IPEの果樹園2004

今週のReview

2/2-2/7

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最近,驚いた新聞記事(朝日)と言えば,中国貴州省の洞窟村にある小学校の話(5人).また日本では,中学のときに家を出て,30年余りを山野で暮らした男性の話(1人)です.そして,NHK・BSプライムタイムで観た,国連軍縮外交の話(5人)も印象に残りました.同じ時代に,同じ人間として,経験し得る話とはとても思えないほど,彼らの人生は違います.計11人.

履歴詐称(1人)や秘書給与(3人),女性スキャンダル(1人?)などで政治家が辞職を求められ,小説家(2人)や阪神ファン(1人),覆面レスラー(1人)であることが集票につながる(と期待する)ような選挙システムを継承し,有権者の曖昧な判断が繰り返されるなら,私もサルトルの無神論にならって,無政府主義者になろうか,と思います.つまり,政治家が何を言っても,何をしても,どうでもよい.あるいは,選挙なんて無駄だ.計9人.

もし政治家の言うことや,その判断と選択が,私たちの生活を具体的に改善し,もしくは困窮させ,切迫した危機を回避する鍵を握るのであれば,投票によって政治家を選ぶことは非常に重要です.小国の盛衰は,しばしば傑出した指導者に拠るものでしたし,繁栄した小国は優れた政治的伝統=文化を育てたのではないでしょうか.小国をしばしば襲う危機と,政治家に対する国民の真摯な要求,その選択と信頼が,優れた政治家を生んだように思います.

暗黒大陸と呼ばれ,今も,エイズと内戦,難民,飢餓ばかりが伝えられるアフリカを,再生することは可能でしょうか? あるいは,繁栄する地方都市と,衰退する地方都市との違いを生むものとは,何でしょうか? 優れた小学校と,荒れた小学校との違い,大学や企業の社会的評価の変動は,何を意味するのでしょうか?

私は期末テストで学生たちに問いました.

「グローバル化が進む社会では,それによって利益を受ける者と損害を受ける者が現れます.

今,豊かな諸国の政治家が関心を持ち,安全保障や国内の分配問題で対立を生じつつある辺境のある国で生まれた王子が,このグローバル化の時代に生き延びる方法,そして平和と繁栄を維持する方法を求めています.

あなたが彼の政治顧問になるとすれば,どのような点に注意して内外に正しい方針を示し,国民を説得するべきだ,と進言しますか? 辺境の小国にとって,グローバル化の良い面も悪い面も考慮して,王子に示す具体的な提案を述べなさい.」

125m,奥行き215m,高さ50mの洞窟の村は,トウモロコシを植え,鶏を飼い,ほとんど自給自足です.一人当たりの年収は150元余り(約2000円).その奥にある中洞小学校は,子供たちから授業料を取らず,校長先生だけが県から給料をもらいます.他の3人の先生はアメリカの篤志家から寄付を受け,また一人は無給で小学校を維持しています.21歳の英語の先生は片道3時間をかけて徒歩で通い,自分も学資を借りて卒業しましたが,それを返すために,半年間,小学校を休んで出稼ぎに行きました.

アーカンソー州のクラークスビルから,州兵たちがイラクに赴くためにテキサスの軍事基地で訓練に励みます.夜になれば酒場に出て,刺青を彫り,ブッシュの戦争をなじり,不安や恐怖と闘います(3人).町に残った家族は,夫の居ない農場や職場を必死に支えます(5人).しかし,夫や息子たちが任務に専念し,生きて帰れるように,手紙には楽しいことだけ書きなさい,と陸軍のカウンセラーに勧められて,涙を流します.これも,NHK・BSプライムタイムの話です.計8人.

今週の「ホワイト・ハウス2」は,「チーズの日」が話題になっていました.かつて,第7代のジャクソン大統領が,重さ2トンのチーズをホワイト・ハウスに集めて,貧しい家庭に配ったそうです.それを記念してチーズの日には,ホワイト・ハウスの高官が,日ごろ,会わないような無名の団体・組織の代表と面会します.架空の人物ですが,「ホワイト・ハウス」の6人も.

首相官邸やサマワの自衛隊キャンプでも,「たくあんの日」を作ってはどうでしょうか? もし彼ら34人が一つの教室に集まって,私の期末テストに答えてくれたら,何を書くか,ぜひ知りたいと思います.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


BG, 1/21/2004

Will voters focus on Bush details?

By Robert Kuttner, Globe Columnist

(コメント) ブッシュ氏は,何を,誰に向かって話しているのか?  Kuttnerは,ブッシュ大統領の一般教書演説の細部について,本当の聴衆が誰か,を考えます.高邁なレトリック,くだらない明細,選挙の打算.それを捨て去れば,残ったものといえば?

真の聴衆,すなわち彼の政策から補助金を得るのは,売薬を保険で購入できる,病院に行けない貧しい患者たちでしょうか? でも,彼の政策はまだ実施されていません.その費用も分かりません.ただし,保険会社と製薬会社が利益を得ることは確実です.

