IPEの果樹園2007

今週のReview

2/26-3/3

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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国際秩序の将来, プライヴェート・エクアティ, 自由貿易と政策, 日本外交, ヨーロッパ企業の復活

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Asia Times Online, Feb 14, 2007

The mother of all genocides

By Murtaza Mohsin

(コメント) ジェノサイドで最も恐ろしいことは,さまざまな理由で武器を持って殺戮に向かう過激な集団が,互いに殺し合う以上に,その集団の仲間として(勝手に見なされる)穏健な,平和的解決を優先する人々が,易々と大規模に殺され続けることです.そして,他国で起きるそのような事態が広がるのを誰も止めないのです.たとえ数万人,数十万人が何年もかけて殺され続けても,それが国境の外,外国人の土地や命であれば,理解できない複雑な憎悪の事情と地理的・軍事的条件の中に,虐殺を止めるため自国の市民を兵士として送り込み,しばしば犠牲者を生じるとしたら,いかなる政府も次の選挙に勝てないでしょう.

Murtaza Mohsinは,イラクの現状を,内戦としてではなく,ルワンダ内戦や,特に,チトーが亡くなってからのユーゴスラビア内戦と比較します.統一した権力が失われた空白を埋める政治集団は現れず,ナショナリストや犯罪者の集団が限定された地域を支配しました.メディアは互いの攻撃を煽動し,憎しみや恐怖を煽る装置と化します.ルワンダやイラクなどでは,政府や軍・警察(秘密警察),聖職者,外部勢力が虐殺に手を(そして武器や資金を)貸しました.さらに,難民やパニック,テロは,国境を越えて拡大します.

イラクの現状は,中東全域と世界におよぶジェノサイドの頻発に向かう,「すべてのジェノサイドの母」を育てているのかもしれません.


FT February 15 2007

The long view on China, political Islam and American power

By Joseph Nye

イラクのせいでアメリカの外交政策は窒息しかかっている.しかし,ブッシュ後の政策を考えるなら,われわれはもっと未来に目を向けるべきだ.

The National Intelligence Council2020年の世界を予想する研究を発表した.そこには4つの世界が描かれている.1.ダヴォス・ワールド:アジアがもっと大きく加わった経済的グローバリゼーションの進展.2.パックス・アメリカーナ:アメリカが引き続き世界秩序を決める.3.新イスラム統治:西側の規範にイスラム教的なアイデンティティーが対抗する.4.恐怖のサイクル:非国家的暴力が安全を脅かすオーウェル的な世界.

どの世界になりそうか? 技術変化によるグローバリゼーションは止まらないが,三つの要素によって政治的な結果が変わってくる.

第一に,中国のパワーとその使い方である.世論調査によれば,アメリカ人の3分の1は中国が「もうすぐ世界を支配する」と考えているが,その著しい成長にもかかわらず,中国の一人当たり所得はまだ25分の1だ.中国経済の規模がアメリカに追いつくのは30年かそこらで可能かもしれない.それでもアメリカの一人当たり所得は中国の4倍である.ドイツが台頭するとき,工業力で1900年までイギリスを抜けなかったが,今は1世紀前と同じではない.

中国にとって最大の問題は内部の発展だ.1990年以来,4億人が貧困から抜け出したが,まだ4億人が一日2ドル以下の暮らしである.インドと違って,中国は政治参加の問題を解決していない.もし中国が衰退する共産主義に代えて,社会の結束のために,ナショナリズムを強めるとすれば,より攻撃的な外交政策に向かうだろう.あるいは,ブッシュ政権が世界政治の「責任あるステークホルダー」と呼ぶ存在になって,諸問題を扱うかもしれない.

政治的なイスラム教徒の活動とその発展は,第二の要素である.過激なイスラム・テロリストに対する闘争は,「文明の衝突」ではなく,イスラム圏の内戦である.過激な少数派は暴力を使って,主流派の多様な意見を抑え,単純でイデオロギー的な見方を押し付ける.アジアに多くのイスラム教徒が住むけれど,グローバリゼーションや開放度,制度,民主化において他の世界に遅れた中東で行われている内戦の影響を彼らも受けている.

