IPEの果樹園2006

今週のReview

12/25-12/30

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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黒人のアメリカ大統領, 米中経済戦略会談, 日本の変心, 2006年の重大事件, 中国経済, 移民問題の妥協, タイの資本規制, ベルギー消滅, 新シルク・ロード, 倫理的消費者

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


BBC 2006/12/13

Washington diary: The next president?

By Matt Frei

LAT December 15, 2006

Barack's ready

Rosa Brooks

LAT December 17, 2006

Is Obama the new 'black'?

Gregory Rodriguez

(コメント) Barack Hussein Obamaは,初の黒人大統領になれるでしょうか? 彼はたった4年間の上院の経験しかない45歳のアフリカ系アメリカ人です.彼はハーヴァード・ロー・スクールで妻のMichelleと出会ったと話します.

Obamaの人気を取材して,アメリカの政治は小説よりも不思議だ,とMatt Freiは驚きます.アメリカは和解や治癒を求めています.たとえば,民主党と共和党との対立を克服することです.彼の演説は,敵対する党派が互いを非難して戯画化するアメリカではなく,もっと複雑なアメリカを描きます.

彼はケニアのエコノミストの息子であり,タールのように真っ黒です.その妻はカンサス出身の女性であり,雪のように真っ白です.Obamaはハワイとインドネシアで育ち,伝統あるHarvard Law Reviewの編集者になりました.敬虔なキリスト教徒で,スリムな健康体,ときには喫煙も楽しむ.

ニュー・ハンプシャーは白人が支配的ですが,マーティン・ルーサー・キングやジェシー・ジャクソンなど,公民権運動の伝統があります.コーリン・パウウェルと同様,イリノイ州の上院議員であることが肌の色を無視させます.彼はジョン・ケリーのようにへりくだることなく,上院の経験が浅いことも,華麗で,しかも謙虚に振舞えたジョン・F・ケネディーのように,むしろ新鮮な魅力にしています.

「私のような者の演説に,こうして多くの人が集まってくれるという事実により,この国が何か新しいもの,今までと違うものを切望している,ということが分かる.」 その言葉は,金切り声の叫びではないし,尊大な命令でもない.

もし選挙資金を集め,運動において失敗せず,難しい質問にも答え,黒人であることを魅力にして,戦争への不安を解消し,メディアの気まぐれなお世辞に潰されなければ,Obamaは第44代アメリカ大統領になるだろう,とBBCは報じました.

まだ選挙戦の厳しいテストを受けたことがない.ネガティブ・キャンペーンを生き残れるのか.力を失いつつある覇権国の指導者として国際政治を仕切れるか.・・・ しかしRosa Brooksも,Obamaが一時の流行ではなく,大統領候補として残ると予想します.

Obamaは,これまでの生涯を通じて,不信や排除といったテストを受けてきたはずです.シカゴのa community organizerとして,分裂した町で成果を上げました.保守的なChicago Tribuneでさえ,彼が整備したさまざまな法律(警察の捜査にビデオを活用する,ロビイストの贈賄を監視する,減税や保険適用の拡大によりワーキング・プアを助ける,など)を挙げて,2004年の上院議員候補として,Obamaを称賛したのです.

Obamaはこの2年間,派手ではないが重要な問題に地道に取り組んできました.カリスマであるだけでなく,すべてについて何でも知っているからといって,良い大統領になれるとは限らない,とBrooksは考えます.むしろ,正しいバランスを取ることが重要です.「できることはすべて学び,俊敏で,賢明な顧問たちを指名して知識の不足を補い,正直な仲介者にしなければなりません.そして最後は,困難な決断を下すために,判断力と良識を示さねばなりません.決断に至るまで,対立する意見を叩き潰すのではなく,よく聞き,保護することも学ぶのです.」

Obamaが得た高い評価は,まさにそれを成し遂げた,というものです.国務省の次官補であったSusan Riceは言います.これまで多くの政治家に助言してきたが,彼らは学ぼうとしなかった.Obamaは違う.彼には判断力と知性があり,他人の話を聞いて,そこから洞察を得る術を知っている,と.彼には,アメリカが求める散文だけでなく詩もある. ・・・経験が足りない? その通り.しかし経験なら,ラムズフェルドやチェイニーにも一杯あったではないか!

彼は黒人だぞ,という人も多いでしょう.黒人に大統領ができるか? Obamaは新しい黒人である.黒人とは何か? 彼の出現が,論争を起こしつつあります.黒人としてのObamaは,アメリカの原罪である「奴隷制度」を思い起こさせるのではなく,アメリカが失ってきたもう一つの可能性,希望の選択を示しています.


