IPEの果樹園2007

今週のReview

2/12-2/17

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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グローバリゼーション, 中国の露天商, 教育それ自体の価値, 円キャリー・トレード, 資源による政治循環, ドル国際金融システムの不安, 地域通貨, 鶏インフルエンザ, 通貨危機の消滅

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


YaleGlobal, 1 February 2007

India: Poverty Retreats with Globalization’s Advance

Baldev Raj Nayar

The Guardian Friday February 2, 2007

Globalisation is good for you

Merril Stevenson

IHT Tuesday, February 6, 2007

Managing Globalization: The global quest for a second passport

Daniel Altman

(コメント) Baldev Raj Nayarの論説には,グローバリゼーションが楽園の扉を開ける使者であるかのような,強い楽観が示されています.貧しい諸国が陥ってきたさまざまな誤謬と錯誤,経済停滞,脱工業化,不安定化,不平等,が払拭された,と.インドがその証拠です.1956-75年の「自給・司令=管理経済」は,グローバリゼーションに少しずつ門戸を広げ,その驚くべき浄化作用を体験した,というわけです.

その成果を疑うものではありませんが,社会・政治問題に関する批判が正しい面もあるでしょう.自由化の漸進的な導入過程や制度の整備も重要であったと思うし,バブルへの警戒感は高まりつつあります.グローバリゼーション福音派の信仰告白は早すぎたかもしれません.

イギリスはグローバリゼーションの受益者として,先進国の成功例であり,フランスやドイツにとって羨ましいモデルとなっています.しかし,Merril Stevensonは,その代償にも注目します.すなわち,バクダッドではなくバーミンガムで増えるイスラム教徒のテロリストたちです.それでも,その成果を見たら,グローバリゼーションには逆らえない,と.

イギリスは1970年代前半から最長の成長を持続しており,今では一人当たりGDPがドイツやフランスを越えている.四半世紀前なら誰も予想しなかったことが,現実になりました.

どうやって? イギリスは農業を捨てて,羊や羊毛から毛織物業を捨てて,グローバリゼーションにあった金融サービスなどに雇用と産業の中心を移しました.イギリスは,ドイツやフランスが保護政策や補助金で労働組合をなだめているときに,マーガレット・サッチャーが現れて労働組合を潰しました.イギリスは,グローバリゼーションを生かして消費財を安くし,住宅や資産も安くしました.

しかしグローバリゼーションがもたらす個人の苦しみは,雇用,企業の買収,移民,についての政策を,イギリスでさえ見直す方向に政府を変えています.しかし,Stevensonは穀物法を廃止したとき以来,イギリスがグローバリゼーションを放棄することは無い,と考えます.

Daniel Altmanは,Saskia-Sassenの言葉を引きながら,移民政策や移民の行動に変化が生じていることを紹介します.移民たちは豊かになるために新しい国籍を求め,また,各国は自国の人口や兵士,技術者などを得るために国籍を与えます.二重国籍や投票権を用意して海外からの移民の帰国を促します.グローバリゼーションにおける流動化は,国籍や人口の意味を変えてしまいます.


FT February 1 2007

China is no haven for entrepreneurs

By Yasheng Huang

(コメント) 北京の法廷で判決を待つCui Yingjieは,退役軍人で,故郷に帰っても仕事を見つけられませんでした.ソーセージを焼いて売りながらぎりぎりの生活をしていましたが,露天で営業するライセンスに支払うお金がなく,約50ドルの三輪トラックを差し押さえられました.結局,彼はその役人をナイフで刺し殺したのです.

Yingjieがナイフで凶行に及んだのは,その貧しさによるものですが,市場における政治的な独占もその原因の一つでした.中国の役人たちは,零細な露天商や行商人にライセンスを要求し,ますます法外な支払を強要するようになっています.支払わない者を,暴力的に市場から排除さえしています.規制が多く,所有権が十分に保護されていないせいで,中国では,政治的に無力で経済的にも無視される零細商人が1990年代後半から減少しています.

東欧に比べて,中国では活発な民間部門がこれまで雇用を生み出してきました.それが,経済ブームが続く中で,逆に,急速に縮小しています.資本家の楽園のように思われている中国ですが,零細な企業家にとって,好ましい市場ではないわけです.「調和ある社会」を目指すのであれば,政府は彼らを助けるべきだ,とYasheng Huangは主張します.


FT February 1 2007

Four steps towards calming the chaos in Iraq

By Zbigniew Brzezinsky

LAT February 5, 2007

The perils of partitioning Iraq

NYT February 7, 2007

Yes, We Can Find the Exit

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Wednesday, February 7, 2007

Expect The Worst In Iraq

By David Ignatius

(コメント) イラクの失敗に続いて,イランを相手に戦争を始める道をたどり始めたブッシュ政権をZbigniew Brzezinskyは引き止めます.共和党の議員でさえ,方針転換を求めています.アメリカとして,4段階を踏むことだ,とBrzezinskyは考えます.

