IPEの果樹園2004

今週のReview

4/19-4/24

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世界の最優秀な人気サッカー選手の年棒は100億円を超えます.ヘッジ・ファンドのトレーダーや,日本の金融機関のファンド・マネージャーでも,数十億円のボーナスをもらう人が出ているようです.ビル・ゲイツやジョージ・ソロスの資産,その年間所得が,一体,どれくらいになるのか,私には想像できません.

世界には,今でも,靴を買えずに裸足で学校へ通う子供や,ランチのお金が払えないから水を飲んで我慢する子供が多く居るはずです.彼らが靴を履き,空腹に苦しまず,教室で学び,通りではなく屋内で眠れる方が,世界は幸せでしょう.グローバリゼーションは,納得できないことで一杯です.

個人ではなく,非常に貧しい国と,非常に豊かな国の場合,所得の格差をなくすいくつかの方法があると思います.最も簡単な方法は,異なる貨幣の交換レートを変更することです.もしビル・ゲイツ一人の国と,裸足の少年が100万人居る国とがあれば,両国の通貨間で為替レートを調整して,所得水準を一致させることができるわけです.・・・本当に?

たとえば,ゲイツ・ドルと裸足・ドルとは,USドルに対して,それまで1:1でしたが,ゲイツ・ドルを1億分の1に切下げ,裸足・ドルを100倍に切上げます.しかし,実際には,外国為替市場の需給を理由にして,逆の政策が選択されます.たとえば,ゲイツ・ドルは50%増価し,裸足・ドルは20分の1に減価するのです.

なぜか? それは,彼らが何を売っているかによると思います.ビル・ゲイツはMS株式を販売しますが,裸足の少年は国境沿いの朽ちた工場で運動靴を作り,売っています.世界の富が急速に金融資産となって膨張し,他方,運動靴はますます市場で売れ残り,値段が下がる限り,通貨価値もその将来の変化を予想して動くわけです.

もし世界革命が実現すれば(つまり,裸足の少年たちが世界帝国を築けば,ビル・ゲイツの資産を没収するか,大幅に課税して),ビル・ゲイツは運動靴を作り,裸足の子供たちがその靴を履いて学校へ通うでしょう.そして彼らは立派な労働者や市民となり,豊かな社会を建設します.それが社会的に見て正しいと考え,その理想を,たとえ一部であれ,中国革命やキューバ革命は実現しました.

あるいは,裸足の子供たちがどんどん海外に移住して,ビル・ゲイツの召使や料理人,看護婦,清掃夫,皿洗い,靴磨き,建設工事の労働者,ライン・ダンス・ショーやプール・サイドに控えるエレガントな侍女,などになった方が良いのでしょうか? これも,かつて王侯貴族や財閥,そして今や世界に広がる,要塞となった富裕層(ニュー・リッチ)の郊外住宅地などで,ある程度,実現していることです.

しかし,普通,為替レートによる富の生産と分配に関する「調整過程」は,世界革命でも移民でもなく,各国内の消費や投資を微調整する形で実現できる,と期待されています.発達した市場を持つ,弾力性に富んだ国であれば,大規模な国内市場によってショックを吸収しながら,国内で資源を再配置する,と考えるからです.

市場が未発達で,経済活動も硬直的な場合,辺境の小国で頻繁に革命が起き,大規模に移民が流出するのは,現代の社会的な安定化装置が不足しているからだと思います.もし資本移動ではなく貿易が,貿易ではなく移民が,直接に所得格差や変動を調整するために起きるなら,大陸規模で貧困と革命が輸出されるか,あるいは豊かな人々がもっと真剣に安定化装置に投資したでしょう.フェンスを築いたり,軍隊を送ったりするのは「最後の手段」です.

東西ドイツの統合に際して,通貨を1:1で統合するとともに,失業対策や民間投資促進のため,大規模な財政移転を行いました.朝鮮半島の再統一や,日本と中国との市場統合は,どのような形を取るのか? たとえばアジア規模で,通貨制度を改革し,財源を移転し,社会的な投資を行って,法律が整備された時代が到来し,かつての裸足の子供たちが学校で楽しく給食を食べ,日本からの奨学金で中学や高校にも進学できる,と喜んでいるニュース映像を観たいものです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times


ST APRIL 9, 2004 FRI

Asia's rail revolution on a roll

By Anthony Paul

(コメント) シンガポールからバンコク,あるいは北京,さらにシベリアを経てロンドンまで? 南はオーストラリアの南端まで! アジア太平洋地域に鉄道輸送網が形成されそうです.

