IPEの果樹園2005

今週のReview

12/4-12/9

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :中国の右派と左派反アメリカ主義

安全保障 :ブッシュのアジア外交,日米会談

貿易・投資 :GMの赤字人民元切上げ

通貨・金融 :ECB金利引上げ12不均衡とアジア通貨

世界統治 :中国の環境破壊,都市開発,移民政策

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


FT November 23 2005

Monetarists cry wolf on eurozone inflation

By Paul de Grauwe

NYT November 25, 2005

Rate Rise Is Opposed in Europe

By MARK LANDLER

Dec. 1 (Bloomberg)

Score So Far Is ECB, 1; Unsolicited Advisers, 0

Caroline Baum

(コメント) ECBの理事や総裁として名前が挙がるほど尊敬されるベルギーの経済学者Paul de Grauweが,ECBの金利引き上げを批判しました.インフレ目標は将来のインフレ率を目標にしなければならない.また,2%という「マジック・ナンバー」を振り回すのは愚かなことだ(財政赤字をGDPの3%以下にするという約束が既に破棄されたように).そして,現在のようにインフレが抑制されている世界で,マネタリストの数量的予測(M3の増加率)を信じるのは間違いだ,と.たった数ヶ月で,インフレの懸念を否定した立場をトリシェ総裁が逆転させた背景には,そのようなマネタリストのハードコアが政治力を行使していると推測します.それがユーロ圏の回復を破壊しなければよいのだが,と願いつつ.

ドイツやフランスの景気回復は弱く,金利上昇によってユーロが増価すれば輸出を損ないます.しかも,ドイツの連立政権は増税するだろうとビジネス界で予想されています.確かに,景気はまだ拡大しつつあるから,ECBは早期に引き締めに着手する代わりに,非常に緩やかにそれを行うだろう,と期待する意見があります.

IMF,欧州議会の経済金融委員会,OECDがECBの金融引き締めに反対していました.問題は,ユーロ圏の潜在的な成長力であり,高齢化,生産性上昇,失業,などです.もちろん,ECBの金融政策がそれらを解決できるわけではありません.潜在成長率を超える需要が続いたとき,インフレが生じます.それを抑える(あるいは刺激する)ことがECBの仕事です.


Nov. 23 (Bloomberg)

Fed Doesn't Have Much Power to Fix Trade Deficit

John M. Berry

Nov. 24 (Bloomberg)

Bernanke for Asia? Mundell Seems to Think So

Andy Mukherjee

(コメント) アメリカの経常収支不均衡が拡大し,世界の不均衡が調整を必要としているのは事実です.しかし,貿易収支や経常収支の調整のためにFedが何をするべきなのかは誰にも分かっていない,とJohn M. Berryは書きます.今年の9ヶ月間で5300億ドルの貿易赤字が発生しています.それはまだ増え続けるでしょう.直接投資や送金を加えた経常収支赤字は,8000億ドルに達します.バーナンキは上院の公聴会で,「連銀の任務は国内の物価の安定と雇用を確保することであり,経常収支赤字に関して重要な役割を担うことは考えない」と答えました.

アメリカの貿易赤字は非常に複雑な問題であり,本質的に,世界的な貯蓄と投資の不均衡から生じている,と.アメリカ以外の国が過剰な貯蓄を行って,それを国際資本市場に押し付けるから,アメリカで過剰投資が起きてしまうのです.バーナンキは,時間をかけてアメリカも均衡を回復できる,と考えます.

1114日のメキシコシティーにおける会議で,グリーンスパンは,いつまでこの不均衡が融資できるだろうか? と問いました.国際資本市場には投資家の「ホーム・バイアス」があり,自国通貨でより多く投資したい傾向を示すからです.(資本市場統合化による一層の融資の可能性を支持するかもしれません.)

同じ会議で,この問題を最初に指摘したマーチン・フェルドシュタインが,世界の金融市場はグリーンスパンが言うほど,まだ統合していない,と答えました.むしろ問題は,特に,アジア諸国が1997年の危機以後に外貨準備を累積させたことです.これは一種の資産の組替えであり,その動機が危機回避であれ,輸出促進であれ,政府の方針に依存しているから予測は難しい,と.

グリーンスパンも,金融政策で対外不均衡を調整することを否定します.もちろん,金融引き締めは家計の貯蓄を促すが,同時に,外国から融資されていた国内投資も減らす.高金利によって資本流入が増え,ドル高が生じるだろう.それは貿易赤字を増やす.だから対外不均衡が調整できるとは限らない.こんなふうに,グリーンスパンは聴衆に説明したそうです.

