IPEの果樹園2005

今週のReview

6/20-6/25

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 平等な社会: アメリカヨーロッパ,中国,アフリカ,LA,の平等について.

2 EU/ユーロ: ユーロは解体するか? ・・・寓話

3 保護主義: 自由貿易でも保護主義でもなく.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


BG June 9, 2005

Korea's slow-motion reunification

By John Feffer and Emily Schwartz Greco

NYT June 9, 2005

Dancing With the Dictator

By JASPER BECKER

FT June 10 2005

In talks with Bush

(コメント) 朝鮮半島は,ついに50年の歳月を超えて南北再統合の緩やかな過程をたどり始めたのでしょうか? 非武装地帯(DMZ)のすぐ北側に設けられた友好のための産業開発特別区the Kaesong complexには,ソウルから毎日,多くの労働者たちが通勤しています.韓国側から材料や電力を得て,直通の電話で支持を受けながら,衣服などを加工して韓国に売っています.

南北は激しく対立して武装を解かず,ブッシュ大統領は北の指導者を独裁者と非難していますが,同時にここでは,南北が協力関係を深めているわけです.それは政治指導者たちによる「スローモーションの南北統一である」とJohn Feffer and Emily Schwartz Grecoは考えます.韓国は静かな統合過程を今も期待し,ブッシュ氏は東欧のような爆発によってしか共産主義体制は変わらない,と確信しています.

韓国はアメリカの「ビッグ・バン」アプローチを恐れ,ドイツのように時間をかけて経済援助を続け,平和的に移行させることを考えています.しかし,問題はアメリカ市場です.アメリカが市場を提供してくれないとしたら,南北共同の工場が成功することは無いでしょう.もしアメリカが,容易に北朝鮮が崩壊する,という幻想を諦めれば,既に進行しているこの開発計画に目を向けるでしょう.

しかし,JASPER BECKERが言うように,アメリカから見れば韓国の指導者たちは裏切り者です.自分たちの政治的幻想に固執して,ついに,北朝鮮の嘘だらけの世界を自国民にも受け売りする有様です.北朝鮮が繰り返した国際犯罪や国内の人権弾圧についての関心はどうなったのか? むしろ中国に脱北者の取締りを要請する始末です.この途方も無い「宥和政策」によって韓国政府が得ようとしているものは,離散家族の捜索や再開,そして核開発計画の停止でしょう.そして何よりも,経済改革を進めて豊かになれば,韓国と同じように民主化も進むだろう,と.

BECKERは,国家的な犯罪者に協力するよりも,韓国はアメリカや日本と協力して,金正日を国際法廷で裁くように求めるべきだ,と考えます.韓国政府は北朝鮮の体制が崩壊した場合の経済的なコストを恐れているが,世銀の予測では,むしろ国際機関からインフラ投資が行われるし,むしろその方が民間投資も急速に回復するだろう,と.

アメリカは脅し,韓国は宥める.この役割を十分に合意できるなら,北朝鮮に対する協議は進展するはずです.たとえ政治指導者の考え方が違っても,平和的な再統合と民主化,経済再建に協力する点では合意できるのですから.それを妨げているもっとも重大な障害は,もちろん,北朝鮮政府です.しかし,韓国の若い政治家集団は,自分たちが支持する政治信念や指導者が国際政治や東アジアの安全保障で果たす役割について,もっと自覚しておくべきでしょう.彼らの話を誰かに少しは聞いてほしいのであれば.

Asia Times Online, Jun 11, 2005

Why North Korea isn't talking

By An Sang Nam(senior researcher at the Institute of Disarmament and Peace, Pyongyang, DPRK)

BG June 11, 2005

Clueless on Korea

The Asian Age, 12 June 2005

Wanted: A roadmap for North Korea

- By Michael O'Hanlon

FT June 14 2005

The sun is setting on North Korea

By Aidan Foster-Carter

BG June 14, 2005

Nixon's madman strategy

By James Carroll

(コメント) 北朝鮮の研究所で北東アジアの非武装化を主張するAn Sang Namは,事態を次のように整理します.

@北朝鮮が核兵器を保有しなければならなくなった理由は,アメリカ・ブッシュ政権の極端な敵視政策である.北東アジアの緊張緩和と安全保障には,アメリカが北朝鮮を認めて平和共存する姿勢を示さなければならない.A北東アジアの安全保障を語り合う主体は,この地域の住民であり,国家である.地域の死活問題にアメリカは含まれていない.B北東アジアの安全保障はすべての国が非武装化する(攻撃的な軍事力を取り除く)ことで実現できる.C日本における軍国主義の復活をなんとしても阻止しなければならない.日本が戦争を美化し,正当化しようとすることはアジアにとって非常に危険である.

アメリカ排除と反日感情の共有は,北朝鮮にとって,アジア(特に,韓国と中国に向けた)外交の中心命題なのです.日本政府はこれに正しく反論しているでしょうか?

アメリカ政府の交渉姿勢を,BGなど,アメリカのリベラル派も批判しています.北朝鮮を公式に認めて,軍事的な手段を用いずに交渉で核開発を放棄させるしか選択肢は無い.もっとアジア諸国と協力する姿勢を示すことが重要だ,と.