なぜ鉄道か? 建設資金,鉄鋼生産能力,貨物・人の輸送需要,政治的意志,建設における労働吸収力,特に若者の不満解消,その他,アジアの政治経済的な構造変化が,今,超国家規模の鉄道網を求めているわけです.アメリカとほとんど同じ規模のアメリカで,一人当たり鉄道敷設距離は113cmです.中国はわずか5.5cm.残りの107.5cmを建設するビジネスへの空想が,多くの熱狂をもたらします.

高速道路や空港の整備,海上輸送の統一も加えれば,アジアが一つの土地と意識を持つ条件は急速に整いつつあるわけです.


BG, 4/9/2004

Is America facing an Iraqi intifadah?

By H.D.S. Greenway

LAT April 9, 2004

Fury Ignites Solidarity in Iraq

By Naomi Klein

(コメント) アメリカは既に,イスラエルと同じような「インティファーダ」と戦っているのか? 確かに,アメリカはこの占領を現地政府に権力を移譲するまでの移行期間に限っている.他方,イスラエルは自ら占領して,永久に支配しようとする土地が常に問題だ.しかし,アメリカがイラクを支配する方法は,イスラエルの軍人が教えている.そのイスラエルが,ガザ地区やヨルダン川西岸で治安を回復できなかったことは深刻だ.そして,アメリカが政権移譲しても,アメリカの軍事基地や大使館はイラク政府を監視するでしょう.

どのような両者の違いを指摘しても,イスラエルとアメリカはアラブ人たちを支配し,多くのアラブ人を殺しています.ブッシュ氏の父は,クウェートを開放した後,バクダッドを陥落させなかったことについて,その危険性を自覚していました.アメリカがバクダッドを攻撃することは,国連が認めた使命を超えてしまい,国際的な協調への逸脱を罰することから,むしろ,自ら逸脱そのものになってしまう,と.

ラムズフェルドは,抵抗が一部の「人殺し,ギャング,テロリストたちでしかない」と言います.しかし,それも危険な,自分勝手な妄想でしょう.占領に対する戦いは,次第に公然と,自分たちの住居(そして故郷)を守る,イラクのインテリファーダになりつつあります.

サドル・シティーをサドル氏のマフディー軍団が統治していたのは,ブレマー行政長官がバクダッドの治安さえ回復できない権力の空白を満たすためでした.ところが,6月末の政権移譲を控えて,サドルの排除を企て,戦車を送って教会を攻撃し,マフディー軍団を排除します.米軍に焼かれた自動車とその運転手,街中の住宅のドアに残された弾痕,住民たちは「戦車が民家を押し潰し,4歳の子供を含む家族4人を殺戮した」と証言します.

木曜日,ついに恐れていたものをKleinは見出します.銃弾で穴だらけになったコーランです.サドル・シティーのサドル本部は破壊され,ミサイルによって屋根が落ちていました.しかし,もっとも激しい破壊は兵士たちの手で行われました.イラク・シーア派最高のアヤトラであるシスタニの肖像画を破り捨て,宗教的な文書がごみとなりました.同じ頃,スンニー派のファルージャでもモスクが攻撃されていました.

ホワイト・ハウスは,イラク国内でシーア派とスンニー派とが内戦に突入する,と繰り返し予告してきました.今,その反対のことが起きたのです.住宅を破壊し,聖地を汚すアメリカ軍の蛮行に,彼らは協力して戦い始めました.過去の軋轢を忘れて,ファルージャで傷ついたスンニー派の信者のために,多くのシーア派信者が献血に並びました.「ブレマーに感謝する.彼は遂にイラクを団結させた. ・・・アメリカを打倒せよ!」


NYT April 9, 2004

The Empty Room

By BOB HERBERT

NYT April 13, 2004

The Uncertainty Factor

By DAVID BROOKS

(コメント) イラクで流血が続く中,アメリカ議会の9・11究明委員会ではライス女史が証言しています.ブッシュ政権は9・11前にそのハイジャックによるテロ行為を正確に知ることはできず,具体的な対策を取りえなかった,誰にも責任は無い,というわけです.ブッシュ氏はライスの証言に満足し,牧場から電話して,よくやった,とねぎらいました.

これ以上に,シュールリアルなことはない,とHERBERTは憤慨します.戦争を起こし,すでに634名のアメリカ兵が命を落とし,数十億ドルの戦費を失いながら,ブッシュ政権には未だに事態を収拾する現実的な計画が無い.軍隊がどれほど要るのか? 政権移譲や長期の見通しも無い.それは,まるで空っぽの部屋のドアを間違えて開けたようだ.その間にも人々は死んでいる.

ブッシュ氏は,戦闘に加わる男女の命に責任を持つ,タフな司令官として行動しているというより,何度でもできるビデオ・ゲームの機械を操るかのように行動する.彼が選挙資金を集めれば集めるほど,兵士たちの葬式が増えるだろう.最新の兵器を大量に投入すれば,戦闘に勝つのは容易かも知れない.しかし,ヴェトナムで知ったように,アメリカ兵といっしょに命をかけて戦う者は居ない.多くの民間人を殺害し,多くの子供まで殺した.アメリカ軍がイラク人の心をつかむことはできない,と.