Globalist Perspective, Wednesday, December 13, 2006

China as a Military Boogieman in the U.S. Policy Debate

By Chas W. Freeman

(コメント) Chas W. Freemanは,中国がアメリカに軍事的な挑戦をするとは考えません.アメリカにとって(そして,日本も)最大の問題は,中国を敵視する政策は,本当に,中国との敵対をもたらすだろう,ということです.中国に制裁を含めた圧力を加え,それが成果を上げなければ,軍備拡大に励むのでしょうか?

中国が脅威であるのは,もっぱら経済的な意味で,言えることです.しかも,それが脅威である理由は,アメリカ経済自身に多くの問題があるようです.アメリカ政府は労働者や衰退産業を新しい条件に合わせて助けることなく,その責任を中国(あるいは,インド,移民)に押し付けて,回避したがっているだけです.

さらにFreemanは,中国の軍事費が,基本的に,いわゆる「本土防衛」のために限られている,と主張します.それでも中国の軍事費に対抗して,自国の軍備拡大を主張する意見に対して,アメリカの4415億ドル,GDP3.7%に及ぶ軍備と比較します.さらに,退役軍人への支払を含めるなら,その規模は7200億ドル,GDP6%です.さらに,公表されていない情報機関の予算があります.

中国がアメリカの脅威ではなく,アメリカが中国の脅威なのです.中国を敵視すれば,その結果は冷戦ではなく,本当の長期に及ぶ戦争になるでしょう.中国の力はソ連をはるかに凌駕するでしょう.それはアメリカの政治家(あるいは,軍産複合体)が,ワシントンで関心のある話題にしたがって,選択してはならないコースです.

中国はソ連の消滅から学び,同じコースを選択しないでしょう.中国は,むしろ,アメリカと同じように,経済や社会における再編成に苦しんでいるのです.そうであれば,アメリカは中国と一緒に問題を解決する方針を示すべきであり,敵対することは解決を妨げるでしょう.


BG December 14, 2006

Creating communities

By Joseph Kriesberg

(コメント) Deval Patrick知事の公約"Together We Can"を実現するには何をすればよいのか? コミュニティーを再建したい,と主張しても,法律を作るにはさまざまな利害が対立し,何をするにも予算は限られており,財源が要る.希望,コミュニティー.助け合い,といった目に見えない目標を,政府は,雇用,住宅,生活賃金,などとして実現しようとしました.

しかしJoseph Kriesberg は,政府が上から解決策を示して財源を尽くしても,利益は大企業などが得るだけでコミュニティーは取り残された,と反省します.むしろそれぞれの家庭から始めるほうが良い,と.彼はthe Massachusetts Association of Community Development Corporationsの代表です.

人々が協力して,コミュニティーを再建する仕組みを作り出せたら,多くの問題を解決する可能性が高まると思います.


Project Syndicate, 14 December 2006

NATO after Riga

Joseph S. Nye

(コメント) NATOの触れ動く将来を思い悩んだ,という趣旨でしょうか.Joseph S. Nyeにしては不明瞭なエッセーです.

NATOはソ連を封じ込めるために結成されました.それだけでなく,ドイツを押さえ込み,アメリカを引っ張り込む,と.しかし,ソ連は解体し,その一部がNATOに加盟していますし,ロシア軍もNATOの演習などに招かれます.

NATOは今や,バルカンやアフガニスタンの安定化に深く関わり,さらに世界中の紛争や軍事バランスに関わっています.それでどうなるのか? 消滅しないとしても,国連軍になるのか? 中東,アジア,アフリカ・・・で,ロシアや中国に対抗するのか? NATOの将来がどこに向かうかは,まだ,分かりません.


Krishna Guha in Beijing Bernanke calls for renminbi revaluation FT December 15 2006

Bernanke in China FT December 15 2006

STEVEN R. WEISMAN Talks With China End With Few Signs of Progress on Currency Issue NYT December 15, 2006

Robert Kuttner In China's pocket BG December 16, 2006

STEVEN R. WEISMAN Balancing Act With Beijing NYT December 16, 2006

Good relations needed FT December 18 2006

James K Galbraith Clueless in China The Guardian Monday December 18, 2006

Steven R. Weisman US and China Differ on Aim of Economic Talks The International Herald Tribune, 18 December 2006

Talking at the Chinese NYT December 20, 2006

(コメント) バーナンキ議長は,人民元が安く維持されているのは,中国が輸出に「実質的な補助金を与えている」に等しい,と発言しました.それが生産や貿易のパターンを歪めている,と批判したわけです.FTは,バーナンキが政治的な地雷に触れた,と書いています.

