IPEの果樹園2004

今週のReview

3/22-3/27

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自分たちが耕した畑を戦車に踏み潰され,巨大な壁で居住区を隔離され,射殺された肉親の血を浴びた人々の虚ろな目は,いつか怒りと憎悪に変わります.それでも人は,苦しみと繁栄を分かち合い,ともに木を植えて,子供たちの心に共感と友愛の国を築くことができるでしょうか?

ユダヤ人メロン・ベンベニスティと,パレスチナ人サリー・ヌセイベの,二人を通じて描いた「ドキュメント・エルサレム」をNHK・BSプライム・タイムで観ました.国家を持たないユダヤ人が,自分たちの国家を,その信仰によるエルサレムへの帰還として実現します.他方で,国家を持とうとしなかったアラブ人は,イスラエルとその植民地の拡大による迫害や恐怖から,信仰とテロを武器として闘い,自分たちの土地に帰還する権利を主張します.

かつてはオスマン・トルコの支配する多宗教・多民族の土地であったエルサレムが,第一次大戦で政治的な支配者を失います.イギリスとフランスによる植民地分割を経て,シオニズム運動(ユダヤ人国家建設の宗教・政治運動)による入植地拡大が進みます.ヨーロッパで起こった大量虐殺とナチスによるホロコーストが,シオニズムに対して寛容で,それを支援するような国際(欧米)世論を作ったことは理解できます.

ユダヤ人たちはパレスチナに土地を買い集め,砂漠や沼地を開拓し,あるいは社会資本を整備して近代的な都市を作ることで,自分たちの理想をかなえようとします.苦労して耕した土地,自分で植えた木々が育ち,自分の子供たちを育てた土地に,深い愛着を感じることも理解できます.世界中から,多くのユダヤ人がシオニズム運動に資金を提供し,この投資が繁栄する国家を築くまでに至ったことも,ある程度,理解できます.

パレスチナ人たちは,オスマン・トルコの支配が失われても,ここがアラブの土地であることを疑いませんでした.彼らは貧しく,ユダヤ人に土地を売ることを,イスラエルの領土にされるかもしれない,と怪しむ理由など無かったでしょう.国家ではなく,部族への忠誠と篤い信仰によって,彼らの社会的結束は保たれていたのです.

しかし,1925年のヘブライ大学建設を機に,エルサレムの旧市街を見下ろす丘の上で,あたかも支配者のように大学の建物が君臨し,世界の政治家がユダヤ人の大学創設を祝う式典を執り行うことに,アラブ人たちは激しく怒り,反発しました.彼らは窓に黒い旗を掲げて意志を示し,遂に1929年,ユダヤ人のもっとも神聖な遺跡,「嘆きの壁」で衝突が起きました.このときのテロは,イギリスにまで及びました.

イギリスの調査団は,エルサレムをイギリスが統治し,パレスチナは南北で分割してイスラエルとアラブ人国家に分けるよう提案します.それは1993年のオスロ協定でも基本的に引き継がれた妥協案です.第二次世界大戦後,イギリスに代わって,国連が同様の分割案を示し,しかも,それが可決されます.

ユダヤ人は圧倒的に多くのアラブ人に取り囲まれ,彼らがイスラエルを承認しないことを恐れました.他方,パレスチナ人も,アメリカが支援するイスラエルの圧倒的な軍備に勝つことはできず,周辺アラブ諸国の政治にも翻弄されます.それでも,メロンは父が行ったパレスチナの地名変更に罪悪感を持ち,シャロンの入植地拡大政策に反対しました.またサリーは,オスロ合意が実行されない中でも,武装闘争ではなく,パレスチナ難民の帰還権放棄により,対等なパレスチナ国家を建設するべきだ,と訴えます.メロンとサリーは,話し合いによる共存の道を探し続けます.

分断国家の誕生と再統合は,緩衝地帯の人々に大国が課した悲劇です.中華人民共和国(中国)と中華民国(台湾)との対立もそうですが,譲歩の余地は無い,政治的信条やナショナリズム,信仰を平和的に解決できない,と信じる限り,その運命から逃れられません.しかし,中国が豊かになり,民主化も進めば,多分,台湾との再統合が可能でしょう.資本家を受け入れ,所有権も保証した「共産党A」,搾取される工場労働者や貧困にあえぐ地方農民を重視する「共産党B」,民主主義と地方分権を強く訴える「国民党」や「民進党」,これらが中国全土で有権者の票を争い,自由な選挙で政権交代を実現します.

