IPEの果樹園2006

今週のReview

5/8-5/12

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :ガルブレイス良い社会

安全保障 :イラン

貿易・投資 :原油価格

通貨・金融 :外貨準備ユーロIMF改革

世界統治 :小泉=レーガノミクス移民ADB

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


April 28 (Bloomberg)

Reaganomics Hits Snag in Japan Amid Recovery

William Pesek Jr.

(コメント) 日本にレーガノミクスが再臨しました.朝日新聞の調査では,小泉政権の下で生活は苦しくなった,と答えた人が42%.生活が改善した,という人は18%.株価や地価が上昇している中で,これは驚きです.つまり,小泉氏の「聖域なき改革」とは1980年代アメリカのレーガノミクスでした.

Pesek Jr.は,小泉氏の成功を,まず中国のおかげだ,と指摘します.さらに社会的コストを後の政府に残したからだ,と批判します.不良債権の処理や企業のリストラを回避し続ける姿勢を変えたのは,中国が急速な成長によって彼らの持ち時間を奪ったからです.中国によって,経営者たちは決断を迫られたのです.また,レーガンと同じように,小泉政権は遺産相続や金融取引に関して減税し,年金や福祉を削りました.これによって成長し,そのおこぼれが再び貧しい人々も潤すでしょうか?

小泉氏のレーガノミクスは,所得分配の不平等化により,アメリカ以上に責められるでしょう.雇用の創出よりも雇用維持に偏った制度は,アメリカほどダイナミックに革新をもたらさないからです.何より,日本の少子化,人口減少が,債務負担を重くします.


FT April 29 2006

US Fed hints at pause

(コメント) アメリカ金融政策の転換に関する論説がいくつも出ていました.この論説は,バーナンキの説明と市場の予想が方向を失い,互いに予想や行動を影響されて増幅してしまう,という危険性を指摘しています.だからこそ,バーナンキはインフレ・ターゲットを主張してきたわけですが,この機会に連銀を方針転換できるだろうか? と注目します.


Robert Kuttner The gas price adjustment BG April 29, 2006

Jim Hoagland A Better Approach To Energy WP Sunday, April 30, 2006; B07

Carola Hoyos Nationalist politics muscle back into world energy FT May 4 2006

(コメント) 原油価格の上昇と石油会社,ガソリン,自動車に対する課税問題がアメリカでは議論されています.日本やヨーロッパではすでに課税率が高く,原油価格の高騰を一気に政治問題にはしていません.

共和党案では,燃費の悪い大型車からハイブリッドの日本車に転換し,アラスカの油田開発を認め,戦略備蓄を開放し,さらに,カーターのように節約を呼びかけてセーターだって着る・・・? 民主党案は,それでなくても低いガソリン税を減らし,その分を石油会社の利益(史上空前です!)に増税する.しかし,化石燃料にますます依存して良いのか? とRobert Kuttnerは批判します.アメリカはアポロ計画並みのエネルギー転換政策を必要とする,と.

他方,ドイツの悩みはロシア(そして国営石油会社)への依存です.シベリアの天然ガス開発や,バルト海のパイプライン敷設に,ドイツは協力します.イランとロシアでは,どちらがましか? EUにとって,互いに制裁がどこまで効果的か? 中国とロシアは,国連安保理におけるイラン制裁決議に対して拒否権を行使するでしょうか?

OPECやOECDが関与しても,事態は一向に変わりません.


BG April 29, 2006

In El Salvador, an invasion of American agriculture

By Derrick Z. Jackson

(コメント) アメリカ軍が介入した1980年から92年のエルサルバドル内戦.死者は75000人に達します.その頃,Gregorio Rosa Chavezは外の世界に訴えました.弾丸ではなく,食べ物を送ってほしい,と.

なぜいまだに彼は同じ訴えをしているのか? アメリカ農務省は,エルサルバドルをアメリカの市場に変えようと考えました.CAFTAにより,エルサルバドルの農産物市場はアメリカから輸入された農産物や食料品で満たされます.

内戦によってアメリカに逃れた家族は,子供からアメリカの消費生活と文化に染まります.彼らが母国に帰っても,懐かしいと感じるのはマクドナルドを見たときです.グローバリゼーションはアメリカの優れた製品を利用でき,投資をもたらすから,生活を豊かにする,とブッシュ大統領は言います.しかし,国民の48%は貧しく,貧富の格差が拡大しました.

