IPEの果樹園2004

今週のReview

1/5-1/10

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大晦日に琵琶湖バレイまで出かけて,子供たちに初めてスキーをさせました.スキー場と言っても,若者はスノー・ボードばかりでしたが.その晩,紅白歌合戦の間,私は眠ってしまいました.「朝まで生テレビ」を録画しようか,と思いつつ,偶然,養老猛司氏と犬養道子氏との印象的なNHK年越しトーク,「心に火を灯す」を観ました.

五・一五事件で犬養毅首相を殺した兵士たちの「問答無用」.ヒトラーやフセインは特別ではない.東大の学園紛争で研究室を踏み荒らした学生たち.カンボジア内戦で,国民の3分の1,約250万人を殺したポルポト政権の理想郷.戦場しか知らない難民キャンプの子供たち.オウム真理教に入信した医学部の学生.故郷に帰れない,鼻を削られたアフリカの少年兵がやったこと.サラエボ内戦では,敵対した人々が水で薄めたヨーグルトを分け合っていた.自殺や交通事故によって,死を理解できないまま死ぬ多くの人.まず定義してから議論したい,と主張する学生.何でもいいから書きなさい,という課題. ・・・生きている実感が無い.

一晩中,手を握ってあげることです,と犬養氏は言います.難民キャンプにも,子供を叱ってくれるおばあちゃんがいました.すべて異なった葉を付けた,本当の木を,絵に描けるか? 若者は,貧しい国を見ておくべきだ.電気も水道も無い土地へ行って,初めて,生きることを学ぶ.虐殺の加害者も大きく傷つき,壊れてしまっている.話し合うことで,互いに変化しなければ意味が無い.ボランティアに行って,頑張りすぎないこと.樹海に入って自殺しようとしたら,その枝が折れた. ・・・本当に,死ぬかと思った!?

ポルポトの社会改造計画は,子供たちを改造することを重視しました.「もしあなたの親が命令に従えないなら,微笑みながら殺しなさい.」子供だけで生活し,子供が兵士となって戦い,工場でも働きました.「笑ってはいけない.それは過去を懐かしんでいるから.泣いてはいけない.なぜなら,今が最も素晴らしい世界であるから.」

養老氏は,外の世界と向き合い,自分を開くこと,を強調しました.犬飼氏も,人は,同じ人間として認め合い,善意を共有し,つながり合える,と主張します.そして,ユーモアのセンスを.

2004年は,どんな年でしょうか? もし最悪の年であれば,テロに窮してアメリカ軍が撤退し,イラクと中東油田が壊滅し,イスラエルは支配領域をはるかに拡大して,各地で戦争状態になるでしょう.東欧を吸収したはずのユーロ圏が分裂し,アフリカやラテン・アメリカ,その他の破綻国家から,エイズと犯罪組織が世界中に浸透し,大量破壊兵器ではなく,銃や手製爆弾,病気や麻薬が,もっとも裕福な国においてさえ,情報社会の民主的政府を支える微妙なバランスを崩します.

アメリカから流出した資本は,弱小な市場や政治体制,企業の意思決定や農民・商店の生活を翻弄し続け,反グローバリゼーションがさまざまな復古主義や理想郷,剥き出しの軍事力,資産の逃避行動,などを増幅します.職を失った人々は既存の政治を見限り,全体として,無秩序に向かうでしょう.中国であれ,アメリカであれ,日本であれ,その政治的な合意メカニズムは,外部の敵を求めること無しには機能せず,各国の政治家たちが互いに相手を罵り,自国にとっての脅威を取り除くため,支配領域の拡大や先制攻撃を唱えます.

東西かくし芸大会で,堺正章氏が身体でメロディーを奏で,しかも,子供が喜ぶハト時計の人形となる,奇抜な楽しさに驚喜しました.しかも,誠意や善意が笑われる,というチャップリンの芸風に似た,悲しい可笑しさを誘うのは,ある種のコメディアンが持つ弱者や敗者への共感を含むからでしょうか.

お餅は好きですが,お酒は飲みません.何もしないでテレビを観るのも苦痛です.気まぐれにブック・オフへ立ち寄り,李志綏『毛沢東の私生活』(上・下)を100円コーナーで見つけました.時間ができたら,ぜひ読んでみたいです.

読者の方へ. 新年,あけましておめでとう.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT December 24, 2003

The Pain of Good Intentions

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) 北朝鮮からトウマン江を渡って中国に逃亡する人々が増えています.ある女性は,暖かい居場所と食糧を得たことにより,涙が止まりません.彼女の家族が極寒の北朝鮮に居り,そこでは着るものも食べるものも無いことを知っているからです.

最近,西側の人権団体がこの脱北者たちを助けようとして,逆に,中国政府の取締りを強化させています.中国は北朝鮮が解体することを望んでいない以上,脱北者の増加を好みません.そして,週に約100人も強制送還しています.たとえ西側の良き意図から行われたとしても,脱北者の支援活動(北を自由に導く「地下鉄」を築く)は,北朝鮮で苦しむ人々を助けていない,とKRISTOFは批判します.

