IPEの果樹園2004

今週のReview

9/27-10/2

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   アメリカの大統領 :世界を変える人物を決めるのに,なぜアメリカ人だけが投票するのか?

2.   世界経済の共同管理計画 :世界インフレとドル暴落,中国の経済=政治危機,石油ショック,保護主義.

3.   ブッシュの戦争 :戦争と幻想による政治支配の現状維持に向けて,強硬姿勢は崩さない.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


IHT Thursday, September 16, 2004

Watching China rise over Southeast Asia

Marvin Ott YaleGlobal

トラに鈴を付けた者が外せばよい,というのがシンガポールに駐在する中国大使の態度であった.Lee Hsien Loong新首相は,1990年に北京政府と国交正常化してからも,シンガポールは台湾との非公式な関係を維持していたが,非公式の訪問をしたことに対して大使は「ショックを受け,失望し,困惑させられた」と述べた.

この事件は,地域における中国の権力が劇的に転換したことを示している.今後,中国がこの権力をどのように使うのか,東南アジアへの注目が高まるだろう.北京が主張するように,中国の台頭は平和的なものなのか,あるいは権力の誘惑に負けるだろうか?

過去15年にわたって,中国のGDPは年9%で成長し,毎年,軍事費を倍増することができた.専門家の予想では,中国の軍事力は10年〜20年で沿海部の辺境を越えて拡大するだろう,という.いかなる基準で見ても,中国が突如として地域の大国になったことは明らかだ.政策や戦略を他の主体,特にライヴァルや潜在的な敵国の能力と比べて決定するというのが,リアルポリティクス(権力政治)の原則である.中国の国力を正確に測定することは難しいが,その傾向と潜在力はまったく明白だ.それは多次元にわたる.経済と軍事,そしてますます,外交や政治において.明朝以来,中国が初めて伝統的な戦略的ライヴァルであるロシアと日本から脅威を受けていない,ということが,中国の権力拡大をさらに重要にする.北京政府は,北部や西部,東部の国境に安全保障上の懸念を持たずに,南部に対してその権力を行使する,という恵まれた状況にある.最後に,東南アジアにとって,中国の権力はもう一つの次元を持つ.すなわち,すべての主要な都市中心部に中国系の多数の人口(そして,その経済力)が存在していることだ.

能力が高まったことと,その意図とは別問題である.中国の役人たちは,東南アジアに対する中国の意図がまったく善意に満ちたものだ,としつこく主張する.すなわち,地域の経済発展に参加し,地域の平和と安全に参加したいだけだ,と.北京は精力的に貿易や投資の協定を結び,東南アジアのすべての政府と,二国間の多元的な協調の枠組みを模索している.

政治的・外交的な交流がすべてのレベルで規則的に,毎日のように,ニュースとなる.北京政府は,また,安全保障の分野でも協力を進める明確な意欲を示してきた.中国は,ミャンマー,カンボジア,ラオスの主要な経済・軍事援助国である.にもかかわらず,いくつかの点で疑念が湧く.

第一に,歴史が強く示唆するように,新しい大国の興隆は,周辺の小国にとって常に好ましいことではなかった.中国が権力を行使する誘惑に無縁であるかどうか,まだ見守る必要がある.

第二に,毛沢東主義やマルクス主義がイデオロギーとして力を失うにつれて,中国の指導者たちはその権威主義的な支配を正当化するため,ナショナリズムに傾いてきた.領土回復の要求が潜在的な政治力となり,あらゆる正常な忠告を無視して,北京政府が台湾に軍事力を行使する懸念が高まっている.(台湾問題について)中国の研究者を公式に処罰し,さらに,中国に対するアメリカの戦略的な意図を「囲い込む」とか「絞め殺す」ことだと描く.彼らは東南アジアをこの鎖(包囲網)の弱い部分であるとみなし,ここを突破して「封じ込め」策を打ち負かすことができる,という.

最後に,北京が善意の証拠と見なす東南アジアとの結びつきこそ,同時に,これらの諸国を中国に束縛する網であるかもしれない.

中国の外交官たちはこれらの紐帯を,脅威ではなく,機会であると描くことにたゆまず努力し,成功してきた.最近の世論が示すように,東南アジア全体で,中国は好意的に見られている.これは,イラク戦争が起きてから,アメリカに対する好意的な意見が急激に減少したことと一致する.

しかし抗した感情がいつまで続くかは疑問だ.確かなことは,増大する中国の権力が,東南アジア諸国の形成するいかなる地域安全保障の枠組みにも,その中軸となることだ.そのときアメリカはどう関わるのか・・・?


WP Wednesday, September 15, 2004

'Ownership Society' or Snake Oil?

By Anne Applebaum

(コメント) 'Ownership Society' を,Applebaum は「いんちき万能薬(Snake Oil)」だ,と考えます.ブッシュ大統領が国民に売りつける口上によれば,誰もが自分の気に入った保険に加入できる.保険への支払は株価が上がれば儲けも生み出す.また,議会が勝手に年金支給を遅らせたりすることもない.保険会社は競争してさまざまな保険を安価に提供し,それぞれの好みに合った保険契約を選択する.職場を変わっても,保険や貯蓄口座は変わらない.この変動する時代に,住居や職場を移る個人にふさわしく,個人の保険や貯蓄を完全に「所有」できる.

