IPEの果樹園2006
今週のReview
3/13-3/18
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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安全保障 :EUエネルギー政策,インドの核
貿易・投資 :高齢化
通貨・金融 :日銀の政策転換
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT February 22 2006
China launches ‘New Deal’ for farmers
By Richard McGregor in Beijing
FT February 27 2006
A fierce battle hobbles China’s march to the market
By Richard McGregor
(コメント) 中国の指導者たちが市場を本格的に容認し始めてから,社会の下部構造,あるいは精神構造や欲求,・・・農村から下半身?に至るまで,大きな変容を遂げるまでに,20年以上かかりました.しかし,わずか20年か30年です.一世代でこれほど衝撃的な変化をもたらすとしたら,誰も改革を進める意志など持たなかったかもしれません.
中国版の「ニュー・ディール」(アメリカ?)が提唱され,「新しい社会主義的田園=カントリーサイド」(イギリス労働党か,韓国の農村開発政策?)を建設する,と中国指導部は主張します.その目的は,繁栄する沿海部に比べて,取り残された内陸農村の疲弊,政治腐敗,社会不安,人道流出を食い止めることです.
地方政府は土地を収奪して乱開発し,農民を追い出しています.農民たちには土地の所有権を認めていません.記事は,農民による土地所有と売買を認めることが,土地の生産的な利用と農村の開発に繋がる,と考えます.他方,中国政府はそれを嫌います.なぜなら,地方の混乱を収拾する政治的な介入手段を失いたくないからです.また,もし農民が自由に土地を売れるなら,一斉に土地を売却して価格が暴落し,都市に流入する貧しい農民の数が激増する,と恐れるわけです.
社会主義的な田園都市,豊かで平和なカントリーサイドの実現をめざして北京政府が発したのは,土地利用規制の強化,農村減税と地方のインフラ整備を通じた財政的移転,都市化の抑制,でした.これに対しては,むしろ,貧困解消には都市化を加速するべきであり,財政移転は農村の疲弊と経済的依存を強めてしまう,という批判があります.
ずっと前に引退していたマルクス主義経済学者Liu Guoguangが,最近,中国で注目を集めている,と言います.その背景には,もちろん,中国の現執行部に対する不満があります.アメリカよりも,ロシアよりも,所得分配が不平等であると報告されている中国について,北京政府が何か行動を取らなければならないと考えるのは当然です.Liuは,共産党の一党支配と市場による成長がもたらす不平等を結び付けて議論した点で,無視できないわけです.
WP Monday, March 6, 2006; A15
Trade And the China Card
By Sebastian Mallaby
FT March 7 2006
European threat to imports from China
By Raphael Minder in Brussels
Asia Times Online, Mar 8, 2006
China's reverse Marshall Plan
By Max Fraad Wolff and Richard Wolff
FT March 8 2006
China's have-nots
NYT March 8, 2006
The Wild Web of China: Sex and Drugs, Not Reform
By DAVID BARBOZA
IHT THURSDAY, MARCH 9, 2006
China keeps them down on the farm
Philip Bowring
(コメント) 中国と言えば,アメリカやEUとの貿易摩擦,国内の貧困問題,インターネットの普及(ただし,政治表現よりもセックスの自由化),農村改革,などが注目されています.成長にもかかわらず,悲観論が強まっているわけです.
ただし,Max Fraad Wolff and Richard Wolffの論説は少し異なります.経常収支黒字の中国から赤字のアメリカに向けて行われている投資を,「逆マーシャル援助」と呼んでいます.この場合,米中の経済共同体の発展に貢献した重要性は,戦後のヨーロッパ安定化と復興に負けないものと積極的に評価されています.
他方,FTは,貧困を減らすために,さまざまな社会保障制度や教育制度,社会政策が改善されなければならないが,制度の腐敗をそのままに公的支出を増やしても,汚職が蔓延するだけだ,と警告しています.Philip Bowringも,中国農村のオーウェル的な《動物農場》を批判します.