20年前に,レーガン政権の国務長官であったシュルツGeorge Shultzが,テロとの戦いについて演説しました.もしテロと戦うのであれば,われわれは彼らが攻撃する前に,彼らが行動する十分な証拠が無くても,先制攻撃しなければならない.そこには非常に多くの不確実性があるからこそ,戦いの場所と時間を,われわれが選択しなければならない,と述べました.他方,国防長官のCaspar Weinbergerは,不確実であるからこそ慎重でなければならない,と主張しました.二人の老練な学者であり政治家が対立したように,その判断は困難です.BROOKSは,ブッシュ氏の9・11後の対応に,彼らの時代の成熟からは大きく劣る,子供っぽい危険を感じます.


NYT April 9, 2004

As Prices Rise in China, Signs of Inflation

By KEITH BRADSHER

April 13 (Bloomberg)

China's Spending Fury Points to `Moral Hazard'

Andy Mukherjee

NYT April 13, 2004

China Takes Another Step to Tighten Monetary Policy

By KEITH BRADSHER

(コメント) 世界経済は,アメリカの消費と,中国の生産によって拡大しています.もし中国が顕著なインフレを示せば,このエンジンを止める危険があります.ただし,中国政府が公表するインフレのデータは曖昧で,インフレを抑制する政策手段も効果が不明確です.

Mukherjeeの記事に驚きました.アジア通貨危機でも繰り返し議論された「モラル・ハザード」のゲームが,中国の国内金融・財政システムにビルト・インされています.銀行は政府によって赤字を穴埋めされます.地方政府はさまざまな公共投資や事業を起こし,銀行の地方支店に融資させます.関係者はすべて大きな利益を手にするでしょう.ただし,融資は返済されません.不良債権は問題です.でもそれは,自分たちの問題ではなく,北京政府の問題です.

この不安定化装置は,世界的な規模で問題を起こしています.中国の景気過熱が,国際商品市場で価格上昇を招いているのです.中国企業は生産コストが上昇し,ますます巨額の投資を行いながら,厳しい競争で価格を小売になかなか転嫁できず,利潤がなくなってしまいます.それでも物によってインフレが見られ,人民銀行は銀行に融資を抑制させようとしています.しかし,地方政府も,銀行も,そのような命令には従いません.このままでは,ハード・ランディングが避けられない,と言います.

自分の家を燃やすようなモラル・ハザードをなくすには,行為の責任を行為者に求める明確な動機とコストの関係を制度化することです.中国にとって,それは政府から独立した商業銀行に融資の判断を委ね,不良債権のコストを自分で支払わせることです.しかし,金融破綻も避けたいけれど,インフレ抑制のために厳しい金融引き締めを行えば,中国の成長エンジンを止めてしまう心配があります.


ST APRIL 10, 2004 SAT

Striving for the right balance between security and freedom

By RALF DAHRENDORF

Karl Popperは,なぜ『開かれた社会とその敵』を完成しなかったのか? 自由であることは,常に,リスクを伴う.けれど,もし安全が保証されなければ,リスクは単に脅威でしかなく,新しい機会とはならない.これが彼の研究のモチーフだった.では,誰が安全を確保してくれるのか? 自由と安全の,どちらがより重要な価値なのか? 世界中の都市はテロ攻撃に備えねばならず,地球は徐々に温暖化し,一方は人口爆発,他方は高齢化に悩み,世界各地の文化が滅びつつある.何よりも,人々の雇用は急速にその確実さを失っている.

人生は絶えず不確実な中での挑戦である.不確実さを減らすとき,私たちは自由もいくらか失う.もっと効果的に,私たちは不確実さを予測しなければならない.そして,確実な領域を,安定性の小島を確保することも一つだ.しかし,完全に不確実さの無い社会は,自由を失うだろう.偽者の神を崇めることなく,私たちは不確実さの中で,リスクに挑戦する.


WP Friday, April 9, 2004

Follow the Exit Signs

By Robert Byrd

NYT April 10, 2004

Take a Deep Breath

By DAVID BROOKS

NYT April 10, 2004

In Iraq, Give Peace a Chance

By YITZHAK NAKASH

(コメント) 40年前,アメリカはヴェトナムのジャングルで5万8000人の命を失い,何を得たのか? アメリカは憎まれ,支持を失った.ブッシュ大統領は,今すぐ,イラクから撤退するべきだ,とByrd上院議員やKennedy上院議員は言います.

