IPEの果樹園2004
今週のReview
11/1-11/5
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. Paul Volcker :公職者の志を捨てない人物はアメリカにもいます.
2. ブッシュの神様 :ブッシュ氏は神に祈っていますが,その神様って,どんな人なのか?
3. 再建ブレトン・ウッズ体制 :アジアはドルに為替レートを固定することでブレトン・ウッズ型の高度成長を実現する.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
BG October 21, 2004
Reasons of hope in Israel
By Shimon Peres(the former prime minister of Israel and a Nobel Peace Prize laureate)
変化の風が世界を一掃する.科学,技術,民主主義,そしてフェミニズムは,急速に,私たちの世界を変貌させている.私たちはそのような世界を見て,恐怖を感じるかもしれない.しかし,もっとよく見れば,そこには多くの希望が見出せる.伝統と近代との闘争が中東地域でも遂行されている.
この戦いは文明間の衝突ではない.むしろ,文明の内における衝突だ.過去だけに目を向ける者と,未来をつかむために,自由と繁栄と平和に向けた自分たちの道を歩むために,人々を解放する者との衝突だ.中東では爆発や殺戮が続き,事態が悪化することしか考えられないかもしれない.しかし,トルコやリビア,アフガニスタン,エジプト,シリアを見れば,もっと違った話を見出す.
トルコは,ヨーロッパ委員会とのEU加盟に関する交渉で与えられた助言に従い,社会や経済を自由化する利益を確立するために,約束した改革を進めつつある.さらに注目すべきことに,子の改革を進めているのはイスラム政党であり,その意味で,イスラム教と近代化とに本質的な矛盾は無いことを示している.
リビアは最近まで,テロを支援し,核兵器を保有する,中東のブラック・ホールであったが,驚くべき転換を行い,核兵器の開発計画を破棄した.
アフガニスタンは概ね平静な選挙を実施し,熱心な有権者の投票を得た.シリアの大統領は平和を語り,エジプトはゆるやかに近代化を模索している.イラクでさえ,最近の成功は未来に向けた好転の可能性を示す.
中東全体で,ゆっくりと,しかし力強く,開放と民主主義を求める声が広がっている.こうした声は勝利するに違いない.テロリストや過激派・原理主義者は人民に何も与えない.ほとんど農業だけに頼って生きる諸国に未来は無い.女性を抑圧する諸国にも未来は無い.自由な科学的探究,自由な思想,創造性,自由な言論の無い国には未来が無い.
世界経済は変化し続けている.もはや富は土地から生まれない.それは心(頭脳)から生まれる.人間の想像力と創造性がその国の富と未来の源泉である.私たちがどれほど土地や資源を保有しているかなど,重要ではないのだ.重要なのは,私たちが想像し,創造できるものだ.私たちが知っていること(過去)など重要ではない.重要なのは,ただ,私たちが学ぶであろうということ(未来)だ.
科学と技術は境界を壊し,概念を破壊し,壁を打ち倒しつつある.参加しない諸国は人民を貧困と忘却に貶めるだろう.女性は世界中で自由に目覚めつつある.近代において,女性の解放ほど大きな成果は無い.人口の半分が自由でない国は自立できない.フェミニズムは,革命的な衝撃を持つ,社会や人間の条件を改造する可能性をもった,唯一のイデオロギーである.女性を抑圧するような体制や国家は,自律し,成功することなど望めない.人間の自由という強力な思想によって,それらはいつか倒される.
人間の心を解放し,その無限の創造の可能性と想像力を解放することは,無尽蔵の力なのである.ボストンは,世界有数の大学を擁し,さまざまな賞を受けた科学者や多彩な人材をもつ,脱工業化した情報時代の世界工場である.ボストンは優秀な教育,科学知識,技術を,世界に輸出する,繁栄した世界的なメトロポリスとなった.
イスラエルもまた,世界に知識,科学,技術を輸出する新しい世界的なメトロポリスとなるために,変形し,再建されつつある.イスラエルは広義のボストン市よりも小さい.イスラエルは知識を基礎に,その人間の心から得られる成果として,人民や社会により良い健康や生活をもたらすことで,未来を築こうとしている.そのためには私たちが過去の間違いという束縛から自由になることだ.
もし私たちが偉大な国を築きたいなら,私たちは小さな国でなければならない.私たちは和平のロード・マップに従い,イスラエルの国境内で,人民の創造的なエネルギーに目を向けることができる.イスラエルはいつも,自分たちの特異な歴史や文化から,世界に奉仕してきた.私たちの指数的に増大する科学・技術能力と,その道徳的,倫理的な生活との間にギャップが拡大し続ける時代において,イスラエルは今日の世界が直面する問題に対する新しい,革新的な答えを見出すために,4000年の伝統に依拠して貢献することを目指す.ボストンのように,その空間は小さくとも,思想は無限である.その伝統は古く,知識はいつも新しい.
FT October 21 2004
Samuel Brittan: Neoconservatism unmasked
By Samuel Brittan
(コメント) Neoconservatism (Edited by Irwin Stelzer, Atlantic Books) の紹介です.ネオコンがアメリカの外交を支配してしまった,とよく言われます.しかし,ネオコンとは何か? それは誰のことか? よく分からずに使っています.それは1980年代に良く分からず使用(濫用)された「マネタリズム」と似ています.
