IPEの果樹園2004

今週のReview

7/19-7/24

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら? +1

1.   マレー帝国の再興 :人口と民主主義と成長から予想されるアジアの将来に,こんなシナリオも考えたことはありますか?

2.   アジア通貨基金は要らない! :何度も形を変えて現れるアジア通貨基金(AMF)の幻想によって,アジアが救われることはない.

3.   ユダヤ人の築く壁 :ユダヤ人の隔離壁は,テロリストへの自衛策か,人権蹂躙か? 経済制裁と国際介入を求める声をアメリカ政府は聞くでしょうか? テロより貿易!

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT July 7, 2004

Kerry's Blue-Collar Bet

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) スーダンのDarfurでは,毎月1万人が死んでも,それを「虐殺genocide」とは呼ばない.なぜか? 国際政治が関心や利害を示さないからです.ある意味では,政治は争点を競うのです.大統領選挙では,スーダンの虐殺も,イラク戦争も,財政赤字も,アメリカの景気も,イランや北朝鮮の核問題も,争点になる可能性があります.そして,何が争点となるかによって,ブッシュやケリーの評価は変わるでしょう.エドワーズを副大統領候補に選んだことで,ケリーは争点を奪う力,争点による評価を選択したわけです.

東部のエリートから労働者の苦しみに関心を移すこと.リベラルや宗教を争点から外し,南部の批判票を抑えること.テキサスの牧場主でしかないブッシュを,ポピュリズムに依拠した弁舌で圧倒すること.

NYT July 7, 2004

Body Politic Will Reject 'Charisma Transplant'

By WILLIAM SAFIRE

(コメント) SAFIREは,この選択が失敗だった,と考えます.もしケリーが,選挙戦で勝利するために自分にかけている要素は,大衆の心を掴む「カリスマ性」だと思うなら,若々しいエネルギーに充ちたEdwardsを指名しても,自分にカリスマ性を移植できるわけでは無いと知るべきです.ブッシュは2000年の選挙で,特に外交政策で経験や知識が不足していることを補うために,チェイニーを指名しました.Edwardsではなく,ゲッパードを指名しておけば,ケリーは政府を動かす上で多くのメリットを得たでしょう.しかし,Edwardsの雄弁さをもってしても,選挙の勝敗を決める勢力の均衡した州を奪うことにはならず,また,億万長者のケリーもEdwardsも,「二つのアメリカ」や「持たざるアメリカ」,「階級問題」を強調して勝利するまでには及ばないでしょう.

WP Wednesday, July 7, 2004

The Best Choice

By E. J. Dionne Jr.

BG July 8, 2004

Edwards's glaring weakness

By Jeff Jacoby

WP Thursday, July 8, 2004

The Left, At a Loss In Kansas

By George F. Will

(コメント) Edwardsが選ばれたのは,かつてリップマンの指摘した,アメリカの基本的な価値観「公平さ」と「実績」を体現したからです.しかし,所詮,ケリーは,ゲッパードよりも御しやすく,忠誠を誓う家来として計算したのでしょうか? ケリーとEdwardsが候補者選挙で互いを非難したように,その弱点は明らかであり,二人が一緒になっても,弱点が消えるわけではありません.上院に4年いただけで何が分かるのか? 素人をホワイト・ハウスで研修させている暇は無い.保護主義を主張してケリーを攻撃したことを忘れたのか? Edwardsは,核兵器を確信したからフセインの追放を支持したし,民主的でない国家への援助を全廃するつもりだ,と主張して,ブッシュと同様にケリーを批判しました.

もし11月の大統領選挙が,彼らの希望するような「階級戦争」ではなく,「テロとの戦争」として争われるなら,彼らの矛盾した立場は致命的です.アメリカでは「左派」が勝利したためしはありません.その理由は,左派がしばしば物質的な・経済的な利害を強調して,脅迫と再分配を求めたことに対して,富者はさまざまな文化戦争を持ち出したからです.政府は,要するに,産業革命期の激しい貧困や景気循環を緩和することに成功した,というわけです.

WP Thursday, July 8, 2004

A Rising Star's Passion

By Richard Cohen

(コメント) Cohenは,クリントン夫妻と昼食をともにした際の記憶が,Edwards負債と重なる,と言います.クリントンもEdwardsも,ある感覚を備えていました.それは,適当な言葉をつかみ出す感覚です.Edwardsには,外交の経験などありません.それは,大統領になったブッシュやレーガンも同じです.しかし,昼食を摂りながら,Edwardsには他の者に無い情熱があると確信した,と言います.それは,彼を有名にした「二つのアメリカ」演説と同じ精神です.「ポピュリスト」と非難されたその演説が,多くの国民に注目されたのは,「社会的な不正義」に対する怒りを,もはやワシントンでは聞くことが無いほど明確に示したからです.

NYT July 9, 2004

Looking Beyond Charisma

By BOB HERBERT

(コメント) さて,副大統領候補の指名も終わったし,後は,彼らの妻の言葉やヘア・スタイルでも論評するか,というのが11月までの論評でしょうか? HERBERTは,副大統領たちに示された重要な違いを認めます.かつてチェイニーは雑誌のインタビューに答えています.大幅な減税で財政赤字を出すことは好ましい,と.なぜなら,それによって政府は窒息し,結局,(戦争する以外は)小さな政府を実現するから,と.他方,Edwardsは国民に訴えます.政府はすべての者に機会を拡大する義務がある,と.「子供たちが空腹で,体を温める服も無いことや,一日中働いても貧しいような暮らしに,われわれはノーと言おう.」

この選挙は,アメリカが今後,政府に何を求めるのか,それを決める重要な選挙です.