1.アメリカは中東に覇権を築くつもりは無く,早期に撤退する意図を明確に示す.2.イラクの指導者たちと撤退について話し合いを開始する.3.アメリカ軍撤退後の安定について周辺諸国と話し合い,また地域の安定化に貢献できる主要諸国(EU,中国,日本,インド,ロシア)による会議を開く.4.中東和平交渉を再開し,パレスチナ問題の最終的な解決を実現する.

アメリカは戦後のヨーロッパを安定化するために,長期間,協力するものを助け,妨害する者を挫きました.中東においても同様の取り組みが必要です.

LATは,エスニックによってイラクを分割することが解決にはならない,と主張します.確かに,宗派間の対立と戦闘が激しくなって,家を捨てて難民となるものが急増しています.分裂を回避するために内戦が深まったユーゴスラビアのようなケースもありました.しかし,LATは,1.イラク国民がそれを望んでおらず,2.バクダッドを分割することはできない,3.その他の都市でも,さまざまな分裂が戦闘を深めるだけだ,と反対します.

THOMAS L. FRIEDMANは,ブッシュ大統領の増派案でもなく,民主党が多数を占める議会の早期撤退と代替案無しでもない,もう一つの選択を考えます.アメリカは内外の戦闘主体を集めて石油からの収入とイラクの主権をどのように分配するか合意させなければなりません.そのための強制力を,2007年末までに完全撤退する,石油にガロンあたり3.50ドルの税金を課す,という二つの舵で操縦できる,と考えます.

イラクが内戦状態を続けているのは,アメリカが多大な財政負担を引き受けて関与し続けているからです.アメリカの完全撤退を期日によって明確にすれば,この状態を維持できない,とすべての戦闘集団が気づくはずです.また,アメリカがガソリンに課税して消費を減らす(そして,代替燃料も開発する)ことは,イラクの石油収入を減らします.アメリカ政府は,交渉を指導するため,イラクの戦闘集団が無視できない影響力を支配していることを,はっきり示さなければなりません.

ブッシュ政権の支持者も,撤退を求める民主党も,童話の中のハッピー・エンドをいまだに語っている.David Ignatiusは,逆に,アメリカ軍のイラク撤退がどれほど破壊的で,イラクを「犯罪集団,アルカイダのテロリスト,シーア派の封建支配が加わった,古代国家」(CIA),「暴力の津波」(コロンビア大学,Robert Jervis)にしてしまうか,最悪のケースに備えるべきだ,と主張します.

最悪の状態でアメリカの国益を守るためには,1.宗派対立を国境内に封じ込め,2.この地域から世界への石油供給を維持し,3.イラク市民を守り,4.すべての近隣諸国と話し合い,5.中東和平を推進する.

最悪のケースを考えれば,多くの対立は克服できます.


FT February 1 2007

Education is a worthwhile end in itself

By Martin Wolf

(コメント) 物質的な豊かさのために,教育は行われるのか? そうではない,とMartin Wolfは主張します.

「物質的な豊かさは生きるために必要である.それはいくつかの目的を満たす.しかし,それ自体が目的ではない.幸福は目的である.美を体験することも目的である.知識もまた,目的である.」 教育や知識それ自体がすばらしいことであり,富を得るための手段と見なすことは偏った評価でしかありません.

中国語や簿記を学ぶほうが「有利だ」とか,宇宙の起源など考えても「無駄だ」などという教育こそが,大学や,国を滅ぼすでしょう.


FT February 1 2007

Carry trades and growing currency risks

By Gillian Tett

FT February 2 2007

Yen carry trade

FT February 7 2007

Japan should buy yen

Feb. 7 (Bloomberg)

Paulson Can Give Me a Pay Raise and Save World

William Pesek

Feb. 9 (Bloomberg)

U.S. Hurts Asia With Addiction to Dollar Status

William Pesek

(コメント) 「円キャリー・トレード」という言葉を,以前からよく聞きます.日本はゼロ金利で,しかも円安が続いています.日本から円資金を借りて,それをドルに交換し,世界中に投資して利益を上げることができるでしょう.世界各地のバブルに火をつける勢いです.

それがいかに危険なことか,Gillian Tettは書いています.1998年の秋,彼女はLTCMの幹部に会いました.驚いたことに,彼は一晩で髪が白くなっていた,と.その理由は,東京の通貨市場で円が,乱高下した三日間の後,18%も強くなったからです.つまり,LTCMは安価な円を借りて投資していたわけです.