イギリスの研究者Aidan Foster-Carterの見方はもっと厳しいものです.アメリカ政府にはいまだに包括的な対北朝鮮政策がありません.交渉が進まない口実に,互いを非難するゲームが続いています.韓国政府は「陽光政策」を続けていますが,彼らが届ける資金や援助物資は,所詮,友好パレードなどに費やされ,北朝鮮の支配者を喜ばせるだけです.誰のための援助か? 何のための陽光か? 鉄道は繋がらず,政治宣伝と収容所に頼る北朝鮮の政治姿勢は変わりません.金正日が好むのは,このままポーカー・ゲームを維持して勝ち続けることです.

金正日は身寄りの無い小鹿のような存在で,贈り物と笑顔を絶やさなければ感動して態度を変えるだろう,と思うのでしょうか? Foster-Carterは,当然,6者協議が決定的な条件を示すしかないと考えます.「これが最後のチャンスだ.核兵器と生物化学兵器を放棄せよ.それが確認できたら,経済援助を約束する.世界が認める行動規範に服すことだ.」しかし,関係諸国内で,そのような合意を得ることは難しいのです.否,心配無用です.すでに北の後継者争いは始まっており,瓦解するしか道は無いでしょう.それが明確に始まれば,関係諸国は合意してソフト・ランディングを促すでしょう.

しかし混乱の中で,もし北の後継者が支配を確立するには核のボタンを押すことだと確信したら? かつて,北ベトナムの共産主義者に対して,ニクソンがそう確信しつつあったように?


FT June 10 2005

Rome 2030: a currency odyssey

By Tony Barber

イタリアの厚生大臣Roberto Maroniは,2005年6月3日の新聞で,インタビューに答えた.ユーロは成長の減速に対処せず,競争力の回復に役立たず,失業危機を放置している.・・・2030年6月,ローマ.コロッセウムの観光客を案内する百人隊がストライキを起こし,25年前の予告どおり,ユーロを破棄してニュー・リラを導入するきっかけとなる.

Pier Silvio Berlusconi首相は,その父と同様に,デモ隊の怒りを買っている.コロッセウムを売却し,フローレンスのウフィッツ美術館も,ピサの斜塔も,イタリア中の何百という白い砂浜も,すべてイタリアのジャンクボンドにして外国人に売却してしまったからだ.

しかし,政府に何ができたと言うのか?

たとえば,最近行われた「携帯電話の戦い」だ.再国有化された電話会社から国民一人あたり15台の携帯電話を購入し,彼らはこれを毎日使った.それでもこのキャンペーンで買い戻せた国債はわずか1000兆 x 兆ニュー・リラに過ぎず,国債発行残高の1%でしかなかったのだ.中央銀行がコロッセウム売却を認めないかどうかは関係ないだろう.彼らは「ピザ・ボンド」と呼ばれる国債の売却に忙殺されている.

政府が頼りにするのは南部同盟だ.失業率が75%に達する南部イタリアのポピュリスト政党である.南部の住民が最も心配するのは,年金制度が破綻して支給が止まることである.さらに政府を支持するのは,つい先ごろ25回目の救済融資を受けた国営航空会社アリタリアの労働者たちであり,国営のメディアもほとんど反対の声を伝えない.

しかし,イタリアの街頭には不満が噴出しており,パルマの群集はParmadebt創設者の銅像を引き倒した.ローマやミラノの公共交通機関で働く労働者たちは,ユーロの時代にも毎月ストライキを行っていたが,今や週に一度は労働を拒否している.

ローマ時代の「パンとサーカス」を思い起こすが,ベルルスコーニ氏は700のテレビ・チャンネルを使って,現実から大衆を遠ざけるビッグ・ブラザー,否,ビッグ・ストゥーピッド・ブラザーとなった.ユーロの時代を思い出すとしても,批判家たちは居眠ってしまう.

それでもうまくいかない.300%のインフレ.GDPの40%に及ぶ財政赤字.‘G3’の仲間たち,それは北朝鮮とジンバブエのことだが,彼らでさえイタリア政府に財政再建を求めている.

そのとき首相の頭に妙案がひらめいた.

「リラを捨てて,ユーロを採用する!」 彼は国民に告げる.「リラを復活させたことは,私の父が政治家として行ったもっとも愚かなイタリアの選択だった.」


Asia Times Online, Jun 11, 2005

The cloud over the euro

By David Champeau

FT June 12 2005

Wolfgang Munchau: A new vision based on the euro

By Wolfgang Munchau

BG June 15, 2005

The end of the euro?

By Scot Lehigh, Globe Columnist

(コメント) David Champeauは,ユーロとECBが経てきた試練を要約しています.ドルとユーロの為替レートや金利は,その時々のメディアに批判されました.今は,EUの政治家たちが一斉にECBを非難しています.その克服次第では,ユーロの成果が示されるでしょう.

フランスでは,早速,首相に任命されたde Villepinが独仏同盟とコア・グループによるEU再生を唱えています.しかし,Wolfgang Munchauは問います.誰がコアか? コアで何をするのか? 今までその内容は示されたことが無い,と.独仏同盟は,要するに,アングル・サクソン型資本主義やグローバリゼーションを嫌うだけで,積極的な提案が無い.初期の6カ国に戻ることも後ろ向きです.唯一,ユーロ圏の経済を活性化することでしょう.マクロとミクロにおける改革を進めて,拡大されたEUへの自信も取り戻すことです.