実際に,イラク民主化に限らず,苦汗工場への抗議や,キューバ制裁への固執,など,自由主義の理想は現実を正しく導いていません.他方,アジアには別の方法がふさわしい,と考えます.それは,中国とロシアが脱北者の存在を否定しながら,その集団的逃亡を是認することです.

もし北朝鮮に自分たちの理想を押し付けるだけであれば,彼らの恐怖を増幅させるだけです.正しい外交政策は,優れた価値や良き意図だけでは,形成できません.


WP Wednesday, December 24, 2003

Un-American Recovery

By Harold Meyerson

(コメント) 雇用を伴わない回復が,戦後のアメリカ経済の性質を変化させた二つの問題を示しています.一つは雇用の海外流出であり,もう一つは,その結果として,労働者の賃金抑制や労働組合の衰退など,ニュー・ディール以前の経済回復メカニズムに回帰したことです.そして,その時代の景気回復は,持続的な拡大を保証できなかった,という問題が指摘されています.外国からの資本流入に依存していることも,また,不安材料です.


WP Wednesday, December 24, 2003

A Glut of Greenbacks

By Robert J. Samuelson

(コメント) フセイン拘束のニュースに対しても,ニュー・ヨークの株価は下落し,ドル安が進みました.イラクにとっては間違いなく良いニュースであったにもかかわらず,アメリカからの資本流出は止まらない,と市場が判断したからです.経常収支の赤字が続く限り,かつてフランスが批判したように,アメリカは世界にドルを垂れ流し続けます.

現在,GDPの5%である赤字を,2.5%にまで減らすために,ドルはさらに15〜20%は下落しなければならない,とIIEのバーグステンは言います.ドル安が続くことの結末として,Samuelsonは三つの可能性を考えます.

@     アメリカは回復し,他国は損失を受けない.アメリカは純輸出が伸び,遊休生産設備のおかげでインフレにもならない.ヨーロッパや日本も,世界の景気回復が本格化して,輸出の減少を打ち消してくれる.通貨が増価するため,ヨーロッパは金融政策を緩和し,日本とともに自由化を進めるだろう.

A     アメリカと中国が得をして,ヨーロッパと日本は損をする.中国は人民元をドルに対して固定するために,アメリカの財務省証券を大量に購入する.それゆえ,ドル安によってアメリカとともに中国も得をする.他方,ヨーロッパと日本は通貨が増価し,景気回復を頓挫させて,保護主義が強まる.

B     ドルが暴落して,すべての者が損をする.外国の投資家はアメリカの債券や株式を売り,それゆえドルが売られる(彼らは株式の10%,社債の17%を保有している).アメリカ人も外国人も莫大な損失を出して,市場の確信が失われ,投資が大きく減退する.激しい金融不安により,世界経済は不況になる.

しかし,ドル暴落ではなく,ECBと日本が景気拡大策を実行しなければならない,あるいは,彼らが無能(もしくは不決断)であれば,中国と組んで第二プラザ合意を結べばよい,と言うのは,アメリカに都合の良い話です.アメリカ自身が経常収支赤字を抑制する明確な姿勢を示して,金融市場の不安を取り除く,というのが最初に示されるべきでしょう.その場合,アメリカ政府は自分たちを敗者と見るのでしょうか?


LAT December 25, 2003

Bad Farm Policies Starve Millions

(コメント) 肉食によって世界の飢餓が増え,食糧不足による戦争が起きるかもしれない,というのに,私たちは「美味しい肉」が大好きです.石油がそうであるように,将来は肉も,もっと高価になるでしょう.しかし,その前に,日本で狂牛病が大量発生するのでしょうか?

一方では飽食と肥満が心配される世界に,8400万人も飢餓に苦しむ人々が居ます.それは食糧が足りないからではなく,「政治的な意志」の不足によって起きています.輸出指向の農業が,インド,中央アメリカなど,各国で飢餓を増やしている,と,この論説は指摘します.

企業は,飢饉への解決策を知っている,と主張します.それはGMフード(遺伝子組み替え穀物)です.世銀やIMFの指導に従い,工業諸国からの援助を受け,豊かな市場を目指して,GMフードを受け入れれば,収量が増えて飢餓はなくなるのでしょうか? どのような食糧,どのような農業,どのような社会を求めているのか? 政治的な意志があれば,飢餓の無い社会も十分に可能です.


FT December 26 2003

How to be happy

By Ed Crooks and Simon Briscoe

アリストテレスが「幸せであるとは,最善で,最高の,何よりも楽しいことである」と,アレキサンダー大王を含む学生に教えて以来,哲学者たちは,どうすれば人生に満足するか,問い続けている.

