IPEの果樹園2004

今週のReview

2/9-2/14

*****************************

少しの間でも,家族の居ない家は,広くて,冷たいだけの,まるで食肉倉庫みたいです.どの部屋からも漏れてくる,音の無い,匂いもしない,砂時計の時間.暗い,静かな部屋.つい炬燵に足を入れて,TVを点けてしまいます.孤独な老人か,下宿生みたいに.結局,ニュースを観たり,ビデオを観たり,・・・ 録画しておいた『大統領の陰謀』,『ドライビング.ミス・デイジー』,『トラフィック』,『天国の約束』を観ました.

ウォーターゲート事件を扱った『大統領の陰謀』は,若い二人の新聞記者が真実を追究し,大統領の周辺に疑惑が存在することを告発する行動力,そのスピードに感心しました.今のブッシュ大統領も,アメリカのマス・コミが9・11の呪縛から解かれた後は叩かれる? そして,日本の総理大臣,田中角栄を起訴し,有罪に持ち込んだ,立花隆と検察庁の動きはどうだったのか? ワシントン・ポストはニクソンを追い詰めましたが,今回,BBCはブレアの責任を追及し,逆に威信を失いました.

もし権力者が極秘の犯罪に手を染めるなら,どうやってそれを止めることなどできるでしょうか? 若い新聞記者が,具体的な証拠と鋭いセンスを基に,その国の最高権力者,大統領を追い詰めました.「自分たちの国が間違ったことをしているのではないか?」 「あなたは正しいことをした.」 アメリカの映画には,こんなふうに悩む者や,誰かを説得する場面が出てきます.

ビデオを観ながら,2分間レンジで温めるご飯と,スーパーで買ってきたビーフ・コロッケ,ポテト・サラダを食べました.もし一人で暮らすだけなら,私たちは所得を何に使うでしょうか? ショッピングや旅行,ペットの食事や世話? 朝昼食のファースト・フード? 夕食のコンビニ弁当? ジュース,ビールのまとめ買い? さらにアメリカでは,多分,転居のたびの住宅と家財道具,離婚を含むさまざまな訴訟・・・?

『ドライビング.ミス・デイジー』は,一人の老婦人と彼女の運転手の話です.婦人は貧しい移民でしたが,今では息子が州の代表的な紡績工場の所有者・経営者となっています.しかし彼女は貧しかった時代を忘れません.彼女は頑固なユダヤ人.運転手のホークは貧しい黒人です.仕方なく息子の勧めに従った彼女も,激しい吹雪で心配して家に来てくれたホークについて,初めて電話で息子に誉めます.夫の墓参りに来て,偶然,ホークが文字を読めないことを知り,さりげなく文字を教えた後,クリスマスに読み書きの練習帳をプレゼントします.あるとき,彼女がいつも通っていたシナゴーグが爆破されます.彼女は,誰がそんなことをするのか,信じられない,と言いますが,ホークは,自分が子供の頃,尊敬していた叔父がリンチで後ろ手に縛られ,首を吊られたことを話します.

キング牧師の演説会にホークを誘えず,彼女は一人で耳を傾けます.黒人の女中が,突然,死にました.教会で行われた葬儀に彼女も参加し,黒人たちの賛美歌を聞きます.彼女は次第にホークを信じ,ホークを頼りにします.ある朝,彼女は子供たちの答案を無くしたとうろたえ,落ち着きません.老人性の痴呆が悪化し,彼女は施設に入ります.ホークも高齢で運転手を辞めます.それでも息子は,母に会って,話し相手になってくれるホークに給与を払い続けます.大学で生物学を教えている孫娘に送られて,婦人に会いに来たホークに,老婦人は微笑みます.

逆に『トラフィック』は,凝った作りですが,映画の面白さを感じませんでした.富と麻薬を除けば,アメリカの家庭は,味気ないモーテルのような存在かも知れません.むしろ『天国の約束』の方が,私は好きでした.主人公は12歳の少年.時代は1933年,大恐慌下のアメリカ.イタリア移民の祖父に死期が近づいています.少年は,と言えば,新しい映画館に行きたくて,大好きな祖父の持っている25セント・コインが欲しくてたまりません.

