IPEの果樹園2005

今週のReview

5/23-5/28

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 韓国の変心: 敗北よりも,勝利が怖い.アメリカではなく,中国との協調.

2 人民元: いよいよか? まだまだか? 最善の答えは・・・

3 核の国際管理: 核兵器の拡散.核兵器の独占.核兵器の政治的利用.廃棄の制度化.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT May 12 2005

Italy grapples with economic decline

By Tony Barber

May 18 (Bloomberg)

Italy's Economic Woes May Prompt First Euro Exit

Matthew Lynn

(コメント) Tony Barberは,「幸運に頼る君主は,運が変われば,滅びる.」というマキャベリの引用から始めます.もちろん,これは奇妙なナショナリズムに依拠するベルルスコーニ首相への警告であり,EUやユーロに加盟して安心したイタリア国民への警告です.

労働市場の改革をしなければ生産性は伸びず,雇用も回復しない.社会保障の負担は財政赤字を増大させるが,イタリアには福祉国家などなく,失業者は家族しか頼るものがない.輸出は伸びず,ユーロになってしまったために,リラを切下げることもできない.しかし,EU市場内部で,ドイツに負け,アジアにも負けている.インフレが高まっても「自由市場」を信奉するだけで対策はないと抗弁し,財政赤字を放置している.財政規律に関して欧州委員会との厳しい交渉が待っている.あるいは,ユーロ離脱で脅して,財政刺激策を取るのか? ・・・イタリアは欧州に一つしか金利がないことへの重大なテスト・ケースになろうとしています.

ユーロ加盟にもっとも熱心であったイタリアが,今度は経済危機に落ち込み,その出口を求めてさ迷い始めるのでしょうか? Matthew Lynnは,単一通貨の負担を顕著に背負った国として,それは当然だ,と考えます.EUの関係者は決まって答えます.ヨーロッパの分業に特化して,イタリア経済と企業を再編するしかない,と.それは,頻繁に訪れる深刻な不況を耐える理由になるでしょうか?

もちろん政府には不満が向けられます.なぜ金融緩和,減税などの財政刺激策,為替レートの切下げを行わないのか? それはイタリアの問題が需要不足ではなく,供給側の構造的な問題である,と考えるからです.電機,化学,石油化学など,成長率の低い伝統的な産業に偏っているために,為替レートの影響を強く受けるのです.ドルがユーロに対して減価することに耐えられません.

国際競争と不況に苦しむ大企業は,企業の再編と解雇を進めます.中小企業は耐えるか,倒産するしかありません.それは不況の悪循環です.切下げではなく,企業の再編と生産性上昇のために投資することで,イタリアは次の成長を模索しなければなりません.あるいは,ユーロを離脱して旧来のイタリア・モデルに復帰するか?


Asia Times Online, May 13, 2005

No sunshine yet over North Korea

By Andrei Lankov

(コメント) 面白く,そして重要な論説です.筆者のAndrei Lankovはレニングラード国立大学で学び,現在はオーストラリア国立大学のChina and Korea Centerで講師を勤める人物です.韓国政府が,特に対北朝鮮政策をめぐって,アメリカよりも中国に重心を移してきた理由が良く分かりました.以下に要旨を紹介します.

1950年代から80年代まで,韓国の政治と国民の意識を支配したのは,いつか第二次朝鮮戦争が起きて,北の同胞たちに支配されるのではないか,という恐怖でした.しかし,今はまったく異なった恐怖が韓国政府や政治家を支配しています.すなわち,彼らは軍事的に敗北するよりも,むしろ勝利してしまうことを恐れているのです.北朝鮮は深刻な体制の危機を迎えており,現実に崩壊する可能性があります.しかし,裕福な韓国人の誰も,少なくとも即座に,極貧の北朝鮮を自国に吸収したい,とは思っていません.

ドイツ再統合の経験は,韓国政府と国民にとって強烈な覚醒剤となりました.北朝鮮崩壊の韓国に及ぼす費用は,西ドイツの比ではなく,必要な投資額はその推定が何であれ,まさに天文学的な水準であろう,という点で一致しています.

