IPEの果樹園2004

今週のReview

3/29-4/3

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尖閣列島=釣魚島に上陸した中国人の活動家たちや,北京の日本大使館前で日本の国旗を焼き捨て,踏みつける人々の映像を観て,怒りや恐怖ではなく,もっと他の感情を持ちたい,と思いました.朝鮮半島も,台湾海峡も,・・・アジアは潜在的な火薬庫です.

靖国神社に参拝する日本の政治家たちや,東京を走り回る右翼の街宣車.貧しい農村から出稼ぎに来た女性を買いに集まる,日本を含めたアジアのビジネスマンや買春観光団.南京大虐殺や強制連行をめぐって罵りあう人々・・・ 互いの過去と現在の行動に関する深い理解と反省に基づいて,教育や政治的行動が常になされていないなら,「冷静に」「国際法を踏まえて」説得する力など,国際政治の蜃気楼に過ぎません.

・・・これは<ニュース>です.

資本主義的な市場経済では,現在ではなく,将来に向けた投資を行う企業に富が集中します.石油会社は水素エネルギーを,自動車会社はロボットを,レコード会社や映画会社はインターネットによる販売手法を開発し,・・・ ここでも最初はセックス産業から,でしょうか?

労働(特にマニュアル・レイバー)だけでなく,犯罪も軍隊も,ますます外国に依存する「国」の住民は,自由な世界秩序と輸送・通信システムの快適さ,所有権の確立と自由貿易や平和の維持に大きく依存するでしょう.そのような「繁栄」は,いつまで続くでしょうか? 辺境の紛争が,テロと暗殺,政府間の脅しと軍備拡張,軍事衝突にいたることも,決して例外ではありません.

・・・これは個人的な<不満>です.

パソコンを買い換える度に,このビジネスに疑問を感じます.ハードに資源を浪費し,バラバラなソフトの規格と開発スピードによって商品の比較や将来の見通しを拒み,ますます移転・転換される労働現場は雇用不安を増幅します.

CPUとハード・ディスク,そしてメモリがパソコンを構成しているのであれば,それらを好きなように組み合わせて自宅に設置したいです.パソコン街にはパーツ店が軒を連ね,相談や要望を受ける担当者を選択できます.さまざまなソフトは時間決めでプロバイダーと契約し,利用する方が良いでしょう.多分,そのような会社が明日にもインドや中国から日本橋と秋葉原に出店し,インターネットと宅配でサービスを提供し始めるでしょう.

・・・そして,これは<SF小説>です.

すべての不安を解決できた未来の地球では,誰もが非常に豊かで,住民の意志を尊重する地域的なクラブを構成しています.世界的なルールと開放的なモラルが行き渡り,グローバリゼーションの不安もテロも消滅してしまいます.両者は,互いに反発しながら,悪循環をなしているからです.

ある日,実験室で,無邪気な研究者たちがウィルス兵器を開発します.それらはインターネットを汚染し,金融市場を汚染し,家畜を汚染し,農作物を汚染し,土壌や水,大気を汚染し,人にも感染して脳髄や遺伝子を破壊します.感染力が極めて高く,その脅威があまりに激烈なため,短期間に世界的な合意は崩壊します.恐怖に駆られた人々は,コンピューターやデータを破壊し,家畜や農作物を焼却して,その煙が太陽をさえぎります.社会を野蛮と貧困が支配し,防御壁を築いて,残された清浄な土地を囲い込み,海洋を,大気を,完全に隔離しようとします.

こうして危機管理と先制攻撃に特化した科学国家が各地に誕生し,他国を殲滅し,浄化し始めます.ある人々は地底に逃げ,ある人々は深海に逃げ,ある人々は他の惑星を目指します.・・・何世紀か後,異星のNASAが「地球に生命の痕跡がある」と発表するでしょう.

雇用不安も,パソコンの機能も,隣国や隣人の振る舞いも理解できないまま,私たちは互いを威嚇します.しかし,保護主義を抑制し,為替レートの乱高下を回避するには,自由な交流と成熟がもたらす,利益を分かち合い,相手の行動を深く理解し,互いの社会的理念を尊敬する人々が増えねばなりません.・・・あのとき,国旗を燃やされて,私たちは深く考える機会を持てました.話し合えて本当によかったです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT March 16, 2004

Change in Spain

NYT March 16, 2004

Weak on Terror

By PAUL KRUGMAN

NYT March 16, 2004

Rewarding Terror in Spain

By EDWARD N. LUTTWAK

(コメント) テロリストが列車を爆破したことで(多分?)野党が選挙に勝利しました.これは,テロリストの作戦が成功したことを意味するのでしょうか? 民主主義はテロに屈した,と?