まず,その最も有名な創立者はIrving Kristolです.彼は元トロツキストの学生であり,その後,アメリカ的な意味でのリベラル,すなわちニュー・ディールが他の介入を支持してから,遂に,「ネオコン」になりました.彼は1970年代前半にこの呼称を使用し,1990年代半ばには,それが主流派の保守主義に取り込まれたと考え,使用しなくなりました.しかし,その息子らが使用し続け,特に,90年代後半,新しいアメリカの世紀プロジェクトで,外交政策の研究集団によって広まりました.
ネオコンは,最初は国内政策に関して使用された議論であり,その内容も多様でした.中でも,1970年代初めには,民主主義の行き過ぎや財政赤字に対して反発するWASPのネオコンと,国家よりも市場における個人の自由な判断を重視するリバタリアンとが居ました.彼らは1960年代の社会紛争を文化的退廃と見なして悲観していました.
ネオコンは,国家の拡大を恐れないが,しかし個人の道徳的責任を重視した,第三の道を目指しました.実際,彼らは初期のコミュニタリアン(共同体主義者)でした.地方政府やPTA,特に宗教に,特別な価値を措いていました.また,たとえ大幅な財政赤字を生じても,減税に対するサプライ・サイダーの主張を擁しました.
こうしたさまざまな主張がネオコンとしてまとまったのは,彼らが「アメリカ型の民主主義」を熱狂して支持していたからです.その民主主義に対する擁護が外交政策に持ち込まれました.しかも,民主主義は攻撃的な戦争を行わない,という原理を曲解し,他国の体制転換を目指すアメリカ政府の高度に介入主義的な外交政策を,アメリカの国益に沿うばかりか,結果として,それが世界を平和にする,と主張したのです.実際は,それが共和党的な砲艦外交の支持となりました.
サッチャリズムがイギリスの産物だったように,それを称えようが呪おうが,ネオコンも特異なアメリカの産物です.トニー・ブレアは自由主義的な介入主義者であると自称し,ネオコン以上に,国家の再建を熱望しました.しかし両者は,ブレア主義者が特に国連を通じた国際行動を楽観していたのに対して,ネオコンは一握りの同盟諸国とアメリカで行動することを求めた,という点で対照的でした.
イギリスの政治家,リチャード・コブデンに由来する,もう一つのリベラリズムがあります.アメリカではthe Cato Instituteが,自由な市場経済学と,外国の事情に対する介入を忌避する姿勢を組み合わせて,この自由主義を主張しています.そして,ブッシュ政権のウズベキスタンのような独裁国家とのリアル・ポリティークを批判します.
最後に,ネオコンの宗教的な基盤が指摘されます.ユダヤ人の80%は民主党支持者ですが,ネオコンの主要人物はユダヤ教徒です.さらに,悲観的な社会を嫌うだけでなく,極端な場合,イスラエル国家の再生がキリスト再臨の前兆である,と信じるキリスト教原理主義者たちが,ブッシュ政権の基盤となっている事実に至ります.
もちろん,これはある研究の,紹介の,紹介でしかありませんが.
FT October 21 2004
Great confusion since the Great Crash
By Benoit Mandelbrot and Richard Hudson
(コメント) アメリカの大恐慌を記念した論説です.75年前,経済学者たちはすべてがうまく行っていると確信していましたが,そのとき市場は崩壊し始めていました.
「経済学者たちは1920年代を詳しく研究した.イギリスとドイツは戦後の荒廃時代であった,アメリカとカナダでは好況だった.世界中から投機的な資本がニュー・ヨークに流入した.カルビン・クーリッジ大統領は,バブルを挫くどころか,株価は低すぎる,と宣言した.その結末が来たとき,それは暴力的で,混乱した形になった.市場は10月24日の暗黒の木曜日に底が抜け,再び,10月29日の暗黒の火曜日にも止まらなかった.暴落はさらに3年続き,それが下げ止まったときには,銀行の半分が閉鎖され,労働者の4人に一人が失業していた.」
筆者たちは,経済学者が多くの複雑な要因を研究したけれど,基本的な問題を忘れている,と言います.それは,価格がどのように動いたのか,ということです.基本的な価格メカニズムの議論は間違っており,実際には,価格は激しく変動し,浮動的です.そのような価格の動きに対して,投資家の反応は基本モデルに従いません.株価が下がっても,買い手は現れないのです.
FT October 22 2004
By Gillian Tett
(コメント) マンハッタンのSt Regis Hotelでポール・ヴォルカーとFTのテット記者が話し合ったようです.さすがに高級なアフタヌーン・ティーは36ドルですか・・・!
そう思うのは私だけでなく,ヴォルカーもそうだ,というのを知って楽しくなりました.「アフタヌーン・ティーが一人52ドルもするのか!」 「何てことだ.これより安いものはメニューに無いぞ!」 「ここは私の好みに合わない.」 ・・・ さらにヴォルカーは,36ドルの「ベイシック」,というオプションを見つけてそれに変更し,一つだけ頼んでテットとシェアしたようです.すごい!