より一層の貿易開放,経済成長,教育,市民社会制度の発展,そして,政治参加の緩やかな増加は,時とともに主流派を強くするだろう.しかし,ヨーロッパやアメリカでもイスラム教徒はそうであるはずだ.同様に重要であるのは,中東に対する西側の政策がイスラム教徒の主流派を満足させるものを目指すのか,それともイスラム教徒との戦争を煽る過激派を強めるのかどうか,である.

第三の要素は,アメリカのパワーとその使い方である.2020年においてもアメリカは最強の国であろう.しかし矛盾したことであるが,ローマ帝国以来最強の国家であっても単独でその市民たちを保護することはできない.アメリカの軍事力は,たとえば,世界的なウィルスの感染や,気候変動,テロ,国際犯罪に対する能力が十分ではない.こうした問題には協力が必要であり,そのための支持を得るソフト・パワーが重要だ.イスラム・テロに勝つには,たとえば,国際的な情報収集,警察協力とともに,過激派の要員募集を阻むことだ.

ハードな軍事力は,抑止や同盟,安定性にとって将来も不可欠だ.しかし,もしその使い方を誤ったら,われわれは勝利のために必要なソフト・パワーを損なってしまう.これまでのところ,情報局の調査によっても,アメリカの政策は新しいテロリストを潰すよりも多く育ててしまった,と言える.将来を決定する要素の一つは,アメリカが再び冷戦期のような,ハード・パワーとソフト・パワーを組み合わせたスマート・パワーを築く能力を回復できるか,である.

もし三つの力が好ましい方向で働けば,アジアを多くふくんだグローバリゼーションとパックス・アメリカーナの組み合わさった,楽観的な世界が実現しそうである.

しかし,その実現可能な世界を阻む事件も起こり得る.私のリストの上位にあるのは,中国の政治的不安定性(長期の不況,暴動,攻撃的な外交政策),湾岸地域における衝突もしくは革命(石油埋蔵量の3分の2を持った地域から世界経済が切り離される),世界的ウィルス感染(広範な使者,経済崩壊,国境閉鎖),大量破壊兵器によるテロ攻撃(100万人規模の犠牲者,自滅的な規制策,国内における自由の枯渇),予想を超える速さの気候変動(南極の崩壊,など).

他にも候補はある.エイズは今後もアフリカに語りつくせぬ苦しみを与えるだろうが,大国間の関係には影響ないと仮定している.しかし,ヨーロッパやロシア,日本の人口が減少し,その上,関心が食い違っているから,それらが個々に超大国になるとか,アメリカに対抗する同盟を組むようなことは起きないと仮定している.それは間違っているかもしれない.

私の予想が正しいかどうかは重要ではない.そうではなく,政策論議はもっと長期について展開しつつある未来を扱うべきだ.われわれは毎日,こうした未来に影響するような選択を行っている.だからわれわれの予想を研ぎ澄まさねばならない.2020年はそれほど遠くない.

YaleGlobal, 21 February 2007

Looking Beyond Iraq ? Part I

Strobe Talbott

(コメント) ブッシュ政権からの外交政策の転換を,Strobe Talbottが整理します.


FT February 15 2007

Do we condemn or cheer the flight to private equity?

FT February 20 2007

A ‘third way’ on private equity

By Roberto Mendoza

(コメント) プライヴェート・エクアティprivate equityは祝福か,それとも,災厄か?

災厄派は,プライヴェート・エクアティが従来のファンドと収益において勝るものではない,と主張します.違うのは,レバレッジが大きいことで,それゆえリスクも大きく,企業の再編でも短期間で成果を上げることが重視されるわけです.こうして金融部門は流動性を失い,同時に,市場の透明性も失います.

「プライヴェート・エクアティ」というのは,成功報酬を約束して高利の融資により企業買収を行う「乗っ取り屋」を,新たに近代的な呼び名に換えただけです.こうした「乗っ取り屋」は,企業の長期的なステークホルダーと異なった時間で再編を進めており,秘密裏に犠牲者を増やして,自分たちの莫大な報酬を取れば,さっさと(3年か4年で)逃げ出します.

