IPEの果樹園2004

今週のReview

4/12-4/17

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(人質を解放するというニュースを知らずに書いたReviewです.「人質事件」が再発する前に,政府に考えてほしいです.)

身近なニュースを通じて,人質になる,人質を取る,人質を解放させる,という軍事的・政治的選択が世界で重要になっていることに,ようやく気づきます.ある意味では,アメリカ政治史を大転換させたのも,カーター政権を疎ませ,レーガンによるアメリカ復活を歓喜させた,テヘランのアメリカ大使館人質事件でした.東西の古い歴史書や歴史小説などを読むと,人質は重要な政治的要素であり,決断や転換をもたらす場面で現れます.

9・11以上に,人質事件は十分に予想できたことです.日本政府は何を準備し,何を怠ったのか? 自民党のある政治家は,「私たちは参院選前に注目していた」と言います.スペインの親米政権がテロリストに狙われたように,日本政府(小泉政権)も狙われる,と.あるいは評論家は,「ダッカ事件を繰り返すな」と言います.人の命は重いが,日本の政策決定はもっと重いから.しかし,家族たちは政府の浅薄な対応(事件前も,後も)を恨むでしょう.「なぜ自衛隊の即時撤退が選択肢からはずされたのか?」 その説明はない.

日本の世論は落ち着いていた.北朝鮮による拉致やオウムのテロを経てきた.・・・だから? 問題はその先です.政府は全力を尽くす.しかし,情報収集以外に,何ができるのか? 川口外相がパウエル国務長官と話し合った,と聞きます.何を話し合うのか? 人質救出作戦.人質交換.身代金.自衛隊の条件付あるいは無条件即時撤退.米軍による軍事的報復.犯人やテロ集団の逮捕.あるいは,イラクの? アメリカの? 日本の? 政権交代.「テロリスト」たちの組織化や連携が進み,彼らが自ら政府を組織して,無秩序な暴力を押さえ込むかもしれません.

犯人の要求に屈するなら,更なるテロを助長するだけ・・・ か? 犯人の要求とは何か? その要求が(一部でも)正しいとしたら,どうするか? テロを助長するものとは,本当に,「懐柔策」や「屈服」であり,正しい答えは「不変・堅持」「強硬策」だけか? テロリストとは誰のことか? 自衛隊であれ,NGOであれ,人道支援に何ができるのか? 飢餓や大量虐殺が起きる世界で,社会や秩序の辺境に向かう善意の支援者たちが,その静かな声と労苦によって,戦闘集団や政治家を動かす途はないのでしょうか?

世界のどこの国でも,母親の気持ちは同じはずです,と人質にされた子供の母は訴えます.マス・コミの力により,イラクの母親たちの同情と説得を集めて,テロからの救出を実現して欲しい,と.それはエピステミック・コミュニティーだ,と思いました.子供たちを救いたい.自分の命に代えても助けたい.すべての子供は平等である,と母親たちは知っています.だから,もし彼らが政府を動かせるなら,戦争もテロも起こらないでしょう.

テロリストたちにも論理があります.テロリストたちにも家族や友人がいます.テロリストたちの母親も,自分の子供を助けたい,と願うでしょう.もし彼らの社会が順調に経済発展していれば,子供たちは雇用と富裕化への期待を持つことができました.教育機会がすべての者に保証され,着実な民主化によって,人々の発言が政府を動かせるなら,人質やテロではなく,論争や選挙により,自分たちで政治方針や指導者を選択したでしょう.新聞記事は,自衛隊に残って欲しい,日本人をテロから守りたい,というサマワ住民の声も紹介しています.

新聞の見出しに並ぶ言葉を,「人質」の響きと重ねて,しばらく黙想しました.「イラクの子らの母になる」・・・「人生やり直したい」・・・「平和絵本作り」・・・ しかし,個人の善意や希望を実現する条件を,その社会が持っているとは限りません.・・・すべての選択肢を使い果たしたときにだけ,アメリカ政府は人類のために国際機関を作る,とも言われます.

4月10日の朝日新聞社説が示す撤退拒否説,犯人説得説(人質となった日本人たちを敵視してはならない.彼らを殺すな.彼らを解放して,助け合えることを示せ,という犯人への呼びかけ),アマツィア・バラム氏の交渉説(犯人たちと合意して地域社会再生に支援を),池内恵氏のイラク再建論理浸透説(日本はアメリカの戦争に加担しない,再建のために来た),池澤夏樹氏の「政策転換」型撤退説(脅迫に屈さず,見殺しもしない),渡邊啓貴氏のアジア連携・独自説(アメリカとアジアの違いを示す),はいずれも重要な視点であり,優れたものです.

ファルージャの米兵殺害映像や,日本人人質の映像は,きっと政治を動かすでしょう.アメリカ大統領選挙や小泉首相が映像パフォーマンスで政治的シンボルを操作するように,9・11や暗殺,テロも,政治的なシンボルを攻撃し,世界の映像メディアに適応します.生中継されるのはフセイン像の引き倒しや惨めな独裁者を隠れ家から引き出す様子だけでなく,切り刻まれ,縛り首にされ,市中を引き回された兵士の死体,人質たちの肉声,傷ついた身体です.

