IPEの果樹園2003

今週のReview

12/15-12/20

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血まみれの少女を布に入れて運ぶ,老いたイラク人の,悲しみで歪んだ顔.第二次世界大戦のカラー映像では,日本軍が敗退した戦場で,アメリカ兵の配るお菓子をもらい,次々と小さな頭を下げて,両手で受け取る日本の子供たちを観ました.12月11日のNews23は,C・SPANの伝えた討論集会(外交評議会による)の内容を基に,戦争報道を問題にしました.

アメリカのジャーナリズムは死んだのか? 死んだ,と考える理由は,@従軍記者の安全を保障するのはアメリカ軍だ.Aブッシュ政権の判断ミスや明らかな嘘,陳腐な「使命感」を,賞賛し続けている.B国家が,戦場で死んだ記者を称える記念碑(記者の「靖国神社」)を作った.C言うことを聞かないジャーナリズムを締め出し,あるいは殺している? D所詮,メディアもビジネスだ.戦争について,国民が読みたい記事しか書けない.など.

死んでいない,と考える理由は,たった一つ.まだ,死んだかどうか,議論はできる! ブラック・ユーモアに近い答えです.戦争の際,真実を伝え,政治的な選択や立場を批判的に示すことは,平時よりも,はるかに難しいはずです.しかし政治家は,批判的なジャーナリズムにさらされているときだけ,正しいことを基準に行動するでしょう.真実について,必ず事後的に検証されるなら,たとえ戦争であっても,非人道的な殺戮や不正義を行わない(少なくとも抑制される)と思います.

インターネットに関しても,「テロとの戦争」に少し似た事態が起きています.“Fighting the worms of mass destruction” (The Economist, Nov. 29th 2003) インターネットの世界は,マイクロソフトがWindowsによって基本ソフトを独占し,情報交換を自由に(そして無料に)したまま,アメリカ政府がその管理を担っています.その上で,誰が,どのようなサイトを設けて,インターネット上に情報を流すことも,基本的に,個人が集まるクラブの問題です.

しかし,インターネットの世界にも,さまざまな営利活動や迷惑行為,政治宣伝,犯罪,テロが広がっています.なぜもっと厳しく取り締まれないのでしょうか? もちろん,世界立法府や世界法廷が無いことは問題です.しかし,マイクロソフトによる市場独占によって一気にウィルスが蔓延すること,またシステムのソースを故意に複雑化し,隠匿しているため,犯罪者の抜け穴がいくらでもあること,が批判されています.

こうして,インターネット世界の大地主であったマイクロソフト社のビル・ゲイツ氏も,インターネット上の犯罪撲滅を宣言しました.では,どうやって? 利用者の責任とコストでワクチンや検知システムを何重にも用意させるのでしょうか? あるいは,汚染された情報を提供する者を特定し,処罰し,賠償させることができるでしょうか? むしろ,製造物責任を類推して,このように犯罪行為に対して脆い情報システムを売っている企業に対して,消費者が損害賠償できるようにすれば,彼らが対処するのではないでしょうか?

しかし,Windowsは,欠陥自動車よりも,欠陥防弾チョッキに近い,とThe Economistは考えます.損害が発生するには,本人と生産物だけでなく,意図的な犯罪者の介入があるからです.あるいは,タバコのように,はっきりとした注意書きをしておくべきでしょうか? たとえば,運転免許を発行し,すべてのシステム参加者を仮想的なIDで管理してはどうか? 駐車違反の取り締まり,課税と徴税,脱税の摘発,売春の禁止,など,さまざまな社会管理がインターネットの世界にも出現します.

IMF改革や通貨危機を予防する仕組みをどうするべきか? 世界標準を導入できるか? あるいは,イラクの治安回復と最終的な民主化をどう進めるか? 同じような問題が,インターネットの世界も,常時,作り変えています.決して国家の管理を喜ばなかったこの世界に,仮想的な国家から実在の国家へと,権力のピラミッドが形成されます.意思決定だけでなく,法と秩序の問題をインターネットが解決できなければ,地上の権力がこの世界も吸収してしまうでしょう.

戦争報道も,インターネット犯罪も,私たち個人とこれほど深く結びつきながら,既存の政治的な主体は正しい解決策を示さず,それどころか問題の一部です.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT December 3, 2003

With U.S. Busy, China Is Romping With Neighbors

By JANE PERLEZ

ST DEC 4, 2003 THU

Regional community? Triangle of animosity stands in the way

By Felix Soh

(コメント) 中国はすでにアジアの超大国です.中国の首相が歴訪した東南アジア諸国は,彼を大歓迎しました.その市場と投資は,周辺諸国の繁栄の鍵となっているからです.他方,アメリカはマレーシアを訪れて,テロとの戦争を訴えました.アジア諸国は,中国の変身を歓迎していますが,まだ確信することはできません.その意味で,アメリカの役割も終わっていないわけです.しかし,アジアにおける超大国は,今や,アメリカではなく中国です.

東アジアの地域協力を制度化し,強めるために,韓国がフォーラムを開きました.韓国の主催者は,Kポップの音楽でアピールし,若者たちが舞台に上がりました.中国からの代表は,むしろ観光やショッピングに忙しいようです.日本からは,重量級の官僚OBと政治家(黒田・柿沢・榊原)が参加しました.そして,ハイライトは英語による討論会です.アジアの意識,アジアの夢を,地域統合に結びつける努力は,各国でまったく自発的に起きていますが,まだその目的や手法は大きく異なっています.