WP Sunday, February 26, 2006; B07
By George F. Will
BG March 1, 2006
Freedom of hate speech
By Jeff Jacoby, Globe Columnist
LAT March 2, 2006
The creeping tyranny of taboos
By Timothy Garton Ash
The Guardian Monday March 6, 2006
Take a potshot at the powerless, and you too can win a medal of valour
Gary Younge
(コメント) George F. Willは,政府が言論内容の規制に関与することを,それがどれほど危険な思想であっても,慎重であるべきだ,と考えます.
ホロコーストの存在を否定することは,オーストラリア,ベルギー,カナダ,チェコ,フランス,ドイツ,イスラエル,リトアニア,ニュー・ジーランド,ポーランド,ルーマニア,スロヴァキア,スイスにおいて法律で禁止されています.オーストリアでは,ナチスの残虐行為を軽視したり,否定することすべてを禁じています.歴史家David Irvingは,オーストリアの右翼学生の招きで講演し,3年の禁固刑を言い渡されました.では,ホロコーストを否定するイランの指導者や,デンマークの風刺漫画に対する抗議ついて,ヨーロッパは政府による規制で対処できるのか?
政府がいったん関与すれば,なぜ奴隷制についても「間違った」発言を禁止しないのか? と言われるでしょう.スターリンや毛沢東,靖国神社,イラクの9・11関与について,同様に「間違った」発言をする者は各国が犯罪にして,逮捕したほうが良い? ・・・どのような社会にも聖職者はいるものだ.しかし,聖職者に支配された社会は好ましくない.・・・問題は,どうすれば聖職者の影響を支配から分離できるか,ということです.
Timothy Garton Ashは,棒物実験に反対するALF(動物解放戦線)と学生たちの衝突について書いています.私は誇らしく思った,と.すなわち,オックスフォードでは,学生の奨学金や家賃のことでもめるだけでなく,少数派の意見を主張し,それに対して「真実」や「理性」を掲げ,「科学の進歩のために」学生たちが,早朝の寒さをものともせずに,集まって論争しているから.同時に,こうした論争には,国家の強制メカニズム(法律や警察)は好ましくない,と.
暴力により強められた威嚇は,断固,粉砕しなければならない.それが世界から専制を排除する理由である.しかし,ますます多様な価値や文化的要素を混在しつつある世界で,その一つ一つに法律や警察が関与することは好ましくない.むしろ,人々が論争によって行動や発言の基準を合意するに任せるほうが良い.その意味で,Ashはオックスフォードの衝突を歓迎するのです.
他方,ハーヴァードではサマーズ学長が辞任しました.アジア通貨危機を押さえ込んだ豪腕も,ハーヴァード大学の学内紛争には歯が立たないようです.黒人,軍隊,女性,など,サマーズは手ごわい相手に,彼の理性で解決を図りましたが受け入れられませんでした.彼は学長の権限や思想の自由を守って辞任し,そのことで勇敢さを称える者もいます.
しかし,Gary Youngeは,「頑迷さ」と「勇敢さ」は違う,と批判します.サマーズは,女性は知的に劣っている,と発言し,勇敢であったと言われます.同様に,数年前,Prospect誌の編集者が,同じ人種を好む,と書いて賞賛されました.「勇敢さ」は,弱者の声を代弁し,抑圧された真実を公に発言する者にこそ,ふさわしい賞賛です.高位にある者が,自分の価値を「自由に」発言できると固執することが,沈黙を強いられる者には「傲慢」で「頑迷」なものとして拒否されます.
「政治的に正しい」とはどういう意味か? 魔女を火刑に処し,貧しい孤児を救貧院に閉じ込めてムチで打つ.どこでも,さまざまな「政治的標的」がでっち上げられます.日本の政治家や官僚,学者たちも,もっと風刺画を描き,靖国や南京大虐殺,真珠湾,従軍慰安婦,などを議論して,市民としての合意を探すことです.もちろん,こうした論争に加わろうとしない「頑迷な」政治家や指導者たちは,辞めさせるべきです.