こうして「陽光政策"Sunshine Policy"」は,次第に政治的夢想となりました.今や,韓国政府の南北統一計画は,ピョンヤンを中国型の改革政策に導くことを目指しています.改革が進めば北朝鮮も成長し,韓国とのギャップが縮小して,統一のコストが減るだろう,というわけです.それまで韓国政府は北を経済的に支援し,人権やテロ,独裁政治に関する批判を控えて,むしろその延命策に協力します.そうすることで北の崩壊は回避され,韓国の得た現在の経済的繁栄も維持される,と韓国政府は考えます.

韓国人は,北を再建するための増税で,新車の購入や,東南アジアへのバケーションを諦めたくはないのです.もちろん,20万人と推定される北朝鮮の強制収用所の囚人たちや,餓死寸前の市民数百万人は,これに反対するでしょう.しかし問題は,こうした「陽光政策」がまったく現実的でないことです.

改革の利益を享受できるまで,北朝鮮の市民たちがまだこの先何十年も今の政治体制に従うでしょうか? 南北統一のコストが軽減されるように,韓国政府が望むような統一の方針に従って,それまで我慢するのが当然だ,と思う者などいないでしょう.

そもそも,中国やベトナムが改革に成功したからと言って,北朝鮮が市場改革を行える保証はありません.北朝鮮がその政治体制を維持できている重要な条件に,空前の厳しい情報統制・宣伝があります.北朝鮮の市民は韓国が腐敗した資本主義体制によって飢餓と抑圧に苦しみ,この世の地獄であると信じ込まされています.他方,北は偉大なる指導者が国民に与えてくれた楽園なのです.北朝鮮の発行する紙幣には,「われわれは世界の誰をも妬みはしない」と印刷されています.売られているラジオはピョンヤン放送に固定されており,他の放送を受信できません.一握りの特権層しか,北から外に出たこともないのです.

要するに,市場改革が進めば,こうした情報統制は破壊されるでしょう.北は援助の見返りに改革を拒まないとしても,その程度は制限され,「陽光政策」が描くほど,経済全体を改革するには至らないのです.また,もし自分たちの状態が「楽園」ではなく,南が決して「地獄」ではないと知ったなら,特に教育を受けた北側の市民たちは,今すぐに南へ逃亡して,豊かな生活を享受したいと思わないはずがない,と筆者は指摘します.東ドイツがそうであったように,自分たちの政府が嘘つきであったと分かり,国境を越えれば,すぐ近くに豊かな生活があるなら,彼らの誰にも待つ理由など無いはずです.こうして大規模な逃亡が起き,体制は崩壊しました.

韓国政府は,もちろん,こうしたドイツ型の再統一を恐れています.そして,韓国の左翼政治家たちの間で,「平和的移行」を期待する声が強いことは皮肉です.彼らは,韓国において,学生運動や民衆の声を政治の中心に据えようとしてきた人々です.他方,北朝鮮の民衆は自分たちの政府について,自分たちの将来についても,何一つ選択できず,発言できません.そんな状態をまだ何十年も,韓国の政治家たちは維持したいのでしょうか?

しかし考えるまでもないのです.真実を知れば,一日わずか400グラムの小麦粉で生き延びるしかない人々が,ソウルの不動産価格を維持するために我慢することなどないでしょう.


FT May 13 2005

China's currency

(コメント) FTは,あたかも人民元切上げが不可避であるかのように投機的な取引が行われている,と指摘しています.いったい,その議論の正しいものと間違ったものを区別すれば,何が残るか?

たとえば,アメリカ議会のように米中二国間で貿易不均衡を理由に中国を非難するのは間違いです.しかし,他方で,史上圧力に屈することを許容できないと主張する中国の態度も間違いでしょう.正しい議論としては,わずかな切上げでは不均衡を解消できない,と言えるでしょうし,大幅な切上げが貿易を混乱させ,中国にデフレをもたらす心配もあります.

直接投資FDIも加わって,中国政府がこのまま外貨準備を増やし続けるのは愚かなことです.むしろ,中国政府はドルに加えてユーロや円も組み込んだバスケットに固定することで,一定の弾力性を得られるし,ドルが減価した際の損失も抑制できます.