さて,同様の危機が再来する恐れはないのか? というのが次のG7で取り上げられる「円安問題」です.単に,アメリカの自動車会社やヨーロッパの製造業が円安に苦情を述べるためではありません.しかし,円安をもたらしている「キャリー・トレード」がどれほどの規模か,誰にも分かりません.350億ドル?とも,1兆ドル?とも言われます.日本の銀行が,世界の投資家のための現金自動支払機になってしまいました.

問題は,この状態がどのように終わるのか,です.少なくとも,円の金利はまだ急速に上がる見込みはないし,日本の景気回復が部分的でしかないから,円の相場も急激に円高に振れないだろう,と投資家たちは油断しています.外国為替市場は異常なほど静かで,凪いでいます.今すぐその条件が変わると警告するわけではないけれど,LTCMの白髪のトレーダーを思い出しておくべきだ,とTettは付言します.

為替市場への介入と過大な外貨準備について,中国の人民元が余りにも非難される一方で,日本はその陰に隠れてきました.いよいよそうではなくなるときです.少なくともFTは,日本の通貨当局が円高を促す介入を行うように求めています.こんなに貯蓄を流出させるようでは,日本の金利や資産市場が機能していないのではないか? ・・・という不満が聞こえてくるようです.

せめて日銀は,過剰な外貨準備を売却して,円を買ってはどうか? それがいやなら,もっと国内で消費し,投資することです.

William Pesekは,FTによる日銀の円買い要求を批判しています.Brad Setserの言葉を引いて,それは興味深い考えだが,実現する見込みはない,と.なぜならG7には円安以外に話し合うことがあるからです.1.世界的不均衡(アメリカ,ドイツ,日本が異なる不均衡の解決に苦しむ),2.円キャリー・トレード,3.システム・リスク,4.中央銀行の独立性(特にアジア諸国で),5.地球温暖化,6.G7加盟諸国の拡大,です.

日本企業は円安による利益を歓迎しているし,アメリカは,発展途上諸国が石油ダラーに依存するのと同じくらい,ドル準備を頼っているから.地下資源が豊富な国で,独裁者と仲間が豊かになるだけで,国民に雇用をもたらす産業を滅ぼしてしまうように,アメリカ政府もどる準備がもたらす富に中毒症状を起こしている,とPesekは主張します.


NYT February 2, 2007

The Oil-Addicted Ayatollahs

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) ロシア国民経済学会の会長であるVladimir Mauの話を紹介しています.これは,先に,アメリカがガソリンに課税して消費を減らせば,イラク問題の交渉に強いカードを示せる,という話の延長です.つまり,イランやロシアも,多分,EUや中国も説得できる.

1970年代に石油価格が高騰したことは,当時のソ連書記長,ブレジネフを強気にしました.すでに1960年代には,集団化された農民や囚人労働に頼るソ連経済が行き詰まって,穀物の輸出ではなく,輸入が始まっていました.ブレジネフは石油と天然ガスを売って消費財を輸入し,国内では軍産複合体のボスたちを買収しました.アフガニスタンにも侵攻し,その軍事支出や産業への補助金,輸入穀物への依存が強まったとき,1980年代にアメリカの不況で石油消費は減り,石油価格が下落します.ソ連は消費を削ることもできたはずですが,クレムリンは債務によって輸入による消費を続け,支持を得ようとしました.

レーガンが軍備を拡大して,ソ連に対抗したからではなく,ゴルバチョフがソ連経済を立て直そうとしたとき,すでにソ連の崩壊は止められなかったのだ,とMauは考えます.イランも同じです.石油価格の高騰で膨張した政府支出は,1980年代になって体制を崩壊させ,イスラム革命と宗教政治を復活させました.もし彼らを止めたいなら,イランの封じ込めや市場統合を云々するより,アメリカはもう一度,石油消費を減らすことです.


NYT February 2, 2007

A Bipartisan Trade Policy

WP Friday, February 2, 2007

How to Really Help Low-Wage Workers

By Thomas Z. Freedman

(コメント) グローバリゼーションや自由貿易によって雇用や賃金に不安を感じるアメリカ人に対して,政府や議会はどのような通商政策,移民政策,補償メカニズムを考えるのか?  児童労働の禁止や最低賃金引き上げ,所得税の払い戻し,をどうするか? ドーハ・ラウンドと二国間交渉をどうするか? 超党派的な政策のための妥協が求められています.


NYT February 2, 2007

Dollar Still Almighty, for Now

By FLOYD NORRIS

(コメント) 債券市場においてドル建からユーロ建にシフトしていることで,ドルによる国際金融システムの一局支配は終わりました.たとえば,中国企業がニューヨークではなくロンドンの証券取引所で,ドルではなくユーロ建の債券発行による資金調達をするからです.他方,世界中どこでも,アメリカの銀行には預金が以前よりも集まりにくくなった,ということです.そして,各国の中央銀行は外貨準備をドルから分散しつつあります.