他方,BROOKSは地域研究者・専門家たちと話し合い,まず落ち着いて事態を再考せよ,と言います.アメリカは,イラク人の多くも望んでいる民主的な国家の建設に尽力している.そのために,治安を回復し,武装した反対派の妨害を排除しなければならない,と.特に,サドルに対する彼の攻撃は容赦ないものです.サドルは民主主義を破壊し,文明を憎んでいる.彼との戦いは避けられず,イラク再建に必要だ,と.

また,Nakashは,シスタニ氏とサドル氏とのシーア派内における主導権争いを重視し,彼らの間で宗教的な和解が可能である以上,また,アメリカ軍と民主化計画に対しても妥協してくる余地がある,と主張します.イスラム教の指導者が参加する政治体制が,民主的な選挙というアメリカの求める基準と妥協できる余地もあります.


NYT April 10, 2004

A Shortage of Seasonal Workers Is Feared

By EDUARDO PORTER

BG 4/11/2004

Keeping immigrants down

(コメント) 9・11や「アウトソーシング」の論争で,移民労働者への入国許可が抑制されています.しかし,アメリカの労働市場は移民なしには機能しない部分が多くあります.短期雇用ビザをめぐる政治論争が,逆に,それと補完するアメリカ人の雇用を破壊するかもしれません.

また,移民を通じてアメリカの生産性を高められる(それによってすべての者が利益を受けられる)ことが,移民を導入する究極の目的だ,という説明には,移民労働者の現実とかけ離れた印象を持ちます.


WP Saturday, April 10, 2004

Vietnam's Lessons Then and Now

By Colbert I. King

WP Saturday, April 10, 2004

Terror and The War Of Ideas

By Fareed Zakaria

Arab News, Sunday, 11, April, 2004 (21, Safar, 1425)

Iraq Echoes French Experience in Algeria

Andrew J. Bacevich, LA Times

(コメント) Kingは,パウエルの著書を引用しながら,ブッシュのイラク戦争を批判します.パウエルはヴェトナムの失敗をふり返って,クラウゼヴィッツの原理を守らなかったことに言及します.すなわち,「戦争によって何を得たいのか,それをどのように得るのか,明確に考えた後でなければ,戦争を始めてはならない.」また,「政治指導者たちが戦争の目的を決め,軍隊はそれを達成する.ヴェトナムでは,一方が他方に答えを求めたが,それは得られなかった.」

イラクでは,ブッシュ政権の目標が変化し,それを達成する方法も定まらない.すなわち,勝利できない.大統領は,週末,牧場でBernard Fallのヴェトナム戦争に関する本 'Street Without Joy.'を読むべきだ,と.

Zakariaは,現代のテロリズムは政府を必要としなくなった,と言います.それは,開かれた社会と,破壊的な技術へのアクセス,そして世界的規模の憎しみ,が既に存在するからです.しかし,テロリズムが容易になったとは言え,実行犯を動かす憎しみを教化する作業は不可欠です.すなわち,テロとの戦争に勝利するには,この憎しみを支配するイデオロギーに勝利しなければならない,ということです.

ペンタゴンは,ドキュメント映画の名作『アルジェの戦い』も観るべきです.なぜ軍事力に勝るフランス軍が,FNL民族解放戦線に負けたのか? それは,アルジェの反乱鎮圧に正規の軍事作戦が効果を上げず,フランス軍が拷問や暗殺といったテロリズムに走って,最後の正当性(テロからの解放を実現する目標)まで失ったからです.イラクのアメリカ軍は,今,その分岐点にある,とBacevichは考えます


FT April 11 2004

Amity Shlaes: Kerry's class war

By Amity Shlaes

(コメント) ブッシュはイラクで戦うが,ケリーは国内の戦争を始めた.階級戦争 class war だ! すなわち,所得階層の上位2%に増税し,98%には減税する,と言います.もちろん,それはアメリカの伝統的な政治手法です.しかし,ケリー氏が示す特徴とは,まず,アウトソーシング対策として,法人税を減税します.この税制保護主義の効果は疑わしいし,彼の妻は多国籍企業ハインツの大株主です.また,最高所得階層の税率をクリントンの頃の水準に戻します.彼らには,課税しやすいから.

しかし,インフレの時期に,中産階級の「納税者の叛乱」を背景として増税できた頃とは話が違います.ケリーは増税対象者を「金持ち」と呼んで「悪者」扱いします.しかし,そのような戦略は階級戦争を過熱させ,成長を損なうだろう,とShlaesは警告します.


NYT April 11, 2004

Nasty, Brutish and Short

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) もしアメリカがこのホッブス的な最悪期を生き延びられるとしたら,そのために必要な三つの対話を行わねばならない,とFRIEDMANは言います.すなわち,ブッシュ氏がその父と対話し,統治評議会はクルド人と対話し,アラブの政治指導者たちはその子供たちと対話しなければなりません.