BG, 12/3/2003

Israel's unholy wall

By Tom Wallace

(コメント) ローマ法王は,「聖なる土地が必要としているのは,壁ではなく,橋である」と述べました.国連のアナン事務局長はイスラエルのよる隔離フェンスを強く非難し,144対4で非難決議を行いました.しかし,安保理ではアメリカだけが反対し,拒否権を行使しました.

ブッシュ大統領は,自ら示したロード・マップを歪める,としてこの壁を非難し,アメリカが今年,イスラエルに認めた90億ドルの債務保証から,2億8900万ドル(その建設費用?)を削減しました.イスラエルはこの壁を,自爆テロから自国民を守るためである,と説明します.しかし,パレスチナ人は村や畑を分断され,隔離されています.壁とは一体何なのか? と,Wallaceは問い掛けます.

壁は,フェンスや有刺鉄線,高さ26フィート(約8メートル)に及ぶ隔壁からなり,さらに二車線の軍事パトロール用道路,警戒タワーを備え,片側に13フィートの深さの塹壕が掘ってある.こうした壁が町や村を取り囲み,住民たちを囚人にする.この壁を建てるためだけでも,オリーブ畑や農地が,何千エーカーも破壊された.

この壁は,1967年に国連が引いた境界線,いわゆるグリーン・ラインにも従っていません.すでに今でもヨルダン川西岸地区に4マイル入り込んでおり,さらに計画では13マイル入って,イスラエルによる多数の入植地を結ぶつもりです.イスラエルの元国会議員は,その目的を「覇権を得ること,水源を確保すること,入植地をイスラエルに事実上併合すること,パレスチナ人の領域を,小さな孤立した飛び地にしてしまい,境界地域からパレスチナ人を一掃すること」,と書いています.

「壁は,破壊,分断,イスラエルへの国際的共感の喪失を意味し,絶望,やりきれない思い,テロリズムが悪循環」をなす,とWallaceは考えます.


Lex: Steel

NYT December 4, 2003

Bush Rescinds Tariffs on Steel Imports, Averting Trade War

By BRIAN KNOWLTON, International Herald Tribune

(コメント) ブッシュ氏が鉄鋼関税を取り下げたのは,WTOの判定やEUの報復を恐れたというよりも,結局,鉄鋼を輸入から保護する必要がなくなったからです.特に,通貨政策面では,アメリカが名指しで批判していた中国が,鉄鋼を大量に輸入して価格を引き上げてくれました.しかし,この厚顔な保護主義によって,ブッシュ氏の政治的な評価は,安定協定を無視したフランスやドイツのEU内評価と同様に,国際的に暴落したはずです.

アメリカの鉄鋼労働者は,ブッシュの裏切りを,ヨーロッパからの脅迫に屈した,と非難しているようです.とはいえ,関税がなくなっても,鉄鋼企業の株価は上昇しています.他方,アメリカの消費者,鉄鋼以外の製造業,WTO,EU,その他の鉄鋼輸出国は,もちろん,貿易戦争を回避できた,と歓迎しています.

ゼーリック通商代表に言わせれば,関税が導入されたことで,鉄鋼部門の厳しい雇用削減は回避されたのです.急激な輸入増加を抑制する関税政策は正しかったし,その目的は達成された,と成果を強調します.同時に,非効率な生産力は廃棄され,企業の整理も進んだ,と.EUの脅迫とは独立した,これはアメリカ政府の決定である,と主張します.他方,EUは次に,アメリカの補助金を,WTOに違反している,と狙っています.


BG 12/4/2003

Bush's steel trap

ブッシュ大統領が昨年導入した鉄鋼関税は,保護主義が政治的にも,経済的にも,いかに危険なものかを良く示している.

ブッシュ氏は最初,30%に及ぶ関税を鉄鋼の輸入に課した.それはオハイオやウェスト・ヴァージニア,ペンシルヴァニアのような,工業地帯の票を得るためだった.今,彼は,勝者のない貿易戦争で,ヨーロッパや日本からの報復関税に怯えて,フロリダやサウス・カロライナのような重要な州が彼を支持しなくなるリスクを知った.WTOが先月,ブッシュ氏の関税を違反と判定したからだ.二つの選挙地盤で不満が広がっている.自由貿易の基本に返って,関税を取り消すときだ.

政治的に問題を生じた以上に,関税は経済に利益よりも損害をもたらした.鉄鋼価格の上昇は追加もコストを意味し,保護された雇用よりも多くの職を奪っただろう.関税はまた,金融市場にも不評である.

外国からの輸入に,公平な競争をもたらす,という言い訳にもかかわらず,関税は,カナダ,メキシコ,イスラエル,日本など,主な貿易相手国に免除されるという,不公平なものだ.また,ブッシュ氏は今週もピッツバーグで,86万ドルもの選挙資金集めに忙しかった.そこにはUSスティールの会長なども招かれていた.鉄鋼会社はブッシュ氏に提案された3年の保護を続けるよう求めた,という.ブッシュ氏は,この業界に再編のための猶予を与えた,と強調した.

しかし,産業の勝者や敗者を選別する政策よりも,ブッシュはアメリカ経済の基礎をもっとうまく管理しなければならない.財政赤字を減らし,莫大な貿易赤字を減らすことだ.そして,教育や訓練にもっと投資し,自由貿易によって職を失う労働者が,もっと将来のある職場に移すべきだ.

