IPEの果樹園2003
今週のReview
11/17-11/22
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ブッシュ大統領が選挙のために導入した鉄鋼製品への関税は,WTOによって協定に違反していると判定されました.他方,中国の対米貿易黒字はさらに増加し,その為替レートに対する調整を求める声が高まっています.もし経済学のテキストが正しければ,アメリカは鉄鋼関税を撤廃し,中国は人民元を切り上げるか,変動レート制にして,通貨が増価するのを許すでしょう.しかし,政策を決定するのは経済学者ではなく,政治家です.
誰もが思うのは,政治的目標が重要だ,ということです.ブッシュ氏の最大の目的は,おそらく,大統領選挙に勝って,権力を獲得(そして維持)することでしょう.他方,中国政府の目的も,政権基盤を確立し,特に,2008年の北京オリンピックに向けて雇用を維持することでしょう.政治的目標は,経済学が考えるような「社会的厚生」や「効率性」と一致せず,たとえば「社会的な正義」や「分配」をめぐって,状況とともに変化します.
EUはアメリカの関税に対して,アメリカがEUに対して行ったように,ブッシュ氏への政治的なダメージを最大にするような報復を準備しています.中国政府は,為替レートで妥協する姿勢は見せず,協議を継続しながら,その他のさまざまな介入手段を駆使して,アメリカ議会の保護主義を緩和させるでしょう.そして,こうした国際紛争の影響は,世界の貿易体制や通貨秩序にも影響し,それに大きく依存する小国の運命を翻弄しつつも,彼らに発言する機会はありません.
グローバリゼーションによって,国内の政治的な交渉と政府間の国際交渉とが緊密に結びつくと,政治的な(一種の)「比較優位」によって,政策を選択するかもしれません.政策変更の時期や分野,同じ政策でも各国によって何を意味するのか,政府の説明や報道は異なっているのが普通です.それゆえ,政治家たちは国際的な駆け引きを始めます.また,権力が不安定な均衡に依拠し,政治的分裂を回避することを重視すればするほど,経済的な合理性や効率は無視され,野蛮な選択肢が短期的に採用されると思います.
グローバリゼーションの逆説として,市場による統合化が進むほど,政府の関与は増大する傾向がある,と言われます.たとえば,ロバート・ギルピンは,産業政策や管理貿易はなくならない,むしろ増えるだろう,と考えていました.また,スーザン・ストレンジも,世界化した金融市場は,ますます管理しなければならない,と考えたはずです.市場による統合と産業構造の世界的な変化や,金融市場で頻発する危機は,それぞれの社会的な勢力均衡を維持するため,政府の積極的な介入を必要とします.相互依存した世界では,こうした政府の市場介入が,予測できない国際的影響を及ぼし,摩擦や紛争,報復や戦争を引き起こします.
核兵器の管理もそうですが,貿易摩擦が意味するのは,世界的な調整と,視野の限定された選挙区政治とを切り離すことです.すなわち,国際機関の正当性を高め,それが行き詰まれば,利益を共有する諸国が集まって集団的な解決を図ることです.活発な民間資本移動と変動レート制が,通貨同盟とドル化,へと導かれるのも,両極の選択ではなく,一つの方向を目指しているように思います.それは,オーウェルなら喜びそうな新言語によって,「開放型のブロック経済」,「市場に依拠した制度的調整」,などと呼べるでしょう.
政治は目的の論理であり,経済は手段の論理です.政治家はしばしば野蛮な手段を採用しますが,それによって失脚するわけではありません.他方,経済学者はしばしば空疎な(あるいは愚かな)目的を掲げますが,それは彼らが愚かであることを意味しません.互いに,極端な単純化や社会=人間類型(モデル)を持ち出しますが,現実の社会がどのように変化するかを具体的に描けるわけではないのです.
アメリカの次の大統領も,中国の指導層も,それぞれの政治的目標を状況に応じて選択するはずです.そして経済学者も,自然や技術的な条件とともに,市場参加者の雰囲気や政治的決定によって形成される需要こそが,正しい手段を選択する基準であると考えます.
