IPEの果樹園2004

今週のReview

4/26-5/1

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イギリス映画『リトル・ストライカー』を観ました.講義やゼミが上手くいかないときなどは,心身ともに疲れて,夕食後も動く気がしません.そんなとき,NHKの衛星放送で観る映画が,貴重な休息と気分転換になります.

主人公の少年は,サッカー・チームの控え選手です.才能はあるけれど気が弱く,彼のかばんに皆で小便をかけるような,とんでもない悪ガキの仲間にいじめられています.イギリスの天候はいつも雨か曇りで,通りにはいつも水溜りがあり,拳闘家のアジア系少女と初めてデートするのも荒れ果てた墓地・・・ という具合に,イギリス人は自分たちをジョークにして楽しんでいるような気さえします.

少年は母親と二人暮しですが,彼女はハリーと付き合っていました.少年もハリーと地元チームの試合を観に行くのが大好きでした.しかし,ハリーには妻が居ます.妻が彼を引き戻してから,母親はカンフーの好きな若い男と暮らし始めます.彼女はタクシーのコール係として働いていましたが,酔った経営者に襲われて失業します.次に彼女は,自室で女性下着を販売し始めます.

学校にサッカー場の建設費9億円を寄付してもらうため,校長は幼なじみの地元有力者に頼み,決勝戦に出ろ,という条件を示されます.この有力者は,自分の息子をサッカー選手にしたいのです.選手たちは,コーチのエリックが言うことに従いません.エリックは,かつて,地元チームで活躍した優秀なプロ選手でしたが,少年たちはそれを知りません.緊張に耐えられず,酒に頼って試合中に事故を起こした過去を持っています.

誰もが複雑で,強い個性を発揮し,単純なストーリーなのに,どこか慰めと励まし,負けてたまるか,という気概を呼び起こす話です.

かつて産業革命を担ったイギリスと近代工業都市(映画の舞台はマンチェスター近郊)の現在が,この映画の背景です.その気候だけでなく,社会的な抑圧が,少年たちには「退屈」で死にそうだと感じさせます.彼らが,「暴力」あるいは「喧嘩」によって威厳を示し,自分たちの声を表明するとともに,昂揚感を一気に爆発させることを,ポール・ウィリスの研究『ハマー・タウンの野郎ども』は描いています(バーミンガム近郊の町をモデルに).

他方,アメリカ映画『タイタンズを忘れない』は,人種対立の激しい高校で,新しい黒人コーチがチームを優勝に導くまでの,強い野心と実力主義,そしてアメリカの理想を説く青春映画です.もし日本人がこんな映画を作ったら,少し間の抜けた教育番組になったかもしれません.しかし,アメリカの厳しい現実においては,実力による競争と理想主義によって互いの尊敬を育てるしかない,と納得します.彼は言います,相手のチームは強い.白人だけのチームだ.しかし,われわれは白人と黒人のチームであり,彼らには無い人種問題がある.だから,われわれはもっと強い.お前たちはあの厳しい練習に耐えた.何ものも,われわれを引き裂けはしない!

円の為替レートや介入政策を批判する場合,アメリカ人は多かれ少なかれ,日本政府や日銀の姿勢を,愚かな,偏った,長期的には効果の無い,世界的に見ても有害な行為である,と批判します.他方,ブレンダン・ブラウンの優れた研究『ヨーヨー円』は,貯蓄と投資のギャップを軸にしながらも,為替レートや金利が国内の均衡を正しく導けなかった具体的事情,政治的理由,国内・国際システムの特徴,などを整理します.

私は,バブル後の日銀に対して,インフレ目標を要求する議論よりも,構造改革を進めるためには金融緩和や円安に頼るべきではない,という日銀の議論に,どちらかと言えば賛同しました.しかしまた,実質ゼロ金利が騒がれる頃は,海外投資と円安を促すべきだ,という議論を支持しました.1ドル=80円や140円ではなく,為替レートや金利はどのような水準であれば良かったのか? 独立性を云々するより,政府と日銀はもっと協力できたはずですし,中国やアジアは,これほどの振幅を経ずに,日本にとって貿易・投資の新しいフロンティアになれたはずです.

日本の次の指導者たちには,アメリカだけでなく,むしろイギリスの映画や経済学からもっと学んで,自分たちの世界観や経済政策に,できれば,アジアの政治と哲学を描けるほどの,思想的な厚みが欲しいです.しかしまず,不況を脱し,アジアの市場統合を指導したいなら,行列して靖国神社に参拝することや,中国の領事館に突入した右翼の宣伝カーについて,政治家たちは諸国民が尊敬できるような発言をしてはどうですか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times


WP Thursday, April 15, 2004

Putting Politics to Work in Iraq

By Jim Hoagland

(コメント) ブッシュ政権は,イラク国民を独裁体制から解放し,決して長期に占領するのではなく,早期に選挙を行って民主的な政府に権力を移譲する,という計画で軍事行動を選択しました.しかし,既存の政治・軍事集団や宗教組織を無視して,民主的な選挙だけで政府が組織できる,というのは幻想でした.亡命者が中心となった統治評議会はうまく機能せず,治安を回復する警察もクルド人に頼り,シーア派の宗教指導者が認めないような政権移譲はできません.