要するに,FTは人民元切上げの圧力は放置できない,と考えます.中国政府は,無駄な投資を増やすことなく,国内需要を増やす工夫を見出すべきです.しかし,不均衡は人民元切上げだけで解決できるものではありません.黒字諸国の通貨が同時に切上げられることが望ましいだけでなく,アメリカ政府は財政赤字を縮小させるべきなのです.

NYT May 13, 2005

China Acts to Curtail Property Speculation

By DAVID BARBOZA

Asia Times Online, May 14, 2005

Time not ripe for revaluation

By Alexis Chui

FT May 16 2005

Guy de Jonquieres: Asia uncomfortably exposed

By Guy de Jonquieres

FT May 16 2005

Lex: Renminbi/Hong Kong

(コメント) 土地の投機的売買には課税や規制が導入されました.日本が土地バブルで失敗したように,中国でも庶民を巻き込んだ土地価格の高騰や銀行の不良債権が増大しています.

Alexis Chuiは,人民元切上げが土地投機の抑制にも反する,と主張します.アメリカによる人民元切上げ要求と市場圧力は,人民元が切上げることは確実であり,その時期とやり方だけが問題だ,という投機への心理を市場に固定させました.その結果,中国の資産は何でも買われています.土地価格の高騰と切上げとが循環的に上昇する危険がある,というわけです.

Guy de Jonquieresは,アジア通貨危機の記憶が薄れて,アジアが再び活発な輸出で成長を高めている様子に,警鐘を鳴らします.なぜなら外貨準備が累積して,最終的にドルが減価する際の為替リスクを負うことと,赤自国への融資を続けられずに急速な調整が進み,輸出市場がなくなることです.その前に,アメリカやヨーロッパで保護主義が高まるでしょう.

アジアは危機を経て域内の貿易や成長に転換するはずでした.アジアには貯蓄があり,インフラ整備を中心に多くの需要があります.アジアにとって制約となるのは資本市場の効率でした.また輸入に対してももっと市場を開放することで,生産効率を高められるでしょう.財政規律を失わずに,こうした転換ができれば,為替レートの切上げばかりに関心が集まらないはずです.

FTの短い記事は,中国経済の資本主義的飛び地である香港が世界中から(むしろ本土から)人民元投機の攻撃を受けている,と指摘します.カレンシー・ボードにより,切上げ期待によって集まる資本に対して通貨供給を増やし続けると,激しいインフレ圧力が生じるのです.アメリカよりも金利を下げたところで,切上げを期待する者に抑制する効果はほとんどありません.既に高級マンションなどは70%も値上がりしています.

中国本土が漸進的な切上げを目指す限り,その試験場である香港からホット・マネーが一掃される見込みは当分ありません.

Asia Times Online, May 17, 2005

Asia's dollar affair

By Keith W Rabin and Scott B MacDonald

今年の初め,ドルの帰趨に国際通貨市場の関心は向かいました.特に,韓国の中央銀行や日本の首相が外貨準備を多様化すると発言した際には,世界的なドル離れとドル暴落の警報が鳴り響きました.アジアの中央銀行だけで2兆3000億ドルの外貨準備を保有しています.その後,ドル安は反転してドル高が進み,一時的に警戒は解かれましたが,長期の見通しは変わりません.BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)の成長によってアメリカ経済の比重が低下すること,日本の投資家におけるアジアへの関心,そして消費者の自信回復などは,国際通貨としてアメリカのドルが衰退する趨勢的な条件となるからです.

しかしアジア諸国が,突然,ドルを投売りすることは考えられません.ドル市場に代わる十分な深さと流動性を備えた市場は見つかりません.ドルを投売りすれば自国通貨が急激に増価します.輸出競争力にも,外貨準備の為替差損にも,それは重大な意味を持ちます.さらに,たとえドルに依存する経済的な理由が失われても,アメリカとの軍事・安全保障上の同盟関係はこの地域にとってますます重要になるでしょう.