食糧品店に女性が入って来ます.子供たちが飢えている,券を現金化して欲しい,仕事が欲しい,それもだめなら,と,食糧を奪って,駆け出します.医者の妻は,お金をあげるから二階へ来い,と少年を誘います.しかし,彼が逃げた後,友人と戻ると,自殺していました.祖父は死ぬ前に,若い頃だました女性に,許して欲しいと思います.少年を彼女の許へやり,代わりに謝らせますが,彼女は厳しい言葉とともに,自分にキスしなさい,と要求します.少年と話しながら,祖父は亡くなります.そして少年は,映画館へ.つまり,ふたりとも天国へ.

でも,映画の中のアメリカはバラバラです.たとえ冷え切った食肉倉庫でも,私は面白い小説なら読みたいと思います.アメリカの人々は,きっと,暖かい気持ちや熱いメッセージに飢えているのでしょう.そして彼らなら,政治家は正しいことをしろ,と怒りを示すでしょう.

この週末,京都府美山町にゼミ合宿へ行きました.何の計画も無かったので,私たちは美山町の独立と憲法草案について! 話し合うことにしました. ・・・それは,次週,書きます.大変遅れて,少し短いReviewをお届けします.

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


BG, 1/29/2004

A just war, with or without WMD

By Jeff Jacoby

NYT January 29, 2004

Where's the Apology?

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ジョージ・ブッシュとサダム・フセインは一つの点でよく似ている.彼らはともに,大量破壊兵器(MDW)の存在を信じた.これがDavid Kayの至った結論です.「私の見たことから考えて,貯蔵された武器は見つからないだろうし,存在していないと思う」,と.

Jacobyは考えますKayは,ブッシュ氏の決断を非難したか? 国家安全局での開戦決定は間違いであったか? アル・ゴアやバース党の幹部はMDWを保有していないと知っていたか? フセイン自身でさえ? すべて,ノー,です.何よりも,9・11がアメリカを攻勢に転じさせたのです.世界のいたるところに蔓延するテロ,MDW,独裁政治,政治的混乱,それらが集中する中東世界に対して,このまま放置することが危険をさらに深刻化する,と心配するだけでなく,何も行動しないことの恐るべき結果を,アメリカ人は知ったのです.

他方,KRUGMANは考えます.ジョージ・W・ブッシュはホワイト・ハウスに名誉と高潔さを回復させる,と約束したが,彼は説明責任を破棄しただけだ.ブッシュ政権は過ちを犯し,アメリカの国際的信用は地に落ちたのに,誰もその責任を取らない,と憤慨します.CIAが間違っただけか? 政府がその情報を信じて戦争し,多くの死者を出したにもかかわらず,彼らに対して誰も謝罪しない.誰も辞任しない.誤爆も戦争の一部だ?

ブッシュ政権は,むしろ真実を語るものを排除し,まったく中立とは思えない人物を「独立」審査委員会に任命します.確かにKay氏はブッシュ政権の失敗を認めていませんが,KRUGMANは情報が政治的に捏造され,政府に利用されたと考えます.政権内部の人々は,政府をチェックし,真実を告げようとする人々を,妨害し,脅迫し続けてきたのです.

これまでにも,CIAをいじめ,独立の調査機関を妨害し,仲間に巨額の契約をもたらそうとした大統領は居ました.しかし,結局,彼らはそれができないことを知りました.ブッシュ氏はどうか?


NYT January 29, 2004

The Dead Center

By ROBERT B. REICH

ニュー・ハンプシャーでJoseph Liebermanが5位となり,他の大統領候補たちに,11月の大統領選挙に勝利するため何が必要か,を考えさせた.誰もが民主党内部のリベラルとモデレイト(穏健派)との戦いと見ている.しかし,そのような考えは間違いだ.本当の戦いは,ホワイト・ハウスに戻りたいだけの者と,新しい政治運動を確立したい者との間にある.そして,後者こそが,アメリカ政治に支配的な地位を共和党員たちに与えている保守派の運動に対抗できる.

Lieberman上院議員の敗退は,どちらが優位にあるかを占う良い指標であるだろう.彼は民主党の指導者会議で,どのような意味でも先進的な運動であると見られないように注意し,共和党のテーマに通じる中道的なメッセージを送っていたからだ.

