IPEの果樹園2005

今週のReview

4/4-4/9

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

三つだけ推奨するとしたら?

1.ヨーロッパについて    :安定協定を破棄し,ユーロ安を願い,台頭する中国と連携する?

2.中国について    :その成長と腐敗,その市場への魅力と,崩壊への不安,そして外交的にも軍事的にも,国際秩序の再編へ.

3.日本について    :今もなお停滞から脱却できない.市場改革と外交で成長を回復?

******************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT March 24 2005

Lex: Economic miracles

FT March 27 2005

Wolfgang Munchau: Europe's missed chances

By Wolfgang Munchau

FT March 29 2005

Martin Wolf: Europe's flawed history of unification

Martin Wolf

FT March 30 2005

Why Europe should look within for inspiration

By Nick Clegg

(コメント) ヨーロッパは,世界で最も競争力のある経済を2010年までに実現する,という目標を静かに取り下げた,とFTは批判します.失敗の原因は何か? とFTは考えます.Mancur Olsonが指摘した「経済的奇跡」の原因とは,限定された分配上の同盟関係が政治的な権力を握るのを阻止すること,でした.

ギルドや同業者協会,労働組合などは,メンバーの利益のために社会的な利益を犠牲にし,競争や革新を妨げます.それゆえ,戦後のドイツや日本が「経済的奇跡」を実現できたのは,戦争がすべてを破壊したからです.他方,イギリスでは過去からの慣性が支配し,経済が停滞しました.それゆえ1982年の研究で,Olsonはドイツや日本も停滞することを予言しました.

もちろん,サッチャーのような勇敢な改革者が現れれば,強固な利益団体も挑戦を受けます.しかし,大陸ではそのような指導者が乏しかったし,登場するとしても保守派でした.では,Olsonが進めた解決策とは何か? それは,より高いレベルの政治的決定に従うことです.たとえばEU統合のように? 関税を廃止し,地域の利益団体による妨害を回避するには,市場統合が有効だ,と考えました.

ところが現実のEUは,最近の首脳会談でも「安定協定」を放棄して財政赤字を認め,社会目標を理由にサービス分野などで単一市場の実現を遅らせました.財政赤字による刺激策は金融緩和が続いているからできているだけです.結局,債券市場のバブルとともに破綻するだろう,とWolfgang Munchauは悲観します.

Martin Wolfは,失敗の原因をさらに遡って考えます.それはヨーロッパの指導者たちが受け入れようとしない真実,すなわち,EU拡大も,経済通貨統合も,労働市場の改革ができなければ成果は得られない,ということです.ところがシラク大統領は,それを「ウルトラ・リベラリズム」と呼んで,新しい共産主義のように非難した,と.

東西ドイツであれ,EU拡大であれ,ヨーロッパの指導者たちは何度も失敗しています.統合によって人口は増えたけれど,その平均的な生活水準は低下したのです.理論的に見れば,それまで貿易や投資,人口移動を制限されていた豊かな地域と貧しい地域とが統合すれば,賃金や利潤,物価,貿易可能なサービスの価格が統一された市場の内部で収斂するはずです.しかし,西ドイツの政治家や労働組合はこれを阻止しました.結局,投資が殺到するよりも,東ドイツの生産と雇用は失われ,労働者が流出したのです.

FTも含めて,ドイツにイタリア南部問題が発生する,という多くの批判がありながら,西ドイツの政治家たちは自分たちの変化が最小になることを優先しました.そして,東の経済停滞に対して,GDPの約4%に及ぶ財政移転が必要になったのです.ドイツの財政は悪化し,こうして安定協定を破棄する事態に至りました.EUの単一市場やユーロ誕生,EU拡大も,同じ失敗の繰り返しなのです.

EUはドイツ統合と違って,変化を抑制する政治的メカニズムが弱く,財政的な補償メカニズムもありません.それでも,シラク大統領やシュレーダー首相は,いまだにサービス取引の自由化を「ソーシャル・ダンピング」と非難し,「ヨーロッパ的な社会モデル」にそぐわないと拒否しています.もっと貧しい,人口の多いバルカン諸国やトルコ,ウクライナとの統合は? とんでもない,ということです.しかし,Martin Wolfは政治的な改革と経済的な成果はともに実現しなければ,後で両方とも破綻する,と警告します.

改革のためには,何もアメリカを真似るのではなく,デンマークやスウェーデン,フィンランドのすばらしい成果,すなわちノルディック・モデルを学ぶことだ,とNick Cleggは主張します.労働市場への過剰な規制で有名な諸国が,どのように改革を実現したのか? たとえば規制を最小にとどめ,給付は新しい雇用を支援する形に変えました.それが労働者の移動を促し,労働市場の弾力性を高めることにもなったのです.


IHT Friday, March 25, 2005

Democracy's nasty surprises

Geoffrey Wheatcroft

FT March 31 2005

Samuel Brittan: Two different ideas of democracy

By Samuel Brittan

(コメント) 民主主義は,1932年に,ヒトラーを選んだことを忘れてはいけない.ブッシュ大統領が中東における民主主義の拡大を目指す場合,選挙によってイスラム過激派の政権が誕生する可能性は,アメリカが介入する結果として,その可能性を高めている,と.アメリカは「民主主義」に何を望むのか?