テットは,それをヴォルカーの本質的な人間性である,と称えています.金融ビジネスに関わる者が誰でも大金をつかむことに夢中になったというのに,ヴォルカーは違いました.1950年代に財務省で働き,1979年から87年まで連銀議長を務めました.彼は政治家たちの抗議の声を退けて,インフレ抑制のための高金利政策を継続します.そして,金融史にその名を残しました.ヴォルカーはスキャンダルに冒されず,世界の金融的な不均衡について,常に政策の世界で改善を求めたのです.他の金融指導者たちはアフタヌーン・ティーにも平気で大金を支払ったでしょう.
ヴォルカーは,アメリカにもかつて(すなわち彼の育った1920年代・30年代)は存在した公職への志が失われ,特に,企業の重役たちがスキャンダルに汚れていることを深く憂慮します.そしてArthur Andersen会計事務所の改革に従事し,企業の改革についてはストック・オプションの禁止や独立した重役を強制的に設けることを支持します.
ヴォルカーは,常に,非常に理論的に思考し,インタビューにおいても,理論を立てて忠実に反論を検討します.それゆえ話は,グリーンスパンと同じく,混乱した印象を与えます.彼は,その後も,ホロコーストの犠牲となったユダヤ人たちの資産をスイス銀行から取り戻す委員会や,国連のイラクにおける食糧・石油交換プログラムに関する汚職調査委員会を運営しています.後者は,アメリカにおける国連の軽視をさらに悪化させてはならない,と考えたからです.彼は今も世界を救う仕事に関心を持ち続けているのです.
経済政策に関しては,アメリカがこのままの政策を維持すれば5年以内に金融危機を招く可能性は75%以上だ,という発言で,最近,物議をかもしました.しかし,グリーンスパンやホワイト・ハウスの政策を評価することは嫌いました.少なくとも,彼自身が行ったインフレ退治に関して言うなら,当時はインフレを放置できないという強い危機意識が共有されていた,と言います.それが今は欠けている,と.
ヴォルカーは厳格なインフレ目標について常に批判的でした.それは中央銀行の通貨政策を縛るからです.また,多くの現代の政策担当者と違って,通貨市場への介入には共感を示します.それは,一部は,彼がブレトン・ウッズ時代に育ったからです.「中央銀行は攻撃的に自分のポジションを取り,判断を示す必要がある.それで給料をもらっているのだ.もし住宅価格が実勢を離れて上昇しており,それが市場の不安定化を招く要因だと思うなら,そのことを心配するべきだ.」
インフレ目標を最初に導入したニュー・ジーランドの中央銀行が,為替レートに関しても検討を始めている,と言います.「彼らも変わったのだ.大国は,今日,為替レートについて,それが極端に変動したとき何が起こるか,十分な時間を割いて検討していないと思う.・・・しかし開放型の小国は,為替レートの大きな不動性を非常に不快なことと思っている.そこで彼らは自国通貨を大国の通貨に一致させたり,幾つか集まって通過を統合しようとする.しかし彼らがそうすれば,大きな通貨単位の間で安定化はさらに難しくなるだろう.」
そこで,突然,彼はキューリ・サンドイッチが無いことに気づいて憤慨します.インタビューを終えて,時間があったら自伝を書くよ,という言葉を残して,多くの重要な公職に尽くすためマンハッタンの人波に消えて行った,とテットは書いています.
だから,高級なアフタヌーン・ティーを,二人で一人前,36ドルです.
FT October 22 2004
Why all parties stand to lose in a Gaza withdrawal
By Roula Khalaf
WP Tuesday, October 26, 2004
Pro-Israel, But Pro-Peace?
By Richard Cohen
NYT October 28, 2004
Pulling Out of Gaza
(コメント) イスラエルが一方的にガザ地区から入植地も含めて撤退する計画を進めています.イスラエル外務省の役人が,先週,パレスチナ側の役人と境界線の検問所で握手をしたことは驚きでした.エジプトなど関係諸国はジャーナリストや外交官を派遣し,返還の意義を称えました.しかしその後は,再びテロと軍事的報復が続き,シャロン首相の政治顧問Dov Weisglassは,ガザの分離計画はパレスチナ国家を無限に延期するためのものだ,と発言しました.
この発言について,イスラエル政府は当惑し,アラブ諸国は憤慨しています.イスラエルは,結局,アラファトが率いるパレスチナ暫定政府を交渉相手にしないと宣言し,一方的に撤退しました.130万人のパレスチナ人が住むガザ地区の7500人に過ぎないユダヤ人入植者を引き揚げさせたのです.しかしヨルダン川西岸では小さな入植地が放棄されただけで,20万人の入植者が暮らす諸地域はむしろ強化され,防御壁によって隔離されつつあります.東エルサレムのアラブ系住民など,他の地域については交渉によって決めるはずです.
しかし,イスラエル側は交渉の条件としてパレスチナの法や民主化を求め,他方,パレスチナ側はイスラエル軍のパレスチナ住民に対する支配や地域的分割を非難しています.ガザ地区では,武器の密輸を理由に,エジプト国境も西岸との交流もイスラエル軍が分断しています.数年に及んだインティファーダによる社会的なコストも深刻です.
