IPEの果樹園2004

今週のReview

1/26-1/31

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言うまでもなく,アメリカで大統領選挙が始まると,それは世界の政治的な意思決定に影響します.世界の政治的な言説に,アメリカの未来からの衝撃が,一定の歪みが生じるからです.その伝達装置は,戦争,景気・貿易・為替レート,資本市場,などでしょう.あるいは,ウィルスから異邦人,そして火星人の侵略もあるでしょう? 現実であれ,幻想であれ.

アメリカが世界の政治システムを震撼させていることを想えば,そのずっと先には,世界政治システムとしての「アメリカ」が現れます.ブッシュ氏が新しく議論に登場させた,テロの撲滅,大量破壊兵器,人身売買,ゲスト・ワーカー制度,指紋照合,火星探査,・・・ は,何かに似ていませんか.

国民国家が歴史的に形成されたときも,戦争の脅威や外からの侵略をめぐる過剰な国家意識,政治的煽動,排外主義のイデオロギーが,鉄道建設,学校教育の普及,労働者の移動などを背景として,ナショナリズムの豊富な歴史的源泉を刺激したのではないでしょうか? 世界からテロを根絶し,大量破壊兵器を管理したい.また,人身売買を廃止し,世界的な規模でゲスト・ワーカー制度を導入するし,治安のためには写真撮影・指紋採取・ID管理を徹底する.火星にまでコロニーを建設しよう,という未来の政治システムとしての「アメリカ」とは何でしょうか?

中国のSRASが広まる中で,The Economistの表紙は,毛沢東に大きなマスクを被せて,その社会・政治体制を批判しました.その後,中国の新指導部は,SARSへの積極的な対応によって国際的評価を得たようです.あるいは,イラクの地震が深刻な被害をもたらした際に,アメリカを含む国際社会が支援の手を差し伸べたことに,The Economistは改革の成果を発見します.では,BSEの検査を拒むことで,アメリカ社会の何が分かるのでしょうか?

鶏インフルエンザは,アジア通貨危機以来の深刻な影響を,その国際的な「感染」によって引き起こしています.タクシン首相の経済思想も,今は,鶏を処分する軍隊の活躍にかかっています.イラクの選挙要求とハワード・ディーン旋風は,ともにブッシュ氏の選挙予定を狂わせます.もしブッシュ氏が望む民主的世界にも,イランの革命評議会に似た組織があれば,インフルエンザに罹った鶏を処分するように反対派を処分したでしょう.

小泉首相は,北朝鮮の核兵器開発や拉致家族の問題とイラクへの自衛隊派遣を結び付けて考えているでしょう.なぜなら,どちらもアメリカが重要だからです.日米安全保障条約は,沖縄の軍事基地を認め,駐留経費を分担するだけでなく,石油の輸送やアメリカ軍への支援,アジアから中東地域の国家再建に分担して取り組むまでに,深化しています.それは,ブッシュではなく,アメリカでもなく,理想としての国際社会であって欲しい,と彼自身が強く願っているのではないでしょうか?

貿易自由化交渉が頓挫し,ブッシュ氏は移民合法化案に論争の焦点を向けました.もちろん,自由貿易ではなく,アメリカで既に働いている移民を合法化する方が,ブッシュ氏の支持者に説明しやすいでしょう.すくなくとも,合法化する基準や人数を,彼は有権者の気に入る形で示せるはずです.しかし,カンボジアやアフリカでは苦汗工場が廃棄され,あふれ出た失業者や少年・少女たちは,ごみ山へ登り,臓器を売り,SEXのための養子として売買され,窃盗もしくは売春で生き延びて,いつか火星に入植できる日を待つわけです.

天文学や,さまざまな新産業を生み出すハイテクの次くらいに,経済学も新しい政治システムで重要な地位を占めるでしょう.世界は,単一の政治システムに統合されず,むしろ多層化して,一部は世界的な富の統合システムに属する人々からなる部族と,それから排除されて,各地に分割された支配=保障システムに従う諸部族,そして日々の糧を求めて生存競争を繰り広げる流民に分かれるのではないでしょうか?

彼らとともに,私も仮想の投票箱に,一票を入れます.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


ST JAN 15, 2004 THU

Sweatshops? Millions want to work in them

NICHOLAS KRISTOF

(コメント) カンボジアのプノンペンで,ゴミ捨て場の山を歩き回って,売れるごみを集める少年や少女たちが居ます.彼らはいわゆる「苦汗工場」で働くことが夢だ,と言います.17歳のNhep Chanda は,悪臭と煙を吐くごみ山で歩き回る,典型的な娘です.ごみ漁りをする者には蛆虫や害虫がたかり,手足は汚物にまみれ,はだしの者もいてガラスの破片で怪我をします.本当に幼い子供も居ます.

彼らの収入は,ごみの中を一日歩き回っても75セントほどです.週に6日だけ,日差しを避けた屋内で,一日2ドルももらえる衣類の苦汗工場に雇われることが,彼らには夢のように思えます.しかし,身元が証明できないとか,年齢が足りない,と言われます.第三世界の工場は汚水を河川に垂れ流し,環境を破壊しています.しかし,そうやってシンガポールも韓国も中国も,生活水準を向上させてきたのです.カンボジアでも同じことです.KRISTOFは,民主党の大統領候補たちに,この少女の姿を見せてやりたい,と思います.

カンボジアでは,工場に雇われるために,概ね1ヶ月分の給料を賄賂として提供する,と言われます.建設労働者たちも,工場で働きたい,と考えます.その方が労働条件は良いからです.アジアでは,工場が多くの女性を雇用し,社会的な平等化にも貢献しています.もし工場が雇用しなければ,彼らは家庭内で抑圧され,あるいは売春しか生きる術が無かったでしょう.では,なぜ民主党の大統領候補たちは,こうした苦汗工場が嫌いなのか?

