IPEの果樹園2006
今週のReview
7/31-8/20 B
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :小泉政治の終焉,反米感情
安全保障 :レバノン侵攻から和平へ,靖国神社,スエズ危機
貿易・投資 :米中摩擦,ドーハの失敗:1,2,3
通貨・金融 :世界経済の不均衡,中国経済の過熱,
世界統治 :ルワンダ,EU移民,温暖化防止の基金設立,
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
WP Thursday, August 3, 2006
Monumental Hope and Grinding Despair
By Jon B. Alterman
(コメント) ライス国務長官は,今回のイスラエルによるレバノン侵攻を「中東に新しい歴史を開く」可能性がある,と楽観しました.
確かに,アメリカ人はいくつかの重要な転換点により,歴史を振り返って,自分たちの将来について合意を育てることができました.9・11,真珠湾,南北戦争.
しかし,中東の人々はどうか? 中東では,むしろ戦いの無い時期が珍しい.大きな事件や戦争が連続している.何かを基準に歴史を振り返る余裕は無く,人々は自分たちの努力が常に歴史によって消し去られることを恐れ,絶望します.
優れたジャーナリストの若者が,レバノンにおけるシリア軍の駐留に反対し,独立を求めました.彼は民衆の抗議デモの先頭に立って戦いました.しかし,自動車に仕掛けられた爆弾で殺されます.その現場にはポスターがあるだけです.一つの,聖戦における殉死が加わった,と.
FT August 4 2006
Lex: Asian corporate defences
(コメント) 中国,韓国,など,アジアは何でも西側のまねをする.法律でも,マクドナルドのハンバーガーでも.だから,彼らが外国投資家による企業買収に対抗する手法を真似するとしても,何の不思議もありません.
外国人の投資を認めるかどうか,アメリカと同じように審査委員会を設けたり,外国投資家が保有する株式には議決権を制限したり,しています.欧米の投資家が言うように,孤立主義は経済的なコストをもたらす?
FT August 4 2006
Lunch With The FT: The billion-dollar memory lapse
By Daniel Dombey
(コメント) 1992年9月16日,「暗黒の水曜日」に,自分の生まれた時代に占めるべき位置をソロスは見出しました.EMSにとどまろうとしたイギリス・ポンドを売りまくって,メージャー首相の約束を打ち破り,それに従うイングランド銀行を倒して一晩で10億ドルを稼いだ,と言われます.保守党は政権を失いました.
しかし,75歳のソロスはそれが水曜日か木曜日かも覚えていません.市場から引退し,クォンタム・ファンドも衰えました.ただし,彼の今の野望はさらに大きいようです.2003年にグルジアのシュワルナゼ大統領を失脚させた「ローズ革命」を支援し,ブッシュ当選を阻止するためにも資金援助しました.
1944年,ナチスがポーランドに侵攻して,ソロスの友人たちを含むユダヤ人の多くを殺しました.その時代を,ソロスは最高のときを記憶しています.彼や家族,その他の人々を守るために,父は偽造のIDを使いました.生き残るために何でもした,と.その経験は,後年の金融市場における活動も支えています.
「正常なルールが通用しないときがある.」「受身であることが非常に危険なとき.リスクを取るほうがリスクを減らせるときがある.」
大げさな賞賛と,その一方で,侮蔑を浴びてきました.ソロスの父はシベリアに抑留され,その後,富や権力を求めませんでした.ソロスは,法律家でエスペラント語を駆使した父が,戦争の経験によって破壊された,と言います.
1947年,ソロスは始めてロンドンに来ました.父が彼にソ連へ行くのをやめさせた結果です.LSEで学びながら,さまざまな職を経験します.特に,ナチズムと共産主義に反対したカール・ポッパーの思想に影響を受けます.人間は過ちを犯すから,常に新しいアイデアを受け入れる社会が望ましい.
1956年にヘッジ・ファンドのマネージャーとしてニューヨークに渡ります.父も一緒です.二十年で3000万ドルを儲けますが,生きがいをなくします.金儲けだけでは満たされません.そして「オープン・ソサエティ基金」を設立します.革命後のグルジアに閣僚の給与を補助し,旧ソ連の科学者たちが飢えるのを防ぎ,政府の透明性,人権,自由な新聞を支援します.
お金は,思想を行動に移すための手段に過ぎない,と.
誰のために本を書くのか? 学生たちだ,と応えます.世界を理解しようと苦しむ人々のために.私自身が考えを明晰にしたいから.
裕福な暮らしを得ながら,アメリカの消費崇拝やグローバリゼーションを批判するのか? という問いに,私は成功してきた,だから私にふさわしい,と応えます.
NYT August 4, 2006
The Sound of One Domino Falling
BG August 5, 2006
The generals' worry
(コメント) ラムズフェルドは常に現実を無視してきました.今や,彼はドミノ理論を唱えます.「もしわれわれがイラクから撤退すれば,敵はわれわれをアフガニスタンから追放せよ,と言うだろう.さらに,中東からも引き上げろ,と.もしわれわれが中東から撤退すれば,彼らが占領されたムスリムの土地と呼ぶ,スペインやフィリピンからも追放しようとするだろう.」
こうして,ラムズフェルドの「スペイン防衛作戦」を聞く羽目になった.
上院の公聴会に出席した二人の将軍John Abizaid, Peter Paceは,イラクが完全な内戦に向かう危険性を強調しました.彼らはイラクのアメリカ軍を縮小することに反対します.しかし,シーア派とスンニー派が,互いを憎むより,自分たちの子供を愛することに関心を向けない限り,アメリカ軍にも内戦を阻止できません.
Asia Times Online, Aug 5, 2006
South Korea's growing isolation
By Bruce Klingner
(コメント) 韓国政府が東アジアで孤立を深めている,というのは予想されることです.反米主義,反日デモ,太陽政策,・・・ 中国との経済統合(あるいは東アジア共同体)によって生きるのでしょうか?
6カ国協議や中国,ロシアからの要請を無視して,北朝鮮がミサイルを発射した事件で,韓国のエンゲイジメント(関与・支援)政策は無駄に終わりました.中国はアメリカに協力して,北朝鮮の金融制裁に参加しました.韓国政府も,北への人道支援を停止しました.