もしアラファトの力を削げば,イスラエルが撤退したガザ地区を,イスラエルやアメリカが支持するMohamed Dahlanではなく,むしろハマスが支配するかもしれません.他方,エジプトが近隣地域の安定化に強い関心を持ち,イスラエルの撤退を歓迎しているのはもちろんです.しかし,エジプト政府がガザ地区や暫定政府を支援する意図は,シャロンの計画と一致するわけではありません.むしろ,ガザ地区が安定化するためにも,エジプトはイスラエルがパレスチナ国家の成立に向けて具体的なプロセスを進め,パレスチナ人に希望を与えるべきだ,と考えます.
もしイスラエルがエジプト政府の説得に耳を貸さないのであれば,撤退計画の結果は,誰にとっても望ましくないものとなるでしょう.
アラファトを悪魔と呼び,その孤立化,政治的な排除を図ってきたのは,ブッシュ氏の意向だった,とCohenは考えます.なぜなら,ブッシュにとって,アラファトはもう一人のサダム・フセインだからです.しかしフセインを逮捕しても,イラクがアメリカ人にとって安全な土地にならなかったように,アラファトの抹殺はインティファーダを終わらせませんでした.問題は一人の人物ではなく,大衆の抗議行動なのです.
NYTの論説も,シャロンの撤退計画を承認したイスラエル議会に複雑な反応を示しています.撤退計画は,イスラエル国内や入植者の強い反対に遭うでしょう.そうなれば,ますます,シャロンは強硬姿勢に頼ります.それは結果として撤退後のガザ地区を,パレスチナ人の穏健派ではなく,ハマスなど,強硬派の手に渡してしまうのです.イスラエル国内では,野党である労働党やアメリカからの計画に対する支持が必要です.また,パレスチナ人も,自分たちの手でテロリストを排除し,話し合いによる解決を目指す姿勢を貫かねばなりません.
もちろん,双方のテロや軍事衝突は,穏健派の国民に対する説得と,彼らの政治的な意志を試すでしょう.だからこそ,彼らは話し合って,次の一歩を進めるのです.
Oct. 22 (Bloomberg)
Europe May Face Knockout Blow From Dollar Decline
Matthew Lynn
NYT October 22, 2004
Is It Time to Stem Asia Deficits With a Weak Dollar?
By FLOYD NORRIS
ST Oct 29, 2004
US dollar and Asia's hoard
ST Oct 29, 2004
It's time to put the squeeze on the dollar
(コメント) ヨーロッパはユーロ高を懸念しています.問題は,アメリカの双子の赤字(540億ドルの貿易赤字と4126億ドルの財政赤字)です.ドル安に対する不安のせいでユーロが増価しても,ヨーロッパはそれが輸出を減らして不況になるのを防げません.なぜか? 消費が低迷しているからです.
ユーロ圏の成長率は0.5%でしかなく,失業率は9%に達します.独仏を含む6ヶ国で財政赤字が上限の3%に近いか,それを超えています.確かに,ドイツやフランスは商店の開店時間を拡大し,イタリアは減税もします.しかし,消費者は支出に向かいません.金融政策は非常に保守的です.景気が良ければ,ユーロ高を大いに自慢したでしょうが,今では石油高を緩和する程度の喜びです.
なぜ大統領選挙でアジアの問題,特に貿易・通貨問題は争点から避けられたのでしょうか? NORRISは,その理由を国内の失業を認めたくないブッシュと,景気回復を認めたくないケリーの,身勝手な理由で説明します.しかし,雇用回復の遅れをアウトソーシングやアジアの通貨政策に結び付けるのは避けられません.
そして,誰が当選してもレーガン政権を再現するだろう,と言います.すなわち,大型減税と財政赤字,景気は回復したけれどドル高による貿易赤字が続き,再選されたレーガン氏は政策を転換して,プラザ合意で管理されたドル安を演出しました.
STは,このシステムの限界を論じています.アジア諸国は政府・中央銀行がドル資産の累積を通じて,国内の金融緩和だけでなく,自国の成長を維持する輸出増加を支えるアメリカの消費にも融資してきました.しかし,このままドル安が続けば,巨額の損失を被ります.競争的な資本逃避がパニックになるかもしれません.その恐怖に耐えて,どこまでドル資産を積み上げることができるでしょうか?
もし債務国アメリカと単一の資産国が問題であれば,ドルへの投資を抑えれば,ドル安が起き,アメリカの金利が上昇し,資産国の景気過熱も終わりますが,必ずしもそれは経済恐慌ではないでしょう.問題は,中国,マレーシア,香港などがドルに為替レートを固定し,アジア諸国もかなり固定した介入政策を採ってきたことです.誰が通貨の切上げや増価を受け入れ,最も大きな調整コストを担うのか? それを恐れて,どの国も調整を遅らそうとするでしょう.
賢明な政策担当者であれば,彼らは集まって話し合うべきでしょう.彼らは為替市場への介入を減らし,市場による調整を受け入れるべきです.相互の姿勢が矛盾することは雄避けねばなりません.同時に,ドル安がアメリカ国内の財政赤字削減や貯蓄増加への調整を遅らせてはなりません.双方が早期の調整に合意することが,そのコストを抑制します.さもないと,ドル暴落やアメリカの金利急騰,住宅バブルの崩壊と不況が起きるのです.
