IPEの果樹園2006

今週のReview

6/26-7/1

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :ワールド・カップ

安全保障 :イラン,北朝鮮テポドン発射準備

貿易・投資 :ドーハ・ラウンド

通貨・金融 :日銀福井総裁バーナンキ

世界統治 :移民論争ポスト小泉

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


June 16 (Bloomberg)

Bank of Japan Scandal Last Thing Japan Needs

William Pesek Jr.

FT June 16 2006

Mr Fukui's apology

June 21 (Bloomberg)

Ten Million Reasons BOJ's Fukui Must Resign

William Pesek Jr.

(コメント) 日銀の福井総裁が村上ファンドに投資していた問題で,総裁の辞任を求める意見があります.政府や日銀は内部規定に反していないなら問題ない,ということで,総裁の私的な行為を問題にしないつもりです.確かに,引退した中央銀行の幹部がヘッジ・ファンドに招かれることは欧米でも典型的です.LTCMがそうでした.財務省や建設省のOBが天下りするのと同じです.現職の官僚や政治家は,常に,賄賂や脅迫・犯罪の可能性(誘惑)に身を置いています.

William Pesek Jr.は,日銀が1980年代に金融緩和で失敗し,90年代に金融引き締めで失敗し,今度は福井総裁のスキャンダルで景気回復を挫折させようとしている,と批判します.福井総裁は金利を動かすことで株価に影響を与えることができます.福井総裁が何を考えたか,は誰にも分かりません.そして,彼の行為は日銀に対する信頼を大きく損なったのです.一般の人々が村上ファンドを買うのは問題ないでしょう.しかし,日銀総裁が買うのは間違いです.

日銀への信頼を高めてきた福井氏が辞任問題を抱えることは景気回復を損なうでしょう.日本の金融市場に対する内外の信用も損ないます.株価が10%下落して,インフレ傾向もゆるやかにしか現れていない以上,日銀の金利引上げには余裕がある,とPesek Jr.は指摘し,この問題を解決するべきだ,と考えます.

FTは,この騒ぎは日銀がその幹部職員に対する規則を整備する必要を示している,と厳しく受け止めます.利益相反を防ぐ明確な基準を定めておくか,すべての資産を公開する必要があるでしょう.そしてアメリカの財務省長官にゴールドマンサックスのハンク・ポールソンを指名する交渉にも触れて,ブラインド・トラスト(運用白紙委任)を示唆します.

その後の釈明と政治問題化を経て,Pesek Jr.は福井総裁の辞任を強く要求するようになっています.なぜ福井氏は2月に持分を売ったのか? もちろん,日銀が金融引き締めに移るつもりだったからだ.彼の投資は2倍の価値になっていた.

また,なぜ小泉首相が日銀総裁を強く擁護するのか? 彼は福井氏に政治的な支援を与え,貸しを作っているのだ.日本の景気回復を守るために,福井総裁の辞任問題を持ち出すのは良くない,という.しかし,景気が回復したのは日銀のおかげではない.彼が辞任しても,副総裁は財務省出身でさらに良くない.世界が10年ぶりの金融引き締めで協調しなければならない難しい局面にあるとき,福井氏はその役割を果たせない・・・

私の感想に戻れば,日銀と福井総裁は市場や国民との対話に失敗したと思います.すべての取引を自ら精査して直ちに公表するべきでした.日銀内部に私的な金融取引を規制し,監視する規則や仕組みが欠けていたことを認め,直ちに期限を決めて作成し公表する意志を明確にするべきでした.そして,福井氏は自ら進んで村上ファンドの取引によって得た利益と,懲罰的な賦課金を加えて供出し,新しい枠組みが示すことになる日銀の厳格で,公正な姿勢を市場と国民に訴え,理解を得るべきではなかったでしょうか?

もし今から理解を得る努力をしても信頼を得られないなら,辞任する際に,そのような明確な反省と今後の方針を示してほしいです.


FT June 16 2006

Europe twitches out of europaralysis

(コメント) フランスとオランダがEU憲章を否決して一年が経ちました.EUはそのまま停止しています.25カ国で運営する制度改革は決まらず,ウクライナやトルコに対する拡大は話し合われていません.これまでのさまざまな論争と違うのは,ヨーロッパの政治エリートたちが言い争っているのではなく,市民レベルで不満が強まっていることです.EUへの信頼を持てないけれど,EUによる雇用の改善や環境規制は求めているのです.新加盟国ほど期待の側面は強く,それを旧加盟国ほど不安と失望が強い.EUの指導者たちは,新加盟諸国の協力を得て,EU全体として,拡大過程がグローバリゼーションから雇用を汲み上げ,環境破壊を防いでいる,と旧加盟諸国に対して説得しなければなりません.