フェルドシュタインは,また,こうも言いました.工業諸国間の資本移動は金利に敏感である.他方,アジア諸国が自国通貨の価値をドルに対して安定させたいなら,金利の変化に反応しない.だから,資本市場の統合化にもかかわらず,アジアの外貨準備による不均衡は金融政策で調整できない,というわけです.ドルは,他の主要通貨に対して,若干,増価するにとどまります.

バーナンキは,不均衡の解消には,アメリカが政府と民間で貯蓄を増やし,同時に,アジア諸国は為替レートを弾力化して市場の変動を受け入れ,輸出ではなく内需によって成長することが望ましい,と述べました.

Andy Mukherjeeの論説は,ロバート・マンデルが釜山で,アジア通貨をドルに固定することを主張した,と伝えています.聴衆は驚きました.アジア通貨の調整を求める声が支配的だからです.マンデルが通説に反対する三つのせつめいとして,1.中国の永住権を持っているから,アメリカの議会による脅迫(シュウマー上院議員の法案)を恐れない,2.サプライ・サイダーの元祖だから,3.単なるジョーク,というものです.

しかし,より重要な説明は,アジア諸国がその通貨主権をすべてバーナンキに譲渡する,という「世界単一通貨」プロジェクトを推進したいから,というものです.マンデルは,ドルとの「釘付け」も,アジア開発銀行を舞台に日本が推進している「アジア通貨」プロジェクトも,支持しません.

ヨーロッパに比べて,アジアはその経済的・社会的な統合化が大幅に遅れています.それゆえ,「最適通貨圏論」は当てはまらない,というわけです.他方,アジア各国間で多くの政治的紛争が残っています.中国,日本,韓国が,こうした紛争問題を解決できない限り,各国の通貨を捨てて共通通貨を採用することはない,と彼は言いました.それゆえ,次善の策としてアジアが(対ドル)「固定レート圏」を形成すること,を主張します.

各国通貨はドルに対して固定し,互いの為替レートをドルに対して連動させます.中央銀行は国内の通貨供給を安定させるのではなく,国際収支の均衡を目指すのです.それは「ミニチュア版ブレトンウッズ体制」です.その結果,外貨準備に応じて通貨供給量は変化します.各国のインフレ率はアメリカの水準に収斂するでしょう.もしバーナンキがアメリカでインフレを抑制できるなら,アジアは高成長と物価の安定を両立させ,戦後ブレトンウッズ体制下で実現された「黄金時代」をミニチュア的にアジアで再現します.このとき通貨投機も衰滅するでしょう.

もちろん,世界全体を同様にうまく成長させ,安定させるとしたら,すべての国が互いの為替レートを固定し,その水準をIMFが決めた共通の通貨単位で示せばよい,とMukherjeeは指摘します.すなわち,「通貨のユートピア」です.それが実現できる見込みはまったくありません.

マンデルが唱えたアジア版ユートピアの問題点をMukherjee指摘しています.@実体経済におけるアメリカとの差やアジア諸国間の差は,賃金と物価が弾力的に変化して,吸収しなければならない.Aショックの性質や問題によっては,賃金や物価ではなく,為替レートを調整するほうが良い.Bアジア各国の中央銀行が政治家に苦しめられているのに,バーナンキがブッシュ大統領の政治介入に苦しめられないと言えるのか?


FT November 24 2005

Competing on taxes

(コメント) EU内の税制について,東の「フラット・タックス(単一税率)」と西の「ハーモニゼーション(税制の国際協調)」に関する論争があります.後者の視点からは前者が「タックス・ダンピング」と批判されます.しかし,前者によれば,政府間の競争は公金をより効率的に使い,企業活動を助け,より多くの直接投資を呼び寄せる点で素晴らしいことです.他方,欧州委員会は,ヨーロッパ全体の共通法人税を課すという夢を持っています.

納税者であり,公共サービスの受益者であり,何より有権者でもあるヨーロッパ市民たちは,どう考えているのか?


FT November 25 2005

China's toxic cover-up

FT November 27 2005

China’s response to disasters impeded by secrecy

By Richard McGregor

FT November 28 2005

 “Green growth”? Don’t count on it

By Arthur Kroeber, Managing editor, China Economic Quarterly

(コメント) 中国の経済成長が深刻な環境破壊をともなっているのではないか,という不安は以前からあります.化学工場が爆発事故を起こし,河川を汚染したことへの対応についても,中国の情報は信用できないようです.なぜ900万人もの人口を持つ都市ハルピンが,一週間も水の汚染について知らされなかったのか?