Samuel Brittanは,民主主義に二つの異なるモデルがある,と考えます.ひとつはコーポラティスト型,もうひとつはルソー(一般意志)型,です.コーポラティスト型民主主義では,社会集団の異なった利益が尊重され,そのバランスを取らなければなりません.農民,労働者,商人,資本家,その他の主要な社会集団が「経済ゲーム」の参加者です.「社会的ヨーロッパ」というのが,それです.

他方,ルソーは個人の個別的な利害を超越した一般的な利害,「一般意志」が成立する,それを生み出す過程が民主主義だ,と考えました.Brittanは,さらに特定の意味を与えています.すなわち,個々の社会集団に「公平な」利益のバランスを約束しても,結果として,有権者や消費者は貧しくなるかもしれない,という問題です.だから「一般的な利害」が追求されるべきなのです.(私の先週書いたReview,「アルゼンチン」もそれが主要な結論でした.)

全体として,英米はヨーロッパに比べてコーポラティスト的なモデルから遠い,と考えられます.

しかし,この対立は時間軸によっても変わる,とBrittanは考えます.もし長期的に考えるなら,コーポラティスト型の民主主義モデルには,成長を制約する限界がその破綻を強いるでしょう.ヨーロッパは,一方で高齢化と少子化が,他方で新興市場の追い上げと富裕化が,彼らの成長の基盤を失わせていることを意識し始めています.すなわち,もっと「弾力的なヨーロッパ」,「経済改革」の追求です.

ヨーロッパ憲章は,その社会的権利において,コーポラティスト的な理想を明確に掲げています.


FT March 25 2005

China's banking system has made patchy progress

By Muir Dickie

(コメント) 中国の4大銀行が改革を必要としていることは以前から強調されています.Muir Dickieは,その改革が少しずつ進んでいるが,まだ先は長いことを報告しています.

世界的に行われている金融改革の方向は,日本とそっくりで,明白です.銀行は過剰な視点と雇用を削り,取引を完璧に把握した優秀なスタッフを必要としています.巨額の不良債権を国有の処理会社に移すだけでなく,新たな不良債権を発行させないように,監督機関が監視を強めるでしょう.今のところ,自己資本の充実など,見せ掛けの改革にとどまるようです.

スタッフの不正行為や誤った振り替え,ATMの誤作動,停止,などが続いています.たとえ株式化して,外国資本にも投資を認めるとしても,銀行の伝統的な経営や被雇用者の文化,企業統治や指導力が改まらなければ,投資は無駄になるでしょう.そのことを意識して,外国投資家は慎重になりつつあります.

規制緩和と競争がこうした変化を促すことは間違いないですが,正しく監視され,支持どうされなければ,競争が一時的な収益の改善を目指した危険な投資に向かうことも各国の経験としてすでに示されています.不動産投資,自動車ローン,消費者金融などを急速に拡大するのは,代表的な失敗です.また,政府も銀行融資を政治的な手段として利用するために過剰な管理や介入を行う習慣を捨て切れません.

金融システムの資産に占める銀行の割合は60%に達し,銀行改革なしには中国の成長は持続できません.しかし,改革の進まない銀行に公的な資金を投入して救済し続けることも,結局,問題をさらに悪化させるのです.中国も,日本の経験から学ぶべきでしょう.

FT March 28 2005

Unfair shares: China’s mishandled market structure

By Geoff Dyer and Francesco Guerrera

(コメント) 中国の株式市場が長期にわたって低迷し,すでに暴落し始めています.上海市場の仕組みを伝えるGeoff Dyer and Francesco Guerreraの記事は,その背景を理解するのにピッタリでしょう.

なぜ10%で経済が成長する中で,株価指数は15%も暴落しているのか? それは株式市場が政治的に利用されたからです.上場企業を決めるのは政治家であり,彼らは地方政府や銀行の負担を減らすために,株式市場を利用して国営企業の株式化を企てました.さらに,株式を発行しておきながら,その経営を投資家の意向に従わせる気などなかったのです.株式の3分の2は地方政府などが所有しており,投資家には情報を知らせないし,経営に関与することもありえない,という態度でした.

株価の暴落は,さまざまな意味で深刻な影響をもたらすでしょう.先日,株式市場を監視する中国証券規制委員会CSRC(the China Securities Regulatory Commission)のスタッフが施設に侵入し,焼身自殺を図って逮捕されました.株価暴落で貯蓄を失ってしまったのです.多くの人々が,信用不安のある銀行に低金利で預金する以外に貯蓄できず,政府が推奨していた株式投資を始めて失敗しました.新しい中産階級の不満は政治不安につながるでしょう.