パレスチナとイスラエルも一種の信仰=分断国家です.いつの日か,本当に拡大・中東圏の民主化が成功し,アラブ民族主義者もシオニストも武器を捨て,繁栄する多宗教・多民族の社会的ネットワークにより,人々は土地の平和を保つでしょう.軍需産業や資産家が大国のエネルギー政策や軍事的勢力均衡を介して蔓延させた憎悪とテロの連鎖は絶たれ,人々を隔てる巨大な「壁」も取り除かれて,平和について土地の人々が話し合える日をメロンもサリーも夢見ます.

しかし,ニュースを観て不安が生じます.もしかすると,ハイチにアメリカが軍事介入したように,中国も台湾に軍事介入してよい,と考えるときが,本当に,来るかもしれません.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT March 10, 2004

A Nuclear 9/11

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) もし核兵器を用いてニュー・ヨークのグランド・セントラル駅を爆破したら,その被害は死者50万人,経済的な損失は1兆ドルに達する,とハーヴァード大学のケネディー・スクールが予測しました.それゆえ,何としても核兵器の管理を徹底しなければなりませんが,それは言われているほど,実行されていません.

確かに国際的な核管理体制は正式の核兵器保有国をわずか?8カ国に限定しており,最近は,リビアが開発計画を放棄しました.しかし他方で,「この15年か20年以内に,核兵器がテロリストに使用されても驚かない」と防衛専門家は言います.それは,ロシアやパキスタン,そして特に北朝鮮が,核兵器を密輸するからです.イランやパキスタンも,まだ,その恐れがあります.

ロシアから核兵器やその技術者,装置,ウラニウムを拡散させないために行われたはずのアメリカの基金は何に役立ったのか? とKRISTOFは憤慨します.既に,警鐘は鳴り続けている,と.


NYT March 10, 2004

The Trouble With Germany

March 17 (Bloomberg)

The Dutch Economic Model Isn't So Healthy Anymore

Matthew Lynn

(コメント) ドイツは戦後復興の奇跡をもたらした自分たちのエネルギーを見失い,オランダは1990年代の理想的な経済モデルという賞賛を失いました.

ドイツ衰退の理由を,WPは社会福祉と労働組合に見ます.限界を超えた福祉は財政的な負担として経済を押し潰し,労働組合との集団交渉は新しい力を奪ってしまった,と.改革を進めようとした途端,首相は支持を失い,政治的な指導力を見出せない.

オランダは,ヨーロッパの「社会的市場モデル」を超えた,次の経済体制を示したものと賞賛されていました.ドイツやフランスの資本主義は生き残れないが,かといってアメリカのようにはなりたくない.オランダが福祉国家を放棄せずに成長できたなら,ヨーロッパもそれを目指すべきだ,と.

昨年,オランダ経済は1982年以来始めて0.8%縮小しました.失業率も株価も,EUの中でも劣悪な水準に落ちています.オランダの恵まれた位置,開放的な経済と高度な都市機能は,ヨーロッパとアメリカの掛け橋であり,最優良な位置を占めます.それでも,社会的市場モデルを維持する限り,オランダはその有利さを生かすことができず,革新に取り組めないでしょう.

だからアメリカ・モデルに移行せよ,というLynnの主張に,私は同意しませんが.ヨーロッパもその病をどのように診断すべきか,迷っていることが分かります.


NYT March 10, 2004

Talking Tough on Trade, or Knowing When to Duck

By ELIZABETH BECKER

ST MARCH 13, 2004 SAT

Outsourcing: Stop blaming, start retraining

TOM PLATE

March 16 (Bloomberg)

`Dragon's Head' May Intensify U.S. Jobs Exodus

Andy Mukherjee

(コメント) 雇用と企業の流出を心配する政治家たちが見つめる先は,メキシコではなく,中国です.人民元を切上げよ,という主張が,半導体の差別的な扱いがWTOのルールに違反している,という攻撃に変わったようです.

委員会に呼ばれたゼーリック通商代表は,マンキューが糾弾されたことを教訓として,慎重に自由貿易を支持しました.しかし,政治家たちはもっと攻撃的な政策を競い合っています.確かに,貿易には人々に困難な側面もある.しかし,家族を守り,不安を解消するために何をするか考えるとき,他の人々や雇用を損なわないようにしなければならない,とゼーリックは議会を説得します.そして,再訓練と教育に投資し,転職によっても年金を容易に持ち運べる制度を訴えます.

