IPEの果樹園2005

今週のReview

2/7-2/12

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   イラク選挙 :誰が勝者か? 内戦と神権政治を超えるための重要な一歩.

2.   社会契約の逆転 :民営化される社会関係.共感や,公共的責任の喪失.

3.   一般教書 :ここでもまた,アメリカ的な宗教的政治学.あるいは政治ショーと打算.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


LAT January 27, 2005

Privatizing Social Security: 'Me' Over 'We'

By Benjamin R. Barber

社会保障を民営化しても,リスクが増えるだけで,長期的な財源不足は解消できない,と繰り返し主張されています.社会的な基金を株式市場に移すだけではないか? しかも,労働者たちの年金を守るために追加のコストが発生します.

しかし,無視されている最も重大なコストとは,人々の公的な生活を破壊することです.老後の生活も個人的な投資の上手・下手で決まるようになれば,人々は「公共の基盤」を失うでしょう.すべての国民が,退職や障害,死亡に対して補償を得るということが,最大の公共心を培う場なのです.人々は階級や民族,性別を離れて,市民としての立場で保障を得ます.民営化は公共の正義を削り取って,民主主義の基礎を失わせるのです.

市場におけるダーウィニズムの主張に流され,賢明な投資家になることがすべてであり,社会的な正義を組織することなどどうでもよくなって,消費者としての自由だけが強調されています.民営化は,「われわれ」が失うものではなく,「それ」すなわち巨大な,顔の見えない,政府・官僚制度という悪から奪い取るべきもの,と宣伝されます.

しかし,民間市場の自由と政治的自由とは同じではありません.市場は単なる個人的な選択です.それは個人的な利益をもたらしても,公共財(公共の善)をもたらしません.われわれは市民として社会保障のための税金を支払い,市民としてわれわれの労働の成果を享受します.

民営化は,消費者こそ,もっと効率的な市民なのだ,と主張します.投票用紙ではなく,ドルで,市民は自分たちの意志を実現します.しかし,ドルは慎重な審議を必要とせず,市民たちに共通の基盤を求めません.彼ら(消費者)は(他者への)共感や想像力を失うでしょう.

民営化とは,一種の「社会契約の逆転」です.それは私たちを繋ぐ社会的紐帯を解くのです.社会契約がわれわれを自然状態から連れ出します.われわれはすべての者にとって共通の自由を確保するために,自分が何であれやりたいことをする,という自由を部分的に放棄します.民営化は,われわれから共通の権力を奪い,自然権を与える形で,社会の一部を自然状態に戻すのです.

民営化された選択は,個人の力と技量,その幸運に左右されます.公共的な選択は,市民的な権利と共通の責任に基づくでしょう.民営化を進める現政権は,われわれに強者による弱者の支配をもたらします.そして究極においては,アナーキーが強者も弱者も支配し,誰にとっても安全は損なわれるでしょう.トマス・ホッブスが述べたように,そのようなところでは,われわれは完全に自由ですが,その結果,われわれの人生は「孤独で,貧しく,険悪で,野蛮な,短いもの」となるでしょう.

社会保障を今風の経済学の考えで弄んではならない.それは市民参加の象徴であり,その責任と給付を反映しているのだから.

社会保障を民営化することは,技術的に間違っているだけでなく,市民としても破局を意味する.


JT Thursday, January 27, 2005

Foggy North Korean shuffle

By SOYOUNG KWON and GLYN FORD

(コメント) 北朝鮮が市場改革に乗り出すかもしれない? その理由は,安全保障と経済再生をめぐる,指導者の後継争いです.


NYT January 28, 2005

Little Black Lies

By PAUL KRUGMAN

NYT February 1, 2005

Many Unhappy Returns

By PAUL KRUGMAN

LAT February 2, 2005

Healthcare Isn't a Tomato

(コメント) 黒人の寿命は他の人種よりも短い.だから黒人は今の社会保障制度によって不公平に扱われてしまう,とブッシュ氏は黒人に民営化を訴えます.それは以前からある議論で,嘘である,とKRUGMANは批判します.それどころか,ブッシュ氏は黒人の平均寿命が短いことをアメリカ社会の問題と見なさず,自分たちに都合の良いように利用します.

ブッシュ氏は,黒人の労働者が引退してから,同じだけ年金を受けることを無視している.黒人の平均寿命が短いのは,乳幼児の死亡率が(貧困などのせいで)高いのです.また,アメリカの社会保障は所得に対して累進的です.だから,貧しい黒人は引退しても少ない年金しかもらえないのです.さらに,黒人は白人に比べて身体障害者としての給付を多くもらっています.