証券市場や投資仲介機関の不備も深刻な問題です.社債市場はほとんど存在せず,証券発行を助ける証券会社もありません.数少ない証券会社も経営の失敗で倒産寸前です.確実な利益を約束して,売値を割った投資信託を多く抱えている状態です.そして,最後は,顧客の金を使って自分の持ち株や損失を処理するわけです.

ショックに強い株式市場が育っていないことは,中国資本主義の将来にとって重大です.中国が政府の望むように,今後も製造業の世界的な中心地として繁栄し,さらに高度な技術も取り入れて成長するためには,革新的な民間企業が巨額の投資を集めなければなりません.政府の財政資金や銀行融資だけでは成功できないでしょう.また,地方政府はさまざまなインフラ整備のために資本市場を利用したいはずです.

また,一人っ子政策の重大な結果として,中国の年金財政は確実に破綻します.労働者になるよりも,はるかに多くの退職者がいるからです.世界銀行は,その負担がGDPの140%に達する,と予測します.高い貯蓄率にもかかわらず,銀行預金だけでなく,もっとインフレに強い資産に投資する手段が乏しいわけです.

もちろん,政府は株価の浮揚を狙って,さまざまな投資奨励策を取っています.取引に課した税率を半分にし,保険会社の株式保有を拡大し,外国の証券会社にも国内の証券会社と合併することを許しました.また,銀行は投資信託や証券会社を設立できます.もちろん,日本でも聞いたような話です.

しかし,根本問題は政府が株式市場から手を引くこと,経済への直接的な介入をやめることだ,と言います.実際,もし外国資本が中国の証券市場を改革することに成功すれば,証券市場や投資は政府の規制や介入を嫌って,独自に変動し始めるでしょう.しかし,今のところ政府が望んでいるのは,再び中産階級の蓄えを奪うことだけでしょう.だから,彼らの抗議活動もさらに激しくなるのです.

BG March 25, 2005

Rice's taunts to China

WP Friday, March 25, 2005

Taiwan's Right to Freedom

By Frank Chang-ting Hsieh(premier of the Republic of China)

(コメント) ライス国務長官は中国を訪問し,アメリカ国内の保守集団にアピールするような要求を中国政府に直接ぶつけて満悦し,他方で,北朝鮮との核廃棄交渉に臨む姿勢ではあいまいな合意に終わりました.日米の右派勢力は,日本の再軍備や憲法改正を実現することで,中国の強硬派が最も懸念してきた予言を実現することにつながり,中国政府を日米軍事同盟に決定的に対立させます.アメリカ政府と協力して日本がアジアから中東,さらには世界全域で治安維持や平和維持活動に参加する方針を示し,憲法改正を用意し,衛星やミサイル防衛網開発を進めています.核武装さえ,TVで公然と主張する政治家がますます意気軒昂です.

Frank Chang-ting Hsiehは,台湾国民が独立を選択することを武力で阻止できるという中国政府の「権利」に反対します.また,選挙で選ばれていない2900人に上る「代表」や「議員」が中国側で台湾の2300万人の将来を決めてしまうことに反対します.リンカーンが内戦に訴えてでも南部の独立を阻止したのは,台湾の独立を阻止する中国政府の口実とされています.しかしHsiehは,リンカーンの連邦政府は住民の合意に基づく承認を経ていた.中国政府の要求は権力を支配する共産党の要求に過ぎない.リンカーンは自由のために,黒人奴隷の解放のために戦った.中国政府は台湾の自由を押さえ込むために威嚇する,と主張します.

台湾政府は,市場による経済発展だけでなく,民主化と平和においてアジアや世界の諸国と一致しています.もし台湾の政治的主張が武力によって威嚇され,それを友好国が無視するなら,思い出すべきだ.中国の領土や資源をめぐる主張,貿易摩擦や通貨摩擦,日本はおろか,アメリカ本土にも達する核兵器の開発は,誰の問題か,と.


BG March 25, 2005

Afghanistan, the poor stepsister to Iraq

By H.D.S. Greenway

The Guardian, Friday March 25, 2005

Europe is risking silence to end its longest war

Jonathan Steele

(コメント) イラクに対するアメリカ軍の介入には関心が集まり,欧米間の政治対立として世界政治の転機をなっているのに比べて,チェチェンに対するロシア軍の介入は無視されています.

アフガニスタン,イラク,チェチェン.どの地域が最初に住民たちの経済的繁栄や政治的発言を実現するでしょうか? 大国や軍事的支配者は,どのような見通しを持っているのでしょうか?


NYT March 25, 2005

Breakthrough in Bishkek

BG March 26, 2005

Desperate in Kyrgyzstan

The Guardian, Saturday March 26, 2005

Bishkek spring

NYT March 29, 2005

Democracy Falls on Barren Ground

By ELINOR BURKETT

WP Tuesday, March 29, 2005

From Revolt to Democracy

IHT Wednesday, March 30, 2005

Where was the West all that time?

Alexander Cooley

FT March 31 2005

United effort to solve Kyrgyz crisis

By Borut Grgic

(コメント) 私はキルギスタンの首都ビシケクに行ったことがあります.経済調査団に参加して,中央アジアの何もない道をバスで走りました.