なぜ自由貿易は必要か? ゼーリックは,それがアメリカの労働者を豊かにする,と正統的な擁護を繰り返します.「アメリカは,競争の機会が平等であれば,必ず勝ち残ることができます.」「われわれの目標は,新しい市場を開放し,これまで積み上げられたルールを実行させて,企業や労働者,農民が世界中で商品を売れるようにすること,また消費者がより安い価格で,しかも賢明な選択をできるようにすることです.」

それでも共和党員は詰問します.膨大な対中貿易赤字(2003年に4890億ドル)をどうするのか? 「もしアメリカの貿易黒字が見たいのなら,1930年代に戻りましょうか? その頃,アメリカは大恐慌で,貿易黒字がありました.」「赤字や黒字という統計は,指標に過ぎません.それが重要な目標であると,私には思えないのですが.」

こうした説得に,議員たちは不満です.もっと攻撃できるものは無いのか? 「アメリカは中国をWTOに提訴するでしょう.」 それは人民元の論争より安全だろうし,失業(を心配)している有権者にも分かりやすいな,と議員たちも少しは納得したようです.

同様の文脈で,TOM PLATEやMukherjeeの論説も読むことができます.

WP Wednesday, March 10, 2004

Bush Allies, Falling Down on the Jobs

By Robert J. Samuelson

WP Friday, March 12, 2004

Job No. 1 for Bush

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) 以前は,日本政府を非難するのに「フーバー以来の」という喩えをよく聞きましたが,今度はブッシュ政権が非難されています.Samuelsonは,こうした政治的非難が事実に反することを指摘します.

確かに景気回復にもかかわらず雇用は少ししか伸びていません.犯人探しが始まり,生産性やアウトソーシングが非難されます.しかし,Samuelsonはハイテク労働者でインド人に職を奪われた,という数が重大であるとは考えません.10%も無いだろうし,誰も知らない,というわけです.

なぜ人々はこれほど不安を訴えるのか? その理由は,高齢化だ,とSamuelsonは主張します.アメリカの労働者の年齢は高くなっており,その分,家族への義務は大きく,新しい職場への適応は難しい.しかも急速な技術変化が彼らの再就職を制約します.

ブッシュ氏が再選のために必要とする,接戦の諸州で,失業率は高く,彼を支持するはずの人々に,雇用不安は強い.それが雇用問題を政治的に最重視しなければならない事情です.

NYT March 12, 2004

No More Excuses on Jobs

By PAUL KRUGMAN

(コメント) Samuelsonとは逆に,KRUGMANは失業に関してブッシュ政権の政策ミスを糾弾します.失業は誇張されているとか,それは政府の責任ではない,という保守派の主張は間違いだ.失業者は,その求職活動が無駄であることを悲観して,失業者の求人リストから外れたものを加えれば,すでに7.4%にも達するという予測がある.また,ブッシュ政権は雇用をもたらさない富裕層への減税を恥知らずにも繰り返し,とうとう将来の社会保険制度まで食い潰している,と.

ST MARCH 15, 2004 MON

Jobs coming, but when?

(コメント) STは,KRUGMANの批判を退けます.アメリカの雇用が伸びないのは,その生産性が史上まれに見る速さで改善されたからだ.それは長期的にはアメリカに富と雇用をもたらすが,短期的には政治的問題となる.そして,インドや中国を非難するより,国内の需要を,あるいはアメリカに代わる世界の需要(赤字国)を確保しなければならない,と.


NYT March 11, 2004

The Great Indian Dream

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT March 14, 2004

Origin of Species

By THOMAS L. FRIEDMAN

9年前,日本がアメリカ自動車産業の頭を叩き割っていた頃,私は娘と地理の勉強ソフトで遊んでいた.彼女がデトロイトを見つけるヒントを与えようとして,「自動車を作っているのはどこかな?」と聞いた.「日本よ!」 と娘は答えた.痛っ!!! ・・・

BangaloreのGlobal Edge社を訪問したとき,この記憶が蘇った.今度,インドに出張だ,と言えば,娘に聞かれるのではないか? 「そこからソフトウェアが来るんでしょ!」 インドが成功した要因は4つある.@タイミング,Aハード・ワーク,B才能,C幸運.

インド政府は,そのとき,社会主義的な統制を破棄し,貿易を自由化していた.インドの文化は,子供への教育を重視し,多くのエンジニアを育てた.しかも,イギリスの植民地支配を経て,今も高等教育は英語でなされている.インドは,アメリカと地球の反対側の位置にあり,その時差によって,データ処理の24時間工場が完成できる.それはITバブルが残した大陸間の光ケーブル,ミレニアム問題でパニックになった企業からのソフトウェア需要とも一致した.

Bangalore のInfosys社を訪問したとき,この企業がヴァーチャル会議を開くため,各地の時差を示す8つの時計が壁に並ぶのを見て,あることに気づいた.ソフトウェアの世界ネットワークは,アルカイダと同じものだ

「グローバリゼーションの原始の海から,二つの異なる遺伝子をもつ生命が現れつつある」と,Infosys社のCEO,Nilekaniは言う.では,なぜインドからInfosys社が生まれ,サウジ・アラビアからはアルカイダが生まれたのか?

