IPEの果樹園2003
今週のReview
12/29-1/3
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月曜日に続いて,水曜日(12月24日)も補講日でした.補講をします,とは言ったものの,閑散としたキャンパスにたどりついて不安を覚えました.誰がこんな日に来るものか・・・? しかし,(なんとか)数名の熱心な出席者を得て,私はIPEの主要なキー・ワードや参考文献を示し,全体像を解説しました.
多くの出席しなかった学生諸君のために,その要点を書きます.講義は,1.IPE学説史,2.安全保障,3.貿易,4.国際通貨・金融,5.移民,6.グローバル・ガバナンス,から成っています.(予定通りに進まず,5と6は簡潔な紹介にとどまります.)
1. IPEの誕生と関連分野,主要な三つの立場(リアリズム,リベラリズム,ラディカルな批判派)について解説し,孤立や戦争ではなく,市場統合を前提に,協調するための国際秩序を形成する主体は誰か・何か,その行動をFBIから理解したい,と説明しました.
2. 人々は安全保障のジレンマから逃れるために権力を組織し,国際秩序を構築します.帝国化と覇権循環,その背景にある,異なった社会モデルを検討しました.また,勢力均衡とレジーム論を,過渡期の平和的な調整メカニズム(の萌芽)として問題提起しました.
3. 貿易と国際通貨・金融については,国際経済のテキストにほぼ従いました.貿易の利益と比較優位を説明し,要素賦存説と特殊要素説により,それがなぜ,誰に発生するか,を考えました.また,ダイナミックな発展との関係にも言及しました.保護主義の根拠やさまざまな政策の効果,自由貿易を実現する交渉メカニズムと国際機関にも触れました.
4. アジア通貨危機の経過や,発生・波及・終息のメカニズムを紹介し,現代の国際通貨制度(IMS)が通貨危機をともなっていることを指摘しました.そして,マンデルの三角形と,「変動レート制+資本の自由移動」という主要国・アクターの選択がIMSの性格を決めている,と議論しました.IMSの必要性を,国際金本位制と「ゲームのルール」論で示し,各国における調整政策の選択をクーパーの三角形で強調しました.そして最近の記事から,人民元の切上げやアメリカ経常収支赤字の意味を考察しました.
5. 移民は,単なる人口移動ではなく,国境を越えた,異なる社会・政治システムへの越境です.それが持つ意味や,政治的な抑圧,利用の形態について議論します.
6. グローバリゼーションと民主主義的な統治の可能性,もしくは歴史的限界を考えます.そして,安全保障・貿易・IMS・移民について,将来の国際秩序を展望します.
本当に,これで良かったのか・・・? 私の説明は不明確で,混乱したものでした.どうすれば良くなるのか,と自問を続けます.
この数日にわたって,NHKのアンコール放送「映像の世紀」を観ています.そこには,繁栄と恐慌だけでなく,おびただしい数の死者が映っていました.戦争と政治の性格が変化し,富や地位・名誉をもたらす経済・社会システムも大きく変化したことが分かります.
アメリカでは兵士の要望で女優がラジオのマイクに溜息を吹きかけ,日本では学徒出陣や神風攻撃のために若者たちが国を守る決意を語ります.その違いとは何から来るのでしょうか? 国家はますます人々の意識から乖離し,政治的目的のために真実を隠蔽し,人命を軽視しました.それは,人種差別や強制収容所,捕虜の虐待,都市への無差別爆撃,原爆の使用など,極端な形で示されます.
戦争は,決してすべての問題を解決するのではなく,新しい条件を与えて,それらを再現したように思います.勝利によって,人々は復讐心と支配欲を満たし,以前とそれほど変わりばえしない世界を,その破壊と復興によって正当化しました.それは21世紀も,おそらく,変わりません.
(エッセー部分が長くなりました.続きを読まれる方は,ここを,クリックしてください.)
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
Dec. 19 (Bloomberg)
China Sells Like Sex; Watch Out
William Pesek Jr.
ST DEC 19, 2003 FRI
Is China overheating?
(コメント) 今や投資家たちも中国の媚薬に本来の理性が麻痺しつつある,とPesek Jr.は嘆息します.何でも,「中国」と付けば,かつて「ドット・コム」がそうでしたが,SEXに飛びつくように,投資家たちが殺到します.2004年が「中国バブル」の年になる準備は着実に進んでいる?
