへの遺産は凄惨なチェチェン紛争でした.イラクの「体制転換」に失敗したブッシュ政権(それを支持したアメリカ人の多く)には,プーチンの挫折と絶望を理解する素地があるのかもしれません.

エリツィンの政治スタイルは,いわゆるポピュリストでした.政党を否定し,直接に,すべての人民を幸せにする,と約束したのです.そのエリツィンを圧倒したのは,1989年にアメリカ訪問で見た,ヒューストンのスーパーマーケット,その売り場に並ぶ多彩な肉や野菜をアメリカの庶民が買っている情景だった,と伝記から引用します.彼の内にあったボルシェビズムの最後のかけらが粉砕された.このときの衝撃こそ,彼が共産主義の過ちを断じて許さず,また,資本主義の過ちに対して余りにも無防備となった理由でした.

ゴルバチョフと比べたエリツィンの政治スタイル,はてしない権力闘争,西側との関係,政策の大失敗,さまざまなエピソードを持つ奇人の生涯について,記事はふんだんに紹介します.エリツィンが最後に自分のしてきたことを正当化した台詞もふるっています.

私は4万キロのスーパーマラソンを完走した走者であると感じる.私はすべてを捧げた.私の心も体もすべて,この大統領のレースを走ることに尽した.その距離を信じてほしい.もし何かを正当化する必要があれば,私はこう言うだろう.『お前がもっとうまくやれると言うなら,やって見せろ.これは4万キロのレースなのだ.もっと早く,もっとうまく,優雅に,そして易々と,走ってみるがいい.なぜなら,私はそれを成し遂げたのだ.』

魔王のような破壊者として,時代を開いた英雄として,・・・エリツィンは死んだ.多分,やっと死んだから,メディアは安心してこの話題の宝庫に飛びついたのでしょう.

BG April 24, 2007

For Russians, a symbol of weakness and loss

Marshall I. Goldman

(コメント) 歴史家たちはエリツィンの評価に苦しむだろう,とGoldmanは書いています.ゴルバチョフ,エリツィン,プーチンは,それぞれが自分たちの時代をロシアに刻印し,人々を政治に拘束しています.エリツィンが他の二人と違うのは,選挙によって国民の圧倒的多数から支持された,という点です.彼の得た政治的権威に対しては,たとえKGBでも,軍事クーデタでも,対抗できませんでした.彼に刃向かうことは,国民を敵に回すことだ,と覚悟させたわけです.

エリツィンは,誕生しつつあった民主主義や市場システムのヒーローであった,とGoldmanも当時を振り返ります.それを失ったのは,彼が安易にその権威をアメリカの政治顧問と新興のオリガークに渡してしまったからです.だから,今や,モスクワにはニューヨークよりも多くの富豪がいる,とGoldmanは指摘します.それは大衆の間に深い怨嗟を生みました.

それでも彼は表現の自由を守り,新聞を尊重した,と記しています.エリツィンの評価はロシアの内外で対照的になりました.

WP Tuesday, April 24, 2007

Russia's Agent of Change

Anne Applebaum

(コメント) この記事は,ロシアと世界の歴史を変えるだけの胆力を示した男を見ます.

1987年の10月,ボルシェビキ革命70周年の3週間前だった.ソビエトのエリートたちがその式典に出るためモスクワに集まっていた.慣例の長い演説をミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長が行った後,議長は他に誰か発言したい者はいるか,と尋ねた.

予想外に,当時はモスクワ共産党のボスであったボリス・エリツィンが演壇に上がった.そして,わずか10分の演説をしたのだ.その10分がロシアの歴史を変えた.」

それはエリツィンの狡猾な戦略でした.彼は共産党が機能しておらず,「革命の精神」を見失って,民衆を幻滅させている,と批判した.・・・なるほど,共産党のレトリックだ.

そして,直後に,辞任した! 彼の演説は人々の間に流布され,その意味は彼ら自身の不満として解釈されました.共産主義を批判し,民主主義を支持し,共産党の腐敗した幹部を批判した・・・に違いない.エリツィンの人気は高まって,国民的英雄になりました.

