IPEの果樹園2004
今週のReview
6/28-7/3
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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. クリントン自身が作る英雄伝説 :クリントン氏の超人気と,レーガン=クリントン後のアメリカ政治.
2. 中国のバブルと中央銀行 :中国にもバブルはある.中央銀行もある?
3. ヨーロッパ憲章のメカニズム :政府への脱皮.ただし,まだ非常に柔らかいので,要注意.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
WP Thursday, June 17, 2004
Growth vs. History
By David S. Broder
(コメント) 昨年の3月に,私は上海にも蘇州にも行きました.この記事は,蘇州の古都としての歴史的景観が産業開発によって失われてしまう,という問題を紹介しています.上海の開発が進んでコストが上昇した結果,周辺都市への直接投資が増えてきたのです.その際,歴史的景観や伝統的雇用は,巨額の開発利益に埋もれてしまうわけです.2500年の歴史も,「人類の世界遺産」というユネスコの評価も,直接投資や上海からの富の波及には逆らえないようです.
FT June 18 2004
Christopher Caldwell: Clinton still holds the stage
By Christopher Caldwell
(コメント) レーガンに注がれた関心,割かれた紙面,かかれた文字,そして誘発され,宣伝された国民感情の振幅が,そのまま今度はクリントンの自伝出版へと引き継がれました.その様子は,アメリカ大統領がもたらすメッセージやシンボル,啓示!の強烈さを教えてくれます.もちろん,これほど国民を分裂させ,世界を分裂されたブッシュ氏の政権であるからこそ,クリントンの時代が想像力を刺激するのでしょう.もしクリントンが大統領であったら,9・11以後の世界はどう変わっていただろうか? と.
モニカ・ルインスキーとのスキャンダルが再び注目され,拒否反応を示すアメリカ国民も多い反面,火曜日に出版される1000ページ以上のクリントン自伝には注文が殺到しています.ある意味で,人々がさまざまな悪習を断てないのと同じように,大衆は有名人や権力者の堕落した行為が大好きなのです.しかも,過去の政治家はノスタルジーによって心を支配します.カーターや初代のブッシュが退場した際の惨めさは,時とともに変わりました.しかし,レーガンやクリントンのその後の人気と,何がそれほど違うのでしょうか? 人々が何を記憶し,何を忘れてしまうのか,それをめぐって政治家たちは争います.
既に予約だけで200万部を超え,アマゾンのベストセラー・ブックで一位になりました.テレビ局やラジオ番組でも,クリントンを呼んで長時間の特別番組を流しています.ハリー・ポッターを押しのけて,クリントンの政敵たちを非難する映画が観衆を集めています.まさに,「すべての結婚式で花嫁になり,すべての葬儀で死体になったように」誰もがクリントンのことを話すわけです.(この素晴らしい表現は,セオドア・ルーズベルトの娘が父を表したものです.)
もちろん,早速,ブッシュ大統領はクリントンの偉大な業績を称え,ケリー氏はその外交政策を継承します.彼らはクリントンを利用しようとして,結局,彼の人気を煽っている始末です.
NYT JUNE 23, 2004 WED
A Matter of Faith
By DAVID BROOKS
(コメント) クリントンは8歳で教会に行き,10歳で信仰を得たと言います.アメリカの政治家は,右派と左派以外に,キリストへの信仰を持つ中道の多数派,という分類があるようです.そして,ケリーは,このままでは所詮,信仰の無い東部エリートのリベラルに過ぎません.つまり,クリントンのようには選挙に勝てない,というわけです.
「クリントンは理解していたようだが,民主党の多くの者は理解していない.政治家の信仰は,単に,人工中絶やゲイ・マリッジのような,もう一つのリトマス試験紙ではない.多くの人々は,彼らの指導者が,彼らと同じ,信者の仲間であると思いたいのだ.彼らの大統領は聖者である必要は無いが,巡礼者の一人でなければならない.彼も,自分たちと同じように,神を求めて個人的な航海を続けていることが重要なのだ.」
最近の世論調査では,ケリーに強い信念を感じるアメリカ人は,わずか7%しかいません.これは深刻です.人々は目覚めるときも,眠りにつくときも,神に祈り,そして,ケリーは自分たちの仲間ではない,と知るわけです.BROOKSは,信仰が,所得,教育,性別,その他,人種をのぞけば,どのような社会・経済指標よりも,投票行動に強く影響する,と述べています.民主主義や選挙にとって,多分,不幸なことです.
しかも記事は,民主党の支持者の中で,信仰の無い左派が影響を強めてきた傾向とそれを対比します.共和党内の右派と同じように,彼らも社会問題への関心が強いのです.特に,宗教的な原理主義者に強く反発します.伝統的な民主党支持者が政治家と大企業との結びつきを嫌ったのに対して,彼らは政治指導者が宗教的な儀式に関与するのを嫌います.
クリントンは,穏健な信仰を持つ多数派と民主党とを繋ぐことに成功しました.
The Guardian, Wednesday June 23, 2004
Clinton's real legacy? Disappointment
David Aaronovitch
(コメント) クリントンの自伝は,本を読まないから書棚が空っぽのアメリカ人に,ハリー・ポッターやヨハネ・パウロ2世の本と並んで,珍しく追加される本となった.こんな風に,Aaronovitchは書きます.今や,ブッシュ人気に陰りが見え始めた絶好のチャンスです.しかし,
「もっと厳格な人々の態度はそれほど陽気ではない.出版前に出た書評の一つで,NYTの批評家は,これ以上に酷い自伝があるとは思えない,と書いた.クリントンの自伝(My Life)は,クリントン政権の性質とそっくりだ,と.規律無く,機会を浪費し続けた.大きな期待を持たせて,わがままな,集中力を欠いた政府のために裏切られた.」
クリントンの自伝は,まさに彼がそうであったように,そうであって欲しいように,描かれています.この本が示すものは,クリントン自身がそうであったように,巨大な失望です.彼は,世界を再建する機会と,愚鈍な共和党員との間にあって,成果を出せなかった.