もしアメリカが,国際的な労働基準を満たさない諸国からの輸入を禁止すれば,カンボジアの苦汗工場は閉鎖されて,雇用はマレーシアやメキシコに移るでしょう.貧しいアフリカやアジアの諸国には,今でさえ工場が少ししかありません.それを増やすのではなく,減らすことが正しいのでしょうか?

フランクリン・ルーズベルトやビル・クリントンと違って,今の民主党大統領候補たちは自由貿易に反対です.労働基準を理由に,彼らは保護主義を支持します.それは消費者の利益を損なうだけでなく,何よりも貧しい諸国の労働者から機会を奪うのです.貧しい彼らにとっては,苦汗工場が問題なのではなく,十分に搾取されないことが問題だ,とジョーン・ロビンソンの苦言を想起させます.

バグワッティもクルーグマンも,この問題については「労働基準」や「環境基準」,「公正貿易」などを貿易政策に持ち込むことに反対します.基準や規制,あるいは富裕化に伴う社会的な価値観が,比較優位に繁栄される形でコストに反映されれば,自由貿易の原則をゆがめる理由にはならないわけです.しかし,国際規制の強化や,労働者の国際的な基準改善・組織化の支援が間違っている,と主張しているのではありません.他のすべての目標を犠牲にして,成長を高めるだけで良い,という国や時代もあったでしょう.しかしだからと言って,ごみ山の少年や少女が苦汗工場に吸収されることを,もっとも幸せな選択と言えるわけではありません.


WP Wednesday, January 14, 2004

Good for Investors, Bad for the Rest

By Harold Meyerson

(コメント) ブッシュ政権の減税政策に対する批判です.それは資本を所得の源泉にする人々を優遇し,労働を所得の源泉にする人々を二流の市民(下層市民)にしました.ブッシュの一族は,基本的に自分たちのコネだけで裕福に生きてきた,超クローニズムの人々だ,と.もちろん,その政策を正当化する理論もあります.投資を促すことこそ,成長を刺激する最良の政策だ,というわけです.減税ではなく,投資に対するすべての障害を取り除くことがブッシュ氏の基本方針である,と.

素晴らしい! しかし,こうした投資優遇政策による成長が意味する社会とは,ブルックリンである,と批判します.企業は儲かっているが,景気回復は雇用をもたらしていません.雇用の回復が大きく遅れていることは,株式や投資信託に集まった資本がアメリカの雇用ではなく,バンガロールなどへの雇用流出を促しているからではないか,と考えます.アウトソーシングが進む中で,アメリカの減税は中国やインドの雇用に補助金をやったことになるわけです.それゆえ,国内では雇用が生じないまま,むしろ賃金を低下させます.

民主党の大統領候補たちは,こぞってブッシュの減税を逆転させます.投資や企業に課税し,雇用に減税します.しかし,それだけでは世界化した経済における雇用創出を導けないでしょう.公共事業によって雇用を創出することは,ブッシュ氏の新アポロ計画よりはまともですが.


WP Wednesday, January 14, 2004

The Specter of Outsourcing

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカに現れた「アウトソーシング」という妖怪について,Samuelsonは考えます.その結論は,@重要ではない.A貿易理論の例外ではない.Bアウトソーシングではなく,アジアの黒字累積こそが問題だ,です.

まず,情報通信のスピードやコストが急激に進歩して,しかもアメリカとインドにはなはだしい(10倍にも及ぶ)賃金格差があることを思えば,単純な情報処理やバック・オフィスの仕事が海外のアウトソーシングに代わるのは当然です.しかし,それが深刻な問題になるか,と言えば,そうではない,とSamuelsonは答えます.なぜなら,すでに製造業が雇用をもたらさないように,今や雇用をもたらしている企業の情報化は急速に進んでおり,アウトソーシングの影響を受けたのは,全体のわずか2%程度であろう,と考えるからです.

そのことの意味は,国内の雇用を決めるのは,アウトソーシングではなく,やはり国内景気であるし,アウトソーシングがもたらした雇用や購買力を思えば,それが失業増を説明するとは考えられない,というわけです.海外の安い労働力はアメリカの同部門における労働者にとって脅威ではあるが,アメリカ経済にとっての脅威ではない,と.輸入の増加は失業をもたらしますが,消費者も企業も利益を受けます.すなわち,もし国内経済がダイナミックに成長し,新しい雇用を生み続けるなら,アウトソーシングによる失業は容易に吸収できる程度なわけです.また,アウトソーシングが海外にもたらした雇用や所得も,アメリカの製品が国際競争力を持つなら,その市場を拡大することを意味するでしょう.

では何が問題なのか? それはアジアの黒字累積です.自由貿易論に逆らって,アジアは世界中に輸出しながら輸入を拒み続けています.あまりに多くの国がこうした行動を取れば,それこそグローバリゼーションの反対運動に火を付けるでしょう.

ただし,私の考えでは,アジア諸国が黒字を貯め込むのは,国際通貨危機の反省でもあります.アジア諸国は自由貿易の重要性を知っており,通貨危機の恐怖も知っており,自国の成長や雇用を輸出によって加速できることを知っています.彼らはアメリカの通貨や政府を信仰しているわけではなく,中国市場がいつまでも拡大するとも思ってもいないでしょう.そうした不確実さは,地域市場統合の不十分な模索とともに,ドル準備の蓄積を政府に優先させるのです.アジアの労働者が貯蓄し,それをアメリカ市場が運用し,投資する,というのは,自由貿易の原理に反するでしょうか? 私はそう思いません.しかし,好ましいとも思いません.