FT July 8 2004

Beware cost of failure in the Doha talks

By Peter Sutherland

(コメント) WTO前事務局長のSutherlandは,7月末までに,議題に関する事務局長の提案で合意できなければ,ドーハで始めた自由化交渉は確実に失敗するだろう,と警告します.多角的な自由化が世界中の経済主体にどれほど多くの利益を与えているか,政府は再考しなければなりません.アメリカが大統領に対する一括交渉権を与えなければ,世界の貿易交渉は進みません.農業分野の補助金を削減することや,サービス取引を自由化できなければどうなるか,国際的な貿易自由化の枠組みが失われれば,台頭する中国に対して各国が何を望むか,考えて欲しい,と訴えます.漸く実現した国際紛争処理機能は解体してしまいます.

いずれの国も妥協しなければ交渉できません.もしそれを拒むなら,その結果は交渉決裂であり,どの国にもそのコストを負担する容易など無いのです.


ST JULY 8, 2004 THU

Immigration is changing the face of suburban US

By William G. Holt III

FT Jul 11 2004

Lex: Immigration

(コメント) アメリカにおける移民の新しい可能性について紹介しています.深南部と呼ばれる,かつては移民など来なかったアトランタ郊外のDeKalb Countyを見れば,アメリカにとってグローバリゼーションとアウトソーシングがもたらす新しい可能性に気づく,と記事は主張します.

移民メキシコ,中国,ナイジェリア,ボスニア,などから来たたちが,アトランタを新しい故郷と呼び,都心の貧民窟ではなく,郊外に自分たちのコミュニティーを建設します.かつてはホワイト・カラー労働者たちの町であったところがアウトソーシングによって衰退し,次第に移民たちの手に入るようになったのです.しかも,彼らの企業設立や市場の拡大は地元経済界にも注目され,新しい利益を見出しています.南部諸都市の規制の少ない,労働組合の無い,インフラ・コストの安い,投資環境が好まれ,北部からの移転投資も増えています.彼らのビジネスが都市再開発の核となり,カナダやメキシコとの取引増加がNAFTAの影響を示しています.こうした投資や移民のダイナミズムを取り込めない町では,移民を貧しい職場に集中させて,市場としても無視しています.どちらが正しいアメリカの進む道か? というわけです.

日本について,FTは移民問題の論争を取り上げました.選挙の年に移民問題を議論することは冒険であるが,人口衰退の著しい日本は,ヨーロッパと同様に,フィリピンからの看護婦や女中・子守りを受け入れることで明らかに利益を受ける,と.安価な家内労働者を得ることで,日本の女性たちは世紀の職場へと進出し,より多くの所得から税金を負担する.日本人は,年金を支払う若者がますます減少する一方で,莫大な政府債務を支払わねばならないのです.とは言え,日本企業はますます生産拠点をアメリカや中国に移し,国内ではパート・タイムの雇用ばかり増やしています.政治家が移民労働者を議論する条件はますます厳しくなるわけです.


BG July 9, 2004

Much of world is more peaceful

By Jonathan Power

The Guardian, Friday July 9, 2004

Kerry would keep US troops in Iraq far longer than Bush

Jonathan Steele

(コメント) 大国間の平和,地域紛争の封じ込め,国際機関の再編・強化に成功したブッシュ政権に,誰も正しい評価を示していない,とPowerはヨーロッパ諸国やパウエルの国務省を批判します.他方,ケリーが大統領になれば,イラクからの早期撤退や国際平和を実現できる,などというのは幻想だ,とSteeleは考えます.


FT July 10 2004

Wall in breach

BG July 10, 2004

The ICJ ruling and Israel's fence

By Baruch Kimmerling

(コメント) ハーグの国際裁判所が,イスラエルの防御壁をパレスチナ人の人権に対する侵害により,撤去されるべきだ,と判断しました.しかし,いかなる実効性も期待できません.アメリカの拒否権が安保理による実力行使を妨げるからです.ブッシュ政権は,シャロン首相の示す最終的解決,ヨルダン川西岸支配を支持しているからです.

国際裁判所は,イスラエルの生存権・自衛権も認めました.しかし,防御壁の建設によって損なわれた住宅や余地に対する補償を命じただけで,その壁の位置については何も言いません.壁の建設が多くのパレスチナ人から職場や学校,病院を切り離したことに対して,何の説明もありません.少なくとも,国際的に認められた1967年以前の国境を越えるべきではないでしょう.

また判決は,防御壁が「自爆テロ」を減らした,とするイスラエルの主張を認めます.しかし,テロが減ったのはパレスチナ人の内部で自爆テロへの論争が起きていること,また,イスラエル政府がパレスチナ指導者の暗殺計画を進めたこと,と無関係ではありません.イスラエルの法廷が示した同様の補償やルート変更案は,イスラエル国民が訴訟に加わったから示されたものです.

防御壁を一時的な解決と考えるシャロンにとって,ガザ地区からの撤退は,ヨルダン川西岸を支配するための言い訳に過ぎません.ブッシュやブレアがそれを支持する限り,判決によっても壁がなくなることはありません.

The Guardian, Saturday July 10, 2004

The wall cannot work

(コメント) 壁がイスラエルの一時的な解決策であると思うのは間違いです.両民族の関係が個々まで悪化した以上,ある程度の分離も必要です.しかし,そのためには国際監視軍が介入する必要があります.さらに,長期的には,隔離は不可能です.イスラエルには多くのアラブ市民が居住しており,パレスチナ国家は経済的な繁栄をイスラエルとの取引によって得るしかなく,究極的な平和は和解によるしかないからです.