Scot Lehighは,ユーロは破棄されるか? という問いに,ド・ゴールの有名な文句を想起します.「どうすれば248種類もの異なったチーズを作る国を治められるか?」 フランスには,そしてヨーロッパには,アイデンティティーに関わる深い保護主義と反グローバリズムがあるのです.

イスラム教徒の流入を恐れ,政治家たちや官僚制度の押し付けるEUを嫌って,人々はEU憲法を支持しなくなりました.しかしLehighは,統一通貨がもたらす経済的な利益が確実であり,失うには余りに大きいと考えます.統一通貨を採用したことで金融や財政に被った制約も,その利益を捨て去る理由にはならないはずでした.政治的なショックを,次に経済的な崩壊に導かないために,EUは踏みとどまるべきなのです.


FT June 10 2005

Cafta countdown

BG June 15, 2005

The value of CAFTA

WP Thursday, June 16, 2005

Whose Trade Rainbow?

By David S. Broder

(コメント) 民主党がCAFTA(中央アメリカ自由貿易協定)案に反対すると予想されていることについて,FTは支持するように求めます.その理由は,@自由貿易,A中米の改革と民主化への支援,BMFA廃止後の繊維産業における失業救済,Cドーハ・ラウンドにおけるアメリカの指導力,D労働法規に関する実施の強化策は可能,です.

しかし,アメリカの市場に統合されることで,本当に中米の民主化や経済改革が促進され,中米社会にとって最善の選択になるのか,私は疑問です.自由貿易論は,誰と市場を開放するのか,どのような順序やスピードが望ましいのか,については論争の余地を残しています.

CAFTAへの批判は,@中米の主要な輸出品となるはずの砂糖はアメリカ国内生産者の保護によって抑えられた.A中国との競争に圧倒される繊維産業は,中米により多く進出することでその低賃金に対抗する.B労働法規の遵守は信用できない.BGは,それでも中米の生産者たちに競争のチャンスを与えるべきだ,と支持しています.

つまり,CAFTAの投票はアメリカにとってのEU憲法なのです.アメリカの労働者たちも,インドや中国からの輸入が急増して雇用が失われる,人民元が安すぎる,コンピューターの生産やプログラムの仕事でさえ奪われる,NAFTAやCAFTAによって工場が流出し,移民が大規模に流入する,・・・と恐れています.なぜこれほど統合しなければならないのか? そして,彼らもフランス人やオランダ人と同じように,もっと国際規制や政治家による説明責任を求めています.

クリントンがNAFTAを通過させたのに,なぜブッシュは強い反対に合うのか? 単にバブルやイラク戦争だけでなく,ブッシュ政権は労働者の雇用の安定や国際的な労働政策に関して,クリントン政権のように積極的な関与を示さず,アメリカの労働者たちは信用していないのです.つまり,自由貿易は国内と世界の失業や低賃金を結ぶものでしかありません.


The Guardian, Friday June 10, 2005

Every road a toll road!

John O'Farrell

The Guardian, Friday June 10, 2005

Time to charge

(コメント) 人工衛星が監視する道路の有料化システムは,単なるビッグ・ブラザーでしょうか? 個人生活は細かく監視され,増税も思いのまま・・・? たとえ渋滞は緩和されても,環境対策としてはどうなのか? また,特に貧しい者には,高コストによりドライブの楽しみさえ奪ってしまうのか? 公報:「貧困者へ.夜だけ運転しろ!」 あるいは,都心に住む富裕層が混雑による社会的支出を分担するのか?


The Guardian, Friday June 10, 2005

A noose, not a bracelet

Naomi Klein

(コメント) Naomi Kleinは,アフリカの貧困とその救済手段について考えます.イギリス労働党政府のブラウン蔵相はアメリカのブッシュ政権に援助目標を一緒に推進してもらおうとしましたが,乗り気が無いと分かり,その不足分を産油諸国に補ってもらおうと説得し始めました.Kleinは,石油の富だけでなく,いっそ,アフリカから持ち去られた天然ガス,ダイヤモンド,金,プラチナ,クローム,などの富からも補わせるべきでは? と考えます.

10年前の11月,Ken Saro-Wiwaなど9人がナイジェリア政府によって絞首刑にされました.彼らの罪は,ナイジェリアが多国籍企業に富を売り渡さなければ,オガニの極貧の人々が本当はもっと豊かであるはずだ,と訴えたことでした.彼は生涯をかけて,石油の莫大な富を,故郷の川や農地,大気を汚染し,崩壊寸前の学校などに役立てられなかったことを考えたのです.慈善やお情けではなく,正義として,その富を取り戻したい,と.

その運動はシェル石油に補償を求めました.オガニの人々の土地から,1950年代以来,約300億ドルに値する石油が汲み上げられました.シェル石油はナイジェリア政府に助けを求め,政府は兵士を送りました.裁判においてKen Saro-Wiwaは,被告席に座る自分たちだけでなく,将来,必ずシェル石油を裁くように求めました.その後,10年を経ても,ナイジェリア国民の70%は一日1ドル以下で暮らし,シェル石油は莫大な利益を得ています.