社会保障を投資勘定に移すことで,労働者や家族は株価上昇の利益を享受できるでしょうか? ブッシュ氏の言う「所有社会"ownership society"」では,すべてのアメリカ人が資本家になれます.しかし,株価は必ず上昇してくれるとは限りません.そのとき退職した人はどうなるのか? しかし,本当の聴衆は彼らではなく,ウォール街の投資銀行であり,手軽に大富豪を目指す,世間知らずの若者たちです.

ゲスト・ワーカー計画も,密入国者に合法的な居住を認め,非合法移民の波を食い止める,と主張されています.しかし,移民を決定するのはネットワークであり,もっと低賃金で働く労働者が一時雇用で流入する世界を想像するなら,演説の真の聴衆は労働者でも移民でもないと分かります.それは,従順で安価な労働者を求める企業家であり,ヒスパニックの有権者です.たとえ移民団体が反対しても,ブッシュ氏はそんなパンフレットを読めない移民個人に期待を抱かせます.

なぜ大きな赤字に苦しむ政府が,月や火星を目指すのか? 有権者は宇宙計画を嫌っています.しかし,宇宙関連事業や,ケイプ・カナベラル周辺の地域は,フロリダの投票を決する重要性を持っています.


LAT January 21, 2004

Help Mexico Fix Its Problems -- Instead of Sending Them North

By Elton Gallegly

(コメント) 共和党議員でthe House Subcommittee on International Terrorism, Nonproliferation and Human Rightsの議長でもあるGalleglyは,メキシコからの移民に一方的に譲歩する提案を批判します.彼の言い分は,メキシコ人たちは直接投資を上回る送金を行って,顕著な利益を上げているが,アメリカ人には何の利益も無い,ということです.

メキシコ人はアメリカ人の賃金の数分の一で職を奪い,保険にも入らず,危険な職場で怪我をすると病院で治療を受けるが支払えず,アメリカの保険に負担がかかる.メキシコ人はアメリカでもメキシコのIDや免許証を使用できるように求めているが,それによってアメリカのトラック運転手たちは職を失い,テロリストも犯罪者もアメリカに流入する.メキシコ人は,アメリカに居てメキシコの選挙に参加し,しかもアメリカの選挙でも投票したい,と主張する.

メキシコは重要な隣国であるから,繁栄するに越したことは無いが,しかし,アメリカは自国の利益を優先しなければならない,と.

もちろん,Galleglyの主張は一面的です.アメリカだけが利益を得ている,という主張もあるでしょう.移民の受入国が持つ代表的な不満を,アメリカも解決できていない,と思います.


WP Wednesday, January 21, 2004

How the Iowans Wised Up to Dean

By George F. Will

(コメント) アイオワの民主党コーカスcaucusは,政治的な市場モデルとして効率的に機能した,とWillは賞賛します.ディーン候補が敗北したのは,その感情的で,抑制の無いブッシュ批判や,ワシントンの「ゴキブリ野郎ども」を中傷し続けた結果でした.各候補についての事前の情報は完全で,コーカスへの参入も自由な投票制度が,正しい結果をもたらした,と考えるわけです.この失敗に懲りたディーン氏は,共和党よりの民主党に失望した「真のリベラル」だけでなく,もっと民主党の主流派や,共和党支持者からも票を得るような選挙戦略に変わるでしょう.

その後の分析は特定利益集団の形成についてです.選挙運動に長けたゲッパードが票を集められないのは,労働組合,持ち家,社会保障の充実など,フランクリン・ルーズベルト以来の政治戦略が通用しなくなったからです.すでに都市化が進み,中産階級が増えたのです.また,ニュー・ディールの支持層であったホワイト・カラーの政府職員も,ゲッパードよりケリーやエドワードに流れました.あるいは,アイオワを無視したクラーク陣営は,政治的市場の情報伝達能力を軽視した報いを受けるでしょう.


WP Thursday, January 22, 2004

Two Visions of America

By David S. Broder

Jan. 23 (Bloomberg)

Bush Left Economic Vision on Cutting Floor

Gene Sperling

(コメント) アメリカが次の大統領選挙で選択しようとしているのは,アメリカ国民自身の二つの見方である,とBroderは考えます.ブッシュ氏が一般教書で強調したのは唯一つ,アメリカの安全,です.9・11に対して,自分は「テロとの戦争」を決意し,攻撃されるよりも前に敵を攻撃し,フセイン政府を壊滅させ,アメリカ国民の暮らしは以前より安全になった,と.

他方,民主党の大統領候補たちは,アメリカが直面している最大の脅威は国内にある,と考えます.雇用,教育,医療保険制度,環境保護,それらはブッシュ氏が強調する海外の脅威よりも国民の身近にあり,切実です.

テロリストに国際条約など役に立たない! とブッシュ氏は言います.他方,民主党はイラクの再建を国際分担するために,国連と同盟諸国の協力を求めます.しかし,私が大統領である限り,「アメリカは自国民を守るための許可証を求めたりしない」と,ブッシュ氏は断言します.

国民は,ある意味で,その両方の主張に同意しています.世界やアメリカの状態,政府の成すべきことについて,アメリカ国民自身の心が割れているのだ,と考えます.