アメリカとアジア諸国の関係が現状において安定しているからではなく,中国の成長と軍備強化にあわせて,アジアの「再軍備力学」が進行しているからです.1945年の軍事的秩序は終わりました.日本,韓国,台湾が,ますます中国との対抗関係でアメリカと協力する必要があるときに,ワシントンの能力や好意を損なうドル売りを企てる理由はありません.

中国にとっても,経済的に衰退したアメリカが安全保障上の関与をアジアで低下させることを喜べません.なぜなら,その後に起きる複雑なアジア地域内の軍事圧力は,中国政府から国内の経済成長に関心を集中し,経済的に統合し,金融的にも自律したアジアの中軸を担う構想を破綻させます.

アジアが地域統合を加速し,域内の金融・サービス部門でも活発な成長を促せるようになれば,もはやドルに依存する理由は無いでしょう.しかし,そのことは安全保障や経済管理について,広範な共同責任を認めることが前提です.アジアにおける分散した関心,過去の戦争や軍事衝突と,それをめぐる怨嗟の継続,地域の経済発展をめぐる覇権争いなど,アメリカが安全保障に関与していることで紛争を回避できるメリットは非常に大きいのです.

アメリカの債券は,今も,市場で買われています.ドルが暴落する懸念は,まだ,実現しないでしょう.しかし,アジアの中央銀行がいくらドルを保有し続けても,アメリカの財政赤字や世界的な不均衡を解決するわけではありません.せいぜいシステムの危機と,それが求めている構造調整が延期されているだけです.

国際通貨市場は今後も非常に神経質になるでしょう.繰り返し混乱し,浮動性は高まります.この椅子取りゲームが突然の終わりを迎える危険が,常に存在しているからです.

The Asian Age, 17 May 2005

China’s export boom

- By Jayati Ghosh

NYT May 17, 2005

U.S. Warns China on Currency Policies and Hints at Retaliation

By EDMUND L. ANDREWS

NYT May 17, 2005

Bush's Choice: Anger China or Congress Over Currency

By EDMUND L. ANDREWS

FT May 18 2005

S Korea rules out further currency intervention

By Anna Fifield in Seoul and Chris Giles in London

FT May 18 2005

Lex: Bank of Korea

FT May 18 2005

The Short View: The way of the dragon

By Philip Coggan, Investment Editor

(コメント) 中国の輸出による成長は,ますます,対米黒字を増やしています.それは人民元を人為的に操作すると言うより,輸出企業の大部分が国有企業と外資との合弁であることや,銀行システムが国有であることを利用して,資源配分を操作しているからだ,とJayati Ghoshは考えます.そして,最近伸びている輸出分野においても,単にMFAの廃止ではなく,政府による新分野開拓の方針が反映されている,と.

アメリカ政府や議会が,こうして中国との不均衡に対する強行策を示し始めました.アメリカ財務省の報告書は「中国の現在の政策は高度の歪曲されており,中国経済とその貿易相手,そして世界経済の成長を脅かしている」と断言します.しかし,こうした激しい抗議にもアメリカ議会は納得せず,他方,通貨政策は主権の問題だ,という中国の反発も強まります.

スノー財務長官は,今すぐに人民元を切上げるべきだ,と要求します.しかし,意見は分かれています.IIEのバーグステンは,中国の政策をIMFに提訴するべきだ,と主張します.他方,アイケングリーンは,中国政府への要求を強めることは,むしろ,逆効果だ,と否定的です.また,ルービニは,中国が変動制に移行した場合にアメリカの金利が上昇する,と指摘します.

アメリカの金利が低い理由は,中国以外の世界に投資需要が少ないからだ,という意見もあります.小幅の切下げや変動制に介入するため,むしろ中国によるドル買いは強められることが予想されます.アメリカの議会や財務省が何と言おうと,中国の指導者たちは反撃します.

韓国の中央銀行は,為替市場への介入を止める,という談話を発表しました.しかし,韓国経済の輸出依存は変わらず,周辺諸国やアメリカの動向と為替レートに,無関心でいられるとは思えません.