William L. Silberの研究(“When Washington Shut Down Wall Street”)が紹介されています.1907年の恐慌に際しては,アメリカ政府に海外の投資家を安心させることができず,代わってJ. Pierpont Morganが介入しました.その研究によれば,ドルの支配が確立されたのは第一次世界大戦の前,ニューヨーク証券取引所が長期間閉鎖されたことによるものです.当時,戦争準備のため,ヨーロッパ諸国はアメリカへの投資を引き揚げ,穀物輸入を増やしていました.

第一次大戦が勃発する直前,政府は株価が持ち直していることを知りながら,NYSEの閉鎖を4ヶ月にも延長しました.これによって金の流出を止め,アメリカは金本位制にとどまることができたのです.その結果,ロンドンに代わってニューヨークが国際金融の中心になりました.1915年後半までにイギリスやフランスはニューヨークでドル建の融資を受けるようになっていました.

他方,今のアメリカは対外債務の超過が著しいけれど,国際金融市場はドルによって機能するという慣性を維持しています.ただし将来は,ドルの支配など誰も言及しないだろう,と.

The Guardian Wednesday February 7, 2007

Betting with the house's money

Kenneth Rogoff

(コメント) Kenneth Rogoffは,なぜドルが暴落しないのか? という問いに答えます.利子支払も含めた場合,2006年の対外赤字は8000億ドル,アメリカのGDPの6.5%に及んでいます.それは世界の過剰貯蓄の3分の2を吸収してしまうのです.

しかもその収益は非常に低いものでしかなく,中国や日本は世界最大の経済援助をアメリカに対して行っている,とRogoffは認めています.なぜこのような状態が続くのか? アジアの新興経済が不均衡の調整を拒んだ結果,このような貯蓄の移転が強制されている,と多くの経済学者は指摘します.しかし,実効レートで見たドル安は進んでいます.それにもかかわらず,アメリカの貿易赤字は減りません.

ドル安にもかかわらず,アメリカの政府や消費者は支出を抑制しようとしない,というのがその第一の理由です.アメリカ人の80%が住宅を所有しており,10年に及ぶ住宅価格の上昇が彼らの消費意欲を支配しています.株式保有はもっと偏っていますが,年金基金を介して,やはり株価上昇の利益を享受しています.彼らは勝ち続けているギャンブラーであり,住宅や株式の値上がりで裕福に暮らせると信じています.

他方,賢明な政府であれば財政赤字を抑制するはずですが,ブッシュ政権も民主党が支配する議会も,政治的な判断を優先します.もちろん,タンゴは一人で踊れません.バーナンキFRB議長が指摘したように,「世界の過剰貯蓄」がアメリカに流れ込んでいる,と説明することもできます.ただし,Rogoffは「世界の投資不足」を指摘する方が正しい,と考えます.さらにその主要な原因としては,本来,もっと多くの投資が望ましい発展途上諸国で,制度的な障害がそれを許さない,と主張します.

ドルはどうなるのか? もし世界の成長が持続し,マクロ経済の安定性が維持できるなら,ドルの債務や価値は維持できるでしょう.ドル暴落が起きるシナリオもあります.もし核兵器によるテロが起これば,中国の経済が不況になれば,あるいは,中東地域に戦争が拡大すれば,ドルは暴落するでしょう.

FT February 7 2007

No grand plans, but the financial system needs fixing

By Kenneth Rogoff

世界の金融アークテクチャーに関する大改造計画はどうなったのか? 数年前までは大変革の議論が盛んだった.特に,金融監督,公的債務の破産裁判所,国際預金保険機構,果ては,世界中央銀行まで,新しい世界的規模の制度が提案された.IMFや世界銀行といった既存の国際機関を改造する議論も盛んだった.

しかしこの数年,その見通しは失われた.むしろ政府の専門スタッフたちは,各国がマクロ経済の安定化を図り,国際的には金融革新がすすむことで,システムの問題を解決できる,と勝手に思い始めている.60兆ドルの国境を越える資産保有(世界GDPの120%)があっても,市場に解決できない問題は無い・・・!

本当にそうだろうか? インドや中国で急激に景気が悪化したらどうなるか? アメリカの都市で核兵器が爆発し,アメリカから投資が引き揚げたら? 中東の戦火がイランやサウジアラビアにまで及んだら? 鶏インフルエンザの感染が人類に及んだら? 特にBISが開く隔月の会合により,中央銀行間の世界的な協力は近年非常に進歩したが,市場の思っているほど,中央銀行は世界的な資本移動の浮動性に対処できない.特に,地政学的な要因が絡む場合は.

