IPEの果樹園2004

今週のReview

3/15-3/20

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ブッシュの文化=宗教戦争などと言われたりします.マクドナルドとハリウッド,MTV,などをアメリカの文化帝国主義と呼んだりします.中東を民主化する,と言って軍隊を送るより,若者の性革命と,グローバリゼーションによる雇用増大と富裕化を支持する方が,アメリカ・モデルは世界を震撼させるでしょう.

グローバリゼーションにより刺激される変化の波は,婚姻や学校,老人,病人,など,非市場的な社会的合意を動揺させます.めったに人も来ない,小さな村に暮らす貧しい家族が,市場によって豊かになり,初めてテレビや携帯電話,そして自動車を買って,都会にも遊びに出るようになれば,若者たちから,グローバリゼーションがその生活に感染を拡大するでしょう.そして,市場と非市場との社会関係を互いに調整する作業は,個人や家族の安定性に大きな負担を強いるわけです.

「自由貿易」と「自由恋愛」,「自由移民」とは,どこか似ていませんか? 同性愛の結婚を認めることは,社会にとっても望ましい,とThe Economistは主張します( “The case for gay marriage,” The Economist, February 28th 2004).おそらく,その正しさは「自由貿易」と同質のものです.個人の自由.個人の幸せ.社会的な協調と,効率の改善をもたらす市場の働きを尊重する.だから,個人が同性と結婚しても,企業が国内で工場を閉鎖し,海外で雇用しても,それは社会として好ましいことなのです.

性革命が婚姻とセックスを分離したように,婚姻制度を二つの次元で分類し,婚姻曲線で表すのも面白いと思います.一つ(縦軸)は,持続的な恋愛,もう一つ(横軸)は,子供の安定的養育,です.伝統的な婚姻は,この二つが一致する家族観(45度線)を伴っていました.しかし,よほど強固な社会的.宗教的拘束(下方)が無ければ,婚外交渉(上方)は頻繁に起こり,離婚や養子も認めています(傾き).

どちらの基準も満たさないような婚姻があるのでしょうか? 多分,あるでしょう.非常に貧しい村では,婚姻や出産は生き残るための手段です.略奪したり,買収したりします.あるいは,極端に裕福な家族にとっても,婚姻や血縁関係は,恋愛やセックスでもなく,子供の養育でもない,資産のつながりを意味するだけかもしれません.

確かに,法的な枠組みとして,すでに婚姻はさまざまな意味で差別されています.国籍,年齢,資産,家柄,職業,その他,公式・非公式に,社会は婚姻として認める範囲を定めます.私たちは,国際結婚にあからさまに反対はしませんが,多分,内心では反対でしょう.13歳や18歳の娘が65歳の夫と結婚するとしたら,それは親が買収されたのではないか,あるいは遺産が目当てではないか,などと反対します.

性表現が溢れるアメリカ社会で,司法長官は裸の女性の彫像に布を巻き,その胸を隠したそうです.神に誓った夫婦でも離婚は法律で禁止されないのに,同性の結婚は法律で禁止しよう,というアメリカの保守派は,家族に何を求めているのでしょうか? 良き隣人として,互いに価値を認め合う社会が具体的にどのような姿をとるべきか,私には断定できません.

もし日本がグローバリゼーションとの結婚を考えるとしたら,自由貿易は富を増やすから,というだけでは不十分です.すなわち,新しい社会制度が誕生するのです.座標で示せば,一つは,完全な自由貿易の拡大,もう一つは,日本人だけの文化的共同体の満足,です.

私の孫たちは多言語を話し,諸外国に散って,多くの隣人が不思議な音楽や食事を楽しみ,中には同性のカップルや,集団で養育を分担する集合家族が,緑の豊かな公園で談笑する.街のあちこちで,さまざまな宗教的儀礼による祝祭と葬礼が催されている.私は,ふと,昔はここも住宅ばかりが密集して,そう言えば,軍隊みたいに会社へ向かう通勤のサラリーマンを満載したバスが,朝夕,駅への道に列をなしていたんだよ,などと,いろいろな肌の子供たちと,散歩しながら話しているのでしょうか? えー! 信じられないよ!? という子供たちが,面白くて,かわいいな,と思えないなら,グローバリゼーションは遠い道のりです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT March 3 2004

The test of leadership

By Gerard Baker

BG, 3/3/2004

A timely boost versus Bush

By Thomas Oliphant

BG, 3/3/2004

For Bush it's a step closer to reelection

By Jeff Jacoby

NYT March 3, 2004

Kerry's Unreal Deal

By WILLIAM SAFIRE

(コメント) Kerryが民主党の大統領候補に決まったことは,もちろん,世界中のメディアに注目されました.その夜,News23で筑紫哲也氏が,NASAの「宇宙人発見か?」というエセ重大発表をこの日にぶつけて,ブッシュ政権はこのKerryに割かれる紙面を奪おうとした,とコメントしました.なるほど,アメリカのTVを使った選挙では,そうかもしれないな,と思いました.