個人の医療保険や年金貯蓄の条件をいつでもコンピューターで確認できる社会になれば,多くの問題を解決できるでしょうか? しかし,商品毎に異なる,さまざまな説明書によって,自分の料金の違いを理解するでしょうか? あるいは,どれが良いのか分からないまま,とてもベストとは思えない商品から商品へ,仲介業者の間をさ迷うのでしょうか? 競争がいつも最善の答えを出す,というほど,制度や消費者が準備できているでしょうか?

イギリスで数年前に同様の制度が実施されたようです.しかし,どのように競争しているのか,われわれには分からない.そのうち優れたソフトが開発される? ブッシュ氏は選挙のために過大な夢を売っているに過ぎない,と.


The Guardian, Thursday September 16, 2004

Far graver than Vietnam

Sidney Blumenthal

(コメント) アメリカ軍の幹部たちは,ブッシュ政権の方針について,深刻な不満を高めています.イラクの反政府活動を強める契機となったファルージャへの侵攻は,おそらく,ホワイト・ハウスが直接に命じたものです.そして,さらに大きな犠牲を出すより,突如,中止を命じました.今ではイラクの誰も,アメリカ軍を歓迎していません.

イラクはヴェトナムではなく,もっとひどい状態であり,もっと多くの人命と財産を浪費させるのではないか,とアメリカの軍人たちは心配しています.何より,この戦いに正当な理由が失われています.大量破壊兵器も,アル・カイダとの繋がりも,民衆の歓迎も,何も得られないまま,「中東を民主化する」という理由で戦争を続けるのか? イラクは第二次大戦後のドイツや日本と全く似ていない.むしろスターリングラードに攻め込んだナチス・ドイツだ.自分たちの命も守れない兵士たちの方が,ホワイト・ハウスよりも真剣に撤退を望むのです.

FT September 17 2004

No easy cure for Iraq's kidnap pandemic

By David Gardner

FT September 17 2004

Iraq needs an open political process

BG September 17, 2004

Ugly truths about Iraq

(コメント) 誰も安全ではありえない.道路には爆弾.外国人は誰でも,真昼の街中で拘束され,人質になる.アメリカ兵は理由も示さず市民たちを捕らえる.イラクの警察は無力で,テロの標的になっている.

スンニー派のイスラム過激派? フセイン体制のバース党? 各地の盗賊団? 誰であれ,アメリカ軍の支配に亀裂を生じることを目的に,武力集団を組織する.職も無く,希望も無い多くの人々が集まる.

イスラム教の指導者たちは,人質を禁止するもっと多くの宗教的訓令を出すべきだし,ニュースは人質を政治的に重視しないことだ,とGardnerは考えます.そして国内では秘密警察を強化し,外交交渉によってテロリストたちを孤立させる?

NYT September 17, 2004

This Is Bush's Vietnam

By BOB HERBERT

LAT September 18, 2004

Drop the Pretense on Iraq

(コメント) HERBERTは,ヴェトナム戦争で最後に近い戦死者の墓を訪れます.それはアーリントン墓地のヴェトナム戦争を記念する5万8000人の名簿の最後に記されたRichard VandeGeerの墓です.彼は27歳でした.アメリカ兵を救出するヘリコプターを操縦していました.彼の母は今もフロリダに在住し,毎日のように,先に死んだ息子のことを想っています.息子のことを誇りにしながら,「無駄に死んだ」という気持ちを拭えません.

勇敢にもジョンソン大統領に質問したニュースキャスターが居ました.「なぜ軍隊をアメリカに帰さないのか?」と.大統領は,「自分がアメリカで最初の敗戦を味わう大統領にはならないだろう(なりたくない)」と答えました.ジョージ・W・ブッシュは,同じように深く,イラクの戦場に埋め込まれてしまったのです.勝利する具体的な計画も無いのに,敗北を認める気はない.

Richardの姉は,彼女の結婚式に来ていた彼の姿を忘れられません.彼は背が高く,ハンサムで,自信に満ちていました.自分で世界を変えたい,と思っていたのだろう,と.

LATは問います.イラクの警察力が治安を回復するのに十分な人員と装備を得るまでに,どれくらいの時間と資金が必要になるのか? アメリカ軍は混乱を理由に逃げ出したりしない.もし大統領が具体的な証拠をあげて治安回復への道筋を説明するなら.しかし,現実を無視して,すべてが上手く行っている,などと繰り返すのであれば,大統領への信頼が失われる,と.

The Guardian, Friday September 17, 2004

The war was illegal

WP Sunday, September 19, 2004

Mr. Bush and Iraq

(コメント) 国連のアナン事務総長が,イラク戦争は「非合法」であった,と述べました.それは戦争の正当性を主張してきたブッシュ大統領やブレア首相に対して,明確に,反対したものです.アメリカの先制攻撃や安保理無視が,世界を無法状態に陥れ,イラクの治安はますます悪化している,という危機感がその背景にあるでしょう.ただ,なぜ開戦前に,国連としてもっと明確に反対しておかなかったのか,とThe Guardianは悔やみます.