富が無いから貧しいのではない.正義が失われているから貧しいのだ,と.それでもG8がもっぱら議論するのは,アフリカへの「援助」の増額,です.

NYT June 11, 2005

Poor Little Rich Country

By WILLIAM POWERS

NYT June 11, 2005

Odd Alliance Brings About Debt Relief

By ELIZABETH BECKER

The Guardian, Tuesday June 14, 2005

A truckload of nonsense

George Monbiot

IHT WEDNESDAY, JUNE 15, 2005

Africa's future is threatened by U.S. neglect

Jeffrey Sachs

(コメント) ボリビアの貧困,グローバリゼーションとの戦い,についてはWILLIAM POWERSが書いています.民営化とIMFが問うのは,この地における主人は誰か? です.インディオたちの村に迫る,高速道路,ウォル・マート,パイプライン,・・・

エリートたちが合意しても,褐色の肌をした現地の人々が各地で繰り返す道路封鎖を止めることはできません.貧しい者の声を聞き,政策に反映する仕組みを作ることです.しかも,ボリビアは1985年,IMFの市場自由化における「ショック・セラピー」が始まった場所です.石油の採掘と大豆の栽培は増えましたが,貧困は減りません.

ボノなどが展開した債務免除キャンペーン・・・世銀・IMFの今後.債務免除にも条件付けを求めるアメリカ.

他方,ショック・セラピーの考案者であったJeffrey Sachsが,アフリカの援助については変身しています.援助が必要な4つの主要な領域として彼が指摘したのは,衛生,教育,農業,インフラ,です.しかし,世界経済に占める割合から考えて,アメリカがイラク戦争に財源を集中し,貧しい国への援助を削る中では,開発目標は決して達成できません.G8でアメリカの政策転換を求めて圧力をかけるべきだ,と.


NYT June 10, 2005

Losing Our Country

By PAUL KRUGMAN

私のようなベビー・ブーマー世代は,比較的平等な社会で育った.1960年のアメリカには,極端に裕福な者が少なく,多くのブルー・カラー労働者がその賃金で中産階級の快適な暮らしを実現し,労働者の家族も着実に生活水準が上昇していくことや経済生活の安定性に関する納得できる水準を期待できた.

しかしNYTのシリーズ,アメリカの階級が気付かせてくれたように,それは過去の異なった国である.私が育った中産階級の社会はもはや存在しない.

労働者家族はこの30年間,ほとんど生活が改善していない.インフレを調整すると,中位の家族は1947年から1973年までに所得が倍増した.しかし,1973年から2002年までにはたった22%しか増えていない.しかもそれは,妻が働いたり,長時間働いたりした結果であって,賃金が上昇したわけではない.

他方,経済生活の安定性も過去のものとなった.年々の労働者家族の所得変動は,一世代前よりもはるかに大きい.職場や健康にちょっとした不幸があれば,それだけで堅実な中産階級に見えた家族が貧困に突き落とされる.

しかし富裕層は実にうまくやってきた.1973年以来,アメリカ人の上位1%は平均所得が倍増したし,上位0.1%は3倍に増えた.

なぜこうなったのか? ここで今言っておきたいことは,アメリカに中産階級が現れたのは偶然ではない,ということだ.それは第二次世界大戦中に起きた所得格差の「大圧縮」と呼ばれたものが創り出したのである.また,平等を好む社会規範,強力な労働組合,累進課税制度,が一世代を通じてそれを維持した.1970年代以降,こうしたものがすべてその力を失った.

特に1980年以来,アメリカ政府の政策は一貫して労働者家族を犠牲にした富裕層に好ましいものでした.現政権では,その富裕者優先主義が過激化して,残忍なまでに強められています.富者に有利な減税から,不幸な家族を処罰する破産法の「改正」まで,国内政策のほとんどすべてがわれわれを意図的に泥棒貴族の時代へ引き戻しています.

それは,アメリカで何が起きているかを公衆に説明しようとするものから観た醜い姿です.だから右翼の派閥がしきりにそれを非難するわけです.

こうした派閥はある意味で事態をわざとぼやかします.誤解を招くようにデータを作り変え,分割し,選別して示します.たとえば,ブッシュ減税が富裕層に有利であるのは明白なことだ.特に相続した資産からの所得が多い者だ.しかし今年の大統領経済報告は,統計からどれほど嘘がつけるかという技巧を駆使して,減税で「連邦税制の累進性全体を強めた」と主張している.

右翼派閥はまた脅しを用いて,不平等を制限する方策が何であれ経済的動機を損ない,われわれすべてを不幸にすると主張する.それは第二次世界大戦後のアメリカ経済の成功を無視している.また,最近の企業スキャンダルから得た教訓も無視している.成功した者が莫大な富を手にするという期待が,好業績への動機ではなく,不正経理をもたらした.

何よりも,右翼派閥は攻撃するために汚名を着せる.社会保障のようにアメリカ国民を経済的リスクから守るために維持されている制度を「階級戦争」と呼んで富者への減税よりも問題にする.増大する不平等に関心が集まれば,それを「ねたみの政治学」だと侮蔑する.