香港への圧力を抑えるために,その固定されたレートに変動幅を設けました.しかし,中国が人民元にわずかな変動の余地を認めても,アメリカの赤字が減るとは思えません.アメリカは自国の需要を削りたくないので,結局,中国からの輸入品にWTOを無視して関税を課すか,あるいは,さらなるドル安をもたらす口先介入を続けるのでしょう.

The Standard Newspaper, May 19, 2005

HKMA sets dollar band

Lee Yuk-kei and Tim Leemaster

FT May 19 2005

Lex: Chinese banks

NYT May 19, 2005

China's Growth Ebbs, a Deterrent to Revaluation

By KEITH BRADSHER

(コメント) 香港通貨庁はHKドルに一定の変動幅を設けました.それは介入の余地を与えるでしょうか? 変動幅がある方が,通貨当局は社会的に望ましい水準を無視して投機に耽る者たちを処罰することができます.

しかし,とLee Yuk-kei and Tim Leemasterは付言します.人民元の切上げ期待が続く限り,香港ドルへの投機は収まらないし,通貨当局がいつも勝てる保証はないのだ,と.問題は,香港が資本市場として開放されており,中国政府もそれを利用していることです.堅固な資本規制で守られた人民元とは異なり,それと結びつく香港ドルの方が投機の対象にしやすいのです.

一旦,変動幅を拡大すれば,それが投機圧力によって再び拡大されるという予想も生みます.通貨庁長官Joseph Yamは,ドル・ペッグの水準を変えず,変動幅の拡大だけで投機は押さえ込める,と楽観します.その後,アメリカの金利に比べて低下しすぎた香港ドルの短期金利は上昇する,と警告します.

中国の銀行が海外投資することは望ましいのでしょうか? 国内で十分な投資機会がなく,汚職や腐敗に絡んで不良債権を増やしたり,政府の不胎化介入による債券を購入したりしても,確かに投資としては無駄でしょう.しかし,海外投資は切上げによって為替差損を生じます.

市場と政府介入は別々に働きません.たとえ為替レートを安定させても,他の変数がより大きく変動するだけだ,と批判されます.中国政府は景気の過熱やインフレ,バブルが手に負えないようになれば,為替レートの安定性など無視するだろう,と.他方,中国政府が引き締めを試みれば,中国向けの輸出で潤う日本やアジア諸国が苦しみます.

しかし,中国の投資は既にピークを過ぎ,政府の抑制策も効いています.もし投機圧力に応じて大幅な切上げが行われれば,今度はデフレを心配しなければなりません.


NYT May 13, 2005

Always Low Wages. Always.

By PAUL KRUGMAN

(コメント) GMの社債がジャンク債になっても,KRUGMANは投資家よりアメリカ労働者の地位低下を憂います.1968年にアメリカ企業を代表し,その模範とされたのはGMでした.現在はウォル・マートです.GMは終身雇用と高賃金を誇り,手厚い保険や年金を与えました.そしてSUV車が売れなくなれば,もはや利益を出せません.他方,ウォル・マートは薄給と不安定な職場を組織し,莫大な利益を上げて拡大しています.「いつでも安く」という宣伝は,ウォル・マートの価格だけでなく,その労働者の賃金を含みます.

ウォル・マートの重役Scott Lee Jr.は,1750万ドル(約18億円)の給与を得ており,それは平均的な労働者が生涯に得る賃金のすべてを2週間ごとに得ているという意味です.ウォル・マートの労働者は毎年その40%が入れ替わります.

クルーグマンは,GMもウォル・マートもその時代の変化を象徴しており,変化を逆転することはできないだろう,と言います.しかし,民間部門が失った安定した職場を公的な部門が補うには,今まで以上にルーズベルトやジョンソンが築いた公的な社会保障制度が重要なのだ,とブッシュ政権を批判します.


NYT May 13, 2005

Attention: Deficit Disorder

By ROBERT E. RUBIN

FT May 18 2005

A healthy global economy begins at home

By Kenneth Rogoff

NYT May 13, 2005

Who's in Charge of Determining U.S. Interest Rates? It May Be Beijing

By FLOYD NORRIS

(コメント) 元財務長官のルービンはアメリカに財政規律を求め,減税策の廃止や相続税の廃止ではなく改正を求めます.そして共和党と民主党が協力して医療保険の赤字削減を実現するように求めます.

