IPEの果樹園2004
今週のReview
1/19-1/24
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「不幸」ばかりをコレクションしているわけではありません.
リーズに滞在していた頃,TV番組でシエラレオネの惨状を観てから,私は子供兵士について講義で紹介しています.最近の朝日新聞朝刊(1月16日)にも,特集記事(カラシニコフ:銃・国家・ひとびと)があり,その一つに「11歳の少女兵」というシエラレオネの話が載りました.
「食糧や衣類が目当てで小さな村を襲う.」・・・子供兵士たちは「弾よけ代わり」に最前列に出される.・・・恐怖をやわらげるために,マリファナを入れた茶や,弾丸の火薬をなめさせる部隊もあった,と記事は述べています.
オリンピック開催が決まった北京や,不動産ブームの続く上海など,中国の不動産売買は,住民たちの直訴や自殺,デモなど,「土地戦争」とも呼ばれる深刻な事態を生じています.それは都市化や工業開発地区の建設にともない,行政が進めている現代の「土地囲い込み」です.耕地を失った「失地農民」の数は,全国で3400万人に達するだろう,と報告されています.
上海に住む無職の女性は,周辺の土地も含めて3万平方メートルが再開発区域に指定されたという理由で,自宅から立ち退くことを求められました.しかし,国営工場をリストラされ,自宅で雑貨店を開いたばかりであった彼女は代替地への転居を拒み,電気や水道を止められます.それでも立ち退かないと,夜に突然,市は約300人の警官で取り囲み,彼女ら家族4人を拘束しました.そして自宅は壊され,更地にしてしまった,というのです.
日本でも,バブルの時代に「地上げ屋」が跋扈し,非人道的な振る舞いで,サラ金の取立てより有名になりました.私が思い出すのは,もちろん,トマス・モアの『ユートピア』(1516年)です.
「飽くことを知らない貪欲,祖国を蝕む恐ろしい疫病でもあるような貪欲が,畑を合併して何千エーカーもある土地を一つの垣で囲い込むために,小作人は追い立てられるのです.彼らの幾人かは,詐欺のようなやり方で抑え込まれたり暴力で圧迫されたりして自分の所有物を奪われ,あるいは不法行為でくたびれさせられて売却を余儀なくされます.・・・男と女と夫と妻が,孤児と寡婦が,幼児を連れた親たちが,というのも農業には多くの人手が必要ですから,貧しいけれど頭数だけは多い家族を連れて出て行きます.」
モアはさらに書きます.土地を追われた農民たちは放浪し,家具を売り払ったわずかな金も尽きると,盗みをやって絞首刑にされるか,物乞いをして牢獄にぶち込まれる.彼らが自分たちの労働をいくら熱心に提供しても,誰もそれを用いようとはしない.種まきが行われないようなところに,彼らができるような仕事はないし,以前は収穫のために多くの人手を要した土地が,今は牧畜のために一人の羊飼いで足りる,と.(モアは大逆罪により,1535年7月6日に斬首刑に処せられました.)
もちろん,「幸せな」ニュースもあります.たとえば,同じ朝刊に,芥川賞の「若い」「女性の」受賞者たちが載っています.綿矢りさ氏も,金原ひとみ氏も,その元気な表情や,きらきらと輝くような好奇心?を見ると,一緒に嬉しくなりました.確かに面白い小説を読むと,ほかに何も要らないな,と思うことがあります.
私は,次の記事を読んだとき,大きな「不幸」であるものが「幸せ」なニュースに共通する輝きをもつ,と感じました.
西宮の建築家,中北さんの家の中庭には,壁に取りつけた,屋根に向けて登る階段が付いています.それは,阪神大震災で亡くなった娘さんが天国から降りるためのものです.自宅を補強しておけば,娘は死ななくて済んだかもしれない,と思いながら,氏は頑丈な木造の家を建てます.「もし手を抜いたら,天国で会ったとき,合わせる顔がない」という氏の心の中に,彼女は生き続けます.
サマワに派遣される自衛隊のニュースは,不幸なニュースでしょうか? 幸せなニュースでしょうか? アルジャジーラTVのアフメド・ムスタファ氏は,「中東の変革は米国の独占事業になりつつある」と批判し,米国流ではなく,日本は「人々の心と魂をつかむ」ように願っています.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
Jan. 8 (Bloomberg)
First, Brassieres. Now, Shrimp. Who Gains?
Andy Mukherjee
(コメント) 安価なエビの輸入を阻止しようと,アメリカの南部諸州(ルイジアナ,アラバマ,ジョージア,フロリダ,ミシシッピ,ノース&サウス・カロライナ,テキサス)が政府・にアジア4カ国を含む6カ国(タイ,ベトナム,中国,インド,ブラジル,エクアドル)を「ダンピング」で訴えました.不思議な南北戦争です.
もし南部諸州が求めるような57%から267%の関税が課されるとすれば,ベトナム経済への影響は甚大です.すでにGDPの10%を越える貿易赤字を抱えるベトナムは,ボーイング社の飛行機や他の工業製品を購入するために,コーヒーや衣類,エビなどを輸出しているからです.
