IPEの果樹園2003
今週のReview
12/1-12/6
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ゼミ生たちと,トヨタ自動車の工場見学に行きました.トヨタ会館では,多くの小学生たちと一緒に,実に良くできた自動車の組み立てラインを示す映像やアニメによるビデオも観ました.カンバン方式は,在庫を減らすことでコストを削減する,と言わずに,多品種少量生産を行える,という説明方法に関心を持ちました.
トヨタの築いた生産思想は,材料や部品の関連企業に,品質や量だけでなく,細かい時間まで指定した供給を求めています.組み立てラインを見る限り,その素晴らしさに驚き,これなら世界中が自動車で一杯になるな,と実感しました.しかし他方で,なぜ日本での生産に拘るのか,と思います.もし完成された技術があれば,生産コストのもっと安い国に,急速に工場を移転して行くのではないでしょうか?
土地の思想,というものがあると思います.気候を表す言葉や伝統的な作物,風俗や習慣,その土地の人間性,特別に深められた音楽や文学のように,その土地にかかわって意味があるような人工的環境を,文化,というより,土地の思想,と呼んではどうでしょうか?
トヨタはなぜ中国で生産しないのか? と,誰もが思うでしょう.中国に関する発言は非常に慎重でしたが,他の地域と異なって,川下から川上ではなく,逆向きに移転し始めている,という話が興味深かったです.完成車の販売,整備・修理などのネットワーク,ほとんどの部品を輸入する組立工場,そしてさまざまな現地生産工場の拡大,というのではなく,まずエンジンを作って,地元の企業に供給することから始まった,と.
中国や台湾,香港で工場を経営された方とバスで同席し,話を聞きました.中国に行った経営者は,すべてにおいて共産党や官僚と交渉し,彼らに利益を分け与え,さまざまな抜け道を教えてもらうしかない,と感じます.巨大な市場を期待して大きな投資をするのではなく,台湾企業や香港企業と組んで,慎重に中国と付き合うしかない,と.カンバン方式が前提するような厳密なコストと時間の管理は,中国の実情と容易に適合しません.
工場を建設し始めれば,求人しなくても事務所に労働者が押し寄せてくる,とも聞きました.しかし反日感情は,日本と中国との市場統合に影響するでしょう.日本人か,と誰何され,そうだ,と言うだけで殴られる.「検証・中国西安寸劇事件」(朝日新聞11月28日)には,中国人への取材がありません.学生たちの寸劇に,これほど激しい抗議を行った彼らの不満が何であったのか,日本の政府やメディアはもっと調査し,両国民に伝えてほしいです.
ヨーロッパとアメリカで,イギリスと大陸で,北欧と南欧,西欧と東欧,アメリカ西海岸と東海岸,中国,台湾,香港,シンガポールでも,生産や消費のあり方は大きく異なります.比較優位は,貿易によってそれを生かします.しかし,企業の文化や生産システムが依拠する「土地の思想」は,私たちの生活圏とグローバリゼーションとの関係を制約するでしょう.
EVE祭の休日に浄瑠璃寺へ行きました.浄土思想による寺の配置と紅葉が美しいと思います.また先日は,子供たちと琵琶湖博物館に行きました.種類の豊富な淡水魚の水族館であるだけでなく,化石や風俗も展示されており,充実した内容に驚きました.世界中の湖で,一日に行われるさまざまな生活の光景を,同時並行して,いくつかのビデオで流す企画に,感銘を受けました.また,建物が琵琶湖や周辺の空間と溶け合い,ゆったりとした気分になれました.
心斎橋を歩くと,私は自分が子供の頃に親しんだ感覚が壊れるのを実感します.騒々しい音楽を歩行者に向けて流すのは,パチンコ屋,ジーンズなどの古着屋,ゲーム・センターです.祝日や年末年始に,家族で正装して歩いた華やいだ気分は,二度とこの通りで味わえないでしょう.学園前の住宅地に帰れば,通勤時間以外,そこから人影が消えます.子供たちはゲームをするか,塾に行くか,友達に電話をかけて,親に車で送り迎えしてもらわないと遊びにも行けません.
小学校のPTAから,不良債権処理,年金制度改革,FTA,北朝鮮まで,私たちは土地に縛られて生きています.「イスタンブールまで2万キロ.都心にそんな標識が立つのを早く見たい.」と,11月21日の朝日新聞社説は「アジア・ハイウェイ計画」に日本が参加したことを賞賛しています.私はかつて,アジア各国が共通の乗車券を,大幅に割り引いて若者たちに販売してほしい,と思いました.日本政府は,海のシルク・ロードや長距離鉄道を結んで,20日間とか,100日間の周遊コースを整備してください.