Sperlingに言わせれば,ブッシュ氏はこう問い掛けたのです.「あなたの生活が4年前と比べてよくなったかどうか,を問うべきではない.むしろ,今から4年後に,あなたが私といる場合と,他の誰かといる場合とで,どちらがより安全と感じるかどうか,を問うべきだ.」

これは彼にとって当然の戦略です.国民はテロを恐れており,4年前に比べて生活は悪化していることが明白ですから.彼の父親が,安全保障に優れていながら,経済を無視して再選されなかった,と覚えているなら,なおさらです.しかし優れた戦略も行き過ぎると破滅の原因となります.実際には一部の投資家層を優遇するとか,財政赤字を無視するとか,ブッシュ氏の経済に関する無謀な沈黙は,安全保障の優位によっても無視されないでしょう.


FT January 22 2004

EU plan to fly illegal migrants back home

By John Murray Brown in Dublin

FT January 23 2004

Recognising the value of migrants

FT January 28 2004

Migrants can help rejuvenate Europe

By Kofi Annan (secretary-general of the United Nations)

(コメント) EUが,難民を本国に送り返す共通政策を導入します.それは,福祉国家を守るために,高まる政治的不満を緩和し,難民たちの本国帰還を財政的に支援する,というわけです.しかし,難民の保護を求める国際協定に違反する恐れがあります.国際移民システムへの模索は,まだ,輪郭も定まりません.

人口や成長を維持するための重要な要因である移民を,カナダやニュー・ジーランドは上手く政策に組み入れ,制度化している,と言いますが,多くの先進諸国は特定産業の技術者や熟練労働者,特別な未熟練労働者の一時的雇用に限って,移民労働者を利用しています.他方,難民の受け入れは世界的に厳格化され,こうした限定的・抑制的な移民利用は,結局,ますます増大する移民たちの統合化を難しくする,と懸念されています.

国連のアナン事務総長は,移民に開かれたヨーロッパこそ,若く,公平で,力強い,豊かなヨーロッパをもたらす,と主張します.圧倒的に多くの移民たちは,決して,怠惰でも,臆病でも,不決断でもありません.彼らはフリー・ライダーを望んでいません.彼らは自分と家族に公平な機会を求めています.彼らは犯罪者ではなく,法を遵守します.彼らは隔離を望まず,自分たちのアイデンティティーを保持して,統合化を望んでいます.移民たちを,社会問題のスケープ・ゴートにしてはならない,とアナン氏は主張します.

もちろん,人口の少ない国が人口の多い国から移民を呼ばなければ発展できなかった,という事実はないと思います.高齢化の問題が土地や資源と比べた人口の多寡であれば,貿易によって,また,それが労働力や投資機会であれば,国際投資によって,解決できるはずです.

あるいは,こう言い換えても良いでしょう.若者が流入するか,老人が流出するか? 老人の消費する財を輸入するか,老人の貯蓄を海外投資するか? そして,貿易できない老人が利用するサービスを,海外ではなく国内で消費したいなら,そのようなサービス労働者の出稼ぎを奨励するか? もし日本やヨーロッパが老人にとって住みやすい国になり,若者がもっと刺激を求め,機会を求め,異なる職業や娯楽を求めるなら,たとえそれが海外であろうとも,農村から都市へと移動するでしょう.いずれも過渡的な調整策であって,それぞれの国が選択するでしょう.

アナン氏が求めているのは,移民たちを社会に統合し,彼らが受け入れ社会に適応するように,受け入れ社会も彼らに適応することです.


NYT January 22, 2004

Immigrant-Labor Economics

By JEFF MADRICK

WP Monday, January 26, 2004

When a More Open Border Is Better

By Stuart Anderson

(コメント) MADRICKは,経済学から見て,移民労働者の利益を最大化する方策を考えます.一方では,ブッシュ提案が,移民労働者を雇い主の言いなりになる奴隷労働者を作り出すのではないか,という不安もあります.しかし,経済学者の多くは,そこに大きな賃金格差がある以上,労働者の移動を自由化することで,すべての者が得をする大きな可能性がある,と考えます.

Dani RodrikやL. Alan Wintersは,グローバリゼーションの最後のフロンティアに期待します.低賃金によって企業は利潤が増え,投資を増やし,雇用も増えるでしょう.それは受入国の政府により多くの歳入をもたらし,送出し国にも巨額の送金をもたらすのです.Wintersの推計では,OECD諸国が熟練・未熟練の現在の移民割当を3%増やすだけで,世界の所得は1560億ドル,0.6%も増加します.

もちろん,実施はさまざまな問題を生じます.まず,移民流入で自国の労働者も賃金が下がるでしょう.社会保障にも財政負担が加わります.また,移民たちが定住すれば,送出し国が受ける利益は減ります.ブッシュ提案は,こうした問題を緩和しようとしています.なぜなら移民を合法化し,保険にも加入させれば,それを負担する雇い主はその賃金を大きく下げないでしょう.社会保障制度の破綻を防ぐ要因にもなります.移民たちの還流を促すために,彼らの賃金を一部,投資させて,帰国してから利用できるようにすることも検討されています.