FT February 27 2006
Bono’s effort to end poverty is noble but misdirected
By Jagdish Bhagwati
(コメント) Jagdish BhagwatiがボノのLive8に反対する理由は,1.援助をすべてアフリカの内部で支出しなければならない,2.豊かな諸国はGDPの0.7%を援助しなければならない,と求めているからです.Bhagwatiは,開発理論や政策に半世紀も関わってきたが,どちらの主張も初期からあったが,成功しないものだ,と指摘します.
援助の問題は,しばしば援助を受け入れる国がそれを無駄にせず,有効に国民の福祉の改善に使えるか,という受け入れ能力の問題でした.実際,援助によって国内貯蓄が減ってしまったり,政府の腐敗・汚職が蔓延する場合が多かったのです.他方,アフリカの貧困を減らすために,病気の治療法を改善することに援助を使うことは,アフリカの外でもできます.
また,援助額を政府に強いるような国際合意は,何度求められても,北欧諸国を例外として,実行できませんでした.それは,いずれの政府も,ハードな予算制約がある中で,有権者から多くのことを求められているからです.Bhagwatiは,政府ではなく,むしろ個人に求めるべきである,と主張します.なぜなら個人は,援助についてソフトな予算制約であり,高級レストランで食事するのをやめて,マクドナルドで済ますことにより援助額に充てることができるからです.
ボノが援助に対する関心を高めたことには賞賛を惜しみませんが,彼のやり方では,アフリカの貧困を減らせないだろう,と.
Feb. 27 (Bloomberg)
Japan's Debt Straitjacket Is Out of Style
William Pesek Jr.
FT March 2 2006
Easy does it in Japan
NYT March 4, 2006
Japan Expected to Shift Policy and Raise Rates
By MARTIN FACKLER
FT March 6 2006
OECD advises BoJ to keep interest rates at zero
By Chris Giles, Economics Editor
FT March 6 2006
A chart for Japanese monetary policy
By Takatoshi Ito
FT March 7 2006
Unreformed, but Japan is back
By Martin Wolf
(コメント) 日本の金融政策をめぐる論争は,今も,続いています.景気回復,デフレ脱却,量的緩和政策,インフレ,バブル懸念,預金金利,公的債務,金利上昇,増税,・・・ 何が変わったのか? という論説が出るわけです.
これほど累積した国債をどのように処理するのか? 景気回復とともに上昇する資金需要は国債価格を暴落させ,金融システムにショックを与えるのではないか? そのような問いは以前と同じく示されています.上手く行けば,民間部門の投資や利潤が増えて,歳入の増加により国債は償還され,銀行も保険会社も資産を入れ替えるわけでしょう・・・が.
金融政策の「正常化」にこだわる日銀が,日本の景気回復やデフレ脱出を,再び,頓挫させるのではないか,という懸念も繰り返し表明されています.FTやOECDは,量的緩和政策(QE)を終了して,インフレ圧力が高まったとはっきりするまで,ゼロ金利政策を維持すること,を求めます.日本が金利を上げれば,世界の市場金利上昇が始まるかもしれないから.
今度は,国債管理をめぐる「抵抗勢力」として,小泉・竹中が福井日銀総裁を追い詰めるのでしょうか? 伊藤隆敏氏は,デフレ・リスクがまだ残っている,と福井総裁のQE解除を牽制します.金融政策のガイドラインを示して,金融市場の不安を沈静化するべきだ,とも主張します.つまり,インフレ目標を示すこと,です.独自に決めれば良いではないか? あるいは,当面の小泉・竹中路線に服従する・・・
何もかも,同じ話の繰り返しではないか? Martin Wolfは,日本が改革などまったくせずに,それでも景気回復することを示した,と考えます.成長とデフレ脱却.これは「小泉改革の成果」なのか? 「まさにその逆,というのが正しい答えだ.もし首相が最初に提案したように,構造改革と財政赤字削減,を行っていたら,その結末は破滅であっただろう.幸いなことに,より賢明な助言がそれに打ち勝った.」
日本の復活を断言したBill Emmottとは逆に,Wolfは日本の復活が,大規模な為替市場に対する介入によって可能になった円安がもたらす輸出拡大と,相も変らぬ低い収益や成長率しか実現できない企業の過剰な設備投資に依存している,と厳しく批判します.これでも「先進国」か?