何よりも,それぞれが直面する現実によって微妙に,時には劇的に,変化し続ける人々の感覚が,政治家の状況を構成します.いつか,アメリカ政府が積極的に関税や補助金,移民規制を撤廃し,中国政府も為替レートの弾力的な調整を支持して,貧しい諸国との貿易や投資を刺激することを通じて,世界が成長できるような政治的視野を,指導的な人々が獲得するでしょう.そして,日本は?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
NYT November 6, 2003
Rethinking Milton Friedman
By VIRGINIA POSTREL
(コメント) ミルトン・フリードマンが経済学に革命をもたらしたことについては,必ずしも,評価が定まりません.POSTRELは,アメリカ連銀の理事になったBen S. Bernankeと話し合って,その意義を高く評価しています.フリードマンは,ケインズ経済学やフィリップス曲線を,短期的にしか有効でない,という理由で否定しました.そして,長期的には貨幣の供給量によってインフレを説明できる,と考えたわけです.ところが,フリードマンが見た当時の金融政策は,さまざまな短期的な理由,供給をめぐる個別の障害,その時々の政治的理由などで,その変更を正当化していました.彼はこれに抗議したわけです.
もちろん,「長期的には,人はすべて死ぬ.」というケインズは,古典派経済学が常に長期の均衡を仮定していたことを批判していました.フリードマンと一緒に語られるマネタリストの経済政策論や変動レート制擁護論は,政府が介入しなければ,市場だけが正しい答えを知っている,という確信に基づく行動を鼓舞します.しかし実際には,市場が「発狂」したり,悪循環や低水準の均衡にとどまったりすることを,彼は無視あるいは軽視していると思います.そして,政府が政治的な意志を示すことで正当性を得ている以上,何もしないことを積極的に主張する政府が生き残る余地はないと思います.
現実に,当時,フリードマンが予想しなかったような,中央銀行の政治的独立性が,多くの国で,法律によって次々と認められました.POSTRELはこれをフリードマンの勝利とみなし,しかも,彼が唯一「間違った」予想だった,と感嘆しています.しかし,私はそう思いません.中央銀行は,貨幣という手段を担うために,できるだけ政府から切り離すほうが良い,と認めただけです.インフレ率の抑制やデフレ解消という目標を掲げても,中央銀行は,今も,政治的な事情も含めたさまざまな目標や手段を比較考量するはずです.貨幣の価値を安定させることは,世界を改善することの一部なのです.
人間には,世界を改善することなどできない.市場だけができる?
ST NOV 7, 2003 FRI
China must shake off the past in ties with Japan
ZHAO QUANSHENG
FT November 11 2003
Wide-awake China
By Martin Wolf
(コメント) 急速に工業化し,経済・社会・政治・軍事力を近代化する中国が,アジアや世界に占める位置と新しい役割は,重要な未解決問題です.
QUANSHENGは,EUから学びます.どうすれば戦争した国が互いの憎しみや恐怖を乗り越えて協力できるのか? 異なる人々が互いの不信感をどうして克服できたのか? ヨーロッパの経験から,教育や文化的な理解を,特に若者が深めるべきだ,とQUANSHENGは主張しています.私が興味深いと思ったのは,中国の側の対日感情や対日政策が変化してきたことです.
1972年の国交正常化は,中国にとって,日本を非常に友好的な,しかも中立的な国として,その役割に大きく期待した時期でした.それは,ソ連やアメリカに対する中国の懸念があったからですし,日本の技術力や援助を高く評価し,歓迎したからでしょう.しかし,1989年の天安門事件以後は経済関係が冷却化し,冷戦終結で,日本よりもアメリカとの関係を重視するようになりました.そして,逆に日本に対しては,靖国神社や歴史教科書の問題で外交的な行き詰まりを生じています.
日本でも中国でも,互いに,友好的ではない,と感じる人が増えています.両国政府は,こうした感情を国民が持つことを重視して,外交政策の重点を変えるべきだ,とQUANSHENGは指摘します.中国は東南アジア諸国に対して,高圧的な姿勢を改め,経済関係を重視することで信用を得ました.日本に対しても同様です.安全保障問題でも,日米関係を問題にするより,東アジアの信頼できる安全保障メカニズムを協力して構築する方が有益である,と主張します.