Pesek Jr.が恐れたのは,China Life Insurance Co.の株式公開に殺到した投資の衝撃でした.中国の資本市場について,機関投資家の専門家は当然の警戒感を持っています.しかし,この巨大市場と労働コストや為替レートを考慮した生産立地としての有利さに,多国籍企業はじっとしている訳にも行かず,中国の高い成長率を見て,個人投資家と仲介業者も黙っていることなどできないのです.どれほどまじめな投資分析も,中国の示す催淫剤にはなす術がありません.
靴みがき屋が「中国株」の話をするようなら,慌てて全部売り払え,という経験則は,再び真実でしょうか?
STは,人民元をドルに固定している限り,中国経済が加熱する危険がある,というグリーンスパンの露骨な言及に反発します.実際には,中国はデフレを心配してきたのであり,2〜3%のインフレは問題になりません.さまざまな一時的要因でインフレが高まっても,政策によって銀行融資は抑制される予定です.金融システムの問題が資源配分を非効率にしている点を認めますが,むしろこれと,人民元の切上げを期待した投機的な資本流入を心配しています.
BG 12/18/2003
Rehearsing for Saddam
IHT Saturday, December 20, 2003
Allow an international panel to judge Saddam
AnneMarie Slaughter & William BurkeWhite
LAT December 22, 2003
Justice Beyond Hussein
By Daniel Jonah Goldhagen
(コメント) サダム・フセインを国際法廷で裁く理由を,BGの論説は,ミロシェビッチと比較します.民主党の大統領候補者を目指すWesley Clarkは,その類似点と差異を指摘します.
まず,彼らは数万人から数十万人を殺した政治指導者ですが,ミロシェビッチの方が,セルビア政府を通じてヨーロッパ全体を不安定化しました.他方,フセインはアメリカの軍事力によって政権を失いました.
ミロシェビッチの国際法廷は,彼に権力を与えたセルビアの政治システムを改革するために重要です.人々はテレビを通じて,ミロシェビッチが何をしたか,ハーグの国際法廷で議論されていることを知ります.ミロシェビッチが引き起こした戦争や,虐殺の真実を知り,ミロシェビッチのデマゴギーを打ち砕くのです.
同じことを,イラク国民と国際社会はフセインに求めています.彼ら二人は,あまりにも長く,国家権力を握って虐殺を続けたのです.それらを国際法廷で裁くことこそ,二度と起こさない,という誓いになるでしょう.
フセインの犠牲者が,イラク国内に限らないことも重要です.また,フセインの裁判は,イラク国内だけでなく,イスラム社会にも正当なものと受け入れられるべきです.イラクは,アメリカ,国連,アラブ連盟,EUなどから,その法廷のために判事を受け入れるべきでしょう.人道に対する犯罪は,それが国際法廷となることを示します.
それは,勝者による裁判や,単なる報復であってはなりません.審理は公開され,どのような罪も立証されるまで,被告は無罪です.そして,たとえ独裁者に対する戦争を拒んだ諸国にも,この裁判に加わり,国際社会の合意形成を促すものでなければなりません.
独裁体制が完全に支配した社会が生まれ変わるには,固有の難しい問題があります.体制に深く侵され,独裁者の虐殺に加担した者を完全に裁くことが,事実上,不可能であり,また,社会にとって望ましくない機能不全をもたらすことです.誰が裁かれるべきか,というのは,単に法的な問題ではなく,政治的な決定なのです.
独裁者の罪を強調して,彼とその体制に協力した多くの者を放免することは,正義を損なうでしょう.「誰を裁くべきか」は,その依拠する法律や法廷によって異なります.独裁者の下で犯された罪に対しても,できるだけ,正義が行われるべきであり,密室の審理によって告発されないまま黙認されるべきではないでしょう.しかし,敗戦後の日本やドイツがそうであったように,占領や復興のために,多くの犯罪者が治安や重要情報の鍵を握っています.
FT December 18 2003
Why US history holds a lesson for Europe
By James A. Thomson
(コメント) EU加盟諸国がブラッセルで憲法を制定する過程に合意できなかったことを,Thomsonはアメリカの歴史と比較します.すなわち,1787年,アメリカの13州も,緩やかな連合体から,より緊密な政治同盟へと転換したのです.