FTは200年前のイギリスにおける産業革命で水や空気が汚染されたことを指摘し,それがもし中国で起きたらどうなるか,と警告します.もちろん,日本にも影響が及びます.中国政府は成長を維持するだけでなく,国民の声にも,環境の維持にも,もっと注意しなければならないのです.

SARSに比べて,鳥インフルエンザの対応は改善された,と言われました.しかし政治やエリートの利益に関わる事故や犯罪には秘密主義のヴェールがかかるわけです.Arthur Kroeberは,共産党がどのような政治宣言を示そうとも,まだ輸出指向型の(環境負荷の多い)成長パターンを維持するしかないだろう,と予想します.

Nov. 25 (Bloomberg)

China's Copper Crisis Tells a Bigger Story

William Pesek Jr.

JT Thursday, December 1, 2005

China juggles growth, stability

By ERIC TEO CHU CHEOW

(コメント) 中国経済の健全さを疑わせるもう一つの基準は,その腐敗・汚職,です.たとえば,ロンドンの非鉄金属取引所(LME)でLiu Qibingが中国政府のために取ったショート・ポジション(価格が下がると予想して先物を売り越していた)は莫大な損失を生じたようです.しかも,それは金融ニュースよりスパイ小説に近い,とWilliam Pesek Jr.は書きます.Liu Qibingは行方不明?です.中国政府は最初,取引そのものを否定し,あるいは責任逃れを試み,それができないとなれば,取引所の混乱を無視して,これは大したことではない,と宣伝します.まさに冷戦時代の発想だ,と.そんな中国が世界市場で重要な役割を果たす時代が来たのです.

ERIC TEO CHU CHEOWは,中国共産党の中央委員会においてイデオロギー対立が表面化していることを紹介します.自由化を維持するべきだという右派と,政府介入によって「バランスの取れた成長」や「社会の調和」を実現するべきだという左派との対立です.

中国の政治家たちは,政治体制が社会不安の高まりから崩壊してきた歴史が繰り返すことを恐れているのです.公式統計でも抗議の件数は増大し続けています.右派は,これに対して,WTOの開放体制によって直接投資を,国内の成長を9%に維持することで,「先に豊かになる」という哲学を支持します.他方,左派は7000億ドルの外貨準備を批判し,アメリカの財政を支えるより,国内の貧富の格差解消や経済の社会化,汚職の追放を唱え,「儒教」哲学を支持します.

胡錦涛主席の「調和ある社会」という目標は,これまでの自由化政策を左寄りに若干修正する姿勢を示したものです.


NYT November 25, 2005

In China, Wholesale Urban Flight

By DAVID BARBOZA

河川の化学物質による汚染で,ハルピン市への水の供給が止まりました.中国東北部の老朽化した重工業地帯に属し,経済発展から取り残されて,環境破壊に苦しむ地域です.

しかし,ハルピン市にはもっと重要な計画があります.南部の経済発展に追いつくために,壮大な都市機能の移転が始まっているのです.Songhuaはまだ河川の反対側にある農地に過ぎません.

中国全域で,多くの町が生まれ変わろうとして,「雨後の筍のように」新しい都市や再開発を企てています.経済発展に遅れた者として,こうした諸都市は不動産と再開発に巨額の資金を投資します.

化学汚染も,いくらか遅れるだけで,その膨れ上がる不動産価値に投資家たちが群がるだろう,と市の役人は断言します.不動産ブームが始まっているのだ,と.

世界でも,おそらく中国のような国だけが,これほどの大規模開発を可能にするのです.なぜなら地方政府は,中央政府と同じ,絶大な権力を持っているからです.世界中が中国の工業力に驚いているが,さらに驚くべきことはその都市の物理的な変貌です.都市計画家,建築家,住宅専門家,建設会社が群がって,都市を日に日に作り変えます.1949年に共産党が権力を握ってからずっと凍結されていた旧都市は破壊され,住民は移住させられ,今や,未来の都市が描かれるようになりました.

たとえば上海では,2010年の万国博覧会のために,地方政府が1300エーカーの土地を整理し,約5万人の住民を退去させ,270以上の工場を閉鎖しました.それには中国最大の造船所も含まれています.

あらゆる地方政府が新奇な大規模開発を競い合っています.まったく驚くべき規模で開発するために融資を得ています.中でもハルピンの計画は目を引くのです.285平方マイルのSonghua地区を,高層住宅やオフィスビル,高級住宅街,五つ星のホテル街,ショッピングと娯楽の複合センター,貿易ゾーン,そして工業誘致地区,などに分けて,ニューヨーク・シティーに匹敵する規模の開発を計画しているからです.