名目だけ,選挙された統治評議会の再編政府に権力を移譲し,アメリカはバクダッド大使館とワシントンからCIAを使って政策を命じる,という妄想が,一層の暴力をもたらすのではないか? とHoaglandは恐れています.

BG April 16, 2004

The president as illusionist

By Scot Lehigh

BG April 16, 2004

(コメント) 火曜日の夜,ゴールデン・タイムに行った会見は,指導者としてのブッシュ氏の欠陥を露呈した,と批判されます.

言葉が不器用な大統領は,間違った方針を与える名人(a master of misdirection)です.たとえば彼にとって,現在,イラクで起きている道路わきに仕掛けられた爆弾や人質事件は,ベイルートで241人の海兵隊が死亡した事件や最初の世界貿易センター爆破テロ,アフリカでのUSSコールに対する自爆テロ,そして9・11テロと同じ,テロ攻撃なのです.今のイラクの混乱を,国外のテロ勢力やアル・カイダに結びつけるだけで,政府の責任は問わなくても良いのでしょうか?

今も,ブッシュ氏は,テロリストとフセインを結びつけ,戦争の成果を誇張し,WMDやアメリカの脅威になるものを,何でも自分の再選戦略に利用します.しかし,彼の行った戦争は,それらの結びつきが無ければ,議会も国民も認めなかったような代物です.つまり,彼は偉大な手品師であり,大統領の職には最悪の人選であった,と.

Shades of LBJ

By Derrick Z.

WP Friday, April 16, 2004

Radical Theories And Reality

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) リンドン・ジョンソン大統領LBJは,ヴェトナム戦争を後悔し,戦死した兵士たちの心を痛めたと述べるだけの人間味を示した.しかし,ブッシュは違う.家族たちに同情を示すことが足りないかどうかなど気にせず,戦争の評価は次の選挙が決めることだ,と答える.そして,この戦争をヴェトナムと比較することは強く拒む.しかし,彼の発言はLBJとそっくりです.

LBJがヴェトナムで目指したものも,住民による選挙の機会を保証すること,でした.領土も基地も求めない,経済的な支配も,軍事的な同盟も求めていない,と言いました.南ヴェトナム政府は自分で進むべき道を決める,と.戦争の使命を,LBJは「進歩」と呼び,ブッシュは「自由」と呼びます.

あなたが犯した最大の過ちは何か? と聞かれて,ブッシュ氏は何も答えません.あらかじめ質問票をもらったが,この答えは思いつかなかった,というのです.「今,ここで,戦うしかない.勝利することだ.」と,ブッシュもジョンソンも言いました.

Dionne Jr.は,ブッシュ氏の目標を支持します.独裁者フセインを追放することや,イラクと中東全域に民主主義を実現することはすばらしい,と.問題は,ラムズフェルドがアメリカの軍事力を革命的に更新して,はるかに小規模の軍隊と犠牲で,それらを実現できる,と主張したことだ,と.


WP Thursday, April 15, 2004

America's Ayatollah

By Richard Cohen

CIAとFBIとを隔てる「壁」により,9・11のテロを未然に防ぐことができなかった,と議論されている.しかし,より興味深い「壁」がある.それは,火曜日の夜のニュース番組で行われたブッシュ大統領の話で分かった,彼と現実realityとの間にある「壁」だ.

しかし,ブッシュの場合も「壁」は余り役に立っていないから,心配は要らない.言葉と思想を狂ったように集めるゴミ収集人.どうせ少ししか話さない.イラクからの退却は考えていなかった.9・11についても反省しない.サダム・フセインがWMDを持っていなくても,どうしてそうだったのか,と驚くわけではない.子供が何か他の事を言われても信じないように,ブッシュは彼の大好きなサンタクロースを信じ続ける.武器はあるさ.どこかに.それは,彼の心の北極だ.

もっと重要なことは,彼が五回も言ったことだ.「われわれは世界を変えつつある」と.彼はイラク戦争についてそう言い,まるでウッドロー・ウィルソンのように,素朴な道徳心を大統領個人に結びつけ,物思いに耽ったように頭を振った.ブッシュの言い方では,フセインから大量破壊兵器を取り上げるための戦争,ライスが言ったような,アメリカの町に「きのこ雲(原爆投下)」を許さないための戦争,それが世界を再編する戦争に突然変異した.

「私は世界を変える歴史的機会がここにあるということも知っている.」イラクのことだ.しかし,次にもっと物騒なことを言う.「わが軍の兵士を想う家族は,この使命が非常に重要であることを理解しておくことだ.それは,アメリカの安全にとって致命的であり,世界をより良いものにする力を示すためにも重要だ.」しかし,自分の国を守るために死ぬことと,一人の男の不可能な夢想のために死ぬこととは,まったく別のことだ.ブッシュの願いは素晴らしい.しかし,実現不可能だ.

9・11のすぐ後で,ブッシュはテロに反撃することを「十字軍」と呼んだ.イスラム世界は,繰り返されたキリスト教世界からの十字軍を思い出して,これに抗議した.ブッシュはすぐにこの言葉を使わなくなったわけだが,記者会見ではふんだんに「十字軍」が登場した.それは,キリスト教徒が,エルサレムからイスラム教徒を追放する十字軍ではなく,世界からテロリズムを根絶する,要するに,「世界を変える」十字軍なのだ.アメリカにはその任務を果たす「使命」がある,と大統領は言った.