アジアのエビが安いのは政府が補助金を与えているからだ,と南部諸州は主張します.しかもエビを養殖しているから,天然のエビを獲るアメリカの漁師には太刀打ちできない安さです.アメリカでも養殖すれば良い? と思いますが,彼らの主張によれば,それはできないのです.一つは,大規模な養殖は環境規制や社会的な価値観が許さないからです.また,天然のエビを捕獲することがアメリカ合衆国の「歴史・文化・経済」の統合された一部である,と主張します.それは,確かに,日本の農家がアメリカからの米や牛肉の輸入に感じていることでしょう.
忘れてならないのは,アメリカのエビ業者がすでに巨額の補助金を得ていることです.たとえば,ルイジアナには6000人のエビ漁師がいますが,2003年に870万ドルの補助金(議会が承認した,エビ価格の下落に対処するための3500万ドルの一部)を受けています.一人当たり1450ドルです.それは彼らの負債を解消するには程遠いですが,アジアの業者から見れば,競争を妨げる巨額の補助金です.1450ドルといえば,ベトナムやインドの平均所得の3倍以上なのです.
この補助金の一部が,アジア諸国を訴える訴訟費用の一部に充てられています.なんて素晴らしい!? アメリカの納税者たちは,もし成功すれば,自分が食べるエビ料理に追加の値段を支払うことになるような訴訟を支援しているわけです.これを「少数派の専制支配」と呼びます.3500万ドルの補助金も,アメリカ人全員で割れば,女性や子供も含めて,一人当たり12セントです.
しかしアジア諸国は,エビ輸出に生死を賭けています.同時に,アメリカの主張する「自由貿易」という理想も.
BG, 1/8/2004
Running away from free trade
By Jeff Jacoby
民主党の大統領候補たちの話を聞いていると,現代の最も成功した民主党政治家が自由貿易を主張し,NAFTAを実現したとは,思いもよらないだろう.しかし,1993年9月14日,クリントン大統領はNAFTAの調印式でこう語った.「この40年間のアメリカン・ドリームをわれわれの子供に引き継がせる唯一の道は」世界の経済を転換させてきた「世界競争の嵐」に順応することである.われわれ自身もこの変化を受け入れ,新しい雇用を生み出すか,それとも,変化を拒むことで,過去の経済構造を維持できると願い続けるのか? NAFTAをめぐる戦いはその選択であった,と.
調印式でゴア副大統領も宣言した.「イデオロギーを超える問題があります.両党に属する人々を統合するほど統一された見解というものがあるとすれば,・・・NAFTAこそがそうなのです.」そして,当時のヴァーモント州知事,ハワード・ディーンも,「私はNAFTAを強く支持していた」と1995年に想起している.NAFTAは「正しい政策」だ.「私はそれによってアメリカに雇用が増えると信じている.われわれの貿易相手国を規制するのは,・・・大きな間違いだ」とも述べた.
しかし,今,ディーンはNAFTAを支持したことを悔いているようだし,自由貿易も主要な公約ではない.アイオワの民主党討論会では,NAFTAやWTOについて,ディーンはさらに過激な発言をした.
「私は,NAFTAやWTOが多国籍企業の権利を世界化しているだけだと確信している.・・・それらは人権や環境の権利,労働者の団結権を世界化しないだろう.それこそが必要なのに.もしそうでないなら,NAFTAもWTOも要するに機能しないのだ.」
機能しない,って? どの基準で見ても,NAFTAと自由貿易政策は勝利を収めている.1993年以来,アメリカ・メキシコ間の貿易は3倍に増えたし,カナダと,メキシコが,日本をはるかに越えて,アメリカの重要な貿易相手国になっている.製造業の雇用を吸い取られる音など,消して聞くはずが無い.NAFTAが施行されてから,何百万もの新しい職場が生まれた.
しかし,民主党の大統領候補たちは,リーバーマンを例外として,自由貿易を非難する競争にふけっている.自由貿易を攻撃するという誘惑に負けていないのは,リーバーマンだけである.
「保護主義の壁を築くことで,われわれは職場を作り出せない」と,彼は主張した.アイオワの製造業雇用の5分の1は輸出に依存している.輸出先の第2位と第3位はカナダとメキシコである.「NAFTAを潰してみよ.アイオワ中の職場が苦しみの悲鳴を上げるだろう.」アメリカ全土で何百万も,と彼は付け加えてもよかっただろう.民主党候補たちは,ますますパット・ブキャナンやロス・ペローのように見えてくる.
FT January 9 2004
New strain of sovereignty
By Christopher Caldwell
(コメント) 国家主権は超国家的な権力が現れることで侵害されます.たとえば,もし国家権力が国民の生命や財産を有効に守れず,それを脅かす敵を撃退するのに超国家的な情報や手段を必要とすれば,国家は部分的な権力を譲渡するでしょう.たとえ,その敵が他国の軍隊ではなく,人間や家畜に病気を引き起こすウィルスであっても.昨年の冬,SARSは6000人以上に感染し,774人を死亡させました.
Caldwellは,中国のように「強い国家」がSARSに侵入された経緯を基に,新しい世界秩序の決定要因を考えます.もし春までにSARSが鎮圧できなければ,空路で結ばれた開放型の世界にとって,国際感染問題を安全保障理事会で扱うべきだ,とも考えます.その場合,世界はイデオロギーではなく,ウィルスへの対処能力によって分類されるでしょう.