その反対に,Howard Deanはまさに民主党員の「運動」によって登場した.彼の選挙活動は,草の根的であり,改革派であり,普通の人々が「アメリカを取り戻す」という公約に基づいている.同じような訴えは,John Edwards にもJohn Kerryにも見られる(私はケリー上院議員を支援してきた).先週のアイオワにおけるコーカス以後,勢い付いたEdwards上院議員も,支持者たちに「アメリカを変える運動が始まった」と告げた.

私は,Edwards候補など,すべての候補がメッセージを,そして運動を維持するように希望する.共和党によってこの数年達成されたものとは,巧妙な資金調達のメカニズムと,選挙のために時間を惜しまず協力する大量の運動員たちであった.共和党は,政策論争に繰り返し現れる決り文句を普及させた.特に,it's your money(財政黒字はあなたのお金だ), tax and spend, political correctness, class warfare(階級闘争・戦争) などだ.

共和党は協力者を集め,全国規模で公職に就けるシステムを築いている.彼らは同じ世界観を共有し,それに従って投票する.福音派キリスト教,南部と西部の白人ブルー・カラー層,そして大企業を統一する,一貫したイデオロギーを持っている.そのイデオロギーでは,外国の敵,国内の貧困と犯罪,ホモセクシャルが,すべて厳格な処罰と宗教的な正当性によって対処される.

その反対に,民主党にはそれに類する運動が無い.その代わりに党は,興隆する保守主義からも支持を集められると彼らが信じた候補に向かった.そして選挙が終われば,以前と同じことをし続けた.他の民主党員は,シングル・イシュー政治に拘った.環境,選挙資金,イラク戦争,その他,こうした論争では政治運動が生まれなかった.利益が脅かされるときに,論争が現れては消えたが,それは民主党員自身を分断した.しかも,彼らは限られたリベラルな献金とメディアの関心を競い合った.

結果的に,民主党員は鍛えられておらず,脅迫され,要するに,黙ってしまった.彼らには資金が無く,大規模な運動員もいない.宗教的な左派は政治闘争から切り離されている.繰り返し聞くような民主党の言い回しは少ない.さらに,民主党の一貫した世界観やイデオロギーも存在しない.民主党議員の多くは,自分で選挙資金を集め,自分で世論調査し,自分で投票する.共和党が持っているような明確なアイデンティティーを,民主党議員は持っていない.

自前の民主党中間派は,民主党指導部と同様に,党の失敗を有権者の保守化や郊外化のせいにしている.しかし,これはナンセンスだ.1980年以来,最大の支持率低下は,郊外ではなく,巨大な中階級と労働者階級で起きている.特に,白人労働者だ.彼らがこの四半世紀に経済基盤を失った人々であるのは偶然ではない.

民主党は,職場や学校,ヘルス・ケア,退職年金について,大胆な計画を示すことができたはずだ.彼らはこうした問題で,被雇用者に対する企業の責任や,献金で政治家たちを腐敗させる裕福なエリートたちの責任を追及する,強いメッセージを発することもできたはずだ.より最近では,第二次大戦中の民主党と同じく,テロの脅威を国民に犠牲と社会的団結を求めるため利用できたはずだ.それは富裕層に増税し,必要なことを行うという意味である.要するに,ますます集中する富と権力から民主主義を取り戻すために,自分たちがもっとポピュリズムに転換するべきだった.

しかし,民主党はこうしたことをまったく行わなかった.だから保守派は空隙を埋めて,ポピュリスト的な主張を横取りし,アメリカを堕落させたとリベラルなエリートたちを非難した.問題は,民主党がそれに反駁できるかどうか,である.民主党がこぞって中道派の候補を立ててきたのは間違っている.アメリカには政治的な中心など無いのだ.世論調査は,保守的な共和党が攻勢を続け,民主党は中途半端であった,ということを示している.

政治運動を回避する民主党員たちは,ビル・クリントンが1990年代に行った党の軌道修正が成功したと指摘する.クリントン氏は才能豊かな政治家であり,フランクリン・デラノ・ルーズベルト以来,誰にも成し遂げ得なかった再選を勝ち得た.しかし,彼が民主党にもたらした影響は曖昧であり,政治運動と呼べるような何かを始めたとは言えない.1994年にヘルス・ケアの改革を提案したが,彼は広範な政治運動に支持されておらず,失敗した.他方,政治運動に支持されたブッシュ氏は,アメリカ人の意見が割れていたにもかかわらず,減税法案を成立させた.