しかし,たとえば最低賃金は引き上げた方が良い,とMADRICKは考えますし,アメリカの農産物に対する補助金が,低賃金移民労働者を大量に引き寄せている問題は,移民の自由化だけで解決できない,と指摘します.

Andersonは,1942年から64年のブラセロ計画に比べて,ブッシュ提案が何を意味するか,を検討します.すなわち,移動が合法化されれば,移民たちは人手の足りない農園に集中し,仕事が無ければ,その多くは帰国するだろう.他方,移民が非合法化されると,労働者の賃金は上昇し,さまざまな分野で非合法移民が利用され,国境警備を増やしても効果は無いだろう,と.規制だけでは失敗する.市場がそれを支持しなければ,移民の管理は実現できない.


July 23 (Bloomberg)

As Japan Recovers, Will Bond Yields Surge?

William Pesek Jr.

Jan. 28 (Bloomberg)

Barbarians Edging Closer to Japan's Gates

William Pesek Jr.

(コメント) 日本の景気回復や財政再建の見通しは,あまりにも長い低迷と赤字の累積により,非常に不可解な,不安な様相を呈しています.本当に景気が良くなったのであれば,金利は上がるのか? 国債価格は急落するのか? 投資や消費が増え,銀行の融資も増えるのか? 円高はさらに進むのか? 外国の投資家は,株式市場だけでなく,国債も購入するのか?

しかし,金利が上がり,円高が進めば,日本の企業は業績を悪化させ,投資もできなくなる? 大量の国債を保有する銀行は損失を出し,融資が伸びなくなる? 株価が下落し,外国投資家が再び暴落するまで買わなくなる? アメリカの景気回復が持続するかどうか?

Pesek Jr.は,こうした投資家の不安を列挙します.日本だけでしか通用しない不思議な法則として,世界最大の債務国が,世界最低の金利で財政赤字を維持している,という現象も,まだ当分続きそうです.それは,機関投資家が集める貯蓄を,国債以外に投資しにくいからです.また,日銀が金融緩和を持続し,円高阻止のための介入も続くからです.

この停滞の持続と崩壊の凍結処理を打ち破るのは,外人投資家による,日本企業の買収ではないか,とPesek Jr.は考えます.日本政府や企業は,株式市場の役割について,国民的合意を得るような努力を怠っていると思います.経営者たちの刷新こそ,日本の改革に必要だ,というのは軽視されてきた基本問題です.


The Guardian, Friday January 23, 2004

US frailty doesn't just exist in the European imagination

Martin Woollacott

(コメント) もしイギリス政府が,フランスやドイツとともに,アメリカの方針に反対し,イラクへの攻撃に参加しなかったとしたら,世界はどうなったでしょうか?  Woollacottは想像します.

保守党はブレアを批判し,デイヴィッド・ケリーは死ななかったし,ハットンが有名になることも無かったでしょう.ブッシュ氏の一般教書演説も,さらに旧世界と新世界を強調したか,米欧の力を対比したかもしれません.EUは強化され,新米的な加盟国は発言を控え,中東情勢やロシア,NATOにも影響したはずです.アル・カイダはEUをテロの対象から除外したかもしれません.アメリカのイラク攻撃は孤立し,アメリカの大統領選挙の争点も,これほどイラクと安全保障に限定されなかったでしょう.

アメリカが世界を動かしているわけではないし,世界がアメリカを動かせるわけでもない,という真実を,この想像によって理解できる,と.


The Guardian, Friday January 23, 2004

Silence of the cardigan capitalists

Larry Elliott

FT January 26 2004

When haves and have-nots swap

By John Gapper

(コメント) スイスのダヴォスでは世界経済フォーラム(WEF)が,他方,インドのムンバイでは世界社会フォーラム(WSF)が開催されました.Elliottは,WEFに現れた変化を論評します.すなわち,WEFはもはやグローバリゼーションの拡大を称揚する世界企業とイデオローグの代表者会議ではなくなりました.労働組合も参加し,グローバリゼーションへの疑念を否定せず,テロとの戦争に不安を共有します.

発展途上国の政治指導者たちが相次いで新自由主義への信仰を告白し,少しでも多くの投資が自国にも授けられるように骨身を削る姿は,もう見られません.最大の話題であった中国経済の行方も,中国政府からの代表は一人も居らず,資本家たちの財布の紐を緩める特別な努力は必要無い,といった調子です.また,ブラジルのルーラ大統領も居らず,第三世界の指導者たちはもう一つのフォーラム,WSFに注目します.

Elliottはこう考えます.グローバリゼーションの反対派が絶叫しなくても,WEFは実効性の無い座談会だ,と言えば十分です.グローバリゼーションをめぐって,WEFとWSFとは競争を開始しました.そして,貿易自由化交渉の再開を促すことこそ重要であったはずなのに,主要国の政府が容認しなければ,WEFの訴えも無駄話です.

しかし私は,WEFやWSFが,政府機関を抜きに,世界社会の参加者が示すさまざまな集合的意識のバロメーターとして機能するように思います.