バーナンキは,中国が人民元を増価させて金融政策の自由を活かし,成長と安定を促進するように求めたわけです.このまま過剰投資と資源配分の歪みを拡大すれば,(WTOと合意した)金融部門の競争が高まると,不良債権が発生し,成長を損なうだけでなく,将来の危機をも誘発するでしょう.

中国政府は,国内の輸出産業や金融部門の雇用を守るために,急激な人民元の増価を受け入れるつもりは無いでしょう.Robert Kuttnerは,中国政府は,アメリカが自分たちにあわせて踊ってくれることを学んだだろう,と考えます.中国は輸出を続け,アメリカはますます債務を負いながら安価な輸入品に依存して行く.こうしてアメリカは,中国に政策変更を強制し,説得する力も失ってしまう,と.

アメリカの交渉団が本当に臨んでいたのは,緩やかに人民元が増価し続けること,それによって議会の保護主義を緩和することでした.しかし,それ(緩やかな増価と調整)は間違いだったのです.中国は,共産党が支配したまま,極端な効率的な資本主義をまねたシステムです.アメリカ企業はそのことを理解し,生産拠点として最大限に利用し始めたわけです.

Kuttnerの怒りは,中国における労働者の権利が著しく損なわれている状態に向けられています.ブッシュ(父)政権も,クリントン政権も,WTO加盟問題や貿易不均衡,ドル準備などの点で,当時は強かった交渉力を,中国における労働条件の改善や労働者の権利保護に向けようとしませんでした.

STEVEN R. WEISMANの記事は,民主主義において,経済政策を政府間で調整することが困難である点を描き出します.どれほどポールソンたちが熱心に交渉しても,アメリカの企業や労働者は,自分たちの利益が十分に反映されたとは考えないでしょう.まして,中間選挙において,中国叩きがスポーツとなっていたことを思えば,議会の風潮は容易に変えられません.

交渉は有益であるが,その成果には時間がかかる,とポールソンは注意しました.アメリカにとっては「人民元」が重要ですが,中国にとっては「アメリカ議会(保護主義)」が重要です.会談を構えた以上,手ぶらで帰ることはどちらも政治的に受け入れがたいでしょう.両者の対決を,バーナンキの人民元批判と政策調整を求めた演説が仲介したようです.中国側は,世界にとって成長する中国は脅威ではなく,むしろ好条件である,と主張し,他方,ポールソンは,人民元ではなく,社会保障制度(を整備して過剰貯蓄を解消すること)を強調しました.

James K Galbraithは,ポールソンの意図を党派的に解釈します.つまり,ウォール街の利益です.アメリカの金融ビジネスは,いつも,通貨,株式,債券,そして不動産に投資する自由,そして投機的利益を求めています.中国に対してもそうでしょう.他方,バーナンキは,より独立した研究肌の指導者として,金融政策を動かしています.その意味で,ポールソンの使節団に加わり,アメリカの意向を中国の利益になる,と説得するのは領分を越えた仕事でした.

Galbraithは,二人の立場を要約しています.1.30年間の急速な成長を実現した政策を捨てること.2.そのためには貯蓄率を下げること.3.共産主義国として,中国は(医療・失業)保険や社会保障を整備し,その結果,民間貯蓄を減らすこと.4.資本主義国として,アメリカは保険や社会保障を削減し,その結果,民間貯蓄を増やすこと.5.こうして米中貿易不均衡は解消する.

輸出に依存しない,もっと国内消費者を重視した,労働条件や環境保護にも配慮して経済発展と,政治システムの民主化を促すことが,アメリカの目標です.しかも,それを数年で実現するような政策転換(為替レートの変動を許し,資本移動や金融ビジネスの開放,M&Aなどを増やす)です.それは,中国政府の目標とかなり異なっています.たとえ実現するとしても,漸進主義を重視し,まだ数十年を要するでしょう.

中国側は,政治的に可能なこと以外,国内政策で妥協しないでしょう.米中間で摩擦があれば,アメリカ側が政策を調整します.そして,イランや北朝鮮など,国際分野で協調する取引を進めるわけです.アメリカ側は,貯蓄,インフラ,教育,グローバリゼーションに対応したセーフティー・ネットなど,不均衡を解消するために国内要因を積極的に改善して初めて,中国側に政策協調を求めることができます.


FT December 16 2006

Soviet-style Japan

LAT December 20, 2006

Pacifism's last stand in Japan

(コメント) 自ら官僚たちとともに「タウン・ミーティング」を捏造し続けた安倍首相が,堀江貴文を告発した小泉元首相を支えていたのであり,今では教育改革に熱心です.これは,FTから見ても,まるでソ連と同じような,旧エリートたちによる体制迎合主義,国家管理体制です.