連合規約の改正には強い反対がありました.大きな州と小さな州が同じ一票であることを批判する意見と,州の代表ではなく,人民による直接選挙が望ましい,という主張に,反対する既存の政治家が多く居ました.そこで重大な妥協が図られました.議会を上下に分割し,各州の代表から上院を構成し,他方,下院は人口に従って議席を配分したのです.同時に,奴隷の数え方も(議席が増える)南部州への譲歩として組み込まれました.
新しい憲法は13州のうち9つの州が認めることで成立する,としました.反対する州には,腐敗した最後の州によって他の州の運命が握られる,というマディソンの強い批判によって早期の批准が促されました.また連邦主義者は,常に,重要な決定を州の政治家に支配されることを警戒していました.
こうした問題は,ブラッセルにおけるEU憲法の議論でも示されています.18世紀のアメリカと同じように,21世紀のヨーロッパ諸国も合意できるでしょうか?
投票と財源に関して,アメリカが @議会を上下に分割し,A政府の機能を連邦と地方に分割し,B金持ちは小さな政府を望み,共和党の基本理念を強化し,貧者や弱者は社会保障や政府による公正な介入を求めて,民主党の基本理念を強化した,という歴史から,ヨーロッパも,アジアも,そしてグローバリゼーションも,さまざまな制度的工夫を学ぶべきだと思います.
FT December 19 2003
Tequila sunset
(コメント) NAFTAをめぐって,アメリカ側から強い反対があった締結時に比べて,今ではメキシコ側からの批判が強い,と言います.それは,自由貿易はメキシコを豊かにする,という約束が期待外れであったからです.
FTは,自由貿易による利益がその国の経済的成功を説明する唯一の要因と考えるのは間違いだ,と応じます.メキシコの貿易が増えたのは,NAFTAより以前に行われた一方的な自由化によるものであり,NAFTAが成果を上げなかったのは,メキシコ側に教育投資・人的資本が欠けていることが重要である,と指摘します.その結果,自由化を進める中国に多くの工場を奪われているのです.
メキシコには,貧富の格差や環境破壊など,自由化の弊害が現れています.自由化とともに,その機会を生かす国内改革を実現しなければ,経済は成長できません.
FT December 19 2003
Goldilocks again
(コメント) 90年代の繁栄に関わる議論として,the Goldilocks economyというのがありました.インフレを起こさず,失業も出ないような,適度な需要水準が保たれている,という意味です.しかし,最後になって資産価格が過度に上昇しました.
アメリカも世界も,再びそのような状態に向かっているようです.貿易,技術革新,生産性上昇など,それを支える条件があるからでしょう.そして,唯一,アメリカの連銀にも予測できない問題が,アジアの中央銀行が買い支えているドル下落の行方です.
IHT Friday, December 19, 2003
Raising the bar on the military
Eric Heginbotham
(コメント) アメリカ政府は,日本が国外でも積極的に安全保障を担うように,政治的な圧力をかけてきました.今や日本は,海上輸送の警備や燃料補給,掃海作業だけでなく,初めてアメリカの占領政策を支援するために陸上自衛隊を送ろうとしています.
日本が再び軍国主義に戻ることを心配する声は,当然,アジア諸国にあります.しかし,専門家の多くは,一部を除いて,日本国民にそのような事態を支持する声は無い,と答えます.これについてHeginbothamは,かつて軍国主義を支えたのは国民の支持ではなかった,と注意します.
日本が軍隊に政府を委ねたのは,国民の多くが望んだのではなく,むしろ機能しなくなった政府に従えない官僚たちが軍部と融合したからではないか,というわけです.もしそうであれば,アメリカ政府は日本が自衛隊を海外で展開することを急ぎ過ぎてはならないでしょう.軍隊に対して,本当にシビリアン・コントロールが確立できるような官僚と政治家を,先に,育てるべきです.そうでなければ,突発的な軍事的緊張に対して,軍部の重要性が高まるのは避けられず,一握りの政治家に煽動される時代が再び来ないとも限りません.
LAT December 19, 2003
Some Dissembling Required
By Beth Joyner Waldron
クリスマスになれば,どこの子供もサンタにもらいたいプレゼントがリスト一杯に並ぶ.そして,どこの親も,かわいい子犬のような目に失望を浮かべさせたくないので,そのリストのおもちゃを買いに走らねばならない.