この15年間の苦しみによって,日本人は何を得たのか? Wolfは,破滅の淵を何とか渡りきった,と評価しているようです.リチャード・クー氏の指摘を引用して,アメリカの大恐慌を超える資産価値の破壊を経験しながら,財政支出と金融緩和により,日本は破局を回避したからです.そして,ようやく本当の挑戦,もっと消費に依存した,もっと効率的な投資と公的債務の少ない経済を実現する,という挑戦に取り組めるようになった,と.
March 8 (Bloomberg)
Japan's Problem Is High Costs, Not Deflation
William Pesek Jr.
FT March 9 2006
Japan seeks a way forward as monetary calm returns
By David Pilling
FT March 9 2006
Lex: Japanese monetary policy
March 10 (Bloomberg)
Bank of Japan Takes Big Risk With Policy Change
William Pesek
(コメント) 量的緩和政策(QE)が終わっても,インフレ目標や日銀をめぐる論争はまだまだ続きそうです.
William Pesek Jr.が言うように,デフレが終わったことを喜ぶよりも,日本の価格はまだまだ高いものが多い,と私も不満を感じます.もしアジアの中で,中国やインドにおける低賃金や生産性上昇と一緒に生きるなら,もっと速やかに日本の諸物価が現実を反映するべきではないでしょうか?
NYT February 27, 2006
We Can Live With a Nuclear Iran
By BARRY R. POSEN
(コメント) イランの核兵器保有を戦争によってでも阻止するべきだ,という主張を,BARRY R. POSENは冷静に批判します.イランが核兵器を保有しても,それによってもたらされる周辺諸国の核軍拡競争はある程度に制限できるし,イランがその核を用いて特別な目的を達成することは抑止できるだろう,と.
北朝鮮については,アメリカはどう考えるのか? 現状では当てはまらないでしょう.しかし,もし南北朝鮮が統一すれば,同様の議論になるかもしれません.
NYT February 27, 2006
Graduates Versus Oligarchs
By PAUL KRUGMAN
WP Wednesday, March 1, 2006; A17
The Next Big Spenders
By Robert J. Samuelson
NYT March 6, 2006
Feeling No Pain
By PAUL KRUGMAN
NYT March 6, 2006
Hazards of Boom-Time Borrowing
FT March 8 2006
America's looming fiscal iceberg
(コメント) アメリカでも中国でも,もちろん日本でも,所得格差がますます重要な問題になっています.経済学には分配(その絶対的な格差)を説明する明確な議論がない,と私は思います.一方では独占や地代が,他方では効果や機会費用が,それを「説明」するのでしょうか?
PAUL KRUGMANは,富のますます多くの部分を一握りのオリガーク,特権的エリートたちが独占することを批判しています.''Where Did the Productivity Growth Go?''という,その題名からして興味深い報告を利用して,1972年から2001年までの所得変化を描きます.賃金とサラリーの下から90%の人々は34%しか,すなわち年間約1%しか所得が増えなかったのに,99%の人々は87%,そして99.9%の人は181%も増えた.99.99%の人は,なんと497%,つまり5倍になったわけだ.
彼らの所得とはどれくらいか? KRUGMANは納税額から推定して,99%の人の所得額を40万2306ドル(約4700万円)と示しています.さらに,99.9%の人は167万2726ドル(約2億円),99.99%の人は600万ドル(約7億円)以上の所得を得ている,ということです.
ところがバーナンキ連銀新議長は,所得格差を教育の問題と捉え,ますます知識や技能が高い価値を持つ時代になった,とうそぶいたわけです.また,インドとの関係やアウトソーシング,グローバリゼーションについて,アメリカの労働者が不安を抱くのは,ブッシュ政権下のアメリカが成長の果実をこうした不平等な分配に従わせているからです.所得格差の拡大は,腐敗や汚職を招き,民主主義を損なう,と心配しています.日本では小泉首相も竹中大臣も軽視していますが.