フランスとドイツが互いの不信感を克服したのは,初等・中等・高等教育機関において大規模に生徒を交換し,若い世代を育てたからだ,と言います.日本と中国はどうでしょうか? 日本人の中には,中国からの留学生たちを支援する誠意を欠いて,むしろ犯罪者の流入を強調する者も居ます.また,日本の留学生の中には,中国の言語や文化を学ぶ真摯な姿勢を欠いて,日本の学生街を遊び歩くのと同じ調子で他国の反感を買う者が居ます.中国も,日本も,貿易と交流を増すことで,そのナショナリズムの毒を全身に蔓延させるかもしれません.
WOLFは,中国が急速に世界市場に登場してきた様子は,人々が中国を恐れるに十分である,と言います.しかし,かつての日本を思わせるけれど,中国は日本とまったく異なっている,と考えます.@中国は,日本よりも,はるかに開放的な経済を発展させている.A中国の輸出は,日本と違って,大幅に多国籍企業と結びついている.それゆえ,中国のほうが世界経済で重要な役割を占めるようになるだろう.なぜなら,その規模とともに,世界経済との結びつきが深いからである,と.
中国の輸出を決めるのは,基本的に,比較優位と貿易政策です.前者は,ほとんど無制限とも言える低賃金労働力の供給により,また後者はWTO加盟による急速な自由化から,貿易の増加が予想されます.中国の賃金水準は,昨年,まだメキシコの4分の1程度でした.それゆえ中国の貿易増加は,労働集約的な財を輸出している国にとって不利益を,より高度な製品やサービスを輸出する国には利益を,もたらすでしょう.ラテン・アメリカに関するゴールドマン・サックスの研究は,メキシコが不利益をこうむり,アルゼンチン,ブラジル,チリは農産物や資源を輸出することで利益を受ける,と予測しています.
中国の貿易増加が示すもう一つの特徴も重要です.すなわち,中国が世界の直接投資をますます引き寄せ,その意味でも,メキシコには不利益をもたらしています.しかし,アジア諸国は多国籍企業の生産過程における中国との垂直統合を深めるでしょう.それゆえ,中国の成長や貿易増加は,同時に,アジア諸国間の貿易を増やし,各国の成長を刺激するのです.
それゆえ,中国の台頭に関するWOLFの助言は,「冷静になれ」,です.メキシコや労働集約財の生産者は損失をこうむります.しかし,中国が安価な工業製品を輸出することは,他の多くの人々に利益をもたらします.特定の産業を保護することは問題の解決になりません.中国を恐れてはいけないし,排除して,怒らせてもいけないのです.
中国が,正しく,世界貿易の中心としての役割を果たすように,WTOなどの国際ルールに従った成長を支援すること.また,各国は中国との自由な競争において,自国の産業を保護するより,その構造を再編し,革新する道を選択すること.開かれた,近代的な中国と共存することが重要です.日本と違って,というのが,私たちには心配です.
NYT November 7, 2003
Japan Farms: An Old Man's Game
By JAMES BROOKE
関東地方のある農家を支える大内氏は,22歳の息子に農業の大切さを訴える.しかし,息子の関心はまったく農業に無い.農民たちは,足による投票という形で,はっきりと農業を捨てると表明している.
1980年以来,この2万人の町で,専業農家は56%減って,1655人になった.その中でも15歳から59歳の人口は,83%減少し,いまや455人である.70歳以上の農民,633人だけが,その割合を増加している.
日曜日の選挙により,予想では,自民党が政権を維持するだろう.彼らこそ,半世紀に渡って補助金で日本の農業部門を温存し,関税による高価格の食糧を都市住民に与え続けた政治家たちである.しかし,自民党員たちは勝ち目の無い戦いを続けている.農民たちは年老いて,次第に政治的な影響力を失いつつある.
「若者たちは農業を嫌っている」と,50歳の大内氏は言う.彼の畑には,23歳のSidek Bin Saadonが,「農業訓練」という名目で,マレーシアから働きに来ている.この地域の73の農家で,わずか4軒だけが専業農家であるに過ぎない.政府が政策を転換するのは時間の問題だ.
今月末にも,日本はメキシコと自由貿易協定の交渉を行う.先月,メキシコのフォックス大統領が来日する時期に合わせて交渉していたが,日本側は養豚農家とオレンジ・ジュース生産を守るために,この条約を合意できなかった.経団連は,この二国間条約を結べなかったことで,日本企業が年間36億ドルの損失をこうむる,と試算している.