お金は,すべての違いを押しつぶす強力な「悪魔の碾き臼」です.他方,新しい道を作り,畑を耕す人間は,その土地に愛されるでしょう.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
NYT November 20, 2003
Which Party in the White House Means Good Times for Investors?
By HAL R. VARIAN
(コメント) 「政治的景気循環論 “political business cycle”」の新しい問題提起です.UCLAの二人の経済学者が,株式市場のパフォーマンスを民主党出身の大統領と共和党出身の大統領とで比較しました.その結果は,驚いたことに,はっきりと民主党出身の大統領が優位を示したのです.多くの投資家に支持されている共和党が,なぜ株式市場を悪化させるのでしょうか? また,本当にそうであれば,その理由は何か? なぜ,投資家たちはこの事実を利用して(つまり,共和党の時代に株を買って,民主党の時代に売ることで)儲けないのか(そして差がなくなる)?
一つの説明としては,投資家が民主党の大統領を嫌って,当選が決まると株を売ってしまうのではないか? これはしかし,事実に反するようです.逆に,なぜ民主党の大統領候補が当選すれば,投資家が株を大量に買わないのか? とも言えます.実際には,どちらの候補が勝っても,株価に大きな差を生じないようです.
もう一つの説明は,民主党の政策の方が不安定で,変わりやすく,それゆえ投資家は株式保有により大きなプレミアムを要求するのではないか? ということです.しかし,これも事実に反するようです.一つ言えることは,民主党の方が,中小企業の株価がより大きく上昇する,ということです.その理由も,分かりませんが.VARIANは,統計によって多くを語り過ぎないように戒めます.
もし政府が,政策の優先順位や規制のあり方について異なった判断を示し,それによって市場に影響できると思うなら,どちらの大統領が誕生するかは重要です.しかし,二人の研究者は,因果関係が逆ではないか,と考えています.つまり,株価が上昇して,自分たちが裕福になったと思う有権者は共和党に投票し,逆に,株価が下落して貧しくなったと感じる有権者は民主党に投票する,と.
なぜ,これほど明確な差があるのに,投資家はその差を利用しないのか? という問題に,二人の著者たちでさえ,先の大統領交代を利用して株で儲けていない,とVARIANは答えています.投資をめぐるさまざまな統計的魔法は,決してすべてを説明できない,というわけでしょう.
FT November 21 2003
Trading influence for support
By Michael Prowse
NYT November 21, 2003
A Bad Day in Europe
(コメント) アメリカはテロとの戦争に世界からの支持を必要としています.その卓越した軍事的能力から,アメリカは軍事行動の責任を引き受けました.しかし,イギリスだけは「特別な関係」を理由に協力していますが,イスタンブールで受けたテロ攻撃がその代償となりました.ブレア政権は国民の反米デモに直面しています.他方,アメリカがイギリスに対して保護関税やグァンタナモ基地のイギリス人に配慮しているわけではありません.フランスやドイツは,アメリカが攻撃する前に彼らの同意を得ていない以上,支持する理由は無い,と考えます.その結果は,アメリカが国際協調の制約を嫌って,協調の枠組み自体を破壊する,という望ましくない方向でした.
Prowseは,アメリカやイギリスがより広い支持を得るために,アラブ諸国にも市場や民主主義,法による支配の優れた点を説得しなければならない,と主張します.そして単に戦争ではなく,アラブ諸国の経済復興を助け,原理主義の源泉となるような貧困や圧制を無くす国際協力を組織する方向に,アメリカを転換させることが望ましいわけです.
イスタンブールにおけるテロは,平時においてイギリス史上最大の死傷者をもたらす事件でした.国民の不満に対して,イギリス政府はブッシュ政権の方針を支持する姿勢からイギリスが得られたものを示すことができずに苦しんでいます.トルコもまた,テロとの戦争で重要な役割を担っています.国民はイラク攻撃に強く反対していましたが,政府はアメリカを支持しました.
NYTによれば,ブッシュ政権はこうした同盟諸国に明確なシグナルを送る必要があります.すなわち,イギリスに対して,WTOの自由化交渉やグァンタナモ基地の問題で,もっと協調姿勢を示すべきではないか? トルコに対して,キプロス問題の解決のために,アメリカが関与し,民主的政府の支持を固めるべきではないか? ブッシュ政権は,いずれの国にも自国を守るために単独で行動しても良い場合がある,と言う問題を,国際的な方針としての「ユニラテラリズム」と称して押し付ける間違いを犯しています.
NYT November 21, 2003
Germany's East Is Able to Prevent Industrial Flight to Third World
By MARK LANDLER
NYT November 21, 2003
Japan's Recovering Economy Is Relying Heavily on China
By JAMES BROOKE
(コメント) ドイツ,東ドイツ,東欧諸国,中国が投資を得ようと競い合うとき,ハイテク企業はどこに投資するでしょうか? ドイツではありません.そこは,賃金が高く,労働組合が非協力的で,規制が多過ぎます.ドイツの重工業は,その製品を中国から輸送するコストがかかるために,ある程度,競争を回避できます.