Bernanke's credibility FT June 16 2006

PAUL KRUGMAN The Phantom Menace NYT June 16, 2006

Over-scrutinizing the Fed LAT June 17, 2006

Wolfgang Munchau Strawberries out of the basket FT June 18 2006

Robert J. Samuelson Facing Up to Inflation WP Wednesday, June 21, 2006; A21

Axel Merk Will Bernanke save the dollar? Asia Times Online, Jun 22, 2006

Robert B. Reich The Real “Flation” Threat The American Prospect 06.22.06

(コメント) 最近,バーナンキへの不満は少し改善されてきたように思います.しかし,その金融引き締め方針をめぐって市場の判断は錯綜し,まるでバーナンキが曖昧な発言をしたからだ,と非難することに関心が集中した観がありました.FTは,だからインフレ・ターゲットを求めたのに,と不平をこぼしています.市場が曖昧な評価について新しい議長を翻弄し,それを抑えるために必要以上に強硬な姿勢を示す,というゲームが進んでしまうのでしょうか?

PAUL KRUGMANが心配するのもバーナンキの過剰な反応です.インフレは賃金上昇とのスパイラル(かえる跳び)を生じていないなら今はまだ重視するべきではない,と考えます.しかも,インフレ率をめぐる論争が,住宅価格の下落のような,もっと重要な問題から関心を奪っています.

景気を悪化させずにインフレを抑える,というのは,誰が連銀議長であっても困難な課題であり,バーナンキが新しい議長だ,という問題に結びつけるべきではない,とLATは考えます.

インフレーションの統計を怖がるのは筋違いだ,という面白い話もあります.あるフランスの首相が,彼の統計専門家に尋ねました.なぜ春の終わりに物価は上がるのか? すると,その統計専門家は,それはイチゴの値段が上がるからだ,と答えました.そこで首相は役人に命じて,イチゴを統計から外させました.そして,誰もイチゴなど買えない冬になると統計に戻したのです.

コア・インフレーションは間違いの元だったし,年平均インフレーションは後ろ向きで将来の予想に適当ではない,・・・ 統計を改善し,評価するのは難しいようです.

アメリカの景気は減速し,世界中の株価が下落しているときに,なぜ連銀はまだ金利を上げるのか? と不満の声が高まるでしょう.しかし,彼らは間違っている,とRobert J. Samuelsonは金利引上げを支持します.インフレーションを抑える過程から得た歴史的な教訓とは,インフレはそれが賃金や価格の決定に心理的な前提として組み込まれてしまう前に,抑えるべきだ,ということです.1980年代初めの高金利と不況が,それを教えた,と.

いろいろな理由をつけてインフレーションが高くても問題ない,と議論する人々は,1970年代と同じように,その後に来る厳しい不況や失業,低賃金を忘れているだけです.

Axel Merkは,インフレーションと並ぶ,もう一つの問題を指摘します.ドルの対外価値を守ることです.バーナンキが金利を引き上げて,世界の金融市場は動揺し,新興市場などからはドルへの回帰が起きています.しかし,このドル高は続くでしょうか? つまり,バーナンキはアメリカの景気が減速する中でドル高を促してしまうのです.アメリカの消費者はますます金利に反応するようになっており,他方,インフレ抑制はグローバリゼーションによる安価な輸入品に任せている,というのがアメリカです.

不況を嫌うけれど,インフレも抑えたいから,バーナンキはインフレの兆候を見るや,強硬な発言でそれを押さえ込む姿勢を示すのです.それがうまく行けば,アメリカの経常収支赤字と,資本流入を増やすでしょう.バーナンキは大恐慌や日本の今の金融緩和に関する意見から,為替レートの価値は市場に任せて,国内のインフレやデフレを退治することに金融政策を使うでしょう.たとえドル高が続き,また,将来のドル安が予想されても,バーナンキは無視するようです.ドルへの逃避にも限界はあるはずです.

Robert B. Reichは,逆に,デフレーションを心配します.


NYT June 16, 2006

China Tightens Monetary Policy Again

By KEITH BRADSHER

June 20 (Bloomberg)

China Can't Cool Its Economy With Half Measures

Andy Mukherjee

CSM June 20, 2006 edition

Soft-landing China's economic dragon

(コメント) 中国経済の過熱を抑える方法はあるのでしょうか? 中国は人民元の増価を抑えるために外貨準備を増やし,市場に人民元を溢れさせています.アメリカや日本と違い,中国では賃金上昇が続いています.それがスパイラル・インフレーションかどうか? 中央銀行への預金準備金を増やすことも,根本的な転換ではないようです.