コンフォーミズムが再生される一方で,欧米人が日本をイメージするもう一つの言葉,パシフィズムは廃棄されつつあります.北朝鮮のミサイル発射や核実験は,日本にとって,アメリカの9・11と同じ政治的ショックをもたらした,とLATは指摘します.

LATは,日本が憲法を改正して,国連軍に参加することを認めるとしたら,アメリカも日本への関与をさらに明確にできる,と考えます.それは日本にとっても利益であろう,と.しかし,問題は日本がドイツほど第二次世界大戦の過去を清算できていないことです.日本の行動は,今も,過去の戦争責任や指導者たちの歴史認識と結び付けて評価され,近隣諸国の憤慨を招きます.

憲法を改正しても,右翼やナショナリストの望む教育改革を目指す安倍首相の下では,日本がさらに大きなリスクを地域にもたらすかもしれません.


BG December 17, 2006

Push China, save Darfur

By Eric Reeves

(コメント) 国連軍は,理想的な形で,安全保障を提供できません.たとえば,国連決議にもかかわらず,スーダン政府がダルフールで虐殺が続け,人道援助団体を襲わせることが許されているのはなぜか?

一つは,西側諸国が,決議を実行するために,外交・金融・軍事面での支援を与えないからです.そしてもう一つは,国連安保理が中国の拒否権に阻まれて,実効性のある制裁決議をスーダン政府に対して示せないからです.スーダンは,中国にとって最大の海外権益(100億ドルの投資)であり,最大の石油生産拠点です.アメリカは,遠隔の地における紛争にもかかわらず関心を持続してきました.しかし,EUの反応は鈍く,中国はもっと強い圧力を受けるべきです.

中国政府は,2008年の北京オリンピックを,天安門事件やチベットの弾圧に関する汚名を返上して,国際的評価を高めるチャンスと期待しています.もしダルフールで協力しないなら,この問題を北京オリンピックとリンクするべきだ,Eric Reevesは主張します.


NYT December 17, 2006

The Good Daughter, in a Brothel

By NICHOLAS D. KRISTOF

The Guardian Monday December 18, 2006

A modern-day slavery is flourishing in Britain, and we just avert our eyes

Madeleine Bunting

NYT December 18, 2006

In Chinese Boomtown, Middle Class Pushes Back

By HOWARD W. FRENCH

(コメント) クリスマスにもかかわらず,世界の多くの貧民は救済されません.貧しい国では,家族思いの娘たちが買春宿で稼ぎ,グローバル化した人身売買の犠牲になっています.カンボジアの女性Yan Kosalも,タイのバンコクで使役される売春婦です.この「21世紀の奴隷貿易」に対して,19世紀のイギリスと同様に,アメリカではそれを廃止する運動が起きています.

Madeleine Buntingは,イギリスにおける難民申請のあり方を問います.イラクの混乱から逃れた男性も,3年を経てなお,イギリスの中に潜んで暮らすしかありません.労働は許可されておらず,それゆえ非合法に働いて搾取されます.政府は彼らを「非合法移民」と呼ぶが,「なぜ人間であることが犯罪なのか・・・?」と問います.この「ゾンビ・カテゴリー」に入れられたせいで,彼らは飢え,犯罪や病気に苦しみます.

中国で市場改革が始まった最初の町,深?において,中産階級は生活の改善を求めています.急速な成長は社会のさまざまな歪みと弊害をもたらしました.空は工場の煙に覆われ,街頭の犯罪が増え,農村からの労働者に仕事はありません.それゆえ,中産階級は新しい文化を育て,政治的な要求も始めました.


WP Sunday, December 17, 2006; B07

The Risks of Too Much City

By Jeremy Rifkin

(コメント) 余りにも多くの都市,余りにも裕福な文明は,もうすぐ,地球の生命圏を破壊してしまうでしょう.もうすぐ産業革命以来の人類史の転換点を迎えます.それは人類の過半数が1000万人以上の都市,あるいはその郊外に居住する,という変化です.それは備蓄された太陽エネルギー,すなわち,石炭や石油によって可能になりました.エネルギー,食料,資源は枯渇し,人類は自然界の容量を破壊しています.生物種は毎年,18000から55000種も絶滅しています.


FT December 18 2006

Five events that changed the world in 2006

By Gideon Rachman

(コメント) ジャーナリストとして2006年の重大事件を振り返っています.