インドには資源が無く,気候も厳しい.しかし,そこには自由な市場があり,欠陥がないとは言えないが,民主主義も栄えている.人々は教育を重視し,社会に科学と合理主義が根付き,女性の地位も高い.誰であれ新しいアイデアを持って挑戦すれば,豊かになることができる.

他方,アルカイダの故郷,サウジ・アラビアやパキスタン,アフガニスタンは民主主義を拒み,イスラム原理主義者が女性や知識人を抑圧し,合理性や科学を広めなかった.莫大な石油資源があっても,ふんだんにアメリカの軍事援助を受けても,彼らの最大の輸出品は「怒り」だ.

若者たちはそのエネルギーを何に向けているだろうか? インドの若者たちは,その技量に応じて,「コール・センター」に職を得る.彼らは世界経済に奉仕し,世界に呼びかける.他方,パキスタン,アフガニスタン,サウジ・アラビアの若者は,いわゆる"madrassas"学校に通う.そこでは毎日コーランを暗証し,神だけに呼びかける.アメリカの消費者は,その両方に資金を与えている.一方は,アメリカ人が運転する大型車が消費するガソリンを通じて,他方は,最新の技術を利用するために電話でサポートしてもらうことで.

Infosys社とアルカイダは,ともにアメリカを脅かしている.アメリカは職場を失い,テロを輸入する.ジョンズ・ホプキンズ大学のMichael Mandelbaumは,「次の選挙は,これら二つの挑戦に関する選挙となる.共和党はアルカイダに,グローバリゼーションの敗者に対する挑戦に注目し,民主党はInfosys社に,グローバリゼーションの勝者からの挑戦に注目する.」と述べた.それらは互いに交差している.


FT March 11 2004

Philip Stephens: America must play by the rules

By Philip Stephens

IHT Wednesday, March 17, 2004

Tyrants and failed states: The world must find a way to intervene

Clive Soley

(コメント) 秩序には,正当性と強制力が必要です.アメリカの軍隊は,それが正当性を確保できないから非難されており,他方,国連の決議は強制力を欠くから非難されています.

しかし,破綻国家を無視して住民が飢餓や殺戮に苦しむのを放置するか,あるいは,軍事的に介入して支配体制を転覆するか,という選択肢を議論するのは,不毛な論争です.なぜもっと他の選択肢が無いのか? なぜもっと早くサダム・フセインの暴走を非軍事的な手段で止められなかったのか? なぜジンバブエのムガベ大統領が住民を苦しめていると知りながら,国連は何もしないのか?

もっと国連による制裁や安保理の決議が重視され,関係諸国がそれを実行していたなら,無法国家・破綻国家は支配者や政治体制を転換することで対応しただろうし,軍事介入は最後の手段として強い政治的支持と効果的な介入や復興を組織できたのではないか? 人権や国際的ルールについて,具体的な選択肢を整備し,機能させるために論争した方が良い,と.


FT March 11 2004

Exchange rates matter less than we thought

By John Edwards

FT March 17 2004

Exchange rates are losing their importance

By Tim Condon

(コメント) 為替レート制度は,思っているほど重要ではない? ・・・本当に?

Edwards(民主党の大統領候補ではない)が注意するのは,ドルが安くなってユーロが(そして円も少し)高くなったから,アメリカの輸出が増えて,EU(や日本)の輸出は減った,と言えない,むしろ三つとも輸出を増やしていたことです.為替レートによる不均衡の調整は期待されるほど働かない?

しかし,すくなくとも,@アメリカはドル圏から輸出入するので,必ずしも,一般化できない.A特に,中国がUSドルに固定しているので,中国を通じて影響が変わる.B為替レートの変化が貿易収支に現れるには時間がかかる(2年程度).などが,理由として指摘されるはずです.

これらはEdwardsも指摘しますが,さらに,中国のデフレを強調します.IT技術移転などで中国の生産力は爆発的に増加し,デフレが進行するから,ドルを通じて通貨が増加してもインフレにならない.それどころかデフレでさらに競争力を強める.中国は急速に成長し,それゆえアメリカからも,EUからも,日本からも輸入を増やしている.この,中国の成長を軸にした世界市場の再分割が,自分たちの国内市場を取り合わずに,米欧日の貿易不均衡を調整する効果を持つ,というわけです.

それは,黒字国(中国)の成長加速と,赤字国(アメリカ)の為替レートによる調整,という意味で,まさに期待されたような結果ではないか? と私は思います.Condonは資本移動の増加を指摘し,為替レートと成長の再分配による持続的な拡大より,中国やアメリカ,ヨーロッパの景気過熱とバブルを心配します.