これに対して,ブッシュ氏は反論しません.むしろ,イラクの事態を軽視し,改善される将来の目標ばかりを美化しています.このような幻想に導かれた政策が,事態の悪化を放置することは,兵士やアメリカの損害を拡大します.

FT September 19 2004

Iraq is not lost, but US strategy is

By Anthony Cordesman

WP Monday, September 20, 2004

Three Debates About Iraq

By Sebastian Mallaby

(コメント) 事実上,政府は失敗を認めて戦略を変更し,イラク支援の予算を改訂しました.かつてのネオコンの目標は達成できないことがはっきりし,今はイラクの「イラク化」が目標となっています.政府機能と反乱鎮圧を,米兵からイラク政府と警察の手に移すことです.しかし,11月の選挙までは大きな変更を示せません.イラク政府も,アメリカ軍に大きな作戦を求めません.

ホワイト・ハウスの姿勢は今も定まりません.イラクの選挙や,長期的な支援策は不明です.アメリカが「敗北した」わけではないが,その戦略は機能していない,とCordesmanは言います.すべてはイラク政府の正当性と能力改善に懸かっているが,アメリカ政府のプラグマティズムはなかなか実現していない,と.

Mallabyは,大統領選挙に向けて行われた三つの討論を示します.1) 18ヶ月前にケリーが大統領であったら,何をしたか? ケリーは回答を避けました.いかなる過程の話にも軽率な回答はしたくないのだ,と顧問たちは弁解しますが,世論は単純明快なブッシュを支持しました.

2) アメリカはイラクを占領し,悪いニュースが続いているが,現在,アメリカにとって最善の戦略を示せるのは誰か? これもブッシュが勝った.ただし,その理由は,これほど事態が悪化すれば,徹底的に戦うか,撤退するしかない,という意味で,ケリーのような中間的な議論が排除されたからです.ケリーは敗北も認めないが,兵士を撤退させる,と言います.

最後に,ケリーが優勢な討論もあります.ブッシュはネオコンの目標を捨てるとも言わず,しかしファルージャへの攻撃を続けずに,曖昧な,中間的位置に戻しました.ケリーは,ブッシュの失敗を追及するでしょう.しかし,ブッシュがファルージャの攻撃を再開すれば,過去の論争と同じように,ブッシュが有利です.


NYT September 17, 2004

Taxing Global Profits

(コメント) 多国籍企業は,世界中の免税制度や優遇措置・補助金を利用して,利潤に課税されることを回避しています.アイルランド,バーミューダ,ルクセンブルグ,シンガポールなど,企業は課税を回避するための事務所や生産拠点を容易に設けて,世界中から利潤を移転できます.2002年に租税回避国で記録された利潤は1490億ドルであった,という報告があります.

たとえば,ある企業はアイルランドに子会社を設けて,コンピューターの部品を10ドルで生産し,アメリカの顧客に50ドルで売ります.アメリカの本社は35ドルでこの部品を買っています.特許やノウハウをアメリカ側が持っていますから,さらに15ドルも高い値段で売れます.この場合,アメリカで課税されるのは15ドルの利益に対してだけで,40ドルの利益のうち,25ドルはアイルランドの子会社の利益となります.

アメリカ企業は,それゆえ,ますます多くの投資や雇用を海外に移転します.それはアメリカにとって法人税の源泉が失われることを意味します.これも世界市場統合と資本自由化の当然の帰結です.


NYT September 17, 2004

In China, Farmers' Labor Bears Too Much Fruit

By KEITH BRADSHER

(コメント) レイシの果実に関する中国農民と市場の動揺を伝える記事です.

レイシは中国の南部で人々が好む高級な果物でした.農民たちは長期的な貯蓄の意味で,富の一部としてレイシを育ててきました.

しかし80年代から,豊かになった農民がレイシの価格高騰に促されて,レイシの栽培を大規模に拡大し始めました.政府の銀行も安価な融資を競争して行っていた,と言われます.その結果として,レイシの栽培は極端に過剰となり,価格が暴落したのです.1980年代に1ポンドで4〜7ドルであった価格が,1993年の不作時には25ドルに高騰し,今では75セントに暴落し,もっともありふれた品種は1ポンド当たり12セントしかしません.

レイシ産業の浮沈は,中国の驚異的な経済成長の希望と欠陥を示しており,資本主義と国家社会主義の混合による狂乱でもあります.多くの産業で,すなわちテレビ・セット,洗濯機,自動車でさえ,少数の生産者が大きな利益を上げると,海外からも投資が殺到し,過剰生産と価格暴落による利益の消滅を繰り返しています.

地方政府は投資を競い,低利融資を重ねています.これまでの政府指導に不信感を抱く人々も,警告や産業調整の必要を無視して,結局,価格の変動だけに従います.価格が高くなれば,誰も将来の過剰を気にしません.この10年間でレイシの生産量は10倍に増えました.漸く政府も新規の栽培を禁止しましたが,既に植えられたレイシの木は果実を増やし続けます.