こうした再編過程に加担することで,企業の経営幹部たちは報酬を増やせることになり,それは企業の他の関係者の利益と反することになるでしょう.経営を改善するより企業を売買することで私腹を肥やす,という利益相反が起きるのです.プライヴェート・エクアティはそれを知っており,利用します.低利の融資が続く限り,オープンな市場が乗っ取り屋に囲い込まれます.

祝福派によれば,プライヴェート・エクアティは,変化が必要な時代に,市場が十分評価しない選択肢を持っており,それゆえ,彼らが企業を再編することにより利益は増えるのです.既存の株主は,従来からの方法で企業を評価し,外部の資金に頼ることを嫌います.それが必要な変化を阻んでいるのです.

世界企業への成長やブティック企業への高度化を大胆に組織するのがプライヴェート・エクアティなのである.プライヴェートであれ,パブリックであれ,その収益と成長は,市場に公開される傾向も含めて,市場を再編する成果として正当なものであることを示している,と.


NYT February 16, 2007

Will Russia Bet on Its People or Its Oil Wells?

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Friday, February 16, 2007

Russia's Course: Still Uncertain

By David Ignatius

FT February 20 2007

As long as it is trapped, the Russian bear will growl

By Martin Wolf

Feb. 21 (Bloomberg)

Russia Is Spoiled by Oil; India Blessed With Less

Amity Shlaes

(コメント) プーチンはアメリカが挑む新しい冷戦を激しく非難しますが,ボーイングの新型機787 Dreamliner開発はロシアのエンジニアに依存しています.THOMAS L. FRIEDMANは,資源が豊富な国か,資源はなくても人材を鍛える国が,豊かになれる,と考えます.グローバリゼーションにおいては,すべての優れた要素が,どこであれ,世界的な規模の富の生産と循環に吸収されるからです.両方を持つノルウェーは例外です.

そこでロシアの問題は,資源に頼って民主主義を損ない,人々を貧しくするスーダンやヴェネズエラになるのか,あるいは,石油と民主主義を得たノルウェーになるのか? ボーイングのロシア開発センターが将来のロシアに広まるでしょうか?  エンジニアの流出を抑えるだけでなく,ロシアは脱工業化社会を目指して,石油の富に課税し,若者の教育に投資することでしょう.

David Ignatiusも,ロシアの将来を懸念します.ロシア人は資本主義の贅沢と警察国家の命令に同時に惹かれている,と.ビジネスマンも,石油によるブームが何に向かうのか,不透明さを意識しています.「ロシアは中国になるのか? アメリカになるのか? あるいは,スウェーデンになろうとしているのか? このままではいられないが,二つの椅子の間で座っている.」 プーチンの後継者選びは,民主主義のないロシアで,大きなサーカスになるでしょう.WTO加盟,石油価格と石油・天然ガスの国営企業の将来も重要です.

Martin Wolfに言わせれば,ロシアはロシアです.いよいよロシアはヨーロッパの東端に復活しました.ただし,失敗した移行過程の傷を負って,近隣諸国と国民を苦しめ続けるでしょう.ロシアの経済と国際的地位を回復するとしても.現代のロシアを,ダグラス・ノースは「アクセス制約された指令経済」と呼びました.それは制度のインサイダーとアウトサイダーによる均衡が支配するヨーロッパ経済モデルの極端な例です.

まるで先祖返りしたように,「国家は魂soulではなく,資源・石油oilを集中して支配する.」 その限りで,ロシアは歴史に束縛され,近隣諸国はロシアからの支配に呪われます.

Amity Shlaesの考えでも,マルクス主義や資本主義ではなく,ロシアは石油から溢れる富に毒されています.


NYT February 16, 2007

Indonesia’s Avian Flu Holdout

(コメント) 急速に感染する病原菌が現れた際に,最も確実で,避けられない反応は,脱出と隔離,強制排除です.