アメリカでも,エルサルバドル人は最も貧しい暮らしを耐え,最低の学校に通い,母国に残る貧しい人々に仕送りします.


NYT April 29, 2006

Bold but Peaceful Step Is Needed on Iran Crisis

By ROGER COHEN

WP Monday, May 1, 2006; A19

A New Strategy on Iran

By Dennis Ross

(コメント) ライス国務長官は,もし安保理が動かないなら,アメリカは有志連合で動く,と答えました.それはヨーロッパの国々にとってイラクの悪夢を意味します.一方的な軍事行動.国際機関の無視.同盟諸国の軽視.アメリカの軍事作戦に世界中から参加する国を集める.

イランが説得に応じなければ,ヨーロッパとアメリカの外交努力は成功しません.しかし,イラクのケースに従うべきではありません.ROGER COHENは,イランが強硬派の単一の政治イメージではなく,もっと多面的な勢力による国家として理解されるべきだ,と主張します.そしてブッシュ大統領は,イラクの安定化について,ライスをテヘランに派遣するほうが良い,と.

Dennis Rossによれば,イランについては,冷戦型の抑止は期待できないし,軍事力の行使もさらに良くない.イラン自身の核武装に関する考え方を変えるように働きかける,というのはどうか? 「イランは考えるべきだ.核兵器を得ることで彼らは何を失うのか? むしろ核武装を放棄することで,彼らは何を得られるだろうか?」

われわれも考えるべきだ.集団的な経済制裁によって何を変えられるのか? イランが核を放棄すれば,彼らとの経済関係や安全保障,核エネルギー協力において,何を与えることができるか? アメリカとヨーロッパは協力してみるべきだ,と.


NYT April 30, 2006

Are Poor Nations Wasting Their Money on Dollars?

By EDUARDO PORTER

(コメント) なぜ貧しい諸国はドルの外貨準備に貴重な自分たちの貯蓄を浪費するのか?

ロシアの外貨準備はこの5年間で8倍に増え,2000億ドルを超えました.また中国は昨年末で8000億ドル,アフリカ諸国も1620億ドルを保有します.IMFによれば,発展途上諸国の外貨準備は3年で倍増し,2005年末に29000億ドルに達したようです.それは彼らのGDPの約3分の1に相当し,もっと利益を上げる投資や,社会的に必要な投資を行うことなく,低い率のアメリカ政府債券に投資されているのです.

それは,頻発した通貨危機を恐れて,政府が外貨準備という保険を得ようとしたからです.たとえそうであれ,既にその額は過剰であり,また直接に対外短期債務を制限するなど,保険としてもっと効果的な方法がある,とLawrence H. Summers Dani Rodrikは考えます


Stephanie Flanders Obituary: John Kenneth Galbraith FT April 30 2006

HOLCOMB B. NOBLE and DOUGLAS MARTIN John Kenneth Galbraith, 97, Dies; Economist Held a Mirror to Society NYT April 30, 2006

J.K. Galbraith, 1908-2006 BG May 1, 2006

In praise of ... JK Galbraith The Guardian Tuesday May 2, 2006

Arthur Schlesinger Jr.J.K. Galbraith's Towering Spirit WP Wednesday, May 3, 2006; A23

(コメント) ジョン・ケネス・ガルブレイスが亡くなりました.97歳でした.30歳以上のアメリカ人であれば,経済学者といえば,多くの人がガルブレイスを思い浮かべる,と.

Stephanie Flandersは書きます.<a New Deal bureaucrat, war-time planner, journalist, adviser of presidents and presidential hopefuls, diplomat, novelist. And, always and until the last, a committed polemicist> それがガルブレイスです.ハーヴァード大学へ見物に来る人は,いつもガルブレイスを見に来た,と.

経済を見えざる手に任すには重要すぎる,と考えたリベラルたちは,1970年代,80年代に論争で敗退し,政治の主要舞台から追放されました.しかし,その考え方が無意味になったわけではありません.ガルブレイスは多くの名著やフレーズを残し,多くの人に影響を与えました.

「経済学は科学ではなく,現状を解釈し続けることである.」と,ガルブレイスは1987年に書いたそうです.「すべて有益な命題は,明快に,飾り立てることなく,誰でも同意できる言葉で書くことができる.」・・・しかし,彼以外の経済学者はそうしない.