中国には農産物の先物市場が無く,長期の価格変動を予想する手段が欠けています.最近,6ヶ月の先物が売買されていますが,現在の過剰生産解消には役立ちません.レイシを輸送することや缶詰にすることは,その品質を損ない,コストもかかるので,新しい市場を開拓するのは容易ではありません.レイシをワインなどに加工し,レストランでもっと料理に利用してもらうことも考えられています.

レイシのジュースは昔から飲まれましたが,今では若者がコカ・コーラなどを好みます.農民たちもレイシを豊かさの象徴として好む時代を回顧するけれど,最良の果実を食べるだけで,多くのレイシは捨てられるのです.


NYT September 17, 2004

Mexico and Japan Expect to Sign Trade Agreement

By ELISABETH MALKIN

(コメント) 日本が,シンガポールに次いで,メキシコとFTAを結びました.シンガポールとの合意は,農産物の自由化問題を回避できたからだろう,と言われました.今回も豚肉などで紆余曲折があり,漸く両国の利益が「トレード」されたわけです.

メキシコは,アメリカに対する依存を減らしたい,ということです.日本から投資が増えて雇用をもたらし,また日本向けに農産物を輸出できる,と期待します.日本は,自動車業界や電機業界が,アメリカに対する輸出基地や日本への逆輸入を有利に行えます.今は,アメリカやヨーロッパに比べて,平均16%の関税を支払っています.さらに,ビジネス環境の改善についても,両国の委員会が設けられました.犯罪を減らし,時間や計画を守るように,日本企業は強く求めているからです.


ST SEPT 18, 2004 SAT

Aerospace subsidies just don't fly

By John W. Douglass

LAT September 18, 2004

Wasteful Airline Bailouts

(コメント) 巨大企業と国家の介入によって,航空産業の世界支配は決まります.アメリカはボーイング,ヨーロッパはエアバスが航空機の生産を競っています.他方,航空サービスでも市場の分割や企業の提携は複雑に変化し続けています.政府は,軍備や国際秩序にも関係する企業間の競争に,さまざまな介入を行います.補助金や救済融資.合併促進や妨害.市場で競争する企業が,部品や技術の面では資源を共有し,開発投資をシェアすることも行われています.

旅客への割引競争やテロの影響,燃料費の高騰など,倒産する航空会社も増えています.政府がどこまで関与するのか,税金の投入に明確な説明が求められます.もし外国の航空会社も参入すれば,安全で安価な飛行を続けて,救済融資も必要なくなる?


NYT September 18, 2004

A World of Nuclear Dangers

LAT September 19, 2004

Preventable Nightmare

By Graham Allison

(コメント) ブッシュ氏とケリー氏の国際問題に対するアプローチの違いは,核兵器の拡散防止や核軍縮を実現する方法にも現れています.世界は既に超大国が核武装して互いに牽制しあう時代を終わることができましたが,核兵器の原料は世界中に存在し,核兵器を保有,もしくは,開発しようとしている国は増えています.さらに,核兵器がテロリストなどに利用される心配も,実際に,あります.

ブッシュ大統領は,核拡散を抑止する国際システムが必要であり,核施設からの物資の管理を強める方針を示しています.この点ではケリー氏と同じです.しかし,国際的な監視システムには協調よりも一方的な破棄を,そして核兵器を開発する国には,疑わしいなら先制攻撃も行う,という一方的な抑止力を強めています.しかし「悪の枢軸」としてイラクを攻撃したものの,外交政策には失敗し,北朝鮮やイランへの攻撃や制裁を実施するには至りません.他方,ケリー氏は多角主義的なアプローチを重視し,また,実際の核物質の95%をアメリカとロシアが保有していることを重視して,世界に核物質が拡散しない仕組みを求めています.

もしアル・カイダが一発の核兵器を持てば,9・11を1334回行って400万人を殺すことに等しいのだ,とAllisonはその重要性を指摘します.


NYT September 18, 2004

Trading Up

By BOB KERREY

FT September 20 2004

New EU members join the outsourcing race

By Stefan Wagstyl

FT September 21 2004

Booming Bangalore to back Bush in November

By Edward Luce

(コメント) アメリカでは貿易問題が最も政治的に敏感である,とKERREYは言います.アメリカ人が購入する製造品の既に25%が中国製です.それでも,さまざまな割当などが行われて,抑制されているのです.これらの抑制策が来年には失効し,輸入がさらに増えるでしょう.アメリカ人の不安は強いのです.

KERREYは,国民会議を開催せよ,と主張します.中国やインドが豊かになれば,彼らの産業は容易にアメリカの中産階級とも競争するようになる.労働者や財界の指導者,教育,行政などが,グローバリゼーションとグローバリズムに対抗しなければならない,と考えます.この問題に関する合意を形成して,ケリー氏が明確な行動指針を示すべきだ,と.

逆に,Wagstylは,EUやドイツがグローバリゼーションに追いつくことを目指しています.ヨーロッパでも,雇用の流出に対する政治的な批判は厳しいです.ヨーロッパ人たちは,その多くが自国で働くことを望んでいます.だからこそ,アウトソーシングを進めることで,ドイツ企業は域外での利潤を増やし,またヨーロッパ全体も国際競争力を回復できる,というジーメンスの技術者たちが示す意見に注目します.