1月.ロシアによるウクライナへの天然ガス供給停止.プーチンの行動に,EUだけでなく,アメリカのチェイニー副大統領も警告を発する.

2月.イラク,サマラのモスク爆破事件.シーア派の最も尊敬されたアスカリヤ神殿が崩壊した.宗派対立が制御できなくなる.その過程でサドルが権力を強める.アメリカ兵の犠牲者が増えて,反戦が支配的となる.

5月.映画“An Inconvenient Truth”が公開される.アメリカでも環境問題(そしてゴア)が政治的に主要な焦点となる.

7月.レバノン開戦.イスラエル軍がヒズボラのミサイル攻撃を終わらせるために侵攻する.イスラエルは地域の安定化に失敗し,ヒズボラを支援するイランの影響が強まる.アフマディネジャド大統領は繰り返しイスラエルの壊滅を宣言したが,シーア派イランの台頭を近隣のスンニー派諸国は警戒する.

11月.アメリカ中間選挙.共和党は両院の支配権を失い,一晩でブッシュはレイム・ダックに陥る.イラク戦争への批判を反映した結果,翌日,ラムズフェルド国防長官が辞任する.

ただし,この整理はアジアが省かれています.アジア,特に中国とインド,は急速に変化しており,それ自体が重大事件でした.インドのミッタル社は世界最大の鉄鋼メーカーになり,香港の株式発行額はロンドンとニューヨークを凌駕し,中国はR&D投資で日本を抜き去ったのです.

ちなみに私は,ゼミ生たちに宣言しました.今年の重大ニュースは,・・・朝鮮半島,再統一! ・・・いや,まだ今年は終わってないから?


Dec. 18 (Bloomberg)

Global Investors Should Think Again About Russia

Matthew Lynn

LAT December 18, 2006

The new world order looks terribly familiar

Niall Ferguson

(コメント) プーチンの好戦的な愛国主義,産業への政治介入は,ロシア市場への参加を望んだ世界の主要企業を恐れさせたでしょう.

ピノチェトだけでなく,アメリカのカークパトリック元国連代表が亡くなりました.レーガン時代の元祖ネオコンです.当時の方が,アメリカ政府は独裁者たちをうまく扱った.そして,民主化よりも,独裁政権の方が市場改革を成功させた,と.


Tom Miller The CEQ on FT.com: There is no housing bubble in China FT December 18 2006

William Pesek Why 2007 Is a Make-or-Break Year for China, Asia Dec. 19 (Bloomberg)

Chinese economy FT December 19 2006

HOWARD W. FRENCH Chinese Success Story Chokes on Its Own Growth NYT December 19, 2006

Denis McDonough and Peter Ogden Back Into the Black: Profiting on a Green China WP Tuesday, December 19, 2006

Andy Mukherjee Asia Must Pass Buffett's `Naked Swimmer' Test Dec. 21 (Bloomberg)

(コメント) Tom Millerは,中国において不動産バブルは起きていない,と断言します.価格は上昇しているが,それは成長に見合った持続可能な程度である,と.かつてのように価格が固定されていたときよりも,住宅は購入しやすくなりました.もちろん,所得に応じて.

他方,William Pesek は,中国経済の成長が2007年に減速するシナリオを検討します.それは,オーバーヒートを防止する金融政策や財政政策の操作が難しく,同時に,環境破壊や社会不安が高まる,という中国の特殊な事情も影響します.対外摩擦や通貨問題はさらに論争となり,北朝鮮も扱いにくい問題です.そこで,1.アメリカ経済の減速,2.欧米や日本でインフレ懸念から金利が上昇,3.日本の景気回復は早期に頓挫,4.環境問題が制約となり,5.地政学的なショックが起きるでしょう.すなわち,朝鮮半島,マレーシア,など.

「深?は繁栄しているが,絶望的な土地である」と出稼ぎ労働者は語ります.環境問題でも,投資の無駄でも,今後,中国経済は試されるでしょう.


FT December 18 2006

Ban’s debut is chance for Asia to step into spotlight

Michael Fullilove

Asia Times Online, Dec 19, 2006

How to turn the tables on Pyongyang

Francesco Sisci

(コメント) 国連安保理といえば,アメリカやヨーロッパが中東情勢を動かす駒に使う国際機関でした.アジアは国連との間に距離を置いていた,と言われます.しかし,冷戦終結で国連安保理は活動的になり,東チモールなど,アジアでも積極的な関与を示し始めました.中国が国際社会に復帰する方針を選択したことも重要です.さまざまな国際問題が生じ,また,アジアにおける国連安保理の代表が中国だけであることに,インドや日本は挑戦しました.北朝鮮に関しても,安保理は重要な役割を担うでしょう.潘基文の事務総長就任はこうした転機に重なります.