FT March 11 2004

A deal in time

March 11 (Bloomberg)

Argentina Tries to Show the IMF Who's Boss

David DeRosa

WP Friday, March 12, 2004

The IMF and Argentina

ST MARCH 15, 2004 MON

Back to 19th century, thanks to Argentina

By HAROLD JAMES

(コメント) FTの論説は非常に前向きです.IMFは,返済の見込みが無いアルゼンチン政府に融資して良かったのか? と批判することもできるはずです.しかし,アルゼンチンはカレンシー・ボードが崩壊し,混乱を回避することにIMFが協力するべきでした.政府もその融資条件を満たせるようになった,と言います.現実的な条件で債務の返済条件を再交渉すれば,民間の債権者も合意できるはずだ(つまり何らかの形で債権放棄せよ),と.

Kirchner大統領が民間債権者に示した条件は,1ドルに対して25セントに過ぎません.しかも,債務不履行してからの期間に利子は考えずに.投資家たちは激怒しました.Kirchner大統領は,教育や貧困解消に必要な金を,外国の投資化に渡せない,と言いますが,では国際資本市場から排除された期間に被った損失と増大した貧困は,無視しても良いのか? とDeRosaは批判します.また,なぜIMFは自分の債権だけ全額を返済させるのか?

そこでKrueger副総裁は行動を起こし,債務不履行の処理メカニズムを導入しようとしましたが失敗し,次に債権者の集団的な選択を契約書に盛り込むことを提唱しました.すなわち,債務の組換えを円滑に行えるわけです.しかし,それではIMFは再建策に無責任ではないか? と指摘されます.これでは,自分だけ先に返済させて債務国を潰してしまう泥棒債権者ではないか?

WPによれば,Kirchnerは10セントしか払わない,他方,民間債権者は60セント払え,と対立しているようです.WPは,アルゼンチンが債務返済を無視し,通貨を大幅に切り下げて景気を回復させていることに注文をつけます.@IMFが返済を監視せよ.Aアメリカ政府・財務省が両者の妥協を引き出せ.BKirchnerは間違った政策を是正せよ.Cアルゼンチンを,さらにナショナリスティックなポピュリストに委ねるな.

JAMESは,アルゼンチンの処理により,国際金融が19世紀に回帰する,と考えます.国内金融と違って,国際金融では債務の返済を強制すること(たとえば軍事的な占領)が難しく,また債務不履行と破産処理が法的に行えません.そこで,救済融資するか,デフォルトを宣言して国際金融から排除すること,またこうして,危険な資産を購入した投資家にもペナルティーを課すこと,が普通でした.国によっては,返済条件を再交渉し,市場に復帰させました.

ところが,危機が国際的に波及し,しかも債権国の金融システムにも深刻な問題を生じる場合,国際金融危機として処理できなくなります.そこで,20世紀はデフォルトや破産をさせなかったのです.IMFや国際機関,主要国が協調融資して,債務国の返済を続けさせました.その規模がもはや支えきれず,また民間投資家の投機に遭うようでは,20世紀型の処理も不可能です.ロシアが,そしてアルゼンチンが,それを明確に示した,というわけです.

19世紀型への回帰は,国際投資の危険を投資家自身が知るでしょう.しかし,同時に,ダイナミックで成長を促すものだ,とJAMESは楽観します.


March 12 (Bloomberg)

For Korea, It's the Economy and Debt, Stupid

William Pesek Jr.

FT March 14 2004

Crunch time for South Korea

By Andrew Ward

FT Mar 15 2004

Lex: South Korea


ST MARCH 12, 2004 FRI

China fixes its farms

NYT March 13, 2004

China's Need for Metal Keeps U.S. Scrap Dealers Scrounging

By ANDREW POLLACK and KEITH BRADSHER

NYT March 14, 2004

China's Economic Engine Needs Power (Lots of It)

By JIM YARDLEY

(コメント) 中国の成長がいかに目覚しくとも,それが無限に続くわけではありません.農民の貧困は都市へと流入する労働者の不満によって政治を揺るがし,環境破壊や資源・エネルギー不足が深刻になるはずです.もちろん,これらは中国だけの問題ではなく,特に周辺諸国を巻き込んで,世界中で起きることですが.

それゆえ中国の成長を持続する制度や政策の改善に,世界が関心を払うのは当然です.


ST MARCH 12, 2004 FRI

Bigger markets, faster pace...but who's in charge?

By Janadas Devan

(コメント) 危機について,それはグローバリゼーションがもたらしたと言うだけでなく,グローバリゼーションの社会的メカニズムの欠如がもたらした,という主張です.

しかし,世界社会や世界民主主義を唱えることが,グローバリゼーションの利益を世界中の貧しい人々に及ぼす正しい方法である,という主張には,頼りなさを感じます.アメリカやロシアがテロなのか,テロ対策なのか,分からないような世界で,世界社会という言葉で,何に期待するのでしょうか?