NYTは,そうではない,と考えます.このテロによって,世界はこれまで以上にテロに対する戦いを強めるでしょう.また,ブッシュ政権はこの戦争に勝つために一国ではなく,国際協調が必要であると理解するでしょうし,そのような修正を行う理由を得たでしょう.また,スペインの新政府は,この戦いに加わっているEUのメンバーとして,単なる離脱を選択することはできません.

しかしKRUGMANは,テロとの戦い,と言うとき,スペイン政府と国民はイラクを含めないだろう,と言います.何よりも,これはブッシュ政権の失敗がもたらした悲劇です.ブッシュ氏は政権に就いて,クリントンとの違いを示すことばかり好みました.クリントン政権が始めたアル・カイダの監視は止めたのです.テロが起これば,イラクのフセイン体制を破壊することに拘りました.その結果,ビン・ラディンを取り逃がし,アフガニスタンを破滅させ,イラクの戦後統治にも失敗して,今やアル・カイダは再組織され,活性化しています.スペインで示したように.

他方,LUTTWAKは,スペインの民主主義がテロに敗北した,と考えます.本来,民主主義は狂信的な少数者からの脅迫に屈しません.そのような脅威には強く対抗するものです.もちろん,ブッシュ政権がテロを利用してイラクを攻撃したことを批判することはできます.しかし,だからと言って,それを理由として,今,イラクから手を引くのは,古いヨーロッパの社会主義者が示した無責任さでしかない,とLUTTWAKは反対します.

WP Tuesday, March 16, 2004

The Spanish Response

WP Tuesday, March 16, 2004

Time to Save an Alliance

By Robert Kagan

(コメント) WPは,スペイン政府の対応と国際的な影響を懸念します.まず,前政権は国民の反対にも関わらずイラク戦を支持し,テロとの戦争において国民から支持を得るはずでした.ところが,ETAの犯行という情報操作により,反発を買って敗北しました.その結果,従来からイラク戦の失敗がテロを生んでいる,と主張する新政府が撤兵を求めたわけです.WPは,これがテロリストに間違ったシグナルを与えるだけでなく,ヨーロッパ全体に波及し,アメリカで誕生する新政権には一方主義しか選択肢がなくなってしまう,と注意します.

ブッシュを非難するますます多くの証拠を得たケリーは,もし当選すれば,次にイラクを統治しなければならない.また,退却になびくヨーロッパは,アメリカ抜きに,テロリズムに単独で抵抗しなければならない.そんなことができるのか? とKaganは警告します.アル・カイダは指導者たちを分断し,互いに非難しあって弱体化することを狙っているのです.

The Guardian, Wednesday March 17, 2004

Spain got the point

Jonathan Freedland

(コメント) 国民からの信頼を失った政府が,最後に,自信を持ってできることと言えば,外国人を非難し,戦争を始めることです.

Freedlandは,スペインの政策や国民を非難するアメリカ保守派の論調に,強く反論します.たとえば,NYTの論説は「スペイン国民はアル・カイダを宥和することを選択した」と憤慨し,他の論者は「ブッシュではなくアル・カイダの勝利を選択した」と非難します.ブッシュ氏の「悪の枢軸」演説を書いた元スピーチ・ライターは,スペイン人が「身を低くして,宥和に努めれば,災厄を免れるという」愚かな希望に屈した,と言います.

しかし,彼らは民主主義を誤解し,決定的な区別を見失っている,とFreedlandは考えます.アメリカの保守派は,民主主義と「テロとの戦争」を区別せず,イラク戦や占領とも区別しません.しかし,スペイン国民はテロに対して国民的な規模のデモを組織し,強く抗議しました.他方,イラクが「テロとの戦い」に不可欠な一部とは見なさず,ブッシュ氏の占領政策を支持しません.

2002年の選挙で,ヴェトナム戦争で手足を失った民主党上院議員を非難して,共和党は彼の顔とフセイン,オサマを重ねてTV広告しました.ある共和党下院議員は,ケリーに投票する者は,オサマに投票するのと同じだ,と言いました.ブッシュ氏は単純化した選別により,テロに反対するなら自分に従え,と主張します.それは選択を許さない一党独裁国家やマッカーシズムに似た論調です.


FT March 17 2004

Quentin Peel: A war that has divided the world

By Quentin Peel

イラク戦争が「私生児」として生まれたのはもう1年前のことである.その結末は今もわれわれを悩ませている.

テロとの戦いに団結し,その原因を解消するために尽力するどころか,われわれは未だにイラクに侵攻したことの是非をめぐって口論している.ヨーロッパとアメリカは分裂し,ヨーロッパの中でも意見はアメリカについて分裂している.ヴェトナム戦争以来の対立だ.支持派も反対派も誤りを認めない.さらに多くの犠牲者が必要なのか?