しかし,1970年代以来不平等が増大している本当の理由は,ねたみと何の関係も無い.労働者家族が経済の成長から利益を受け取れなくなったこと,ますます経済生活の不安定性にさらされているというのは事実である.そして,ほとんどの人が中産階級だと納得できる社会の方が,富と貧困を極端に増大する社会よりも,より良い社会であり,さらに民主主義が機能する社会であると信じるべき十分な理由がある.

増大する不平等と経済生活の不安定性を逆転するのは容易でない.われわれが失った中産階級の社会は,この国が大恐慌と戦争によって激変した後にだけ現れたから.しかし,献金する者のために尽くして,体系的に社会を悪化させている政治家たちに警戒することから始めよう.妬みの政治学,などという非難を気にすることは無い.彼らの,強欲の政治学に対して,何かしてみることだ.

NYT June 13, 2005

One Nation, Uninsured

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 国民全体への医療保険制度に関する改革案が,特殊利益団体によって阻止されたことや,医療保険制度のコスト,今後の法案通過に関して,クルーグマンは助言します.

私は,偶然,読み始めていた,原作は1994年に出た探偵小説,デニス・レヘイン『スコッチに涙を託して』(戦争前に一杯)に描かれた社会や登場人物について,いろいろ考えました.


NYT June 10, 2005

Do China and U.S. Face Same Woes?

WP Monday, June 13, 2005

A Bridge For the Underclass

By Sebastian Mallaby

(コメント) アメリカ企業も,中国の国営企業も,どこかよく似た問題に落ち込みました.NYTの記事は,GMの赤字と中国の国営企業の赤字が,どちらも倒産することで発生する生活不安に対して,政府が融資を増やすことで延命している事情を理解します.GMではないけれど,中国との競争で倒産したアメリカ企業も,企業に頼る社会保障制度を悪化させています.しかも,中国には貯蓄があるけれど,アメリカはますます債務に依存していく,と.

もしアメリカの不平等を改善したいのであれば,何よりも,その最下層,最貧困層の将来を改善することだ,とSebastian Mallabyは考えます.それには,彼らの子供たちが学校でよい教育を受け,より多く大学へ行って知識や技能を身につけることです.学校や教育の改善にもっと投資せよ,と.


NYT June 11, 2005

China to Limit Textile Exports to Europe

By DAVID BARBOZA and PAUL MELLER

FT June 14 2005

Textiles stitch-up

(コメント) 繊維貿易における中国とアメリカ・EU・日本との貿易摩擦は,@それまでの割当制度MFAが廃止されたことによる急増と国内産業の疲弊,A輸入国の政治における保護主義の台頭,B中国側の輸出自主規制,CMFAによって輸出繊維産業を育ててきた発展途上諸国への補助,DWTOや自由貿易交渉との関連,などが議論されています.

FTは,衰退産業を政治的な理由で保護する,明白な保護主義である,とEUを責めています.なぜなら,保護主義は繁殖するから.中国との競争に負ける部門が,次々に政府との交渉を求めるでしょう.しかし,保護によって衰退を免れた産業はないし,消費者への負担や経済を調整しないコストの方がはるかに高くつくのだ,と.


BG June 11, 2005

An immigrant's dream

By Patricia de Oliveira

NYT June 12, 2005

Mexico Labor Case Grows for Maker of Barbie Gowns

By ELISABETH MALKIN

(コメント) Patricia de Oliveiraは,6歳からアメリカで育ち,大学へ行こうとしたとき,自分が移民でしかないから州外授業料を要求され,奨学金も受けられないことに気付きます.マイノリティーについての支援は盛んに議論しても,非合法移民には何もしてくれません.

彼女の両親はきっちり納税してきたし,地下社会に隠れているわけでもないのに,まるでアメリカ人から何かを盗んだように非難されます.問題は白か黒かではない,と彼女は訴えます.グリーン・カード(永住権)を持たなければ,非合法移民として扱われます.しかし,彼女の家族は合法的に住んでいます.たとえカードを申請しても取得まで5年から10年もかかります.私は働き,納税し,地域社会にも貢献したい,だから同じように学ぶ機会を与えて欲しい,と.

ELISABETH MALKINは,メキシコ・シティーでバービー人形の衣装を作る労働者を紹介しています.彼女たちは,自分たちが作る衣装はとてもかわいいのだ,と自慢しますが,その工場を嫌っています.彼女たちはどなられ,トイレにも行けず,吐き気のするような食事しか与えられません.残業を強制し,工具やトイレット・ペーパーまで買わせる経営者に腹を立てて,60人ほどの仲間が労働組合を作りました.

しかし,マキラドーラから離れて中国へと移転されるアメリカ系企業や下請け工場はますます失業者を増やします.そんな中で,政府系の労働組合は企業に協力しています.


FT June 12 2005

The diverse ancestry of democracy

By Amartya Sen

(コメント) 民主主義はイラクやアラブ世界に適用できない.民主主義は欧米世界に固有の政治制度だ.そんな誤解に対してAmartya Senは反論します.

民主主義は投票に限定されるものではない.むしろ公衆との議論を通じて統治する制度である,と.重要なことは,誰もが議論と意思決定に参加することである.そして,たとえ投票がギリシャで行われたとしても,民主主義の伝統は世界中に古くから存在しており,ヨーロッパに固有のものではない.ギリシャ人はエジプト人やイラン人,インド人に影響を受けており,Senはインドのアショカ王も,日本の聖徳太子も,民主主義の伝統を示した,と賞賛します.