現代では,この合理的な世界において,統計モデルを使いたがるし,その答えに経験的な証拠を求める.Richard Easterlinが1970年代に開拓してから,この分野でも学術研究が盛んになった.

その中心問題は,発達した経済がその市民たちの要求を満たせない,ということだ.経済学者と哲学者は,この数世紀に渡って,将来の物質的な繁栄を予測してきた.しかし,彼らはまた,人々が何もかも満たされて,欲望から自由になると予測した.後者の点で,彼らは大いに失望したわけだ.

世界中に警告が見出せる.多くのナイジェリア人は幸せだと言う.たとえ彼らが,部外者には,貧しく,腐敗した国に住んでいると見えても.全体として,一つのパターンが現れる.人々は豊かになれば幸せになるが,ある点を越えると,それは停止する.

アメリカでは,幸福感が1970年代以来,特に女性において,わずかに低下しつつある.1972−76年,女性の36%が「非常に幸せだ」と答えた.1994−98年,それは29%に低下した.

国内においては,所得が重要である.その意味では,昔からのことわざ,「お金で幸せは買えない」と言うのは明らかに間違っている.裕福な者は貧しい者よりも幸せだ.しかし,社会の他の人々に比べた所得が重要であって,その絶対的水準ではない.

他の要因も重要だ.特に,健康.結婚.職を得ていること.年齢も重要だ.若者と老人は,30代や40代の人間よりも幸せだと感じる.健康なライフ・スタイルは,地域のグループや組織に入って,満足感を高める.

こうした相関関係は,もちろん,因果関係ではない.しかし,それらはしばしば,たとえば喫煙のように,不幸を反映しているというより,それらが人を不幸にする.

こうした結論を受け入れない者も居る.昨年のノーベル経済学賞を受賞した心理学者,プリンストン大学のDaniel Kahnemanも,質問票への回答を信用できない,と言う.彼は「客観的な幸福度」を考案した.人々が何と言おうとも,彼らの幸せな程度を測定する,というのだ.しかし,難問は残る.幸せが何か,われわれは知り得るのか?

調査を擁護する人々は,データを客観的な測定と組み合わせる,と言う.幸せな人は,その友人たちからも幸せだとみなされ,よく笑い,ストレスに対しても深刻な生理学的反応を示さない.彼らは脳の前頭葉の左側,「幸せ」を感じる側で活動し,右側ではない.

右側を使わない人間として研究者が見出したのは,チベットの僧侶だった.Kahneman教授は,幸せとは,脳の左側を使う,一種の技術である,と結論する.

もし瞑想の歳月を始める覚悟が無いようなら,簡単な目標から始めることだ.ジャンク・フードをやめて,野菜や黒パンをもっと食べる.タバコを止めて運動する.もっと友人たちと過ごし,仕事を減らす.しかし,クビにならない程度に.あなたよりも暮らし向きの悪い人と交わり,裕福な人のことは忘れる.できるだけ結婚し,そして離婚しない.教会,あるいは,シナゴーグ,モスクに行って,ボランティアの仕事も少しやる.くじに当たるのも良い.もし全部だめなら,アイスランドに行くことだ.世界でもっとも幸福を感じる国だから.

もしあなたが40代の離婚したアメリカ女性であれば,少なくとも物事の良い側面を見ることだ.事態はこれ以上悪くなるはずが無い,と.


LAT December 26, 2003

'Our Guy' for Iraq Leader May End Up Biting Us

By David Fromkin

(コメント) オスマントルコ崩壊後のイギリスの経験から,アメリカがイラクの統治をイラク人の指導者に委ねることを考察します.その要点は,@軍事的な統一と秩序を確立し,A現地の指導者たちに合意を委ね,B軍を撤退できたら,独自の地位を得ようとする彼らと交渉し続けること.たとえ,イラクの指導者たちが計略を重ねて,独立をより有利な条件として利用することが分かっていても,アメリカ軍はそれをイラクからの撤退のチャンスとして受け入れるべきだ,と.


NYT December 26, 2003

New Year's Resolutions

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 2000年の選挙のとき,多くのメディアは二人の候補に政策的な違いはなく,その個性だけを強調して,国民の選択を誤らせました.実際,ブッシュ氏はアメリカ政治を極端に右へ移動させたのです.2004年の大統領選挙が正しく行われるために,KRUGMANはいくつかの基準を示します.

@候補者の服装についての饒舌を断て.A候補者の政策提案を詳しく示せ.ブッシュ氏は新しい免税項目を示したのだから,その利益もしくは損失を受ける者と大きさを示すべきだ.B候補者の逸話を正しく紹介せよ.ふさわしい逸話によって人物が良く伝わるが,偏った印象も与えてしまう.C候補者の過去の記録を示せ.ブッシュ氏は決して穏健ではなかったし,ディーン氏はラディカルではなかった.財政運営も慎重だった.Dジャーナリストのことではなく,国民のことを心配せよ,と.