しかし,この休日の喜びも,サンタのおもちゃがノース・ポールの作業所ではなく,苦汗工場(労働条件が極度に悪い工場)で生産されていることを知れば,色あせるだろう.
おもちゃの生産は巨大産業であり,世界貿易量の1割に達する,とthe International Council for Toy Industriesは推定する.アメリカ人はおもちゃを愛し,子供一人に,年間405ドルを支出する.世界には14歳未満の子供が17億人居るが,アメリカはその内の4%でしかない.それにもかかわらず,購入されるおもちゃの37%を占める.
大量生産されるおもちゃなら,どれにも「メイド・イン・テャイナ」の表示が付いている.これこそ,the China Toy Assnが大いに誇りとする,世界のおもちゃの75%を作る中国の実力である.中国はアメリカの子供たちに提供するおもちゃの最大の生産者である.昨年,輸入された170億ドルのおもちゃの内,120億ドル以上が中国からであった.
中国がおもちゃ市場を制圧したのは,その生産コストの安さによる.アメリカのおもちゃ労働者が時給11ドルを得るのに,中国では30セントしかもらえない.そうであれば,よりやすいコストを求めて,おもちゃ工場が移転されるのもやむをえない.残念ながら,低コストというのは,しばしば,劣悪な労働条件を意味する.
海外工場は,国際的な人権擁護団体にとって長年の関心事であったが,中国に拡大する苦汗工場や,児童労働,強制労働について,この数年,報告書が出ている.その一つ,the National Labor CommitteeがGuangdong地域の(19工場で5万人以上を雇う)8つのおもちゃ大企業を調査した結果,たとえば,次のような人権侵害状況を見出した.
・ 交代制で,一日に15時間から16時間半も強制的に働かされる.繁忙期には20時間に及ぶ.連続して27時間働いた例もあった.多くの労働者が週7日間を働き,月に2日しか休めない者も居る.
・ 調査した工場の時給は12セントから14セント,週に72と1/4時間を働き,8ドル42セントにしかならない.
・ 労働者は有毒性の化学のり,塗料,溶剤を,安全のための保護もなしに使用する.しかも工場は,100度(華氏?)以上に達する.
19カ国のおもちゃ業者を組織するThe International Council for Toy Industriesは,苦汗工場への対応として,企業の行動基準を認定した証明書を発行している.しかし,まだ試行段階であり,審査には抜け穴が多い.大手の小売業者や流通業者が苦汗工場で生産されたおもちゃを締め出さない限り,おもちゃ産業の改革は単なる要望でしかない.
では,クリスマスを前に,苦汗工場のおもちゃを買いたくない親たちはどうすれば良いのか? クリスマスの朝,子供たちが嬉しそうにおもちゃを持って目覚めるのを望む限り,それが労働者たちを酷使した成果であって,地球を半周して届けられたと知っても,何もできることは無い.そして,この素晴らしいときが,失われたのを知る.
BG 12/19/2003
Chirac's fanaticism
IHT Saturday, December 20, 2003
Lifting the veil in France
Marwan Bishara
NYT December 20, 2003
Religious Symbols in France
WP Tuesday, December 23, 2003
In France, Scarves and Secularism
By E. J. Dionne Jr.
(コメント) イスラム教徒の女性が髪や顔,あるいは全身を隠すスカーフが,ヨーロッパにおける宗教戦争となるのでしょうか? 市場による社会の統合化や信仰の自由が,実質的に,保証されていないからこそ,こうした形のシンボルが重要になる,という主張と,新しい宗教戦争を法によって強制的に予防する,という主張とが衝突します.
NYT December 20, 2003
Lessons of Libya
FT December 21 2003
Bush's doctrine starts to yield results
By Amity Shlaes
The Observer, Sunday December 21, 2003
Sticks and carrots in Libya
David Aaronovitch, columnist of the year
(コメント) もし,1988年に,パンナム103便に乗っていた270人を爆弾によって殺させたリビアのカダフィ大佐が,核兵器の開発計画を放棄したことで,これほど評価を高めることができるなら,金正日も交渉を開始するほうが得策だ,と思うかもしれません.それが勝利であるか,敗北であるか,を決めるのは,政治家たちの姿勢と国民への説得なのです.もちろん,カダフィも金正日も,権力の座から退くべきでしょう.