イラクの町で展開される奇襲や爆発が,9・11のテロ攻撃に代わって,われわれの記憶を支配する.9・11の直後には,世界があれほど団結したのに.戦争と戦後の混乱は世界の分断化を深めた.イスラム教徒とキリスト教徒,富者と貧者,南と北,東の同盟国と西側世界,・・・

問題はその始まりにあった.イラク侵攻はテロとの戦いと何の関係も無い.少なくとも,ヨーロッパ人はそう思った.大量破壊兵器,残虐な独裁者,国際法の遵守,どのように説明されても,それはもっと違う筋書きの一部でしかなかった.ブッシュ氏は大統領になったときからイラク攻撃を決めていたのだ.しかしイラク戦は,アル・カイダを支持するイスラム過激派のテロリストを刺激し,格好の標的を与えた.たとえ以前はつながりが無くても,今はある.

先週,テロリストたちはスペインで通勤する200人もの市民を殺害した.しかし,この虐殺だけでAznarは選挙に敗北したわけではない.ブッシュのイラク戦を支持するAznarに国民は憤りを感じ,バスクの分離主義者に罪を被せようとしたことに不満が爆発した.

有権者はテロに影響されるべきではない,と説くことはお粗末だ.いつも,逆の結果が生じる.テロは法と秩序に好都合な逆流をもたらす.9・11後のアメリカで起きたように.しかし,イラクがあったせいで,有権者はAznarを支持せず,戦争に反対する社会主義政党に投票したのだ.

世界的な規模のテロは民主主義的な社会の存在を脅かす,と多くの者は考えただろう.しかし,本当に民主主義を脅かすのは,テロではなく,テロに対する過剰な反動である.それこそテロリストが求めていることだ.市民的な自由は侵害され,意見が対立し,間違った考えで,間違った敵を攻撃する.まさにイラクだ.

国連安保理で明確な承認を得ずに戦争したことは間違いだった.現在,われわれはその結末に直面し,戦争に反対した者たちがまさに予言した多くのことを見る.戦争の是非がどうであれ,イラク再建は国際社会全体が担わねばならない.しかし,シーア,スンニー,クルドの三つに分裂して,内戦の瀬戸際にある国では,イラク人にも「同盟国」軍にも,安全が保障されない.地域は不安定化し,アラブとイスラエルの紛争も悪化したままだ.Scowcroftが繰り返し主張したように,イラクがテロリズムや原理主義者の隠れ蓑になってしまった.

アメリカも同盟諸国も,イラク問題の一部である.彼らは「解放軍」ではなく,「占領軍」になってしまった.アメリカ軍が早期に撤収する見込みも無い.国際的な治安軍は慢性的に不安定な国を安定化し,憲法を起動する上で不可欠である.しかし国連が交代するにも,イラクに対する国連の制裁により,そのイメージは悪い.アメリカ軍が撤退し,国連軍が展開する際,より大きな暴力が起きるかもしれない.

アメリカの好戦的な集団は,こうしたことを事前に検討しなかった.彼らはイデオロギー的で,同盟諸国に服従を求めただけだ.フランスやドイツがもっと外交的な手段を求めても,拒否された.そこにはしこりが残っている.スペインの選挙も,世論調査も,アメリカへの不信を示している.アメリカを支持したブレアもベルルスコーニも,この不満にさらされる.

どうやってこの溝を埋めるのか? 一方では,イラク再建に参加すること.しかし,アメリカが指図するなら,それは失敗する.イラクはアメリカの力の限界を示した.誰もブッシュ氏が,あれはとんでもない失敗でした,と認めるとは思っていない.選挙の年である.しかし,支援を求める謙虚さを,彼も持つべきだろう.


FT March 17 2004

The widening Strait

By Victor Mallet and Kathrin Hille

IHT Wednesday, March 17, 2004

Patience, Taiwan

Jonathan Power

ST MARCH 18, 2004 THU

A Greater China Union may end Taiwan Strait impasse

By LINDA JAKOBSON

March 19 (Bloomberg)

China's `Patriot Games' Worry Markets

William Pesek

LAT March 19, 2004

The Value of the Status Quo

IHT Tuesday, March 23, 2004

Why not an independent Taiwan?

Jonathan Mirsky

WP Tuesday, March 23, 2004

Taiwan's Message

ST MARCH 25, 2004 THU

All at odds in Taiwan

(コメント) キー・ワードは,@香港化,A長期的な解決策,B三通政策,C民主化,D植民地支配とナショナリズム,E愛国者ゲーム,Fフロリダ型の混乱,G新しいバランス,H中国の新指導部,などです.