「彼が語るさまざまな思い出や,その長い演説,深夜までスタッフと政策立案を話し合う姿などは,生きることに対する途方も無い貪欲さを示している.クリントンは世界を食い尽くした.統計も,感情も,信仰も,ハンバーガーも,そして,もちろん女性も! 彼は愚かにも同じことを他人に求めた.彼の素晴らしい能力,たとえば,洞察力や知識,人々を結びつける親和力,などは,その悪名高い欠点と切り離せない.中東にほとんど完全な和平を実現したのはクリントンだけである.そして,インターンの女性のカクテル・ドレスに自分のDNA(を含む精液)を残したのも.」
ルインスキーのことを書くとき,クリントンが多用したのは,ローマ皇帝,マルクス・アウレリウスの省察でした.また,ギボンに従って指導者の資質を主張し,”lucubrate” 苦心して物を書く,という姿勢を強調します.しかし,事態が明るみに出て,共和党のギングリッチが支配する議会から猛烈な攻撃を受け,弾劾されるに及びました.彼は,子供のように,「悪魔」の誘惑に屈した,と言うだけです.クリントンは,問題を大きくしたルインスキーやDimblebyを嫌いました.女性とのセックスは,貧困や和平ほど重要ではない,と思ったはずです.しかし,レーガンはベルリンの壁を倒すようゴルバチョフに求めた偉大な大統領となり,クリントンは「ルインスキーと性的関係を持たなかった」という証言で記憶されるのです.
1998年の熱狂を生み出した批評家たちの絶叫は,今でも,アメリカを騒がせ,政治の舞台を変えています.マルクス・アウレリウスと同じように,クリントンにとっても,人生はダンスというよりレスリングなのです.
WP Wednesday, June 23, 2004
Clinton's Empty 'Life'
By Anne Applebaum
(コメント) クリントンはなぜ自伝を出版したのか? 彼は金に困っていない.ちょっと話すだけで数百万ドルを稼げるから.しかし,彼は書きたいのだ.それは,クリントンの伝説,を残したいから.実際,書店が開くまで,この本を買うために徹夜で行列したのは,特に政治的とは思えない普通の人々です.
もし政治的な関心で読むなら,この本は失望と,奇想天外な内容で充ちています.もちろん,政治家の自伝によくあるような退屈な本では無いけれど,ルインスキー事件について新しい情報は無いし,子供時代の思い出に集中しています.たとえば,689ページを開ければ,証券法の改革にも,共和党の予算案にも拒否権を発動し,7年間で予算を均衡化する法案を提出し,パレスチナに領土面で譲歩するようにシモン・ペレスと話あったこと,ボスニア内戦を終結させる協定,スロバダン・ミロシェヴィッチとの対決,そして「ナットクラッカー」に登場したチェルシー・クリントンの話が,たった5つのパラグラフで述べられます.他方,くだらないトリビアと,トリビアへの情緒的な反応について,多くの紙面が費やされます.たとえば,高校のクラスやフットボール・チームの話は6ページから29ページまで続きます.
政策を動かした「大きな考え」や反対派の主張などには関心が無く,自分は「歴史の正しい側にいる」という彼の確信があるだけです.
FT June 24 2004
Philip Stephens: The all-too-human president
By Philip Stephens
(コメント) 自伝が酷評されても,クリントンが街中の注目を集めるのは確実です.Stephensは,クリントンの知性,博学振りを,フランクリン・ルーズベルト以来と賞賛します.しかし,この人物はまた子供っぽさという悪魔を兼ね備えていました.ブッシュ氏の父に対する復讐戦(もしくはブッシュのジハード)にさらされ,ケネス・スターの捜査や弾劾裁判で名声を著しく損なわれたにもかかわらず,Stephensはクリントンを政治の世界に現れた逸材であると認めます.
その高い評価は,民主党がホワイト・ハウスを握る勝利の戦略を書き換えたことにあります.当時は,富裕層と野心家との間に共和党が強固な政治的同盟を築き,レーガンから父のブッシュに至る政治的覇権が揺るぎませんでした.クリントンは,細かい党派を繋ぐ「虹の同盟」という民主党の戦略では勝てない,と考えました.勝利のためには,左派はアメリカの中道派と結び付かねばならず,そのために福祉を給付ではなく成果基準にし,法と秩序に厳しい姿勢を採り,貧しいからではなく,激しい労働に対する減税を重視しました.万能の政府ではなく,行動的な政府を唱えたのです.また,政府は経済の運営に優れていなければならず,そのためには財政の均衡を公約の柱にしました.
こうして,彼の人柄とともに,保守層まで巻き込む,彼の選挙戦略が完成したのです.イギリスではブレアが,この「第三の道」を輸入しました.ルインスキーとの醜聞も,たとえ富と権力を得た中年男性が若い女性に執着し,それを隠すために嘘をついた例だとしても,特別検察官や大統領の弾劾裁判を起こすにふさわしい事例であった,とは考えないのです.他方,42代大統領クリントンは,政治論争の構図を変えた,秀逸な人物であった,と.
WP Thursday, June 24, 2004
Grand 'Oprah,' Poor History
By Richard Cohen
(コメント) 自伝の出版と記録的な売れ行きは,クリントン氏に更なる富をもたらすが,その名声をいくらか回復させただろうか? とCohenは懐疑的です.多くの書評が述べたように,この本の内容は失敗です.感傷的で,わがままな,ときにはまぶたが重くなるほど退屈な文章だ,という評価に同意します.
政治家の評価は,後世の政治学者たちを待つしかありません.確かにリチャード・ニクソンは,その行為によってホワイト・ハウスから完全に放逐されました.もちろん,そうあるべきです.しかし,彼自身がその後の著述によって示したように,ウォーター・ゲートの汚名を越えて,ゆっくりと,その一級の精神,分析力,知性を認められるようになりました.今では,ニクソンを軽視する者は誰も居ません.