では,中国でしょうか? 現在のところ,アメリカ政府が中国に対する先端技術の移転を禁止しており,アメリカの市場を意識するハイテク企業は,単純な組み立て加工などを除いて,進出できません.そこで今なら,東ドイツだ,というわけです.東ドイツは,その高い失業率に配慮して,EUから特別に投資に対する補助金を認められています.賃金は安く,労働組合は弱く,優れた教育制度と多くの技術者が居ます.
しかし,この条件も2006年までです.それ以後は,東欧のポーランドやハンガリーとの競争が始まるでしょう.そして,中国は急速に技術を高めています.長期的に見れば,ハイテク部門でも中国への工場流出は避けられない,と考えています.
日本の場合,ドイツと違って,中国との海上輸送は安価です.しかも,中国の成長は,日本の重工業や機械産業に追加の需要をもたらしています.それゆえ,もはやアメリカと一緒に「中国の通貨が安すぎる!」と叫ぶ必要は無いわけです.
日本の停滞した経済は,アメリカに代わって中国への輸出を新しいエンジンとして,回復する兆候を示しています.日本にとっては,中国の成長は脅威ではなく機会であり,成長のための条件なのでしょうか?
もし日本が経済改革を進め,アジアの平和と繁栄に積極的に貢献する制度にも尽力するなら,それが正しいのかもしれません.しかし,当面の「自然な」補完関係が,景気循環の異なる局面や政治的リスク,中国工業化のスピードによって,「歴史的な」対抗関係に変わる日も近いでしょう.それが市場の健全な競争であるかどうか,今はまだ分からないわけです.
ST NOV 22, 2003 SAT
Relax, the yuan is firmly under control
By LU DING
FT Nov 23 2003
Lex: Chinese banks
(コメント) 中国の通貨当局が,投機的な資本流入に対して,さまざまな介入手段を準備している,というSTの紹介です.WTOに加盟して,中国への直接投資や,輸出が伸びるはずだ,という期待が投機的な人民元高を促しています.
しかし,中国政府は切上げや変動レート制への移行を拒んでいます.そこで,二つの原則で為替管理を行っています.@直ちに決済が必要な場合だけ,外貨に交換する.A取引に必要な外貨だけ交換する.その結果,通貨当局は為替レートだけでなく,国内の通貨に関する需要と供給を管理できます.
また,人民元への切上げ圧力を回避するため,外国企業に人民元立ての投資ファンドを設けさせて,国際的な投資機関は人民元建の投資信託を開設している.また,中国からの観光客が人民元の口座を香港に開設することを許し,一定額までは交換を認めた.これも,資本流入に対抗した外国投資自由化により,人民元需要の抑制を狙っている.
こうして人民元は,投機的な」需要増加にも対応できるのだ,とDINGは言います.変動レート制への過渡期の安定化策として,それが有効であるか,汚職や資本逃避につながっていないか,常に,監視する必要があるでしょう.
実際に通貨危機が懸念されるのは,それが国内の銀行危機と結びつくときです.中国の金融改革は大丈夫でしょうか? 中国は不良債権をまとめて,債券として発行するつもりです.返済される見込みと利回り,政府保証の条件などに応じて,大幅に割り引かれて販売されるでしょう.しかし,日本でも,韓国でも,資産の評価は不十分で,投資家が購入するような債券を発行できず,政府による大幅な資本注入とモラル・ハザードを招くでしょう.韓国ではすでにクレジット・カード会社が再び破綻し,日本では破綻企業に融資を続けている,とFTは批判します.
中国政府の不良債権処理にかける政治的意思は日本よりも明確ですが,その費用をどうするのか? 外国資本への売却を考えないのであれば,やはり日本のように,不良債権を抱えたまま,金融システムを延命させるしかないだろう,と予想します.
WP Friday, November 21, 2003
Trade Is Not Enough
By Marcela Sanchez
NYT November 20, 2003
Free Trade, ・la Carte
NYT November 21, 2003
U.S. and Brazil End Talks
By SIMON ROMERO
(コメント) ラテン・アメリカの貧困を終わらせるために,各国はアメリカとの貿易を望んでいます.そして,ブッシュ政権の二つの政策(FTAAと援助の50%増額)に合わせて,FTAA提案に対して積極的に交渉するとともに,貿易だけでなく,貧困対策のための援助を求めています.
マイアミにおける交渉は,その最低限の政治スローガンだけ残して,実質的には進展しなかったと言うことです.確かに,鉄鋼と同様に,農産物や繊維製品に関しても,大統領選挙前に交渉で妥協する余地は少ないのでしょう.そして,国内ではさまざまな団体からのロビー活動に,保護や補助金を約束します.