ST DEC 27, 2003 SAT

Propriety of property

(コメント) 中国で個人の所有権を法によって保護する憲法改正が進んでいます.STのこの論説は,マルクス主義の批判と,ロシアの民営化に対する批判を前提に,中国の合法的な所有権と売買を支持しています.

STによれば,マルクス主義は所有権すべてを,貧富の格差拡大と剰余価値の搾取の条件として非難し,社会制度から抹殺しました.しかし,共産主義諸国にもエリートは存在し,党と国家に集中した新しい支配階級を形成しました.彼らは貧困の共有を実現しただけでした.他方,多くの欠陥にもかかわらず,資本主義は正義をもたらし,自由と法の支配を行う上で有効でした.その理由は,教育を受けた,資産を保有する,中産階級が育ったからです.彼らは,恣意的に資産を奪う独裁者に強く抵抗しました.

12億人の中国が所有権を認めることで,STは同じ効果を期待します.所有権とその売買は,すでに事実として行われていることであり,それを郷的に是認するに過ぎません.しかし,同時に,公的な所有制は絶対的なものとして維持されますし,この法律は農地の私的所有にまで及びません.ロシアの経験を知れば,法によって保護される所有権は「正当なもの」に限る,とするのも当然だ,と考えます.もちろん,その制限が政府の権力と介入を維持するために悪用されるかもしれません.

これが漸進的な改革の成功なのか,終わり(の始まり)なのか,まだ分かりません.


ST DEC 27, 2003 SAT

It's better to be alive now than ever before

By Janadas Devan

(コメント) ここでは『共産党宣言』が持ち出されます.大国間の戦争が避けられ,三つの合意が概ね達成されているために,市場経済の拡大が史上まれに見るスピードで実現しました.三つの合意とは,@国家間の平和,A国内の民主的な意思決定,B富をもたらす自由市場というメカニズム,です.

ブルジョアジーは,封建的な,家父長制的な,牧歌的な関係を終わらせてしまった.」そして,人を繋ぐ超自然的な関係に代えて,剥き出しの,利己的で冷淡な「代金の支払い」だけが残る.ここでは,宗教的な情熱も,騎士道精神も,俗物の感傷も,氷のようなエゴの打算に消えてしまう,と.それが実現するのは,計り知れない自由の誓約などではなく,無自覚な自由,すなわち,自由な取引,です.

近代のもたらす正負の価値を見通したマルクスとエンゲルスの文章を,Devanは敬意を持って引きながら,世界がもうしばらく,この自由市場の波に委ねられるだろう,と考えます.そして,多くの災厄とともに生きるとしても,私たちは歴史上のいかなる時代よりも幸福である,と断言します.


WP Saturday, December 27, 2003

Enola Gay Reconsidered

(コメント) 広島に原爆を落としたエノラ・ゲイが,短い説明をつけただけで,ワシントンDCの航空宇宙博物館に展示されました.フセインの拘束と並ぶ,クリスマス・プレゼントであるはずも無いですが,アメリカ政府の姿勢を示すものだと思います.すなわち,「日本の広島で,実践に使用された最初の原子爆弾を落とした飛行機である.」

WPは,この説明では不十分である,と考えました.そこには,この事件の歴史的な意味はおろか,死者の数も言及されていません.この博物館が,第二次世界大戦の犠牲者を追悼する場でないことは確かです.このトルーマン大統領の決定が,日本との戦争を終わらせる上で,どれほど多く戦死者を減らしたかも,議論する場でもありません.しかし,また,ナチスやソビエト連邦,大日本帝国の爆撃機が,この博物館には展示されており,核兵器の使用よりも通常兵器による市民の犠牲者の方がはるかに多かったことを想えば,原爆が特に邪悪な武器であったと主張するのも適当でない,とNYTは考えます.

しかし博物館を訪れた若者たちに,この事件の意味を考える良い機会にしてもらうため,次の説明を付けてはどうか? と提案します.「エノラ・ゲイは,日本の広島に,戦闘で使用された最初の原子爆弾を落とした.これによって8万人が死に,第二次世界大戦は速やかに終結した.すでにこの戦争によって数百万人の市民と兵士の命が奪われていた.そしてここに,原爆の時代が始まった.」

強制収容所であれ,南京大虐殺であれ,真珠湾攻撃や沖縄戦であれ,戦争の過程を説明することは難しいでしょう.しかし,多くの人が死に,多くの人の暮らしが激変し,彼らに終生の苦しみを強いた以上,軍人や政治家,その時代に生きた人々は,犠牲者と後世に向けて説明しなければなりません.たとえば交戦国が互いの説明を比較し,展示を交換することも重要でしょう.


Dec. 29 (Bloomberg)

Bring on the Women! They May Help Japan Grow

William Pesek Jr.