たしかに,過去に議論されたどのような大計画も,そうした破局には対応できなかったかもしれない.大改造計画というのは単純すぎて,数ページのコメントにとどまり,効果的な機能に必要とされる細部が欠けている.概ね,各国の金融監督や法体系が協力し,競争するような,有機的なアプローチに頼るほうが,世界は住みやすいだろう.単独の世界監督局に権力が集中しすぎると,革新を妨げる危険がある.同様に,他の通貨供給と競争することが無ければ,世界中央銀行がインフレによる破綻を犯しやすい.

しかし,計画が単純すぎるからといって,それらが解決しようとした,もっと深刻な問題を無視するのは間違いだ.グローバルなヘッジ・ファンドが増えて,主要市場にますます影響するようになる一方,各国の金融監督は協調体制に欠陥があり,中央銀行が融資してヘッド・ファンドをますます繁栄させている.資本移動は再び新興経済に溢れるようになった.アルゼンチンの債務不履行によって実現した債務契約書のわずかな革新が,次の危機を防ぐなどと期待するのか?

大計画が消えてしまうことで最も問題になるのは,既存の多角的金融制度における重要な改善につながるようなアイデアの蓄えが枯渇してしまうことだ.もちろん,そのような多角的な政府間融資は,急速に民間の債務や株式市場が公的融資を超えて膨張する世界では,ますます無意味になりつつある.

IMFはすでにその役割や機能を見直す作業を始めている.先月,BIS総裁であったSir Andrew Crockettが委員長となる要人のグループが,通貨危機への融資から収益を上げられなくなるIMFが,サーベイランスと技術指導にどうやって財源を確保するかについて,提言を出した.私の考えはさらに先を目指す.実際には(2001年のアルゼンチン,1998年のロシア),調整を円滑に進めるよりもそれを延期させるだけの,危機への融資をすべて廃止するべきだ.そして,スタンフォードのJeremy Bulow教授と1990年に示した改革案では,世界銀行も純粋な援助機関に転換する.これにより世界の際貧諸国が過剰な債務を累積する危険を取り除けるし,より重要なことに,援助を透明化する.しかし,どちらの提案もすぐに実現する見込みはない.

金融アーキテクチャーの改善に対する関心が失われてしまうことを嘆くけれど,それらが完璧ではなかったから関心を失ったのではない.むしろ,より穏健で,疑いなく積極的な改革を持続するという目標やエネルギーが欠けている.そのことは,次の一連の危機を経験したとき,もっと多くの大改造計画が氾濫することにつながる.


IHT Sunday, February 4, 2007

The spineless Bank of Japan

Philip Bowring

(コメント) 安倍首相がいくら「主張する日本外交」をスローガンにしても,国際政治において日本は無力で,無視されており,国際的な関心を集めるのは問題を起こすときです.

Philip Bowringは日本のゼロ金利に近い状態が円安を促していることを非難します.「意気地なしの日銀と,近視眼の安倍政権」が,ヨーロッパの輸出部門に不況と,世界に不均衡やバブルをもたらしている.また,日本はアジア通貨圏を指導するより,その調整を妨げている,と.

アメリカやアジア諸国が日本の政策を激しく非難し始めるまで,日銀や政府はこのままでよい,と考えるのでしょうか?


Gregory Rodriguez Why we need to Invest in immigrants LAT February 4, 2007

The Price of Citizenship NYT February 4, 2007

NINA BERNSTEIN Immigrant Entrepreneurs Shape a New Economy NYT February 6, 2007

(コメント) 常に,移民の姿は変化します.カリフォルニアは主要な移民受け入れの州ではなくなりました.移民は急速に所得水準を上げ,英語を話す,市民になりつつあります.移民は最も有望な投資である一方で,アメリカの移民帰化局はその申請量を大幅に値上げしようとしています.それは貧しい移民たちをアメリカから遠ざけるでしょう.移民たちが立ち上げる企業は,主要都市における成長や雇用の要因です.


Paul R. Pillar What to Ask Before the Next War WP Sunday, February 4, 2007

Mark Brzezinski and Ray Takeyh Getting to yes on Iran BG February 6, 2007

Timothy Garton Ash We must stop Bush bombing Iran, and stop Iran getting the bomb The Guardian Thursday February 8, 2007

Vali Nasr and Ray Takeyh The Iran Option That Isn't on the Table WP Thursday, February 8, 2007

(コメント) アメリカがイランと戦争する可能性は,日本で考える異常に高まっているのでしょう.ブッシュ政権は,サダム・フセインが核兵器を開発する証拠も,9・11を助けた証拠もないのに,戦争を始めるための世論の支持を容易に高めることができました.論争は政府が望んだ点だけに絞られたのです.イラン核施設への軍事攻撃についても,同じ「過度の単純化」が起きている,とPaul R. Pillarは注意します.