グローバリゼーションは,アメリカの労働者全体にとって利益をもたらし,止めることはできない.民主党であれ,共和党であれ,保護主義政策は他人のためのように見えるが,しかし実際は,選挙戦で重要な州だけでなく,アメリカ全土から安定した高収入の職場をなくしてしまう.


LAT December 4, 2003

Search for a New U.N. Role

By Kofi A. Annan, Kofi A. Annan is secretary-general of the United Nations.

(コメント) アナン事務総長による国連改革への呼びかけです.この呼びかけは,たとえ十分に注目されなくても,世界の政治主体を統合する明確な意志を求めています.世界は新しい脅威に直面しており,古くからある飢餓や水不足,環境破壊や疫病,などと,新しいテロの脅威とが,まったく別々に議論されることを批判します.世界に古くからの不幸を担う人々がいる限り,世界のもっとも裕福な,特権的な人々でさえ,安全ではないのだ,というアナン氏の主張は,ブッシュ大統領にも,アル・カイダにも似ています.しかし,多くの破綻した国家や社会を救済し,多くの行き場を失った子供たちを助けてきた,という自負を示しながら,特定の国家ではなく,国連こそ,新しい脅威に取り組む世界の政治的な意志を示す機関にしてほしい,という呼びかけは,彼ら国際官僚が目指す世界国家の理想を忠実に描いていると思います.

国連は,天国を約束する機関ではない.しかし,地獄から抜け出すための機関である,と.


BG, 12/4/2003

Geneva is a blueprint for war, not peace

By Jeff Jacoby

FT December 5 2003

Geneva's threat to democracy

By Christopher Caldwell

(コメント) イスラエルとパレスチナが平和的に共存できる解決策のことを,カーター元大統領が「最終的な解決」と呼ぶとき,Jacobyには,それがヒトラーのユダヤ人抹殺計画と同じに聞こえます.オスロの和平こそが,その後,もっとも深刻な流血をもたらしていることを知らないのか? かつてヒトラーがチェコを併合することを,イギリスのチェンバレン首相が同意したように,ジュネーブに集まった連中はイスラエルの将来を話し合った.つまり,ユダヤ人抹殺の大集会だ!

あるいは,Caldwellは,その集会がイスラエルの民主主義を無視し,シャロン政権を非難する左派だけによって組織されたことに憤慨します.これは自由なフォーラムではなく,政治的党派の宣伝だ.すべての代表を含まない話し合いに,民主主義を冠する理由は無い,と.

流血と憎しみを蓄積する中東紛争を和解に導くことが,アラブ世界の民主化や,平和と繁栄をもたらすためには重要でしょう.ますます多くの集会が海外でも開かれ,彼らに失われた民主主義や公平性を回復する助けになることを,私は期待します.


FT December 5 2003

Not the fairest way to pay

By Michael Prowse

The Guardian, Friday December 5, 2003

Quit while you're ahead

Polly Toynbee

The Economist, November 29th 2003

Universities: Dons bring in the dough

(コメント) 私は,大学で給与を得ている人間として,イギリスの大学改革に関心を持ちます.もし大学がいくらかでも社会的に意味のあるものであれば,他の人にもそうでしょう.

Prowseは,大学がもっと資源を必要としていることを認めていますが,大学が競争して,学生に異なる学費を支払わせることには反対します.それは「社会的な公正」を損なうだろう,という理由です.イギリス人には鉄道という失敗例があります.なんでも市場に任せれば良い,というのは間違いです.たとえば公共の性格が強い物は,市場に任せてはいけません.

民主主義では,ある物は市場によって供給され,他の物は税金によって供給されます.Prowseは,病院も学校も,後者のケースである,と考えます.高い学費を融資すれば良い,というのは,学生を全体として見れば正しいかもしれませんが,実際には間違いです.それは一握りの金持ちの子弟だけに,トップの大学を独占させるでしょう.ホテルと同じように,サヴォイ・ホテルに入る者と,ヒルトンに入る者,そしてベスト・ウェスタンに入る者は違うのです.社会を金で階層化するのは間違いだ,とProwseは主張します.

Toynbeeも,階層化された教育制度を批判します.確かに,オックスブリッジの法学部学生には将来の高収入が約束されているのであり,彼らに安い学費という補助金をやるべきではありません.しかし,競争がその解決策なのでしょうか? 優れた大学の,高い学費に集まる,高収入の親を持つ子供たちが,ますます良い大学を支配するでしょう.他方,労働者の子供たちは,悪い成績と粗末な設備に甘んじ,安い給与の先生から学びます.もし社会的公正を実現したいのであれば,5歳以下の子供たちにこそ,補助金をやるべきだろう,と.

The Economistの記事は,イギリスの大学が二つの異なる世界を持っている,と言います.一つは,国が補助して安い学費を支払う,ほとんどイギリス人の,通年学生たちが構成する大学です.彼らはぎゅうぎゅう詰めの教室で,政府による労働者の進学奨励という方針に従います.もう一つは,スタッフにも,学生にも,研究費にも,競争を取り入れた,外国からの短期の大学院生を中心とした,コースの価値を学生が厳しく吟味する大学です.

後者の方が,The Economistの支持する,移動性に富んだ,柔軟で,前進的な大学です.企業によって研究費が提供され,はるかにダイナミックで,タフな研究を行い,世界で最も優れた,もっとも良く働く,天才たちを擁します.学費を変えるだけでは,こうした機関を養えません.その意味で,ブレアの描く改革像は幻だ,と批判します.