小泉氏は,私人や公人の名目を使い分けて靖国神社に参拝し,武装した自衛隊をアメリカ軍の支援や人道援助に使い分けて,「政府が何をしても,テロはどこでも起こりうる」から,たまたま,個人が犠牲となるのも仕方ない,と言うのでしょうか? テロリストには屈しない,というキレイ事で話を終えようとする政府が,北朝鮮による拉致事件・人質問題や,中国の活動家が引き起こす領有権の国際紛争に,なす術も無くフタをするだけに見えることを,国民は許さないでしょう.政府が派手な軍事行動を取らないからではなく,自分たちの行動に一貫した主張を持たない(示せない)ことが,政府や政治的指導者の水準を問うからです.

経済学の唱える「利益」や「計算できる理性」は限られたイデオロギーです.家族・部族とナショナリズム・信仰こそ,今も,政治的イデオロギーを動かす流血と情念の核心です.

(人質となった日本人が,解放された,というニュースはまだ聞けません.)

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times


NYT April 1, 2004

What's That Sound?

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT April 4, 2004

Out of the Box

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) NAFTAによって北米市場における有利な競争上の位置を確保したはずのメキシコが,中国,インド,という二つの言葉に恐怖し,「雇用を吸い取られる音」に怯えています.中国がWTOに加盟したときから,メキシコの競争力が失われることは分かっていたはずです.しかし,メキシコは動きませんでした.競争は待ってくれない,とFRIEDMANは言います.

この論説の特徴は,グローバリゼーションの進化を,マクロ改革とミクロ改革,あるいは,卸売りと小売,インフラと企業,トップ・ダウンとボトム・アップ,などに区別したことです.

グローバリゼーションは,当初,市場の開放に必要なマクロ改革,インフレ抑制や財政赤字の制御,金融改革,為替レートの弾力化,などで始まりました.もはや,選挙民に公共投資をばら撒き,選挙前に低金利や通貨の切り下げ,バブル,などを繰り返すことはできないのです.そして,国内市場と世界市場が卸売りレベルで統合し,共通のインフラを整備し,トップ・ダウンで輸出産業を育成できたわけです.

しかし,グローバリゼーションの進化は,よりミクロの改革を求め,企業や銀行が直接に世界の小売市場で競争し,もはや政府が方針を決定できなくなって,民主主義下の合意形成を迅速に行えることが競争力をますます高めることにつながる,と主張します.

私は,FRIEDMANの強調する世界市場競争の圧力は高まっていますが,誇張があると思います.中国もインド,むしろ国内市場に大きな可能性を持っているでしょう.世界市場は彼が言うほどフラットでも,単一でもなく,政府の役割や経済との関係は地域や国によっていろいろです.しかし,確かに,グローバリゼーションの進化と深化について,考えるべきことは多いでしょう.

次の論説でFRIEDMANが目指したのは,北米共同体です.すなわち,ヨーロッパが貧しい加盟国に行ったことを学び,北米も社会改革のための長期開発投資基金を設け,高速道路と教育機関を整備するのです.そうすればメキシコはグローバリゼーションの段階をさらに進み,アメリカの豊かな隣国として繁栄を分かち合えるでしょう.逆にそうでなければ,メキシコの改革は一党独裁と保護主義を葬っただけで終わり,市場の刺激に対応できないような貧困層がますます増加して,アメリカへの非合法移民に加わるでしょう.

NAFTAは,終わりではなく,始まりである.問題が解決できないなら,その思考の枠を取り払って,視野を拡大してみよ,というアイゼンハワーの言葉をFRIEDMANは紹介します.ところが,ブッシュ氏はヒスパニックの票が欲しくて移民許可の改革提案がとても素晴らしい解決策であるかのように宣伝し,ケリー氏は未だにNAFTAを支持すべきかどうか迷っている始末だ,と.


NYT April 1, 2004

Economic Scene

By ALAN B. KRUEGER

(コメント) 経済学者は経済や経済政策に関心を持っているが,それ以外の人々はどうなのか? KRUEGERは,ランダムに選んだ1002人に経済政策を質問しました.

まず,人々は経済の事をかなりよく知っているが,事実と政策の支持・不支持には関係なさそうだ,という結果を示します.彼らは経済について,テレビや地方新聞から知識を得ます.それに次いで,友人や家族,政治指導者,ラジオ,そして経済学者,です.投票する人々は,投票しない人より経済のことをよく知っています.

リベラルも,穏健派も,保守派も,同じように経済のことをよく知っていますが,経済的事実は政治的な立場に影響しません.たとえば,単一の税率を採用すれば,誰もが自分たちは負担が軽くなる,と思っています.そして,お金持ちは多く支払う,と.経済学者や政治学者にとって困ったことに,有権者は自分の利益と投票行動をさほど結び付けません.すなわち,経済に関して行動をもたらすものは,イデオロギーです.しかも,政府が赤字を出すと,そのイデオロギーが示す立場は逆転しました.(保守派は,赤字を嫌っていたが,支持し始めた.)

なぜイデオロギーは重要か? KRUEGERは,個々の問題を調査し,政策の効果を理解するには,多くのコストがかかるから,と言います.そこで,支持政党やイデオロギーに従って,単純な選択を行います.すなわち,有権者は政策の効果と自分の利益を合理的に結び付けるのではなく,何が自国にとって最高の利益か,というイデオロギー論争に従います.

しかし,自分たちの生活は良くなったか,という質問には強い影響を受けるようです.すなわち,イラクがどうであれ,もしアメリカの景気が悪ければ,ブッシュの再選は挫かれる.