中国経済の何が危ないのか? 金融引き締めが遅れて,消費者物価は上昇しなくても,不動産価格でバブルが生じます.銀行は企業の設備投資や不動産開発に融資を拡大し続け,それが将来の不良債権と銀行システム危機を招くでしょう.準備率を引き上げ,行政指導により融資額を制限することを試みていますが,効果は薄い,とMukherjeeは否定的です.要するに,人民元の増価を抑制しているから.

CSMは,中国経済のソフト・ランディングを期待します.そのためには,何でも共産党によって指導できると考えずに,独立の機関に委ねる方がよい,と認めることです.たとえば,金融政策を.


The Guardian Friday June 16, 2006

Time to talk about an amnesty

Felicity Lawrence

(コメント) 新しいイギリス移民相Liam Byrneは,非合法移民を合法化するべきか(アムネスティ問題)? 非合法移民は何人いるのか? という論争に参加しました.

移民を攻撃する人々は「インチキ難民」を喧伝し,経済移民を無視します.非合法な移民たちはテロの取り締まりも強化されて,厳しい搾取にさらされます.国外追放を恐れて,雇用主に逆らうことができないからです.支持派は労働力不足や技術者の不足を強調します.しかし,低賃金の非合法移民を無視します.

合法化は次の非合法移民を刺激するだけだ,合法化された労働者は新しい非合法移民によって入れ替えられる,という心配もあります.それゆえ,合法化する場合の厳しい審査や,雇用主への監視と罰則の強化が求められます.

食品,農業,建設,清掃,介護,給食,家事,など,非常に弾力的で安価な労働者として,非合法移民がサービス部門で需要されています.移民労働者たちがいるから福祉国家は維持できています.彼らを合法化するための議論が必要です.

NYT June 18, 2006

Immigration Math: It's a Long Story

By DANIEL ALTMAN

WP Sunday, June 18, 2006; B07

Calculating Immigration Politics

By George F. Will

NYT June 19, 2006

Here Illegally, Working Hard and Paying Taxes

By EDUARDO PORTER

(コメント) 経済学的に見たら,移民は可とすべきか? DANIEL ALTMANは考えます.移民の2世・3世は教育水準が高く,起業家も多い.アメリカに同化していくでしょう.しかし,所得水準に較差がなくなるには時間がかかります.

経済学的に見たら,Ph.Dを取るような移民だけを選別して入れるべきでしょう.しかし,移民が増えることはその国を支える基本でもあります.安全保障でも社会保障でも,人口が減少するヨーロッパや日本は,アメリカのように行動できないはずです.

George F. Will は,アメリカにおけるアムネスティ問題を紹介しています.

EDUARDO PORTERは,非合法移民がしばしば「見えない労働者」であることを,いくつかの事例で紹介します.たとえば3人の非合法移民労働者(Adriana, 27; Ana, 27; Emilio, 48; and Polo, 52)は,スーパー,オフィス,ホテル,大学などで,レストラン,プール,トイレ,などを清掃します.彼らが存在することを,利用者たちは意識しません.非合法移民は,かつてのようにカリフォルニアの農場で日雇いの厳しい収穫作業に従事するのではなく,都会の真ん中で大企業に雇われています.彼らは低技術の職種において10%〜20%を占めています.

もし非合法移民を雇用する企業に刑罰を科するなら,こうした企業や業種はどうなるのか? 必要な書類やIDが売買されるだろう,と予想する専門家がいます.それは汚職や犯罪を促すかもしれません.そして,密入国や移民の連鎖が紹介されています.

サービス分野の労働組合は非合法移民を組織する必要を痛感し,それに取り組み始めました.企業は,規制が強化されても非合法移民は雇える,と予想しています.むしろ法律も組合も,非合法・合法移民を加入しやすくして,彼らが発言しやすくするように変わるべきです.

Asia Times Online, Jun 20, 2006

Brain drain saps the Philippine economy

By David L Llorito

NYT June 20, 2006

The Terrible, Horrible, Urgent National Disaster That Immigration Isn't

By LAWRENCE DOWNES

BG June 21, 2006

Rethinking immigration

The Guardian Thursday June 22, 2006

I've been obsessed with immigration for decades. Why? Because the whole world thinks it has a right to live in the US

Lionel Shriver

(コメント) フィリピンの高度技術者や熟練労働者,たとえば,パイロットやエンジニア,医師,看護婦,などは,ますます海外の職場に引き寄せられています.フィリピン航空はパイロット不足で路線を拡大できません.彼らはthe Philippine Overseas Employment Administration (POEA)にパイロット流出を止めてくれるように頼みました.フィリピン政府自身が労働者の輸出を奨励し,パイロットたちを訓練しているからです.