「社会保障制度をめぐる戦いは,何よりも,どのような社会を望むのか,についての戦いである.」とKRUGMANは述べます.そして,ブッシュ政権の民営化を支持する根拠の無い数字を批判します.

医療保険制度についてもそうです.「もし医療費が,トマトやトヨタ自動車を買うのと同じであれば」,ブッシュ政権の進める改革案は正しいだろう,とLATは批判します.その「消費者指向」の医療保険制度では,所得から年間5000ドルまでを医療保険口座に入れれば,課税対象から控除されるのです.民間保険会社が,それぞれにあった保険契約を結べば良い,と.

これほどの所得を控除してもらえる裕福な階層は限られています.その意味で,この減税措置は不公平をビルト・インしています.それは団体契約できる人々に有利です.また,医療費支払において,患者の選択はどこにも反映されず,その価格は歪められています.医療の質やコストについての情報は,患者に対して全く不十分です.


LAT January 28, 2005

An Election of and by Ghosts

By Rami G. Khouri

FT January 29 2005

The election key to Iraq's future

(コメント) スンニー派が選挙に参加しなければ,彼らが重要な政治プロセスから排除されてしまいます.それは内戦の危機を高めます.シーア派は一定の議席をスンニー派に与えることを認めるかもしれません.しかし,それでもシーア派は多数を支配します.アメリカが支配する,アメリカが作った占領政府の行う選挙には,最初から疑念が伴います.イランとの対立がイラクのスンニー派を武力闘争に向かわせるでしょう.しかも,スンニー派の内部には多くの分派があって,交渉をまとめられません.

選挙には良い意味もあります.正統性のある政府を樹立して,武力に拠らず,交渉や分配によって,対立を平和的に解決する道が開くでしょう.アメリカ軍が撤退する条件も次第に整います.

この選挙は,イラク国内,アラブ世界,ヨーロッパなどを意識した国際社会において,重要な転換点となります.シーア派の政府がアラブ世界の中枢に成立することを,周辺のスンニー派勢力は好まないでしょう.シーア派指導者とアメリカ占領軍との関係も変わるでしょう.フセイン政権やバース党を排除するために,アメリカ軍の侵攻を認めたに過ぎないからです.さまざまな内部分裂と対立,地域間抗争が起きるはずです.

アメリカ軍は難しい立場です.まだ,治安の維持や地域安定化のために駐留しなければならず,しかも,それが政治的に干渉しているという非難を受けてはならないのです.旧バース党やジハード型の反政府組織とは区別して,各地のスンニー派勢力を憲法制定や議会運営に取り込む努力を,新政府に期待する,とFTは主張します.

NYT January 29, 2005

The Vote, and Democracy Itself, Leave Anxious Iraqis Divided

By JOHN F. BURNS

NYT January 29, 2005

Iraq's Election Gamble

WP Saturday, January 29, 2005

A Day of Iraqi Hope

By Steve Hadley(national security adviser to President Bush)

The Observer, Sunday January 30, 2005

A day of hope and a vote for a future

Andrew Rawnsley

(コメント) イラクの民主化を求めた20年に及ぶ亡命生活の末に,Ghassan al-Atiyyahは65歳でバクダッドに戻り,政党を組織しました.彼のような世俗的なシーア派,穏健なスンニー派,キリスト教徒も,クルド人も,市民的な理想を紐帯として,先月,一つの政党を立ち上げました.しかし,投票には参加しませんでした.いつか,彼の信じる民主主義の原則に従う選挙の日が来る,と信じて.選挙には,275議席を求める110もの個人と団体,同盟がありました.

46歳のSalama al-Khafajiは歯医者を営むシーア派教徒です.彼は3度の暗殺を免れ,昨年には20歳の息子と護衛を叛乱兵によって殺害されましたが,今回の投票を熱狂的に支持しています.「われわれは民主主義や人権の原則を信じている.」「もし自分が死んでも,それは理想のためであって,無駄ではない」,と彼女は言いました.

「選挙の条件は明らかに悪い」とNYTは認めます.暴力と無法状態が広がり,選挙の準備は足りません.しかし,こうした問題をどうするべきか議論するときは終わりました.今,重要なのは,この選挙を成功させて,それを,自らを統治し安定したイラク政府が,膨大なアメリカ軍がいなくても生き残ることのできる,最初の一歩にすることだ,と.