後から見れば,ディーンの大騒ぎやその凋落振りも,エドワードの二枚目やポピュリズム,NAFTA批判も,アメリカの政治専門家や支配階級,メディアの好みで創作された,国民サービス用の選挙報道であったように思われます.・・・ジャネット・ジャクソンのブラジャーを半分引きちぎったように.そして,早速,ブッシュ氏はアメリカ中の有線放送を利用して自分のイメージを高め,副大統領が毒舌を披露する,といった具合です.

Kerryについて感じる疑問は,その過度な安定感,あるいは退屈さ,です.集会や演説に磨り減った個性は,選挙マシーンの一部のように,安心である,という評価を得ても,彼の主張で残るのは,その空っぽな印象です.Jacobyは,民主党の主流派が,ブッシュを所詮レーガンもどきであり,レーガンと同じように,愚か者のカウボーイでしかない,と言うのを何度も聞いてきた.

しかし,ブッシュは9・11で変身したのだ.彼はテロにおびえる国民を励まし,テロを憎む国民の心に棲みついた.9・11とテロとの戦争を語るブッシュの言葉は本物であり,それに比べてケリーには何がある,と言うのか? 民主党の選挙マシーンが歓喜した,英雄ケリーの指名ショーは,むしろブッシュの再選が一歩近付いたことを意味する,と.

ブッシュ氏は,頃あいを見て,ビン・ラディンの隠れ家を襲い,逮捕させるのでしょうか? あるいは,最後の1ヶ月で,イラク占領政策や雇用,減税をめぐってブッシュと論争し,勝利したケリーが,指導者としての能力を示すのでしょうか? そのどちらでもない理由でアメリカ大統領が決まるとしたら,指導者に明確な選択を示すものではなく,メディアの茶番になるでしょう.


FT March 4 2004

End the Fund's succession fiasco

By Moises Naim

(コメント) IMF総裁を選ぶのは,戦間期か冷戦外交のような,アメリカとヨーロッパによる国際金融秩序の政治力学です.これに反対するNaimは,IMF総裁を,そのパスポートではなく,能力によって選考せよ,と主張します.

現在の総裁が2000年に決まったときも,カムドシュ総裁の次は,副総裁のスタンリー・フィッシャーがふさわしい,とアメリカ政府などは考えました.しかし,IMFはヨーロッパ人,世界銀行はアメリカ人,という国籍による伝統的な割当をヨーロッパ諸国が譲らず,結局,ドイツ政府が候補として最初に推した前大蔵大臣Caio Koch-Weserを,シュレーダー首相が交代させる形で,ケーラー総裁に政治決着したわけです.これでは出番が回ってこないアジアからもIMF総裁を出すべきだ,という理由?で,榊原氏が候補になりました.実際に,舞台裏で,どのような駆け引きがあったのかは分かりません.

情報の透明性や説明責任を重視し,企業や銀行に効果的な統治を指導するIMFが,自らこれほど因習と政治的介入に染まっているようでは,IMFの政策監視に「正当性」もありません.国連のように民主主義を徹底させるだけでは組織が機能しない,という批判もあります.しかし改革が避けられない事態を認め,外部の専門家グループを選考委員として,その仕事にふさわしい人物をリスト・アップしてはどうか,という提言が既に行われました.Naimは,この政治的に無視された提言などを実行するべきだ,と考えます.


IHT Thursday, March 4, 2004

American fantasy: Instant democracy

Amitai Etzioni

G8の会合を前にして,ブッシュ政権は「拡大中東圏」民主化構想を計画している.しかし,民主主義の条件が存在しない国で,民主化を特に大急ぎで約束することがどれほど間違ったことか,多くの研究が物語っている.カーネギー財団の研究は,アメリカ陸軍が関わった18の体制転換について,わずか5つしか,持続的な民主主義の支配をもたらさなかったことを示した.しかも,ドイツや日本,イタリアのような,世界の多くの地域で見出せないような条件が揃っていたケースを含めており,パナマやグレナダには民主主義という名称をまだ与えるべきではない.

アフガニスタンとイラクで,アメリカとその同盟諸国が経験している困難は,ボスニア,カンボジア,キューバ,ドミニカ共和国,コソボ,ソマリア,南ベトナムで失敗してきたことの最新の例に過ぎない.