Gapperは,ダヴォスで聞いた三つの話から,新しい世界に触れます.まず,中国に工場を建てる重役の話.彼が契約に行くと,何も無い荒地と長屋を指差して,市長は「そこだ」と言う.高速道路をここに作る.鉄道もここへ引く.電力も大丈夫だ.「ところで,労働者は?」と,その重役は尋ねた.「心配ないさ」と,市長は答えた.彼らはその辺に住むだろうから,と.

次に,アルカンサスのBentonvilleでウォル・マートに商品を納入しようとした男の話.彼は価格設定の厳しい交渉を,全面ガラスの壁に覆われた会議室で長時間かけて行った.ようやく合意にこぎつけ,自社に引き上げたところ,その夜,彼に納入していた生産者から電話があった.ウォル・マートが生産者に,彼の提示した価格より安くできないか,と打診してきた,と.

最後に,リナックスのような,オープン・ソースのソフトウェアについて.オープン・ソースのコンピューターを使用している企業もしくは政府の方は? 半分ほどが手を上げた.将来,私用を検討中の方は? 残りのほとんどの手が上がった.しかし,一人だけ手を上げなかった.その人は,マイクロソフト社の重役だった.

大企業は,世界をますます生産的にし,発展途上国の商品を世界中で販売しています.彼らを叩き潰すことなど,もはや考えないでしょう.そして,インターネットでつながった世界では,生産者やブランドよりも,世界的な流通と販売を支配する,ウォル・マートのような存在が重要になります.そして,ネットワークは,生産や流通さえも必要とせず,音楽やビデオのように,その利益を奪い去るのです.

そのシステムの中では,突如として,インドが新しい情報立地として重要になります.利用できる労働力は,ほとんど無尽蔵.世界が「持てる者と持たざる者」に分割されてしまう,という懸念は消滅し,代わって,インド,中国,ウォル・マート,インターネット,が結ぶ,物理的・電子的な境界を失った世界,支配する者の居ない,新しい荒野が現れます.


NYT January 24, 2004

Looming Battle Over Cotton Subsidies

By ELIZABETH BECKER

NYT January 24, 2004

A Year of Worry for Cambodia's Garment Makers

By JAMES BROOKE

(コメント) WTOのパネルは,アメリカの綿花補助金を違反として認定するかもしれません.その際,ブッシュ元大統領の政権で農務省の次官であったDaniel A. Sumnerが,ブラジル政府のためにアメリカの提供する統計で補助金の影響を推定する経済モデルを示したことが重要でした.それは「反逆罪」であろう,と彼自身認めていますが,どのように非難されても,多角的な交渉によって国際紛争を解決する努力を強く支持する彼の姿勢は変わりません.「私はWTOが,可能な限り公平な,紛争処理プロセスになって欲しいと思う」,と.

では,貿易自由化が本当に貧しい諸国の雇用や所得を増大させるのか? という疑問が,もう一つの記事の背景です.特に,中国から安価な繊維製品やその他の工業製品が自由に輸出されるなら,他の国は何を生産するのか?

カンボジアの工場は,中国に比べると,生産コストが高くなります.その理由として挙げられるのは,電力コスト,港までの輸送の時間とコスト,そして労働者の権利保護です.そこで,カンボジアは中国の輸出品とコストで対抗するより,違う形で市場の隙間を探しています.

カンボジアの工場が求めているのは,「苦汗(搾取)工場とは関わりの無い製品」という証明や商品ラベルです.それが,裕福な消費者の関心を刺激して,価格がたとえ高くなっても,中国製よりカンボジア製の商品を購入してくれるだろう,と期待するわけです.政府は労働者の権利を擁護し,組合を認めて労働条件の改善を図り,ILOが定期的に工場の労働条件を検査し,報告書を公表しています.また,労働争議を減らすために,労使間の紛争を処理する公的な仲裁機関を設けました.

若い女性たちは,こうして保護された工場に雇用されることを強く希望しています.ある女性は,姉妹で月に一人55ドルを稼ぎ,12人の家族を支えています.彼女の父は電気工ですが,10ドルから20ドルしか稼げません.もし中国との価格競争により,工場が雇用を減らせば,女性たちはカラオケ・バーのホステスか,ナイト・クラブで売春しなければなりません.

カンボジアは,多国籍企業の生産拠点分散化という方針により,一定の優位を保持するでしょう.中国との貿易摩擦やSARS,通貨の混乱などを回避する必要が,企業にカンボジアを注目させるのです.他方,ラベリング戦略は,必ずしも成功していません.ILO自身が,自分たちは証明書を発行する機関ではない,と公言します.カンボジアの生産者たちは,民間の検査・証明機関を模索しています.

多分,ツナ缶に保証ラベルを求めたイルカの保護運動に比べて,貧しい労働者の権利保護が豊かな諸国の消費者や政府の関心を十分に強く引き付けない!というのが,残念ながら,最も重要な理由ではないか,と思います.