1996年の選挙前に,クリントン氏は両党の間隙を縫って,些細な論点を操って再選を勝ち取った.それは成功だったが,ピルリッツの勝利でしかない.90年代後半までに,彼は富と権力が集中する中で,この国の新しい課題を示した.すなわち,教育や健康などを通じて,人々に投資し,繁栄をさらに拡大することである.しかし,クリントン氏の再選は問題についての明確な指導権を与えず,彼がセックスについて偽証したことで,保守的な層から反発を買った.

これまでの共和党の勝利について,民主党が注意を払うべきことは,第一に,選挙を越える政治運動を起こす,第二に,大統領が効果的に政治を指導するには政治運動に支持されていることが重要だ,第三に,政治運動の寿命はその簡明な信念に由来する,ということだ.それを実現する最善の策として,政治論争において信念をはっきり示すべきだ.

ホワイト・ハウスを目指す戦いにおいて,民主党は政治運動を必要としている.それによってアメリカの二大政党システムは蘇り,われわれの国が選択することも明確になるだろう.


IHT Saturday, January 31, 2004

Don't try regime change in North Korea

Bruce Bennett and Nina Hachigian

LAT February 2, 2004

To Understand North Korea, Toss Out Old Assumptions

By Philip W. Yun

(コメント) ブッシュ政権の次の目標は「北朝鮮解放戦争」でしょうか? 悪の枢軸であるイランが平和的な交渉で核開発を放棄するのであれば,残るのは北朝鮮です.

しかし,イラクの軍事的な制圧は,当然,予想しなかった結果を伴いました.すなわち,アメリカ兵は攻撃を受けて死傷者を出し続けています.駐留経費が膨張しています.占領期間や国家再建に必要な時間は延長されそうです.

このような時期に,北朝鮮の「体制転換」を実行できるでしょうか? その言葉の意味は,アメリカが軍事力を使用して金正日から権力を奪い,北朝鮮にアメリカやその同盟諸国と協力する政府を樹立することであり,ドイツのように,韓国との平和的な統一を実現することです.しかし,その実現可能性は極めて乏しいでしょう.

では,北朝鮮の「体制転換」により,何が起きるのか? 実現しそうなシナリオとしては,@戦争:北朝鮮は圧力を受けて軍事行動を選択する.韓国はこれを非常に恐れているし,核兵器を使用して日本や米国(基地)を攻撃するかもしれない.アメリカ軍は勝利しても長い占領期間を経なければならず,韓国は甚大な死傷者や被害を出し,統合のための経済的コストに苦しむ.A内戦:金正日が権力を失っても,さまざまな分派が権力闘争を開始し,内戦が続く.大規模な難民が韓国,中国,アメリカへ向かい,政治秩序を再建するために各国は軍事介入しなければならない.Bさらに悪い政治体制が誕生する:さらにナショナリスティックで,韓国との交渉にも応じない政治体制へと変化する.大量破壊兵器の懸念はさらに強まる.

では,どうすれば良いのか? アメリカは軍事的な解放ではなく,関係諸国と合意して,北朝鮮への軍事攻撃をしない,という国際協定を受け入れる代わりに,北朝鮮に核開発計画の完全な放棄を受け入れさせる方向に動くのではないか,とBennett and Hachigianは予想します.

Yunは,ブッシュ政権のネオコン型思考に注意を向けます.むしろ北朝鮮を支配しているのは「冷戦型抑止力」です.金正日はアメリカの先制攻撃に怯えています.彼にとって,体制を維持する唯一の方法は核兵器を保有することに見えるのです.アメリカが先制攻撃を強調し,イラクの成果を誇示することは,彼に一層強硬な姿勢を強いるでしょう.

北朝鮮がクーデタや内部蜂起で崩壊する,と期待するのは難しいでしょう.なぜなら北朝鮮は,前時代的な封鎖国家であり,国民は一種のカルト信者のように,世界の情報から遮断されています.彼らにとって,独裁だけが現実に可能な生活のすべてであり,それ以外の生き方は考える余地も無いでしょう.北朝鮮を攻撃すれば,彼らが必死に戦うことも間違いないわけです.