莫大な補助金をつぎ込み,490%もの関税率で保護しても,農村の若者たちは,3エーカーの畑に5万ドルの所得を与える「農家の楽園」を,政府が維持するはずは無い,と考えている.天候不順による10年ぶりの大凶作が重なって,米作りはますます見通しの無い計算を信奉するしかない.
農民たちは将来の転換を予想し,副業や転業をすでに模索している.日本全体でも農業の人口は着実に減少し,1960年の1200万人から,1980年には390万人,今では280万人である.福島県は日本最大のタバコ栽培地域であり,日本で二番目の養蚕地域である.それゆえ,最近,放棄された農地が4万エーカーもある.丘陵地に広がる放棄された水田には雑草が茂る.安価な中国製の絹織物に負けて,破産した養蚕農家が残したものは,荒れ果てた桑畑だけである.
「このあたりで一番の若い者は,45歳だ.」と62歳のタクシー運転手は言う.彼の4人の息子は,地方の事務系職種に移った.彼の妻は,タバコ畑の今年の収穫に,3人の隣人を雇った.一人は70歳の老人(女性).もう一人は75歳の老人(男性)だ.政府の計画でも,タバコ栽培は時期を経て消滅させることになっている.1975年以来,タバコの生産は75%減少し,米も3分の1になった.唯一増加しているのは,近郊市場に供給する野菜の栽培だ.
日本の米を消費してもらう運動が続いてきた.日本お米を食べれば,健康で,美しく生きれる,と.運動員の家には,今も,天皇陛下の写真が飾ってある.しかし,彼も知っている.「近くのスキー場に行ったとき,自分もアメリカの米を食べた.それほど違わなかったと思う.」それでも日本政府は,国内需要の10%以下,77万トンまでに米の輸入を規制している.多くの都市住民は,高価な国産の米より,もっと安いアメリカの米をほしがるだろう.
同時に,日本人は食糧自給率の低さを心配している.輸入に依存する率は60%を超えており,主要国では最高だ.「ドイツでさえ,食糧に依存する率は日本の半分でしかない」と日本の閣僚は言う.苦悩する農家に,近年,イノシシが現れて畑を荒らす.農地が荒れている証拠だ,という.「ここは見捨てられた町だ.」
ST NOV 8, 2003 SAT
Japan is looking up
FT Nov 08, 2003
Japan inches towards meaningful democracy
By David Pilling
Nov. 9 (Bloomberg)
Japan's LDP Party Shifts Campaign Tactics
David DeRosa
FT November 11 2003
Japan's new politics
Nov. 12 (Bloomberg)
Japan's Election Good for Bonds, Not Stocks
William Pesek Jr.
(コメント) 選挙前のSTの論説は,小泉首相の大勝利を期待していました.なぜなら,勝利した小泉氏は改革を一気に加速させるかもしれないからです.それは,日本市場をアジア諸国にも開放し,景気回復を本格的なものにできるでしょう.さらに,安全保障の枠組みにも積極的に関与し,その意味で中国の台頭を牽制する,東南アジアにとっての望ましいバランスとなるのです.
FTの論説は,こうした楽観にまったく反対です.なぜなら,地方において自民党は圧倒的に優勢だからです.彼らは改革に反対するでしょう.すでに小泉内閣の進めた政策は,アルコール飲料の販売店や米屋,医者,その他の特権的な既得利益を侵食しています.都市部では,公然と自民党支持から民主党支持に転換するグループも現れているのです.この選挙は,こうしたねじれた支持基盤によって自民党の政権を延命しました.
民主党も,政治家の中身は自民党と大きく違わず,マニフェストの実行にかける情熱は政権を握れば失われる,と冷笑されています.もちろん,未だ,民主党が政府を担うことは無いでしょう.しかし,民主主義は国民に政府を選択する機会を保証するはずであり,今回の選挙がその正しい方向を推し進めた,という点では評価しています.
DeRosaは,自民党の選挙キャンペーンに注目します.これまで,小泉内閣は経済改革を強調し,景気や株価の回復をその成果として強調してきました.しかし,その後,争点を年金や医療制度に転換したのです.人々の関心が,次第に,長期的な視野に移るとともに,日本にとって最も重要な人口の趨勢が重視され,長期的な安心できる社会を作るという争点が自民党への支持を固めやすい,と見たのでしょう.しかし,その財源は? すでに大幅な債務と財政赤字を政府が担っている以上,若者が負担することになります.彼らが移住してしまわなければ.