FT January 25 2004

A legacy of failure in the Arab world

By Lawrence Freedman

ST JAN 27, 2004 TUE

Ending the democracy deficit in the Muslim world

By RICHARD N. HAASS

WP Monday, January 26, 2004

Democracy And Islam Can Coexist


NYT January 25, 2004

War of Ideas, Part 6

By THOMAS L. FRIEDMAN

テロとの戦争に勝利するとしたら,それは穏健派のイスラム教徒を励まして,民主的な国家の指導者にすることだ.しかし,イスラム教徒たちは,特に若者は激しい怒りに染まっている.彼らが穏健派を支持するためには,その怒りの源である,抑圧的な政治や将来への絶望,機会の無さ,特に,雇用機会を改善することが何より必要だ.

文明の対立ではなく,高齢化する既開発世界,特にヨーロッパと,仕事を求める若い新興世界,特にイスラム圏とが,対立している.前者は自分たちの仕事を守ろうとし,後者は仕事を探し求め,仕事の機会が無いことに不満を積もらせる.数字で見ても,アラブの若者(15〜24歳)は9000万人だが,1400万人が失業している.また,1500から2000万人がヨーロッパに住んでいる.ヨルダンのアブドラ国王は,彼らには十分な仕事が無く,希望が無い,とダヴォスの経済フォーラムで発言した.

発明件数は,教育,企業家精神,法の支配,革新性,の指標である.1980年から1999年の間に,アラブ経済の発明でアメリカに登録されたものは340件しかない.同じ20年間に,韓国は16,328件を登録した.韓国人が自爆テロに走る理由は無い.あるいは,Googleの検索で知識を探せば,ハイテクのアウトソーシングが,アメリカやヨーロッパからインドやメキシコ,中国に向かっていることが分かる.しかし,アラブ世界には向かわない.インフラも,生産性も,教育も,そこには無いからだ.

どうするべきか? 多くの支援はヨーロッパが与えるべきだ.しばしばアメリカが標的になるが,ヨーロッパこそアラブ・イスラム教徒の怒りを生産する工場である.ヨーロッパはイスラム教徒の少数派を雇用せず,統合化して来なかった.その後背地である中東とアフリカにおいて,ヨーロッパこそ投資に失敗したのだ.

アメリカがこの点で完璧であったとは言えないが,メキシコとの自由貿易協定は,メキシコに仕事をもたらし,その近代化を促すだけでなく,民主化のための政治的・経済的な条件を整えた.メキシコが成長したから,穏健な形で民主化が進んだのである.

もし希望があるとすれば,それこそが希望だ.アラブ人,イスラム教徒の間における,思想の戦争は,尊厳と未来への希望をもった中産階級が登場することで,近代化勢力の勝利となる.経済的な機会に満ち,基本的な法の支配,言論や出版の自由を保証されることで,若者たちは世界を爆破したいと望まなくなる.そのとき彼らは,この世界の一部になりたい,と想うだろう.


Jan. 25 (Bloomberg)

Whose Fault Is the Decline in the Dollar?

David DeRosa

FT January 29 2004

The dollar needs benign neglect

By Samuel Brittan

Jan. 29 (Bloomberg)

Malaysia Won't End Mahathir's Ringgit Peg, Soon

Andy Mukherjee

FT January 27 2004

IMF must stand up to blackmail

By Martin Wolf

(コメント) 財務省のワタナベ氏は,アメリカがドル売り・円買い介入に協力する,などという,ブタが空飛ぶ夢の実現を求めるより,為替レートは市場の需給で決まる,という原則を認めたらどうか? とDeRosaは考えます.誰がドル安の真犯人か? 誰がドルの下落を止めるべきか? そんな議論は聞き飽きた.アメリカの財政赤字が悪い,と1980年代には繰り返したが,今や途方も無い赤字にあえぐ日本の円高をどうするのか? クリントン政権のルービンは協調介入に理解を示したが,ブッシュ政権のジョン・スノーは相手にしないだろう,と.

Brittanの論説は,為替市場に政府が介入することの誤りを,現在の共通理解として示します.為替レートが乱高下することは望ましくない,と誰もが知っています.しかし,それがどのような水準で安定するべきか,は誰にも分からないのです.グリーンスパンも,「私が知る限り,為替レートの変化を予測する点で,コインを投げて決めるより,優れたモデルは存在しない」と言います.

アメリカの経常収支赤字がGDP比で5.5%に達するのは大きすぎる,と考える者は,為替レートと経常収支を結びつける大昔の理論を今ごろ信用するのか? たとえ,ドル安を非難する政治的圧力が勝って,ドル安阻止を合意したとして,その次に何をするのか? 政府や中央銀行の間の合意で為替レートを管理する試みは,1987年2月のルーブル合意以来,存在しません.

その当時,イギリスの蔵相であったローソン卿は,ルーブル・システムの欠陥を指摘しています.すなわち,介入が市場によって追随されるのは,金融政策を変更した場合です.もしドル安を止めたいなら,介入するだけでなく,ECBは金利を下げ,FRBは金利を上げなければなりません.こうした合意はルーブル合意にも含まれなかったのです.1987年にできなかったことは,今なら,一層,難しいでしょう.特に,大統領選挙前に,アメリカが為替レート安定化のために金利を上げるとは考えられません.