しかし,食糧危機が来れば,北朝鮮の体制崩壊を望まない中国と韓国は支援を再開するでしょう.韓国に駐留するアメリカ軍は規模縮小を話し合っています.それらは韓国における投資にどのような影響を与えるでしょうか?
NYT August 5, 2006
A Shrine to Japan’s Tainted Past
By GARY J. BASS
Aug. 7 (Bloomberg)
Let's Ask a Few Questions of Japan's Next Leader
William Pesek
(コメント) 小泉氏の評価は急落しています.メディアやイメージ戦略を重視した政治姿勢が何によって評価されるのか? これもバブルです.
靖国神社の性格や,その歴史観を示してから,8月15日を靖国参拝の内外の政治・ナショナリスト論争に染めてしまった日本の現状をどう考えるべきか? 「平和主義の憲法を持つ民主主義の指導者」である日本が,共産党独裁の国から厳しい非難を受けて,その「道義的な地位」を損なわれ続けているのは,中国の戦略ではなく,まさに小泉首相の政治的な成果=汚点だ,とGARY J. BASSは考えます.
日本人は,中国に非難されて譲歩するのも,広島・長崎に原爆を落としたアメリカに批判されるのも嫌うだろう,とBASSは認めます.しかし,新しい首相が小泉氏の公約や靖国の戦没者に,現在や将来の政策を縛られるのは好ましくない,と.
William Pesekの意見に賛成です.小泉という政治家はカリスマだ.日本は自民党による単一政党支配国家だ.小泉は,マーガレット・サッチャーではなく,ミハイル・ゴルバチョフに近い.・・・つまり,後継者は小泉人気を継承できないし,自民党の総裁が1億2千万人の国家の首相になるのは不健全であるし,政治経済システムは根本的に改革されたのではなく,温存するために修正された.
そこで後継者に尋ねたい,とWilliam Pesekは質問を列挙します.1.日本の債務をどうするのか? 2.少子化をどうするのか? 3.日銀をどうするのか? 4.アジアをどう考えるか? あるいは,靖国参拝問題をどうするのか?
WP Friday, August 4, 2006; A17
Israel's Lost Moment
By Charles Krauthammer
IHT TUESDAY, AUGUST 8, 2006
Three conflicts, two mind-sets, one solution
Marwan Bishara International Herald Tribune
LAT August 8, 2006
Israel's Way Out
By Daniel Jonah Goldhagen
WP Thursday, August 10, 2006; A23
The Guns Of August
By Richard Holbrooke
(コメント) ヒズボラ掃討を目指したイスラエルのレバノン侵攻は,もし失敗すれば,アメリカとの関係を破壊し,イスラエルの生存を脅かすでしょう.アメリカはイスラエルのために侵攻を容認したのではなく,アメリカ自身の利益に従って,ヒズボラ(とイランの影響力)の壊滅を望んだのです.アメリカはイスラム過激派との戦争を常に意識しています.逆に,もしイスラエルがこの任務を担えず,アラブ穏健派にも対立するなら,アメリカは立場を変えるでしょう.
9・11,イラク占領と内戦,イスラエルとの戦争と占領,それらは人々にまったく異なったテロ(そして違法性や犯罪)に関するイメージを与えました.イスラム教や東西の文化についても,理解が異なります.アメリカとその同盟国が優れた軍事力を保持しても,長期的な勝敗は,人々の認識がどちらに傾くか,によるでしょう.
国連決議1559が示すように,外国の軍隊はすべて撤退し,各地の武装勢力を解体して武器を取り上げるべきです.それは,アメリカやイスラエルがレバノンやシリアだけでなく,イラクやパレスチナからも撤退し,すべての政治犯を解放することです.Marwan Bisharaは,軍事的占領がすべての暴力の起源である,と考えます.
イスラエルの消滅を望む武装勢力に対して,イスラエルは何をするべきか? 報復・対抗できる軍事力を示して抑止する.和平協定を結ぶ.北部へのロケット弾襲来と共存する.あるいは,武装勢力を支援しているシリア・イランへの圧力を強めて,抑止させる.すなわちもっとも望ましい選択肢は,完全な抑止力を回復するまで,戦闘を拡大することだろう,と.
イラクとレバノンは,中東世界を一つの戦争状態に変えつつあります.Richard Holbrookeが危惧するのは,それがカイロからボンベイに至る地域へとさらに拡大することです.トルコ,シリア,エジプト,サウジアラビア,アフガニスタン,パキスタン,ウズベキスタンは,独自の軍事行動を検討しつつあります.これほどの危機は1962年のキューバ・ミサイル危機以来である,と.
ケネディーがキューバ危機を軍事対立にしなかったのは,B.タックマンの名著『8月の砲声』を読んでいたからだ,とHolbrookeは書きます.それは第一次世界大戦に至る小さな事件の連鎖反応を描いた作品です.その状況を「各国は出口の無い罠に囚われていた」と指摘します.
イスラエルは自衛のために軍事力を行使しました.武装勢力に脅かされたイスラエルの生存をアメリカは支持しなければなりません.しかし,アメリカは中東に広がる反米感情に手を焼き,アメリカに代わる大国が中東への関与を強めています.Holbrookeは,手当たり次第に国際介入を繰り返して失敗するウィルソン主義を廃し,現実主義的な暴力の抑止をアメリカ政府が再編するように求めます.
FT August 6 2006
UK must look at that other group of migrants
By Dhananjayan Sriskandarajah
(コメント) イギリスへの移民ではなく,イギリスからの移民が急増している,という論説です.在外長期滞在者は約450万人で,OECD加盟諸国では,メキシコに次いで,第二位です.スペインの地中海沿岸には,イギリスの保養地をまねた長期滞在用の居住地区があり,受け入れ社会への統合を必要としません.
移入民の管理や社会的コスト,統合化を議論するだけでなく,移民のハブとなったイギリスの総合的な移民政策を求めています.
FT August 6 2006
Engine of enterprise in push and pull of rural desertion
By Alan Beattie
FT August 9 2006
Lure of the city swells the world’s slums
By Fiona Harvey
(コメント) オズの魔法使いが描いたエメラルド・シティーか,ブレード・ランナーが映像化したディストピアか? 都市の未来は,経済発展をもたらす技術進歩と統治の未来によって変わります.