この選挙は,日本が二大政党制に向かって前進し,政策の透明性や機動的な転換を行えるようになると予想させる.しかし,それにはまだ数年かかる,とPesek Jr.は見ます.当面,投資家が考えることは,日本の国債を買うべきか? それとも株を買うべきか? です.@小泉改革は加速し,日本の景気回復に勢いがつく.株を買え! A思ったよりも勝利は小さく,自民党内の反対派が改革を減速させる.特に,デフレがまだまだ続きそうだ.国債を買え! B小泉は予想を越えた政治家であるから,自民党の長老を切って若手を抜擢するかもしれない.しかし彼は,サッチャーになるより,所詮はゴルバチョフであろう.自民党こそ,ボツワナ並みの国債格付けを生み出した犯人である.小泉の運命を見定めるまで,株をまだ買うべきではない.
ST NOV 8, 2003 SAT
US could be bonding itself into a corner
TOM PLATE
(コメント) 政治的な運動を,経済学者はしばしば過小評価します.アジア金融危機を予想した者は居なかったし,アメリカの9・11に対する反応と帝国化を予想した者も居ませんでした.アメリカ経済の浪費癖が転換する日について,あえて考察する者も居ませんでしたが,この論説は政治的な理由でそれが求められる事情を紹介しています.
たとえば,アメリカ外交政策の帝国化は,国民に過剰な財政負担をもたらしつつあります.このまま赤字を累積して,21世紀の「日本」となるかもしれません.しかし,もっと深刻な事情は,このアメリカ型福祉国家=帝国を支えるのが,日本と中国というアジアの異質な国家であることです.日本が,その病弱な景気を支えるためにアメリカの国債を購入し続けていることをアメリカ人は知っていますが,気にしていません.しかし,中国が3000億ドル以上の財務省証券を保有し,日本に次ぐ地位を得ていることは知りません.人民日報は,すでに,台湾問題で米中が対立した場合,この資産をアメリカ政府が凍結するだろう,と警告しています.
ブッシュ氏はすでに5%もの赤字を出していますが,このまま減税と帝国建設に邁進すれば,インフレ率が二桁になることも考えられます.そんな時,アメリカ政府は中国が投資を引き上げることに耐えられるでしょうか? 台湾海峡が緊迫化すれば,中国政府はその資産を,ドルからユーロに転換し始めるでしょう.
あるいは,日本はいつまでもアメリカに従順なナンバー2でいるでしょうか? Foreign Affairsに掲載された最近の論説は,日本の新しいナショナリズムを取り上げています.たとえ多くの日本人が再軍備を支持していないからと言って,アメリカ政府がその財源を外国の投資家や政府の動向に依存し続けることは,政治的に再考される時期が来るでしょう.そしてアメリカは,考えたことを,実行する国なのです?
NYT November 8, 2003
A Global Democracy Policy
NYT November 8, 2003
Our Man in Havana
By NICHOLAS D. KRISTOF
WP Sunday, November 9, 2003
A Democracy Policy
WP Saturday, November 8, 2003
Party To Mass Murder?
By Daniel Wilkinson
BG 11/8/2003
The demands of democracy
IHT / NYT Monday, November 10, 2003
What a great poet would tell Bush
Adam Cohen
NYT November 10, 2003
The Age of Liberty
By WILLIAM SAFIRE
LAT November 11, 2003
Robert Scheer:
In a Democracy, Liars Can Never Be Liberators
FT November 12 2003
Quentin Peel: A mission that betrays democracy
By Quentin Peel
FT November 9 2003
Economic paradox of Ghana's poverty
By Michael Weinstein
(コメント) 二つの命題が成立する,とWeinsteinは言います.ガーナは経済発展できる国だ.しかし,ガーナが発展することは無い.なぜか?
ガーナの民主主義は安定し,大統領はJ.サックスらの経済学者らを顧問にして政策を決めました.優れた教育システムと金やココアの輸出が行われ,美しい海岸線はリゾート開発できるでしょう.しかし,彼らは貧しすぎて,開発を始めるための資金が無いのです.