海外の学生たちを支援する家族の所得が上昇するにつれて,ますます外国からの留学生は高額の学費でも支払うようになるでしょう.他方,イギリス人の多くは学費が払えません.それゆえ,大学の中に,海外からの需要が高い,それゆえ高い学費の学部と,需要の低い,低額の学部とが,格差を生じます.もし政府が,後者を衰退させたくなければ,補助金が必要です.もちろん,イギリス社会がその科目や専門家を求めるなら.

留学生だけでなく,すべての学生に対して,学部を常に再編し,学生たちの勉学を励まし,あるいは厳格に落とす必要があるでしょう.すべての大学がLSEにはなれません.


IHT Friday, December 5, 2003

Bush can break the free fall in U.S.-China relations

Elizabeth Economy

NYT December 5, 2003

Unneeded Quarrel Over Taiwan

LAT December 8, 2003

U.S. Is Caught Between Two Governments Glaring Across a One-China Policy

By Harvey Feldman

ST DEC 10, 2003 WED

US-China ties a picture of contrasts

TOM PLATE

(コメント) アメリカと中国の関係が安定し,貿易や金融,安全保障や人権,エネルギーなどに関して,両者が互いに合意しないまでも,相手の立場を理解していることが,今後の世界を平和で繁栄したものにする重要な条件である,と誰もが主張します.

台湾海峡に関して,クリントン政権は中国を世界市場に統合化するために,この問題を意図的に避けましたが,ブッシュ政権は中国との対決も辞さない,として強調しました.台湾の陳総統は,一方的な独立を次の選挙の争点にするかも知れず,中国側は警戒しています.

そして,台湾独立だけが問題ではなく,いずれその対立は,アメリカと中国のどちらの側について,貿易し,投資し,戦争するのか? という問題にもなる,とPLATEは考えます.もちろん,そうならないことが,アジア諸国にとっては絶対に望ましいわけです.


LAT December 5, 2003

High Productivity Is Fine, but It's Just Not Enough

By Everett Ehrlich

NYT December 5, 2003

Too Few Hires, Still

BG, 12/9/2003

Growth without jobs

By Robert Kuttner

(コメント) 高い生産性の伸びは,景気回復を見て楽観的にもなれば,失業増を見て悲観的にもなります.生産性が高ければ利潤は増え,それゆえ投資が増えるはずです.雇用が減る理由はありません.しかし,景気が下降から上昇に転じる際に生産性の伸びが顕著になる,とEhrlichは指摘します.そして,投資家は景気が良くなると確信しない限り,新しい投資を先延ばしにするでしょう.すると,それは失業に転じます.だからこそ政策が,安定した回復を確実なものにしなければならないわけです.

これは回復の始まりだ,とブッシュ政権は考えています.しかし,世界市場はその説明を信じていません.すなわち,アメリカに投資せず,ドル安を続けています.アメリカの財政赤字,アメリカの保護主義,アメリカのイラク占領統治,その他,アメリカに不安を見ています.債務に依存したアメリカは,毎月,海外から500億ドル(一日あたり約15億ドル)の資本流入が無ければ維持できないのです.

Kuttnerは,アメリカの雇用が伸びない理由を探します.@利潤の増加は,雇用ではなく,経営者たちの報酬になっている.A他の豊かな諸国(ヨーロッパ,日本)の成長率が,アメリカよりも,低すぎる.B他の貧しい諸国(中国,インド)の賃金が,アメリカよりも,低すぎる.C豊かな国も,貧しい国も,自国の産業を保護し,多様化するために,補助金を出している.その結果,世界は成長を抑えられ,雇用を減らしている,とKuttnerは考えます.

ブッシュ政権は,こうして多国籍企業が低賃金から多くの利益をあげ,その多くを経営者たちの報酬として,彼らを喜ばせています.しかし,それは選挙にとって好ましいことではないでしょう.結局,大企業ではなく,労働者たちがより多く投票するからです.


NYT December 5, 2003

Looting the Future

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ブッシュ氏は,メディケアと大量破壊兵器の除去,という成果について(もちろん,もし,そんな成果があったとして),将来の世代に対して課題を積み残したくなかった,と自慢しました.しかしブッシュ政権は,イラクでフセインを追い出した後に何をするか考えていなかったように,今のさまざまな政策が将来に何をもたらすかについても,何も考えていないようだ,とKRUGMANは批判します.

そして,それが実際には「将来世代からの略奪」である(イラクで起きているように),というアカロフの批判を支持します.


WP Friday, December 5, 2003

China's Intellectual Renaissance

By Ezra F. Vogel

(コメント) 25年前にケ小平が中国を開放してから,さまざまな形でそれが社会に影響を与えてきましたが,Vogelは,このルネッサンスが中国社会を完全に変える力を持っており,もう決して後退できない水準に達した,と考えています.つまり,西洋の文明と中国の文化とを組み合わせる戦いは終わったのです.新しい考えが中国社会を作り変えるでしょう.その導管となるのは,中国からアメリカへの留学生たちです.

Harvard大学のKennedy School of Governmentには,人民解放軍も含めて,さまざまな階層から,多くの留学生が訪れます.留学生たちは,国際安全保障,地方政府の効率改善,金融,管理,マーケッティング,法律の作成と実施,知的所有権,腐敗防止などを学びます.