未熟練労働者も,大学卒業者も,こぞってフィリピンを出て行きます.その数は800万人,フィリピン人口の10%,労働人口の23%になります.しかも出稼ぎ労働者の専門化・高度化と「女性化」が進んでいる,と言います.中東の国に行けば,どこでも空港のカウンターやスーパーのレジにはフィリピン人がいる,と.病院でも,食堂でも,フィリピン人が働いています.

人口高齢化に悩む国も,フィリピン人の意志や看護婦,介護の女性を奪い合うでしょう.日本,スペイン,イギリス,その他富裕な国々が募集を検討しています.中東地域のように金があって,機械を買うとしても,それを動かす技術者・労働者が必要です.

LAWRENCE DOWNESが描いた移民論争は詳しい論説です.移民を排斥しようとする気持ち,アメリカに広がる排外主義,その政治運動,イデオローグが紹介されています.移民を排除するために主張される対策は,どれも莫大なコストを要するだけの,成果が無いものです.アメリカは移民によって創られた国である,という伝統を誰でも学んでいます.それでも移民への反感は強く,非合法移民たちは,さまざまな地域で公的扱いを差別されたり,拒まれたりします.地方政府が警察を動員して移民を排除する場合があります.

他方,アメリカには移民を支持する政治連合もあります.共和党も,民主党も,ビジネス・エリートも,労働組合の一部も,社説・論説の一部も,ブッシュ大統領も,ある意味では,支持派です.彼らは移民たちを歓迎します.問題があることも認めますが,基本的に移民を歓迎して,その問題にはさまざまな対策や処罰をそろえます.彼らが上院に提出した法案は796ページもあります.そんな法律は機能しないし,矛盾だらけだ,と批判されます.

しかし,法案の趣旨は,移民がアメリカにとって有益で,経済や文化に貢献することを検証できる,というものです.それは反対派のデマゴーグを抑えるために反撃するものです.

合法であれ,非合法であれ,移民はアメリカにとって必要です.人口の12%,労働者の14%を占めている,と言います.農林漁業の40%,建設・メインテナンスの33%,など,基本的な分野で主要な労働力となっています.移民たちは公的な財源を奪っている,と非難されますが,実際は,消費税などを通じて,より多く財源を補強しています.彼らのほうが若く,健康であるから,社会的給付も少ない,と言えます.

国民全体へのコストもある,という指摘があります.そしてコストを減らすような規制を必要とします.しかし,移民は将来への投資と考えるべきで,その時点のコスト・ベネフィットだけで比較してはいけない,と考えます.さらに,移民たちは集まり,自分たちの存在を示し,力を組織するでしょう.移民は今もアメリカを変えています.アメリカとメキシコを結ぶ移民システムが形成された,という議論もあります.

BGは,壁を築く,以外の答えをアメリカ議会は探さねばならない,と考えます.メキシコの人口の約半分は貧困線以下で暮らしているのだから,たとえ非合法でも,アメリカで働くことを目指すのは当然です.壁は人々の願いや移動を阻止できません.通過ビザで入国し,ますます長期に滞在するでしょう.上院は一時雇用計画と組み合わせて,その打開策を示しました.

なぜ,世界市民は同じ権利を持って生まれていながら,生まれる国によって大きな差があるのか? なぜ誰でもアメリカに住めないのか? 非合法移民として生きるというのは,どういう意味か?


IHT June 16, 2006

How the West let Moscow down

Andrei Grachev International Herald Tribune

FT June 18 2006

Putin’s allies are turning Russia into a corporate state

By Neil Buckley and Arkady Ostrovsky

(コメント) Andrei Grachevは,西側がゴルバチョフの民主化を見殺しにした失敗を想起します.ゴルバチョフが改革を進めるために西側に一種のマーシャル援助を求めたとき,彼らは丁重に拒否しました.ゴルバチョフにソ連は救えない,と考えたからです.湾岸戦争では1000億ドルを費やしたのに.今や,ロシアと西側の協調は日に日に薄れ,対立が蘇えっています.

それはロシアやプーチン政権の考え方や行動によりますが,同時に,西側の対応がまずかったからです.冷戦終結を西側の勝利と過信し,イラク戦争のような失敗を犯しました.ロシアの民主化運動は,アメリカから学ぶものは何も無い,と失望しています.

FTは,プーチンのロシアにおいて産業界が復活し,西側企業との連携が活発に行われていることを楽観します.それはプーチンの行動を矯正し,宥和するでしょうか?