50年前は同じ水準であった韓国とガーナが,現在,これほど大きく貧富の差を生じている理由は,ガーナが韓国に比べて病気と輸送手段の問題を解決できなかったからです.経済学の教科書が言うような,人々は所得の中から貯蓄し,貯蓄すれば生産的に投資できて,投資すれば富が急速に増える,という条件が欠けているのです.
ガーナの発展は,裕福な国からの援助がその可能性を開くことにかかっている,と言います.
NYT November 9, 2003
Russia's Oil Industry, Caught in a Tug of War
By CONRAD DE AENLLE
WP Monday, November 10, 2003
Mr. Putin's Neighborhood
By Jackson Diehl
WP Wednesday, November 12, 2003
No Help for Democracy
FT November 13 2003
Putin's problem
ST NOV 10, 2003 MON
Africa adrift on tide of globalisation
By NORBERT MAO(a member of the Ugandan Parliament)
グローバリゼーションは,世界中に同じ基準,同じ技術を当てはめる.それは間違っている.コーヒーや砂糖などの国際商品機構は,貧しい農民たちに他の分野へ移るように教える.しかし,ほかに何が作れるのか? 彼らに新しい投資はできない.工業化して,産業を多様化したくても,多国籍企業は各地の雇用や生産の拡大を無視し,たとえば,携帯電話を売りに来るだけだ.
アフリカには環境規制が無く,労働組合が無く,競争企業も無い.アメリカ政府は農産物を補助金で増産するのは止めてほしい.また,貧しい国の債務を減らしてほしい.もしグローバリゼーションで,共通の社会的目的を達成できる,というのなら.
FT November 10 2003
Bush caught in a steel trap
NYT November 10, 2003
Trade Group Affirms Its Ruling Against U.S. Steel Tariffs
By ELIZABETH BECKER
NYT November 11, 2003
The White House Steel Trap
NYT November 11, 2003
Japan and E.U. Threaten U.S. on Import Sanctions
By THOMAS CRAMPTON,
NYT November 11, 2003
U.S. Tariffs on Steel Are Illegal, World Trade Organization Says
By ELIZABETH BECKER
LAT November 12, 2003
Lift Steel Tariffs, Mr. Bush
LAT November 12, 2003
U.S. Must Play by Trade Rules
By Everett Ehrlich
NYT November 12, 2003
For Bush, a Janus-Like View of Trade
By ELIZABETH BECKER
WP Wednesday, November 12, 2003
Needless Trade War?
By Robert J. Samuelson
WP Thursday, November 13, 2003
Repeal the Tariffs on Steel
By Jim Hoagland
(コメント) 鉄鋼製品への関税についてWTOが国際協定に違反すると判定したことについて,非常に多くの論説に共通した論点があります.
1. 関税によって鉄鋼産業を保護することは,国内産業や消費者に損害を与え,アメリカの雇用を守るものではない.
2. WTOの判定により,報復関税が課せられるだろう.これによってアメリカ経済はさらに損害を受ける.
3. アメリカの貿易政策は,EUや中国との関係を始め,国際関係を悪化させる.アメリカ政府は自由貿易を提唱する資格を失い,ますます孤立する.
4. アメリカの行為は,国際機関の権威を失わせ,すでに失敗を繰り返している世界の自由貿易交渉をさらに難しくする.
5. たとえデメリットが多くても,アメリカ政府は政治的な計算に従って,この政策を選択し,継続することもありうる.
6. あるいは,アメリカ政府が,年金や保険制度の債務を引き受けて,企業の再生に手を貸すかもしれません.または,直接に,衰退産業の退出を支援する方が良い.
政治は重要である,と言えます.その意味は,ブッシュ氏が当選するためにも,自由化交渉のための一括交渉権を議会に認めさせるためにも,あるいは,WTOのルールを国内政治に反映させるためにも,政治的な計算が必要であることを意味します.
もしアメリカとEUが,互いにEUの解体や大統領の落選を目的とした貿易戦争を始めるなら,それが加熱して現実の戦争に結びつかないと,誰に言えるでしょうか? 保護や政治的な補助金によって支持を得ている指導者が増えるほど,グローバリゼーションを信奉しつつ,国内勢力に「救済策」をばらまく,こうした貿易戦争の危機は高まります.