FT January 15 2004

Inflation targets lose their glamour

Samuel Brittan

(コメント) インフレ・ターゲット論の見直しが始まっています.日本においてはどうか知りませんが,確かに,以前ほど強硬にインフレ・ターゲットの明示や日銀総裁の交代を求める声は聞かれません.

Brittan が指摘したのは,ECB総裁にインフレ・ターゲット一辺倒の政策を止めるように求めたPaul De Grauweや,支出額と生産額を,わざわざインフレ率と実質タームに分けて推定しなくても,容易に,有益な考察を得られることを指摘したイングランド銀行総裁Mervyn King,イギリスの統計をEUの統計に換算して,消費者物価指数が低下することにより,イングランド銀行の金利引上げを牽制したイギリス蔵相Gordon Brown です.

なぜインフレ・ターゲット論はあれほど盛んに主張されたのでしょうか? まず,インフレ率が低下する局面を上手く支持(制御)できたからです.高いインフレ率を下げて行くことに,インフレ・ターゲットの有用性があり,逆に,インフレ率が下がってしまえば,低いインフレ率において何をするべきか,インフレ率を低く維持するために何もしなくて良いのか,という疑問が生じました.また,インフレ・ターゲット論は,巨額の財政赤字を秩序正しく市場で消化させながら,しかも政府とは独立の立場を明確にする点で,すなわち,1990年代に非常に重要でした.

他方,この理論は,インフレ率が好ましい水準であれば,景気の悪化や為替レートの変動,バブルの発生を放任するような中央銀行の立場に,もっともらしい逃げ口上を与えてしまいました.現実には,インフレ率が低下して安定してから,中央銀行と政府が協力して,さまざまな政策課題に取り組むべきであったでしょう.

Brittanは,インフレ・ターゲット論がその正統性確立に費やした労力を無駄にしたくないと考え,それを長期的な目標と組み合わせて利用するよう求めます.すなわち,長期的にインフレ率を安定させるためには,経済改革を進める必要があるからです.また,インフレ率や金利が下がったことでバブルが発生するのを予防するには,中央銀行総裁の判断に頼るしかありませんが.


NYT January 15, 2004

Life (and Death) on Mars

By PAUL DAVIES

WP Friday, January 16, 2004

. . . But First, an Earthly Idea

By E. J. Dionne Jr.

FT January 17 2004

Space races

(コメント) 火星人が地球の政治に参加したことを,地球人は歓迎しています.今はまだ,地球人がもてあそぶ政治的なアイデアに過ぎないでしょうから.しかし,もちろん火星探査には,科学者やSF作家を喜ばせる刺激的な要素が一杯です.

なぜ火星を目指すのか? なぜなら,それが人類の使命であり,アメリカがそれを指導する宿命なのだ,とブッシュ大統領の父親は,大統領として1989年に述べました.それはベルリンの壁が崩壊し,日本のバブルも崩壊した,新しい世界秩序の序章となる(はずの)年でした.

ブッシュ大統領がその父親と違う点は,火星旅行の費用を自分で支払わないことです.彼は費用を無視して減税し続け,再選を狙います.彼の父親は,自分でその代償を支払いました.ブッシュ氏は,都市で喘息に苦しむ子供たちが増えていることを知っているでしょうか? 彼の父親がかつて述べたように,使命とは,機会の問題ではなく,選択の問題です.もし喘息の子供たちに快適な都市環境や病室を用意してやれるとしたら,そのくだらない火星計画を捨てても良いのではないか? とDionne Jr.は考えます.

FTは,日常の問題や悪化する公共サービスを議論するよりも,ローマの支配者たちが群集にサーカスを提供したように,政治家たちは大きな計画を建てたがる,と警告します.ブッシュ氏は,その費用やリスクを無視してでも,火星は有用であることを示さねばなりません.中国やインドの宇宙計画に対抗して優位性を示すには,火星でなければならないとか,最高裁の目を欺くには,グァンタナモ基地ではなく,タリバンの捕虜を火星に幽閉しなければならないとか・・・?

いっそ,火星を恒久的なオリンピック会場として開発したい,と説明すべきでしょう.すでに2012年の会場誘致に名乗りを上げた9都市が,オリンピック精神とはかけ離れた醜い争いを始めています.そのような争いを止めて,美しい砂浜と少ない重力,そして雲ひとつ無い空の火星を選択すればよい.


LAT January 15, 2004

Migrants Need a Way to Go Home

By Douglas S. Massey

多くの人が,ブッシュ大統領の示した密入国移民(未登録undocumented immigrants:正式な入国記録が無い)に一時雇用ビザを与える提案は「法を破った者」に褒章を与えると心配し,さらに多くの移入民が町を埋め尽くし,アメリカの納税者に負担を強いる,と恐れている.こうした問題の答えは,歴史をふり返れば分かる.

メキシコ人は今や未登録移民の3分の2以上を占めている.大恐慌の時の短い中断を除いて,20世紀の初めからメキシコ人は継続的にアメリカに移民していた.第一次世界大戦前には,民間の移民雇用業者もいたが,アメリカも参戦してから,政府がメキシコ人労働者を雇用する計画を実施した.1920年に議会が南東欧からの移民を規制すると,メキシコからの移民が急増した.