(コメント) 日本の景気回復は続かない.その証拠は,小林さんを見れば分かる.と,Pesek Jr.は言います.小林さん,とは,大学を卒業して,海外旅行が好きな,3ヶ国語を操る女性です.彼女の職業と言えば,秘書,です.

女性を労働力として活用できないために,日本経済は二つのエンジンのうち,一つを止めたまま低空を飛び続けます.年功序列による男性労働者が,女性の昇進や子育てを拒むことで,日本は若くて有能な女性の労働意欲を殺ぎ,また出生率を低下させています.

積極的な差別の解消を,法律や制度,政府が担うべきでしょう.


NYT December 28, 2003

Where U.S. Translates as Freedom

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 反アメリカ主義に対抗する正しい答えとはポーランド(世界のポーランド化)である,とFRIEDMANは考えます.ポーランド人は,アメリカ人以上にアメリカびいきです.その理由は,ポーランドの歴史と地理です.ドイツとロシアの間で生きることが,どれほど難しいか,ポーランド人はよく知っています.

ポーランド人にとって,アメリカとは自由です.ポーランドの若い世代をめぐって,ヨーロッパ合衆国とアメリカ合衆国とが競争しています.ポーランドのアメリカ支持は,決して永遠に続くわけではありません.だから,FRIEDMANはアメリカに「自由を支持せよ」と言うのでしょうか? あるいは,ドイツとロシア(そしてフランス,イギリス)との「対立を煽れ」と言いたいのでしょうか?


FT December 29 2003

Lex: China syndrome

アメリカで選挙が近づくにつれて,人民元を切り上げるよう求める圧力は強まる.今のところ,中国は動じていない.社会の安定と,銀行ならびに産業部門の改革をすすめるために,人民元が国際競争力を維持する水準でなければならない,と.中国政府は圧力に抵抗できる.なぜなら,資本規制や,北朝鮮のような政治的カードを持っているから.それでも,金利を上げず,通貨も増価させないとしたら,国内経済の過熱を回避するのは至難の技だ.

1990年代初めの通貨政策による引き締めは遠い話だ.多分,景気の過熱は懸念されていないのだろう.過剰設備とデフレの部門さえある.毎年30%で投資を増やす不動産価格の上昇は顕著だ.2003年の通貨供給は21%も増えた.2004年は15−17%に抑える,というが,引き締めとは程遠い.たとえ政府が支出を抑えても,外国からの投資や,民間部門,半民営化部門,地方政府は支出し続ける.恵まれた収益と切上げの期待はさらに証券投資を呼ぶ.

特に重要なのは,中央銀行が輸出業者のドルを買い上げることで,人民元を供給することだ.商業銀行は,最近,それを不胎化するために国債を購入させられることに反発し,切上げ圧力を強めた.北京政府は固定レートの時代が終わったことを承知している.そして通貨バスケットに対して固定し直すという考えを広めている.あるいは固定に関する話し方を変えた.いずれにせよ,バスケットは他通貨を介してドルの比重が高く,投機を強めるだけだ.

完全な交換性は数年先の目標である.もし強制されるのでなければ.輸出に減速が生じても,8%の成長に向けて,国内消費で補えるだろう.すでにGDPの半分以上を占めている.しかし,アメリカ政府は喜んでばかりいられない.中国のアメリカ向け輸出が減れば,中国は財務省証券の購入も減らすだろう.こうした輸出に使用されている機械や原材料の輸入も減る.そして,もし中国がハード・ランディングになれば,世界は中国という4150億ドルの輸出先を失うかもしれない.

もし中国が行き詰まれば,もっとも大きな痛手を受けるのはアジア諸国である.アジアは中国の産業革命に,機械から原料まで,供給している.しかし,中国の成長には,国民全体を巻き込む資産市場のバブルがともなっている.


NYT December 28, 2003

The White-Collar Blues

By BOB HERBERT

(コメント) たとえホワイト・カラーの職場であっても,オフショア生産によって消滅する危険があるでしょう.しかし,知識や情報を処理する場合でも,貿易理論が示すのは,もし国際的に比較した生産コストについて外国の方が安ければ,その職場が国内から失われるのは避けられない,ということです.他方,この論説でHERBERTが強調するのは,企業の利益を増やすことで,ホワイト・カラーの職場が失われており,政府は雇用の確保に努めて労働市場を監視し,あらゆる政策を動員せよ,というものです.

貿易理論と雇用水準の関係は,内外均衡の達成,という古典的な問題の一部です.アメリカで失業が生じているとすれば,ホワイト・カラーの賃金が低下するか,あるいは景気が悪化し,物価や通貨価値が下落するでしょう.他方で,ホワイト・カラーの超過需要を生じる中国やインドでは,その賃金が上昇し,成長もさらに加速して,アメリカからの輸入を増やすでしょう.