人によっては,これは宗教のたれ流しであり,または,勇気を奮い立たせる文句であろう.しかし,何であれ,それが外交の基礎にはなりえないし,まして戦争の理由にもならない.それは,他でもなく,ブッシュがそれほど頑固にイラクを制圧したがっているということ,また,フセインとアル・カイダとのつながりや,デヴィッド・ケイがわれわれに示し,無数の調査が示したように,彼が間違っていたことを,なぜ彼は単に認めるだけなのか,を説明する.無神論者が信仰だけでは不十分だと(神が存在する)証拠を求めているかのように,ブッシュも話す.彼は,アメリカ自身のアヤトラ(宗教的権威)である.

幾つかの調査委員会が,諜報機関のさまざまな失敗について,ワシントンで推理している. しかし,本当に審査しなければならないのは,たった一人の男が,大統領であるとしても,どのようにしてこの国と世界の一部を戦争に導きえたのか,しかもその理由が,火曜の夜に彼自身がずばりと言ってのけたように,そうする「使命」を感じたから,というだけで.

もし本当にそうであれば,この委員会はわれわれすべて(私を含む)に問う必要がある.議会と報道機関は,子供じみた歓喜に包まれて,戦争への途を突き進んだのか? と.「騙されやすい愚かさに関する委員会」は私を最初の証人として召喚する.そして,われわれは権力の分割などと自慢しているが,かろうじて選出された大統領が,戦う必要など無かった戦争をどうやって選択したか,検証するべきだ.これこそブッシュの大儀(原因)である.神聖で,不合理な,1212年にイスラエルに向けて行われた討伐に余りにも似ている.それは子供十字軍と呼ばれた.


FT April 16 2004

Going, going, gold

April 19 (Bloomberg)

Why Is Europe Now Breaking Into Its Gold Vaults?

Matthew Lynn

(コメント) 金Goldは,価値の目減りしない資産として,しかも,世界中で決済できる支払手段として,実物への需要だけではない,貨幣としての需要が価格を高くしてきました.しかし,金が貨幣から切り離されて30年以上経ち,いよいよロンドンでロスチャイルド家が開いてきた金市場が閉鎖されることになりました.

金を貨幣として使用することは無駄であり,政府や中央銀行が,遂にフランスまで,金の廃貨を認めたことは素晴らしい,とFTは歓迎します.ケインズが強く求めたように.世界の貨幣が安定した価値をもち,国際的な決済が円滑に行えるなら,何の利子も生まない,価格の不安定な金を持ち歩く不便さと,それに費やされる資源の無駄には,誰もが我慢なりません.

世界最大の金保有国は,8000トン以上を保有するアメリカです.次が約3400トンのドイツ.IMFは3200トンで,フランスは3000トンと言われます.他にもヨーロッパ諸国の保有は多く,イタリア2451トン,スイス1592トンなどとなります.既にスイスやイギリスは公的に保有されていた金準備を,一部,市場で売却しました.過去30年間は,金保有を維持してきたヨーロッパ諸国,特に,フランスとドイツまでが金を市場で売却すれば,その価格は大きく下がるかもしれません.なぜ金を売る気になったのか?

Lynnは,四つの理由を指摘します.@金価格の高騰,A金保有自体の無駄(用途が無く,利子も付かない),B政府は財政赤字に苦しみ,増税以外の財源が欲しい,Cユーロの定着,です.すなわち,多くの通貨が混在し,競争的な不安定化の恐れが常にあったヨーロッパで,統一通貨が定着し,その導入に対する不安も後退してきた以上,ユーロの安定化に各国が金を保有する必要など,もはやないのです.もしユーロが崩壊すれば? そのときに金を保有していても,安定化には大して役立ちません.

ユーロは,こうして,各国中央銀行と金との心理的な結びつきを断ちました.もちろん,世界からインフレが消滅し,それだけでなく,できれば巨額の財政赤字に頼る政府や銀行システムの崩壊に至る金融革命・詐欺師・バブル,そして激しい長期的な戦争が,未来永劫に消滅したとわかれば,誰も金など貯蔵しないでしょう. ・・・つまり?


NYT April 16, 2004

Asia's Ill-Advised Umbrella

ST APRIL 19, 2004 MON

Signs look promising for Nato-like Asian security framework

By SUNANDA K. DATTA-RAY

ST APRIL 22, 2004 THU

Asia isn't ready for Nato-style alliance

SIMON S.C. TAY

(コメント) 日米安保条約以外に,アジアの安全保障を構想できるでしょうか?

NYTは,チェイニー副大統領の北京訪問に際して,ミサイル防衛網のアジアにおける構築を再考するべきだ,と注意します.日本も,当初,懐疑的であったミサイル防衛構想に,北朝鮮の脅威に対抗するため,積極的に参加するようになりました.しかし,莫大な財源と決定権を奪われたまま,当面は確実に打ち落とせる当ても無いミサイルを配備して,北朝鮮政府の自制を促すジェスチャーを国内向けに示すだけのようです.

NYTは,この構想から排除された中国が,台湾への軍事的決定権を失わないためにミサイルを増産して配備するだろうし,北朝鮮の非核化にも協力しにくくなる,と警告します.