中国からの学生や研究者は,あらゆることを質問し,新しい知識を吸収します.伝統文明の何を残すべきか? 何を修正すべきか? 西側の政策の何がもっとも有効か? どのような社会を望むのか? SARS,AIDS,汚職,移民,階級格差,貧困,社会的抗議行動,その他について,対処の仕方を学びます.中国からの留学生を抱えるクラスや研究機関は幸せだ,と言います.彼らは熱心で,開放的で,機敏かつ有能,そして事態を新しい視点から考えるように,われわれを促すから,と.

Vogelは,彼らが中国社会の内部に改革をもたらすと信じています.しかし,なぜ日本は変わらなかったのでしょうか? 明治維新以後,同じような経験を通じて,日本における西洋文明は文化に呑み込まれ,完全には勝利しませんでした.中国においても,真実は中間ではないでしょうか?


WP Friday, December 5, 2003

Fiddling While the Dollar Drops

By David Ignatius

FT December 6 2003

Europe's challenge

NYT December 5, 2003

Euro Reaches a New High as Central Bank Stands Pat

By MARK LANDLER

The Observer, Sunday December 7, 2003

Global growth hangs in the balance

William Keegan

ST DEC 9, 2003 TUE

The trouble with a weakening US dollar

By Eddie Lee

Dec. 9 (Bloomberg)

No Shades of Grey in Global Imbalances Debate

Caroline Baum

(コメント) 世界の投資家がアメリカの資産を売却すれば,ブッシュ氏の財政刺激策は予想外の金利暴騰によってその効果を逆転されるはずです.新興市場が通貨価値を維持し続けたように,アメリカも自国の資産価格や金利を対外不均衡によって調整することを否定し続けます.なぜなら,アメリカは特別だから?

ドル暴落の破局シナリオは,ウォーレン・バフェットのようなヴェテラン投資家が予想しており,すでにドル安と保護主義を操るアメリカの景気回復に疑いの目を向けています.もし投資家がアメリカへの資本流入を躊躇すれば,それは急激な逆流になるまで止まらないでしょう? 他方,もし民間投資家がそれを避けられないとパニックになっても,日本と中国は踏みとどまるのかもしれません.そのとき,アジア諸国が抱えるドル資産が巨額の損失をもたらすことに対して,世界の政治と市場はどのように反応するでしょうか?

Ignatiusは,アメリカ政府と連銀が,投資家を安心させるような選択を今すぐに示すよう求めます.すなわち,政府は赤字を削減し,金利を引き上げることです.それは不況をもたらすかもしれませんが,それこそ破局シナリオを予防する道なのです.そして,タイでも,日本でもそうであったように,政治家は決して自ら不況を選択しません.グリーンスパンだけが頼りです.

FTもアジアの中央銀行によるドル買いを指摘しています.しかし,その先はWPのIgnatiusと異なり,ECBです.なぜなら,アジア諸国が自国通貨の増価を拒めば,それで戻る資産から逃れようとする投資家は,ユーロやポンド,オーストラリア・ドルを買うからです.もしECBがユーロ高によるデフレ効果を金利引下げによって緩和すれば,ドル暴落も緩和されます.ところが,ECBはこの役割を嫌っている,とFTは考えます.すでに財政規律を無視したフランスとドイツに憤慨しているときに,アメリカ政府の放蕩にまで資金を供給してやるだろうか? と.

ECBがユーロ高を静観していられるのは,ヨーロッパの輸出が好調だからです.しかし,それは危険な楽観かもしれません.もし中国経済が過熱しており,アメリカのドル暴落や金利急騰が景気回復を挫き,ユーロの暴騰と輸出低迷に直面する恐れは,実際には,かなり大きいのです.

Keeganは,通貨当局が協力する必要を示唆します.政府が為替レートを決定することはできないし,為替市場への介入は無益で,有害でさえある,という現代の「信念」を,かつてドル暴落を回避することに奔走したP.ヴォルカーは認めますが,それでもユーロ/ドル・レートを安定化するべきだ,と考えます.OECDは,アメリカの景気回復が,財政赤字と経常収支赤字を,短期資本の流入に依存している姿を,非常に危険である,と警告しています.もちろん,よく知られているように,IMFが危機前のタイに同じ警告をしました.

STのLeeは,こうしたユーロの大幅な変動に対して資本規制の噂があることを議論しています.ドルが外貨準備として受け入れられている以上,基本的にアメリカが債務不履行になる危険はありません.しかし,ドル暴落が繰り返される危険は高く,むしろ避けがたい,とLeeは考えます.かつてのように日本がドル買い支えを行う能力も意志も欠いているとしたら,ドル暴落をとめる手段として,資本規制が話題に上るでしょう.アメリカは資本流出を規制するでしょうか? あるいは,EUはユーロ高を抑えるために資本流入を規制するでしょうか?

成長すればするほど資本流入に依存する,というアメリカの成長パターンは間違っており,このまま持続できるものではありません.Stephen Roachは世界的な均衡の回復を主張してきました.GDPの5%に及ぶ経常収支赤字は必ず抑制されるしかないのであり,問題はそれが円滑な世界的調整として行われるのか,それとも,突発的なアメリカの緊縮となるのか? です.

Baumは,Roachの調整過程を聞いて不思議に思います.それは,ドルがさらに15%減価し,同時に内需から外需(輸出)に成長パターンを転換する,というからです.内需は弱すぎるから刺激する,というのであれば,今の政策は一層のドル安を繰り返させるかもしれません.

もし輸出に依存した貿易相手国の成長率が低いままであれば,アメリカが不況になっても,貿易収支が改善することは望めないでしょう.日本とヨーロッパの構造的な成長減速が解消されなければ,アメリカの経常収支赤字も構造的となります.