クリントンのこの本は,大衆を魅了する彼の性質を示すとは言え,その一流の精神を示したとは言えません.そして大衆は,有名人たちが冒す猥褻で個人的な過ちが大好きなのです.クリントンの自伝は,出版会社を儲けさせましたが,彼自身の名声を再建するには至らないようです.
FT June 18 2004
Dangerous game
(コメント) 内陸の,人口希薄な中央アジアやアフガニスタンが,歴史上の「グレイト・ゲーム」(帝国間の争奪戦)を再現する危険が指摘されています.この地域に対して,タリバンを攻撃するためにアメリカが急速に関与を深めました.このことを警戒するロシアや中国も,次第に外交的・軍事的な関与を拡大しています.たとえば,これまで中身の無かった上海協力機構が,にわかに重視されます.それにはテロ対策に限らず,資源問題も含まれています.
しかし,問題は,ウズベキスタンのカリモフのような独裁者たちと協力することが,本当に,政治的安定や経済的繁栄をもたらすのか? という点です.それが主要国による援助や改革支援の競争であれば良いかもしれません.しかし,腐敗や軍事介入の危険もあるでしょう.
June 18 (Bloomberg)
`Gimmick Economics' Makes Comeback in Japan
William Pesek Jr.
FT Jun 24 2004
Lex: Japan
June 25 (Bloomberg)
Bank of Japan Is Expected to Leave Rates Alone
William Pesek Jr.
(コメント) Pesek Jr.は,日本政府が抜本改革をしない本質を変えられるか,不安を感じています.景気が良くなったのは,主に中国への輸出や民間企業の債務返済が進んだからであり,消費者が積極的にものを買うようになったわけではありません.しかし,少しでも回復すれば,政治家たちはすぐに苦しい改革を忘れ,目新しい,中身の無いアイデアをもてあそびます.それは,苦痛無しに構造改革が実現できる,と説く「ギミック(いかさま)経済学」です.
たとえば,2000年に導入された2000円紙幣です.それが人々の支出を刺激したでしょうか? 彼らは珍しいきれいなお札を引き出しにしまいこみました.また,アイドルを使って国債購入を宣伝するキャンペーンです.金融市場を改革することも無く,国債を国民により多く保有させるような政策が,いつまでも続くでしょうか? 小泉人気にあやかって,「小泉ボンド」を売ってはどうか? などと財務大臣が提唱します.100円を1円にデノミして,ドルと比較しやすくすれば,国際的な円資産の保有を促すことができる,などとも言われました.
しかし,せっかくの景気回復を規制緩和のチャンスとするより,政府は北朝鮮や年金改革の失敗を隠すのに精一杯です.競争力の無い大企業を破棄してでも,大胆な改革を実現できる指導者が現れるべきだ,と.
他方,日銀の政策も政府の赤字に縛られています.持続不可能なほどの国債を発行しておいて,政府・財務省は国債管理を日銀に押し付けます.IMFも日銀がデフレの完全な回避に全力を尽くすように求めています.しかし,その結果として,ますます安易な低利融資に企業は依存し,成長力を失って,将来のGDPを減らし,その190%に達する公債を返済できるはずが無い,と海外の投資家は不安になります.債務不履行やインフレ,資本逃避による円安さえ,懸念されています.
FTは三つのリスクを指摘します.1.日銀のゼロ金利を円滑に解除できるか? 2.デフレ解消による国債価格の暴落,政府の金利負担急増を回避できるか? 3.国際の累積を抑えるために,政府が増税を目指すのではないか?
BG June 18, 2004
The dogs of war
By Derrick Z. Jackson
(コメント) イラクの刑務所で囚人たちに対して犬を使って脅迫したことは,ラムズフェルドが辞任するのに十分な理由である,とJacksonは考えます.なぜなら,戦争の中で,これまで犬がどれほど醜悪な国家テロの道具になってきたか,彼らは知っているはずだからです.
ナチスは,犬による威嚇から,実際に生きたまま犬に食い殺させることまで,あらゆることをしました.グァンタナモで犬を使ってはいない,と政府は説明していました.しかし,アブ・グレイブでは犬を使って囚人を威嚇し,失禁させ,顔から数インチの近くで咆哮させていた,という証言が公表されています.巨大な噛み痕をつけた囚人も居るのです.
ナチスは「ユダヤ人と犬は立ち入り禁止」と表示し,1950年代のアメリカ南部では「黒人,ユダヤ人,犬はお断り」と表示されていました.ヴェトナムに行くことを拒否したムハマド・アリは,「なぜ軍服を着て,1000マイルも離れた土地に,爆弾を落とせと言うのか? ルイジアナではニグロと呼ばれた人たちが犬のように扱われているのに!」と答えました.
クー・クラックス・クラン(KKK)の元メンバーであるヴァージニア州のRobert Byrd上院議員は,この国を雑種の犬どもの土地にするくらいなら何千回死んでも良い,と言いました.イスラエルはパレスチナ人に犬をけしかけ,パレスチナ人はユダヤ人を犬どもと呼びます.
WP Friday, June 18, 2004
Time to Act on N. Korea
By Vaclav Havel
FT June 22 2004
Nuclear crisis over North Korea
BG June 24, 2004
North Korea dialogue
(コメント) チェコのHavel元大統領は,北朝鮮の独裁と抑圧体制が終わる必然性を訴えます.ナチスの犯罪も,ソ連も,ポルポトも,フセインも,中国の強制労働も,それを世界に伝える勇敢な者たちによって,遂には解体されました.北朝鮮も同じです.北朝鮮は調査隊の入国を拒み,中国は国際条約を無視して避難民を阻止し,韓国でさえ「陽光政策」という宥和重視の姿勢から避難民の問題を軽視しています.しかし,人間の権利を無視した政治体制は必ず崩壊します.そのことを,世界の民主主義諸国は団結して示さなければなりません.断固とした,強い交渉姿勢だけが,こうした独裁者たちを敗退させる,とHavelは主張します.