プーチン後のロシアはEUに加盟し,そのウラル山脈以東については,いくつかの開発区を設置し,アメリカや中国,日本などに開発競争させたらどうか? ・・・などと思いました.


The Japan Times: Friday, June 16, 2006

Is Japan set to stumble after Koizumi?

By TOM PLATE

The Japan Times: Monday, June 19, 2006

Tokyo's hard line slowing solution to abduction issue

By GREGORY CLARK

FT June 20 2006

A historic industry

FT June 21 2006

A ‘normal’ Japan may not be all good news

By Guy de Jonquieres

FT June 22 2006

Japan alone can find solution for shrine of controversy

(コメント) すべての関心は中国に向かい,日本はまるで存在しないかのようだ,とアジア・太平洋地域の政治研究者や外交官は感じているようです.TOM PLATEは,小泉首相の後継者も,改革と靖国参拝をセットにしてしまった流れから逃れられない,と悲観します.

GREGORY CLARKは,北朝鮮の拉致問題がそれ以外のすべての交渉をストップして,外交政策の舵を右翼のイデオローグに預けてしまった,と悲観します.横田めぐみさんの拉致問題を外交の切り札のように扱い,北朝鮮包囲網を築いて事態を打開できる,というのは,国策としても,歴史感覚としても,バランスを欠いた方針です.当然,これもまた小泉氏の遺産でしょう.

日本と言えば,西側にとって,拉致や靖国神社より,クジラかもしれません.国際捕鯨委員会で商業捕鯨の復活を認めさせた日本の外交努力に,それは「特別な文化」「伝統産業」として認められただけだ,とFTは釘を刺します.日本はどこでも変な主張で利益を隠そうとします.

日本が「正常化」することを,Guy de Jonquieresは悲観します.まず,不確実性がある.景気回復は脆く,金融引き締めが迫っています.日本は世界にリンクするのか,それとも過去に戻るのか? 旧産業の多くは中国やインドの企業と競争できるのか? 日本の巨大な銀行・広告代理店・旅行代理店は,外国でまったく顧客を得ていない.

高齢化は進むのに,革新的な企業は育たず,資本市場の革新も,堀江や村上のような起業家を犯罪者とするだけで終わりそうです.日本は過去に回帰したいだけなのか? それは市場以上に,政治家の姿勢にかかっています.小泉改革は,まだやり残したことばかりです.

FTは,靖国参拝問題についても述べています.三つの立場(1.個人の信仰の自由であり,戦犯合祀など重要ではない.2.やめるべきだ.独自に追悼施設を作る.3.間違いではないが,事情を考慮するべきだ.)を示して,内外のバランスをとって自国の判断を示すように,というFTらしからぬ曖昧な論説です.日本人の論説を載せたからか?


BG June 17, 2006

The choice for Iran

The Guardian Monday June 19, 2006

A negotiated solution to the Iranian nuclear crisis is within reach

Noam Chomsky

Asia Times Online, Jun 22, 2006

Iran: US opts for regime change, not force

By Gareth Porter

(コメント) ヨーロッパ,ロシア,中国の加わった交渉条件を,アメリカも支持して,イラン政府は選択しなければならない,とBGは考えます.核兵器を開発する以外の要求を満たし,もし拒むなら,イラン国民の利益を深く損なうことになる選択です.

昨年,キッシンジャーが,産油国であるイランの核開発を,ばかげている,と非難しました.Noam Chomskyは,かつてキッシンジャーが,イランに核兵器開発を認めたことを指摘します.なぜなら,イランはアメリカの同盟国であったからです.チェイニー,ラムズフェルド,ウォルフォヴィッツは,その計画に参加していました.そして,今はイランを非難しています.

Noam Chomskyは,イランとアメリカや西側諸国との歴史的な敵対関係を振り返り,アメリカが今度の交渉でも軍事攻撃の可能性を取り下げないことに,交渉決裂の可能性を見ます.交渉経過やNPTの改革提案において,アメリカではなく,イランこそが,核の平和利用に限定する体制への積極的な姿勢を示している,と.

軍事攻撃によって体制転換できると信じるより,イラン国内の民主化運動を支持して経済関係を拡大するほうが良い,とブッシュ政権も態度を変えたようです.


The Guardian Saturday June 17, 2006

A flag of racial pride

Angela Foster

The Guardian Thursday June 22, 2006

There is some corner of a Spanish field that is for ever Beckham

Timothy Garton Ash

NYT June 22, 2006

Our World Cup Edge

By DAVID BROOKS

(コメント) サッカーの応援にもそれぞれの政治姿勢や価値観が反映されます.多くの国旗が売れて,国旗を振りながら応援する人たちが増えます.人種や民族,歴史的な記憶と憎悪が呼び戻されて,応援と罵倒に熱狂します.