Devanは,明らかにThe Economist批判を意識しています.しかし,世界社会の具体的な成熟化,それを仲介し,連携を促すメカニズムについて,もっと具体的な経験や工夫が必要ではないか,と思いました.


BG, 3/12/2004

US policy successes in Asia

By H.D.S. Greenway

IHT Friday, March 12, 2004

A 'Greater Chinese Union' with Taiwan?

Gareth Evans

(コメント) アメリカの外交を誤らせているのは,ペンタゴンであり,通商的利益や在米亡命者団体である,とGreenwayは考えます.中国やインドに対する政策は柔軟に転換され,パキスタンや北朝鮮,台湾などを,巧妙に危機管理してきました.それは,ペンタゴンや議会のネオコンではなく,国務省の外交専門家たちが政策決定に主導権を握ってきたからだ,と.外交には,独自に守るべき目的と論理とがある,というわけでしょう.

もし中国と台湾の外交官にも,その独自の目的と論理とが,さらに長期的な視点から,貫徹されるなら,ミサイルよりもオリンピックに両国民が歓喜し,「大中華圏」という,多元的な政治経済システムの創出に向けた話し合いさえ,可能となるかもしれません.


FT March 12 2004

Better than empire

By Philip Bobbitt

ST MARCH 16, 2004 TUE

World may have to live with a more difficult US

CHARLES A. KUPCHAN

(コメント) アメリカの「帝国主義論」に関する二人の考察です.

Bobbittは,「アメリカが超越した経済・軍事力を持つこと」や,「アメリカが他国の社会からその主権を実質的に奪っていること」を理由に,帝国主義である,と批判する主張に反対しています.なぜなら,もはや国民国家ではなく市場が,人々の生活を改善し,民間主体が動かす市場の力が各国の政府に能力を与えるからです.経済・軍事力が圧倒的であるのは,アメリカがこの市場の力に沿って,それを拡大する役割を担っているからです.また,ある社会が主権を失うとしたら,市場を混乱させ,人々を苦しめたからです.アメリカは,19世紀の帝国になるのではなく21世紀の市場国家,もしくは,市場を支える傘に過ぎない,と考えるのです.

KUPCHANは,アメリカの政治文化が両極化していることを指摘します.アメリカには,国際的なリベラリズムと絶対的な国家主権との,両方の政治文化があり,それらが二大政党制を動かして,外交政策を振り子のように大きく転換してきました.さらに,将来のヒスパニック人口の増加がアメリカの政治文化を国際主義から西半球中心に重心を移させるでしょう.

KUPCHANは,アメリカが両極化ではなく寛容な政治文化を,国際的な多角主義を回復することを訴えます.


March 15 (Bloomberg)

Japan's Checkbook Shifts From China to India

William Pesek Jr.

(コメント) 日本が,戦略,政治,経済,環境などの視点から,中国からインドに,そのインフラ整備の支援を移行させている,Pesek Jr.は考えます.しかも,それは賢明な選択だ,と支持しているようです.


FT March 15 2004

How not to pick the IMF's chief

IHT Monday, March 15, 2004

The IMF is not the property of the rich

Augusto LopezClaros

FT March 16 2004

Europe should give up its hold on the Fund

By Sebastian Edwards

(コメント) IMF総裁の指名レースです.ヨーロッパがIMF総裁の席を取る,という破廉恥な因習など捨ててしまえ,というわけです.もし伝統に拠れば,スペインの蔵相Rodrigo Ratoですが,危機を回避する点で賞賛されてきたチリの政策を支えたAlejandro Foxleyが良い,とEdwardsは推薦します.今読んでいるThe Economistは元アメリカ財務長官Robert Rubinを推しています.

アメリカの大統領,IMFの総裁,あるいはマイクロソフトの会長や産油諸国の首長,こういった人々は,個人として果たす役割に見合った選考過程と,事後の評価,説明責任を果たしているのでしょうか? 彼らが何をするためにその地位を得たのか,そして何をしたのか(しなかったのか),明確にしてほしいです.


March 16 (Bloomberg)

`Dragon's Head' May Spur Jobs Flight

By Andy Mukherjee

NYT March 16, 2004

A.F.L.-C.I.O. to Press Bush for Penalties Against China

By STEVEN GREENHOUSE and ELIZABETH BECKER

FT March 17 2004

Labour wrongs

WP Wednesday, March 17, 2004

China's Workers -- and Ours

By Harold Meyerson

(コメント) 中国にハイテク産業が育つというのは,国際分業を無視した無謀な産業政策や安全保障の問題に思えます.しかし,インドが成功しているように,中国も急速にハイテク技術者を育てるでしょう.フィリピンや,ヨーロッパには東欧諸国が,同じ市場を狙っています.