多くのインド人はケリーが勝利することを望んでいますが,ソフトウェアの専門家たちは違うようです.ブッシュの方がアウトソーシングに対して企業の自由を尊重するからです.コロンビア大学のバグワッティ教授も,アメリカのメディアに溢れる雇用流出への敵意に警戒するべきだ,と言います.その理由は,「アメリカ経済にもたらす利益の方がはるかに大きいにもかかわらず,その損失の方が見えやすいからだ」 と指摘します.

バック・オフィスの仕事がインドに流出しても,それはアメリカ全体の雇用のごくわずかな部分です.インドにおけるコール・センターでの雇用は,1年前の25万人から,35万人に増加しました.しかし,昨年,アメリカ経済が減らし,その後増やした雇用は3000万人です.2015年までにインドに流出する雇用を350万人と推定する衝撃的な報告もありますが,それはアメリカの1年間にわたる転職者数のおよそ1%でしかないのです.

インドの専門技術者たちは,その競争力に自信があるため,アウトソーシング批判が流れを変えるとは考えていません.情報の管理や中国の追い上げにも,インドは対応できると考えます.だからこそ,選挙に向けたケリー氏の言動に注意するのです.


FT September 20 2004

We need debate on deficits, not party dogma

By Robert Reich

アメリカの2004年の財政赤字は4220億ドルという空前の規模に達した.当然,民主党はブッシュ政権の政策ミスを批判する.しかし,当然,政府は景気回復を実現しているから,何も問題は無い,と言う.どちらが正しいのか?

財政赤字が問題であるかどうかは,@経済の生産能力を完全に利用できているか? A経済が完全雇用するために,将来,赤字が増大するのか,それとも縮小するのか? B課税や政府支出が及ぼす効果は,長期的に生産力を増大させるだろうか? という問題に依存する.実物世界から見たテストによれば,過去4年間は余剰生産力があったために,財政赤字を出すことは正しかった.しかし,将来には問題がある.

財政政策の中心目標は,貨幣政策を補完して,その国の生産力を完全に利用することである.ブッシュ政権は減税と軍事,その他の恣意的な項目で支出を増やし,連銀の金融緩和とともに,アメリカ経済を苦境から救い出した.

しかし,それでおしまいだ.今もアメリカ経済には余剰の生産力がある.過去3ヶ月で雇用は35万人増えたが,職を求める労働者は45万人も増えている.アメリカはまだ記録的な長期失業者を抱えている.消費者が過剰な債務を減らすまで,まだ1年か2年はこうした状態が続くと思われる.暫くの間,政府はこの弛緩した需要を補う必要がある.

その後,少しして,アメリカ経済は生産力の限界に達するだろう.現在の減税と支出計画が,将来の予算を拘束するからだ.要するに,政府や企業,消費者が望むものをすべてかなえるほどの生産力は無くなる.需要が生産力を上回れば,物価が急速に上昇するだろう.

民主党がこの問題を指摘し,ブッシュ氏が長期的に赤字を半減させるような,支出削減のあらゆる努力を求めるのは正しい.しかし,もっと基本的な問題にも答えるべきだ.どのような赤字を出すべきか? それは長期的に,アメリカの生産力がどうなるか,に懸かっている.

景気循環を超えて見えてくるものは,赤字削減の強硬派が言うような,7700万人のベビー・ブーマー世代が引退する幻影であり,アメリカ経済は莫大な債務に沈む中で,社会保障や医療保険が破綻する.グリーンスパン連銀議長は,生産力の増大を退職金の当てにしてはいけない,と議会に注意した.しかし,なぜいけないのか? もし生産力が増えれば,それは可能である.問題は,アメリカが生産力を増大するような投資をどの程度行っているかだ.

共和党のサプライサイダーたちは,何年もわれわれにこう言って来た.減税は経済の拡大に十分な民間投資をもたらす.経済成長が,減税によって生じた赤字を解消する,と.私はそれを信じない.しかし,リベラルなサプライサイダーと呼べるような,他のケースがある.教育,職業訓練,インフラ,研究開発に公共投資を行うことで,その支出以上に,生産力を増大させるのだ.問題は,そうした投資が削られていることだ.半世紀前には,政府による学校や職業訓練への支出はGDPの1%あったが,今では0.5%もない.道路,橋,空港,水の浄化私設に対しては,GDPの0.8%から0.3%に減った.基礎研究もGDPの0.5%から0.2%に減っている.

将来必要になる生産力を築く十分な投資をどのように促すのか,われわれはもっと議論しなければならない.赤字に対するドグマによる反発は,このような考察を妨げる.赤字など問題ではないと言う共和党員たちは,それがいつも問題だと言う民主党員たちと同じように,注意深い配慮を潰してしまう.