FTは,アメリカ政府の交渉姿勢を批判します.最終目的が朝鮮半島の非核化であると認めれば,それに至る条件を交渉するべきだ,と.たとえブッシュ氏が選挙の年でも,それは完全なものではないが,統一した行動から中国を離反させ,北東アジアの同盟諸国を分裂させ,北朝鮮の核兵器やミサイルを開発する技術者により多くの時間を与えるより好ましい,と.
実際,6カ国協議の結果,一歩一歩,条件を交渉するという国務省の考え方が採用されました.かつて,東ヨーロッパに中距離ミサイルを配備する計画がヨーロッパの自立化を加速させたように,東アジアの安全保障が自立化する過程も始まったように思います.
WP Saturday, June 19, 2004
Jobs and Mr. Kerry
FT June 20 2004
World's manufacturers march into China
By Peter Marsh
June 21 (Bloomberg)
Kerry's Blame China Plan Is a Dud
William Pesek Jr.
(コメント) 「アウトソーシング」に関する論争が,民主党の候補指名争いでは主要な関心を占めていました.しかし,今では小さな話題です.統計が雇用の回復を示しているからです.ケリー氏は雇用の数より賃金が問題だ,と切り替えましたが,労働市場の反応が低賃金雇用から始まるのは正常です.大統領がブッシュでもケリーでも,それは変わらないでしょう.WPは,ケリー氏が対立する政策を鮮明に打ち出すように求めます.すなわち,ブッシュの大型減税と財政赤字に対する具体的な提案です.ケリー氏はこの問題について明確な政策を示していません.
FTは,中国への工業力の移転が深刻な問題であることを示します.たとえば,この5年間で
l 工業部門の産出量は年5〜10%で成長し,世界全体の7%に達しました.
l 外国企業は中国経済の10〜15%を占め,製造業だけならその割合はさらに高い.
l 1990年代半ば以降,中国に流入した直接投資は5000億ドルに達し,そのほとんどが製造業だ.
l 2003年に,中国はアメリカに次ぐ直接投資受入国になり,2007年までに,電器産業で,中国は世界の3分の1を占めるという予想もある.
l パソコンに使われるマザーボードの70%が中国で生産されるように,いくつかの分野では,既に中国が主要生産国である.
l 中国の投資する主要企業の中でも,モトローラ,ジーメンス,フィリップス,GE,ノキア,BPなどは,10億ドル以上を投資している.
l 中国の製造業拡大を支える主な要因は,主要工業諸国の約5%しかない低賃金であるが,熟練労働者や経営者は不足している.
l 中国の大学は毎年4万人の科学者やエンジニアを輩出するが,外国企業で働いた経験のある上級職で労働者が不足している.
l その不足(と賃金上昇)を緩和するために,企業はR&Dを急速に拡大しており,中国はアメリカ,日本に次ぐ世界第3位のR&D投資を行っている.
いずれにせよ,ケリーの中国・インド・アジア批判,人民元批判,などは消滅するだろう,とPesek Jr.は考えます.それはブッシュ政権も同じです.消滅する理由は二つです.1.それは世界経済の本当の課題から政治的関心を逸らせるだけだ.2.それは世界最大の二つの人口大国,そして世界の成長を担う大国を,アメリカから離反させる.
また,中国の為替政策はこの10年間変化しておらず,むしろ,アメリカで大統領選挙がある年だ,というのが本当の理由です.また,雇用は,資本と同じように,世界中のもっとも魅力的なところに移転してしまうのを止めることはできません.アメリカ企業が,中国人を雇用する代わりに解雇しているのは,もっぱらヨーロッパや他のアジアの労働者です.為替政策や貧しいアジア諸国を非難しても,アメリカの雇用が改善されるわけではないのです.もし人民元を40%も切り上げたら,中国の金融システムや経済成長が破壊されるリスクも高まります.
アメリカの政治家たちは,短期的にアジアと対立するような政策ではなく,もっと長期的に協力できる政策を唱えるべきだ,と.
FT June 20 2004
It is time for a true development trade round
By Joseph E. Stiglitz
(コメント) WTOが進めるドーハ・ラウンド,もしくは「開発ラウンド」が失敗してから,各国は互いに他国の間違いを非難し合っています.しかし,英連邦諸国はその打開策を求めて,StiglitzとColumbia大学のthe Initiative for Policy Dialogue,そしてOxford大学のAndrew Charltonに,レポート作成を依頼しました.世界の制度設計や経済政策について,積極的に,学問的な合理性を求めるのは,アメリカやヨーロッパに対抗して,イギリス政府が世界に対する発言に正当性を求めている姿勢の現れでしょう.もし日本が,少なくともアジア地域に発言するとしても,同じ姿勢を採れるでしょうか?
Stiglitzの主張は明確です.ドーハ・ラウンドの交渉項目は北側の大国によって選択されたものであり,間違っている.たとえば,サービス部門の自由化や,アメリカが強調する資本市場の自由化は,発展途上諸国にとって大きな利益にならない.他方,北側は農産物市場を閉鎖し,補助金を削るといいながら,アメリカのように倍増させる国もある.さらに重要な,未熟練・反熟練の労働集約的な生産物が貿易自由化の主要な交渉項目になるべきだし,未熟練労働者の移民の受入れは,双方にとって大きな利益になるはずだ,とStiglitzは主張します.
また,Stiglitzが注意するのは,市場自由化が競争を保証するものでなければならないし,そのような市場統合を国際機関が監視し,自由化のための調整コストを豊かな国が貧しい国に支援しなければならない,ということです.こうした調整過程を監視し,支援・促進する国際機関の組織を改善し,透明性や情報公開を進める必要がある,と考えます.こうして初めて,世界市場の統合化が貧しい者たちの利益になる,ということを理解してもらえるのです.
これは,先週のコペンハーゲン・コンセンサスと対照的な結論ですが.