アメリカ政府は,シーア派とクルド人を喜ばせるために,1月末の選挙日程を守りました.そして,もし彼らが多数派となった正統な政府を樹立すれば,彼ら自身が武器を取って,イラクの秩序を回復するでしょう.アメリカはそれに賭けたわけです.

ブッシュ大統領の顧問は,この選挙についての批判に反論しています.スンニー派との対立や排除だけで見てはならない.選挙や民主主義は勝者がすべてを取るシステムではない.これは一時的な通過点であり,指名された政府から選出された政府に変わることが重要だ.選挙を強く支持する人々は多いし,イラクの人々の声を聞き,自由が前進することである,と.

この選挙は,所詮,外国支配と神権政治との選択でしかなく,軍事的な専制と内戦との選択でしかない,と言う批判がある.あるいは,アメリカの占領を正当化するだけだ,という批判もある.しかし,もしロンドンとワシントンのリアル・ポリティクスに注目するなら,こうした批判は的外れだ,とAndrew Rawnsleyは考えます.なぜなら,今,彼らが探し求めているのは,正当化できる軍事的な脱出戦略だからです.

たとえブレアとブッシュが苦しむことを願っている反対派も,だからと言って,イラクの民主主義が崩壊することを望むのは愚かなことです.イスラム教と民主主義は両立しない,という主張に現実がどう応えるか,人々は注目しなければなりません.死の恐怖,暴力による脅しに抗って,一人一人が投票所に向かうのです.

アル・カイダを代表して,ザルカウィはこの選挙を「邪悪な民主主義の原理」として非難し,銃弾で阻止するように,と宣言しました.彼とその仲間が示した明確な態度が,この選挙に最も重要な意味を与えてくれたようです.現状をもたらしたのが彼らであるか,ブッシュとブレアであるか,論争を続けるとしても,すべての民主主義国は投票が銃弾に勝ることを示したい,と願うでしょう.

政治は疑念をもたらしもすれば,人々に新しい可能性を与えもします.イラクにおける選挙の日は後者である,と信じられたようです.

LAT January 30, 2005

Each Vote Strikes at Terror

By Walter Russell Mead

WP Sunday, January 30, 2005

Beyond Tomorrow in Iraq

By Jim Hoagland

Aljazeera.Net, Saturday 29 January 2005

Iraq elections, solution or sedition?

By Dr Dhafir al-Ani

(コメント) Walter Russell Meadは,テロとの戦争,民主主義の拡大,選挙,を一つの大きな外交戦略として支持します.ヒトラーはどのようにしてワイマール・ドイツの民主主義を滅ぼしたのか? それは暗殺とテロによって社会不安を拡大することでした.民主主義を憎む専制とテロとの結びつきも明白です.民主主義によって統治されている国は,人々の共感を求め,人々の発言を重視しますから,戦争やテロに対して最も強く抵抗する,とMeadは考えます.

勇敢にも投票所に出向いた市民たちは,もちろんこの選挙における勝者です.そして,さまざまな攻撃や分裂にさらされながら,選挙の実施を支持してきた穏健派のシーア派指導者たちも.選挙によって,誤った占領政策を変更する明確な交渉相手も誕生するでしょう.彼らの自由を兵士たちの生命で贖った英米軍は,選挙の結果に関わらず,この日の勝者です.

アルジャジーラは矛盾した現実について批判的側面を伝えています.この日が投票日であるのは,イラクの治安や安定性,政治プロセスにとって好ましいからではなく,内外の勢力にとって都合が良いからだ,と.何よりも,日に日に死者を増やすアメリカ軍が駐留を続けるには,アメリカ国民に成果を示す必要がありました.またブレアにとって,この選挙の実施はイギリスにおける選挙で彼が政権を維持する条件でした.

1月30日の選挙は,戦争によって引き裂かれた国に解決をもたらすわけではなく,むしろ内部の,地域的な問題が,一層の危険さを増す過程なのだ,と.