FT September 20 2004

John Kay: Growth is not an end in itself

By John Kay

FT September 20 2004

An insight into the purpose of prosperity

By Amartya Sen

(コメント) 老人が働こうとしないからイギリスの高齢化には経済的コストが大きい,と政府は心配します.しかし,どの国にも当てはまる基準を設けて,老人たちを少しでも職場に戻すことが望ましいのか? また,ジョージ・オーウェルの描いた動物たちの支配する農場が,人間にとってのGDPではなく,動物たちの福祉によって農場を運営したように,有機農場と市場とをどのように組み合わせるのが正しいのか? 私たちは明確な答えを持ちません.GDPや富の増大は尺度ではあっても,それ自体が社会の目標ではないのです.公正で,持続可能な分配を,社会集団間で実現するには,市場や成長を議論するだけでは不十分です.

Amartya Senは,『隷属への道』の出版60周年を記念して,ハイエクを再評価しています.なぜなら,ハイエクが批判した共産主義の体制が消滅し,「ネオ・リベラリズム」が栄える今でも,その価値は失われない,と考えるからです.Senが強調するハイエクの貢献は三つです.@市場による社会だけが実現できる,自由の価値,を重視したこと.A福祉国家を批判するのではなく,むしろ社会や国家が窮乏するものを助ける理由を示したこと.B社会主義や共産主義の実現を,それ自体の倫理的な価値を損なう方法でしか成功しない,という意味で,中央集権化した組織の心理的要因から説明したこと.

だから,自由主義者も心して読み返すべきだ,と.


Sept. 21 (Bloomberg)

`Comrade' Faber Says China Will Save the Dollar

Andy Mukherjee

Sept. 20 (Bloomberg)

A Reality Check on the Global `747 Economy'

William Pesek Jr.

(コメント) 中国政府の通貨戦略を予想して,その外貨準備であるアメリカの財務省証券を投売りするより,極端なドル高を維持する方がもっと有害かもしれない,と指摘します.それは世界の金融システムを脅かす最大のリスクであるアメリカの経常収支赤字を拡大します.中国がドルに対して固定レートを維持するなら,他のアジア諸国も為替レートによる調整を受け入れません.アメリカの製造業やサービス産業は競争力を失い,ますますアジアへの移転を進めるでしょう.中国人民銀行は,その莫大な外貨準備によって,アメリカの試算を購入し,低金利をもたらすでしょう.こうしてアメリカの感情を和らげるのです.

こうしたアメリカ窮乏化政策は,アジア自体にとっての限界を示す,とB.アイケングリーンは指摘します.すなわち,人民銀行は為替介入によって信用を膨張させ,国内市場でバブルを生じているのです.それにもかかわらず,景気を悪化させるのが怖くて金利を引き上げません.唯一の選択肢は,人民元を増価させることですが,その時期は中国にとって最も有利な時期を選択する,と予想されます.最悪の場合,中国の金融システムが崩壊するとき,ドルを売ることで対抗し,中国も苦しむが,アメリカや世界はもっと苦しむ,というシナリオが実現します.だから,ドル高を維持して,人民元を一気に調整するという戦略は,できるだけ早期に回避するべきだ,というわけです.

Pesek Jr.は,アジア経済のさまざまなバランスの変化と,四つのエンジン(アメリカ,ヨーロッパ,日本,中国そして新興市場)で飛ぶ世界経済の潜在的なリスクを指摘します.


Sept. 22 (Bloomberg)

Investors Are Bonding With New-Look Malaysia

William Pesek Jr.

FT September 23 2004

Malaysia to ease affirmative action policy

By John Burton in Singapore

(コメント) マレーシアのAbdullah Ahmad Badawi首相は,マハティール後の政治経済体制に向けて自信を示しました.市場型の改革を進め,汚職を追放し,透明性を高め,ムーディーズの格付けが引き上げられるのも近いでしょう.ドルとの固定レート制やブミプトラ政策の廃止も検討されるようです.元副首相アンワル氏の釈放も,政府に対する投資家の好感を強めました.

アジア通貨危機以後の社会・政治変化を比較した場合,マレーシアをどのように評価するか,再考の機会です.


BG September 21, 2004

Why Americans back the war

By James Carroll, Globe Columnist

NYT September 21, 2004

Talking Sense, at Last, on Iraq

FT September 22 2004

Time for real US debate on Iraq

NYT September 21, 2004

The Last Deception

By PAUL KRUGMAN

(コメント) これほど事態が悪化しているのに,アメリカ人はブッシュの戦争を支持しています.それは全く破滅的で,先週は数十人のアメリカ兵と,数百人のイラク人が死にました.選挙を行うことよりも,この内戦をどうするのか? アメリカ軍が問いを空爆すれば,テロリストたちは外国人を人質にします.衝突はエスカレートし,国連事務総長も「法の支配」を失わせた,と暗にアメリカを非難しました.

Carrollは,それでもアメリカの国民は,今までどおり,政府の強硬姿勢を支持している,と指摘します.すなわち,これがアメリカの政治的伝統なのです.アメリカは対決姿勢を強め,相手を非難しながら,一層の強硬策を打ち出します.その結果がどれほど悲惨なものでも,現実を直視しません.そして成果を強調します.それは,アメリカ人が自分たちだけが正しいと確信しており,自分たちの善良さや道徳的価値を疑いたくないからです.ブッシュほどではないにせよ,アメリカ人に共通する問題です.ブッシュはそれが問題であるとは感じていません.ケリーは問題を自覚しており,そのことを国民に話す難しさに直面しています.