BG October 22, 2004
Deja vu in Baghdad
By H.D.S. Greenway
WP Friday, October 22, 2004
The Choice on Iraq
NYT October 25, 2004
Making Things Worse
(コメント) イラクのアメリカ軍はますますヴェトナム戦争と同じような狂騒状態に陥っているのかもしれません.「アメリカ軍の装備は世界最高であり,勝利するほかない.」 そんな確信が作戦を支配します.マクナマラはラムズフェルドに変わっても.しかし,保守派のThe Weekly Standardは,ヴェトナムではなく第二次大戦のガダルカナル攻防戦にたとえます.世界戦争の帰趨がここで決まる,ドイツや日本の全体主義は掃討されたのだ,と.しかし,工業国を彼らの協力の下に征服する場合と,イラクの占領とは異なります.イスラエルが繰り返し試みて失敗したように,土地に住みついてきたアラブ系住民を軍事的に威嚇しても効き目は無いのです.
過去のどの戦争よりも,イラクはイラクであり,その最後の占領政策に学ぶべきだ,とGreenwayは考えます.すなわち,今のアメリカと同じように,1917年,基本的には良い意図から,イギリスはイラクを軍事的に制圧しようとしました.「われわれは征服者や敵ではない.解放者だ.」 と.1920年,T. E. Lawrenceは,メソポタミアに深入りしたイギリスが威厳や誇りを持って脱出することは非常に難しい,と書きました.チャーチルがイラク占領に関して残した言葉です.「われわれはこの恩知らずな噴火口に住む特権に対して毎年800万ポンドを支払い,そのことで何一つ価値のあるものなど得ていないのだ.」
しかし,両候補のイラク政策は十分な成果を期待できず,むしろブッシュ政権は新しい雇用と高性能な武器・弾薬を大量にテロリストたちに補充してやっている,と言えます.
The Guardian, Friday October 22, 2004
President Bush has words with the Almighty
Terry Jones
「ジョージ?」
「はい?」
「私は神だ・・・」
「やあ,神様.何か御用でしょうか?」
「私はイラクの占領を終わらせてほしいのだ,ジョージ.」
「でも,あなたがそうするように私に命じたのですよ,神様!」
「いいや,私ではない,ジョージ・・・」
「しかしあなたは言ったはずだ! カールや,ラムジーや,ディック,その他にも大勢のとても賢明な取り巻きがそう言った!」
「私が言ったとどうして知っているのかね,ジョージ?」
「ひらめいたんです,神様.私はまさに知ったわけです.」
「お前は本当に,私がこのような恐怖と流血を人類の仲間に浴びせることを望むと思うのかね?」
「しかし彼らはイスラム教徒ですよ! 彼らはあなたを信じていないのです,神様!」
「いいや,ジョージ,彼らは私を信じているよ.ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も,すべて同じ神に祈っている.お前は学校で比較宗教学を学ばなかったのかね,ジョージ?」
「もちろん,そんな勉強はしませんよ! あなたは私がそんな平和ボケしたリベラルなホモ野郎だと思っているのですか,神様?」
「いや,もちろんそうじゃないよ,ジョージ.しかし私はお前が爆弾を落としている人々について少しは知っていると思ったのだ.」
「ああ,何てことだ! あんなクズどもばかりを一人残らず掃討するまで,爆撃するのは正しいに決まってますよ!」
「どうしてそう思うのだ,ジョージ?」
「だってあなたがそうしろといったじゃないですか,神様.」
「ジョージ,私はそんなことを言ってないぞ!」
・・・・ この風刺劇で,ブッシュ氏は失敗の原因を神様のせいにして,ちゃんとカール・ローブに電話して伝えておいて欲しい,などと苦情を言います.さらに,カールはあなたが神だと言ったのか? と疑い始め,あなたは反対派に間違った考えを吹き込まれたのだ,と神を非難します.そして,逆に神にこの「新しい現実」を理解しなければならない,と教えます.人々は党派を超えて「再生」することを信じたがっている.これが政治的基盤なのだ.・・・
「私はただ,人類の仲間にもう少し思いやりを持って欲しいと頼んでいるのだ!」
「あなたとはもう議論したくないですね,神様!」
・・・・ ブッシュ氏は神が,現実を思慮分別で分析して,賢明な解決策を求めようとする,旧時代の思考に冒されている,と指摘します.それではいけない.もはや私たちは帝国を建設し,現実それ自体を創造できるのです.私たちが創造した現実を,あなた(神)が学べばよい.いいですか,今後は何が正しいことか,私に聞きなさい・・・
「分かりましたか?」
「はい,大統領!」
ST Oct 23, 2004
Lessons from China: custom-made globalisation
By Fan Gang
(コメント) 邦訳書もあるFan Gangの中国的グローバリゼーションに関する論説です.しかし,期待は叶いませんでした.
Fan Gangは,@標準的な開発論,Aグローバリゼーションの利益,B中国の特殊事情,C資本規制や為替レートの調整,を組み合わせて,それなりに説得的な整理を示しています.
なるほど,多国籍企業MNCsが主導するグローバリゼーションに参加しつつ,既存の富裕な諸国に当てはまる理論や政策をそのまま受け入れず,MNCsやIMF,アメリカ財務省に対抗して自国の社会・政治的安定性を維持することを主張するのは正解です.しかし,中国の独自の問題点について,余りにも関心が希薄です.