これに対して,DATTA-RAYが扱うのはASEAN地域フォーラムARFです.それはヨーロッパの安全協力会議CSCEや北大西洋条約機構NATOに似た制度になれるでしょうか?

新しい日本のインド大使が,小泉首相からの円借款とともに,インドのARFへの参加を促しました.ASEANに加えて,中国,インド,日本がこれに参加し,アジアの安全保障を確立しよう,という構想です.中国はアメリカとの友好関係を維持していますが,アメリカ一極集中の世界を嫌います.また,インドも非同盟諸国の運動やWTOのカンクン会議で分裂の先頭に立ちましたが,反米や中国との対抗ではなく,国際的な自律した地位と役割を求めています.また,アメリカがパキスタンに接近しすぎていることを懸念し,カシミール問題や核軍拡の抑制でパキスタンと合意するために,アメリカとの関係を重視しています.日本はこれまで常にアメリカの行動に隠れていましたが,この新しい構想に積極的です.それは,アメリカがパキスタンだけでなく,インドも国際協調関係に取り込むために動いているからでしょう.

通貨危機や金融安定化のためのASEAN+3(日本,韓国,中国)に加えて,アジア地域安全保障のためのARF+3(中国,インド,日本)という構想が,現実に機能するかどうか,日中関係と今後の問題解決能力に注目したいです.

その先には,アジアが安全保障共同体となり,ヨーロッパのように市場統合や通貨統合,政治統合まで目指すのでしょうか? アジアの現状を見れば,中国とインドと日本が一致して安全保障を担える条件はありません.アジアは,明確な安全保障メカニズムを欠いたまま,アメリカ軍が基地を点在させて勢力均衡を図り,安全保障の能力を担保してきました.アメリカを排除するような形でアジア版NATOを実現することは現実的ではないでしょう.それでも,地域の主要な諸国が内部と相互関係に関わる問題を解決しなければなりません.


NYT April 16, 2004

The Vietnam Analogy

By PAUL KRUGMAN

WP Friday, April 16, 2004

This Is Hardly Vietnam

By Charles Krauthammer

(コメント) KRUGMANは,ブッシュの発言と行動に多くのヴェトナムを見ます.派遣された軍隊の規模,兵士たちの受けるストレス,戦争にかかる費用の調達,真実の情報を伝えない,まやかしの理想主義,いまさらイラクを捨てて帰れない.思い出しませんか? あの頃の,ドミノ理論.ニクソン.そしてウォーターゲート! 火曜日の会見では,再びブッシュがニクソンに重なります.これがヴェトナムと似ている,などと言って政府を批判する者は,兵士たちの士気を損ない,敵を利する奴らだ!

Krauthammerは,イラクにヴェトナムを見るのは旧世代の頭であって,新世代が新しい世界を築くまで「ヴェトナム症候群」も無くなりはしない,と切り捨てます.現実に戦われている戦場を見れば,それはヴェトナムではない.イラクに起きている反攻は,植民地解放闘争ではなく,多数派の支持を得ていない.各地が宗教的分派や軍閥に支配される国を,イラク人自身が望んではいない.しかし,ブッシュ大統領の抽象的な理想によっては,彼らの心をつかめない.イラク人は,民主主義の理想より,信仰や部族への忠誠を尊重するし,イラクにドゴールの指導したような反政府軍は無かった.ファルージャやサドル・シティーは,テト攻勢の悪夢と異なる.テトがあれほど破滅的であったのは,ヴェトナム正規軍が壊滅し,クロンカイトのようなアメリカのエスタブリッシュメントが心理的にも敗北を公認したからだ.ここは最善の世界ではないが,ヴェトナムの悪夢でもなく,現実の戦場だ,と.

BG April 18, 2004

The blunders of a president who doesn't know he made them

By Ellen Goodman, Globe Columnist

(コメント) 自分が何か失敗したか,だって? そんなこと思いつかないね,というブッシュ大統領に,誰もがきっと吐きそうだったはずです.しかし,所詮,「強い男・タフガイ」のイメージを傷つけたくないだけだ,と解釈する多くの者と違って,Goodmanはもっと恐ろしいことに気づきます.ブッシュは,本当に,間違いを犯さない,と信じているのではないか?

彼は,たとえフセインが9・11と無関係で,WMDを持っていなかったとしても,攻撃しただろう,と公言します.なぜなら,それは道徳的に正しいことだから.彼には信仰だけがあって,現実が無い.道義性は罪を犯さない.使命が正しければ,他のことは重要ではない.彼は自ら「十字軍」と称した.彼は決して謝罪しない.


LAT April 18, 2004

No Crystal Ball

By Moises Naim

(コメント) 大統領候補が何と言おうと,選挙公約と現実の外交政策は食い違うだろう,とNaimは予言します.なぜなら,どれほど超越した軍事力を持っていたとしても,アメリカ政府の制御できない力は世界に溢れており,大統領になれば,事態の変化に従い,選挙の公約など無視するしかないのです.クリントンが国際的な危機に翻弄され,ブッシュが自国本位の政策を約束していたように.