WP Friday, April 2, 2004

An Offer Of Help On Iraq

By E. J. Dionne Jr.

The Guardian, Saturday April 3, 2004

Bremer has destroyed my country

Naomi Klein in Baghdad

WP Saturday, April 3, 2004

Tolerating Casualties, From the Top Down

By Lawrence F. Kaplan

BG, 4/5/2004

A flood of bad news on Iraq

By Cathy Young

(コメント) ブッシュ大統領の父は,サダム・フセインを完全に屈服させず,地域の政治構造を維持して,圧力や交渉により脅威を抑える途を選びました.しかし,そのことによって再選を阻まれ,フセインの脅威を増幅したと信じる,その息子,ブッシュ大統領は,フセインを完全に追い詰め,イラクの政治秩序を完全に作り変えることを目指し,その混乱を収拾できると見込みました.今や,それが過小評価であり,むしろ地域全体を不安定化し,世界にテロを輸出している,という批判を受けねばなりません.

事態を根本的に変えるのは,@イラク国民への政権移譲,A国連による再建計画の実施,B非アメリカの国際治安維持軍による秩序回復,でしょう.もし7月になって,アメリカ軍がイラク国民に権力を移譲できないとすれば,誰が権力を維持するべきか? 民主党のもっとも一貫した反対派議員は,ブッシュ政権がイラク統治国際化を求めるなら,支持しても良い,と呼びかけます.

アメリカが行った戦争に対して,イラク国民の多くは支持したかもしれない.しかし,アメリカが,今,行っている占領に対して,イラク国民は怒り,憎しみを増している,と,アメリカ寄りの,ペプシの現地企業社長Hamid Jassim Khamisは訴えます.Bremerはイラクの事を何も知らない.イラク人の話を聞かない.彼がイラクを破壊し,再建すると言う.その結果はカオスだ.アメリカは自分たちの兵士のために基地や住宅を立て,中東地域で最大の要塞となる大使館を,現地社会の承認も得ずに建てている.イラクは制裁を受けたまま,治安が悪化し,国境は無防備で,テロリストや犯罪者,そして商品が流れ込む.国民は仕事を得られないまま絶望している.アメリカが進んでイラクに移譲したのは,薬も無く,医師もいない,けが人と死人で一杯の病院だけである,と.

Kaplanは,ファルージャの映像が外交政策の転換と撤退を導いたような「モガジシオ効果」は発揮しない,と考えます.歴史をふり返ってみれば,20万人のアメリカ兵が死んだ第二次世界大戦でも,戦争を支持する世論は75%を切らず,戦争の正しさを疑わなかった.朝鮮戦争やヴェトナム戦争のときも,死者が増え続ける中で,アメリカ国民の多数は最後まで撤退を求めなかった.政府が妥協や交渉を求め始めてから,支持が低下したのです.すなわち,Kaplanによれば,テロや敗北に対しても,政府が戦争の正しさを直ちに主張し,繰り返し訴えればよい,と.

独裁政治から解放されて希望を語る家族の記事と,アメリカ軍に高まる不満,不信を伝える記事.どちらが真実か? 多分,どちらも.しかし,アメリカの占領は今も正当性を得られません.


NYT April 3, 2004

Put Your Money Where Their Mouths Are

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) KRISTOFが扱う問題は,大量殺戮やAIDSだけでなく,貧しい諸国の売春婦や苦汗工場,児童労働など,グローバリゼーションの負の側面です.

厳しい労働基準を国際的に要求することは,チャドの東部で働く10歳の少年,Abakr Adoud君を失業させます.彼の家族は貧しく,近くに通える学校も無い.彼が働かないとすれば,それは彼らを苦しめるだけだ.民主党候補ジョン・ケリーの支持者は,児童労働の禁止を訴えます.それが善意であっても,貧しい国の現実を無視している,と.

たとえば,1993年に,アメリカ議会は児童労働禁止法案を提案しました.もしそれが可決されていたら,児童労働に関わった輸入が禁止しされ,特にバングラデシュの5万人の子供たちが仕事を失い,もっと酷い状態,たとえば買春などに向かったであろう,と.

KRISTOF は,児童労働を好ましいと主張しているのではありません.しかし,Jagdish Bhagwatiも主張するように,児童労働をもたらす本当の原因である,貧困,を解消するためには,児童労働の禁止を求めることが好ましくない,と主張しているのです.

私自身は,二つの望ましい目標を「矛盾」の形で問うのは好ましくない,と思います.豊かな国は,貧しい国からの輸入に市場を開放するべきですし,貧しい諸国の学校建設を支援するべきでしょう.そして,可能な限り国際的な規制によって,極端なものから労働条件を改善する圧力も,それを悪化させるような競争を阻止するためだけでも,重要であると思います.二つの目標を間違ってリンクしたのは,もちろん,社会運動家かもしれませんが.


BG, 4/4/2004

Once again, it's the economy

By Thomas Oliphant

ST APRIL 5, 2004 MON

Productivity: Who wins, who loses

By MICHAEL J. MANDEL

NYT April 5, 2004

We're More Productive. Who Gets the Money?

By BOB HERBERT

(コメント) ブッシュ氏の経済政策は,経済活動を,人々の雇用と分配を通じて,彼らの生活を,改善できたでしょうか? もちろん,それが再選のための最大のハードルです.