FT June 20 2004
Braced for China's boom to end
By DeAnne Julius and Stephen Green
チャイナ・ウォッチャーたちには不穏な一週間だった.4月のインフレ率が驚異的な3.8%を示したことで,中国に対する市場の関心は突進する猛牛から不安な熊に変わった.経済の過熱と投資の制御不能について,政府は激しくブレーキを踏むだろうから.世界の商品市場は中国からの需要急減にパニックを起こし,アジアの株式市場も急落した.先週,月間インフレ率は緩和したが,消費者物価は年率9.5%の上昇を示し,非公式な上限である5%を大きく超えている.中国人民銀行は,金利を引き上げるのだろうか?
世界の投資家たちは,突如,ワシントンのアラン・グリーンスパンと同じくらい,中国の通貨政策を追跡するようになった.そこには繋がりもある.予想されるように,アメリカの金利が上がれば,投機的な資金は太平洋を渡って中国に流入し,人民元の切上げを狙うだろう.中国の好況が終わる,という恐怖心から,誰もが引き締めたポジションを取る.中国人民銀行のZhou Xiaochuan総裁だけが,金利を引き上げるに足る十分な証拠はまだ無い,という冷静な声明を出した.
利上げを延期する多くの理由がある.最近のインフレは一時的なものだろう.消費者物価を主に上昇させているのは,浮動的な食糧価格だ.幾つかの工業製品は,Sarsなどで生産が混乱した,昨年の極端な低価格から回復したに過ぎない.
中国では,政治も利上げに影響する.借入れコストの上昇は財政赤字を難しくする.中国の巨大な国営企業も主要な借り手として利上げに弱い.
高インフレを好む官僚も居るはずだ.年5%程度のインフレであれば,着実の政府の実質債務を軽減し,銀行の不良債権も減らす.高成長経済では,当局が穏やかなインフレを深刻な問題を伴わずに続けることができる,というリスクを進んで取るだろう.
こうした理由があるので,中国人民銀行は利上げ以外の方法で需要を抑制しようと試みてきた.投資が異常に膨張している特定部門(鉄鉱やセメントなど)への融資を制限し,この分野の投資を管理できない地方職員を懲戒した.
この戦略はリスクが高い.特定部門への融資を制限すれば,短期的に有効でも,結局,貨幣は求められる分野に流れて行く.不動産投資は依然としてGDPの40%である.またUSドルとのリンクは,アメリカの緩和された通貨政策が中国経済にさらなる刺激をもたらす.というのも,インフレが進んでいるので,中国の金利は低いだけでなく,低下しているのだ.
中国の好況は短期的にインフレ再燃を危惧させるだけでなく,長期的に資源配分の悪化を意味する.二人のエコノミストが,投資ブームで生産性上昇率が大きく低下している,と示した.中国は1980年代の日本の経験を繰り返したくないだろう.当時,投資バブルの興隆と破綻において,通貨政策がその手段となった.
要するに,明らかに,金利を引き上げる必要がある.今,引き上げるのか? ではなく,どのように引き上げるのか? だけだ.
住宅市場に注意するイングランド銀行と同様に,中国人民銀行も突然の市場崩壊を引き起こしたくないだろう.金利は徐々に引き上げられるべきだし,明確なシグナリングが必要だ.通貨政策は借り手を棒で叩くのではなく,そっと突くようなものであるべきだ.もし中国も同じ方法を取れば,投資が抑制され,ハード・ランディングを回避できる.
中国の成長のメイン・エンジンは,低金利ではなく,国内需要が弱まっても,消滅するわけではない.中国にはまだ豊富な低雇用の労働者が存在し,その競争力は輸出を伸ばす.政府は7%の成長を達成する十分な余地を持っている.
経済のソフト・ランディングを指導する中心的な責任は中国人民銀行にある.それは十分な手段を持っているし,他の中央銀行の経験を生かすことができる.しかし,もし今すぐに需要にあわせて貨幣の価格(金利)を上昇させないなら,このブームが破綻することになる.
The Guardian, Saturday June 19, 2004
The pivot of history
Paul Kennedy
(コメント) 世界に民主主義を広めるのは良いことに違いない.しかし,もし国民が海外での戦争を好まず,外国の民衆があなたやあなたの介入方法を好まないときは,どうするべきか?
今年は地政学の創始者Sir Halford Mackinderが記念すべき論文を出版して100年目です.権力は地理的な性質に制約されて,たとえばアテネが海洋帝国,スパルタが大陸帝国であったように,その行動を決定します.現代のアメリカは海洋帝国として,大陸帝国のソビエト連邦を敗退させ,主要な敵を持たない状態です.
Kennedy によれば,Mackinderにはもう一つの重要な論考がありました.その中で彼は,イギリス政府が普通選挙を志向し,好戦的な愛国主義から,社会的・経済的な関心に政府の役割を転換してしまった,と,地政学の衰退を嘆いています.こうして,平和な時期には社会的・経済的な価値を追求する民主的政府,戦争の時には地政学を重視する海洋帝国もしくは大陸帝国が誕生するわけです.
Kennedyは,人々がラムズフェルド主義を嫌うあまりに,アメリカが平和時の民主主義だけで世界秩序を維持できる,という幻想を批判します.民主主義と地政学との正しいバランスを忘れてはいけない,と.
NYT June 20, 2004
European Disunion on the Pitch
June 23 (Bloomberg)
Europe Starts to Look Like America's Poor Cousin
Matthew Lynn
The Guardian, Thursday June 24, 2004
This is our high noon
Timothy Garton Ash
(コメント) サッカーによるスーパー・ナショナリズムがヨーロッパで強まります.国家間の戦争を鎮めるはずの,オリンピックも,直接投資も,音楽も,・・・ナショナリズムの呪縛を強めています.