アメリカと交渉するイランには,アメリカに求めるものが何も無い.だから交渉は嘆願になるしかない,とブッシュ政権は拒みます.Mark Brzezinski and Ray Takeyhは,軍事的に優位であったソ連とのSALTT・U,START,の交渉を挙げて,そうではないと主張します.アメリカが認める国際関係と市場への参加は,イランにとっても重要な目標です.

イランを爆撃することも,イランが核兵器を得ることも,われわれは阻止しなければならない.そこでTimothy Garton Ashは,イランを説得する新しい方法を示します.これまでとは逆に,アメリカが飴を,そしてヨーロッパがムチを用意するのです.すでに昨年夏にドイツが提案したように,軽水炉の建設とロシアによる濃縮ウランの供給が望ましい.また,それを促す条件として,WTOへの加盟を支持し,EUとの通商条約では,航空機の乗り入れやハイテク・通信分野の合意が期待できるわけです.

しかし,中国,ロシア,安保理を加えた複雑な外交交渉の挙げ句,イラン政府は合意を拒みました.今度は,アメリカがもっと飴を用意し,EUがムチを探します.それでも合意できず,軍事的な手段を取らないとすれば,イランを孤立させ,封じ込めることです.

Vali Nasr and Ray Takeyhも,アメリカによるエンゲイジメント(関与・統合)を提案します.敵視政策は,むしろ,イラン国内の民主派を孤立させ,イスラム教強硬派による政治支配を正当化する口実にされています.イランの政治システムをアメリカ風に解釈するのは間違いです.

Ron Asmus Nato must go global to have a meaningful purpose FT February 6 2007

(コメント) 加盟国を増やし,介入範囲を拡大して,NATOの地球規模への拡大が望ましい安全保障体制をもたらすか? あるいは,分裂や対立により不安定さを増し,機動性を失うか?


FT February 5 2007

The imperial Mr Bush

(コメント) 中間選挙で負けたブッシュ大統領は,さぞ協力的な姿勢に変わっただろう,などと思っていたら,それどころか,何であれ大統領の権限をことさらに強調し,むしろ裁判所や議会から権限をさらに奪い取る企てを繰り返している,とFTは批判しています.政治家というのは,なるほど,権力をめぐる生き物であり,決して負けを認めないのだな,と妙に感心します.三権分立やチェック・アンド・バランスというものの重要性も理解できました.

FT February 5 2007

Why Abe is in trouble months after becoming Japan’s leader

By David Pilling

(コメント) David Pillingは,安倍首相の支持率低下について,日本のメディアに流布されている解説を要約しています.ユニークな点は,日本の政策は小泉により不可逆的な変化を遂げた,と評価する一方で,自民党による政治が小泉以前の不安定な政権交代に復帰してしまう懸念,さらには議会が軽視されて,政治家が軍国主義に流れた時代を想起していることでしょうか.


WP Monday, February 5, 2007

Russian Retail Politics

By Masha Lipman

(コメント) ロシア人以外の仲買業者を制限する法律は,ロシアで高まる人種差別主義に配慮したものです.政府は人種差別の過激な行動を取り締まると言いながら,実際には,ナショナリズムとして擁護します.大統領選挙に利用できる限り,それを歓迎し,大量虐殺の記憶に結びつかない程度に管理するわけです.

このような市場の歪曲は,むしろ逆効果になる,と記事は批判します.ロシアの気候を考えれば,暖かい土地からフルーツや野菜が輸入されなければならず,また,厳しい条件の労働には多くの移民労働者が必要です.市場に逆らって価格や移民を法律が規制しても,その結果,困るのはロシア人でしょう.


FT February 6 2007

Italy may be sick, but its condition is far from terminal

By Daniel Gros

FT February 6 2007

Korea in a time warp

(コメント) イタリアはヨーロッパの病人だ,債務不履行とユーロ圏からの離脱が避けられない,という俗説をDaniel Grosは批判します.財政赤字,競争力,労働市場の改革,いずれをとっても誇張された崩壊説を否定しています.

他方,家電製品や自動車などで世界的な躍進を伝えられる韓国ですが,国内経済はチェボル(財閥)の解体に躊躇して,その経済全体を革新できないようです.かつてはソ連,ヨーロッパ,今では日本,韓国,中国,と東アジアの資本主義に対する批判的なコメントに,共通した問題が指摘されています.

韓国経済の基本的問題は国内需要の不足である.チェボルの支配が確立しており,その硬直性に妨げられている.その結果,成長は輸出に大きく依存してしまい,労働コストの上昇,ウォン高,チェボルによる生産拠点の海外移転,がそれを脅かす.チェボルの投資は高度に機械化された工場に集中し,それでは新しい雇用が生まれない. ・・・チェボルを解体しなければ,韓国経済は停滞と硬化症にさいなまれるだろう.