「乱暴な個人主義」が満ちたアメリカで,ガルブレイスが求めた「社会民主主義」は満たせぬ夢であった,とJ. Bradford DeLongは述べました.

バークもカーライルも経済学を非難したが,ガルブレイスを知っていたら,あんなことは書かなかっただろう,とArthur Schlesinger Jr.は彼を称えます


May 1 (Bloomberg)

China Needs More Volcker, Less Greenspan

William Pesek Jr.

(コメント) 中国人民銀行のZhou Xiaochuan総裁が金利を引き上げたことは,世界を驚かせた,とWilliam Pesek Jr.は書きました.中国が世界の金利や為替レートを動かす時代の始まりです.

しかし,その前に中国の金融市場を理解しなければなりません.中央銀行は成長と投資のメカニズムに影響を与えます.金利を上げれば融資は減るのか? 増えるだろう,なぜなら(預金金利は据え置かれて)利鞘が拡大したから.過熱した経済を冷ますなら,グリーンスパンよりもボルカーに頼め,と.ただしZhouが学ぶのは,マネタリスト的手法による政治からの独立です.あるいは,為替レートの調整と組み合わせた一国主義的「プラザ合意」です.


IHT TUESDAY, MAY 2, 2006

Helping Asia find its voice

Philip Bowring

IHT TUESDAY, MAY 2, 2006

The right kind of growth for Asia

Haruhiko Kuroda

The Japan Times: Tuesday, May 2, 2006

Asia needs an ambitious Doha outcome

By IFZAL ALI

(コメント) インド・ハイデラバードで行われたアジア開発銀行(ADB)の総会です.アジアは成長を分かち合い,危機回避のための協力関係を築けるでしょうか?

IMF改革でたとえクォータが増え,発言力を得ても,各国がバラバラであれば,アジアの声は生かされません.ADBが重要になります.これまでと違って,加盟諸国の政策を批判しました.すなわち,アジアは二国間協定による自由化など捨てて,もっとドーハ・ラウンドに積極的に関与せよ,と.また,主催国,インドの政府も批判します.自由貿易の利益は国内産業の効率化によるところが大きい.中国よりも関税率の高いインドは効率化に後れを取る,と.

他にも,為替レートの調整やスワップ協定,アジア債券市場の育成など,ADBはアジアの政策形成に積極的な役割を果たす決意です.ただし,主要国の間で政治的な対立がなくなれば.

黒田総裁の論説は簡潔で,しかも重要です.ADBがアジアの国際機関として,政府が関心を向けるべき課題を明確にする気概に溢れている,と思うからです.すなわちアジアの成長は,その安定性を損なう危険のある諸問題から守られるべきである.アジアのすべての地域や部門,諸集団が,成長から取り残されないようにすること.腐敗や汚職をなくし,ガバナンスを改善すること.環境を保護することと,エネルギー需給を均衡させること.こうした課題を解決して,一日2ドル以下で暮らす19億人のアジアの貧困層を減らしたい,と.

百万回でも,繰り返し,アジアの政治家たちに訴えてほしいです.ADBだからできることです.

Asia Times Online, May 4, 2006

Baby steps to a common Asian currency

By Shehla Raza Hasan

May 5 (Bloomberg)

It's Feeling Like 1996 in Asia Once Again

William Pesek Jr.

(コメント) アジア統一通貨はできるでしょうか? 多くの問題があります.誰が参加するべきか? ASEAN+3,として始めた交渉に,インドはどうするべきか? 覇権争いをどうするか? 多様な経済をどう調和させるか? オーストラリア,ニュージーランド,シンガポールとアメリカ,・・・? 円と人民元の争い?

もしアジアが期待に沿う形で改革を実現できれば,OECDやG7よりも,ADBのほうが重要になります.1997年の危機以後,アジアが行った改革は不十分だ,とPesek Jr.は考えます.その膨大な外貨準備はもっとインフラ整備や教育,衛生・保健,社会保障制度の整備に向けるべきです.地政学的な紛争解決には程遠い政治情勢です.谷垣財務大臣が述べたことと逆に,Pesek Jr.はアジア通貨の増価を問題ではない,と言います.輸出に依存し,短期資本の流入に経済運営を誤りさえしなければ.