しかも,インドが英語という国際ビジネスの共通言語で市場を開拓したのと違って,中国は英語でない自国語の潜在的市場が世界をリードする可能性を利用できます.中国語の市場を開拓することによって,外国の先端的な企業にも提携や譲歩を求めることができるでしょう.

A.F.L.-C.I.O.が,ブッシュ政権に中国企業への制裁を求めました.中国企業は,独自の労働組合を認めないし,ストライキも許さないというように,労働者の権利を侵し,最低賃金も支払わないことで,不当な優位を得ている,という理由です.農村から働きに出てきた労働者を奴隷のように酷使し,あるいは長時間,子供を働かすようなことが中国で行われれば,それは世界の労働基準をも損なうだろう.だから,不当な競走上の優位を相殺する関税を課すべきだ,と主張します.

しかし,WTOは労働者の権利について合意しておらず,中国のこのような関税を課すことは認めないでしょう.多くの経済学者は,各国が行う労働基準や最低賃金(さらに児童労働など)も含めて,比較優位は決定されている,と考えるはずです.中国自身が豊かになり,労働基準を高める形で出稼ぎ労働者の権利を守り,貧困を解消するように努力するはずだ,というわけです.この問題を大統領選挙の焦点にすることは間違いだ,と米中の貿易や投資を担う産業界は心配します.

FTは,A.F.L.-C.I.O.の主張が,中国の労働者を心配するのではなく,ブッシュ政権を選挙で不利にするための作為的な行動だ,と考えます.ブッシュ政権はこの要請にこたえるべきではないし,民主党のケリー候補も,外国を非難するより,自国の政策によって失業者を減らす問題について論争しなければならない,と.

Meyersonは,利潤さえあれば取引は合理的だ,という貿易理論を批判します.すなわち,なぜアメリカで失業者が居るのに,企業は中国のスターリニスト的な強制労働システムを利用して利益を上げることに投資し続けるのか? というわけです.もしA.F.L.-C.I.O.の主張が「保護主義である」というのであれば,それは「保護主義」の意味を間違っている.中国の労働者がまともな労働条件や休日を取ることに反対するなら,アメリカの12倍もの労働者がそのような条件を改善できないなら,政府は利潤さえあれば何でも許されると言うのか?

日本の労働者も,この問題に必ず注目するでしょう.特に,同じ企業が異なる労働基準で操業できる際には,自由貿易と直接投資との間に,未解決な問題があるように思います.すなわち,かつてニュー・ヨークなどでも投資を優遇する特区を作ろうとしたはずです.政府や地方自治体が投資を奪い合い,優遇策や補助金,労働基準や規制の緩和・解除を行うことが,世界的な規模で問題となるからです.

また,かつて日本がアメリカとの貿易摩擦の際に,円安操作や系列融資,産業政策,さまざまな取引慣行や住宅,雇用などまで,執拗に責められて交渉に含めていった経過を思い出します.輸出企業ではなく,労働者の福祉に政治的正当性を求める中国政府に対しては,人民元よりも,労働組合や低賃金が交渉の対象になるのかもしれません.


BG, 3/16/2004

The Bushes' new world disorder

By James Carroll

(コメント) かつてマキャヴェリは,「新しい秩序を指導することほど,実行が困難で,成功することが疑わしく,扱うだけでも非常に危険なことは無い」と警告したようです.

ブッシュ大統領は,10年以上も前にその父親がクウェートに侵攻したフセインを討伐して宣言した「新しい世界秩序」を完成しました.ただしその姿は,アメリカ国民が望んでいた自分たちの理想を裏切るものでした.多くの犠牲者,多くのテロ,既存の国際秩序はいたるところで破綻し,アメリカ国内にまで治安のための人権停止が常態となるような.何よりも,政府は真実と嘘を区別しなくなりました.ワシントンからイスラエル,ハイチ,スペインへと,世界中に広がる無秩序が「新世界秩序」の結果です.アメリカ自身が9・11のトラウマを精神の檻にしてしまいました.


The Guardian, Tuesday March 16, 2004

The fruits of poverty

George Monbiot

(コメント) かつて大金持ちや財界の実力者と言えば,金融業者や鉱山主,海運業者や国際投資家,自動車や情報・通信産業の巨大企業を動かす大株主や経営者,でした.今やそれは,裕福な消費者の国と世界中の貧しい生産拠点とを結ぶ,流通・小売業の独占体です.

Monbiotは,ウォル・マートなどの巨大スーパーが世界中の生産者や供給業者,労働者を競争させて,価格の切り下げと市場の独占に励むことを批判します.世界から二つの階級が消滅するだろう,と.一つは政治勢力としてのプロレタリアート.もう一つはプチ・ブルジョア階級,すなわち商店主などです.