アメリカやEUが,本気で保護主義に転換するとは思いません.しかし,GATTの立場に戻ったり,EUやNAFTAのような地域的枠組みによる自由貿易と管理貿易の併用したりする可能性は高いでしょう.なぜなら,政治家たちが互いの国内事情を取引する余地を与えるからです.そして,ときには,国内政治の停滞を国際的な連携で打破するために,貿易戦争を共同で利用します.
IHT Thursday, November 13, 2003
Protecting whose steel?
Anna Meyendorff
(コメント) Meyendorffは,ブッシュ氏の鉄鋼関税がロシアのOAO SeverstalによるRouge Steelの買収をもたらした,と指摘しています.OAO Severstalは,冷戦に勝つためスターリンが建てた鉄鋼工場です.他方,Rouge Steelは,自動車を生産するためにヘンリー・フォードが建てた工場です.共産主義のシンボルが,かつてのアメリカ資本主義のシンボルを買収したわけです.
しかし実際は,ブッシュ氏の鉄鋼関税が加工度の高い製品に重かったことにより,ロシアの粗鋼を輸入して,アメリカで高度に加工することが一番儲かる,というわけでした.日本の自動車会社が反ダンピング規制による報復関税に応じて,同じことをしました.
しかし,アメリカ人は自国の製造業を外国企業に買収されることを,何とも思わないのでしょうか? Meyendorffは,外国の投資家がアメリカ資本主義の再生に貢献することを,アメリカ人は歓迎する,と説明します.むしろ,ユコスのように,ロシアの資本家がアメリカの市場で競争することで,資本主義のルールを学ぶでしょう.それがたとえ彼らの主要な目的でなかったとしても,彼らはグローバリゼーションの競争を生き抜く指導者を目指すのです.
他方,保護主義はRouge Steelが生き延びる道を示せませんでした.彼らはロシアの安価な鉄鋼をアメリカ市場で売却する道を選んだのです.
LAT November 10, 2003
Breadwinners Who Know No Borders
By Roberto Suro
(コメント) アメリカで働くメキシコ移民は,毎月,10億ドル以上を家族に送金します.貿易交渉や金融危機だけでなく,移民送金が国際関係の重要な側面となっています.ラテン・アメリカとカリブ海諸国は,年に250億ドルから300億ドルも送金します.それは,たとえばエルサルバドルの場合,GDPの15%に達し,国内経済の苦境に対して国民に生き延びる機会を与えているのです.人間は北へ,資金は南へ,と流れて行きます.
もちろん,それは歓迎すべきことではなく,もし人々が,自国において,腐敗した官僚や独裁者を追放し,貧富の格差を抑えた発展の可能性を高めることができるなら,こうして移民する必要も無かったでしょう.他方,こうして何百万人もの移動する民は,社会の崩壊に対する,彼ら自身による解決策を示しています.
グローバリゼーションの結果,人々は賃金を得る職場と,家族を養い,子供を育てる場所とを,これほどまで隔てるようになりました.伝統的な制度が守るコミュニティーではなく,フローとしての富に関与できる超国家的ネットワークに依拠して,歴史を切り捨てた都市が誕生します.
FT November 11 2003
Neo-conservatism is far from dead
By Lawrence Kaplan
The Guardian, Tuesday November 11, 2003
Dreamers and idiots
George Monbiot
FT November 11 2003
When natural resources are a curse
By John Kay
(コメント) サウジ・アラビアは世界で最も多くの資源による富を得た国ですが,社会は不安定であり,脆弱な独裁政治を続け,テロリズムの標的となっています.Kayは,その理由を,富の性格が変わったことに求めます.
かつて,有望な資源を求めて強国が植民地を奪い合った時期には,資源が富の基礎でした.しかし,鉱物や森林,肥沃な耕地など,豊かさを約束する条件は,今日,少数の例外を除いて,むしろ政治的不安定さと貧困の温床になっています.
植民地の解放が始まってから,急速に,かつて貧しかった国が工業化に成功し,富を得るようになりました.日本と同様に,韓国,台湾,香港,シンガポールは,何一つ豊かな資源を持ちません.逆に,資源を持つ国は賃金や為替レートが高すぎて,移民が流入し,産業は流出します.世界でもっとも豊かな国であるスイスが,資源を持たず,帝国を持たず,戦争をしない,国であることは象徴的です.