「現代のヨーロッパでは,厳密なナショナリズムが異様なものに思えます.EUの労働者は移動の自由を享受し,サッカーリーグ自体も複数の国に及び,多言語の組織です.しかし,国際的なサッカー・トーナメントは,各国チームの同質性を強調し,ウルトラ・ナショナリズムに数少ない場所を提供します.総称的なヨーロッパの称号として共通通貨を押し付けられた人々が,顔に異なった色を塗り,互いに叫びながら,彼らの国の名前を連呼します.イギリスのファンは伝統的なセント・ジョージ国旗を広げる者さえあります.ユニオン・ジャックは政治的統合を象徴し,部族的なスポーツにはふさわしくない.スコットランド人やウェールズ人は全く異なる,というわけです.」
Lynnは,ヨーロッパが経済的に失敗している以上,ヨーロッパ憲章なんてどうでもよいものだ,と政治家たちのショーを軽蔑します.たとえば,メリル・リンチ社が示す億万長者サーベイ(Capgemini and Merrill Lynch & Co.'s annual survey of the world's millionaires)によれば,100万ドル以上の資産を持つ者が,昨年,ヨーロッパで2.4%増加しただけですが,アメリカでは7.7%も増えました.Lynnは,億万長者の増加が,新興企業家による活発な投資を示すものと考えています.
たとえ,一人当りGDPで見ても,25ヶ国の中でアメリカを凌駕するのはルクセンブルグだけです.フランス,ドイツ,イタリア,イギリスを一人当りGDPでアメリカの州と比べても,たった4つの州を除いて,すべての州に劣っています.つまり,彼らがEUに飽きてアメリカ合衆国に加盟しても,アーカンソー,ミシシッピー,モンタナ,ウェスト・ヴァージニアという貧しい諸州に続くのです.成長率の低いヨーロッパは,今や,コネチカット州がフランスやイギリスの2倍も豊かだ,という格差を生んでいます.
しかし,アイルランドは改革を成功させたではないか? という声に,Lynnは,それは経済に占める政府の割合が小さい例外的な国だったからだ,と答えます.
EUを新しい国土として育てる決意を示すAshは書きました.「もうたくさんだ.EUの家具も建物も完全とは程遠い.しかし,今はやるだけだ.民主主義についてチャーチルが述べた有名な評言を借りれば,これが可能なヨーロッパの中で最悪のものだ.他のヨーロッパは何度も既に試された.明日,われわれは玄関から出て行く.そして子供たちの運命を決める挑戦に立ち向かう.さもなければ,2024年になって,大きくなった子供たちが,小さな,要塞化したアパートで,湯を沸かして暖を取り,黒ずんだ雪に囲まれて暮らすだろう.彼らは通りの反対側でナショナリストのギャングと移民が戦闘するのを避けてきたのだ.彼らは地元の中国人の雇い主が半時間の仕事をくれるのを,何時間でも行列して待つ.彼らが,私たちに振り向いて,こう問うだろう.『父さん,平和な時代に,あなたたちは何をしていたのか?・・・』 それに対して,われわれは何と答えれば良いのか?」
NYT JUNE 23, 2004 WED
アメリカが13の植民地から新しい憲法を作ったのとは違って,EUに加盟する25ヶ国の指導者たちが作った新しい憲法は明確さを欠いている.それは本質的に,国家と市民とが結ぶ契約としての憲法ではなく,主権国家間の憲章(組織の構成を定めた立憲的条約)である.イギリスに多いヨーロッパ懐疑主義者は,新しい憲章でEUが超国民的連邦国家に発展する可能性はまず無い,と確信しただろう.たとえ25カ国が批准しても,憲章はEUのアルファベット順に混じりあった諸機構をより透明にし,ヨーロッパ人にできることとできないことを明確にするだろう.しかし,統一した外交や軍隊を持つ超国家にはならない.主権は国民国家に依然として由来する.
しかし,これはEU憲章の意義を損なわない.25カ国が承認したことで,EUの最近の拡大が組織を動けなくすることはないだろう.より緊密な統合化を求め,アメリカとの距離を措くフランスやドイツと,統合化を限定して,アメリカとの緊密な関係を求めるイギリスやイタリアとの間には,意見の対立がある.しかし,両グループは妥協に達した.EUは,独自の「外務大臣」を持ち,6ヶ月毎に交代する現行制度ではなく,永久的な大統領を決める.EU閣僚会議の新しい投票制度や,最高の立法組織を設けることで,意思決定が明確になる.
一つの特徴は,新しい意思決定メカニズムをEU統合の「ブレーキとアクセル」である,と憲章が定めたことだ.このメカニズムでは,統合化のいくつかについて拒否したい国は,「緊急ブレーキ」を踏んで,直接,25カ国の指導者にアピールできる.そして,そのこうな抗議にもかかわらず,幾つかの国が統合化を進めたければ,「アクセル」を踏んで,「同意する諸国の集まり」で先に進める.事実上,ヨーロッパ諸国は異なったスピードの統合化を許すわけだ.たとえば,税制の調和を進める際も,独自の税制を維持する国があることを認める.こうして,より完全な同盟ではなく,多くのミニ同盟を誕生させるだろう.多から一ではなく,多から多へ,しかし,緩やかに構造化された「同盟」のより大きな枠組みの中で.
ヨーロッパ合衆国の理想からは,これらすべてが懐疑主義者への不幸な譲歩である,と見られる.しかし,これが唯一の現実的に可能な進路であろう.25の主権国家には当然に相違があり,憲章は賢明にもそれを認めて,相違を処理するメカニズムを提供したのだ.実際,特にASEANは,もしくはアジア一般に,通貨同盟や地域的な自由貿易協定を考える際には,この例から学ぶだろう.共通の指標だけで事前に描かれた経済・安全保障の統合を進めるのではなく,アジア諸国は複数の異なった経路で進むべきだろう.
FT June 21 2004
US turns its gaze from Asia at its peril
By Kurt Campbell
FT June 23 2004
America's welcome military rethink
By Michael O'Hanlon
(コメント) 2001年の9・11までは,アメリカの関心がヨーロッパからアジアに移ると考えられていました.ヨーロッパへの軍事的な脅威は薄れ,経済的関心も停滞していたからです.他方,アジアには朝鮮半島や台湾海峡の冷戦型脅威が存在し,インドとパキスタンとの間で核戦争の脅威もありました.9・11テロとイラク戦争によって,アメリカの関心も政治的・軍事的資源もすっかり中東地域に向けられ,アジアに割かれる時間は減りました.長期的にはアメリカがアジアに関与することを疑うものは居ませんが,短期的に,急変するアジア情勢を安定化し,制度化する軸として,アメリカは重要性を失いつつあります.