The Guardian, Monday July 12, 2004

The case for sanctions against Israel

Gerald Kaufman

(コメント) 野党の指導者であったシャロンが2000年9月にエルサレムのイスラム教徒の聖地を訪れて(挑発して)以来,第二次インティファーダが始まりました.それ以降,1000人以上のイスラエル人が死亡したのです.その死者の数はイスラエル建国後の最悪です.同じ時期に,3倍以上のパレスチナ人がイスラエルによって殺されました.

Kaufmanは,10億ドルが費やされ,失業者が急増し,イスラエルの下層階級を局激し,観光収入も激減したにもかかわらず,壁でテロは防げない,と断言します.国際法も国連安保理も,アメリカの反対によって無力であるならば,残る手段はイスラエルに対する経済制裁と武器禁輸である,と言います.それは1971年に南アフリカ政府に対して行われ,その理由となった占領地域は今やナミビアとして独立しています.また,より原則を重視した父のブッシュ大統領は,右派のシャミル首相をマドリードでの和平会談に出席させるため制裁を用い,ロシアからのイスラエル移民を受け入れる入植援助金100億ドルを止めました.

一つの可能性は,下院の国際開発委員会が,ヨーロッパとの通商協定に,イスラエルが国際法と安保理決議に従うことを条件として付ける,というものです.通商政策はイスラエルに圧力をかける重要なメカニズムであり,人権無視を理由に貿易を制限できる,と指摘しています.アメリカが主要な武器供給国であり,ドイツもそれに含まれている以上,制裁を真剣に検討するべきです.


NYT July 13, 2004

Why Israel Needs a Fence

By BENJAMIN NETANYAHU

先週,国際裁判所はヨルダン川西岸のイスラエルの壁を非合法とみなし,イスラエル市民を殺害するテロリストたちを喜ばせた.しかし,その判決が治安フェンスを攻撃する議論に有利な点は何も無い.

第一に,イスラエルは国際法に照らして「パレスチナの土地」と正当に認められうる領域にはフェンスを建設していない.フェンスは,ヨルダンが一度も国際的に承認されたことがない占領を行っていた地域を,1967年の戦争で,イスラエルが勝ち取った地域に建てられている.イスラエルとパレスチナはともにこの土地の所有権を主張しており,安保理決議242号に拠れば,この紛争はイスラエルに安全保障と国境とを認める和平交渉によって解決される.

第二に,フェンスは恒久的な政治的境界線ではなく,治安のための一時的な壁である.フェンスはいつでも移動できる.最近も,パレスチナ人の日常生活を容易にするために,イスラエルは12マイルもフェンスを撤去した.先月は,イスラエルの最高裁が20マイル以上も撤去するように政府に命じた.実際,多くの者がフェンスを築く位置として主張する,1967年戦争の前にイスラエルとアラブ諸侯との間に存在した境界線は,治安と何の関係も無く,全く政治的なものだ.治安に依拠した,本来の境界線は,できるだけ多くのユダヤ人を含み,できるだけ少ししかパレスチナ人を含まないものである.

それがまさにイスラエルの建てた治安のためのフェンスだ.西岸の12%以下で,フェンスはユダヤ人の80%を含み,紛争領域に住むパレスチナ人のたった1%しか含まない.パレスチナ人の町からイスラエルの主要な人口集中地へテロリストが近づくことを阻止するものである.

第三に,フェンスはテロに対して非常に効果的であることが証明された.多くの自爆テロが行われたが,ハマスやイスラム聖戦機構の本部があるガザ地区からは,たった一つしか行われていない.それはガザ地区がフェンスに囲まれているからだ.完成していなくても,西岸の治安のための壁は既に劇的に自爆テロを減らした.

平和を邪魔しているのは,フェンスではなく,パレスチナ人の指導者たちだ.エジプトのサダトやヨルダンのフセインち違い,彼らはテロを放棄せず,イスラエルの破壊を目標にしている.平和を約束する将来のパレスチナ人指導者とイスラエルが妥協に達し,フェンスを調整するには,それらが変わる必要がある.もし平和が本物であり,永久に続くのであれば,フェンスなど全く必要ない.

パレスチナ人のテロリストや,彼らを送り込んだ者たちを裁くこともなく,国連が支持する国際裁判所はユダヤ人を被告とし,イスラエルがパレスチナ人の生活の質を損なったと責める.しかし,命を救うことの方が,生活の質よりも重要である.生活の質は改善できるが,死は永久である.パレスチナ人はフェンスのせいで子供が学校に遅れると言うが,われわれの子供の多くは,テロリストに粉々に吹き飛ばされるのを恐れて,決して学校に行けない.

この4年間,パレスチナのテロリストはイスラエルのバスや,カフェや,ディスコ,ピザ店を攻撃し,1000人以上を殺した.この前例の無い野蛮さを無視して,裁判所の60ページにわたる意見はたった二度しかテロリストに触れていない.イスラエルの自衛権の主張を冷笑する裁判所を,イスラエル政府は無視する.イスラエルは,根拠の無い「国際的正義」のために,ユダヤ人の命をささげることは決してない.


NYT July 10, 2004

New Trade Pacts Betray the Poorest Partners

By JOSEPH E. STIGLITZ

FT July 13 2004

Martin Wolf: The need for intelligent discrimination

By Martin Wolf

(コメント) アメリカが次々に小国との二国間通商協定を増やしていることについて,STIGLITZは批判します.例えば,モロッコやチリです.二国間の合意は,経済的合理性よりも,特殊利益に支配される,と考えるからです.それは貧しい諸国の発展に役立ちません.