それはハルピン市の,発展から取り残された,という深い絶望から生じた希望なのです.東北部の工業地帯は,衰退する国営企業と,破綻した「ニュー・エコノミー」しかありません.銀行には不良債権が累積し,汚職が蔓延しています.直接投資も集まりません.

沿海部とその他の地域に生じた所得格差を埋めるため,中央政府は「西部大開発」と「東北部再生」を約束しました.しかし,ハルピン市の開発には長い時間がかかっています.既に1992年には河川の北側にSongbei開発チームを設けています.市外から,マカオの超資産家や国営の兵器工場で,不動産からおもちゃまで扱うthe China Poly Groupなどを誘致し,上海のthe Shimao Groupが,上昇する地価を目当てに政府と契約しました.

財政難で資金のないハルピン市は,優良な土地を民間に開発させることで資金を集めました.大連や北京から,さまざまな政府ビル,道路,区画整理に建設会社が集まります.市は,洪水のあとの土地を高値で売りました.

最初に移転した市の職員は,何も無い土地からバスで食事のためにも旧市街を往復しました.上海では立ち退きに不満を持つ住民たちが役所を襲って投石しています.かつてはロシアとの関係だけであったハルピン市が,そのような農民との激しい抗争を経ることも無く,巨大都市開発によって未来都市の誕生を期待します.


Lex: Japanese inflation FT November 25 2005

Lex: Japanese governance FT November 27 2005

Guy de Jonquieres Flaws in Japan’s industrial model FT November 28 2005

Lex: Japanese banks FT December 1 2005

(コメント) デフレ解消について金融と財政の政策当局は混乱した綱引き状態を示し,株価が上昇したとしても,企業の経営スタイルは変わらず,「和」を大切にして内部の対立や問題をまだうやむやにするでしょう.Guy de Jonquieresは日本の電機メーカーが次々と赤字を計上している様を見て考えます.製品の完成度に固執し,既存製品の量産化を競い,チームワークを尊重する,その経営スタイルが失敗の原因だ,と.日本の優れた製品は簡単に真似られ,量産化も十分な利益をもたらさない.家電や自動車に変わる安定した需要分野は,今後,見出せないかもしれない,と.韓国や中国の優れた企業が競う中で,日本企業が生き残るには,革新的な製品,新市場の把握,マーケティング,ブランド形成,複雑な経営能力,を組み合わせなければなりません.銀行の高収益も,続くでしょうか?


Stephen Bergman From Vietnam to Iraq: How to stop the war BG November 25, 2005

Joseph R. Biden Jr.Time for An Iraq Timetable WP Saturday, November 26, 2005

David S. Broder Signs of an Iraq Policy WP Sunday, November 27, 2005

Anatol Lieven Decadent America must give up imperial ambitions FT November 28 2005

(コメント) Stephen Bergmanは,ベトナム戦争の終わり方から学んで,イラク戦争について提案します.反戦運動が広がり,メディアが戦争の痛みを伝え,議会の政治指導者たちが失敗を認めて発言することです.Joseph R. Biden Jr.上院議員は,その方針を示しています.民主党内のイラク強硬派と懐疑派とが一致して,早期撤退と政治的交渉による各派の合意,周辺諸国の協力,イラク治安部隊の増強を求めています.こうしてアメリカも,現実的な政策に復帰するでしょう.

Anatol Lievenは,帝国の過剰拡大論に従い,アメリカもその帝国的な発想を改めて,より限定した関与を確立するべきだ,と主張しています.そうしなければ,軍事負担の増加に応じた増税を求めて中産層の政治的反発を買うか,増税することができずに貨幣価値を失うでしょう.そうやってベトナム戦争が終わったように.


NYT November 25, 2005

Bad for the Country

By PAUL KRUGMAN

LAT November 26, 2005

In search of a road map

WP Wednesday, November 30, 2005

Ghosts That Still Haunt GM

By Robert J. Samuelson

(コメント) かつてGMの会長は,アメリカにとって良いことはGMにとって良いことであり,その逆も正しいのだ,と発言しました.いまや,そのGMは数十億ドルを失い,3万員を解雇すると発表しました.それはアメリカにとっても悪いことなのか? とPAUL KRUGMANは問います.

GMの失敗は,その経営者や労働組合にも多くの原因があるでしょう.しかし,KRUGMANは,社会保障制度と貿易赤字,という二つのアメリカの欠陥に結びつけます.自動車1台当たり,GMは1500ドルの社会保障費がかかり,トヨタはアメリカ国内でも201ドル,日本では97ドルしかかかっていない,という数字を引用しています.アメリカにも国民的な社会保障制度があれば,GMの赤字はもっと軽かったわけです.