どの国もソ連型の支配体制をまだ継承しており,資源の有無と軍事的な利用価値が,首都の建物の質や数を決めていたわけです.確かに,中央アジアは貿易においても通貨においてもソ連邦の解体による重大な改革を必要としているはずなのに,政治システムがこの上なく硬直的な印象でした.

アカーエフ大統領は,他の中央アジア諸国よりも開明的で,民主的な政治システムの導入を試みてきた人物です.かつて日本も,積極的に,日本の戦後成長モデルを輸出しようとし,IMFが安定化融資を行うために行う政策評価でその市場改革を賞賛した政府です.

問題となっているのは,この政治革命が,グルジア,ウクライナに続く,ロシア衛星国家の崩壊である,という点です.資源に加えて,中国やアメリカとの関係が議論されるでしょう.そもそもこの「民主革命」がアメリカの市民政治団体などの支援によるクーデターではないか,という非難も既にあります.

さらにBGは,この改革が失敗に終わり,貧しくなった国民の不満に対して,アカーエフ自身が官僚支配を強化し,政敵を弾圧する強権的な支配者に変わった,と解説しています.より強権的な支配を続けているカザフスタン,トルクメニスタン,タジキスタンではなく,キルギスタンが民衆の抗議に弱かったことは,私にとって納得できない「革命」です.

中央アジア全域に及ぶ真の「民主革命」であるかどうか,まだ今後の変化を見なければ誰にも分かりません.


NYT March 25, 2005

What Happens Once the Oil Runs Out?

By KENNETH S. DEFFEYES

NYT March 25, 2005

Coal in a Nice Shade of Green

By THOMAS HOMER-DIXON and S. JULIO FRIEDMANN

NYT March 27, 2005

Geo-Greening by Example

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT March 29, 2005

Drawing the Line on Energy

By JAMES BROOKE

WP Wednesday, March 30, 2005

A New Era for Oil?

By Robert J. Samuelson

(コメント) エネルギーの供給や利用形態は,世界の政治経済秩序に根本的な変更を迫ります.アラスカの自然保護か,石油の採掘か,ブッシュ氏は後者を望んでいました.環境保護団体が激しく抗議するのはもちろんです.ほかには?

結局,石油の枯渇とエネルギー問題について.ブッシュ政権が北極圏の油田を開発することは,石油危機を先延ばしにするだけで,石油業界に大きな利益をもたらします.世界的な石油の枯渇に対処するのであれば,ディーセル・エンジンの利用や効率の改善,そして石炭を利用することになるでしょう.

THOMAS HOMER-DIXON and S. JULIO FRIEDMANNも,太陽エネルギーや水素エネルギーへの転換が難しいことを指摘して,代替的な移行エネルギーの複合技術を提案します.

他方,THOMAS L. FRIEDMANは,アメリカが政策的に石油消費を抑えることで,軍事力によらずに世界秩序を転換する可能性を指摘します.すなわち,地政学,エネルギー,環境保護を組み合わせたa "geo-green" strategyです.

中国が日本との国境紛争が続く地域で海底油田を開発しようとするのは,アラスカの油田を引くパイプ・ラインをめぐって日本がロシアとの交渉に勝ったことも関係あるようです.エネルギー獲得競争や市場の分割は,これで終わるわけではなく,勝利も敗北も過渡的でしかない,と思います.アジアにおけるエネルギー紛争は,どの国の経済にも大きな制約となるでしょう.

Robert J. Samuelsonは,このまま石油価格は高い水準で推移し,新しいエネルギーへの移行が促されるかどうか,その予想を決める鍵は,ここでも,中国だ,と言います.世界が消費する8400万バレルの石油の内,アメリカは2100万バレルを占めます.中国の消費量は現在640万バレルであり,2010年までに倍増するでしょう.しかも,国内生産は伸びません.

かつてアメリカも国内生産量を独占して価格を安定的に支配した時代がありました.しかし,国内需要が伸びて輸入に頼ると,次第に生産国の要求が強まり,OPECの時代になりました.世界が石油不足の時代に移行し,中国やインドなど,新興諸国が石油を奪い合う時代が既に始まりつつあります.私たちにできることは,高価格を維持して国内需要を抑え,供給諸国の政治不安に対する脆弱性を抑えて,世界経済の不安定要因を管理し,安定的に次のエネルギーに移行することを促すことだ,と.


NYT March 25, 2005

Fraying of a Latin Textile Industry

By GINGER THOMPSON

(コメント) 多角繊維協定の廃止に伴う(つまり「自由貿易論」),世界中の繊維産業が再配置される社会的コストを考えさせる記事です.