Timothy Garton Ashはイギリスを応援します.でも,イギリスが敗退したら,ジダンのフランスを応援します.移民たちが中心になって,フランスを勝利に導く姿が好きだからです.もしイギリスもフランスも敗退したら,ブラジルかアルゼンチンを応援する,と言います.その美しい試合を賞賛して.もしアイボリーコーストが残っていれば,廃墟から復興する国のチームを応援したはずだ,と.

ワールド・カップはナショナリズムを広まるのか? それとも世界平和に資するのか? Ashは,合計すればプラスだろう,と考えます.なぜか? それは,自国が敗北してもサッカーを応援したいからです.トーナメントが進めば,人々は偏狭な自国への熱狂,部族主義や愛国心ではなく,美しいプレーや情熱的な選手に声援を送ります.決勝戦を見る人々は,選手たちとその感激を共有します.

異なる出自の選手がゴールを奪うとき,異なる国から優れた選手への拍手が起きるとき,サッカーを通じて人々はナショナリズムや排外主義を圧倒します.19世紀に中央アジアを奪い合った,イギリスとロシアの帝国主義的対立を「グレート・ゲーム」と呼びます.しかし今では,「ビューティフル・ゲーム」の方が人々を魅了します.

アメリカ・チームは活躍できず,世界一でないと納得できないアメリカ人のDAVID BROOKSは,何と,アメリカ・チームの学歴が高いことを賞賛する論説を書いています.アメリカの選手はすべて大学生で,アメリカの大学は世界一だ.だから,アメリカの将来は,優れたサッカーチームを育てる他の国よりも明るい,と.


WP Sunday, June 18, 2006; B07

The UFO Hovering Over 2008

By Tom Brokaw

(コメント) 誰が2008年の大統領選挙に立候補し,誰が当選するのか? まったく分かりません.政治の世界ではUFO理論が重要です.つまり,今は予想もしていないことが起きて,まったく予想しなかった結果に至る,というわけです.

・・・再びテロ攻撃が起きる.イラクの情勢が好転(もしくは悪化)する.イランが核兵器を作る.パキスタンがイスラム国家に変わる.石油が1バレル100ドルを超える.カトリーナ級の自然災害が起きる.鳥インフルエンザがアメリカ国内で発症する.移民問題が暴動に転化する.住宅バブルが破綻し景気が急速に悪化する.中国との通貨戦争が始まる.・・・


LAT June 19, 2006

Hedge funds vs. central bankers

Niall Ferguson

(コメント) 新興市場も旧経済圏も,株価が下落して動揺を続けています.BRICsの株価が,まるでレンガ(bricks)のように,下落しました.なぜか? その説明は,ヘッジファンドのマネージャーたち(ヘッジャーズ)と,中央銀行の総裁たち(バンカーズ)とで,異なっています.

バンカーズの首領であるバーナンキが,一層の情報を待って判断する,と金利引上げを見送ったことが始まりです.そのためにヘッジャーズは買いのチャンスと見て,強気になり,これに驚いて,シグナルの失敗を学んだバーナンキは一気に強硬な引き締め姿勢を明言しました.

さらに,以前から指摘していたコア・インフレが低くても金利を上げるのか? という不安が,ヘッジャーズを動揺させたのです.日銀やイングランド銀行,ECBが主張してきたように,バブルに対しても金融政策は使うべきだ,と連銀も考えたように見えます.協調しないまま,世界は金融引き締めに入りました.それゆえ,ヘッジャーズはバンカーズが過度に引き締めることを恐れています.


NYT June 19, 2006

Class War Politics

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 2006年の中間選挙で,共和党は民主党の愛国心を疑い,テロとの戦争を主張するつもりです.しかし,共和党も同じだ,と.

PAUL KRUGMANは,選挙の焦点を「階級戦争」と考えます.Nolan McCarty, Keith Poole, and Howard Rosenthal, "Polarized America: The Dance of Ideology and Unequal Riches" に拠りながら,経済的格差拡大が政治的な二極化をもたらす,と考えます.

共和党は富裕層に偏り,減税を繰り返しました.それゆえ選挙では宗教的保守派に頼ったのです.2004年の選挙はゲイ・マリッジ(同性愛者の結婚)とテロリストに対する反対です.2008年に向けて,民主党は何をすべきか? 彼らの宣伝を無視して,現実を直視すること.そして,中道勢力の賛同を得る時期が来た,と知るべきです.