しかし,ドイツのコール首相と抱き合い,アメリカのクリントン大統領と森を散策していた頃には,ロシア国内でIMF融資が消え去り,金融危機が切迫していたのです.エリツィンは,まともな民主主義システムも,まともな市場システムも,残せなかったというわけです.彼は世紀転換期の辞任演説で,国民の夢を実現できなかった,と詫びています.

記事は,エリツィンは移行期の天才だった,という称賛の言葉で終わります.

FT April 24 2007

How Russia slipped on the road to Yeltsin’s new era

Martin Wolf

(コメント) 評価の分かれる点を認めて,最後に統計が示されています.商品輸出,経常収支,外貨準備です.

もちろん1998年の危機は明瞭に示されています.もしこの危機が無ければ,もし生産と雇用を拡大する政策が取られていたら,ロシアには異なる政治・社会システムが誕生していただろう,と考えさせるグラフです.


The Guardian Tuesday April 24, 2007

The best way to give the poor a real voice is through a world parliament

George Monbiot

(コメント) 世界議会に関する政治運動が再生してきたことをMonbiotは考えます.少なくとも1842年にAlfred Tennysonが提唱して以来,何度も現れては衰退してきた考えです.

今週の国連総会で,5つの大陸におよぶ70カ国の400人近い国会議員が支持して,新しいキャンペーンが始まりました.多くの芸術家や知識人も参加しています.

世界議会は,グローバル・ガバナンスを作る試みだ,としばしば非難されます.しかしMonbiotはそれなら既にある,と考えます.国連安保理,世銀,IMF,WTO,などは世界中の人々に影響するような決定をすでに行っています.しかし,そこにはひとかけらほどの民主主義も無い,というのです.私たちは国会議員に投票し,代表を決めます.彼らが集まって首相を指名し,首相は閣僚や官僚のトップを決めます.そして彼らが集まる国際会議や国際機関がグローバル・ガバナンスを担うのです.私たちの投票がその決定に及ぼす力は,ビルマの人々が軍事政権に及ぼす影響ほども期待できない,と.

世界議会は国際機関に人類に対する責任を負わせるでしょう.もちろん,それは万能薬ではありませんが,彼らをチェックする力があります.世界議会には軍隊も無ければ警察も無く,具体的な政策手段も執行機関もありません.しかし,他の国際機関が持たないものを持っているのです.すなわち,正当性です.

世界的な政治的決定が望ましいかどうかではなく,すでに重要な問題や勢力が国境を越えてしまっているのです.その決定を民主的に行うにはどうすれば良いか,が問題です.世界民主主義には,その規模に応じた問題があるからです.本当の民主主義は,村の単位でしか行えないでしょう.そこでMonbiotは,参加型の民主主義を主張します.

政治的機関には憲法が必要です.その権力の及ぶ範囲が問われ,その限界が画される必要があるからです.しかし,EU憲章にイエスかノーかを問うのと同様,さまざまな対立する問題を含む憲法に1回の国民投票だけで支持を問うのは,われわれを愚弄する民主主義です.すべての条文に投票しなければなりません.すると投票用紙は耐えられないほど長く,複雑になります.それでも民主主義のコストは避けられません.Monbiotはまた,各国の国会議員を世界議会に組み込むことを批判します.

もちろん,それが将来の直接に投票で選ばれた世界議会をもたらすのであれば,また,アフリカの民衆が貧困ゆえに世界政治で無視されてきたことを思えば,この提案を支持する理由はある,と考えます.提案を紹介したHPを見たい人は www.uno-komitee.de/en/

WP Thursday, April 26, 2007

Unions for a Global Economy

By Harold Meyerson

(コメント) 労働組合も国際的な統合が本格的に始まるようです.アメリカの鉄鋼労組が,イギリスの二つの組合と統合して,大西洋をまたぐ,多国籍組合を協議しています.これら三つの組合はその国でも最強の組合であり,統合後の組合員はおよそ300万人に達します.

しかし,資本や企業の国際化に比べて,組合の国際化は大きく遅れています.すでに通信分野の組合やサービス分野(SEIU)の組合が国際統合を進めています.また,SEIUは移民労働者も組合に加入するよう求めています.