「毎週月曜日.それはこの15年間,エル・サルバドルのおよそ9万世帯を戦争と著しい貧困状態から抜け出すため手を貸してきた衣料工場が,労働者を雇う日です.朝7時までに,わずかな豊かさを求めて,Gloria Camposのような女性が列を成します.」

「しかし世界貿易のルールが変わって,エル・サルバドルの産業革命は逆転される恐れがあります.最近まで成長の源泉であった衣料産業の雇用は,この10年間で初めて,2004年は減少しました.」

「政府の推定でも6000人,経営者たちはその倍の雇用が失われたと言います.」

検討されている問題群は,@多角繊維協定の廃止,A中国への工場移転,Bエル・サルバドルのドル化経済,C中米自由貿易協定CAFTAをめぐる論争,D衣料産業の革新・構造転換,Eアメリカ本土でも中米でも雇用は不安定化,F所得格差と既存経済システムの解体,移民の増大,などです.

「こうした貧しい地域では,失業の増大はより多くの空腹と移民の波を意味します.エル・サルバドルの農業はこの10年間で急速に衰退し,既に死滅しつつあります.そしてマキラドーラ(組立工場のことを彼らはマキラドーラと呼ぶ)が世紀雇用の半分以上を占めています.人口の40%以上が失業もしくは低雇用で,推定10万人が毎年アメリカ合衆国へ出稼ぎに行きます.」

34歳のDina Riveraは3児の母であり,工場が中国へ流出する影響を感じています.仕事を覚えれば安定した職に就けると思い,彼女は8年前にマキラドーラで働き始めた,と言います.それは中米の貧しい家族にとって夢でした.それ以前は,裕福な人々の子供の世話や服を洗濯していました.」

「彼女の賃金では長期の夢をかなえることはできませんでした.しかし少なくとも,彼女の子供たちに日々の糧を与え,学校へ通わせることはできました.」

今ではそれも無理です.「富は中国へ言ってしまった.」「・・・私も行きたい.」と彼女は言います.


JT Saturday, March 26, 2005

Alliance lets Japan, Britain influence America to change

By DAVID HOWELL

March 28 (Bloomberg)

Rocks Roil Waves for Korea, Japan Economies

William Pesek Jr.

JT Tuesday, March 29, 2005

Japan apologetic: Prisoner of the past?

By TOM PLATE

(コメント) 第二の日英同盟が必要かもしれません.イギリスが閉鎖的なEUに対抗してアメリカを必要としているように,日本は中国の台頭に対してアメリカを必要としている,とイギリスの保守派は考えます.同時に,日英で協力すればブッシュ政権の偏った政策に好ましい影響を与えられる,と.

韓国の反日感情は加熱しています.国旗を焼き,抗議のために指を切り落とす.竹島の帰属をめぐる領土問題も関心を集め,トヨタは韓国での新車発表会をキャンセルしました.

日本と韓国と中国.彼らは互いに経済的な繁栄と平和を求めており,自由貿易圏や単一通貨,地域の債券市場,債権格付け,会計基準などを進めることで合意しています.巨額のアメリカ財務省証券を保有し,互いに誰かが先に売却するのを恐れています.その資金を地域内の企業や公共投資に利用したいはずです.

ところが三国は互いにナショナリズムを煽って,感情的な対立を強めています.三つの分野が特に影響を受けるだろう,とWilliam Pesek Jr.は指摘します.域内の分業を進めている自動車,互いに市場を提供しているエンターテイメントと観光業です.

それでも小泉首相は靖国神社に参拝し,中国や韓国の政府は日本との戦争の記憶を強化します.地域市場の統合は,ここでも経済学ではなく,地政学の問題です.

「本当に悲しいことだ.アジアが協力し,その氏名を共有するほど,私たちは大きな利益を得るだろう.そんなときに,互いのナショナリズムを煽って,非難し合っているとは!」・・・アジアはいつまで過去に縛られて生きるのか? とTOM PLATEは問います.

なぜ日本は,その平和主義と成長を実現した戦後のすばらしい記録によって,アジア諸国からの好感と尊敬を集めることができないのか?過去の侵略を謝罪せよ,と繰り返し要求されるのか? この論説が紹介するように,もし社会党の村山富市首相がアジア外交を積極的に展開していたら,戦後の記憶を塗り替えることができたのではないか,と私は夢想します.

軍備拡大が悪循環を招くように,ナショナリズムと敵対的な外交姿勢も悪循環をもたらします.この点では,町村外相のアメリカにおける講演を好意的に引用しています.逆説的なことに,過去への謝罪だけでなく,アジアの現在と将来に向けて,その平和や経済的繁栄を積極的に支援する外交を展開すれば,初めて歴史の呪縛を解くことができるかもしれない,と.


LAT March 26, 2005

The Long-Distance Burger

(コメント) マクドナルドのドライブ・スルーと,Citibank,IBM,GM,Dellなどのアウトソーシングとをつないだ,アメリカ社会についての寓話です.


FT March 27 2005

Property gold rush threatens US growth

By Christopher Swann

JT Monday, March 28, 2005

Low rates endanger South Korean banks

By CHRISTOPHER LINGLE

(コメント) ドル本位制下における金融緩和のもたらした住宅バブルや金融システム不安に関する警告です.その解決策は? 上位の金融監視機関に評価を委ねること?