フセインを逮捕し,カダフィが引退すれば,アメリカとイギリスにとって素晴らしいクリスマス・プレゼントになるでしょう.しかし,ニュー・ヨークやロンドンは安全になったのか? アフガニスタンやイラクの市民は平穏な生活を回復できたのか? 抑止ではなく,「次はお前だ」という先制攻撃原則が成果を上げたのか?
そもそも人口600万人のリビアが,アメリカを敵にして戦争することはできません.カガフィは理想主義者では無く,多分,現実主義的な対応をとっただけです.
NYT December 20, 2003
The China Threat?
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) 9・11を(ベオグラード大使館を誤爆したアメリカに報復できて)「スカッとしたなあ!」と書き込んだチャット・ルームだけでなく,西安の寸劇事件,ビジネスマンの買春観光,南京大虐殺の被害者数に関する歴史論争,無人島の領土争い,その他,日本人(日鬼)とその歴史や本質について,中国政府と若者の言動に見られるナショナリズムにKRISTOFは不安を抱きます.
近代化による社会不安と対立激化を,ナショナリズムの高揚によって乗り切ろうとした,かつてのドイツや日本は,世界の秩序を破壊し,戦争を引き起こす危険な国となりました.中国について,貿易摩擦を心配するよりも,その「被害者意識」と極端なナショナリズムに支持された政治が勢いを得ることを,もっと日本や欧米諸国は心配し,助言しなければなりません.
FT December 21 2003
Successful US foreign policy begins at home
By Richard Haass
FT December 23 2003
Why America must know its limits
By Michael Ignatieff
FT December 23 2003
Bush is all big stick and no soft speech
By Martin Wolf
(コメント) アメリカは,最強の国であるとともに,非常に脆弱な国になった,というパラドックスに関する考察です.すなわち,@テロ,A(身体や家畜などと,コンピューターの)ウィルス,B麻薬や犯罪,C地球温暖化,D保護主義,です.
Haassは,それが外部への重大な依存によって生じている,と指摘します.それでも,この世界を維持するために,アメリカは正しい目標を掲げて同盟諸国を説得し,外交において協力者を増やすべきである,と強調します.同時に,こうした外交の成功が国内政治に由来することを主張します.すなわち,国内のエネルギー消費を節約し,過度に減税を増やさないように求めます.
Ignatieffは,イラクにおいても,テロとの戦いにおいても,同盟諸国や友好国を集めることができなければ,アメリカは敗北するだろう,と考えます.そのためには,戦いの正当性が何よりも重要なのです.そして,もし協力を得て勝利できれば,世界がその利益を分かち合えるのに,アメリカの一方主義はそれを自覚せず,アメリカに協力する者は少ない,と嘆きます.
Wolfは,ブッシュ政権のネオ・コンとしての信条を,ウィルソニアン(ウッドロー・ウィルソンによる第一次大戦後の民主的な国際秩序構築の理想)的な演説と,その手段の拒否に見出します.民主主義は,国内の自由と豊かさによって確立され,他方,外国においては武力によって拡大されます.ブッシュ氏は,西欧や日本で占領政策が成功したように,イラクでもできる,と主張します.
しかし中東には,民主主義的な政府を阻む5つの障害があります.@民主的な伝統がなく,A政治より信仰を優先し,B経済に占める石油の比重が高く,C活気のある市場経済がなく,D自立した中産階級がいない.それに加えて,ブッシュ政権はセオドア・ルーズベルトの伝統である棍棒外交を復活させ,大声で恫喝しはじめたわけです.それは穏健な同盟者を疎外し,国際機関を破壊し,アメリカの狭隘な国益によってその選択を擁護する結果となりました.
軍事的に強制されなくとも正当性は得られますが,正統性を欠いた暴力は何も生み出しません.ブッシュ政権が依拠するネオ・コンの価値観は間違っている.民主主義は,暴力によって強制できるものではない,とWolfは批判します.しかしネオ・コンは,国家間で暴力だけが民主化を実現できる,と信じています.こうした価値観が,アメリカを孤立させるのです.
Dec. 21 (Bloomberg)
Japan Arms to the Teeth Over Strong Yen
David DeRosa
Dec. 25 (Bloomberg)
China Talks of Fixing Yuan to Currency Basket
David DeRosa
(コメント) 日本と中国の通貨政策を支える政治システムを比較しなければならないでしょう.