民主主義は,その土壌が注意深く耕されていなければ育たないような,繊細な植物である.民主主義を確立する条件の不完全なリストでも,それが大量生産できないことを示している.すなわち民主主義が根付くには,法と秩序が尊重され,経済発展と教育,十分な中産階級もいなければならない.さらに法の支配や,独立した裁判所,そして多くの自主的な組織が豊かに栄えていることである.

これらが揃った上で,政治的な構造ができるには,政治指導者や政党が自由に競争し,開かれた公正な選挙が行われ,権力が分割されて,腐敗は抑制され,少数派の権利が保護され,結社の自由や,表現・出版の自由も求められる.もちろんこれは長いリストであるが,歴史は,それより少ない条件では,民主主義が成り立たないことを示している.

こうした要素の多くを欠いていたり,強大な軍隊が勝利を宣言して,早々と帰国したりすれば,特に選挙が迫るに連れて,彼らは民主主義の定義を低下させ,でっち上げた体制に,何であれ,民主主義のラベルを貼ってしまう.こんな小手先の民主化でも選挙は行われるが,中国やイラン,シンガポールでさえ,規則的に選挙を行っている.イラクでは,選挙も党員集会も無く,民主主義の片鱗も無い.

せいぜい,この新体制は非常に不安定な連合体であろう.その一つはシーア派であり,イラク南部を支配する聖職者が人々を支配する.もう一つはクルド人であり,北部を支配する諸部族から成る.両者を合わせれば人口の約80%を支配する.彼らが協力すれば,それも容易なことではないが,それは民主的な政府というより,ちょうど教会とマフィアとが協力している古いシシリー島に似ている.

アメリカ軍が撤退しても,イラクが分裂しないとしたら,政府は相対的に無害な官僚層に支配されるだろう.それは,人民を代表し,議会に責任を負い,自由な新聞や自由な人々によって精査されるような体制ではなく,プーチンのロシアに近いだろう.あるいはイラクは,アフガニスタンがたどった民主主義の成長経路に従うだろう.すなわちそこでは,輸入された弱い指導者が,その人民に頼ることもできず,ほとんど首都を離れることさえ稀で,国の大部分を盗賊や部族集団が支配するままにしておくしかない.

大幅な腐敗も起きるだろう.既に暫定政府の中に起きていることだ.新政府は厳格なイスラム教の体制を採らないが,さまざまなイスラム的な考えを強制するだろう.もしそのような政府を,民主主義という名が汚されないためにも,民主的と呼ばないなら,「ポスト独裁体制」と呼ぶべきだ.

私は,アラブ人が先天的に民主主義を行えないと主張する人々に強く反対する.私はただ,社会学の伝統に従っているだけだ.マックス・ウェーバーが示したように,ある種の文化では,経済的・政治的な発展が,他の文化よりも困難である.たとえ中東よりはるかに有利な条件でさえ,本物の民主主義に近付くには長い時間がかかった.結局,イギリスやアメリカの民主主義は,よそ者の外国の軍隊が指図して,短期間に築かれたたわけではない.日本の占領は7年,ドイツ人も権力を取り戻すまで10年かかった.アメリカと連合国は,約束を増やすよりも,実行を増やす方が,イラク人たちは暮らし良いだろう.近い将来に求めるべきは,イラクの分割や内戦を回避し,スンニー・トライアングルに他地域と同じ程度の治安を回復することだ.そしてイラク人自身に,どのような体制なら彼らが進んで受け入れ,それを守るために闘うのか,決めさせることだ.そして,数年ではなく数十年をかけて,彼らが中東の民主主義に基礎を与えるのが良いだろう.


NYT March 4, 2004

See Dick Run

By MAUREEN DOWD

WP Thursday, March 4, 2004

Cheney's Core Principles

By Richard Cohen

(コメント) DOWDは,この選挙がブッシュとチェイニーの大量資金選挙として全開モードに入ったことを,痛罵します.史上空前の金喰い選挙であり,彼らの宣伝が並べば,それはスクリーンを金で買い占めたことを意味する,と.

もちろん,TVの画像にはブッシュ氏がウェイトレスや溶接工,消防士,黒人の子供,黒人の老人,中産階級の家族と一緒に映っている.しかし,彼が本当はいつも一緒にいる金太りの企業家たちは見えない.彼は,人々が安全でないから,国を守っているという.しかし,彼が奮闘する割に,私たちはちっとも安全ではない.ブッシュ氏は9・11を利用する点で容赦ないが,しかも,その犠牲者を冷遇したままだ.ブッシュ氏は星条旗に包まれた9・11の犠牲者を映したがるが,イラクから死体となって戻るアメリカ兵を包む星条旗を映すことは禁止する.