ブッシュ氏の父は,たとえクウェートからフセインを追い出すだけでも,NATO諸国はもちろん,アラブ諸国の協力が如何に重要であったか,を教えるでしょう.バクダッドを征服し,イラクを民主化するのであれば,必要な支持と正当性は,一層,重要であり,大きいものです.他方,戦争や占領においてクルド人の組織が唯一の頼りであったにしても,イラク統治に果たすクルド人の地位や憲法に保障する少数派の地位を,多数派のシーア派と妥協させなければなりません.

何より,今の戦闘では,アメリカ軍とイラク民衆ではなく,むしろイラクの将来をめぐってイラク人自身の派閥が戦っているのです.もしアメリカが支援するイラク民主化が敗北し,この地域全体の改革は勢力が政治的な影響力を失えば,アラブは再び政治的な抑圧と経済停滞に沈むでしょう.FRIEDMANは,アラブの政治指導者たちに,若者たちと対話することを求めます.彼らが求める将来のアラブ世界を,今,イラクで選択して欲しい,と.


NYT April 11, 2004

Outsourcing, Turned Inside Out

By KEN BELSON

(コメント) アウトソーシング(雇用流出)なのか,インソーシング(雇用流入)なのか? 工場は海外に移転するが,海外からも移転します.自由な直接投資が,国内から雇用を奪うのか,あるいは雇用を創出しているのか? たとえば,インドのバンガロールに転出するハイテク企業もあれば,テキサス州のオースティンに進出して来る韓国のハイテク企業もある.自由貿易と自由投資の視点から,アメリカの雇用移転論争を双方向化する試みです.

あるいは,世界的な直接投資と,地域に根ざす政治力学とを,双方向化するわけです.


FT April 13 2004

A decade to test South Africa

By F.W. de Klerk

(コメント) アイルランドと南アフリカは,世界が21世紀に激しい人種対立や貧富の格差を,社会的な合意と制度的改善により克服できることを示す希望の地となりました.あるいは,その可能性を示したように見えました.困難な状態は続いています.しかし,南アのデ・クラーク元大統領は,三つの原則を守って,それを克服できる,と主張します.すなわち,1.国民を代表する制度を通じて社会を転換(もしくは改造)し,貧困の解消や権利回復に努める.2.社会の転換は,現代のグローバリゼーションを支配する規則に従う.すなわち,所有権を尊重し,経済的な自由を保障し,行政や経営における基本的規律を受け入れる.3.経済と社会の転換は,国民の統一に反してはならず,コミュニティー間の対立を煽ってはいけない.

そして,もし南アフリカがその転換に成功するなら,21世紀のグローバリゼーションを和解させるモデルとなるだろう,と.


ST APRIL 13, 2004 TUE

Iraq is not like Vietnam - for now

DALJIT SINGH

WP Tuesday, April 13, 2004

Back To the Basics

By David Ignatius

FT April 14 2004

Gerard Baker: Iraq is not Bush's Vietnam

By Gerard Baker

LAT April 13, 2004

Seek Help in Iraq -- Now

(コメント) SINGHは,ファルージャの虐殺やサドルの叛乱が,かつてリンドン・ジョンソン大統領がヴェトナムでの勝利を諦め,再選を断念してヴェトナムからの軍の撤退を決意させた1968年のテト攻勢と同じ意味を持つとは,まだ,考えていません.しかし,そうなる恐れはあります.そして,もし撤退の条件を模索するなら,かつて当選したニクソンが中国との和解を画策したように,アメリカはイランやシリアとの関係改善や,アラブやヨーロッパの同盟諸国との関係を修復し,なによりパレスチナとイスラエルの和解に新しい立場を取らねばならないでしょう.

Ignatiusは,イラク国内の政治的バランスを転換するために,かつて大恐慌からアメリカ国民を救い出したフランクリン・D・ルーズベルトの「ニュー・ディール」と同じものを求めます.特に,基本にもどり,人々が職を得て,アメリカと同盟諸国に協力することで,生活を改善できる,と実感させることだ,と言います.すなわち,@6月末の政権移譲までに,アメリカ統治のシンボルとして,電力供給を完全に復旧せよ.A180億ドルの再建資金を迅速に執行して,イラク国民を雇用せよ.B公共事業計画などやめて,通りの人々に資金を渡せ.昨夏,行われたバクダッド清掃では,無数の子供たちに,数ドルで,通りを清掃させた.もう一度やるべきだ.そして,地域の指導者たちを通じて資金を提供すればよい.浪費もあるが,良い効果はある.