財務省や日銀は,なぜ止められるわけでもないドル安を阻止する目的で,介入し続けるのでしょうか? 円高のスピードを遅らせる以外に,実は,輸出業者の利益が政治家を動かしているからだ,とDeRosaは言います.
これは保護主義の説明でよく聞く議論です.輸入を阻止すれば国内生産者は集中的に大きな利益を得て,消費者は分散した不利益を薄く広く被ります.他方,日本の輸出業者は,円高によって集中的に巨額の損失を出しますが,輸入品を消費する業者はドル建で取引しており,消費者は薄く広く利益を受けます.日本の政治システムは,まるで資源を輸出する発展途上国のように,こうした利害関係を政策に反映し,それが逆に,経済そのものを化石のように停滞させている,と厳しく糾弾しています.
他方,中国の通貨政策は新しい選択に直面しています.すなわち,アメリカ・ドルに固定することを止めて,貿易取引額に応じた10カ国の通貨バスケットに対して固定することを検討している,というのです.しかしDeRosaは,そのようなシステムは扱いにくい,と注意します.なぜなら,主要通貨だけでなく,タイ・バーツやインドネシア・ルピーの動きにも影響されるからです.
しかも,バスケットによって人民元の水準がどうなるのか,まだ分かりません.もし貿易額に応じてバスケットを決めれば,100元が12.08ドルになるでしょう.もし通貨当局が,アメリカからの圧力を考慮して切り上げるためにバスケットを利用するなら,その通貨の比重を変えるかもしれません.
さらに,経常取引以外の為替管理を撤廃する問題の方が重要です.中国政府が規制を完全に撤廃し,為替レートを市場に委ねることは,当面,ないでしょう.グリーンスパンの公演は,貿易から通貨政策に,中国が関心を移すよう求めています.そしてDeRosaも,何に固定するかは重要でない,固定することを放棄せよ,と言います.
中国の政治システムが,日本よりも,為替レートの変動に対して柔軟であるかどうか,DeRosaは言及していません.
NYT December 21, 2003
Where Birds Don't Fly
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) アメリカの存在が,ますます,現代の十字軍の様相を深めていることを伝える論説です.安全のためにイスタンブールから郊外に移ったアメリカ大使館には,こんな表示があります.「警告します.あなたは今,アメリカ大使館に近づいています.突発的な動きを示せば,いかなるものであれ,銃撃されます.すべての来訪者を歓迎します.」
アメリカ人はますます要塞の中に退避し,その堅固な城壁や武装は,観光名所にさえなっている,と言います.母親に会うためイラクを訪れたトルコのジャーナリストは,彼女が極度に心配しているのを知りました.彼女は言うのです.「とにかく,アメリカ人にだけは近寄らないでほしい」と.
そのうち,外国で会えるアメリカ人といえば,軍服を着て武装した者しかいなくなってしまうでしょう.鳥も飛ばず,思想の自由も無く,友情も無い.もちろん,相互の理解も得られない.こんなシステムは続かない,と.
FT December 22 2003
The statesman and unstoppable war
By Dominique Moisi
(コメント) ブレアがブッシュとともにイラクと戦争を始めなかった場合,世界はどうなっていただろうか? とMoisiは考えます.ヨーロッパ同盟軍が安全保障のより大きな役割を担い,世界は国連を中心に,より多角主義的なシステムに近づいたのでしょうか?
そうでもない.ブレアが世論に従い,戦争に反対しても,アメリカは必ずフセインを武力によってでも取り除いただろう.また,EU憲法は内部の政治的な意志が欠けていたために頓挫しただろう.ブレアは,イギリスの政治的な伝統とEUの混乱を考慮して,自らの政治生命を損なうにもかかわらず,イギリスの利益のために戦争に参加した.それは,イギリスとフランスとの立場を際立たせたかもしれないが,それ以上のものではなかった,とMoisiは考えます.
The Guardian, Monday December 22, 2003
If Libya can do it, why not Israel?