DOWDは,宣伝合戦の第二幕を夢想する.それはチェイニーだ.金持ちの白人が,リムジンの後部座席に座って,あなたたちのために意思決定することなど容易でないことが分かるだろう.こんな解説が流れる.副大統領の部屋のドアが,訪れる者によって,開いたり閉まったりする.「特殊利益とは,何と特殊な利益であることか!」そして報酬をねじ込む大きなポケット.「狩猟に出かける人たちは,皆,大きな猟犬を飼っている.」チェイニーはマサチューセッツ・アヴェニューの自宅にハリバートン社からの報酬,15万ドルの小切手が届くのを待っている.「ハリバートン社がイラクでアメリカ軍の食事や石油の供給に法外な値段をつけたことに対して,それを許し,忘れ去るほどの度量の広さ!」そして家族が映る.「同性愛の娘のことは棚に上げて,ゲイ・マリッジを憲法違反とする強い支持基盤がある.」・・・など,など.

あるいは,人によってはCohenの風刺劇の方が楽しいでしょう.日本人なら,政治家は嘘つきで,本音と建前はぜんぜん違う,といった話ですが,彼らの言葉にはパンチがあります・・・

「なるほど,あなたは同性の結婚を禁止する憲法の修正に,本当は,反対なのですね.」

「(しかし)私は大統領を支持する.」

「あなたの(レスビアンの)娘が結婚を望んだらどうしますか?」

(しかし)私は娘の幸せを願うよ.」

「その二つの立場をどうやって和解させるのですか?」

「イラクの大量破壊兵器について私がやったのと同じようにする.」

・・・ 「ええ?」・・・ 「まさに同じだよ.」


NYT March 4, 2004

Small and Smaller

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Thursday, March 4, 2004

All Jobs Count

LAT March 5, 2004

Free Trade Is Anything but Fair, and Lousy Economics Besides

By Amitai Etzioni

ST MARCH 6, 2004 SAT

After IT, India is set to grab US textile jobs

by SIDDHARTH SRIVASTAVA

ST MARCH 9, 2004 TUE

When a child's cheaper shoes cost dad his job

KALINGA SENEVIRATNE

(コメント) 「グローバリゼーション・バージョン3.0」と,FRIEDMANは呼びます.バージョン1.0は,19世紀後半と第一次世界大戦まで続きました.蒸気船と鉄道が輸送コストを大幅に低下させたからです.バージョン2.0は,1980年代から2000年まで続きました.世界は中規模から小規模に縮小されました.それは通信技術とパソコンが非常に安価になったからです.そしてバージョン3.0が始まりました.世界はごく小さな単位になってしまいます.ホワイト・カラーの職が流出し,労働も政治システムも,厳しい調整を迫られます.

このバージョン3.0をもたらす力は三つです.1.海底ケーブルとブロードバンドが世界に敷設され,どれほど膨大なデータも瞬時に地球の裏側にでも届けられること.2.パソコンが世界中に普及したこと.3.e-メール,Google,マイクロソフト・オフィスが世界中に普及し,世界的規模の「フロー型職場」が形成されたこと.たとえば,ニュー・ヨークの会計事務所は,煩雑なデータ処理をインドの職場に委託する.そうやって空いた時間を,アメリカ人の会計士は顧客の開拓や相談にもっと集中できる.

こうしたフロー型職場は才能ある人を今まで以上に世界中から知識労働者にするし,生産性を高め,革新を促す.そして私たちには,絶えずスキル・アップしなければならない,というダーウィン的な競争圧力が強まる.今から20年経って,世界を変えた重要な出来事は何だったか,と聞かれたら,多くの人は9・11やイラク戦争のことなど思い出さない.パソコンと情報通信がインドをフロー型の職場に参加させ,製造業で中国がしたように,中国とインドに,中産階級の富の爆発を引き起こしたことだ,と答えるだろう.インドの経営者がそう言ったようです.

その課題について,WPは,ケリーなど政治家の提案を批判します.ホワイト・カラーの職場が流出するのを法律で阻止できるだろうか? それは,@失業全体のごく一部(1%)でしかなく,A効果が無いだろうし(誰にデジタル空間の国境を監視できるのか?),A消費者の不利益であり,Bもっとやるべきことがある.すなわち,労働市場による調整を助ける.たとえば,公教育の改善,レイオフされた労働者の再訓練,そして,雇用を妨げたり,貧富の差を拡大したりする税制を,速やかに改善することです.