Francesco Sisciのアジア共同安全保障シナリオは説得的です.私の考えでは,北朝鮮の核武装はアジア諸国の対立や核武装を刺激する最悪の駆け引きです.これによって主要諸国の利害は一致し,北朝鮮は孤立しました.確かに時間はかかるかもしれません.しかし,北朝鮮は解体されるでしょう.


BBC 2006/12/18

Migration in figures

Migrants 'shape globalised world'

By David Loyn

Migrants 'need more protection'

FT December 21 2006

Immigration policy must be a compromise

By Martin Wolf

(コメント) BBCはIOMなどの資料によって移民問題の現状を示します.

Martin Wolfは,言わば,移民に関する中間的選択肢を主張しています.移民は社会的な利益をもたらすが,もし民主的な制度の持続性を脅かすなら,それは不完全であるとしても規制されるべきだ,と.彼が好むのは,労働許可証を有料化して入札方式で販売することです.

私は反対です.移民に関しては,むしろ完全自由化が望ましいでしょう.彼らが十分な雇用や住宅,教育の機会を得るように社会制度を整備するか,あるいは,貿易や直接投資を促すことです.移民の受入国と送り出し国とが,共通の制度を運営する必要があるでしょう.

しかし,そのためには,地域間の所得水準が接近し,異なる文化や多言語をよく理解し,大幅な不況や失業が起こらず,労働市場が柔軟で,人々が開放的・協力的な慣行を尊重している,といった,現実に望める以上の社会状態を前提しなければなりません.

なるほど移民政策は「妥協」です.しかし,Wolfの言う意味とは異なります.貿易や投資を,移民抑制のために,奨励してはどうでしょうか?


FT December 19 2006

Thailand revokes capital controls on equities

ByAmy Kazmin in Bangkok and FT reporters

FT December 19 2006

Thailand U-turn

FT December 19 2006

Capital controls could prevent baht take-off

IHT Tuesday, December 19, 2006

Behind Thai currency crisis, China's heavy hand

Philip Bowring

(コメント) 先週の火曜日,タイ政府が資本規制を行った,という報道について,私は講義でプラスに評価しました.しかし,間違っていたかもしれません.それが株価暴落に対する軍事政権の介入であるとしたら.

マレーシアが非難され(しかし評価は分かれた),チリが称賛されたように,資本規制は国際的に合意されたルールが存在しません.投資家や証券会社がこれを嫌うのは当然です.しかし,1.資本流入に対して,2.課税や準備のような市場に依拠した規制を,3.一時的に(緊急避難として)課すのであれば,資本規制は許される,と思います.さらに,4.国際的に合意されたルールに依拠して行われれば,市場もこれを冷静に受け入れるでしょう.

タイ政府の措置が間違っていたのは,政府部内や証券市場,IMFと十分な合意が無く,その後の説明も一貫しなかったことです.株価は最大で19%,終値でも15%下落しました.下落は周辺諸国の市場へも波及しました.翌日,株式の売買ではなく,国債とその他の債務だけが規制される,と政府は説明しました.タイに投資する証券投資家は最低1年保有し続けるか,それ以前に売却して高いペナルティー(33%)を支払います.また中央銀行は,債務による資本流入に対して30%を無利子で預金させる,と命じました.

外国人投資家はタイ株式の30%,約500億ドルを所有しており,その日は約6億ドルを売却しました.タイの財務大臣は,今年に入って17%も増価しているバーツへの投機的な資本流入を抑えるためである,と説明しました.好景気によって資本流入が起き,輸出産業の競争力を損ないました.金利を下げることも増税することも適当でないため,資本流入を抑制しようとしたわけです.しかしタイ政府が株式市場への規制を諦めるまでに,210億ドル,市場の15%が失われました.こうした部分的な規制解除は裁定や投機を招きました.

問題は軍事政権の経済政策にあるのか? FTは,そうではない,と考えます.むしろ,アジア諸国に共通して,ドルに概ね固定した為替レートが中国に対する競争力を失わせている,という問題を解決できていないのです.資本取引の自由化と変動レートへの流れは続いている,と.問題の真の解決策は,生産性上昇を反映した形で,ドルに対する人民元の為替レートがもっと迅速に増価することです.

Philip Bowringは,アジア諸国の為替レートが,互いに競争力を維持するため,整合的な増価を妨げて,世界的な不均衡の調整を阻んでいる,と考えます.その責任は,各国の競争力を縛る中国と日本が,その経済運営を今なお輸出に頼っていることです.