LAT February 6, 2007

Bienvenidos to Mexican avocados

(コメント) NAFTAにもかかわらず,アメリカはアヴォガドの輸入を禁止しています.害虫がメキシコから入る,という理由で.それゆえ,アヴォガドではなく移民労働者が流入し,アメリカのアヴォガド畑を満たすことになるのです.

メキシコはアメリカからのチェリーを病気という理由で輸入していませんでした.両国は交渉して部分的に自由化しています.漸く輸入が自由化されたアヴォガドのおかげで,アメリカ国内の需要増加や冷害にもかかわらず,その価格は安定しています.メキシコ農民も自国でアヴォガドを育てます.


BBC 2007/02/06

Germans take pride in local money

By Tristana Moore

NYT February 9, 2007

In the Land of the Euro, Small Towns Adopt Alternative Currencies

By CARTER DOUGHERTY

(コメント) ドイツの町,Magdeburgに,ユーロと並んで新通貨が流通している,という話です.その名は,the Urstromtaler,ウルストロームターレル,というのでしょうか? なぜ利用しているのか,と問われて,地域通貨に参加することで気分が良くなる,というわけです.ちゃんと銀行券も発行しています.その中央銀行は小さな事務所で,交換レートはユーロと同じです.ただし,銀行券には使用期限があり,それを保有すれば急いで使うしかありません.

ただし,ブンデスバンクは注意深く監視し,決して歓迎していません.法的にはグレー・ゾーンです.地元の人々は,たとえば支払の3分の1をこの地域通貨で行います.こうした地域通貨はドイツ中で,少なくとも16種類,作られています.それを非合法化する場合,他のさまざまな商品券や割引制度,クレジットなどが関連します.ウルストロームターレルがインターネット・バンキングや決済に参加する,という試みは,さらに政府の注意を喚起します.

NYTもミュンヘン南東部のROSENHEIMが発行する地域通貨,the chiemgauer,を紹介しています.それは中央銀行家にとって,アルゼンチンにもあったように,インフレや成長の破壊を連想させます.他にも,landmark, kirschblute, kann,など.なお,使用を促すため,四半期ごとにthe chiemgauerの価値が2%減少します.地域通貨が小さな町の生き残りを助けるのか,金融システムや政策に及ぼす影響も含めて,未知数です.


FT February 6 2007

Flu solidarity needed

The Guardian Wednesday February 7, 2007

The plague of bird flu will erupt out of Java, not Suffolk

Mike Davis

(コメント) 鶏インフルエンザ・ウィルスH5N1の感染が世界中に拡大しつつあります.しかも,ヒトに感染し,次には,人から人へも感染するだろう,と.中世のペスト以上に,人類に蔓延し,世界人口を減少させるかもしれません.

この問題で興味深いのは,ウィルスの感染が進むインドネシアが次々に現れるウィルスの情報を公開しない,という手段に訴えたことです.感染の拡大を防ぐためには,鶏を大量に処分し,ワクチンを開発して普及させなければなりません.ところが,感染した地域の鶏を殺すよりも市場に売ってしまいたい業者に十分な補償をする資金が無く,あるいは,ワクチンを開発できる製薬会社は豊かな欧米諸国にしかありません.彼らはワクチンを開発して世界中で儲け,貧しい発展途上諸国はそのワクチンを買うお金もありません.

こうした状況であれば,インドネシア政府がウィルス情報の公開を拒むのも交渉手段なのです.裕福な諸国は鶏インフルエンザの感染拡大が世界的な問題であり,各国ごとの解決策は無いことを認めています.資金援助,開発援助,ワクチン開発の国際プロジェクト,ワクチン販売価格の貧しい諸国への設定,など,世界的な解決が提案されています.それが実現するまで,ウィルスは世界の政治対立や貧困をエサに繁殖し続けます.

Mike Davisも,人類の危機に直面しながら対応を誤る国際機関と支配的な諸国の態度を厳しく断罪します.特に,アフリカではエイズ感染と重なって死亡者が増えること,インドネシアでは数千の島に感染が広がり,人口過密状態の中で,人への感染が始まってしまうだろう,と警告します.


Jeff Jacoby Chicken Little and global warming BG February 7, 2007

Robert J. Samuelson Global Warming and Hot Air WP Wednesday, February 7, 2007

Roland Nelles, Sebastian Knauer and Horand Knaup A Tropical Germany by 2100? SPIEGEL ONLINE - February 2, 2007

Jonah Goldberg Global cooling costs too much LAT February 8, 2007

(コメント) Jeff Jacobyは,地球温暖化は起きているとしても,それを終末論的に喧伝するメディアの姿勢は間違っている,と批判します.温暖化はもっと複雑で,さまざまな対立する証拠や意見があります.