三つ目の調整過程とは,アメリカが財政緊縮策をとって,国内貯蓄を増やすことです.しかし,これは政治的に受け入れがたい選択です.いっそ,グリーンスパンのように,赤字を悲観的に見ないほうが良いかもしれません.赤字は今に始まったことでもない,という新しいビナイン・ネグレクト政策です.

1980年代前半の経常収支赤字は,アメリカの巨額の財政赤字に金利が高騰し,ドル高が進んで起きました.その規模は絶対的にも,GDP比でも,今より少なく,日本やヨーロッパの経済は好調でした.だから,ドル安によって調整できたのです.


NYT December 5, 2003

Wal-Mart Invades, and Mexico Gladly Surrenders

By TIM WEINER

(コメント) アメリカを呑み込んだその企業は,今やメキシコを呑み込もうとしています.世界市場を形成することでアメリカに包摂するのは,アメリカへの留学生とともに,アメリカからの直接投資や銀行・企業の買収,特にウォル・マートです.

メキシコで10万人以上を雇用するウォル・マートは,すでに雇用者数でメキシコ最大の企業です.ウォル・マートは,メキシコの市場を作り変え,企業のゲームのルールを変えてしまいました.彼らがメキシコを征服する方法は,アメリカと同じです.価格を引き下げ,生産性を高め,労働組合を禁止し,賃金を抑え,納入業者には最低のマージンしか与えず,何でも他のどの店より安くするのです.

それはアメリカでもヨーロッパでも,デフレを広げ,地元の商店街を破滅させた,と非難されます.しかし,不況に苦しむメキシコでは,かつてNAFTAをアメリカの帝国主義として反対したような,ウォル・マートを非難する声は小さくなります.多国籍企業の直接投資であっても,それが安い商品と雇用をもたらしてくれるなら,メキシコは歓迎します.

昨年,メキシコの人口の約6倍,5億8500万人がウォル・マートで買い物をしました.ウォル・マートは,メキシコのGDPの2%,スーパーマーケットの30%,小売業の6%を占め,アメリカ国内とほぼ同じ水準です.メキシコとアメリカは,包括的な収斂を進めている,とかつてのNAFTA交渉担当者は言います.

すでにウォル・マートは,カナダ,アルゼンチン,ブラジル,ドイツ,韓国,プエルトリコ,イギリスで最大の小売業者です.その売上は世界全体で2450億ドルに達します.他方,アメリカの組合を認めているスーパーマーケットの賃金は1時間あたり19ドルですが,ウォル・マートは組合を認めず,その賃金は1時間あたり9ドル,メキシコでウォル・マートに雇用される新しいレジ係は時給1.5ドルです.


Dec. 8 (Bloomberg)

`China.com' vs `Japan.bomb' -- Reality Check

William Pesek Jr.

The Guardian, Monday December 8, 2003

Japan rebuilds with hi-tech colossus

Larry Elliott

FT December 9 2003

Japan is as far from a cure as ever

By Martin Wolf

(コメント) 日本はすでに昨日の話だ.明日は中国のものだ.こんな印象は間違っている,とPesek Jr.は言います.中国の「潜在的な」成長がいかに期待されても,投資家は中国よりも日本に資本を向けています.日本の官僚たちは,毛沢東もあきれるほど,自由市場の原則を理解できません.その結果,金融や経済を改革できず,低迷し続けて,その地位を低下させています.しかし,日本の市場規模と貯蓄額は,当分,主要な地位を維持するでしょう.

他方,中国がその潜在力を発揮し,世界の主要国として認められるには,解決するべき多くの問題があります.@不良債権の累積を処理する.AWTOの合意にしたがって,保護された産業を世界に開放する.B共産党による政治システムを改革する.C国内経済の過熱や不況を回避し,安定的な成長を実現する.D台湾問題を平和的に解決する.E地方の貧困を解決する.FSARSやAIDSなど,社会・衛生面の改善を図る.G人民元を切上げ,さらに,変動レート制にする.それらが円滑に実現されると期待できるでしょうか?

日本を訪れたElliottは,日本経済が死滅したソビエト帝国の末期に等しく,小泉は情報公開をともなわない新思考のプチ・ゴルバチョフだ,という意見が間違っている,と確信します.その理由は,@大企業や輸出への偏りはあるが,業績は回復し,投資が延びている.A政策担当者たちは,1997年の失敗から学び,まだしばらくは刺激策を緩めない.B銀行システムも少しずつ回復している.C政府は,たとえ遅くとも,改革を進めている.自民党は,そのスピードを遅らせることはできても,逆転できない.Dアメリカに代わって,中国の成長が日本に需要をもたらす.たとえバブルが生じても,19世紀アメリカの鉄道建設がバブルを生じたように,成長そのものは止まらない.E何よりも,日本には優れた輸出製造業が存在する.これがソビエトとの違いであり,中国の台頭を歓迎する背景である.

そのようなハイテク製品こそ,中国人が,インド人が,東欧諸国の住民たちが買いたがっているものなのです. ・・・イギリスと違って! (Elliottはイギリス人です)

同じく東京を訪れたWolfは,日本の回復を疑っています.日本が回復したように見えるのは,伝統的な要因が作用しています.輸出が伸びて,日銀が将来も金融緩和を支持した,というわけです.他方,日本の論調は,供給重視,銀行重視,需要重視,マネタリスト(通貨供給重視),フィスカリスト(財政赤字重視),などと,相変わらず混乱しています.