ルーブル合意は,結局,アメリカに追随したドイツの金利引上げで破綻し,高まった市場の不安は10月のウォール街におけるブラック・マンデーをもたらした,と批判されています.その後も固定レート制は崩壊を繰り返し,市場は為替レートの管理に強い不信感を持っています.それゆえ欧米が唯一合意できるのは,アジアが為替レートを固定している姿勢を改めるべきだ,という点です.しかし,これでさえ,中国政府に人民元を引き上げるよう,圧力を加えるのは正しくないでしょう.もし中国がその忠告を実行して外貨準備を売却すれば,アメリカの金利が暴騰します.

Brittanの議論は,経済学で広く支持されている説明です.しかし,彼が見ているのは,主に,自由な資本市場の正常な機能です.それで常に上手くいく,とは思っていないでしょう.すなわち,通貨危機に対処する問題は,今も,個々に模索されています.

1998年に1ドル=3.8リンギに固定されたマレーシアの通貨をどうするべきか?  Mukherjeeは多様な意見を示します.輸入物価,輸出の変化,中国?

また,アルゼンチンの債務不履行をどうするべきか? その債務があまりに大きすぎるために,IMFはアルゼンチンへの融資を維持し,返済条件について,アルゼンチン政府から強硬な姿勢で譲歩を求められています.Wolfは,すでに1994年から2000年にかけて,アルゼンチンのドル建債券は7%も高かったから,投資家・民間銀行は債務不履行を受け入れるべきだし,IMFはそれを回避させるために融資を繰り返したことで,その主要な株主である先進諸国も損失を被るべきだ,と言います.


NYT January 26, 2004

Iraq's Undemocratic Transition

(コメント) アメリカが,イラクの聖職者に直接民主主義による代表の選出を求められて,適当な答えに窮するとは,誰も予想しなかった事態です.しかし,シーア派が求めるような選挙結果を保証することもできませんし,かといって,選挙実施や主権の移譲を延期して,アメリカが指名した統治評議会の正当性が高まるとは思えません.国連のアナン事務総長とシスタニ氏が,民主主義的な政府への移行に向けた手続きで合意することで,政権移譲のプロセスを国民に支持してもらうしかないでしょう.たとえば,アメリカ大統領選挙のように.


IHT Monday, January 26, 2004

First the jobs, now execs are heading for India

Siddharth Srivastava

NYT January 26, 2004

Education Is No Protection

By BOB HERBERT

FT January 27 2004

India's plan to beat the offshoring backlash

By Edward Luce and Khozem Merchant


Jan. 27 (Bloomberg)

Is China an Investment Goldmine, or Minefield?

Andy Mukherjee

ST JAN 28, 2004 WED

A sizzling economy dogged by worries of overheating

By JOHN WONG

(コメント) 中国投資は,金脈か,それとも地雷原か? ダヴォスでも多くの話題が中国に関わっています.そして,投資家の多くは中国の成長を楽観しています.もちろん,慎重な意見もあります.中国経済は過熱しており,過剰投資と吸収しきれない生産力が蓄積されている.あるいは,インフレを再燃させないためには,金利が引き上げられるだろう,と.

さまざまな警鐘が鳴り始めています.しかし,それらは間違っているのか? もしインフレの心配が無いのであれば,金利など引き上げずに,このまま拡大を続ければよい? なぜ貨幣が大幅に追加供給されているのに,物価は上がらないのか? それは消費ではなく,投資を刺激しているからです.

それゆえ,過剰遺産と価格競争の過熱,物価の下落が問題なのです.それでも投資財の中には,価格が上昇するものもあります.このままでは企業が倒産し,さらに銀行の不良債権が急増します.だから,投資を削るために,金利を引き上げようとしているのです.

JOHN WONGの論説は,中国経済の現状を簡潔に整理しています.


ST JAN 28, 2004 WED

Is America really an empire?

By JOSEPH S. NYE

(コメント) アメリカ帝国論を(その批判者も支持者も),NYEは彼の「三層構造のチェス」論で批判します.かつてのイギリス帝国に比べて,今のアメリカの優位や,実際の政治的支配は,はるかに限定されたものです.そしてNYEは,アメリカ政府自身が,軍事的な優位のみを重視する帝国論に動かされて,他の階層(経済と,超国家関係)で優位を損なうことを警告します.


WP Tuesday, January 27, 2004

The Jobless Recovery

WP Tuesday, January 27, 2004

Dangerous Deficits

WP Tuesday, January 27, 2004

A Cheap Dollar Boom

By David Ignatius

(コメント) 「ジョブレス・レカバリー」を批判する民主党候補に対して,NYTは反論します.@現在の失業は,循環的ではなく,ほとんど構造的である.すなわち,技術変化や貿易パターンによる.Aそれゆえ,失業は良い面を伴っている.単に失業を減らしたいからと言って,技術革新を妨げたり,生産性上昇を非難したり,雇用流出を阻止し,保護主義に流されることが,正しい政策ではない.Bアメリカが安価な輸入品の利用や雇用の海外移転を容認することで,損失以上の利益をもたらしている.より大きな購買力と利潤,より低いインフレ率と金利,より高い生産性と高賃金.それらを拒みたいのか?