国際法が,国境によって,主権を分割していることも再考されます.たとえば南アフリカ共和国のムベキ大統領は,国内でAIDSが蔓延しているにもかかわらず,その抑制に失敗しており,その意味で,「無法国家」となっています.国際的な機関が介入してAIDSの拡散を防がなければ,世界的な脅威となるでしょう.すでにWHOは,こうした病気の予防や感染防止,旅行者への警告を始めています.それは国際的な貿易や人の移動を遮断する力を持っています.
債権を格付けるように,WHOは各国の衛生状態やウィルスへの対処能力を冷徹に分類し,各国政府に望ましい対応を促します.しかし,国際的な合意が存在しているわけではないので,実施に当たって,カナダがWHOに反発したように,激しい摩擦も生じます.その決定に関しては,民主主義的なチェックが求められるでしょう.
FT January 9 2004
Japan may silence the sceptics
By John Plender
FT January 13 2004
Japan's banks pick up the pieces
By David Ibison
(コメント) アメリカやEUに比べて,日本の改革に関する記事は非常に少ないと思います.それは,ニュースになるような材料が無いからでしょう.
Plenderは,猪瀬直樹の道路公団との戦いを紹介しながら,日本の改革が進まない理由を考察しています.「日本人の生活水準は高すぎて,中途半端な改革の圧力しか生み出せない」と猪瀬は嘆きます.1990年にバブルが破綻してからも,不良債権処理か,それともリフレ政策か,政府の方針はずっと中途半端でした.その結果,構造改革は緩和され,資源配分の無駄は一掃されなかった,とPlenderは考えます.
同様の中途半端さは,政治改革においても見られます.小泉首相は劇的な改革を支持しているようで,実際には自民党議員の地方における駆け引きを放任しています.小泉氏が改革に大きな政治的責任を負わない以上,財政投融資の削減でも,道路公団の民営化でも,あるいはゼロ金利政策からの離脱でも,明確な方針は示されません.
以前からFTが繰り返し強調してきたのは,日本の資源・資本浪費です.明確に,金融市場の原理に従った退出や再配置を行えば,日本経済はその豊富な資本をもっと効率的に利用して,その潜在的な能力に見合った成長を回復するでしょう.そのような動きは,Plenderから見れば,唯一,長期信用銀行を外国資本に売却し,新生銀行を作ったときだけでした.日本は外からのショックが無ければ改革できないだろう,と考えます.同時に,もし改革が進められたら,その成果も諸外国を驚かすはずだ,と.
Ibisonは,日本の主要都市銀行が不良債権の重荷を解消しつつあることに,本格的な回復の兆しを見ます.不良債権の一部はRCCに売却し,最近では外資とも提携して処分しました.さらに株価上昇で利益から処理できたのです.優遇的な税制も重要でした.しかし,問題は利益を生む融資が少ないことです.金利を上げて,勝者と敗者を明確に選択するような融資政策が求められる,とIbisonは主張します.また,株価上昇に依存した収益は,今後の株価しだいで,再び内容を悪化させます.
日本の銀行システムは,今も資本不足であり,十分な収益を上げる仕組みを見出していない,ということです.ただ,少なくとも,最悪の時期は脱したようだ,と.
FT January 9 2004
The IMF's warning
LAT January 9, 2004
Rising Deficit, Rising Fears
Jan. 12 (Bloomberg)
U.S. Following `Mahathir Doctrine' on IMF
William Pesek Jr.
(コメント) アメリカのマクロ経済運営について,IMFが異例の警告を発しました.財政赤字にもっと配慮するべきだ,と.国際資本市場が円滑にそれを消化できても,世界の金利は上昇する.
アメリカ政府の答えは,再建計画は用意している,景気が回復するから税収も増える,ということです.むしろ,高齢化にもかかわらず,アメリカの有権者が年金や医療保険ではなく,減税によって,財源を消滅させることが不思議です.
FTは,「まるで16歳の少年が母親のフェラーリを乗り回しているようだ」と言います.彼はハイウェーを運転するようなスピードで走るが,大人たちがいくら首を振っても気にしない,と.
LATも,財政赤字による一時的なジャンプは,その代償として将来の停滞を避けられない,と言います.アメリカが外国の投資家に負った債務は市場かつて無いほどの規模です.アメリカの貿易赤字が続けば,ますます多くの債務が維持されなければならず,世界の金利は上昇します.それは貯蓄の配分を求める他の赤字諸国にも金利引上げを強いるでしょう.
IMFの報告は,7700万人のベビー・ブーム世代が引退することを心配しています.退職金や医療費の支払いが増えるでしょう.金利が上昇すれば,ますます財源を圧迫します.資本ストックへの投資が減り,人々は住宅を諦め,自動車を諦めます.スノー財務長官は減税をしても財政均衡化は可能だと言いますが,議会が減税措置を恒久化するなら,それは幻想に過ぎません.
アジアのトレーダーたちにはやっているジョークは,こうです.マハティールは引退したのかと思ったら,ワシントンに行ったようだな,と.なぜなら,マハティールの1997−98年の言動をIMFは大いに嫌ったが,同じことをアメリカ政府が言い始めたからです.すなわち,貿易赤字が金融危機に至るという警告を拒否しました.