Peter Preston
WP Tuesday, December 23, 2003
Grapes of Wrath
By David Ignatius
(コメント) アメリカが軍事力によってイラクやリビアを変えることができるなら,もちろん,イスラエルやパレスチナを変えることもできたでしょう.しかし,イスラエルの保有する200発以上?の原子爆弾も,占領して破壊した土地と人々の生活も,ブッシュ政権は気にしません.イラクとの戦争を始める際には,彼らも言及していたはずです.
Dec. 22 (Bloomberg)
`Bubble' Reenters Asia Investors' Lexicon
William Pesek Jr.
(コメント) アジアでは,通貨危機の記憶は鮮明でありながら,バブルの懸念が再来しています.タイ経済は6.3%で成長し,来年は7%もしくは8%の成長を期待しています.しかし,株価を2倍にした資本流入は短期的な性格です.改革が進んだとはいえ,アメリカや日本の2倍の成長を支持する条件はあるのでしょうか? そして,ふたたびバブルが起きれば,アジアへの投資を深刻な後退に導くでしょう.もしブームと破綻を繰り返したくなければ,アジアに生じる資産市場のバブルをもっと監視しなければならない,とPesek Jr.は考えます.
LAT December 22, 2003
'Napalmed Girl' on an Aid Mission
By Kim Phuc, Kim Phuc is founder of the Kim Phuc Foundation.
議会とホワイト・ハウスでは来年の予算をめぐって議論していますが,私はワシントンの政治家たちを回って,ヴェトナムでナパーム弾の炎から逃げるために道路を走っていた少女の,有名な写真を覚えていますか,と尋ねました.
私がその少女です.その日,私の人生は完全に変わりました.
31年前のその爆撃で,私は二人のいとこを亡くしました.体の65%を焼かれて,私は何度も手術を受けました.長い間,私は人を信用できませんでした.私は,自分の政府やアメリカ人,「正常な」すべての人を憎み,苦しみました.
母は私を助け,この苦難の道をともに歩みましたが,同時に厳しく,私に教えました.「世界のすべてがお前に同情してはくれない,ということを,理解しなければならない.お前がこのことに耐えて,強くなりなさい.」
もし母が私に教えてくれなかったら,私にはできなかったでしょう.
私は大人になるまでに,ヴェトナムからキューバ,最後はカナダに移りました.多くの医師や個人が私を助けてくれました.その最初の人は,あの写真を撮って,私を急いで病院へ運んでくれた,AP通信の写真家Nick Utでした.
私は幸せです.人を愛し,許せるようになりました.10代の頃,私は子供を持てず,誰にも愛されず,私に触れることさえ嫌がられる,と思っていました.しかし,私は今,結婚し,二人の素晴らしい息子がいます.
これほど多くの助けを受けて,私は幸せでした.私はいつも,この経験を人にも役立ててほしいと思っています.だから私は,戦場の子供たちのために基金,を始めました.
戦争によって傷つけられた多くの子供たちがいます.アフガニスタンやイラク,リベリア,コンゴなどの国では,戦争に巻き込まれていない子供の方がまれです.多くの子供たちが肉体的にも精神的にも傷つき,回復のために大きな助けを必要としています.
この1世紀の間に,戦争の性格が大きく変わりました.今では戦死者の90%が民間人です.しかも,その多くは女性や子供です.1990年代に,200万人以上の子供が戦闘において殺されました.約400万人の体に障害が残り,100万人以上が孤児となっています.戦場における女性と子供への支援は,最優先されるべきです.しかし,残念ながら,そうなっていません.
アメリカは長い間,さまざまな援助を行ってきましたが,戦争が女性や子供にもたらす恐怖から彼らを守ってやるのは不十分でした.すなわち,彼らは強姦され,手足を切断され,売春させられ,軍隊で子供が奴隷になり,精神的な障害を受け,家族が引き離され,難民キャンプで虐待されています.
私はこの状態を変えるために,多くの人権団体と協力し,議会を説得してきました.この10月,上院はこうした問題を扱う統合戦略を見出すように政府に求める修正を承認しました.それはまた,性的な搾取や虐待から利益を受けないよう,行動基準を修正していない団体への政府援助を禁じました.
これは,より包括的な法案the Women and Children in Conflict Protection Actに向けた一歩です.世界中にいる戦争の犠牲者を代表して,私は政府と議会にこの法案の承認をお願いします.
法律で,戦争や女性と子供への虐待を終わらせることはできません.しかし,少なくとも,戦争とその後の処理において,アメリカが何を優先しなければならないかを教えるでしょう.