Bakerは,イラクがヴェトナムではない理由を明確にします.1.アメリカ軍は,人民に支持されない政府を支援しているのではない.2.ヴェトナムの記憶がイラクでの政策を支配している.3.イラクでの敗北は,その国に限定されず,アメリカへの現実の脅威を拡大する.だから,敵は敵であり,イラク・シンドロームを味わう余裕など無い,と.

LATは,今こそ,アメリカが支援を必要としていることを認めるべきだ,と主張します.エジプトのムシャラフ大統領が気遣う言葉をかけたにもかかわらず,ブッシュ氏は,数%の反対派がイラクの将来を決めることなど許さない,と反駁しました.しかし,反米闘争が表面化し,同盟軍の人質事件も増えた今,ブッシュ氏は一方主義を破棄し,国連などの支援を求めて,イラクの将来計画を見直すべきだ,と.(そして,実際,国連提案を受け入れました.)


WP Tuesday, April 13, 2004

Blind in Baghdad

By Richard Cohen

イラクはヴェトナムではない.その理由は多くある.そこはジャングルではなく砂漠だ.敵はソビエトや中国のような大国に支援されていない.北ヴェトナムのような分断国家は無い.植民地解放戦争を長期に担った単一文化民族ではない.宗教も言語もバラバラだ.たった一つを除いて,イラクはヴェトナムとまったく似ていない.しかし,その一つとは,われわれが何をしているのか,自分でも分かっていない,ということだ.

これこそ,イラクがまさに,非常にヴェトナム化してきたことの背景だ.われわれは再び暗闇の中にいる.13万人の兵士を送り,7万7000のイラク警察を擁しながら,サドルが放った叛乱の声で,皆,逃げ出した.ブレマーは,6月30日に誰に権力を移譲するのか,と質問されて,「良い質問だ」と答えた.それ以上は何も言えない.彼自身も知らないから.ただし,イラクの「多数意見」は反アメリカではない,と知っている.世論調査が示すように.・・・これもまた,非常にヴェトナム的だ.

何よりも,少数派が革命を起こすのであって,多数派ではない.ほとんどの人は言われたことをするだけだ.しかも,世論調査はばかばかしいほど当てにならない.文化が違うのだ.それこそヴェトナムの真実だ.なぜ米軍基地でGIsに冗談を言っている散髪屋がヴェトコンだったのか? アメリカの新聞販売所が敵の諜報部だったのか? 文化が読めないなら,敵と味方を区別できない.その欲求不満は,戦場での殺戮をもたらす.どんなに目を見開いているつもりでも,われわれはコウモリのように何も見えていない.

イラクでも同じことだ.間違った理由で戦争を始め,軍隊も同盟国も少なすぎた.期待はどれも当て外れだった.占領は油田で支払われてなどいない.イラクの軍隊も警察も治安を維持できない.アメリカ人は解放者ではなく,占領者だ.アメリカを応援する市民は,バクダッドではなく,ジョージタウンから来た.勝利できるかもしれないが,まず,何が勝利かを示して欲しい.

ヴェトナムで知ったように,最初に失敗すれば,後から正しいことはできなくなる.


FT April 13 2004

Martin Wolf: A matter of more than economics

By Martin Wolf

(コメント) ハーヴァード大学のGeorge Borjasの研究に依拠した,移民の経済学,を紹介します.まずWolf は,移民問題が21世紀の最も重要な論争(の一つ)になる,と予見します.Borjasの研究は,国民労働管理局型のコスト・ベネフィット分析である,と私は思います.

経済学者は,世界の厚生を最大化するため,今すぐ,すべての移民を自由化するのが良い,と考えます.しかし,各国政府が考えるのは,自国民の厚生の最大化です.それは,国民ではない,移民たちの厚生を考慮しません.そこで,コスト・ベネフィットが比較考慮されるわけです.

Wolfの結論は,@世界の厚生を基準とすれば,すべての移民が正当化できる.A裕福な国は,重要な熟練労働者に一時的入国を認めることで,自国の富を最大化できる.B移民は,重要な分配上の効果をもつ.C大規模な移民は,間接的な効果も持つ.それは多様性のようなプラスの効果と,住宅不足のようなマイナスの効果との,両方を含む.D移民が受け入れ社会に有利かどうかは,その社会の性格による.すなわち,E移民は,単に富と貧困の問題ではなく,どのような社会に住みたいのか,という経済学を超えた問題である,と.


FT April 14 2004

China needs to spread its wealth

By Andy Xie(chief economist for Asia Pacific at Morgan Stanley)

(コメント) 中国経済は急速に成長してきたが,それが今後も続くとは思えません.なぜか? この論説で,Xieはその理由を示します.

まず,成長が巨額の固定投資によって支えられています.次に,その投資によって莫大な輸出を続けています.海外からの直接投資が,国内市場では利益が上げられず,ますます輸出に向かいます.それは,世界の貿易・金融システムに耐えがたい負荷をかけています.中国がこのまま進めば,1997-98年に東南アジアから生じた金融危機を再現するでしょう.