Robert J. Samuelsonは,世界の支出が不均衡であることを問題にしています.アメリカの消費者が正気に帰るに連れて,新興市場の消費が増えることで世界のバランスが回復する.そうあってほしい・・・?
日本もそうですが,アメリカもその財政赤字を批判されます.なぜなら,日本と違って,アメリカは外国からの資本流入に依存しながら,世界中に軍隊を送っているからです.
WP Monday, February 27, 2006; A15
What's Needed From Hamas
By Henry A. Kissinger
WP Sunday, March 5, 2006; B07
What's Achievable in the Mideast
By Jim Hoagland
FT March 7 2006
Maybe too far to go back for Hamas
By Rashid Khalidi
(コメント) ハマスは,シャロンが最近になって漸く成し遂げた現実との調整を,自分たちで成し遂げることができるだろうか? とHenry A. Kissingerは問います.ハマスの政府も意外ではなく,その主張は今までのパレスチナ人の延長にある,と.シャロンは人口により,ハマスは領土により,互いの目標を阻まれている.彼らはそれらを交換するしかない.
Jim Hoaglandは,ブッシュ政権にも現実との調整を求めています.迅速に民主主義を構築することと,軍事的な展開とが,現実のアラブ世界をますます手に負えないものにするから.そして,その調整が,二国案に基づいてパレスチナ人自身が安定を創り出せないのであれば,パレスチナからイスラエルを隔離する一方的な行動と隔離フェンスである.しかし問題は,それではブッシュ政権が唱えるような「中東世界の民主化」や世界からの支持を得られないことです,と.
Rashid Khalidiも,ハマスを勝利させたのは,シャロンとその入植地拡大政策,イスラエルによるパレスチナ占領政策であった,と主張します.それに協力したとみなされて,ファタハは衰退しました.ハマスはイスラエルの存在を認めていない,と言うけれど,イスラエルがPLOを交渉相手と認めるまでに何年かかったと思っているのか?
WP Monday, February 27, 2006; A15
By Jackson Diehl
NYT March 1, 2006
The End of Oil
By ROBERT B. SEMPLE Jr.
The American Prospect 03.06.06
Keep 'em Regulated
By Robert Kuttner
The Guardian Tuesday March 7, 2006
Join Brazil in planting oil
Luiz Inacio Lula da Silva
FT March 9 2006
Oil prices need to stay up
By Samuel Brittan
(コメント) 石油や天然ガス,エネルギーの供給をめぐって,さまざまな政治・経済問題と,異なる政治体制間で共同計画が交渉されるのは,決して日本と中国に限られる現象ではありません.もちろん,だから楽観できる,と言うつもりもありませんが.
ロシアに石油供給を依存してもいいのか? ヨーロッパはエネルギー供給を効率化し,企業の合併を認めるべきではないか? アメリカはエネルギー供給を「自由化」して,より安価で安定した供給を得たか? ブラジルの雇用創出計画にはベネズエラからのエネルギー供給が不可欠か? あるいは,エタノールやバイオディーゼルが必要なエネルギーをすべてまかなえるのか? そして,石油価格はこのまま上がり続けて安定し,緩やかに石油の時代を終わらせるべきではないか?
Samuel Brittanは,世界不況やインフレよりも,石油価格が突然暴落することを心配しています.なぜなら,ブッシュ大統領と同じく,中東など,政治的に不安定な地域にエネルギー供給を世界が依存し続けてはならないからです.
Feb. 28 (Bloomberg)
Asian Politics Trump Economics, Deal Wild Cards
William Pesek
March 7 (Bloomberg)
Indonesia's Dilemma on Growth, Prices
Andy Mukherjee
March 7 (Bloomberg)
Where `Argentina of Asia' Label No Longer Fits
William Pesek
(コメント) 新興市場の成長と安定性は確立されるでしょうか? タクシンとアロヨに代表される国内政治の不安定化は,アジア中に存在します.中国,台湾,フィリピン,インドネシア,韓国,日本,いずれも内外に政治不安を抱えています.つまり新興市場への投資家は,通貨価値や債務,さまざまなデータだけでなく,街頭の政治宣伝にも注意しなければなりません.