たとえば,もしブッシュが再選された場合,彼は一方的な行動を控えるし,国際機関やEUとの連携を重視するでしょう.なぜならすでに米軍は過剰に展開しており,財源も無く,新しい危機や攻撃があれば,もはや対応できないからです.自ら招いた対立で,国際協調を得るための制約は多く,イラク戦争を長期の民主主義拡大に再編すれば,アメリカだけで実行できないことは明白です.ブッシュ再選を熱烈に支持する右派は,多くの点で,失望するはずです.

他方,ケリーは,たとえそれが本心であっても,多角的な国際協調など役に立たないことを思い知るでしょう.どこかの独裁者に迅速な対応と取れるのは,国連ではなくアメリカしか居らず,イラク再建への協力がまとまらない限り,今以上に,ケリーは米軍を増補するしかないでしょう.そして,ブッシュと同じように,国連は頼りにならず,EUは文句ばかりで,意志も,資金も,軍備も持たないことに憤慨するのです.ブッシュより保護主義的で,ドル安を歓迎するケリーが,EUや日本と上手くやれるでしょうか? ケリーを支持する国際派も,いずれ,失望するはずです.


NYT April 16, 2004

Newest Export Out of China: Inflation Fears

By KEITH BRADSHER

ST APRIL 17, 2004 SAT

China's hot economy

NYT April 18, 2004

Looking for a Villain, and Finding One in China

By EDUARDO PORTER

(コメント) 世界の物価安定を担ってきたアメリカと中国が,次第に,インフレの兆候を示し始めました.米から鉄鋼まで,世界中の国際価格が上昇しています.価格の下限を示してきた中国製品が値上げすれば,その他の製品に波及します.中国が,デフレではなく,インフレを輸出する,と早くも警戒する声が聞かれます.

中国経済は既に過熱し,バブルである,と注意されます.確かに地方から流入する安価な労働力は尽きませんが,都市の消費物価は既に年7〜8%で上昇している,ということです.生活費の高騰は賃金を押し上げます.政府は金融引締めや,国営企業を介した物価統制など,インフレ抑制を目指しています.しかし,アメリカの過去の経験から見て,物価統制の効果は一時的でしかなく,その解除後にインフレが一気に加速します.

すでに中国の過大な成長路線は「ハード・ランディング」へ向かっているのではないか? 東南アジアが経験した1997−98年の金融危機が再来するのを回避できるのか? そのためには,ファンダメンタルズを強くして,銀行システムを健全に保つことです.しかし,不良債権は膨張し,地方の支店は融資を減らしません.政府は,不動産融資を規制し,開発区の承認を減らし,過剰投資を生じた個別部門に指導しています.しかし,失業が増加することを恐れて,金利は上げていません.自由化された経済活動に対して,政府の統制手段は効果を失っています.

PORTERは,アメリカの論調を伝えています.中国が資源などの国際価格を押し上げる一方で,最終財の価格を押し下げている.すなわち,アメリカ企業の利潤はなうなってしまう,とJohn H. Makinは警告します.しかも,中国の労働者は貯蓄してしまうので,世界の需要不均衡は拡大するばかりです.議会は,製造業部門における雇用喪失,260万人の救出に駆けつけます.

しかし,中国の影響は部分的であり,しかも誇張されている,とバグワッティや米連銀の報告書は指摘します.中国が世界に対する貿易黒字は160億ドル,アメリカの赤字は5170億ドルです.中国は世界輸出額や世界GDPの5%を占めるに過ぎません.他方,Prestowitzのように,中国の将来の経済規模を心配するから,今から貿易政策を熟慮すべきだ,という意見もあります.

もしアメリカの景気が良く,雇用が活発に生まれているなら,中国からの輸入はむしろ感謝されたでしょう.アメリカの消費者を喜ばせ,アメリカの輸出に新しい市場をもたらし,アメリカの財政赤字を債券購入で融資して,金利を低くしてくれるのです.日本やアジアに対して,何度か,不安や不満が高まったように,中国との摩擦も誤解であるが,有権者と政治家には無視できない,と.


WP Friday, April 16, 2004

Focus on Iraqi Politics

By Ivo Daalder and Anthony Lake

(コメント) ヴェトナムと同じように,常に,勝利には戦略的なジレンマが含まれます.しかし,最も重要なことは,イラクに,国民が支持する安定した政府を樹立することだ,と.Daalder and Lakeは考えます.そのような政府があって,初めて,問題を政治的に処理できるようになるのです.

そのために必要な視点は5つです.@6月末の政権移譲は延期する.A来年初めに予定されている国民選挙と議会に,暫定政権を指名させる.Bアメリカ軍は撤退せずに,選挙の治安を維持するために増強する.Cアメリカ軍の増援で,他の同盟諸国の動揺を抑える.Dアメリカの指名した現在の統治評議会よりも,国際社会が受け入れやすい組織に改変する.


LAT April 17, 2004

Outsourced? Don't Fall Into Severance Trap

By Douglas E. Welch(computer consultant)

BG April 21, 2004

The problem with outsourcing

By Robert Kuttner

(コメント) Welchは,自分が職を失うために,交代する労働者の技術を向上させるような失礼な要求に,労働者は従ってはならない,と訴えます.労働者は企業に金融的債務を負わないようにして,いつでも企業を移る用意が要る,と.