「インドネシアが人を殺すに至った鳥インフルエンザに関するサンプルの提供を拒否したとき,WHO(世界保健機構)には衝撃が走った.その行動は,購入可能な価格でワクチンを利用したいという動機であろうが,ウィルスの探査とワクチン製造という世界的努力を脅かした.しかし,インドネシアは重要な点について回答を迫っている.もし地球規模でウィルス感染が拡大するとしたら,貧しい諸国は保護されず,放棄されるのか?」

既に,ある意味で実現しつつあるように,豊かな諸国は国境線に軍を配置し,ウィルスを保有している恐れがある密入国者を排除し,ときには,銃殺します

ワクチンの生産ラインが24時間働いても,年間5億回分のワクチンが入手できるだけです.しかし,感染が広まれば,67億人の世界が必要とする量にはとても足りません.危機において奪い合いが起きることは確実です.世界でも,国内でも.


NYT February 16, 2007

The Autoworkers’ Pain

WP Monday, February 19, 2007

Matching Free Trade With Taxes

By Sebastian Mallaby

The American Prospect 02.19.07

The Trade Quagmire

By Robert Kuttner

WP Thursday, February 22, 2007

Can Free Trade Be a Fair Deal?

By Harold Meyerson

The American Prospect 02.22.07

The Standard Issue

By Robert B. Reich

(コメント) アメリカの労働者は苦しんでいます.しかし,アメリカは「脱工業化」しておらず,外国企業によるアメリカへの投資,ロボットやハイテクを利用した高度な生産は増えています.NYTは,自由貿易を支持する政治家たちが,短期と長期の対策を具体化するように求めます.

ところが民主党員たちは,左派の自由貿易非難と,右派の減税擁護を組み合わせる,という最悪の姿勢を示している,とSebastian Mallabyは批判します.グローバリゼーションのパラドックスは,それに抗議するものが増えるほど,グローバリゼーションの利益が減ってしまうことです.

Mallabyは,企業ではなく,工程や業務ごとにアウトソーシング,もしくは,世界的規模の再配置が起きている「自由貿易」を問題にします.国ごとの資本主義ではなく,世界資本主義が,個々の企業レベル・町レベルで実現するのです.従来の通商政策に頼ることは,改善よりも混乱と損害を拡大するかもしれません.

関税・保護主義に訴えるのではなく,グローバリゼーションの利益に課税し,失業した者が支出を少しでも維持できるように補償してやる財源を得ることが重要です.また,Peter Lindertの研究を紹介し,課税そのものではなく,そのつかい方が重要だ,と主張します.グローバリゼーションの時代に合った教育,インフラ整備,失業手当や児童手当によって,投資を促し,労働市場の機能を高めることは,成長を損なうのではなく,支えるでしょう.

Robert Kuttnerは,アメリカ通商政策を変える4つの経路を指摘します.@ブッシュ政権(通商政策をめぐる交渉権限を議会で延長する),A民主党幹部(労働基準を認めるなら),B民主党平議員(ブッシュ政権の約束や中国の補助金に不信感),C中国政府(外貨準備の分散).

中国は雇用を増やすために外国企業を求め,ブッシュ政権は財政赤字を生めるために中国の貯蓄を求め,アメリカ企業は安価な労働力や潤沢な政府補助金を求め,民主党はこうした維持不可能な相互依存状態と財政破綻を批判しなければなりませんが,・・・イラクの混乱収拾を見ても,上手く行くとは思えません.

Harold Meyersonは,今後,半世紀におよぶ,通商政策をめぐる基本論争が誕生しつつある,と考えます.争点は,グローバリゼーションに応じた課税と支出を重視するヨーロッパ,特にスウェーデン型社会を目指すのか,あるいは,世界的規模のニュー・ディール,世界の労働基準や最低賃金を実現する世界政府・世界課税・世界法を目指すのか,です.

Robert B. Reichは,民主党が求める労働基準とは何か? と問います.アメリカと同じ労働条件や賃金を要求するなら,工場は移転しないけれど,形を変えた保護主義です.余りにも低い基準であれば,無駄です.

そこで,第一に,ILOが提唱している国際労働基準を求めます.その内容は,奴隷労働,強制労働,児童労働の禁止です.次に,各国の成長に応じて,最低賃金を導入し,引き上げるように求めます.それは,労働者全体の中央値の半分を基準にします.これによって貧困から脱出し,アメリカの製品に対する市場が拡大すると共に,政治的な民主化を求める中産階級も増えるでしょう.市場原理主義者からの,最低賃金制度が失業や闇市場を招く,という反対を,いかなる市民社会にも必要な法律である,として退けます.