Asia Times Online, May 2, 2006

Why war comes when no one wants it

By Spengler

(コメント) なぜ誰も望まない戦争が起きたか? 第一次大戦について,ヴィルヘルム2世の考えを中心に検討しています.誰も戦争を望まなかったが,それ以上に,戦争を回避した場合の結果の方がもっと嫌だった.同じように,たとえその結果が好ましいとは思えないにしても,イランの核施設をミサイルで破壊することは,最も人道的な,コストの小さい解決策である,と.


FT May 2 2006

Blue-collar US sees a precarious future

By Edward Luce

The Guardian Wednesday May 3, 2006

Migration: The sound of hope

(コメント) 移民問題は,人口や賃金,アメリカの将来を変えます.アイデンティティー,所得分配,同化(「人種のるつぼ」),社会的上昇・移動性,スケープゴート,・・・ 関税が禁じられているとしたら,何ができるのか? 「工場はすべて中国やインドに逃げてしまう.残ったサービス業における雇用も,メキシコからの非合法移民が埋めてしまう.」「政治家たちは答えを示すべきだ.」 そうでないと,メキシコ国境に自分たちが立つしかない,と.

アメリカはこのまま南米に飲み込まれるのか? アメリカの南米化は,財政赤字,貧富の差,政治腐敗,汚れた戦争,そして,大統領の世襲化,などに顕著です.それどころか,既に4000万人が南米からアメリカに進出しているではないか?

EUでは,イギリス,アイルランド,スウェーデンに続いて,新しく4つの加盟国が新加盟国からの移民を自由化します.アメリカでも,移民たちが新しい市民として受容されるには,まだ何度も政治闘争を経るようです.


FT May 3 2006

Europe must relax its inflation test for euro entrants

By Willem Buiter and Anne Sibert

FT May 3 2006

The widening of the EU is working well

FT May 4 2006

German pay policy points to eurozone design flaw

By Paul de Grauwe

(コメント) ヨーロッパの通貨はどうでしょうか? エストニアなど,東欧の数カ国がEUとの為替レート・メカニズムに入り,その後,ユーロを採用する予定です.財政赤字には問題ない.たとえフランスやドイツが今なら加盟できないほど厳しい要求でも,彼らは満たせます.しかし,為替レートとインフレ率に関する要求を同時に満たすことは不可能です.それで良いのか? 間違いを正すべきだ,とWillem Buiter and Anne Sibertは主張します.

EUの拡大は成功だっただろうか? 新加盟国に雇用や投資が逃げたわけではないし,最も懸念された「移民の波」が旧加盟国に流入したわけでもない.

Paul de Grauweの論説はもっと斬新です.「こんなことを想像してほしい.カリフォルニアの政府,労働組合,被雇用者協会が,他のアメリカ諸州に比べて賃金をカットするために,州の賃金協約を結びます.数年後,カリフォルニアのビジネスは劇的に利潤を増やしました.その後,他の州も賃金を抑制して,自分たちのビジネスの利潤を回復させますが,そのことがカリフォルニアに賃金抑制政策の強化を促します.これはばかげた話でしょうか? もちろん愚かです.しかし,現実にユーロ圏で起きていることです.」

ドイツに始まった賃金抑制策は,ユーロ圏全体に及び,労働者の購買意欲を殺いで,ユーロ圏を不況に落とし込みました.それは投資を減らし,生産性上昇も落ち込んでいます.協調を欠いた,他国を犠牲にして自国企業の利益を優先する政策は,デフレを広めて成長を損ないます.

要するに,各国に賃金協約を結ぶことを許す政策は間違った低賃金政策の動機となるわけです.ユーロ圏として賃金水準を考えるか,あるいは労働市場の整備を促して,個別企業と労働組合が賃金を交渉するに任せるか,です.

ECBに関わる問題ではないですが,賃金決定の問題とデフレの増幅を考慮すれば,制度改革が進むまで,ユーロ圏のインフレ目標を高めに設定したほうが良い,と考えます.


NYT May 3, 2006

Peru's Looming Disaster

NYT May 3, 2006

An Ugly Side of Free Trade: Sweatshops in Jordan

By STEVEN GREENHOUSE and MICHAEL BARBARO

(コメント) 狂信的な軍人と,犯罪や汚職に染まった過去の指導者.二人の暴君による大統領選挙,というのが,アルベルト・フジモリの残したペルー政治です.他方,ヨルダンでは,アメリカのスーパーマーケットに売るカーペット生産の利益を求めて,人身売買や奴隷労働に依拠する苦汗工場が増えています.