雇用の流出や保護主義,さまざまな補助金や減税,そしてジョブレス・リカバリーからの脱出.生産性上昇は,物価上昇を抑えて,実質賃金を改善します.また,利潤が増えることは資産価格を上昇させて,人々の富を増やし,消費を刺激します.アメリカの所得分配は,労働市場や社会保障制度,そして移民の影響を受けるでしょう.

戦争指導者,というブッシュ氏の自画像は,宿題を忘れた乱暴者の言い訳か? 経済のことは,市場(友人の投資家)とグリーンスパンに聞くしかないからか?


April 4 (Bloomberg)

Asian Central Banks and the Currency Traders

David DeRosa

(コメント) 外国為替市場において,勝つのはどちらか? アジアの中央銀行? あるいは,民間投資家? アジアの中央銀行は,しばしば輸出産業を支援するために通貨を安くし,増価を抑えようとします.投資家たちは,経済状態の悪化する市場から改善する市場に,資本を移します.たとえば,もしマレーシア・リンギが資本流入によって対ドル固定レートを切上げるか,フロートさせて増価を許すしかなくなれば,リンギを買った投資家の勝ちです.また,中央銀行間では,日本・円が韓国・ウォンに比べて,先に増価しています.すると,競争する輸出品を多く持つ両国について,韓国の中央銀行が勝つわけです.表面的には.

DeRosaのように,為替市場への介入を否定する人々は,アジアの中央銀行が勝つことは無い,と主張してきました.この論説では,アジアの中央銀行が勝ったように見えても,決して勝ったわけではない,と主張します.もしアジア諸国の通貨が増価を抑制できたのであれば,それはアメリカ経済が市場の予想よりも改善を示したからである,と.ドル安を促した真の原因は,スノーでも中国でもなく,にわかに再現したアメリカの双子の赤字です.しかし,新しいデータで,アメリカの雇用が回復しはじめました.すなわち,税収も回復するでしょう.双子の赤字は抑制される見込みがあるのです.

だから,アジアの中央銀行が買ったのではなく,民間投資家の予想が変わったのです.勝つのはいつも市場であり,介入は無意味? しかし,市場の予想が大きく変化するからこそ,介入はその変化を平準化し,輸出産業へのダメージを抑えているわけです.


LAT April 4, 2004

Playing Into Their Hands

By George Soros

(コメント) George Sorosは,ブッシュ大統領にテロとの「戦争」をやめて,もっと貧困の解消に国際協力できる途を示すべきだ,と主張しています.アメリカは確かに軍事的な優位を持っていますが,「戦争」という修辞法のために,敵を国家に求めて軍事力を行使しました.しかしテロに勝利することは難しく,戦争は拡大し,結局,テロとの悪循環を招いている,と批判します.

Sorosの主張は,覇権の正当性を求める多くのブッシュ批判に共通しており,世界からの広い支持を得て,貧困の解消を目指すべきだった,という意見は,彼の篤志家としての側面を示しています.ビジネスと社会貢献という組み合わせは,本来,保守派の良心であったはずです.


NYT April 4, 2004

Imagining a $7-a-Gallon Future

By DANIEL YERGIN

(コメント) 原油価格が上昇して,アメリカ人はドライブを控えねばならないと憂鬱になります.あるいは,いよいよ石油資源が枯渇するという終末論の実現するときが来たわけです.

YERGINは,資源の供給が経済活動を麻痺させるという終末論を退けます.戦争や,新しい開発地域からの需要,好況が続く時期,などに,石油価格は上昇し,資源の枯渇が問題になりました.しかし,資源が枯渇する予測には,二つの欠陥があります.@新しい供給源の探索・発見,A新しい技術による節約・利用,です.従来の埋蔵量が何度も増加され,旧来の供給源も再評価され,新しい投資を受け入れてロシアやリビア,イラクが再登場するわけです.他方,資源の利用効率は改善され,海底油田など,今まで利用できなかった資源も採掘されています.

石油価格は変動しますが,それはもっぱら政治的なリスクと世界的な(それゆえ主要諸国の)景気変動によるでしょう.


LAT April 5, 2004

Shameful Inaction in Face of Genocide

By David Scheffer(当時のthe senior counsel to the U.S. ambassador to the United Nations

(コメント) 10年前の火曜日に,ルワンダの虐殺は始まったそうです.それは同時代における最も集中的な大量虐殺でした.1994年の100日間で,ほとんどツチ族の女性,子供,男たちが,80万人も殺されたのです.政府や軍隊,ラジオ局などが虐殺を支援し,多くの武装したフツ族が,なたmacheteで殺戮を続けました.

アメリカ政府や国連は,彼らの殺戮を止めることに失敗しました.当時のアメリカ政府は,この虐殺を,部族間の伝統的な内紛であると勘違いし,先の停戦合意(アルーシャ協定)を再生させることに関心がありました.そして,後から,死者の数を知って,間違いに気づいたのです.

その原因とは,隣国ブルンジにおいて起きた大量殺戮の恐怖と犯行が波及したことです.しかし,アメリカ政府は1993年10月のソマリアにおける米兵18人の殺害により麻痺してしまい,いかなる平和維持も,人道援助も行えない状態でした.政治指導者を説得する,という選択肢を好み,虐殺の即時停止に向けた迅速な,革新的な対応を怠りました.しかし,虐殺が始まれば,時間がすべてなのです.