NYT February 19, 2007

Saving North Korea’s Refugees

By NICHOLAS EBERSTADT and CHRISTOPHER GRIFFIN

(コメント) 信用できない相手との約束を取り付けたという成果を自慢するより,アメリカにできることがある.中国に隠れる北朝鮮難民を救出することです.もし難民流出が大規模に続けば,北朝鮮の体制は変わるしかありません.朝鮮半島の平和的な再統一に進むことも可能でしょう.

その障害は中国です.もしアメリカ政府が難民の引き受けを公式に認め,中国に流入する難民に関するコストが一時的なものであると分かれば,北朝鮮から韓国やアメリカへの「地下鉄道」が開通します.


Feb. 20 (Bloomberg)

Economics 101 Is of Little Help to BOJ This Week

William Pesek

The BoJ raises rates FT February 21 2007

The BoJ gets its way FT February 22 2007

(コメント) いよいよ日銀も金利を引き上げて,若干の円高になる,と思っていたら,円安が進みました.資本が逆流するよりも良いことです.いずれにしても,世界の金融引き締めに参加したことは確かです.

William Pesekは,日銀のはまった「流動性の罠」を考えます.日銀はそれを脱したと言いますが,インフレの心配なんてどこにあるのか? 雇用や賃金,年金を損なうグローバリゼーションによって,消費や物価で見たインフレは起きにくいが,バブルや金融危機の条件を強める危険はあります.そして,債務累積に怯える政府は日銀が金利を上げることに硬直的な反感を示します.

このまま円安や輸出に頼り続けることなく,労働生産性を高め,雇用を生み出せる企業が育つ必要があります.これでは,衰弱しながら旧システムを温存するだけです.そうではなく,変化するためになら,低金利を維持することも可能なのです.

円安を招いた資本流出が示すように,投資家たちは,金利引き上げが日本の好調さを示すものとは考えなかったわけです.


The Japan Times: Tuesday, Feb. 20, 2007

Knocked back in Beijing

By GREGORY CLARK

WP Tuesday, February 20, 2007

The Plan That Moved Pyongyang

By Philip Zelikow

(コメント) 日本政府が望んだような,拉致問題と6カ国協議のリンクは,他の諸国によって拒否されました.GREGORY CLARKは,北方領土や国連安保理常任理事国と同じように,日本政府の外交政策が国際関係の原則を理解していない,と批判します.小泉首相が拉致家族を取り戻し,北朝鮮の謝罪を得た以上,次は日本政府が国交正常化交渉で北朝鮮政府に与える番でした.しかし,首相が帰国すると,当時の安倍官房長官は疑念を表明し,合意をあいまいにし始めたのです.よほど強い証拠と国際的な支持を得ない限り,互いに相手の国益に照らして,相互の利益を(同時に,もしくは交互に)与え合う,という形でしか交渉は進みません.

日本政府は,アメリカの保守強硬派を利用できる(あるいは,日本の姿勢を重視してくれる)と甘く見ていたのだろう,とCLARKは指摘します.今,国際社会にとって,(核放棄を実行する)北朝鮮との国交正常化と朝鮮半島再統一が重要テーマです.日本政府がそれに加わるのか,拉致問題を理由に,地域秩序の形成から日本は離脱し続けるのか?

Philip Zelikowによれば,ライス国務長官は北朝鮮との関係を動かすために,二段階アプローチに移りました.第一段階は,ミサイルや核の実験をする前の状態に戻すことです.それが「早期の収穫」である今回の合意でした.しかし,それだけでは失敗を繰り返します.アメリカは第二段階をこの先2ヶ月間で進めるでしょう.すなわち,核開発計画を放棄させ,朝鮮戦争以来閉ざされている外交関係を再開して,経済協力も進める,と.

日本政府は,現実を見ているのか? その方針はどこに向いているのか?