望ましい社会の前提とは・・・ 民主的な選挙? 自由貿易? それでは単純すぎます.

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The Economist, April 22nd 2006

The oil market: Nostalgia for calmer days

Economics focus: Money to burn

Mexico’s presidential election: The front-runner under pressure

New Germans: Multicultural hysterics

(コメント) 石油価格の高騰,メキシコ大統領選挙,ドイツの移民統合化問題,に注目しました.

原油価格が20ドルから70ドルに上昇すれば,石油に依存した経済は破滅するのではないでしょうか? まだそうではないが,将来の不確実性を減らすべきだ,と記事は指摘します.

なぜ上昇したのか? 1.サウジアラビアの供給余力が価格を抑制してきたが,世界需要によって枯渇するだろう.2.市場で問題を解決できる.高価格は消費を抑制し,効率化や油田開発を促す.しかし,3.新しい油田が政情不安や国営企業による管理によって市場を損なう危険もある.他の不確実性として,4.投機的な資金によって価格が上昇する.5.世界のインフレや金利に影響する.6.開発や利用における新技術の適用.

1970年代の石油危機との違いも注目されます.産油諸国は消費に向けず,欧米の銀行にも預金せず,債券市場で運用させています.それゆえ,新興市場の赤字や開発に融資するのではなく,アメリカの財務省証券を安くして,住宅価格の上昇や政府の赤字を助けます.他方,低金利にもかかわらず,世界のインフレは抑制されており,金利の引き上げは緩やかです.

だから? 石油価格もアメリカの双子の赤字も問題ない? しばらくは,です.もし時間をかけて,政府が円滑な調整を行うなら,石油危機は再現しません.しかし,たとえばアメリカと中国が貿易・為替・金融戦争を始めれば,産油諸国はドルだけで保有することをやめるはずです.

メキシコでは選挙のたびにポピュリズムが復活し,大統領と公務員上層部の給与を半減させる! 老人と子供,身体不自由な者に,毎月,補助金を与える! と約束します.

ドイツでは,移民の第二世代をめぐって激しい論争が起きています.ドイツ語を上手く話せない,高校を中退し(40%),失業した若者が増えています(26%).民族の同質性を求める保守派の政治家は要求します.文化や政治に対するチェックを厳しくするべきだ! 成績不良な子供は学校から追い出すべきだ! さまざまな法案や条例を政治家たちが提案します.フランスのようなスラムは形成されていませんが,大都市では暴力事件やイスラム過激派に関心が集まります.

そして記事はどう終わっているか? 一つは,メルケル首相の呼びかけた「統合のためのサミット」です.移民の子供たちには,特別な社会的支援が必要である.もっと多くの教師,もっと小さなクラス,もっと時間をかけて教育を受けさせること.他方,ドイツ人自身が,社会に害をなすものという移民イメージを変えられるか? もっと想像力豊かな政治家が,ドイツの人口変化や優れた移民の活躍をドイツの一部として理解すること.


Financial reform: Reality check at the IMF

Reshaping the IMF: Not even a cat to rescue

(コメント) 何か問題があれば,それを解決するにも,先送りするにも,お金が要ります.それにもかかわらず,なぜIMFは軽視され,批判されているのか?

IMFには資金が無い.IMFも融資によって利子を得るので,通貨危機に融資できなければ組織を維持する資金もなくなります.お得意先の新興市場は潤沢な外貨準備を蓄えています.もちろん,将来も危機は起きます.

アジア諸国のように,IMFの何倍も外貨準備を保有する地域は,むしろ自分たちで緊急融資を考えています.IMFとしては,外貨準備をバラバラに保有して運用するのは無駄だ,融資の基準を世界的にそろえるほうが良い,と考えますが,IMFのほうが本当に良いのか? と疑われます.

そこで,新興市場の発言力を増す改革案が必要になります.そして,準備を使って何ができるか,さまざまな意見を検討しているわけです.いずれにも問題があり,記事はサーベイランスを強調する改革案に反対します.無駄だから.しかし,為替レートや不均衡の調整政策を議論しないとしたら,IMFなど存在しないのと同じでは?