India's nuclear freebie FT March 1 2006
Rethinking India LAT March, 1 2006
David Ignatius Good Nukes, Bad Nukes WP Wednesday, March 1, 2006; A17
Andy Mukherjee Bush Must Keep His Promise and Light Up India March 2 (Bloomberg)
Partnering with India BG March 3, 2006
Selig S. Harrison A nuclear partnership with India BG March 2, 2006
Bush gambles with the nuclear rulebook FT March 3 2006
Pointless Trip to Pakistan NYT March 3, 2006
Philip Bowring Good for you. Bad for us. IHT MONDAY, MARCH 6, 2006
Rajan Menon and Anatol Lieven Overselling a nuclear deal IHT MONDAY, MARCH 6, 2006
BOB HERBERT Nuclear Madness NYT March 6, 2006
David Von Drehle The Multipolar Unilateralist WP Sunday, March 5, 2006; B02
Michael A. Levi US needs nuclear policy BG March 7, 2006
Rajan Menon A nuclear deal, warts and all LAT March 7, 2006
Mr. Bush's Asian Road Trip NYT March 7, 2006
THOMAS L. FRIEDMAN Letting India in the Club? NYT March 8, 2006
(コメント) インドをめぐるアメリカの核政策転換は,もしかすると,ニクソンの中国訪問と同じように,国際安全保障体制や世界観の重大な修正に近いものです.・・・あるいは,的外れで,無責任で,矛盾した,意味のない外交政策の,場当たり的ショー・・・?
ブッシュ政権は,インドを国際安全保障や政治経済システムの次のパートナーにしたい,というアメリカの明白な意図によって,核兵器の保有を公認しようとしました.・・・中国でも,日本でもなく.その意図は理解しやすいものですが,国際システムは非常に多くの軋轢を生じます.パキスタンはどうするのか? 核不拡散はどうするのか? イランや北朝鮮はどうするのか? アメリカ・中国・インドで,政治的綱引きをするのか?
要するに,ブッシュ氏に問われていることは,「今も,核保有や国家中心の勢力均衡で,国際システムを有利に転換できると思っているのか?」 ということです.
Philip Stephens A perilous collision of ideas FT March 2 2006
Europe's energy angst LAT March, 4 2006
William Keegan Ghost of August 1914 spooks EU The Observer Sunday March 5, 2006
Paul Betts European Comment: Nationalism and energy policy FT March 6 2006
Jose Manuel Barroso and Andris Piebalgs Europe's energy challenge IHT WEDNESDAY, MARCH 8, 2006
Javier Solana Why Europe must act collectively on energy FT March 8 2006
Europe's power play FT March 9 2006
(コメント) なぜEUは,この世界綱引き大会に出場しないのか? それはEU内部の綱引きに忙しいからです.グローバリゼーションは,産業時代のナショナリズムを今も引きずっています.人々は何に帰属し,何に対して忠誠を誓うのか? 国家と言うより,民族の幻想.
たとえ欧州委員会やFTが理性に訴えても,政治家たちは従わないようです.団結することが,より大きな自律した力を得る正しい方法であると分かっていても.互いを信用できるでしょうか? EUの外交政策を代表するJavier Solanaの論説を,読んでください.・・・「共通の利益,そして共有された原則に基づき,欧州エネルギー外交を採用するときが来た.」
FT March 2 2006
Why trades unions need a ‘clause 4 moment’
By Alan Milburn and David Coats
(コメント) 労働者の数は増えたのに,イギリスでも労働組合員は25年前の半分に減った,ということです.労働組合は変わらねばなりません.
労働組合は今も必要です.職場に起こる問題を協力して解決できる条件を示すために.労働組合のある職場のほうが,事故は少なく,職業訓練も受けやすいし,男女による差別も少ないようです.なんでも法律によって解決する傾向が強いですが,もし自分たちで解決する力を失えば,法が解決するか,それができない場合は泣き寝入りです.