Pesek Jr.は,世界の中央銀行がアメリカの財務省証券を準備として蓄えているから,アジア諸国と違って,アメリカは危機にならないのだ,とアメリカ政府の気持ちを代弁します.そこでアメリカ政府は,秩序正しく債務を帳消しにするよう,アジア諸国の中央銀行を説得します.
マハティールが,金利引上げと財政引締めというIMFの要求を退けたのは,それがアメリカの命令ではないか,と疑ったからです.その要求に屈した諸国でも,同じ後悔が残りました.それゆえ,アメリカがあからさまにIMFの要求を退けたことに,アジア諸国は驚いています.要するに,アメリカはアジアよりも世界経済に占める割合が決定的だ,ということです.マレーシアが倒れても国際金融危機は起きません.
本当にドル安が進んで,アジア諸国がドルに信頼を置けなくなれば,遂に,本物のドル暴落が来ます.しかし,アメリカはIMFに救済融資を求めません.アメリカは裕福な国であり,増税することもできますし,債務はドル建です.1997年にアジアはそれができませんでした.
FT January 11 2004
The economy - the final frontier
By Amity Shlaes
財政赤字など意に介さず,ブッシュ政権の過剰拡大 Overreach は,遂に,火星にまで及びそうだ.もし巨額の貿易赤字が融資できなければ,ドル安に歯止めがなくなり,アメリカから世界へ高金利が波及する.アメリカは世界中を道連れにして経済を崩壊させるだろう.こんな風に19番通りのIMF本部が見ている限り,アメリカはブレーキを踏むべきであり,他の発展した諸国と政策を調和させなければならない.
しかし,もっと違った視点から,そう,火星から見れば,問題はこう見える.アメリカは赤字を気にせず,世界中から何でも買い続けてきた.その結果,世界は好調な輸出に支えられて,高い成長と生産性の上昇を維持している.すなわち,アメリカの赤字は「とんでもないミスマッチ」ではなく,「途方も無い高成長」を意味するわけだ.
「アメリカの資産を売り払うべき事情とはなんだろうか?」とバンク・オブ・アメリカのチーフ・エコノミストMickey Levyは問う.「何一つ無い」,と.もし問題があるとしたら,それは貯蓄ばかりに気をとられるIMFのような連中が,アメリカを日本のような貯蓄過剰国にしたがっていることだ.確かに,どれほど大きな貿易赤字も気にしない,とは言えない.しかし,もしヨーロッパや日本がその低成長政策を捨てないなら,ミサイル・ギャップに代わって,新しい成長ギャップが国際秩序を揺るがすだろう.
この議論を推し進めれば,アメリカが火星に殖民地を建設することも良いニュースだ.
結局,他の惑星は潜在的な市場なのであり,それは中国さえも吹き飛ばすほどの大きさだ.火星との貿易ルートが確立され,酸素転換装置が機能し始めれば,アメリカの投資銀行は火星の衛星に支店を開くだろう.そしてアメリカは経常収支赤字を完全に解消する.こうしてアメリカの帝国建設は正しかったと分かるはずだ.少なくとも,アメリカ政府はそう考えているらしい.
LAT January 9, 2004
Migrant Policy Just a Start
LAT January 9, 2004
Too Many Immigrants Trapped in the Shadows of American Life
By Roberto Lovato
NYT January 9, 2004
American Jobs but Not the American Dream
By DAVID ABRAHAM
NYT January 10, 2004
Workers in the Shadows
By DAVID BROOKS
BG, 1/11/2004
The decline of assimilation
By Jeff Jacoby
BG, 1/11/2004
Bush plan's 3 flaws
By Janice Fine
WP Sunday, January 11, 2004
Migrating Toward Trouble
By David A. Martin(general counsel of the Immigration and Naturalization Service from 1995 to 1998)
(コメント) 一時雇用を自由化すれば,非合法移民を止められるのか? どのように非合法移民の雇用を止めさせるのか? 低賃金を目的とせず,アメリカの労働者にも公平な形で,そのゲスト・ワーカー計画は拡張できるのか?
LATは,ブッシュ氏の示していない決定を求めます.非合法移民を雇用した者を処罰すること.低賃金による競争を加速させないこと.そのために,国内の労働者が不足している分野にだけゲスト・ワーカーを入れること.
ブッシュ氏は演説で,「アメリカ人が居ない場合だけ,働きたい移民労働者と雇用したい工場とを結び付ける」と述べました.しかし,アメリカは広大で,多様ですから,どの地域のどのような職種で,ゲスト・ワーカーが適当であるか,難しい判断が求められます.しかも,一定期間で帰国しなければならないとしたら,非合法移民は減らないのではないか? と言います.
メキシコ,エル・サルバドル,グアテマラ,タイ,フィリピンなどの国から来た何百万という一時雇用の非合法移民たちは,安心して働き,雇い主に賃金を請求でき,過酷な労働条件から解放され,何より,自由に母国の家族と会えて,強制送還されないような法的地位を求めています.残念ながら,これまでの大統領は,その地位を与えませんでした.