中国が成長を持続する唯一の道は,国内消費を増やすことです.人々が消費を抑えてきたのは,経済改革の過程で不安を感じ,貯蓄を増やす一方で,政府は改革の利益を彼らに分配してこなかったからです.デフレが進む中でも,教育費や医療費,老後の負担が増すことを,人々は貯蓄の増加によって準備します.また,企業の民営化のように,政府は一部の特権的な集団に利益を独占させたままです.さらに悪いことに,銀行の不良債権を通じて,国民はGDPの50%に達する損失を強いられます.

成長を持続させるには,民営化による利益をより公平に分配するシステムが必要だ,と主張します.中国がロシアの失敗から学ぶべきことは,まだ,ここにもあるようです.


FT April 14 2004

China faces pressure to revalue currency

By James Kynge in Beijing

NYT April 14, 2004

In China, Signs of an Overheating Economy

By KEITH BRADSHER

April 15 (Bloomberg)

Yuan Peg Presents China With Monetary Dilemma

David DeRosa

(コメント) 人民元の切上げを見越して,投機的な資金 “Hot Money” が流入し,貨幣供給を増やし,インフレやバブルを生じている,と警告する者が増えています.人民元問題は,アメリカでも中国でも政治的に困難なテーマであり,中国当局は「安定した通貨」を重視する,と言うだけです.金利を引き上げて,通貨も切上げる,という選択は,それを実現できるのか,論争が続いています.

商業銀行は政治家とつながり,政治家は土地や株の値段を気にしています.人民銀行が論争しても,正しい政策を選択できるとは限りません.

むしろ,この点では,日本の失敗から学ぶべきでしょう.人民元を固定し,輸出による経常黒字を貨幣化してしまえば,それがインフレや銀行の不良債権となって,金融システムを破壊します.資本規制に依拠した「安定した人民元」が,非常に危険な選択であることを,DeRosaは強調します.あるいは,中央銀行は,@貨幣供給,A金利,B為替レート,を同時に,そして独自に,決定することはできない,と.


WP Wednesday, April 14, 2004

Possibilities for Mideast Peace

By George P. Shultz(secretary of state from 1982 to 1989)

(コメント) Shultzは,中東の新しい可能性を歓迎します.イスラエルは,これまでと同じように,テロに屈することは無いことを示した.イスラエルは他国を征服したいと思ってはいないが,治安の確保を目標としている.パレスチナ人は,テロの誘惑に負けてはいけない.他方,エジプトでも,ヨルダンでもなく,パレスチナ国家がテロを封じ込め,直接,イスラエルと交渉する条件もできるだろう.アメリカ政府が中東で行っている民主化に,パレスチナ和平も,その一部として含まれている.アラブ諸国が初めてパレスチナ国家の設立を支持したことは画期的である,と.


LAT April 14, 2004

Global Disconnect

By Pico Iyer

(コメント) テレビ,航空機による旅行,インターネット,そして国際移住が創りだす,世界的な経験,世界感覚というものは,統一されること無く,ますます理解しにくい世界像に向かいます.それは,世界を一人一人のイメージに分解してしまうかもしれません.

アデン出身のIyerは,2歳のとき,母に連れられてアデンからオックスフォード(イギリス),・・・否? ボンベイ(インド)に移住します.「グローバル・ビレッジ」について語るのは簡単です.しかし,サンタ・バーバラ(カリフォルニア)の快適な自宅に居ながら,世界の現実を感じることは困難です.北朝鮮,ブータン,パラグアイに降り立って,その街のTVニュースを観ます.そして,旅は,自分たちの知識が如何に限られているか,を教えてくれる,と言います.

9・11の直後に,Iyerは6週間前に居たアデン,そしてイエメンを思い出します.ビン・ラディンやテロの実行犯がイエメンを拠点にしていたからです.Iyerが覚えているのは,山の中で,深夜,7-upを買ってくれた男.チョコレート・バー.アメリカのイメージを得ようと,小さなインターネット・カフェで画面を見つめる,ヴェールをかぶった女性.アメリカに彼女の愛する者が居ました.廃墟で遊ぶ子供たち.細い腕で,彼の乗ったタクシーの窓を叩いていた,頬のこけた老婦人.・・・

アメリカのTV画面や政府は,彼らがわれわれの敵だ,と言います.しかし,彼が見たものは,テレビ画面や新聞のヘッド・ラインとまったく異なる,何か別のものです.