FT November 22 2003
Greenback gambles
(コメント) FTは,ブッシュ政権の支離滅裂な通貨外交を批判します.ブッシュ氏は,ドルを減価させながら,しかも中国の人民元が安いことを非難し,その代わりに,中国から輸入される繊維製品に割当を課しました.グリーンスパンが低金利を維持しつつ,同時に,保護主義への傾斜を警告した直後のことです.もしドルの減価がアメリカの景気回復にとって望ましいとしたら,その条件とは減価の程度が緩やかで,制御可能なことです.そして,最も懸念されるのは,政治的な対抗関係が市場の不安を呼ぶことです.
BG 11/22/2003
November 22
(コメント) 11月22日は,アメリカにとって特別な日です.40年前のこの日に,ケネディー大統領が暗殺されました.アメリカ人の多くが,そのとき自分は何をしていたか,記憶しており,最後には長いため息とともに,同じ問いを残すのです.「もしケネディーが生きていたら,どうなっただろうか?」
その伝記をまとめた政治学者のRobert Dallekは,ケネディーの記録を「未刊の生涯」と呼びます.ホワイト・ハウスに入ってちょうど1000日目に,46歳で彼は死にました.彼を通して,人々は違ったアメリカを描きます.たとえば,もしケネディーが生きていたら,ヴェトナム戦争はどうなっただろうか? そして1960年代や,若者の政治離れはどうなっていたか? その後の大統領候補たちは,こぞって彼のユーモアや知性を真似るが,彼には及ばない.
ダラスの風の強い日に,オープン・カーの上で,彼は始めたばかりの新しい時代が終わった.そしてアメリカは,これからも知りえない何かを,考え続ける.
BG, 11/22/2003
Howard Zinn
ケネディーの悲劇的な死は,われわれが国民として何であるかを,再考させる.
John Kenneth Galbraith
もう一つの厳しい思いでは,キューバ.ミサイル危機に関して私的に振り返ったものだ.彼は私にこう言ったのだ.「私がどれほどひどい助言を受けていたか,君は知ることもないだろうな.」
Todd Gitlin
ダラスで育った仲間の一人が両親にそのことを告げると,彼らの声は恐怖に染まった.そして,要するにこの国は理解不能になり,われわれは脱線した.
John Updike
私にとって,この国は二度と,安全でも,確実でも,正当でも,なくなった.
FT November 23 2003
Are emerging economies still ripe for investment?
By Paivi Munter and Deborah Hargreaves
Asia's currency manipulation comes under scrutiny
By Jennifer Hughes
(コメント) 主要国の株価は下落し,金利も低下したことで,多くの機関投資家が新興市場への投資を再考しています.しかし,新興市場の政府はしばしば通貨を操作して,増幅されたブームと崩壊を経験してきました.投資家たちもそれに乗って失敗を繰り返した以上,今また,そのような機会を得ても,慎重な見方があるわけです.
ロシアのユコスに示されたように,新興市場の浮動性が政治的なリスクに深くかかわっています.他方,アジア諸国は債券市場を育てていますが,基本的に,輸出と債務に依存した成長を目指す限り,シンガポール型の,貿易相手国の通貨バスケットによる安定化を目指すのではないか,とHughesは考えます.
そのような内外の通貨制度が市場での評価を確立する過程で,アジア諸国への投資も行われるなら,間違いは繰り返さないでしょう.
WP Sunday, November 23, 2003
Vision and Reality
The Guardian, Tuesday November 25, 2003
The moral myth
George Monbiot
Nov. 25 (Bloomberg)
Anti-Americanism Is Older Than You May Think
Andrew Ferguson
(コメント) ブッシュ氏の方向転換は本物か? イギリスを訪れて,彼は言いました.@国際制度を強化し,その効率を高める.A自由を守るために,アメリカは軍事力を行使する.B世界のいかなるところでも,民主主義の理想を促進する.
しかし,実際には,ブッシュ政権の頑固な姿勢によって,国際制度が無視され,その決定も効果を失っています.国連,IMF,世銀,NATOに対して,アメリカはこれまでの方針を転換し,その言葉が真実であることを示すべきでしょう.また,イラクのアメリカ軍を引き上げ,準備の無いイラク人に治安を任せるのは,こうした理想を放棄することではないでしょうか? 中央アジアの独裁国家に協力して,軍事基地を確保することは,世界の独裁者に間違ったシグナルを送るでしょう.
Monbiotは,そこんい方向転換など認めません.すべての覇権国がそうであったように,アメリカの目的はアメリカの利益や関心です.道義的な理由や他国の住民に対する人権蹂躙が,実際の戦争の目的ではありませんでした.イラクの石油を支配する,サウジ・アラビアの駐留米軍を危険から救い出す,新しい挑戦者である中国に対して石油供給を利用して優位を確保する,テロとの戦争において成果を示す,アメリカの圧倒的な軍事力を世界に示す,など.そのどれもが正しいでしょうが,ネオ・コンが指摘する人道的な理由はまやかしです.