ABRAHAMが指摘するように,一時雇用として移民を受け入れる計画は,戦後,ヨーロッパが試みたものです.彼らは単に労働者ではなく,人間です.一時雇用が終われば,強制的に帰国させるとか,一定の居住地域で,限定された権利しか与えないとか,という発想は,下層の市民階級を作り出すでしょう.いくら優れた「同化」の歴史を持つアメリカでも,この計画には不安が残ります.しかもアメリカは,ヨーロッパより労働組合の力が弱く,その意味で,ゲスト・ワーカーが賃金を引き下げる圧力となってしまう危険も高いでしょう.
BROOKSは,典型的な非合法移民の姿を描きます(サム,と呼びます).河を渡り,高熱になる自動車に潜み,密入国の犯罪組織と交渉した挙句,ようやく,サムは1日10時間,フルーツ畑の摘み取り作業に励みます.政府は1986年から98年にかけて,国境警備の予算を6倍に増やしたけれど,この間の非合法移民は800万人に達します.サムが国境を越えることに,彼の家族の将来がかかっているのです.羊を追い払うようなわけには行きません.
ブッシュ氏の提案によれば,サムは合法的に滞在する地位を得て,運転免許を持ち,労働法に守られて賃金も上がるでしょう.銀行口座も開いて,今よりはるかに安い手数料で送金できます.職業訓練も施されるはずです.何より,サムは帰国して,家族に会えるのです.強制送還や警察の尋問に怯えて暮らすことがなくなります.
しかし,マイナス面としては,一人の雇用者に縛られ,職を失えば出国しなければなりません.しかも,その地位は6年しか続きません.その後,サムは強制送還されるか,非合法移民に戻るでしょう.そのような危険を考えると,このまま隠れていたい,と思うかもしれません.
サムを合法化し,犯罪者たちから切り離すためには,議会がもっと工夫しなければなりません.たとえばポイント制が考えられます.それによれば,英語を学び,高校の卒業資格を得るなど,ポイントを貯めることで,サムは永住権を得られます.
サムを明るい日差しの下で暮らせるようにするために,ブッシュ氏は,共和党にも,民主党にも,真剣な検討を促す必要があります.そして,そのとき初めてアメリカは,サムと同じような何百万人もの移民たちが提供してくれる労働と精進,創造性を享受できるのです.
移民とアメリカ社会が長期的に共存するために,Jacobyは,アメリカ型の「同化」メカニズムを強調します.「多文化主義」や人種差別への積極的な税政策(affirmative-action)が「同化」を非難したために,エスニック間の対立は深まり,それを話し合うこともできません.Jacobyは,共通の市民的な価値を尊重し,異なることを認め合って一つの家族になるには,英語を話し,職を得て,民主主義に参加することを通じて,アメリカ市民となり,市民権を深く尊重する,という「同化」メカニズムが重要である,と考えます.
Fineも,アメリカ的な価値観と底辺労働者たちの生活との間にある矛盾を,解消できるようなメカニズムを求めます.そのためには,移民たち自身がアメリカで労働してきたことを証明でき,それが永住権や市民権を得るようなインセンティブと結び付けられ,低賃金労働市場の労働者を保護し,法を強制できるメカニズムを新設することでしょう.
Martinは,その担当者としての経験から,ブッシュ氏の提案を無責任なものと非難します.議会を通過させられるか,という問題とは別に,そんな政策を実施できるか,という問題があります.すなわち,それに必要な資源・財源と,行政的な処理能力の問題です.
非合法移民をどうやって把握するのか? 国土防衛省の移民部局は,毎年700万人の応募者からの書類を処理できるのか? 彼らの賃金はどれくらいにするのか? それが安過ぎればアメリカの労働者が失業する.実施において,誰がチェックし,雇い主に強制するのか? 移民はネットワークとして拡大する.合法移民が増えれば,非合法移民はもっと増える.非合法移民とテロリストを明確に区別することなどできない.こうした処理や手続き,強制に必要な人員や財源を,政府は提供できるのか?
BG, 1/10/2004
Seeking a balance in the immigration debate
By Allert Brown-Gort
ブッシュ大統領の提案を評価できるのはもっと先である.しかし,それがゲスト・ワーカー計画を推進する声と非合法移民の規制強化を求める声とを妥協させる提案であることは,過小評価すべきでない.何よりも重要なことは,移民政策の改革において,経済学と安全保障と平等性,この三者間で改革の理由をバランスさせることだ.
これまで何百万人もの移民が来る理由は,もっぱら,経済的な理由で,しかも供給側に関してだけ注目されていた.しかし,この提案は需要側にも注意を向けた.彼らが貧しく,われわれが豊かだから,というだけでは,その非合法な地位や規模を説明できない.もし問題が供給側だけにあるとすれば,その答えは移民流入を阻止することだ.
しかし,移民流入を阻止すれば,われわれの経済も壊滅するだろう.われわれはその考え方に従って,何百万ドルも国境警備に支出してきた.その結果,非合法移民たちはますます辺鄙な国境から入国を試み,1997年以来,2000人以上が命を落としたと推定される.たとえ入国できても,彼らは隠れて生活し,悪徳業者や犯罪者の餌食にされる.結果的に,彼らの滞在は長期化し,家族を呼び寄せ,ますます非合法な密入国組織に依存する.こうして発達した犯罪者組織が増えることは,安全保障の点からも,テロリストや大量破壊兵器を取り締まる政策と矛盾する.