数世紀にわたって,都市化は進歩の代名詞でした.農業の生産性上昇は労働者を都市の製造業へと追いやり,国際輸送と商業の発展は都市のハブ機能を高めました.中国やインドは,この過程をたどっています.
しかし,現代の都市は既に工業生産の拠点という意味を失い,グローバリゼーションと国家戦略によって拡大・衰退しています.移民を歓迎し,吸収できない都市は衰退し,スラムに呑み込まれます.急速に輸送コストが減少し,その過程で都市が成長するには政府の役割が重要でした.さらに,デジタル化した経済には新しいエリートたちが出現し,彼らは働く環境としてではなく,その富を消費し,遊ぶための環境として都市に居住しつつあります.
同時に,Fiona Harveyは,都市スラムの拡大を紹介しています.国連の調査では,既に世界人口の半分以上が都市に住み,スラムの住民が10億人を超えたということです.それはさまざまな環境=疫病=社会問題を引き起こします.
ディケンズが非難したロンドンのスラムを解消したのは,大規模な社会改良事業でした.下水や環境規制,渋滞緩和のための道路建設,などがそれです.どこにおいても,財源と政治的な関与の再編が重要です.
FT August 6 2006
Renminbi
Aug. 11 (Bloomberg)
It's Feeling Eerily Like 1997 in China's Economy
William Pesek
Asia Times Online, Aug 8, 2006
Henry Paulson: Defender of the yuan?
By Peter Morici
(コメント) アメリカの政治家たちが重視する目標とは? 中東世界の民主化や,アメリカの社会保障制度改革と並んで,中国に人民元を引き上げさせること,だそうです.しかし,たとえ中国が人民元を切上げても,アメリカの政治家が望むほど経常赤字が減りそうも無い,とFTは予想します.たとえば,それはメキシコからの輸入に代わるだけです.あるいは,アメリカにインフレが波及し,貿易赤字が持続します.
たとえば,ユーロに対してドルが減価したときも,アメリカの赤字は減りませんでした.2000年10月以来,ドルはユーロに対して35%も減価しましたが,ユーロ圏に対する赤字は倍増した,と言います.
人民元を引き上げるのは,中国がアジア通貨危機前の状態に近づいているからです.日本の景気回復や,アメリカの金利が,中国経済の過熱を円滑に抑制する当局の手腕にかかっています.しかし,中国政府は景気を制御できるのか?
地方政府は競争して投資を増やしており,市場化は政府や銀行の管理能力を失わせました.しかも,市場を介した政策手段は,まだ整備されていません.つまり,今の中国は1997年にアジア通貨危機を起こしたこの地域の状態に似ている,とPesek は警告します.すなわち,生産力は過剰で,不動産と建設ブームが加熱し続けているのです.
それでも人民元はほとんどドルに固定されたまま,資本流入を続けています.もちろん,中国は資本流出を許さないでしょうが.
アメリカの国際通商部の元エコノミストであったPeter Moriciは,人民元の為替レートが不当に安すぎるという批判を繰り返しています.中国の重商主義と高成長により,アメリカやヨーロッパは石油や原材料価格の高騰を懸念し,金利を引き上げています.中国の重商主義が強いたアメリカの貿易赤字,失業,有権者の反発はドーハ・ラウンドを破滅させました.中国の重商主義が貧しい諸国の産業基盤を奪っています.
ポールソン新財務長官は,それでも制裁措置ではなく,中国自身の加熱が有害であることを説得すれば人民元気利上げを行う,と空しい期待を表明します.しかし,中国のインフレ率は今なお2%に過ぎず,快適な水準です.むしろ,ポールソンは中国の生産拠点を移した大企業(キャタピラー,GE,GM)や消費チェーン店(ウォル・マート,ターゲット,ステープル)の利益を守っているに過ぎない,と批判します.
NYT August 6, 2006
Coffee, and Hope, Grow in Rwanda
By LAURA FRASER
(コメント) 内戦と部族間の大量虐殺の後,ルワンダはどうなったのか? 国際価格の暴落にもかかわらず,コーヒーの小農園を中心に,経済復興と政治的安定が実現しつつある,という明るい報道です.
記事は,アメリカの国際援助機関(AID)が,コーヒーの品質改善や農協の組織化,融資に関わっている,と言います.特別な高級品種を栽培し,農場の所得を増やしました.
内戦によって逃亡や奴隷の生活を強いられた姉妹が,家族の小農場に戻ったとき,両親は殺され,農場だけがありました.16歳の姉は妊娠しており,コーヒー価格が下落する中で農場を妹と一緒に耕し続けます.そして2001年,AIDが支援するルワンダ最初の農業協同組合Marabaに参加します.農協はthe Pearl projectを開始し,高品質のコーヒーを普及させて,その収益を農民にも分配しました.農協は耕作や加工を指導し,品質管理を教え,マーケティングや価格交渉も助けました.
農協は村全体に繁栄という目標を与え,虐殺の過去を癒して和解をもたらした,と彼らは言います.虐殺によって寡婦となった女性が,虐殺の罪で夫が服役する女性と並んで,コーヒー農園を管理できたのです.
コーヒー栽培に適した条件がもたらす高い品質とともに,「虐殺を克服したルワンダのコーヒー豆」として,ボストンで売られています.
BG August 7, 2006
The Nagasaki principle
By James Carroll
(コメント) 61年前に長崎で原爆が使用されたことをJames Carrollは考えます.なぜ広島で使用された結果,その破壊力が明白であったにもかかわらず,さらに長崎でも使用されたのか? トルーマンは長崎への投下を止めることができなかったのか?
「長崎原理」と呼びます.戦争は,それが最初に意図されたものから,急速に性格を変えてしまいます.戦争の目的は次第に勝利することへ変わり,敵の破壊そのものとなります.それがもたらす破壊力は,すべての者を敗者にします.
死者は原爆の使用を決定する者から余りにも遠く,より大きな破壊ほど,それは自然災害のように責任を回避させました.しかも,いったん決められたことは現実を考慮して修正されるようなことも無く,命令として実行されました.アメリカ人は長く,広島・長崎の破壊に対する自分たちの責任を,日本人への「天罰」として無視してきました.