「一つの中国,二つの経済体制」を認めて,香港型の再統合を目指していたはずの中国が,香港で民主化運動を「愛国者」ではないと批判し,逆に香港市民の激しい抗議を受けました.台湾では,三通政策が経済だけでなく政治の自主権さえも失わせるという不安が,台湾独立を望む民進党の手を縛ります.テロと戦い,世界に民主主義を広めるはずのアメリカが,中国のミサイル問題や台湾の(そしてスペインの)民主的な選挙にケチをつけるのは,理想よりも,政治的な算術の問題でしょう.

大陸から進軍して台湾を実効支配してきた国民党が後退し,逆に,台湾人のプライドや愛国心が選挙の争点となれば,中国やアメリカが牽制するほど,新しいバランスを求める台湾政治は不安定化します.フロリダ型の投票結果と混乱,数え直しは新政府の正当性を蝕むでしょう.しかし,台湾人の政治意識が中国の民主化に満足し,新しい政治経済同盟から平和的な統合を歓迎する気持ちになるためには,中国の新指導部が一層の柔軟性を示すべきではないでしょうか?


NYT March 17, 2004

The Cost of Cheap Money

FT March 24 2004

Gerard Baker: Shackle these sado-monetarists

By Gerald Baker

(コメント) アメリカの通貨政策について,バブルの可能性とマネタリズムの結末を考えています.グリーンスパンは,1958年以来,最低の水準である短期金利1%を維持しました.インフレの心配がないから,選挙の年に金利を動かさない,という決定は正しいのか? 経済危機を回避し,生産性上昇の効果を考慮しても,住宅価格の上昇を無視してよいのか?

逆に,Bakerは1980年代の「サド・マネタリズム」が復活したことを批判します.The Economistがグリーンスパンに金利引上げを求め,The New York Timesが金利の据え置きを非難したのは,人々を苦しめることに通貨政策の喜びを見ているからか?

景気が完全に回復して,労働市場などが逼迫すれば,引き締めが必要です.しかし,雇用の増加と所得からの消費が景気を自律的に拡大し始める前に,金利を引き上げてはならない,とBakerはグリーンスパンを支持します.


NYT March 17, 2004

Egypt and Israel Discuss Industrial Trade Zone

By ABEER ALLAM

(コメント) エジプトとイスラエルが工業貿易促進地区の設立に合意するかもしれません.既にヨルダンがイスラエルと合意して成功しています.技術と市場,そして資本が欲しいエジプトは,先に,アメリカと交渉して失敗しました.イスラエルとの経済協定は,投資や雇用をもたらし,この地域に繁栄と平和をもたらすでしょうか?

しかし,イスラエルと交渉し,合意することは,エジプトにとって政治的な重大な賭けです.国民やメディアには,その内容をまったく秘密にしています.


FT March 18 2004

China rolls out a disco beat for the workers

By Alexandra Harney

March 18 (Bloomberg)

Will Asia Allow Local Spending Boom to Last?

Andy Mukherjee

(コメント) 中国の「苦汗」工場にも変化の兆しがあるようです.おもちゃ工場では,工員たちのためにディスコやカラオケを用意しています.最低賃金も少しだけ上がりました.一部の多国籍企業は,消費者から監視を受けています.工場主が労働者を優遇するのは,彼ら自身の利益があるからです.すなわち,労働者を他の出稼ぎ労働者と分離し,条件を競わせない方が扱いやすいからです.

アジアの変化は,他の分野でも顕著です.輸出のために通貨を安く抑えてきましたが,その結果,国内の通貨供給が増加し,インフレやバブルを生じつつあります.さまざまな基本的資材や住宅の値段が上昇しています.クレジット・カードの利用と融資額は急速に伸びました.

すなわち,成長の源泉は,アメリカ向けの輸出から国内の消費に変わりつつあるわけです.もしアジアがその転換を積極的に進めるなら,中央銀行は金利を上げて成長を抑えるのではなく,通貨を切り上げてインフレを抑制すべきでしょう.アメリカの消費者に安価なデジタル・ビデオ機やプラズマ・スクリーンを提供するばかりで,自国の消費者にそれらを利用できなくさせているのは,通貨の過小評価です.それゆえ,この転換は必然である,とMukherjeeは考えます.