Etzioniは,経済学の唱える「自由貿易」を批判し,大統領選挙では「公正貿易」を支持するべきだ,と訴えます.なぜ自由貿易は間違っているか? @世界は完全に自由化されておらず,通商的な駆け引きで利益が決まる.たとえば,日本の「系列取引」による輸入妨害を思い出せ.A世界が常に,アメリカに知的な高給職を残して,他の安価で,労働条件の悪い職場を引き受けてくれる,とは限らない.Bアメリカの才能豊かな人を除けば,他のアメリカ人は(『マトリックス』のように!)「ネモを捜す」ことだけで救済されない.C他国が生活水準を上昇させ,その結果,労働基準や環境基準も高めるのを待つとしたら,いつまで失業を我慢させる気か? D新しい職場は,今までのように安定していないし,高給でもないだろう.

あるいは,一言で言えば,完全雇用の前提は満たされない,ということです.Etzioniは,自由貿易が経済学者の言うような均衡に至るには,二つの道がある,と指摘します.つまり,中国やインドがアメリカのように豊かになるか,あるいは,アメリカが中国やインドのように貧しくなるか? だから,とEtzioniは主張するのです,政治家なら,自由貿易ではいけない.公正貿易を主張せよ,と.

ハイテク分野のアウトソーシングではなく,SRIVASTAVAは繊維・織物産業で大規模に職場がインドへ移転される,と期待します.その理由は,この分野でもWTOの合意により,今までのような国別の割当制度が破棄されるからです.アメリカやヨーロッパの大型流通店から注文が殺到するでしょう.インドにはこの分野でさまざまな加工が集積しており,しかも,供給側を独占されないように,中国に代わる生産拠点が求められているからです.

もちろん,その影響を考えれば,アメリカの業界が政治的な圧力を強めるでしょう.アメリカで1300の工場が閉鎖され,63万人以上が失業する,という予測もあります.また,インドは児童労働や低賃金を非難されやすいでしょう.アンチ・ダンピング訴訟や非関税障壁がどう扱われるかによって,インドの利益は変わります.

SENEVIRATNEの論説は,グローバリゼーションが行き詰まり,その打開策として新思考を取り入れた,と述べます.WTOは,投資規制や競争政策まで拘束する「シンガポール・イシュー」を取り下げ,ILOは,グローバリゼーションの社会的なコストを重視するように求めたからです.グローバリゼーション4.0でしょうか?

「子供の靴が安くなるからと言って,その父親を失業させてしまうようなグローバリゼーションなんて,ばかげている.」・・・ その通りです.しかし,もし投資規制や補助金が野放しなら,貧しい諸国より,豊かな諸国の方が自由貿易を勝手に歪めてしまうのではないでしょうか? EU諸国が苦心しているように,共通の規範が必要です.


March 5 (Bloomberg)

Greenspan Eyes Asia's Exuberance

William Pesek Jr.

NYT March 5, 2004

A Logjam for Transportation in China

By KEITH BRADSHER

(コメント) グリーンスパンは,日本と中国の行動が心配です.それは,彼自身がアメリカでやったことを,世界金融市場を相手に,再現しつつあるからです.日本政府はデフレを脱するためにアメリカの債券を購入し続け,中国政府も人民元を固定するためにドル建債券を購入し続けています.もしアジアが生産的な投資を行えるなら,アメリカの債券に資金を流し込むことは間違いです.しかし,アジアはその「発展途上的な貧乏性」から抜け出せません.

グリーンスパンは,アメリカの景気も,世界の景気も,安定的に制御できるわけではない,と白状したい気分でしょう.それは,中央銀行や金融政策への過信が自壊しただけとも言えますが.

中国からは,デフレではなく,インフレも輸出されるでしょう.急激に伸びる物資の輸入や製品の輸出に,中国の輸送システムや国有の港湾施設がもつ処理能力は追いつかず,次第に輸送が滞り,そのコストが上昇している,というわけです.それはアメリカや世界にも波及します.


WP Friday, March 5, 2004

The Future of the Welfare State

By Robert J. Samuelson

(コメント) 21世紀も福祉国家はなくならない,というPeter Lindertの研究を紹介しています.グリーンスパンが心配するように,社会保障のコストは成長を損なうかもしれません.しかし,ヨーロッパがそうであるように,もし消費税(そして付加価値税)によってコストを負担するなら,投資や雇用を妨げないでしょう.実際に失業する者は生産性が低く,彼らを救済することで社会的な利益も得られます.

他方,社会保障費の給付を減らし,負担を求めることは,特に経済が停滞すれば,なかなか実現しないでしょう.それゆえ,調整に時間がかかり,その間,投資や雇用を損なう恐れがあります.つまり,日本のように.


NYT March 5, 2004

Sept. 11 and Nov. 2

LAT March 9, 2004

The Worst Form of Exploitation

By Robert Scheer

WP Tuesday, March 9, 2004

Who Really 'Owns' Sept. 11?