LAT February 20, 2007

Listen, Mr. Cheney

By Philip J. Cunningham

(コメント) アメリカの副大統領が来日しました.外交と言うより秘密交渉のように.保守強硬派のイデオロギーにより,二人は盟友になれるかもしれません.関係は,あくまで,個人的に.

安倍は過去の敗戦を祝福し,チェイニーは現在の敗戦を正当化します.日本の防衛大臣が軽々にアメリカ政府を批判したことに対して,チェイニーは懲罰を発動したはずです.イギリスでさえイラクから撤退するのに,日本はオーストラリアと並んで強硬派を支援するために駐留を継続すると予想されます.もちろん,選挙後に.

日本とアメリカが真に友好国であれば,日本政府はアメリカの政治家の中にも日本の歴史認識が間違っていると批判する声があることを意識し,アメリカ政府はイラク戦争を批判する日本の政治家の声を聞くべきです.


The Guardian Wednesday February 21, 2007

Those in power are right to see multiculturalism as a threat

Terry Eagleton

(コメント) 文化について,多元的な価値や人間性について,Terry Eagletonは議論します.「イギリス文化」だけを取り出すことは間違いだ,と.さまざまな道徳観や逸脱行為が,世界中のさまざまな時代に散見されるのであって,個別の文化を示すわけではないのです.

政治家たちが「文化的多元主義」を激しく非難し,恐れる理由は,文化とは支配の様式であり,政治そのものの源泉だからです.この泉が枯渇したり,彼らの望まない色に「汚される」ことを,彼らは恐れます.統一こそ,力です.

歴史,起源,言語,習慣,その他,共有するものが多いほど,文化は政治的なものの解決を促し,それが異なるほど政治的問題を増幅します.


LAT February 21, 2007

Is Iraq turning into Yugoslavia?

Max Boot

(コメント) イラクはますます旧ユーゴスラビア内戦に似てきたと言われます.その余りに凄惨な戦いを知れば,野獣の行為であって,われわれが助けることなどできない,と思うでしょう.しかし,「1992年のロサンジェルス暴動で何が起きたか思い出すべきだ.もし警察や軍の介入がなければ,さらに数週間で何が起きただろうか? ロスはバクダッドやサラエボに似てきただろう.アングロ・アメリカン,アフロ・アメリカンが混じりあい,ラティーノやアジア系ギャングたちが野放しになった.


LAT February 21, 2007

British abolition's faith-based roots

By Joseph Loconte

(コメント) 奴隷制廃止運動について,アメリカではリンカーンですが,イギリスでは200年前のWilliam Wilberforceが,法律より,人々の魂と気持ちを変えようとした,という論説です.年35000人から5万人の奴隷がアフリカ西海岸からアメリカや西インド諸島に運ばれていました.それがタバコや砂糖による莫大な利益をもたらしていることをWilberforceも良く知っていました.しかし,政治党派を超えて,宗派を超えて,彼は反対運動を組織し,20年かかって禁止しました.

911後の世界にも,宗教を狂気と同一視するのではなく,人間性を目指す正しい確信はより多く必要だ,と訴えます.少年・少女の国際人身売買,スーダンの虐殺,北朝鮮の強制収用所,・・・もっと多くのWilberforceを!


WP Wednesday, February 21, 2007

Storm Cloud at the Global Bazaar?

By Robert J. Samuelson

Feb. 22 (Bloomberg)

U.S. Current-Account Deficit Deserves Some Noise

John M. Berry

(コメント) 潤沢な流動性によって世界の金融界は穏やかな日々が続いています.Robert J. Samuelson世界金融を「グローバル・マネー・バザール」と呼んで紹介していますが,散文詩か蜃気楼のような叙述です.新しい不安の名前は・・・“Yen-carry-trade”

あるいは,“U.S. Current-Account Deficit”! アメリカの経常収支赤字です.Kenneth Rogoffは,どのような条件で,それがドル暴落を招くか,に注意します.アメリカ政府は消費拡大の継続を政治的な約束にしがちです.それが対外債務を増やすとしても.それが維持されているのは,成長によって資産価格も上昇したからです.しかし,政府が戦争しながら消費も拡大し続ける財政赤字の方針は非常に危険です.暴飲暴食の付けを支払うときは必ず来る.