もちろん,人権を守る戦争を支持する議論はあるでしょう.しかし,アメリカがイラクを攻撃したのは,イラク国民の人権を守りたかったからではない,とMonbiotは強調します.
他方,Fergusonは,それらを「反アメリカ主義」である,と考えます.しかも,反アメリカ主義の起源はアメリカ自身より古く,ヨーロッパの反革命,あるいは保守主義なのです.ヨーロッパ人は,伝統を破壊して,理性に導かれた社会を築こうとする啓蒙主義に反発し,階級の無い,人種の混じりあった社会,あからさまに富を追及できるアメリカ社会を嫌悪します.
ル・モンドの編集者であるJean-Marie Colombaniは,その論説にビン・ラディンがアメリカの育てたテロリストであると示唆し,9・11をアメリカの諜報機関が招いた誤算であった,という本を出版しました.ブッシュ大統領が訪問した,もっとも頼りにしていたイギリスでは,トラファルガー広場でブッシュの彫像を引き倒すパフォーマンスに迎えられました.
現在では,反アメリカニズムが,ヨーロッパの左派から右派までを熱狂させる反近代主義となったのです.アメリカは,まさにグローバリゼーションの象徴です.アメリカこそ,彼らの文化や国際的な地位を損なう悪者なのです.それは彼らがあまりにも共有する偏見であるために,似非科学になってしまいました.もはや理性的な反論も聞こうとしない,と.
NYT November 23, 2003
Like the U.S., China Favors Fuel Standards, Not Taxes
By KEITH BRADSHER
(コメント) 中国のガソリン消費と自動車の普及に関する興味深い考察です.中国は,ヨーロッパのようにガソリンに高い税金をかけて,その消費や自動車を抑制するより,アメリカのように燃費や環境規制を厳しくする方法を選択しました.
これは,石油消費を減らし,環境破壊を抑制する点では,明らかにヨーロッパの方式に劣ります.しかし,ガソリン税は税収となる一方で,農民や都市住民に対して,ガソリンに高い価格を支払わせることになり,政治的な反対が強いでしょう.また,中国政府は自動車販売と成長の維持を目指し,そのうえ,最高の環境汚染防止技術を持つ自動車産業を自国に誘致したいと考えています.
かつて香港では,世論を気にしない植民地政府がヨーロッパ型の課税を行い,ガソリン価格を世界最高水準にしました.その結果,自動車の保有は抑制され,他方,公共交通手段が整備されたのです.
中国政府の選択は,国民の感性をますますアメリカ型の個人的な移動の自由に執着させつつあります.中国最大の外資系自動車会社フォルクス・ワーゲン・アジア・パシフィックの社長は,中国人は高速道路を見ると,自分たちが独立した,自動を運転する自由な感覚を得るらしい,と認めています.まったく愚かなことに,と.
ST NOV 24, 2003 MON
Chinese public speaks up on Japan ties
By Ching Cheong
(コメント) 中国に広がる反日感情に関する論説です.日本人の大規模な買春観光が注目を浴びました.しれは,日本が中国を侵略した記念日(9月18日)に行われました.日本軍が残した毒ガスによって多くの死者が出ました.しかも,日本政府は責任問題を極端に回避し,賠償ではなく弔慰金である,として反発を受けました.日本からの留学生たちが,友好を示すつもりで,買春観光と見られる演劇を行い,学生たちの三日間におよぶ街頭デモと暴行を誘発しました.ロシアとのパイプ・ライン計画では,日本政府が中国の契約を奪おうとしている,と非難されています.江沢民が画策した日中間の関係改善に関する世論誘導は失敗し,論説を掲げた学者は厳しく批判されました.インターネット上では,内政問題以上に,省を越えて反日論争が加熱しています.ある新聞の調査で,若者の83.2%が,日本に対する感情は悪化した,と述べています.そして,国境問題となっている孤島へ「愛国者」が集まって示威行動を取ります.
WP Sunday, November 23, 2003
Wars of Choice
By Richard N. Haass
イラク戦争後の処理について多くの教訓を学ぶことができる.しかし,何よりも基本的なことは,民主主義は,特にアメリカの民主主義は帝国としての任務と共存できない,ということだ.
帝国とは支配の問題であり,中枢が周辺を支配することだ.その能力と意志を必要とする.ときには,帝国の関心から戦争に踏み切る意志と能力を要する.イラクがそうであった.
その攻撃が賢明であったかどうか,は議論されるだろう.しかし,重要なことは,戦争が選択されたということだ.イラクと戦争する必要は無かった.他の選択肢もあった.その他の政策手段や,戦争を遅らせることもできた.