また,アメリカには昨年,6000億ドルを越える貿易赤字がありました.これは持続不可能です.アメリカ経済は将来,もっと輸出を増やして黒字を出さなければならないでしょう.貿易赤字の意味は,輸入品があふれて,特に国内の製造業を破壊した,と言うことです.GMはその一つに過ぎません.そして,将来の黒字には,製造業の雇用を再び増やす必要があるでしょう.もしアメリカ経済がこのような歪みを最初から回避できていたら,GMの回復も可能であったかもしれません.

国民に対する社会保障制度を改革することは,GMにとっても,アメリカにとっても良いことだ,とKRUGMANは考えます.他方,LATはアメリカの自動車会社に保護や救済融資を求めるWilliam Clay Ford Jr.の姿勢に慎重な意見を述べています.企業の利益と国民一般の利益とは区別しなければならない,と.

Robert J. Samuelsonは,GMを描いたAlfred P. Sloan Jr.1923 から 1946までGMのCEO)の 書いた“My Years With General Motors” in 1963Andrew Grove1998年までIntelCEO)の書いた“Only the Paranoid Survive in 1996とを比較しています.スローンは旧来のT型フォードに代わって,中古車市場を反映したさまざまなモデルを販売しました.グローブが言う「戦略的屈折点」を市場から読み取る力が重要です.そして,GMはその成功によって経営を安定性の確保に従属させ,変化を見る力も失っていたわけです.


WP Friday, November 25, 2005

Replant the American Dream

By David Ignatius

(コメント) 感謝祭に,七面鳥を焼いて,外国の友人やアメリカ人を招気,一緒にアメリカや世界について親しく話し合えなくなったことをDavid Ignatius嘆きます.アメリカン・ドリームがどれほど貴重な政治的資本であるか,それを失っても省みない政府は理解していない,と.そして,いつでもアメリカは戦争に直面しており,戦争に勝つためなら何でも,拷問さえも許される,というチェイニー副大統領の罪を重視します.


WP Monday, November 28, 2005

Progressive Wal-Mart. Really.

By Sebastian Mallaby

NYT November 29, 2005

The Good Goliath

By JOHN TIERNEY

(コメント) どちらもNew York Universityの客員教授Jason Furmanが書いた "Wal-Mart: A Progressive Success Story."に依拠する論評です.

Sebastian Mallabyは,ウォルマート批判のヒステリーに反対しますウォルマートの顧客は貧困層が多く,彼らはウォルマートの扱う商品が低価格であることによって,年間の食糧代だけでも500億ドル,全体では2000億ドルの出費を抑制してもらえる,と主張します.これは,2005年のフード・スタンプに与えられた連邦予算330億ドルに比べても十分に大きな数字です.他方,ウォルマートが低賃金や医療費負担を免れるような契約をしている,と非難することも,その推定額は小さく,違法でもないとすれば,ヒステリーを起こす理由にならない,と考えます.

企業は顧客に安価な良い商品を提供し,法律が許す限り,利潤を最大化して,株主に大きな配当をもたらすのが正しい,と考えるわけです.だから,確かにグローバリゼーションによる格差や不安定化が非難されるとき,その先頭に立つウォルマートに批判が集まるとしても,それは進歩の代償である.もしウォルマートを閉じるなら,最も多くを失うのは貧困層である,と.

JOHN TIERNEYは,雇用の最初に段階でウォルマートが提供する機会は重要だ,と主張します.ウォルマートがなければ,彼らは労働市場から締め出されたかもしれません.何が社会正義か,良く考えたほうが良い,と.


NYT November 26, 2005

Anti-Americanism Is One 'Ism' That Thrives

By ROGER COHEN

(コメント) かつての宗教戦争のように,二つの世界戦争を激しくした要因として,ナショナリズムと人種差別主義が会ったと思います.20世紀は多大の犠牲を払ってこうしたさまざまな「イズム(主義)」を葬ったのに,再び新しいイズムが勢力を増している,とROGER COHENは考えます.それは「反アメリカ主義」です.

反アメリカ主義には多くの変異体が存在します.@ジハード型,A邪悪なグローバリゼーション非難型,B社会的反アメリカ主義(政治的反アメリカ主義の変異体).そして地域や国家が支援するタイプとして,C北朝鮮のダイ・ハード型,D中国の影響権拡張型,EEUの曖昧なアイデンティティー型.何でも嫌なことや苦しいことがあれば他者を責めたくなる.そんな,Fキャッチオール型反アメリカ主義,もある.

