IPEの果樹園2004

今週のReview

2/16-2/21

*****************************

(続き)

ウェールズにある古書の町,ヘイ・オン・ワイを訪れるのは,イギリスと世界中から集まる本が好きな人たちです.もしあの町が独立し,世界の読書家が宣誓によってその国民になれるなら,実に楽しいことではないでしょうか? 最適通貨圏論の提唱者,R.マンデルは,アメリカ大陸の東西に伸びる分割(横割り)よりも,南北に分割(縦割り)した方が,経済活動を調整する貨幣の役割を改善できる,と指摘しました.

ユーロの加盟条件を見ても,それがインフレ率や財政赤字に集約される安定した通貨の確立と,景気循環の安定化,対外不均衡の調整,を目指したことが分かります.しかし,吉里吉里や美山町が,財政赤字,超低金利,デフレと失業,為替市場への大規模介入を繰り返し,対外不均衡も調整できない,東京政府や日銀に従う理由とは何でしょうか?

北海道や軽井沢は,なぜ独立しないのでしょうか? A.ウィンタースのテキストの例では,バーミンガムが独自通貨を持ちます.吉里吉里国がそうであったように,小国が独自通貨を持つには,自給自足の程度が高く,しかも圧倒的な競争力のある輸出財がなければなりません.たとえ独自通貨により輸入木材に対抗して林業で雇用を増やすことができても,一次産品の不安定な交易条件と,実質所得水準の大幅な低下を被るでしょう.

安定した価値の通貨を求めるだけなら,たとえば金本位制のように,商品準備通貨を採用すればよいでしょう.景気循環を安定化したいなら,財政と貿易収支(あるいは基礎収支)を黒字に維持し,準備金を蓄積しておくことで十分ではないか,と思います.戦争国家,福祉国家,エスニック国家では,その目的が大きく異なり,独立の条件も異なります.

さまざまな憲法とその歴史を比較してみれば,何が独立の本当の理由であったのか,分かると思います.宗教であれ,課税であれ,政治的抑圧や戦争であれ,おそらく余り楽しい事情ではないでしょう.日本,アメリカ,フランス,ドイツ,EU,中国,インド・・・ しかし,もちろん,イギリスには憲法がありません.要するに私は,架空の山岳国家,美山国,を考えました.

美山国独立宣言・憲法

美山の住民は,協力して,ふるさとの共同体(コミュニティー)を長期的に維持し,林業を基本とした国を作る.その目的は,子孫が「ふるさと」で幸せに生きる権利を確立することである.その理想は,広く日本国民にも支持され,分離独立を妨げられないだろう.

うさぎ追いし かの山                    (いかに居ます 父 母)

こぶな釣りし かの河                    (つつがなしや 友がら)

夢はいまも めぐりて                    (雨に 風に つけても)

忘れがたき ふるさと                    (思い出ずる ふるさと)

志を はたして
いつの日にか 帰らん
山はあおき ふるさと
水は清き ふるさと           (作詞 高野辰之)
第一条    主権は,美山の住民に帰属する.ただし多重国籍を認め,宣誓と村長の推薦によって,誰でも住民となれる.

第二条    全住民に対して,基本的人権を保障する.

第三条   司法,行政,立法,そして中央銀行の,4権を独立させ,その協力を求める.

第四条   軍事・外交政策については,国際協調による平和維持を重視し,友好国と共有する.

第五条   住民には,村長の責任で,最低所得と住宅,教育,雇用を保障する.

第六条   住民の医療,年金は,各村で行う.

第七条    政府は,直接民主主義による各村の住民集会と,4年毎に選出される代表が構成する国会によって,承認されなければならない.

第八条   各村は執行幹事会を置き,国は責任内閣制とする.

第九条   ・・・・

国家は,永久に,帰属するメリットのある組織でしょうか? 美山国は,世界の友好諸国との間で,自由移民制度を確立し,共通の人権宣言を採用するでしょう.もし何百年も平和と繁栄が持続すれば,各地の社会契約は非常に単純になっていくと思います.国家は,世俗化したお寺のように,冠婚葬祭として残るに過ぎません.その扱いと移民手続きは,書棚に一冊で済むのです.

******************************