Asia Times Online, Feb 22, 2007

It all comes down to control

Noam Chomsky

(コメント) Michael Shank 29日に行ったインタビューです.

北朝鮮に対しては,明白な「しっぺ返しtit-for-tat」の世界です.ブッシュ政権はそれを受け入れたようです.他方,チョムスキーは,イランが北朝鮮と異なるのは世界の石油備蓄の上にあることだ,と強調します.それは戦略物資,パワーを支配する問題なのです.

かつてジョージ・ケナンは,中東の石油資源を支配するなら,アメリカは工業諸国に対する拒否権を持つことになる,と述べて,特に日本を挙げました.

さて,イランについて,と言いながら,話はまずキューバです.なぜキューバと国交を回復しないのか? とチョムスキーは問います.それはカストロが服従しないからです.国際政治はマフィアのように動かされるのであって,単に金の問題ではなく,キューバが服従しなければ,アメリカは制裁を解除しないのです.

次に,ベトナム戦争です.ベトナムは,アメリカに頼らず独自の発展を目指すつもりだった,それが許せないから攻撃したのだ,というわけです.チリのアジェンデについても,キッシンジャーが同じことを述べていた.ケネディーに提出した研究において,Arthur Schlesingerは,カストロが自分たちのことを自分で決めることができる,という思想を広めようとした,これが最も危険である,とも指摘していたそうです.

そんなバカな,と思いますが,アメリカの外交政策を制約する,という意味では,その通りでしょう.同じ考え方が,イランやヴェネズエラについても示されている,とチョムスキーは主張します.いくらアメリカ国民やアメリカ企業の多くがイランとの和解や交流を望んでも,アメリカ政府は戦争に訴えるかもしれません.すでにヴェネズエラでは政府転覆を支援している,と.

確かに援助を受け取っているだろう.しかし,「イランが支援するヒズボラは」とメディアはいつも呼ぶが,「アメリカが支援するイスラエルは」とは言わない.これは明らかにプロパガンダである,と.・・・ (もっと長いインタビューです.)


Asia Times Online, Feb 22, 2007

Economic crisis closing in on South Korea

By Jephraim P Gundzik

(コメント) 日本からの短期融資を増やした結果,韓国の短期対外債務は2006年に倍増しました.韓国に投資している外国投資家は,その危険性を十分に知っておくべきだ,とJephraim P Gundzikは警告します.円高と資本還流が起きる2007年に,韓国経済の破綻が迫っているかもしれません.投資家たちによる証券投資も複雑です.


The Guardian Thursday February 22, 2007

Global capitalism now has no serious rivals. But it could destroy itself

Timothy Garton Ash

(コメント) 資本主義が世界的に勝利して,その時代は終わりそうに無い.かつて,社会主義の時代に代わると議論されたけれど,今では誰も資本主義に換わるものを知らない.

しかし,Timothy Garton Ashは考えます.資本主義は消費の制約によって崩壊すると思われたが,消費そのものを生産するようになった.人々は底なしに消費したがっている.このまま資本主義が拡大し,いわゆる中産階級や豊かな消費者が世界で生産されたら,化石燃料も枯渇して,資本主義は終わるだろう.それが分かっても,誰も消費を止めようとはしない.


FT February 23 2007

The wrong line from London to Caracas

By Robert Wright

(コメント) ポピュリストの左派市長ケン・リヴィングストンが,ヴェネズエラのチャベス大統領から石油を2割引で購入する契約を得た,というわけです.その利益を使って,ロンドンのバスを貧しい階層に対して無料で走らせる? 安価な石油による利益はどこへ行くのか? チャベスが隣国アルゼンチンの左派キルチネル大統領を支援するのと同じか? 公正な競争を損なう? など,FTが憤慨するような話です.

確かに,胡散臭い.あるいは,左派の国際的連帯?


FT February 23 2007

Dealing with Tehran

BG February 23, 2007

Nuclear poker with Iran

IHT Friday, February 23, 2007

Come on, Europe!

Roger Stern

NYT February 23, 2007

What Scares Iran’s Mullahs?

By ABBAS MILANI

(コメント) イランの核危機も重要な局面に至りました.