初期のメキシコ人移民流入が途絶えたのは,1930年代に大量失業の時代があって,大規模に移民送還が行われたからだ.ところが第二次世界大戦に参戦すると,移民雇用が再開され,1960年代まで増加した.その頃には何百万もの移民たちが,自分で移民できるような知識と社会的なつながりを得ていた.1965年から1985年までに,アメリカに来た密入国移民は両国経済の変動とともに増減し,緩やかに,しかし着実に増加した.

警鐘を鳴らす人々がどのように言おうとも,国境が「管理不能」になったことはない.多くのメキシコ人は自国における経済的問題を解決するために移民し,帰国するつもりだった.彼らは20年にわたって数百万ドルを送金し,家を建て,仕事を始め,消費を支えた.アメリカに来たメキシコ系移民の85%が,結局は,自国に戻ったのだ.

しかし,1986年からアメリカの対メキシコ政策は分裂病に陥った.アメリカ政府は,一方で,北米を市場統合し,商品や資本,情報,サービスの自由な移動を目指した.ところが他方で,アメリカは労働者の移動を妨げるために,より多くの時間と金をかけるようにもなった.

われわれは,一つを除いて市場の統合を求めたのだ.すなわち,労働だけは求めなかった.1986年から2002年にかけて,アメリカの国境警備は2000人から1万2000人に増員され,その予算は2億ドルから13億ドルになった.

不幸にして,国境管理の強化は密入国を減らさなかった.しかしながら,それは彼らが帰国する機会を劇的に損なった.その結果,前例の無い規模にまで,アメリカ国内に密入国(もしくは未登録)人口が増加したのだ.同じ数の入国者が居ながら,彼らは国境を越えるコストと危険により,帰国しなくなった.むしろ彼らの滞在期間は長期化し,家族を呼び寄せた.さらに国境が軍事的に管理されたことで,循環的な移動労働者も従属的な定住人口に追加された.

それこそが合法化プログラムを必要とする事情である.移民たちは既にアメリカに住んでいる.彼らは望むよりも長く滞在し,その法的な地位と数がアメリカに深刻なコストをもたらしている.

未登録移民に一時的雇用ビザを交付することで,彼らは合法的に帰国し,アメリカの負担を減らすだけでなく,メキシコの発展に貢献する.恐怖や疑いが彼らを躊躇させているから,この計画はもっと包括的な密入国者の合法化や長期の計画を伴う必要がある.圧倒的に多くのメキシコ人は帰国を望んでいるが,アメリカとの関係を強め,永住化する道も望んでいる.すでに18年もアムネスティーを与えていないので,密入国による居住者は800万人に達するだろう.

メキシコ移民の受け入れ枠を拡大する必要もある.2万人の永住ビザ枠というのは,アメリカと条約で結ばれた1億500万人の国境を接する国に対して,ばかばかしいほど小さい.一時雇用労働者も合法的な出入国を繰り返しながら,ポイントを貯めて永住権をえるような制度が必要だ.

こうした改革を経ることで,アメリカに定住する移民は減少するだろう.そして移民によるコストも抑制され,メキシコの経済成長も加速する.それに比べて,われわれが示す今の制度は最悪の状態である.大規模な移入民,彼らが国内に滞留するコスト,国境の北(アメリカ)で悪化する移民たちの暮らし.これと違う世界に挑むことで,失うものなど無いはずだ.


NYT January 15, 2004

Why Is That Dollar Bill in Your Pocket Worth Anything?

By HAL R. VARIAN

(コメント) 通貨の価値はどこから来るのか? という考察です.イラクでフセイン政権が,国連の経済制裁により,通貨を輸入できませんでした.そこで,フセインは新しい貨幣を印刷したわけです.しかし,クルド人の支配する北部では,旧紙幣が使用され続けました.

VARIANの考察は,貨幣の価値が,@政府による法的強制,A社会的な信用・習慣・受領性,あるいは,B貨幣自体の「使用価値」,によって説明できる,というものです.@とBは分かりやすいけれども(とVARIANは考えたのでしょう),Aを示す例がクルド人地区の旧貨幣だ,と言います.実際,イングランド銀行総裁もアメリカ経済学会の講演でそんな話をしたようです.

通貨の供給量が固定されていたことを,フセインの肖像画が入った新貨幣と旧貨幣の価値の違いを説明し,アメリカによる攻撃でバクダッド陥落が近づくにつれて,クルド人地区の旧貨幣がドルとの交換レートを増価させました.しかし,VARIANは考察しませんが,もし民主的に選出されたイラク政府が安定し,反米政権ではあるけれども,政治・経済改革を実行した場合,その通貨は増価するでしょうか? アメリカ経由で国際資本移動が行われている限り,反米政権の通貨価値は,一般に下がるような気がします.これは4番目の理由でしょうか.


FT January 16 2004

A dash for yield

投資家にとって,新興市場への投資は止めらない.それは,飲酒の習慣と同じだ.たとえ二日酔いで苦しんでも,やっぱり飲みに行く.

一方では,固定為替レートを維持するような制度や政策は破棄されている.資本市場もいくらかは整備された.世界の景気が好調であれば,新興市場が輸出や価格上昇を介して優れた収益を実現することは間違いない.しかし,他方で,新興市場への投資が利回りだけに惹きつけられたブームとなっているのも確かだ.

アメリカが金利を引き上げず,世界の景気回復が続けば,新興市場には資本が流入し続けるだろう.しかし,この小さな市場は容易にバブルを生じ,次の崩壊を待っている.問題は,それがいつか,ということだけである.