By Richard Cohen

(コメント) ブッシュは9・11の記憶を自分の再選キャンペーンに利用した,と反対派は憤慨しています.「なんと言う皮肉か? 何と姑息な詐欺師か? 9・11の前にアル・カイダの警告を見落した男が,存在もしないイラクの脅威で国民の関心をそらせた男が,9・11の調査委員会にけちをつける男が,この悲劇を自分の再選のための大げさな宣伝に利用する.」

「この愛すべき大統領は,9・11の犠牲者の家族に訴える記憶を,自分の政治目的に利用する.それも良いだろう.彼がその前日の9・10には何をしていたのか,9・11究明委員会で正直に証言するような人物であれば.」


WP Friday, March 5, 2004

What Wal-Mart Has Wrought

By Harold Meyerson

March 10 (Bloomberg)

Wal-Mart's Impact on China Grows

William Pesek Jr.

(コメント) 「ウォル・マータイゼーション」Wal-Martizationが始まった,と組合員たちは知りました.労働者が団結することを難しくしたカリフォルニアのような土地で,例外的に,ロサンゼルスのスーパーマーケットは労働組合を組織していました.しかし,ウォル・マートの進出で,組合も保険契約の低廉化を受け入れたからです.他方,良いニュースもあります.衣服や織物の労働者,ホテルやレストランの労働者が組合を統合したことです.移民たちの安い労働力を組織し,最底辺の賃金水準を上げるためです.

ウォル・マートは,中国にとって,人民元の対ドル固定レートより重要だ,とPesek Jr.は言います.ウォル・マートやカルフール,テスコからの注文が,中国に雇用をもたらし,世界の価格競争を激化させます.ウォル・マートは中国から150億ドルの買い物をします.それがもし国家であれば,イギリスやロシアよりも多い,中国の第8位の貿易相手「国」なのです.どこよりも安い価格を提供する,というウォル・マートのビジネス・モデルは,米中間の政策論争にも楔を打ち込みます.

外国の大型小売店を苦しめ,中国の雇用拡大を阻止するような自殺行為(通貨の切上げ)を中国政府が受け入れるはずがない,とPesek Jr.は考えます.しかも,中国の銀行は政府の融資機関として,不良債権を貯め込みます.人民元は増価した後,急激に売られるかもしれません.中国政府は「安定」を最も重視し,人民元の固定化は第二の「万里の長城」なのです.それゆえ,いくら経済学者やグリーンスパンが切上げや弾力化を求めても,中国の政治は動かせません.

つまり,中国から仕入れた安価な製品で巨大スーパーマーケットは世界を制覇し,同時に,雇用の流出はまだ続くだろう,というわけです.


NYT March 6, 2004

Clash of Titans

By DAVID BROOKS

The Observer, Sunday March 7, 2004

An American odyssey

David Aaronovitch

NYT March 7, 2004

Fly High Above the Battlefield

By STANLEY B. GREENBERG

(コメント) 「いいかげんにしてくれよ!」とBROOKSは大統領選挙への熱気を覚まします.私たちは中産階級や民主的国家が好きだ,なんていうのは大嘘だ.ルーズベルト家,ロックフェラー家,ケネディー家,ブッシュ家,ディーン家,ゴア家.どれも名門の資産家だ.ブッシュ対ケリーなんて,まさに資産家の争いだ.

イギリスなら,こういった連中は政党の指導者になれない.ところがアメリカ人は,自分とまったく違う,こうしたエリートを選ぶ.人民の党を自称する民主党の候補がケリーというのは,まったくのお笑いだ.東部の支配階級丸出しじゃないか.彼は,マサチューセッツ湾植民地の初代総督,ジョン・ウィンスロップの末裔であり,その母は傲慢で有名なフォーブズ一族だ.彼は幼少期をスイスの学校で過ごし,・・・ 大学も兵役も,妻も,住宅やレジャー,そして数々の資産も普通じゃない.こんな連中が,再生派プロレタリアンborn-again proletariansとなって国民を導くか!?

しかし,GREENBERGは,この選挙が,ブッシュかケリーかを選択しているのではなく,ジョン・F・ケネディーの理想か,それともロナルド・レーガンの理想か,を選択する,と言います.豊かになる機会を与えて欲しい,コミュニティーを取り戻したい,と思っている,ブッシュが取り込めなかった愛国心を持った,貧しい,小さな町の住民たちに,豊かな中産階級の国に向かう,とケリーは訴えます.


FT March 7 2004

Argentina on the edge

By Adam Thomson

FT March 8 2004

Argentina to meet IMF debt deadline

By Adam Thomson in Buenos Aires

FT Mar 9 2004

Lex: Argentina

NYT March 10, 2004

Argentina Skirts Default on $3 Billion With I.M.F.