真実を言え,とRobert J. Samuelsonは求めます.「解決策はない,ということだ.世界のエネルギーの約80%が,石油や石炭といった化石燃料によるものであり,温暖化ガスの源泉である.エネルギーの供給は経済成長を維持し,政治的・社会的な安定性にとって必要だ.」

気温や海面が上昇しても,それは破滅をもたらしていない.解決策は“cap and trade”ではない.それが有効なほど排出量を低く抑え,産業や企業に分担させる交渉は非常に難しい.つまり,まともな上限はできず,交渉を担うワシントンのロビイストたちに資金が流れるだけだ,と.

Samuelsonは,排出権の取引市場に魔法の解決策を求めず,長期的に,本当の解決策を考えます.それは,化石燃料をやめることです.賃金や所得に課税するより,化石燃料,特にその非効率な利用に課税することで,人々が生活を変えるのです.

ドイツのSPIEGELが載せた記事は,温暖化論の一例です.ドイツのバヴァリアにも滝のような雨が降り続きます.予想では平均気温が2.5度上昇し,地中海並みになるわけです.つまり,ドイツ北部でワインを栽培し,バルチック海では海水浴が盛んになる.農業や治水管理も大きく変化します.暖かい地域の病原菌が以前より急速に広まるでしょう.降雪量が減って,スキーもできなくなります.すでに保険会社には気候変動に関する契約が一杯です.

しかし,警告や証拠を聞き,その可能性を評価した後,温暖化対策はそのコストによって選択するべきだ,と政府や有権者は考えるようになります.科学者と,政治家と,経済学者.


FT February 8 2007

How the developing world is striving to free itself of debt

By Joanna Chung in London

(コメント) 1990年代の頻発した通貨危機とその伝染は,今やまったく視野から消え去りました.その理由は,中国やインドに主導された世界需要の拡大により,一次産品の国際価格が上昇していることです.同時に,新興市場の政府は国際資本市場に頼ることがいかに危険であるかを自覚し,債務の返済と期間短縮,自国通貨建債務への切り替え,などを行っています.資本規制や予防的な資本流入抑制策,変動レート制の採用,など,1990年代に問題となったことから多くを学びました.

リスク・プレミアムが低すぎるとか,現在の流動性は過剰であり,再び不況や資産市場の破綻は起きる,と心配されますが,国際資本市場が大きく変わったことは事実です.つまり,次の危機は決して同じルートでやって来るのではない,と.


IHT Thursday, February 8, 2007

Just don't mention the war on terrorism

Joseph S. Nye Jr.

(コメント) 「テロとの戦争」という言葉を,イギリス政府は使用しなくなりました.Joseph S. Nye Jr.はアメリカの伝統やブッシュ氏のこだわりに言及しつつも,イギリス政府の判断を支持しています.すなわち,原理主義的な信仰によってテロ集団が戦闘を擁護する際に,ブッシュ政権が繰り返す「テロとの戦争」という言葉は格好の正当化材料を与えてしまうのです.

言葉は,それ自体思想や行動を表現しており,その言葉がアメリカやイギリスの政治的目標の価値を実際に損なっています.

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The Economist, January 27th 2007

Green America: Waking up and catching up

China’s anti-satellite test: A new arms race in space?

China and space: Stormy weather

Bird flu in Asia: Coming home to roost?

Chile’s economy: Corseted

Buttonwood: Can’t pay? Won’t pay

International Criminal Court: Let the child live

The euro area’s economy: Beggar thy neighbour

The future of Europe’s economy: The squeeze is on

(コメント) イラク戦争によって傷ついたアメリカの政治システムが,環境問題に積極的に取り組むことで威信を回復するかもしれません.しかも,アメリカは州による環境規制とビジネス界の方針転換,そしてヨーロッパの試行錯誤から学んで,環境規制の新しいメカニズムを起動させる位置に就きました.

中国との「宇宙戦争」を回避し,アジアにおける鶏インフルエンザが人類の脅威になることを防ぎ,新しい国際通貨危機や資本市場の行動を監視する,という多くの重要な役割に,アメリカとEUの協力は欠かせません.どちらにも多くの問題や限界があるのはもちろんです.

ユーロ圏が為替レートの調整ではなく労働市場の円滑な機能に頼ることは,以前から強調されていたことです.それがメリー・ゴー・ランドのような競争力悪化と賃金引下げの苦しい過程なのか,アメリカを超える新しい政治・経済システムなのか,興味は就きません.そのためにも,ヨーロッパ経済の戦後の経緯を概観した一流の作品を,もし時間と能力が許すなら,じっくり味読したいです. ・・・誰か,読書会しませんか?