LAT December 22, 2003
Amid Mud and Blood, Christmas Won Out
By Stanley Weintraub
(コメント) かつて一度だけ,クリスマス休戦が実現した戦争があります.それは第一次大戦が始まって数ヵ月後の,1914年のクリスマス・イブにおいて,フランダース地方で対峙したイギリスとドイツの軍隊でした.たった60ヤードしか離れていない両陣地で,兵士たちはクリスマスを祝いました.政府も兵士たちに,お菓子やタバコを入れた簡単な贈り物を用意しました.ドイツの兵士たちはクリスマス・キャロルを歌い,その言葉は分からなくても,イギリス兵にメロディーで伝わりました.そして,彼らも一緒に歌ったのです.一緒にサッカーも楽しみました.
しかし軍の上層部は兵士たちが交流することを好みませんでした.国益のために,彼らは戦争に勝利することを求めたのです.敵を憎み,殺し合いを始めるように,命じられました.しかし,Percy Jones准将はその日記に書いています.「われわれは別れた.多くの握手と,多くの善意をもって.」ロンドンのライフル隊に所属したGeorge Eadeも,ドイツ兵の言葉を伝えています.「今日,われわれは平和を楽しみ,明日は,それぞれの国のために戦う.幸運を祈る.」
第二次大戦において,すでに敵を憎むように教育された兵士たちは,クリスマスを一緒に祝うことなど無かった.信仰や文化を共有しない日米間の太平洋戦争では,クリスマスが休戦の機会になりえなかった.そして,信仰をもって殺しあうアフガニスタンやイラクの兵士とは,なおさらです.
クリスマス休戦は想像することもできません.戦争を終わらせることは,それを始めるよりもはるかに難しい,というのも分かっていたはずです.
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The Economist, December 13th 2003
Offshoring: Stolen jobs?
Relocating the back office
(コメント) 情報の移動が低コストになれば,情報処理に関わる労働が世界的に再配置されるのは避けられません.特に,英語圏では,インドなどに電話による質問・苦情への応対や,情報処理,ソフト開発,などが急速に移転されるでしょう.中国への工場移転とともに,今度は,インドへのホワイト・カラー職の移転が始まっています.
The Economistの特集は,@サービス貿易によって両国が利益を受ける.A法律によって職場を維持する試みが起きているが,無駄である.B実際に,移転できる職場はすべてではない.あるいは,一部は戻ってくる.
ところで,日本語のように,こうした職場の移転から守られている国は幸せでしょうか? 必ずしもそうではないはずです.
European Union: Might it all tumble down?
Charlemagne: Negotiating by night
(コメント) EUが何を問題にしているのか,また,どのように合意を形成するのか,期待と不安が集まっています.主要な問題は,@投票,A制度改革,Bイギリスの抵抗,C防衛,D移民・難民,E安定協定,です.
合意の方法は,期限を切った政治家の缶詰方式です.官僚を排除し,政治家たちだけで会議に臨み,緊急の救援以外はトップ官僚たちからも切り離されます.そして数十時間に及ぶ会議を続け,しばしば未明に合意するのです.それゆえ,現在の議長であるベルルスコーニが失敗すれば,何も決まらないわけです.
Islam in France: Scarf wars
(コメント) スカーフが問題なのではない,とThe Economistは指摘します.フランス政府は政教分離の原則を繰り返すばかりで,実質的な平等を議論しません.それは,マイノリティーの存在も認めない政府が,アメリカのようなアファーマティブ・アクションを認めたくないからです.そして,問題をスカーフだけに限定します.
The dollar: A central question
Economics focus: No pain, no gain
(コメント) アジア諸国が自分たちの相互貿易に自信を持ち,アメリカを輸出市場として重視しなくなれば,アメリカ政府が何と言おうと,ドルの水準は支持されなくなるでしょう.もちろん,そのときにはドル暴落が問題になるわけです.
他方,新興経済は危機を恐れ,国際資本市場を避難しますが,資本を規制して安定した成長を実現できるか,と言えば,そのような国の成長率は低い,と指摘されています.すなわち,安定性と成長とは,一種のトレード・オフにある,と言うわけです.
どちらの特徴も,現代のIMSに本質的な「合意の欠如」,あるいは市場への信頼と不安を示しています.