ただ9・11の破壊の衝撃だけが,アメリカ人に破壊された二つの都市を思い出させる,と.アメリカに対抗して核武装するイランを止めたいなら,長崎を思い出すことです.
FT August 8 2006
A heavy burden for any economy
By Adam Posen
The Japan Times: Tuesday, Aug. 8, 2006
Big, fat American shopper to the rescue
By KENNETH ROGOFF
FT August 9 2006
The world must prepare for Americ’s recession
By Nouriel Roubini
The Guardian Wednesday August 9, 2006
America needs adjusting
Bill Emmott
(コメント) 世界経済は不均衡を蓄積しつつも,全体としては順調に拡大している,と言えるようです.しかし,金融市場に反して,多角的な調整はますます求められます.
Adam Posenは,かつてクルーグマンが明確に指摘したように,各国政府が「競争力」という間違った観念に支配されている現状を批判します.競争力を高めるのは,多くの場合,輸出促進策に美化された政府の戦略ではなく,市場の自由化・開放であった,と.そして,競争力を高めようとする政策(減価,賃金抑制,補助金,産業育成)が,ほとんど常に,経済の成長を損ないました.
現代の世界で競争力の改善が輸出を伸ばすとしたら,それは賃金を抑制したドイツではなく,通貨価値を保って直接投資を集め,世界のR&Dを集めることに成功したイギリスである,と.
ドーハ・ラウンドの失敗の責任をアメリカやブッシュ政権に求めるのは間違いだ,とKENNETH ROGOFFは考えます.アメリカは世界に対して輸入を拒んできた国ではなく,むしろ数千億ドルの輸入超過を示す国なのです.多くの国は,アメリカが本当に輸入を抑制するなら,悲鳴を上げるはずです.
輸入を減らすには,それが保護主義を意味するのではないなら,アメリカの不況を必要とします.住宅バブルの崩壊,石油価格の高騰,そして高金利によって,アメリカの減速は起きるでしょう.市場は必ずしも円滑に機能しないけれど,その調整を避けることも,悲観することも間違いです.
戦争や石油価格の高騰にもかかわらず,Nouriel Roubini もBill Emmottも,基本的に,アメリカの減速という調整過程を楽観しています.
WP Tuesday, August 8, 2006; A21
How Will The Poor Trade Up?
By Jim Kolbe
The Guardian Thursday August 10, 2006
Arrested development
Joseph Stiglitz
YaleGlobal, 10 August 2006
When Labor Loses Out to Trade
Gustav Ranis & David Corderi
(コメント) Jim Kolbeは,ドーハ・ラウンドが貧困の解消に役立つことを強調します.裕福な諸国は農産物への補助金を削減するべきです.自由化交渉が決裂し,アメリカ中心の二国間協定に向かうのでしょうか?
アメリカの多角主義軽視が再び起きた,とJoseph Stiglitzは批判します.農業分野の裕福な利益団体が貧しい諸国の利益を唱えた国際交渉を破綻させたのです.貧しい諸国は,アメリカが農業補助金を廃止しない限り,その農産物市場を決して開放してはいけない,と.アメリカは「互恵的」な取引を主張します.そうであれば,貧しい小国はアメリカと交渉できません.
Gustav Ranis & David Corderiは,自由貿易の将来が,各国の貿易拡大と調整支援策に依存している,と考えます.それは,アメリカのように国家の介入を最小限に抑えて弾力的な労働市場を維持する場合,フランスのように国家が労働市場を管理し,公的支援策を維持する場合,デンマークのように豊富なセーフティー・ネットで弾力的な労働市場を生かす場合,があります.
ただし,発展途上諸国では労働市場への政府介入が大きく,しかもセーフティー・ネットや公的支援策は乏しいために,自由貿易への反対が強いでしょう.
Aug. 9 (Bloomberg)
Being Relevant May Be IMF's Mission Impossible
William Pesek
(コメント) 9月にIMF年次総会はシンガポールで開かれる予定です.アジア通貨危機を経て10年近い記念の総会にIMFへの批判が再燃するでしょう.また,IMFによる危機への救済融資に制限を課すようです.IMFは,信用を失い,存在意義を失い,必要も無い.
もちろん,アメリカ経済やドルが変調し,石油価格の高騰が続けば,状況は一変します.しかし,その場合,IMFに何ができるでしょうか?
IMFは分担金の割合を変え,権限や決定メカニズムを明確にするでしょう.経済の相互依存関係が増大することに依拠して,IMFは独自にアメリカや中国にも政策を評価し,改善に協力する力を得ます.
The Guardian Wednesday August 9, 2006
If not the UN, what?
Conor Foley
(コメント) 国連も存在意義を問われています.国連軍による介入は,しばしば遅すぎるし,効果がなく,失敗だったと評価されます.ルワンダ,ボスニア=ヘルツェゴビナへの介入失敗.他方,NATOはコソボを空爆し,リベリアにはECOWASが介入しました.チェチェン,チベットには介入しません.アメリカはイスラエルを支持して介入を求めます.
国連には限界があり,憲章の改正など,多くの問題もあります.しかし,現実世界の不完全さと不正義をなくせない以上,国連が無いとしたら,その代わりに何ができるのか?
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The Economist, July 29th 2006
The future of globalization
Israel and Lebanon: Stuck in Lebanon
Welfare to work: Tough love works
In the twilight of Doha
(コメント) 砂浜に乗り上げて捨てられたまま錆び付いた船.多角的な貿易自由化交渉は失敗に終わりました.中国やインドが成し遂げた成果を,誰も否定はしません.しかし,政治家たちは自由化の拡大を拒みました.9・11後に世界市場の繁栄を導くはずであった「開発ラウンド」を,政治指導者たちがしくじった付けは大きい.
イスラエルは軍事力を行使して,その目標を達成できるとは思えません.他方,失業と社会保障制度の財政破綻を解決する新しい考え方は,アメリカによって現実を変えたようです.
The Economist, July 29th 2006
The Suez crisis: An affair to remember
(コメント) 1956年のスエズ危機に関する解説記事に,私は膝を打ちました.