Wolfは,輸出や金融緩和を行っても,それは日本の過剰貯蓄(過少投資)を完全に埋められないし,金融緩和はデフレの不安を払拭できないだろう,と悲観します.何より不安を示すのは,日本の現状が,過少投資ではなく,基本的に過剰投資に依存していることです.その収益率や労働生産性,労働人口の増加などから見て,日本の貯蓄は大幅に浪費されています.アメリカの半分も生産的に投資されていません.

どうすれば良いのでしょうか? 市場を機能させて,世界価格と投資を受け入れ,新しい技術や国際競争の条件にふさわしい企業が中心となって,労働生産性を高めるような投資を行うことではないでしょうか?


NYT December 7, 2003

Presidents Remade by War

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) イラクで大量破壊兵器を見つけられず,しかも戦後統治に失敗してアメリカ兵の死者が増える一方のブッシュ氏は,この戦いを正当化する新しい説明を必要としているはずです.中東世界の民主化,というのは,ブッシュ氏が自分の行動を正当化するために強調し始めた大きなテーマである,という理解は説得的です.

他方,FRIEDMANは,それをリンカーンのゲティスバーグ演説にたとえます.激化した内戦と国民の犠牲を正当化するために,リンカーンは憲法で保障された自由と奴隷解放を唱えました.ハーヴァード大学の政治学者Michael Sandelは,その犠牲の大きさが,すでに現状維持や既存の政治秩序を守るための戦いでは正当性を得られないことを示していた,と言います.ブッシュ氏も,その瞬間が訪れた,と判断したわけです.あるいは,1917年にヨーロッパへの参戦を唱えたWoodrow Wilsonもそうだった,と.

もちろん,ウィルソンの自由主義的な国際主義は,ブッシュ氏が唱えてきた政治理念に反するものです.すなわち,それほど深く,この戦争はブッシュ氏自身とアメリカ国民を変えつつある,というわけです.FRIEDMANは,この戦争が最初から,自由と民主主義を求める世界戦争の一部である,と考えていた,と主張します.だからロンドンでは,ブレアとブッシュ個人を,もっぱら,血に飢えた戦争屋のように非難する群集のデモを批判しました.

他方,こうした理念をどのように実現するか,において,政治家は判断を問われるはずです.フセインを軍事的に追放し,戦後統治に失敗した彼らの政治的選択は,必ず,批判的に検証され,責任を問われるでしょう.私の考えでは,FRIEDMANの説明は偏っており,重要な点で不完全なもの,失敗だと思います.自衛隊派遣を決めた小泉首相は,今,それを問われています.


NYT December 7, 2003

Who Wins and Who Loses as Jobs Move Overseas?

By ERIKA KINETZ

雇用流出に関する座談会です.出席者は,Josh Bivens(the Economic Policy Institute, that receives a third of its financing from labor unions),Diana Farrell(the McKinsey Global Institute),Edmund Harriss(the portfolio manager),M. Eric Johnson(the Tuck School of Business, Dartmouth College),Stephen S. Roach(Morgan Stanley).

Q:雇用流出は重要か?

Roach は雇用流出を重視します.他方,Bivensは,生産性上昇を指摘しますが,Roachは,それは雇用との関係を絶たれた,と考えます.その理由が,海外への雇用流出とインターネットによる流通・サービス業の雇用破壊です.しかし,Bivensは,失業についてどのような構造的説明がなされても,実際には需要が回復して解決される,と強調します.需要による説明にも,Roachは反対です.

Q:この雇用流出によって得するのは誰か? 損をするのは誰か?

保護主義者は,雇用流出によって利益を得ているのは企業の重役だけだ,と批判します.しかし,これが企業の収益として,配当や浸透しに向かうなら,それは雇用増大と景気回復をもたらす,とFarrellは主張します.しかし,賃金交渉で雇用主が有利にあるから,その利益は労働者よりも経営者に多く分けられる,とBivensは主張します.保護主義に走らないまでも,こうした分配問題を真剣に扱うべきだ,と.

Q:雇用流出ではなく,移動と雇用創出である,という説明は,歴史的に見ても正しいか?

最終的には新しい雇用を得た人も,賃金を13%程度下げた,とBivensは主張します.最も損失を被るのは老人であり,貿易によって失われる職場と,新しい職場の仕事は,通常同じではないのです.他方,Roach は,アメリカ議会の政治家がするように,既存の雇用を守るだけでは,賃金水準は最低レベルに向けて競争する.しかし,世界的な雇用創出を制約する新しい不均衡,すなわち,中国などで急速に供給能力が追加されているのに,世界の需要はそれに遅れてしか増えない,という問題を,Roach は強調します.

Q:もし保護主義が解決策でないというなら,市場がこれをどのように解決できるのか? 政府が介入する必要は無いか?

Roach は,大統領選挙前に内需を刺激する古典的な失敗例だ,とマクロ政策の間違いを批判します.問題は,不均衡を拡大する自分たちの政策です.中国から輸出しているのは,中国企業ではなく,アメリカや日本の多国籍企業である,と.他方,Johnsonは技術革新と生産性を強調します.どこでも,このエンジンが生活水準を引き上げるのです.熟練度の低い雇用が急速に海外に流出するだけです.Farrellは,高齢化によるサービスの変化を指摘します.Harrissは,アジアが投資しているのは最先端の確信ではなく,貧困層を低賃金で雇用して生産を拡大し,救済する過程だ,とアメリカの雇用創出と両立することを示します.中国の所得格差は拡大し,十分な購買力を持つ階層が拡大し続けるでしょう.