他方,元IMF主席経済顧問のロゴフはアメリカと中国の役割を評価します.アメリカが不況を回避した以上,そのマクロ政策を引き締めるのは当然です.結局,世界の不均衡の大部分はアメリカの赤字です.しかし,アジア諸国が通貨の増価を認めなければ,アメリカの赤字を解消する市場はヨーロッパになります.そもそも貧しい発展途上国である中国からアメリカに貯蓄を移転する理由はあるか? と問い,中国は二つの経済を持っており,過剰貯蓄とバブルの沿海部と過剰労働力と貧困の内陸部に同じ議論は当てはまらない,と注意します.

FLOYD NORRISは,人民元切上げでわずかに改善する競争力と,金利上昇で売れなくなる不動産と,どちらが重要だと思っているのか? と政治家たちを批判します.


NYT May 13, 2005

A Push for a Central American Trade Pact

By ELIZABETH BECKER

FT May 15 2005

Amity Shlaes: Cafta vote is about more than trade

By Amity Shlaes

(コメント) CAFTAをめぐる対立とは,内戦や危機を経て親米政権が成立し,いくつかはイラクにも派兵した国に対して,繊維産業や砂糖産業がこうむる打撃を緩和するために支持する共和党と,自由貿易を実現するなら日本やEU,中国との問題を解決するべきだし,労働組合のない,低賃金の諸国から輸入を促すことは,労働者の賃金を引き下げるものだとしてAFL・CIOとともに反対する民主党との対立です.アメリカと隣接する貧困地帯に,自由貿易が富を平等に分配して豊かな後背地するのか,あるいは,不平等と不安定を拡大するだけか?

Amity Shlaesも,CAFTAの象徴的な価値に注目します.それは民主主義を実現し,アメリカと強調する近隣諸国に対して提供される政治的報酬です.ポピュリズムに流れるラテン・アメリカ諸国のアメリカに対する関心を再生しようとします.


BG May 15, 2005

A clash of interests on guest workers

By Mark Erlich

(コメント) アメリカのゲスト・ワーカー・プログラムに関する支持論です.非合法移民を取り締まるために多くの財源を浪費し,貴重な労働移民を地下経済に追いやって差別する現行制度は破綻している,という認識に基づき,実際に機能する,アメリカ労働市場と移民労働者との協力関係を合法化し,制度化しようとします.


WP Sunday, May 15, 2005

The Illusion of 'Managing' China

By Robert Kagan

IHT TUESDAY, MAY 17, 2005

The Chinese are coming. Let's greet them.

Jerome Monod

(コメント) 「中国の台頭を管理する」how to "manage the rise of China"というワシントンの議論について,歴史的に観て,大国を平和的に国際秩序へ組み込んだ例はほとんどない,と警告します.むしろ,そのような議論は自己実現的な予言として,敵視する国との宿命的な戦争を招き寄せました.

イギリスはアメリカの台頭を宥和し,利益を分かち合いましたが,ヨーロッパにおけるドイツの台頭を管理することに成功したでしょうか? アメリカやイギリスは,アジアで台頭する日本を,当初,アジアの民主的な秩序への転換として歓迎したのではなかったでしょうか? しかし,いずれの場合も,国際システムを支配する国の利害と新興大国の利害が衝突するとき,彼らは戦争を選んだのです.主要な政治目標や経済利害だけでなく,文化や制度まで共有した英米関係のほうが例外です.

中国の台頭は政治的な現実であり,必ず国際システムの変更を迫ってきます.中国政府が,アジアにおけるアメリカ軍の存在や日米安保,台湾への安全保障上の関与を,敵対行為として認識しているとしたら,アメリカ政府が選択する余地などないのです.アメリカは撤退するのか? あるいは,中国を封じ込めるのか? それは中国政府とその政治体制が決めることです.今の中国政府にとって,既にアメリカは中国に対して封じ込め政策を取っている,と映るでしょう.そして,中国を管理する方法など,他国が議論しても無駄なのです.