では,なぜカナダやオーストラリア,ニュー・ジーランドは,資源を持ちながら豊かになれたのでしょうか? Kayは,彼らが安定した政治制度を輸入できたからだ,と考えます.豊かな資源は,しばしばその分配や利用をめぐって政治的な不安定化をもたらし,内戦が続く理由となるのです.他方,ノルウェーやアイスランドは,発達した政治システムと経済制度,教育ある人々が国を担うようになってから,豊かな資源を発見した,もっとも幸せな国なのです.
ST NOV 12, 2003 WED
Chinese economy yet to face the big test
ORVILLE SCHELL
(コメント) 好景気は政治システムへのストレスを隠蔽します.中国は,決して,今後とも安定した均衡成長を実現する経路に無い,とSCHELLは警告します.周知のことですが,悲観的な数字はいくつも並べることができます.
l 人口増加だけからでも必要となる,毎年,1200から1500万の新規雇用.
l 2億7000万人と推計される失業者.
l 1億から1億5000万と言われる,農村からの人口流出.
l ブームから取り残されて,不満を抱く8億人の地方農民.
l エリートたちが操作するだけで,資本の効率的な配分には役立たない株式市場.
l 機能していない年金制度と,それを立て直す莫大なコスト.
l 国営銀行が国有企業に貸した,一説には,5180億ドル,GDPの40%に及ぶ不良債権.
l 工業化,人口過密,資源収奪,などがもたらす環境破壊.
l 債券発行に依存した財政刺激策.
l 抑制できない,非合理的な,過剰投資とバブル.
l 「経済的奇跡」に正当性を依存する,マルクス・レーニン主義の一党独裁体制.
失業者が街頭で抗議し,いかれる農民が地方政府を占拠し,党内の分派闘争が指導性を奪い,台湾海峡で紛争が起きたり,世界経済が今後も低迷したりすれば,中国は耐えられるか? それはまだ,試されたことが無い.
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The Economist, November 1st 2003
Jeffrey Schott: Unlocking the benefits of world trade
(コメント) IEEのショットによる,カンクン後の貿易交渉を展望した論説です.WTOが開発ラウンドとして交渉を動かしたことで,発展途上諸国に,自由化よりも援助や利益だけを期待させたことは失敗でした.それに加えて,発展途上諸国はWTOの革新的な面を見過ごしている,とショットは指摘します.すなわち,@ルールに基づく多角交渉.Aアメリカの一方的な制裁措置を封じる,紛争処理メカニズム.B多角的繊維協定を解消する合意,です.中国だけでなく,すでに発展途上諸国の輸出額は,1995年から2001年までに,世界貿易の2倍の速さで拡大しています.
開発ラウンドは再生できるか? 交渉再開に向けたショットの予想は,次の三つです.1.農産物自由化交渉を動かすこと.その条件として,補助金や追加された関税を撤廃し,綿花に特別な措置を講ずる.2.シンガポール・イシューを残した,Derbezメキシコ外相のカンクンにおける最終修正案を交渉の出発点とする.すでにアジア諸国は同意しています.3.透明性を高めて,政府の腐敗を取り除き,ルールの不確実性を減らせば,それこそが発展途上国に投資を呼び込む近道である.国際交渉が失敗すれば,もっとも弱い国々こそ,最も損失をこうむる国です.
Asian currencies and the dollar: Stuck in the middle
(コメント) アジア各国の通貨運営が難しいと指摘されるだけで,問題は未解決です.
危機によって変動制に移行したはずですが,各国はドルとの関係を安定させるように介入を続けてきました.人民元がアメリカ・ドルに固定していることが批判を受けると,むしろ円高が起きました.これまで円と平行して動いてきた韓国やタイの通貨が,このところ,円と分離し始めています.
東アジアでは,アメリカを含まない国際取引でも,もっぱらドルが使用されます.ドル建の輸出を維持すれば,各国の自国通貨建利益は減少します.そこで小国は自国通貨の価値をドルに固定し,他の国も競争力を維持するためにドルとの関係を安定させます.しかし,完全に固定することは,バブルや通貨危機を招く危険がある,と知っています.
市場と投資をアメリカに依存している限り,通貨のリンクが緊張することを恐れるわけです.