NYT March 27, 2005

Buckle Up for the Dollar's Ride

By DANIEL ALTMAN

March 30 (Bloomberg)

Euro May Turn Out to Be the Dollar's Best Friend

Caroline Baum

(コメント) ドル暴落の議論はいつの間にか消えてしまいました.どうしてか?

1000億ドル規模の投資を行っているBridgewater Associatesは,3月に,「ドル・システムの崩壊」という報告書を出して,投資家に警告しました.こうした事態の推移は,アルゼンチンが破綻する前とそっくりです.ドル暴落は避けられないのに,誰もそのことを言わず,静かに海外資産に逃避し始めているわけです.

もちろん,アメリカの金融市場は,ドル化や外資の銀行買収,資本逃避,ハイパー・インフレによって冒された未発達で小さな金融市場しかないアルゼンチンと異なるでしょう.ドルが暴落して金利が急騰し,アメリカが不況になれば,一時的なショックにもかかわらず,アメリカの企業や資産を求めて資本が流入し,世界中で金融緩和が進むはずです.アメリカの金融システム全体が破綻するとか,あるいは,デフォルトや資本規制を必要とするわけではないからです.ドル安やインフレが進めば,債務の組み替えをするまでもなく,外国の投資家は損失を強いられます.

Caroline Baumは,なぜ誰もがドルは減価するしかない,と考えているときに,ドル高が起きているか?と問います.それは,逃避する場所がないからだ.ユーロは,ジョージ・ブッシュが大嫌いな人にとってのジョン・ケリーでしかない,と.

他方,ユーロは「安定協定」を失いました.シラクやシュレーダーは,ブッシュと財政赤字を競う構えです.さまざまなアルファベット機関(頭文字で省略した呼び名を持つ国際機関への蔑称)を動員して不安を回避しようとするEUの通貨同盟(ユーロ)は,既に終わりの始まりだ,とさえ言われます.

EMUを維持する改革のための時間稼ぎをすることがECBの目的であれば,ユーロ安を願うのは当然です.つまり,ドル安とユーロ安は,互いにもたれあって安定を保つ融和の時代を迎える?


WP Sunday, March 27, 2005

Don't Move On

The Guardian, Wednesday March 30, 2005

How to stop Hotel Darfur

Jonathan Freedland

(コメント) ダルフールがブッシュ政権にとっての悩みの種になるほど,自衛隊を派遣するという小泉首相の「英断」が求められます.フランスは虐殺に関する国際法廷を要求しています.しかし,アメリカ政府は反対です.中国政府は,内政に関する経済制裁に反対です.イギリス,フランス,アメリカは平和維持軍を送ることに反対です.アフリカ連合のPKOではまったく足りません.

国連とクリントン政権がかつて推進した「人道的介入」は,日本政府を除いて,大きく支持を後退させています.それはNATOによるセルビア空爆が,その後,政治的な安定をもたらさなかったからです.今では,地域の安全保障を地域内で担える能力を開発することが優先されている,と思います.


WP Sunday, March 27, 2005

Wolfowitz: 'Important Things' to Do

WP Monday, March 28, 2005

World Bank Pragmatism

By Sebastian Mallaby

WP Thursday, March 31, 2005

Mr. Wolfowitz and the Bank

(コメント) ウォルフォウィッツの世銀総裁は,これほど多くの論説を書かせるほど関心を集めているわけです.WPはウォルフォウィッツとのインタビューを載せていますが,予想されるような慎重な正当化を踏み外すような内容はありません.Sebastian Mallabyは,ウォルフォウィッツの民主主義への情熱を高く評価します.

WPは,世界銀行の存在理由と,その難しさを理解します.金融危機から伝染病の感染まで,内戦からの復興や安全な飲み水の供給,識字率の向上,その他に,年間200億ドルも支援している機関です.たとえば,ラオスのダム建設を融資するかどうか,世界銀行は悩みます.非民主的な政府,腐敗した官僚,大規模な環境破壊,住民の生活は犠牲になるかもしれません.さまざまなトレード・オフに加えて,ヨーロッパの人が嫌う総裁についての論争が加われば,この機関の有効性は損なわれるでしょう.せめて,ウォルフォウィッツ総裁の方針を見てから批判するべきではないか? イラク戦争の責任を世界銀行の論争に持ち込むのではなく,と.


WP Monday, March 28, 2005

Saving Nonproliferation

By Jimmy Carter

BG March 29, 2005

Build missile defense before it's too late

By Jeff Kueter

(コメント) 核拡散防止条約を持続しなければならない,とカーター元大統領はブッシュ政権に求めます.アメリカ政府自身が,北朝鮮やイランの核武装を刺激し,核兵器や長距離ミサイルの開発を促進しています.しかし改定交渉に向けたアメリカ政府の取り組みはありません.

カーター氏は5月の会議に向けて問題提起します.@ロシアの核兵器削減と処理を助ける,Aすべての核保有国がNPTに参加する,BNATO軍から核装備を減らし,西ヨーロッパから核兵器を撤去する,C核実験の凍結を承認する,D核分裂物質の取引を規制する条約を支持する,EアメリカがNPTに代えようとしているミサイル防衛網の開発をやめる,F中東における核拡散を抑制する必要性を認め,イスラエルの問題を討議する,です.