他方,ブッシュ氏が財政赤字の拡大について強く非難されるべきですが,民主党候補たちも,財政再建を目指してはいません.この10年間で2兆4000億ドルと推定される赤字は,金利を引き上げ,民間投資を削って,将来の成長を奪うだろう,と警告されています.

ドル安政策は成功しているでしょうか? アメリカへの投資は今も続いています.他方で,ダヴォスの指導者たちは中国の重要性を公認しました.50年後に,アメリカ・ドルは世界的な準備通貨であり続けていますか? という質問に,中国の投資家は,もちろん,そうではないだろう,と言います.世界の準備は中国の通貨になっている,と.

ヨーロッパについては悲観論が支配的で,日本は話題にもなりません.

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The Economist, January 17th 2004

Sub-Saharan Africa: Making it smile

How to make Africa smile: A survey of sub-Saharan Africa

(コメント) アフリカが貧しいのは,資源が無いのでも,気候が適さないのでも,ビジネス・チャンスを求める若者が居ないからでもなく,政治指導者たちが貪欲で,愚かだったからだ,とThe Economistは考えます.たとえば,南アフリカの隣国,ジンバブエのように.ムガベのような独裁者が,法を書き換え,略奪を奨励し,飢餓や難民を外国のせいにします.

アフリカにおいて,政府は富への近道でした.部族支配と,人工的な国境線,政府による利権分割を前提すれば,抑圧された,貧しく,職のない若者を煽動して,新しい政治指導者が政権を奪うために殺し合いを奨励することが,独立後も続きました.エイズはアフリカをさらに貧しく,不安定にしています.

彼らは政府を必要とし,指導者を必要としています.アフリカに希望をもたらす新しい政府は,財政を健全に維持し,インフレを抑え,戦争をしません.多くの国が汚職と内戦の泥沼に苦しむ中で,ナイジェリアと南アフリカは,そのような希望となるかもしれません.しかし,独裁を廃し,隣国との軍事衝突を治めた両国も,その基盤はあまりにも,石油と,白人の納税者に依存しています.もしアフリカ全体が繁栄するためには,すべての市民が平和を享受し,より多くの生産を行い,世界が求める製品とサービスを供給しなければなりません.

豊かな国からの支援が必要でしょう.しかし,何よりもアフリカの政治指導者たちが目覚めることです.独裁者たちは,決して,不死身ではないのです.汎アフリカ主義が,新しい指導者たちの登場を刺激するかもしれません.

The Economistがその条件として強調するのは,@法の支配,A所有権,B平和,Cエイズ撲滅,D民間ビジネスの奨励と育成,E成功例としての南アフリカ,です.

人種隔離政策を撤廃し,黒人への権力委譲を平和的に行うことを決めた南アフリカが,公共工事と成長を維持して国民の生活水準を高め,アフリカ最大の福祉国家を築いたことは,アフリカに希望を与えます.新しい貧富の格差や,賃金の上昇,黒人への雇用や資産の移譲を今後も円滑に行えるか,など,課題は多くあります.しかし,南アフリカには民主的な文化と,改革を支持する中産階級が形成されています.ANC以外の有力な政党が育ち,黒人の企業化が活躍するなら,それがアフリカ大陸の全土に波及するモデルとなるでしょう.


Migration in the European Union: The coming hordes

(コメント) EUの拡大に伴って,中欧からの貧しい移民が押し寄せるのではないか,と心配されています.悲観論者や労働組合,国境を接する諸政府,特にドイツとオーストリアが,移動の自由を制限するべきだ,と主張します.現在のEU平均の数分の一(23%)しかない新加盟国の生活水準や,失業率の高さを見れば,移民しない方が不思議な気さえします.他方で,イギリスやアイルランドは労働市場を開放する,と公言しており,安価な熟練労働者を歓迎しています.

経済モデルに拠れば,誇張された移民の急増を心配する必要は無い,と言います.加盟後の25年間で,300万から400万人,EU人口の1%程度が移動するだけです.ただし,最初の数年に,半数以上がドイツへ向かうでしょう.しかし,もっと多くの移民を予測する意見では,東西統一後のドイツが,移住を抑制する巨額の財政支援を東に行ったにもかかわらず,7%以上も移住したことを指摘します.

1986年にスペインとポルトガルが加盟したとき,両国は好景気によって,むしろ移民を受け入れました.ただし,彼らの所得水準は,今の中欧諸国に比べて,はるかにEU平均に近いもの(約3分の2)でした.一時的な制限や排除は,問題の解決につながりません.たとえ少数であっても,移民がもたらす社会問題は政治化し,各国政府の頭痛のためになります.東中欧の所得水準が改善されるには,何十年もかかるでしょう.

The Economistは,移民を悲観しません.今後30年にわたって,EUは大規模な移民と一緒に生きるしかありません.政府にはそれを最大限生かす工夫が必要です.一方では,移民を排出しなくても,むしろ製造業が移転するように,彼らの町のインフラに投資するべきでしょう.道路や電気が整備され,地域支援の予算も配分されるでしょう.デンマークのように,短期の雇用と還流を促し,また労働市場の規制を取り除いて,合法的に,安価な労働力を利用するべきだ,と主張します.