アメリカ経済が移民労働者を必要としている事実は,この数年の移民送金が増加してきたことから示されていた.9・11にもかかわらず,2001年のメキシコ人が家族に送金した額は90億ドル,2003年は130億ドルに達し,製造業や観光をはるかに上回り,石油産業に並ぶメキシコの主要な外貨収入源となっている.ある推計(the Pew Hispanic Center)に拠れば,アメリカからラテン・アメリカとカリブ海域への送金は,約300億ドルにもなり,さらに増加する傾向にある.
ひとつ明確なことは,この提案が機能するためには,すでにアメリカで働く移民たちがその地位を認められる必要がある,ということだ.彼らの多くには子供が居り,あるいは子供のときに連れて来られた.彼らが3年後に更新できないようなら,国外退去命令を受けるリスクを犯すとは思えない.アメリカは安価な移民労働力を強く求めている.彼らが食肉を加工し,家具を組み立て,子供の世話をして,食器を洗っている.そして現在の移民たちの子孫が将来の労働者となる.
大統領がこの提案を明確にして,議会で通過させることは非常に難しい.所詮,増大するラティノ有権者の気を惹こうとした,あるいは,フォックス大統領を歓迎するための,政治的な提案であったかもしれない.たとえ今はそうであっても,論争は異なる視点のバランスを重視し,移民のコストとベネフィットとを合理的に斟酌したものとして進めることができる.
IHT Friday, January 9, 2004
The price of globalization
William Pfaff
WP Friday, January 9, 2004
NAFTA at 10
WP Friday, January 9, 2004
Free Trade But . . .
By Michael Kinsley
(コメント) Pfaffは,Schumer and Robertsによる自由貿易批判(”Second Thoughts on Free Trade,” NYT January 6, 2004:先週のReview参照)を再論します.労働力を除いて,さまざまな生産要素が国際的に移動することは,比較優位の原理を否定する理由にならない.残った比較優位に従って,自由貿易を支持する国際分業が行われるだろう,と.
他方,リカードが支持していたもう一つの原理は言及されない,とPfaffは指摘します.それは「賃金鉄則」です.労働者の賃金は生存維持水準に固定されたままである,というわけです.賃金鉄則が間違っていたのは,労働者が組合や政府への圧力などを通じて,賃金を引き上げたからです.ところがグローバリゼーションによって組合の力が失われれば,賃金鉄則が蘇る,とPfaffは考えます.それゆえ自由貿易論は,社会的な規制無しに,なぜ比較優位が貧困を「自動的に」解消できるのか,それを説明しなければならない,と言います.
WPは,NAFTAの10年を有益であったと考えます.もちろん,NAFTAのせいで職を失ったり,工場が閉鎖されたりしたことは事実です.しかし,それは全体として利益をもたらしただろう,と考えるからです.もし失業だけを非難するとしたら,それはスーパーで自分の買い物袋にキャベツが入っているのに,財布からお金が減ったことを嘆いているようなものだ,と.問題は,適正な価格であったかどうか,です.しかし実証的にNAFTAの効果を見るには,10兆ドルのGDP規模に比べて,2500億ドルは小さすぎて明確な効果を示せない,という結論です.
確かにメキシコの賃金は増加していませんが,@1994−95年のメキシコ・ペソ危機,A中国のWTO加盟,B他のラテン・アメリカ諸国よりも高い成長率,を見れば,メキシコにとってもNAFTAは有益であった,と考えます.世界銀行は,メキシコの一人当たりGDPがNAFTAの無い場合よりも4%多い,と推定しています.
Kinsleyも,Schumer and Robertsを批判します.なぜなら,自由貿易論の核心は「比較優位」の概念にあるのに,彼らは大学生が「比較優位」と「絶対優位」とを区別できない,というよくある間違いを犯しているからです.彼らがいうように,最も生産的な場所に生産が移転されるのは,むしろ,比較優位をより多く実現することです.
他方,自由貿易論の欠点は,それが国民全体の利益を説明するだけで,その分配を示さないことでした.この点で,Schumer and Robertsが示した「新しい自由貿易反対論」の意味を考察できます.すなわち,今や,情報通信革命が頭脳労働を貧しい諸国に移転してしまえるからです.すなわち,衣服や自動車を作る労働だけでなく,年収2万ドルのインドのエンジニアがアメリカの年収15万ドルのシステム・エンジニアに取って代わり,頭部スキャンを望むアメリカの患者がアジアの医師に診断を依頼できるとしたら,アメリカ人は何をすればよいのか?
もちろん,それでも必ず比較優位の分野はあるのです.問題は,システム・エンジニアや医師が,自動車の組み立て労働者よりも,上院議員や大統領候補を良く知っていることです.彼らが職を失うと悲鳴をあげれば,政治家たちは黙殺できません.しかし,それは分配をめぐる問題が,日本製自動車を叩き壊した労働者たちから,インターネットに逆らえない一部の高給職に移ったからであり,自由貿易を拒否する理由として一層ふさわしくないでしょう.