市場を嫌い,近代化を嫌い,国境の開放を嫌い,・・・国や世界に不安を感じれば,何でもアメリカが悪いと責める.アメリカの技術や企業の拡大が,確かにグローバリゼーションを牽引してきた.しかし,グローバリゼーションによって多くのものが利益を受けている一方で,自分たちの利益を損なわれた者だけがアメリカを責めるとしても,結局,アメリカに大きな不利益など及ぼせないだろう,とR.コヘインは考えます.

それはパスワードが必要な高級クラブのようなものです.パスワードを持った裕福な者はますます富を増やし,貧しい者はパスワードをもらえない.1920年代,30年代にも,多くのイズムが不満を吸収しました.しかし,反アメリカ主義はイズムにならず,誰もがアメリカを責めながら,アメリカ製品を買うのです.

コヘインは,反アメリカ主義をブッシュ政権やイラク戦争への反発と区別すべきだ,と考えます.しかし,COHENはそれが区別されない場合のほうが多い,と指摘します.そして,いつか反アメリカ主義が一つのイズムを復活させるでしょう.それはリビジョニズム,歴史の見直しです.

なるほど,ヨーロッパでも,日本でも,既にある程度,起きているように思います.


NYT November 27, 2005

A Tolerable Genocide

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT November 29, 2005

What's to Be Done About Darfur? Plenty

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) ウッドロー・ウィルソンはアルメニアの虐殺を放置し,フランクリン・ルーズベルトはアウシュビッツに至る鉄道を破壊することを拒み,ビル・クリントンはルワンダの大虐殺に関わろうとしなかったとして,虐殺への不作為をKRISTOFは責めます.では,スーダンのダルフールにおける虐殺を止める方法はブッシュ政権にあるのでしょうか? KRISTOFは六つの提案をします.

すなわち,@アフリカ連合(AU)の治安維持軍を増強する.AAUだけでなく,国連軍やNATO軍,カナダ,ドイツ,日本も加わって強化する.B飛行禁止区域を設ける.Cダルフールの平和と責任法案を成立させて,スーダン政府に圧力をかける.D外交的にスーダン政府を懲らしめる.被害者をホワイトハウスや議会に呼び,アフリカの指導者たちをダルフールに訪問させ,中国政府にスーダンとの関係を見直すよう迫る.Eブッシュ大統領とアナン国連事務総長が共同でダルフールの部族長と交渉に当たる特別チームを指名する.そのトップにはパウエルかベーカー3世が望ましい,と.

虐殺を止めるのも,戦争を止めるのも,非常に似ているわけです.「独裁と絶望の国で暮らすすべての人々は知るだろう.アメリカはあなたへの抑圧を見過ごさない.あなたがたを抑圧する者を,アメリカは許さないだろう」 と,ブッシュ氏は再選されたとき演説した.その後も彼は多くの嘘をついたが,この言葉だけは真実であってほしい.


WP Sunday, November 27, 2005

Bush to Asia: Freedom Is More Than Markets

By Dan Blumenthal and Tom Donnelly

Asia Times Online, Nov 30, 2005

China and a 'Confucian' commonwealth

By Andrei Lankov

(コメント) アメリカのブッシュと日本の小泉を見ていると,・・・まるでゴジラとモスラの怪獣協調路線だな,とは書いてないけれど,そのような記事です.個人の自由を,中東だけでなくアジアでも守るぞ,という「京都宣言」.アメリカが日本を占領して,今では,こんなに立派な自由と民主主義の国になっただろう,という「日本型再建論」.

しかし,これは政治的な高等修辞学でしかなく,実際の戦略的目標は太平洋における軍事力の再編であり,アジアの市場確保ではないか.前者にとって日本とインドが重要であり,後者にとっては中国が重要です.ブッシュ氏はこの矛盾を解く鍵として,経済的リベラリズムは必然的に政治的リベラリズムを実現する,と予言します.実際,アメリカの思考を身につけたビジネスマンとエコノミストが中国の経済成長と政策を担っています.だから,中国を世界市場につなぎとめておきさえすれば,その経済や軍事の急速な膨張について,余計な詮索は無視してよいのです.

ただし,それは現実よりも,多分に,希望でしかありません.時とともに,よりバランスを重視した見解が強まるでしょう.

他方,Andrei Lankovは,アジアがヨーロッパ的な統合化を目指すことはないだろう,と考えます.それは地理的にも,人口比率でも,歴史的にも,アジアが一極集中によって安定したからです.経済力や軍事力で,中国と日本の逆転は急速に旧来のパターンを再生するでしょう.すなわち,EU統合ではなく,「儒教帝国」です.