Kuttnerは,アウトソーシングが重要でないとは思いませんし,簡単に解決できるとも言いません.アウトソーシングで新しいのは,単位賃金格差があるだけでなく,彼らが奪う職場で生産されたものを,彼ら自身が購入できないような賃金しかもらっていない,ということです.

さらに,アウトソーシングを起こしている背景には,生産性上昇,貿易赤字,規制緩和,が関係しています.生産性が上昇すれば,生活水準が改善されるはずです.しかし,アウトソーシングが激しいと,生産性上昇の利益は労働者に残りません.また,もし輸入が雇用を流出させるとしても,輸出が雇用を追加するはずです.しかし,アメリカは大幅な貿易赤字を続けています.そして,かつては安定した高賃金を保証したはずの職場が,急速に規制緩和され,海外の安価な労働者を使った企業の新規参入によって,安定した職場が失われました.

アメリカは,安定した高賃金経済を取り戻せるでしょうか?


NYT April 18, 2004

A Strange Ban on Testing Beef

(コメント) カンサスの小さな食肉加工業者Creekstone Farms Premium Beefが,日本に輸出する高価格の黒毛アンガス牛を,全頭検査したい,と申し出たことに対して,アメリカ農務省は反対しました.アメリカでは,まだ1頭しか見つかっていないBSEについて,全頭検査というコストを強いることはできない,と考えるからです.しかし,民間業者が行う検査を政府が禁じるのは間違っている,とNYTは反駁します.また,それは食肉業界の利益を守るためだって,消費者の安全を軽視している,と批判します.他方,アメリカ政府は,日本が要求を緩和するよう,圧力をかけています.


The Guardian, Monday April 19, 2004

The terror of Bush's war on America

Peter Preston

何と虚弱な民主主義か!? それはアメリカの誕生時から仕組まれたように,エスタブリッシュメントをモッブから守る仕組みと,さまざまな支配者の言説,そのための戦争や危機,ジャーナリストたちの叫びに満ちていた.

狂信的な入植者たちの小さな村を守るために戦車やミサイルを使って殺人を繰り返すとしても,確かに選挙で政権に就いたシャロン氏は,ブッシュ大統領に歓迎され,ホワイト・ハウスの前の芝生で抱擁される.何が民主主義で,何がテロリストか?

アメリカがイラクに届ける民主主義とは? 一人のムラー(聖職者)に一つの投票権.一本のパイプラインに一つの省庁.一つの暗殺で,議席を一つ空ける.チャラビのためにテレビ・コマーシャルを.そして反対する者は,死をもって報いるべき敵である.


WP Monday, April 19, 2004

Helping Labor Through Trade

By Robert B. Zoellick (the U.S. trade representative)

(コメント) ゼーリック通商代表が,ブッシュ政権の自由貿易協定FTAを支持する姿勢について説明しています.要点は,アメリカの進めるFTAは,貿易と雇用を拡大し,労働基準や環境基準を高め,貧しい諸国を豊かにする点から考えて,労働組合や市民団体は支持するべきだ,ということです.

なぜアメリカよりも進んだ社会福祉国家のオーストラリアとFTAを結ぶことにまで労働組合は反対するのか? なぜ貧しい国の労働基準や環境保護を支援するアメリカ政府やNGOの活動が有効であることを無視するのか? 貿易を拒否して,貧しい諸国がその状況を打開するチャンスも与えないのか? と.


FT April 20 2004

Martin Wolf: China makes its mark

By Martin Wolf

April 21 (Bloomberg)

How Pandas Could Help Boost Growth in Asia

William Pesek Jr.

WP Tuesday, April 20, 2004

Is China's Economy Overheating?

By David Ignatius

FT April 22 2004

China's growth masks weaknesses

By Yasheng Huang

(コメント) 国際商品市場に価格上昇が現れています.その理由を,Wolfは,@ドル安,Aアメリカなど,世界景気の回復,B中国からの需要,という三つの要因で考察します.最初の二つは一時的,もしくは循環的ですが,最後,つまり中国の登場は構造的な要因です.歴史的に何度も新しい経済が世界市場に登場しましたが,中国とインドは今までの経験を超えているでしょう.しかしWolfは,ダイナミックな市場が形成されるなら,それは発達した諸国にとって歓迎すべきことだ,と考えます.

Pesek Jr.が注目するのは,中国と台湾との関係です.政治的な関係の悪化によって,1000億ドルを大陸に投資している台湾企業が損なわれれば,アジア経済全体に悪影響を及ぼすでしょう.一層の経済統合のためにも,北京政府は台湾国民の多くがただちに再統一を望んでいない現実に歩み寄るべきである,と主張します.たとえば,直接に人の交流を認め,オリンピックや万国博にも台湾を参加させてはどうか? と.

「バブルの中では,人はそれが永遠に続くと信じ始める」というIgnatiusは,中国のさまざまな様子を描きます.北京の高級マンション.100%前後も投資を増やした鉄鋼,アルミニウム,セメント産業.抑制したいが,反動による不況を恐れる優秀な官僚たち.人民元を変動させて資本取引も自由化するべきか? それは金融政策を容易にするのか,それとも通貨危機を招くのか? 中国が倒れれば,日本もアジアも無事では済まない.