労働組合も国際化して初めて,ニューディール後の世界が再建できる,と考えます.


FT April 24 2007

Migrant tax would slash illegal entry into Europe

By Philippe Legrain

(コメント) 移民自由化論のLegrainが提唱する「移民課税制度」です.

移民は止められない.それを非合法化すれば,移民は地下にもぐり,犯罪組織が仲介し,労働条件は悪化するだけである.毎年,多くの移民が海峡で難破し,溺死する.さらに,人権を無視し,テロが蔓延する国から逃れる人々の希望を奪う.

移民は雇用を奪わない.彼らは自国民が嫌うような職場に進んで就く.求人を求めて活発に移動する.若く,熱意にあふれる移民労働者を得た国は,経済の弾力性と活力を高めて,弾力的でインフレのいない高成長の持続する経済を実現できる.移民たちの才能は起業や雇用にも刺激を与えるだろう.

移民を阻止できるという人々の主張は実行できないだろう.そのために自分たちの国を,警察国家や国境のフェンス,秘密警察の国にしたいのか? それでもパスポートやビザは偽造され,官僚や警察は買収される.

彼らが合法的に入国して,その労働にふさわしい報酬を得られるような制度を構築するべきだ.合法移民に特別な課税制度を設けても良いだろう.犯罪集団に搾取され,国外追放の不安を抱くよりも,移民たちは税金を払って働く自由を得るだろう.それは移民が社会に貢献していること明確に示し,再入国できないことを心配して長期に滞留する非合法移民の多くが帰国するだろう.起業は積極的に移民を雇用し,彼らに訓練と昇進の機会を与える.

勇気ある政府にとって,移民は社会の脅威ではなく機会である.彼らの社会的な利益を高め,そのコストを緩和するべきだ.もし予期しない問題が起これば,移民への課税を多くして流入を抑制できるだろう.(特に,問題がその国に限られる場合,移民たちは他国に向かう.)

日本政府も勇気を示せるでしょうか? 私はかつて「日本における外国人労働者問題」で,同様に,移民への課税と上限の設定を考えました.『市民自立の政治戦略』(朝日新聞社,1992年)にあります.


FT April 24 2007

Toyota overtakes GM

FT April 24 2007

Chinese carmakers

(コメント) トヨタがGMを抜いたように,中国の自動車会社Chery Automobileがトヨタを抜くのはいつでしょうか? 中国市場の凄絶な競争は,まだそれを展望していません.


WP Wednesday, April 25, 2007

From Old World To Real World

By Steven Pearlstein

(コメント) アメリカ人がリカード以来の「自由貿易論」を支持しない理由を書いています.すなわち,1.貿易パターンを決めているのは,低賃金・低コストではなく,戦略だ.2.為替レートを決めているのは,市場ではなく,政府の介入だ.3.彼らは知的所有権を無視している.

だから,アメリカ人がリカード的な「自由貿易論」を否定しても,それを保護主義と呼ぶことはできない,と主張します.


IHT Wednesday, April 25, 2007

Hands across the ocean

By Jose Manuel Barrosopresident of the European Commission

IHT Wednesday, April 26, 2007

Engaging the new China

By Carla A. Hillsa former U.S. trade representative and Dennis C. Blair

(コメント) Barrosoはアメリカに,超大西洋広域統合のための枠組み作りを呼び掛けます.ここにおいて主要な利害関係者が制度的に参加し,非関税障壁や国内規制が成長のエンジンを妨げていることに協力した対応を模索します.

特に優先的に解決するべき重要分野を指定し,「ライトハウス・プロジェクト(灯台計画)」と命名します.大西洋を挟む統合が正しく進めるように,主要な港に灯台が建設される,というわけです.それは,知的所有権,投資,貿易や輸送における安全(テロ対策),金融市場のルール,についてであり,いわばEU−USの二極で世界的枠組みを先行的に合意しよう,という意図が明白です.それはWTOのドーハ・ラウンドとも矛盾しない,と弁解します.両者は経済的な価値において一致しているのだから.