例えば,モロッコとの協定で彼らが一番心配しているのは,エイズの治療薬が安価に手に入りにくくなることです.アメリカとの交渉は,特許の有効期間を20年から30年に延ばすことで,製薬業界の特殊な利益に配慮したわけです.その姿勢は,世界的にエイズ撲滅を訴えるブッシュ政権の見解と矛盾しています.

また,チリとの通商協定では,チリ政府が投機的な資本移動,ホット・マネーを規制する能力を,アメリカは制限しようとした.チリ政府は,こうした資本移動が成長にとってマイナスであり,課税することで抑制したい,と考えたのです.これによってチリは1990年代のラテン・アメリカの通貨・金融危機を免れ,高い成長を遂げました.今ではIMFも資本移動の不安定性が成長を損なうことを認めています.

アメリカ政府は通商条約を世界秩序の重要な梃子と考えています.しかし,経済的な利益を約束した貿易自由化が,NAFTAの後でメキシコの賃金が下がったり,エイズ薬が値上がりしたり,投機的な資本移動が加速して,自由化反対の意見を強めることも多いのです.

Wolfは,ドーハ・ラウンドの崩壊が今月末に迫る中でも,Stiglitz and Andrew Charltonのように,低開発諸国に開発のための差別的譲許を認めません.彼らは次のように主張しました.「低開発諸国のすべてが,それぞれに差別的な,特別な扱いが必要である.なぜなら彼らは過去において不利益を被っており,現状において異なっているから.それゆえ互恵的,無差別の原則を離れて, ・・・過去の不利益を償い,彼らの開発を促すような,開発諸国の側からの一方的譲歩を行うべきだ.」

しかしWolfは,@もしこの世界が完璧であれば,多くの者(それでも全員ではない)が賛成するだろう,AWTOは開発援助機関では無い.自由な世界経済を目標としている.B自由化は低開発諸国の不利益では無い.実際,低開発諸国が互いに保護主義を強めており,自由化によって大きな利益を受けるのは彼らである.C150カ国の代表が一つの結論に達する交渉は複雑すぎる.実際,貿易交渉で重要な低開発地域とは,より限定的な諸国(中国,メキシコ,ロシア,マレーシア,タイ,ブラジル,インドネシア,インド,トルコ,フィリピン,南アフリカ,イラン,アルゼンチン,ヴェトナム)である.他方,その他の貧しい小国に対しては,たいした問題も無く譲歩が行えるだろう.

すなわち,Wolfによれば,必要なのは譲歩的な合意ではなく,自由化交渉において,発展途上諸国を分けることである.WTOは,参加国すべてに適応される普遍的なルールでは機能しない.そのような参加やルールは,もはや開発諸国を制約するだけではないのだから,と.


NYT July 10, 2004

U.S. Investigative Journalist Is Shot to Death in Russia

By C. J. CHIVERS and SOPHIA KISHKOVSKY

NYT July 9, 2004

Depositors' Jitters Increasing as Some Russian Banks Close

By ERIN E. ARVEDLUND

NYT July 13, 2004

Journalists' Deaths Make It Harder to Excuse Putin's Excesses

By SERGE SCHMEMANN

(コメント) プーチンのロシアが,投資家だけでなく,ジャーナリストにとっても,世界でもっとも危険な土地の一つであることは確かです.ロシアの資産家100名を特集したり,チェチェンの残虐行為を告発したりすれば,ジャーナリスト自身が命を狙われます.


FT July 12 2004

Europe faces a rise in welfare migration

By Hans-Werner Sinn

(コメント) ヨーロッパでは,良い移民ではなく,悪い移民が増えると予想されます.良い移民とは,地域間の生産性や賃金の格差による移民です.他方,悪い移民とは,社会保障の格差による移民です.前者は,たとえば,ドイツの移民法改正で認められるようになった高度な熟練労働者・技術者の移民であり,後者は,ヨーロッパ憲章が促すものです.

悪い移民の例としては,一つは,豊かな者から貧しい者への再分配を増やす移民です.もう一つは,移民の流入がその国の労働者を社会保障制度からクラウド・アウトさせてしまう(締め出す)場合です.EUは,失業手当や社会福祉により,賃金水準を引き上げて失業を増やしています.それはまた移民の雇用を増やし,移民流入も促します.これに対して,ますます低賃金の職場を移民と争うのを嫌う自国の労働者たちは,職場を諦め,社会保障制度の給付に依存します.

さらに,第三のタイプは,非労働力人口が社会保障制度を比較して国際移動することです.EU市民であれば,どの国にも5年まで居住できます.その後は,完全な市民権と社会保障が与えられます.現在,ドイツの賃金は貧しい加盟諸国の7倍であり,4人家族への支給額も3倍から4倍あります.しかもドイツやオーストリアは,労働者の移民を2010年まで規制することを認められました.それゆえ,労働者の移民は妨げられ,非労働人口の移動だけが自由になるのです.

こうした誤りを避けようとすれば,ヨーロッパ憲章を否決するしかありません.


FT July 12 2004

John Gapper: A health warning on hedge funds

By John Gapper

NYT July 14, 2004

S.E.C. Proposes New Oversight on Hedge Funds

By PETER S. GREEN

(コメント) FTによれば,ヘッジ・ファンドが仲間内のボーナスを競ってインサイダー取引を行い,金融システム全体を巨大なリスクにさらしている,という想像は現実のようです.LTCMによる危機の後,主要な銀行は危険な取引から撤退しましたが,それによって高収益の上げるトレーダーたちが独立する傾向を強めました.しかも,市場が回復して,自ら積極的な株式などの売買で収益を高める投資銀行は,こうしたヘッジ・ファンドを利用して資金を活用するようになります.ヘッジ・ファンドと投資銀行,商業銀行のスタッフが,互いに同じデスクで働いた仲間であるような場合,彼らが情報を共有し,互いの判断や行動パターンを予測できることから,インサイダーの誘惑も,市場変化に対する急激な転換のリスクも,ともに高めることは明白です.