バブルは過ちを見えなくします.特に,20年以上にわたる素晴らしいマクロ経済の成果を前提にしながら,ミクロ経済の成功が見られないのはどうしてか? すなわち,膨大な貯蓄や国内市場の拡大がありながら,なぜ世界市場でも評価されるような中国企業は育たないのか? それは,政府や制度が資源を正しく配分せず,特に,国営企業の再生や延命のために資源を浪費し,それを民間企業に負担させているからです.もしミクロ経済のこのような浪費が続けば,当然,いつかマクロ経済も悪化するでしょう.


April 20 (Bloomberg)

Will Asian Bond Fund Foil Crisis, or Cause It?

Andy Mukherjee

(コメント) アジア通貨危機のもたらした不況が,もしアジア諸国があれほど銀行融資に依存して発展したのでなかったら,つまり債券市場があったら,もっと緩和されたのではないか,と主張されていました.アジア債券基金Asian Bond Fundは,各国の中央銀行が資金を出し合って,債券市場育成のために投資するものです.

それは最初10億ドルをプールして,アメリカの財務省証券を買いました.その問題点とは,規模が小さく,しかも,ドル建の債券を購入するだけでは,アジアの債券市場が育成できない,ということです.そこで,第二回目は,地域通貨建ての債券を,もっと大規模に購入することが検討されています.

しかし,一方では,アジア各国が自国の国内投資をクラウド・アウトしないように,債券発行を抑制したがります.また,中国やマレーシアのように,固定為替レートを維持するために資本規制している場合,アジア債券市場は制約されます.もし彼らが固定レートを維持したまま,資本移動を自由化したら,アジア債券市場は国際投資家の餌食になるでしょう.


LAT April 20, 2004

With God on His Side ...

Robert Scheer:

(コメント) 神聖な戦争,新しい十字軍を興し,神に仕える以上,ブッシュ氏が議会とアメリカ国民を欺き,合衆国憲法を無視し,パウエル国務長官のような,軍事指導者にして政府の重要閣僚である人物にさえ秘密裏に,戦争準備を進めたこともやむを得ない? 要するに,彼は神の意志を伝えただけだ!


NYT April 20, 2004

Questions of Interest

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ここでKRUGMANが批判しているのは,ブッシュ大統領ではなく,連銀のグリーンスパン議長です.アメリカ経済は必ずしも安泰ではない,とIMFが警鐘を鳴らしました.

なぜなら,もし景気が本格的に回復するのであれば,今の金利は低すぎるからです.政治を抜きにしても,債券市場では金利が48年ぶりの低水準です.グリーンスパンの曖昧な言葉を解読するより,過去10年間の平均を基準にすれば,債券市場は4.3%ではなく7%,モーゲージ金利は5.8%ではなく8.5%に達するはずです.その大幅な変化によって金融市場の混乱が起ききるのも当然です.

KRUGMANは,過去10年に比べて,期待インフレ率は下がっただろう,という反論を無視します.なぜなら,2004年の最初の3ヶ月で年率5%以上のインフレが再現しているからです.しかも,たとえ今は大統領の顧問として別のことを言っても,マンキューがテキストに太字で強調したことは正しいのです.「政府が財政赤字によって国民貯蓄を減らせば,金利は上昇する.」

最悪のケースを考えておけば,巨額の財政赤字と貿易赤字を抱えるアメリカは発展途上国と同じです.そのことに金融市場が気づくなら,このバナナ共和国政府にも天井知らずの金利を要求するだろう.アメリカ人の家族が一斉に問題に直面するのはもちろんだ.グリーンスパンが変動金利のモーゲージを絶賛しても,彼のせいでバブル騒ぎに苦しんだことを思い出して,そんな推奨など無視することだ,と.


NYT April 21, 2004

Privatizing Warfare

(コメント) 13万人のアメリカ兵に対して,約2万人の民間契約による兵士がイラクに居ます.警備員の報酬は,日に1500ドルとも言われます.食事の用意や清掃ではなく,戦闘行為そのものを民間業者に外注することが何を意味するか? まだ,幾つかの記事があるだけで,その分析はどれも曖昧に終わっています.


FT April 22 2004

A united effort will restore the global economy

By John Snow (US Treasury secretary)

FT April 22 2004

The unhelpful recovering dollar

(コメント) G7の前に,アメリカのスノー財務長官は,世界経済を再建する自信を示しました.減税政策によって,アメリカは景気回復を率先し,日本もEUも回復しつつあります.問題は,財政赤字と経常収支赤字という,いわゆる「双子の赤字」が再現したことです.スノー氏は財政赤字について,短期と長期の取り組みを示します.短期的には,減税にもかかわらずアメリカ経済が回復して税収が増すこと,長期的には医療費の負担が増えることを考えておくべきだ,というに留まります.経常収支赤字に就いては,ほとんど何も述べていません.赤字は,アメリカの景気回復が他の地域よりも進んだことと,アメリカ企業の積極的な投資と生産性上昇により,世界から資本を引き寄せた,と理解しています.つまり,赤字であっても心配は要らない,というわけです.

これは,要するに,新しい世界マクロ経済の思想です.生産的な投資が市場によって組織されているのであるから,財政赤字が制御されているなら,政府は何もしなくて良いのです.あるいは,赤字国としては,そのように振舞うしかない,と言うべきでしょうか.