エジプトのナセル,イギリスのイーデン,ナチスへの融和策再現という恐れ,アメリカのアイゼンハワーは国内の選挙事情,西側に恩を売るイスラエルのシャロン,など,思想と戦略,指導者たちの決断が,その後の国際政治を転換します.ド・ゴールとアデナウアーのヨーロッパ統合への積極姿勢,IMF融資を阻止してポンドを脅かしたアメリカの態度,イギリスの自尊心と屈服,独自の核武装を行い,NATO司令部を追い出したフランス,アメリカはイスラエルを撤退させました.
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FT August 11 2006
Utopia with border control
The Guardian Friday August 11, 2006
Immigration is now making the rich richer and the poor poorer
Polly Toynbee
(コメント) アフリカの貧しい諸国からヨーロッパに,何千,何万と,移民が流入する.・・・カナリア諸島では今年既に1万5500人の未登録移民が拘束されています.それは2005年の3倍です.侵略者を阻む軍隊のように,EUの同盟軍として,Frontexが<ユートピア>の境界線を防御します.スペインやイタリアだけが移民たちを受け入れる負担を,他のEU諸国にも分担させる仕組みが考えられています.
確かに,非合法移民に対する犯罪や迫害を抑制する人道的な理由もあるでしょう.しかし,命を賭しても境界を越える人々が絶えない主要な理由は,たとえそこに資源があっても,それを社会の豊かさとして実現できないことです.
Polly Toynbeeは,問題を受入国の側で考えます.低賃金労働力と社会的安定性とのバランスを回復せよ,と.主としてポーランド人からなるヨーロッパ系の移民労働者が,イギリスでは公式に40万人,実際は100万人近く働いていると推定されます.
移民たちは,平均的なイギリス人よりも多くの税金を支払い,貯蓄や起業にも積極的です.この弾力的な労働供給があるからこそ,イギリス経済はインフレを抑えて長期の成長を維持できました.しかし,とToynbeeは考えます.一人当りGDPではなく,ロンドンの住民にとって,低賃金の移民労働者たちを利用することは,裕福なものをますます豊かにして,貧しい労働者の暮らしをますます厳しくしている,と.
保守党は,排外主義のイデオロギーと低賃金を求める企業家たちの要求に分裂しています.労働党は多文化主義の伝統を継承します.そして大蔵省は高い成長率を歓迎します.
Toynbeeは,グローバリゼーションにおいて政府にできることは何もない,という敗北主義を批判します.政府には,課税や規制を通じて,国民の福祉改善と民主的な社会の統合を促す責任があります.非合法移民を低賃金で酷使する工場主を処罰するべきです.もし彼らが正当に労働条件や賃金を得られたら,彼らへの需要や非合法な仲介業者の利益は減るでしょう.それはロンドンの貧しい労働者家族にとっても助けになるのです.
そのためにToynbeeが求めるのは,EU諸国が設けている労働査察官の制度です.非合法移民を排除し,労働許可制度を拡充し,雇用主を取り締まる.それができなければ,EUは新規加盟諸国の発展を支援することも,トルコの加盟問題も,解決できません.
FT August 11 2006
Paulson urges more renminbi flexibility
By Krishna Guha in Washington
Asia Times Online, Aug 12, 2006
Blame the China deficit
By Peter Morici
FT August 14 2006
The CEQ on FT.com: Don’t blame it all on China
By Arthur Kroeber, managing editor of China Economic Quarterly
FT August 17 2006
China's fire-fighting
(コメント) 中国経済の過熱,人民元の為替レート,金融政策,アメリカとの貿易摩擦,金融自由化,など,今も重要な問題が残されたままです.中国でも,アメリカでも,問題についての認識は少しずつ変化しています.特に,アメリカの多国籍企業は中国を生産拠点とし,流通業界は中国市場への進出を続けています.
中国がデフレを輸出した? 中国がインフレを輸出している? Arthur Kroeberは,中国が世界の物価水準を決めるような議論を批判しています.世界の価格破壊を率先したのは,ウォル・マートやカルフール,メトロのような,多国籍流通業者です.他方,中国の好景気が国際商品価格を上昇させたとしても,それが裕福な諸国の物価水準に及ぼす影響は小さなものです.実際,中国の石油需要は,アメリカのSUV車愛好者に劣ります.IMFの報告書も,アメリカが中国にインフレを輸出しているのであり,中国ではない,と示しました.
世界の物価水準を決めるのは,中国や人民元ではありません.アメリカやヨーロッパの金融政策であり,世界の生産能力と需要との均衡です.さまざまな技術革新と設備投資が生産能力を高めてデフレをもたらし,裕福な諸国から波及する世界的な金融緩和がインフレをもたらします.中国の不均衡は,グローバリゼーションそのものを動かす,より大きな変化の「兆候」であり,結果に過ぎない,と.
FTは,金融政策による十分な引き締めが難しい理由は中国の金融市場が未整備であること,それゆえ,国有企業が利益を再投資するほかに有効な使途を持たないこと,他方,金融市場や投資を規制する行政的手法の限界は,その起源において為替レートを固定している方針にたどり着くこと,を的確に分析しています.
THOMAS L. FRIEDMAN The Morning After the Morning After NYT August 11, 2006
A dire toll in Lebanon FT August 12 2006
Resolution needs resolve BG August 12, 2006
Mark Mazower Europe should use its leverage to lean on Israel FT August 15 2006
Amin Saikal Limits of force: Israel's hollow victory in Lebanon IHT TUESDAY, AUGUST 15, 2006
No victors BG August 16, 2006
David Ignatius After the Bombs, Politics WP Wednesday, August 16, 2006; A13
(コメント) レバノンにおける停戦合意は,中東世界の平和と新しい秩序をもたらすでしょうか?
戦争とは,地上における破壊や死傷者の数を比較することではなく,軍事的手段で政治的なバランスを変えることです.イスラエルはフランスを中心とした国連軍が北部レバノンからヒズボラを掃討する作戦を継承した,と考えます.他方,ヒズボラは北部レバノンにとどまってイスラエル北部へのロケット攻撃をいつでも再開できる力を確立した,と主張します.この地域において,新しい秩序確立・安定化のために,最終的な軍事的牽制力を担うのは誰なのか? 和平の今後にかかっています.