FT April 15 2004

Educating globalisation's Luddites

By Anne Krueger(acting managing director of the International Monetary Fund)

(コメント) IMF専務理事代行によるJagdish N.Bhagwati, IN DEFENSE OF GLOBALIZATION, Oxford University Press. の紹介です.BhagwatiやKruegerは,19世紀のラッダイト運動のように,反グローバリゼーション運動が広がったことを,根本的な無理解によるものと考えます.

グローバリゼーションは,アイデアや人々,商品などが,輸送費の低下や技術進歩によって,急速に国際交換されるようになったことを意味します.世界は,経済に限らず,広く統合化を進めるでしょう.その際,今までもあったように,技術革新や自由貿易に反対する人々が現れます.しかし,彼らはしばしば,形の定まらない,自分の利益を正しく自覚できないような,群集です.

グローバリゼーションの過程は,確かに一部の人々を苦しめています.しかし,社会全体では大きな利益を実現できるのです.それはゼロ・サム・ゲームではないから,他国の利益は自国の損失ではありません.誰もが豊かになり,雇用を増やせる政策は必ずある,とKruegerは考えます.しかし,グローバリゼーションがより効果的に問題に解決できるように,国内・国際的な制度を改善する必要は認めています.

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The Economist, April 3rd 2004

Better ways to attack George Bush

George Bush’s credibility: A matter of trust

(コメント) ブッシュ氏の政策を批判することは容易です.開戦理由を間違い,戦後統治に失敗し,財政赤字の膨張を予測できず,業界団体に保護や補助金を与え,同性愛者を政治的な攻撃対象にし,同盟諸国への外交より一方的な軍事力に頼り,中東和平を進められず,雇用不足や貿易摩擦にも無策で,国民に安全を確保できないまま,自由や市民権を犠牲にしている・・・

それでもThe Economistは,ケリーよりブッシュを支持する,と断言します.2000年の大統領選挙でも,ジョン・マッケインが敗退してからは,アル・ゴアよりブッシュを支持する,と表明しました.またThe Economistは,イラクとの開戦も支持しました.そして再び,ブッシュを次の大統領にふさわしい,と判断する理由は何でしょうか?

ブッシュが達成した主要な成果とは,一つはバブル崩壊後の景気回復であり,もう一つは9・11後のテロとの戦争,もしくはアフガニスタン=イラク戦争です.後知恵によって彼の行動を非難するのは簡単です.しかし,バブル破綻が彼の責任でないことは明白ですし,大幅な減税を実施して景気後退を回避したことは賞賛されます.もっと効果的な減税が行えたでしょうし,保護や補助金は間違いでした.医療費や年金など,難しい問題は扱いませんでした.しかし,The Economistは,ブッシュの成果を認めます.

また,テロとの戦争を指導することが,ブッシュ自身も認める最大の成果です.もし9・11に対してブッシュのように断固たる行動を取らなければ,世界は迷走していたでしょう.ブッシュはテロリストを処罰し,中東地域の改革と民主化を行うと宣言し,行動しました.この点では,多くの失敗もありました.しかし,イラク統治の失敗によって,アメリカが撤退することは認めません.ブッシュは,より多くの同盟国から支援を受けて,さまざまな国際問題(核拡散や非合法移民など)に対処しなければなりません.ヨーロッパが反アメリカニズムに浮かれているときではないのです.

ブッシュは完璧な大統領候補ではない.しかし,ケリーより優れた候補である.だから,ブッシュの再選を支持する,と.

後の特集記事では,「ピノキオ・メーター」と称して,ブッシュの慢心を批判しています.ブッシュは,嘘つきで,信用がおけず,頼りにならない?


John Kerry’s corporate-tax plan

Searching for John Kerry’s economic policy

(コメント) ケリー氏は,経済政策と呼べるようなものを示しただろうか? とThe Economistは不満を示します.

彼は大衆受けを狙った選挙公約を発表しました.クリントンが1992年にデトロイトで選挙の政策綱領を発表したように,ケリーもデトロイトを選びました.ただし,階級と再分配にこだわる民主党を一新したクリントンと違って,ケリーは階級ではなく職場を,限定的な政府より責任ある政府を,すなわち経済的ポピュリズムと,階級戦争を超えた成長を目指します.

企業に減税して雇用も増やす,というケリーの政策は正しいか? とThe Economistは疑います.ケリーは,税制を改革して,アウトソーシングを逆転させ,アメリカ企業を海外生産拠点から国内に呼び戻し,それによって共和党もできなかったような,企業への減税まで可能になる,と主張します.The Economistは,企業への課税を完全に放棄するべきだ,と以前から主張しています.なぜなら,それは効果が無く(脱税を促し),成長や雇用を損なうからです.

ところがケリーの提案は,企業への細かい賞罰で雇用や税収を操作する,フランス型の官僚国家です.その基準は曖昧で,管理不可能です.要するに,ケリーは全体とした政策構想を欠いている,とThe Economistは批判します.