Asia Times Online, Dec 20, 2006

Thailand triggers another Asian contagion

By David Fullbrook

FT December 20 2006

Bargain-hunters bring relief to Thai market

By Amy Kazmin in Bangkok

FT December 20 2006

An abrupt baht turn

Dec. 20 (Bloomberg)

Thailand Discovers Fury of Investors Scorned

Andy Mukherjee

The Guardian Wednesday December 20, 2006

A financial U-turn

Larry Elliott

FT December 20 2006

Emerging markets risk at record low

By Michael Mackenzie in New York

FT December 21 2006

Thai stocks and baht fall on low sentiment

By Financial Times reporters

(コメント) あるいは,アジア諸国は共通して資本規制の枠組みに合意できるでしょうか? 直接投資を奪い合うのではなく,短期的な資本移動を安定化するメカニズムを地域で合意できれば,一国ごとに資本規制する際の投機と感染を抑制できるでしょう.

タイの株価は,翌日,急速に回復しました.政府はそれを喜んでいますが,機関投資家たちは非難する姿勢を変えず,長期にわたって警戒を続けるだろう,と牽制しています.

「軍人とエコノミスト.・・・国家を管理する最終責任者.」 軍事政権は資本を規制し,翌日,エコノミストたちがそれを解除しました.軍事政権の統治能力に対する市場の信頼は地に堕ちたのです.軍は直ちに民主化に道を譲るべきだ,とFTは考えます.

Larry Elliottは,軍事クーデタに対して寛容であった市場が,資本規制に対しては冷酷な支払を求めた,と強調します.実物経済の改善と無関係に,世界的な資本取引の自由化が推進され,各国政府には規制する力もない.それは世界的な規模の危機を予感させる,と.


FT December 19 2006

A transatlantic trade pact can work

By Bill Emmott and Roy Maclaren

(コメント) ドイツのA.メルケル首相とEUのP.マンデルソン通商委員が,EUとアメリカによる大西洋自由貿易協定,の推進を支持しました.WTOによるドーハ・ラウンドが進まない以上,二国間あるいは地域的な貿易・投資の自由化協定がそれに代わるしかないからです.

EUはこれまで消極的でした.たとえば既に1949年,NATOを経済分野にまで拡大するカナダの提案を拒みました.EUが主張したのは次の三つです.1.世界的な自由化の実現に全力を注ぐべきだ.2.二国間の自由化協定は「スパゲッティ・ボール」になる.3.特恵的な地位を失う発展途上諸国が反対する.

EUは農業問題を重視してきましたが,今では農業の占める地位が大きく低下しました.他方,貿易を制限しているのは国内の規制や投資のルールです.そこで論説は,ドーハ・プラス・地域自由化協定,を主張します.


The Guardian Tuesday December 19, 2006

Is the dollar doomed?

Larry Elliott

(コメント) タイではなくアメリカから資本が流出するとしたら,政府は資本規制を課すでしょうか? ドルが世界で唯一の準備通貨ではなくなり,他国に比べて成長率が高いという神話も失われました.


The Guardian Wednesday December 20, 2006

Globalisation: The world as one

Foreign Affairs, January/February 2007

The Challenge of Global Health

By Laurie Garrett

(コメント) 公海における魚の乱獲を防止し,貧しい国の健康状態を改善するために協力を促すことは,国際機関が果たすべき役割です.しかし,容易に実現しません.もし全体的な協力が組織されなければ,貧しい国の疫病を抑えるために国際的な資金援助を行うことで,逆に他の国や他の疫病に苦しむ者から医薬品や医師・研究者を奪う結果になるかもしれません.Garrettは,感情的な個別支援を超えた取り組みを求めています.


IHT Wednesday, December 20, 2006

Bye bye Belgium?

Robert Mnookin and Alain Verbeke

(コメント) 国営放送が,ベルギー消滅,というニュース(虚報)を流しました.

アジアでも共同市場と国連軍の介入を期待できれば,日本から沖縄が分離し,北海道が続いて,さらに九州も四国も独立するでしょう.あるいは,それらを無視して,東京都が独立宣言と独自の通貨・税体系を発表します.タイの軍事クーデタを超える,ソ連崩壊やユーゴ内戦への道が,目の前に開きます.


WP Wednesday, December 20, 2006; A23

The Economy's Rebalancing Act

By Robert J. Samuelson

(コメント) Robert J. Samuelsonは,典型的なアメリカ経済と国際収支不均衡の多角的な調整を説いています.