しかも,THOMAS L. FRIEDMANが指摘するように,戦火を逃れた難民たちが戻って来ます.彼らの多くはシーア派で,イスラエル軍が破壊した住宅や商店を見て怨嗟の念を抱くでしょう.また,ヒズボラの指導者,ナスララには,この戦争の結果に対して説明を求めます.何のための戦争なのか? ヒズボラは,住民たちを犠牲にして,政治的地位を守ったのか? 誰かが死者たちを埋葬し,経済を復興する責任を取らねばならない,と.
イスラエルは和平を維持できるのか? Mark Mazowerは,アメリカがイスラエルの支持に偏り,しかもイラクの戦場やイランとの対抗関係で,レバノン和平の仲介を担えないとき,ヨーロッパがその役割を引き受けるのは当然だった,と考えます.そもそも,レバノン侵攻は中東問題の一部でしかなく,中東問題は歴史的に,ヨーロッパにおける反ユダヤ主義とシオニズム運動がもたらしたものです.国連軍が派遣されるとしたらヨーロッパが中心になるでしょう.
もちろん,EU内部の意見は分裂しています.アメリカを支持するブレア政権と,レバノンと関係の深いフランス,シリアと関係があるドイツなど,大西洋をはさんでアメリカと交渉を進める選択肢が多くあります.また,イギリスを除けば,パレスチナへの同情が広くあります.
ヨーロッパ内部では,アメリカやNATOが得意とするような軍事力の行使が重要でなくなり,むしろテロや環境破壊,犯罪のグローバル化,移民など,新しい安全保障問題が重視されています.レバノンやパレスチナの経済再建を助け,社会インフラを整備するために,EUはその人道支援や貿易関係を中東問題にも利用するでしょう.他方アメリカは,イスラエルの強硬派を牽制し,交渉と経済復興に対する関与を求める役割がふさわしいわけです.
誰が勝者であろうと,アラブ諸国すべてとの和平と国交樹立をイスラエルが成し遂げるまで,また,パレスチナ問題や中東のテロリズムが解決するまで,新しい秩序も過渡的な交渉条件に過ぎません.
David Ignatiusは,問題を解決するのは軍事力ではなく,政治である,と強調します.レバノン首相,Fouad Sinioraを,この戦争が見出した英雄である,と称えています.ヒズボラの閣僚を含むレバノン政府の統一を維持し,内戦への転化を防ぎ,アメリカやフランスの案に代えて,最終的な和平案を調整しました.イスラエルのEhud Olmert首相は,ニタリ河を越えて攻撃を拡大せよ,という軍事強硬派を退けました.
NYT August 13, 2006
Why 'Outsourcing' May Lose Its Power as a Scare Word
By DANIEL GROSS
BG August 17, 2006
Why globalization isn't working
By Mark LeVine
The Business Standard, 17 August 2006
Globalization for the Rich
Sunita Narain
(コメント) DANIEL GROSSは,2004年のアウトソーシング論争を振り返ります.ハーヴァード大学教授からブッシュ政権の経済諮問委員会委員長になったマンキューN. Gregory Mankiwが,アウトソーシングは貿易(による失業)の新しい形に過ぎない,と発言し,議員たちから激しく批判されたのです.マンキューはその後,経済学の初歩的な命題が,それを正しく理解できない政治家やマスメディアによって非難されるサイクルを研究した論文を書いたそうです.
その後,雇用問題が改善し,イラク情勢など,政治関心が他へ向かうと,アウトソーシングは取り上げられることもなくなりました.アウトソーシングによる雇用変化や,アウトソーシングの条件・要因について,研究が進み,一方では,その影響を限定的に捉える見方があるとともに,それを重視する意見も再生しています.
マクドナルドが出店した国は互いに戦争しない,というグローバリゼーションの「ゴールデン・アーチ」仮説は,レバノン戦争で否定されました.イスラエルにもレバノンにも,マクドナルドはあります.Mark LeVineは,確かにマックに集まる豊かな中産階級は戦争を嫌うが,グローバリゼーションがうまく働かない問題がある,と考えます.特に,宗教,アイデンティティー,領土,について.
レバノンはコスモポリタンな国であり,ベイルートは世界市民が集う首都でした.レバノンの繁栄はコスモポリタニズムへの確信によって築かれてきたのです.しかし,その理想は,爆撃後のわずか24時間で完全に消滅した,と言います.コスモポリタンな表面をはがせば,戦争状態の人々は分派や民族によって孤立し始めました.しかし,レバノンやイスラエル,パレスチナには資源がなく,優れた社会を営むことによってしか繁栄できないのです.
貿易でも,金融でも,グローバリゼーションを進めたのは豊かな国の指導者たちでした.彼らは自国の利益には熱心ですが,貧しい国のためや,地球環境のためには妥協しませんでした.経済はグローバル化しても,政治のグローバル化は進みません.
FT August 13 2006
Not much fizz left in the global economy
By Stephan Roach
FT August 16 2006
Asia must reduce its reliance on America’s markets
By Tom Schiller
(コメント) 金融緩和に頼った人為的な好景気は終わり,生産性と労働者の生活改善という基本に戻った経済成長を目標に経済が運営されるべきです.ただし,その前に,バブルや住宅市場を中心にアメリカの消費者が世界の不均衡を拡大して実現した成長を,生産する時期を経験しなければなりません.アメリカの消費者に代わる者は,世界中のどこにもいません.
そのもっとも極端な不均衡が,アジアとアメリカの間に膨れ上がっています.Tom Schillerは,中国や日本,インド,東南アジアなど,その輸出市場の約20%をアメリカに頼っていることに注意を向けます.アジア地域が対米輸出ではなく,域内の相互貿易を拡大するためには,1.域内の中長期目標を定めること,2.為替レートの相互調整と金融政策の協調・統合化を目指すこと,である,と指摘します.まったく同感です.
LAT August 14, 2006
Testing the Limits of the U.N.
Niall Ferguson
LAT August 14, 2006
How Superpowers Become Impotent
By Richard K. Betts
(コメント) 国連は無力で,超大国もなくなった.そんな世界で平和を維持するにはどうすれば良いか? チャーチルが言ったように,国連とは長談義でしかなく,強制力を発揮するのは,議会ではなく,5大国が拒否権を持つ安保理です.