NYT March 18, 2004

Axis of Appeasement

By THOMAS L. FRIEDMAN

FT March 18 2004

Philip Stephens: Discord amid the rubble

By Philip Stephens

(コメント) スペインの選択は,「悪の枢軸」と「無能の枢軸」とが出会ったとき,何が起きるかを示している,とFRIEDMANは考えます.また,イラクの占領政策では,ブッシュ氏の二つの計画,「大減税」と「大戦争(テロとの戦争,中東民主化)」との矛盾が噴出しています.イラクから撤退すればテロからも逃れられるという幻想は,スペイン国民に確かに甘美な口実を与えました.しかし,それはミュンヘン会談から帰国したチェンバリンにチャーチルが与えた警告と同じだ,と.「あなたは戦争と不名誉との選択を迫られた.そして,不名誉を選択してきた.しかし将来,戦争も選択するだろう.」

米英軍によるイラク侵攻は,戦後の安全保障の枠組みを破壊した,とStephensは指摘します.なぜか? @ソ連が解体した.Aベルリンの壁が消えた.B理想主義だけでなく,軍事的な均衡が重要だった.Cアメリカは,テロという新しい脅威に直面した.Dヨーロッパは,アメリカが9・11で受けた心理的変化を理解できなかった.Eアメリカは,ヨーロッパの制度による平和を信じない.Fヨーロッパは,パックス・アメリカーナの下でアメリカの指図を受けたくない.

この不統一と混乱を治める,現代のトルーマン,アデナウアー,マーシャル,そしてシューマンは,どこにいるのか?


NYT March 18, 2004

Losing Time on North Korea

ST MARCH 22, 2004 MON

N. Korea - lessons from the Holocaust

By ABRAHAM COOPER and HAROLD BRACKMAN

(コメント) 米中が人権問題や通貨・貿易・雇用で対立し,韓国の大統領が弾劾に瀕し,中日・中露が領土問題で敵視する中で,6カ国協議は消滅したのでしょうか?

アメリカが新しい選択を示すべきですが,ブッシュ政権は動きません.他の関係国は交渉するだけで,決定的な選択を示せません.アメリカが次の手を打たなければ,それぞれが都合のよい条件を主張し続けます.

ホロコーストの教訓として,世界がそれを知らなかった,というCOOPER and BRACKMANは,北朝鮮で今も行われている蛮行に,決して目を閉じてはならない,と主張します.


NYT March 18, 2004

Hoping the Yen, if Not the Yuan, Will Show Muscle

By EDUARDO PORTER

March 22 (Bloomberg)

Bond Girls and Bond Boys Plug Japan's Debt

William Pesek Jr.

FT Mar 23 2004

Lex: Japan's Reits

FT Mar 24 2004

Easy money

Lex: Japan

Long struggle to remove bureaucratic lethargy

FT Mar 25 2004

Lex: Japanese trade

(コメント) 人民元から円に,為替レートの関心が移ってきたようです.日本が円高を受け入れれば,アメリカの貿易赤字や失業は緩和できる,というわけです.日本の債券市場も批判されています.国民の貯蓄をますます国債の消化に使うなら,いつか国債価格が暴落した場合,危機に突入します.また,民間投資をクラウド・アウトし続ければ,日本の生産性が上昇しなくなるでしょう.デフレは本当に終わったのか? 日銀も,金利も,為替介入も,不動産投資信託も,消費も,税金も,年金も,貿易収支も,直接投資も,日本の景気回復とその(欧米から見た)曖昧さを示しています.


BG, 3/19/2004

The right mix of hard and soft power

By H.D.S. Greenway

ST MARCH 20, 2004 SAT

In chess game of power, the US muscle man isn't king

By JOSEPH S. NYE

(コメント) 「暗黒のプリンス」? が書いた新著(Richard Perle and David Frum, "An End to Evil: How to win the war on Terror.")と「ソフト・パワー」論の提唱者の新著(Joseph Nye, "Soft Power: The Means to Success in World Politics.")が注目されています.

Perle and Frumは,アメリカのハード・パワーを確信しています.EUには関心が無く,イギリスを支援して,その「独立」を守るべきだ,と考えます.国連はアメリカにとって有害です.アフガニスタンとイラクの政府を倒したのは当然であり,今後,イラン,北朝鮮,リビア,シリア,サウジ・アラビアの政府も転覆します.国家主権は特権であり義務でもあります.世界が無秩序であるのは,脆弱な指導者たちの責任です.世界が「一方主義」と非難するとき,アメリカは「指導力」を称えます.中東は民主化され,アメリカとイスラエルの利益が拡大します.パレスチナ国家は機能せず,イスラエルの拡大を受け入れます.