FT January 31 2005

Now for the hard part in Iraq: order out of disorder

By Noah Feldman

FT February 1 2005

Iraqis vote to set their own agenda

BG February 1, 2005

After the vote

The Guardian, Tuesday February 1, 2005

The Vietnam turnout was good as well

Sami Ramadani

The Guardian, Tuesday February 1, 2005

Election euphoria unlikely to trigger a democratic domino effect

Simon Tisdall

The Guardian, Tuesday February 1, 2005

Now it's time for the war critics to move on

David Aaronovitch

(コメント) 選挙後の政治過程が困難なものであることに,主要な関心は移っています.イラクに国民が認める憲法が成立し,正統な政府が樹立され,イラク軍が確立するまでに,解決しなければならない問題が多くあります.特に,勝者であるシーア派とクルド族がスンニー派に寛容さを示し,その政治的な妥協を求めることができるでしょうか? 彼らも憲法の制定に加えるべきです.一度の選挙が民主主義を実現することは無いでしょう.治安が回復され,腐敗を取り締まることのできる警察が,オープンの民主的制度,法による支配が,少数派の尊重を実現できるのです.

真実は戦争の最初の犠牲者であり,数字は占領された地域の選挙で最初に犠牲者になる,とイラクの亡命知識人であるSami Ramadaniは危惧します.有権者登録や投票率,人口に占める成人の比率は疑わしい,と考えます.クルド人の土地を独立させる三国分割案もキッシンジャーのグループが支持に変わったようです.ブレアもブッシュッも,この流血の土地を抜け出す工夫に関心を集中しそうです.ザルカウィの声明に憤慨するメディアは,アメリカ政府が中米でしばしばテロリストを支援し,占領軍や政府から目を逸らす作戦に利用していたことを忘れている,と.

この選挙が示すのは,イラク国民が外国の軍隊や兵士たちに支配される状態から抜け出すことを熱望している,という意思表明です.

イラクの「民主化」が地域に波及する,というブッシュ政権のシナリオは,Simon Tisdallによれば,むしろ民主化を恐れて,予防的な弾圧に拍車をかけるかもしれません.

LAT February 1, 2005

Now, U.S. Must Get Out of Iraq's Way

Robert Scheer

NYT February 1, 2005

As Iraqis Celebrate, the Kurds Hesitate

By PETER W. GALBRAITH

WP Tuesday, February 1, 2005

Keep the Euphoria in Check

By E. J. Dionne Jr.

WP Tuesday, February 1, 2005

Unfinished Story in Iraq

By Richard Cohen

(コメント) イラクや中東の政治情勢が,アメリカの軍事介入で長期的に変わるわけではありません.この選挙でも,アメリカ軍が撤退するつかの間の安定性さえ得られれば十分ではないか? 撤退を遅らせるほど,犠牲は大きくなる,とRobert Scheerは懸念します.他方,クルド人の多くが支持する独立運動を,メディアは無視しています.

この勝利が何であるのか,ジャーナリストたちは思案中です.

ST Feb 2, 2005

Will Iraq's little ducks all come back?

By Janadas Devan

BG February 2, 2005

Iraq's $200 billion election

By Robert Kuttner

NYT February 2, 2005

The Lessons of 1787

By LESLIE H. GELB

The Guardian, Thursday February 3, 2005

Utopian cul-de-sac

Sidney Blumenthal

(コメント) フセイン体制の崩壊を祝って街頭に繰り出すはずの国民はいませんでした.それ以後も,アメリカ政府は間違った目標を掲げて,失敗の理由付けにフセインの残党やテロリストを多用してきました.他国に民主主義を実現するには,何が必要でしょうか? 生活の安定性や改善をもたらすことのできる政府がなければ,選挙によって支持を得ることはできません.この選挙のためにかかった費用は,すでに2000億ドルと1400名の命,です.それが正しい選択だったのでしょうか? イラク人でアメリカ人を好きになった者などいるでしょうか?

結局,少し穏健なサダム・フセイン(”Saddam Lite”)に置き換えただけではないか? 軍事介入に失敗して,親米的な軍事独裁政権を残して撤退するケースは,これが最初ではない,と.第二次大戦や冷戦時代と違って,現代は独裁者と民主主義の国が対抗しているわけではありません.ブッシュ氏は民主主義の十字軍を率いているのでしょうか? とんでもない,とRobert Kuttnerは考えます.

政府が考えるようなイラクの軍隊が増やすことなど,本当は重要ではありません.GELBは,南ヴェトナムにいくら多くの軍人がいても,自国を守ろうとはしなかった,と言います.政治的な正当性をどのようにして確保するか,が重要です.選挙によって成立する議会でシーア派が支配することは,憲法の制定や正当性の承認に支障をきたすことを心配します.根拠の無い勝利宣言は,その後の政策を麻痺させるだけです.