LAT October 23, 2004
Left Far, Far Behind
LAT October 23, 2004
Teen Sex Reality
(コメント) The No Child Left Behind Actがもたらした硬直的な教育改革は,多くの子供や学校を失望させ,荒廃させていると言います.特に補助金の対象となる学生や学校を選ぶ,改革や教育成果を示す基準が恣意的に決められています.
他方で,アメリカでは毎年,推計80万人の10代の女性が妊娠しています.避妊薬や堕胎に関するブッシュ政権の政策は,宗教的右派の道徳に依拠しており,社会の要求を無視しているのではないか?
ST Oct 24, 2004
Global American
By Joseph Nye
(コメント) 反アメリカ主義は,しばしば世界をアメリカ化することへの抵抗だ,と言われます.Nyeは,グローバリゼーションが進めば,アメリカ化は低下し,さらにアメリカ自身がもっと変化するだろう,と言います.反アメリカ主義の起源をグローバリゼーションとアメリカ文化の同一視に求めるなら,それも時間とともに解消されるわけです.
NYT October 24, 2004
Counting the Hidden Costs of War
By ANNA BERNASEK
(コメント) 戦争のコストは,要するに,その支出によって決まる.しかし,経済学が教えるように,財政支出は波及し,また歪みを生むだろう.二人の経済学者(Warwick J. McKibbin and Andrew Stoeckel)が推計した.2003年3月に戦争が始まってから,今までに,アメリカは1500億ドルのコストを支払っている,と.これはほぼ1年半分の成長に等しい.この間の成長率は3.7%であったが,戦争が無ければ4.7%であっただろう.それは,石油価格,財政赤字,金融市場に影響する不確実性の増大,として現れるそうです.
もちろん,この推計にも多くの議論の余地があります.あるいは,消費者や投資家の心理を介して,もっと大きな影響を与えているかもしれません.戦争が長引けば,将来のアメリカの生産力に悪い影響が現れます.戦争の将来のコストについて2002年に研究したWilliam D. Nordhausは,見事な推計を行った.戦闘が長引いたケースについて,彼が指摘したコストが1600億ドルであった.戦後復興,国家再建計画はもっとコストを要する.そして軍事侵攻の10年後に,そのコストの総計は1兆9000億ドルになるだろう,と彼は提示した.
もちろん,戦争による将来の利益もあるだろう.中東地域が政治的に安定し,石油市場も安定化する上に,テロ活動が終息するかもしれない.実際,ホワイト・ハウスは,どれほどコストが大きくなっても,最後には利益が上回る,と考える.18ヶ月経っても,そんな利益は全く見えてこないが,その見通しは経済学ではなく,政治学の担当だ.
FT October 25 2004
UN reform is stuck in a Catch-22
By Paul Kennedy
(コメント) なぜ国連は機能しないのか? その理由は,安保理の常任理事国が拒否権に拘ったからです.スターリンであれ,アメリカ議会上院であれ,大国はその行動を国際機関に縛られることを,一切,受け入れませんでした.他方で,国連総会の決議や特別部会は,何の行動も意味せず,決定権を与えられないまま,輪番でリビアの代表が人権委員会の議長を務めたりするわけです.誰でも構わない,誰だって議長をしたいのだから.
国連改革は必要です.左派も右派も,現実的な改革を進めるまでは,不毛な非難を投げつけるでしょう.
WP Sunday, October 24, 2004
Kerry for President
国民の半分は熱狂的にブッシュ氏を支持し,他の半分は熱狂的にケリー氏を支持する,などと世論調査は言います.しかし,私たちはそんな熱狂も,確信も持てません.ブッシュ氏の業績には多くの批判がありますが,少なからぬ成果も上げています.ケリー氏の公務や世界に関する知識,諸問題への立場は魅力的ですが,支持を躊躇させる部分もあるのです.しかし,全体としてみれば,私たちはケリー氏が正しい選択だと思います.彼の知見と開かれた姿勢によって調合された公約を持って,この国を次の4年間導くに値する人物です.
ブッシュ氏の失敗は,いつも,そのうぬぼれと,数少ない取り巻きの意見しか聞こうとしない閉鎖的な判断によるものです.彼は自分が望まない事実を認めません.それは大統領としてふさわしくない性質であり,特に戦時に指導者となるには致命的な欠陥です.
多くの点で,ケリー氏はより良いアプローチを示しています.彼はまた,ブッシュ氏よりもこの国を安全にする計画を持っています.決断力に欠ける? 同盟諸国に弱腰すぎる? 保護主義的な言辞をひけらかした? それは彼の一貫性を損なっています.
ケリー氏はイラクの再建によりふさわしいでしょう.ブッシュ氏のイラク再建計画も概ね支持しています.彼はまた,核兵器と生物化学兵器によるテロ攻撃が,アメリカにとっての最大の脅威である,と正しく認識しています.北朝鮮やイランをどうするのか,それはイスラエルとパレスチナの和平交渉と同じく,長期に及ぶ外交を必要とする,という理解も正しいでしょう.またケリー氏なら,ブッシュ氏よりもスーダンの虐殺に対して強い姿勢で反対してくれるでしょう.
ケリー氏は約束しています.イラクの戦いと同盟諸国への支援要請を同時に行う,と.また,テロリストたちを逮捕し,傲慢さを示すことなく,イスラム世界を取り込める,と.それは正しい目標であり,私たちはケリー氏がそれをより上手く達成すると思う.