アメリカは世界の,そしてイスラエルは地域の,疑いなく超大国です.爆撃機や艦隊を送って,どんな紛争でも制圧すればよい? ところが彼らは,占領地域でも攻撃を受け続け,路上の仕掛け爆弾に死傷者を増やしています.軍服を着ることもないゲリラやテロリストを制圧するのは,軍事力ではないのです.そして,冷酷さと野蛮さに勝る彼らに勝利することも,豊かな国には難しい.
Richard K. Bettsは考えます.1.占領地域を絞って,軍事力と兵員を集中させる.2.迅速かつ大量に経済支援を行い,住宅再建,医療サービス,警察官の訓練,などを実施する.短期に地域社会の再建を軌道に乗せて,早期に撤退することが,超大国の目標なのです.
FT August 14 2006
Signs of compromise in Japan war shrine dispute
By David Pilling
FT August 15 2006
Koizumi’s successor must settle the war shrine row
By Mike Mochizuki
IHT TUESDAY, AUGUST 15, 2006
Japan-China: Nationalism on the rise
Brahma Chellaney
Aug. 16 (Bloomberg)
Hey Mr. Koizumi, You've Got Asia All Shook Up
William Pesek
FT August 17 2006
JBIC in talks on Islamic bond issue
David Pilling in Tokyo, Guy Dinmore in Washington, John Burton in Singapore and Gillian Tett in London
WP Thursday, August 17, 2006; A25
Japan's History Problem
By G. John Ikenberry
(コメント) 小泉首相の靖国参拝を英語圏はどう見たか? 平和のために参拝する,という小泉氏が,外国政府が日本のすることに干渉するのはけしからん,と断定します.しかし,これは矛盾しています.平和というものは,近隣諸国との友好関係によって実現できるからです.・・・文句があったら勝手に言え.話は何も聞きたくない,と言うのでは,戦争で決めようか,と威嚇を互いにエスカレートさせるだけでしょう.
David Pillingは,山崎拓の批判を紹介しています.Mike Mochizukiも,ほとんどのアジア諸国が小泉の靖国参拝に唖然とした,と記します.山崎拓と加藤紘一は,その後,谷垣支持に回りました.谷垣派は,野党や,アメリカ,中国,韓国,とも連携できることを示して,政治を小泉から解き放って欲しいです.
小泉首相が執着する靖国参拝は,国連安保理改革や,領土問題,北朝鮮核・ミサイル問題,アジア経済協力,資源開発・輸送,など,国民が広く合意できる多くの外交目標を損ないました.小泉の暴走により,中国や韓国の政策が偏狭なナショナリズムの性格を強めることに,アメリカ政府がもっとも憂慮しているでしょう.
もしA級戦犯や東京裁判の描いた戦争責任論を批判したいなら,日本政府や指導者たちは,戦争責任と戦争についてのさらに優れた認識を示して,アジア諸国を含めた,この戦争の犠牲者すべてに対して説明し,理解を得るべきです.
「靖国は,アジアの呪いではなく,病根である.」とBrahma Chellaneyは書きます.靖国が関心を集めるほど,歴史的な嘆きが蘇えり,人々のナショナリズムと排外主義が刺激されます.それはグローバリゼーションが依拠する自由化された市場の働きを破壊するものです.中国も日本も,歴史の政治的な利用から距離をとる時期だ,とChellaneyは考えます.
William Pesekは,さらに直截です.要するに,小泉首相が失ったアジア諸国からの好意は,アジア通貨危機以後に日本が各国の復興を助けるために尽くした経済支援を,すべてを無駄にしたということでしょう.実際,さまざまなアジア・サミットやIMF総会でも,日本政府はアジアを代表して改革を発言する機会を失ったわけです.
アメリカの不安.それをG. John Ikenberryが明確に述べました.「日本には深刻な地政学上の問題がある.そして,それはしだいにアメリカの問題になりつつある.」 ドイツと違って,日本は戦後も歴史問題に和解を見出せず,中国の急速な台頭により,地政学的に孤立したまま,周辺秩序の転換にもうまく対応できていない,と.
アメリカの対応は問題を複雑にしました.アメリカは日本を主要な同盟国として,その「正常化」,すなわち軍事的な国際貢献も求めました.日本が周辺諸国と和解できないまま,アメリカが日本の「軍事大国化」を支持するような方針は,早急に修正するべきだ,とIkenberryは示唆します.このままでは,日本は戦後のもっとも貴重な国際的名声を失い,アメリカはアジアにおける同盟国の孤立と地域の不安定化を強めます.
FT August 15 2006
Global warming fund could succeed where Kyoto failed
By Jagdish Bhagwati
(コメント) 地球温暖化を重視する政治家たちの復活が進みましたが,それはまだ半分でしかない,とJagdish Bhagwatiは温暖化防止の枠組みを更新するアイデアを示します.今ある京都議定書はアメリカが参加しておらず,お姫様のいないハムレットに過ぎない,と.
京都議定書の致命的欠陥は,中国とインドが規制を免れていることです.そして,彼らが規制を免れたのは,自分たちはCO2を蓄積したわけではない,と主張したからです.CO2のフローに対する責任は認めても,そのストックを形成した先発工業諸国と同じ規制には従えない,と.
Bhagwatiのアイデアとは,フローとストックを評価する仕組みです.アメリカ政府は,既に国内で環境破壊の過去の影響を評価する仕組み(the Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act)を持っています.それは,通称「スーパー・ファンド」.過去の汚染者を含めて,汚染の除去にかかる費用をここから負担します.裕福な国にはCO2ストックによる被害を補償するファンドへの負担を求め,他方,中国やインドのように,貧しい国でもCO2フローが増えることに対しては課税します.
FT August 15 2006
Plan B for world trade
By Fred Bergsten
IHT WEDNESDAY, AUGUST 16, 2006
When free trade sinks into the 'noodle bowl'
Philip Bowring
(コメント) ドーハ・ラウンドの失敗は,1930年代を再現します.自由貿易は後退し,不況が波及して各国は保護主義と地域的な取り決めに頼り,国際収支の不均衡を嫌って金融市場は不安定化し,通貨ブロックが形成されたのです.