ものが豊富にあり,個人的な消費万能の流れの中で,組織に敬意を持たず,個人の自由が重視されるとき,労働組合はどうやって生き残るのか?
BG March 2, 2006
FT March 7 2006
Migration policy has to keep the market in mind
By Dhananjayan Sriskandarajah
Asian Age, 8 March 2006
Hard Work, Furtive Living: Illegal Immigrants in Japan
- By Sharon Noguchi
WP Wednesday, March 8, 2006; A19
Build a Fence -- And Amnesty
By Robert J. Samuelson
FT March 9 2006
US migrant headache
(コメント) 「ゲスト・ワーカー」計画を進めて,移民たちを一定期間だけ働かせ,その後は追い返す.こうした法律は,アメリカを巨大なゲート・シティに変えてしまうだろう,とBGは懸念します.むしろ,アメリカに来た労働者は移民法に従い,あるいは,市民権を取るように促すべきではないのか? と.
アメリカは労働者を必要としている.彼らを法の外に置いたまま,地下経済を拡大していることが問題です.だから,もっと人間的な法律によって,雇用する者もされる者も,満足できる枠組みが必要なのです.
しかし,イギリスでも同じような移民政策が採用されつつあります.それは,ポイント制による移民の選別システムです.経済的な必要性と政治的反発,この二つを前提に移民労働者の利用を可能にするシステムです.Dhananjayan Sriskandarajahは,こうした労働者の分類や選別が,政治的にアピールすることは認めても,経済的な現実にそぐわない,要するに政治家の口実ではないか,と疑っています.
Sharon Noguchiは,22万人と推定される日本の非合法移民労働者,また35万人の日系人移民労働者の実態を紹介しています.日本政府はこうした実態を無視して,その労働条件や社会保障,医療保険を,まったく無視しています.
アメリカ・メキシコ国境2000マイルにわたって,フェンスを築いて非合法移民を遮断するべきだ,とRobert J. Samuelsonは提案します.彼は保守派の論客ではありません.フェンスは醜く,人種差別と結び付けられ,メキシコ政府を憤慨させる.しかし,フェンスはアメリカにこれ以上の下層階級を増やさず,社会対立を激化させないために,必要なのである,と.そして,非合法移民を雇用する雇い主には厳しい罰金を課する.
Samuelsonは,移民たちがアメリカにおける労働供給の不足を満たしている,という反対意見を退けます.もし本当に労働供給が不足しているなら,もっと賃金は上昇するべきではないか? と.産業界はこぞってメキシコ系移民労働者を歓迎するが,それは文化的な同化が容易であるからではなく,賃金が安いからである.もし安価なメキシコ系移民労働者が供給され続ければ,それはメキシコ系移民がアメリカで賃金を上げることを妨げる.フェンスを築き,国内の非合法移民に市民権を与え,どうかを促すことが重要だ,というわけです.特に,その子供たちのことを思えば.
WP Thursday, March 2, 2006; A21
We Can't Force Democracy
By Robert D. Kaplan
(コメント) ブッシュ大統領は,アメリカの経験を世界に適用すれば民主主義を構築できる,と考えました.しかし,Robert D. Kaplanは,アメリカの民主主義はヨーロッパの歴史的伝統によってその条件を与えられた,と指摘します.フセインは余りにも秩序を破壊してしまったから,彼を取り除いた社会には何も残らず,ホッブズの世界が現れた.アメリカは,専制支配を安易に取り除いてはならない.それは有機的な生き物のように,自ら死滅し,民主的な権力を生み出さなければならない.安定化し,社会の秩序が正常に発育するのを促すこと.それにとどまる.
NYT March 3, 2006
The Big Question
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) イラクはイラクだからサダムのように支配するしかないのか,それとも,サダムだったからイラクはイラクのようになったのか? アメリカは判断を(あるいは能力の限界を)迫られているようです.イラク軍を解体し,アメリカ軍は少なすぎた.要するにアメリカ政府の怠慢によって権力の真空が生まれ,人々は古来の宗派間・民族間対立と怨嗟の循環に従い,サダム後の政治を動かすようになったのか? アメリカは選挙によるイラク政府の成立を助けた以上,後は彼らの問題だ.破壊の責任は果たした.今や,帰還を急ぐべきか?