その意味で,イラクは第二次世界大戦や朝鮮戦争,湾岸戦争とも違う.それらは必要に迫られた戦争だった.アル・カイダに対する戦争もそうだ.それらは攻撃されたことに対して軍事力で応戦したのだ.なされたことを逆転するには,軍事力を行使する以外に方法は無かった.そのような場合,資金的・人的なコストを無視しても銭湯に参加するほか無い,と,国中で合意が形成される.
しかし,選択による戦争は根本的に異なる.それはアメリカや同盟諸国の自衛という明確な理由が無い.軍事行動以外の選択肢が存在する.国内の政治的合意は形成されない.ヴェトナム戦争や,クリントン政権が行った,コソボにおけるセルビアへの攻撃がそうだった.選択による戦争の場合,期間やコストが問題になる.ヴェトナム戦争は長く(約15年間),莫大なコスト(5万8000人以上の死者)を要した.他方,コソボは78日間で,アメリカ人は死亡せず,費用も30億ドル以下であった.
こうした経験からいえることは,比較的安価で短期間であるときしか,アメリカ国民は選択による戦争を支持しない,ということだ.イラクでまさにこれが起きている.すでに8ヶ月以上も戦い,400人以上が死に,1000億ドルが支出され,まだ増え続けることで,アメリカ人はますます不安になる
ブッシュ政権はこれを承知している.イラクの政治的な責任をイラク人に移す予定が早められたのは,イラク人がアメリカの長期駐留を好まず,アメリカ人がそのコストを無限に引き受けるはずも無いからだ.イラクを十分に改善すること,たとえ民主主義の教科書どおりではなくても,開放型の社会と経済を機能させる,という野心的計画を大統領が後退させるのは賢明だ.
選択による戦争がすべてそうなるわけではない.無防備なエスニック集団が襲撃されている場合や,大規模な虐殺の脅威があるときに,武力行使は支持されるだろう.しかし,選択による戦争は特に注意深く扱う必要がある.
第一に,国内の支持を固める必要がある.議会や国民が,予想されるコストを心理的に受け入れるほど,強く支持しなければならない.
第二に,国際的な支持を固めるべきだ.戦争のための支援,金融的・人的コストの分担,戦後の外交的処理,などで,アメリカは仲間を必要とする.アメリカの軍隊と経済は強力であるが,あまりにも防衛が手薄になり,また債務に依存すれば,その災厄を免れない.
第三に,軍事行動の潜在的なコストを決して過小評価してはならない.いかなる戦争も,短期かつ容易に終わると仮定してはならない.
WP Sunday, November 23, 2003
Locking Out the Brainpower?
By Josef Joffe
NYT November 25, 2003
Refuting the Cynics
By DAVID BROOKS
(コメント) 市民の自由と安全保障とを比較することによって,アメリカは移民の制限を受け入れるべきではない,とJoffeは主張します.移民の自由は,アメリカが世界から集める人的な資源を枯渇させ,経済や文化,化学を衰退させるだろう.日本やロシアと比較せよ,と.
The Economistの特集記事については,先週,紹介しました.NYTの感謝祭に寄せた論説は,この記事に触れて,アメリカの政治・経済・文化などが良好であり,今後も改善される,と現実主義的に楽観しています.そして,アメリカの例外主義や非収斂を予想する重要な要素に,貧富の格差と,若返り,野心,革新を支える移民の大規模な流入を指摘します.
BG 11/23/2003
Winning peace in Iraq
NYT November 25, 2003
The Three-State Solution
By LESLIE H. GELB
WP Wednesday, November 26, 2003
An Opening to End a War
By Dennis Ross
FT November 28 2003
Iraqi elections
FT November 24 2003
Transatlantic trade needs a bold new initiative
By Grant Aldonas (US undersecretary of commerce for international trade)
FT November 24 2003
Trade in jeopardy
ST NOV 25, 2003 TUE
Matter of trade trust
(コメント) WTOによる多角主義が後退しても,アメリカは世界・地域・二国間で自由化交渉を進める,という方針を宣言しています.そして,市場統合による競争の促進を統一原理にする,というわけです.しかしアメリカとEUの「忍び寄る保護主義 “creeping protectionism” 」について,イギリスは悲観し,中国は憤慨し,アジアは政治的な草刈場になる予感に震えています.
FT November 24 2003
China's weak spot
FT November 25 2003
The new workshop of the world
By Martin Wolf
(コメント) 中国の発展は,安価で従順な労働力の無制限供給と,政府の競争的な産業協力によって推進されていますが,同時に,銀行システムに蓄積された不良債権処理と為替レート制度の改革は今後の課題です.