ケリー氏がブッシュのイラク政策を批判し,本格的な論戦を始めた,とNYTやFTは歓迎しています.大統領選挙で争うべき,最も重要な論戦が,漸く始まったわけです.

KRUGMANは,ケリー氏がネオコンの計画を引き継ぐようなことがないように,釘をさします.今となっては,アメリカ軍を撤退させ,穏健なシーア派など,アメリカに敵対しない地域に対して,援助を行うことでしょう.イラクに強力な中央政府ができず,たとえアメリカに敵対する地方の支配者が権力を握っても,それに介入しないことです.


FT September 22 2004

Germany's two halves diverge

By Bertrand Benoit

IHT Thursday, September 23, 2004

The rising ambition of a declining power

Gunther Hellmann

(コメント) FTの論説は,ベルリンの壁が崩壊して15年を経ても,東西ドイツの統一は難しい,という現状を分析しています.日本のバブルと同じく,もう15年も経ったことに驚きます.

なぜ年に800億ユーロもの財政移転が行われて,インフラや不動産に投資され,賃金が上昇していながら,東西の統一は成功しなかったのか? 誰もが東側に急速なキャッチ・アップが起きて,ドイツの急速な成長を予想していたのに.

二つの原罪として,ドイツ政府は間違いを犯しました.一つは,旧計画経済の破綻したシステムを,世界市場に投げ込む調整弁としての東ドイツ通貨を,西ドイツのマルクと同一にしてしまったことです.もう一つは,工場流出や移民流入の不安を鎮めるために,西ドイツの社会福祉を東の工場にも強制し,そのコストを増税によって賄えず,西ドイツの企業に課税したことです.結果的に,企業はコストを強いられ,投資や雇用は悪化し,東ドイツよりもさらに東の東欧諸国へ工場を移転しました.

最も懸念されることは,政治システムの東西分裂が解消されないことです.社会民主党やキリスト教民主同盟は地位を確立できず,東ドイツの支配政党が最大の票を得ています.また,ベルリンに首都を移転したとは言え,ボンの官僚機構が移っただけで,東の住民は意見を反映されていないと感じています.政府の労働市場改革は激しい反対にあいました.東の住民たちは自分たちを犠牲者と感じ,民主主義への不満が高まります.また,the Forsa Instituteによる調査によれば,西側住民の24%がベルリンの壁が再建されることを望んでいる,と言います.

しかし,財政移転がまるで無駄であったわけではなく,東西に新しい文化も育っています.「第三のベルリン」が成長する過程で,東も西も変わっていくだろう,と記事は期待します.

その衰退するドイツが,なぜ国連安保理の常任理事国になろうとしているのか? イラクをめぐる大国の権力政治に十分な発言権を持てなかったことを反省した結果である,というのが一つの説明です.しかし,ある意味では,ドイツ政治を開放的な「国際主義」に固定し,また,既に衰退している人口や工業力,軍事力に備えて,今の内に大国としての「正常化」を目指す,という目的があるようです.

しかし,たとえフランスが賛成しても,ポーランドやイタリアは反対するでしょう.フランスとイギリスに加えて,ヨーロッパからドイツも常任理事国に加わることには反対があるはずです.それゆえ国連改革の一環として,国家に固定された常任理事国のポストを変更する可能性があります.すなわちEUです.


The Guardian, Wednesday September 22, 2004

Still no votes in Leipzig

Jonathan Freedland

(コメント) 多国籍企業には正しく課税するべきです.同様に,アメリカ大統領を選ぶのは,アメリカ国民だけではないはずです.フロリダの投票で,もしゴアが勝っていたら,イラク戦争は無かったかもしれません.それは「代表無しに課税無し」というスローガンでイギリス政府に歯向かい,独立を求めて闘ったアメリカ自身の精神です.もしイラク人がアメリカ大統領選挙に投票できたら,ケリー氏の撤退計画に強い関心を持ったでしょう.しかし,彼らに発言や投票はできないのです.もしヨーロッパの諸国民がブッシュを嫌っていることが大統領選挙に影響するのであれば,ブッシュは発言や行動を変えたでしょう.しかし,ヨーロッパの支持するケリーがアメリカ的でない,という程度の理解です.世界は分裂した民主主義によって,今も最強の権力者に支配されます.


The Guardian, Wednesday September 22, 2004

Fixing the fund

(コメント) IMFはアルゼンチンの失敗から何かを学んだか? The Guardianは,Rato新専務理事に発言から,二つの教訓を指摘します.1.世界の貧困を緩和するために国際課税による財源を創設したい.2.赤字国の政策調整や制度改革は,その複雑な政治・社会的要因を正しく理解し,彼らの同意を得て進めなければならない.


FT September 23 2004

Philip Stephens: Power and legitimacy

By Philip Stephens

(コメント) アメリカの軍事力は,それを行使する正当性を国際社会に認められていません.ブッシュ氏はそれを重要では無いと考えます.