NYT January 28, 2005

The Market Shall Set You Free

By ROBERT WRIGHT

(コメント) ブッシュ大統領の就任演説に示された「自由への道」は,政治的自由と経済的自由との結びつきを確信していない点で,不十分なものだった,とWRIGHTは批判します.

軍事的な手段だけでなく,経済制裁なども組み合わせる,という主張には,中国のWTO加盟を拒むことで民主化を促せただろうか? と問います.むしろ,経済的な自由を確保した国は,必ず政治的自由を求めるだろう,と.

WRIGHTは,9・11でブッシュ政権が「ネオコン」主義に大きくスタイルを変更したことを自由への不信として批判し,それ以前からのクリントンの外交方針を継承するべきだった,と主張します.すなわち,@大量破壊兵器(WMD)の拡散を防ぐ.Aテロリストの組織を追い詰める.Bアメリカへの支持と共感を世界に広げる.C中東の平和を継続する.D経済的繁栄によって諸国民の包括的な共同体,自由への紐帯を強化し,テロに抗して法の強制力を世界に及ぼす.

たとえば,大量破壊兵器を査察する国際体制を整備し,WTO加盟の条件として受け入れさせることはできるはずです.イラクタ北朝鮮,イランとの交渉に失敗した理由は,彼らが政治的な自由を抑圧している,という非難を繰り返して,軍事的威嚇や経済制裁を多用したからです.もし政治的独立を保障されて,経済的自由を得ることもできれば,彼らはきっと査察を受け入れたはずだ,と.


NYT January 30, 2005

The Geo-Green Alternative

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 他方,FRIEDMANはTimothy Garton Ashの主張するヨーロッパ的アプローチ(すなわち多角的な外交圧力や経済的利益を組み合わせる)を批判します.ヨーロッパのアメは,アメリカの鞭なしには効果が無い.しかし,アメリカ政府のネオコンはヨーロッパも,アメも嫌うから,協調できない.つまり,ヨーロッパも,ネオコンも,解決策を持たないのです.

FRIEDMANが支持するのは「ジオ・グリーン “geo-green”」戦略です.それは環境保護政策によってアメリカの石油消費を抑制し,中東地域からの石油輸入に対する依存を断つとともに,世界の石油価格を下落させるのです.石油収入に依拠する閉鎖的な独裁体制は新しい財源を求めて経済を自由化するでしょう.他方,アメリカは石油価格の暴騰という副作用を恐れずに,中東に対する軍事的圧力を議論できます.アメと鞭は,初めて有効に協力できるわけです.


TOM WOLFE, “The Doctrine That Never Died,” NYT January 30, 2005

ANNA BERNASEK, “Lessons for the American Empire,” NYT January 30, 2005

Jackson Diehl, “How Bush Could Fight Tyranny,” WP Monday, January 31, 2005

Stephen Graubard, “The Bush fantasies that are guiding history,” FT February 2 2005

MATTHEW SCULLY, “Building a Better State of the Union Address,” NYT February 2, 2005

“The President Reloads,” LAT February 3, 2005

Max Boot, “George Bush Talks Big, and He Delivers,” LAT February 3, 2005

“Mr. Bush's Two Big Ideas,” NYT February 3, 2005

Janadas Devan, “A liberal in combat boots,” ST Feb 4, 2005

(コメント) 一般教書に関する論説です.

1823年のモンロー・ドクトリン.それはテディー・ルーズベルト,ヘンリー・カボット・ロッジに変わり,ジョージ・ケナンへと移りました.勢力圏の拡大を正当化するのは,世界中から共通の理想によって集まった人々が作る共和国こそが人類の解放という使命を担っている,という宗教的な確信,「アメリカニズム」の表明です.

保守派は喜び,批判派は疑い,あるいは現実との乖離を軽蔑し,次の戦争を恐れています.諸外国は協調路線の復活と理想主義よりも現実主義の外交,もしくは先制攻撃の後退を見たがるようです.就任式典はヴィクトリア女王の1897年に開催した帝国祝賀会とも比較されます.もちろん,その後50年を経て大英帝国は消滅しました.Paul Kennedy,Niall Fergusonといった歴史家たちは,アメリカ衰退の過程を左右する挑戦者の登場に注意します.