国連の平和維持軍や警察を増強する措置が,即時,実行されるべきでした.ところが,外国政府は自国民の退避を優先し,軽武装の国連軍も非難してしまい,殺戮の拡大を助けたのです.それゆえSchefferは,もっと赤十字などの非公式な情報源を重視し,大量虐殺の法的な定義で行動を制約することは止めて,必要な行動を取るべきだった,と教訓を示します.

LAT April 5, 2004

To Avoid Calamities, Boost African Intervention Force

By Michael E. O'Hanlon and Susan E. Rice

(コメント) 次の虐殺が起きれば,誰かが行動を起こして抑止できるでしょうか? 多分,できないでしょう.アフリカ全体のために,機動的な展開を可能にする,虐殺を許さないための十分な教育と武装を与えられた国際部隊を,国際的な資金援助により準備しておくべきだ,と考えるのは説得的です.

NYT April 6, 2004

The Genocide Next Door

By EMMANUEL DONGALA

NYT April 6, 2004

Remember Rwanda, but Take Action in Sudan

By SAMANTHA POWER

WP Tuesday, April 6, 2004

Learn From Rwanda

By Bill Clinton

FT April 7 2004

Rwanda's lessons

NYT April 7, 2004

Peril in Sudan

(コメント) では,アフリカのAIDSは,スーダンの混乱状態は,今すぐにも,国際的な介入や支援で解決されるのでしょうか? 多分,無理でしょう.世界政府を,ある意味で,豊かな国が与えることはできないからです.


FT April 4 2004

Why the collapse of the dollar is just a myth

By Allan Meltzer

ヨーロッパの政治家たちや,その他にも多くの論者が,ドルの「暴落」やジェット・コースターのさらなる落下を予想させる言辞を吐き連ねている.ドイツのシュレーダー首相は,何度も,ECBがユーロの増価を止めるために金利を下げないことを,怠慢で,頑固だ,あるいは無能だ,と非難してきた.

こうした態度は,ユーロが1999年に誕生したときの水準から,5ないし10%ほど増価した事実によっている.もちろん,シュレーダー氏はその2年前と比較しても良かったはずだ.そうすればユーロはドルに対して50%も増価している.しかし,それは誤解を招く.もっとも寒い日の服を,いつも着ているかのように示唆するようなものだ.首相がもっと長期の視点を取るのは賢明だ.

私が考えるのは,ドイツ・マルク/ドルの月平均レートを,ドイツが単一通貨ユーロに統合した公式のレート,1.95583ドイツ・マルク/ユーロで換算することである.それは,1990年1月から1998年12月まで,平均0.83ユーロ/ドルであった.この1月・2月には,0.79マルク/ドル(もしくは1.55マルク/ドル)であったから,1990年代の平均に比べて0.04ユーロの減少(増価)を示している.その後,ユーロはさらに減少した.現在の価値は,1990年代の範囲,0.71から0.94の中にある.

大きな変化は,1999年にドルが他のすべての通貨に対して増価したことであった.2000年10月に,ユーロは1ドルに対して1.17も支払わされた.1999年から2002年までの間,月平均レートは1.05ユーロ/ドルであり,1990年代の平均より22%も増価した.(1990年代の)ドルは,その輸入の急増やアメリカの貿易赤字が膨張したことから分かるように,過大評価されたのだ.

しかしドルはユーロに対しても,他のどの通貨に対しても,暴落しなかった.それは1999年より前の範囲に戻っただけだ.シュレーダー氏であれ,他の著名なユーロ圏の政治家であれ,1990年代に為替レートの範囲で文句を言った者はいなかったと思う.

1990年代に金融危機が続いた後,ドルが過大評価されたことほど,ユーロの増価は重大な変化ではなかった.他にも,アメリカの増加していた財政黒字が赤字に代わったし,金利格差や予想インフレ率も関係あるだろう.アメリカの債券を買う外国人は,ドル資産を1990年代の避難所と見なしていたし,ニュー・エコノミーに加わる株式を購入することは魅力的な投資であった.

ドルが2002年にフロートの頂点を迎えた頃,シュレーダー氏はECBにユーロの増価を目指した金利引上げを求めはしなかった.重商主義的な思考は生きており,ドイツに限らない.実際は,ECBが金利引き下げを行うかもしれないが,1990年代の半ばと比べて,今の方が為替レートの管理のために金融緩和する理由があるわけではない.

将来はどうか? アメリカは中国や日本にアメリカ国債を購入するのを止め,通貨を自由にフロートさせるように要求している.自由にフロートする通貨は,為替レートの変化に合わせた資産価値の変動を吸収できるような,強い金融システムをもつ国にとって望ましいことだ.しかし,中国や日本はそうではない.日本の通貨政策は,ようやく,経済を拡大してデフレを抑えることが可能なほど緩和された.正しい政策は,日本にデフレ退治の遅れを取り戻させるだろう.また,正しい政策は,中国のインフレ防止にも有効だ.アメリカにとって正しい政策とは,他国に,その望む政策を決めさせることである.

ドルは下落したが,暴落していない.それは以前の範囲に戻ったのだ.アメリカの債券を買いたい多くの投資家が居る.もしアメリカが史上最高の生産性上昇を示し続けるなら,そして利潤率も高いなら,アメリカ資産や株式の買い手が不足することは無い.先週金曜日のアメリカ雇用統計は,ドルが今も魅力的なことを示している.