他方,Jeff Kueterは,北朝鮮のような国が今後も現れる限り,アメリカはミサイル防衛網を築くしかない,と主張します.


WP Monday, March 28, 2005

The Annan Report

CSM March 29, 2005 edition

Taking the UN Into This Century

CSM March 30, 2005 edition

Time for UN to embrace reform or accept irrelevance

By John Hughes

NYT March 30, 2005

The Verdict on Kofi Annan

BG March 31, 2005

No confidence in Annan

The Guardian, Thursday March 31, 2005

Mend it, don't end it

LAT March 31, 2005

Annan's Plan Would Be Suicide for Nations

By David B. Rivkin Jr. and Lee A. Casey

(コメント) アナン事務総長の国連改革案に対する論争が続いています.

イラク戦争でも,ダルフールでも,国連安保理は合意に達することが難しく,進んで行動に移る政治的意志を欠いています.国連が十分な集団的安全保障を提供できなければ,国際紛争を平和的に解決することを保証もできないわけです.・・・もちろん,この表現自体が,深刻な矛盾です.グローバリゼーションの過程で,国連が重要な役割を担う問題は増えるでしょう.しかし,戦争はいつもナショナリスティックな大国間の問題です.これに関わることが,自殺行為,か?


FT March 29 2005

Made in Japan: Tide of history is halted in search for quality

By Michiyo Nakamoto

FT March 29 2005

Economy: Exports still drive prospects for growth

By David Pilling

FT March 29 2005

Government bonds: Search begins to widen debt base

By Philip Stafford

IHT Friday, April 1, 2005

The beginning of the end for Japan Inc.

Jeff Kingston

(コメント) FTが日本経済に関する特集を組みました.品質へのこだわり,生産技術の保護,などを理由に,コスト削減を理由とした中国への生産拠点移転は転換しつつある,と伝えています.むしろ問題は,バブル破綻後の経済調整は,ミクロの革新と競争を回復することより,マクロ経済管理の問題でしょうか? デフレからの脱却は時間を要し,高齢化や消費行動の変化により,輸出によって回復を支えるしかないという現状です.

政府は将来,1990年代に大量に発行されて国内で保有されている国債が借り換えられるときのショックに備えて,国債を外国投資家にも販売できる条件整備に努めています.しかも,国内の景気回復や金融再編が進み,特に郵便貯金が資金運用を変えることを予想して,すでに国債市場で不安が生じています.

大銀行が破綻し,西武鉄道の堤義明が逮捕され,ダイエーの整理,郵便局の民営化,日産やソニーを立て直すのは外国人経営者,ライブドアによるメディア企業の買収,など,かつての「日本株式会社」が目に見えて解体されつつあります.


BG March 29, 2005

Warplanes for Pakistan

NYT March 29, 2005

Fuel for South Asia's Arms Race

Asia Times Online, Mar 29, 2005

The US comes out fighting with F-16s

By Kaushik Kapisthalam

(コメント) F16戦闘機をパキスタンに24機売却する合意は,南アジアの安全保障を犠牲にして,ブッシュ氏に協力したムシャラフ政権を支持する試みです.それはまた,閉鎖の危機に瀕するロッキード・マーティン社の生産ラインを助けることも意味します.アメリカはこの友好国をインドや中国に対する防衛拠点や交渉カードとして利用するのでしょう.


IHT Tuesday, March 29, 2005

Bush's classic conservatism

Henry R. Nau

WP Tuesday, March 29, 2005

Conservative, Liberal, Principled

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) ジョージ・ブッシュは保守派の国際主義者である,とHenry R. Nauは言います.ヨーロッパ人はそれを受け入れがたいようだが,アメリカには存在する.国際主義が,必ずしも,ウィルソン主義を意味しない.民主主義の価値を,社会の安定性よりも自由に置き,脅威に対して熱狂的に,そして,一方的に応戦する.それはアメリカの保守的伝統だ.

もちろん,Terri Schiavoの論争に見られるように,アメリカの保守派は,リベラル同様に,その戦線や同盟関係を変化させます.


FT March 30 2005

The west needs a new sense of self

By Mark Mazower(professor of history at Columbia University)

FT March 31 2005

Philip Stephens: US yet to accommodate China's rise

By Philip Stephens

(コメント) かつての「西欧の没落」と同じように,西側の自己認識が揺らいでいます.歴史家から見れば,17世紀の「科学革命」,19世紀の植民地拡大,20世紀の冷戦,などは,不安や危機を伴いながら,西側が世界を作り変えるイメージを継承していました.しかし,今はどうか? 大西洋から太平洋へ,アメリカからアジア・中国への世界的なパワーの移行を,西側は受け入れる用意がまだないのです.しかし19世紀に戻るだけで,イギリス以外には,戦闘にまみれて分裂状態のヨーロッパ大陸にはまともな国家などなく,アメリカも幼稚なライバルに過ぎませんでした.このような時代だからこそ,国連を維持して,相互の理解を促す対話が継続される道を残しておくべきだ,と.