Joseph Nyeは,必要であればハード・パワーや先制攻撃も認めます.しかし,同じ目的を達成するのに,強制するか,魅了するか,二つの方法があるのです.ソフト・パワーは単に補助的な手段ではなく,現実のパワーとして,好ましい結果をもたらします.もしソフト・パワーを軽視し,反アメリカ主義が蔓延すれば,同盟諸国の政府は権力を失うでしょう.ブッシュの父はクウェート侵攻に先立って,国際的な連携を説きました.ブッシュ氏も,アフガニスタンを攻撃する前に必要な説得を終えました.それはソフト・パワーが正しく行使されたことを意味します.そして,イラクではそれを放棄し,その代償を支払っています.

Nye自身の三層チェス・ボード論が,STにも展開されています.


NYT March 19, 2004

Taken for a Ride

By PAUL KRUGMAN

NYT March 19, 2004

The Price of Freedom in Iraq

By DONALD H. RUMSFELD

FT March 23 2004

Martin Wolf: A war of opinions

By Martin Wolf

IHT Tuesday, March 23, 2004

Mideast democracy is a long-term, global project

Francois Heisbourg

BG, 3/24/2004

The forgotten victims of the war in Iraq

By Derrick Z. Jackson

(コメント) 戦争や貧困のように,ほとんどすべての人が嫌う現実を,誰も避けることができないのは,なぜでしょうか? 一つの答えは,政治が人々の善意を喰いものにするからです.権力者は,不幸や恐怖,憎しみ,飢餓を喰って,政治を加熱させ,自ら膨張し,強靭になります.

KRUGMANは,ブッシュのもたらす悪夢を,ようやく理解できるようになった,と言います.たとえブッシュを支持してきたスペインの首相が選挙に負けても,スペイン国民がテロに屈した,と非難されます.ブッシュ氏は望んでいたものをすべて手に入れました.それは,誰であれ,自分に反対する者を許さない戦争国家体制です.

RUMSFELDは,ソウルで若い女性記者にインタビューされたことを書いています.彼女は朝鮮戦争のことを知らない若者でした.「なぜ若い韓国人が,地球を半周もしたイラクで,死んだり傷ついたりしななければならないのですか?」と,彼女は無邪気に?尋ねたのです.RUMSFELDは答えます.「それは正しい質問だね.アメリカ人も,50年前に尋ねておくと良かったよ.なぜアメリカの若者が,地球を半周もした韓国で,死んだり傷ついたりしななければならないのか? と.」

RUMSFELDの答えは,単なる憤慨であり,嫌味に思えます.しかし,アメリカは朝鮮で3万3000人の命を失いました.第二次世界大戦のドイツやフランスでも,太平洋でも,今のアフガニスタンやイラクでも.他方で,「それは自由(そして正義)のためだ!」という咆哮には,単純化された政治宣伝と胡散臭さを感じます.言葉には,それにふさわしい政治的人格が必要なのでしょう.

イラク戦は大失策であり犯罪であったのか,それとも賢明な道義的行為だったのか? という論戦にWolfは,原理でも道義でもなく,実際的な答えを求めます.完全な平和主義・非暴力を主張するのでない限り,反対論は三つある.@不公平だ(なぜイスラエルは空爆しないのか?).Aアメリカが嫌いだ(ヨーロッパ左翼).B違法である(国連決議,戦争の緊急性,主権).こうした立場は十分に正当でない,とWolfは考えます.アメリカはコソボで,ヨーロッパは何もできないため,イスラム教徒を守るために軍事介入しました.それも安保理の承認はなかったわけです(ただしヨーロッパは歓迎しましたが).

Wolfが正しいと見なすのは,リアリストの批判です.すなわち,あの戦争が間違っていたのは,それが非合法とか,不道徳とか言うのではなく,愚かだったからだ.サダム・フセインは世俗の権力者であり,抑止し,交渉できる相手であった.彼にとって,本来,狂信的なアル・カイダは敵である.ところがアメリカはフセインを追放して地域を混乱させ,イスラム原理主義の楽園を創り出してしまった,と.しかも,国際的な支持を得られず,占領政策にも失敗して,そのコストをアメリカ国民が一方的にかぶっている.

Heisbourgが言うように,もしイラクの長期的な解決策と考えれば,それは中東地域全体の発展や民主的統合化を意味するでしょう.すなわち,米欧協力によるマーシャル・プランと,パレスチナ難民問題の解決です.

Jacksonは,ブッシュ大統領のイラク開戦1周年演説に注目します.「市民文明は戦争に突入している.市民たちが,突然,最前線に送り込まれた.」しかし,ブッシュ氏はイラク市民にまったく言及しません.アメリカが侵略し,占領して,爆弾と銃弾を浴びせ,深い傷を負わせ,多くの命まで奪ったイラク市民たちのことです.9・11の犠牲者一人当り,180万ドルが支払われます.しかし,アメリカ軍はイラク人の殺害で訴えられた11300のケースから5700を退け,残りの5600について,合計220万ドル,一人当り平均393ドルを支払うだけです.それは例外的に支払われます.米兵に撃たれた12歳の子供は,夜間外出禁止令により病院に運べず,車の中で死にました.息子への米軍の補償金を,家族は受け取りませんでした.