WP Sunday, October 24, 2004
President Kerry and Europe
Revitalizing an Alliance Depends on Bush's Defeat
By Timothy Garton Ash
FT October 26 2004
Martin Wolf: Why the US election matters
By Martin Wolf
(コメント) もしブッシュが当選したら,とAshは考えます.ヨーロッパはアメリカに対抗して要塞となり,超大国を目指すだろう.シラク大統領は,愚かなことに,かつて1970年代にキッシンジャーがソ連に対してやったように,中国をカードにアメリカと競い合っている.しかし,ユーロ・ゴーリストは注意するべきだ.EU内の汎大西洋主義は根強く,もしブッシュが二期目に揺さぶりをかければ,EUは分裂の危機を味わう.そして西側の同盟など無意味になる.
もしケリーが当選すれば,ヨーロッパは歓迎するだろう.彼の多角主義はヨーロッパの静かな多数派が信じる大西洋同盟を活気付ける.しかし,フランスやドイツはイラクに軍隊を送らないだろうし,イランの扱いでも摩擦を生じる.中国市場は輸出に飢える西側諸国を容易に分断できる.しかし,ケリーならチャンスはある.ケリー大統領と一緒に,ヨーロッパは世界の自由の力を広めたい.
チャーチルが言ったように,「アメリカは,他の選択肢がすべて尽きてしまったとき,いつも正しいことをする.」 この選挙でも? アメリカの孤立した超大国路線を,国民がさらに進むかどうか,選挙の結果はそれを示します.たとえケリーが当選しても,ヨーロッパは楽しい結末を迎えません.イラク,軍事力の使用,国際裁判所,・・・ 私たちは,財政や経済の対外脆弱性を抱えたアメリカに,世界の安全保障を委ねています.その民主主義の帝国に,私たちは従うのか? 無関心ではいられない,とWolfは述べます.
FT October 26 2004
A small price to pay for growth in Asia
By David Folkerts-Landau(head of research in Deutsche Bank's global markets research unit)
多くの著名な評論家たちが,アメリカの経常赤字がアメリカと世界を苦しめる,と言ってきた.また,世界の富裕な諸国が,もっと不幸な諸国から貯蓄を補い,浪費に耽る自分たちの政府を助けるために借り入れなどするべきではない,とも主張される.
確かに,国際通貨システムがまともであれば,アメリカから貧しい諸国に貯蓄が流れ,そこで資本形成や経済発展に使用されるだろう.あるいは,遅かれ早かれ,公的部門の投資は,「今買って,後で払う」という政策を続ける国に自分たちの貯蓄を与えたくないと思うだろう,と.
では誰が,なぜアメリカに貸すのか? アメリカの証券を購入しているのは,産油諸国やラテン・アメリカ諸国と並んで,アジアの諸政府である.他方,ヨーロッパやアメリカ,その他の民間投資は,増大するアメリカの赤字を理由に,現在の金利ではアメリカの証券を購入しない.
2001年財政年度の末に,市場に供給されていた財務省証券は7200億ドルであり,そのうち4500億ドルが公的に保有されていた.アメリカの経常収支赤字が他国の公的準備になった割合はさらに高い.たとえ経常赤字がGDPの6%に達しても,アメリカに向かう貯蓄の洪水が成長局面でアメリカの実質・名目金利を上昇させない.資本をアメリカに押し込むのは,外国からの供給であり,アメリカ側の需要ではない.
その理由は明らかではない.最もありそうな理由としては,外貨準備を増やしたいとか,非現実的な為替レートを守りたいとかではなく,もっと広い経済発展の戦略として,政府がアメリカに貸している,ということだ.たとえば中国の最大の関心は,高度な産業分野で雇用を急速に増やし,膨大な労働のプールを吸収することだ.投資の厳密な検査は,世界市場で販売できるかどうか,である.テストの合格する製品を作るには資本形成を必要とし,低所得の新興市場ではそれができない.巨額の直接投資を受け入れるのは貧しい諸国が国内融資を迂回しているのである.しかし,それは豊かな諸国の投資家にとって大きなリスクになる.
国際通貨システムが効果的に機能すれば,世界投資家にとってのリスクと報酬のバランスを解決するだろう.アジアの新興市場は,地元の労働力を使って世界的な製品を生産するノウ・ハウを持つ,外国企業による莫大な直接投資の流入を必要としている.十分すぎる国内貯蓄を行っている彼らは,豊かな諸国から貯蓄を純流入させる必要がない.
まさに,近年,出現した通貨システムはこの必要に応えている.アジアの管理された為替レート,膨大な労働力のプールと低賃金,それらが直接投資を促して,生産的に雇用するために地方からの安価な労働力を引き寄せる.一旦,投資が行われれば,(豊かな国の)投資家は自国の製品市場が開放されていることを強く求める.かつては,そのような輸出指向の開発政策が,それによって影響を受けた産業の資本と労働が同盟して,通商政策で対抗するように求めたものだ.今や,そのような同盟は解体された.