ST JAN 10, 2004 SAT
Ditch this flawed economic reform
By ENRIQUE DUSSEL PETERS
(コメント) 1990年代に,ラテン・アメリカの民衆は次々と独裁者を倒し,民主化されたように見えるが,そうではなかった,とPETERSは主張します.それはマクロ経済学(マクロ経済管理)の専制に屈しただけであった.しかし,投資家を引き止めるために財政引締めや通貨・為替レートの安定を実現したとしても,実質賃金の低さや所得分配の悪化を放置すれば,社会的・政治的な条件が維持できないはずだ.この専制政治も民衆の怒りを燃え上がらせるだろう,と.
WP Sunday, January 11, 2004
Learning Curve
By Dorothy Rich
(コメント) アメリカでは,優秀な教師に対する資格授与や表彰が行われているのでしょう.しかしRichによれば,経験を通じて獲得した「教えること」の意味は,もっと複雑です.
確かに,「教えることは,学ぶことです.」しかし,「教師が教えて,学生が学ぶ,という直線的な関係ではない.」「彼らがもし学ぶとしたら,それは学校の外である.」「馬を水場に連れて行けても,馬が水を飲むかどうか分からない.」「心,気持ち,頭脳,精神,・・・ 教えるとは,思った以上に多くのことに関連し,秘教的,神秘的な過程である.」
学生も親も,その科目の内容だけでなく,学生を励まし,動機付け,前向きに応じてくれるような教師を必要としています.中身の無い,うわべだけの賞賛ではなく,実績に依拠した本当の賞賛です.そして,教師自身も励ましを必要としていることを忘れてはなりません,と.
FT January 12 2004
Policy myopia that will damage US
By Stephen Cecchetti
(コメント) 政策決定に必要な条件とは,何よりも,強い指導力だ,とCecchettiは言います.しかし,選挙を控えて有権者の短期的関心に媚びへつらう政治家ばかりであれば,財政赤字や保護主義をもとめる者たちが増長する一方です.
財政赤字を増大させた責任は主にブッシュ氏と議会にあります.しかし,今や,議会が自らその手を縛るように,赤字の長期的な維持可能性を話し合うべきでしょう.他方,通商政策はぜーリックによって保護主義が抑えられています.問題は,急速な技術革新が失業を増やすとき,国内であれば市場の弾力性を求めることができますが,外国に職場を奪われることに対しては敵対感情が強まります.しかも,敗者は勝者より集中しており,貿易反対を組織しやすいのです.
政府は,こうした短期的関心を抑えなければなりません.ブッシュ大統領と,他の政治指導者たちは,有権者たちに,アメリカが孤立して繁栄や平和を持続できないこと,貿易と協力を必要としていることを訴えるべきです.長期的な視点から,特に豊かな諸国が協力して行動することこそ,自分たちの利益であると理解するように,政府が助けたい,というブッシュ氏の今年の抱負を実行してほしい,と.
Jan. 13 (Bloomberg)
Drucker Sees Problems in China's Growth Engine
Andy Mukherjee
FT January 13 2004
China's ruling party cannot have it all
By Minxin Pei
(コメント) Druckerが中国経済の限界を指摘したことは注目されます.中国が近代化するに伴って必要な,教育ある人材が不足しているから,という理由です.他にも,不適切に分散し,過剰に投資された工場が行き詰まり,農村から都市に流入する労働者たちに十分な雇用を生み出せない,と考えています.
他方,Peiは,中国共産党の一党支配が近代的な経済を動かすのに適当でなくなる,と考えます.近代的な経済に必要な所有権を明確にして,法の支配を確立するためには,共産党がもっと多元的な選択肢を用意しなければ,政治的団結を維持できなくなるでしょう.共産党は,ケーキを焼くのも,食べるのも自分たちだ,と思っているかもしれないが.
LAT January 13, 2004
A Blind Man? No, This President Is Clear-Eyed
By Max Boot (senior fellow at the Council on Foreign Relations)
NYT January 13, 2004
The Awful Truth
By PAUL KRUGMAN
FT January 14 2004
O'Neill's epiphany
FT January 14 2004
Tears of the US Treasury clown
By Gerard Baker
(コメント) 『忠誠の代償 "The Price of Loyalty" 』によって,オニール前財務長官がブッシュ政権の内幕を暴露しました.これによって何が示され,何が変わるのか?
Boot はオニール氏の政治的な素朴さ,無能さを指摘しますし,Krugmanは自分がブッシュに見てきた不正直さと無能さがそこに実証されていると感じます.オニール氏がまれに見る失言・失態を繰り返した財務長官であった,ということでFTは道化師のように扱います.
ST JAN 14, 2004 WED
China can't just toy around with banking reform
TOM PLATE
FT January 14 2004
The hard argument for China's soft landing
By Stephen Roach (chief economist at Morgan Stanley)
Jan. 16 (Bloomberg)
Will China Avoid Japan-Like Debt Nightmare?
William Pesek Jr.
(コメント) PLATEは(かつて日本がそう言われたように),アメリカの貿易赤字と中国の銀行救済との密接な関係を指摘し,もたれあいの構造を批判します.というのも,中国政府が四つの国営銀行の中から三つを救済融資した資金は,予算からではなく,輸出で得た外貨準備から支出されたからです.もし共産主義イデオロギーを憎悪するマッカーシーが生きていたら,アメリカの国家安全保障(あるいは証券!?)を扱う高官たちを上院の特別小委員会で査問しただろう,と.