Jerome Monodは,欧米が中国を宥和し,世界市場に組み込む政策を通じて,その台頭を平和的に吸収できると主張します.

NYT May 17, 2005

U.S. Warns China on Currency Policies and Hints at Retaliation

By EDMUND L. ANDREWS

WP Thursday, May 19, 2005

Tougher on China

WP Thursday, May 19, 2005

Global Power Plays

By Jim Hoagland

Asia Times Online, May 20, 2005

Domestic threats to China's rise

By Adam Wolfe

(コメント) 貿易戦争や資源戦争,通貨戦争は,過去にも,大国間でしばしば起きました.しかも,指導者たちはますます諸問題への政治的な管理能力を失いつつあります.そもそも,中国の政治を決める国内問題は,欧米や日本と大きく異なります.


FT May 16 2005

US's Latin lessons

By Richard Lapper

(コメント) なぜアメリカはラテン・アメリカで支持を失ったのか? たとえば,政治イデオロギーに侵されたブッシュ政権の性格,アルゼンチンの経済危機と対処,中国市場の台頭,そして,ワシントン・コンセンサスへの嫌悪,などが検討されています.


NYT May 16, 2005

Letting Nukes Happen

CSM May 17, 2005

Stronger US push needed for N. Korea reform

By Michael O'Hanlon and Jack Pritchard

FT May 17 2005

Neutral mediation needed on N Korea

By Walter Clemens

IHT WEDNESDAY, MAY 18, 2005

The anomalies killing nonproliferation

Ramesh Thakur

The Asian Age, 19 May 2005

Nuclear regime in peril

- By Joseph Cirincione

CSM May 20, 2005

Nukes: weapons or meal tickets?

By Daniel Schorr

(コメント) もし周辺各国の足並みがそろわないのであれば,有効な経済制裁は行えません.中途半端な空爆がもたらすリスクを周辺国が受け入れることもないでしょう.北朝鮮の独裁者に褒美を与えるような交渉は誰も好みませんが,宥和する以外に可能な選択肢はありません.

もう一つの選択肢としては,アメリカが北朝鮮の政治・経済制度の改革にもっと深く関与することだ,とMichael O'Hanlon and Jack Pritchardは考えます.しかし,それはヒトラーを宥和するに等しい暴挙でしょうか? Walter Clemensは,両者が交渉するために,たとえばEUから第三者を招いて,両者が信頼できる練達の仲介者を得る必要がある,と考えます.両者や周辺諸国が戦争によって失う富と安定性に比べれば,北朝鮮への宥和と再建コストも政治的には受容できるはずです.もし優れた政治的指導者たちが合意を形成できれば.

核兵器は,これまでも,強く非難されてきました.しかし,望ましい国際管理制度への合意が存在しない.規制・監視対象についての明確な定義すらない.開発を阻止する有効な政策手段がない.主要国が独占したままで,本気で廃棄には取り組んでいない.もちろん「核兵器」のことですが,それは「通貨危機」とそっくりです.

NPTが崩壊に向かった主要な要因はアメリカの政治的指導力です.ボルトンなど,ブッシュ政権のネオコンたちが核政策を支配し,あからさまに国際機関や国際条約を軽蔑してきました.それらはアメリカを罠に掛けるためにあるだけで,小人たちの制度に縛られて巨人が身動きできないのは間違っている,と主張します.NPTが生き残るとしたら,アメリカがEUのNPT改革案に同意することだ,とJoseph Cirincioneは考えます.

Daniel SchorrはNPTの経過を要約します1945年,アメリカが広島・長崎で使用し,その「拡散」を防止する.イギリスは1952年に実験成功.1955年,ソ連のフルシチョフはアメリカの提案を無視する.既に1949年に実験成功.1960年,栄光を取り戻すために,フランスが実験成功.1964年,中国が実験成功.1967年にイスラエルが秘密裏に実験成功したが,公認せず.1970年,187カ国がNPTを承認するが,1974年,インドが実験成功.1998年,パキスタンが実験成功.