BG, 1/16/2004

Martin Luther King's unfinished legacy

By Abigail Thernstrom

FT January 16 2004

Learn the American way

By Christopher Caldwell

(コメント) 前者は,ドイツが教育制度を見直して,大学に高額の授業料と学生向け融資を取り入れる話です.後者では,マーチン・ルーサー・キングの指導した社会改革によって黒人の地位が改善されたにもかかわらず,残された課題として教育水準を上げることが指摘されています.学校教育や高等教育の社会的役割は,もちろん,その社会の問題や軋轢を反映します.グローバリゼーションによって,学校も変化します.ただし,それは「アメリカ化」ではないと思います.


NYT January 16, 2004

Who Gets It?

By PAUL KRUGMAN

NYT January 16, 2004

Masters of Deception

By BOB HERBERT

(コメント) ポール・クルーグマンはブッシュ政権を批判し,民主党候補に対決姿勢を注文します.HERBERTは,アル・ゴア前副大統領が示したブッシュ政権の姿勢を紹介しています.

ブッシュ政権の思想や行動を,どう見るべきでしょうか? 彼はネオ・コンや市場原理主義を信奉し,情報を操作して国民をも欺き,テロとの戦争を掲げてイラク国民から始まって,やがては世界をオーウェル型の専制支配に従わせたいのでしょうか?

アメリカは激しく分裂し,ブッシュ氏は宥和や統合を求めていません.アメリカの知識人や反対政党に広がる,そんな深刻な危惧と絶望感は,私たちを不安にします.彼が再選されても,されなくても,次の政権が重要な意味を持つのでしょう.


FT January 17 2004

Waiting for Bush to speak unto us

FT January 18 2004

Thin ice risks curb hopes of Davos delegates

Guy de Jonquieres

(コメント) お金持ちや影響力のある人々,彼らに政策やアイデアを売り込みたい人々が移動する先は,ダヴォスで開催される来週の世界経済フォーラムです.ブッシュ氏は火曜日の一般教書演説を準備しています.

世界が,もしくはダヴォスから観る世界が望ましいと感じるのは,アメリカが人類による火星探査や殖民を唱えるよりも,世界の平和と安全,経済的繁栄に責任を持ち,明確な方針で成果を上げているときです.ブッシュ氏は成果を誇示しますが,その評価については,ブッシュ氏を支持する材料と反対する材料がともにあるでしょう.アメリカ経済やドルの崩壊を予想するカサンドラたちは,これまでも多くいましたが,間違っていました.しかし,もし今がそのときであれば,貿易自由化交渉は頓挫し,原油価格は上昇し始め,ヨーロッパの景気は低迷していることで,その舞台は整っています.

FTは,パウエル国務長官が唱えたように,アメリカ自身の啓蒙された自己利益(国益)が,世界に平和と繁栄をもたらすよう,願います.

他方,ダヴォスは民間の指導者たちが示す世界意識の温度計です.ヨーロッパのビジネス界は,ドル暴落と金利急騰,世界景気の急激な悪化をもっとも心配しています.他方,欧米の協調関係が修復されるかどうか,も関心を集めました.表面的には落ち着きを取り戻し,景気回復を期待するものの,創設者の一人,Klaus Schwabは,今年の会議の印象をこう表現しました.「人々は非常に薄い氷の上を歩いている感じだ.予期せぬ政治的・経済的な事件が,あっという間に,事態を混乱させかねない.」

アメリカの財政赤字に不安が募っています.国境警備についても,もし監視のレベルがこれ以上高まれば,世界経済の統合は深刻な影響を受ける,と警告されています.グローバリゼーションは,その反対派の抗議活動によってではなく,ビジネス界の内部から生じた不安で失速しつつあります.Jeffrey Gartenはそれを「グローバリゼーションのギアはニュートラルに入ったようだ」と述べています.

ダヴォスの人々が痛感することは,企業スキャンダルの続発が彼らへの不信感を醸成していることです.


NYT January 17, 2004

Girls for Sale

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT January 18, 2004

Bargaining for Freedom

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 19世紀のセピア色の奴隷貿易や売春街ではなく,現代でも世界の少女売買と国際的な売春組織は,年間70万人を密輸しているといわれます.彼女たちがかつてと違う点は,その多くが20歳代でエイズによって死ぬことです.

カンボジア北西部の町Poipetで,KRISTOFは客を装って少女たちと話します.この町には,麻薬,ギャング,賭博,売春が支配しています.Srey Neth を一晩買う値段は8ドルです.彼女が自由になれる値段は,150ドルです.また,もう一人の女性Srey Momは色が黒いため,一番2.50ドルで売られています.彼女は,債務を70ドル支払えば自由になれる,と言います.KRISTOFは取材し,その後,彼女たちを自由にして家族の元に返します.

その過程でKRISTOFの考えることは錯綜します.Srey Momは,質屋に出した携帯電話や宝石も返してほしい,と求めます.売春宿の女主人は彼女が二度とこの世界に戻らぬように忠告します.彼女をだまし,売春させ,エイズにも感染させた女主人と,少女は別れを惜しみます.彼女たちが村に帰ってどうなるのか,KRISTOFにも分かりません.

KRISTOFは先の論説で,カンボジアの苦汗工場を賞賛しました.そして労働基準や環境規制を唱える民主党の大統領候補たちに,貧しい者から雇用の機会を奪う,として強く批判しました.では,少女たちの売春宿はどうでしょうか?


Jan. 18 (Bloomberg)

Funding U.S. Twin Deficits Business as Usual

David DeRosa

(コメント) 日本の谷垣財務大臣は,アメリカの双子の赤字を心配しています.なぜなら,日本政府は今も輸出によって成長を支持し,そのためにはドルが安くなるのを何としても阻止するために,介入を続けています.しかし,他方で,日本政府は巨額の財政赤字と人口の高齢化に直面しています.