中国の貯蓄はそれ自身の開発を融資する.1991年から2003年の間に,直接投資の流入は4250億ドルに達したが,それは非居住者への中国の民間債権が流出したことにほぼ見合っている.資本勘定が均衡しても,そこにはリスクが残る.そのような不均衡なリスクが市場で機能するには,担保を持たねばならない.中国が(国際市場で通用する)担保を得る方法こそ,経常収支の黒字と,それを公的部門の準備として,主にドル建資産で,4080億ドルも積み上げることだった.準備通貨を供給する基軸国(アメリカ)がその担保を進んで受け入れ,開発問題を解決した.すなわち,資産を押収される不安を持たせずに,外国の株式資本を大量に引き付ける,という問題である.
この仕組みは永久に続くわけではない.ブレトン・ウッズ体制がそうであったように,その目的に応じて,約20年間は続くだろう.国内貯蓄の一部をアメリカに送り,かなり遠い将来に引き揚げるのは,アジアの新興市場が世界クラスの資本ストックに投資し,膨大な低雇用の労働者を急速に吸収するためには,むしろ小さな代償である.
BG October 25, 2004
'Peace with honor' in Iraq
By Ivan Arreguin-Toft and Monica Duffy Toft
The Guardian, Tuesday October 26, 2004
The colonial precedent
Mark Curtis
(コメント) イラク戦争についての憂慮と警告です.両Toftは,現在,選挙期間中にさまざまな対話が行われたけれど,そのどれもがヴェトナム戦争とそっくりであることを示しています.国際的な支持を得なければ,この戦争は帝国主義や侵略になってしまうのです.最初の意図や戦争目的が何であれ,戦争の性格が変化し,不正義の戦争になってしまいます.それを拒んだジョンソンは大統領を退き,恐怖による平和,を目指すニクソンがアメリカを指導します.そして一層の恐怖とテロに直面するわれわれは,イラクだけでも100万人の兵士を必要とし,世界の各地で死に直面します.
Curtisは,イギリスの関わった植民地支配に対する反抗を制圧する戦争について,ケニアの醜い記録を再読します.当時のイギリス・メディアや政治階層はマウマウ団の野蛮さをしきりに恐れましたが,実際に最悪の行いをしたのは占領軍でした.植民地警察は,容疑者の耳を切り落としたり,死ぬまで鞭打ったり,蝋をふりかけて火を付けたり,アフリカ人を射的の材料にもした,と言います.
さまざまなエピソードが示すのは,政府が行う説明と,実際に個人的に知っていることや思っていることは,まったく異なるということです.イラク戦争についても,本当は,民主主義のためや,テロリストと戦うことや,イラク国民のことを思って行われてなどいないのです.イラク人はヒトではなく,その死は無視されており,西側の権力を拡大すること,そして,自分たちの恐怖から起きた失敗をごまかし続けることが,この戦争を続ける理由です.
Oct. 27 (Bloomberg)
An Extended Vacation for the Bank of Japan
William Pesek Jr.
(コメント) 日本の景気が回復すれば,デフレも終わり,金利を上昇させる時期が来るかもしれません.しかしデフレが続く限り,日銀に長期金利を動かす力はありません.短期金利についてはどうか? 消費者心理はなお弱く,地震が人々を不安にします.だから投資家たちは,日銀が次に考えることは,円安による輸出促進かもしれない,と思うのです.
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The Economist, October 16th 2004
Beating cancer
The Irish Economy: A model of success
After the debates: Down to the wire
Textiles: Loosing their shirts
Economics focus: Cycles and commitment
(コメント) 癌という病気は無くなるかもしれません.それは分子レベルで解明されたさまざまな細胞分裂の異常な終止状態である,というわけです.多くの投資,多くの費用を覚悟すれば,十分な情報と分類が可能になって,それぞれの「病気」は消滅します.
アイルランド経済の奇跡を解明すれば,どうやら奇跡はその輝きを失ってしまうようです.IRAとの内線は終結し,政府はマクロ政策を健全化して直接投資を誘致することに熱心に動きました.EU市場を睨んだ多国籍企業がイギリスよりもアイルランドに注目したのです.さまざまな要因があるとしても,労働人口の急増や戦後の余りにも遅すぎたキャッチ・アップ過程は,急速に失われるし,他国のモデルにもならない,と言います.
WTOは,多角繊維協定の破棄を経て,繊維製品の国際市場が実に激しい変動を迎える,と予測しています.ここでも変化の中心はアメリカ市場と中国の工場です.では,いままでアメリカに輸出してきた中米の工場はどうすれば良いのか? フレキシブルな生産システムに投資し,ワンセット型の供給基地を整備することが生き残りの鍵だ,と言います.つまり,多くの貧しい生産者は廃業するしかないわけです.
最後にノーベル経済学賞.E. Prescott とF. Kydlandの経済学は,その依拠する現実のイメージがケインズと異なります.ケインズは総需要の不足から大量失業を生じた大恐慌の世界をイメージしていました.他方,彼らがイメージするの1970年代のスタグフレーションです.しかも,経済は,マクロの需要よりも,ミクロの主体が行う選択や技術革新によって決定されると考えます.彼らの理論は大きな影響を与え,金融政策の「時間的な整合性」を維持するために多くの国で中央銀行は独立しました.また,「リアル・ビジネス・サイクル」を重視する姿勢は,経済学者が総需要よりも,技術変化や生産性,石油価格に注目するようになった現代を予見している,といわれます.しかし,洪水の例は間違いだ,と思いました.