FT June 20 2006

Ten days that could shake WTO

By Martin Wolf

The Wall Street Journal, 22 June 2006

Plan B for Plurilateralists

Bernard K. Gordon

(コメント) 来週末には,ドーハ・ラウンドの成否が決まる,とMartin Wolfは指摘します.もし交渉が失敗に終われば,WTOの基礎が失われ,世界貿易の将来に大きな不安が生じるだろう,と.多角的で自由な貿易システムから,二国間の特恵的な貿易関係が急増し,覇権争いが始まり,国際的な決済網にも亀裂が生じて,効率性を失い始める.9・11のテロ攻撃に結束したように,指導者たちは交渉において譲歩し,合意を示すときだ.

Bernard K. Gordonは,ブラジルとインドが指導する発展途上諸国の「ドーハ・ライト」案が支持されず,世界貿易の主役である,NAFTA,EU,北東アジア地域,が合意できない以上,WTOは世界的多角主義を諦め,より限定された諸国で多角的自由化を守る,「プルリラテラリズム」に方向転換するべきだ,と主張します.自由化交渉を,二国間の特恵的な貿易関係に解体するのではなく,グループ諸国内で維持するのです.

たしかに,いかなる国も拒否権を持つような形で,参加国すべての合意を得るまで,100カ国以上が異なった利益を元に交渉するのは難しい,と思います.世界貿易に占めるアメリカの占有率がそれだけ落ちたことを意味するのでしょう.


John Gittings North Korea tweaks the tiger's tail The Guardian Tuesday June 20, 2006

North Korea's Incredibly Bad Idea NYT June 20, 2006

Bruce Klingner There's method in the missile madness Asia Times Online, Jun 21, 2006

North Korea's logic BG June 21, 2006

Tested by North Korea LAT June 21, 2006

Andrei Lankov Let the torturers defect IHT THURSDAY, JUNE 22, 2006

(コメント) テポドンの発射実験や,核爆弾の実験が,日本とアメリカによる北朝鮮の孤立化と経済・金融制裁への反応であるとしたら,イランの核開発とはまるで異なったシナリオを進んでいるわけです.その結果は,日本の軍備が拡充され,北朝鮮との和解は不可能になるでしょう.5月末には地方選挙があります.韓国は次の大統領選挙までに激しい論争と紛争が続くでしょう.その結果が出るまで,強攻策はありえない,と北朝鮮は威嚇や譲歩の可能性を振り撒き,交渉や援助を促すのです.

ある意味で,イランが得たような成果を北朝鮮も期待しているのでしょう.その意味では,EUが譲歩を示したように,宥和的な韓国の現政権の下で,日本の強攻策をエスカレートによって挫折させ,アメリカに説得させる必要があるのです.中国政府が台湾の独立派を牽制してミサイルを発射した事例を連想させます.(威嚇は成功しませんでしたが.)

もちろん,北朝鮮は愚かです.もし本当に北朝鮮がアメリカと和解し,安全保障と輸出市場,経済の再生を望むなら,他に方法があるからです.彼らの合理性は,自分たちの支配体制・イデオロギーと選択肢を前提した合理性でしかありません.譲歩や変化を受け入れるなら,今すぐにも交渉は進展し,イラン以上の援助と友好を享受できるでしょう.

アメリカや日本は何と答えるでしょうか? ミサイルを発射する資金があるなら,一人でも多く国民を飢餓から救うべきだ.安全保障を得たいなら,国民や外国市民への人権を保障しろ.軍事的威嚇に対しては交渉する機会を与えない.軍事行動に対しては,先制攻撃も含めて,必要な行動を取る.

北朝鮮の支配層には,強制収容所を維持する能力を除けば,経済特区を管理する能力も,西側の支配層に同化する能力も無く,体制が崩壊する前に軍事的威嚇で援助や敵の分裂を願うしかないのでしょうか? そして,地下経済や犯罪組織に同化する? もし軍事的な占領ではない体制転換を望むなら,支配層の逃げ道が必要だ,とAndrei Lankovは考えます

WP Thursday, June 22, 2006; A29

If Necessary, Strike and Destroy

Ashton B. Carter and William J. Perry

アメリカは,自国に明確な敵意を示し,核兵器を開発している国が,弾道ミサイルを手にするのを許すべきか? われわれはそう思わない.

ブッシュ政権は,北朝鮮よりもはるかに小さな脅威であったイラクに「先制攻撃」を主張して,侵攻する過ちを犯した.しかし,アメリカ国民の安全に対する深刻な脅威が形成されるのを未然に防ぐことは,慎重な政策である.

アメリカ政府は,テポドンが発射される前に,それを攻撃し,破壊する意図があることを明確に告げるべきだ.クルーズ・ミサイルでテポドンの基地を攻撃しても良い.