日本がドルを買い支えられるのは,日本人の貯蓄をアメリカに投資する限りにおいてです.ところが今後,日本は高齢化によって貯蓄を失い,財政赤字を返済しなければならないわけです.気が付いてみれば,円高を止めることはできなくなり,日本の輸出も成長も止まってしまうでしょう.他方,日本政府には,巨額の為替差損を抱えたドル債権だけが残るわけです.

財務大臣がアメリカの双子の赤字を心配するのは,そこに日本の将来を見るからです.


NYT January 18, 2004

War of Ideas, Part 4

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 新思考は,常に,危機を打開する最も重要な要因です.多くの人にとって,パレスチナとイスラエルの対立は異常です(insane正気ではない).集団的な狂気と自爆テロに翻弄されるパレスチナ人.ますます多くの入植地をパレスチナ人が集中する地域に建設しなければならない,と確信する狂信的なユダヤ人に支持されたイスラエル政府.両者が自己破滅的な悪循環に囚われ,しかもアメリカ政府はイスラエルの支援者としてイメージを悪化させ,アメリカ政府に少しでも好意的なアラブ穏健派が激しく攻撃されます.

イスラエルはヨルダン川西岸とガザ地区の占領地域から完全に撤退しなければなりません.そして,過激な入植者を切り捨て,国際的に認められた国境線を確認するべきである,とFRIEDMANは考えます.アメリカ政府はそのことを正しいと主張し,イスラエルに一方的にでも撤退するよう,強く要請しなければならない,と.なぜか?

1.   アラブ世界・イスラム教徒たちは,石油の富によってグローバリゼーション・近代化・自由化の圧力を回避できていた.しかし,石油は既に調整を避けるためには十分でなくなりつつある.アラブ世界でも,諸政府が不安定化し,キャッチ・アップを模索し始めた.

2.   イスラエルを取り巻く三つの不穏な潮流が見られる.@人口爆発.Aパレスチナ・イスラエル間の暴力的衝突がエスカレート.Bアル・ジャジーラTVやインターネットのような汎アラブ・メディアの興隆.そして,アラブの狂信的若者に広がる国境を越えた憎しみの対象.「ユダヤ,イスラエル,アメリカ」

もちろん,イスラエルが一方的に撤退しても,それでアラブ過激派が攻撃しなくなるわけではないでしょう.それでも撤退を勧めるべき理由とは,イスラエルが国際社会で道徳的な優位を確保し,ヒズボラがイスラエルを攻撃する正当性を奪えるからです.また,もしヒズボラがイスラエル本土を侵略すれば,イスラエルは正式に軍事的な攻撃を行うでしょう.しかも,人口変化によりパレスチナ人の優勢は確実であり,この地域をパレスチナ人に返還しなければ,ユダヤ人の二重国家やアパルトヘイトを選択しなければなりません.

何より重要なことは,アラブ世界に蔓延するイスラム過激派とその指導者たちから,政治的な指導力を奪えることです.このことによってアラブの指導者たちは政治を回復し,パレスチナ人も守るべき国家を持つのです.ブッシュ氏は,パレスチナ人の自爆テロを非難しながら,イスラエルの占領政策を黙認しています.ブッシュ氏は,わずか3週間でバクダッドを陥落させたと自慢しますが,イスラエル政府の撤退を3年も経つのに説得できません.こうした偽善的なアメリカの振る舞いが正せないなら,思想の戦いにおいても,アメリカがアラブ世界の支持を得られるはずは無い,というFRIEDMANの主張は,健全な(sane)思考へ向かう一歩だと思います.


WP Sunday, January 18, 2004

Electing Chaos

By Jennifer Bremer

FT January 19 2004

Time for US to bring in the UN

LAT January 20, 2004

Give Iraqis the Election They Want

Robert Scheer

WP Tuesday, January 20, 2004

An Absence of Legitimacy

By Fareed Zakaria

(コメント) イラク国民に民主的な直接選挙を保証すれば,直ちに安定した政権が誕生し,アメリカ軍は平和的な撤退が行える,というのは幻想に過ぎない,とBremer(同姓であるが,現在のイラク統治の責任者とは関係ない)は考えます.むしろ完全な無秩序と内戦状態に突入するかもしれません.いずれのシナリオにも問題があるのです.

人口の60%を占めるシーア派が勝利した場合,彼らは内紛によって政府を運営できないでしょう.フセインの遺産として,シーア派は政治的に抑圧されたため,統一された政治組織や代表が居ません.宗教的な指導者はモスクの中では優れていても,政治的な経験がありません.既にシーア派内部の対立が現れています.

スンニー派は,フセインの政治システムを担ってきたために,バース党のような政治組織をもっていますが,彼らが政府を担う場合,シーア派は選挙をボイコットし,内戦になるでしょう.その結果,クルド人が議会の多数を占めるかもしれません.しかし,クルド人が多数派の政府を,イラク国民の代表として受け入れることは無いでしょう.それゆえ,クルド人は自治権の拡大や油田の採掘権を求め,政治的な発言力を強めたクルド人組織に周辺のトルコやシリアは無関心でおれません.内戦どころか,地域紛争もおきるでしょう.

要するに,イラクが政治的な意思統一により,軍隊を再建できなければ,アメリカ軍は撤退できないのです.それまで,選挙を急ぐべきでもない,とBremerは考えます.

Scheerは,ブッシュ政権がイラク国民の直接選挙を拒む姿勢を批判します.逆に,何の権利があって,アメリカ軍はイラク人が選挙によって政府を決めることに反対するのか? ブッシュ氏は,大量破壊兵器が存在せず,アル・カイダとの関係も無かったフセイン政権を武力で倒した正当性を,もはや「中東世界を民主化する」ということでしか,正当化できないはずです.それとも選挙を拒んでイラクに居座り,石油が欲しくて戦争した,と非難され続けるのか?