またNYTによれば,アメリカには約6000のヘッジ・ファンドがあり,8500億ドル以上の資産を管理しています.アメリカの主要金融機関がヘッジ・ファンドに投資しており,高度なレバレッジによって,はるかに巨額の取引を行っています.その相互に結び付いた取引が失敗すれば,アメリカの主要金融機関まで破綻するでしょう.アメリカの証券取引委員会SECがヘッジ・ファンド規制を強化するのは,こうした事情を意識したものです.しかし,委員の間でも意見が一致しません.不当に業界を規制し,成長の可能性を損なう,という反対意見もあります.

主として裕福な個人の資産を,価格変動の激しい商品で運用し,リスクも高いが莫大な報酬も得られることを前提として,ヘッジ・ファンドは成り立っています.しかし,1998年にLTCMは,そのときまで高い収益を上げていましたが,ある種の金融手段の価格が収斂する傾向にあると予想して資産を運用していました.しかし,価格が収斂する前に,LTCMの資金が枯渇し,ウォール街の主要銀行を含む顧客は,一晩で,何十億ドルも失う危険と直面します.結局,ニュー・ヨーク連銀のマクドノー総裁が主要関係者を彼のオフィスに集め,2日間に及ぶ話し合いを開いて,LTCMへ36億5000万ドルの追加融資を行うことで銀行家たちは合意し,破綻を回避しました.

金融市場の世界的統合化を賞賛する声と切り離せない,深刻な現実です.


FT July 12 2004

Fed should go easy on interest rates

By Brad DeLong

(コメント) こんな風に読みました.金融政策は慎重に,とDeLongは言います.なぜなら,債券価格も住宅価格も上昇しすぎたことで,少しの金利引上げでも,一気に急落する危険があるからです.バブル破綻後のデフレや9・11によるショックを吸収するために,金融緩和が行き過ぎたわけです.消費が住宅価格の値上がりに依存し,債務が変動金利によって調整されるから,金利の引き上げは強い効果を発揮します.また,外国の投資家たちはアメリカの証券を大量に保有しており,金利の引き上げは同時にドル価値を下落させるかも知れず,国際的な均衡化が大幅なドルの下落を求めるかもしれません.こうした「脆弱性」を内包しているからこそ,金融政策は慎重になります.もし企業が利潤から投資を拡大し,財政状態も健全さを回復するなら,長期的にも金利は低くなるでしょう.債券価格は高くなるのです.他方,まだ多くの失業者が雇用の増大を待っています.

もしこうしたジグソー・パズルを解きたくないのであれば,ブッシュ政権の無責任な財政政策を止めさせることだ,と.


FT July 12 2004

Asia does not need its own fund

By Enzo Grilli

アジア通貨基金(AMF)を求める声は,周期的に,形を変えて現れる.再び現れた計画では,アジアに蓄積された莫大な外貨準備が焦点だ.それは幾つかの重要な国が為替レートを細かく管理したことの直接の結果である.アジアの外貨準備は2000年の7000億ドルから現在の1兆4000億ドルに増え,過剰な融資と潜在的な過剰投資を生み出している.アジア開発銀行は,最近,こうした無制限な外貨蓄積が「新しいアジア金融危機の条件になる」と警告した.

現在,しばしば述べられる考えは,この資源を利用して地域的な「危機防衛ファンド」を作るというものだ.多くのアジア諸国が,引き続き,低金利と過小評価された通貨価値で,輸出指向型の投資と成長を求めている.だから,為替レート制度はより脆弱さを抑え,アメリカとヨーロッパが支配するIMFへの依存を減らすべきだ,というわけだ.

AMFの提唱者は,その目的を明確に説明しなければならない.そうでなければ,AMFはご都合主義の,余分なものになるだろう.なぜなら,同じ機能で,同じ諸国が利用できる世界的なファンドが,すでにIMFとして存在するのだから.IMFの中で,アジアはその外貨準備の一部を使って資本(クォータ)を増やし,重みを示すことができるだろう.

AMFの強い根拠は,アジアの為替レート制度を安定化することであろう.このことは,アジアにおける為替レートが,何らかの形で,固定される,もしくは固定され続けることを仮定する.しかし,十分に強固な固定制は地域的な通貨統合に等しい.アジアでそのような体制を形成するとは,二国間の為替レートの固定化が広まり,日本,中国,韓国,インドのような主要国が貨幣的な主権を譲歩することを意味するが,それは容易に受け入れられないだろう.ヨーロッパでは,長期的な政治的に描かれたグランド・デザインがあって,貿易の統合から30年以上をかけて為替レートを統合できた.アジアには,そのような政治的統合化の伝統も無く,その制度や政治体制,経済発展が国毎に大きく異なっている.貿易統合でさえ,東南アジアと日本,中国を一つの地域と見なさない限り,ヨーロッパの水準には遠く及ばない.

よりソフトな為替レートの固定化は,資本移動の自由化を後退させる必要があり,それはこの地域の新興経済が引き続き資本や技術を必要としている以上,可能では無い.それゆえ,ハード・ペッグもソフト・ペッグも,アジアにとって特に好ましいものではない.