By TONY SMITH

(コメント) アルゼンチンの債務不履行(約800億ドル)問題は,アルゼンチン政府がIMFの筋書きに協力することを拒んだことで,長期化しています.問題に直接関わる主体は,アルゼンチン政府,IMF,機関投資家,個人投資家,IMFに資金を出す裕福な諸国の政府,などです.また,アルゼンチン政府は国民に説明しなければなりませんし,大幅な通貨の減価で輸出が伸び,景気を回復し始めた以上,現状維持を続けても良いわけです.Roberto Lavagna経済大臣は,交渉によって債務負担を分担して欲しい,と考えます.国際機関に返済すれば,民間投資家には,それだけ少ししか返済できない.新しい債券に切り替えることで,将来の成長から利益を得られる,と.もしアルゼンチンを含めて最大のIMF融資相手国が返済を拒否すれば,IMFは危機管理の融資機能を失うでしょう.「チキン・ゲームだ」と投資家たちは非難します.

新興市場の優等生として,膨大な債券を外国通貨建で大量に発行し,また,裕福な諸国はそれを失いたくないために,IMFを使って,何度も救済させたのです.アルゼンチンが交渉を渋っている? そんな馬鹿な! とLavagnaは反論します.債務不履行は,アメリカ政府が決めたことだ.IMFとアメリカは手を引くから,直接,民間投資家と交渉して,勝手に債務負担を値切ってもらえ,というわけです.市場がアルゼンチン債券を割り引いて取引しているのだから,その価格で交渉して何が悪いか? 国民の50%が貧困線以下で暮らすのに,その苦しみを代価として得た財源から,外国の投資家たちに言われるまま,せっせと返済する政治家はいない.他方,IMFや投資家にできることは,アルゼンチンをさらに市場から排除するか,成果の疑わしい法廷闘争に訴えることです.

IMFの信用が傷つくに至って,強硬な交渉姿勢を修正した結果,アルゼンチン政府がIMFに金利を支払い,リスケジューリングの交渉を開始する,と認めました.しかし国民は,自国の政治家たちが冒した無謀な借金を責めるより,外国の投資家やIMFを責めます.他方,アルゼンチンの経済が本当に回復するには,債務問題を解決しなければなりません.しかし当面,アメリカの金利が低く,新興市場が黒字を出し,成長を回復しているかぎり,アルゼンチンの交渉は切迫していないし,世界的な感染も起きない,とFTは市場の無反応を説明します.


The Guardian, Monday March 8, 2004

The ouster of democracy

Gary Younge

NYT March 8, 2004

The Axis of Reconstruction

LAT March 9, 2004

Haiti Looks to the World

(コメント) 軍事的に支配している者が,その他の秩序を決定できる,と述べたスターリンのように,ハイチの支配は入れ替わりました.その際,アメリカ政府は何をしたのか? と批判する声が上がっています.Youngeが示したパウエル国務長官の発言は,選挙で与えられたアリスティード大統領の地位をしたはずのアメリカ政府が,暗殺者たちが都市を制圧すれば,容易に立場を逆転することを示しています.

パウエル国務長官は,なぜハイチに軍事介入しなかったか,その理由を説明しました.「民主的に選ばれた人物だが,効果的かつ民主的に統治できなかった者を」アメリカは支援できないから,と.Youngeは,アリスティードではなく,ブッシュのことをパウエル長官は話していたのであろう,と皮肉を言います.だから,教訓@アメリカは政府を樹立し,政府を破壊するときに軍事介入する.その間,民主主義を育てることはせず,むしろ妨害してきた.教訓Aアメリカは,アメリカを支持する民主主義だけを支援する.

しかし,現に崩壊した社会の苦しみや,そこから奔出するテロの波を止めるために,外部からの支援が必要ではないか? とNYTは考えます.国際的な支援と内部からの成長が無ければ,アメリカ軍の介入は無意味になります.しかし,アメリカが介入するしかない場合もあるでしょう.市民の組織や制度が確立され,経済成長が持続する上で,外部の支援が必要な地域は他にも多くあるのです.

LATは,むしろ,こうした軍事介入の用意が少なすぎる,と嘆きます.アメリカだけでなく,国連や地域協力も加わって,破綻国家の住民たちを暴力の支配から守る仕組みはありません.


IHT Monday, March 8, 2004

Selling Chinese milk and patriotism

Sangwon Suh

IHT, March 9, 2004

China is storing up problems for the future

Philip Bowring

FT March 10 2004

Wanted: property rights for China's farmers

By Arthur Kroeber


BG 3/8/2004

The heart of the matter

BG 3/10/2004

Why discriminate

BG, 3/10/2004

Death of marriage in Scandinavia

By Stanley Kurtz

(コメント) 男女が結婚する場合,それが同性であれば,法律によって禁じられることは,正しくない,とBGは主張します.それが,突如,政治ショーとなって,自分たちの幸せを求めるだけで,社会の犯罪者として公表されることに憤慨します.