為替レートを予想することは,コインの裏表を当てるのと変わらない.そのような予想を信じ,それによって行動すれば,災厄を招く.そんなことをすれば,政府や中央銀行が後講釈を加え,市場を「矯正」しようとする.ドルが暴落するなどと予言する者まで出てくる.


FT April 6 2004

Political deal needed

FT April 7 2004

The clear, cruel lessons of Iraq

By Anne-Marie Slaughter(dean of the Woodrow Wilson School of Public and International Affairs at Princeton University)

LAT April 6, 2004

The More We Try, the Worse Iraq Gets

Robert Scheer

(コメント) 既にブッシュ政権はイラク占領の目的を失いつつあるのかもしれません.もはや,政治的な面子(そして選挙)を失わないような退却の口実を探しているのではないでしょうか?

イラク国内に政権移譲する相手も無く,国際協調を呼びかけるタイミングも失い,アメリカ兵が死体を引き回される映像を怖がっているとしたら,ブッシュ氏は何のためにイラクを占領し続けるのか? この間違った戦略,間違った目標,間違った政策!

Anne-Marie Slaughterは,米英軍によるイラク攻撃を,非合法ではあるが,正当である,として支持しました.しかし,それが政党であるためには,三つの条件を満たす必要がある,と考えたのです.@大量破壊兵器を発見する.Aイラクの人々を解放して,歓迎される.Bできる限り早く,国連主導の体制に復帰する.今や,そのすべてが失敗しています.すなわち,イラク戦争を行った米英軍は正当性も得られなかったのです.

その教訓として,安保理を改革し,同時に,安保理が承認しない軍事力の行使は控え,他の方法を試みるべきである,と主張しています.

NYT April 7, 2004

Iraq Needs a Credible U.N.

NYT April 7, 2004

Two-Front Insurgency

By WILLIAM SAFIRE

WP Wednesday, April 7, 2004

In Iraq, Without Options

By Harold Meyerson

WP Wednesday, April 7, 2004

A War President's Job

By George F. Will

(コメント) ここには矛盾した質問が一杯です.アメリカ政府は数万人の兵士を見殺しにできません.では,数千万人のイラク国民を見殺しにするのでしょうか? アメリカ政府は,イランのシーア派を恐れ,しかし,イラクの政権をシーア派に移譲するしかないのでしょうか? 今の内に強硬派を軍事的に制圧すれば,イラクの民主主義が将来は親米化するのでしょうか? シャロンがテロリストと報復や暗殺を繰り返す限り,アメリカ政府は中東和平の実現を諦め,難民たちの苦境に耳を貸さないのでしょうか?・・・

アメリカ国民を(そしてイラク国民も)救う唯一の選択肢は,ブッシュ政権をアメリカから追放することだ,とMeyersonは考えます.

あるいは,Willが言うように,帝国の統治はその本質からして血塗られたビジネスであり,強硬派が街で武器を誇示すれば,それを武装解除するために流血も辞さないのは当然なのです.占領軍の第一の条件は,暴力を行使する正当性を独占することでなければなりません.アメリカの政策が変わらないのであれば,こうした流血を経て,統治の責任を果たすしかない,と.ただし,アメリカ国民は,これこそが戦争指導者に従う帰結である,と知らねばなりません.


FT April 6 2004

Martin Wolf: No way to create a dynamic Europe

By Martin Wolf

(コメント) メキシコについてTHOMAS L. FRIEDMANが議論していたように,ヨーロッパ憲章も,その経済効率を高めるために必要な改革として議論されてきました.EUの法律と規制をすべてあわせると,その文書は9万7000ページに達し,まるで効率性を無視しています.

ところが,Wolfは憲章がさらに法律や規制を増やすだろう,と反対します.なぜなら,EUの規制領域は拡大し,QMV(条件付多数決)で可決される事案が増し,QMVにより採決される領域が拡大するからです.すなわち,ますます各国の特殊な要求が,さまざまな法律や規制を求めて成功するでしょう.憲章を承認させるために基本的権利を拡大することは,EUの経済をさらに多くの課税や規制で機能できないものにする,と警告します.

すべての独占は有害であり,政府による法律や規制の独占は,各集団が牽制しあうことで抑制されます.ところが,EU憲章は相手国の規制によって自国の規制による負荷を相殺するようなものです.必要なのは,各国政府や企業の活動する自由である,と.


NYT April 7, 2004

China Is Paying a Price of Modernization: More Beggars

By JIM YARDLEY

April 8 (Bloomberg)

China, India Will Compete; They'll Also Team Up

Andy Mukherjee

(コメント) 1年前の中国旅行では,むしろ乞食が少ないことに驚きました.しかし,この半年で,主要都市にも急激に乞食が増えてきた,とYARDLEYは書いています.田舎から出て来て,仕事も無く,お金が無い貧しい人々は,空っぽの食器を振って小銭を乞います.子供たちに何かを食べさせてやるために.病気の妻に薬を買ってやるために.

その理由は,都市の豊かさと農村の貧困がますます強まったことと,市民的な権利を認める過程で警察権力を抑える結果になったこと,が指摘されます.戸籍による居住の規制も無くなり,鉄道が貧しい人々を豊かな都市に運びます.政府は警察による治安を何よりも重視しますが,新しい知識人たちは人権や平等に対する政府の責任をもっと重視します.