国際経済学のテキストに従えば,アメリカは支出を抑制して貯蓄を増やし,中国や日本は景気を刺激して通貨の増価を許すべきです.そうしなければ,いつか投資家たちがドル建資産の購入にともなうリスクを回避し始め,ドル安はドル暴落をもたらし,アメリカの不況と世界経済の悪化,保護主義や戦争の危機が迫るのです.歴史のテキストに従えば.


FT December 21 2006

A route to riches on the new Silk Road

By George Magnus and Peter Burnett

(コメント) 国際間の調整政策には異なる伝統もあります.それはフロンティアの開拓,発展途上国への長期開発投資,あるいは,帝国主義の植民地経営,です.

NAFTAでも大西洋でも太平洋でもなく,シルク・ロードが開発されるでしょう.中国の成長は将来も持続し,それは石油価格を構造的に高くします.こうして東アジアから中東までを結ぶ地域で,石油とドルとの交換が拡大し,資源と水の開発,輸送・通信インフラの整備,都市,テクノロジー,金融ビジネスへの莫大な投資を誘います.いつまでドルを使うかは,中国と産油諸国が新しい通貨・決済システムを協力して立ち上げる成果にかかっています.そして彼らには,衰退する欧米からの協力を取り付ける能力と,国際政治の安定性を確保する責任が求められます.

あるいは,戦争によって既存の富を消尽してから,でしょうか?

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The Economist, December 9th 2006

Ethical food: Good food?

Food politics: Voting with your trolley

(コメント) 公正貿易(フェア・トレード),有機栽培の農産物や無農薬野菜,地域で取れた農産物を愛好する消費者が増えているのを多くの人は気づいているでしょう.環境保護や地球温暖化に何ができるのか? グローバリゼーションに反対したい?

The Economistは,こうした消費者の政治運動に反対しています.消費は消費であって,政治ではないから.安くてよい商品を選択することで,貧困も環境破壊も防げます.大企業や貿易を非難しても,結局,非効率なだけで,政治的な秩序は代わりません.本当に変えたいのが政治であれば,選挙で正しい政治家を選ぶべきだ.市場で(政治的・倫理的に)正しいコーヒーや野菜を買うのではなく,・・・と.

しかし,The Economistの主張は間違っているように思います.確かに,フェア・トレードが必ずしも貧しい農民を減らしていないかもしれません.無農薬野菜やローカルな生産者が必ずしも環境に優しいわけでもないでしょう.しかし,それは消費者の動機や選択が間違っているのではなく,正しい情報が伝えられていないからに過ぎません.選挙で正しい政治家を選ぶとともに,市場でも正しい商品を選択できる,と私は思います.

もちろん,間違った情報で倫理観や正義感をくすぐる商売は止めさせるべきです.


The Economist, December 9th 2006

Global Imbalance: Petrodollar power

Economics focus: The petrodollar peg

(コメント) 中国よりも巨額の外貨準備を累積しながら,自国通貨をドルに固定している産油諸国の方が,世界経済の不均衡を解消することに妨げとなっています.その資金は民間の投資ファンドに隠されて,ドル以外の株式や債券にも分散投資されています.もしドル安が起きるとしたら,彼らの逃げ足は中国どころではないでしょう.

ドルに固定している結果,産油諸国はアメリカの金融政策を輸入してしまいます.景気は過熱し,インフレやバブルが起きるでしょう.もちろん,為替レートの変化で石油輸出が抑制できる程度は限られています.浮動性が大きすぎるかもしれません.しかし弾力性を増やすほうが,自国経済の健全な状態を回復する金融政策をより自由に選択できる,とThe Economistは考えます

為替レートの調整問題で苦しむのは,中国よりも開放度が高く,産業構造の偏った産油諸国なのです.自由な変動レート制は採用できないでしょうが,アメリカは産油諸国と話し合って,「石油の呪い」と「世界的不均衡(あるいはドル暴落)」を解く仕組みを作るべきです.


The Economist, December 9th 2006

Britain and the bomb: Keep on cutting

Nuclear weapons: Trident tested

Charlemagne: A European values debate

(コメント) イギリスの潜水艦発射型最新鋭核ミサイルについて,The Economistは論争の水準を高めようとしています.相対的な地位を守りながら,国際的な核軍縮を導く,という方針のようです.他方,キリスト教の新興勢力に翻弄されるアメリカと少し違うけれど,価値やアイデンティティーをめぐる政治対立がヨーロッパでも熱を帯びています.改革が世俗の価値を実現できない以上,政治家たちは文化的・歴史的な価値を論争することで有権者を刺激します.それはアメリカほど宗教に支配されないとしても,価値を唱える選挙戦術なのです.