もし異なる点があるとすれば,@ホワイト・カラーが,アメリカの政治において,ブルー・カラーよりも重要であること.A今までの保守派が,ブルー・カラーの労働組合を嫌ってきたこと.B金融自由化や知的所有権の保護など,アメリカにとって利益を増やすことが,ホワイト・カラーの失業という損失をともなうことに気づいたこと,などでしょう.

もしかしたら,21世紀のアメリカ政府は,労働者の団結や雇用の維持,管理貿易などに,積極的な国際合意形の成を目指すかもしれません.そして,資産の保有は問題として残りますが,知識や技術を独占することで拡大した所得格差が世界的に縮小するとしたら,私は,こうして世界は安定したグローバリゼーションの基礎を得るかもしれない,と思います.


ST DEC 30, 2003 TUE

2004: Much to hope for and much to ask about

By Eddie Lee

経済学を「陰鬱な科学」と呼んだのは,19世紀の小説家であり,歴史家でもあったカーライルが,友人のマルサスに刺激されてこの表現を使って以来だ,と信じられている.食糧生産を超えて人口が増加する,という予測は,技術を過小評価した点でマルサスの間違いであった.たとえばアメリカは,人口の5%以下で国民に十分な食糧を供給し,輸出も行っている.

2003年には,70年ぶりに世界的なデフレが懸念された.今や,その最悪のシナリオは回避されたようだ.実際,OECDもアメリカの成長持続,ヨーロッパと日本の回復を予測している.2004年に向けて,私たちは陰鬱な見方から楽観的な見方へと,同様に,転換してよいだろうか?

残された第一の問題は,サービスが急速に輸出可能な商品となり,世界経済に不安な影を広げることだ.知識集約型の職場もオフショア生産が始まって,需要が開発諸国から発展途上諸国に再分配される.もし十分な国内消費が追加されれば,開発諸国の成長は維持され,グローバリゼーションによるデフレは回避できる.

それゆえ,第二の問題は,マクロ政策による刺激は有効か? ということだ.特に世界経済を牽く機関車であるアメリカにとって,この問題は重要だ.政策的な調整ができなければ,不透明感が広がり,中東の治安やアメリカ・ドルの行方しだいで,回復は頓挫する.

フセインが逮捕されても,日本の財務省がドル買い介入を繰り返しても,われわれはマルサスの問いから逃れられない.彼は単に人口増加を問題にしたのではない.経済的な過剰を問題にしたのである.諸国が生産と消費において均衡を達成できないときに発生する,その過剰が問題であった.

世界の生産能力は人口増加を超えるだろう.それは,生産過剰という問題を提起する.そして雇用が問題となる.


FT December 30 2003

Democracy faces a stern test in 'new' Serbia

By Eric Jansson in Belgrade

Dangerous time for Serbian democracy

(コメント) 民主的な選挙が,これほど容易に? 民族差別や虐殺の放免,政争による政治不信に転化することは衝撃的です.

ラディカル党のSeselj と社会党の(獄中にある)Milosevicは,民主的改革派による安定化の失敗と腐敗,生活水準低下を攻撃して,その批判票を最も多く集めた.彼らはまた多くのセルビア人が抱く国際法廷への怨嗟を利用した.セルビア人にとって,国際法廷はセルビアにばかり罪をかぶせ,他の者,特にコソボ・アルバニア人の犯罪を無視している.

EUやアメリカは,セルビアの戦後処理において,その経済・社会の安定化よりも,国際犯罪の追及に重点を置いたことを反省しなければならない,とも示唆しています.


Dec. 31 (Bloomberg)

If Asian Currencies Rise Now, Don't Thank Snow

Andy Mukherjee

(コメント) スノー財務長官が要求したからではなく,2004年に,アジア諸国で投資が上向き,商業銀行の融資が積極的に行われるようになれば,ドルに対する介入は難しくなるはずだ,とMukherjeeは指摘します.

経常黒字を出しながら,自国通貨の増価を妨げているアジア諸国は,これまでバブルの後遺症で民間部門への融資を減らしてきた.それゆえ,ドル買い介入が融資の膨張とバブルをもたらすメカニズムは絶たれていたわけです.もし世界の景気回復が次第に確信されるなら,アジア諸国の投資も増大し,通貨政策は引き締めに転じなければバブルを再発させるかもしれません.少なくとも,為替レートを固定するために,国内のマクロ管理を犠牲にできないわけです.

しかし私は,不動産価格や資産市場が過熱しないように,取引が規制される可能性もあると思います.資本規制が正しい目的と手段によって機能するように,安定した成長を維持するため,国内の資産取引も正しく規制するべきでしょう.


NYT December 30, 2003

The Unkept Promise

(コメント) 世界の貧困を悪化させているのは,裕福な開発諸国の農業保護政策です.貧困を解消するためにも,彼らは市場を開放し,維持不可能な農業補助金を減らして,市場の歪みを解消して行くことで合意しなければなりません.アメリカとEU,日本は,選挙のたびに国内の農民を保護し,世界の貧困を無視してきました.それは分配問題を扱う政治的な合意形成メカニズムに,重大な欠陥があるからだと思います.