中国の影響力も限定的です.なぜなら,たとえ中国への経済的な依存が北朝鮮の決定に影響するとしても,安全保障問題に中国からの圧力を考慮する様子はありません.もう一つ,注意すべき点は,北朝鮮指導部の世代間ギャップです.現在の指導部は外の世界を知っていますから,抑止論が適応できます.しかし,次の世代は洗脳された現実に盲従するかもしれません.彼らが政府を動かすなら,交渉はさらに難しいでしょう.

そこでYunも,破局的な戦争を避け,しかも核兵器のスーパーマーケットを作らないために,北朝鮮への圧力を取り除き,核開発が必要ないことを教えるべきだ,と考えます.そして,彼らは経済的に切迫しており,それを救済する形で核開発計画を放棄する誘因を示すなら,それに反応する可能性がある,と考えます.


LAT January 30, 2004

Banning Wal-Mart May Prove Costly

By Shirley Svorny

(コメント) 労働組合や既存の小商店の利益を重視して,ウォル・マートがロサンゼルスの端に出展するのを阻止する決定は正しいか? とSvornyは問います.経済学が教えるように,それはコストを伴います.すでにロサンゼルスの外で,ウォル・マートは展開しています.だから,消費者はロサンゼルスから逃げてしまうでしょう.それゆえ雇用も,税金も.ロサンゼルスは,長年,再開発のためにスーパーマーケットを求めていたはずです.

スーパーマーケットの拡大に反対する者は,ウォル・マートの雇用が一つ増えると二つの雇用を潰す,という研究をよく引用します.それは酷い話です.しかし,誤解しています.技術や思考が変化するのに応じて,仕事は毎日失われているのです.小売業が労働効率を高めた最初の産業ではありません.またそれは永久に失業することを意味しません.歴史に拠れば,その結果は,地域の失業が増大するのではなく,拡大しつつある分野に雇用が移るのです.

スーパーマーケットは,私たちにより安価で快適な買い物を提供してくれます.その進出を制限する決定は,近視眼的で,偏っています.この反論は,グローバリゼーションの論争とそっくりです.安価で,しかも快適であるなら,何も悪くないはずだ.新しい雇用が,より良い労働条件と所得をもたらすのであれば,誰が反対するのか? と.

もちろん,問題は,誰の利益か? ということです.全体として正しくとも,それが実現する過程には,多くの問題があるのです.そして,社会的な合意は,ますます難しくなっています.


NYT January 29, 2004

Will We Remember 2004 as the Year of the Dean Bubble?

By ANDRS MARTINEZ

(コメント) なるほど,インターネットと草の根の運動員たちで集めたハワード・ディーンの超人気は,ドット・コム企業のバブルと同じく,すなわち「オンライン・エートス」により,一気にピークを迎え,すでに破綻したのでしょうか?


WP Friday, January 30, 2004

Progress on Sex Slaves

NYT January 31, 2004

Stopping the Traffickers

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) ブッシュ大統領は,国連演説で性的な奴隷貿易を非難し,カンボジア政府は児童に売春を斡旋・強要した業者を逮捕,起訴しました.しかし,なぜインドではなく,カンボジアなのか? とWPはその偽善性を指摘します.これは,経済・軍事援助を人質に取った,国務省が示す,アメリカの新しい多角的「人権外交」のようです.

他方,KRISTOFは,記者個人として,カンボジアの二人の少女を売春宿から解放しました.その後,彼に殺到した読者からのメールは,私も一人解放してあげたい,というわけです.わずか数百ドルで奴隷解放できるなら.「しかし」と彼は書きます.「セックス奴隷を買い受けて,解放することは,長期的な解決策にならない.個人を救済しても,それが他の少女を誘拐する次の動機をもたらす.私の経験でも,彼女たちが生きる地下世界の事情は複雑で,重層的であり,彼女たちを救済するには,単に解放する以上のことが必要だ.」

KRISTOFは,ブッシュ大統領と国務省を賞賛します.彼らの圧力によって,世界中で制的な奴隷の取引が,以前よりも,厳しく取り締まられています.その運動の骨子は,@売春宿の取り締まり,AコンドームによるAIDS予防,B彼女たちへの読み書きと職業教育,です.この要求を,熱心なキリスト教信者から一部のフェミニストまで,多くの有権者が支持し,両党も一致して推進しています.