それで良いのだ,と消費者や経済学者は思うのでしょう.もし価格が安くて良い品質の商品が,世界中から供給されるなら,競争によって消滅する生産者や商店が多ければ多いほど,世界は豊かになるからです.市場が上手く機能するなら.Monbiotの不満には,種の多様性を保存すべきだ,と訴えるエコロジストの主張も関係あるでしょう.

かつて,投資銀行家が栄え,鉱山主が町を支配し,海運業者や通信業者が消費者に豊かな生活をもたらしたときも,社会問題がなかったわけではありません.それは政治化し,制度化され,それに応じて市場も変化し続けるわけです.特に市場が混乱し,縮小する過程で.

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The Economist, March 6th 2004

America’s election: The Brahmin populist

Jon Edwards bows out: Where to now?

(コメント) The Economistは,Kerryが南部や保守派にとってリベラル過ぎるし,左翼的なポピュリズムに近寄りすぎる,と批判します.大統領候補としての政治基盤が狭すぎる,と言いたいようです.また,中産階級を豊かにするような政策を目指して財政支出を増やす心配があるし,NAFTAをさまざまな社会的規制の展覧会にして,アメリカ市民の不安に訴えたいようだ,と.

しかし,The Economistにとって,こうした政策は後ろ向きです.グローバリゼーションは後戻りできない,という宿命論を唱えるわけでもないでしょうが,多くの正統的な政治家がそうであるように,Kerryも選挙が終われば自由貿易に戻ってくる,と楽観します.だから,選挙戦で自分を縛るような雄弁を競い合わないほうが良い,と.

悠然と言う意味では,Edwardsが驚異的な支持の拡大に成功し,もしこれがもう少し早かったら,最終候補はKerryでなかったかもしれない,と記事は指摘します.では,EdwardsがKerryのペアとして残るのか? と言えば,同じ上院に属し,同じジョージタウンに住んでいても,この二人は余りにも違う,と言います.

選挙という「生きもの」を正しく,有権者にも分かるように,解剖できる論説が,もっと必要です.


Saudi Arabia: Adapt or die

(コメント) 石油と信仰によって王族による支配を隔離してきた国家が,テロとイラク戦争によって根本から動揺し,内部に改革論争を生じているようです.王制が交代して,次第に選挙による政策選択と,市場による投資選択や資源・労働力の効率的利用が増大して行くのでしょうか? あるいは,既得権と狂信が政治を支配するのでしょうか?


Argentina and the IMF: Which is the victim?

(コメント) アルゼンチンが犠牲者なのか,それとも投資を回収できない海外の債権者たちが犠牲者なのか? Kirchnerが勝者なのか? そしてケーラーやクルーガーの立場は?

IMFが国際金融に果たす役割は,すでに前提となっている危機回避や危機管理,債権回収と経済再生のメカニズムが不透明で,政治的に合意できないことが明白となってから,交渉を促すよりも,むしろその障害とさえなっています.なぜIMFはアルゼンチンに融資し続けたのか? なぜ融資を切ったのか? なぜ過去の融資を組替える交渉を指導できないのか? なぜ融資が切れたことでアルゼンチンの政治や経済は一時的に危機を回避できたのか? そして国内秩序と国際秩序とを和解させる長期的な見通しは?

過去の政治家たちが行った決定に縛られたまま,IMFや民間銀行・投資家が立ち入りたくない問題について,誰も決定できないまま,誰かが諦めるまで,皆が持久戦を強いられているといった印象です.


Economics focus: A modest undertaking

(コメント) アルゼンチンに限らず,本当に経済学が答えを知っているのか? という問題を考えた場合,その結果はバラバラです.多くの場合,財源は限られており,情報も限られており,合意されたルールもありません.たとえ目標に関して合意できても,何から手をつけたらよいのか? どの程度それに政府としてかかわるのか?

@環境破壊を防ぎ,A世界的な感染病を抑制し,B軍事衝突を回避もしくは停止させ,C世界中の人々に教育を受けさせ,D金融不安の拡大を防ぎ,E政治的腐敗や企業・銀行の詐欺を取り締まり,F栄養不良や飢餓を解消し,G人口増加や移民問題に対処し,H衛生状態や水の供給を確保し,I貿易に関する補助金や障壁を無くしてゆく.

どれもしなければなりませんが,何から手をつけたらよいのでしょうか? ノーベル経済学賞を得た4人の経済学者を含む9名の最高の経済学者が話し合いました.その結果が政府を拘束する理由はありません.しかし他方で,すでに世界は巨額の公的援助を政府間で行っており,政策の優先順位について互いに関与しています.あるいは,新聞やTVが世界中の政府を,たとえ部分的で,煽情的な形であっても,監視しています.