FT November 29 2005

Caution would endanger a recovery

By Martin Wolf

FT November 30 2005

Recoveries at risk

FT December 1 2005

Criticism of Europe’s central bank is misplaced

By Eric Lonergan

(コメント) Martin Wolfは,ECBの二度目の利上げを批判する意見と支持する意見を,実に見事に,まとめています.その結論は? 「正しい答えは,金融的にはインフレを容認しながら,急速に構造改革を進めること,である.しかし,残念ながら,この選択肢は利用できない.それができないまま,ECBは存在しないインフレに怯えて,弱弱しい景気回復を挫いてはならない.それは罪深いことだ.大失策にもなりかねない.」

OECDは,ECBや日銀が金融引き締めを急いではならない,と注意します.他方,インフレの低い世界で,Eric LonerganはECBが優れた枠組みを示している,と賞賛します.すなわち,一つは,ゼロ金利でデフレにどう対応するか? もう一つは,インフレが起きない資産バブルにどう対応するか? ECBは,広い意味での通貨供給量をターゲットにして金融政策を決める.また,バブルに対しては,民間の信用供与が膨張することに注意する.こうして,日銀やアメリカ連銀よりも,一貫した金融政策を実施している,と.


FT November 29 2005

A solution to climate change in the world’s rainforests

By Geoffrey Heal and Kevin Conrad

FT November 29 2005

Widening Kyoto

(コメント) 国連を舞台に,地球温暖化への防止策として熱帯雨林への保護政策・財政支援を求める仕組みが提唱されました.すなわち,熱帯雨林の伐採を防ぐことを,温暖化ガスの排出権市場と結びつけるのです.CO2排出量1トンに対して25ドルという相場は,貧しい諸国に重要な影響を及ぼします.それはグローバル・コミュニティーへの展望にもなるのでしょうか?

他方,京都議定書の起源は2012年です.FTは,京都議定書が「氷河のように」ゆっくりしか進まず,その前提は温暖化に早く対処すればするほど望ましい,であったことを批判します.そして,次の環境保護システムを早期に模索し始めるべきなのです.特に,環境保護に対する異なった考え方を受け入れて,システムに参加する国を増やすべきである,と.


Lex: Argentina FT November 29 2005

Lavagna's departure FT November 30 2005

NYT November 29, 2005

Argentine President Ousts the Architect of the Country's Economic Recovery

By LARRY ROHTER

(コメント) 私はアルゼンチンに関心があります.IMF融資を拒んで,債務を踏み倒し,「ネオリベラリズム」に逆らって成長した実例として,です.しかし,その選択は最初から多くの批判を浴び,崩壊を予想されました.今でも自分の足で立っているのが不思議なくらいです.

その秘訣は,強硬な左翼のレトリックに,堅実な財政運営,という組合せであったかもしれません.通貨危機による不況は,政治的に非難されない大幅な切り下げと,輸出による成長にもかかわらずインフレ沈静化という余禄を残しました.しかし,その要であったRoberto Lavagna経済大臣の辞任で,いよいよ恐れていた事態に向かうのでしょうか?


NYT November 29, 2005

U.S. Declines a Chance to Criticize Yuan Policy

By EDMUND L. ANDREWS

Nov. 30 (Bloomberg)

Deflation Looms as China's Economy Cools Off

William Pesek Jr.

(コメント) アメリカでは,人民元が意図的に操作されて輸出を増やしており,アメリカの製造業と雇用が破壊されている,と議会が騒いでいます.財務省は中国に為替レートの弾力化を求め,市場による変動を促しています.ここでも,IIEのバーグステン所長は人民元レートの政府介入を批判する発言で引用されています.問題は中国の外貨準備や財務省証券の保有に及び,日本と同じように,資本市場の開放,大規模な資本流出を促すことになるのでしょうか? 実際,既に中国はデフレを恐れており,人民元の増価も,アメリカ市場の保護主義も,決して無視できない状況です.

新興市場に共通するものとして,急激な資本流入は人民元高を過度に進め,極端な金融緩和はバブルをもたらす,というジレンマがあります.金融市場が成熟して,金融監督による銀行の健全さや投資の経験が蓄積されるまで,アメリカや日本は,中国政府とともに管理フロートを支持したほうが良いのではないか,と思います.