イラン? 北朝鮮? 次はどこか? 核開発を囁くことで,小国も大国の外交的関心を誘い,甘美な経済援助が得られる.


The Guardian, Monday May 16, 2005

Democracy in a world of inequality

Peter Preston

WP Wednesday, May 18, 2005

Betraying a Revolution

By Anders Aslund

(コメント) ブッシュ氏がトビリシで祝福した「自由」のシステム,「民主主義」の福音を,Peter Prestonは批判します.ブカレストでも,東ドイツでも,イラクでも,われわれは「自由」が誕生するのを見て祝福し,その後の幻滅を味わった,と.

John Dunn, Setting the People Free (Atlantic) は,民主主義が富とエゴイズムによって敗北するさまを描いているようです.Dunnにとって,民主主義が生き残るための難問は,社会が平等を維持することです.ドイツの作家Gunter Grassが論じたように,世界的規模の民主主義は,議会や権力を解体して,単なる株式市場に変えてしまいます.

他方,ウクライナの「オレンジ革命」が,今では余りにポピュリスト的で,社会主義的な政策を取っている,と批判されます.個人や企業の所有権さえ確かでない.そして前体制から引き継いださまざまな社会支出が歳入増を必要とし,大幅な増税と地下経済化を促します.ロシアの石油値上げとインフレーション,さまざまな価格統制が導入されて,肉や食料が表の市場から消えて行きます.


FT May 17 2005

Martin Wolf: A more dynamic eurozone is a necessity

By Martin Wolf

FT May 17 2005

Germany loses in populist politics

By Jeffrey Gedmin

FT May 18 2005

Schroder thinks leftward shift

By Bertrand Benoit

FT May 19 2005

Germans need new expectations

By Horst Siebert

(コメント) ユーロ圏やドイツ経済が,長引く不況によって市場経済への反発を強めています.他方,FTの各記事はドイツやEUの政治家たちに改革に取り組め,と求めます.多くの批判が持ち出すのは,「イナゴ」という非難への警告と,「ポピュリスト」という呼び方です.むしろ,旧来の社会保障制度や,まったく新しい国際環境に対して,ドイツは改革を迫られています.


Asia Times Online, May 17-19, 2005

CHINA PROPERTY BEAT

Part 1: Regulation needed

Part 2: 'Cool' not a good thing in Beijing

Part 3: Foreign money floods Shanghai

(コメント) 中国の不動産バブルについて.住宅の購入は「投資」であり,それゆえ消費財の需要と供給よりも,資本財の期待収益によって価格が決まります.また,住宅は一面では公共財であり,社会的に見て望ましい供給に関する政府の規制や介入が大きく影響します.こうした二つの視点から,冷静に,政策的な解決策を探しています.

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The Economist, May 7th 2005

Victory Day remembered

German capitalism: Bogus backlash

German capitalism: Locust, pocus

Justice versus reconciliation: Hunting Uganda’s child-killers

(コメント) イラクの治安は回復しません.それを象徴する写真に目を止めました.毛布に包まれた子供を抱えて,顔を伏せるアメリカ軍兵士の写真です.毛布の端から,その子の頭髪と小さな裸足の先が覗いて見えます.毛布にも足にも血の跡があり,裸足には乾いた泥が付いています.救うことのできなかった小さな命を抱いて運びながら,兵士は額を合わせて悲しみます.なぜ幼い子供の命まで奪うのか?

外国資本や,特にヘッジ・ファンドによるドイツ企業の再編を,「バッタども」と非難する社会民主党の指導者は,もちろん次の選挙を意識しているのです.しかし,企業が豊富な利潤を得ていながら工場閉鎖と解雇を次々に発表する姿勢が,国民の不満を強めているのです.たとえ,過去の経済モデルが機能しなくなったとしても,放任された資本主義には我慢ならない,と.私はこの点で,The Economistほど,「資本主義」という答を理想化しません.

アフリカでは,今も,多くの内戦地帯で子供が誘拐され,虐待され,奴隷や兵士にされています.