NYT March 19, 2004

Increasingly, American-Made Doesn't Mean in the U.S.A.

By LOUIS UCHITELLE

WP Friday, March 19, 2004

Responding to Job Cuts

FT March 23 2004

Outsourcing is good for America

By Glenn Hubbard

FT March 22 2004

America's lost jobs are not gone for good

By John Tatom

WP Monday, March 22, 2004

Trade and Labor Rights

(コメント) 海外の生産拠点を設けて,海外市場でも販売しなければ,アメリカの多国籍企業は競争力を失い,拡大できません.アメリカから雇用が流出すると言って騒ぐより,労働市場において新しい雇用が生まれるように,また短期的には雇用を捜す期間の保険が利用できるように,保護主義ではなく雇用支援や保険を与えるべきです.

Hubbardは,雇用流出問題について,多国籍企業の役割を考察します.ケチャップなどを作るハインツのような優良な多国籍企業を,国内で雇用せずに海外で雇用する,と非難するべきか? 海外生産でコストを削減すれば,それによって良い職場がアメリカに増えるはずではないか? 世界の優れた多国籍企業がアメリカの労働者を雇用していることを知らないのか? アメリカの労働市場を閉ざしても,さらに雇用が失われるだけで,生産性の上昇がもたらす製造業の失業は回復できない.

Tatomによれば,アメリカ企業に競争力が無いのではなく,生産性が上昇したから失業は減らないのです.アメリカ人の雇用は,失業に怯えて保護主義を採用するのではなく,景気の回復と労働市場によって維持されるべきであり,中国のような海外生産の低コストや生産性上昇は,その場合,アメリカ国民の利益になるでしょう.

A.F.L-C.I.O.が,中国の政治システムや人権侵害を,自由市場に背くものだと非難するのは正しい,とWPは支持します.しかし,アメリカ政府に制裁を求めて,保護主義の根拠とし,それによって国内の雇用が守れると思うのは間違っている,と反対します.中国の膨大な農村人口は安価な労働者を輩出し続けており,アメリカが何をしようと,その条件を変えることはできないからです.そして,たとえ労働者の権利擁護や労働基準の改善を求めるとしても,それが保護主義の口実ではないか,と彼らを懐疑的にして,WTOのルールに従わなくなる恐れがあります.


FT March 22 2004

Yassin's death will solve nothing

By Geoffrey Aronson

BG 3/23/2004

A killing game in Gaza

LAT March 23, 2004

An Unwise Assassination

NYT March 22, 2004

Death in Gaza

WP Tuesday, March 23, 2004

Mr. Sharon's Solution

WP Tuesday, March 23, 2004

Machiavelli in the Middle East

By David Ignatius

The Guardian, Wednesday March 24, 2004

Why Israel killed Yassin

Jonathan Freedland

IHT Wednesday, March 24, 2004

Beware the ghost of Sheik Yassin

Amin Saikal

NYT March 24, 2004

Withdrawal Without Reward

By DENNIS ROSS

(コメント) ハマスの指導者を暗殺したイスラエル首相の判断は,道義的,法的,実際的に,正当化できるものでしょうか? ブッシュ氏なら,これは戦争だ! 市民も最前線にいることを忘れるな! と言うのでしょうが.しかし政治や外交は,戦争を回避し,暴力を最後の手段とするための,知恵やスタイルではなかったのか?


FT March 23 2004

How long can China continue to boom?

By James Kynge

FT March 25 2004

Unforgiven

(コメント) Kyngeは,中国経済の現状と将来の予測を整理しています.キー・ワードは,@超大国の建設,Aアジア興隆の機関車,B必ずしも破綻ではなく,C強気の投資家たち,D住宅とクレジット・カード,E輸送網の整備,F内陸への生産力移転,G膨大な人口移動,H送金と貯蓄,I過剰投資と消費拡大,J成長のバランスを求めて,K人民銀行の苦慮:金利と人民元と政治,L悲観論の根拠.など.

重大な政策転換が起きる二つのシナリオが示されています.一つの予想では,景気が過熱し,さまざまな資源が枯渇してインフレが警告を発し,人民銀行は金利を引き上げます.同時に人民元も引き上げるでしょう.もう一つの予想では,世界経済,特にアメリカに(テロなどの)ショックが襲い,中国製品への需要が大きく減少します.中国への直接投資も枯渇し,移民たちは行き場を失います.