また,Morgan Stanley Andy Xieは,中国が過剰生産設備を抱えて来年前半にはデフレに入るだろう,と予想しています.この場合,金融緩和はデフレを解消するのではなく,むしろ過剰生産と在庫を積み増し,デフレを悪化させるでしょう.むしろ問題は,中国の人口変動によって促された構造的な過剰貯蓄です.その解決には,消費を刺激し,国有資産を民営化し,公共投資を生産設備ではなく社会保障の整備に転換するべきだ,と指摘します.他方,大幅な人民元の増価は不況に繋がるでしょう.そうなれば過剰設備を抱えた企業は一層の輸出を求め,貿易摩擦は先鋭化し,中国の原材料需要を増やして国際商品価格をさらに上昇させます.

ただし,もし増幅されなければ,中国のデフレはむしろ産業の生産調整と企業の健全化に役立つから,長期的には成長にプラスである,とWilliam Pesek Jr.は悲観論を批判します.


BOB HERBERT Bush Hits Rewind NYT December 1, 2005

Plan: We Win NYT December 1, 2005

Strategy for Iraq WP Thursday, December 1, 2005

Jim Hoagland Gaps in Bush's Plan WP Thursday, December 1, 2005

Anthony Cordesman Not yet time to finalise Iraq strategy FT December 1 2005

(コメント) イラク戦争の失敗容認,早期退却論,イラク再建目標の引き下げ,などに対するブッシュ氏の反論は,あまり効果が無かったようです.それは取り巻き連中にちやほやされた大統領が,現実を無視して宣言した「勝利」です.ジョンソンも,ニクソンも,ブッシュ・シニアも,その息子のブッシュと同じ,幻滅の局面を経験しました.


BG November 30, 2005

Borderline reform

(コメント) 世界最大の移民受入国として,アメリカの移民政策は重要な争点を網羅します.雇用者は移民労働者を自由に利用したいと考え,保守派の反移民・安全保障に関する強硬意見と対立します.ブッシュ政権が示す改革案は,一時雇用制度,国境警備の強化,強制送還,非合法移民の免責・定住化,などです.他方,民主党案は,国境警備の強化と一時雇用だけでなく,一時雇用から国籍取得までの合法的プロセスを示し,貧しい人々への英語教育や市民教室,メキシコへの経済支援,などを含みます.

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The Economist, November 19th 2005

Meeting the superpower

China’s world order: Aphorisms and suspicions

Japan and America: Can I be your friend?

South Korea: The Kimchi wars

Tensions with China: The new face of globalization

Economics focus: Pumping up the spare tyre

(コメント) 米中首脳会談が関心を集めるのは,アメリカと中国が深く世界市場に関与し,しかも互いにまったく異なる社会システムを理想としているからです.日米関係は,かつて思われたほど,重要でも,異質でもなくなりました.前者はグローバリゼーションの性格を争いますが,後者は東アジアの安全保障を相談しています.The Economistはアメリカの保護主義を叩き,中国の市場改革を促します.そして,中国がアジア諸国をまとめて,アメリカに変わる太平洋の盟主となっている未来を想像します.未来の東アジア・サミットやAPECは開かれても,日米会談は必要ないわけです.

The Economistが見る小泉外交の行方は冷たいものです.日本は影響力も権威も急速に失いつつあります.「私もアメリカの友人だと言ってよろしいですか?」 そう小泉はブッシュに懇願した・・・ように見えるのでしょう.アジアは「大陸アジア」と「アジア諸島」に分かれ,領土でもエネルギーでも,紛争は中国の覇権によって解決される,という外交官の不安を紹介しています.

寄生虫の卵が付いたキムチを中国が韓国に輸出している? という論争が加熱し,「キムチ戦争」として激しい非難報道,禁輸や報復,制裁という「貿易戦争」に至りました.もちろん,寄生虫の有無に関わらず,軟化するのは韓国の側です.中韓の貿易額は1000億ドルに及び,すでに中国が韓国の最大の輸出市場だからです.結局,韓国の食品・薬品局(FDA)は,韓国企業にも同じ問題があった,と発表しました.そして両国は,貿易される食品の監視で協力することを合意した,というわけです.

新興市場の直接金融を育成して,銀行だけが融資を行っているより,通貨・金融危機のショックを吸収できる経済に変えるべきだ,という主張があります.実現していくのか,どうか?


General Motors: Detroit’s wounded giant

General Motors: That sinking feeling

Peter Drucker: Trusting the teacher in the grey-flannel suit

(コメント) GMは衰退しましたが,P.ドラッカーは経営学の神様となり,ついに寿命を全うしました.ナチスについての考察や,資本家・資本主義批判を学ぶ者がもっといても良かったと思います.社会の創造力と秩序(アナーキーや工業生産における疎外の回避)を両立させる魔法を,ドラッカーは「企業」(そして,その他の非営利組織)の「経営者」に求めたようです.