ブッシュ氏は,打算的な偽善者か? 道徳的な世界の指導者か? あるいは,その両方?


WP Friday, January 30, 2004

The China Riddle

By Robert J. Samuelson

中国問題の答えとは? 中国が経済的な超大国になると分かっていても,その答えは誰にも分からない.13億の人口,世界6番目の経済規模,世界4番目の輸出額,2003年の成長率は9.1%,あらゆる分野の技術で抜きん出たいという野心.

第二次世界大戦以来,アメリカの最大の経済・貿易相手国は,政治的にも軍事的にも緊密な同盟国であった.中国はこのパターンを破る.今や,カナダとメキシコについで,中国がアメリカの主要な貿易取引国であり,2003年に1200億ドルに達した,最大の貿易赤字相手国だ.しかし,中国は緊密な同盟国でもなければ,完全な敵国でもない.人々は適当な言葉を見つけられない.中国は「脅威」なのか,「機会」なのか? 「パートナー」なのか,「ライヴァル」なのか?

それ以上に,世界経済に及ぼす影響もわれわれには分からない.中国は,世界中から仕事と投資とを吸い寄せてしまう,巨大な低賃金磁石なのか? それとも,その発展が他のすべての者を引っぱる強力な機関車なのか? 最近まで,中国は磁石だった.主に他のアジア諸国を犠牲にして,5000億ドルもの直接投資が中国に集まった.そして「2年前,アジアは転落した」と,IIEのNicholas R. Lardyは指摘する.

しかし最近,中国は機関車に変身した.その輸入額は2003年に40%も増加し,約1180億ドルに達する.鉄鋼輸入は3600万トンで,韓国や日本の売上を飛躍させた.2003年,中国は石油需要の世界的な増大のうち35%を占めた.中国からの旺盛な需要で,銅の価格が40%,鉛の価格が55%も上昇した.

明らかに,中国は雇用を創り出さねばならない圧倒的な必要を感じていることだ.もし失敗すれば,争乱が起きかねない.IMFの推計では,毎年,労働力が1000万人増加する.非効率な国営企業の近代化により,工場閉鎖とレイオフが増える.地方からは,もっと良い給与を求めて,労働者が都市に流入する.その結果,毎年900万人の雇用が必要であろう.アメリカでさえ,好況の年で300万人しか雇用は増えない.

中国は世界の苦汗工場であることに満足しない.宇宙に人を打ち上げただけでなく,「産業政策による問題」が高まっている,とアメリカの関係者は指摘する.あなたは投資できるが,われわれは技術が欲しい,と中国人は言う.これでは将来の競争相手を強くするだけではないか? と企業は心配する.

コンピューター・チップを見ればよい.中国はチップの付加価値に17%の税金を課す.しかし中国で作れば,輸入製品に比べて,そのほとんどを払い戻す.中国はワイヤレスのコンピューター部品にも独自の暗号化を強制する.それは外国企業に,暗号コードをもつ中国企業と,ワイヤレス技術を共有しろ,と強制することだ.アメリカは,どちらについても,WTOのルールに違反している,と考える.

われわれは中国と他の関心を共有している.北朝鮮の核開発計画,テロリズム,台湾の扱いだ.しかし,われわれの政治的関係は部分的に経済的関係に依存する.もし経済的なコストがあまりにも大きければ,経済的関係が政治を汚染するだろう.特に注目されているのは莫大な対中貿易赤字だ.理論的には,それは重要ではない.貿易の利益を得るのに,どの国とも均衡しなければならない理由は無い.たとえば,中国がアメリカに輸出し,タイから買う.タイはブラジルから買い,ブラジルがアメリカから買う.しかし,アメリカで雇用が増えないときに中国との赤字が増えるのは,際限の無い「職場の流出」を示唆して,政治的に見て致命的である.この状態が続けば,経済理論は信用されなくなる.

一つの心配は,中国の最近の成長加速が金融拡大による「バブル」を含んでおり,それが弾けた場合,輸入が落ち込み,中国がさらに過激な輸出による雇用拡大に突き進むだろう,ということだ.もう一つの危険は,中国がアジアの供給ラインの最終段階でしかないことだ.すなわち,アジアは全体として,購入する以上に巨額の販売を続け,アメリカ財務省証券にして黒字を貯め込んでいる.たとえば,中国の台湾からの輸入の3分の2は組み立てられて再輸出される.この偏った貿易がアジアに職を移動させる.それゆえブッシュ政権は,中国とアジア諸国に通貨を増価させるように,そしてもっと輸出品を高価にするように,迫っているわけだ.