AMFのより限定的な根拠は,危機を防ぐことである.その主張に拠れば,国際貿易は近隣諸国間でもっとも深化する傾向があり,為替レートに重大な影響を及ぼす金融的混乱は地域にとって非常に有害である.だからそのような危機を防ぐために追加的な措置を取ることは重要である,と.また人によっては,それでも危機が避けられないから,地域的な救済融資制度を提唱する.その根拠は容易に追加される.IMFは余りに厳格で,資金不足であり,加盟国に必要な融資を行うとき黙ってしまう.だからIMFに頼るだけでは思慮が足りない.危機回避のために,利用されていない外貨準備をプールしよう.利用可能な余った準備を共通の望ましい手段として使用するのは理にかなう.

しかし,金融危機は為替レート制度の選択と独立に起きるのではない.事実,1990年代の多くの危機がそのような選択に決定的に依存していたことが示されている.管理された為替レートは不安定性を増すだろう.なぜなら,それが投資家たちに慎重さを欠いた行動へ向かわせるから.硬直的な為替レート制度は,それが,地域的なレベルで信認された通貨的枠組みに支援されているか,ユーロ圏のように国家レベルの通貨政策を放棄するものでない限り,より大きな危機に至る.どちらの選択肢も容易では無い.前者は政治的に達成が難しいだろうし,後者は,アルゼンチンや香港が示すように,大きなコストをともなう.

より限定された通貨制度は,より達成が容易で,実際的であるが,おそらく効果も無い.世界的な融資枠に使えない地域的な融資枠制度は,合理的で効果的な政策協調に従わないけれど,ほとんど機能しないだろう.それは余りにも小額で危機の抑制にならないか,規模が大きくなれば政治的な条件が強くなって,よりソフトな選択肢に止まるだろう.

アジアが全体として安定性と成長を実現するため,ただちに必要なことは,日本や中国のような国が行っている巨額の為替介入を止めるか,少なくとも減らし,マクロ経済政策のスタンスを改善することである.外国為替市場への介入を減らす結果として,金融政策を引き締めることで,中国の持続不可能なインフレ的成長を冷却し,また日本の景気回復をより持続的なものにする見通しが得られる.こうした政策転換によって,一国の,また地域的な危機が起きる可能性は減るだろう.またアジア諸国はIMFの内部でそのクォータを増やし,より重要な地位を得ることもできる.


IHT Monday, July 12, 2004

Tanzania's approach: A better way to help the least developed countries

Benjamin William Mkapa(president of the United Republic of Tanzania)

(コメント) 国連が2000年に決めたミレニアム開発目標は,地域の条件に配慮した各国の政策が結び付いた,世界的な協約によって達成されるでしょう.それは援助や貿易だけでは達成できません.良い統治だけでも無理です.ローカルなコミュニティーが直接に参加するとき,何かが起きるのです.Mkapaはタンザニアが基礎教育を拡大する計画で大きな成果をあげた例から,三つの条件を主張します.@政治的意志,A参加型民主主義,B外部環境,です.


NYT July 12, 2004

Online Battle of Low-Cost Books

By BOB TEDESCHI

(コメント) アマゾン・コムは書籍のナップスターになるのか? と記事は問います.特に著作権料も支払わない1ドル以下の古本を介して.日本でなら,私も愛用する,ブックオフの100円コーナーですね.

レコードや自動車とどう違うのか? 大学のテキストや洋服のように,中古の価値を下げる頻繁な流行の変化を最新版に明示するのか? あるいは,自動車もWindowsも,意味の無い瑣末な変化を,次第に消費者に見破られ,中古市場が明確な審査基準を確立するのか?


IHT Tuesday, July 13, 2004

Philip Bowring: When the Malays cast their votes

Philip Bowring

(コメント) こんな論説は見たことが無かったです.東南アジアにはマレー帝国が台頭しつつある,というわけです.人口3億のマレー人が,マレーシア,インドネシア,フィリピンにおいて,一斉に民主的な選挙による政権交代を成功させました.それは,ロシアの人口衰退が南下政策を放棄させたように,人口抑制に成功した中国の勢力拡大を阻止するでしょう.もちろんマレー人には宗教上の違いがあり,政策を協調させ,統合化を進める過程をまだ具体的に描けません.しかし,アジアの市場統合が進むとき,この伝統的な文化と言語を共有する東南アジア世界が再興する可能性を,われわれも想像しておくべきでしょう.


ST JULY 13, 2004 TUE

Counter terrorism with more trade ties

By Edward Gresser

(コメント) 戦争によって支配するより,互いに貿易拡大において競争し,富と雇用を増やす方が平和と繁栄を持続できる,としばしば教えられます.テロリストについても同じことです.テロとの戦争や先制攻撃,囚人への虐待,人権無視,拷問,スパイや分離壁に腐心するより,貿易を自由化して雇用を増やし,経済的繁栄を分かち合えれば,宗教的な過激派に人々は関心を持たず,テロリストたちも政治的支持を失うでしょう.

しかし,実際は,2001年にパキスタンの通商大臣Abdul Razak Dawoodが,「自由で,民主的なパキスタン」をもたらす,より多くの「雇用」のために,アメリカに求めた繊維製品の免税措置は拒否されました.それから3年経っても,アメリカはパキスタンのベッド・シーツやセーターの輸入に対して,日本やヨーロッパからの半導体や自動車に課す関税の5倍から10倍も高い関税を取ります.こうして,北アフリカからバングラデシュまで,7億人の人口を擁する約30カ国が経済の衰退に苦しんでいます.

イスラム諸国は,あたかも「脱グローバリゼーション」の実験を試みているようだ,とGresserは言います.世界の主要地域が自由貿易と直接投資で成長を遂げる中,イスラム圏の中核地域では今も高率の関税を課して貿易を抑圧し,全体の直接投資流入額はアジアの小国にも及びません.