イラクの民主主義が育つには,政治に対する公衆の参加と議論が必要です.政治的な理由で逮捕されない,といった市民権を保障し,報道の自由や集会の自由が尊重されねばなりません.そして,セクト・宗派に分断されない男女がイラク人としての誇りを持つことが重要です.


FT June 12 2005

The paradox of thrift

By Martin Wolf

(コメント) かつてケインズが貯蓄を個人的な美徳であり,同時に,社会的な災厄であると考えたように,個人貯蓄の社会的・国際的な循環システムが経済活動に及ぼす影響は重要です.

なぜ,アメリカの財政赤字や経常収支赤字が拡大しているのに,長期金利は下がるのか? これが新しいパラドックスです.それは,アメリカ連銀が唱える世界貯蓄過剰“global savings glut”論でしょうか? 国際収支の不均衡が問題であるかどうかを無視すれば,まさにアメリカ経済が世界の貯蓄過剰を解消してくれているのです.

為替レートも調整するべきでしょう.しかし,人民元だけが問題ではない.同時に,中国を含めた新興市場が貯蓄を減らし,アメリカは貯蓄を増やすべきだ,という世界金融システムの危機予防策を伴うべきだ,と.


JT Sunday, June 12, 2005

Checking the threat that could be China

By RICHARD HALLORAN

FT June 13 2005

Guy de Jonquieres: East Asia needs overhaul

By Guy de Jonquieres

WP Monday, June 13, 2005

China: Containment Won't Work

By Henry A. Kissinger

(コメント) 中国脅威論について,Donald Rumsfeld国防長官が警告しました.リアリストの永久運動命題,世界秩序と軍事的均衡,です.為替レートだけでなく,軍事力の近代化と配置についても,同じ「調整=再編成realignment」という表現を使うのです.

工業生産力や工場の再配置もそうです.中国の過剰生産力(しかし,過剰投資ではない? ・・・過少消費!)が,世界の物価や雇用に影響するのでしょうか? アジアは国内市場や構造調整を避けるために輸出を拡大している,とGuy de Jonquieresは批判します.

もし中国が問題であれば,アメリカは中国を「封じ込める」ことができるでしょうか? キッシンジャーは反対します.なぜなら,中国の台頭は軍事的なものより,政治的・経済的なものであるからです.軍事的な対立については,中国の周辺諸国,すなわち日本,インド,ロシアを含めてバランスを形成するでしょう.他方,世界秩序におけるアメリカに挑戦する点で,中国の重要性はなお特異です.


NYT June 12, 2005

Yes, Virginia, There Is an Answer

By DANIEL ALTMAN

(コメント) 好景気なのにインフレは起こらず,金利は異様に低い.アメリカ経済の不気味さを,かつてのスタグフレーションが登場したときにたとえます.他方,株価は低迷し,対外赤字は膨張しています.・・・気味が悪い?

しかし,すべては競争(そしてウォル・マート!)で説明が付く,と言います.


FT June 13 2005

Lex: Chinese stock markets

NYT June 15, 2005

China Is Said to Consider $15 Billion Bailout of Stock Market

By DAVID BARBOZA

(コメント) では中国の側では何が起きているのでしょうか? 企業を効率的に動かしたいのか? それとも年金制度の財源を欲しがっているだけなのか? 株式市場の低迷,政治的介入,株式公開,・・・それらは市場や競争を拡大しつつありますが,そのルールはまだ混沌としているようです.


FT June 13 2005

John Kay: Empty talk of the world's leading nations

By John Kay

(コメント) サミットなんて何もできなかった! 市場経済というのは,本来,アメリカ大統領でもビル・ゲイツでも,特定の個人に何かができるところではないのです.サミットは18世紀や19世紀の戦争・安全保障を交渉した大国のイメージを政治家たちが勝手に宣伝しているだけで,何一つ重要なことなど決めていません.世界銀行は世界の銀行ではなく,IMFは世界通貨を管理していません.余りに複雑で,世界に及ぶ近代的な経済循環には,権力の集中ではなく分散が特徴なのです.


IHT MONDAY, JUNE 13, 2005

Europe, slow and steady

By Helmut Schmidt

FT June 13 2005

EU works well without grand illusions

By Andrew Moravscik

(コメント) 元西ドイツ首相のHelmut Schmidtは,ヨーロッパの二つの病気,すなわち高齢化とナショナリズムを指摘します.マーストリヒト以後に膨張してきた,未来を描き,空中楼閣と,底なしの拡大論が示す政治的意志の時代は終わりました.ユーロを離脱して,投機家の餌食になる以外の,何ができるでしょうか? 小国の市民たちはますますEUの解体よりも強化を求めるはずです.シュミットは既存の成果であるEUやユーロを失うほど人々が愚かなはずはない,と書きながら,しかし市民の支持が得られなければ,さまざまな未来が可能であると考えます.

拡大は現状のまま停止するかもしれません.EUは,イギリスが好むような,単なる自由貿易圏に萎縮するかもしれません.憲法なしに,ヨーロッパ議会がブラッセルの(政府閣僚と官僚による)決定を議会化するかもしれません.数年の交渉を経て,コア・ヨーロッパが形成されるかもしれません.すべては可能である,と.