国勢調査がなされていないことなど,重要な理由になりません.ブッシュ氏は,選挙で決まったイラク政府がアメリカ軍の撤退を求め,ハリバートン社などが独り占めした利権を取り返そうとするのではないか,と恐れているのでしょう.

しかし,事情のわからない外国を占領したり,再建することは,混乱と絶望に陥る作業であって,違った意味での「泥沼」となるでしょう.内外の反戦運動と,フランスとドイツの政府が警告してきたにもかかわらず,ペンタゴンは安易な占領計画を描きました.アメリカは方針を転換し,国連に助けを求めよ,とFTも主張します.

「それはまったく勝負にならない.」と,Zakariaも書きました.一方は,15万人の軍隊と200億ドルの資金でイラクを支配するアメリカ軍,他方は,軍隊も資金も無く,単に公衆に向かって演説する年老いた聖職者.しかし,Grand Ayatollah Ali Sistaniがアメリカの提案を拒めば,それは撤回されたのです.なぜか?

その理由こそ,正当性Legitimacy,です.どれほど軍隊で威嚇し,資金をばら撒いても,アメリカの占領には正当性が欠けています.Sistaniは,イラクで最も優れた聖職者として尊敬され,イラン・イラク戦争の間も,フセインやイラン政府によって言動を支配されませんでした.だからアメリカは,その復興計画をSistaniによって植民地化や傀儡政権とみなされることを恐れるのです.この事態に直面して,アメリカも国連や国際協調に正当性を求めたのです.

アメリカの提案する漸進的な政権移譲は,民主的な制度と経済を再建するためには必要だ,とZakariaは考えています.しかし,そのための長期的な占領を支持する正当性を示せません.アメリカは不十分な兵力しか準備せず,治安の維持に最初から失敗しました.しかも国連や国際協調の機会を無視し,正当性を確立することに失敗したのです.


NYT January 20, 2004

The Iowa Surprise

WP Tuesday, January 20, 2004

After Iowa

FT January 21 2004

Two big winners

(コメント) アイオワの民主党大会は,アメリカ政治の謎を深めました.アメリカって何だ? アメリカの民主主義は,どのように機能するのか? 民主主義は,定義ではなく,機能の問題です.


ST JAN 20, 2004 TUE

Rule of law must come before democracy

BY RALF DAHRENDORF

カール・ポッパーは民主主義を定義して,権力の地位にある者たちを,流血なしに,排除できる仕組み,と書いた.彼が好んだのは,言うまでも無く,投票である.

しかし,この定義は民主主義にさまざまな価値を付与する議論を退けるが,他方で,民主主義を否定するような者たちが,選挙によって権力を握る場合に問題を生じる.実際,ヨーロッパの各国で,人種差別主義者が当選している.中でも深刻なケースは,東欧の旧共産主義圏と,イラクだ.セルビアではヘイグの国際法廷で裁かれている被告たちが当選した.また,イラクで選挙した結果,もしイスラム原理主義者が当選したらどうするのか?

つまり,民主主義とは選挙だけではない,ということだ.たとえばJ.S.ミルは,合理性を民主主義の条件にしたし,市民たちの合理的選択を行う能力と欲求を前提していた.今,民主主義に必要な選挙に追加すべき条件とは何か? たとえば,民主主義を否定するような政党を,選挙から排除すべきか? しかし,もしたとえばイスラム原理主義者を排除するとしたら,投票される候補の資格とは何か? また,誰が資格を決めるのか? 組織を持った彼らを排除した場合,内戦状態にならないか?

ある意味では,彼らを選挙に参加させて,その結果として政府を組織するなら,それを許して,彼らが失敗するまで待つべきかも知れない.同じようなことを,1933年の1月に,ヒトラーが政権についたとき,多くの民主主義者は考えた.「彼にやらせればいいさ.すぐに,彼が何であるか,はっきりするから」と.それが12年を要し,残虐な戦争と,ホロコーストを意味するとも知らずに.

それゆえ,活動的な市民が自由な秩序を守ること,また,法の支配を確立すること,が民主主義の重要な条件である.独裁者が法を悪用することも考えられるが,選挙を悪用するよりも,その危険は少ない.だから,独裁者を追放した社会で,選挙に必要な条件とは,憲法の制定と法の支配を確立することである.民主主義は,その後だ.腐敗していない裁判官を持つ社会は幸せである.民主的に選ばれた政治家を持つ国も幸せだ.


FT January 20 2004

The Davos-Mumbai threat

By Martin Wolf

(コメント) Rajan and Zingalesの論説に従って,Wolfは金融市場の社会システムに及ぼす革新効果を賞賛します.それは日本やドイツが示したような制度の癒着,もたれあいを排除し,社会を分解し,競争させて,革新に挑ませる闘技場であり,抜群の強壮剤です.しかし,その目的は何か? 人間を喰わせて,怪獣を太らせることなのでしょうか? ダヴォスとムンバイの世界会議が,怪獣の首に縄をかける相談で一致して欲しいです.


FT January 21 2004

China's $29 test

(コメント) 中国製のDVDプレーヤーが,ニューヨークでは,わずか29ドルで買える.それは異常であり,中国にとっても危険なことです.デフレやバブルを懸念する中国政府によって,すでにこうした過剰投資は抑制され始めています.それに伴って,今までのような高成長は見られなくなり,消費財や内陸部の開発に関心が移るでしょう.実際,中国の一人当たりGDPは,初めて,1000ドルを越えたのです.