そのような政策は,決してイスラム圏の宿命ではなく,ヨーロッパのイスラム教諸国はEU加盟のために自由化と民主化を加速しましたし,改革派のアラブ諸国に対する国際的な支援が行われています.EUの農業保護やアメリカのFTAは,イスラム圏との貿易に対して差別的であり,自由化を進めるべきです.その意味で,ブッシュ大統領の提唱するアメリカ・中東自由貿易権構想よりも,ケリー氏の主張するアラブ地域内の関税自由化計画,の方が包括的であり,好ましい,と考えます.

言い換えれば,アメリカは中東とNAFTAを組むのか? それとも中東にもEUを促すのか?


FT July 14 2004

The case for wise liberal imperial rule

By Max Boot(a senior fellow at the Council on Foreign Relations)

(コメント) たとえイラクの占領がどのような形に終わるとしても,長期的には世界に破綻国家や紛争地域がなくなるはずはないので,アメリカが国際介入する必要は高まります.アメリカが「どうしようもない」と無視したくても,たとえば,スーダンでの虐殺を止めるために国際介入が必要なら,アメリカが軍隊を派遣することになるのです.

イラクにおけるブレマーの失敗は,その仕事を植民地の総督府と同じように考えたことでした.彼は自分のスポークスマンにだけ焦点を集め,どのような失敗でもイラク人ばかりを責めました.それはインドを1898-1905年に支配したLord Curzonと同じです.しかし,ナショナリズムの勃興とヨーロッパ帝国の衰退により,こうしたスタイルは機能しなくなったのです.

イギリスは,その帝国の各地を支配するために,さまざまな適応を試みました.1879年に国際的な債務の返済を続けるように,フランスと協力して,イギリスがエジプトを支配するようになってから,特に,1883-1907年にエジプトを統治したLord Cromerは穏健な手法を駆使しました.それは「ヴェールに包まれた保護領」と呼ばれます.1882年のナショナリストの叛乱以後,イギリスはエジプトを公式の保護領とせず,オスマン帝国の支配を維持して反発を抑えました.1922年に立憲君主制に移行してからも,同様に,その背後で政府を動かしました.

Bootは,これこそ「アメリカ帝国」の未来像だ,と推奨します.その方が植民地住民にとってもより満足できる,優れた統治を享受できるだろうから,と.あるいは,ボスニアのように,ヨーロッパ諸国と組んで保護領とするか? すなわち未来は,自由主義的帝国,利他的軍事介入,世界的民主化モデルの普及,世界貿易・金融システムの緊急安全装置,・・・?


July 15 (Bloomberg)

'70s Style Stagflation Is Possible in Asia

William Pesek Jr.

(コメント) アジアでスタグフレーションの話を聞くのは意外なことです.「まず1997-98年に暴落が起きた.それから,日本と中国がアジアにデフレを輸出した.そして今,アジアはもう一つの脅威に直面している.スタグフレーションだ.」と,Pesek Jr.は考えます.アジアではインフレが再現しながら,成長率を鈍化させているようです.それでもアジアの中央銀行は,インフレ抑制より,成長維持を重視しています.

そのために金利を低くし,通貨価値も低く維持します.ところが,その政策が世界的な金融緩和と競争して不動産や資産市場のバブルを生じ,1997-98年に破綻しました.資産市場が襲撃に縮小した反動で,中央銀行は通貨危機とインフレ抑制から,デフレ回避に関心を移しています.今も,インフレ再燃を無視して,成長鈍化に反応しています.

金融政策に加えて,もう一つのスタグフレーション要因は,賃金上昇と,中東の不安定化による石油価格の上昇です.アジア諸国は石油価格の上昇を,1970年代のアメリカと同じように,金融緩和で吸収しようとしています.その結果,通貨価値は下落し,インフレを高めます.モルガン・スタンレーのAndy Xieは,中国と韓国,台湾がスタグフレーションに陥る危険を指摘します.

もし,既にインドネシアで起きているように,成長率が鈍化する中でインフレ率がそれを越えるなら,生活水準は低下し,アジアへの直接投資も鈍化します.アジアの成長が,生産性上昇よりも低金利と為替レートの過小評価に依拠し始めれば,それはラテン・アメリカと似た状況です.

エコノミストたちは,それを「バブル・フィクス」と呼びます.資産市場の崩壊を金融緩和で吸収する試みだからです.それは同時に,構造調整を避けてしまいます.もちろん,もしアジアの健全な成長と,世界的なインフレ抑制が続けば,スタグフレーションを心配することは杞憂ですが.

アジアの中央銀行は,域内の供給過剰ばかりを心配し,インフレは世界の景気減速が解決してくれる,と思っています.しかし,もし中央銀行がリスク管理に主な関心を向けるべきなら,アジアはもっと金利を高くして,たとえ成長鈍化と域内の構造調整を強いても,中東地域の不安定化など,将来のリスクに備えるべきだ,とAndy Xieは考えます.インフレによる不況の回避は,1970年代のアメリカでそうであったように,結局,高くつく,というわけです.


ST JULY 15, 2004 THU

Japan in for real change?

FT July 15 2004

Banking on reform

NYT July 15, 2004

Laggard Japanese Bank Decides It's Merger Time

By TODD ZAUN

(コメント) 参院選挙における自民党の敗北と小泉首相への批判は,UFJの合併による金融再編とともに,日本の景気回復を持続可能にするかどうか,世界の関心を久しぶりに集めました.

まず注目されたのは,日本が漸く,長期政権と二大政党制を機能させる状態に近づいたことです.どのような政府も,短命であっては長期的課題に取り組まないでしょう.また,単一政党が長期的に支配できるなら,以前の失政を糾弾したり,抜本的な制度の変更したりはしません.その意味で,1990年代にアメリカ,フランス,イギリスで指導者が交代したのは一度しかなかったのに,日本では8回も交代させたことは,著しく愚かな政治でした.