人口の4割が都市に住む現在の中国が,この20年間で,6割に及ぶ都市人口を実現するでしょう.3億人から5億人とも予想される人口移動によって,この都市化は実現します.その間にGDPは4倍か,それ以上に増大し,沿岸部が巨大な都市圏となるでしょう.確かに雇用は人々を無害にし,イデオロギーに拘らない,実際的な共産党がその目標を実現することも可能でしょう.しかし,都市における「文化革命」が中国を大きく変える,とWolfは予想します.
Nov. 24 (Bloomberg)
How I Learned to Stop Worrying About the Dollar
Caroline Baum
アメリカへの資本流入が衰え,貿易戦争と保護主義が懸念される中で,アメリカはGDPの5%を越える経常収支赤字を示した.火曜日,ブッシュ政権は中国製の繊維製品輸入に割当を課すと発表した.中国は反撃するだろう.鉄鋼関税に対するWTOの裁定がもたらす報復関税も含めて,21世紀の国際通貨制度が保護主義によって侵食される危険を,グリーンスパンは警告した.
グリーンスパンは,アメリカの経常収支赤字を「benign 恩恵をもたらす」(優雅に無視すべきだ)と主張した.なぜならより大きな弾力性が,不安定化の危険を回避して,変化する経済環境に応じて諸経済の円滑な調整を可能にするから,と.それゆえ,大幅な経常赤字を持ちながら保護主義を発動することは,世界経済の弾力性を大きく損なう恐れがある,と述べた.
経常収支は資本収支の反映である.中国の安価な財を購入すれば,そのドルはアメリカの株式や債券を購入し,あるいは直接投資となって戻ってくる.唯一の問題は,その価格だ.経常収支が資本収支を動かしているのか,あるいは,その逆なのか,決めることは困難だ.
しかし直感的に,ドルの為替相場は,この因果関係がどちらかを示唆している.1990年代後半は,外国資本がアメリカの株価上昇に向かい,ドル価値が上昇した.すなわち,資本移動が経常収支を動かした.逆に,ドル安は,貿易収支が支配的になったことを示唆する.外国人はアメリカの資産を保有する追加の動機を必要とする.すなわち,ドル安と,安くなった株式や債券である.
セント・ルイス連銀議長のBill Pooleはこう言った.「資本移動が貿易収支に対して受動的に生じると考えるのは,よくある間違いだ.」「実際に,海外の投資家たちがアメリカの資産を買うのは,アメリカの貿易収支赤字を埋めるためではなく,その投資が健全で,確実さと収益を組み合わせた良い買い物だからだ.」19世紀の古典派経済学者,デイヴィッド・リカードに倣って,Pooleは「アメリカは資本市場に比較優位を持ったから,世界中の投資家たちがアメリカの生産物(金融資産)を買いに来るのは当然だ」と言う.
しかし,資本の純流入を悪とみなし,財の純流出を善とみなすことにも,いくらか理由がある.特に,財務省がアメリカへの資本流入減少を報告したことで,その意識が強められた.まさに,その報告が出た日に,ドルは最安値を付けた.経済学者たちは常日頃から,この経常収支赤字は「維持不可能」だと言っている.
誰が責められるべきなのか? このことは,アメリカが成長を減速する必要を述べている.そして,その他の世界は成長を加速する.するとアメリカの輸出は伸び,輸入は減る.その場合の問題も明らかだ.アメリカが減速すれば,中国も,世界も不況に落ち込む.「その他の世界がアメリカの経常収支赤字を決めている.」とAnna Schwartzは言う.「彼らはアメリカに財を輸出し,そのドルでアメリカの資産を買うことができる.そうであれば,アメリカは負担(低成長)を免れる.」
とはいえ,ドル安を恐れる者は安心できないだろうが.
FT Nov 25 2003
Lex: Stability and growth pact
FT Nov 24 2003
'Big' EU nations fight against stability pact fines
The Guardian, Thursday November 27, 2003
Good riddance to the instability pact
Larry Elliott
Nov. 28 (Bloomberg)
Party On, Euro. The Fiscal Time Bomb Is Ticking
Caroline Baum
(コメント) こうして世界の論説を見渡せば,アメリカは保護主義とドル安をもてあそび,日本は未熟な二大政党制により改革の速度がさらに怪しくなり,ヨーロッパでは財政赤字を制限した協定が反故にされてユーロ不信を蓄積しています.アメリカの回復はイラクの治安悪化によって相殺され,日本がデフレを終えそうだ,という期待によって,まるで新興市場のように外国からの資本流入を投資家が歓迎していることに,閉塞感と危惧を持ちます.