この「米中通貨圏」は,アメリカの消費者が中国製の安価な商品を購入することに中毒となり,また,中国政府が銀行システムの救済をドルの外貨準備でまかなうという経済成長の生命線となっています.ワシントンでネオ・マッカーシズムの叫びが高まるでしょうか? グローバリゼーションが進展していることを,北朝鮮のように頭を砂に突っ込んで見ない,と言うなら別ですが,中国と貿易することに反対する政治家は今やほとんど居ません.しかも,中国政府が重症の銀行システムを治療できるなら,日本を含むアジア地域の安定と成長維持に貢献するでしょう.
しかし,救済融資の資金が調達できるかどうかが問題ではなく,救済融資で銀行を立て直せるか,というガバナンスが問題です.そのためには,国営企業への不良債権の負担に沈む国営銀行が,伝統的な監視システムに頼るよりも,銀行の民営化にまで踏み込む必要がある,と考えます.
Roachは,中国にインフレが戻りつつあり,中国政府はそれを事前に押さえ込むために,成長が減速するかもしれない,と予想します.問題は,世界が中国の減速に対する用意を怠っていることです.すなわち,アジア経済に多くの需要を与えてきた中国が減速すれば,ドル安とともに,ますますヨーロッパと日本の積極的な景気回復と輸入への市場開放が求められるのです.もちろん,中国の減速が制御不能になって,社会的混乱に陥ることも十分に考えられます.
こうした市場介入が成功するのか,Pesek Jr.は,その答えを,政府の融資拡大を担っているに過ぎない商業銀行の改革に見ています.日本が未だに苦しんでいる課題を,もし中国が成し遂げるとしたら,それは三つの有利な事情が重なるからです.@中国は,その潜在的な覇権国となる力を発揮するためには,金融システムの改革が必要であることに気づいている.A中国政府は,国民に不評を買う税金ではなく,外貨準備から資金を使う方法を見出した.B先行した日本が豊富な失敗例を提示しており,何をしてはならないか,が明確になっている.
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The Economist, January 3rd 2004
America’s angry election
The race for the White House: Let the games begin
American politics: A portrait in red and blue
(コメント) アメリカの大統領選挙に向けた民主党の予備選が始まりました.The Economistが注目するのは,@アメリカ政治の分裂状態,特に,ブッシュ非難・ブッシュ憎悪の宣伝が過熱していること.A民主党大統領候補の中で,トップを行くハワード・ディーンの考え方.Bブッシュ氏再選を覆せるかもしれない民主党の戦略,です.
「投票率が低いという意味で,選挙戦の焦点は浮動票を狙った「空中戦」から支持固めを目指す「地上戦」に向かうだろう.そして,支持者の中核には赤身の肉しかない(抽象的な非難は無意味だ).しかし,支持の両極化は一つだけメリットもある.すなわち,アメリカ(と世界)をいかに安全にするか,という熾烈な論争を続けさせるからだ.過去の3度の大統領選挙は,外交政策より経済や医療保険,年金が重視された.今回は,外交政策が決定的だ.」
この長い,過酷な,獰猛な選挙戦を経て,世界にとって重要な問題が明らかになる,と.多くの人,特にヨーロッパ人は,進歩的で,自由な,政治的にも文化的にも挑戦的なアメリカをアメリカだと思っています.しかし,アメリカの経済成長や政治を動かしているのは,もっと穏健で保守的な生活を好む,裕福な郊外に住むアメリカ人です.保守党の支配は永遠に続くのでしょうか? そうでもない,とThe Economistは考えます.郊外も急速に多人種で多文化になっているからです.
「もし民主党が郊外のアメリカで破滅する運命にないとしたら,それはサン・フランシスコで起きたように,自ら変身することだ.すなわち,郊外に自宅を所有し,日曜日には教会に行くような主流派のアメリカ人に合わせて,彼らと平和協定を結ぶことで,巨大な商業施設の育む土地に生き続けなければならない.」
Charlemagne: Of wars and weighted votes
European Unity: The history of an idea
(コメント) アメリカの選挙が泥仕合や憎悪のぶつかり合いであるとすれば,ヨーロッパは政治的な希望を示しているでしょうか?
The Economistは,強い疑念を抱いています.たとえば,加盟国の数が増大する際に,ドイツが人口に従った投票権の新しい配分方式を求めれば,ポーランドはナチスに殺されたすべてのポーランド人も人口に加えたい,という衝動を抑えがたいのではないか? プロディ委員長の誇張された表現に,まるでローマ帝国のようですね,と(珍しく?)見事な皮肉を切り返したブッシュ大統領と同じように,The Economistはシャルルマーニュやナポレオン以来のヨーロッパ統一を,ヒトラーやムッソリーニの理想ともダブらせます.
ドイツやフランスの政治家,歴史家,思想家,小説家は,政治的に統一されることで平和を維持できる,と考えます.しかし,かつて大ヨーロッパに吸収されなかったイギリスやスカンジナビア諸国では,権力も富も分割されているときこそ,活気に満ち,創造力を発揮できる,と考えます.