Q:グローバリゼーションの将来は?

Bivensは,生産力を増大するグローバリゼーションは,それが雇用を維持するような需要の水準を確保する場合に限り,非常に望ましい,と考えます.世界の需要と供給を通じて,労働者の生活水準を高めるグローバリゼーションなら,広く支持される,と.他方,Roach は二つのシナリオを示します.一つは,後ろ向きの,既得権に固執する道です.もう一つは,アメリカの価値観を維持し,弾力的で開放的な,技術革新に積極的な,リスクを取って企業を展開する,市場が主導する社会です.それは歴史的に乗り越えてきた挑戦であり,今また,共和党も民主党も,これに成功しなければならない,と.

NYT December 7, 2003

An Ohio Town Is Hard Hit as Leading Industry Moves to China

By JOSEPH KAHN

NYT December 7, 2003

Illegal Immigration: So Harmful and So Beneficial

By DANIEL AKST

NYT December 7, 2003

THE WORLD'S SWEATSHOP: THE ETCH A SKETCH CONNECTION

Ruse in Toyland: Chinese Workers' Hidden Woe

By JOSEPH KAHN

(コメント) 雇用流出について,NYTが特集や紹介記事をまとめています.

要約する時間がありませんので,関心のある方はNYTをご覧ください.


LAT December 8, 2003

History in the Remaking

By John W. Dower

ブッシュ大統領は,戦後日本の占領統治や民主化を,イラクで行っていることと比較します.そのような,歴史をもてあそぶ説明を聞けば,忠実な共和党支持者であったマッカーサー将軍でも,墓の中で苦しみ,寝返りを打っているはずだ・・・


FT Dec 9 2003

Lex: China's monetary policy

FT December 10 2003

China must develop stronger capital markets

By Fang Xinghai

(コメント) 中国の増大する外貨準備は,十分に不胎化できず,景気の過熱やバブルを招く,とFTは警告します.旅行者が自由に外貨で買い物し,銀行の不良債権と国有企業を処理して為替レートを弾力化し,中国の機関投資家が外国にも投資できるように,資本自由化することです.

Xinghaiは,資本市場の整備を訴えます.それによって,国有銀行が株式を発行して,不良債権を処理できるでしょう.他方,もしこのまま企業が融資によって拡大しようとすれば,将来の不良債権は膨張してしまいます.また,銀行はBIS規制を守らねばなりません.特に,もしインフレが生じた場合,ほとんどの資産を預金として保有する人々が,一斉に預金を引き出すでしょう.そして,企業の意思決定を透明にし,情報を公開させるもっとも良い方法は,株式市場で資金を調達させることです.Xinghaiは,こうした理由から,中国も資本市場を整備するべきだ,と考えます.

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The Economist, November 29th 2003

China: Trouble on the fringes

(コメント) 香港でも,台湾でも,あるいは農村部でも,中国は民主主義に手を焼くでしょう.

中国がアメリカとの関係を無視できない今こそ,台湾の指導者たちは民主主義的な独立の道を示そうとしています.これは大きな賭けです.独立を問う国民投票が行われれば,何が起きるのか? 中国が民主主義と生きる道を学ぶことを,優先してほしいです.


Economics focus: Stop worrying and love the deficit

アメリカの経常収支赤字をどう見るか?

Kenneth Rogoff:海外の投資家たちは,貧しい国にはほんの少ししか投資しないが,アメリカにはふんだんに投資する.(この赤い糸は,たとえ短くても,貧しい者が首を吊るに十分である.そしてアメリカは,その首に何重も巻いてしまっている.)

Alan Greenspan:グローバリゼーションのおかげで,世界の貯蓄が資本市場を満たしている.それはかつて無いほど深く,流動的な市場であるから,アメリカに高金利を強いることなく資本を提供し続けている.

Michael Dooley, David Folkerts-Landau & Peter Gaber:赤字の累積は初めて起きたわけではない.戦後のブレトン・ウッズ・システムでも起きたことだ.かつてのヨーロッパに代わって,今ではアジアがその周辺に位置し,ドルに対する自国通貨の増価を恐れて介入し続けている.この「再建ブレトン・ウッズ体制」では,東アジア諸国が低利回りのアメリカ国債をますます保有し,アメリカは支出し続ける.アメリカの金利は低く,需要は増大し,それが東アジアからの安価な輸入品を購入させる.かつて,アメリカとヨーロッパもこうした関係を喜んだ.アジアの諸政府は,輸出指向型成長の副産物であるドル資産には,より高い収益を求めない.それは引き綱であった.

Ronald McKinnon:アメリカの浪費がアジアを維持不可能な赤字の罠に取り込んでいる.しかし,アジアは通貨の増価を防ぐためにドル資産を購入させられた.かつてアメリカは,ヨーロッパから短期で借りて世界中に投資していたが,今ではアジアから資本を流入させて支出している.

しかし,それが続くのもアジアの余剰労働力が続くうち,そして,アジアの金融市場が成熟して,為替レートを変動させるまで,である.

グリーンスパンは,アメリカが軟着陸できると信じている.ドゥーリーらは,この資本市場を規制して為替レートを操作するアジアを前提している.ただ,その保護主義を警戒するだけだ.この制度への不満は,アメリカでもアジアでもなく,ヨーロッパに集中する.そして,アジアからの赤い糸も及ばない?