アメリカ軍は既にミサイル防衛システムを開発すると表明している.しかし,テポドンが発射されるのを待つのは危険である.それでは北朝鮮が発射データを得てしまうし,アメリカの防衛ラインを超えてしまう.また,確実に打ち落とせる保証がない.

この問題で北朝鮮が韓国を利用しないように,切り離すべきだ.アメリカ本土が脅かされる問題に,韓国民は介入できない.6カ国協議を崩壊させる事態に,中国とロシアも驚くだろう.北朝鮮を支持することは無い.

アメリカ政府は,この攻撃が北朝鮮全土に対して行われることはないし,軍事基地すべてに対する攻撃でもないが,発射しないと約束していないテポドンに対して行われることを,明確に伝えるべきだ.

北朝鮮は全面戦争を始めると威嚇するだろうが,彼らがそれを実行することは無い.友好的な現在の韓国政府を破綻させ,自分たちの政治体制を短期間で崩壊させるのは確実だということを,北朝鮮は知っているから.

戦争の可能性は少ないが,アメリカ軍をこの地域に移動しておくべきだ.北朝鮮の脅迫に対して行動しないことは,リスクを増大させる.外交は重要であるが,それが失敗したときには,行動するしかない.


YaleGlobal, 20 June 2006

Why Dollar Hegemony Is Unhealthy

Thomas I. Palley

FT June 21 2006

Currency agreement could avert dollar’s collapse

June 22 (Bloomberg)

Summers Sees Account Deficit as Global Threat

John M. Berry

(コメント) 世界中の人々がドルに投資し,ドルで預金します.それはアメリカ市場への輸出が重要であり,アメリカ・ドルの価値を信用するからです.Thomas I. Palleyはそのマイナスの側面を重視します.確かにアメリカの消費者は輸出国にとって「最後の貸し手」です.しかし,中国のように輸出指向型の工業化はドルを外貨準備として蓄積しているが,それは国内消費や投資を犠牲にしている,と.アメリカの金融政策に規律を与えるのは,EUと日本であるはずです.

もしアメリカ市場に代わるものが無いまま,アメリカが金融を引き締めて,あるいは,市場を閉ざしたら,世界的な不況になるでしょう.アメリカの経常収支赤字はそのような危険を示しています.

FTは,主要な通過に対してドルが秩序正しく減価するよう,プラザ合意に倣って,アメリカと,中国,EU,日本,イギリス,が合意するように要請します.為替レートの危機が頻発するのを待つことなく,望ましい為替レートの調整や目標相場圏を合意して,調整を行うべきです.

他方,ハーヴァード大学のリチャード・クーパーや,ドイチェ・バンクのピーター・ガーバーは,アメリカの経常赤字を放置しておく方が良い,と考えます.しかし,元財務長官で,ハーヴァード大学学長であったサマーズは,長期の円滑な調整が可能である,という見解を疑います.

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The Economist, June th 2006

Iraq: After Zarqawi

Sports and Politics: Let the games begin

Lexington: The odd man out

Nuclear Disarmament: The long, long half-life

Defence in South-East Asia: From talking to doing

Shares in emerging markets: A nasty spillage

(コメント) イラクでザルカウイがアメリカ軍に殺害されたことよりも,マリキ首相が明確にイラク国家の再建を唱え,宗派や民族の対立を批判し,アメリカ軍の逸脱と市民の殺戮を厳しく非難したことに,かすかな希望を見ています.また,ワールド・カップでは,アメリカがスポーツ世界の覇権を失っており,国家がメダル競争に政治を反映できたオリンピックよりも,ワールド・カップの方が素晴らしい,と賞賛しています.ただし,私は世界中で売買される選手たちの報酬が跳ね上がることを,もっと非難するべきだと思いますが.

核の廃絶は難しく,冷戦終結で核は大幅に減りましたが,しかし,完全にゼロにすることは難しく,危険でもある,と主張しています.世界共通の核管理・開発体制を目指すべきですが,具体化する見通しはありません.他方,東南アジアの海では,共通安全保障体制が形成されつつあります.ここでも,日本やインドが積極的で,中国の参加は曖昧ですが,アメリカからの援助や要請を取り込む形で制度が構築されています.

新興市場への資本流入は,アメリカなどが金融引き締めを強めることで,急激な流出に変わるのでしょうか? 政府による市場改革や証券市場の育成が,それにもかかわらず市場の暴落を招くたびに,改革とそれを唱える指導者への信頼を損なうでしょう.しかし,IFCの専門家は楽観します.裕福な諸国の高齢化や停滞は長期的に高まるのであり,彼らは必ず新興市場の若い労働力や技術ギャップに注目するだろう,と.