他方,同性愛の結婚を認めるなんて,そんな主張をする者はスカンジナビア諸国を見よ,とKurtzは言います.性革命でも懸念されたように,同性愛の結婚を認める社会では,離婚が増え,子供の養育が分離され,出産が減りました.異性間の結婚しか認めない牧師たちは,いわば迫害されるような有様です.結婚そのものが消滅する,とKurtzは警鐘を鳴らします.

市民権の境界は曖昧です.そして,たとえ保守派が恐れるように,社会から結婚や宗教がなくなっても,それで人が不幸になるかどうか,今はまだ断言できないと思います.


FT March 10 2004

Japan-Mexico deal points way for Asia trade

By David Pilling and Bayan Rahman in Tokyo

(コメント) 日本がメキシコとの自由貿易協定を合意できたことについて,FTが注目したのは,@日本政府は既得権を持つ者,特に農民,に弱い.A日本政府は個別の既得権を越えて,国益を優先できる.B中国からASEANとFTAを結ぶ,というの競争圧力が,日本にFTAの二国間交渉を急がせた.CFTAによって利益を受けるのは,自動車や鉄鋼業界である.

しかし,日本と中国が競争的にFTAを張り巡らせた先にある,アジア貿易・投資・通貨の姿を,両国の政府や官僚たちは描いているのでしょうか? つまり,D日本政府は国益を越えて,アジアの協調体制を構想し,率先できるでしょうか?

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The Economist, February 28th 2004

East Asian trade: Everybody’s doing it

(コメント) モンゴルと北朝鮮を除いて,韓国の保護主義でさえ,最近のFTA競争に取り残されてはおれなくなった.チリが相手とは言え,もちろん,本当は日本と中国がFTA交渉の目標です.裕福で小さな,そして農産物を保護しなくて良いシンガポールが,アジアFTA交渉の中心でした.日本,オーストラリア,アメリカを始め,二国間交渉を拡大しています.

しかし,アジアFTA交渉は第二局面に入りました.より大きな譲歩をしても,近隣の市場に参入したい,という動きが,韓国,日本,中国,それぞれに強まってきたからです.小泉首相もFTAを重視し,要員を2倍以上にしました.日本とメキシコとの間のFTA交渉では,自動車や鉄鋼がメキシコからアメリカへ輸出するために,メキシコへの関税を軽減することが重要でした.しかし,日本の農業関係者は,一部でも譲歩すれば,次々に他国へも市場を開放させられると考えて強く抵抗しました.

中国の存在は,その急激な貿易の増大により,アジアの相互貿易で重要になっています.中国の動機は,経済の拡大とともに市場を拡大し,多くの機械や資源を輸入するだけ得なく,地政学的な事情も加わります.韓国,オーストラリア,あるいはASEANやインドとの関係を深めて,アメリカやEUとの交渉を有利にします.

しかし,中国と日本は,互いに慎重な姿勢を変えません.


Home-schooling: George Bush’s secret army

(コメント) 子供が学校へ通わなくなる? すでに公教育は破綻しており,富裕層は自宅で学ばせて,子供たちを優秀に,あるいは道徳的・宗教的・政治的に健全な(保守的な)姿へ育てたい,と(ブッシュ政権が)考え始めたようです.こうして「近代化」や「国民国家」の礎石と見なされていたものがアメリカで侵食されています.子供たちが孤立する,という心配を,互いのネットワークで共同の作業やスポーツを行う機会が補います.教師たちは,廃業の危機?


Economics focus: Heading for a fall, by fiat?

(コメント) 人工貨幣が普及したのは,ごく最近のことでしかありません.金や銀が本位貨幣であった時代が,1971年に,激しいインフレによって廃棄されたのです.それ以来,政府が勝手に人工的な貨幣を生産し,中央銀行がその価値を安定させるという約束だけを信じて,人々はそれを保有しています.

つまり,もしそれが不安になれば,人工貨幣は捨てられるだろう,というわけです.実際,インフレでもないのに,金の価格は上昇しています.何が投資家を不安にさせるのか? それは,もちろん,財政赤字です.ブッシュ政権は3年で記録的な赤字をもたらし,EUも安定協定を反故にして,日本は発展途上国のような累積債務を,信じられない低金利で増やし続けます.

投資家たちは過度に信用しすぎたことを後悔し始めているのかも知れません.そして,政治家が考えることと言ったら,後はどうにでもなる,という意味で,インフレによる赤字の抹消です.人工貨幣の歴史は終わりが近い,と.