女性がそうであるように,農業や,公共部門(国有企業)に関わって発生している社会的コストを,その政治システムの内部で,明確に議論できなければならないと思います.


BG, 12/31/2003

The outlook for 2004

By Robert Kuttner

(コメント) 政治経済の行方を予測することは難しいです.アメリカの2004年をKuttnerに従って予測します.さて,あなたはどのシナリオを選びますか? 誰が最優秀預言者となるか!

1.政治

a)ハワード・ディーンが民主党の大統領候補となり,クラークを副大統領候補に指名する.民主党支持が高まり,ブッシュ大統領との接戦には敗れる.

b)ゲッパードとクラークが予想以上に善戦する.クラークの愛国的な演説が南部で受け,ゲッパードの中西部における支持で,ブッシュにぎりぎりで勝つ.

c)民主党大会は紛糾して行き詰まる.5回目の投票でヒラリー・クリントンに票が集まる.クリントンはエドワードと立候補するが,ブッシュに大敗する.

2.経済

a)景気回復が本格化する.失業率は低下し,株価が上昇する.外国投資家たちは証券投資し,インフレ率も低く,低金利が続く.

b)ウォール街が膨大な財政赤字に注意し始め,インフレへの警戒感が強まる.それゆえ次第に金利が上昇する.それはドルを強くするが,株価や雇用にはマイナスである.

c)貿易赤字が天井を突き破る.外国投資家はアメリカの債券から逃げ出す.ドル暴落.FRBはドル防衛のための高金利を採用し,深刻な不況へ.

3.外交

a)サダム・フセイン逮捕でイラク情勢が沈静化する.政府は市民生活の秩序回復で国連と妥協し,多国籍軍を受け入れる.スンニー,クルド,シーアの各派が憲法に合意し,大統領選挙までにアメリカ軍は帰国できる.

b)フセインが居なくなっても,アメリカ軍の駐留を非難する軍事各派はゲリラ攻撃を強める.国連は平和維持活動を拒否する.憲法は国民の代表に拠らず,合意され,内戦に突入する.ブッシュはさらに10万人の兵士を派遣する.

c)5回目のテロで,遂にパキスタンのムシャラフ大統領が殺害される.クーデタによりパキスタンでイスラム政府が成立し,そのブッシュは核兵器を抑えるために米軍を派遣する.

この三つの分野に関して,Kuttnerの予想は,1−a.2−b.3−b,またはc,です.


FT January 1 2004

How to sustain the global rebound

By Michael Mussa

(コメント) 世界経済の回復を維持するために,Mussaは5つの条件を出しました.

1.   主要工業諸国の金利は低く,まだ低いままであろう.しかし,今後,通貨政策の引き締めが必要になるとき,互いに協力して緩やかに調整する必要がある.その際,特にインフレ率が低いままで,日本のように資産価格の上昇が起きることが対応を難しくする.

2.   新興市場への資本流入を継続し,安定しなければならない.この点で,アルゼンチンの例が示したように,IMFと国際社会に改善すべき点が多くある.

3.   工業諸国は財政の健全化にも,中期的に,取り組むべきである.それは高齢化にも,民間部門の活性化にも,必要である.

4.   アメリカの経常収支赤字の規模を,外国投資家が進んで投資する大きさに抑えるべきである.それは過度に強くなっていたドルを減価させる理由でもあった.財政赤字と経常収支赤字という,双子の赤字をアメリカは減らし,他の諸国はそれを補う国内需要を刺激しなければならない.

5.   アメリカの経常収支赤字と製造業の雇用減少が反グローバリゼーション運動に結びつき,保護主義を強める.それに対抗して自由化を進めるべきである.

しかし,ここには,資本と貿易の自由化が,中央銀行とIMFによって正しく維持された経済活動の水準で,政治的に保証されるよう願う,という穏当すぎる主張しか読めません.IMFは,ECB以上に分裂した加盟諸国の立場を,アメリカや主要開発諸国を中心に要約するからでしょうか.


NYT January 1, 2004

What We Will Do in 2004

By COLIN L. POWELL

WP Thursday, January 1, 2004

Slavery in 2004

By John R. Miller(director of the State Department's Office to Monitor and Combat Trafficking in Persons)

ST JAN 1, 2004 THU

High price of advanced countries' mistakes

JOSEPH E. STIGLITZ

(コメント) アメリカは,そして国務省は何を目指すのでしょうか? すべての政治集団が政治的目的をもち,アメリカも多様な国民をまとめる国家として,また市場統合によるグローバリゼーションを支持し,世界最強の軍事力を保持する国家として,それにふさわしい政治的目的を掲げる必要があります.