1980年,中国はわずかな貿易額で,その人民は生存ぎりぎりの水準であった.現在,中国は携帯電話の世界最大の市場(2億6900万台),インターネット利用者も世界第二位(7800万人)である.その巨大さを考慮すれば,変化は驚くほどスムーズであった.誰もが中国市場の一角を狙っている.しかしまた,われわれは管理不可能な巨大な国をけしかけているのではないか,という恐怖も潜んでいる.中国が世界市場に与える影響,アメリカとの関係,それらは終わりの無い疑問である.われわれはその答えを持っていないし,同じように,中国にも分からないはずだ.

******************************

The Economist, January 24th 2004

Pay or decay

Financing universities: Who pays to study?

(コメント) 大学を経営する最善の方法とは? 民間資金を大学に導入する,というのが,イギリス政府の答えです.すなわち,学生はもっと高い学費を支払い,大学は優れた学生や研究者を競って集め,企業とさまざまなプログラムを組んで資金も集めます.

資本主義と同じように,二つの主要なモデルがありました.ヨーロッパ型と,アメリカ型です.多分,職人育成型と市場圧力・報酬型です.イギリスを含めて,ヨーロッパ型の大学は税金によって官僚的に運営され,それゆえ,学費も入学者も,大学が自由に決めることもできません.建物はボロボロで,講師も薄給に耐えます.大学卒業の資格は増発され,その価値は失われます.

ソルボンヌのセミナーで,80人の登録者がありました.教師は横柄に言ったそうです.「半分は出て行きなさい.それから始めましょう.外国人が最初に出なさい.」 ドイツ,スペイン,イタリアの大学でも,問題が起きています.セミナーは機能せず,試験で収賄が横行し,性的な要求をした教師が起訴される始末です.

The Economistは,その原因を「大学の国有化」に求めます.大学の世界ランキングで見ても,アメリカ型のシステムに注目が集まります.アメリカの大学にも問題はありますが,その優秀さは,多様で,柔軟な教育システム,激しい競争によって実現される,と考えます.たとえば,学生はカリフォルニアのコミュニティー・カレッジに入学し,州立大学へ移って,バークレーで学位を取ることもあります.学費や給与に大きな差があり,大学の資金集めは重要な事業です.

The Economistが推奨するのは,高額の授業料と,足による投票,です.学生も企業も,今の教育システムが提供する内容に不満を示しています.たとえ高い学費を支払っても,優秀な学生は世界中からアメリカの大学を目指します.政府が大学の経営に手を出して,社会改良を目指す時代ではない,とThe Economistは考えます.

どちらのシステムでも,完全というわけではありません.もし日本の大学も硬直し,腐敗し,活力を失っている面があれば,The Economistの考え方を取り入れてみてはどうでしょうか?


China’s property market: Castles in the sky

(コメント) たとえば,北京北東部の住宅開発地区において,スイミング・プール付き,5つの寝室がある邸宅の価格が,150万ドル.あるいは,少しランクを下げて,72万ドルあたりで手を打つか? それでも,ざっと,中国都市部の平均収入の730倍です.エキゾチックで,ばかばかしい名前の付いた,折衷的な建物.あるいは,建築中の,そして完成しないまま業者が放置した多くの建築物.入居者のいないフレームだけの建物.

安価な土地,安価な労働力,安価な融資の招いた中国不動産バブルを,The Economistが紹介しています.日本人にとっては記憶に新しい現象ですから,私たちは中国への投資を撤退させるべきだ,少なくとも,厳しく選択するべきだ,と考える経営者がいても良いのではないか,と思いました.


Angola: The shameless rich and voiceless poor

(コメント) 内戦は終わりましたが,電気も,水も,学校も無い.アンゴラのその貧しさは,豊富な資源と国際的な援助にもかかわらず,腐敗した政治家と政府職員の汚職(彼らは大金をつかんで外国へ逃げます),それに関する情報の隠蔽,貧しい者の声を無視して,まともな選挙も行わない「民主的な」支配者たちによるようです.