では,UFJを三菱東京銀行が吸収することは日本の金融システムを改善するでしょうか? あるいは「王女がひきがえるにキスする」だけなのか? UFJの経営を一掃し,三菱東京銀行が不良債権処理と企業の整理を一気に進めることができるなら,金融庁と竹中大臣の圧力は効果的であったとか,リテール部門や成長分野で弱点を補強する戦略だと,シティグループや香港上海銀行の拡大に並ぶものと後から評価されるのでしょう.あるいは,官僚の描いた不良債権隠しの古い手だとか,金融機関や企業を潰したくない政治的な思惑が先行した「いじめ」だった,などと書かれるか.


FT July 15 2004

The Fund must stick to its mandate

By Jurgen Stark(vice-president of the Bundesbank)

(コメント) ドイツがIMF改革に求めるのは,限定的な役割への回帰,です.現代の国際金融秩序は二つの特徴で示されます.すなわち,@さまざまな為替レート制度.A資本移動の自由化,です.その結果,政策ミスと構造的な弱さも重なり,各地で危機が起きています.

Starkは,IMFが融資を増やすことで危機国への援助機関となってしまうことを嫌います.モラル・ハザード問題は重要です.危機の予防を,民間に代わってIMFが行うこともできません.むしろ,IMFは民間投資の触媒に過ぎない,と主張します.より円滑に市場が機能するように,貸手と借手の行動基準を模索します.リスクを十分に考慮した民間投資を促し,それが結局は安定した国際金融システムをもたらす,と.

それに比べて,G7が提唱している危機国への巨額の融資は間違いです.IMFはマクロ政策の監視に当り,一国においても,地域や世界レベルでも,金融安定化に努めます.その融資は短期に限定されねばなりません. ・・・その心は?


FT July 15 2004

A perfect time for China to unpeg its currency

By Arminio Fraga(a former governor of the Central Bank of Brazil)

(コメント) ブラジル中央銀行の元総裁Fragaは,中国が漸進的に変動レート制に移行することを進言します.なぜなら,中国はUSドルに為替レートを固定することで,金融政策や国際収支を政策的に管理する能力を失っているからです.バスケット・ペッグへの移行は,金融政策を自由にしません.特に国内景気の過熱が問題であるときには,変動レート制への移行が必要です.

しかし,その場合,中国には漸進的に移行する可能性があります.これまで多くの新興国が通貨危機を招いたのは,固定レートに減価圧力がかかる中で,変動レート制への移行を試みたからです.中国の場合,市場の増価圧力を徐々に解放するだけでよいのです.時間をかけて変動制を導入すれば,企業や銀行は為替リスクに応じた資源配分を実現できます.

その結果として,シンガポール型の目標を示さないバスケット・ペッグが採用されるでしょう.最初は変動幅を狭く取り,次第に拡大して,変動レートに移行します.数年をかけて実現できるでしょう.中国政府はこの機会を逃してはならない,と.

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The Economist, July 3rd 2004

Still taking on the world?

Lexington: Moore’s law

(コメント) The Economistはブッシュを大統領として支持しましたし,イラク戦争を支持しましたし,今回の大統領選挙でも支持します.それは編集部内でも激しい議論となったでしょう.しかし,編集長はブッシュ支持を選択しています.アメリカのブッシュ支持者や,ヨーロッパの反ブッシュよりも,それがThe Economistの論調を結果的に興味深いものにしています.

多くの者が,アメリカ人の中にも,ブッシュのもたらした国際的無秩序を批判する.しかし,ブッシュの傲慢さを非難するにしても,ブッシュが取り組んだ問題の多くは9・11以前から深刻化していた.彼がそれらを無視するより解決に向けて指導したことは,大げさに嘆くよりも,むしろ歓迎するべきではないのか? 行動のために同盟諸国のまとまりを解くより,それぞれが自国の安逸に執着した方が良かったのか? 確かに,その選択は高くついた.しかし,誰もアメリカが国際秩序に関心を持たなくなったらどうなるか,真剣に答えていない.ブッシュだけが問題を抱えているのではない.シラクも,シュレーダーも,ブレアも,それぞれが自国の問題を抱えている.指導者たちが退避すれば,その真空を埋める国際制度は無い.そして,外からブッシュを批判する者は,彼の11月の勝利に貢献するだけだ,と.

ムーアの強烈なブッシュ批判も,時間がたてば,ブッシュ支援になるかもしれません.アメリカのリベラル派は,ブッシュに粉砕され,制圧されてしまった状態に我慢ならなかったわけです.しかし,リベラルを蘇生するムーアの電撃ショックは,リベラルの政治的再生を助けないでしょう.世界の問題をアメリカ非難に使うのは,アメリカを統治したい民主党のテーマではないのです.


The Philippines: Democracy as showbiz

The Czech Republic

(コメント) フィリピンでも,チェコでも,民主的な選挙が機能するためには,さらに制度的な改良が必要です.大統領制,知名度,ポピュリズム,憲法改正,脱イデオロギー,市場改革,財政再建,出稼ぎ,・・・


Cotton in China: Soft landing?

(コメント) 中国の綿花市場は自由化によって価格変動が強まっています.政府は規制や介入を止めて,在庫を放出しています.石油価格上昇や国際競争の中では,綿織物業がコストの低下を必ずしも喜ばず,綿花栽培農家は価格の下落を嘆きます.銀行は耕作地や工場の拡大に過剰融資を行い,水害で価格が高騰した後,過剰供給で暴落しました.政府は綿花輸入を増やし,さらに商品先物市場を設けて,価格の安定化を促します.