ブッシュ政権はイランとも同じような交渉をしています.しかし,核査察と貿易・援助のパッケージを拒んだイラン政府はウラン濃縮を拡大し,アメリカ政府は封じ込めのための制裁を強めました.単独の空爆や軍事制裁も検討しているわけです.

しかし,イランは歴史的に外国の侵略を受け,欧米への反感も強く,国際的な地位を高める姿勢も当然見られます.1979年の革命でアメリカとの関係は途絶し,互いに敵視する面がありますが,とはいえ国内の政治は複雑で,宗教勢力や進歩的な民主化運動があり,空爆が反米感情を強める結果になるのは明らかです.

イランへの制裁や孤立化に必要な隣国による連携や,ヨーロッパ諸国,ロシア,中国の協力は期待できません.それはアメリカのイラク政策が失敗したからです.彼らは安保理による制裁がイランへの軍事侵攻に至ることを恐れますし,イランの石油供給や経済取引に大きな経済的利益を見ています.アメリカが単独で採用する強攻策は成功する見込みが少なく,イランから報復する手段と余地は豊富にあります.また,その過程で,中東の政治・軍事的混乱や世界経済への破壊的影響も拡大するでしょう.

IAEAのエル・バラダイ事務局長は,産業規模に核処理を移すことを阻止する重要性を訴えます.そのために,ウラン濃縮と制裁を同時に放棄する,「タイム・アウト」提案を行っています.ここでも,それを双方が実行し,監視できる,国際的枠組が必要です.

ライス国務長官が行ったベルリン会談は,ロシア,ドイツ,EUの代表とともに,イランの交渉復帰を求めています.イラン政府も新しい条件に関心を示しています.イランの石油関連施設は新しい投資と技術を必要としており,10年以内に輸出できなくなる,とBGは伝えます.相互の脆弱性は交渉に向かう条件だ,と.

イラン経済は制裁によってインフレと失業が増えている,ということです.ヨーロッパからの投資によって,イランはかろうじて経済危機を回避している,とRoger Sternは考えます.ヨーロッパがアメリカによる金融制裁に加わり,核処理技術の提供をやめれば,イラン政府の立場は非常に弱くなるでしょう.

イランの政治システムや権力の行方が分析されます.

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The Economist, February 10th 2007

Next stop Iran?

Private equity: Caveat investor

Private equity: The uneasy crown

Japan’s currency: Carry on living dangerously

Economics focus: A fluid concept

Birds flu and public health: Under the influence

South Africa: Looking in the mirror

(コメント) The Economistはイラク攻撃を支持し,イラン攻撃に反対です.なぜか? 世界資本主義の「幼い王子様」として,プライヴェート・エクアティを紹介しています.それがアメリカの経常収支赤字や日本の低金利から潤沢な買収資金を得ている限り,世界の資本市場をむさぼって「暴君」になるまで成長するのは,あと,ほんの数年?

南アフリカがアフリカ機構のAfrican Peer Review Mechanismに応じたことは興味深いです.エイズを乗り越えて,アフリカが発展する姿を見る日も近いのでしょうか? あるいは,鶏インフルエンザが襲来する?


The Economist, February 10th 2007

Who are the champions? :A special report on European Business

(コメント) ヨーロッパやドイツ,フランス(あるいは,イタリア)の状況を見て,日本の問題も理解できる,と思うことがあるでしょう.この特集は,低コストのアジア,ハイテクと高成長のアメリカに比べて,ヨーロッパの産業は衰退するしかない・・・ように見える.実際,ヨーロッパの政治家たちはグローバリゼーションを恐れ,中国やインドの台頭にパニックだ,と言えば,日本の問題状況と重なります.

ここに描かれているのは,EUによる統合の拡大と深化,特にユーロ圏の成立や金融再編,政府の支援(税制改正)で,企業の吸収・合併が加速した,という面と,アディダス.プーマのように,地方の小企業がグローバリゼーションを直接に利用するブティック・インダストリーの繁栄,という面です.グローバリゼーションを拒むだけでは生き残れない,と主張します.

「ドイツ要塞」,「ドイツ株式会社」は滅亡した,というわけです.