パウエル国務長官の掲げる目的は,いずれもアメリカの政治的行動を正当化する国際的な支持を得るように工夫された呼びかけであると思います.アメリカは何よりも,自由と民主主義を世界のどこにおいても強く支持することを宣言します.それはアフガニスタンやイラクに対しても,中東の紛争(イスラエルとパレスチナ)に対しても,同様に求められます.アメリカはまた,いかなる理由であれ,人身売買や奴隷的な扱いを止めるよう,世界に対して強く求め,行動します.

アメリカの行動の正当性は,また,世界の経済的(物質的)繁栄を拡大することに求められます.それは,貧しい諸国を支援し,適切な統治と健全な経済・貿易・環境政策を採用するように求めます.自由な市場や自由貿易を制度化することも,その目的に添うものです.中央アメリカでも,中東でも,アメリカは自由貿易圏を提唱しました.

こうしたことが実現するためには,何よりも,安全が保証されなければなりません.セキュリティーこそ,すべての国際制度の基礎にあり,その性格が2004年の国際秩序を決定します.テロとの戦いや大量破壊兵器の拡散防止,麻薬の撲滅は,アメリカの国際行動を支える根拠です.新旧の同盟諸国と関係を強化したい,とパウエル氏は表明します.アメリカの進める,自由,繁栄,平和は,国際的な協調や国際機関の強化にも役立つはずだ,と.

アメリカが,他の大国と協力して,国際的に強い姿勢を示すなら,北朝鮮の脅迫は必ず失敗し,パレスチナもイスラエルも,民主的な国家として共存できるようになるだろう.それこそが2004年にも明確に存在する国際秩序であり,その強化,もちろんアメリカの利益に合致した国際秩序の構築が,アメリカ(国務省)の政治的目的です.そして,アメリカの外交政策が成功する鍵は,関係する諸国の協力です.

それは,アメリカという世界政府から地方軍閥や都市への,政治的参加(協力)要請状,というふうに読めます.これと,STIGLITZの描く一方的な大国化とは,どこが違うのでしょうか? アメリカは大国として国際秩序を破壊し,その経済的なツケを,イラクでも,カンクンでも,ドル暴落でも,支払わされている,と見ることができます.

パウエル氏の言うほど,アメリカ政府やブッシュ氏が,その政治的な価値を国際秩序の改革に措いてくれたら,と思います.他方,STIGLITZは,2003年の教訓を,イラクに限らず,どのような権力も少数の者に集中させ過ぎてはいけない,と要約します.

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The Economist, December 20th 2003

Crime and punishment: The case for a show trial

(コメント) これは所詮,見世物でしかない? 世界が注目する以上,その法廷は見世物であるしかないでしょう.しかし,それは単にフセインを裁くのではなく,同時に,アメリカが民主主義や人権,法の支配に尽くしたかどうかを裁くことにもなります.その法廷は国際的な基準に照らして正しい手続きで進められ,疑う余地の無い証拠がある罪以外は認められず,被告には弁護人や反証の機会が与えられ,公開されるべきだ,とThe Economistは要求しますそうすることで,特にイスラム社会において広まる,アメリカの汚されたイメージを払拭し,正義が成されることを知らしめることができるのです.

そして,イラクの秩序が法によって再建できるなら,日本経済も法によって再建する手続きを,もっと整備してほしい,と思いました.それは,以前から期待していた,法廷,官僚,日銀を正しく協力させることのできる,自民党以外の政治勢力を2004年に願うものです.


Half a century at The Economist: Not so hard labour

(コメント) The Economistに半世紀の間,記者として,最後は編集者としても勤めたBarbara Smithの回想です.中東問題でも,イラク戦でも,彼女はThe Economistの方針と対立する場合があったようです.それでも,記事を書き続けました.出産し,子育てもしました.The Economistの持つ議論の雰囲気と,寛大さに,彼女は給与や待遇以上の価値を見出したようです.


Political dynasties: Born to rule

(コメント) 日本だけでなく,世界中に,政治家の家系や議席の世襲が見られると知って,驚きました.確かに,ブッシュ大統領が父親から,クリントン前大統領が妻に,大統領職を譲りたいと考えているだろう,とは思いましたが.

それ以上に驚いたのは,世襲制には根拠があるだろう,というThe Economistの論旨です.優れた政治家がしばしば多くの政治家を輩出した家系に連なる者であり,政治的な個性や感覚が家族や幼少期から接する政治の雰囲気によって培われることを,まさに遺伝子のように客観的根拠とみなすからです.

私は,こうした家族に特権的に与えられた機会で政治が占有されることに反対です.一方で,必要なら政治家の養成学校や,政治を学ぶクラブ,ボランティア団体が知識を普及させる方が良いでしょう.他方で,政治家になる才能豊かな人々が,旧来の世襲システムでは,枯渇してくるのではないか,と思います.なぜなら,本当に優れた遺伝子は継承されず,むしろ汚れた遺伝子が生き残る結果,システムを変える力を失ってしまうからです.