確かに,グローバリゼーションの不安が,また失業が,人々を現実のコースから離反させました.しかし,世界経済から離脱して豊かになれるわけではないし,高齢化に対しても,ナショナリズムに対しても,政治は条約や制度によって解決できるわけではありません.個々の政治過程と市民が指導力を発揮するしかないのです.政治指導者たちは,EUを実現してきた人々の伝統に学ぶだろう,と.

Andrew Moravscikは,さらに強気です.EUの成果を維持できるし,前進し続けるけれども,EU憲法を民衆の政治的意志の表明や論争機会として利用できると考えたナイーブさは放棄するべきだ,というわけです.政治的な理想や直接民主主義に訴える試みを放棄することで,EUは今後とも,政府が政策協調を強化する枠組みとして重要な役割を果たし,国益のために各国政府の参加は続くでしょう.

William Pfaff A good crisis for the EU IHT TUESDAY, JUNE 14, 2005

Martin Wolf “A more efficient EU is less democratic,” FT June 14 2005

Stuart Eizenstat “America could suffer from European discord,” FT June 14 2005

Dimitrij Rupel “A plan to revive Europe's dream,” FT June 14 2005

Frits Bolkestein “Here's how to get started again,” IHT WEDNESDAY, JUNE 15, 2005

(コメント) たとえば,本気でド・ビルパン首相がEUを解体するのであれば,通貨や市場が再び細分化するだけでなく,ナショナリズムは各国による再軍備をもたらすでしょう.NATOは解体されて,そのときアメリカはヨーロッパの分割と紛争への介入をどのように考えるべきでしょうか?

EUは,経済的に繁栄して,しかも政治的に民主主義を実践できるシステムを目指してきました.しかし,単一市場やグローバリゼーションがもたらす経済の効率性と,国民投票が示す不満や不安は,相互に矛盾するものでした.どちらが歩み寄るべきでしょうか?

イラクやナイジェリアや北朝鮮よりも,EUの民主主義の方が優れていると言えるでしょうか? 政治に参加する者が多いほど民主的である,と言うのであれば,独裁も官僚制度も,民主的ではありません.EU憲法が否決されたのは,そこに各国の政策決定をECBのようなEUレベルの専門機関に移して,全会一致ではなく,多数決で決めるという内容が含まれていたからです.

Martin Wolfは,EU民主主義の実現にジャン・ジャック・ルソーの「一般意志」を援用します.民主主義は単なる特殊利益の「比重マシーン」であってはならないのです.「多数の意志」と「一般意志」との区別は,EUにおいて如何に実現できるのか? Amartya Senの論説に反して,異なる文化,歴史,言語に依拠した4億6000万人の公衆と討議することは不可能です.

つまり,ヨーロッパに現実に存在するのは,民主的な意思決定プロセスではなく,エリートによる政治支配,せいぜい代表制です.それは効率的ですが,非民主的です.あるいは,政治的意思決定の及ぶ範囲をもっと小さくすることです.

EUの混乱に関するアメリカ側の利益をStuart Eizenstatは明確にします.@民主主義,人権,大量破壊兵器とテロ,自由市場型の資本主義,要するに世界秩序に関する優れたパートナーを失う,A規制や条約に関する意思決定に食い違いが生じる,Bヨーロッパ経済が衰退し,改革が進まなければアメリカからの輸出は伸びず,アメリカの成長にも悪影響が及ぶ,C最大のイスラム国家としてトルコを世界秩序に組み入れることや,移民問題などを克服して,バルカン半島の安定化を担う力を失う.

“A new kind of Europe,” The Guardian, Wednesday June 15, 2005

GREGORY CLARK “Free to take exceptions to 'free trade',” JT Wednesday, June 15, 2005

Robert J. Samuelson “The End of Europe,” WP Wednesday, June 15, 2005

Timothy Garton Ash, Michael Mertes, Dominique Moisi and Aleksander Smolar “We must not let our greatness flicker,” IHT THURSDAY, JUNE 16, 2005

“Europe's big deal,” The Guardian, Thursday June 16, 2005

Timothy Garton Ash “The Future of Europe, Seen from a Sickbed,” LAT June 16, 2005

(コメント) The Guardianは考えます.社会民主主義者が欲しているのは,グローバリゼーションを拒むことではなく,それを制御することである,と.中国の水準まで賃金を下げて競争するのは受け入れられない.保護措置も一時的には必要だ.自由貿易が蔓延すればすべてが良くなるとは考えない.また,ヨーロッパ人は議会制度に誇りを持っている.アメリカのように,TVに支配され,個性だけが売り物で,企業の献金やロビイストで決まるシステムより優れている,と.

GREGORY CLARKは,自由貿易論のドグマを批判し,保護主義との現実的なバランスを求めます.そして当時,自ら提言したように,日本政府がアメリカとの自動車貿易摩擦を緩和するために,今,中国が試みているように,輸出税を導入しておくべきだった,と指摘します.それを拒んで,プラザ合意を受け入れた結末は,今なお国民を苦しめている,と.