他国の政治体制や世界の政治的な枠組み,思想にまで,これほど直接に言及する者が指導者になるのはアメリカだけです.やはり,世界がアメリカ帝国の性格を帯びており,ブッシュ氏の言葉は現実を変えることを世界が認めているからでしょう.もちろん,「独裁者の打倒」というのは政策ではありません.ロシアや中国と戦争を始めることなど考えていないでしょう.しかし,その影響力をパキスタンやエジプト,ロシアにも行使できるはずではないか?

「自由」や「民主主義」を支持することに,世界の民主化運動や反体制派は勇気付けられる面があるはずです.ウクライナで民主化運動を支援したように,ロシアの民主化を支援できるはずです.しかし,それがアメリカの利益と矛盾する場合はどうなるのか? という疑念は残ります.ブッシュ氏に都合の良い「自由」だけが,アメリカの支持する自由である,と批判されるのも当然です.

ブッシュ氏が以前の一般教書で訴えたような安全保障に対するイラクの脅威は存在しませんでした.しかし,イラク選挙の実施を「成功」させたことが一般教書への信頼を高めています.ブッシュ氏が呼んだ投票後のイラク人女性は,イラクで死亡したアメリカ兵の母親と抱き合いました.彼らが一般教書の描く世界の主役であり,大統領はこのシーンを世界に目撃させたかったのです.他方,イランや北朝鮮には言及しませんでした.

これらは国内向けの政治ショーに過ぎません.社会保障制度を民営化するという論争に火をつけていますが,財政赤字の削減や移民政策の変更こそ,真に緊急の課題です.各国政府は,アメリカのこうしたスタイルを冷静に分析し,対抗と協調を模索しています.ブッシュ氏は国際制度を離脱する選択肢によって大きな権力を得ました.しかし,それを単独で構築する力は,国際的にも,国内的にもありません.


ST Jan 31, 2005

China's migrant workers in line for a better deal

By Goh Sui Noi

(コメント) 中国でも出稼ぎの労働者たちを悩ますのは,住宅問題や教育問題です.追加の授業料を取られ,社会保障制度は無く,労働組合もありません.しかし,労働者の不足により,これまで都市への移住を制限するために取られてきた措置が,次第に,解除されています.企業によっては,労働者の保険料や年金積み立てを始めました.移民労働者の子供に対する追加の授業料を廃止した都市もあります.


FT January 31 2005

How to rebuild the stability pact

By Charles Wyplosz

(コメント) Wyploszは,安定協定の改正について,シュレーダー首相の発言を批判しています.

安定協定が機能しなくなったのは,財政赤字を単年度で制限したからであり,各国の政治プロセスを無視して,財政政策を制限したからです.シュレーダー首相は,ドイツには赤字を選択する正しい理由があり,ドイツ政府・議会はそれを選択できなければならない,と主張しています.

しかし,Wyploszの考えでは,協定の示すリミットをドイツに対して免除し,将来においても明確な上限を設けない,というのでは,小国の立場を損ない,大国がEUの財政状態を悪化させることに対して明確な歯止めを失う,と批判します.むしろ,公的債務を多年度に渡って監視する目標を定め,各国の財政政策を決定する場合,この目標を守るような政策であることを政府は各国議会に説明し,さらにユーロ加盟諸国にも説明することです.


Feb. 2 (Bloomberg)

Gates, Buffett and China Gang Up on Dollar

William Pesek Jr.

Feb. 4 (Bloomberg)

Forget the Euro. 2005 Is the Year of the Yen

William Pesek Jr.

(コメント) ドル,ユーロ,人民元,円,・・・世界通貨の格闘技に関するPesek Jr.の考察です.

中国政府は,世界中の関心が集まる中で,その政策に関して一切の言質を与えません.アメリカ政府の関心が,人民元の切上げによる国際収支の調整よりも,財務省証券の安定的な保有に移った以上,市場が人民元切上げを早期に予想することは諦めました.

他方,Pesek Jr.はユーロ高から円高に関心が移ることを予想します.円は1ドル=90円よりも高くなる,とさえ予想します.その理由は,@日本経済が長期の停滞を抜け出せば,株価が上昇する.A日本政府は今も貿易黒字を安全保障の一環として重視している.Bアメリカの財政赤字と対外赤字はドル安を促す.