ST NOV 21, 2003 FRI
Read Rumsfeld's lips: US to pull back from S. Korea
By RICHARD HALLORAN
ST NOV 26, 2003 WED
Fresh impetus for an Asian Security Community
By MUSHAHID ALI
IHT Thursday, November 27, 2003
China holds the key to North Korea
Robert Madsen
ST NOV 27, 2003 THU
China 'revives' tributary system in regional ties
ERIC TEO CHU CHEOW
(コメント) 在韓米軍が撤退し,中国との地域安全保障が重要になる,というシナリオの現実味は増しています.ラムズフェルド国防長官は,韓国の盧大統領と会談し,韓国のより自力で防衛を担えるような体制に移行することで合意したようです.アメリカ軍は,他の地域で転換する必要に応じて移動できる軍隊を保持しなければならず,朝鮮半島の防衛は太平洋艦隊の原子力潜水艦などに重点を移すことになる,と予想されます.
安全保障や自由貿易圏の形成で,明確に地域の主導権を発揮し始めた中国の姿勢に対して,日本がASEANと条約を整備することが何か前向きの協調をもたらすのか.むしろ,中国も含めた地域全体の改革を議論する能力と意志を,日本にも示してほしいです.
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The Economist, November 15th 2003
Bad for Koizumi, good for Japan
(コメント) サッチャーもレーガンも,競争を促進し,供給側の改革を加速させることにより,失業が増大する中でも再選されました.他方,小泉氏はこれと異なります.選挙の争点は「痛み」をともなわない改革に終始し,自由化に立ち向かう姿勢を示せませんでした.日本人はまだ決して「痛み」を覚悟していない,と記事は述べます.
構造改革には反対が強く,抵抗勢力に焦点を当てても,改革ができなければ有権者は失望するだけです.The Economistは,地方における改革特区や,財源の地方への移譲に注目しています.そして,大きな制度改革を叫ぶよりも,地方の中小企業を育てるほうが,停滞を終わらせる,と期待します.
確かに,農村の有権者たちが,保護された農業や地方への補助金による雇用以外に,働く機会を見出すことが重要でしょう.民主党との競争関係を生かして,次々に,お互いの新しいアイデアを実現してはどうですか?
Face value: The one-handed economist
(コメント) ポール・クルーグマンは,NYTのコラムとインターネットを通じて,共和党とブッシュ批判に偏した論争を煽動する「一方だけの」経済学者だ,と記事は批判します.これほど明確に,一方の立場だけを一貫して批判し,他の側面を見ない経済学者は少ない.これほど経済学やゲーム理論を恣意的に利用して,一方的な主張を科学に仕立てる経済学者も少ない.彼がノーベル賞を取ることもありえない,と.
America’s business recovery: Time to get this show back on the road
(コメント) アメリカの景気回復には,金融緩和や財政赤字に依存した見通しの甘さ,金融市場の回復に依存した収益回復,企業の縮小・再編にともなう失業増,など,決して楽観することを許さない事情があります.しかし,アメリカ経済の回復のスピードは,景気後退において急激に事業を再編し,破綻したハイテク部門でも,見捨てられた旧産業でも,高い収益をあげる新興企業が出現する活力に見られる,と指摘されます.
2000年1月以来,アメリカの通信産業は60万人以上を解雇しました.また1000以上のどっと.混む企業が倒産しました.しかし,そのショッキングなほどの消滅スピードは,同時に,経営者を変え,新興企業に吸収されることで,驚くべき回復を遂げています.エンロンは消滅してもエネルギー取引はウォール街の投資銀行が成長分野としましたし,ワールド・コムも吸収されて収益を上げています.
アメリカに関しては,市場の短期的な変動を抑制するより,この激しい動きに即して新しい分野や革新の機会を生かすことに,経済の再生を任せる条件があるようです.資本設備であれ,労働力であれ,市場によって直ちに放出され,新しい分野で速やかに吸収されることが,政治家や新聞,企業の一兵卒にいたるまで,合意されているようです.だからこそ,企業家は失敗を恐れません.過去の清算は,アメリカ資本主義にとって,障害ではなく機会なのです.
China’s economy: Steaming
(コメント) 中国経済の過熱に対する考察です.公式統計では9%の成長率,工業生産は17%の増大,電子レンジなど,ものによっては50%も生産を拡大しています.まるで1997年以前の「アジアの奇跡」を見るようだ? そして,同じ軌跡をたどるのか? 前年比で32%の投資増,という数字は過剰投資を示唆します.
しかし,三つの理由で,記事はそれを否定します.@政府の抑制策は有効である:不動産融資を制限し,預金準備率を引き上げました.A経常収支の黒字は,中国経済がまだ過熱していないことを示す:不動産価格もわずかしか上昇していません.その意味で,アジア通貨危機の前段階と異なります.B公式統計は間違っている:経常収支黒字と国内貯蓄のデータから,実際の投資はGDPの27%程度である.中国はまだデフレを警戒しており,過熱とバブルを危惧するのはもう少し先であろう,と.