The Japan Times: March 8, 2006
Can monarchical systems survive?
By HUGH CORTAZZI
(コメント) サウジアラビアも,タイも,ネパールも,・・・王制です.成功している国もあれば,失敗している国もあります.イギリスのチャールズ皇太子や,日本の皇太子について,王制や天皇制を続けるべきかどうか,さまざまに比較することは重要です.
David K. Shipler No masking the poverty LAT March 3, 2006
Barbara Goldoftas A natural disaster's political roots BG March 4, 2006
James Carroll Bush, lies, and videotape BG March 6, 2006
John K. Bullard Heading for a 'roasted world' BG March 6, 2006
David Ignatius The Planet Can't Wait WP Wednesday, March 8, 2006; A19
(コメント) ニューオリンズを見れば分かる.貧困や災害に対して,ブッシュはその責任を果たさない.1960年代の都市暴動の時代が・・・懐かしい? そして地球環境も,彼の支持基盤ではないようです.
The Japan Times: March 4, 2006
By HANS-WERNER SINN
(コメント) 「市場経済は効率的かもしれないが,公正ではない.なぜなら賃金も希少性の法則によって決まる.それは人々に必ずしも市民にふさわしい暮らしを保障しない.」 だから西欧では福祉国家が発達した,とHANS-WERNER SINNは書きます.しかし,結局,この政策は今日の大量失業にも責任があるのです.雇用主は十分に生産的でない労働者を雇わないし,労働者は社会保障と比べて十分な賃金を得られない職に就かない.それゆえ,福祉国家は変わらねばなりません.
SINNはここに,中国からの未熟練労働者の参入と貿易による西欧の失業を加えます.このままでは,西側の未熟練労働者の大量失業は減らないだろう,と.中国が新しい均衡をもたらすまでには数十年を要する.調整のために,西欧の福祉国家を一時的に停止し,十分な雇用をもたらすまで,賃金を弾力的に下げるべきだ.福祉国家は,賃金を補填するのではなく,社会的なインフラや給付によって生き残る,と.
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The Economist, February 11th 2005
Waiting for a Wunder: A survey of Germany
(コメント) ドイツ経済についての厳しい分析です.なぜドイツ経済は停滞しているのか? それは成功によって制度の硬直性が高まり,既得権に縛られて改革できないからだ,ということのようです.特に,州の独立性,経済の変化を反映しない教育システム,労働市場,そして移民問題,が取り上げられています.
The Economistの意見は,もっともであると思う反面,何か一般論に偏っているようにも思います.もっと,東西再統一やユーロ誕生の影響,中国や東欧圏との市場統合の影響を,重視するべきではないでしょうか? もちろん,上記の分野に硬直した旧制度があるから,こうした変化に対応できず,それがドイツの衰退をもたらした,と言うわけですが.
移民政策については,興味深い都市比較が行われています.ドイツの「民族」に依拠した移民政策を,日本の政策と比較してみたいです.
The Economist, February 18th 2005
How to manage an ageing workforce
The ageing workforce: Turning boomers into boomerangs
(コメント) 高齢化に対する対策とは,年金や財政がパンクする? 労働者が足りない? 熟練や技能が失われる? 中国に工場を移すとか,移民労働者を受け入れるとか,ロボットを開発する,・・・ そんなことよりも,The Economistは,高齢者が働きやすい制度に変えることを重視します.年金の制度や給与の決定,労働市場の多様化が重要だ,というのは説得的であり,私も賛成です.
Japan: The past’s long shadow
(コメント) 小泉,安部,麻生の近隣摩擦政策について,The Economistが世界中の英語読者に説明しています.そして,天皇裕仁の右翼政治からの分離や,憲法改正・靖国参拝の論陣を張ってきた読売新聞の変心?なども.
ほとんど国際ニュースに載らない日本という国を,世界はどう見ているのでしょうか?