他方,中国の地域的な重要性は高まりました.経済的な台頭に加えて,アジアの地域問題を協議する会合や制度構築でも,アメリカではなく中国が主導権を発揮し始めています.他方,韓国政府は朝鮮半島の将来についてアメリカではなく中国と協力する方針に変わり,日本は長い平和主義の政策を転換するかどうか,アジア諸国の反応とともに,不確実な姿勢を続けています.こうした変化に,アメリカの消極的なアジア政策が影響を及ぼしているのです.特に,アジア経済の急速な変化は,アメリカの経済戦略やドルの地位にも影響します.
アメリカが中東地域に安定した秩序を築いたとしても,その頃,アジアの地域構造や国際秩序は,今と全く異なっているだろう,と警告しています.
Campbellが韓国の米軍削減に反対する一方で,O'Hanlonはこれを歓迎します.ドイツから東ヨーロッパへ移し,またヨーロッパや韓国から米軍を削減することは,長期的に見て,正しい選択だ,と言います.問題は,その時期とスピードです.
BG June 21, 2004
Kerry's Worldview
WP Monday, June 21, 2004
Backing Bush's Mideast Vision
By Jackson Diehl
(コメント) ケリー氏の描く協力的な国際関係の修復は,ブッシュ政権に対比されています.「軍事的な優位に酔って,ブッシュ政権は半世紀以上も続くアメリカ外交の基本教義を投げ捨てた.すなわち,集団的な安全保障と同盟諸国への信頼,国際機関や国際法,多角的な取り組みの尊重,そして,軍事力の行使を,最初ではなく,最後の手段とする,その教義を.」
誰もが批判するブッシュの中東民主化構想は,単に,ナイーブな幻想なのか? とDiehlは問います.そうでもない.アラブ世界にも,ヨーロッパにも,中東の民主化を支持する声は,ブッシュへの批判と切り離して,少しずつ高まっている,と.
LAT June 21, 2004
In Poorer Nations, Oil Resources Can Be a Curse Upon the People
By Amity Shlaes
ロシアのプーチン大統領は,ユコス石油の倒産を望まない,と述べた.これは非常に重要な発言だ.ユコスの裁判は,ロシア資本主義のテストであり,その経済的成功を試すものであるから.またそれは,アフリカや中東の,特にイラクのような,破綻国家における資本主義の可能性を試すものでもある.
Foreign Affairsの最新号に載ったNancy Birdsall (Center for Global Development) と Arvind Subramanian (IMF)による論文は,石油の富が世界にもたらしている問題を示している.イギリスやノルウェー,アラスカ州のような発達した法文化を持つ国にとっては,石油の富が利益となる.しかし,市民的な責任や法の支配,民主的手続きが確立されていないところでは,突然の富を上手く扱えない.富の圧力によって,人々は盗賊になり,国家はカオスになる.1960年代にアフリカのビアフラで多くの人が殺された.それは報道されたような飢餓のせいだけでなく,ナイジェリアのイグボ族が石油資源を支配するために起こしたのだ.
「石油の呪い」という議論は昔からある.しかし開発経済学では天然資源を利益と見なしてきた.それは,工業国が銀行に持つ預金と同じく,たとえばインフラ整備に支出できるから.しかし,左派の経済学者は以前から,天然資源を支配するために,地元住民を抑圧する帝国主義的な侵略や植民地支配をもたらすことに注目してきた.たとえば,中東の石油,中央アジアの麻薬,英領ギニアのサトウキビ,アメリカ南部のタバコ.
市場志向の右派は,たとえ石油資本であれ,どのような資本でも邪悪でありえる,という考え方に躊躇した.20世紀になって,自由市場の思想家であったマンカー・オルソンやP.T.バウアーは,植民地化そのものではなく,天然資源そのものが問題であると指摘した.実際,石油が無いことが,日本や西ドイツ,シンガポールを工業的・知的資本の開発に押しやり,繁栄をもたらした.
Birdsall と Subramanianが新しく主張したことは,石油の富があれば国家は課税しなくてよい,ということだ(サウジ・アラビアのように).それゆえ国家は民間企業や市民生活に関心を持たなくなる.市民社会の発展は必要ない.所有権,契約を履行する法の支配,信頼できる法廷,こうしたわれわれにとって基本的な制度が欠けたままだ.そして国家は自由に弱い者をいじめる.あるいは盗む.最近もアンゴラで石油に絡む40億ドルが消滅した.
ロシアのように,国家と石油の富とを分離できても,それは市民的な制度を侵食し,腐敗させる.国家は競合する権力をひどく嫌う.ユコスの場合,個人を訴追したが,政府は石油会社そのものを征服し,その支配を浴しただろう.たとえ改革や正義を求める政府でも同じことだ.
イラクはどうか? Birdsall と Subramanianは石油を民営化することに反対だ.それは腐敗した寡占体制を意味するから.国際的な権力が石油の生産と流通を支配し,その収益を国民に分配する方がよい,と.しかし,国連の「石油と食糧の交換計画」に関する汚職のニュースを聞けば,それを信用できるだろうか?
結局,民営化が最善である.ロシアで行われたより良い方法で民営化し,少数者に利益が支配されないようにできるはずだ.プーチンはまだ,ロシアに信頼される経済文化を創出できるかもしれない.草すれば,ユコスのような企業もおとなしくなり,信用できる.アメリカの一流企業の多くも悪徳資本家の末裔である,ということを忘れてはいけない.
イグボ族による虐殺やユコス裁判のように,石油の呪いはわれわれの最大の経済的課題である.
WP Monday, June 21, 2004
Deficits' Bite
By Sebastian Mallaby
(コメント) ワニと一緒にお風呂に入っているあなたへ.レーガン時代の楽しい思い出を語って,財政赤字を無視しようとするブッシュ政権のことを考えてほしい.「われわれが恐れなければならないのは,恐れそのものを持たないことだ.」 ・・・J.F.ケネディーではなく,ラリー・サマーズ.