「ホワイト・ハウスの基本的見解は変わらない.国連は,ときに,アメリカが覇権の道具として有益かもしれないが,正当性の源泉としては必要ない.アメリカは自分が正しいと思ったことを言うために,外国の助けを必要としない.」

「しかし,戦後の国際システムを築いた(アメリカの)設計者たちはそう考えなかった.最初から,権力と正当性との共生関係を認識していた.国連,北大西洋条約機構(NATO),IMF,世銀,その他の国際条約からなる甲冑は,すべてアメリカの権力を抑制するために形成された.制度の権威はワシントンから与えられるが,その代わりにアメリカの指導権を認めた.そのシステムは,単に冷戦で機能しなくなっただけでなく,不完全なものだった.しかし,それらが崩壊すれば,われわれは失うものの重大さを知るだろう.」

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The Economist, September 11th 2004

Russia’s horror

(コメント) パンチが効いて,奥行きのある,The Economistらしい優れた論述です.子供を殺すな! とテロリストの狂気に抗議します.ロシアの治安警察やプーチンの政策にも,ブッシュや西側のプーチン支持にも,間違いは間違いだ,と明言します.ロシアは単に無秩序の拡大を助長し,私欲のために混乱を利用する,腐った軍人や殺人狂の支配者を育てている,と.

もしプーチン政権が本気で治安回復を望むなら,チェチェンに国際監視・平和維持軍を要請することだろう,とThe Economist言います.そうなれば西側の人権団体が参加し,積極的な経済支援も行われる,と.


George Bush’s apparent comeback: Nice ideas; now pay for them

Bushnomics: A boundless vision, alas

(コメント) 減税と戦争以外に,ブッシュに経済政策なんてあるの・・・? もちろん.グローバリゼーションに対抗したクリントン政権のナイスな発想は全部横取りし,保守派の価値観で染め上げます.「政府は困った人たちを助けるためにあるのだ」と言って,投票の買収を正当化します.政府の規模を際限なく増やしても,財政赤字を無視する,転換型の保守主義である,と.しかし,財政赤字を市場は無視しないから,必ず支払を求められる,と.


Argentina’s economy: Heading for a carve-up

Outsourcing to India: The latest in remote control

Asia’s auto industry: Motown in Thailand

(コメント) アルゼンチンの債務,インドのIT雇用,タイのピックアップ・トラック.世界の生産・投資・貿易・雇用は,さまざまな理由によって変化しています.比較優位も,国際資本移動も,必ず政府の意図を介して実現する以上,それを理解しなければなりません.


The risks ahead for the world economy

Fred Bergsten

(コメント) Bergstenの考える世界経済の国際共同管理に,概ね,私も賛成です.彼は世界経済にとっての5つの主要なリスクを指摘します.アメリカについては,@経常収支赤字の増加,A財政赤字の増大,B保護主義の危険.そして新しい「成長のエンジン」となった中国について,C過熱からのハード・ランディング.最後に,D石油価格の高騰,です.

Bergstenは,これらのリスクが互いに影響しあうことを重視します.例えば,石油危機はアメリカの財政赤字を増やし,インフレと金利引上げをもたらすでしょう.あるいは,(経常収支赤字による)ドル暴落が石油価格の高騰を招き,財政赤字は貿易赤字と保護主義を引き寄せます.保護主義の懸念はドル暴落に繋がります.

最も危険なリスクはアメリカの経常収支赤字です.なぜなら,今やアメリカの商品輸入は輸出の二倍に達しており,その悪化を防ぐためだけでも輸出が輸入の二倍で増加しなければなりません.それは,かつて1985−87年にドルが大幅に減価したとき以外は,実現されたことが無いのです.また,アメリカの成長は他の主要市場よりも速く,アメリカの膨大な対外債務が,特に金利上昇時に,対外支払を増やします.

Bergstenの説明はどれも興味深いですが,その打開策に一層興味を持ちました.彼が提案する対策は,当然,まずアメリカが指導力を示して財政赤字を減らし,今後4年間で次期政権が赤字を維持可能な水準に戻すことです.その上で,1).石油価格はカルテルによって市場で決まるよりも高く維持されている,と批判します.このカルテルを打破するため,消費国が石油備蓄を使って,約20ドルという石油の適正価格に(十分な変動幅を設けて)安定化のために介入するべきだ,と主張します.それによって世界の成長は加速し,雇用が増えるだけでなく,産油国も将来の価格暴落を回避し,経済の多様化に取り組めます.

また,2).中国は人民元を20〜25%の幅で切下げるべきだ,と主張します.中国の金融システムが問題を抱えている状態で,IMFやAPECが求める弾力化を急ぐのは間違っており,アジア諸国の為替レート調整も合わせて「アジア版プラザ合意」を結ぶのが有益だろう,と主張します.そして人民元切上げは,アメリカの対外赤字に集約される世界的不均衡を調整するだけでなく,中国経済の諸問題も解決する,と言います.すなわち,景気過熱を抑え,輸入価格を下げて(不況によらず)インフレを抑え,投機的な資本流入を抑えます.

ここには,日本が成長を加速して円高やアジアの調整コストを吸収せよ,と言及するだけで,日本政府や日銀をほとんど重視していません.もしBergstenを嫌う日本人が多いとすれば,アメリカの利益に合わせた,こうした「現金な」態度が原因かもしれません.