いずれのケースでも,歴史が示すように,その崩壊過程は激しいものでしょう.もう一つの論説は,中国と日本の怨嗟と敵対心を指摘し,アジアの将来を懸念します.記憶において,支配者の政治思想において,資源の争奪や,無人島の領有,地名変更をめぐって,アジアの盟主を競い,新幹線の導入やパイプラインの敷設においても,その背後には両国の内に潜むナショナリズムや戦争準備の思想が這い回ります.


BG, 3/22/2004

Guest worker plan to hike jobless rate

By Lawrence Harrison

(コメント) ブッシュ氏の移民計画を,非合法移民の増大という視点で,批判します.アメリカには毎年50万人以上の非合法移民が入国していると推定されます.おそらく900万人,そのうち500万人はメキシコ人の非合法移民が既にアメリカに居ます.アメリカの労働力は,その増加の35-40%を移民が担います.未熟練労働者が不足している,と考えて,ブッシュ政権は非合法移民の合法化を計画しました.しかしそれは,非合法移民を抑制して,合法移民を含めた労働者の雇用や賃金を改善する,という移民政策の本来の目標に反する,とこの論説は主張します.


The Guardian, Tuesday March 23, 2004

A charter to intervene

George Monbiot

(コメント) ブッシュが帝国主義者であるのは,その人道主義的な理由によるのではなく,国際的なルール,国際法を無視することによる,とMonbiotは考えます.そうでなければ,侵略者は常に自己を正当化できるからです.たとえば,かつて中国を侵略した日本や,エチオピアを侵略したイタリアが強調したように,住民たちを危機から救うとか,特に,自国の住民や企業の権益,生命や財産を守る,と言って.

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The Economist, March 13th 2004

A question of justice?

Special report: Global economic inequality

(コメント) グローバリゼーションは世界の貧困を拡大している,という批判を統計によって反駁します.中国やインドをどう見るか? グローバリゼーションに参加した国は成長しており,参加すらできない国が最も貧しい,と.「絶対的(あるいは相対的)窮乏化論」をグローバリゼーションがどう変えるのか,が関心を惹きました.しかし私には,説得力に欠けた特集記事です.


American interest rates: Playing loose with money

The economy: Smile, these are good times, Truly

American monetary policy: Overflowing

(コメント) グリーンスパンは金利を上げるべきだ,とThe Economistは主張します.特に,住宅価格や消費者の債務水準を抑えるために.そうでなければ,次の危機はますます深刻になるから.アメリカの失業や二極分化を誇張してはならない.今もアメリカはますます豊かになっており,二極分化は移民たちが豊かになっていく過程によって生じた幻想だ,と.


The IMF and Argentina: Whose victory?

North Korea: Through a glass, darkly

Economics focus: Why welfare?

(コメント) @アルゼンチン,A北朝鮮,B所得再分配や社会保障に関する社会経済的考察です.人類は,政治の質をどのようにコントロールできるでしょうか? アルゼンチン政府とIMF,そして債権団体は,アルゼンチンという政治空間と国際秩序,そしてビジネスの法則によって,ぐるぐる巻きになった蜘蛛の餌です.北朝鮮は「大胆な」経済改革を進めましたが,何もかもが不足し,多分,独裁者の政治的面子から,それを欲しいとも言えずに,核兵器を作って外国を脅迫しています.

なぜアメリカ人は,ヨーロッパ人に比べて,所得の不平等に無関心で,社会保障を嫌うのか? ある研究(Alesina & Glaeser)は,二つの理由を見つけました.@アメリカの政治システムはヨーロッパよりも古い! Aアメリカの方がヨーロッパよりも「民族」が一様でない(と意識している).

アメリカは大規模な戦争から隔離されてきたため,その政治システムは独立以来基本的に変わっていません.他方,ヨーロッパは大陸規模で戦乱を繰り返し,新しい政治システムは,左派的な性格を強く持ちました.それは労働者の利益を重視し,社会保障にも積極的です.また,アメリカ人は「民族」の違いを,ヨーロッパ人よりも,強く意識しています.異なる「民族」(や移民)に所得を再分配することは,十分な政治的支持を得られません.他方,ヨーロッパに割拠した領土国家は,内部に残る同質的な「民族」意識を政治的に利用します.

すなわち,世界がアメリカではなくヨーロッパに近ければ・・・? アルゼンチンや北朝鮮の復興にも人々は協力して,所得再分配や社会保障を提案するかもしれません.もちろん,今はまだ? 論外だ,と怒り出す人のほうが多いでしょうが.東ドイツや東欧は,アジアのモデルになるでしょうか?