Robert J. Samuelsonに言わせれば,たとえ一部の理想家が,老人だらけの大陸となって,もはや維持不可能な社会保障制度を自慢するとしても,ヨーロッパが世界史的な役割を担う時代はすっかり過去のものとなったのだ,と確認すれば十分なのです.アメリカのリベラルな批評家であっても,富の拡大を実現できないシステムは論外のようです.


CSM June 13, 2005

The Amazon Can't Be a Soy Farm

BG June 13, 2005

Powerful wind

(コメント) エコロジーが重要であった時代に,アマゾンのジャングルは尊重され,風力による文明が期待され,化石燃料に依存した地球の破壊は終わらせることができると議論されました.

経済という圧力は,アマゾンを大豆畑のために改造します.しかし,新興市場が石油を消費すればするほど,二酸化炭素排出量規制や石油市場が,環境維持型の太陽エネルギーや有力発電を有利にします.長期的に見て,ヨーロッパは高齢化によって不利を強いられても,環境規制では有利です.


LAT June 14, 2005

The Real Problem Facing Latin America Isn't Instability -- It's Rigidity

By William Ratliff

(コメント) アマゾンを開墾するしか雇用は生まれないのでしょうか? ラテン・アメリカは,政治的に不安定であるから投資できないのではなく,エリートによる政治支配が市場による調整を拒み,制度を固定し続けているから,極端な不平等と貧困が続き,慢性的な社会不安にさいなまれている,とWilliam Ratliffは考えます.


FT June 15 2005

China must reduce its excessive savings rate

By Ricardo Hausmann

(コメント) 中国の過剰貯蓄が世界の不均衡を拡大しています.Ricardo Hausmannは,ラテン・アメリカの成長が政策の失敗で繰り返し頓挫してきたことを批判したはずですが,中国に関しては逆に拡大策を要求しています.なぜなら,十分な国内貯蓄があるから国際収支赤字は心配なく,十分な労働供給があるからインフレ圧力も心配ないからです.

政府はボトルネック解消や資源争奪に奮闘するだけでなく,この過剰貯蓄を国内で解消し,消費による国内市場に依拠して成長を加速させるべきだ,とHausmannは考えます.その際,金融政策よりも財政政策によって,不良債権問題を回避し,資源の効率的配分や所得の平等な分配を実現するほうが良いだろう,と主張します.財政的手段で成長を加速することは,過剰貯蓄の解消と人民元切上げを組み合わせて,国内経済を調整することへの社会的な抵抗を緩和します.もちろん,財政的な介入が拡大することは,汚職や歳出の既得権化など,主要国が現在苦しんでいる問題を生むでしょう.しかし中国政府は,その経験から学ぶことができます.


NYT June 15, 2005

Let's Talk About Iraq

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Wednesday, June 15, 2005

Iraq, Then and Now

WP Wednesday, June 15, 2005

Long Road to the Promised Land

By David Ignatius

Asia Times Online, Jun 17, 2005

The bright, shining lie

By Jonathan Schell

(コメント) イラクやグァンタナモなど,ブッシュ政権の失敗については目新しさが無く,論説も減る傾向があります.しかしこれらが,9・11以後の積極的な軍事的拡大がもたらした内外の現実を示す焦点になることは確実です.

イラクでは,戦争が終わったと誰も信じていません.アメリカでは,皆がショッピングを楽しむように,ブッシュ政権が苦心しています.THOMAS L. FRIEDMANは,イラクを安上がりの戦争にしたかったブッシュとラムズフェルドが,パウエル・ドクトリン(アメリカが軍事介入するときは,質量ともに圧倒的な軍事的優勢,国内の政治的支持,を条件とする)の学習に苦しんでいる,と考えます.まだ兵士を失い続けるのか? アメリカ政府には戦略があるのか?

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The Economist, May 28th 2005

A song for Europe

German elections: Exit Schreoeder, enter Merkel?

Philanthropy: Giving while living

German business and private equity: Locust versus locust

Business and society: The biggest contract

Japan’s economy: Land of the three mistakes

(コメント) The Economistは,EU憲法案に反対してきましたし,EU・ユーロ解体ではなく,EUが単一市場の成果に戻って,イギリス式に加盟諸国は独自の政策を競わせる姿を期待します.The Economistは,ドイツや日本の市場改革が不十分であり,金融・為替政策が十分に景気を刺激していない疑いを公言してきました.それは中国やアメリカとともに,世界的な不均衡と金融不安の元凶です.分配問題についてさえ,政治の介入を招くより,市場による富を得た者が生前に社会的貢献として還元することを推奨します.

The Economistの描く世界秩序とは? Martin Wolfや,マッキンゼー社のIan Davisが,ルソーに言及したことが印象的でした.


Japan’s farmers: Facing the scythe?

The textile industry: The great stitch-up

(コメント) 関税,補助金,割当,自主規制,貿易戦争よりも管理貿易が,日本の農家や欧米日の繊維産業を取り巻く政治問題です.単一市場やEU拡大が,NAFTAやCAFTA,中国と競い合ったアジア貿易の自由化が,国内保護主義から軍事的ナショナリズムにまで依拠した政治家たちの次の選挙に向けた打算で決まるわけです.

世界秩序の基本は,戦争とともに,国内政治と衰退産業の雇用です.