そして,構造改革を愛するあなたへ.
IHT Tuesday, June 22, 2004
Bush's mistaken view of U.S. democracy
Robert O. Keohane and AnneMarie Slaughter
(コメント) ブッシュ大統領は,アメリカ人を間違って理解している,と主張する論説です.ブッシュ氏によれば,アメリカ人は正しく,それゆえアメリカの民主主義は正しく,アメリカに逆らう者は「自由の敵」なのです.アブ・グレイブ刑務所の虐待や虐殺を行ったのは,本当のアメリカ人ではなく,一部の腐った連中です.アメリカに国際法など必要ない,と.
他方,アメリカ憲法に示された考え方は異なります.「もし人がすべて天使であれば,政府など必要ない・・・」と,マディソンは書きました.そして,権力が人を狂わせないように,チェック・アンド・バランスのシステムを作ったのです.アメリカは法によって支配されているのであって,ブッシュ氏が勝手に決めた,「アメリカ人」や「正義」によって支配されているのではありません.
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The Economist, May 8th 2004
Bagehot: A special relationship
(コメント) 壮大な葬儀がその頂点で示したのは,サッチャーとレーガンの政治的愛憎劇です.自ら4時間と睡眠を取らずに,閣僚や官僚を深夜まで働かせたサッチャーと,牧場で昼寝し,難しい仕事は閣僚たちに任せて,用意された資料も読まずに「マイ・フェア・レディー」を鑑賞したレーガンの政治スタイルは正反対です.サッチャーにとって,減税は支出を節制できたことへの褒美でした.他方,レーガンは減税そのものを賞賛し,支出削減は気にしませんでした.イギリス政府は,そんなアメリカの赤字を嫌っていました.レーガンはサッチャーのフォークランド扮装をアンビヴァレントな態度で批判し,サッチャーに裏切られたという怨嗟を抱かせました.18ヵ月後,アメリカが小国グレナダに海兵隊を送ったとき,そのことを事前にイギリス政府に伝えるのが遅れ,サッチャーはこの軍事侵攻がソ連に他の侵略行為を正当化する口実を与えた,と批判します.ゴルバチョフとの軍縮交渉にも,サッチャーは疑念をあらわにしました.
それでも,彼らは互いを必要とし,憎しみながらも愛していました.なぜなら,二人とも政界のアウトサイダーだったからです.
Shipping in South-East Asia: Going for the jugular
(コメント) マラッカ海峡は,テロリストの攻撃目標として最適です.際限なく続く,石油タンカー,コンテナ船,釣り舟,フェリー,島々を繋ぐクルーズ船・・・ 毎年,約5万隻が,世界の海運量の約4分の1が,この海峡を通過します.ここを通って届く石油によって,日本も中国も韓国も,その経済を動かしています.テロリストが世界経済を破壊したいなら,これ以上に良い攻撃場所は無いでしょう.
シンガポールの副首相は,地域安全保障がテーマの国際会議で,わずか25フィートしかない海峡の適当な場所へ船を沈めることができれば,世界貿易を止められる,と発言しました.あるいは,船舶をハイジャックし,その「漂流する爆弾」で石油精製や港湾施設など,重要なインフラを破壊すればよい.ラムズフェルド国防長官が,早速,「地域の海洋安全保障イニシアチブ」を提唱しました.ハイテクを駆使したテロでなくても,フィリピンやインドネシアの海域には,昔からの海賊が頻出し,反政府ゲリラが散在しています.
今のところ,マラッカ海峡を詳しく監視するシステムは無く,特に北側の広がった入り口を押さえるインドネシア海軍には財源がありません.マレーシアとインドネシアは,国民の反米感情が強く,早くも,アメリカがパトロールするという提案を拒否しました.国連の国際海洋機構は,300トン以上の船の航路を年末までにシステム化する作業を進めています.
タイ政府は,マラッカ海峡をバイパスする提案を行いました.半島の最も狭い地域に運河を建設するのです.これによって中東から日本までの距離を1000キロ短縮できます.あるいは最近の代替案では,半島の両側にターミナルを設けて,それらをパイプラインや道路,鉄道で結びます.それは安全保障を高め,原油の価格をバレル当り40〜60セント下げるでしょう.ただし,タイ南部でもテロ組織との戦闘が続いています.
Economics focus: The crude art of policymaking
(コメント) インフレが再現しつつある中で石油価格も上昇しています.アメリカや中国だけでなく,各国の中央銀行は金利を上げるべきかどうか,思案を続けているでしょう.石油価格の上昇はインフレ的なのか? それとも景気を抑制する?
その答は,もし金融緩和によって吸収するならインフレ的であり,金融政策を不変に保てばインフレは小さいが景気を抑制する,です.70年代の経験から,各国は石油価格に怯えて金融緩和する結果が,長期的により大きなインフレと失業をもたらす,と考えるようになりました.
教訓@ 中央銀行は石油価格の上昇がインフレを起こすことを止めることはできない.しかし,それが賃金や他の財・サービスの価格引き上げに繋がるのは阻止するべきだ.コア・インフレーションが不変なら,金利は上げない.しかし,労働市場が硬直的なEUで,他の分野にインフレが波及する証拠を掴めば,より警戒するべきだ.
教訓A 景気変動の局面が政策選択に影響する.経済資源に弛緩が少ないほど,インフレ波及に注意が必要だ.すなわち,ヨーロッパよりアメリカの方が景気回復が進んでいる.ただし,ヨーロッパでも,債券市場が示すように,インフレ予想が影響を受けている.
教訓B 何が石油価格の上昇を引き起こしているのか? 供給側の突然の停止なのか? それとも世界景気,特にアメリカや中国の成長と需要増なのか? 石油への世界需要が増えたうちの3分の1を中国が占める.また,中国の輸入増加が世界の需要を刺激している.つまり,インフレの脅威は本物だ.