アメリカは中国との貿易不均衡に関税を利用して是正措置を迫り,互いに報復する危険があります.他方,日本は金融システムやデフレの問題を解消し,世界第二の経済規模を持つ以上,円高を拒めません.さらに,日本企業の多くが中国に直接投資したことで,円高に対するショックを緩和してしまいます.日本の景気がアメリカよりも中国に依存するようになった分だけ,ドルに対する為替レートは変動しても許容されます.むしろ,円高によって政府の進める構造改革への圧力は増すでしょう.


NYT February 2, 2005

Why Should We Shield the Killers?

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 日本政府が自衛隊をダルフールに派遣するかもしれない,というニュースに驚きました.小泉首相は,アフリカにおける国連の活動にも自衛隊を参加させる意欲を示したわけです.しかし,KRISTOFはルワンダの虐殺について得られた教訓から,ダルフールの虐殺についても,国際法廷を設けることが重要である,と主張しています.他方,ブッシュ政権は,ダルフールで殺される何万人もの住民より,国際法廷の被告席にアメリカ兵が立たされることを心配しています.

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The Economist, January 1st 2005

China’s lost reformer

China: Zhao’s legacy

(コメント) The Economistは,趙紫陽が目指した改革の大部分は実現した,と考えています.既に経済的繁栄が中国政府の対応を変え,国民の意識も変えました.しばしば,独裁政府でなければ改革は成功しない,と言われます.しかしThe Economistは,中国がその反例となるだろう,と言います.権力を独占しようとすれば,経済的繁栄を維持するために改革を受け入れるしかない,と.

1989年に天安門で潰された民主化運動は,その後の経済繁栄を受けて,市民運動の一部に継承されています.インターネットにおける厳しい言論統制を実施する一方で,政府は市民による自由な政策論争を許しています.江沢民は企業家や専門家を共産党に参加させ,地方選挙における開放性や民主的選挙の導入にも着手しました.毛沢東時代のようなイデオロギー統制は既に行われません.それは,インターネットから消された趙紫陽の死亡記事にもかかわらず,彼自身が望んだ共産党の姿に近いものではないか? と.


Europe’s stability pact: A case for nationalism

(コメント) The Economistは,為替レートや金融政策を失う通貨同盟内において各国政府が財政政策の自由を拡大するべきである,と考えます.安定協定は破棄すればよい,と.ドイツが財政政策を制約されて景気刺激策を取れないことは間違っています.また,同じ意味で,東欧諸国が投資を促すために税率を下げることも禁止できません.

The Economistは,各国が自分たちの判断で税制や財政支出を決めるべきだ,と考えます.競争的なナショナリズムは正しいのです.ただし,各国は財政赤字を市場の債券発行で資金調達しなければなりませんし,赤字国への救済策を取ってはなりません.税制のハーモナイゼーションではなく,資本市場が財政規律を監視・強制するべきだ,と考えます.


Post office: Pulling the envelope

(コメント) 郵便局に関する考察です.日本の郵政民営化が,決して小泉首相の個人的な願望や政治的野心ではなく,e-mailによって失われる郵便ポストと同じように,技術革新や国際競争による競争と変化を強いられるのです.


Economics focus: Yuan step at a time

(コメント) 人民元の切上げは必要か? 香港上海銀行のStephen King主任エコノミストは,それを支持する多数意見を批判しました.

たとえば,アメリカに対する貿易黒字が累積している,という神話.実際は,アジア諸国に対する赤字の方が急速に伸びています.では,膨大な外貨準備は何か? 中国の高金利や人民元切上げを期待する資本流入によるものだ,と言います.今後,もし資本取引が自由化されれば,中国からの対外投資も増えるはずです.

ドルに固定した人民元の為替レートは過小評価されているから競争力が強すぎる,という議論にも,アジア通貨危機を切下げることなく維持してきた人民元は,必ずしも過小評価になっていない,と主張します.切上げによって中国の消費が増大することは望ましい,と言いますが,インフレを抑えることで実質切上げも起こるでしょう.

そもそも,人民元を切り上げてもアメリカの貿易赤字は減少しません.中国との貿易額はアメリカの貿易全体の10%でしかなく,中国の輸出は多くの輸入原材料・部品を含んでいます.人民元切上げによってアメリカの貿易赤字が減るには,非常に大きな切上げを必要とします.それは中国にとって全く必要ない規模です.

中国が人民元のドル・ペッグを廃止するとしたら,国際通貨としてのドルや,アメリカの金融政策を輸入することに,中国自身が満足できなくなるときです.すでに,ユーロや円を含む通貨バスケットに対する固定を検討しています.