アジア通貨危機と日本経済の衰退においても,イラク戦争をめぐる米欧の衝突においても,漁夫の利を得たのは中国でした.というのも,中国の世界経済と国際政治における影響力・発言力が,中国自身の予想した以上に,摩擦なく,急速に拡大したからです.

アメリカは,日本や韓国,台湾と協力して,中国が国際的な舞台で生産的に関与できる舞台を作る,と言います.なるほど,それは「封じ込め」でもあり,「宥和」でもあるような,ひとつの世界戦略です.しかし,中国が思い通りに北朝鮮を威嚇し,台湾を容認してくれるでしょうか? 市場や資源(領土)の争奪戦で,先行する諸国の作ったルールに従ってくれるでしょうか?

要するに,中国は覇権を目指しているのであり,アメリカの覇権や国際秩序を侵食しているのです.覇権の推移を安定的に受け入れる国際主義がなければ,将来の対立が非常に深刻な性格を帯びます.


NYT March 31, 2005

QUESTIONS FOR . . . Kurt Eichenwald

(コメント) エンロンに関する"Conspiracy of Fools"の著者Kurt Eichenwaldがインタビューに答えています.特に最後の質疑で,アルゼンチンとエンロンとの比較を思い出しました.

「資本市場はカジノではない.」

「投資とは,計画,忍耐,そして知識だ.」 企業が利益を上げている仕組みを理解して投資すること.欲張らないこと.分散投資すること.

「詐欺は貨幣よりも古い.」 法律ですべてを決めることはできない.経営失敗や無能力は法律が判断することではない.エンロンか,マイクロソフトか,自分で判断するしかない.

つまり,投資というものを投資家が正しく判断できなければ,資本市場はエンロン(やアルゼンチン)を繰り返すわけです.

******************************

The Economist, March 19th 2005

China’s economy: Budgeting for harmony

Face value: Some like it hot

Economics focus: Putting things in order

(コメント) 中国の成長は,次の通貨危機を内包しているのでしょうか?

減税,補助金,公共投資,・・・財政支出によって地域格差や農民の不満を吸収できるでしょうか? あるいは,非効率な官僚制度を温存したまま,財政赤字の急速な増加が金融危機や不動産バブルの破綻を招くのでしょうか? 都市中産階級の幸福こそが,政府の目指す社会調和を意味します.

また,その立身出世を代表する中国の鉄鋼王Guo Guangchangがどのようにして地方の石工の息子が新しい企業家,そして億万長者に上昇し,現在は,政府による不動産投資などの引き締め策に苦しめられているか,を紹介しています.不動産,融資,政府との関係,・・・

最後に,人民元の論争です.ここで記事は,為替レートの弾力化,と,資本勘定の自由化,とがしばしば混同されている,と指摘します.中国は貿易においても多くの為替取引を要するから,資本勘定を自由化しなくても,弾力的な為替レートが市場で形成される,というわけです.また,弾力性は必ずしも完全に自由な変動を意味していない,と言います.バンドの拡大やペッグの対象をドル以外も通貨を含めたバスケットにすること,も含まれます.

為替レートが弾力化できなければ,国内の景気調節に金融政策を使えません.しかし,銀行システムが破綻する恐れがあるから弾力化できない,と言われたりします.ところが,政府は資本取引の自由化を(資本流入の対抗策として)段階的に進めています.しかし,固定為替レートを維持したまま資本自由化することがもっとも危険なわけです.

一定の弾力化はリスクのヘッジや銀行部門の改革を促します.むしろ資本取引は規制したまま,為替レートを弾力化して,銀行部門を改革するべきだ,とIMFのスタッフによる研究は指摘します.景気がよく,経常黒字や資本流入が続き,外貨準備が豊富な今こそ,為替レートを弾力化するのに適当なのです.・・・アルゼンチンがまさにそうでした.


Argentina: Taking on foreigners, again

America’s current-account deficit: Wide gap, wide yawn

(コメント) また外国人からむしり取る気か!? それはアルゼンチン政府でしょうか? それともアメリカ政府のこと?

キルチネル大統領が,インフレにもかかわらずシェルのガソリン値上げを非難したことは,ペロン党の組織を無視して妻をブエノス・アイレスの市長候補に立てることと同じく,政治的なリスクを意味しています.彼の手法で,アルゼンチンの経済と政治は再建できるのでしょうか? それが国民にとっても望ましい?

他方は,アメリカの経常赤字は悪くない,というアメリカ連銀のバーナンキ理事による説明です.危機を恐れるアジア諸国などが,その豊富な貯蓄を外貨準備として保有しなければならなくなった.だから,アメリカが何をしても,アメリカの経常赤字は彼らの貯蓄と対外投資の結果なのだ.

政治的な目的や経済的な説明は明晰でも,また外国人からむしり取る気か? という貯蓄を奪われた外国の個人投資家が聞けば,憤慨するような議論です.