Fred Bergstenは,それを防ぐためには多角的貿易自由化の交渉を再発させることであり,そのための市場・政治圧力を示すときだ,と考えます.すなわち,東アジアとアメリカ・NAFTAを含む,環太平洋自由貿易圏です.これによってEUは妥協を必要とするはずです.
Philip Bowringも,ドーハが破綻すれば,APECが今後のFTAと世界貿易を方向付ける,と期待します.しかし,実際には,APEC全体でFTAに向かうことは政治的に難しいだろう,と考えます.各国は独自にFTAを結び,結果的に,これまでの世界的な生産・流通システムによって実現してきた繁栄を損なう場合が多いからです.「ヌードル・ボウル」現象です.そこで,FTAの効果を互いに注意深く検討し,世界的な自由化と調和させること.政治的な目標と混同しないこと,を求めています.
LAT August 15, 2006
Why They Hate Us
By Julia E. Sweig
(コメント) 反日感情が,単に小泉氏の発言や行動だけに起因しておらず,歴史的な経過をたどってきたように,反米感情も,ブッシュ氏の発言やイラク戦争,アブグレイブの蛮行だけが原因ではありません.
特に,冷戦,権力・支配関係,グローバリゼーション,アメリカの押し付ける価値観と偽善性,・・・ それらは簡単に解決できるものではありません.Julia E. Sweigは,それでも反米主義を緩和する方法がある,と主張します.アメリカが,もっとプラグマティック(現実的で柔軟)に行動し,寛大で穏健,謙虚で思慮深い判断を示し,協調,共感,公平性,礼儀を重んじ,法律を尊重することです.アメリカがテロリストや破壊的な勢力と軍事的に対抗するためにも,こうした姿勢を日ごろから重視して,支持を得ておかなければならない,と.そうすれば,アメリカの権力・軍事力は,海外においても,正当なものと認められるでしょう.
WP Wednesday, August 16, 2006; A13
The Economics of Fear
By Robert J. Samuelson
(コメント) 「恐怖の経済学」・・・・ 何ですか? これは,9・11テロによってアメリカ人が味わった恐怖を,ブッシュ政権が利用した結果,そのコストはいくらに及んだのか? という計算です.すでにマイケル・ムッサは,9・11がアメリカ経済に与えた影響より,ハリケーン・カトリーナが与えた影響の方が大きかった,と指摘したようです.
Robert J. Samuelsonは,銀行やFRBなど,民間部門のテロ後の安定化処置が迅速・適切に取られたため,テロによって消費が落ち込む事態は回避された,と賞賛します.他方,ブッシュ政権が取った国外におけるテロ対策は,13兆ドル,を要するだろう,と推計されています.事前の推計を大きく超えるアフガニスタンとイラクへの軍事介入のコスト.
たとえ経済的な被害が抑制できたにしても,ハロルド・ジェイムスが指摘したように,ブッシュ政権は政治的な同盟関係を大きく損ないました.その結果が,保護主義の隆盛とドーハ・ラウンド挫折にも関係している,と.それは第一次大戦前の世界情勢にも似ている,とN.ファーガソンは憂慮しています.
The Wall Street Journal, 16 August 2006
A Self-Defeating War
George Soros
The Daily Star, 17 August 2006
Drop the “War on Terrorism” Metaphor
Richard N. Haass
(コメント) ブッシュ氏の姿勢は,自分の過ちを認めようとしない,自滅的な戦争に深入りさせるだけです.テロリストにも動機があり,テロを利用する国際政治は残っています.「テロとの戦争」という比喩や政治表現を捨てて,軍事力だけでなく,正常な外交・国際関係を改善する必要があります.
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The Economist, August 5th 2006
Carbon offsets: Sins of emission
Vietnam: Good morning at last
Middle East policy: To Israel with love
Retailing in China: Ready for warfare in the aisles
(コメント) マーチン・ルターがかつてカトリック教会の免罪符を激しく批判したように,環境保護論者はカーボン・オフセッティングを嫌います.しかし,その計算根拠を明確に示せるなら,これは有効な仕組みである,とThe Economistは支持しています.
ベトナムの記事が,私は好きでした.ブラジルにも負けずにコーヒー輸出を伸ばし,タイにも負けずにエビを輸出し,中国にも負けずに靴を輸出する.既にコショウの世界一の輸出国であり,もうすぐコメ輸出でもタイを抜き,インドに向けてはお茶を売る.・・・成長する国は,そうでなくっちゃ! 他方,ベトナムの成長を脅かすのは農民や商人の活力を無にする通貨価値,金融政策,政治家・官僚の汚職,自由化・民営化反対,・・・ 中国経済の減速や,通貨危機です.
なぜアメリカはイスラエルを支持し続けるのか? 1.イスラエルのロービー活動やユダヤ系資本のマスメディア支配,議会工作,3.キリスト教右派の信仰によるイエス復活の条件,しかし,それ以上に,4.アメリカ人は9・11テロとイスラム原理主義の攻撃にさらされるイスラエルとを重ねて見ているから,5.文化的に,アメリカはイスラエルと条件が似ているから,と指摘します.
さて,中国といえば大衆消費の拡大です.外資系の大型チェーン店が展開し始めて,中国市場を巡る競争が激しさを増します.それは,都市における中産階級の形成を奪い合うとともに,地方に広がる将来の中産階級が余りにも多様であることに戸惑う姿です.
The Economist, August 5th 2006
Economics focus: Least favoured nation
(コメント) ドーハ後の世界貿易を予見する一つのシナリオです.モンゴルのように,世界のどのFTAにも属さない国は,多角的自由化の道が失われた以上,各地のFTAに参加するしかありません.しかし,FTAは大国の条件を小国が受け入れるしかない世界です.FTAごとに勝手な条件が付き,しかも,世界的な規模の生産・供給システムを全体とする世界では,いずれの商品もFTAの条件に従う原産地や関税率を決めることが困難です.
つまり,世界はFTAによってスパゲッティー・ボウルになってしまうけれど,それは主要な市場を中心に集約されていくのではないか? 互いのFTAが与える影響を考慮し,WTOはFTA間の交渉を促す役割を得るのではないか? たとえ,それが多角的自由化に劣るとしても,かと言って世界貿易の解体,衰滅を導くわけでは無いだろう,と.