NYT January 18, 2004

State of the Union at Home

NYT January 18, 2004

State of the Union Abroad

(コメント) 「今回の一般教書演説は,いつものような公平さを装うことが不可能である」と,NYTは憤慨します.ブッシュ大統領の政策は国内を破局に導きながら,彼の演説はことごとく問題を避けて通った,と.クリントンは国民を励まし,多くの提案を示したが,ブッシュの話は無意味で,失望させた.

対外政策において,彼は自信満々であった.もちろんイラクについて.しかし,環境政策や国際協調の破壊は気にしない.イラクに軍事力を行使したことの成否も,まだ明確ではない.そして,イラク以外の脅威についても.

BG 1/21/2004

Bush's uneasy state

LAT January 21, 2004

Bush's Salvo From the Right

LAT January 21, 2004

State of the 'Vision Thing'

By Arthur M. Schlesinger Jr.

(コメント) 彼のメッセージは良く分かった.「いいか.俺がボスだ.俺は必要なことを恐れずにやる男だ.しっかり俺につかまっていることだ.」そして,事実を気にしない聴衆ほど,彼の演説に魅了される.再選に向けては,「思いやりのある保守主義」を再び称揚する.テロを圧倒する.税金を破壊する.伝統的な価値を保証する.それらは,再選のための必勝方程式でしかない.

「再生派キリスト教徒」であるブッシュ氏の示す世界改造計画は,国民の統合や世界の調和を目指すものではなく,彼が理解したと信じる神からの啓示です.その結果として,イラクに軍事侵攻し,ジェファーソン型民主主義を移植することに失敗すれば,イスラム原理主義のドミノ理論に新しい弁解を見出します.

9・11で世界の同情を集めたはずのアメリカが,世界中から嫌われるようになり,国連を混乱させた挙句,今度は火星に旅立つ人類を導こう,と言うのか? アメリカ国民は,彼のヴィジョンに苛まれる.

FT January 22 2004

Divisive Union

(コメント) たとえば,ブッシュ氏は最近の最高裁判決を非難した.同性愛者に結婚を認めるなんて,とんでもない! これで,再選のためにキリスト教原理主義の票を稼いだわけだ.国民を選挙のために支持派と反対派に分割する,なんと不毛な一般教書演説か?

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The Economist, January 10th 2004

China’s banks: Beyond bail-out

The other China: Parts that the bulldozers have not yet reached

(コメント) 銀行への450億ドルの救済資金は,4000億ドルの外貨準備から流用します.それは,当面,使い道の無い,低収益な資産でした.資金をつぎ込むだけでは,問題のある銀行を立ち直らせることはできません.すでに1998年以来,およそ2000億ドルが無意味に費やされてきました.銀行が政治家の指図を受けて融資を行い,返済されないまま旧債務を融資し直している限り,不良債権は増え続けます.その額は4200億ドル,中国のGDPの40%に達する,と推定されます.

新規の資本投入は,破産法など,法体系を整備することと平行して行われます.現在の法律では,腐敗した国有企業への融資を切り捨てることもできません.改革は,国有企業から排出される労働者の不満を恐れて,これまで進展しませんでした.しかし,いずれ決断を迫られる,とThe Economistは見ています.

中央銀行は監視を強め,銀行の末端を深く蝕む「文化」まで改革しなければならない,と言います.銀行においても独立した経営陣と会計を確立し,より適当な報酬とインセンティブによって機能させるべきだ,と.融資の審査は融資業務と切り離し,システムを集権化しなければなりません.こうしたシステムの改革には,外国の銀行に直接投資を認め,国内の銀行と競争させるべきだ,とThe Economistは考えます.それによって,中国の銀行家は多くを学べるからです.

中国東北部の工業地帯が衰退した様子も,The Economistは自由化によって乗り切るべきだ,と考えます.東北地方には資源があり,工業のためのインフラも優れていました.現在の貧困をもたらしたのは,中央計画経済の失敗です.時代遅れのインフラや生産設備,国営部門の膨大な工業労働者を,吸収できる民間部門は育っていません.


Japan: A shrinking giant

(コメント) 日本について,改革を促進する圧力はどこにも無い,という絶望感を払拭するために,The Economistは老人たちに注目しました.彼らは改革の障害と思われていますが,考えてみれば,それこそ政府に深刻な不安を,そして金融市場にはパニックをもたらす要因です.

すでにマラソン・レースの行く手には人口の衰退が見えています.昨年の新生児は112万人に減少し,この数年で年間死亡者数を下回るでしょう.減少する日本の人口は,財・サービスへの需要,財政,労働市場の構造に,深刻な影響を及ぼします.たとえば,多くの大学が定員を割るように,社会インフラや貯蓄の仕組みが機能しなくなります.

労働人口は,既に1995年以来,減少し続けています.当時の8700万人から,2030年に7000万人,2050年には5400万人まで減少するだろう,という推定もあります.65歳以上の人口は,全体の3分の1に達します.移民の流入によって問題を解消できるでしょうか? 生活水準を低下させないためだけにも,日本は今後10年間に500万人の労働者を輸入しなければならない,とモルガン・スタンレーのロバート・フェルドマンは考えます.あるいは女性や老人をもっと生産的に雇用することです.しかし,日本ではこうした改革が遅すぎるのです.

年金を削り,企業の負担を増やした「改革」も,成長が無ければ破綻します.後の世代は増税を繰り返すか,社会保障制度を解体するでしょう.そう国民に告げることで,改革派は加速できるのではないか? とThe Economistは考えます.