他方,アメリカから中国へ,ヒルズたちは呼び掛けます.「アメリカと中国の関係が21世紀においては地球の未来を決めるだろう.」

主要分野,すなわち,成長,地域安保,テロ対策,核不拡散,人権,公衆衛生(鳥インフルエンザなど),環境対策,において,緊密,率直,かつ協力的な関係を中国と持つことは,アメリカにとっても地球的な課題に大きな前進となる.中国の台頭を受け入れ,広い分野で,焦点を絞った統合戦略を作成し,中国との協力を最大化し,紛争の起こる蓋然性を最小化したい,と.

新興の大国は国際秩序を不安定化します.それは,封じ込めることによってではなく,既存の諸大国が賢明な政策を取って,中国を受け入れる過程で不安を解消することを求めているのです.すなわち不安は,国際収支不均衡,人権や政治的自由,信仰の自由について,アメリカとの対抗や帰村秩序の書き換えを求める姿勢,軍備の近代化と,宇宙空間における軍拡競争,などから生じています.

これまで,市場による既存秩序への中国包摂は成功し,大きな経済的繁栄と東アジアにおける平和,統合化を加速してきました.米中関係も対立から協力,そして共通の利益を重視するものへと変わったのです.今後,中国の指導者たちが直面する困難にとって,アメリカとの友好関係が非常に有益であることを忘れないでほしい,アメリカは中国の利益と行動が国際的規範に従うように影響力を行使したい,と呼び掛けます.

この二つの重要な,優れた呼びかけについて,そこから外れた日本はどのように応えるのでしょうか?

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The Economist, April 14th 2007

France’s chance

Economic rankings: Come in number one, your time is up

Gas cartels: A snag in the pipeline

European energy security: A bear at the throat

(コメント) パラパラめくって拾い読みした中から,私が面白いと思う記事を紹介します.

フランス大統領選挙のリーダー(巻頭紹介文)と特集記事がありますが,内容はまあまあ(切れ味に欠ける)でした.むしろ,ロシアの石油=地政学(あるいは帝国主義)とヨーロッパの対抗戦略(の欠如)・政治的分裂が,驚くような内容は無いけれど,もろもろの事実とともに面白いです.

さて順序が戻って,二つ目の小文は重要な問題を提起します.アメリカは次第に中国にナンバー・ワンの地位を奪われる.これは避けられないでしょう.貿易,工業生産,GDP,あるいは,金メダルの数.これをどう考えるべきか? まあ,ほぼ正解,というコメントです.

The Economist, April 14th 2007

Human rights: Slaking a thirst for justice

Mexico and Central America: Countering Chavez

Poland and the second world war: Black mischief

Charlemagne: The non-functioning myth

Softbank: Receiving, not giving

Italian luxury goods: Tutto in famiglia

Retirement and banks: From cheque books to checking pulses

(コメント) 以下の雑多な記事にバチッと電気が流れるかもしれません.

最近,世界中で試みられている真実究明と和解のための調査委員会,あるいは人権に関する刑事告発に時効は無い,という考え方が,チリやアルゼンチンの具体的なケースで紹介されています.また,アウシュビッツをめぐるロシアとポーランドの政治的利用・宣伝をめぐる激しい対立は,戦争の歴史を互いに理解姿勢を政治的に醸成する難しさ,重要性を考えさせます.もちろん,日本の政治家が回避し,向き合おうとしない問題です.

EUの拡大と機能不全という「神話」について,面白い・正直な分析が載っています.EUに制度的な限界や拡大による改革の遅れなど存在しないのです.EUは多数決原理など受け入れないし,新加盟諸国はむしろ既存の制度を受け入れ,その改革を進んで採用しています.ではなぜ「神話」が政治家たちを振り回すのか? ・・・それは.

ソフトバンクの孫正義がビル・ゲイツを凌ぐ世界富豪であった時期もあったということに驚き,この記事は,ソフトバンクが余りにも多くの資本を集めて浪費してきたこと(しかし,日本のIT長者信仰はそれを無視している)を批判していることに感心しました.もしかしたら,イタリアの高級ブランドと同じように,中国の台頭が日本産業も高速で再インスツールするのか?

そんなことも含めて,日本の金融ビジネスは高齢者の資産や生活を包括的に委託されるサービスを世界最速・最親切!で展開するノウハウや人材を育ててほしいです.