中国の緊急の課題は農村の貧困解消と西部の開拓です.Mukherjeeは,この点でインドが重要なパートナーになると指摘します.インドと中国は投資や貿易をめぐって対抗する敵対者ではなく,むしろ協力して成長を加速できることに気づくだろう,と.そのためには,両国が進んで1962年の国境紛争を解決するでしょう.


Crriere Della Sera, Wednesday 07 April 2004

Euro, the challenge of faith

Francesco Giavazzi

FT April 7 2004

Fiscal felons are free-riding

(コメント) ユーロの挑戦は成功した,とGiavazziは自信を示します.ユーロができる前は,ヨーロッパの金融市場は分裂しており,ドルが変化すればマルクに資本が移動して,ヨーロッパ各国が喧嘩を始めました.ヨーロッパにはアメリカに対抗する企業が無く,国際的な銀行もアメリカに頼る始末でした.もしユーロが無ければ,ブラッセルのヨーロッパ委員会はマイクロソフトの独占に注文を付けることなどできたでしょうか? ヨーロッパにも世界的な企業や銀行が育っており,市場の統合は明らかに消費者にも利益をもたらしています.

しかし,安定協定the stability and growth pact (SGP)にもかかわらず,各国政府の国債発行にはモラル・ハザードが働いている,とFTは心配します.加盟国政府がSGPに従わないことが明らかになっても,また,財政赤字の大小によって金利に差がつかないことが分かっても,今のところユーロの債券市場は変調を示していません.しかし,かつてロシアの債券を購入した投資家たちに聞いてみればよい.モラル・ハザードは重大な欠陥をもたらす,とFTは警告します.


BG, 4/7/2004

Kerry would face daunting problems

By Robert Kuttner

(コメント) もし本当にケリーが大統領になったとすれば,彼が直面する現実とは,共和党が激しく反対する中で,さまざまな財政支出を伴う政策転換を求める厳しい議会運営です.だから,選挙戦において,ケリーはブッシュと異なる政策哲学と行動計画を示さなければなりません.クリントンが共和党の政策課題を奪って支持を拡大したのとは逆に,ケリーは明確にブッシュとの相違を示し,たとえば減税を恒久化せずに,すべて元に戻して,脱税を厳しく摘発し,税収の半分は赤字の解消に,半分は国土防衛・健康保険・教育・エネルギー・その他の社会投資,などに使うと公約するべきだ,と.こうして焦点を絞って,最初の100日間で共和党の哲学を粉砕することが重要です.


 NYT April 7, 2004

California Voters Reject Wal-Mart Initiative

By JOHN M. BRODER

LAT April 8, 2004

Wal-Mart: Aim for Fairness

LAT April 8, 2004

Inglewood Opens the Wal-Mart Wars

By Earl Ofari Hutchinson

(コメント) ウォル・マートのカリフォルニア進出計画(60エーカーの土地と,20万平方フィートの売り場面積)は住民投票によって阻止されました.60%が反対票を投じたのです.ウォル・マートが約束する安価な商品や雇用機会よりも,住民たちは大型店の進出を抑えて地元の商店を守り,商店の進出を住民で選択する権利を重視したわけです.ウォル・マートは,もちろん,カリフォルニア進出を諦めたわけではなく,また,労働組合が勝利を誇れるかどうか,は疑問です.しかし,住民がコミュニティーや生活圏を計画する権利を尊重する意味で,カリフォルニアは自分たちの主張を持っています.

100万ドル以上を投じて,4600票しか賛成票を集められなかったウォル・マートが,「一部の活動家や外部の利益団体がイングルウッド住民の多くに間違った選択をそそのかした」という理解に,LATは憤慨します.労働組合を潰すウォル・マートがカリフォルニアの労働者たちに嫌われたのは当然です.しかし,もしウォル・マートが各地域の共通ルールに従うなら,この投票はウォル・マートによる裏工作や嫌がらせに対する反発を示したものであり,必ずしも大型店舗やウォル・マートだけを拒むものではないだろう,と考えます.ウォル・マートは各地の住民が決めた政府を尊重せよ,と.

またHutchinsonは,ウォル・マートがメディアや黒人コミュニティーに取り入って,店舗の拡大を目指すことを警戒しています.ウォル・マートが差別されている黒人に雇用をもたらすのであれば,それで良いではないか? しかし,ウォル・マートがこれまで労働条件を各地で悪化させてきたことを忘れてはならない,と.


NYT April 8, 2004

The Iraqi Inversion

By MAUREEN DOWD

もし高品質のTV映像でよく見れば,ブッシュ政権の高官たちが9・11について発狂し,言語道断な暗殺を企てているときに,誰かが気づくのかもしれない.しかし,何もかも失敗しているように見えるときでさえ,彼らの発言は変わらない.DOWDは,イラク侵攻がもたらしたブッシュ政権の結末を列挙します.

「事態には良い面も悪い面もある.」「民主主義の道は険しいものだ.」といった調子で,ラムズフェルドは会見に応じる.今週,イラクで殺された,30人以上の若いアメリカ兵の家族が聞いたら,イラクの地獄を良い面で見ることに苦しむだろう.彼らは,誰と戦っているのか? 誰を助け出したいのか? いつになったら帰れるのかも分からない.ラミー(ラムズフェルドの愛称)次第だ.誰に政権を移譲するのか? 同盟諸国や周辺のアラブ諸国も,誰がアメリカに同情などするだろうか?