しかし,G7の主要テーマは,むしろドル安が終わってドル高に向かい始めたことかもしれません.アメリカの経常赤字が容易に減るはずも無く,再びドル高に進むようでは,不均衡の拡大さえ心配されます.アメリカが増税や消費を抑制するような社会保障制度の改革などを目指すのでなければ,緩やかなドル安は世界がもっとも政治的に受け入れやすい選択肢なのです.


April 22 (Bloomberg)

Why Should China Listen to IMF's Advice on Yuan?

David DeRosa

(コメント) 中国は人民元を,IMFが言うように,「より弾力的に」するべきでしょうか? すなわち,ドルに対する8.28の固定レートを放棄する? 元の為替レートを市場の需給に任せる? 一回限りの切上げを行う? ターゲット・ゾーンを設ける? その場合,ヨーロッパの経験(ERM)が参考になる,とDeRosaは言います.

しかし,その経験は決して上手くいかなかった,と考えます.1992年9月と1993年8月の大きな危機を含めて,何度も小さな危機を経験しました.ブレトン・ウッズ体制が崩壊したように,ターゲット・ゾーンは維持できない,と考えるDeRosaは,唯一の道は変動レートに参加して,世界の通貨市場で主要なプレーヤーになることだ,と主張します.

IMFはアルゼンチンに間違った助言を繰り返し,結局,破綻させました.今週,新しい専務理事として55歳のスペインの経済大臣Rodrigo Ratoが指名されています.そして,IMFと世銀をヨーロッパとアメリカの政治が談合する世界で,中国が彼らの助言をまじめに聞くはずも無い,と.


BG April 22, 2004

Kerry's UN fetish

By Jeff Jacoby

(コメント) ブッシュを批判して,ケリーは国連を重視します.イラクをどうするか? ケリーにとって,アメリカ軍を縮小し,国連を強化する,というのが答えです.「国連は合衆国ではない.("The United Nations, not the United States.")」「もし私が大統領なら,自ら国連に出向くだけでなく,他国の首都に行って協力を求める.」

この選挙は,自由の大儀,テロ撲滅,の路線と,より強力な国連,との選択です.


NYT April 22, 2004

Losing Our Edge?

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) アメリカはグローバリゼーションを二つの戦線で戦っている,とFRIEDMANは考えます.一つは,イラクなどに展開する,「テロとの戦争」,もう一つは,インド,中国,日本など,「国際競争力と技術革新をめぐる競争」です.なぜアメリカ企業は中国に工場を建てるのか? 経営者は,低賃金ではない,と言います.賃金は生産コストのごく小さな部分です.むしろ,中国が供給する膨大な科学者や才能ある若者を囲い込みたいのです.中国は,政府を挙げて,企業を誘致し,税制などで優遇します.他方,アメリカはさまざまな安全保障上の措置や規制を増やし,必要な外国の技術者も容易に入国できません.

かつて世界中から才能ある人々を惹きつけてきたアメリカが,今や,もう一つの戦いで敗北しつつあります.

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The Economist, April 10th 2004

The challenge in Iraq

Private security firm in Iraq: Dangerous work

(コメント) 上手くいけば,アメリカ軍は権力をイラク国民が支持する政府に移譲し,さまざまな役割を任せて帰国できるはずです.しかし,他方で,アメリカ軍が役割を減らせば,民間の軍事サービス企業が貧しい国への国際援助から潤沢な利益の上がるビジネスを拡大しているのかもしれません.もちろん,民間の軍事サービスは,戦争と同じように,歴史的に古くからあります.新しいことは,その規模,関わり方,そしてビジネス思考です.冷戦終結と自由市場の拡大で,世界中の軍事予算が削られ,軍隊を解雇された人々と,軍事サービスを必要とする人々が,世界の異なった地域で契約を交わし始めたのです.同時に,ラムズフェルドが試みたように,軍事技術の発達は,ますます少数の軍事専門家で圧倒的な兵力を動かせます.さまざまな戦争の勝敗が,彼ら「戦争の犬たち」によって決まるのです.

彼らを規制する国際体制はありません.彼らは政府間の合意を無視して軍事行動を請け負います.あるいは,政府は国際条約を無視できます.彼らは犯罪組織や独裁者とも契約し,戦争の当事者双方から利益を得ます.彼らの行動は,倫理的にも,政治的にも,事後的なチェックを受けません.軍事技術の進歩にともなって,彼らが消え去ることは無く,ますます膨張するようです.


North-East Asian diplomacy: Ties that grind

Exchange rates: Weighing it up

(コメント) アジア諸国を結ぶ貿易と投資のパイプは,金融危機や政治的機を超えて,拡大し続けています.たとえ領土問題で避難し合い,日本人が中国人や韓国人にどれほど嫌われているとわかっていても,利益のために互いを必要としている相手であれば,和解と統合を呼びかけることは自然の流れです.理想としては,北朝鮮であれ,東南アジアであれ,彼らは協力し合って利益を増やすような解決策に関心を向けるでしょう.

他方,為替レートの調整と安定化は,ますますデリケートな問題になります.マレーシアのようにドルに対して通貨の価値を固定するだけでは,他の通貨との調整が上手くいきません.また,資本規制もなくせません.特に,中国がドルに対して増価すれば,マレーシアも容易に増価できます.輸出指向のアジアの諸通貨は連動するしかないわけです.