惨殺されたアメリカ兵たちの犯人を探し,報復するために,海兵隊はモスクをミサイルで爆撃する.一人のテロリストを殺すには,8人の民間人を殺さねばならない.だから,違った穏便な方法でやる,と言っていたはずだが.ファルージャの戦闘,市民たちの反撃を見れば,民間人への配慮などまったくない.サッカーに興じる子供たちが爆弾を投げつけ,農夫やタクシー運転手が兵士を殺して再び群集の中へ混じる.

ウォルフォヴィッツは,サダム・フセインに拷問されてきたシーア派がアメリカを歓迎する,と言った.間違いだ.WMDは存在せず,テロと原理主義はさらに蔓延した.ラムズフェルドは,イラク戦がアメリカの武力行使に対する恐怖症を治癒するだろう,と言った.間違いだ.ヴェトナム戦争の亡霊が蘇った.われわれの勇敢な兵士たちは,現地の文化を理解せず,敵を識別できず,退路を持たない.それでも政府は,日々,戦争を拡大する.

ラミーはアメリカ軍を全面的に改造し,その力を示したがっていた.しかし,今や,自分の失敗を認めたくないためだけに戦争を続けている,と共和党議員でさえ疑い始めている.叩き壊したはずの国連や多角主義に,這いずり回って助けを求める.

タカ派は,民主主義を構築できるし,それがアラブ世界にドミノ効果をもたらす,と考えた.間違いだ.大統領は,父親の湾岸戦争終結における不手際を超えて見せる,と考えた.これもまた,間違いだった.


NYT April 8, 2004

Are There Any Iraqis in Iraq?

By THOMAS L. FRIEDMAN

Thursday, 8, April, 2004 (18, Safar, 1425)

Early Elections Can Counter Iraqi Violence

Amir Taheri, Arab News

(コメント) 最も重要な問いとは,それがイラク人なのか? ということだ,とFRIEDMANは考えます.もしアメリカ兵を惨殺するのがイラク人であれば,アメリカは勝利できません.しかし,それがバース党の破壊分子や各地の盗賊,外国から来たテロ集団であれば,アメリカは勝利しなければなりません.そのためには,物資と正当性が必要でした.しかし,ブッシュ政権はそれらをあまりにも欠いていた!

これは初めから選挙用の戦争だった.「私は戦争大統領だ.さあ,パーティーを始めよう!」 大統領は国民に犠牲を求めない.減税し,ガソリンにも課税しない.予備役も動かしたくない.他方,イラクの軍隊は解体し,50万人を失業させた.チャラビとその仲間が求めるから!

同盟軍も無く,世界から正当性も認めてもらえない,イラク内部の多数は勢力が立ち上がらず,夜盗がヴェトコンを自称するよ,こんな戦争にアメリカ軍は勝利できない.これは,セメント無しにレンガを積み上げただけの家だ.方針を転換するしかない.しかし,すでに方針が無いことこそ問題だ,とFRIEDMANは嘆きます

Amir Taheriは,サドルの軍事的な排除を求めず,選挙を求めます.サドルがイラク人の法廷で裁かれること(そして,殺人との関わりを明確に否定できれば,それで良い),また,選挙の実施を優先して,シーア派の政治的な影響力が制度に反映され,その中でサドルも自由に支持者に投票させ,発言すればよい(そして,シーア派の多数を代表していないことがはっきりすれば,それで良い),と考えます.

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The Economist, March 27th 2004

Rwanda, remembered

Rwanda since the genocide: The road out of hell

(コメント) ベルギーによる植民地統治の時代に,部族の所属を示すカードを作り,少数派のツチ族を優遇して間接統治させたようです.政治的独立は,当然,多数派のフツ族に支配を委ね,ツチ族は弾圧されて逃亡するようになります.特に1973年に政権を握ったHabyarimana将軍は,部族主義を喧伝し,スパイを使い,移住も禁止して,支配政党への参加を強要しました.ツチ族が隣国ウガンダで組織した反政府軍に怯えて,彼が唱えた最終的な手段が,国内のツチ族を全滅させる計画でした.1993年に停戦合意した後も,虐殺のために各地の民兵を集め,武器を準備してフツ族の男に配ります.Habyarimanaは,1994年に暗殺されますが,その後も計画は進められ,殺戮を開始しました.参加しないフツ族も殺された,と言います.

今では,いたるところに骸骨の散らばった廃墟もありますが,人々は部族間の差別をなくし,将来に向けた協調を語ります.ただし,The Economistは,それが現政権を担うKagameの反政府軍が行った残酷な政府軍掃討の顛末を人々が知っているからだ,と考えます.今の政府が一切の反政府活動も認めないことも,将来の不安を示します.


Germany’s gloom: That malaise thing

Japanese currency intervention: A fountain of yen

(コメント) ドイツと日本は,世界の重病人として,自国内で悲観され,他国のジャーナリズムに軽蔑されています.改革の必要を認めながら,それを行う政治的な意志を形成できないことが,その問題を長引かせているからです.シュレーダーは地方選挙に敗北して改革を後退させ,日銀はドルを買い続けるしかない,というように.